タイトル: | 公開特許公報(A)_吸着剤および口臭除去剤 |
出願番号: | 2015058802 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | B01J 20/08,B01J 20/06,C01G 9/00,C01G 49/00,A61Q 11/00,A61K 8/27,A61K 8/19 |
横川 善之 堀田正人 藤井和夫 森田侑宜 JP 2015193000 公開特許公報(A) 20151105 2015058802 20150320 吸着剤および口臭除去剤 公立大学法人大阪市立大学 506122327 学校法人朝日大学 596148124 廣幸 正樹 100118924 横川 善之 堀田正人 藤井和夫 森田侑宜 JP 2014059178 20140320 B01J 20/08 20060101AFI20151009BHJP B01J 20/06 20060101ALI20151009BHJP C01G 9/00 20060101ALI20151009BHJP C01G 49/00 20060101ALI20151009BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20151009BHJP A61K 8/27 20060101ALI20151009BHJP A61K 8/19 20060101ALI20151009BHJP JPB01J20/08 CB01J20/06 CC01G9/00 BC01G49/00 ZA61Q11/00A61K8/27A61K8/19 5 OL 28 4C083 4G002 4G047 4G066 4C083AB211 4C083AB221 4C083AB231 4C083AB321 4C083AB341 4C083CC41 4C083EE34 4C083FF01 4G002AA06 4G002AA12 4G002AB02 4G002AD02 4G002AE05 4G047AA04 4G047AB02 4G047AB04 4G047AC03 4G066AA16B 4G066AA18B 4G066AA20B 4G066AA39B 4G066AA43A 4G066AA43B 4G066AA47A 4G066AA53A 4G066BA31 4G066CA24 4G066DA03 4G066DA07 4G066FA37 本発明は揮発性硫黄化合物、特に硫化水素をよく吸着する吸着剤に関わるものである。 ハイドロタルサイトは、アニオン交換機能を有する層状複水酸化物で一般式は、(1)式のように表される。[Mm2+Mn3+(OH)2m+2n]Xn/zZ− bH2O (1) ここで、Mm2+は、Mg、Ca、Sr、Cu、Ba、Zn、Cd、Pb、NiおよびSnから選択される少なくとも1つの2価の金属であり、Mn3+はAl、Fe、Cr、Ga、Ni、Co、Fe、Mn、Cr、V、Ti、Inであり、m、nは実数であり、XZ−はZ価アニオンであり、bは実数である。 例えばMm2+としてZnを選択した場合においても、ハイドロタルサイトは、さまざまな局面で吸着剤として利用されている。例えば特許文献1では、亜硝酸イオンを吸着させている。また、特許文献2では、硝酸イオンを吸着させている。 また特許文献3では、銀を回収するために、ハイドロタルサイトに銀を吸着させている。また特許文献4では、フッ化水素を除去するために、ハイドロタルサイトにフッ化水素を吸着させている。 被吸着物質の中でも、硫黄化合物が主となる硫化水素やメチルメルカプタンといった悪臭原物質を吸着し消臭する要望は高い。特許文献5では、硫酸ヒドロキシルアミンと有機ヒドラジド化合物と、酸化亜鉛とスメクタイトの混合物にハイドロタルサイトを含有させたものが硫化水素に対する吸着性(消臭性)を有するという報告がされている。 また、口臭除去剤として、液相中の揮発性硫黄化合物(VSC:Volatile Sulfer Compounds)をハイドロタルサイトに吸着させるという発明がある(特許文献6参照)。ここでは、Mm2+としてMgが選ばれた例が開示されている。特開2005−336002号公報特開2002−348120号公報特開平9−175819号公報国際公開第2011/074631号特開2011−30967号公報国際公開第2012/150459号 特許文献1乃至5を参照すると、硫化水素等の揮発性硫黄化合物は、吸着剤(結果として消臭剤ともいえる。)の需要があるが、吸着性の高いものは得られていないという現状がある。 一方特許文献6では、水中の揮発性硫黄化合物をよく吸着するハイドロタルサイトが紹介されている。しかし、これはハイドロタルサイトを合成した後、さらに加熱したハイドロタルサイト[Mg2+1−x+Al3+x(OH)2][CO32−X/2]である。したがって、この材料は湿気を含む雰囲気や水分中で、徐々にその効果を失っていくという課題があった。また、層構造を解消させるために500℃という高温での熱処理が必要であるという課題もあった。 本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、合成後に高温での熱処理を必要とせず、しかも水中に保持しておいても、揮発性硫黄化合物の吸着能を維持できる吸着剤を提供するものである。 より具体的に本発明に係る吸着剤は、(2)式の構造を有するハイドロタルサイトを含有することを特徴とする。[Zn2+1−x+Al3+x(OH)2][CO32−X/2・mH2O] (2)ここで1<x<1であり、mはゼロより大きな整数である。 また、(3)式および(4)式の構造を有するハイドロタルサイトを含有することを特徴とする。[Mg2+1−x+Fe3+x(OH)2][CO32−X/2・mH2O] (3)[Mg2+1−x+Fe3+x(OH)2][Cl−X・mH2O] (4)以後、(2)式、(3)式、(4)式のそれぞれのハイドロタルサイトを「Znハイドロタルサイト」、「炭酸型Feハイドロタルサイト」、「塩素型Feハイドロタルサイト」と呼ぶ。 本発明に係るハイドロタルサイトは、揮発性硫黄化合物の吸着能を発揮させるのに、加熱処理を行う必要がない。また、水中に保持しておいても、揮発性硫黄化合物の吸着能が低下しない。例えば、口腔内のように液相若しくは高湿気相環境に保持しておいても、長時間に渡って揮発性硫黄化合物を吸着するので、口臭予防に効果的であるという効果を奏する。 また、気相若しくは液相であれば、口腔内に限定されるものではなく、トイレ、ゴミ箱といった場所での揮発性硫黄化合物の吸着(結果として消臭)が可能である。生成物の吸着性を測定する検査装置の構成を示す図である。Mg33ハイドロタルサイトを入れた場合の検査装置内の硫化水素濃度(μmol)の時間変化を示すグラフである。Mg33ハイドロタルサイト500を入れた場合の検査装置内の硫化水素濃度(μmol)の時間変化を示すグラフである。Mg33ハイドロタルサイト500のX線回折を調べた結果を示す図である。Mgハイドロタルサイト500とZnハイドロタルサイト500の吸着能の比較を示す図である。ZnハイドロタルサイトとZnハイドロタルサイト500の吸着能の比較を示す図である。ZnハイドロタルサイトとZnハイドロタルサイト500および吸着試験後のZnハイドロタルサイト500のX線回折パターンを示す図である。検査装置中の液相中および気相中にある全硫化水素量の経時変化を示す図である。生成し乾燥した直後の炭酸型Feハイドロタルサイトと塩素型FeハイドロタルサイトのX線回折の結果を示す図である。図9の2θが10〜40°の拡大図である。検査装置で硫化水素水溶液に浸漬した後の炭酸型Feハイドロタルサイトと塩素型FeハイドロタルサイトのX線回折の結果を示す図である。塩素型Feハイドロタルサイトの浸漬前と浸漬後のX線回折の結果を示す図である。(a)は炭酸型Feハイドロタルサイトの赤外吸収スペクトルを示す図であり、(b)は塩素型Feハイドロタルサイトの赤外吸収スペクトルを示す図である。(a)は炭酸型Feハイドロタルサイトの、(b)は塩素型FeハイドロタルサイトのEDSプロファイルを示す図である。 以下に本発明に係るZnハイドロタルサイトの製造方法について、図面を参照しながら説明を行う。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の説明は改変することができる。 Znハイドロタルサイトは、他のハイドロタルサイトと同様の方法で作製することができる。すなわち、2価の亜鉛を塩水溶液として用意する。また3価のアルミニウムも塩水溶液として用意する。これらはホスト層の原料となる。そしてこれらの塩水溶液に、アルカリ溶液を加え共沈させることでZnハイドロタルサイトを得ることができる。この時加えるアルカリ溶液によってゲスト層の元素が決まる。 亜鉛の塩水溶液としては、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、リン酸亜鉛、炭酸亜鉛などが好適に利用できる。またアルミニウムの塩水溶液も硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等が好適に利用することができる。特に硝酸亜鉛は好適に利用することができる。 また、アルカリ溶液は、炭酸が含まれるものが好適に利用することができる。炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム等、およびその混合物(ドロマイト等であってもよい。)が利用できる。特に炭酸ナトリウムは好適に利用することができる。 これらの溶液は混合され反応させる。反応は攪拌若しくは加熱といった方法を用いてよい。反応によって生成した生成物は、熱処理が施される。熱は100℃乃至400℃で、4乃至10時間程度の温度で処理してZnハイドロタルサイトを得る。 また、本発明に係る吸着剤に用いるZnハイドロタルサイトは、熱処理を施さなくてもよい。通常ハイドロタルサイトは、反応生成後に熱処理をすることで、無水物となり、吸着能を発揮する。しかし、本発明に係る吸着剤に用いるZnハイドロタルサイトは、熱処理を施さなくても、揮発性硫黄化合物の吸収能を有するからである。 また、本発明に係る炭酸型Feハイドロタルサイトおよび塩素型Feハイドロタルサイトも同様にして得ることができる。すなわち、2価のマグネシウムを塩水溶液として用意する。また、3価の鉄も塩水溶液として用意する。これらがホスト層の原料となる。そしてこれらの塩水溶液に、アルカリ溶液を加え共沈させる。この時加えるアルカリ溶液の種類によってゲスト層の元素が決まる。 マグネシウムの塩水溶液としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが好適に利用できる。また、鉄の塩水溶液に硝酸鉄、硫酸鉄、リン酸鉄等が好適に利用できる。特にマグネシウムおよび鉄ともに硝酸塩は好適に利用できる。 また、アルカリ溶液としては、炭酸が含まれるものが利用できる。しかし、反応液中のpHがアルカリになっていればよく、水酸化ナトリウム等の強アルカリ溶液でpHを調整しながら調製してもよい。炭酸型Feハイドロタルサイトでは、アルカリ溶液として炭酸ナトリウム等が好適に利用できる。 また、塩素型Feハイドロタルサイトでは、水酸化ナトリウムを加えながら塩化ナトリウム溶液を加える。共沈はアルカリ側で安定して得ることができるからである。 本発明に係るハイドロタルサイトはVOCの吸着能を有するため、口臭除去剤に添加してもよい。口臭除去剤は、モノグリセリドなどを主剤とし、ポリオール等の添加剤と、口臭除去剤を含むものである。 また、本発明に係る口臭除去剤は、錬歯磨剤、口腔咽頭薬を含んでよい。錬歯磨剤は、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムといった研磨剤と、ラウロイルサルコシソーダ、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル等の発泡剤と、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコールなどの保湿剤、アルギン酸などの結合剤と共に本発明のハイドロタルサイトを含めてよい。 また、口腔咽頭薬は、セチルピリジニウム塩化物水和物、グリチルリチン酸ニカリウム、キキョウエキスといった成分が含まれている。本発明の吸着剤は、これらの成分とともに口頭咽薬に含めることができる。 次に生成物の特性の測定方法を説明する。生成物の揮発性硫黄化合物の吸着能(吸着性)については、液相および液相に接している気相中の硫化水素の吸着能について測定を行った。図1には、吸着能を測定する検査装置1を示す。検査装置1は、市販の200mLガラスフラスコ2にネジ付側管を取り付け、側管にセプタム付ホールキャップ6を取り付けている。また、ガラスフラスコ2の口には、シリコン栓を介してコック付分液漏斗3を取り付けた。セプタム付ホールキャップ6からは、シリンジ5の針をガラスフラスコ2内に浸入させ、内部の気体もしくは液体を抽出することができる。なお、検査装置1内には、攪拌子を入れてある。この検査装置1は以下のようにして用いた。 まず、ガラスフラスコ2には、硫化水素水溶液150mLを満たした(符号10)。硫化水素水溶液10の部分が液相部分であり、それに接するヘッドスペース11が気相部分である。硫化水素水は、硫化水素ガスをバブリングし、初期濃度が一定値になるように調整した。後述する実施例および比較例の試料毎に検査装置1を準備した。試料(実施例および比較例の吸着剤)各々所定量を検査装置1の硫化水素水溶液に導入し、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、18時間後の気相および液相のVSC濃度を調べた。なお、実施例によっては5時間目も測定を行った。 VSC濃度は、ガラスフラスコ2内の気相(ヘッドスペース11)および液相(水溶液内)から、検査成分(気体若しくは液体)の所定量をシリンジ5で採取してFPD/GC(Flame Photometric Detection/Gas Chromatography)により硫化水素(H2S)を定量した。 <実施例1> 硫酸亜鉛六水和物(Zn(NO3)2・6H2O)の0.02molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)の0.01molを超純水100mLに溶解し、金属塩水溶液とした。 炭酸ナトリウム(Na2CO3)の0.047molを超純水300mLに溶解し炭酸塩水溶液とした。この炭酸塩水溶液を70℃に保持し、攪拌しながら金属塩水溶液を加えた。さらに、0.05molのNaOHを純水100mLに溶解したものを、pHが10になるまで添加した。その後24時間撹拌熟成を行った。得られた生成物は、遠心分離し、洗浄液のpHが7.5程度になるまで洗浄した。その後80℃の温度で12時間乾燥処理し、Znハイドロタルサイトを得た。得られた生成物は、(2)式において、X=0.33となる。 なお、Znハイドロタルサイトをさらに500℃2時間の熱処理を行ったサンプルを作製した。これをZnハイドロタルサイト500と呼ぶ。 <比較例1> 実施例1の硫酸亜鉛六水和物を硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)とした以外は、実施例1と同じ材料および手順を繰り返し、ハイドロタルサイトを得た。これをMgハイドロタルサイトと呼ぶ。Mgハイドロタルサイトを500℃2時間の温度処理を行った。このサンプルをMgハイドロタルサイト500と呼ぶ。 <比較例2> 超純水に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を溶解し、次いで硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO3)3・9H2O)と硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O)を溶解して作製した水溶液を、pH10に保持しながら滴下した。組成式Mg1−xAlx(OH)2An−x/n・nH2Oにおいてx=0.33(実施例1および比較例1と同じ)となるように調整した。 70℃で24時間攪拌して得られた沈殿をろ別し、超純水で洗浄、80℃で12時間処理し試料を得た。この試料をMg33ハイドロタルサイト(「Mg33HT」とも記載する)と呼ぶ。また、Mg33ハイドロタルサイトをさらに500℃で30分熱処理を行った。このサンプルをMg33ハイドロタルサイト500(「Mg33HT500」とも記載する)と呼ぶ。 図2には、試料としてMg33ハイドロタルサイトを入れた場合の検査装置1内の硫化水素濃度(μmol)の時間変化を示す。縦軸は硫化水素濃度(H2S濃度(μmol)と記した)であり、横軸は時間(hr)である。液相(A)の硫化水素濃度は初期(0時間)から2乃至4時間までは上昇傾向を示し、その後、緩やかな減少傾向を示した。 一方、気相(B)では、試料投入後1時間でほぼ検出限界以下の濃度になった。すなわち、Mg33ハイドロタルサイトは、水溶液中の硫化水素を吸収することはできなかったが、硫化水素が溶解している水溶液に接している気相中の硫化水素を吸収した。 図3には、Mg33ハイドロタルサイト500を入れた場合の検査装置内の硫化水素濃度(μmol)の時間変化を示す。縦軸は硫化水素濃度(H2S濃度(μmol)と記した)であり、横軸は時間(hr)である。液相(A)の硫化水素濃度は初期(0時間)から1時間までは上昇傾向を示し、その後、減少傾向を示した。 さらに、18時間後には液相(A)の硫化水素濃度は15%にまで減少した。また、気相(B)では、Mg33ハイドロタルサイトと同様に、試料投入後1時間でほぼ検出限界以下の濃度になった。 すなわち、Mg33ハイドロタルサイト500は、水溶液(液相)中の硫化水素を吸収し、なおかつ、硫化水素が溶解している水溶液に接している気相中の硫化水素をも吸収することができた。 図4には、Mg33ハイドロタルサイト500のX線回折を調べた結果を示す。縦軸は強度(Intensity)(任意単位)であり、横軸は2θ(度)である。線源はCoのKαを用いた。図4には、3つの回折結果を示した。(a)は合成直後のMg33ハイドロタルサイト(図4中で「MG33HDT」と記した。)の回折結果である。 次に(b)はMg33ハイドロタルサイトを500℃、2時間の条件で熱処理した結果得たMg33ハイドロタルサイト500の回折結果である。(a)と(b)は明瞭にピークのパターンが変わっており、500℃の熱処理によってハイドロタルサイトの層状構造が変化したと考えられる。 一方、(c)は、図3で示した吸収実験後のMg33ハイドロタルサイト500のX線回折結果である。これは(a)で示した合成直後のMg33ハイドロタルサイトと同じ回折結果を得た。 以上の結果より、500℃で熱処理したMg33ハイドロタルサイト500は層状構造が変化し、液相に投入された後、層状構造を再構成する。そこで、図2に示すように液相中および気相中の硫化水素が吸収されていることを考慮すると、層状構造の再構成の際に、層状構造の間に硫化水素をインターカーレーションすることで取り込んでいると考えられる。言い換えると、Mg33ハイドロタルサイトでは、水分によって吸着能が劣化すると言える。 図5は、Mgハイドロタルサイト500(比較例1)とZnハイドロタルサイト500の吸着能の比較を示す図である。横軸は時間(hr)であり、縦軸は硫化水素濃度の変化(%)である。ここで縦軸は液相および気相の硫化水素を合わせた濃度変化を表す。黒丸は試料を入れていない場合の変化であり、黒菱形は試料をMg33ハイドロタルサイト500(図中「Mg33HDT500」と記載した。)にした場合の変化であり、黒三角は試料をZnハイドロタルサイト500(図中「ZnHDT500」と記載した。)にした場合の変化を表す。 Mgハイドロタルサイト500(比較例1)は、図3のMg33ハイドロタルサイト500(比較例2)同様、液相中の硫化水素の吸収は気相ほど速やかに行われないと考えられる。一方、Znハイドロタルサイト500(実施例)は、Mgハイドロタルサイト500と比較して、液相および気相の硫化水素を急速に吸着できることがわかる。 図6には、ZnハイドロタルサイトとZnハイドロタルサイト500の吸着能の比較を示す。横軸は時間(hr)であり、縦軸は硫化水素濃度の変化(%)である。白四角は試料が無い場合の硫化水素濃度の時間変化を表す。Znハイドロタルサイト(図中「ZnHDT」と記載した。)は白菱形であり、またZnハイドロタルサイト500(図中「ZnHDT500」と記載した。)は黒三角で表した。図6からも明らかなように、ZnハイドロタルサイトとZnハイドロタルサイト500の吸着能は殆ど変らなかった。 図7には、Znハイドロタルサイト(「ZnHDT」と記した。)とZnハイドロタルサイト500(「ZnHDT500」と記した。)および吸着試験後のZnハイドロタルサイト500(「吸着後ZnHDT500」と記した。)のX線回折パターンを示す。 横軸は2θ(度)であり、縦軸は強度(任意単位)である。500℃の熱処理によって、X線回折プロファイルが変化した。これよりZnハイドロタルサイト500は、Znハイドロタルサイトから層状構造が変化したといえる。しかし、吸着試験後はまた層状構造が再構成されていた。 これは、図4で示したMg33ハイドロタルサイトの場合と同じである。しかし、Mg33ハイドロタルサイトの場合と異なるのは、Znハイドロタルサイトは、層状構造が変化してしまっても、硫化水素の吸着能はほとんど変化しない(図6の結果より)点にある。つまり、Znハイドロタルサイトでは、層状構造の変化と再構成は硫化水素(H2S)の吸着とあまり関係がないといえる。 言い換えるとZnハイドロタルサイトは、水分によって吸着能が変化しない。したがって、Znハイドロタルサイトを含む吸着剤は、湿気を含む環境に放置してもその吸着性能は変わることがなく、また、悪臭元の硫化水素を急速に吸収し、消臭することができる。また、この吸着剤は、液相、気相を選ばず、悪臭のある部分に粉末状のZnハイドロタルサイトを振りかけてしまえば消臭できるので、非常に使いやすい。 また、予め液相中にZnハイドロタルサイトを含有させておき、液相ごと悪臭のある部分に投入してもよい。つまり、口臭除去剤や錬歯磨剤、口腔咽頭薬中に含有させておくことで、口腔内の揮発性硫黄化合物を除去することができる。 なお、以上の実験では、硫化水素水溶液の初期濃度は30ppmであり、検査装置1に導入した試料は0.2gである。また、液相および気相とも0.2gずつサンプリングし濃度測定を行った。 <実施例1−1> 次にZnハイドロタルサイトのより具体的な効果を歯周病関連菌を用いて確認した。使用した供試細菌は、F.nucleatum(ATCC25586)である。この菌種は硫化水素を産生することが確認されている。 供試細菌を以下のようにして培養した。0.5%酵母エキス、5μg/mLヘミン、0.5μg/mLメナジオンを含むBrain Heart Infusion培地(BHI培地、BD、東京)を用い、48時間嫌気培養した培養菌液2mLを、含硫アミノ酸である0.05%L−システインを添加し、あらかじめ1日嫌気状態にしておいた40mLの培地に供試細菌を接種した。 アシストチューブ(アシスト、東京)に培養した菌液を2mLずつ分注し、37℃で嫌気培養を行った。熱処理を行っていないMg33ハイドロタルサイト(Mg33HDT)、500℃で加熱処理したMg33ハイドロタルサイト(Mg33HDT500)、そしてZnハイドロタルサイト(ZnHDT)をそれぞれ0.01g加えたものと「吸着材なし」の4種類を作製した。 Mgハイドロタルサイト500は、事前に電気炉にて500℃で30分熱処理を行った。また、細菌の産生物質が外気に逃げるのを防ぐためにシリコンゴムをアシストチューブに被せた。硫化水素の測定の際には、アシストチューブ内の気体をガスタイトシリンジにて3mL採取し、直ちにガスクロマトグラフに注入し、硫化水素のピーク面積を算出した。測定時間は2時間おきに8時間行い、合計2回実施した。8時間経過後の計測結果を表1に示す。 実際の細菌では、硫化水素の産生量が菌株のロットによって異なる。したがって1回と2回の硫化水素量は異なる(「吸着材なし」を参照)。しかし、Znハイドロタルサイトは、いずれの実験においても最も硫化水素の発生を抑えた結果となった。 <実施例2> 以下の手順の共沈法により炭酸型Feハイドロタルサイトを作製した。超純水167mLに炭酸ナトリウム(和光純薬工業、容量分析用標準物質)8.83gを溶解させ、炭酸ナトリウム溶液を調製した。また超純水100mLに水酸化ナトリウム(和光純薬工業、特級)8.00gを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液、及び超純水83mLに硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業、特級)8.42gと硝酸マグネシウム六水和物(和光純薬工業、特級)16.03gを溶解させた硝酸塩の混合溶液をそれぞれ調製した。鉄とマグネシウムがホスト層の原料となる。 炭酸ナトリウム溶液をホットスターラー(ASONE、REXIM RSH−10)で4cmの攪拌子を用いて室温で800rpmで攪拌しながら、硝酸塩の混合溶液をビュレットを用い炭酸ナトリウム溶液に10mm±0.5/minの速度で滴下した。炭酸はゲスト層の原料となる。 炭酸ナトリウム溶液は初期pHが11.7であったが、硝酸塩の混合溶液滴下により直ちに酸化されるため、pHメーターで溶液のpHが10.5±0.2になるよう、水酸化ナトリウム溶液を加えた。 この溶液を40℃で24h、800rpmで攪拌させ、得られた溶液を吸引ろ過により固液分離し、超純水200mLで3回洗浄した。得られた生成物を80℃で18時間乾燥させた後、乳鉢で解砕し、炭酸型Feハイドロタルサイト(炭酸型Mg−Fe系LDHとも言う。)を得た。なお、炭酸型Feハイドロタルサイトは、(3)式の組成式では、An−=CO32−、x=0.33である。 また、pH測定は、pHメーター(HORIBA、D−51)を用い、超純水は、超純水製造装置(Direct−Q、ミリポア製)から採取して実験に供した。 <実施例3> 以下の手順の共沈法により塩素型Feハイドロタルサイトを作製した。超純水1000mLを溶存している炭酸イオンを減らすために煮沸させた。その超純水167mLに塩化ナトリウム(和光純薬工業、特級)9.74gを溶解させ、塩化ナトリウム溶液を調製した。 また超純水150mLに水酸化ナトリウム(和光純薬工業、特級)12.00gを溶解させ、水酸化ナトリウム溶液、及び超純水83mLに硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業、特級)8.42gと硝酸マグネシウム六水和物(和光純薬工業、特級)16.03gを溶解させた硝酸塩の混合溶液をそれぞれ調製した。鉄とマグネシウムがホスト層となる。 炭酸ナトリウム溶液をホットスターラーで、4cmの攪拌子を用いて室温で800rpmで攪拌しながら、硝酸塩の混合溶液をビュレットを用い塩化ナトリウム溶液に10±0.5mm/minの速度で滴下した。 塩化ナトリウム溶液は初期pHが7.9であったので、水酸化ナトリウム溶液を入れpHが11.7になった後に硝酸塩の混合溶液を滴下し、pHメーターで溶液のpHが10.5±0.2になるよう、水酸化ナトリウム溶液を加えた。 この溶液を40℃で24h、800rpmで攪拌させ、得られた溶液を吸引ろ過により固液分離し、超純水200mLで3回洗浄した。得られた生成物を80℃で18時間乾燥させた後、乳鉢で解砕し、塩素型Feハイドロタルサイト(塩素型Mg−Fe系LDHとも言う。)を得た。なお、炭酸型Feハイドロタルサイトは、(4)式の組成式では、An−=Cl−、x=0.33である。 図8には、検査装置1中の液相中および気相中にある全硫化水素量の経時変化を示す。縦軸は全硫化水素量の変化(%)であり、横軸は時間(h)である。縦軸の100%は、試料投入前の検査装置1の溶液とヘッドスペースの硫化水素の合計濃度である。 なお、ここでは硫化水素水溶液を以下のようにして調製した。500mL四口フラスコの主管に分液漏斗、2つの側管をそれぞれシリコン栓、ガラス管付シリコン栓を取り付けた。また、200mLガラスフラスコに超純水を150mL入れ、ガラス管、円筒ガス噴射管をシリコン栓に通して取り付けた。四口フラスコのガラス管とガラスフラスコの円筒ガス噴射管をシリコンチューブと二方コックを介して接続した。 さらに、ガラスフラスコのガラス管には、シリコンチューブを介して1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を満たしたガス洗浄瓶に接続した。ガス洗浄瓶にはシリコンチューブを介して塩化カルシウム管を取り付けた。500mL四口フラスコに硫化鉄(FeS、和光純薬工業、硫化水素発生用)を3g入れ、次いで分液漏斗から硫酸(和光純薬工業、試薬特級)を希釈した濃度1mol/L希硫酸を15mL加え、フラスコ内で硫化水素を発生させた。発生した硫化水素をガラスフラスコ内の超純水に通し、約15分間バブリングさせた。 図8を参照して、白四角は吸着剤(炭酸型Feハイドロタルサイト若しくは塩素型Feハイドロタルサイト)が含まれていない場合である。バツ印は炭酸型Feハイドロタルサイト(図中「炭酸型FeHDT」と記した。)であり、黒菱形印は塩素型ハイドロタルサイト(図中「塩素型FeHDT」と記した。)を示す。 炭酸型Feハイドロタルサイトも塩素型Feハイドロタルサイトも、試料を投入すると直ちに大幅に減少し、1時間で90%減少した。その後時間と共に減少を続け、5時間後には、検出装置1中の硫化水素濃度は、測定機の検出限界以下まで減少した。このように炭酸型Feハイドロタルサイトも塩素型ハイドロタルサイトも、液相中および液相中から漏れた気相中のVSCを吸着することができ、吸着剤、口臭除去剤に好適に利用することができる。 表2には、図8の実測データを示す。炭酸型Feハイドロタルサイトと、塩素型ハイドロタルサイトは同様の挙動を示した。しかし、細かく見ると、塩素型Feハイドロタルサイトの方が、炭酸型Feハイドロタルサイトより硫化水素を多く吸着する傾向があった。層状複水酸化物の構造では、ゲスト層の元素として、塩素より炭酸の方が安定なので、硫化物は塩素の方がよりイオン交換しやすかったためと考えられた。 図9に生成し乾燥した直後の炭酸型Feハイドロタルサイトと塩素型FeハイドロタルサイトのX線回折の結果を示す。横軸は2θ(°)であり、縦軸は強度(任意単位)である。線源はCoのKα線を用いた。(a)は炭酸型Feハイドロタルサイト(図中「炭酸型FeHDT」と記した。)であり、(b)は塩素型Feハイドロタルサイト(図中「塩素型FeHDT」と記した。)である。 図中に(c)JCPDSのMg−Fe系ハイドロタルサイト(Pyroaurite#70−2150)の回折線図(図中「Pyroaurite」と記した。)も示した。何れの試料も、回折線図のピークとほぼ同じ位置にピークがあった。未知のピークは見当たらず、Pyroauriteと同様の結晶構造を有すると判断される。 図10には、図9の2θが10〜40°の拡大図を示す。横軸は2θ(°)であり、縦軸は強度(cps)である。塩素型Feハイドロタルサイト(b)の回折ピークは炭酸型Feハイドロタルサイト(a)と比較して低角側にあることがわかる。したがって、C面の面間隔(層間距離)は、塩素型Feハイドロタルサイトの方が炭酸型Feハイドロタルサイトより大きいと考えられる。 図11には、検査装置1で硫化水素水溶液に浸漬した後の炭酸型Feハイドロタルサイトと塩素型FeハイドロタルサイトのX線回折の結果を示す。横軸は2θ(°)であり、縦軸は強度(任意単位)である。図中にJCPDSのMg−Fe系ハイドロタルサイト(Pyroaurite#70−2150)の回折線図も示し、ミラー指数(hkl)も示した。 どちらの試料もMg−Fe系ハイドロタルサイトの回折線図とほぼ一致している。図9の吸着試験前のX線回折図とピーク位置を比較すると炭酸型Feハイドロタルサイト(a)ではあまり変化がなかった。しかし、塩素型Feハイドロタルサイト(b)では、ピークの位置が高角側にシフトしていた。 図12に塩素型Feハイドロタルサイトの浸漬前と浸漬後のX線回折図を示す。横軸は2θ(°)であり、縦軸は強度(任意単位)である。(a)は浸漬前であり、(b)は浸漬後である。(b)の浸漬後の方が高角側にシフトしている。これはC面間隔が狭くなったことを示している。塩素イオンは6.7オングストロームであり、硫化水素イオンは4.2オングストロームであるので、ゲスト層の塩素イオンがより小さい硫化水素イオンに置換したためと考えられる。 図13(a)には、炭酸型Feハイドロタルサイトの赤外吸収スペクトルを示し、図13(b)には塩素型Feハイドロタルサイトの赤外吸収スペクトルを示す。いずれも横軸は波数(cm−1)であり、縦軸は透過率(任意単位)である。 図13(a)では、3440cm−1付近のブロードなピークは、層状複水酸化物のブルーサイト状シート構造の水酸基の吸収、2850cm−1から2950cm−1のピークは、層間水とアニオンの水素結合の吸収、1650cm−1付近のピークは層間水の水酸基の吸収によるものである。 また1380cm−1、1050cm−1付近、860cm−1、770cm−1、700cm−1のピークは炭酸イオンによるものである。400cm−1から580cm−1に見られるピークはFe−Oの結合による吸収と考えられる。 図13(b)も図13(a)とほぼ同じようなスペクトルである。しかし炭酸イオンに相当する700cm−1あたりの吸収ピークは、塩素系Feハイドロタルサイトでは明瞭でない。ほかの炭酸イオンに帰属できる吸収ピークは観察されるため、まったく炭酸イオンがないわけではない。塩素イオンはイオン結合性が強いことからIRでは確認されないとされており、図13(b)でも塩素イオンのピークは見られなかった。 また、図14(a)、図14(b)にそれぞれ炭酸型Feハイドロタルサイトと塩素型FeハイドロタルサイトのEDS(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)プロファイルを示す。 図14を参照して、横軸はエネルギー(keV)であり、縦軸はカウント数である。図14(b)には、図14(a)には見られない塩素のピークが確認された。 以上のように、図9、図11の粉末X線回折図形の結果および図13の赤外吸収スペクトルの結果と併せて、炭酸型Feハイドロタルサイトおよび塩素型Feハイドロタルサイトは、ともにMg−FeLDH構造を持つが、炭酸型Feハイドロタルサイトは炭酸型であり、塩素型Feハイドロタルサイトでは、炭酸イオンも含むが、塩素型であると判断される。 表3および4には、図14で示したEDSのより詳細な元素分析結果を示す。測定箇所は5箇所である。Mg−FeLDHのFe/Mg比((3)式(4)式中の「x」)はx=0.20〜0.33とされている。表2および3の結果より、炭酸型Feハイドロタルサイトではx=0.27であり、塩素型Feハイドロタルサイトではx=0.25であった。 本発明に係る吸着剤は、Znハイドロタルサイトまたは炭酸型Feハイドロタルサイトまたは塩素型Feハイドロタルサイトを含有するので、液相および気相を選ばず、特に悪臭元となる硫化水素を大変よく吸着する。したがって、吸着剤や口臭除去剤だけでなく消臭剤としても使用することができる。 1 検査装置 2 ガラスフラスコ 3 漏斗 4 コック 5 シリンジ 6 ねじ口 10 硫化水素水溶液 11 ヘッドスペース (2)式の構造を有するハイドロタルサイトを含有し、液相中の揮発性硫黄化合物を吸着することを特徴とする吸着剤。[Zn2+1−xAl3+x(OH)2][CO32−X/2・mH2O] (2) ここで0<x<1であり、mはゼロより大きな整数である (3)式若しくは(4)式の構造を有するハイドロタルサイトを含有し、液相中の揮発性硫黄化合物を吸着することを特徴とする吸着剤。[Mg2+1−x+Fe3+x(OH)2][CO32−X/2・mH2O] (3)[Mg2+1−x+Fe3+x(OH)2][Cl−X・mH2O] (4) ここで0<x<1であり、mはゼロより大きな整数である さらに水を含有することを特徴とする請求項1または2の何れか1の請求項に記載された吸着剤。 前記xは0.33であることを特徴とする請求項1の請求項に記載された吸着剤。 請求項1乃至4のいずれかの請求項に記載の吸着剤を有する口臭除去剤。 【課題】悪臭の原因となる硫化水素を効果的に吸着する吸着剤が要望されている。従来技術としては、2価金属をMg、3価金属をAlとしたハイドロタルサイトが提案されていた。しかし、このハイドロタルサイトは合成後層構造を消失させる程の熱処理を行う必要があった。また、水分の存在によって硫化水素の吸着能が低下した。【解決手段】(2)式の構造を有するハイドロタルサイトを含有し、液相中の揮発性硫黄化合物を吸着することを特徴とする吸着剤。[Zn2+1−xAl3+x(OH)2][CO32−X/2・mH2O] (2) ここで0<x<1であり、mはゼロより大きな整数である。この吸着剤は、液相および気相を選ばず、合成後の熱処理を行うことなく、硫化水素を非常によく吸着する。【選択図】なし