タイトル: | 公開特許公報(A)_植物細胞壁肥厚促進剤及び植物細胞壁分解促進剤 |
出願番号: | 2014244940 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A01N 43/16,A01N 63/02,A01P 21/00,A01G 7/00,C12N 1/00,C12N 1/20,C13K 1/02 |
栗原 恵美子 栗原 志夫 松井 南 JP 2015129117 公開特許公報(A) 20150716 2014244940 20141203 植物細胞壁肥厚促進剤及び植物細胞壁分解促進剤 国立研究開発法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 島村 直己 100101904 栗原 恵美子 栗原 志夫 松井 南 JP 2013250966 20131204 A01N 43/16 20060101AFI20150619BHJP A01N 63/02 20060101ALI20150619BHJP A01P 21/00 20060101ALI20150619BHJP A01G 7/00 20060101ALI20150619BHJP C12N 1/00 20060101ALI20150619BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150619BHJP C13K 1/02 20060101ALI20150619BHJP JPA01N43/16 AA01N63/02 GA01P21/00A01G7/00 604ZC12N1/00 PC12N1/20 AC13K1/02 7 OL 13 特許法第30条第2項適用申請有り 研究集会名:日本植物学会第78回大会 開催日:平成26年9月12日〜14日 プログラム発行日:平成26年9月1日 開催場所:明治大学 生田キャンパス 公開者:栗原恵美子、栗原志夫、大谷美沙都、小林恵、永田典子、小松功典、菊地淳、掛川弘一、出村拓、松井南 2B022 4B065 4H011 2B022EA10 4B065AA50X 4B065AC14 4B065AC15 4B065BD44 4B065CA02 4B065CA05 4B065CA09 4B065CA10 4B065CA18 4B065CA53 4B065CA54 4H011AB03 4H011BB08 4H011BB21 本発明は、植物細胞壁肥厚促進剤及び植物細胞壁分解促進剤、並びにこれらを用いた、植物細胞壁肥厚の促進方法、植物バイオマス原料の製造方法及び植物バイオマスの分解・糖化方法に関する。 近年、化石資源の枯渇や地球温暖化問題の進行を解決するために、バイオエネルギーやバイオマテリアルを活用する社会への転換が試みられている。 陸上でもっとも豊富に存在するバイオマスは植物である。植物において細胞壁は細胞の形態維持などに主要な役割を果たすが、細胞壁にはセルロース、ヘミセルロースなどとしてバイオマス原料となる多糖が豊富に含まれており、バイオマス原料としても重要な構造物である。これらの多糖は最終的には糖に変換されて利用されるが、より効率的なバイオマス利用のために細胞壁を変化させる技術が望まれている。具体的には細胞壁自体の量を増産したり、あるいは構成を変える、糖化しやすい性質にするといった細胞壁の量的・質的な制御が可能な化合物が望まれている。 細胞壁はほぼ全ての原核生物と大部分の真核生物が保持しており、植物には例外なく存在する。植物の細胞壁の機能は、細胞の大きさや形状の決定及び植物体の構造的強度を高めるといったほかにも、細胞間の認識、細胞内外の物質交換、病虫害抵抗性等、種々の役割を持つことが明らかになっている。伸展成長中の細胞は一次細胞壁という薄い細胞壁からなり、成熟に伴い多くの細胞は数層の厚い二次細胞壁を形成する。植物体の構造的強度を付与するのは主に二次細胞壁である。 特許文献1には、サイトカイニンを有効成分とする、植物における木部の二次肥厚を促進させる二次肥厚促進剤が記載されているが、植物細胞壁の肥厚を起こさせる化学物質に関する報告はほとんどない。 ラサロシドA(ラサロシド)はStreptomyces属放線菌の培養により得られるポリエーテル系イオノフォアであり、根こぶ病害に対して防除効果を有することが知られているが(特許文献2)、植物細胞壁に対する作用は知られていない。ラサロシドAは、既に全合成もされている(非特許文献1)。 また、ラサロシドAには、ラサロシドAに複数存在するメチル基の1つがエチル基に置き換わった類縁体であるラサロシドB、ラサロシドC、ラサロシドD及びラサロシドEが存在し、これらの類縁体もStreptomyces属放線菌の培養により得られ、ラサロシドAと同等以上の抗菌活性を有することが知られている(非特許文献2)。特開2007−197355号公報特開2004−277370号公報Ireland R.E. et al., J. Am. Chem. Soc., 105, 1988-2006 (1983)Westley J.W. et al., Journal of Antibiotics, 27(10), 744-753 (1974). 本発明の課題は、化学物質によって植物細胞壁を変化させることである。 本発明の要旨は以下のとおりである。(1)ラサロシドAもしくはその塩、又はそれらを含有する、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物を含有する植物細胞壁肥厚促進剤。(2)次式(I):(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はC1−3アルキル基である。)で示される化合物又はその塩を含有する植物細胞壁肥厚促進剤。(3)ラサロシドAもしくはその塩、又はそれらを含有する、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物を含有する植物細胞壁分解促進剤。(4)前記(2)に記載の前記式(I)で示される化合物又はその塩を含有する植物細胞壁分解促進剤。(5)植物又はその組織もしくは細胞を前記(1)又は(2)に記載の植物細胞壁肥厚促進剤で処理することを含む植物細胞壁の肥厚を促進させる方法。(6)植物又はその組織もしくは細胞を前記(1)又は(2)に記載の植物細胞壁肥厚促進剤で処理することを含む植物バイオマス原料の製造方法。(7)植物又はその組織もしくは細胞を前記(3)又は(4)に記載の植物細胞壁分解促進剤で処理した後、セルロース分解酵素により分解・糖化を行うことを含む植物バイオマスの分解・糖化方法。 本発明によれば、化学物質によって植物細胞壁を変化させることができる。また、本発明の植物細胞壁分解促進剤によれば、植物細胞壁の分解効率を上げることにより、エタノールの生産性を向上させることができる。図1は試料をレーザ走査共焦点顕微鏡(LSM700;Carl Zeiss社製)で観察した結果を示す。図1において、BFは明視野観察法による結果を示し、Calcofluor (UV)は蛍光観察法(紫外線照射)による結果を示す。図2は試料を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す。図3は画像解析ソフトウエアを用いて細胞壁の厚さを測定した結果を示す。図4はTAIRのオンラインソフトウェアを用いて、gene ontology(GO)annotation analysisを行った結果を示す。図5は植物細胞壁の分解・糖化試験の結果を示す。 本発明に用いるラサロシドAは、次式(Ia):で示される化合物である。ラサロシドA及び前記式(I)で示される化合物の塩としては、製薬上許容可能な塩であればよく、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩;鉄、銅、亜鉛、マンガン等の重金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリミジン、ルチジン、コリジン、ヒドラジン、N−メチルグルカミン等のアンモニウム又はアミン塩;グアニジンとの塩等が挙げられる。 ラサロシドAはStreptomyces属放線菌の培養により得られる物質であり、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物もラサロシドA又はその塩を含有し、本発明の有効成分として用いることができる。 本発明に用いるStreptomyces属放線菌もしくはその変異株は、ラサロシドA生産能を有するものであれば制限はなく、例えば、Streptomyces lasaliensis 、特にStreptomyces lasaliensis ATCC 31180、Streptomyces lasaliensis NRRL 3382R、又はそれらの変異株が挙げられる。 前記の微生物を変異誘発させる方法は、突然変異を誘発するものであれば特に制限はない。例えば、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホネートなどの変異剤による化学的方法、紫外線照射、X線照射などの物理的方法、遺伝子組換え、トランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。この変異誘発処理は1回でもよいし、また、この変異誘発処理により得られた変異体を更に変異誘発処理するというように2回以上の変異処理を行ってもよい。 前記微生物を培養し、必要に応じて、当該培養物からラサロシドAを採取する方法は、概ねストレプトマイセス属に属する菌の培養方法に従って実施することができる。 まず、菌株を、放線菌が利用し得る栄養物を含有する培地で好気的に培養する。栄養源としては、従来放線菌の培養に利用されている公知のものを使用することができ、例えば炭素源として、グルコース、ガラクトース、ショ糖、グリセリン、水飴、デキストリン、でんぷん、糖蜜、動・植物油等が挙げられる。また、窒素源としては、大豆粉、小麦、小麦胚芽、コーンスティープ・リカー、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素等を単独又は組み合わせて用いることができる。また、必要に応じて、ナトリウム、コバルト、塩素、硫酸、燐酸、及びその他のイオンを生成することのできる無機塩類を添加してもよい。更に、菌の生育を助け、ラサロシドAの生産を促進するような有機又は無機物を適宜添加することができる。 培養法としては、特に制限はないが、液体培養法が好ましい。培養に適当な温度は15〜37℃であるが、多くの場合、26〜30℃付近で培養する。ラサロシドAの生産は、培地や培養条件により異なるが、振盪培養、タンク培養とも通常1〜10日の間でその蓄積が最高に達する。培養物中のラサロシドAの蓄積量が最高になった時点で、培養を停止し、必要に応じて培養物から目的物質を採取する。 本発明においては、目的に応じて、培養液、その乾燥物などの培養物、又は培養液から微生物菌体を除去した後、乾燥したもの、培養液から微生物菌体を除去した液などの処理物を適宜用いることができる。 培養終了後、培養物からラサロシドAを精製、単離するには、一般に微生物代謝産物を採取するのに通常用いられる手段を適宜利用して行うことができる。例えば、各種イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、あるいは結晶化、溶媒抽出、減圧濃縮、凍結乾燥などの手段をそれぞれ単独又は適宜組み合わせて、又は反復して使用することが可能である。これらの精製物も本発明の処理物に包含される。 ラサロシドAは、有機溶媒に可溶で、水に不溶の物質である。したがって、抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、脂肪酸グリセリンエステル等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキサイド等が用いられる。これらは1種又は2種類以上を適当な割合で混合して適宜使用することができる。また、前記溶媒、例えばメタノールに酢酸等の他の溶媒を少量混合した混合溶媒も使用することができる。 ラサロシドAには、ラサロシドAに複数存在するメチル基の1つがエチル基に置き換わった類縁体であるラサロシドB、ラサロシドC、ラサロシドD及びラサロシドEが存在し、これらの類縁体もStreptomyces属放線菌の培養により得られ、ラサロシドAと同等以上の抗菌活性を有することが知られている(非特許文献4)。更に、ラサロシドAの合成法も知られている。 したがって、次式(I):(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はC1−3アルキル基である。)で示される化合物も本発明の有効成分として用いることができる。 前記式(I)においてR1、R2、R3又はR4で表されるC1−3アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びシクロプロピル基が挙げられる。 前記式(I)において、R1、R2、R3及びR4がメチル基である化合物がラサロシドA、R2、R3及びR4がメチル基、R1がエチル基である化合物がラサロシドB、R1、R3及びR4がメチル基、R2がエチル基である化合物がラサロシドC、R1、R2及びR4がメチル基、R3がエチル基である化合物がラサロシドD、R1、R2及びR3がメチル基、R4がエチル基である化合物がラサロシドEである。 前記式(I)で示される化合物は、公知の方法に準じて、例えば、以下のようにして、アルデヒド化合物(II)とケトン化合物(III)の亜鉛エノラートとをアルドール縮合させた後、脱ベンジル化することにより合成することができる。(式中、Bnはベンジル基であり、R1、R2、R3及びR4は前記と同義である。) 本発明の植物細胞壁肥厚促進剤で植物又はその組織もしくは細胞を処理することにより、植物細胞壁の肥厚が促進される。 本発明の植物細胞壁分解促進剤で植物又はその組織もしくは細胞を処理した後、セルロース分解酵素により分解・糖化を行うことにより、植物細胞壁の分解効率が上がり、エタノールの生産性を向上させることができる。 本発明を適用可能な植物は、双子葉植物、単子葉植物、裸子植物、樹木などの植物を含む。例えば、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、ブナ科、ユリ科、アカザ科、フトモモ科、ヤナギ科、ヤシ科などを作出対象とすることができる。より具体的には、シロイヌナズナ、西洋アブラナ、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、ハクサイ、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、ダイズ、トマト、ナス、ジャガイモ、ネギ、タマネギ、ニンニク、ホウレンソウ、サトウキビ、ユーカリ、ポプラ、ヤトロファ、アブラヤシ、ワサビ、ニラなどが例示される。 本発明の植物細胞壁肥厚促進剤及び植物細胞壁分解促進剤は、有効成分に、何らの成分も加えずに施用してもよいが、使用目的によって適当な液体担体又は溶媒に溶解又は分散させ、また適当な固体担体と混合又は吸着させ、更に補助剤を加えた乳剤、油剤、水性懸濁剤、エマルジョン、液剤、水和剤、粉剤、粒剤、フロアブル剤等の剤形として使用することが好ましい。 適当な液体担体としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ケロシン、灯油、機械油、食用油等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、脂肪酸グリセリンエステル等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等が用いられる。これらは1種又は2種類以上を適当な割合で混合して適宜使用することができる。 固体担体としては、例えば、米糠、ふすま、大豆粉、小麦粉、木粉等の植物粉末;カオリン、ベントナイト、酸性白土等のクレー類;滑石粉、ロウ石粉等のタルク類;珪藻土、雲母粉、バーミキュライト等のシリカ類の鉱物性粉末;ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、活性炭等が用いられる。これらは1種又は2種類以上を適当な割合で混合して適宜使用することができる。 本発明の植物細胞壁肥厚促進剤は、例えば、二次肥厚を促進させたい器官に作用させるように直接投与することで使用できる。具体的には、根や地下茎の場合、本発明の植物細胞壁肥厚促進剤を培地や土壌に含ませて使用でき、また、地上茎や幹の場合、直接本発明の植物細胞壁肥厚促進剤を散布・塗布したり、本発明の植物細胞壁肥厚促進剤を浸み込ませた布などで前記茎や幹を包み込んだりして使用できる。 本発明の植物細胞壁肥厚促進剤を溶液の剤形で使用する場合、ラサロシドA又は前記式(I)で示される化合物の含有量は、適用する植物に応じて適宜調節できるが、通常0.01〜150,000mg/L、好ましくは0.05〜150,000mg/Lである。 本発明の植物細胞壁肥厚促進剤で植物又はその組織もしくは細胞を処理することにより、植物細胞壁の肥厚が促進される。植物細胞壁の肥厚が促進された植物又はその組織もしくは細胞からセルロース系成分を回収することにより、植物バイオマス原料を得ることができる。 セルロース系成分は、植物細胞壁の主要構成成分であり、セルロース及び/又はヘミセルロースからなるセルロース系多糖類を指し、本明細書で「セルロース系成分」というときには、セルロースを主成分(例えば、50%以上、60%以上、70%以上など)とする。草本植物であれば、植物体を乾燥することによりセルロース系成分を回収することができる。樹木であれば、チップに粉砕し、リグニンの除去処理(蒸解)をした後、セルロース系成分を回収することができる。 セルロース系成分は、糖類の製造、バイオエタノールの製造などの原料として利用することができる。 本発明の植物細胞壁分解促進剤は、例えば、培地や土壌に添加して植物又はその組織もしくは細胞を培養・栽培した後、セルロース分解酵素により分解・糖化を行うことにより、植物細胞壁の分解効率が上がり、エタノールの生産性を向上させることができる。 前記セルロース分解酵素としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルカナーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、アミラーゼ、メイセラーゼ、アクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。 前記セルロース分解酵素の添加量としては、例えばバイオマス100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.3〜5質量部である。 なお、セルロース分解酵素を混合物に添加後、撹拌し、糖化を進めることが好ましい。撹拌時間は、例えば1〜24時間である。 この糖化工程における混合物の温度としては、酵素の種類等によって適宜設定することができるが、例えば30〜70℃であり、好ましくは40〜60℃である。 また、この糖化工程における混合物のpHも、酵素の種類等によって適宜調整すればよく、例えばpH4.5〜7.5とすることが好ましい。このpH調整は、公知の酸又は塩基の混合物への添加により行うことができる。 植物バイオマスに共存するリグニンが酵素分解を阻害することから反応前にリグニンを除去する必要があり、これまで強酸・高圧反応又はリグニン分解酵素による原料バイオマスの前処理を行うことが一般的であったが、環境面やコスト面などで問題があった。前記のように、本発明の植物細胞壁分解促進剤の存在下で植物又はその組織もしくは細胞を培養・栽培することにより、前記のような前処理をせずに、セルロースの分解率を上げ、エタノールの生産性を向上させることができる。 以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。[実施例1](1)植物細胞の培養 植物培養細胞株として、世界中で最も広く用いられているものであり、最も増殖速度が速いこと、大量培養を容易に行うことができるという理由から、本実施例では、植物細胞としてタバコBY−2細胞(Nicotiana tobacum L. cv. Bright Yellow 2)(Nagata, T., Nemoto, Y. and Hasezawa, S. (1992) Tobacco BY-2 cell line as the ‘HeLa’ cell in the cell biology of higher plants. Int. Rev. Cytol. 132: 1-30)を採用した。 前記文献の記載に従って、タバコBY−2細胞を改変Linsmaier-Skoog培地中、暗黒条件下、27℃、130rpmで継続的に振盪しながら、培養細胞を増殖させた。培養細胞は、7日毎に1:95に希釈し新鮮培地で継代培養し維持した。(2)ラサロシド処理 タバコBY−2細胞を希釈した翌日に、ラサロシドAナトリウム(BioAustralis Fine Chemicals社製)をタバコBY−2細胞の培養液に終濃度0μM、0.1μM、0.25μM又は1.0μMで加えた(ラサロシドAナトリウムはDMSOに溶解した。)。48時間培養した後、タバコBY−2細胞を0.001%カルコフロールホワイト(calcofluor white; BD, New Jersey, USA)で20分間染色した。(カルコフロールホワイト(calcofluor white)はセルロース又はキチンを含む構造と強く結合する蛍光染色剤である。)染色後、試料をレーザ走査共焦点顕微鏡(LSM700;Carl Zeiss社製)で観察した。 結果を図1に示す。ラサロシドAナトリウムは濃度依存的に植物細胞壁を肥厚させた。[実施例2] タバコBY−2細胞を希釈した翌日に、ラサロシドAナトリウム(BioAustralis Fine Chemicals社製)をタバコBY−2細胞の培養液に終濃度0μM、0.1μM又は1.0μMで加えて48時間培養した(ラサロシドAナトリウムはDMSOに溶解した。)。 透過電子顕微鏡法(TEM)観察のために、試料を20mMカコジル酸ナトリウムで緩衝化された2%のグルタルアルデヒドで固定(pH7.0、20時間、4℃)し、同緩衝液で洗浄した(2時間、4℃)。次いで、試料を20mMカコジル酸ナトリウム緩衝液中の2%四酸化オスミウムで後固定を2時間4℃で行った。固定された試料を一連の濃度のアルコールで脱水し、Spurr樹脂中に埋包した。Ultracut E ウルトラミクロトーム・ダイヤモンドナイフ(Leica, Wien, Austria)を使用して、70nm程の超薄切片を作製し、Formvar被覆のグリッドに置いた。次いで、1%酢酸ウラニル溶液で20分間、クエン酸鉛溶液で15分間処理して二重染色を行った。試料を蒸留水で洗浄後、透過型電子顕微鏡JEM-1200 EX(日本電子株式会社)で観察した。 結果を図2に示す。 また、画像解析ソフトウエア(ImageJ software, National Institutes of Health, MD, USA)を用いて細胞壁の厚さを測定した結果を図3に示す。[実施例3] 植物材料としては、全ゲノム解読が終了しており、モデル生物としての利点を多く備えているため、研究材料として利用しやすいという理由から、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana (L.) Heynhold, Col-0 ecotype;野生型)を用いた。 0.025%TritonX−100、5%NaClOからなる滅菌溶液で種子の表面を殺菌し、滅菌水で洗浄後、種子を暗黒条件下で4℃、4日間インキュベートして休眠打破させた。休眠打破させた種子を発芽培地(MS無機塩類、Gamborgビタミン類、1%ショ糖、0.8%寒天、pH5.8)に移して、暗黒条件下で22℃、3日間インキュベートした。発芽した子葉を、ラサロシドAナトリウムを含有しない、又は1μMラサロシドAナトリウムを含有する液体溶液(MS無機塩類、1%ショ糖、pH5.8)に入れ、暗黒条件下で22℃、24時間インキュベートした。次いで、子葉を採取し、Plant RNeasy Mini Kit (QIAGEN社製) を用いて全RNAを抽出した。全RNA1μgを、Quick Amp Labelling Kit及びRNA Spike-In Kit(Agilent Technologies社製)を用いて、添付のプロトコールに従いCy3ラベル化反応に付した。Cy3でラベル化したcRNAを、ArabidopsisオリゴDNAマイクロアレイVer.4.0(Agilent Technologies社製)で、添付のプロトコールに従いハイブリダイズした。 TAIR(テア;The Arabidopsis Information Resource;シロイヌナズナのゲノム、遺伝子、分子生物学的データを収集したデータベース;http://www.arabidopsis.org/tools/bulk/go/index.jsp)のオンラインソフトウェアを用いて、gene ontology(GO)annotation analysisを行った。 結果を図4に示す。図4において、横軸はタンパク質の細胞内局在の分類を表し、縦軸は遺伝子数の割合を表す。図4における左右1対のカラムのうち、左側の(色が薄い)カラムはタンパク質をコードする全遺伝子群を表し、右側の(色が濃い)カラムはラサロシドAナトリウムの添加によって発現が二倍以上になった遺伝子群を表す。この棒グラフは、発現量ではなく、発現量が二倍になった遺伝子群を、その役割を発揮する細胞内器官ごとに分類したものを全総数で割ったものである。例えば、Aという遺伝子が細胞質基質(cytosol)に分類されれば、細胞質基質(cytosol)に一つ加えられ、一方、B遺伝子が細胞壁(cell wall)と小胞体(ER)の両方で機能すれば、その両方に二回分類される。 ラサロシドAナトリウムの使用により、細胞壁蛋白質をコードする遺伝子の割合が増加した。[実施例4] タバコBY−2細胞を希釈した翌日に、タバコBY−2細胞の培養液にラサロシドAナトリウム(BioAustralis Fine Chemicals社製)を1.0μM加えて48時間培養した(ラサロシドAナトリウムはDMSOに溶解した。)。ラサロシドAナトリウムを含有しないDMSOを添加して同様の培養を行ったものを対照群とした。 培養後、回収した細胞についてリン酸バッファー(pH7.0)抽出、クロロホルム/エタノール混合液(1:1)抽出、フェノール/酢酸/水混合液(2:1:1)抽出を順次行い、得られた沈殿をエタノール及び水で洗浄した後、アミラーゼ処理(0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)20ml、4mg/mlアミラーゼ2ml、0.2%Na−アザイド1mlを混ぜて得られた酵素液中で25℃、48時間処理)を行い、細胞壁画分を得た。得られた細胞壁画分をボールミルで粉砕後、水及びメタノールでそれぞれ3回洗浄した後、以下の条件でアミラーゼ処理及び糖化酵素処理を行った。(アミラーゼ処理)アミラーゼ:α−アミラーゼ(Aspergillus oryzae)SIGMA A6211反応時間:25℃、48時間酵素添加量:全量460μlの反応液中に4mg/mlのα−アミラーゼを40μl添加処理時のpH:pH7.0のバッファー中で処理(糖化酵素処理)(a) Cellulase from Trichoderma reesei ATCC 26921(C2730 SIGMA)(b) Cellobiase from Aspergillus niger(C6105 SIGMA)酵素添加量:(a)と(b)を5:1量で混ぜて1mg/mlに調製したものを、1mlの酵素反応液に100μl添加(終濃度0.1mg/ml)反応時間:45℃、0、3、6、24時間で測定処理時のpH:pH5.0のバッファー中で処理 糖化効率を測定した結果を図5に示す。図5から、ラサロシドAナトリウムで処理することにより、糖化効率が上昇することがわかる。 ラサロシドAもしくはその塩、又はそれらを含有する、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物を含有する植物細胞壁肥厚促進剤。 次式(I):(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はC1−3アルキル基である。)で示される化合物又はその塩を含有する植物細胞壁肥厚促進剤。 ラサロシドAもしくはその塩、又はそれらを含有する、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物を含有する植物細胞壁分解促進剤。 請求項2記載の前記式(I)で示される化合物又はその塩を含有する植物細胞壁分解促進剤。 植物又はその組織もしくは細胞を請求項1又は2記載の植物細胞壁肥厚促進剤で処理することを含む植物細胞壁の肥厚を促進させる方法。 植物又はその組織もしくは細胞を請求項1又は2記載の植物細胞壁肥厚促進剤で処理することを含む植物バイオマス原料の製造方法。 植物又はその組織もしくは細胞を請求項3又は4記載の植物細胞壁分解促進剤で処理した後、セルロース分解酵素により分解・糖化を行うことを含む植物バイオマスの分解・糖化方法。 【課題】化学物質によって植物細胞壁を変化させる。【解決手段】ラサロシドAもしくはその塩、又はそれらを含有する、Streptomyces属放線菌もしくはその変異株の培養物又はその処理物、又は次式(I):【化1】(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はC1−3アルキル基である。)で示される化合物又はその塩を含有する植物細胞壁肥厚促進剤及び植物細胞壁分解促進剤。【選択図】なし