生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_培地及びそれを用いた外生菌根菌の栽培方法
出願番号:2014178033
年次:2015
IPC分類:A01G 1/04,C12N 1/14


特許情報キャッシュ

足立 亜衣 加瀬谷 泰介 JP 2015070835 公開特許公報(A) 20150416 2014178033 20140902 培地及びそれを用いた外生菌根菌の栽培方法 公益財団法人東洋食品研究所 507152970 特許業務法人R&C 110001818 足立 亜衣 加瀬谷 泰介 JP 2013182544 20130903 A01G 1/04 20060101AFI20150320BHJP C12N 1/14 20060101ALI20150320BHJP JPA01G1/04 AC12N1/14 CC12N1/14 H 3 OL 15 特許法第30条第2項適用申請有り 2B011 4B065 2B011AA06 2B011BA10 2B011GA04 4B065AA57X 4B065AA71X 4B065BB06 4B065CA60 本発明は、特定のフラボノイド類を外生菌根菌の生育促進物質として含む培地、及びそれを用いた外生菌根菌の栽培方法に関する。 外生菌根菌はマツ科やブナ科などの樹木と共生関係を築いている真菌類である。外生菌根菌は、植物から主に光合成産物を受け取り、その代わりに窒素やリンなどの無機栄養分や水を植物へと与えている。その共生体である外生菌根は、根の表面を包む菌鞘、根の外に伸びる菌糸、及びハルティヒ・ネットと呼ばれる根の細胞と細胞の間に入り込んだ菌糸からなっており、外生菌根菌と植物との間における物質の交換は、このハルティヒ・ネットを介するとされている。 この様に、樹木に依存して養分を獲得する外生菌根菌は、一般的に、人工培地上での子実体形成が難しいとされる。その原因として、ほとんどの菌が澱粉やセルロースなどを養分となる糖へと分解する糖質分解酵素類の活性が極めて弱いことで、人工培地からは十分な養分を得られず、そのため生育速度が極めて遅いことなどが挙げられる。さらに、多量の菌糸体を得るために、高濃度の糖類を養分として与えると、高浸透圧のため菌糸生育が抑制されることもあり、宿主植物の存在しない条件で子実体形成に十分量な菌糸体を確保することは困難である。 非特許文献1〜3では、フラボノイド系物質によるアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の菌糸伸長効果が確認されている。しかし、AM菌と外生菌根菌とは異なる種類の菌根菌であり、外生菌根菌の生育を促進する点については検討されていない。Nair, M.G., Safir, G.R. and Siqueira, J.O., "Isolation and Identification of Vesicular-Arbuscular Mycorrhiza-Stimulatory Compounds from Clover(Trifolium repens)Roots", Applied and Enviromental Microbiology, (米国), 1991, 57(2), p.434-439Becard, G., Douds, D.D. and Pfeffer, P.E., "Extensive In Vitro Hyphal Growth of Versicular-Arbuscular mycorrhizal Fungi in the Presence of CO2 and Flavonols", Applied and Enviromental Microbiology, (米国), 1992, 58(3), p.821-825Vierfeiling, H., Bago, B., Albrecht, C., Poukin, M.-J. and Piche, Y., "Flavonoid and Arbuscular-mycorrhizal fungi", Flavonoids in the LiningSystem, edited by Manthey and Buslig, Plenum Press, New York, (米国), 1998, p.9-33 本発明の目的は、外生菌根菌の生育を促進し、外生菌根菌の培養時間を短縮することにある。 本発明者らは、人工培地上での外生菌根菌の子実体形成を目的として、人工培地上で多量の菌糸体を確保すべく、外生菌根菌の生長促進物質の探索を行った。実施に当たり、まず、宿主植物の根の水溶性画分より探索を行った。その結果、画分中のタキシフォリン(Taxifolin)の配糖体が外生菌根菌の生育を促進することを見出した。タキシフォリン及びその配糖体の構造を以下に示す。下記式(a)において、タキシフォリンは、5つのRの全てがOH基であるもの、タキシフォリンの配糖体は、5つのRのいずれか1つが糖(六炭糖)が結合したO基であり、残り4つがOH基のものである。(a) そして、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体と類似した構造を有する物質について更に探索した結果、特定のフラボノイド類が外生菌根菌の生長を促進させる効果を奏することを見出し、本発明に想到した。 すなわち、本発明は、次の通りの構成をとるものである。〔1〕外生菌根菌の生育促進物質として、バイカレイン(Baicalein)、フィセチン(Fisetin)、ミリセチン(Myricetin)、タキシフォリン(Taxifolin)、アピゲニン(Apigenin)、ケンペロール(Kaempferol)及びダイゼイン(Daidzein)からなる群より選択される少なくとも1種のフラボノイド類、並びに/又は、下記式(1)で表されるフラボノイド類の配糖体を含む培地。(1)(式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、H基、OH基又は糖が結合したO基を表し、R1〜R8の少なくとも1つは糖が結合したO基である。C環の2−3位間の結合は、単結合及び二重結合のいずれであってもよい。)〔2〕前記式(1)において、前記糖は、グルコース、グルクロン酸、ラムノース、アピオース、ガラクトース、キシロース、アラビノース及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の単糖、又は、該単糖が複数結合したオリゴ糖若しくは多糖である前記〔1〕に記載の培地。〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の培地を用いた外生菌根菌の栽培方法。 本発明によれば、外生菌根菌の生育(特に菌糸の生長)を促し、外生菌根菌の培養時間を短縮することができる。これにより、宿主植物の存在しない人工培地であっても、子実体形成に必要な十分量の菌糸体を確保することが期待できる。また、栽培品種はもちろん、野生種の生育も促進できるため、野生種の分離培養時間を短縮し、菌床などに接種するまでの時間も短縮できる。バイカリンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例1)フィセチンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例2)ミリセチンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例3)イソクェルシトリンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例4)タキシフォリンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例5)クェルシツロンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例6)アストラガリンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例7)バイカレインを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例8)アピゲニンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例9)アピインを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例10)ケンペロールを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例11)ヒペロシドを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例12)クェルセチン−3−O−グルコース−6−アセテートを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例13)ルチンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例14)ダイゼインを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例15)ルテオリンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(比較例1)クェルセチンを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(比較例2)ゲニステインを含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(比較例3)バイカリンを含む培地でアシナガイグチを培養した結果を示すグラフである。(実施例16)フィセチンを含む培地でアシナガイグチを培養した結果を示すグラフである。(実施例17)ミリセチンを含む培地でアシナガイグチを培養した結果を示すグラフである。(実施例18)イソクェルシトリンを含む培地でアシナガイグチを培養した結果を示すグラフである。(実施例19)タキシフォリンを含む培地でアシナガイグチを培養した結果を示すグラフである。(実施例20)バイカリンを含む培地でヤマドリタケモドキを培養した結果を示すグラフである。(実施例21)フィセチンを含む培地でヤマドリタケモドキを培養した結果を示すグラフである。(実施例22)ミリセチンを含む培地でヤマドリタケモドキを培養した結果を示すグラフである。(実施例23)イソクェルシトリンを含む培地でヤマドリタケモドキを培養した結果を示すグラフである。(実施例24)タキシフォリンを含む培地でヤマドリタケモドキを培養した結果を示すグラフである。(実施例25)式(a)で示したタキシフォリンの配糖体を含む培地でホンシメジを培養した結果を示すグラフである。(実施例26) 本発明の培地は、外生菌根菌の生育促進物質として、バイカレイン、フィセチン、ミリセチン、タキシフォリン、アピゲニン、ケンペロール及びダイゼインからなる群より選択される少なくとも1種のフラボノイド類、並びに/又は、下記式(1)で表されるフラボノイド類の配糖体を含む。(1)(式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、H基、OH基又は糖が結合したO基を表し、R1〜R8の少なくとも1つは糖が結合したO基である。C環の2−3位間の結合は、単結合及び二重結合のいずれであってもよい。) なお、C環とは、式(1)中でCを付した六員環を意味する。また、2−3位間の結合とは、式(1)中で2、3を付した炭素間の結合を意味する。 バイカレイン、フィセチン、ミリセチン、タキシフォリン、アピゲニン、ケンペロール及びダイゼインは、いずれも非配糖体(アグリコン)である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、外生菌根菌の生育促進効果に優れるという点から、バイカレイン、フィセチン、ミリセチン、タキシフォリンが好ましく、フィセチン、ミリセチン、タキシフォリンがより好ましい。 式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、H基、OH基又は糖が結合したO基を表す。外生菌根菌の生育促進効果に優れるという点から、R1又はR4は、糖が結合したO基であることが好ましい。すなわち、配糖体において、糖の結合位置は、3位又は7位であることが好ましい。同様の観点から、R2はOH基であることが好ましく、R5はH基であることが好ましく、R6及びR8の何れかがH基であることが好ましい。 また、R4は、糖が結合したO基でないとき、OH基であることが好ましい。 式(1)において、糖については特に限定されないが、グルコース、グルクロン酸、ラムノース、アピオース、ガラクトース、キシロース、アラビノース及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の単糖、又は、該単糖が複数結合したオリゴ糖若しくは多糖が好ましい。なかでも、外生菌根菌の生育促進効果に優れるという点から、グルコース、グルクロン酸、ラムノース、アピオース、ガラクトースがより好ましく、グルコース、グルクロン酸が更に好ましい。 式(1)で表されるフラボノイド類の配糖体の具体例としては、バイカリン(Baicalin)、イソクェルシトリン(Isoquercitrin)、クェルシツロン(Querciturone)、アストラガリン(Astragalin)、アピイン(Apiin)、ヒペロシド(Hyperoside)、クェルセチン−3−O−グルコース−6−アセテート(Quercetin-3-O-glucose-6-acetate)、ルチン(Rutin)、プランタギニン(Plantaginin)、スクテラリン(scutellarin)、クェルシトリン(Quercitrin)、アスチルビン(Astilbin)が挙げられる。また、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体も式(1)で表されるフラボノイド類の配糖体に含まれる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、外生菌根菌の生育促進効果に優れるという点から、バイカリン、イソクェルシトリン、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体、クェルシツロン、アストラガリンが好ましく、バイカリン、イソクェルシトリン、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体がより好ましい。 なお、好ましい生育促進物質として例示したフラボノイド類のうち、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体以外の物質は、工業的に合成することが可能であり、入手が容易であるという点で有利である。 また、前述のフラボノイド類には異性体が存在するが、本発明では、異性体の一方のみを使用してもよいし、異性体の混合物を使用してもよい。後述の実施例においては、異性体の混合物を使用している。 生育促進物質は、そのまま培地に添加してもよいが、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)などの公知の溶媒に溶解させ、溶液として添加することが好ましい。生育促進物質を含む溶液において、生育促進物質の濃度は、好ましくは1pM〜100μM、より好ましくは1nM〜10μM、更に好ましくは1μM〜10μMである。 本発明の培地は、前述の生育促進物質以外に、グルコースなどの菌根菌が生育に利用可能な糖類、穀類をはじめとする炭素源;米ぬか、フスマ、酒石酸アンモニウムなどの有機態、及び、硝酸アンモニウム、リン酸水素2アンモニウムをはじめとする無機態の窒素源;リン酸2水素カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄などをはじめとする無機塩類;チアミン塩酸塩や葉酸などをはじめとするビタミン類などの公知の培地成分を含んでもよい。 本発明の培地の形態は、液体培地であってもよいし、寒天培地、菌床培地をはじめとする固体培地であってもよい。 本発明の培地によって生育が促進される外生菌根菌としては、例えば、シメジ科(Lyophyllaceae)、イッポンシメジ科(Entolomataceae)、キシメジ科(Tricholomataceae)、テングタケ科(Amanitaceae)、ショウロ科(Rhizopogonaceae)、オウギタケ科(Gomphidiaceae)、ヌメリイグチ科(Suillaceae)、イグチ科(Boletaceae)、オニイグチ科(Strobilomycetaceae)が挙げられる。なかでも、本発明の培地による生育促進効果が高いという点から、シメジ科、オニイグチ科、イグチ科が好ましい。また、これらの科に属する外生菌根菌のうち、シメジ属(Lyophyllum)、キクバナイグチ属(Boletellus)、イグチ属(Boletus)が特に好ましい。 シメジ属に属する外生菌根菌としては、例えば、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)、シャカシメジ(Lyophyllum fumosum)、カクミノシメジ(Lyophyllum sykosporum)、スミゾメシメジ(Lyophyllum semitale)が挙げられ、ホンシメジが好ましい。 キクバナイグチ属に属する外生菌根菌としては、例えば、オオキノボリイグチ(Boletellus mirabilis)、キクバナイグチ(Beletellus floriformis)、ミヤマベニイグチ(Beletellus obscurecoccineus)、マルミノアヤメイグチ(Boletellus badiovinosus)、アヤメイグチ(Boletellus chrysenteroides)、アシナガイグチ(Boletellus elatus)、ビロードイグチモドキ(Boletellus fallax)、アキノアシナガイグチ(Boletellus longicollis)、セイタカイグチ(Boletellus russellii)、トゲミノヒメイグチ(Boletellus shichianus)が挙げられ、アシナガイグチが好ましい。 イグチ属(広義)に属する外生菌根菌としては、例えば、ニセイロガワリ(Boletus badius)、コウジタケ(Boletus fraternus)、ツブエノウラベニイグチ(Boletus granulopunctatus)、イロガワリ(Boletus pulverulentus)、ダイダイイグチ(Boletus laetissimus)、ニセアシベニイグチ(Boletus pseudocalopus)、ミヤマイロガワリ(Boletus sensibilis)、アメリカウラベニイロガワリ(Boletus subvelutipes)、オオコゲチャイグチ(Boletus obscureumbrinus)、コゲチャイグチ(Boletus brunneissimus)、タカネウラベニイロガワリ(Boletus frostii)、ナガエノウラベニイグチ(Boletus quercinus)、ミヤマアミアシイグチ(Boletus appendiculatus)、コガネヤマドリ(Boletus aurantiosplendens)、オオダイアシベニイグチ(Boletus odaiensis)、アカジコウ(Boletus speciosus)、アケボノヤマドリタケ(Boletus regius)、ニシキイグチ(Boletus bicolor)、アシベニイグチ(Boletus calopus)、バライロアミアシイグチ(Boletus peckii)、バライロウラベニイロガワリ(Boletus rhodocarpus)、ススケイグチ(Boletus aereus)、ススケヤマドリタケ(Boletus hiratsukae)、ヤマドリタケ(Boletus edulis)、ヤマドリタケモドキ(Boletus reticulatus)、ムラサキヤマドリタケ(Boletus violaceofuscus)、クロアワタケ(Boletus griseus)、キアミアシイグチ(Boletus ornatipes)、キッコウアワタケ(Boletus chrysenteron)、クロアザアワタケ(Boletus nigromaculatus)、ミヤマアワタケ(Boletus obscurebrunneus)、アワタケ(Boletus subtomentosus)が挙げられ、ヤマドリタケモドキが好ましい。 本発明の培地を用いた外生菌根菌の栽培方法(培養方法)としては特に限定されず、公知の方法を適用できる。培養条件や培養形態についても特に限定されず、培養に供される外生菌根菌の種類などに応じて適宜選択すればよい。 以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。[実施例1〜15、比較例1〜3]<実験方法> 式(a)で示したタキシフォリンの配糖体と構造が類似するフラボノイド類として、下記表1に示す18物質(フラボン類5物質、フラボノール類10物質、フラバノノール類1物質、イソフラボン類2物質)を、それぞれ20%ジメチルスルホキシド(V/V)を溶媒として、1pM、1nM、1μM、10μM、100μMに調製した。得られた各溶液を、外生菌根菌の培養に汎用されるMMN(Modified Melin-Norkrans)寒天平板培地(10ml)の表面に20μl添加し、コーンラージ棒で均一に広がるように塗り拡げた。対照区には、同量の20%ジメチルスルホキシドを添加した。1〜5:フラボン類6〜15:フラボノール類16:フラバノノール類17〜18:イソフラボン類 予め同じ培地を用いて培養しておいた外生菌根菌の菌糸体を直径5mmのコルクボーラーで培地ごと打ち抜き、得られた菌糸体ディスクを作成した培地の中心に置いて一ヶ月間培養し(培養温度:25℃、暗黒下、n=3)、培養後の菌糸層の形態及び菌糸伸長を測定した。菌糸伸長は、接種源を中心に垂直に交わる直線をシャーレに引き、接種源外縁から直線と菌糸先端との交点までの距離で測定した。 供試菌はホンシメジ(Lyophyllum shimeji)を用いた。<実験結果> 供試した18物質のうち、ホンシメジの菌糸生育において比較的安定した促進効果を示した物質は、バイカリン、フィセチン、ミリセチン、イソクェルシトリン、タキシフォリンの計5物質であった。これらの実験結果を図1〜5に示す。以下で説明する各図において、菌糸伸長促進効果は、対照区の菌糸伸長の平均値を1としたときの相対値で表している。 上記5物質の至適濃度とその時の菌糸伸長促進効果は、バイカリン:1μMで対照区の1.21倍、フィセチン:1μMで対照区の1.17倍、ミリセチン:1μMで対照区の1.25倍、イソクェルシトリン:10μMで対照区の1.25倍、タキシフォリン:10μMで対照区の1.22倍であった。以上の結果より、これらの物質の至適濃度がいずれも1μM〜10μMであること、至適濃度におけるホンシメジの菌糸伸長速度は対照区の1.17〜1.25倍であることが判った。 また、上記5物質に比べるとやや安定性が劣るものの、クェルシツロン、アストラガリン、バイカレイン、アピゲニン、アピイン、ケンペロール、ヒペロシド、クェルセチン−3−O−グルコース−6−アセテート、ルチン、ダイゼインにおいても、菌糸伸長促進効果を示す傾向が確認された。これらの実験結果を図6〜15に示す。図6〜15においては、至適濃度における結果のみを示している。 これに対し、ルテオリン(Luteolin)、クェルセチン(Quercetin)、ゲニステイン(Genistein)については、菌糸伸長促進効果は確認できなかった。これらの実験結果を図16〜18に示す。[実施例16〜20] ホンシメジで安定した効果が確認出来た5物質を用いて、アシナガイグチ(Boletellus elatus)についても同様の試験を行った。その結果、アシナガイグチにおいても、これらの5物質が同様の菌糸成長促進効果を示すことが明らかとなった。これらの実験結果を図19〜23に示す。図19〜23においては、至適濃度における結果のみを示している。 各物質の至適濃度とその時の菌糸伸長促進効果は、バイカリン:10μMで対照区の1.07倍、フィセチン:10μMで対照区の1.26倍、ミリセチン:10μMで対照区の1.08倍、イソクェルシトリン:100μMで対照区の1.08倍、タキシフォリン:10μMで対照区の1.11倍であった。以上の結果より、至適濃度がホンシメジの場合よりもやや高い10μM〜100μMであること、至適濃度におけるアシナガイグチの菌糸伸長速度は対照区の1.07〜1.26倍であることが判った。[実施例21〜25] アシナガイグチの近縁属のきのこであるヤマドリタケモドキ(Boletus reticulatus)に同物質を処理した結果、図24〜28に示すように、各物質の至適濃度とその時の菌糸伸長促進効果は、バイカリン:1μMで対照区の1.25倍、フィセチン:10μMで対照区の1.28倍、ミリセチン:1μMで対照区の1.34倍、イソクェルシトリン:10μMで対照区の1.40倍、タキシフォリン:10μMで対照区の1.29倍であった。[実施例26] 最後に、本発明完成のきっかけとなった、式(a)で示したタキシフォリンの配糖体を用いた実験について説明する。 細断したアカマツの根約12gを液体窒素により凍結させ、乳鉢と乳棒で粉砕し、7.5mlの超純水を数回に分けて加え、粉末状になった根をすりつぶすように丁寧に攪拌した。その後、遠心分離し、その上清をメンブランフィルター(孔径:0.45μm)で濾過し、粗抽出液を得た。 そして、下記表2に示す条件にて、分取LC(Liquid Chromatography)装置を用いて、粗抽出液より、保持時間(Retention Time(R.T.))43−46分に検出されるタキシフォリンの配糖体を単離した。 単離したタキシフォリンの配糖体の一部を超純水で12mlに調製後、得られた溶液の50μl、5000μlをMMN寒天平板培地(10ml)に添加し、生育試験用の培地とした。また、対照区及び各処理区の培地は、最終濃度が等しくなるよう超純水を添加した。 培養期間を7日間に変更した以外は実施例1と同様の手法により、試験を行った。供試菌はホンシメジを用いた。結果を図29に示す。 図29に示すように、対照区と比較して、50μl添加の培地は1.03倍、5000μl添加の培地は1.15倍の菌糸伸長速度を示すことが判った。外生菌根菌の生育促進物質として、バイカレイン(Baicalein)、フィセチン(Fisetin)、ミリセチン(Myricetin)、タキシフォリン(Taxifolin)、アピゲニン(Apigenin)、ケンペロール(Kaempferol)及びダイゼイン(Daidzein)からなる群より選択される少なくとも1種のフラボノイド類、並びに/又は、下記式(1)で表されるフラボノイド類の配糖体を含む培地。(1)(式(1)中、R1〜R8は、それぞれ独立して、H基、OH基又は糖が結合したO基を表し、R1〜R8の少なくとも1つは糖が結合したO基である。C環の2−3位間の結合は、単結合及び二重結合のいずれであってもよい。)前記式(1)において、前記糖は、グルコース、グルクロン酸、ラムノース、アピオース、ガラクトース、キシロース、アラビノース及びフルクトースからなる群より選択される少なくとも1種の単糖、又は、該単糖が複数結合したオリゴ糖若しくは多糖である請求項1に記載の培地。請求項1又は2に記載の培地を用いた外生菌根菌の栽培方法。 【課題】外生菌根菌の生育を促進し、外生菌根菌の培養時間を短縮することができる培地及びそれを用いた栽培方法を提供する。【解決手段】外生菌根菌の生育促進物質として、バイカレイン(Baicalein)、フィセチン(Fisetin)、ミリセチン(Myricetin)、タキシフォリン(Taxifolin)、アピゲニン(Apigenin)、ケンペロール(Kaempferol)及びダイゼイン(Daidzein)からなる群より選択される少なくとも1種のフラボノイド類、並びに/又は、特定の構造式(例えば、バイカリン)で表されるフラボノイド類の配糖体を含む培地。【選択図】なし


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