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タイトル:公開特許公報(A)_抗血栓組成物
出願番号:2014180478
年次:2015
IPC分類:A61K 36/06,A61P 7/02,C12N 1/00,C12N 1/14


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脇本 真之介 新谷 美奈子 武島 一仁 山下 裕輔 渡部 和哉 JP 2015071595 公開特許公報(A) 20150416 2014180478 20140904 抗血栓組成物 ワキ製薬株式会社 509304933 株式会社ファーマフーズ 500101243 特許業務法人R&C 110001818 脇本 真之介 新谷 美奈子 武島 一仁 山下 裕輔 渡部 和哉 JP 2013184224 20130905 A61K 36/06 20060101AFI20150320BHJP A61P 7/02 20060101ALI20150320BHJP C12N 1/00 20060101ALN20150320BHJP C12N 1/14 20060101ALN20150320BHJP JPA61K35/70A61P7/02C12N1/00 PC12N1/14 A 7 OL 16 特許法第30条第2項適用申請有り 掲載年月日 平成26年3月5日 掲載資料名 日本農芸化学会2014年度大会講演要旨集(オンライン) 掲載アドレス https://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2014/download_pdf_pkg.php?pkg_id=29_1400 [刊行物等]集会名 日本農芸化学会2014年度大会 開催場所 明治大学生田キャンパス(神奈川県川崎市多摩区東三田1‐1‐1) 開催日 平成26年3月29日 [刊行物等]発行者名 一般社団法人 日本血栓止血学会 刊行物名 日本血栓止血学会誌 第25巻2号、第312頁(第36回日本血栓止血学会学術集会プログラム・抄録集) 発行年月日 平成26年4月1日 [刊行物等]集会名 第36回日本血栓止血学会学術集会 開催場所 大阪国際交流センター(大阪府大阪市天王寺区上本町8‐2‐6) 開催日 平成26年5月29日 4B065 4C087 4B065AA60X 4B065AA63X 4B065BC31 4B065BC36 4B065BC38 4B065BD05 4B065BD10 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA03 4C087BC06 4C087MA43 4C087MA52 4C087NA10 4C087NA14 4C087ZA54 本発明は、血栓溶解活性を有する抗血栓組成物に関する。 血栓は、主に血管壁が傷害されることにより血管内の血液が塊を形成したものであり、血小板やフィブリンがその形成に関与している。血栓は、通常、血管壁の傷害された部位が修復されるまで当該部位を保護して止血を行う。形成された血栓は、傷害された血管壁の部位が修復され、止血が完了すれば線溶作用によって溶解する。しかし、この線溶作用が働かずに血栓が肥厚し血管を塞ぐことにより、血栓が出来た下流の部位で組織の懐死や梗塞が引き起こされる血栓症の原因となる。 血栓を原因とする血栓症は、例えば脳梗塞、動脈血栓症、静脈血栓症、静脈血栓症、心筋梗塞、静脈血栓症などが知られている。例えば心筋梗塞は突然死の原因となることが多いため、血栓症の発症を予防することが重要である。 血栓の溶解は、フィブリンやフィブリノーゲンを分解するプラスミンが関与している。プラスミンは通常、前駆体であるプラスミノーゲンの形で血漿に含まれており、プラスミノーゲン活性化因子によって活性化される。 臨床においては、脳梗塞、心筋梗塞等の血栓症の治療には、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)や、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)等が使用されている。tPAやuPAは高価であり、投与は注射によって行われる。 一方、血栓溶解活性を有する組成物で、例えば経口投与で日常的に摂取できる態様であれば、手軽に血栓症の発症を予防することができると考えられる。例えば特許文献1には、ミミズ(例えばアカミミズ〔Lumbricus rubellus〕)の乾燥粉末を血栓症治療剤として経口投与したことが記載されている。 血栓溶解に有効な活性物質は、ミミズの体壁、消化管、血管、腹神経索、隔膜などの組織や、血液、消化液、体腔液などの体液に多く含まれ、活性物質の化学成分は、ペプチド、糖質ペプチド、金属ペプチド、低分子量タンパク分解酵素、核酸、核酸様物質、糖質、脂質のいずれかであると考えられることが記載されている。 ミミズの乾燥粉末は、このような活性物質の薬理作用を損なわず、かつ当該活性物質のインヒビターが失活する条件下でミミズ生体の粉末化を行うことにより製造される。当該乾燥粉末は、経口投与用の剤形として、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤(粉剤)、コーティング剤、糖衣剤、乳剤などに製剤される。 当該ミミズ乾燥粉末の投与により、フィブリンが溶解すると同時に、血液凝固能力の増大、線溶作用の著しい低下などに起因する血管壁の代謝障害や血栓症の症状が改善されていることが示されている。特許第3037355号 経口投与で日常的に摂取できる組成物としては、安価で入手でき、安全性が高く、例えばカプセル化した薬剤や、顆粒状の食品の態様とすればよい。しかし、現代の食文化においてミミズは馴染みが薄いため、当該組成物がミミズ由来であると、消費者によっては、経口摂取するには少なからず抵抗があると考えられる。 従って、本発明の目的は、大量生産が可能であり、経口摂取で安全性が高く、現代の食文化において馴染みのあるものを処理して得られた抗血栓組成物を提供することにある。 上記目的を達成するため、以下の[1]〜[7]に示す発明を提供する。[1]血栓溶解活性を有し、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌の処理物を有効成分として含有する抗血栓組成物。[2]前記麹菌が、アスペルギルス・オリゼーまたはアスペルギルス・ソーヤである上記[1]に記載の抗血栓組成物。[3]前記麹菌の培養を固体培養とした上記[1]または[2]に記載の抗血栓組成物。[4]前記固体培養時の水分量を40〜65%とした上記[3]に記載の抗血栓組成物。[5]前記麹菌の処理物が乾燥粉末である上記[1]〜[4]の何れか一項に記載の抗血栓組成物。[6]医薬上許容される添加剤を含有する上記[1]〜[5]の何れか一項に記載の抗血栓組成物。[7]経口投与される上記[1]〜[6]の何れか一項に記載の抗血栓組成物。 本発明の抗血栓組成物は、血栓溶解活性を有する。血栓溶解活性は、血栓に対する線溶作用を有するものであり、具体的には、フィブリンやフィブリノーゲンを分解するプラスミン活性を活性化して血栓を溶解する能力である。後述の実施例においては、本発明の麹菌の処理物をin vivo投与することで、濃度依存的に有意な血栓重量低下効果が確認されている。そのため、本発明の抗血栓組成物は、血栓性疾患に対して、優れた予防、改善及び治療効果が期待できる。 また、本発明の抗血栓組成物は、血栓溶解作用を有するうえ、現代の食文化において馴染みがあり、食経験のある醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌の処理物(麹菌または麹を処理することによって得られる)を有効成分として含むものであり、安全性が高く、かつ抵抗感なく経口摂取することができる。本発明の抗血栓組成物は、上述した一般的な食品の製造に供される麹菌を由来としており、入手および培養などの取り扱いが容易であるため、大量生産を容易に行うことができる。麹菌としては、特にアスペルギルス・オリゼーまたはアスペルギルス・ソーヤが好適に利用できる。 後述の実施例3に示したように、麹菌の培養を固体培養とすることで、顕著にプラスミン様総活性が高い麹菌の処理物が得られるものと認められた。さらに、後述の実施例4に示したように、固体培養時の水分量を40〜65%とすることで、顕著に高いプラスミン様活性を有するものと認められた。 また、有効成分として含まれる当該麹菌の処理物は、高温処理や凍結乾燥処理をした後でも血栓溶解活性を保持することから、医薬品・食品・飼料などの加工処理に適している。この麹菌の処理物を乾燥粉末とすることで、取り扱いが容易で流通し易くなり、用途に応じて、カプセル剤や錠剤などの種々の形態に加工し易い態様となる。さらに、麹菌の処理物は、添加しても食品自体の食味や風味に影響を殆ど与えないため、種々の食品に添加して継続的に長期に亘って摂取することができる。 また、本発明の抗血栓組成物は、医薬上許容される様々な添加剤を含有することで、種々の態様で医薬品・食品・飼料等として供することができる。麹の製造方法を示す流れ図である。麹菌の処理物の製造方法を示す流れ図である。合成基質法によってプラスミン様活性を評価した結果を示したグラフである。固体培養乾燥粉末および液体培養乾燥粉末のプラスミン様総活性を比較したグラフである。植菌時のフスマ中の水分量を種々変更してプラスミン様活性の評価を行った結果を示したグラフである。本発明の抗血栓組成物をin vivo投与した後の血栓重量低下効果を確認した結果の写真図である。実施例6において各群のFDP量を測定した結果を示した図である。 以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。 本発明の抗血栓組成物は、血栓溶解活性を有し、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌の処理物を有効成分として含有する。 麹菌は、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供されるものであれば公知の麹菌を使用することができる。このような麹菌は、例えば、蒸煮した穀類、豆類、イモ類などの原料を醗酵し、デンプンをブドウ糖に分解する性質、或いは、タンパク質をアミノ酸に分解する性質を有する糸状菌であればよい。当該糸状菌は、具体的にはアスペルギルス属に属する糸状菌であり、より具体的には、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)などが挙げられる。 血栓溶解活性を有するアスペルギルス・オリゼーとしては、例えば、醤油製造用として株式会社菱六より供される「醤油旭菌」、「醤油エナジー」、「亀甲菌」等が挙げられ、味噌製造用として株式会社菱六より供される「SR108」、「改良長白菌」、「長白菌」、「米用新菌」、「米赤用菌」、「金山寺」、「麦赤」および株式会社樋口松之介商店より供される「白菊」、「白もやし」、「米麹用特別品」、「別撰味噌用」等が挙げられ、日本酒製造用として株式会社菱六より供される「A−27」、「白夜」、「瑞穂」等が挙げられ、味醂製造用として株式会社菱六より供される「ミリン」、「ミリンライト」等が挙げられる。 また、血栓溶解活性を有するアスペルギルス・ソーヤとしては、例えば、醤油製造用として、株式会社菱六より供される「ソーヤ」等が挙げられる。 本発明においては、上述した菌株の変異株又は派生株であってもよく、血栓溶解活性を有する限り使用することができる。 本発明において使用する麹菌は、当該麹菌の固体培養に通常用いられる蒸煮した原料を使用して、適当な条件下で固体培養することにより調製することができる。原料としては、穀物として米、麦(大麦、小麦、ライ麦及びオート麦)など、豆類として大豆など、イモ類としてサツマイモなど、当該麹菌が効率よく生育する原料であればどのような原料でも用いることができる。これら原料は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。 培養後、得られた麹菌培養物をそのまま使用してもよいし、さらに必要に応じて遠心分離などによる粗精製、濾過等による固液分離、滅菌操作などを行ってもよい。本発明の抗血栓組成物に使用する麹菌は、生菌体、死菌体、湿潤菌体、乾燥菌体の何れであってもよい。また、麹菌は、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。 本発明においては、上述のように調製された麹菌を用いて、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの通常の製造工程に従って製麹することにより得られる麹を用いて、麹菌の処理物を得ることが可能である。例えば、公知の手法により加水(加水工程)して加圧蒸煮(殺菌工程)した穀物原料に上述のように調製した麹菌を種麹として接種(植菌工程)して十分に攪拌混合し、約20〜45℃の範囲で送風、攪拌、静置を繰り返して培養(培養工程)し、麹を得ることができる(図1)。 穀物原料としては、全植物体を使用してもよいし、その植物の花、茎、葉、種子、根、胚芽、糠、フスマなどの各部位を使用してもよい。特に、搗精した麦、麦胚芽及び麦フスマ、精米した米及び米胚芽を単独で又は適宜組み合わせて使用するとよい。穀物原料は、蒸煮処理や、粉砕・破砕処理を行うことによって、効率的に製麹することができるが、そのまま製麹に使用してもよい。加水工程では、穀物原料の水分量が40〜65%、好ましくは45〜65%、さらに好ましくは45〜55%程度となるように加水を行えばよい。また、殺菌工程では、公知の条件(例えば121℃、10分)で加圧蒸煮すればよい。 種麹として使用する麹菌は、例えば胞子形態、上述した麹菌培養物の形態、これらを凍結乾燥した形態などを使用することができるが、このような態様に限定されるものではない。 製麹は、麹菌と穀物原料とを接触させることで行うことができる(固体培養)。植菌工程において穀物原料と接触させる麹菌の量は、通常、穀物原料に対して乾燥麹菌粉末が0.001〜10質量%程度となるようにするのがよいが、これに限定されるものではない。培養工程において、製麹を行う際の温度、pH、時間などは公知の条件で行えばよく、例えば20〜50℃、pH5〜8程度で1〜10日間かけて行うとよい。培養工程の後、例えば通風乾燥などによって培養物を40〜45℃程度で1日程度乾燥させる(乾燥工程)。 本発明において、麹菌の処理物は、以下のようにして得ることができる(図2)。当該麹菌の処理物は、麹菌または麹を処理することによって得られる。 まず、麹菌または麹を、適当な水性溶媒又は有機溶媒を用いて抽出することによって抽出液を得ることができる(抽出工程)。このとき抽出方法としては、水性溶媒又は有機溶媒を抽出溶媒として用いる方法であれば公知の手法で行うことができる。例えば、上記の麹菌若しくは麹を、水性(例えば水)又は有機溶媒(例えばメタノール、エタノール)中に浸漬、攪拌又は還流することにより、抽出液を得ることができる。麹菌または麹に加える溶媒の量は、5〜20倍程度とするのがよい。抽出工程では、溶媒を加えた麹菌または麹に対して加熱処理を行う。加熱処理は、例えば30分〜3時間にわたり、例えば25〜35℃で加熱する。 加熱処理後の中間処理物は、公知の手法によって固液分離する(濾過工程)。当該手法は、スクリューデカンタ、遠心分離機、圧搾ろ過機、フィルタープレスなどを用いて固液分離する態様であれば、特に限定されるものではない。固液分離後の中間処理物は、適切な濃度になるまで濃縮するとよい(濃縮工程)。この濃縮は、例えば煮沸濃縮、真空濃縮、凍結濃縮、膜濃縮などの公知の手法を用いるとよい。 濃縮後の中間処理物に対して除菌処理を行う(除菌工程)。当該除菌処理は、例えば濾過滅菌、放射性殺菌(γ線殺菌など)、加熱式殺菌、加圧式殺菌などの公知の滅菌処理を行うとよい。 滅菌処理後の中間処理物に対して噴霧乾燥処理を行う(噴霧乾燥工程)。当該噴霧乾燥処理では、得られた中間処理物を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉末を製造する。乾燥粉体を製造する手法は、噴霧乾燥の他、ドラム乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。このとき、必要に応じて通常用いられるデキストリンなどの賦形剤を添加してもよい。また、乾燥後に例えば粉砕機を使用して粉末化してもよい。 乾燥粉末化した麹菌の処理物は、公知の手法によって篩処理および除鉄処理を行うとよい(篩・除鉄工程)。篩処理に使用する篩サイズは、例えば40〜50メッシュとし、除鉄処理は、処理される乾燥粉体が、均一に磁化スクリーンを通過して除鉄処理されるようにすればよい。 麹菌の処理物は、上述した各工程の全てを行って得られたものとしてもよいし、各工程の一部、例えば抽出工程および濾過工程のみを行って得られたものとしてもよい。 このようにして製造された麹菌の処理物(乾燥粉末)は、そのまま経口摂取してもよいし、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤(粉剤)、コーティング剤、糖衣剤、乳剤、液剤、シロップ剤などに製剤して経口摂取してもよい。本発明の麹菌の処理物は、製剤の際には、医薬上、薬理的に許容される添加剤と混合してもよい。 当該添加剤としては、例えば、乳糖・白糖・マニトール・ブドウ糖・デンプン・ソルビトール等の賦形剤、デンプン・ゼラチン・アラビアゴム・ブドウ糖・白糖・ソルビトール・マニトール等の結合剤、ステアリン酸・硬化油・ステアリン酸マグネシウム・ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤、バレイショデンプン等の崩壊剤、ラウリル硫酸ナトリウム等の湿潤剤、ポリエチレングリコール等の安定剤、ラウリル硫酸ナトリウム・ソルビタンモノ脂肪酸エステル等の界面活性剤、ベンジルアルコール・パラオキシ安息香酸エチル・安息香酸・メチルパラベン・プロピルパラベン等の保存剤、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、コハク酸、リンゴ酸等の酸味剤、植物油・動物油脂等の各種油脂、ロイヤルゼリー・人参等の生薬、グルタミン・システイン・ロイシン・アルギニン等のアミノ酸、エチレングリコール・ポリエチレングリコール・プロピレングリコール・グリセリン等の多価アルコール、寒天・ゼラチン・キサンタンガム・カゼイン・グルテン・澱粉・デキストリン等の天然高分子、ビタミンC・ビタミンB群等のビタミン、カルシウム・マグネシウム・亜鉛・鉄等のミネラル、マンナン・ペクチン・ヘミセルロース等の食物繊維、pH調製剤、酸化防止剤、呈味成分、芳香剤、着色料、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 本発明の抗血栓組成物は、製剤の際に、有効成分である麹菌の処理物を、通常は0.1〜99質量%、好ましくは5〜80質量%程度含有するようにすればよい。 本発明の抗血栓組成物は血栓溶解活性を有するため、当該抗血栓組成物を有効成分として含有する医薬組成物又は機能性食品として、血栓症の予防又は治療のために用いることができる。即ち、本発明の抗血栓組成物を、投与対象であるヒトや動物に適量を摂取させることで、血栓症の発症を予防、改善及び治療することができる。 本明細書における「血栓溶解活性」とは、血栓に対する線溶作用を有するものであり、具体的には、フィブリンやフィブリノーゲンを分解するプラスミン活性を活性化して血栓を溶解する能力のことを指す。この血栓溶解活性の評価は、例えばフィブリンプレート法や合成基質法等によって行うことができる。 フィブリンプレート法は、フィブリンプレートにサンプルを滴下して溶解したフィブリンの溶解窓の直径を測定し、血栓溶解活性を評価するものである。 合成基質法は、プラスミン合成基質に対する分解能を、発色性をもつpNA量を測定してプラスミン様活性を評価するものである。 本発明の抗血栓組成物の摂取量は、投与対象であるヒトや動物の年齢、体重、摂取経路、摂取回数、血栓症の症状により異なり、種々の量を設定することができる。また、本発明の抗血栓組成物は、他の医薬、治療又は予防法等と併用してもよい。 本発明の抗血栓組成物は、血栓溶解作用を有するうえ、現代の食文化において馴染みがあり、食経験のある醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌又は麹の処理物を有効成分として含むものであり、安全性が高く、かつ抵抗感なく経口摂取することができる。また、有効成分として含まれる当該麹菌の処理物は、高温処理や凍結乾燥処理をした後でも血栓溶解活性を保持することから、食品などの加工処理に適している。さらに、添加しても食品自体の食味や風味に影響を殆ど与えないため、種々の食品に添加して継続的に摂取することができる。 上述したように、本発明の抗血栓組成物は、当該抗血栓組成物を有効成分として含有する医薬組成物又は機能性食品として供するのが好ましい。特に機能性食品の態様であれば、日常的に経口摂取できるため、手軽に血栓症の発症を予防することができると考えられる。 当該機能性食品とは、例えば、特定保健用食品(体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含み、特定の効能が認められる食品)、栄養機能食品(栄養成分の補給・補完のために利用する食品)、健康補助食品、栄養補助食品などの態様で供されるものを指す。このような機能性食品であれば、広く市場に流通しており、容易かつ安価に入手ができる。当該機能性食品に含まれる本発明の抗血栓組成物の割合は、当業者が適宜設定すればよい。〔実施例1〕 本発明の実施例について説明する。 以下のようにして麹菌を穀物原料に植菌して麹を調製した(図1)。 当該穀物原料としてフスマ(小麦)を使用した。フスマ中の水分量が50%となるようにフスマへの加水を行った(加水工程)。加水したフスマに対して121℃、10分間の条件にて加圧蒸煮を行った(殺菌工程)。フスマ重量に対して種麹(アスペルギルス・オリゼー「醤油エナジー」)0.01%を植菌した(植菌工程)。植菌後、品温が30℃以下となるように温度を調製し、かつ、フスマの水分量が25%以上となるように調製しながら、3日間の培養を行った(培養工程)。培養工程の後、通風乾燥機によって培養物を40℃で24時間の乾燥を行った(乾燥工程)。 このようにして製造したフスマ麹に対して、以下の処理を行って麹菌の処理物を得た(図2)。 まず、フスマ麹に対して10倍量の水を加えて、30℃±2℃となるようにして2時間の抽出を行った(抽出工程)。抽出液に対して、公知のスクリューデカンタ、遠心分離機、圧搾ろ過機、フィルタープレスを用いて固液分離した(濾過工程)。固液分離後の中間処理物は、UF精製膜(10K:ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)を用いて濃縮した(濃縮工程)。濃縮後の中間処理物に対して、0.2μmのフィルター(3M:Purification株式会社製)を用いて除菌処理を行った(除菌工程)。滅菌処理後の中間処理物に対してデキストリンを添加し、噴霧乾燥処理を行った(噴霧乾燥工程)。乾燥粉末化した麹菌の処理物は、45メッシュサイズの篩(興和株式会社製)を用いて篩処理を行い、さらに9000ガウスの磁化スクリーン(マグネットプラン社製)を使用して除鉄処理を行い(篩・除鉄工程)、麹菌の処理物(乾燥粉末)を得た。〔実施例2〕 合成基質法によってプラスミン様活性を評価した。プラスミン様活性の評価は、実施例1で使用したアスペルギルス・オリゼー「醤油エナジー」と他の18種のアスペルギルス・オリゼー(本発明例1〜19)、および、1種のアスペルギルス・ソーヤ(本発明例20)の処理物を使用した(表1)。本実施例における麹菌の処理物は、抽出工程および濾過工程を行って得られたものとした。 他の18種のアスペルギルス・オリゼーは、「醤油旭菌」、「亀甲菌」、「SR108」、「改良長白菌」、「長白菌」、「米用新菌」、「米赤用菌」、「金山寺」、「麦赤」、「白菊」、「白もやし」、「米麹用特別品」、「別撰味噌用」、「A−27」、「白夜」、「瑞穂」、「ミリン」、「ミリンライト」を使用した。また、1種のアスペルギルス・ソーヤは「ソーヤ」を使用した。 一方、比較例として、焼酎製造用に供される麹菌として、株式会社菱六より供されるアスペルギルス・カワチ(Aspergillus Kawachi)の「焼酎用白麹」(比較例1)およびアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus Awamori)の「クロ」(比較例2)を使用した。焼酎製造用に供される麹菌は、例えば蒸煮した大麦や米などの穀類などの固体原料を醗酵し、糖質からクエン酸を産生する糸状菌を指す。これら比較例の麹菌の処理物も本発明例と同様に、抽出工程および濾過工程を行って得られたものとした。 プラスミン合成基質は、H−D−Val−Leu−Lys−pNAとし、プラスミン基質(S−2251試薬:積水メディカル株式会社製)を用いた。基質溶液はS−2251試薬を2.5mMになるようDMSOで調整した。サンプルは0.1MTris−HCl(pH8.0)にて適当な濃度で抽出した。96穴プレートに0.1MTris−HCl(pH8.0)90μL、蒸留水54μL、基質溶液18μLを入れ、サンプル18μLを入れた後に、37℃の条件下で2分間毎に20分間まで、波長405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定した。pNAを1分間あたりに1nmol産生する酵素量を1Uとし、プラスミン様活性を評価した。 この結果、比較例1「焼酎用白麹」および比較例2「クロ」以外の麹菌(本発明例1〜20)においてプラスミン様活性(血栓溶解活性)が確認された(図3)。プラスミン様活性は、特にアスペルギルス・オリゼーの「醤油旭菌」および「醤油エナジー」(500U/g程度)、アスペルギルス・ソーヤの「ソーヤ」(650U/g以上)において高い活性を有し、このうち、アスペルギルス・ソーヤの「ソーヤ」において最も高い活性を有するものと認められた。〔実施例3〕 実施例1において、穀物原料としてフスマを使用して種麹(アスペルギルス・オリゼー「醤油エナジー」)の固体培養を行って得られた麹菌の処理物のプラスミン様活性を評価した。これに対して、当該種麹の液体培養を行った場合に得られた麹菌の処理物のプラスミン様活性を評価し、これらを比較した。 固体培養では、使用するフスマ100gに対して種麹1gを植菌し、培養期間を2日とする以外は、実施例1の手法に準じて行った。得られたフスマ麹に対して10倍量の水を加えて抽出し、その後凍結乾燥機(FDU−2100:東京理化器械株式会社製)を用いて48時間の凍結乾燥を行い、固体培養乾燥粉末(麹菌の処理物)を得た。 液体培養では、培地は、potato dextrose broth(以下、PDBと称する:Difco社製)を用いた。PDB2.4gに水100mLを加えて滅菌した培地に、種麹1gを植菌して30℃で2日間振盪培養した。得られた培養液は定性ろ紙(No.2:アドバンテック東洋株式会社製)を用いて吸引濾過し、得られた水溶性画分を固体培養の場合と同様の条件で凍結乾燥を行い、液体培養乾燥粉末(麹菌の処理物)を得た。 プラスミン様活性の評価は、実施例2の手法に準じて行った。図4に固体培養乾燥粉末および液体培養乾燥粉末のプラスミン様総活性を比較した結果を示した。プラスミン様総活性は、各乾燥粉末の収量及びプラスミン様活性から算出した。尚、プラスミン様総活性は、液体培養乾燥粉末の総活性を1とした場合の相対値として示した。 この結果、液体培養乾燥粉末に比べて固体培養乾燥粉末の方が850倍のプラスミン様総活性を有することが判明した。よって、液体培養乾燥粉末より固体培養乾燥粉末の方が、顕著にプラスミン様総活性が高いものと認められた。〔実施例4〕 実施例1では、植菌時のフスマ中の水分量を50%としたが、この水分量を種々変更してプラスミン様活性の評価を行った。 植菌時のフスマの水分量を35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%に調整したフスマに対し、フスマ量の0.01%の種麹を植菌し、30℃にて3日間の培養を行った。図5に、得られたそれぞれの麹菌の処理物のプラスミン様活性を比較した結果を示した。尚、プラスミン様活性は、水分量35%時の活性を1とした場合の相対値として示した。 この結果、フスマの水分量が40〜65%の場合において、水分量35%時の活性に比べて1.5倍以上のプラスミン様活性を有することが判明した。また当該水分量が45〜65%の場合において、水分量35%時の活性に比べて2倍以上のプラスミン様活性を有することが判明した。さらに当該水分量が45〜55%の場合において、水分量35%時の活性に比べて3〜5倍程度のプラスミン様活性を有することが判明した。よって、植菌時のフスマの水分量を40〜65%、好ましくは45〜65%、さらに好ましくは45〜55%とすれば、顕著に高いプラスミン様活性を有するものと認められた。〔実施例5〕 アスペルギルス・オリゼーの「醤油エナジー」(本発明例2)の処理物(乾燥粉末)において、in vivo試験を行った。In vivo試験は、SDラット(雄、8W)を用いて、麹菌の処理物(乾燥粉末)および水(コントロール)を各群10匹に7日間連続投与することにより行った。 具体的には、麹菌の処理物(乾燥粉末)10mg/kg、液量5mL/kgを投与した群(実施例4−1)、麹菌の処理物(乾燥粉末)50mg/kg、液量5mL/kgを投与した群(実施例4−2)、水(液量5mL/kg)を投与した群(比較例4−1)を設定した。 各群において1日1回の投与を7日間実施し、最終の投与をAVシャント作製の1時間前に実施した。AVシャントは、SDラットの麻酔下において、絹糸を留置したポリエチレンチューブを頸動脈(AV)に接続することにより作製した。AVシャントの作製後、20分間血液を循環させ、20分後に血流を遮断して直ちにポリエチレンチューブ内の絹糸を取り出し、絹糸に付着したフィブリン血栓の湿重量を測定した。血栓重量は、測定値から予め計測しておいた絹糸の重量を差し引きして求めた。 AVシャント作製後、20分間血液を循環させて付着した血栓の写真を図6に示した。血栓重量を求めた結果、実施例4−1(10mg/kg投与群)では61.7mg、実施例4−2(50mg/kg投与群)では46.4mg、比較例4−1(水投与群)では89.3mgであった。コントロールである比較例4−1の血栓重量を100%とすれば、実施例4−1は69%、実施例4−2では52%となり、本発明の麹菌の処理物を含有する抗血栓組成物をin vivo投与することで、濃度依存的に有意な血栓重量低下効果が確認された。そのため、本発明の抗血栓組成物は、血栓性疾患に対して、優れた予防、改善及び治療効果が期待できる。〔実施例6〕 アスペルギルス・オリゼーの「醤油エナジー」(本発明例2)の処理物(乾燥粉末)において、ヒト臨床試験を行った。ヒト臨床試験の被験者は、年齢50歳以上で、LDLコレステロールが100mg/dL以上もしくは中性脂肪が150mg/dL以上の、血栓症リスクの高い男女19名を対象とした。被験者を、年齢、LDLコレステロール値および中性脂肪値が同様になるように3群に分けた。3群の内訳は、麹菌の処理物(本発明例2)の高用量摂取群(300mg/日、7名)、麹菌の処理物(本発明例2)の低用量摂取群(100mg/日、6名)およびデキストリン摂取群(コントロール、300mg/日、6名)とした。麹菌の処理物の摂取量(mg)は、添加剤などを含まない麹菌の処理物のみの量を示している。 各群において、それぞれの被験サンプルを21日間毎日連続摂取させた。具体的には、1日の摂取量の半量の各被験サンプルを詰めたハードカプセルを、朝、夕に1粒ずつ摂取させた。試験はダブルブラインドで実施した。 各群において、臨床試験開始前(0日目)、開始後21日目に採血を行い、血中のFDP量を測定した。FDPはフィブリノーゲン及びフィブリンの分解産物であり、線溶マーカーとして知られ、プラスミンによってフィブリノーゲンが分解されたフィブリノーゲン分解産物と、プラスミンによってフィブリンが分解されたフィブリン分解産物を含む。FDPの上昇は線溶亢進、即ち抗血栓効果を示すものとされる。 各群のFDP量を測定した結果を表2および図7に示した。 この結果、デキストリン摂取群(コントロール)は、摂取前と比較して摂取21日目においてもFDP量の増加は認められなかった。一方、低用量摂取群(100mg/日)は、摂取前のFDP量が1.37μg/mLであるのに対し、摂取21日目に1.65μg/mLと増加が認められた(約1.2倍の増加)。さらに、高用量摂取群(300mg/日)は、摂取前のFDP量が1.36μg/mLであるのに対し、摂取21日目に2.69μg/mLと大幅な増加が認められた(約2倍の増加)。 このことから、本発明例の麹菌の処理物(本発明例2)を摂取することにより、摂取量依存的にFDP量の上昇が認められ、本発明例の麹菌の処理物は抗血栓効果を有することが確認された。 このように本発明例の麹菌の処理物の摂取量依存的にFDP量の上昇が認められることから、上述した低用量摂取群(100mg/日)より少ない量(例えば25mg/日、50mg/日、75mg/日)であっても抗血栓効果を有すると期待される。また、上述した高用量摂取群(300mg/日)より多い量(例えば400mg/日、500mg/日、600mg/日)であっても、当然抗血栓効果を有すると期待される。 このとき、本発明例の麹菌の処理物の総摂取量を基準にして、摂取量および摂取期間を設定することが可能である。例えば、上述した低用量摂取群(100mg/日)を21日間試験すれば、本発明例の麹菌の処理物の総摂取量は2100mgとなり、高用量摂取群(300mg/日)を21日間試験すれば、本発明例の麹菌の処理物の総摂取量は6300mgとなる。 例えば低用量摂取群において一日当たりの摂取量を50mgに減らしたい場合、42日間の摂取を行うと総摂取量は2100mgとなり、この場合の麹菌の処理物の総摂取量は低用量摂取群(100mg/日)の場合と同様となる。同様に、総摂取量が6300mgとなるように摂取期間を設定してもよい。 即ち、一日当たりの摂取量および摂取期間は、被験者の症状、嗜好およびコスト等に応じて適宜設定することができる。この場合、例えば一日当たりの摂取量を25〜600mg、好ましくは50〜500mg、さらに好ましくは100〜300mgと設定するのがよい。 尚、上述した結果は、本発明例2に限らず、本発明の他の麹菌の処理物(本発明例1、3〜20)においても同様である(データは示さない)。 ここで、麹菌の処理物の低用量摂取群および高用量摂取群において、摂取前と比較して、摂取21日目の血液一般検査ならびに血液生化学検査項目の測定を行ったところ、測定値は顕著な変動が見られず、試験期間を通しての有害事象の発現は認められなかった(データは示さない)。 以上より、本発明例の麹菌の処理物は、安全で抗血栓効果を有する機能性素材として有用であるものと認められた。 本発明は、血栓溶解活性を有する抗血栓組成物として利用できる。 血栓溶解活性を有し、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌の処理物を有効成分として含有する抗血栓組成物。 前記麹菌が、アスペルギルス・オリゼーまたはアスペルギルス・ソーヤである請求項1に記載の抗血栓組成物。 前記麹菌の培養を固体培養とした請求項1または2に記載の抗血栓組成物。 前記固体培養時の水分量を40〜65%とした請求項3に記載の抗血栓組成物。 前記麹菌の処理物が乾燥粉末である請求項1〜4の何れか一項に記載の抗血栓組成物。 医薬上許容される添加剤を含有する請求項1〜5の何れか一項に記載の抗血栓組成物。 経口投与される請求項1〜6の何れか一項に記載の抗血栓組成物。 【課題】大量生産が可能であり、経口摂取で安全性が高く、現代の食文化において馴染みのあるものを処理して得られた抗血栓組成物を提供する。【解決手段】血栓溶解活性を有し、醤油、味噌、日本酒、味醂のいずれかの製造用に供される麹菌の処理物を有効成分として含有する抗血栓組成物。該麹菌は、アスペルギルス・オリゼーまたはアスペルギルス・ソーヤであることが好ましい。該麹菌の培養は固体培養であり、固体培養時の水分量を40〜65%とすることが好ましい。【選択図】なし


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