タイトル: | 公開特許公報(A)_メラノサイトの分化誘導方法 |
出願番号: | 2015003525 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 5/071,A61K 35/12,A61P 17/00,A61K 35/14 |
川上 民裕 JP 2015146803 公開特許公報(A) 20150820 2015003525 20150109 メラノサイトの分化誘導方法 学校法人 聖マリアンナ医科大学 596165589 南条 雅裕 100113376 瀬田 あや子 100179394 伊波 興一朗 100185384 原 秀貢人 100137811 川上 民裕 JP 2014003133 20140110 C12N 5/071 20100101AFI20150724BHJP A61K 35/12 20150101ALI20150724BHJP A61P 17/00 20060101ALI20150724BHJP A61K 35/14 20150101ALI20150724BHJP JPC12N5/00 202AA61K35/12A61P17/00A61K35/14 Z 9 7 OL 30 申請有り 4B065 4C087 4B065AA87X 4B065AA90X 4B065AA93X 4B065AC14 4B065BB20 4B065BD25 4B065BD29 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA03 4C087BB34 4C087BB64 4C087CA04 4C087DA31 4C087NA14 4C087ZA89 本発明は、メラノサイトの分化誘導を促進する方法、および前記方法によって分化誘導されたメラノサイト細胞群を含む細胞製剤に関する。 皮膚、毛根の色を決定する最も重要な因子はメラニンと呼ばれる色素性物質である。メラニンは、皮膚では表皮基底層と毛根に存在するメラノサイトといわれる色素産生細胞により産生される。このメラニンの産生が異常に抑制されたり、メラノサイトが消失したりすると、尋常性白斑や、遺伝性対側性色素異常症、および白皮症といった遺伝性色素異常症が発症する。 例えば尋常性白斑症は我が国において100〜200万人が罹患していると推計される進行性の色素脱失症である。現在、本疾患の治療は、ステロイド療法や光化学療法により行われており、ある程度の成果が得られているが、予後不良であることが多く、難治性疾患とされている。 一方で近年、未分化な細胞(幹細胞)の分化を誘導することで、損傷した組織の補填を図る再生医療(細胞医療)の研究が進められている。例えば、Yamanakaらによって樹立された人工多能性幹細胞(iPS細胞)(特許文献1、非特許文献1および2)を利用した再生医療は、受精卵を破壊しないため倫理的問題が少ないばかりか、患者由来の細胞から樹立することができることから、自己細胞を供給源とすることで拒絶反応の問題も回避することができる。 現在までに、ヒト人工多能性幹細胞からメラノサイトの分化を誘導するいくつかの方法が報告されている。これらの方法は、一般的に、ヒト多能性幹細胞を、表皮誘導を刺激する成分とケラチノサイト分化を刺激する成分とを含む培養培地で培養することを含んでいる。 例えば特許文献2は、表皮誘導を刺激する成分としてBMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7およびGFD−6から選択される成分を用い、ケラチノサイト分化を刺激する成分としてアスコルビン酸とレチノイン酸の組み合わせを使用する方法を開示している。 非特許文献3は、表皮誘導を刺激する成分としてWnt3a、FGF−2およびSCFの組み合わせを用い、ケラチノサイト分化を刺激する成分としてEndothelin−3およびアスコルビン酸の組み合わせを使用する方法を開示している。 非特許文献4は、表皮誘導を刺激する成分としてEGFおよびBMP−4の組み合わせを使用し、ケラチノサイト分化を刺激する成分としてアスコルビン酸を使用する方法を開示している。 またマウス細胞における研究では、色素細胞の分化に幹細胞因子(Stem cell Factor;SCF)および骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein;BMP)−4が使用されたこと(非特許文献5)、表皮誘導後のケラチノサイトへの分化にレチノイン酸、活性型ビタミンD3が使用されたことが報告されている(非特許文献6および7)。WO2007/069666特表2013−520163号Takahashi K,Yamanaka S.,Cell,(2006)126:663−676Takahashi K,Yamanaka S.,et al.Cell,(2007)131:861−872.Ohta et al.,Epidermal Melanocytes from iPS Cells,January 2011 Volume 6 Issue 1:1−10Nissan et al.,Developmental Biology,September 6,2011,Vol.108,no.36:14861−14866Kawakami T et al.,Journal of Investigative Dermatology(2008),Volume 128,No.3:1220−1226Watabe H et al.,The Journal of Investigative Dermatology,Vol.118,No.1 January 2002:35−42Watabe H et al.,The Journal of Investigative Dermatology,Vol.119,No.3 September 2002:583−589 これまでに報告されているヒトメラノサイトの分化誘導方法は、いずれもメラノサイトの分化までに長期(例えば少なくとも40日以上)の培養が必要であった。さらに、これらの方法で分化誘導されるヒトメラノサイトの細胞集団は、メラノサイトの分化効率は高くなく、また、ヒト正常メラノサイトとの相同性が低いという問題があった。したがって、ヒトへの臨床用途に適したメラノサイトを効率的に分化誘導する方法に関するニーズが依然として存在する。 本発明は、ヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイト細胞群を効率的に分化誘導する方法を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、ヒト多能性幹細胞を、表皮分化を刺激する成分とケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の存在下で分化誘導培養する際に、これまで使用実績のない活性型ビタミンD3を培養系に添加することにより、従来の方に比較して、はるかに短期間でメラノサイト細胞群を取得できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 したがって、本発明は、一実施態様において、メラノサイトの分化誘導を促進する方法であって、ヒト多能性幹細胞を、表皮誘導を刺激する成分およびケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の存在下で培養することを含んでおり、培養系に活性型ビタミンD3を含有させることを特徴とする方法に関する。本発明の一実施態様において、表皮誘導を刺激する成分は、SCF、BMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7、GFD−6、EGF、Wnt3a、およびFGF−2よりなる群から選択される少なくとも1種であることができる。一態様において、表皮誘導を刺激する成分は、SCFおよびBMP−4の組み合わせであることが好ましい。 本発明の一実施態様において、ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分は、Endothelin−3、アスコルビン酸、およびレチノイン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることができる。一態様において、ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分は、アスコルビン酸およびレチノイン酸の組み合わせであることが好ましい。 本発明の一実施態様において、前記ヒト多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞であることができる。好ましくは、ヒト人工多能性幹細胞は、ヒト血液T細胞から誘導されたものである。 本発明はまた、メラノサイトの欠乏に起因する疾患を治療するための細胞製剤であって、本発明の方法により得られたメラノサイト細胞群を含む細胞製剤に関する。一実施形態において、メラノサイトの欠乏に起因する疾患は、尋常性白斑症、遺伝性対側性色素異常症および白皮症よりなる群から選択されるいずれかの疾患であることができる。 本発明によれば、ヒト多能性幹細胞から、メラノサイトを効率的に誘導する方法が提供される。 本発明によれば、さらに、ヒト多能性幹細胞から、臨床用途に適したメラノサイト細胞群を効率的に取得する方法が提供される。図1は、メラノサイトの分化誘導に使用したヒト多能性幹細胞における、幹細胞マーカーであるSSEA−4(A)、TRA−1−60(B)およびTRA−1−81(C)についての免疫染色の結果を示す。図2は、メラノサイトの分化誘導に使用したヒト多能性幹細胞における、幹細胞マーカーであるDDPA4、ESG1、LIN28、NANOG、REX1、TDGF1、TERT、およびZIC3についてのRT−PCR分析の結果を示す。図3は、メラノサイト分化誘導培養後1日目、4日目および19日目の培養細胞を示す。図4は、分化誘導培養後19日目の細胞における、メラノサイトマーカーであるS100についての免疫染色の結果を示す。図5は、分化誘導培養後19日目の細胞における、メラノサイトマーカーであるエンドセリンレセプターについての免疫染色の結果を示す。図6は、分化誘導培養後19日目の細胞で行ったDOPA反応の結果を示す。図7は、分化誘導培養後19日目の細胞におけるチロシナーゼ活性を示す。図8は、活性型ビタミンD3の非存在下(A)および存在下(B)での分化培養28日目の細胞で行ったDOPA反応の結果を示す。図9は、変化する濃度の活性型ビタミンD3の存在下で培養した際のヒトメラノブラストの増殖結果を示す。図10は、変化する濃度の活性型ビタミンD3の存在下でヒトメラノブラストを培養した際のチロシナーゼ活性を示す。図11は、10−5Mの活性型ビタミンD3の非存在下(A)および存在下(B)で培養したヒトメラノブラストで行ったDOPA反応の結果を示す。図12は、10−5Mの活性型ビタミンD3の非存在下(A)および存在下(B)で培養したヒトメラノブラストにおけるMelanosomeの形態の比較を示す。図13は、変化する濃度の活性型ビタミンD3の存在下で培養したヒトメラノブラストにおけるEndothelin B receptorの発現量を示す。 本発明は、ヒトメラノサイトの分化誘導を促進する方法(以下、単に「本発明の方法」とも称する)に関する。具体的に、本発明は、表皮誘導を刺激する成分およびケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の存在下でメラノサイトの分化誘導培養を行う際に、培養系に活性型ビタミンD3を含有させることを特徴とする、ヒトメラノサイトの分化誘導を促進する方法に関する。本発明はまた、本発明の方法によって分化誘導されたメラノサイト細胞群の臨床応用に関する。1.多能性幹細胞 本発明で使用可能な多能性幹細胞は、胎盤を除くすべての細胞に分化する能力を有する分化多能性を有し、かつ、増殖能をも有する幹細胞である。そのような幹細胞の具体例には、以下のものに限定されないが、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES;核移植ES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞などが含まれる。 ES細胞、ntES細胞、GS細胞、EG細胞およびiPS細胞は、当該技術分野で公知のいずれかの方法により樹立された細胞を使用することができ、特に制限されない。 ES細胞は、マウスやヒトおよびサルなどの霊長類由来の細胞で樹立されたことが報告されており(M.J.Evans and M.H.Kaufman(1981),Nature 292:154−156;J.A. Thomson et al.(1999),Science 282:1145−1147;J.A. Thomson et al.(1995),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:7844−7848;J.A.Thomson et al.(1996),Biol.Reprod.,55:254−259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998),Curr. Top. Dev. Biol., 38:133−165)、例えばH.Suemori et al.(2006),Biochem.Biophys.Res.Commun.,345:926−932;M.Ueno et al.(2006),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:9554−9559;H.Suemori et al.(2001),Dev.Dyn.,222:273−279;H.Kawasaki et al.(2002),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:1580−1585などに記載される方法に従って樹立および維持されたES細胞を本発明に使用することができる。 GS胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能である。GS細胞は、例えば竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁に記載される方法に従って樹立および維持することができる。 EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(SCF)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立することができる(Y.Matsui et al.(1992),Cell,70:841−847;J.L.Resnick et al.(1992),Nature,359:550−551)。 人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の再プログラミング因子を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、分化多能性と自己複製による増殖能とを有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K.Takahashi and S.Yamanaka(2006)Cell,126:663−676;K.Takahashi et al.(2007),Cell,131:861−872;J.Yu et al.(2007),Science,318:1917−1920;Nakagawa,M.ら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);国際公開WO2007/069666)。再プログラミング因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であればよく、特に限定されないが、例えばOCT3/4、SOX2およびKLF4;OCT3/4、KLF4およびC−MYC;OCT3/4、SOX2、KLF4およびC−MYC;OCT3/4およびSOX2;OCT3/4、SOX2およびNANOG;OCT3/4、SOX2およびLIN28;OCT3/4およびKLF4などの組み合わせを含む。 これらの因子は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソームを利用する手法、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(Cell,126,pp.663−676,2006;Cell,131,pp.861−872,2007;Science,318,pp.1917−1920,2007)、アデノウイルスベクター(Science,322,945−949,2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが例示される。本発明の一実施態様において、再プログラミング因子の導入に使用されるウイルスベクターはセンダイウイルスである。センダイウイルスはRNAをゲノムするが、レトロウイルスとは異なり、RNAのまま細胞質に留まり、そこで複製、転写および翻訳が行われる。したがって、センダイウイルスの使用は、ウイルス由来遺伝子のゲノムへの挿入がなく、癌化のリスクを低く抑えることができるという利点を有している。 ベクターには、再プログラミング因子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサーなどの制御配列を含むことができる。また、必要に応じて、再プログラミング因子が導入された細胞を選別するための、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。 iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地、PSG、ノックアウト血清リプレースメント(KSR)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)またはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX−WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒトおよびサル)ES細胞用培地、リプロセル、京都、日本)などが含まれ、これらを適宜混合して使用することができる。また、これらの培養培地は、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜補充して使用することができる。 培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培地上で細胞と再プログラミング因子(DNAまたはタンパク質)を接触させて約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上に蒔き直し、細胞と再プログラミング因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。 あるいは、細胞は、37℃、5%CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。 上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、再プログラミング化に使用する細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。 マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子などの遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、マーカー遺伝子を発現する細胞を検出することができる。マーカー遺伝子が発光酵素遺伝子である場合は、発光基質を加えることによってマーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。 本発明において、多能性幹細胞は、ヒト体細胞から誘導されたヒト多能性幹細胞であり、好ましくは、ヒト血液T細胞から誘導されたヒト多能性幹細胞である。また本発明の一実施態様において、多能性幹細胞は、分化誘導されたメラノサイトによって治療されるべき対象から取得された細胞から誘導されたものである。2.活性型ビタミンD3 本発明の方法は、ヒト多能性幹細胞からメラノサイトへの分化誘導系に、活性型ビタミンD3を含有させることを特徴とする。活性型ビタミンD3は、1α,25−ジヒドロキシコレカルシフェロールとも称するホルモン活性を有する脂溶性ビタミンである。本発明の方法において、活性型ビタミンD3は、主に、ケラチノサイトへの最終分化を促進すると考えられ、これによりヒト多能性幹細胞からメラノサイトへの分化期間を大幅に短縮することができる。具体的に、本発明の方法によれば、ヒト多能性幹細胞からの分化誘導開始後、例えば、40日未満、好ましくは35日未満、より好ましくは30日未満、より好ましくは25日未満、そして最も好ましくは20日未満で、メラノサイトへの分化を実現することができる。 本発明の方法において、使用される活性型ビタミンD3の濃度は、併用する他の成分の数および種類に応じて変化する場合があるが、10−7M〜10−5Mの範囲とすることができる。本発明の一実施態様において、活性型ビタミンD3の使用濃度は10−6Mである。なお、活性型ビタミンD3は、分化誘導開始後に培養系に添加してもよいし、培養系に予め含有されていてもよい。活性型ビタミンD3を分化誘導開始後に培養系に添加する場合、メラノサイトへの分化期間短縮の観点から、分化誘導開始後数日以内、例えば5日以内、あるいは10日以内に添加することが好ましい。3.メラノサイトへの分化を誘導する成分 本発明の方法において、メラノサイトへの分化誘導には、表皮誘導を刺激する成分、およびケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分が使用される。 本発明の方法に使用される表皮誘導を刺激する成分は、特に制限されず、当業者に公知の成分のいずれかを用いることができる。そのような成分として、これに限定されるものではないが、例えば幹細胞因子(SCF)、骨形成タンパク質(BMP−2、BMP−4、BMP−7)、受容体制御型Smadタンパク質(例えばSmad1、Smad5、Smad7)、TGF−βファミリーのリガンド(例えば成長および分化因子6;GFD−6)、上皮成長因子(EGF)、Wnt3a、繊維芽細胞増殖因子(例えばFGF−2)などを挙げることができる。前記成分は表皮誘導を刺激する成分として単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。 本発明の一実施態様においては、表皮誘導を刺激する成分として、SCFおよびBMP−4の組み合わせが使用される。なお、天然BMP−4アミノ酸配列は、GenPeptデータベースにおいてAccession Number AAC72278下で提供される。 表皮誘導を刺激する成分の使用濃度は、選択した成分の種類、組み合わせ等に応じて変化する場合があり、当業者は適宜適切な濃度を選択することができる。例えば、表皮誘導を刺激する成分としてSCFおよびBMP−4の組み合わせが使用される場合には、使用されるSCFの濃度は、10ng/ml〜50ng/mlの間で変化し、本発明の一実施態様において、SCFの使用濃度は20ng/mlである。またこの場合に使用されるBMP−4の使用濃度は、10nM〜50nMの間で変化し、本発明の一実施態様において、BMP−4の使用濃度は20nMである。 本発明の方法に使用されるケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分は、特に制限されず、当業者に公知の成分のいずれかを用いることができる。そのような成分として、これに限定されるものではないが、例えばEndothelin−3、アスコルビン酸、レチノイン酸などを挙げることができる。前記成分はケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分として単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。 本発明の一実施態様においては、ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分として、アスコルビン酸およびレチノイン酸の組み合わせが使用される。なお、本発明において、レチノイン酸には、二重結合がすべてトランス型であるAll−trans−retinoic acid(トレチノイン)も包含される。 ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の使用濃度は、選択した成分の種類、組み合わせ等に応じて変化する場合があり、当業者は適宜適切な濃度を選択することができる。例えば、ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分としてアスコルビン酸およびレチノイン酸の組み合わせが使用される場合には、使用されるアスコルビン酸の濃度は、0.1mM〜10mMの間で変化し、本発明の一実施態様において、アスコルビン酸の使用濃度は0.3mMである。またこの場合に使用されるレチノイン酸の使用濃度は、10−7M〜10−5Mの範囲で変化し、本発明の一実施態様において、レチノイン酸の使用濃度は10−6Mである。4.ヒト多能性幹細胞の維持 一般的に、幹細胞の培養(前培養)において、未分化状態を保つためにフィーダー細胞が使用される。本発明の方法において、フィーダー細胞は必ずしも必要ないが、フィーダー細胞を存在させることも可能である。 フィーダー細胞としては、例えば胎仔線維芽細胞、ストローマ細胞などが挙げられる。胎仔線維芽細胞には、例えばMEF(マウス胎仔線維芽細胞)、STO細胞(マウス胎仔線維芽細胞株)、SNL細胞(STO細胞のサブクローン;例えばSNL 76/7細胞)などが含まれる。また、ストローマ細胞には、例えばPA6細胞(マウスストローマ細胞株(理研BRC Cell Bank(日本)))、MS−5細胞(Exp Hematol.17:145−53(1989))、OP9細胞(Science.265:1098−1101(1994))などが挙げられる。5.メラノサイトの分化誘導培養 分化誘導培地は、基礎培地に表皮誘導を刺激する成分とケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分とを補充することにより調製することができる。活性型ビタミンD3は、このようにして調製される分化誘導培地に予め含有させてもよいし、分化誘導開始後に添加してもよい。基礎培地としては、ヒト表皮細胞培養用の任意の培地、例えばMedium 254(Gibco(登録商標))およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。 培地はまた、必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、ノックアウト血清リプレースメント、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロール、B27−サプリメント、N2−サプリメントなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、ならびに、脂質、アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。 分化誘導培地の例は、後述の実施例に記載されるような、表皮分化を刺激する成分としてのSCFおよびBMP−4の組み合わせと、ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分としてのアスコルビン酸およびレチノイン酸の組み合わせとが補充されたMedium 254に対して、さらに活性型ビタミンD3が補充されたものである。 本発明の方法において、iPS細胞などの多能性幹細胞からメラノサイトへの分化誘導に際して、これらの細胞を、例えばChambers SM,et al.Nat Biotechnol.27:485,2009に記載の方法を用いて培養する。 本発明の一実施態様において、ヒト多能性幹細胞からメラノサイトへの分化誘導は、上記分化培地を用いて、フィーダー細胞の存在下で培養することによって行うことができる。フィーダー細胞は、例えば上に例示されるようなMEF(マウス胎仔線維芽細胞)、STO細胞(マウス胎仔線維芽細胞株)、PA6細胞(マウスストローマ細胞株(理研BRC Cell Bank(日本)))、SNL細胞(STO細胞のサブクローン;例えばSNL 76/7細胞など)などを使用することができる。本発明の一実施態様において、フィーダー細胞はマウス胎児繊維芽細胞である。またフィーダー細胞を使用する場合、一般に、細胞増殖を停止させるためにマイトマイシンC処理が行われる。 培養開始時のヒト多能性幹細胞の培地中の密度は特に制限されないが、例えば約50〜200細胞/mlとすることができる。 培養の具体例は、非接着性条件下での三次元培養、例えば浮遊培養(例えば、分散培養、凝集浮遊培養など)、または接着条件下での二次元培養、例えば平板培養、あるいは、三次元培養後に二次元培養を行うという連続的な組み合わせ培養、などを包含する。通常、フィーダー細胞の存在下で分化誘導する場合には、二次元培養を使用することができ、フィーダー細胞の非存在下で分化誘導する場合には、三次元培養を使用することができる。 細胞接着性の培養器では、細胞との接着性を向上させる目的で、その表面を、細胞支持物質、例えばコラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチン、MatrigelTM(Becton,Dickinson and Company)などの物質でコーティングすることができる。 培養温度は、特に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養期間は、分化誘導開始から40日未満とすべきである。本発明の一実施態様において、培養期間は、35日未満であり、より好ましくは30日未満であり、より好ましくは25日未満であり、そして最も好ましくは20日未満である。6.メラノサイト細胞群 本発明はまた、上記方法によって分化誘導されたメラノサイト細胞群を提供する。本発明の方法によって取得できるメラノサイト細胞群は、従来の分化誘導方法に比較して極めて短期間で調製することができる。また、本発明の方法によって分化誘導されたメラノサイト細胞群は、メラノサイトの成熟度、すなわち低い未分化細胞残存率、ヒトメラノサイトとの高い相同性等の点で優れたものであり得る。 メラノサイトの成熟度は、例えば遺伝子発現プロファイルの取得によるヒトメラノサイトとの相同性評価、およびFACSまたはRT−PCRを使用した、小眼球症関連転写因子(MITF)、チロシナーゼ関連タンパク(Trp−1、Trp−2/DOPAクロムトウトメラーゼ;Dct)、チロシンキナーゼ(Kit)、チロシナーゼ、エンドセリンBレセプター、ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)などの色素細胞マーカーの発現レベルを確認することによって評価することができる。7.医療への応用 本発明のメラノサイト細胞群は、メラノサイトが欠乏した表皮組織の正常化のために有効に使用し得る。したがって、この細胞群は、メラノサイト欠乏に起因する任意の疾患の治療用細胞になり得る。 そのような疾患の例としては、尋常性白斑、遺伝性対側性色素異常症や白皮症などの遺伝性色素異常症が挙げられる。 メラノサイト細胞群を治療のために用いる場合、メラノサイト細胞を単離するかまたはその純度を高めることが望ましい。このために、例えばフローサイトメトリー法などが挙げられる。フローサイトメトリー法は、非常に細い流液中に細胞粒子を高速度で流し、レーザー光を照射して、粒子が発生する蛍光(細胞が予め蛍光標識された場合)、散乱光などの光を測定するものであり、セルソーターを備えると、目的の細胞を選別・分離することができる。細胞の蛍光標識は、神経前駆細胞に特異的な抗体(蛍光標識化)、例えば抗Nestin抗体、によって行うことができる。また、抗癌剤含有培地での処理によって、未分化細胞を除去することができる。抗癌剤の例は、マイトマイシンC、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、メトトレキセートなどである。 上記のようにして単離または純度が高められたメラノサイト細胞群は、皮膚疾患部位へ直接移植してもよいし、皮膚疾患治療のための細胞製剤として製剤化してもよい。 本発明の細胞製剤は、細胞の維持および増殖を補助する成分や他の医薬的に許容しうる担体を含んでいてもよい。 細胞の維持・増殖に必要な成分としては、炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル、塩類、各種サイトカイン等の培地成分、あるいはMatrigelTM等の細胞外マトリックス調製品、が挙げられる。 本発明の細胞製剤に使用することができる医薬的に許容しうる担体として、これに限定されるものではないが、医薬的に許容される有機溶剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤等が挙げられる。 以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。1.ヒトiPS細胞 メラノサイトの分化誘導培養に使用した細胞は、東京慈恵会医科大学から提供されたものを使用した。この細胞は、4種類の遺伝子:OCT3/4、SOX2、KLF4、およびc−MYCが導入されたセンダイウイルスを血液内Tリンパ球に遺伝子導入(リプログラミング)に用いることによって樹立されたものである。 上記細胞について、下記のとおり免疫染色およびRT−PCRを用いて、幹細胞(未分化)マーカーの発現を確認した。免疫染色 免疫染色法で、SSEA−4、TRA−1−60、およびTRA−1−81細胞表面抗原の発現を検証した。 CSTジャパン株式会社の「免疫蛍光染色プロトコール(メタノール透過処理)」に従って、iPS細胞の免疫染色を行った。一次抗体は、StemLite(商標)Pluripotency kit(Cell Signaling,Cat#:9656)に含まれるもの(SSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81)を用いた。また二次抗体としてAnti−mouse IgG(Alexa Fluor(R)488Conjugate,Host;Goat)(Molecular Probes,Cat#:A11001)を用いた。 その結果、SSEA−4、TRA−1−60、およびTRA−1−81細胞表面抗原の発現を示す蛍光が確認された(図1)。RT−PCR RT−PCRを用いて幹細胞マーカーDDPA4、ESG1、LIN28、NANOG、REX1、TDGF1、TERT、およびZIC3の発現を確認した。 全RNA抽出は、RNA isolation kit(QIAGEN,Hilden,Germany)を、製品プロトコールに従って行った。抽出後、MMLV Reverse Transcriptase(Gibco/BRL,Gaithersburg,MD)を用いて、cDNA合成を行い、PCR反応は、Ex−Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を使用した。RT−PCRの増幅産物を2%アガロースゲル電気泳動により分析した(図2)。 図2から明らかなとおり、本細胞抽出物において、幹細胞マーカーDDPA4、ESG1、LIN28、NANOG、REX1、TDGF1、TERT、およびZIC3についての発現を確認することができた。 以上の結果に基づき、この細胞をメラノサイトの分化誘導に使用するヒトiPS細胞として以下の培養実験に用いた。2.ヒトiPS細胞の培養 ヒトiPS細胞は、DMEM−F12(SIGMA D6421)、10%Nonessential amino acid(100X)(Invitrogen)、1.25%PSG(100X)、25%KnockOut Serum Replacement(KSR)(Invitrogen)、0.1mM55mM 2−mercaptoethanol(Invitrogen)、5ng/mlbFGF(Wako)を含むiPS細胞培養用培地を用い、マウス胎児繊維芽細胞上で維持した。すなわち、マイトマイシンC処理済みマウス胎児線維芽細胞上にヒトiPS細胞を播種し、iPS細胞培養用培地中、37℃、5%CO2,20%O2の雰囲気下で維持した。原則として毎日培地交換を行い、コロニーが十分に大きくなった際には継代を行った。3.分化誘導培養iPS細胞のマトリゲル上への継代 メラノサイトへの分化誘導を実施するにあたり、無フィーダー培養とするため、マトリゲル上にiPS細胞を継代した。MatrigelTM(基底膜マトリックス)(BD Biosciences)をDMEM−F12で30倍に希釈し、これを2mLずつ60mm dish加え、37℃で1時間コーティングした。継代可能となったiPS細胞コロニーの育っているdishを、ROCK inhibitorを添加したiPS細胞培養用培地で1時間以上Pre―incubationし、通常の継代と同様にiPS細胞のコロニーを剥がした。剥がしたコロニーを15mL遠心tubeに回収し、1000rpm、5minで遠心分離した。上清を除き、ROCK inhibitorを添加したiPS細胞培養用培地に懸濁した。これを予めゼラチンコートした60mm dishに播種し、37℃のCO2インキュベーター内で2時間培養した。この間に、フィーダー細胞のMEFは接着するが、iPS細胞のコロニーは接着しなかった。2時間後、上清ごとiPS細のコロニーを15mL遠心tubeに回収し、1000rpm、5minで遠心分離した。遠心分離後、予め調製したMEF―Conditioned Mediumにコロニーを懸濁し、Matrigelをコーティングした60mm dishに播種した。播種後の60mm dishあたりのコロニー数は20前後であった。その後、37℃、5%CO2で1晩培養した。iPS細胞の分化誘導培養 MatrigelTM(基底膜マトリックス)(BD Biosciences)上への継代翌日、コロニーが接着しているのを確認してから、上記組成の培地に培地交換を行った。次いで、ヒトiPS細胞(50〜200細胞/mL)をMEF−Conditioned Mediumに懸濁下で播種し、Melanocyte medium 254(GIBCO)、Growth supplements for melanocytes Human Melanocyte Growth Supplement−2(GIBCO)、20nM human recombinant BMP4(R&D Systems)、0.3mM ascorbic acid(Sigma−Aldrich)、50ng/ml stem cell factor(SCF,R&D Systems)、10−7M all−trans Retinoic Acid (Sigma)を含む分化誘導培地に、10−7M 活性型ビタミンD3(1,25−Dihydroxyvitamin D3;1,25(OH)2D3)(Enzo)をさらに加え、培地交換を行った。培養条件は、37℃、5%CO2雰囲気下、接着での培養によるものであった。 培養後1日目、4日目および19日目の培養細胞の写真図を図3に示す。3.分化誘導細胞の検証 分化誘導後の細胞について、免疫染色法によりメラノサイトマーカーであるS100、およびエンドセリンレセプター(EDNB Receptor)の発現を評価した。また、細胞によるメラニン産生を、DOPA反応およびチロシナーゼ活性を測定することによって確認した。免疫染色法 分化誘導開始後、19日が経過した細胞をコラーゲンコート済み8wellチャンバースライド(BD Falconカルチャースライド、Cat. No. 354630)上に1.8x10×4cells/wellで播種した。95%アルコールで細胞を固定し、一次抗体として抗S‐100抗体(DAKO)および抗エンドセリンB受容体抗体(abcam,135611)を用いて免疫染色を行った。二次抗体としてHRP標識抗体(Goat pAb to Rb IgG(HPR),abcam97051)を用い、DAB(3,3’‐DiaminoBenzidine)にて発色させた。対比染色として核をヌクレアファストレッドにて染色した。ネガティブコントロールとして一次抗体を添加せず染色を行い、評価に用いた。画像撮影はBIOREVO (KEYENCE)にて撮影した(図4および5)。 図4および図5から分かるとおり、メラノサイトマーカーであるS100タンパク質、エンドリンレセプターの存在を示す染色が観察された。DOPA反応 分化誘導開始後、19日が経過した細胞を60mm dish上で2%パラホルムアルデヒドin PBS(−)で室温、15分間固定した。固定後、細胞をPBS(−)で3回洗浄し、0.1M リン酸Buffer(pH7.2)中の0.1%DOPA(Sigma,St Louis,MO)を加え、37℃にて5時間反応させた。反応液は反応開始より2.5時間の時点で1度交換した。対比染色として核をヌクレアファストレッドにて染色した。画像撮影はBIOREVO(KEYENCE)にて撮影した(図6)。図6から分かるとおり、チロシナーゼとDOPAの反応に由来する染色を観察することができた。チロシナーゼ活性の測定 分化誘導開始後、25日が経過した細胞を、0.1M Tris−HCl(pH7.5)、1%NP−40、0.01%SDS、100μM PMSF、1μg/mL Aprotininを組成とする抽出Bufferで回収し、チロシナーゼ活性の測定を行った。活性測定にはコロニーが15〜20個程度育った60mm dishを1枚用いた。抽出Buffer 150μLを60mm dishに加え、4℃にて3時間可溶化した。3時間経過後、1.5mL tubeに細胞溶解液を回収し、タッチミキサーでよく混和した。この細胞溶解液20μLをとり、チロシナーゼ活性測定に用いた。96well plateの各wellに細胞溶解液20μL、4%Dimethylformamide、100mM リン酸Buffer(pH7.1)からなるAssay Buffer 80μL、20.7mM MBTH溶液(3−methyl−2−benzothiazolinone hydrazone)60μL、5mM L―DOPA溶液(3,4−dihydroxy−L−phenylalanine)40μLをそれぞれ加え、37℃にて30分間反応させた。呈色反応後、492nmでの吸光度をtriplicateで測定し、チロシナーゼ活性を評価した(図7)。陰性コントロールとして細胞溶解液の代わりに抽出Bufferを加えた系を用いた。 図7から明らかなとおり、分化誘導開始後25日目の細胞において、チロシナーゼ活性の存在が有意に認められた。 このように、上に示した分化誘導培養によれば、分化誘導開始後19日目には、メラノサイトの分化マーカーの発現が確認され、分化誘導開始後25日目には、メラニン生成能が確認された。従来の方法がメラノサイトの分化誘導に少なくとも40日以上要していたことに鑑みれば、この結果は驚くべきことである。4.活性型ビタミンD3のメラノサイト分化誘導に及ぼす影響 活性型ビタミンD3のメラノサイトの分化誘導に及ぼす影響をさらに評価するために、以下の試験を実施した。DOPA反応 活性型ビタミンD3の有無による分化誘導効率を比較するために、上記3.の分化誘導培養において、活性型ビタミンD3(10−7M)の有無の点でのみ異なる2つの培養条件で分化誘導した細胞におけるDOPA反応を比較した。すなわち、分化誘導開始後、28日が経過した細胞を60mm dish上で2%パラホルムアルデヒドin PBS(−)で室温、15分間固定し、固定後、細胞をPBS(−)で3回洗浄し、0.1M リン酸Buffer(pH7.2)中の0.1%DOPA(Sigma,St Louis,MO)を加え、37℃にて5時間反応させた。反応液は反応開始より2.5時間の時点で1度交換した。対比染色として核をヌクレアファストレッドにて染色した(図8)。 図8の結果が示す通り、活性型ビタミンD3を添加して分化誘導を行った場合の方が、DOPA反応陽性の細胞の割合が多いことが確認された。活性型ビタミンD3の濃度検討 メラノサイト分化培養における活性型ビタミンD3の適切な濃度を検証するために、活性型ビタミンD3の存在下でのメラノサイト前駆体であるヒトメラノブラストを用いた培養試験を行った。(試験1) 96ウェルプレートに2000個のヒトメラノブラスト(放射線医学総合研究所、広部知久博士から提供された)を播種し、ヒトメラノブラスト増殖培養液MDMDF(F−10 Nutrient mixture(Ham) with L−Glutamine (GIBCO)、50μg/mL Gentamicin(GIBCO)、100U、100μg/mL Penicilin−Streptomycin(GIBCO)、0.25μg/mL Amphotericin B、10μg/mL Insulin、10μg/mL BSA、6ng/mL Ethanolamine、1μg/mL O−phosphorylethanolamine、10nM Sodium selenite、0.5mM N6,2−O−Dibutyryladenosine3’,5’−cyclic monophosuphate sodium salt、2.5ng/mL Basic Fibroblast Growth Factor、100μg/mL apo−Transferrin bovine、10nM Endothelin−1、5ng/mL Stem Cell Factor)中で培養し、翌日に活性型ビタミンD3を10−10M〜10−7Mの各濃度で培養し、5日後にAlamarbluedye(Trek Diagnostic System,Inc)で4時間培養し、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を計測した。 図9に示す結果から、ヒトメラノブラストは、活性型ビタミンD3の存在に起因して、増殖が阻害される一方で培養細胞が適切に維持されることが確認された。細胞の分化と増殖とが同時には起こらないことに鑑みれば、この結果は、活性型ビタミンD3が、少なくとも上記の濃度範囲において、培養細胞に悪影響を及ぼすことなく、メラノサイトの分化誘導に使用できることを示している。(試験2) 96ウェルプレートに5000個のヒトメラノブラスト(放射線医学総合研究所、広部知久博士から提供された)を播種し、ヒトメラノブラスト増殖培養液MDMDF(F−10 Nutrient mixture(Ham) with L−Glutamine (GIBCO)、50μg/mL Gentamicin(GIBCO)、100U、100μg/mL Penicilin−Streptomycin(GIBCO)、0.25μg/mL Amphotericin B、10μg/mL Insulin、10μg/mL BSA、6ng/mL Ethanolamine、1μg/mL O−phosphorylethanolamine、10nM Sodium selenite、0.5mM N6,2’−O−Dibutyryladenosine3’,5’−cyclic monophosuphate sodium salt、2.5ng/mL Basic Fibroblast Growth Factor、100μg/mL apo−Transferrin bovine、10nM Endothelin−1、5ng/mL Stem Cell Factor)中、活性型ビタミンD3を10−10M〜10−7Mの各濃度で72時間培養し、チロシナーゼ活性の測定をした。 すなわち、細胞をPBS(−)にて洗浄後、抽出Buffer(0.1M Tris−HCl(pH7.2)/1% NP−40/0.01% SDS/100μM PMSF/1μg/mL Aprotinin)を20μL/well加え、冷蔵庫で3時間可溶化する。細胞を可溶化後、Assay Buffer(4% Dimethylformamide/100mM リン酸Buffer)を80μL/well、20.7mM MBTH(3−methyl−2−benzothialinone hydrazone)を60μL/well、5mM L−DOPAを40μL/well添加し37℃にて30−60min反応させる。492nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにて測定した。 図10に示す結果から、ヒトメラノブラストのチロシナーゼ活性は、活性型ビタミンD3の濃度に依存して増加することが確認された。また、この結果は、活性型ビタミンD3が、培養細胞に悪影響を及ぼすことなく、メラノサイトの分化誘導に使用できることを支持するものである。(試験3) ヒトメラノブラストを60mm dishに播種し、10−5Mの活性型ビタミンD3を添加して5日間培養し、DOPA反応を10−5Mの活性型ビタミンD3を添加しなかった場合と比較した。なお、本培養には、以下の組成を有するヒトメラノブラスト増殖培養液MDMDFを用いた:F−10 Nutrient mixture(Ham) with L−Glutamine (GIBCO)、50μg/mL Gentamicin(GIBCO)、100U、100μg/mL Penicilin−Streptomycin(GIBCO)、0.25μg/mL Amphotericin B、10μg/mL Insulin、10μg/mL BSA、6ng/mL Ethanolamine、1μg/mL O−phosphorylethanolamine、10nM Sodium selenite、0.5mM N6,2’−O−Dibutyryladenosine3’,5’−cyclic monophosuphate sodium salt、2.5ng/mL Basic Fibroblast Growth Factor、100μg/mL apo−Transferrin bovine、10nM Endothelin−1、5ng/mL Stem Cell Factor) 細胞を60mm dish上で、PBS(−)中の2%パラホルムアルデヒドで室温下、15分間固定した。固定後、細胞をPBS(−)で3回洗浄し、0.1M リン酸Buffer(pH7.2)中の0.1%DOPA(Sigma,St Louis,MO)を加え、37℃にて5時間反応させた。反応液は途中で2度交換した。対比染色として核をヌクレアファストレッドにて染色した。画像撮影はBIOREVO(KEYENCE)にて撮影した(図11)。 図11から、活性型ビタミンD3を加えて培養を行ったヒトメラノブラストにおいて、DOPA反応に陽性の割合がより多いことが確認された。また、この結果は、活性型ビタミンD3が、10−5Mの濃度において、培養細胞に悪影響を及ぼすことなく、メラノサイトの分化誘導に使用できることを支持するものである。(試験4) ヒトメラノブラストを100mm dishに播種し、10−5Mの活性型ビタミンD3を添加して5日間培養し、電子顕微鏡を用いて、Melanosomeの形態を、活性型ビタミンD3を添加しなかった場合と比較した(図12)。なお、本培養には、以下の組成を有するヒトメラノブラスト増殖培養液MDMDFを用いた:F−10 Nutrient mixture(Ham) with L−Glutamine (GIBCO)、50μg/mL Gentamicin(GIBCO)、100U、100μg/mL Penicilin−Streptomycin(GIBCO)、0.25μg/mL Amphotericin B、10μg/mL Insulin、10μg/mL BSA、6ng/mL Ethanolamine、1μg/mL O−phosphorylethanolamine、10nM Sodium selenite、0.5mM N6,2’−O−Dibutyryladenosine3’,5’−cyclic monophosuphate sodium salt、2.5ng/mL Basic Fibroblast Growth Factor、100μg/mL apo−Transferrin bovine、10nM Endothelin−1、5ng/mL Stem Cell Factor) 図12から、活性型ビタミンD3を加えて培養したヒトメラノブラストの方が、Melanosomeの発達段階が進んでいることが確認された。また、この結果は、活性型ビタミンD3が、10−5Mの濃度において、培養細胞に悪影響を及ぼすことなく、メラノサイトの分化誘導に使用できることを支持するものである。(試験5) ヒトメラノブラストを60mm dishに播種し、ヒトメラノブラスト増殖培養液MDMDF(F−10 Nutrient mixture(Ham) with L−Glutamine (GIBCO)、50μg/mL Gentamicin(GIBCO)、100U、100μg/mL Penicilin−Streptomycin(GIBCO)、0.25μg/mL Amphotericin B、10μg/mL Insulin、10μg/mL BSA、6ng/mL Ethanolamine、1μg/mL O−phosphorylethanolamine、10nM Sodium selenite、0.5mM N6,2’−O−Dibutyryladenosine3’,5’−cyclic monophosuphate sodium salt、2.5ng/mL Basic Fibroblast Growth Factor、100μg/mL apo−Transferrin bovine、10nM Endothelin−1、5ng/mL Stem Cell Factor)中、活性型ビタミンD3を10−10M〜10−6Mの各濃度で添加して5日間培養し、抗Endothelin B receptor抗体(Abdam)を用いてウェスタンブロットを行った(図13)。 図13から、ヒトメラノブラストのEndothelin B receptorの発現は、ビタミンD3の濃度依存的に増加することが確認された。また、この結果は、活性型ビタミンD3が、10−10M〜10−6Mの濃度範囲において、培養細胞に悪影響を及ぼすことなく、メラノサイトの分化誘導に使用できることを支持するものである。 以上の通り、メラノサイトの分化誘導方法において、これまでに使用実績のなかった活性型ビタミンD3を培養系に含有させることで、従来のメラノサイトの分化誘導方法と比較して、はるかに短期間または効率的にメラノサイトを分化誘導できることが示された。 本発明の方法によれば、従来のヒトメラノサイト分化誘導方法と比較して、極めて短期間で、多能性幹細胞からヒトメラノサイトの分化を誘導することができる。 こうして分化誘導されたヒトメラノサイト細胞群は、高いメラノサイト成熟度を有し得るため、尋常性色素斑、遺伝性対側性色素症、白皮症など、メラノサイトの欠乏に起因する疾患を含む様々な疾患への利用が期待できる。 メラノサイトの分化誘導を促進する方法であって、 ヒト多能性幹細胞を、表皮誘導を刺激する成分およびケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の存在下で培養することを含んでおり、 培養系に活性型ビタミンD3を含有させることを特徴とする、方法。 請求項1に記載の方法であって、 表皮誘導を刺激する成分は、SCF、BMP−2、BMP−4、BMP−7、Smad1、Smad5、Smad7、GFD−6、EGF、Wnt3a、およびFGF−2よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、方法。 請求項1に記載の方法であって、 表皮誘導を刺激する成分としてSCFおよびBMP−4の組み合わせを用いることを特徴とする、方法。 請求項1に記載の方法であって、 ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分は、Endothelin−3、アスコルビン酸、およびレチノイン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、方法。 請求項1に記載の方法であって、 ケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分として、アスコルビン酸およびレチノイン酸の組み合わせを使用することを特徴とする、方法。 請求項1に記載の方法であって、 前記ヒト多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞である、方法。 請求項6に記載の方法であって、 ヒト人工多能性幹細胞は、ヒト血液T細胞から誘導されたものである、方法。 メラノサイトの欠乏に起因する疾患を治療するための細胞製剤であって、 請求項1〜7のいずれか1項記載の方法で得られたメラノサイト細胞群を含む、細胞製剤。 請求項8に記載の細胞製剤であって、 メラノサイトの欠乏に起因する疾患は、尋常性白斑、遺伝性対側性色素異常症および白皮症よりなる群から選択されるいずれかの疾患である、細胞製剤。 【課題】ヒト多能性幹細胞からヒトメラノサイト細胞群を効率的に分化誘導する方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明によれば、メラノサイトの分化誘導を促進する方法であって、ヒト多能性幹細胞を、表皮誘導を刺激する成分およびケラチノサイトへの最終分化を刺激する成分の存在下で培養することを含んでおり、培養系に活性型ビタミンD3を含有させることを特徴とする方法が提供される。【選択図】図7