生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_担子菌酵母変異体
出願番号:2014515551
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,C12P 21/02,C12P 21/00


特許情報キャッシュ

歌島 悠 岸本 高英 柳谷 周作 正木 和夫 JP 5588578 特許公報(B2) 20140801 2014515551 20130423 担子菌酵母変異体 東洋紡株式会社 000003160 独立行政法人酒類総合研究所 301025634 風早 信昭 100103816 浅野 典子 100120927 歌島 悠 岸本 高英 柳谷 周作 正木 和夫 JP 2012113449 20120517 20140910 C12N 1/20 20060101AFI20140821BHJP C12P 21/02 20060101ALI20140821BHJP C12P 21/00 20060101ALI20140821BHJP JPC12N1/20 AC12P21/02 CC12P21/00 C C12N 1/20 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) PubMed CiNii Thomson Innovation 特開2012−183012(JP,A) 国際公開第2011/109438(WO,A1) MASAKI,K. et al.,Construction of a new recombinant protein expression system in the basidiomycetous yeast Cryptococcus sp. strain S-2 and enhancement of the production of a cutinase-like enzyme.,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2012年 2月,Vol.93, No.4,pp.1627-36 IEFUJI,H. et al.,Isolation and Characterization of a Yeast Cryptococcus sp. S-2 That Produces Raw Starch-digesting α-Amylase, Xylanase, and Polygalacturonase.,Biosci. Biotech. Biochem.,1994年12月,Vol.58, No.12,pp.2261-2 2 IPOD FERM BP-11482 JP2013061829 20130423 WO2013172154 20131121 8 20140418 幸田 俊希 本発明は、異種タンパク質の大量生産の際に問題となる細胞外多糖類の生産を既存のものに比べて大幅に抑制した新規な担子菌酵母変異体に関する。 遺伝子組換え技術の発展により、原核生物や真核生物を宿主として利用して産業上有用なタンパク質を大量に製造することが可能となった。原核生物の宿主としては、大腸菌などの細菌が一般的に使用されており、真核生物の宿主としては、サッカロミセス属やピキア・パストリス(Pichia pastris)などの酵母が一般的に使用されている。 酵母は、一般的に増殖が速いため、細菌よりも高い細胞密度で培養することができる。また、酵母は、細菌と比べて菌体と培養液との分離が容易であるため、生産されたタンパク質の抽出精製工程をより簡単にすることができる。このため、酵母は、遺伝子組換え技術による有用タンパク質の生産宿主として使用されることが多くなっている。 かかる酵母の有用性に鑑み、出願人は、種々の酵母の中から、αアミラーゼ、酸性キシラナーゼ、クチナーゼなどのタンパク質を大量に生産して細胞外に分泌する特性を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)sp.S−2株(担子菌酵母の一種であり、1995年9月5日に日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)(現在は日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室(郵便番号292−0818)に移転)の独立行政法人産業技術総合研究所(現在の名称は、製品評価技術基盤機構) 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−10961として国際寄託済)を選抜した(非特許文献1参照)。 また、出願人らは、この菌株の細胞外タンパク質の生産性の高さを利用して、酵母が本来生産するタンパク質以外の異種タンパク質を大量生産することを提案し、さらに、外来遺伝子を導入された形質転換体の選抜を一層効率的にするため、クリプトコッカスsp.S−2株から自然変異により、ウラシル要求性株(U5株)を取得することを提案した(非特許文献2参照)。 このように、クリプトコッカス属を始めとする担子菌酵母は、遺伝子組換えによる異種タンパク質生産の宿主として極めて有用であるが、担子菌酵母は、非特許文献3に示されるように、細胞外に多量の多糖類を生産するという問題があった。この細胞外多糖類の生産は、培養液の粘性を上昇させるため、培養液からの菌体除去やタンパク質精製の工程において、分離不良や限界ろ過膜の目詰まりを招きやすく、タンパク質を効率良く精製することが困難であった。 そのため、従来、(i)培養液上清を凍結融解して細胞外多糖類を凝集除去する方法や、(ii)培養液上清に冷アセトンを加え細胞外多糖類を凝集させてグラスウールフィルターで除去する方法、(iii)ポリエチレングリコールで細胞外多糖類を凝集沈殿させる方法などが用いられてきた。しかし、これらの方法は、いずれもその操作性及び経済性の観点からスケールアップには不向きであった。即ち、方法(i)については、培養液を大規模に凍結させるのは容易でないという問題があった。また、方法(ii)については、大量のアセトンを投入してから後でこれを留去するのは非効率的であり、安全性に対して特段の配慮が必要であった。さらに、方法(iii)については、ポリエチレングリコールの使用によって、後工程で使用する限外濾過膜を劣化させる恐れがあり、更に廃液処理の問題があった。 これらの理由から、細胞外に大量に分泌生産された多糖類を除去することは、操作性、経済性、安全性の観点から困難であり、担子菌酵母は、大規模での異種タンパク質の生産宿主に適さないという問題があった。Biosci.Biotech.Biochem.,58(12),2261−2262,1994Appl.Microbiol.Biotechnol.2011 Nov 15.(Construction of a new recombinant protein expression system in the basidiomycetous yeast Cryptococcus sp.strain S−2 and enhancement of the production of a cutinase−like enzyme.)微生物の分類と同定(財団法人東京大学出版社)P92−93 本発明は、かかる従来技術の問題を克服するためになされたものであり、その目的は、担子菌酵母の細胞外多糖類の生産を抑制することにより、大規模での異種タンパク質の生産において有用な遺伝子組換え宿主を提供することにある。 本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、担子菌酵母の一種であるクリプトコッカス属に分類されるクリプトコッカスsp.S−2株から自然変異体を単離することにより、この微生物の細胞外多糖類の生産性を親株より大幅に低下させた変異体菌株を取得することに成功した。 本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(2)から構成されるものである。(1)細胞外多糖類の生産が親株と比較して抑制されていることを特徴とするクリプトコッカス(Cryprococcus)sp.S−2 D11菌株(FERM BP−11482)。(2)標的タンパク質を生産するための方法であって、(1)に記載の菌株に標的タンパク質の遺伝子を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、得られた培養物から標的タンパク質を採取する工程を含むことを特徴とする方法。 本発明の変異体菌株は、タンパク質の分離精製の妨げとなる細胞外多糖類の生産が親株と比較して著しく抑制されているので、タンパク質の分離不良や限外ろ過膜の目詰まりが起こりにくく、大規模での異種タンパク質の組換え生産のための宿主として使用した場合も、タンパク質を効率良く精製することができる。 本発明の変異体菌株は、クリプトコッカス属の担子菌酵母から自然変異により得られたものであり、細胞外多糖類の生産が従来のものから大幅に抑制されている特徴を持つため、多糖類によって培養液の粘性が有意に上昇することがなく、大規模での異種タンパク質の生産宿主として極めて好適である。 本発明の変異体菌株の親株は、クリプトコッカスsp.S−2株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−10961として平成7年9月5日に国際寄託済)から自然変異及び分子生物学的変異導入により得られた株である。具体的には、本発明の変異体菌株の親株は、クリプトコッカスsp.S−2株のUV照射による自然変異により得られたウラシル要求性株(U5株)を、分子生物学的手法により特定の遺伝子(Phosphoribosyl−aminoimidazole synthetaseをコードするAde1遺伝子)を破壊することにより、ウラシル及びアデニン要求性とした株である。クリプトコッカスsp.S−2株は、異種タンパク質を大量に生産して細胞外に分泌する能力を有することが期待されている菌株である。本発明の変異体の親株は、クリプトコッカスsp.S−2株の上述の有用な特性に加えてウラシル及びアデニン要求性を有するため、外来遺伝子を導入された形質転換体の選抜を効率的に行うことができる。 本発明の変異体菌株は、実施例で示すように、この親株をUV照射により自然変異させ、得られた様々な変異体の細胞外多糖類生産量などを測定して親株と比較することによって選抜されたものであり、細胞外多糖類の生産が親株と比較して著しく抑制されているという特徴を有する。 本発明の変異体菌株において細胞外多糖類の生産が抑制される理由は、未だ明確ではないが、親株の細胞外多糖生産関連遺伝子に何らかの変異が導入されたか、又は細胞外多糖生産関連遺伝子の発現が何らかの方法により抑制されたためであると考えられる。 本発明の菌株は、2012年3月23日に日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)(現在は日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室(郵便番号292−0818)に移転)の独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−11482として国際寄託されている。 本発明の変異体の菌学的性質は、由来源のクリプトコッカスsp.S−2株と同一であると考えられ、以下の表1に示す通りである。 表1 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 発酵 − ジアゾニウムブルーB(DBB)カラーテスト + 尿素からのアンモニアの生成 + DNaseの分泌 + 核酸DNAのG+C含有量 67モル% 主要ユビキノン系 Q−10 炭素化合物の同化: D−グルコース + D−ガラクトース + L−ソルボース − D−グルコサミン − D−リボース + D−キシロース + L−アラビノース + D−アラビノース W L−ラムノース + スクロース + マルトース + トレハロース + ラクース + ラフィノース + セロビオース + メリビオース + イヌリン W でんぷん + エリスリトール + グリセロール − リビトール W キシリトール + D−グルクロン酸 + イノシトール + クエン酸 W エタノール − 窒素化合物の同化: 硝酸塩 − エチルアミン − カダベリン W グルコサミン − でんぷんの形成 − 37℃での増殖 − ――――――――――――――――――――――――――――――――― 注)表中、+は陽性を意味し、−は陰性を意味し、Wは弱いを意味する。 本発明の変異体菌株の培養方法は、由来源のクリプトコッカスsp.S−2株と同様であり、例えば実施例に記載のYM培地中で20〜25℃程度、pH3.0〜9.0程度の条件下で培養することができる。 本発明の変異体菌株は、細胞外多糖類の生産が抑制されているという特徴を活かして、異種タンパク質を組み換え生産するための、特に大規模で組み換え生産するための宿主として好適に利用することができる。従って、本発明によれば、標的タンパク質を生産するための方法であって、本発明の変異体菌株に標的タンパク質の遺伝子を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、得られた培養物から標的タンパク質を採取する工程を含むことを特徴とする方法が提供される。 本発明の変異体菌株への標的タンパク質の遺伝子の形質転換は、常法に従って行うことができる。得られた形質転換体の培養は、形質転換前の菌株と同様の培地及び培養条件下で行うことができる。培養中に、形質転換体は、組み込まれた標的タンパク質の遺伝子を発現し、標的タンパク質を生産して細胞外に分泌させる。培養時間は、条件によって多少異なるが、タンパク質が最高収量に達する時期を見計らって適当な時期に培養を終了すればよく、通常は60〜120時間程度である。培養後、得られた培養物から常法に従って標的タンパク質を採取することができる。本発明の変異体菌株を宿主として使用すると、細胞外多糖類の分泌量が大幅に少ないため、培養物の粘性が上昇することはなく、たとえ大規模であっても標的タンパク質の分離精製を容易にかつ効率的に行うことができる。 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は、特に断りがない限り、「重量%」を意味する。1.クリプトコッカスsp.S―2株のUV変異処理 親株として、クリプトコッカスsp.S―2 A1U5株(非特許文献3に示されるウラシル要求性株(U5株)から、分子生物学的手法により、Phosphoribosyl−aminoimidazole synthetaseをコードするAde1遺伝子を破壊することにより、ウラシル及びアデニン要求性とした株)を使用し、この株のUV変異処理により、変異体を発生させた。具体的には、この株の菌体をYM培地(0.3%Yeast extract(Difco社製)、0.3%Malt extract(Difco社製)、0.5%Peptone(Difco社製)、1.0%Glucose(ナカライテスク社製))に1白金耳植菌し、25℃で2日間振とう培養を行った。次に、培養液を滅菌水で段階希釈し、希釈した培養液0.1mlをYM寒天培地(0.3%Yeast extract(Difco社製)、0.3%Malt extract(Difco社製)、0.5%Peptone(Difco社製)、1.0%Glucose(ナカライテスク社製)、1.5%寒天粉末(ナカライテスク社製))に塗布植菌した。次に、この植菌培地を殺菌灯GL−15(Panasonic社製)の光源から約30cm離れた位置に配置して10分間UVを照射し、その後、25℃で3日間静置培養を行った。生育した菌株を植え継ぎ、約500株の変異体を得た。2.クリプトコッカスsp.S2株のUV変異体株の選抜1.で得た変異体約500株をYX培地(2%Yeast extract(Difco社製)、5%Xylose(ナカライテスク社製))に植菌し、25℃で3日間振とう培養を行った。培養液上清0.5mlに冷エタノール5mlを加え、細胞外多糖類を沈殿させ、沈殿物量が親株と比較して低下した菌株を4株(D1株、D9株、D10株、D11株)選抜した。このうち、D11株が、本発明の変異体菌株である。次に、選抜した4株及び親株のA1U5株を100ml培養液(5%Yeast extract(Difco社製)、50%キシロース(3ml/L/hour))に添加し、3日間撹拌培養を行った。培養後、以下に示す手順で各菌株の細胞外多糖類生産量、キシラナーゼ生産量及び菌体量を測定した。細胞外多糖類生産量 培養後の培養液を遠心分離して得た上清0.5mlに冷エタノール5mlを加え、細胞外多糖類を沈殿させた。遠心分離して得た上清を除去した後、沈殿物を10mlの蒸留水で溶解した。得られた溶解液を使用して、フェノール硫酸法で、タンパク質あたりの糖含量を測定した。具体的には、溶解液0.5ml、5%(w/v)フェノール溶液と0.5ml、97%硫酸2.5mlを混合し、室温に冷却後、490nmにおける吸光度を測定した。0−200mg/LのD−マンノース標準液で検量線を作成し、溶解液中の糖含量を推定し、培養液中の糖含量を算出した。キシラナーゼ生産量 培養後の培養液を遠心分離して得た上清を使用して、SDS−PAGE分析を行い、キシラナーゼの生産量を確認した。SDS−PAGEのキットはNu−PAGE 4−12% Bis−Tris Gel(Invitrogen社製)を使用し、約20kDaの位置に出現するキシラナーゼのバンド強度をGel−pro Analyzer(日本ローパー社製)により算出し、キシラナーゼの生産量とした。菌体量 培養後の培養液の660nmにおける吸光度を分光吸光度計で測定し、菌体量とした。 各菌株の細胞外多糖類生産量、キシラナーゼ生産量、及び菌体量を比較した結果を表2に示す。 表2に示すように、親株のA1U5株が細胞外多糖類を4.85g/L生産しているのに対して、D11株の細胞外多糖類生産量は1.20g/Lであり、D11株は、細胞外多糖類生産が親株と比較して大幅に(約25%に)抑制されていた。また、D11株の菌体量及び、キシラナーゼ生産量は親株とほぼ同等であった。D11株以外の変異体株は、細胞外多糖類の生産の抑制度がD11株より劣っており、キシラナーゼ生産量も親株より劣っていた。また、D10株は、細胞外多糖類及びキシラナーゼ生産量だけでなく、菌体量の点でも劣っていた。 本結果から、D11株は、タンパク質の分離精製の妨げとなる細胞外多糖類の生産が大幅に抑制された変異体株であること、及びD11株は、親株と同等の菌体生育性及び細胞外タンパク質の生産性を有することが判明した。従って、D11株は、大規模の異種タンパク質の生産における発現宿主として、極めて有用であると考えられる。 本発明のクリプトコッカスsp.S2変異体菌株は、細胞外多糖類の生産が親株と比較して大幅に抑制された変異体であり、そのため、細胞外多糖類による培養液の粘度の上昇がなく、異種タンパク質を大規模に生産した場合であっても、培養液からの菌体除去やタンパク質精製の工程を効率良く行うことができる。従って、本発明の変異体菌株は、異種タンパク質を大規模に生産する場合の発現宿主として、極めて有用である。 細胞外多糖類の生産が親株と比較して抑制されていることを特徴とするクリプトコッカス(Cryprococcus)sp.S−2 D11菌株(FERM BP−11482)。 標的タンパク質を生産するための方法であって、請求項1に記載の菌株に標的タンパク質の遺伝子を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、得られた培養物から標的タンパク質を採取する工程を含むことを特徴とする方法。


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