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タイトル:公開特許公報(A)_味噌・醤油酵母の判別法
出願番号:2014116928
年次:2015
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09,A23L 1/202,A23L 1/238


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馬渕 清人 JP 2015228833 公開特許公報(A) 20151221 2014116928 20140605 味噌・醤油酵母の判別法 公益財団法人野田産業科学研究所 000173935 稲葉 良幸 100079108 大貫 敏史 100109346 江口 昭彦 100117189 内藤 和彦 100134120 馬渕 清人 C12Q 1/68 20060101AFI20151124BHJP C12N 15/09 20060101ALI20151124BHJP A23L 1/202 20060101ALI20151124BHJP A23L 1/238 20060101ALI20151124BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 AA23L1/202 103A23L1/238 ZA23L1/238 E 10 110 OL 318 4B024 4B039 4B063 4B024AA05 4B024CA04 4B024CA20 4B024HA11 4B039LB20 4B039LC20 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA18 4B063QQ42 4B063QR08 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS40 本発明は、酵母が持つ染色体上の特定の塩基配列部分の特徴を利用した[A]Zygosaccharomyces rouxiiの判別(または区分け)法と、特に[B]現行の分類上はZygosaccharomyces rouxiiという1属1種に包括されており、区分けされていない、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)由来の、高濃度の食塩(=塩化ナトリウム(NaCl))を含む味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それらの諸味中でのエタノール生産性能(または発酵能)が高いZygosaccharomyces rouxii株の判別(または区分け)法と、さらに[C]醤油中で皮膜を形成する能力を有する、すなわち醤油産膜性Zygosaccharomyces rouxii株の判別(または区分け)法、及びこれらの方法を利用した味噌・醤油製造工程の工程管理、及び製品(味噌・醤油)、仕掛品である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油などの品質管理に関する。 醤油(しょうゆ)は、日本料理において欠かす事ができない、代表的な調味料である。醤油の起源(ルーツ)は、少なくとも紀元前700〜800年頃か、あるいはそれ以前から既に中国にあったとされる「醤(ひしお)」ではないかとされ、同じく日本料理においてよく用いられる5つの調味料「さしすせそ(さとう(砂糖)・しお(塩)・す(酢)・せうゆ(=しょうゆ)・みそ)」のうちの1つ、味噌(みそ)の起源も、同じくこの醤や「(し、和名:クキ)」ではないかと言われている。これらが、中国大陸から、ないしは朝鮮半島経由で日本に伝えられ、その後の時代の流れの中で、日本風に、また地域ごとにも改変が加えられて、現在の醤油や味噌の形になったものと見られている(キッコーマン株式会社:キッコーマン株式会社八十年史、p9−14(序:しょうゆ小史) (2000)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p132−140及びp191−192 日本醤油協会 (2012))。 そのため、現在、日本国内には、地域ごとでの改変によって生まれた数種類の醤油がある。現在、国内で醸造されている醤油としては、「濃口醤油(こいくち(しょうゆ))」、「淡口醤油(うすくち(しょうゆ))」、「溜醤油(たまり(しょうゆ))」、「再仕込(み)醤油(さいしこみ(しょうゆ))」、「白醤油(しろ(しょうゆ))」があり、これらの醤油の品質は日本農林規格(Japanese Agricultural Standard(JAS))で規格化されている(http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_syouyu_h210831.pdf(農林水産省ホームページ「しょうゆの日本農林規格(PDF:351KB)」))。このうち、現在の国内での醤油製造量のうちの80%以上を占めるのが「濃口醤油」であり、さらにその8割は(同じく日本農林規格(JAS)で定められている3種類の製法、すなわち「本醸造」、「混合醸造」、「混合」のうちの)「本醸造」方式で製造されている(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、p21、ライフリサーチプレス (2004)、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性、p11−18(石川雄章(著))、シーエムシー出版 (2006)、一島英治(著):[ものと人間の文化史138]麹(こうじ)、p138、法政大学出版局 (2007)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p11−14、p31−36及びp178−179、日本醤油協会 (2012))。 本醸造の濃口醤油は、大豆(脱脂加工大豆を含む)、小麦、食塩などを原料に、「麹菌(または麹カビ)」と呼ばれるAspergillus oryzae(アスペルギルス・オリゼ)、ないしはAspergillus sojae(アスペルギルス・ソーヤ)が生産する酵素の作用と、耐塩性の醤油乳酸菌(Tetragenococcus(=旧:Pediococcus) halophilus(テトラジェノコッカス(=旧:ぺディオコッカス)・ハロフィラス)、以下、T.halophilusと略す)や醤油酵母による発酵とを利用して製造する発酵調味料であり、それゆえに醤油醸造において、仕込み工程及びそれ以降の製造工程での醤油酵母や醤油乳酸菌などの微生物管理は高い品質の醤油を製造するための重要な要素の1つである。 醤油の仕込み工程は、その醤油諸味の成分変化と微生物の挙動の特徴から、大きく4つの過程に分ける事ができる。すなわち、仕込み直後からの[1]麹菌由来の酵素の作用による小麦澱粉や大豆蛋白質の分解過程と、その後に続く[2]醤油乳酸菌(T.halophilus)による乳酸発酵過程、[3]醤油酵母によるアルコール発酵過程、そして[4]熟成(または後熟)過程の4つである。 醤油の醸造に関わる酵母、すなわち醤油酵母としては、仕込み工程における過程[3]、すなわち醤油酵母によるアルコール発酵過程を中心に、醤油諸味のエタノール発酵と香気形成に関与する「醤油主発酵(または醗酵)酵母」であるZygosaccharomyces rouxii(=チゴサッカロミセス(またはチゴサッカロマイセス)・ルーキシー。以下、Z.rouxiiと略す)や、醤油諸味の香気形成に関わる「熟成酵母(または後熟酵母)」であるCandida versatilis(=キャンディダ(またはカンジダ)・バーサティルス。以下、C.versatilisと略す)が挙げられる。醤油諸味中からは、これらの酵母の他に、Candida etchellsii(=キャンディダ(またはカンジダ)・エッチェルシー。以下、C.etchellsiiと略す)などもよく分離される。醤油諸味から分離されるこれらの醤油酵母は、一般的な酵母などよりも遥かに強い食塩(=塩化ナトリウム(NaCl))耐性能(注:以下、耐塩性能と略す)を持っている。 これらの酵母(=醤油酵母)の他に、C.versatilisやC.etchellsii以外のCandida属酵母、Debaryomyces属酵母(=デバリオミセス(またはデバリオマイセス)属酵母)やHansenula属酵母(=ハンセヌラ属酵母)、Pichia属酵母(=ピキア属酵母)などが醤油諸味から分離される事もあるが、これらの酵母はいずれも耐塩性能が弱く、醤油諸味中ではほとんど増殖できない。そのため、これらの酵母については、あくまで醤油諸味に混入した汚染酵母と見做し、「醤油酵母」や、あるいは「熟成酵母(または後熟酵母)」とは呼ばないのが一般的である。醤油諸味中の酵母(菌)叢(フローラ)の大部分がこうした醤油酵母のみによって構成されている事は、寒天培地などを用いる一般的な培養法による菌叢(フローラ)解析結果からだけでなく、たとえば田中らのグループによる、ヤマサ醤油株式会社の銚子工場での、2004〜2006年の醤油諸味を対象とした、培養「非」依存的な酵母(菌)叢(フローラ)解析手法である「PCR−DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturing gradient gel electrophoresis))法」での解析結果からも確認されている(田中泰史、渡部潤、茂木喜信:醤研、38(6)、347−356 (2012)、Y.Tanaka,J.Watanabe,Y.Mogi:Food Microbiol.,31(1),100−106 (2012))。 濃口醤油や、その醸造工程での仕掛品である醤油諸味や生揚げ醤油などは、16%前後ないしはそれ以上の、高濃度の食塩(NaCl)を含んでいるために、そうした環境で生育できるのは上記のような特定の微生物だけである。昔の醤油の仕込み工程では、木桶などの「開放型」の仕込み容器を用い、現在は一部の醤油メーカーが行なっているような人為的な微生物(=種菌や種酵母)の添加(または接種)も行なわれず(栃倉辰六郎(編著):増補 醤油の科学と技術、p142(門脇清(著))、日本醸造協会 (1994))、しかも仕込み期間も数ヶ月から、長い場合には1〜2年にも及ぶものであったにも関わらず、それでも腐敗したりせずに醤油をきちんと醸造できていたのは、高濃度の食塩(NaCl)を含む醤油諸味中では、醤油酵母と総称される、こうした特定の微生物しか生育できないからである。そのため、『(p125)工場にゆけば空樽の上で居眠りしていても醤油はできる』と揶揄する者もいるほどに、つまりは『(p120)掘立小屋にもろみを置いて何もしないでおくものだ』というのが、昔の醤油の醸造方法であったという(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、ライフリサーチプレス (2004))。 また、製品(=醤油。ただし減塩醤油などを除く)も、同様に高濃度の食塩(NaCl)(やさらにはエタノール、有機酸など)を含んでいるため、(後記する通り、醤油メーカーでは冷蔵保存する事を推奨してはいるものの)開栓後も常温保管されるのが一般的で、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の混入による皮膜形成(後記)を除けば、腐敗する事はほとんどない。たとえば、三瀬勝利・井上富士男(編)の「食品中の微生物検査法解説書(講談社サイエンティフィク (1996))」中の、醤油中の微生物検査法に関する章、すなわち「5.19 調味料類―しょう油、つゆなど(p286−290(木島卓・今井廣敬(著)))」の「A.微生物規格基準」の項にも、『(p288)食品衛生上問題となる微生物は生育せず、微生物規格はない。また指導基準もない。耐塩性微生物が主な汚染対象菌である。』とあり、それゆえに「5.19.3 検査法」の「C.検査項目と手順」にも、『(p290)食品衛生微生物は、成分上から生育せず、また殺菌、密封を行っているため、必ずしも検査の必要は認められない。』と記されている。醤油自体に殺菌力があり(山本泰、森谷悌治、辻原輝明:醤研、4(3)、101−104 (1978)、増田進、工藤由紀子、熊谷進:醤研、24(5)、275−281(1998))、この醤油の持つ殺菌力は古くから醤油漬などの保存食品にも利用されてきた(大森邦英:醤研、1(4)、208−212 (1975))。 醤油と較べると食塩(NaCl)濃度は5〜13%程度とやや低いものの、原材料や製法が似ている味噌(後記)の場合にも、大腸菌(Echerichia coli(エシェリキア・コリー。以下、E.coliと略す))(腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic E.coli(EHEC)) O157:H7を含む)や腸炎ビブリオ(Vibrio属)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus(スタフィロコッカス・アウレウス))、サルモネラ菌(Salmonella enteritidis(サルモネラ・エンテリティダス)など)などを人為的に接種したとしても、食塩(NaCl)などによる水分活性(Aw=0.68〜0.82)やpHの低さ(pH≒5)、アルコールなどの作用により、醤油の場合と同様に、日数経過に伴って死滅してしまう事が報告されており(窪田譲、伊藤公雄、望月務:醸協、76(12)、821−826 (1981)、伊藤公雄、今井学、石神実、武田茂、安平仁美:味噌の科学と技術、31(3)、102−106 (1983)、中央味噌研究所資料:味噌の科学と技術、45(7)、274−282 (1997)、伊藤公雄、武田茂、桜井令子、北村靖則、原山文徳:味噌の科学と技術、47(7)、243−246 (1999))、実際に全国65の工場で製造された計101点の市販の味噌(注:市販味噌の各種成分値(範囲)は、水分37.5〜59.7%、食塩5.1〜14.3%、全糖3.9〜36.1%、pH=4.61〜5.22)を調べた調査(伊藤公雄、窪田譲、今井学、望月務:味噌の科学と技術、264、32−33 (1974))や食塩4%の米味噌を調べた調査(松本伊左尾、今井誠一:醸協、73(1)、56−58 (1978))でも、大腸菌群や腸炎ビブリオなどは検出されなかったという(三瀬勝利・井上富士男(編):食品中の微生物検査法解説書、p279−286(好井久雄(著))、講談社サイエンティフィク (1996))。 上記した通り、醤油も味噌もその起源(ルーツ)は同じだと考えられ、それゆえに「普通味噌」の中でも、米味噌(注:ただし米甘味噌を除く)や麦味噌などの、仕込み工程(特に発酵・熟成工程)における味噌の中の(味噌)酵母の種類や挙動は、醤油の仕込み工程における醤油諸味中の(醤油)酵母の種類や挙動と非常によく似ており、米味噌や麦味噌の製品や仕掛品からも、醤油諸味などの場合と同様に、Z.rouxiiやC.versatilis、C.etichellsiiなどの酵母が分離される(野白喜久雄・小崎道雄・好井久雄・小泉武夫(編):改訂 醸造学、p151−181(好井久雄(著))及びp182−202(伊藤寛(著))、講談社サイエンティフィク (1993)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p162−169(好井久雄(著))、幸書房 (2001)、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性、p11−18(石川雄章(著))、シーエムシー出版 (2006))。それゆえに、これらの酵母は、「味噌・醤油酵母」と呼ばれる事もある(注:「普通味噌」は、用いる原料の違いに基づき、米味噌、麦味噌、豆味噌及びこれらを混ぜ合わせた調合味噌に大別されるが、この米味噌の中に区分けされている「米甘味噌」は、きわめて短期間で造る、いわゆる酵素分解型の味噌であり、ゆえに仕込み工程での味噌酵母の増殖とそれに伴うアルコール発酵はほとんどない。また、米や麦を使わずに、大豆と食塩のみで製造する「豆味噌」(石田卓:醸協、64(9)、799−804 (1969))は、原料として米や麦を加える米味噌や麦味噌、江戸時代頃から大豆と小麦とを等量ないしはそれに近い比率で使用するようになったとされる日本の醤油諸味(キッコーマン株式会社:キッコーマン株式会社八十年史、p9−14(序:しょうゆ小史) (2000))などに較べて、味噌・醤油主発酵酵母の発酵源となる糖分が少ないために、仕込み工程での味噌主発酵酵母の増殖とそれに伴うアルコール発酵はほとんどない(山里一英・宇田川俊一・児玉徹・森地敏樹(編):微生物の分離法、p286−292(好井久雄(著))、R&Dプランニング (1986)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p162−169(好井久雄(著))、幸書房 (2001)、伊藤明徳:味噌の科学と技術、51(3)、79 (2003))。中国の伝統的な醤油も、大豆と少量の小麦ないしは小麦粉とでつくるために、やはり諸味中の糖分が日本の醤油諸味と較べると少なく、醤油酵母による発酵はほとんどなく、ゆえに製品中のアルコール濃度は0〜0.8%程度と、非常に低い(栃倉辰六郎(編著):増補 醤油の科学と技術、p508−512(林和也(著))、日本醸造協会 (1994)、吉沢淑・石川雄章・蓼沼誠・長澤道太郎・永見憲三(編):醸造・発酵食品の事典、p402−430(林和也・森修三(著))、朝倉書店 (2002)、関根一男:キッコーマン情報、137(2003−1)、6−9 (2003)))。 味噌・醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiは、分類上は、以前はZygosaccharomyces soja(チゴサッカロミセス(またはチゴサッカロマイセス)・ソーヤ)やZ.major(マヨ(ー)ル)など、また一時期は清酒、焼酎・泡盛などの醸造やパン生地の発酵に関わる清酒酵母・焼酎酵母(泡盛酵母を含む)・パン酵母などのSaccharomyces cerevisiae(=サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・セレヴィジエ。以下、S.cerevisiaeと略す)と同じSaccharomyces属(=サッカロミセス属)に分類され、それゆえにSaccharomyces rouxii(=サッカロミセス・ルーキシー。以下、S.rouxiiと略す)との学名で呼ばれていた事もあったが(J.Lodder(ed.):The yeasts,a taxonomic study(2nd ed.),North−Holland Publishing Company,Amsterdam (1970)、吉田忠:北海道大学農学部邦文紀要、8(4)、289−347 (1973))、現在では有性的生活環の違いなどから、同じサッカロミセス科(またはサッカロミケス科(Saccharomycetaceae))の中の別属であるZygosaccharomyces属(チゴサッカロミセス属)の株として取り扱われている。 味噌や醤油の製造工程における仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)や製品(である味噌・醤油)などから分離されるZ.rouxii株は、エタノール耐性能についてはS.cerevisiaeよりも弱いものの、20〜22%の食塩(NaCl)存在下でも生育できるという、S.cerevisiaeよりも遥かに強い耐塩性能を有しているため、高濃度の食塩(NaCl)を含む味噌・醤油諸味中で増殖し、エタノール発酵を行なう事ができる(久寿米木一裕:醸協、96(1)、33−42 (2001))。S.cerevisiaeは、上記した通り、清酒や焼酎・泡盛などの醸造やパン生地の発酵などの醸造・発酵食品産業分野で幅広く利用されているものの、Z.rouxiiよりも耐塩性能が遥かに弱いために、これを使って一般的な味噌・醤油諸味をエタノール発酵させる事はできない。味噌では、ワイン酵母のOC−2株や清酒酵母のきょうかい7号(K7)を用いた醸造例(ケース)の報告もあるにはあるが、たとえばきょうかい7号(K7)の耐塩性能は7〜8%前後までと弱く(清酒酵母研究会(編):清酒酵母の研究 ―80年代の研究―、p101−110(吉田清(著))、清酒酵母研究会 (1992))、それゆえに「こうした実施例」は一般的な味噌よりも仕込み時の食塩(NaCl)濃度を3〜4%と低くした、いわゆる「低塩味噌」に関するものに過ぎない(久寿米一裕、工藤真豪:醸協、98(1)、11−18 (2003))。味噌・醤油諸味中での醤油主発酵酵母(Z.rouxii)の挙動こそが、味噌・醤油諸味、そしてそれらを製品化させた味噌・醤油中のエタノール濃度を決定づける。 さらに、Z.rouxiiは、このアルコール発酵過程において、イソアミルアルコール(isoamyl alcohol)や2−フェニルエタノール(2−phenylethanol)、メチオノール(methionol、正式には3−(methylthio)−1−propanol)、カラメル様の甘い香りを呈する4−ヒドロキシ−2(または5)−エチル−5(または2)−メチル−3(2H)−フラノン(4−hydroxy−2(or 5)−ethyl−5(or 2)−methyl−3(2H)−furanone(HEMF))(N.Nunomura,M.Sasaki Y.Asao and T.Yokotsuka:Agric.Biol.Chem.,40(3),491−495 (1976))などの、醤油特有の香気成分の生成にも関与する(林田安生、西村賢了、J.コリンスローター:醸協、93(9)、730−738 (1998)、E.Sugawara&Y.Sakurai:Biosci.Biotechnol.Biochem.,63(4),749−752 (1999))。 醤油諸味からよく分離される醤油酵母としては、上記したように、他に、Candida属に分類されるC.versatilisやC.etchellsiiが挙げられる。 C.versatilisは、醤油麹中のフェルラ酸(feluric acid)やp−クマル酸(p−coumaric acid)などの桂皮酸類を脱炭酸し、還元して4−エチルグアヤコール(4−ethyl guaiacol(4−EG))や4−エチルフェノール(4−ethyl phenol(4−EP))などの揮発性フェノール類を生成する能力を持っており、この4−EGなどは醤油に「重厚感」を与える特徴香を構成する揮発性成分の1つとして知られている(横塚保、逆井利夫、浅尾保夫:農化、41(9)、428−433 (1967)、横塚保、逆井利夫、浅尾保夫:農化、41(9)、434−441 (1967)、横塚保、逆井利夫、浅尾保夫:農化、41(9)、442−447 (1967))。Z.rouxiiは、この生成能力を持っていない(横塚保、逆井利夫、浅尾保夫:農化、41(9)、434−441 (1967)、末澤保彦:農化、69(12)、1587−1596(1995))。 ただし、C.versatilisが生成するこうした揮発性成分が醤油の香気成分としてどの程度「重要」なのかという評価は、あくまで個人差を伴う嗜好性に基づくものであるがゆえに、意見が分かれるところでもある。4−EGの刺激閾値は非常に低く、ppm濃度でも認知され(横塚保、逆井利夫、浅尾保夫:農化、41(9)、442―447 (1967))、醤油ではわずか0.1ppmの濃度差が嗜好性を左右する(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、p153、ライフリサーチプレス (2004))。化学合成4−EGの添加による嗜好性評価試験では、最適値は0.8ppm.(で、同時にメチオノールとの成分和が4.5ppm前後となる状態)とされ(森修三、布村伸武、佐々木正興:日本農芸化学会大会(宮城学院女子大学(仙台))講演要旨集、昭和58年度、p236(講演番号2O−7)、1983−03−30 (1983)、森修三、佐々木正興、布村伸武:醸協、81(10)、701−706 (1986)、佐々木正興、森修三:醸協、86(12)、913−922 (1991))、また市販の醤油の官能評価試験で上位10位に入選した醤油中の4−EG濃度は0.5〜1ppm、最大でもせいぜい2ppm程度であったとの報告もあり(横塚保、浅尾保夫、逆井利夫:農化、41(9)、442−447 (1967))、S.rouxii(=Z.rouxii)株と一緒に、C.versatilis株やC.etchellsii株も添加して醸造した(醤油)製品のほうが市場での嗜好性が高いと評する者もいる一方で(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、p74、ライフリサーチプレス (2004))、4−EGがこの濃度水準を超えて過剰になると、薬品臭くなり、逆に官能的に嫌われたり、製品としての醤油の価値を損ねさせてしまう事があるのも事実である(栃倉辰六郎(編著):増補 醤油の科学と技術、p146(門脇清(著))、日本醸造協会 (1994)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p96−98、日本醤油協会 (2012))。 C.versatilisが醤油諸味に及ぼす影響として知られているのは、現時点ではこの4−EGや4−EPの生成に関するものだけである。さらに、C.etchellsiiに至っては、このような能力さえ持っておらず(奥沢洋平、板倉徹、江口卯三夫:醤研、8(1)、21−27 (1982)、末澤保彦:農化、69(12)、1587−1596(1995))、それゆえに仕込み工程での醤油諸味に果たす役割自体が不明である。そのため、仕込み工程での醤油諸味の発酵・熟成への関与が明確な醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiとこの4−EGなどの生成に関わるC.versatilis、あるいは醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiのみを「醤油酵母」と呼ぶべきだと主張する専門家もいる(森治彦:醸協、96(7)、475−482 (2001)、森治彦:醸協、96(8)、535−541 (2001))。 いずれにせよ、上記した、分類学的にはわずか2属2種ないしは3種程度の醤油酵母が仕込み工程の醤油諸味中で増殖して、エタノールや香気成分を生産する事で、醤油の特徴的な味や香りがつくりあげられると言っても過言ではなく、さらに(醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiと熟成酵母(または後熟酵母)であるCadida属酵母とをひとまとめにして「醤油酵母」と呼ぶ事が多いものの)醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiが醤油の品質に及ぼす影響は、熟成酵母(または後熟酵母)であるCandida属酵母が及ぼす影響に較べると、「遥かに」大きい。味噌における発酵の主体もZ.rouxiiであり、長熟発酵型の味噌の場合には、これに熟成酵母(または後熟酵母)であるCandida属酵母などが加わってくる(山里一英・宇田川俊一・児玉徹・森地敏樹(編):微生物の分離法、p286−292(好井久雄(著))、R&Dプランニング (1986))。 そのため、[A]味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)中の味噌・醤油主発酵酵母であるZ.rouxii株のみに注目し、このZ.rouxii株と、Candida属酵母など、Z.rouxii以外の酵母株とを判別(または区分け)する事は、味噌・醤油醸造工程及び製品などの品質管理上きわめて重要な事であり、これらを判別(または区分け)する方法は産業上有用である。 Z.rouxiiが分離されるのは、味噌・醤油の製造工程における仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)や製品(である味噌・醤油)だけではない。「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外にも、たとえばしば漬や千枚漬、たくあん漬、ぬかみそ漬、味噌漬、奈良漬、福神漬などの漬物、フナやハゼなどの甘露煮、ソース、ごまだれ、ドレッシングなどの調味料、蜂蜜、糖蜜やシロップ、さらには鶯餅(うぐいすもち)、最中(もなか)、ぜんざい、ババロア、モンブラン、エクレア、シュークリーム、パウンドケーキ、ショートケーキといった和洋菓子など、高濃度の糖質を含む、浸透圧の高い食品などからも、Z.rouxiiは分離される。ただし、このような「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外でのZ.rouxiiの分離例の大半は、あくまで食品に混入した「汚染酵母」としての事例(ケース)である(内藤茂三:醤研、33(5)、349−362 (2007)、内藤茂三:食衛誌、49(1)、J1−8 (2008))。 味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株と、たとえば蜂蜜や和洋菓子など、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の「分離源」から分離された株とは、現行の分類では、区別される事なく、ともにZ.rouxiiに分類されている。そもそも、Z.rouxiiの基準株(type strain)であるCBS732株(=ATCC2623株=BCRC21506株=DBVPG6187株=IFO1130株=MUCL30254株=NBRC1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)も、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)からではなく、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪(かもろみ))(concentrated black−grape must)から分離された株である。 このZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)は、「高濃度の食塩(NaCl)を含む味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された株であるために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株に較べると、耐塩性能が明らかに弱い。Pribylovaらのグループは、この黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)と味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)との特徴(=表現形質)を比較してみたところ、味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)はグリセロール(glycerol)の資化性能を有するが、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)はグリセロール資化性能をほとんど持っておらず、ATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)は塩化ナトリウム(NaCl)を含む培地で培養した場合に細胞内のグリセロール量が上昇するが、ATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)では上昇せず、塩化ナトリウム(NaCl)や塩化リチウム(LiCl)に対する耐性能もATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)のほうがATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)よりもはるかに強かったと報告している(L.Pribylova,J.de Montigny and H.Sychrova:Yeast,24(3),171−180 (2007))。これは、このCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)に限った話ではない。一般的に、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の耐塩性能は、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株のそれに較べると弱い(内藤茂三:醤研、33(5)、349−362 (2007))。 酵母分類・同定の聖書とされる”The yeasts,a taxonomic study”の初版(J.Lodder and N.J.W.Kreger−Van Rij,North−Holland Pubishing Company,Amsterdam (1952))や、また”Yeasts,characteristics and identification”の初版(J.A.Barnett,R.W.Payne,D.Yarrow(eds.),Cambrigde University Press (1983))では、そもそもZ.rouxiiの分類キーに(50%、あるいは60%のD−グルコース(またはぶどう糖(glucose))存在下での生育といった、耐糖性能に関する項目は加えられていたものの)10%、あるいは16%塩化ナトリウム(NaCl)存在下での生育といった耐塩性能に関する項目が加えられていなかった。こうした耐塩性能に関する項目が分類キーに加えられたのは随分後になってからの事であり、たとえば”Yeasts,characteristics and identification”の場合には、3版(J.A.Barnett,R.W.Payne,D.Yarrow(eds.),Cambrigde University Press (2000))から、耐塩性能に関する2項目が分類キーに追加されたものの、(同書p798の)うち[O6]10%塩化ナトリウム(NaCl)存在下での生育については「可(+)」としながら、[O7]16%塩化ナトリウム(NaCl)存在下での生育については「可または不可(+,−)」と記されているのは、既にZ.rouxiiに区分けされ、しかも基準株でもあるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)自体が「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された株であり、その耐塩性能も弱かったためであ(ろうと思われ)る。つまり、現在の分類でZ.rouxiiに分類される株群は、高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応能力が高い「耐塩性酵母(Salttolerant yeast(s))」ではなく、高濃度の「糖質や食塩(NaCl)」を含む環境への適応能力が高い「耐浸透圧性酵母(Osmotolerant yeast(s))」なのであり、それゆえにその株群の中には「耐塩性能の強い株と弱い株とが混在している」のである。 醤油醸造設備技術の発達に伴い、近年では仕込み用の、屋外型の大型発酵タンクを利用する事例(ケース)が大手の醤油メーカーを中心に増えてきているが、このような設備で安定した品質の醤油を醸造するためには、仕込み後約1ヶ月、醤油諸味のpHが5.0〜5.3ぐらいの状態での、醤油酵母(=種酵母)の人為的な接種(または添加)作業が必要不可欠となる(栃倉辰六郎(編著):増補 醤油の科学と技術、p142−146(門脇清(著))、日本醸造協会 (1994))。そのためには、接種用種酵母に相応しい酵母株を取得する必要があるが、味噌・醤油醸造に利用する味噌・醤油酵母の実用株は、専ら味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株群の中から選び出される。これは、味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株の耐塩性能が、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株のそれよりも強いために、これらの株のほうが高濃度の食塩(NaCl)を含む味噌・醤油諸味中で旺盛に増殖し、エタノール発酵を行なってくれるからである。 古い事例(ケース)としては、たとえば矢内らのグループが醤油諸味のエタノール発酵を増強させるための試験で用いた添加用種酵母株も醤油諸味からの分離株であったというらしい(矢内次郎、瀧田啓三、雨宮清司:調味科学、3(4)、18−22 (1955))。こうした傾向は最近でもまったく変わってはおらず、たとえば三輪らのグループが再仕込醤油用の優良な種酵母株を分離するのに用いた分離源も島根県の醤油工場9社の再仕込醤油諸味(三輪昭生、伊藤寛、姫野国夫、新国佐幸:醤研、15(3)、86−92 (1989))、安藤らのグループが(醤油諸味を低温管理して)淡い色の醤油をつくるために選択した低温発酵性酵母(安藤義則、亀澤浩幸、下野かおり、日高修、狩行勲:低温発酵性酵母(特許5145508)のk8株(受託番号FERM P−21301)を含む)を分離するのに用いた分離源も鹿児島県内の味噌・醤油工場から収集した味噌・醤油諸味や生揚げ醤油であり(安藤義則、狩行勲、亀澤浩幸、下野かおり、高峯和則、日高修:鹿児島県工業技術センター、20、5−9 (2006))、またたとえば秋田県味噌醤油工業協同組合が配布している「秋田香酵母ゆらら(登録商標)」や、仙台味噌用酵母「まろい」(高橋清:醸協、92(4)、241−250 (1997))などの実用味噌酵母株も、味噌から分離された株である(渡辺隆幸:醸協、93(1)、22−27 (1998))。 このような「醸造食品の製造に利用するための有用微生物を同じ分離源、すなわちその醸造食品ないしはその仕掛品から分離する」というやりかたは、珍しい事ではなく、味噌や醤油に限らず、清酒や焼酎、ワイン(または葡萄(ぶどう)酒)など、醸造・発酵食品全般で見られるものである。 Z.rouxiiに分類される酵母群の場合と同様に、現行の分類でS.cerevisiaeに分類される酵母群の中にも、「清酒酵母」や「焼酎酵母(泡盛酵母を含む)」と呼ばれる、日本酒(または清酒)や焼酎(泡盛を含む)の醸造に利用するのに便利な特徴(=表現形質)を持つ株群、「ワイン酵母」と呼ばれる、ワインの醸造に利用するのに便利な特徴(=表現形質)を持つ株群、「ビール酵母」、厳密には発酵中に細胞が麦汁の表面に浮かび上がってくるという特徴を示す事から「上面発酵ビール酵母(top−fermenting yeasts)」と呼ばれる、いわゆる「エール(Ale)」や「スタウト(Stout)」、「アルト(Alt)」、「ヴァイツェン(またはバイツェン(Weizen))」、「トラピスト(Trappist)」などの上面発酵ビール醸造(独立行政法人酒類総合研究所(著):うまい酒の科学 ―造り方から楽しみ方まで、酒好きなら読まずにいられない、ソフトバンク クリエイティブ (2007))に利用するのに便利な特徴(=表現形質)を持つ株群、「パン酵母」と呼ばれる、パン生地の発酵に利用するのに便利な特徴(=表現形質)を持つ株群、あるいはこのような発酵・醸造食品産業に利用するのには不向きだが、研究目的でよく用いられる株群(注:以下、実験室酵母、または実験室酵母株群と呼ぶ)などが混在している。 たとえば、清酒酵母は発見当初は「文字通り」、Saccharomyces sake Yabe(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・サケ・ヤベ。以下、S.sakeと略す)、泡盛酵母もSaccharomyces awamori INUI(サッカロミセス・アワモリ・イヌイ)、またビール酵母については、イギリスの醸造場から単離された上面発酵ビール酵母はS.cerevisiae、(ビールの)発酵が進むと発酵タンク(の中の麦汁)の底に細胞が沈むという特徴を示す「下面発酵ビール酵母(bottom−fermenting yeasts)」のほうは分離されたデンマークの「カールスバーグ(Carlsberg)醸造場」に因んで、いわば「Carlsberg醸造場(または地方)のSaccharomyces属酵母株」という意味の(語尾に−ensisを付してラテン語化した)Saccharomyces carlsbergensis Hansen var.carlsbergensis(=サッカロミセス・カールスバーゲンシス・ハンセン・バリエタス・カールスバーゲンシス。以下、S.carlsbergensisと略す)、さらにワイン酵母に至っては、その分離源や株ごとの微妙な特徴(=表現形質)の違いに応じてS.cerevisiaeやSaccharomyces capensis(サッカロミセス・キャペンシス(またはカペンシス))、Saccharomyces chevalieri(サッカロミセス・チェバリエリー)、Saccharomyces italicus(サッカロミセス・イタリカス)、Saccharomyces bayanus(=サッカロミセス・バヤヌス。以下、S.bayanusと略す)、Saccharomyces heterogenicus(サッカロミセス・ヘテロジニカス)、Saccharomyces uvarum(サッカロミセス・ウバルム)などと命名されたが(飯塚廣・後藤昭二(著):酵母の分類同定法、p122−123、東京大学出版会 (1969)、清酒酵母研究会(編):清酒酵母の研究 ―80年代の研究―、p30−44(工藤哲三・西谷尚道(著))及びp44−55(後藤昭二(著))、p101−110(吉田清(著))、清酒酵母研究会 (1992))、現行の分類ではこれらの種の大半がS.cerevisiaeという1属1種に区分けされている。 なお、上記のワイン酵母のうち、S.heterogenicusやS.globosus(サッカロミセス・グロボウサス)は、現在は(S.cerevisiaeではなく)S.bayanusに区分けされている。また、下面発酵ビール酵母についても、一時はSaccharomyces uvarum(サッカロミセス・ウバラム)(J.Lodder(ed.):The yeasts,a taxonomic study(2nd ed.),North−Holland Publishing Company,Amsterdam (1970))や、あるいはS.cerevisiaeに分類すべきとの意見も出されたものの(D.Yarrow:Saccharomyces Meyen ex Ress.,pp379−395 In:N.J.K.Kreger van Rij(ed.):The yeasts,a taxonomic study(3rd ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1984))、その後の染色体長多型(または電気泳動的核型)の比較(G.P.Casey,W.Xiao and G.H.Rank:J.Inst.Brew.,94(4),239−243 (1988)、Y.Takata,J.Watari,N.Nishikawa and K.Kamada:J.Am.Soc.Brew.Chem.,47,109−113 (1989)、M.Kishimoto and S.Goto:J.Gen.Appl.Microbiol.,41(3),239−247 (1995))、染色体DNA−DNA再会合(またはDNA−DNA分子交雑(DNA−DNA reassociation)、DNA−DNAハイブリッド形成、DNA−DNAハイブリダイゼーション(DNA−DNA hybridization))試験(A.V.Martini and C.P.Kurtzman:Int.J.Syst.Bacteriol.,35(4),508−511 (1985)、A.V.Martini and A.Martini:Antonie van Leewenhoek,53(2),77−84 (1987))やマイクロプレート−ハイブリダイゼーション法(microplate−hybridization method)でのDNA類似性調査などの結果から(M.kishimoto,E.Soma and S.Goto:J.Gen.Appl.Microbiol.,40(2),83−93 (1994))、さらにはたとえばホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(homoserine acetyltransferase)遺伝子(MET2)(J.Hansen and M.C.Kielland−Brandt:Gene,140(1),33−40 (1994))やアルコールアセチルトランスフェラーゼ(alcohol acetyltransferase(AATase))遺伝子(ATF1)(T.Fujii,H.Yoshimoto,N.Nagasawa,T.Bogaki,Y.Tamai and M.Hamachi:Yeast,12(6),593−598 (1996))、エンドヌクレアーゼ(endonuclease)遺伝子(HO)(Y.Tamai,K.Tanaka,N.Umemoto,K.Tomizuka and Y.Kaneko:Yeast,16(14),1335−1343 (2000))、分枝鎖アミノ酸パーミアーゼ(branched−chain amino acid pemiase)遺伝子(BAP2)(Y.Kodama,F.Omura and T.Ashikari:Appl.Environ.Microbiol.,67(8),3455−3462 (2001))など、個別の遺伝子を調べた結果からも、S.cerevisiae由来の(S.cerevisiaeが持つ遺伝子と相同、あるいは類似性が高い)遺伝子(Sc型遺伝子)だけでなく、(S.cerevisiaeが持つ遺伝子との類似性は80%前後とやや低く)S.bayanusないしはSaccharomyces pastorianus(=サッカロミセス・パストリアヌス。以下、S.pastorianusと略す)が持つ遺伝子と相同、あるいは類似性が高い事からこれらの酵母に由来するものと見られる遺伝子(非Sc型遺伝子(またはNon−Sc型遺伝子))も持っている事が判明したため、それゆえに現在は(S.cerevisiaeではなく)S.cerevisiaeとS.bayanus(ないしはその近縁種)との交雑によって生まれた(不安定な)種間雑種(が、さらに乗換え(cross(ing) over)や消失(gene loss and/or chromosome loss)などによる染色体の再編成(rearrangement)(S.Casaregola,H.−V.Nguyen,G.Lapathitis,A.Kotyk and C.Gaillardin:Inter.J.System.Evolut.Microbiol.,51(4),1607−1618 (2001))を起こした異種(高次)倍数体株(allopolyploid)だとされ(Y.Tamai,T.Momma,H.Yoshimoto and Y.Kaneko:Yeast,14(10),923−933 (1998)、Y.Tamai,K.Tanaka,Y.Kaneko and S.Harashima:Appl.Microbiol.Biotechnol.,55(3),333−340 (2001)、Y.Kodama,F.Omura and T.Ashikari:Appl.Environ.Microbiol.,67(8),3455−3462 (2001))、現行の分類ではS.pastorianusとして取り扱われている(清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p158−161(尾形智夫(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003)、大隅良典・下田親(編):酵母のすべて ―系統・細胞から分子まで―、p97−102(児玉由紀子(著))、シュプリンガー・ジャパン (2007)(注:現在は丸善出版から再出版されている)、久保田寛、中尾嘉宏:醸協、105(1)、8−15 (2010))。2009年には、ラガービール酵母(the Lager brewing yeast(s)(注:下面発酵ビール酵母を用いるビール醸造では、酵母発酵後の麦汁をさらに低温下で貯蔵熟成させ、製品として仕上げるために、こうした製法でつくるビールは「貯蔵」を意味するドイツ語の「ラガー」を付けて「ラガービール(Lager beer)」と呼び、こうした醸造に用いる下面発酵ビール酵母を「ラガービール酵母」と呼ぶ(中尾嘉宏:化学と生物、43(9)、559−561 (2005)))であるWeihenstephan(バイヘンステファン)34/70株の全ゲノム配列(25Mb)が解読され、その結果からも上記の「両種の種間雑種である」との説が正しい事が確認された(Y.Nakao,T.Kanamori,T.Itoh,Y.Kodama,S.Rainieri,N.Nakamura,T.Shimonaga,M.Hattori and T.Ashikari:DNA Res.,16(2),115−129 (2009))。 醸造・発酵食品の製造工程におけるその仕掛品という環境は、低温ないしは零下(または冷凍)で、嫌気的で、時には乾燥にも晒され、しかも環境中の栄養成分は偏っており、さらには高濃度の糖質(による高浸透圧)やアルコールなどを含む場合もある、非常に過酷なストレス環境である。それゆえに、このような環境で働く事が求められるS.cerevisiae株、すなわち実用株(または種酵母株)には、このような環境ストレスに対する適応能力が求められる(B.R.Gibson,S.J.Lawrence,J.P.R.Leclaire,C.D.Powell and K.A.Smart:FEMS Microbiol.Rev.,31(5),535−569 (2007)、島純、安藤聡、中村敏英:日食工誌、57(6)、225−231 (2010))。 しかも、醸造・発酵食品産業分野で利用されるS.cerevisiaeに求められる特徴(=表現形質)は、その醸造・発酵食品ごとに大きく異なる。たとえば、清酒醸造の場合には、酵母による発酵は15℃以下という低温条件の醪(もろみ)の中で行なわれ、しかも20%近いアルコールを生産させる必要があるため、清酒酵母には少なくとも低温条件下でも旺盛に生育できる能力や、他のS.cerevisiae株には見られない、高濃度のエタノールを生産する能力が求められる(藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p155−161(矢野俊博(著))、幸書房 (2001))。ビールは、麦芽(や副原料)を糖化して製造した麦汁を酵母発酵させたものであり、その麦汁中の主要な糖はマルトース(maltose)やマルトトリオース(maltotriose)である事から、ビール酵母には他のS.cerevisiae株よりも高い、これらの糖の同化(または資化)性能/発酵性能が求められる。また、ワインを醸造する場合には、細菌や野生酵母の増殖を抑制するために、搾った葡萄果醪(=粗果汁)に亜硫酸(注:厳密には「ピロ亜硫酸カリウム」、通称:メタカリ)を添加するのが一般的であり、それゆえにワイン酵母には低温条件下で生育してエタノールを生産する能力の他に、さらにワインの醸造工程で混入してくる細菌や野生酵母よりも高い亜硫酸耐性能も要求される(大隅良典・下田親(編):酵母のすべて ―系統・細胞から分子まで―、p311−315(下飯仁(著))、シュプリンガー・ジャパン (2007)(注:現在は丸善出版から再出版されている)、下飯仁:食品工業、50(7)、56−61 (2007)、加藤拓、下飯仁:醸協、105(8)、500−506 (2010))。パン生地の原料は、小麦粉と食塩(NaCl)、ショ糖(スクロース(sucrose)、またはサッカロース(saccharose))などであるが、特に菓子パン用の生地の場合には、小麦粉当たり20〜40%ものショ糖が加えられるため、このような高濃度の糖質を含むパン生地の中でも旺盛な発酵を行なうパン酵母には、強い耐糖性能が求められる。さらに、最近のパン製造では、種酵母として「乾燥酵母(ドライイースト)」を用い、また製造途中のパン生地を−20℃程度で冷凍保存したりする事もあるため、強い乾燥耐性能や冷凍耐性能なども求められる(島純:食品と技術、447(2008−09)、11−18 (2008))。 そのため、現行の分類でS.cerevisiaeに分類されているすべての酵母株が、清酒醸造やワイン醸造、ビール醸造、あるいはパン生地の発酵に利用できる訳ではない。たとえば、ビール酵母であるS.cerevisiae株や実験室酵母であるS.cerevisiae株で(低温条件下の醪の中で高濃度のエタノールを生産させて)清酒を醸造したり、焼酎酵母であるS.cerevisiae株でパン生地を発酵させてパンをつくったりする事は難しい。竹田らのグループは、さまざまな酵母を用いた清酒醪の発酵性試験の結果について報告しているが、20%以上のエタノールを生産したのは清酒酵母と焼酎酵母だけであり、ビール酵母やワイン酵母にはこのような高濃度のエタノール生産性能がなく、清酒醸造に不向きだったという(竹田正久、中里厚実、塚原寅次:発酵工学、60(3)、137−144 (1982)、竹田正久、中里厚実、塚原寅次:発酵工学、61(4)、201−205 (1983))。実験室酵母であるS.cerevisiae株の、清酒醪中でのエタノール生産性能はせいぜい10%強に過ぎないという(渡辺大輔:化学と生物、50(10)、723−729 (2012))。また、向井らは、ビール酵母だけでなく、清酒酵母やワイン酵母なども用いた小規模の麦汁(マッシュ(mash))発酵性試験を行なってみたところ、いずれの酵母でもビールを醸造する事は可能だったが、清酒酵母やワイン酵母ではビール酵母に較べて(マルトース同化(または資化)性能/発酵性能が弱いために)主発酵の期間が長くなり、真正発酵度も高くはならず(しかも清酒酵母の場合にはエステル香が、またワイン酵母の場合には酸味とフェノール臭が強くなり)、効率的かつ安定的にビールを製造するうえでは問題が生じる可能性があると報告している(向井伸彦、岡田明彦、鈴木昭紀、高橋利郎:醸協、93(12)、967−975 (1998))。 つまり、現行の分類ではS.cerevisiaeという1属1種の中に分類されている酵母株群の中で、清酒醸造で求められる、さらには清酒醸造に望ましい特徴(=表現形質)を持ったS.cerevisiae株だけが「清酒酵母」と呼ばれ、またワイン醸造で求められる、さらにはワイン醸造に望ましい特徴(=表現形質)を持ったS.cerevisiae株だけが「ワイン酵母」と呼ばれ、ビール醸造で求められる、さらにはビール醸造に望ましい特徴(=表現形質)を持ったS.cerevisiae株だけが「ビール酵母」と呼ばれているのである(R.Y.スタニエ(Stanier)・E.A.エーデルバーグ(Adelberg)・J.L.イングラム(Ingraham)(共著)/高橋甫・斎藤日向・手塚泰彦・水島昭二・山口英世(訳):微生物学(下)(原書第4版)(THE MICROBIAL WORLD;4th edition)、p473−478、培風館 (1978))。ただ、S.cerevisiaeという同属同種内に区分けされる株群における、株ごとのそうした特徴(=表現形質)の違いは、上記した通り、非常に大きく、それゆえに、たとえば清酒酵母(旧:S.sake)をS.cerevisiaeに再分類する際にも、その余りにも異なる特徴(=表現形質)を根拠に、独立した種とすべきではないかとの意見も出たという(竹田正久、塚原寅次:醗工、53(3)、103−111 (1975))。 まず、1996年に、ヨーロッパを中心に、アメリカやカナダ、日本などをも含む100以上の研究室が参加する巨大プロジェクトの形で、S.cereviiae S288C株の全ゲノム配列(注:16本の染色体から構成される約13.4Mb)が解読されて(A.Goffeau,B.G.Barrel,H.Bussey,R.W.Davis,B.Dujon,H.Feldmann,F.Galibert,J.D.Hoheisel,C.Jacq,M.Johnston,E.J.Louis,H.W.Mewes,Y.Murakami,P.Philippsen,H.Tettelin and S.G.Oliver:Science,274(5287),546−567 (1996))、ゲノム上の遺伝子の塩基配列やこれらの遺伝子の染色体上の配置などの情報が公開され(Saccharomyces Genome Detabase(SDG)は、http:www.yeastgenome.org/を参照)、その後も次々とS.cerevisiaeに分類される株のゲノム解読が進んだ事で、S.cerevisiaeの分子生物学的な研究が急速に進展したが、最近のこうした研究の成果によると、同じS.cerevisiaeに分類されているこれらの酵母株のゲノムは非常によく類似しており、その違いは塩基数で数%程度でしかないとされる。 たとえば、日本では、独立行政法人酒類総合研究所、財団法人日本醸造協会、10の大学、6つの公的試験研究機関、9社の酒造メーカーから構成される産官学共同のゲノム解析コンソーシアムと独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation(NITE))の共同研究により、現行の分類ではS.cerevisiaeに分類されている、清酒酵母である「きょうかい7号(a sake yeast strain Kyokai no.7(K7))」の全ゲノム配列が解読され、その情報は公開されているが(Sake Yeast Genome Database(SYGD)(http://nribf1.nrib.go.jp/SYGD/))、第5染色体と第14染色体の一部に逆位があり、複数の染色体の末端付近や、また(酵母の)トランスポゾン(transposon (of) yeast(Ty))の分布などにも違いが認められたものの、それらの点を除けば、上記のS288C株のゲノム情報とほぼ対応していて、塩基配列レベルでの一致度は96.2%、多くの遺伝子が99%以上、ほとんどの遺伝子が98%以上という高い類似性を示しているという(下飯仁、藤田信之:化学と生物、45(8)、539−543 (2007)、下飯仁、赤尾健、渡辺大輔:生物工学、89(9)、532−535 (2011)、T.Akao,I.Yashiro,A.Hosoyama,H.Kitagaki,H.Horikawa,D.Watanabe,R.Akada,Y.Ando,S.Harashima,T.Inoue,Y.Inoue,S.Kajiwara,K.Kitamoto,N.Kitamoto,O.Kobayashi,S.Kuhara,T.Masubuchi,H.Mizoguchi,Y.Nakao,A.Nakazato,M.Namise,T.Oba,T.Ogata,A.Ohta,M.Sato,S.Shibasaki,Y.Takatsume,S.Tanimoto,H.Tsuboi,A.Nishimura,K.Yoda,T.Ishikawa,K.Iwashita,N.Fujita and H.Shimoi:DNA Res.,18(6),423−434 (2011)、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性II、p129−139(下飯仁(著))、シーエスシー出版 (2011))。 つまり、清酒・焼酎の醸造に用いる清酒酵母・焼酎酵母(泡盛酵母を含む)やワイン醸造に用いるワイン酵母も、さまざまな研究に用いられる実験室酵母も、これらの酵母はすべて、現行の分類では同じS.cerevisiaeという1属1種に分類されており、しかも各々の酵母株群のゲノムも非常によく似てはいるものの、それぞれの酵母群が持つ特徴(=表現形質)はそのゲノム上のほんのわずかの塩基の違いに基づいて大きく異なっており、しかもそのそれぞれの特徴(=表現形質)の一部は「醸造特性」として、その酵母株を醸造産業で利用した際の製品の出来栄え(または品質)や生産性(または生産効率)に大きな影響を及ぼすものである。 たとえば、現行の分類ではS.cerevisiaeに分類されている清酒酵母株は、現行の分類では同じくS.cerevisiaeに分類されている実験室酵母株などと較べると、低温条件下での生育能が強く、清酒醪中で20%近く、ないしはそれ以上という、高濃度のエタノールを生産する能力、すなわち醸造特性を持っており、その高いエタノール生産性能については、古くから精力的に研究されてきた。そして、そうした研究を通して、エタノール生産性能のより高い株を取得するためのさまざまな方法も開発された。 たとえば、クロトリマゾール(clotrimazole)は、エルゴステロールの生合成を阻害したり、あるいは細胞膜の不飽和脂肪酸に結合して、膜構造を破壊したりする事で、真菌(酵母を含む)の生育を阻害するイミダゾール系抗真菌剤だが(H.Yamaguchi:Antimicrob.Agents Chemother.,12(1),16−25 (1977)、H.Van Den Bosschea,G.Willemsensa,W.Coolsa,W.F.J.Lauwers and L.Le Jeune:Chem.Biol.Interactions,21(1),59−78 (1978))、このクロトリマゾールに対する耐性能を獲得した変異株(CTZ239株)は、醪期間全体を通して高い発酵性能を示す事が見出されており(清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p86−90(渡辺睦(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003))、このクロトリマゾール耐性能を指標に「高いエタノール生産性能を持つ株」を取得する方法は特許出願もされている(広畑修二、渡辺睦、山下伸雄:アルコール耐性の高い酵母の育種方法とその酵母菌株およびそれを用いた清酒の製造方法、特開平6−205667)。また、トリコセシン(trichothecin)(H.Fukuda,S.B.Park,Y.Kizaki and K.Takahashi:World J.Microbiol.Biotechnol.,15(5),629−630 (1999)、福田央、木崎康造、高橋康次郎:高アルコール生産酵母の育種、特許3069679)やアニソマイシン(anisomycin)(福田央、荒巻功:発酵速度を増大させた酵母の育種、特許3069689)、オリゴマイシン(oligomycin)(福田央、木崎康造:高濃度アルコール含有もろみを製造する酵母の育種法、特許3026200)に対する耐性能を獲得した変異株を用いて醸造した清酒のアルコール濃度も高くなる事が報告されている。 グルコース類縁体(アナログ(analog(ue)))である2−デオキシ−D−グルコース(2−deoxy−D−glucose(2−DG))に対する耐性能を獲得した変異株は、カタボライト抑制(catabolite repression)が解除されていて、糖の取り込み機能が亢進し、エタノール発酵速度が速い、あるいはエタノール生産性能が高い事が見出され(G.G.Stewart,R.Jones and I.Russell:European Brewry Convention,Proceedings of the 20th Congress,Finland,243−250 (1985)、R.M.Jones,I.Russell and G.G.Stewart:J.Am.Soc.Brew.Chem.,44,161−166 (1986)、S.Novak,T.D'Amore and G.G.Stewart:J.Ind.Microbiol.,7(1),35−39 (1991))、さまざまな醸造用酵母株の2−デオキシグルコース耐性株が作出された(森屋和仁:醸協、84(6)、389−391 (1989)、K.Moriya,H.Shimoi,S.Sato,K.Saito and M.Tadenuma:J.Ferment.Bioeng.,67(5),321−323 (1989))。 たとえば、水野らのグループも、ビール酵母であるS.cerevisiae NCYC1245株から2−デオキシグルコース耐性変異株(2DGR19株)を作出してみたところ、親株(NCYC1245株)よりもエタノール生産性能が高く(かつ酢酸生産性は低く)、小規模のビール醸造試験では、親株よりも(酢酸濃度は半分で、かつ)エタノール濃度が1.1%高いビールができたと報告している。この耐性変異株である2DGR19株では、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase(ADH))をコードしている4つの遺伝子(ADH1、ADH2、ADH3、ADH4)のうち、ADH4の転写レベルが親株よりも高く、それゆえにアルコールデヒドロゲナーゼ活性も高くなっていたという(A.Mizuno,H.Tabei and M.Iwahuti:J.Biosci.Bioeng.,101(1),31−37 (2006))。ただ、4つの遺伝子(ADH1、ADH2、ADH3、ADH4)にコードされているアルコールデヒドロゲナーゼのうち、清酒醪や麦汁中でのエタノール生産性能を左右する鍵となる酵素は、ADH1から構成的に生産されるアルコールデヒドロゲナーゼのはずである。また、清酒酵母であるきょうかい7号(K7)と実験室酵母X2180−1A株を用いた清酒の小仕込み試験(総米400g、三段仕込み)を行なってみたところ、本試験でもやはりX2180−1A株のエタノール生産性能はきょうかい7号(K7)よりも低かったものの、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)活性は、エタノール生産性能とは逆に、きょうかい7号(K7)のほうが低かったとの報告もある。清酒醪の中で比較的長期間に渡ってエタノールを生産し続けて、20%以上という高いエタノール濃度をつくり出すためには、高いエタノール生産速度は不必要、あるいはむしろ邪魔なのかも知れない(清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p67−71(大淵和彦(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003))。 また、清酒酵母による、こうした清酒醪中での高いエタノール生産性には、たとえば自らが生産した高濃度のエタノールを含む生育環境中でも(死滅せずに)生存し続ける能力を持っているという特徴も、重要な要素の1つとして関係しているものと考えられる。それゆえに、清酒酵母からのさらなるエタノール耐性変異株の作出に関する研究も古くから精力的に行なわれ、同様にイソアミルアルコール(及びエタノールを含む環境)(秋田修、渡辺隆幸、蓮尾徹夫、小幡孝之、原昌道:発酵工学、68(2)、95−100 (1990))やK1キラートキシン(朝田朝子、内村博文、今村武司:生物工学、78(3)、77−81 (2000))、窒素飢餓(伊野本真彦、山田修、五味勝也、飯村穣:醸協、93(3)、224−230 (1998))に対する耐性能などを指標にしてエタノール耐性能が高い株を取得する方法も開発された。たとえば、公益財団法人日本醸造協会から頒布されているきょうかい11号(K11)も、きょうかい7号(K7)から作出されたアルコール耐性変異株である。 エタノールによる酵母の細胞障害は、濃度依存的で、細胞膜など(の生体膜)の透過性が高まり、細胞質が酸性化する事で生じるとされる(島純、安藤聡、中村敏英:日食工誌、57(6)、225−231 (2010))。そのため、酵母のエタノール耐性能には、たとえば細胞膜成分のうちの、特に細胞膜の流動性に影響を及ぼす膜脂質中の不飽和脂肪酸(特にオレイン酸(oleic acid))(H.Mizoguchi and S.Hara:J.Ferment.Bioeng.,81(5),406−411 (1996)、T.M.Swan and K.Watson:Can.J.Microbiol.,45(6),472−479 (1999))やステロール(T.D’amore,C.J.Panchal,I.Russell,G.G.Stewart:Crit.Rev.Biotech.,9(4),287−304 (1989)、H.M.Walker−Caprioglio,W.M.Casey and L.W.Parks:Appl.Environ.Microbiol.,56(9),2853−2857 (1990)、H.Alexandre,I.Rousseaux and C.Charpentier:FEMS Microbiol.Lett.,124(1),17−22 (1994)、C.Novotny & F.Karst:Biotechnol.Lett.,16(5),539−542 (1994))、リン脂質(たとえば、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine)(P.Mishra & R.Prasad:J.Gen.Microbiol.,134(12),3205−3211 (1988))やホスファチジルイノシトール(phosphatidylinositol)(K.Furukawa,H.Obata,H.Kitano,H.Mizoguchi and S.Hara:J.Biosci.Bioeng.,98(2),107−113 (2004))など)、細胞内の浸透圧調節に関与するトレハロース(J.J.C.Mansure,A.D.Panek,L.M.Crowe and J.H.Crowe:Biochim.Biophys.Acta,Biomembrane,1191(2),309−316 (1994))やグリセロールなどの合成能が関係しているものと見られ、特に酵母株のエタノール耐性能に及ぼす細胞膜成分の影響に関する研究については古くから精力的に進められてきた。 たとえば、酵母の細胞膜に含まれるエルゴステロール(ergosterol)は、細胞膜の流動性に影響を及ぼし、エタノールに対する抵抗性を付与する成分として知られている。酵母株をエタノール存在下で培養すると、(生体外(in vitro)試験では、ステロール合成の鍵となる酵素である3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムAリダクターゼ(3−hydroxy−3−methylglutaryl(HMG) Coenzyme A reductase)の活性がエタノールによって減少する事が見出されており)細胞膜のステロール含量は減少するものの、ステロール中に占めるエルゴステロール量は増加する事が知られており(H.M.Walker−Caprioglio,W.M.Casey and L.W.Parks:Appl.Environ.Microbiol.,56(9),2853−2857 (1990))、たとえば清酒酵母であるS.cerevisiae SY−32株の、エルゴステロールの合成に関わる酵素群のうちの1つであるS−アデノシルメチオニン:△24−ステロール−C−メチルトランスフェラーゼ(S−adenosylmethionine:delta 24−sterol−C−methyltransferase)をコードしている遺伝子(ERG6)の欠損株は、親株(=SY−32株)に較べて細胞内のエルゴステロール量が少なく、エタノール感受性を示す事が報告されている(T.Inoue,H.Iefuji,T.Fujii,H.Soga and K.Satoh:Biosci.Biotechnol.Biochem.,64(2),229−236 (2000))。現行の分類でS.cerevisiaeに分類されている清酒酵母のきょうかい7号(K7)やきょうかい9号(K9)では、実験室酵母であるS.cerevisiae X2180株(ないしはX2180−1A株)に較べて、この「エルゴステロールの合成及び輸送に関与する酵素・蛋白質群」をコードしている遺伝子群(ERG13、HMG1、ERG20、ERG24、ERG26、ERG2、ERG3、ERG5、ERG28)の発現量が高く、それゆえにエルゴステロール量も高い事が見出されている(M.Shobayashi,S.Mitsueda,M.Ago,T.Fujii,K.Iwashita and H.Iefuji:Biosci.Biotechnol.Biochem.,69(12),2381−2388 (2005))。きょうかい7号(K7)では脂肪酸の不飽和化反応を触媒する△9 脂肪酸デサチュラーゼ(△9 fatty acid desaturase)をコードしている遺伝子(OLE1)も高発現しているとの報告もある(T.Yamada,H.Shimoi and K.Ito:J.Biosci.Bioeng.,99(5),512−516 (2005))。実験室酵母であるX2180株では、エルゴステロール合成系遺伝子群(HMG1など)の発現に影響を及ぼす転写因子をコードしている遺伝子(HAP1)の3’−末端付近に「(酵母の)トランスポゾン1(transposon yeast 1(Ty1))」が入り込んでいるために、この遺伝子からつくられる転写因子(Hap1)の活性が低下しているという(K.Tamura,Y.Gu,Q.Wang,T.Yamada,K.Ito and H.Shimoi:J.Biosci.Bioeng.,98(3),159−166 (2004))。ただし、この実験室酵母のHAP1をきょうかい7号(K7)のHAP1で置き換えると、細胞内のエルゴステロール量はきょうかい7号(K7)並みにまで回復する(ため、両株におけるこのHap1活性の違いが両株におけるエルゴステロール合成・輸送系遺伝子の発現量の違いを生み出している原因だと見られる)ものの、それでもエタノール耐性能までは改善されず、それゆえに酵母株のエタノール耐性能には(こうした遺伝子も含む)複数の遺伝子が関与しているものと見られている(下飯仁:食品工業、50(7)、56−61 (2007))。S.cerevisiaeのエタノール耐性能には、少なくとも256個以上の遺伝子が関与しているとの報告もある(S.Kubota,I.Takeo,K.Kume,M.Kanai,A.Shitamukai,M.Mizunuma,T.Miyakawa,H.Shimoi,H.Iefuji and D.Hirata:Biosci.Biotechnol.Biochem.,68(4),968−972 (2004))。上記した通り、エルゴステロールの生合成を阻害する作用を持つイミダゾール系抗真菌剤であるクロトリマゾールに対する耐性能を獲得した、きょうかい1001号(K1001)の耐性変異株(=CTZ239株)は、親株(K1001)よりも高いエタノール発酵性能を示し、しかもABC(ATP binding cassette)トランスポーターの発現が亢進しているために(細胞内のATPレベルが低く(渡辺睦:生物工学、80(2)、57−63 (2002))、多剤耐性も示したものの、なぜかエタノールに対する耐性能については(親株(K1001)と同程度で)向上していなかったという(広畑修二、渡辺睦、西村顕、近藤恭一:生物工学、72(4)、283−289 (1994))。 酵母の細胞内のトレハロースについては、細胞の乾燥耐性能、あるいは冷凍耐性能との関係から調べた報告が多いものの(A.Hino,K.Mihara,K.Nakashima and H.Takano:Appl.Environ.Microbiol.,56(5),1386−1391 (1990)、J.Shima,A.Hino,C.Yamada−Iyo,Y.Suzuki,R.Nakajima,H.Watanabe,K.Mori and H.Takano:Appl.Environ.Microbiol.,65(7),2841−2846 (1999))、エタノール耐性能にも影響を及ぼすものと見られており、たとえば細胞内のトレハロース含量の異なる数種類の酵母株の10%エタノール存在下での生存能力を調べてみたところ、トレハロース含量の多い株ほど生存能力が高かったとのMansureの報告(J.J.C.Mansure,A.D.Panek,L.M.Crowe and J.H.Crowe:Biochim.Biophys.Acta,Biomembranes,1191(2),309−316 (1994))や細胞内のトレハロースの加水分解に関与する酵素の1つである酸性トレハラーゼ(acid trehalase)をコードしているATH1の破壊株は、野生株よりも細胞内のトレハロース含量が高く、18%エタノール存在下での生存能力も高く、(清酒醪のように)20〜35%のグルコースを含む高浸透圧培地中でのエタノール生産性能も高かったとのKimの報告などがある(J.Kim,P.Alizadeh,T.Harding,A.Hefner−Gravink and D.J.Klionsky:Appl.Environ.Microbiol.,62(5),1563−1569 (1996))。上記の、熱ショック蛋白質Hsp12pにも、細胞膜に局在して、細胞膜を保護する働きがあるとされ、Hsp12をコードしている遺伝子(HSP12)の破壊株を作出してみたところ、エタノールに対する感受性が増し、10%以上のエタノール存在下での死滅率が劇的に高かったとの報告もある(K.Sales,W.Brandt,E.Rumbak and G.Lindsey:Biochim.Biophys.Acta,Biomembranes,1463(2),267−278 (2000))。きょうかい701号(K701)から作出したエタノール耐性株を調べてみたところ、やはりストレス関連遺伝子群やトレハロース合成に関与するTPS1、TPS1などの遺伝子を高発現しており、細胞内に高濃度のグリセロールやトレハロースを蓄積していたという報告もある(Y.Ogawa,A.Nitta,H.Uchiyama,T.Imamura,H.Shimoi and K.Ito:J.Biosci.Bioeng.,90(3),313−320 (2000))。 酵母の細胞壁の組成及び構造も、細胞膜と同様に、その生育環境に応じて変化する事が知られており、エタノール耐性能にも関与するものと見られている。たとえば、Rossignolらによる、ワイン酵母のエタノール発酵過程におけるトランスクリプトーム解析の結果では、細胞内での細胞壁合成系の遺伝子(FKS1、GSC2、SSD1、MPT5など)の転写量が発酵の進行に伴って増加した事が報告されている(T.Rossignol,L.Dulau,A.Julien and B.Blondion:Yeast,20(16),1369−1385 (2003))。上記の、きょうかい7号(K7)から作出されたアルコール耐性変異株であるきょうかい11号(K11)は、(アルコールに対する耐性能だけでなく)K1キラートキシンや細胞壁溶解酵素ザイモリエイス(Zymolyase)(登録商標)に対する耐性能も示す事から、細胞壁の構造が変化している可能性が指摘されている(原昌道、佐々木雅晴、小幡孝之、野白喜久雄:醸協、71(4)、301−304 (1976))。 酵母細胞は、高濃度のエタノールや高浸透圧、熱ショックなどのストレスに晒されると、転写因子であるMsn2p及びMsn4pを介する形で、そのプロモーター領域にこれらの転写因子の結合モチーフ(stress response element(STRE))を持つ遺伝子群(general stress resposive genes)の発現が促される事が見出されている(北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性、p37−46(井沢真吾・井上善晴(著))、シーエムシー出版 (2006))。たとえば、ワイン酵母のエタノール発酵過程では、発酵の進行(=エタノール濃度の上昇)に伴ってこうした遺伝子群の転写量が増加する事が見出されており(C.Riou,J.−M.Nicaud,P.Barre and C.Gaillardin:Yeast,13(10),903−915 (1997)、S.Puig and J.E.Perez−Ortin:Yeast,16(2),139−148 (2000))、また清酒酵母から作出されたエタノール耐性変異株の中には、こうした遺伝子群の構成的な転写量の上昇が認められ、細胞内のトレハロースやグリセロールの濃度や、カタラーゼ活性などが高い状態にある株がいる事も報告されている(Y.Ogawa,A.Nitta,H.Uchiyama,T.Imamura,H.Shimoi and K.Ito:J.Biosci.Bioeng.,90(3),313−320 (2000))。きょうかい701号(K701)から作出された、高いエタノール耐性能を持つために醪末期でもエタノール発酵が衰えないK1キラートキシン耐性変異株であるSR4−3株(新田朝子、内山博文、今村武司:生物工学、78(3)、77−81 (2000))を詳細に調べた結果によると、たとえばヒートショック蛋白質Hsp12pをコードしているHSP12(J.C.S.Varela,U.M.Praekelt,P.A.Meacock,R.J.Planta and W.H.Mager:Mol.Cell.Biol.,15(1),6232−6245 (1995))やカタラーゼ((cytosolic)catalase)をコードしているCTT1(W.Spevak,F.Fessl,J.Rytka,A.Traczyk,M.Skoneczny and H.Ruis:Mol.Cell.Biol.,3(9),1545−1551 (1983)、T.Belazzi,A.Wagner,R.Wieser,M.Schanz,G.Adam,A.Hartig and H.Ruis:EMBO J.,10(3),585−592 (1991)、R.Wieser,G.Adam,A.Wagner,C.Schuller,G.Marchler,H.Ruis,Z.krawiec and T.Bilinski:J.Biol.Chem.,266(19),12406−12411 (1991))、グルセロール合成に関与するグリセロール 3−燐酸デヒドロゲナーゼ(glycerol−3−phosphate dehydrogenaseをコードしているGPD(K.Larsson,R.Ansell,P.Eriksson and L.Adler:Mol.Microbiol.,10(5),1101−1111 (1993))やトレハロース合成に関与するトレハロース−6−燐酸シンターゼ(trehalose−6−phosphate synthase(TPS)をコードしているTPS1やTPS2(A.Van Laere:FEMS Microbiol.Lett.,63(3),201−209 (1989))、培養後期に発現する細胞壁蛋白質をコードしているSPI1(S.Puig and J.E.Perez−Oritin:Yeast,16(2),139−148 (2000))など、生育環境からのストレスに応じて発現が誘導されるはずの遺伝子群が、ストレスのない生育環境下でも発現しており、しかもストレスをかけてやるとさらに発現量が増える事、そのために細胞内のトレハロースやグリセロールの濃度、カタラーゼ活性も高く、アルコールに対する耐性能だけでなく、他のさまざまなストレスにも耐性を示したという(清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p90−95(小川義明(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003))。きょうかい7号(K7)のエタノール耐性変異株であるきょうかい11号(K11)でも、その親株であるきょうかい7号(K7)では生育環境中のエタノール濃度の上昇によるストレス(=エタノールストレス)などに応じて、転写因子であるMsn2p及びMsn4pを介する形で発現が誘導されるHSP12など、プロモーター領域にこれらの転写因子の結合モチーフ(STRE)を持つ遺伝子群が、ストレスのない生育環境下でも高発現しているという(M.Watanabe,K.Tamura,J.P.Magbanua,K.Takao,K.Kitamoto,H.Kitamoto,T.Akao and H.Shimoi:J.Biosci.Bioeng.,104(3),163−170 (2007))。また、MSN2を高発現する清酒酵母を作出してみたところ、やはり親株よりエタノール耐性能が高く、清酒醪中でのエタノール生産性能も高かったという報告もある(M.Watanabe,D.Watanabe,T.Akao and H.Shimoi:J.Biosci.Bioeng.,107(5),516−518 (2009))。ただし、このようなイソアミルアルコール(及びエタノールを含む環境)やK1キラートキシンなどに対する耐性株の多くは、清酒醸造に用いた場合に、清酒醪中のエタノール濃度が高くなる醪末期も酵母が死滅しにくく、発酵が続くという特徴を示す反面、醪初期から中期にかけての発酵はやや緩慢な(=遅い)傾向を示すという。 細胞内の「液胞(vacuole)」は、「空っぽ」を意味するラテン語「vacuus」に由来するその名が示す通り、発見当初は重要な役割を果たしてはいないものと過小評価されていた細胞(内)小器官(オルガネラ(organera))だが、その後の研究を通して、(能動的に細胞質の溶質を蓄積して、液胞内部の浸透圧を上昇させる事で、細胞内の水分を流入させて膨らむ事で)細胞の構造的強度に関わる(細胞内)空間充填剤として、また代謝産物の貯蔵・毒性物質の隔離や生体高分子の分解などの重要な役割も担っている事が判明している(黒岩常祥・三角修己・高野博嘉・伊藤竜一・松永幸大(著):細胞、p91−93(高野博嘉・伊藤竜一(著))、朝倉書店 (2008))。 酵母の液胞も、通常の環境下での生育には必須ではないものの、たとえば低浸透圧条件下で培養すると肥大化する一方、高浸透圧条件下で培養すると小さく断片化して数が増える(P.G.Meaden,N.Arneborg,L.U.Guldfeldt,H.Siegumfeldt and M.Jakobsen:Yeast,15(12),1211−1222 (1999),C.J.Bonangelino,J.J.Nau,J.E.Duex,M.brinkman,A.E.Wurmser,J.D.Gary,S.D.Emr and L.S.Weisman:J.Cell Biol.,156(6),1015−1028 (2002))といった具合に、生育環境に応じて形態変化する事が知られている(S.C.Li&P.M.Kane:Biochim.Biophys.Acta,1793(4),650−663 (2009))。現行の分類ではS.cerevisiaeに分類されているワイン酵母のEC1118株やOC2株、清酒酵母であるきょうかい9号(K9)やきょうかい10号(K10)も、高濃度の糖質を含む(高浸透圧)合成培地で培養した場合には、その細胞内の液胞が小さく断片化して数が増える事は確認されているが、ただしこれらの酵母株を用いて清酒を仕込んだ場合には、ワイン酵母であるEC1118株及びOC2株では、清酒醪という高浸透圧環境での増殖に伴って、その細胞内の液胞が小型化・断片化して数が増えるものの、清酒酵母であるきょうかい9号(K9)及びきょうかい10号(K10)では、液胞の小型化・断片化が非常に起こりにくい事も見出されている(S.Izawa,K.Ikeda,T.Miki,Y.Wakai and Y.Inoue:Appl.Microbiol.Biotechnol.,88(1),277−282 (2010))。一般的な高等植物細胞では、液胞が、いわば「空間充填剤」として細胞体積の30%から最大では90%を占め、(能動的に細胞質の溶質を蓄積して、液胞内部の浸透圧を上昇させる事で)細胞内の水分を流入させる事で膨圧を生み出し(=膨らみ)、細胞構造の維持に寄与している(黒岩常祥・三角修己・高野博嘉・伊藤竜一・松永幸大(著):細胞、p91−93(高野博嘉・伊藤竜一(著))、朝倉書店 (2008))のと同様に、酵母細胞においても、液胞が浸透圧調節と細胞構造の維持に関わっている可能性があり、実際に、液胞形成能を欠くslp(small lysine pool)1変異株(Y.Wada,K.Kitamoto,T.Kanbe,K.Tanaka and Y.Anraku:Mol.Cell.Biol.,10(5),2214−2223 (1990))(注:このslp1は、vps(vacuolar protein sorting)33(D.J.Klionsky,P.K.Herman and S.D.Emr:Microbiol.Rev.,54(3),266−292 (1990))である)を作出してみたところ、(清酒醪などのような)高濃度のエタノールや糖を含む高浸透圧環境下では(親株に較べて)生育が弱くなったり、生育できなくなったとの報告もある。また、細胞外(=生育環境)から物質を取り込みにくくなる醪末期には、液胞で貯蔵しておいたアミノ酸や燐酸イオン(PO43−)などを供給する事で、細胞の生存性に影響を及ぼしている可能性は考えられる(清酒酵母研究会(編):清酒酵母の研究 ―80年代の研究―、p155−163(北本勝ひこ(著))、清酒酵母研究会 (1992))。 ただ、清酒醪中でエタノール発酵を行なっている最中の清酒酵母の細胞は、そもそも生育環境ストレスに対する耐性能が著しく低い状態にあるとの報告もある。渡辺らのグループは、きょうかい6号(K6)や7号(K7)、9号(K9)、10号(K10)などの清酒酵母では、生育環境中のエタノール濃度の上昇によるストレス(=エタノールストレス)などに対する応答反応に関わる転写因子(Msn4p)をコードしている遺伝子(MSN4)上にある、他のS.cerevisiae株には見られない(=清酒酵母特異的な)、開始コドンの位置のずれ(T2C)やC末端側の117アミノ酸配列の欠失を引き起こす一塩基多型(C1540T)や、またこのMsn4pや、これと相同な機能を持つ転写因子(Msn2p)などの(情報伝達系の)上流で働くPASキナーゼ(=プロテインキナーゼ)の遺伝子(RIM15)上にある、清酒酵母特異的なフレームシフト型変異(5055insA)などのために、Msn4pやMsn2pを介した(プロモーター領域にこれらの転写因子の結合モチーフ(STRE)を持つ遺伝子群の発現を伴う)ストレス応答反応系がうまく働かず、また「細胞壁が薄いがゆえにストレス感受的な対数増殖期細胞」から「細胞壁が厚くなるがゆえにストレス耐性能も高まった状態の休止期(G0期)細胞」への移行もうまく進まない状態になっており、それゆえに自らの発酵による生育環境中のエタノール濃度の上昇も気にせずに、自滅するまで増殖し続けて(清酒酵母でしか見られないほどの)過度のエタノールを生産してしまうのではないかと見ている(D.Watanabe,H.Wu,C.Noguchi,Y.Zhou,T.Akao and H.Shimoi:Appl.Environ.Microbiol.,77(3),934−941 (2011)、渡辺大輔:バイオサイエンスとインダストリー、69(4)、311−313 (2011)、下飯仁、赤尾健、渡辺大輔:生物工学、89(9)、532−535 (2011)、D.Watanabe,Y.Araki,Y.Zhou,N.Maeya,T.Akao and H.Shimoi:Appl.Environ.Microbiol.,78(11),4008−4016 (2012)、渡辺大輔:化学と生物、50(10)、723−729 (2012))。 また、きょうかい7号(K7)を含む清酒酵母であるS.cerevisiae株(ただし泡なし酵母を除く)の第15染色体の末端付近には、同じくS.cerevisiaeに分類される実験室酵母株などにはない、(実験室酵母株が持つYOL155cとYJR151cとの融合によって生じた遺伝子ではないかと見られている)細胞表層蛋白質の一種をコードしている高泡形成遺伝子であるAWA1(H.Shimoi,K.Sakamoto,M.Okuda,R.Atthi,K.Iwashita and K.Ito:Appl.Environ.Microbiol.,68(4),2018−2025 (2002)、清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p71−75(下飯仁(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003)、K.Miyashita,K.Sakamoto,H.Kitagaki,K.Iwashita,K.Ito and H.Shimoi:J.Biosci.Bioeng.,97(1),14−18 (2004))、また第2染色体や第8染色体、第9染色体、第12染色体上のいずれも末端付近にはビオチンの生合成に関与する蛋白質をコードしている遺伝子であるBIO6があり(H.Wu,K.Ito and H.Shiomoi:Appl.Environ.Microbiol.,71(11),6845−6855 (2005))、それゆえにきょうかい7号(K7)は、同じS.cerevisiaeに分類されている上面発酵ビール酵母株やワイン酵母株などでは見られない、(発酵による生じた二酸化炭素(CO2)の泡に酵母細胞がくっつくために泡が消えにくく、発酵タンクからあふれ出してしまうという「高泡」をつくる)「高泡形成能」や「ビオチン非要求性」などの特徴(=表現形質)を示す(下飯仁、藤田信之:化学と生物、45(8)、539−543 (2007)、大隅良典・下田親(編):酵母のすべて ―系統・細胞から分子まで―、p311−315(下飯仁(著))、シュプリンガー・ジャパン (2007)(注:現在は丸善出版から再出版されている))。 同じS.cerevisiaeに分類されている酵母でありながら、清酒酵母と、それ以外の酵母株とでは、細胞表層にも違いがあるものと見られている。たとえば、上記の、清酒酵母特異的な遺伝子であるAWA1がコードしているのも、細胞表層局在性蛋白質である。そのため、清酒酵母であるきょうかい7号(K7)や焼酎酵母であるSH−4号(=現在の「きょうかい酵母(焼酎用)」のきょうかい2号)は、Lactobacillus platarum(ラクトバチルス・プランタラム)やL.leichmanii(ラクトバチルス・ライヒマニ(=ライヒマン菌))などの乳酸菌との間で凝集性を示すが、その変異株である泡なし清酒酵母、同じくS.cerevisiaeに分類されているビール酵母やワイン酵母、パン酵母などは凝集性を示さず、逆にきょうかい7号(K7)やSH−4号(=きょうかい2号(焼酎用))はLactobacillus casei(ラクトバチルス・カゼイ)とは凝集性を示さないが、他の酵母株は凝集性を示す。清酒・焼酎酵母と他の酵母とでは細胞表層の荷電も異なっているという(百瀬洋夫、三宅正太郎、外池良三:醸協、64(8)、749−750 (1969))。上記のエタノール耐性株の中にも、細胞壁の構造が変化した株が見出されており、表層構造もエタノール耐性能に影響を及ぼすようである。 このように、こうした酵母株ごとの生理的な特徴(=表現形質)は、それぞれの酵母株が持つ、わずかな(遺伝子などを含む)遺伝情報の違いに起因するものであり、このような遺伝情報の違いに裏打ちされた特徴(=表現形質)のうち、さまざまな発酵・醸造食品を製造するうえで重要なもの、すなわち「醸造特性」だけに限って評価した結果として各株に与えられる名称が、「清酒酵母」や「ワイン酵母」、「上面発酵ビール酵母」などの実用的な分類名なのである。清酒酵母を例に挙げて上記した通り、さまざまな醸造・発酵食品の製造に用いられるS.cerevisiae株の(特徴(=表現形質)のうちの)醸造特性の多くは、複数の遺伝子によって支配されている場合が多いようであり、ゆえに現時点でも不明な点が多いものの(加藤拓、下飯仁:バイオサイエンスとインダストリー、67(6)、263−267 (2009))、それゆえにこれらの酵母株は、現行の分類では1属1種のS.cerevisiaeに一括化されていて、株群ごとに区別されていなくても、さまざまな産業分野では、それぞれ醸造・発酵食品などの名前を冠せた呼び名を使って、きちんと区別して取り扱っているのである(大塚謙一(著):ワイン博士の本、地球社 (1973))。 こうした株ごとの醸造特性の違いは、その生態学的な分布にも影響を及ぼしている事が少なくない。地球上には、エネルギーとしての光、栄養源としての有機物や無機物、さらには酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)の濃度、水素イオン濃度(pH)、温度、浸透圧(=糖や塩などの濃度)などの組み合わせによる無数の環境があるが、それぞれの環境には、その環境が持つ条件(=エネルギー源や栄養源など)にうまく適応した生物種が生息している(石田昭夫・永田進一・大島朗伸・新谷良雄・佐々木秀明(著):細菌の栄養科学 ―環境適応の戦略―、共立出版 (2006))。それゆえに、清酒醪という環境中には清酒醪という環境が持つ条件にうまく適応した(酵母株を含む)微生物が、ワイン醸造前の葡萄果醪(=粗果汁)という環境中には葡萄果醪(=粗果汁)という環境が持つ条件にうまく適応した(酵母株を含む)微生物が生息している。たとえば、ワイン酵母であるS.cerevisiae株は、上面発酵ビール酵母であるS.cerevisiae株よりも、発酵前の葡萄果醪(=粗果汁)という環境への適応能力が高い。特に、通常のワイン(またはぶどう酒)醸造の場合には、上記した通り、搾った葡萄果醪(=粗果汁)に、野生酵母の増殖を抑制するために亜硫酸(注:厳密には「ピロ亜硫酸カリウム」、通称:メタカリ)を添加するため、強い亜硫酸耐性能を持つワイン酵母のみが旺盛に増殖し、酵母(菌)叢(フローラ)を形成する。S.cerevisiaeに分類されている実験室酵母株では第16染色体上にある細胞膜局在性の亜硫酸排出ポンプの遺伝子(SSU1)が、同じくS.cerevisiaeに分類されているワイン酵母株(の遺伝子SSU−R(N.Goto−Yamamoto,K.Kitano,K.Shiki,Y.Yoshida,T.Suzuki,T.Iwata,Y.Yamane and S.Hara:J.Ferment.Bioeng.,86(5),427−433 (1998)、後藤奈美:醸協、94(4)、262−268 (1999)))では第8染色体上に転座し、そのプロモーター領域も変化しているために、発現性が強まっており、この事が亜硫酸耐性能の強さに結び付いているとされる(大隅良典・下田親(編):酵母のすべて ―系統・細胞から分子まで―、p311−315(下飯仁(著))、シュプリンガー・ジャパン (2007)(注:現在は丸善出版から再出版されている)、下飯仁:食品工業、50(7)、56−61 (2007)、加藤拓、下飯仁:醸協、105(8)、500−506 (2010))。そのため、葡萄果醪(=粗果汁)中の酵母(菌)叢(フローラ)からは、ワイン酵母と呼ぶに相応しい特徴(=表現形質)を持ったS.cerevisiae株が高頻度に分離される。 そのため、特に昔は、たとえば清酒醸造に用いるための実用株、すなわち清酒酵母株は清酒醪から、また焼酎醸造に用いる実用株、すなわち焼酎酵母株は焼酎醪から分離される事が多かった。公益財団法人日本醸造協会から頒布されている「きょうかい酵母(登録商標)(清酒用)」は、多くの蔵元で実際に使用されている清酒酵母の実用株であるが、1906年に灘の酒蔵「桜正宗」の酒母から分離された「きょうかい1号(K1)」を筆頭に、きょうかい1〜7号(K1〜K7)、9号(K9)、10号(K10)、12号(K12)はいずれも清酒や清酒醪などから分離された株であり、また8号(K8(=6号の変異株))や11号(K11(=7号(K7)から分離されたエタノール耐性(変異)株))、13号(K13(=9号と10号との交配株))、泡なし酵母の601号(K601(=6号の変異株))や701号(K701(=7号の変異株))K.Ouchi and H.Akiyama:Agric.Biol.Chem.,35(7),1024−1032 (1971))、901号(K901(=9号の変異株))、1001号(K1001(=10号の変異株))などもこれらの株からの派生株である(清酒酵母研究会(編):改訂 清酒酵母の研究、p27(笠原秀夫(著))及びp219−231(大内弘造(著))、清酒酵母研究会 (1980)、日本醸造協会:吟醸と吟醸酵母、日本醸造協会 (1988)、清酒酵母研究会(編):清酒酵母の研究 ―80年代の研究―、p101−110(吉田清(著))、清酒酵母研究会 (1992))。同様に、この日本醸造協会から頒布されている焼酎酵母(泡盛酵母を含む)の「きょうかい2号(=SH−4号)」も球磨地方の米焼酎醪から分離された株であり(菅間誠之助:醸協、67(8)、672−677 (1972))、「鹿児島工試酵母」も泡盛醪から、「宮崎酵母」も甘藷醪から分離された株である(清酒酵母研究会(編):清酒酵母の研究 ―80年代の研究―、p30−44(工藤哲三・西谷尚道(著))、清酒酵母研究会 (1992))。ワイン酵母の「きょうかい1号」も葡萄(の実)・果醪・貯蔵樽・壜詰め葡萄酒など、ワイン醸造ラインから分離された約150株の中から選び出された1株である(坂口謹一郎、森貞信、鎭目淑夫:農化、13(8)、713−735 (1937))。さまざまな醸造・発酵食品に利用するための、酵母などの有用微生物を同じ分離源(=醸造・発酵食品)から分離するのは、微生物がその分離源、すなわち醸造・発酵食品ないしはその仕掛品という「環境」で生息する中で、その環境により適した特徴(=表現形質)へと「わずかずつ」進化(あるいは退化)し、時には(たとえば上記の清酒酵母のエタノール高生産性能や高泡形成能のような)他の分離源から分離された同属同種の微生物には見られないような特徴(=表現形質)や醸造特性をも獲得したりしている、あるいはその可能性が高いという事を考慮したうえでの事である。 上記した通り、S.cerevisiaeに分類されるさまざまな酵母に関する(生化学的及び分子生物学的な)研究が進み、研究成果の蓄積の進んだ最近では、それぞれの醸造・発酵食品の製造に利用する実用酵母株として必要な、あるいは望ましい特徴(=表現形質)、すなわち「醸造特性」というものも、かなり分かってきてはいる環境にあるため、(これまでの醸造・発酵食品からの分離株を用いて製造した場合とは、たとえば香気成分や有機酸の組成が異なるなど、「毛色」の異なる、特徴的な醸造・発酵食品を製造しようとの意図からも)たとえば花や果実、樹皮などの植物(柏木亨:醸協、97(1)、2−6 (2002)、小室友香里、穂坂賢、中田久保:醸協、99(10)、743−749 (2004)、松田義弘、工藤普平、小関敏彦、上木厚子、上木勝司:醸協、100(3)、199−208 (2005)、小室友香里、清水大介、加藤陽子、穂坂賢、田中久保:醸協、100(6)、454−460 (2005)、岩口伸一、鈴木孝仁、松澤一幸、清水浩美、大橋正孝、都築正男、藤野千代:生物工学、87(7)、356−357 (2009))、土壌(高峰和則、大山修一、吉崎由美子、玉置尚徳、鮫島吉廣:醸協、105(8)、546−555 (2010)、田村雅彦、三雲大、石栗秀:JATAFFジャーナル、1(3)、45−48 (2013))や海水、海藻、海産小動物など(小玉健太郎:醸協、94(11)、879−883 (1999)、柳田藤寿、小玉健太郎:醸協、97(2)、150−161 (2002)、谷村健、濱田明美、鬼束楠里、野崎直樹、甲斐孝憲、小川喜八郎:醸協、100(1)、56−64 (2005))といった、醸造・発酵食品とはほとんど関係のない分離源からS.cerevisiaeないしはその近縁種(または同胞種(sibling species))をも含めた株群(Saccharomyces sensu stricto(サッカロミセス・センス・ストリクト))を分離し、分離した酵母株群の中から、それぞれの醸造・発酵食品製造用の実用株として必要な、あるいは望ましい特徴(=表現形質)、すなわち醸造特性を持つ株のみを選び出して、このような選択株を用いて清酒や焼酎、ビール、ワイン、パンなどを製造し、製品を販売する事例(ケース)も増えてきてはいる。ただし、このような選択株は、たとえば清酒醪からの分離株(=清酒酵母)に較べると、やはりエタノール生産性能が弱い事も多いようで、それゆえにこのような選択株を使って醸造された清酒には、低アルコールタイプのものが多く(大橋正孝:なら技術だより、144(2009.2.)、2−3 (2009))、そうした面から評価すると、一般的な清酒酵母と遜色のない醸造特性を持った株であるとは言い難いかも知れない。 味噌・醤油のうち、特に醤油醸造に利用できるZ.rouxii株、いわゆる「醤油主発酵酵母」は、高濃度の食塩(NaCl)を含む味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株のみであり、たとえば蜂蜜や花など、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株は、上記した通り、こうした「味噌・醤油由来株」に較べると耐塩性能が明らかに弱いために、醤油醸造の仕込み工程での、高濃度の食塩(NaCl)を含む醤油諸味のエタノール発酵に利用する事はできないし、それゆえにそのような株を用いて、「製品」としての醤油を醸造したとの報告もない。 実際に、さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株を用いた醤油諸味液汁発酵試験を実施して、確認してみた。 試験1.さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株の醤油諸味液汁(のエタノール)発酵試験: 同試験に用いた供試株は、菌株保存研究機関(=独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRC(Biological Resource Center,NITE)及び公益財団法人野田産業科学研究所(Noda Institute for Scientific Research(NISL)))で保存されているZ.rouxii株(2010年7月時点)の中から、さらにその株の分離源に関する記録がきちんと公表されている株のみを選び出した。すなわち、[1]味噌から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、NISL3455株(=IFO0533株)、NISL3763株(=ATCC42981株=IAM12879株)の3株、[2]味噌から分離された醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3452株(=IFO0525株)、[3]醤油や醤油諸味などから分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNBRC0505株、NISL3402株(=IFO0506株)、NISL3445株(=IFO0494株)、NISL3450株(=IFO0521株)の4株、[4]醤油や醤油諸味などから分離された醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3359株(=A31株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の3株、[5]「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された、NBRC1730株(塩漬豆(オランダ))、NBRC1733株(発酵した蜂蜜(カナダ))、NBRC1812株(=IFO1812株(花(日本)))、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ(日本)))、NBRC10671株(=G4118株(マジパン(西ドイツ)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン(フランス)))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜(カナダ)))、NISL3458株(=IFO0740株(痰(ノルウェー)))、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)(イタリア)))の9株、すべて合わせると5群、計20株である(注:括弧内には、各株の、別の菌株保存研究機関での株名と分離源(と国名)を記した)。 酵母株のエタノール生産性能を評価するための発酵試験を行なう場合には、試験用の液体培地(=本試験の場合には醤油諸味液汁)に添加する酵母株の培養液、いわゆる「種培養液」の調製に注意を払う必要がある。種培養液中の酵母株の生育活性が低いと、これを試験用の液体培地に接種した際に、増殖が遅延したり、発酵の進行が遅れたりする事があるからである。たとえば、伊藤寛・菊池修平(編著)の「中国の豆類発酵食品(幸書房 (2003))」中のp74、「第3章 中国の発酵食品の微生物」の「(2)耐塩性酵母の培養条件」の項を見ると、『(p74)醤油、醤やトウチーに含まれる耐塩性酵母は高濃度食塩の中で生育するための前述のビタミンなどを必要とするが、これらは大豆が分解したトウチーや醤油に含まれ、これらの諸味の成分を加えると増殖が良くなる。例えば、種培養や分離培地に5〜7%のトウチーや10〜12%の生醤油(火入れや保存料を添加してないもの)を加えると増殖が良くなる。30℃でZ.rouxiiは2〜3日で、Candida属の酵母は5〜7日で増殖し、コロニーが検出される。(中略)醤や醤油の仕込みに添加する種菌は、Z.rouxiiでは液体培地に前培養し、種水として加える。Candida属の酵母は醤や醤油諸味に前培養して加えるのが最も良い。』と記されており、ゆえに本試験での前培養用及び種培養液調製用の液体培地としては、下記の、生揚げ醤油(を清澄化処理したもの)を容積比(V/V)で15%加えた生醤油液体培地を用いた。生醤油液体培地の培地組成: 7%(W/V)グルコース、8.5%(W/V)塩化ナトリウム(NaCl)、15%(V/V)濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)、pH=5.2〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。生醤油液体培地の調製法: まず、7gグルコース、8.5g塩化ナトリウム(NaCl)を蒸留水に溶かす。これに15ml濃口生揚げ醤油を加え、よく攪拌した後、1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.2〜5.3に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。試験管に2mlずつ分注し、試験管の口を綿栓で塞ぎ、これを高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ(autoclave))で121℃、15分間殺菌する。10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の培地組成: 2%(W/V)グルコース、0.5%(W/V)酵母エキスBacto Yeast Extract(べクトン・ディッキンソン アンド カンパニー(Becton,Dickinson and Company(BD))製、製品コード:No.212750)、0.5%(W/V)燐酸二水素カリウム、0.05%(W/V)硫酸マグネシウム、10%(W/V)塩化ナトリウム、2.4%(W/V)寒天(和光純薬工業株式会社製、製品コード:No.010−15815))、pH=5.0〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の調製法: まず、2gグルコース、0.5g酵母エキス、0.5g燐酸二水素カリウム、0.05g硫酸マグネシウム、10g塩化ナトリウム、2.4g寒天を蒸留水に溶かし、これに1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.0〜5.3に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。これを高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した後、熱いうちに、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、殺菌済みシャーレに(シャーレ1枚につき約10mlずつ)流し込み、冷やして固める。生醤油寒天(7%NaCl)の培地組成: 7%(W/V)グルコース、4.51%(W/V)塩化ナトリウム、15%(V/V)濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)、2.4%(W/V)寒天(和光純薬工業株式会社製、製品コード:No.010−15815)、pH=5.2〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。生醤油寒天(7%NaCl)の調製法: まず、7gグルコース、4.51g塩化ナトリウム、15ml濃口生揚げ醤油、2.4g寒天を蒸留水に溶かし、これに1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.2〜5.3に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。これを高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した後、熱いうちに、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、殺菌済みシャーレに(シャーレ1枚につき約10mlずつ)流し込み、冷やして固める。 上記した通り、現在の日本国内での醤油製造量のうちの80%以上を占めるのが「濃口醤油」であり、その8割は「本醸造方式」で製造されている事(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、p21、ライフリサーチプレス (2004)、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性、p11−18(石川雄章(著))、シーエムシー出版 (2006)、一島英治(著):[ものと人間の文化史138]麹(こうじ)、p138、法政大学出版局 (2007)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p11−14及びp178−179、日本醤油協会 (2012))から、同試験用の液体培地としては本醸造方式で製造された濃口醤油用の醤油諸味液汁を用いた。濃口醤油諸味液汁の調製法: 醤油メーカーの工場で製造された濃口醤油の仕掛品、すなわち濃口醤油の仕込み工程における、仕込み後30〜40日前後の濃口醤油諸味(注:諸味のpH=5.2〜5.6)を、市販のガーゼに包んだ状態にして搾り、得られた搾汁をさらにガラス製ロートとADVANTECグループ製の濾紙「ADVANTEC FILTER PAPER(QUALITATIVE) No.2」を用いて濾過処理する。得られた濾液中の食塩分(NaCl)、全窒素分(Total Nitrogen(T.N.))、還元糖分(Reducing Sugar(R.S.))の濃度分析については、財団法人日本醤油技術センターに委託した。また、同濾液中のエタノール濃度については、ガスクロマトグラフィー法で測定した(注:分析法の詳細については後記する。なお、本法で検出可能なエタノール濃度は0.1%(V/V)以上である)。得られた濾液中の食塩分(NaCl)は17.8%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.68%(W/V)、還元糖分(R.S.)は10.1%(W/V)、エタノール濃度は0.1%(V/V)未満(=検出限界未満)であり、発酵試験に用いるのに適当な液汁であると判断した。この得られた液汁に、和光純薬工業株式会社製のL−乳酸(製品コード:129−02666)を加えて(注:ただし、乳酸の添加量は濾液容量の0.5%(V/V)未満にとどめ)、液汁のpHを5.2〜5.3に調整した上で、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、ワットマン(WHATMAN)株式会社製「シリンジ・フィルター 25mmGD/X Sterile(製品コード:6900−2504)」を用いる濾過除菌処理を施して無菌化し、この濾液を殺菌済みの試験管1本につき5mlずつ分注して、試験管の口を綿栓で塞いだ(=封じた)。種培養液の調製: 供試株を上記の生醤油液体培地2ml(入りの試験管)に接種し、30℃、2日間(厳密には約30時間)、140rpm.振とう培養し、この培養液2mlのうちの0.4mlを新しい生醤油液体培地2mlに接種し、これを30℃、18時間、140rpm.振とう培養する。これを以下、「種培養液」と呼ぶ。種培養液1ml当たりの酵母数の計数: 上記の手順で調製した種培養液の、1ml当たりの酵母数は、以下の手順で計数した。まず、種培養液をよく攪拌したうえで、クリーンベンチなどの無菌条件下で、うち1mlを採り、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分殺菌した、9mlの10%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液入りの試験管」に加え、ヤマト科学株式会社製タッチミキサMT−31(注:回転数は2800〜3300rpm.程度)を使ってよく攪拌する。攪拌後の試験管から、すなわち種培養液の10倍希釈液0.1mlを採り、殺菌済みのスパーテルなどを使って、これを上記の10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の表面に塗抹する。また、攪拌後の試験管から、同希釈液1mlを採り、これを新しい10%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液入りの試験管に加え、上記のタッチミキサを使ってよく攪拌する。攪拌後の試験管から、すなわち種培養液の100倍希釈液0.1mlを採り、新しい10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の表面に塗抹する。種培養液の希釈倍率が1億倍(=100000000倍=108倍)に至るまで、この作業を繰り返す。希釈液を塗抹した寒天はいずれも、30℃に設定した恒温器(または培養器)内に3〜7日間置き、寒天上に形成された菌集落(コロニー)の数を計数する。ただし、上記の供試株20株のうち、Z.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))だけは、他の19株に較べると、耐塩性能が弱いものと見られ、10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天上では菌集落(コロニー)をまったく形成しなかったため、種培養液中の酵母数の計数には、この10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の代わりに、生醤油寒天(7%NaCl)を用いた。図1.は、NBRC1812株(=IFO1812株(花))の種培養液の、上記手順で調製した希釈液を、さまざまな塩化ナトリウム(NaCl)濃度の寒天培地に塗抹し、これを30℃条件下で6〜9日間培養した際の菌集落(コロニー)の形成の様子を撮影したものである。この図1.の結果から、NBRC1812株(=IFO1812株(花))の種培養液1ml中の酵母数を計数するのに用いる寒天の組成は、(1)YD寒天よりも(2)生醤油寒天の方が、そして寒天中の塩化ナトリウム(NaCl)濃度は7%が適当であろうと判断し、「生醤油寒天(7%NaCl)」を用いる事に決めた。醤油諸味液汁発酵試験の手順: 上記の醤油諸味液汁5ml(入りの試験管)に、供試株の種培養液(を液汁の2%(V/V)に相当する)0.1mlを接種し(注:一部の株については(6%(V/V)に相当する)0.3ml接種した試験区も設けた。詳細については後記する)、試験管の口を綿栓で塞いだ。供試株1株に対して、種培養液を0.1ml接種した試験管(試験区)2本と、0.3ml接種した試験管(試験区)2本の、計4本を準備し、うち試験管1〜2本(0.1ml接種の試験区のみ、あるいは0.1ml接種の試験区と0.3ml接種の試験区)を30℃の振とう培養条件(140rpm.)下で6日間、もう1〜2本(0.1ml接種の試験区のみ、あるいは0.1ml接種の試験区と0.3ml接種の試験区)は30℃の静置培養条件下で12日間培養した。培養終了後の醤油諸味液汁は、ワットマン(WHATMAN)株式会社製「シリンジ・フィルター 25mmGD/X Sterile(製品コード:6900−2504)」を用いて、液汁中の供試株(の細胞)を除去したうえで、ガスクロマトグラフィー法で、液汁中のエタノール濃度を測定した。 醤油中のエタノール濃度の測定に用いた機器は、[機器本体]横川アナリティカルシステムズ株式会社製「HEWLETT PACKAD HP6890series GC system」、[カラム]ジーエルサイエンス株式会社製「HP6890 Glass I.D.2Φ× 4FT(製品コード:3003−59204)」、[カラム充填剤]Waters株式会社製「Porapak TypeQ Mesh50−80(製品コード:1002−11305)」である。濃度測定時の内部標準液として、イソプロパノール水溶液を用いた。本法で検出可能なエタノール濃度は、0.1%(V/V)以上である。 図3.は、さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株(20株)を、仕込み後30〜40日の醤油諸味液汁に接種し、30℃条件下で、6日間振とう培養(140rpm.)、あるいは12日間静置培養した際のエタノール生産量(濃度)を調べた結果をまとめたものである(注:これら20株を、図3.で用いた醤油諸味液汁とは異なる製造ロットの液汁に接種し、静置培養した際のエタノール生産量(濃度)を調べた結果をまとめたものとして、図97.の(1)も示す)。「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株のエタノール生産量は、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株に較べると明らかに低く、特に静置培養条件下ではほとんど(=上記のガスクロマトグラフィー法で検出可能な0.1%(V/V)以上の)エタノールを生産しなかった。特に、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))やNISL3458株(=IFO0740株(痰))、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))、NBRC1812株(=IFO1812株(花))、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))は、醤油諸味液汁中での増殖自体が悪く、振とう培養条件及び静置培養条件の両条件下でほとんど(=上記のガスクロマトグラフィー法で検出可能な0.1%(V/V)以上の)エタノールを生産しなかった。たとえば、 図2.は、味噌から分離されたZ.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)と、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の、醤油諸味液汁中での増殖の様子を撮影した写真だが、Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪))の増殖は、振とう培養条件下、静置培養条件下の両方において、Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))よりも明らかに弱い。Z.rouxii NISL3458株(=IFO0740株(痰))やZ.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))のように、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の一部の株は、そもそも生醤油液体培地中での増殖さえも弱く、種培養液中の酵母数が108CFU/mlに達しない場合もあったため、このような株については、醤油諸味液汁5mlへの種培養液の接種量を通常(=0.1ml)の3倍、すなわち0.3mlに増量した試験区も設け、同様にエタノール生産性能を調べてみたが、やはりほとんど(=上記のガスクロマトグラフィー法で検出可能な0.1%(V/V)以上の)エタノールを生産しなかった。 このように、醤油醸造の仕込み工程における醤油諸味のエタノール発酵に利用できるZ.rouxii株、いわゆる「醤油主発酵酵母株」は、高濃度の食塩(NaCl)を含む味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌諸味・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株のみに限られ、たとえば蜂蜜や花など、いわゆる「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株は、こうした株に較べると耐塩性が弱いために、醤油醸造の仕込み工程における醤油諸味のエタノール発酵に利用する事はできない。たとえば、戸井田らのグループも、蜂蜜から分離したZ.rouxii A2株(蟻川幸彦、小松良寿、戸井田仁一、近藤君夫:長野県工技セ食品部報、33(9)、47−48 (2005))を用いて、醤油諸味よりも食塩(NaCl)濃度が低い、信州味噌タイプ(食塩(NaCl)濃度11〜13%程度、対水食塩濃度20〜22%)の味噌の仕込み試験を試みてはみたものの、A2株の耐塩性能が味噌醸造用実用株であるNo.6株に較べると弱く、そのまま味噌の醸造に利用するのは難しいとの結論を出している(戸井田仁一、蟻川幸彦:長野県工技センター研報、2、F10−F13 (2007))。 本発明者(=馬渕)は、2001年に、現行の分類ではZ.rouxiiに分類される酵母株群の中から、醤油醸造、すなわち16%前後ないしはそれ以上という高濃度の食塩(NaCl)を含む醤油諸味の効率的なエタノール発酵に利用できる、「特に高いエタノール生産性能」を持つ酵母株だけを選び出す方法を考案している(馬渕清人:エタノール高生産性醤油主醗酵酵母株の分離識別用寒天培地、同酵母株の分離法及び同酵母株を用いる含塩醗酵食品の製造法、特許3938488)。これは、「現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株は、ある濃度以上の硫酸銅や塩化リチウム、塩化マンガンなどを含む(ただし塩化ナトリウム(NaCl)はほとんど含まない)培地中では生育が阻害されるが、この培地中のグルコース濃度を高めてやると生育できるようになる事、しかも「生育可能」になるのに必要な最小グルコース濃度は酵母株ごとに異なる事から、これを指標にしてZ.rouxii株群をいくつかの株群に区分けできるという本発明者(=馬渕)の別の発明(馬渕清人:醤油酵母の分離識別法、特許3904187)」を利用して、Z.rouxii株をいくつかの株群に区分けしてみたところ、特定の株群にのみ、醤油諸味液汁中でのエタノール生産性能が「特に高い」Z.rouxii株が集まる事を発見した、その「発見」に基づいたものである。たとえば、この特許の「実施例6」の「(表7)実験室株のエタノール生産性と本発明培地での生育」を見ると、Mn培地及びCu培地の両方で生育可能な株群に区分けされたZ.rouxii株はいずれも、他の2群に区分けされたZ.rouxii株よりも(特に振とう培養条件下において)明らかに高いエタノール生産性能を示しているが、これらの酵母株の分離源はいずれも味噌・醤油ないしはその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)である。 そもそも、現行の分類では同じZ.rouxiiに分類される株であっても、醤油及びその仕掛品である醤油諸味や生揚げ醤油などという環境への適応能力は、株ごとに大きく異なっている。現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群の中には、たとえば醤油中に接種した際に、すぐに死滅してしまう株と、死滅せずに醤油中で生存し続ける株とがいる。そこで、実際に、さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株の醤油中での生存能力についても調べてみた。試験2.供試株の醤油中での生存性試験: 同試験に用いた供試株は、菌株保存研究機関で保存されているZ.rouxii株の中から、さらにその株の分離源に関する記録がきちんと公表されている株のみを選び出した。すなわち、上記の試験1.の計20株である。種培養液の調製及び種培養液1ml当たりの酵母数の計数も、上記の試験1.の手順の通りに行なった。 上記した通り、現在の日本国内での醤油製造量のうちの80%以上を占めるのが濃口醤油であり、その8割は「本醸造」方式で製造されている事(横塚保(著):日本の醤油 その源流と近代工業化の研究、p21、ライフリサーチプレス (2004))、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性、p11−18(石川雄章(著))、シーエムシー出版 (2006)、一島英治(著):[ものと人間の文化史138]麹(こうじ)、p138、法政大学出版局 (2007))から、同試験には、市販の濃口醤油(本醸造)の中から、さらに製品ラベルの「原材料名」欄に、原材料として記されているのが「大豆(遺伝子組換えでない)」、「脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)」、「小麦」、「食塩」、「アルコール」のみであり、それ以外の原材料、たとえば保存料(安息香酸ナトリウムやパラオキシ安息香酸エステル類)などの食品添加物に関する記述がないものを選択して用いた。すなわち、市販の濃口醤油I、II、III及びIVの4試料と、この醤油メーカーから入手した濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)の1試料、計5試料を用いた。上記の濃口醤油及び濃口生揚げ醤油中の食塩分(NaCl)、全窒素分(T.N.)、食塩分(NaCl)、還元糖分(R.S.)及びpH値の測定は、財団法人日本醤油研究所(編)の「しょうゆ試験法(日本醤油研究所 (1985))」のp2−6(1−1−2 全窒素分)、p6−7(1−1−3 食塩分)、p12−14(1−1−6 直接還元糖分)、p19(1−3−2 pH)に記されている通りに行なった。また、エタノール濃度の測定は、上記のガスクロマトグラフィー法で行なった。濃口醤油Iの食塩分(NaCl)は16.17%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.598%(W/V)、還元糖分(R.S.)は2.21%(W/V)、エタノール濃度は2.76%(V/V)でpH=4.72、濃口醤油IIの食塩分(NaCl)は16.20%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.594%(W/V)、還元糖分(R.S.)は2.73%(W/V)、エタノール濃度は2.99%(V/V)でpH=4.86、濃口醤油IIIの食塩分(NaCl)は16.20%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.600%(W/V)、還元糖分(R.S.)は2.88%(W/V)、エタノール濃度は2.88%(V/V)でpH=4.91、濃口醤油IVの食塩分(NaCl)は16.21%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.594%(W/V)、還元糖分(R.S.)は2.68%(W/V)、エタノール濃度は2.93%(V/V)でpH=4.73、また濃口生揚げ醤油の食塩分(NaCl)は16.6%(W/V)、全窒素分(T.N.)は1.773%(W/V)、エタノール濃度は3.23%(V/V)でpH=4.96(注:還元糖分(R.S.)の濃度測定は未実施)であった。これらの成分値は、一般的な濃口醤油(製品)及び濃口生揚げ醤油などと較べても、特にかけ離れた数値ではなかったため、以下の生存性試験に用いるのに適当な試料(=濃口醤油及び濃口生揚げ醤油)であると判断した。濃口醤油及び濃口生揚げ醤油の除菌処理: 試験に用いる濃口醤油及び濃口生揚げ醤油は、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、ワットマン(WHATMAN)株式会社製「シリンジ・フィルター 25mmGD/X Sterile(製品コード:6900−2504)」を用いる除菌濾過処理を施して無菌化し、この濾液を殺菌済みの試験管1本につき5mlずつ分注する。生存性試験の手順: 上記の、除菌処理済みの濃口醤油5ml(入りの試験管)及び濃口生揚げ醤油5ml(入りの試験管)に供試株の種培養液(を醤油の2%に相当する)0.1mlを接種し、試験管の口をシリコン栓で塞いだ。これを30℃に設定した恒温器(または培養器)内に置き、30日間保存(または静置培養)した。保存(または静置培養)終了後の醤油、すなわち試験区のうち、醤油の液面に白〜淡い褐色の、乾燥して粉をふいたような性状の「皮膜(film、またはpellicle)」が形成されたもの(後記)を除き、それ以外の試験区については、醤油1ml中の生存酵母数を計数した。醤油1ml中の生存酵母数の計数は、上記の試験1.の「種培養液1ml当たりの酵母数の計数」手順と同様の方法で行なった。なお、本法で検出可能な酵母数は10CFU/ml以上である。 表1.は、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株11株と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株9株を濃口醤油や濃口生揚げ醤油に接種して、30℃条件下で30日間保存(または静置培養)した後の、醤油1ml中の生存数を調べた結果をまとめたものである。濃口醤油I(注:種培養液接種後の塩化ナトリウム(NaCl)濃度(推定値)は16.07%)及びIIの試験区(注:種培養液接種後の塩化ナトリウム(NaCl)濃度(推定値)は16.10%)では、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株11株のうち、醤油中で皮膜を形成したNISL3452株(=IFO0525株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)、NISL3359株(=A31株)の4株を除く7株の場合には、生存率0.1%以上と、高い生存性を示したのに対して、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株9株のうち、ビターオレンジシロップボンボン(bonbon of bitter−orange syrup)から分離されたNISL3443株(=IFO0487株)、塩漬豆(salted beans)から分離されたNBRC1730株とクリーミーケーキ(creamy cake)から分離されたNBRC1914株(=IFO1914株)の3株を除く6株の場合には、すべて死滅してしまったのか、生存細胞が検出されなかった(=本法で検出可能な酵母数(10CFU/ml)未満)。 たとえば、図4.は、上記の手順通りに、味噌から分離されたZ.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源、すなわち黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)を接種した濃口醤油II5mlを、30℃条件下で30日間保管(または静置培養)したうえで、うち0.1mlをそのまま10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天上に塗抹し、30℃条件下で4日間培養した後の、同寒天の様子を撮影した写真である。味噌から分離されたNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NRRL Y−2547株)は、接種後30日を経ても、濃口醤油II中で生存し続けたために、このNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)を接種した濃口醤油IIを塗抹した寒天上には、たくさんの菌集落(コロニー)(注:濃口醤油1ml当たり換算で4.4×105CFU)が出現したのに対して、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源、すなわち黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合には、接種してから30日の間に濃口醤油II中で死滅してしまったものと見られ、このNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)を接種した濃口醤油IIを塗抹した寒天上には、写真の通り、菌集落(コロニー)が出現しなかった。 濃口生揚げ醤油中での生存細胞数は、一部の例外的な株での場合を除き、濃口醤油中での生存細胞数に較べると低かったが、これは濃口生揚げ醤油中の食塩分(NaCl)や全窒素分(T.N.)、エタノール濃度が、濃口醤油に較べて高い事が関係しているものと見られる。上記の例外的な3株のうちの1株、すなわちZ.rouxii NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))と、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株の一部については、こうした濃口生揚げ醤油の試験区では生存細胞が検出されなかった(=本法で検出可能な酵母数(10CFU/ml)未満)のに対して、味噌から分離されたZ.rouxii NISL3455株(=IFO0533株)や醤油から分離されたZ.rouxii NISL3402株(=IFO0506株)などと、塩漬豆(salted beans)から分離されたNBRC1730株だけは、こうした濃口生揚げ醤油の試験区でも高い生存性を示した。 上記の試験結果から、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株の中には、濃口醤油やその仕掛品である濃口生揚げ醤油中で高い生存能力を示す株が多く、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の中には、濃口醤油やその仕掛品である濃口生揚げ醤油中で高い生存能力を示す株が非常に少ない事が判明した。S.cerevisiaeを例に上記した通り、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株も、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という、高濃度の食塩(NaCl)を含むその環境(=分離源)に「より」適応できるように、また一方、たとえば蜂蜜や花などから分離されたZ.rouxii株のほうは、蜂蜜や花という環境(=分離源)で生息する事を通して、それぞれの環境(=分離源)に「より」適応できるような特徴(=表現形質)を身につけたのであろう。「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株のうち、NBRC1730株だけが例外的に、濃口醤油や濃口生揚げ醤油中で高い生存能力を示したのは、同株が「塩漬豆(オランダ)」という、(大豆と食塩(NaCl)とを用いて製造するという)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)に比較的似た環境(=分離源)から分離された株であったからではないかと見られる。 このような濃口醤油や生揚げ醤油中での生存能力が高い(=濃口醤油や生揚げ醤油という環境への適応能力が高い)Z.rouxii株は、醤油醸造の仕込み工程では、上記の試験1.の結果が示す通り、醤油主発酵酵母株として醤油諸味のエタノール発酵に関わる能力を持つという有益性を示す反面、醤油や生揚げ醤油を原材料とするつゆ類などの製造工程では、問題を引き起こす事もある。たとえば、上記の試験2.で、醤油中で高い生存能力を示した、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌諸味・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株が、ストレートつゆ類の原材料として用いる予定の醤油や生揚げ醤油などに残存している場合、あるいは混入してしまった場合、つゆの調合工程(での希釈)で食塩(NaCl)濃度が低下するのに伴い、(調合後直ちに殺菌処理を行なわないと)時間経過とともにこうした株が増殖し始め、製品を腐敗させてしまうという事故を引き起こす事がある。たとえば、濃口醤油に接種した場合に、醤油中で死滅せず、接種後の日数の経過に伴って増殖さえしたS.rouxii(=現:Z.rouxii) No.2株に関する報告もある(高草仁、四方日出男、大森邦英、西山輝、森口繁弘:醤研、1(4)、190−194 (1975))。 つまり、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株と、たとえば蜂蜜や花といった、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株とでは、耐塩性能という「(味噌・醤油醸造上重要な)醸造特性(=表現形質)」が大きく異なっているために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株は味噌や醤油の醸造に利用できる「味噌・醤油主発酵酵母株」である一方、醤油(製品)などの環境にも適応して生存してしまうため、つゆ類などの製造工程で問題を引き起こす有害酵母株にも化ける危険性があるのに対して、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株は味噌や醤油の醸造に利用するのは難しく、また醤油(製品)などへの残存による問題もほとんど引き起こさない。そのため、[B]「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高い事から、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、かつ醤油諸味のエタノール発酵に関わる能力を持つ事から、味噌・醤油醸造に利用できるZ.rouxii株(=味噌・醤油主発酵酵母株)」と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低い事から、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味のエタノール発酵に関わる能力も持っておらず、それゆえに味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」とを区分けする事も、味噌・醤油醸造及び製品などの開発・品質管理上きわめて重要な事であり、これらを区分けする判別法も産業上有用である。 最近、このような「耐塩性能の強い株と弱い株とが同じZ.rouxiiという1属1種に分類されている現行の分類自体が、本当に適切なのであろうか」という疑問を口にする研究者達が増えてきている。Kurtzmanの報告によれば、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるNRRL Y−229株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)と、味噌から分離されたZ.rouxii NRRL Y−2547株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NISL3369株)との、染色体DNA−DNA再会合(または分子交雑、ハイブリッド形成、ハイブリダイゼーション)試験から導き出されたDNA相同値(DNA relatedness)は88〜89%と、(数々の経験の積み重ねから築き上げられた)同種の指標とされる70%(L.G.Wayne,D.J.Brenner,R.R.Colwell,P.A.D.Grimont,O.Kandler,M.I.Krichevsky,L.H.Moore,W.E.C.Moore,R.G.E.Murray,E.Stackebrandt,M.P.Starr and H.G.Truper:Int.J.Syst.Bacteriol.,37(4),463−464 (1987))を一応は超えている(C.P.Kurtzman:Yeast,6(3),213−219 (1990))。しかしながら、Duarteらは、アイソザイムパターン解析(isoenzyme pattern analysis)に基づいたクラスター解析結果から、現行の分類でZ.rouxiiという1属1種に分類される酵母株群の中には、[1]黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるPYCC5276株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=NISL3461株)を含む株群の他に、たとえば[2]味噌から分離されたこのNRRL Y−2547株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NISL3369株(味噌))や、PYCC3693株(誉(白)味噌(homare white miso))のような、別の株群が混在している可能性を指摘している(F.L.Duarte,C.Pais,I.Spencer−Martins and C.Leao:Syst.Appl.Microbiol.,27(4),436−442 (2004))。上記のPribylovaらによれば、この黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)と味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)とでは、(耐塩性能などの特徴(=表現形質)が異なる事は上記した通りだが)そもそも細胞の大きさや形も異なっており、染色体の数は黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)が7本であったのに対して、味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)は8本で、ゲノムサイズもより大きいという(L.Pribylova,J.de Montigny and H.Sychrova:Yeast,24(3),171−180 (2007))。 最近よく用いられる酵母の遺伝学的な分類法として、たとえばリボソームの構成分子の1つであるリボソームRNA(ribosomal RNA(rRNA))の遺伝子の、その部分的な塩基配列を指標とする方法がある。酵母の場合には、rRNAは(それぞれの分子の沈降係数(Svedberg(S)値)に基づいて命名された)ラージサブユニット(large subunit(LSU))の構成要素である26SrRNA(26S ribosomal RNA))、スモールサブユニット(small subunit(SSU))の構成要素である18SrRNA(18S ribosomal RNA))、5.8SrRNAなどから構成されており、これらrRNAの遺伝子(注:rRNA遺伝子そのものの塩基配列を解読せず、これを鋳型DNAとするPCR法などで調製した増幅産物の塩基配列を解読した場合には、この増幅産物を以前は”rDNA”と表記する事があった。つまり、この”rDNA”はrRNA遺伝子という意味とほぼ同義である。『(p61−62)しかしながら、”rDNA”はゲノム中に存在し、分子そのものが単体で存在するわけではないため、最近の主要な科学雑誌では、”rDNA”という表記は使用せず、rRNA遺伝子と直接呼ぶ方向で調整が進められている。(中村和憲・関口勇地(著):微生物相解析技術 ―目に見えない微生物を遺伝子で解析する―、米田出版 (2009))』。ただ、本明細書では、”rDNA”という表記を使っている文献も引用している事から、以下、rRNA遺伝子(rDNA)と併記する事にする)を含む塩基配列部分のうち、転写領域(上の、特に遺伝子)は進化速度(=単位期間当たりの塩基置換の回数)が遅いために種内での変異が小さく、特に26SrRNAの遺伝子(26SrRNA遺伝子)上のD1/D2領域(またはD1/D2ドメイン)を含む部分配列(約600bp)が同種内の株では99%以上の類似性を示す一方(S.W.Peterson and C.P.Kurtzman:System Appl.Microbiol.,14(2),124−129 (1991)、C.P.Kurtzman and C.J.Robnett:Antonie Van Leeuwenhoek,73(4),331−371 (1998))、「18SrRNA遺伝子と5.8SrRNA遺伝子との間」や「5.8SrRNA遺伝子と26SrRNA遺伝子との間」にある内部転写スペーサー(領域)(internal transcribed spacer(region))、すなわちITS1やITS2などは挿入や欠失、点変異などによって変化に富んでおり、(そもそもITS1の塩基配列とITS2の塩基配列とでも違いがあり、近縁種間の分子系統解析などで使用するのにはITS1の配列情報の方がよりよいとされるが(Y.Oda,M.Yabuki,K.Tonomura and M.Fukunaga:Yeast,13(13),1243−1250 (1997)、R.Montrocher,M.−C.Verner,J.Briolay,C.Gautier and R.Marmeisse:Int.J.Syst.Bacteriol.,48(1),295−303 (1998)、G.I.Naumov,S.A.James,E.S.Naumova,E.J.Louis and I.N.Roberts:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,50(6),1931−1942 (2000)))同種株内の「変種」以上では99%以上の類似性を示すとされる(S.A.James,M.D.Collins and I.N.Roberts:Int.J.Syst.Bacteriol.,46(1),189−194 (1996)、T.Sugita,A.Nishikawa,R.Ikeda and T.Shinoda:J.Clin.Microbiol.,37(6),1985−1993 (1999))。 これらの知見のうち、26SrRNA遺伝子上の、D1/D2領域を含む部分配列は、酵母分類・同定の聖書である”The yeasts,a taxonomic study”でも、1998年改訂の4版(C.P.Kurtman and J.W.Fell(eds.):The yeasts,a taxonomic study(4th ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1998))から分類基準として採用され、それゆえにこれを指標とする判別法は現在では「酵母の簡易同定法」とも呼ばれ、(Saccharomyces属などの)酵母株の(属種)同定を必要とするさまざまな場面でごく当たり前に用いられるようになっている(後藤慶一:モダンメディア、55(9)、237−242 (2009)、後藤慶一:日食微誌(Jpn.J.Food Microbiol.)、27(2)、56−62 (2010))。 また、スペーサー領域を指標とする判別法についても、S.cerevisiaeなど、現行の分類では同属同種に分類されている醸造用酵母株の(特に産業用途別)区分けに利用しようとする試みが、比較的古くから研究されてきた。たとえば、Molinaらは、S.cerevisiae、S.carlsbergensis、S.pastorianusに分類されている酵母株の、26SrRNA遺伝子と5SrRNAの遺伝子(5SrRNA遺伝子)との間のスペーサー領域(ITS)の塩基配列は、同種内でもバラエティーに富んでいて、これを指標として用いる事で株群をさらに区分けできる可能性があると報告しており(F.I.Molina,S.−C.Jong,J.L.Huffman:FEMS Microbiol.Lett.,108(3),259−263 (1993))、KawaharaらはITS1上の4箇所(=ポジションA、B、C、D)とITS2上の2箇所(=ポジションE及びF)との、計6箇所の塩基の違い(=多型(polymorphism))を指標にすれば、醸造用酵母株を、[1]清酒酵母(=きょうかい酵母のK6、K7、K9、K10、K14、K15など)・焼酎酵母(=S2株など)株群(とパン酵母1株を含む)、[2]ワイン酵母株群(=OC2株など)、[3]ビール酵母・ウィスキー酵母株群(とパン酵母7株を含む)の計3群に区分けできると報告している(M.Kawahata,T.Fujii and H.Iefuji:Biosci.Biotechnol.Biochem.,71(7),1616−1620 (2007))。また、山岸及び尾形も、このスペーサー領域の塩基配列全長ないしは一部を指標に、下面発酵ビール酵母をさらに株群に区分けするための方法を考案しており(山岸裕美、尾形智夫:新規オリゴヌクレオチドとそれを用いた酵母分類法、特許3795259)、上記のKawaharaらも、S.pastorianusに分類されるビール酵母数株についても、スペーサー領域を使えば、(産業上の用途は同じだが)さらに3群に区分けできる事を報告している(M.Kawahata,T.Fujii and H.Iefuji:Biosci.Biotechnol.Biochem.,71(7),1616−1620 (2007))。 しかしながら、こうした方法をZ.rouxiiに適用した場合にも、現行の分類でZ.rouxiiという1属1種に分類されている酵母株群の中に、少なくとも2群以上の酵母株群が混在している可能性が見えてくる。たとえば、Suezawaらのグループは、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」を含むさまざまな分離源から分離された計42株を対象に調べてみた結果、26SrRNA遺伝子上の部分的な塩基配列を指標にした場合には2群、すなわち[1]黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxii IFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)やクリーミーケーキから分離されたZ.rouxii IFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜から分離されたZ.rouxii IFO0686株(=NISL3456株)などが含まれる「Type1」群と、[2]花から分離されたZ.rouxii IFO1812株(=NBRC1812株)や、醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株などが含まれる「Type2」群とに区分けでき、しかも両者間の同配列部分の相違性は、本来ならば別種だと判定される「1%」の壁を超える2.6%であった事、さらにITSを指標にした場合にはTypeI〜TypeVIIの7群に区分けでき、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)などが含まれる「TypeI」群と、味噌から分離されたIFO0525株(=NISL3452株)や花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)が含まれる「TypeVI」群との相違性は12%にも及び、両方の指標を利用した場合には9群(=Type1−I、Type1−II、Type1−III、Type1−V、Type1−VII、Type2−I、Type2−IV、Type2−VI、Type2−VII)にまで区分けできる事を見出した(Y.Suezawa,M.Suzuki and H.Mori:Biosci.Biotechnol.Biochem.,72(9),2452−2455 (2008))。 Jamesらのグループがさまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株9株の26SrRNA遺伝子のD1/D2領域を調べてみた結果でも、味噌から分離されたNCYC1682株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)やソフトドリンク工場(soft drinks factory)から分離されたNCYC3042株などの同領域の部分配列は、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxiiの基準株であるNCYC568株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)などのそれとは一致しなかったと報告しており、しかも(上記の下面発酵ビール酵母(S.pastorianus)がS.cerevisiaeとS.bayanusとの種間雑種であるがゆえに、「両親」から受け継いだ、2種類のホモセリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(MET2)やアルコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(ATF1)、エンドヌクレアーゼ遺伝子(HO)、分枝鎖アミノ酸パーミアーゼ遺伝子(BAP2)を持っているように)これらの株は耐塩性に関わるNa+/H+−アンチポーター(Na+/H+−antiporter)をコードしている遺伝子(SOD2)やアデニン合成に関わる酵素であるホスホリボシル−アミノイミダゾール カルボキシラーゼ(phosphoribosyl−aminoimidazole carboxylase)をコードしている遺伝子(ADE2)(H.Sychrova,V.Braun and J.−L.Souciet:Yeast,15(13),1399−1402 (1999))、ヒスチジン合成に関わる酵素イミダゾールグリセロール燐酸デヒドラターゼ(imidazoleglycerol−phosphate dehydratase)をコードしている遺伝子(HIS3)(H.Sychrova,V.Braun and J.−L.Souciet:Yeast,16(7),581−587 (2000))などを2つずつ持っていて、しかも2つずつある各遺伝子のうちの片方の塩基配列はNCYC568株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)などが持つSOD2(またはZ(r)SOD2)やADE2、HIS3の塩基配列との類似性が非常に高いのに対して、もう片方の遺伝子の塩基配列はNCYC568株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)などが持つSOD2(またはZ(r)SOD2)やADE2、HIS3の塩基配列との類似性が低く、各遺伝子はそれぞれ、起源が異なる微生物に由来するものである可能性が高い事から、Jamesらは、これらの株がNCYC568株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)と他のZygosaccharomyces属酵母との交雑によって生まれた株((natural)hybrid)ではないかと推察している(S.A.James,C.J.Bond,M.Stratford and I.N.Roberts:FEMS Yeast Res.,5(8),747−755 (2005))。黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxii ATCC2623株(=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)は、耐塩性に関わるMAPキナーゼ(mitogen−activated protein(MAP) kinase)をコードしている遺伝子(HOG)、グリセロールの代謝に関わるグリセロール−3−燐酸デヒドロゲナーゼ(glycerol−3−phosphate dehydrogenase(GPD))やグリセロールデヒドロゲナーゼ(glycerol dehydrogenase(GCY))をコードしている遺伝子(GPDやGCY)も、それぞれ1つずつしか持っていないが(SOD(ZrSOD2、またはZSOD2)及びHOG(ZrHOG1)については、O.Kinclova,S.Potier and H.Sychrova:J.Biotechnol.,88(2),151−158 (2001)。GPD(ZrGPD1)及びGCY(ZrGCY1)については、Y.Watanabe,S.Tsuchimoto and Y.Tamai:FEMS Yeast Res.,4(4−5),505−510 (2004))、味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)はこれらの遺伝子も2つずつ持っているという(注:2つのSOD(ZSOD2及びZSOD22)については、Y.Watanabe,S.Miwa and Y.Tamai:Yeast,11(9),829−838 (1995)、T.Iwaki,Y.Higashida,H.Tsuji,Y.Tamai and Y.Watanabe:Yeast,14(13)1167−1174 (1998)。2つのHOG(ZrHOG1及びZrHOG2)については、T.Iwaki,Y.Tamai and Y.Watanabe:Microbiology,145(1),241−248 (1999)。2つのGPD(ZrGPD1及びZrGPD2)及び2つのGCY(ZrGCY1及びZrGCY2)については、T.Iwaki,S.Kurono,Y.Yokose,K.Kubota,Y.Tamai and Y.Watanabe:Yeast,18(8),737−744 (2001))。 Gordonらのグループも、味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)の持つ遺伝子群を調べてみたところ、HOG1やSOD2などの遺伝子はもちろん、26SrRNA遺伝子(上のD1/D2領域を含む部分配列)やスペーサー領域も2種類、すなわちZ.rouxiiの基準株であ(り、上記のSuezawaらが「Type1」と仮称した株群に含まれ)るCBS732株のそれと一致する塩基配列と、上記のNCYC3042株(ソフトドリンク工場)のそれと一致する塩基配列との両方を持っている事を見出し、それゆえにこうした発見を踏まえて、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母群の中には、[1]黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)などから構成される株群(注:以下、(生粋の)Z.rouxii(群)と記す)と、上記の[2]ソフトドリンク工場から分離されたNCYC3042株(=CBS9951株)などから構成される株群(注:Zygosaccharomyces pseudorouxii(=チゴサッカロミセス・シュードルーキシー)と仮称されている事から、以下、Z.pseudorouxii(群)と記す。ただし、「pseudorouxii」なる種名自体は、現行の分類で正式に認められたものではない。Z.pseudorouxii(群)に属する株に関する報告は、上記のJamesらによるNCYC3042株(=CBS9951株(ソフトドリンク工場))(S.A.James,C.J.Bond,M.Stratford and I.N.Roberts:FEMS Yeast Res.,5(8),747−755 (2005))ぐらいしかなく、現時点では表現形質に関する報告自体もない。このNCYC3042株(=CBS9951株)は、オランダの菌株保存研究機関「CBS−KNAW 菌類多様性センター(CBS−KNAW Fungal Biodiversity centre)では、Zygosaccharomyces sp.として、またイギリスの菌株保存研究機関である「ナショナル・コレクション・オブ・イースト・カルチャーズ(National Collection of Yeast Cultures(NCYC))」のホームページ上に公開されている「(菌)株情報」(http://www.ncyc.co.uk/yeast−ncyc−3042.html)には、(Z.rouxiiではなく)Zygosaccharomyces hybrid strain(チゴサッカロミセス・ハイブリッド・ストレイン)として登録されており、同株の「Information(=情報)」欄には、『NCYC3042 appears to be a hybrid strain arising from a cross between Zygosacchamyces mellis and an unknown Zygosaccharomyces strain.(注:[和訳]NCYC3042株は、Zygosaccharomyces mellis(=チゴサッカロミセス・メリス。以下、Z.mellisと略す)と他の、未知のZygosaccharomyces属酵母との交雑によって生まれた(異種間)交雑株だと見られる)』と記されている(2013年8月30日調査時点))と、[3]この味噌から分離されたATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株)のような、上記の[1](生粋の)Z.rouxii(群)と[2]Z.pseudorouxii(群)との(自然)交雑によって生まれたのではないかと見られる株群(注:以下、[3]Zygosaccharomyces hybrid strain(群)と略す)とが混在しているのではないかと見ており(J.L.Gordon and K.H.Wolfe:Yeast,25(6),449−456 (2008))、さらに最近、研究者達の間では、(下面発酵ビール酵母(S.pastorianus)が、S.cerevisiaeとS.bayanusとの間での種間交雑とその後の染色体の再編成(=乗換えや消失など)を経て生まれた異種高次倍数体であるという上記の事例(ケース)と同じく)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されるZ.rouxii株のほとんどないしはすべてが、この3群のうちの[3]Zygosaccharomyces hybrid strain(群)に区分けすべき株に相当するのではないかとも言われ始めている(注:[3]Zygsaccharomyces hybrid strain群に区分けすべきとされる(現行の分類ではZ.rouxiiに分類されている)株群が、耐塩性能の弱い[1](生粋の)Z.rouxiiと、少なくとも味噌や醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)からは分離されたとの報告がない[2]Z.pseudorouxiiとの交雑によって生まれたものだと仮定した場合、[3]Zygosaccharomyces hybrid strain群に区分けすべきとされる株群の耐塩性能がこれらの親株よりも極端に強いという事は、不可解にも思えるかも知れない。ただ、近縁種どうしの交雑によって生まれた異質倍数体が多い植物の場合、このような亜種間交雑ないしは種間交雑によって生まれたばかりの異質倍数体(群)では、その個体(または株)ごとに、両方の親株からそれぞれ受け継いだゲノムの再編成(L.H.Rieseberg,B.Sinervo,C.R.Linder,M.C.Ungerer and D.M.Arias:Science,272(5262),741−745 (1996)、H.Shaked,K.Kashkush,H.Ozkan,M.Feldman and A.A.Levy:Plant Cell,13(8),1749−1759 (2001))や転移因子(トランスポゾンなど)の活性化(B.Liu and J.F.Wendel:Genome,43(5),874−880 (2000)、X.Shan,Z.Liu,Z.Dong,Y.Wang,Y.Chen,X.Lin,L.Long,F.Han,Y.Dong and B.Liu:Mol.Biol.Evol.,22(4),976−990 (2005))、DNAメチル化の変化(A.Salmon,M.L.Ainouche and J.F.Wedel:Mol.Ecol.,14(4),1163−1175 (2005))などを起こしながら、(あたかも両方の親株から受け継いだ遺伝子群のさまざまな組み合わせを試すかのように)遺伝子群の発現パターンもきわめてランダムに変化させる事が知られており(J.C.Pires,J.Zhao,M.E.Schranz,E.J.Leon,P.A.Quijada,L.N.Lukens and T.C.Osborn:Biol.J.Linn.Soc.,82(4),675−688 (2004)、K.L.Adams and J.F.Wendel:Trends Genet.,21(10),539−543 (2005)、K.L.Adams and J.F.Wendel:Genetics,171(4),2139−2142 (2005)、R.T.Gaeta,J.C.Pires,F.Iniguez−Luy,E.Leon and T.C.Osborn:Plant Cell,19(11),3403−3417 (2007))、そのような過程を経て安定化した個体(または株)群の表現形質は個体(または株)ごとにバラエティーに富んでおり、なかには(同質倍数体株にも見られる倍数体強勢(polyploidy heterosis)としての)各種器官の巨大化や、異種ゲノム間の雑種強勢(heterosis、またはhybrid vigor)としての生育能の向上などの特徴を示すだけでなく(渡辺好郎(監修)/福井希一・辻本壽(共著):改訂版 育種における細胞遺伝学、養賢堂 (2010))、さらに親株よりも環境に対する適応能力が高い(または強い環境耐性能を示す)個体(または株)や、親株とは異なる形質を持つ個体(または株)も混じっていて、(そもそも同質倍数体であっても、親株とまったく同じ生息地を持つ事は稀だが)こうした個体(または株)はその能力を武器に、親株とは異なる、より過酷な環境にも進出して定着する(=生息地とする)事があるのだ(L.H.Rieseberg,O.Raymond,D.M.Rosenthal,Z.Lai,K.Livingstone,T.Nakazato,J.L.Durphy,A.E.Schwarzbach,L.A.Donovan and C.Lexer:Science,301(5637),1211−1216 (2003)、M.H.Hoffmann:Evolution,59(7),1425−1436 (2005)、R.Shimizu−Inatsugi,J.Lihova,H.Iwanaga,H.Kudoh,Karol Marhold,O.Savolainen,K.Watanabe,V.V.Yakubov and K.K.Shimizu:Mol.Ecol.,18(19),4024−4048 (2009))という(日本生態学会(森長真一・工藤洋)(編):[シリーズ 現代の生態学7]エコゲノミクス ―遺伝子からみた適応―、p246−262(清水(稲継)理恵・清水健太郎(著))、共立出版 (2012))。 ちなみに、このソフトドリンク工場から分離されたZygosaccharomyces pseudorouxii NCYC3042株の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(560塩基対(base pair(bp))((DDBJ/ENA/GenBank Accession No.)AJ555406.1、(NCBI−)GI:46094756)は、図5.の上段の配列(=配列番号2)(注:図中では「配列2」と示す。以下の配列番号2以外の配列番号についても同様)の通りで、これは上記のSuezawaらのグループが「Type2」と仮称している株群の持つ塩基配列と完全に一致(=100%相同)しており、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(581bp)(AB302806.1、GI:208609196)、すなわちSuezawaらのグループが「Type1」と仮称している株群の持つ塩基配列(=図5.の下段の塩基配列(=配列番号1))とは、図5.中の塩基配列のうち、矢印で示した(1)〜(14)の計14箇所(=14塩基)で異なっている(注:上下段の塩基配列、すなわちType1の塩基配列(=配列番号1)とType2の塩基配列(=配列番号2)との類似性は97.5%である。尚、(1)等の括弧付きの数字で表した箇所は、図においては対応する丸付き数字により表されている)。 田中らのグループも、味噌・醤油諸味などから分離された味噌・醤油主発酵酵母であるZ.rouxiiの中には、複数の26SrRNA遺伝子(上のD1/D2領域を含む部分配列)を持つ株がいるようだと見ており(田中泰史、渡部潤、茂木喜信:醤研、38(6)、347−356 (2012))、こうした複数の26SrRNA遺伝子(上のD1/D2領域を含む部分配列)を持つ味噌・醤油主発酵酵母株に対しては、その「Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の26SrRNA遺伝子(上のD1/D2領域を含む部分配列)を含む、複数のZygosaccharomyces属酵母の26SrRNA遺伝子(上のD1/D2領域を含む部分配列)を持つ(という特徴は、すなわちZ.rouxiiを含む、複数の酵母株の交雑によって生まれた株である可能性が高い)」という遺伝情報を根拠に、(Z.rouxiiではなく)Zygosaccharomyces sp.と呼ぶべきだと見る研究者も増えてきている。 こうした最近の知見を基づき、一部の菌株保存研究機関でも保有しているZ.rouxii株の種名の見直しを始めたようである。たとえば、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRC(Biological Resource Center,NITE)では、2012年に、上記の試験1.で用いた供試株20株のうちの、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)から分離されたNBRC0505株、NBRC0506株(=IFO0506株=NISL3402株)、NBRC0521株(=IFO0521株=NISL3450株)、NBRC0525株(=IFO0525株=NISL3452株)、NBRC0845株(=IFO0845株=NISL3459株)、NBRC1876株(=CBS4837株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の6株と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたNBRC1812株(=IFO1812株(花(日本)))との計7株について、ホームページ上に公開している登録(=属種)名を、「Z.rouxii」から「Zygosaccharomyces sp.」に変更した(http://www.nbrc.nite.go.jp/modification.html)。ただし、これら7株のうち、たとえば味噌から分離されたNBRC1876株(=CBS4837株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)は、他の多くの菌株保存研究機関でも保存されていて、たとえばオランダの菌株保存研究機関「CBS−KNAW 菌類多様性センター(CBS−KNAW Fungal Biodiversity centre)では(Zygosaccharomyces sp.ではなく)いまだにZ.rouxii CBS4837株(=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)として(http://www.cbs.knaw.nl/Collections/BioloMICS.aspx?Link=T&TableKey=14682616000000067&Rec=107962&Fields=All(2013年8月30日調査時点))、またイギリスの菌株保存研究機関「ナショナル・コレクション・オブ・イースト・カルチャーズ(NCYC)」でも、(Zygosaccharomyces sp.ではなく)Z.rouxii NCYC1682株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)として登録されている(http://www.ncyc.co.uk/yeast−ncyc−1682.html(2013年8月30日調査時点))。 Candida属酵母やDebaryomyces属酵母、Saccharomyces属酵母、Pichia属酵母、Trichosporon属酵母(トリコスポロン属酵母)、Zygosaccharomyces属酵母などの中には、液体(液体培地を含む)中で静置培養した際に、その液面に浮かび上がって細胞どうしが凝集し、白〜淡い褐色の、乾燥して粉をふいたような性状の「皮膜(film、またはpellicle)」を形成する株もおり、このような株群を「産膜(性)酵母(film(−forming) yeast(s))」と総称する(好井久雄、金子安之、山口和夫(共著):<改訂増補版>食品微生物学、p29−30、技報堂出版 (1976))。このような産膜酵母は、液体ないしは固液混合型の食品に混入した際に、その食品中の各種成分を栄養源に増殖し、その食品の液面ないしは表面に皮膜を形成する事がある。 産膜酵母が液体(培地など)の液面に浮かび上がって、皮膜を形成するのは、その細胞の表層の疎水性が高いためだとされ、産膜酵母(赤ワインから分離されたS.bayanus FY−3株など)を接種する液体培地にトリトンX−100(Triton X−100)やツイ―ン80(Tween80)などの非イオン系界面活性剤を加えると、皮膜を形成しなくなる(Y.Iimura,S.Hara and K.Otsuka:Agric.Biol.Chem.,44(6),1215−1222 (1980))。産膜酵母の細胞表層の疎水性も、その細胞表面に含まれる脂肪酸量によって影響を受ける事が知られている。産膜酵母の中には、[1]たとえばSaccharomyces属産膜酵母やZygosaccharomyces属産膜酵母などのように、グルコースを炭素源とする液体培地で培養した際には(グルコースをほぼ消費し尽くすまで)なかなか皮膜を形成しないが、エタノールを炭素源とする液体培地で培養した際には、エタノールを好気的に資化する事で、細胞表面の脂肪酸量が増えて、細胞表層の疎水性が高まるために(Y.Iimura,S.Hara and K.Otsuka:Agric.Biol.Chem.,44(6),1223−1229 (1980))、液体培地の液面に浮かび上がり、皮膜を形成するようになる産膜酵母株群と、[2]Candida属産膜酵母やPichia属産膜酵母などのように、そもそも細胞表面の脂肪酸量が多いために、常に表層の疎水性が高く、液体培地の組成(または炭素源)に関係なく皮膜を形成する産膜酵母株群とがおり(清酒酵母研究会(編):改訂 清酒酵母の研究、p666−676(飯村穣・原昌道・大塚謙一(著))、清酒酵母研究会 (1980))、前者を「仮性産膜酵母(pseudo film−forming yeasts)」、後者を「真性産膜酵母(true film−forming yeasts)」と呼び分ける事もある(後藤昭二:醗工、37(9)、384−390 (1959))。 醸造・発酵食品への産膜酵母の利用例としては、たとえばシェリー(またはシェリー酒(sherry))の「フィノ(Fino)」が挙げられる。「フィノ」を醸造する場合には、まず破砕除梗(=梗(または小枝)を取り除いた)後の葡萄果醪(=粗果汁(grape must))に、[1]通常のワイン醸造の場合には野生酵母の増殖を抑制するために添加する亜硫酸(注:厳密にはピロ亜硫酸カリウム、通称;メタカリ)を敢えて添加せずに、代わりに少量の石膏を添加して葡萄果醪(=粗果汁)の酸度を上げるだけにとどめ、さらに発酵終了後のワインを樽詰め貯蔵(または熟成)する際に、[2]ワインを敢えて樽いっぱい(=満タン)には詰めず、わざと樽内に3/4から1/6程度の空隙を残す事で、その貯蔵(または熟成)中に産膜酵母(=フロール(または花、産膜性)・シェリー酵母(=S.cerevisiae))を増殖させて、ワインの液面全体に「フロ(ー)ル(または花(flor))」と呼ばれる白い皮膜(film)を形成させ、貯蔵(または熟成)中のワインが空気に触れない状態にして、酸化による色調の濃色化を防ぎながら、独特の風味(=産膜酵母が生産するアセトアルデヒド(acetaldehyde)やエステル類(esters)、(アルデヒドと高級アルコールやフェノール類の縮合によって生じる)アセタール(acetal)などの香気成分から構成されるシェリー香)をつけるのである。そのため、この樽詰め貯蔵(または熟成)での産膜酵母による風味づけの工程は、「花咲かせ工程(florprocess)」とも呼ばれる(横塚勇:醸協、60(2)、141−145 (1965)、大塚謙一(著):ワイン博士の本、p153−157、地球社 (1973)、相田浩・高橋甫・上田清基・栃倉辰六郎・上田誠之助(著):新版 応用微生物学II、p193(栃倉辰六郎(著))、朝倉書店 (1981)、野白喜久雄・吉澤淑・鎌田耕造・水沼武二・蓼沼誠(編):醸造の事典、p285−286(戸塚昭(著))、朝倉書店 (1988)、吉澤淑・石川雄章・蓼沼誠・長澤道太郎・永見憲三(編):醸造・発酵食品の事典、p279−280(銭林裕(著))、朝倉書店 (2002)、明比淑子:醸協、106(9)、597−605 (2011))。 ただし、この「フィノ」のような、醸造食品への産膜酵母の利用例はどちらかといえば稀な事例(ケース)であり、この「フィノ」の醸造法自体が「型破り」であるとも言える。一般的には、食品中に産膜酵母が混入して増殖すると、食品の液面ないしは表面に白っぽい皮膜を形成する事で、食品の「見ため」を悪くするとともに、さらには混入してから皮膜を形成するまでの増殖過程で、食品中の糖質やアルコールなどの各種成分を消費したり、また食品としての嗜好性に悪い影響を及ぼす呈味成分や香気成分(=アルデヒドや酸など)を生成したりする事を通じて、仕掛品や製品の品質の劣化を引き起こす。そのため、さまざまな食品メーカーでは、こうした産膜酵母が製造工程の仕掛品や製品中に混入しないように、そして仕掛品や製品中で皮膜が形成されないように対処する事のほうが圧倒的に多い。たとえば、静置発酵法で醸造している醸造酢の場合には、そのもろみ中で産膜酵母が増殖すると、酢酸菌(Acetobacter pasteurianus(アセトバクター パストリアヌス))の増殖が抑制され、酢酸発酵自体が阻害されてしまう事がある(鵜木隆文、瀬戸口眞治、亀澤浩幸、下野かおり:鹿児島県工業技術センター研究報告、18、7−13 (2004)、松永一彦、瀬戸口眞治、下野かおり、亀澤浩幸、西元研了、鵜木隆文:鹿児島県工業技術センター研究報告、21、11−14 (2007))。ワイン醸造の場合にも、上記の「フィノ」を除けば、貯蔵(または熟成)中のワインへの産膜酵母の混入による皮膜(フロール)の形成は、ワインにシェリー香を付けてしまうために禁物であり、貯蔵(または熟成)中のワインにおける産膜酵母の増殖に伴う皮膜形成は「(ワイン)産膜病」とも呼ばれ、忌み嫌われる。そのため、[1]破砕除梗後の葡萄果醪(=粗果汁)に亜硫酸を添加する事で、発酵工程以降における野生の産膜酵母などの増殖を抑制し、さらに[2]貯蔵(または熟成)中のワインの中で産膜酵母が増殖しないように、ワインを樽や発酵タンクいっぱい、つまり「満タン」に詰めて、空隙をつくらないようにするのが一般的である(伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、p194−200(後藤奈美(著))、サイエンスフォーラム (2004))。 「産膜酵母」というのは、上記した通り、Saccharomyces属、Zygosaccharomyces属、Candida属、Pichia属など、皮膜を形成する」という特徴(=表現形質)を持った複数の属にまたがるさまざまな酵母群に対して付けられた「総称」に過ぎず、産膜酵母の微生物学的な特徴(=表現形質)はその属・種・株ごとにさまざまであり、それゆえに食品ごとに皮膜形成の原因となる産膜酵母の種類は異なる。たとえば、上記した醸造酢の場合、鹿児島県で醸造している米黒酢やサトウキビ酢のもろみからは、Pichia anomala(ピキア・アノマーラ(=現:Wickerhamomyces anomalus)。以下、P.anomala(=現:W.anomalus)と略す)やPichia membranifaciens(=ピキア・メンブラニファシエンス。以下、P.membranifaciensと略す)、Issatchenkia orientalis(イサタケンキア(またはイサチェンキア)・オリエンタリス(=現:Pichia kudriavzevii(ピキア・クドリアヴゼビー)))(松永一彦、瀬戸口眞治、下野かおり、亀澤浩幸、西元研了、鵜木隆文:鹿児島県工業技術センター研究報告、21、11−14 (2007))、糠漬けなどの漬物類の場合にもP.anomala(=現:W.anomalus)やP.membranifaciens、Debaryomyces hansenii(デバリオミセス(またはデバリオマイセス)・ハンゼニー。以下、D.hanseniiと略す)などの産膜酵母が分離されたとの報告がある。 恩田らのグループは、梅漬の塩蔵中の菌叢(フローラ)を解析してみたところ、塩蔵初期は専らKloeckera apiculata(=クロエ(ッ)ケラ・アピキュラータ。以下、K.apiculataと略す)で占められていたが、目視で皮膜の形成が観察される3週目以降になると(K.apiculataは検出されなくなって)代わりにP.anomala(=現:W.anomalus)やCandida guilliermondii(キャンディダ(またはカンジダ)・ギリエルモンディ(またはギリエルモンジィ))が増え、それに伴ってpHが上昇し、3ヶ月も経ると今度はD.hanseniiなどが増えてくるといった具合に、塩蔵中の日数経過に伴って検出される産膜酵母の種類も変わっていったと報告している。 ビールの場合には、P.anomala(=現:W.anomalus)やP.membranifaciens、Candida mycoderma(キャンディダ(またはカンジダ)・マイコデルマ)(好井久雄、金子安之、山口和夫(共著):<改訂増補版>食品微生物学、p164、技報堂出版 (1976)、J.−P.Dufour,K.Verstrepen and G.Derdelinckx:Brewing yeasts.,pp347−388 In:T.Boekhout and V.Robert(ed.):Yeast in Food,B.Behr‘s Verlag GmbH & Co. (2003))、また発酵後期にはエタノール耐性能の強い産膜性Saccharomyces属酵母(=S.oviformis(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・オビホルミス)やS.fermentati(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・ファーメンティー)などによる汚染例などの報告がある(山里一英・宇田川俊一・児玉徹・森地敏樹(編):微生物の分離法、p292−294(後藤昭二(著))、R&Dプランニング (1986)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p155−161(矢野俊博(著))、幸書房 (2001))。 ワインの場合には、発酵初期の葡萄果醪(=粗果汁)では、エタノール濃度が低い事もあって、エタノール耐性能の弱い、Candida属酵母やPichia属酵母、Hansenula属酵母などの産膜酵母による汚染例が多いが、発酵が進んだ葡萄果醪(=粗果汁)では亜硫酸耐性能が強く、かつエタノール耐性能も強い産膜性Saccharomyces属酵母(注:たとえば、上記の、赤ワインから分離されたS.bayanus(Y.Iimura,S.Hara and K.Otsuka:Agric.Biol.Chem.,44(6),1215−1222 (1980))などによる汚染例が多くなる(飯村穣、大塚謙一、原昌道:醗工、58(6)、449−452 (1980)、清酒酵母研究会(編):改訂 清酒酵母の研究、p666−676(飯村穣・原昌道・大塚謙一(著))、清酒酵母研究会 (1980)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p155−161(矢野俊博(著))、幸書房 (2001)、伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、p194−200(後藤奈美(著))、サイエンスフォーラム (2004))。 上記の、シェリー酒の液面に皮膜(フロール)を形成して特有の香気を付与する有益な産膜酵母(=フロール(または産膜性)・シェリー酒酵母)は、以前はSaccharomyces beticus(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・ベティクス)(J.Marcilla Arrazola,G.Alas and M.E.Feduchy:Anales centro invest.vinicolas,1,1−230 (1936))ないしはS.fermentati(J.Lodder and N.J.W.Kreger−Van Rij:The yeasts,a taxonomic study,North−Holland Pubishing Company,Amsterdam (1952)、J.G.B.Castor and T.E.Archer:Appl.Microbiol.,5(1),56−60 (1957))、S.cheresiensis(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・チェレシエンシス)、S.montuliensis(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・モントリエンシス)などと呼ばれていたが(R.Y.スタニエ(Stanier)・E.A.エーデルバーグ(Adelberg)・J.L.イングラム(Ingraham)(共著)/高橋甫・斎藤日向・手塚泰彦・水島昭二・山口英世(訳):微生物学(下)(原書第4版)(THE MICROBIAL WORLD;4th edition)、p475、培風館 (1978)、相田浩・高橋甫・上田清基・栃倉辰六郎・上田誠之助(著):新版 応用微生物学II、p193(栃倉辰六郎(著))、朝倉書店 (1981))、上記した通り、現在はこれらもSaccharomyces cerevisiaeの1属1種に再分類されている。つまり、現行の分類でS.cerevisiaeという1属1種の中に分類されている株群の中には、上記した、皮膜を形成する能力を持っておらず、かつ清酒や焼酎の醸造に利用できる「清酒酵母」や「焼酎酵母」などの有用株や、そうした利用に不向きな株(実験室酵母株)に加え、さらには食品に有害な産膜性S.cerevisiae(flor Saccharomyces cerevisiae、またはSaccharomyces cerevisiae flor yeast(B.Esteve−Zarzoso,M.J.Peris−Toran,E.Garcia−Maiquez,F.Uruburu and A.Querol:Appl.Environ.Microbiol.,67(5),2056−2061 (2001)))なども混在しているのである。 醤油(減塩醤油を除く)中で皮膜を形成する原因酵母は、1属1種しかいない。醤油に混入して皮膜を形成する産膜酵母(注:以下、醤油産膜性酵母、あるいは醤油産膜性Z.rouxiiと呼ぶ)も、上記のS.cerevisiaeの場合と同様、現在は有用な醤油主発酵酵母(Z.rouxii)と同じZ.rouxiiに分類されている。図6.は、溜醤油諸味から分離された醤油産膜性酵母であるZ.rouxii NISL3460株(=IFO0846株)を、上記の試験2.で用いた市販の濃口醤油II(注:成分組成は、食塩分(NaCl)16.20%(W/V)、全窒素分(T.N.)1.594%(W/V)、還元糖分(R.S.)2.73%(W/V)、エタノール2.99%(V/V)、pH=4.86)に接種し、30℃条件下で静置培養した際の様子(濃口醤油の液面)を経時的に撮影した写真を並べたものである。図6.の上段の写真群のうち、向かって左端の写真(接種後2日)を起点に、順に右に向かって、さらに下段の写真群に移って、左端の写真(接種後10日)から順に右へと見ていくと、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))接種後の濃口醤油の液面の変化を追跡する事ができるが、ちょうど接種後6〜7日辺り(=図6.中の、上段の写真群のうちの、左端から2枚目及び3枚目(一部拡大)の写真)から、濃口醤油の液面と試験管のガラス壁との接触面にまず白い粉状のNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の細胞が付着し始め、日数を経るに従ってその粉状の細胞が増えて液面全体に拡がり、湯葉状の皮膜となり、次第に分厚くなっていく様子が見てとれる。皮膜の成長は、接種後20日ぐらい(=図6.中の、下段の写真群のうちの、左端から4枚目の写真)までは続く。 醤油やその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)は、食塩(NaCl)濃度が16%前後ないしはそれ以上と、非常に高いために、Z.rouxii以外の産膜酵母、すなわち上記した、他の食品では皮膜を形成するDebaryomyces属酵母やHansenula属酵母、Saccharomyces属酵母、Pichia属酵母などは増殖できず、ゆえに醤油中での皮膜形成の原因微生物にはならない(というか、なれない)。そのため、醤油に皮膜形成が認められた場合、もしその醤油中の食塩(NaCl)濃度が15%以上なのであれば、その原因微生物はZ.rouxiiだと判断して、まず問題はないとされる(伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、p187−193(半谷吉識(著))、サイエンスフォーラム (2004))。つまり、醤油産膜性酵母は現行の分類でのZ.rouxiiの1属1種に含まれる株群のみである(注:ただし、醤油よりも食塩(NaCl)濃度が低い味噌の場合には、このZ.rouxiiの他、P.membranifaciens、P.farinosa、P.anomala(=現:W.anomalus)なども皮膜形成の原因微生物となる事がある(好井久雄、金子安之、山口和夫(共著):<改訂増補版>食品微生物学、p179、技報堂出版 (1976)))。 たとえば、図7.は、味噌から分離された産膜性酵母であるP.farinosa NBRC0991株と溜醤油諸味から分離された醤油産膜性酵母であるZ.rouxii NISL3460株(=IFO0846株)を、(1)塩化ナトリウム(NaCl)濃度が10.99%の生醤油液体培地と、(2)16.20%の濃口醤油IIとに接種し(注:供試株2株の種培養液接種前の濃口醤油IIの食塩分(NaCl)は16.20%(W/V)であり、この濃口醤油5mlに10.99%の塩化ナトリウム(NaCl)を含む供試株の種培養液を、濃口醤油容量比で2%(V/V)、すなわち0.1ml接種した後の塩化ナトリウム(NaCl)濃度(推定値)は16.10%である)、30℃で、前者、すなわち生醤油液体培地の試験区は10日間、後者、すなわち濃口醤油の試験区は30日間静置培養した際の様子(濃口醤油の液面)を撮影した写真であるが(注:試験手順については、下記の試験5.を参照)、これを見ると、溜醤油諸味から分離された醤油産膜性酵母であるZ.rouxii NISL3460株(=IFO0846株)は生醤油液体培地と濃口醤油の両方で皮膜を形成しているのに対して、味噌から分離された産膜性酵母であるP.farinosa NBRC0991株のほうは、塩化ナトリウム(NaCl)濃度が低い生醤油液体培地中では皮膜を形成する、すなわち皮膜を形成する能力(=産膜性能)自体は持っているものの、塩化ナトリウム(NaCl)濃度が16%ないしはそれ以上と高い濃口醤油中では皮膜を形成しない、すなわち(耐塩性能が弱いために)醤油産膜性能は持っていない、つまり「産膜性/醤油「非」産膜性酵母株」である事が分かる。 醤油産膜性酵母(または醤油産膜性Z.rouxii)は、醤油やその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)に混入して増殖すると、醤油の液面や醤油諸味の表面に、たとえば図6.の通り、「黴(かび)」のようにも見える、白っぽく、乾燥して粉をふいたような性状の皮膜を形成するため、以前は「白黴(しろかび、または醤油白黴(しょうゆしろかび))」や「白膜」などと呼ばれていた(富田実、山本澄人:醸協、92(12)、853−859 (1997))。醤油産膜性酵母(または醤油産膜性Z.rouxii)も、かつては(醤油「非」産膜性Z.rouxiiがZ.sojaやZ.majorと呼ばれていたのに対して)Zygosaccharomyces salsus(チゴサッカロマイセス(またはチゴサッカロミセス)・サルサス)やZygosaccharomyces japonicus(ジャポニカス)、またZ.rouxiiがS.rouxiiと呼ばれていた1970年頃には、S.rouxii var.halomembranis(サッカロミセス(またはサッカロマイセス)・ルーキシー・バリエタス・ハロメンブラニス)と呼ばれ、醤油「非」産膜性Z.rouxii(注:当時はまだS.rouxiiである)の「変種」として区別されていたが(J.Lodder(ed.):The yeasts,a taxonomic study(2nd ed.),North−Holland Publishing Company,Amsterdam (1970)、吉田忠:北海道大学農学部邦文紀要、8(4)、289−347 (1973))、1984年以降は両者ともにZ.rouxiiに分類されるようになった(N.J.W.Kreger−van Rij(ed.):The yeasts,a taxonomic study(3rd ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1984)、C.P.Kurtman and J.W.Fell(eds.):The yeasts,a taxonomic study(4th ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1998))。 そのため、現行の分類でZ.rouxiiという1属1種に分類される株群の中にも、上記したS.cerevisiaeの場合と同様に、[1]皮膜を形成する能力を持っておらず、上記の試験2.で示した通り、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、上記の試験1.で示した通り、味噌・醤油などの醸造に利用できる、有用な味噌・醤油主発酵酵母株(または醤油「非」産膜性Z.rouxii株)や、[2]たとえば黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたZ.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)やビターオレンジシロップボンボンから分離されたZ.rouxii NISL3443株(=IFO0487株)などのように、上記の試験1.で示した通り、醤油諸味液汁中でのエタノール生産性能が低く、あるいはなく、上記の試験2.で示した通り、そもそも味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力自体が低いために(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)の中で皮膜を形成する能力も持っておらず)、味噌・醤油などの醸造に利用するのに不向きな株に加え、さらには[3]味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)の中で皮膜を形成する能力を持つ「味噌・醤油産膜性酵母株(または醤油産膜性Z.rouxii株)も混在しているのである。 図8.は、味噌から分離された醤油「非」産膜性酵母であるZ.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)と、溜醤油諸味から分離された醤油産膜性酵母であるZ.rouxii NISL3460株(=IFO0846株)を濃口醤油諸味の圧搾後生液汁、すなわち濃口生揚げ醤油(注:成分組成は、食塩分(NaCl)16.60%(W/V)、全窒素分(T.N.)1.773%(W/V)、エタノール3.23%(V/V)、pH=4.96)に接種し、30℃で30日間静置培養した際の様子(濃口生揚げ醤油の液面)を撮影した写真である(注:試験手順については下記の試験5.を参照)。両株ともに、現行の分類上は同属同種、すなわち同じZ.rouxii株でありながら、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)であるNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))は濃口生揚げ醤油の液面に皮膜を形成する一方、醤油「非」産膜性酵母(=醤油「非」産膜性Z.rouxii)であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))は濃口生揚げ醤油の液面に皮膜を形成せず、つまり静置培養条件下での両者の性状は大きく異なる。 上記した通り、産膜酵母には「仮性産膜酵母」と「真性産膜酵母」とがあるが、醤油産膜性Z.rouxii株は「仮性産膜酵母」に区分けされる。醤油産膜性Z.rouxii株は、液体培地中で静置培養した際には液面に皮膜を形成するものの、振とう培養条件下では皮膜を形成しない。図9.は、醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を、約11%の食塩(NaCl)を含む生醤油液体培地に接種して、30℃条件下で3日間培養した際の様子(液体培地の液面)を撮影したものだが(注:試験手順は下記の試験5.を参照)、静置培養条件下では図9.中の、向かって「右側(の試験管)」の通り、皮膜を形成し(始め)ているのに対して、振とう培養条件下では、向かって「左側(の試験管)」の通り、皮膜を形成していない。そのため、振とう培養条件下では、醤油産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのかを、目視で判別(または区分け)する事はできない。 醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)による皮膜の形成は、醤油中でなくても起こる。たとえば、図10.は、醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を0〜16%塩化ナトリウム(NaCl)加YPD液体培地に接種し、30℃条件下で10日間培養した際の様子(液体培地の液面)を撮影した写真だが(注:試験手順については下記の試験5.を参照)、このように微生物の培養に広く用いられるYPD液体培地中でも皮膜を形成する。 富田(Tomita)らによる、醤油諸味から分離された産膜性酵母であるZ.rouxii F51株に関する研究報告によれば、F51株は高張液中でないと皮膜を形成しない、たとえば3%以上の塩化ナトリウム(NaCl)を含むYM培地(注:培地組成は、2%グルコース、0.5%ポリペプトン、0.3%酵母エキス、0.3%マルツエキス)中では皮膜を形成するものの、0〜1%の塩化ナトリウム(NaCl)を含むYM培地中では皮膜を形成せず、また10%の塩化ナトリウム(NaCl)を含むYM培地であっても、0.1%のツイーン20(Tween20)を加えてやると、皮膜を形成しなくなるとの事だが(M.Tomita,S.Yamamoto,K.Yamaguchi,H.Ohigashi and K.Koshimizu:Biosci.Biotech.Biochem.,61(1),51−55 (1997)、富田実、山本澄人:醸協、92(12)、853−859 (1997))、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を、0〜18%の塩化ナトリウム(NaCl)を含むYPD液体培地(pH=5.0)3mlに接種し、30℃条件下で2日間振とう培養(140rpm.)して種培養液を調製し、この種培養液0.1mlを同じ液体培地5mlに(=容量比2%)接種して、30℃条件下で静置培養してみたところ、図10.及び図11.の(1)の通り、0〜10%の食塩(NaCl)を含むYPD液体培地では接種後2日、16%の食塩(NaCl)を含むYPD液体培地でも接種後3日で皮膜を形成した事から、少なくともこのNISL3460株(=IFO0846株)による皮膜の形成には、生育環境(=培地)中の食塩(NaCl)はあまり重要ではないのかも知れない。 図11.の(2)は、上記のNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))に、同じく醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3359株(=A31株(醤油))、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))、NISL3459株(=IFO0845株(溜醤油諸味))を加えた計4株を、上記の富田(Tomita)らが試験で用いたYM液体培地に接種した際の様子(液体培地の液面)を撮影した写真である。YM液体培地は、YPD液体培地よりも溶質量が少な(く、ゆえに比重が小さ)いために、供試株の細胞が液面に浮かびにくいものと見られ、供試株4株いずれの試験区でも、形成される皮膜がより薄くなり、うちNISL3452株(=IFO0525株(味噌))について、YM液体培地の液面に細胞が浮かび上がり始めた時点で成長が止まり、皮膜が形成されるまでには至らなかったものの、それでもNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を接種したYM液体培地では、上記のYPD液体培地の場合と同様、皮膜が形成された事から、株ごとによる違いも大きいようである(注:試験手順については、下記の試験5.を参照。なお、YPD液体培地の組成は、下記の試験5.に記す通り、2%(W/V)グルコース、1%(W/V)酵母エキス(Bacto Yeast Extract、べクトン・ディッキンソン アンド カンパニー(BD)製(製品コード:No.212750))、2%(W/V)ポリペプトン(日本製薬株式会社製(製品コード:No.394−00115))、pH=5.2〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。YPD液体培地の調製に用いたBD製の酵母エキスに含まれるナトリウム(Na)は0.1%(日本べクトン・ディッキンソン株式会社・BDバイオサイエンス・アドバンスト バイオプロセシングからの私信)、また日本製薬株式会社製のポリペプトンに含まれる灰分は約6%(直接灰化法による)、ナトリウム(Na)はポリペプトン100g当たり2150mg(注:原子吸光光度法による測定値)であるとされ(日本製薬株式会社・ライフテック部からの私信)、これらの培養基からの持ち込みの塩化ナトリウム(NaCl)は合算しても0.05%未満に過ぎない)。 ワインやシェリーから分離された産膜性S.cerevisiae株の産膜性能に関しては、分子生物学的な研究も進んでいて、たとえばヒートショック蛋白質Hsp12pをコードしているHSP12(S.Zara,G.Antonio Farris,M.Budroni and A.Bakalinsky:Yeast,19(3),269−276 (2002))や細胞表層の疎水性に影響を及ぼす表層蛋白質Flo11pをコードしているFLO11などの遺伝子が産膜性能の発現に必須である事が確認されている(M.Ishigami,Y.Nakagawa,M.Hayakawa and Y.Iimura:Biosci.Biotechnol.Biochem.,70(3),660−666 (2006)、戸田康裕、中川洋史、飯村穣:日本農芸化学会大会(福岡国際会議場・マリンメッセ福岡(福岡))講演要旨集、平成21年度、p256(講演番号3P0718B)、2009−03−29 (2009)、Y.Nakagawa,Y.Toda,H.Yamamura,M.Hayakawa and Y.Iimura:J.Biosci.Bioeng.,111(1),7−9 (2011))。 渡部らのグループは、こうしたワインやシェリーの産膜性S.cerevisiae株における知見を参考に、醤油諸味中に形成された皮膜から分離した産膜性Z.rouxii Z3株の皮膜形成に関わる遺伝子を調べ、「(公開されているZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の全ゲノム情報から相同性検索によって探し出した、FLO11様蛋白質をコードしているものと思われる3つの遺伝子(FLO11A、FLO11B、FLO11C)は、皮膜形成には必須ではない事を確認したものの、それとは異なる)新規」のFLO11様蛋白質をコードしているものと見られるFLO11Dを見出した事を報告している(渡部潤、上原健二、茂木喜信:醤研、38(6)、370(第75回 研究発表会講演要旨集(平成24年度成田大会)) (2012)、J.Watanabe,K.Uehara and Y.Mogi:Genetics,195(2),393−405 (2013))。 味噌・醤油醸造においても、醤油産膜性Z.rouxii株を積極的に利用するという事例(ケース)はほとんどなく、逆に味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)への混入及び増殖は品質の劣化を招く事から(三瀬勝利・井上富士男(編):食品中の微生物検査法解説書、p288(木島卓・今井廣敬(著))、講談社サイエンティフィク (1996))、醤油産膜性Z.rouxiiは「食品汚染菌」、要するに「悪玉菌」と評されている。醤油産膜性Z.rouxiiも、他の産膜酵母同様、醤油・生揚げ醤油などの液面や味噌・醤油諸味の表面にこのような白っぽい皮膜や白黴(のようなもの)を形成する事で、[1]味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の「見ため」を悪くするとともに、さらには混入してから皮膜・白黴(のようなもの)を形成するまでの増殖過程で、[2]味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中のアルコールなどを消費したり、また味噌・醤油としての嗜好性に悪い影響を及ぼす呈味成分やベンズアルデヒドなどの揮発性成分を生成したりする事を通して(今原廣次、中浜敏雄:醗工、46(11)、876−884 (1968))、味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質の劣化を引き起こす。 醤油中に含まれる全窒素分(Total Nitrogen(T.N.))(大原秀孝:調味科学、6(1)、6−12 (1958))、アルコールや食塩(NaCl)(花岡嘉夫:醗工、42(9)、553−564 (1964))、酢酸(山下清志:醤研、10(1)、16−20 (1984))、ベンゼン酸エチルエステル(横塚保:農化、25(8)、446−450 (1951))やフェノール性物質(横塚保:農化、27(5)、276−280 (1953)、横塚保:農化、28(2)、114−118 (1954))などには、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)による皮膜形成を抑制する効果がある。ただし、醤油(製品)やその仕掛品(である醤油諸味、生揚げ醤油など)における醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の混入と増殖によるこうした品質の劣化を防ぐには、これらの成分だけでは不十分な場合も少なくない。特に、近年、醤油メーカーでは、(食塩(NaCl)の摂り過ぎが高血圧や心臓病、脳卒中などの発症の原因になるとの指摘を受けて)醤油(製品)中の食塩(NaCl)濃度を敢えて減らそうとする、いわゆる「低塩化」の傾向が強い。その最たるものが、「減塩醤油」の製造・販売である。濃口醤油中の食塩(NaCl)濃度は、昔は18〜19%だったらしいのだが(注:たとえば1964年当時の「本醸造濃口醤油(特級)」の食塩分(NaCl)の濃度はだいたい18.20%ぐらい)、最近では16%前後まで減ってきている(久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p80−81及びp205−206、日本醤油協会 (2012))。 表2.〜4.は、後記する醤油産膜性試験(=試験5.)で用いた「7社の醤油メーカーが製造した市販の濃口醤油計21試料」の各種成分組成を分析した結果であるが、これら7社の濃口醤油の食塩分(NaCl)の濃度も15.62〜16.45%(W/V)であった。宮城らのグループが過去30年の千葉県の醤油鑑評会に出品された醤油の成分分析値を統計解析した結果でも、食塩分(NaCl)の濃度は30年の間に0.7〜0.9%(W/V)も減少しているという(宮城淳、岡千寿、宮崎浩子、飯嶋直人、大垣佳寛、佐川巌、藤枝正之、福井潤一、作原直、五月女實:醤研、37(3)、183−192 (2011))。 そのため、醤油やその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)に皮膜が生じないようにするための研究及び技術開発も、古くから、盛んに行なわれてきた。醤油やその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)に対して施される「醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)対策」としては、さまざまなものがある。 たとえば、[1]醤油の仕込み工程では、定期的に、あるいは醤油諸味の表面に皮膜らしき白っぽい構造物が目視で確認され始めた場合には、皮膜の形成やその成長を抑制するために醤油諸味を(通気)攪拌するのが一般的である。また、醤油諸味の表面に紫外線を照射したり、エタノールを噴霧する事で、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の増殖を抑制する方法の有効性が検討されたりしている。[2]圧搾工程で醤油諸味から搾り出された生揚げ醤油には、「火香(ひが)」と呼ばれる特徴香を付与するためと、生醤油中の(醤油産膜性酵母を含む)微生物を殺菌するために、「火入れ(ひいれ)」と呼ばれる加熱処理が施される。当然、食品の種類や成分組成によって大きく異なるものの、酵母の栄養細胞や胞子ならば、一般的に60℃、10〜15分間程度の加熱処理で殺菌できる(好井久雄、金子安之、山口和夫(共著):<改訂増補版>食品微生物学、p114、技報堂出版 (1976))。醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)は、醤油「非」産膜性Z.rouxiiなどの醤油酵母と較べても耐熱性が弱いようだとの報告もあり(高草仁、四方日出男、大森邦英、西山輝、森口繁弘:醤研、1(4)、190−194 (1975))、実際のプレート熱交換器を使った醤油の火入れ処理の場合には、60℃、数秒の加熱と急冷で十分に殺菌できるという(花岡嘉夫:醸協、67(5)、410−415 (1972))。さらに、火入れ後の醤油自体、フェノール性物質が「加熱処理によって生じた分」だけ増加しているため、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の増殖を抑制する効果が生醤油の場合よりも強くなっている(横塚保:農化、28(2)、114−118 (1954))。(火入れ処理を行なわずに)生醤油のまま保存ないしは製品化する場合の醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の増殖に伴う品質劣化の防止法としては、精密濾過膜(microfilter(MF))などを用いた濾過除菌処理(小山田陽、掘江三郎、水谷和秋、伊藤隆、平田淳、増尾光昭、佐藤正美、大野英作、松田康:なま醤油製造方法、特開平5−49442)や高圧処理装置を用いた高圧殺菌処理(野口誠、小谷幸敏、秋田幸一:鳥取県食品加工研究所研究報告、34、82−86 (1998)、野口誠:醸協、95(1)、46−52 (2000))などの他、たとえば純度の高い窒素ガスなどの、不活性ガスと接触させる方法なども考案されている(野田誠、野田義治:醤油の保存方法、特開2004−350602)。 さらに、[3]開栓後の製品(=醤油)に醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)が混入した場合の品質劣化を防ぐために、成分調整(または規格調整)の過程で、醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)の生育を抑制する効果を持つ「アルコール」を添加するのが一般的であり、またメーカーや製品によってはJAS規格で使用が認められている安息香酸ナトリウムやパラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピルなどの合成保存料(4種類のうちの3種類以下)を添加する場合もある(栃倉辰六郎(編著):増補 醤油の科学と技術、p327−338(杉森恒武・塚田陽二(著))、日本醸造協会 (1994)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p162−169(好井久雄(著))、幸書房 (2001)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p78−79、日本醤油協会 (2012))。上記の宮城らが過去30年の千葉県の醤油鑑評会に出品された醤油(製品)の成分分析値を統計解析した結果によると、醤油(製品)中のエタノール濃度は30年の間に0.9〜1.5%(W/V)も増加し、平均2.61±0.43%(W/V)にもなっているという(宮城淳、岡千寿、宮崎浩子、飯嶋直人、大垣佳寛、佐川巌、藤枝正之、福井潤一、作原直、五月女實:醤研、37(3)、183−192 (2011))。この醤油(製品)中のエタノール濃度の増加は、仕込み工程における酵母発酵管理技術の向上による影響もあるだろうが、醤油主発酵酵母(=Z.rouxii)は、上記の、S.cerevisiaeである清酒酵母などと較べると、エタノール耐性能が弱い事もあって、醤油諸味のような、16%ないしはそれ以上の食塩(NaCl)存在下でのエタノール生産量はせいぜい3%レベルに過ぎず(久寿米一裕:醸協、96(1)、33−42 (2001))、ゆえに3%半ばから4%前後のエタノールを含む市販の醤油(製品)は、アルコールを添加して製造されているものであると見て、ほぼ間違いない。アルコールや上記の合成保存料を添加した場合には、醤油(製品)の原材料(アルコールや保存料)として表示する義務が発生するが、水村が平成22年(第38回)、平成23年(第39回)、平成24年(第40回)の全国醤油品評会に出品された濃口醤油約170種類(=第38回は170種類、第39回は173種類、第40回は172種類)のラベルを調べた結果によると、第38回は170種類のうちの133種類、第39回は173種類のうちの138種類、第40回は172種類のうちの140種類のラベルに「アルコール」の表示があったものの、一方合成保存料の表示があったのは第38回は16種類、第39回は12種類、第40回も13種類に過ぎなかったという(水村津与志:醤研、37(2)、115−123 (2011)、水村津与志:醤研、38(3)、159−166 (2012)、水村津与志:醤研、39(2)、75−82 (2013))。 この他にも、芥子(からし)油及びその製剤を添加する方法(小林正造:芥子油類の醤油防黴に関する研究、大阪市立工業研究所報告(第七回) 昭和六年度 (1931))や、サラダ油などの食用油を滴下して醤油の液面に油膜(または油層)を形成させる方法(諌山薫:容器内の醤油の表面に生ずるカビを防止する方法、特開昭47−014392)、酢酸、クエン酸、コハク酸、乳酸もしくはその塩類を重量比で3:2:2:2の割合で混合した複合有機酸を添加する方法(小倉元成:複合有機酸によるしょう油の防黴法、特許1183997)、乳酸エチル、コハク酸エチル、マロン酸エチル、マレイン酸エチル、クエン酸エチルのうちの少なくとも1種類以上(野田文雄、茂木恵太郎、萩原昭雄、神戸千幸、岩浅孝:醤油又は味噌の防バイ方法、特許1059002)か、これにさらにエタノールも添加する方法(野田文雄、茂木恵太郎、萩原昭雄、岩浅孝:醤油又は味噌の防バイ方法、特許1059003)、ギボウシ属(またはホスタ属(Hosta))の植物の搾汁液やその抽出液などを添加する方法(円谷悦造、山中正昭、柴田邦彦、川村吉也、正井博司:醤油または醤油を原料とする調味料の製造方法、特許1051287)、ショ糖脂肪酸エステルを添加する方法などが考案されている(今井正武、佐々木克実:発酵食品の表面に生ずる皮膜の生成を抑制する方法、特開昭60−149371)。マメ科に属する小形低木の「ミソナオシ(またはウジクサ、ウジコロシ(Desmodium caudatum(デスモディウム・コーダタム)))」の葉や茎は、「白黴(しろかび)が生え、蛆(うじ)がわいたりして、悪くなった味噌」に加えてやると、その和名「味噌直し」の通り、「味が直る」とされ、その昔、一部の地方の家庭では味噌の変敗防止法として用いられた事もあったそうだが、富田らは、このミソナオシの葉に含まれるグリセロ糖脂質に、産膜性酵母であるZ.rouxii F51株の皮膜形成を抑制する効果がある事を見出している(富田実、山本澄人:醸協、92(12)、853―859 (1997))。また、醤油メーカー(や関連団体)は、開栓後の醤油(製品)に醤油産膜性酵母(=醤油産膜性Z.rouxii)が混入して増殖しないようにと、消費者(ユーザー)に対して、開栓後の醤油は冷蔵庫で保管するようにし(松田俊文:キッコーマン技術情報、161(2009―春号)、6−7 (2009)、久保田芳郎・宗像伸子・舘博(監修):しょうゆの不思議(改訂版)、p69、日本醤油協会 (2012)))、なるべく早く使い切るようにする、あるいはそもそも早期に使い切れる「小」容量の醤油(製品)を選ぶように勧めている場合が少なくない。 上記したように、近年では、仕込みタンクなどの醸造設備の大型化に伴い、醤油諸味のエタノール発酵の適正管理を目的とした醤油主発酵酵母の人為的な接種(または添加)を行なう醤油メーカーも増えてきており(食品産業新聞、2013年10月21日(月曜日)(第4082号)、4−6)、さまざまな味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離・選択した種酵母(=醤油主発酵酵母株)を用いるようになってきているが、このような醸造に積極的に利用するための種酵母を選択する場合には、醤油産膜性酵母株を除外するための試験、いわゆる「(醤油)産膜性試験」を実施し、醤油中で皮膜を形成しない醤油「非」産膜性Z.rouxii株を選び出すのが一般的である。たとえば、上記の、矢内らのグループが醤油諸味のエタノール発酵を増強させる試験で用いた添加用種酵母株の選択に関する報告中にも、選択した酵母株が「産膜性を示さない事を確認した」との記述があるし(矢内次郎、瀧田啓三、雨宮清司:調味科学、3(4)、18−22 (1955))、また秋田県味噌醤油工業協同組合の「秋田香酵母ゆらら」も、秋田県の品評会などに出品された味噌など91点から分離された1092株の味噌酵母株の中から選び出されたものだが、この株の選択に関する報告(渡辺隆幸:醸協、93(1)、22−27 (1998))中にも、やはり産膜性試験を実施した旨の記述がある。 このように、Z.rouxiiという1属1種の中には、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成しない醤油「非」産膜性Z.rouxii株や、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成して、それらの品質を低下させてしまう醤油産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)が混在しており、それゆえに[C]味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高いZ.rouxii株群、すなわち味噌・醤油主発酵酵母を、さらに味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株(群)と、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株(群)とに判別(または区分け)する事は、味噌・醤油醸造及び製品などの品質管理上きわめて重要な事であり、これらを判別(または区分け)するための方法も産業上有用である。 つまり、味噌・醤油などの醸造産業の立場から見ると、現行の分類でZ.rouxiiという1属1種に分類される酵母群の中には、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、しかも皮膜形成能は持っていないために、味噌・醤油醸造に利用できるという意味では有益(な味噌・醤油主発酵酵母)だが、製品である味噌・醤油中でも生存し続け、味噌・醤油を原材料として利用するつゆ類などの製造場面において問題を引き起こしてしまう事もある醤油「非」産膜性Z.rouxii株」や、「(同じく)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多いが、味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)中で皮膜を形成して、その品質の劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株」、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能が低いために、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」が混在しているという事になる。そのため、味噌・醤油の醸造産業では、これらの酵母株群をひとまとめにZ.rouxiiとして取り扱う現行の分類法よりも、さらに上記のような詳細な区分けが重要となる。つまり、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母群を上記3群に区分け(または判別)する事は、味噌・醤油醸造及び製品などの品質管理上きわめて重要な事であり、これらを判別(または区分け)するための方法は産業上有用である。本発明は、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母群を、きわめて簡便かつ迅速に判別し、さらにこれら3群に区分けする方法である。このような方法は、これまではまったくなかったものである。 一般的に、微生物を判別(または区分け)する方法としては、形態学的及び生理学的性質・細胞成分を指標とする方法、免疫学的な方法、遺伝学的(または分子生物学的)な方法などがある。 味噌・醤油やその仕掛品、すなわち仕込み工程における味噌・醤油諸味や製成工程における生揚げ醤油などの酵母(菌)叢(フローラ)の中から[A]Z.rouxii株を判別、あるいは選択的に検出するための、形態学的及び生理学的性質を指標とする方法としては、菌集落(コロニー)の形態観察(=大きさ、色調、表面及び周縁の特徴などの観察)、栄養細胞の顕微鏡観察、炭素化合物(糖類を含む炭水化物)や窒素化合物(硝酸塩など)の同化性能(または資化性能)、糖類の発酵性能(=炭酸ガスの発生の有無)、ビタミンなどの要求性(能)、温度耐性能、薬剤(シクロヘキシミド)や酢酸などに対する耐性能、抗浸透圧性能(=耐糖性能(50%、または60%(W/W)グルコース存在下での生育能力)や耐塩性能)などを指標とする、いわゆる「同定法」の他に、菌集落(コロニー)の形状及び大きさだけを指標とする方法(三瀬勝利・井上富士男(編):食品中の微生物検査法解説書、p284(好井久雄(著))、講談社サイエンティフィク (1996))、18%塩化ナトリウム(NaCl)存在下でのマルトース資化性能の有無(H.Onishi:Agric.Biol.Chem.,25(5),341−349 (1961)、茂木恵太郎、茂木孝也:農化、42(8)、466−470 (1968)、茂木恵太郎、茂木孝也:調味科学、18(2)、30−34 (1971)、今井誠一、松本伊左尾:醸協、70(6)、413−415 (1975))や生育pH域の違いを指標とする方法(松本伊左尾、今井誠一:日食工誌、20(11)、513−518 (1973))、清酒酵母の識別法(古川敏郎、秋山裕一:農化、37(7)、398−402 (1963)、秋山裕一:醸協、58(12)、1155−1158 (1963))を真似た、2,3,5−トリフェニル−テトラゾリウム クロライド(2,3,5−triphenyl−tetrazolium chloride(TTC))還元能の有無を指標とする方法(季沢守、辛宝圭、季錫健・朴允仲:調味科学、18(2)、58−65 (1971)、茂木恵太郎、逆井利夫:醤研、3(2)、61−63 (1977))、亜鉛(Zn)やリチウム(Li)に対する感受性能を指標とする方法(馬場林留、泉保廣、茂田井宏、花岡嘉夫:農化、51(5)、261−267 (1977)、微生物生態研究会(編):微生物の生態7 ―技術論をめぐって<識別>、p13−29(馬場林留(著))、学会出版センター (1980))や、これにpHに対する生育特性、酸性ホスファターゼ(acid phosphatase(ACP))活性などの指標を加えた方法(森治彦、鳥海博次:醗工、63(1)、47−53 (1985))、ο−バニリン(奥沢洋平、板倉徹、江口卯三夫:醤研、6(4)、138−140 (1980))やバナジン酸に対する耐性能を指標とする方法(末澤保彦、鈴木基文、森治彦:醸協、103(10)、786−789 (2008))などがある。 同定法(注:詳細は、たとえば飯塚廣・後藤昭二(著)の「酵母の分類同定法(東京大学出版会 (1969))」や三瀬勝利・井上富士男(編)の「食品中の微生物検査法解説書(講談社サイエンティフィク (1996))」のp120−123(諸角聖(著))の「3.9.4 酵母の観察と同定」などを参照)でのZ.rouxii株の判別は、精度は高いものの、検査項目が非常に多いために(森治彦:醸協、80(8)、519−529 (1985))、手間がかかる。真菌の中でも、たとえば糸状菌(またはカビ)や一部の酵母の場合には、目視観察によって得られる集落の性状(形態及び色調)や顕微鏡観察によって得られる有性胞子(sexual spore)・無性胞子(asexual spore、または分生子(conidium))の形成様式や形態の情報が分類や同定の決め手となる事が多いのに対して、S.cerevisiaeなどを含むSaccharomyces属酵母やZ.rouxiiを含むZygosaccharomyces属酵母などの場合には、形態的な特徴に乏しく(それゆえに分類や同定の指標として使えず)、未同定の酵母株の同定では、さまざまな生理生化学的な性状などを詳細に調べる作業が必要となる(矢口貴志:モダンメディア、55(8)、205−216 (2009)、矢口貴志:日食微誌(Jpn.J.Food Microbiol.)、27(2)、47−55 (2010))。Z.rouxii株の判別(または同定)のために必要な炭素源の資化性検査などについては、たとえばシスメックス・ビオメリュー株式会社(SYSMEX bioMerieux Co.,Ltd.)製の酵母様真菌同定用キット「ID32Cアピ(ID32C)(Code.32207)」を利用すれば、手間をかなり軽減化させる事ができるものの、検査の大半は培養法であるために、即日で判別(または同定)する事はできず、結果を得るまでに日数を要する。たとえば伊藤寛・菊池修平(編著)の「中国の豆類発酵食品(幸書房 (2003))」のp73の「表3.10 新しいZygosaccharomyces属の分類キー」などにも記されている通り、「16%食塩(NaCl)培地での生育可/不可」という特徴(=表現形質)は、Z.rouxiiとその近縁種であるZ.mellisとを判別(または区分け)するための鍵(キー)だとされるが、上記のSuezawaらのグループによれば、両種の株を判別(または区分け)するための鍵(キー)としては不十分であり、両種の株を判別(または区分け)するためには、上記の、26SrRNA遺伝子(のD1/D2領域を含む部分配列)やITS領域などの塩基配列部分を指標とする遺伝学的(または分子生物学的)な判別法(または簡易同定法)を用いる必要があるという(Y.Suezawa,M.Suzuki and H.Mori:Biosci.Biotechnol.Biochem.,72(9),2452−2455 (2008))。 味噌や、特に醤油のメーカーなどでは、(特に醤油及びその仕掛品である醤油諸味の場合には、上記した通り、その中に含まれる酵母(菌)叢(フローラ)の大半がZ.rouxiiと耐塩性のCandida属酵母に限られる事から)古くは、菌集落(コロニー)の形状や色調だけを指標に、Z.rouxii株とCandida属酵母とを目視で判別(または区分け)する方法が用いられていた事もあった。これは、たとえば上記の試験1.で用いた10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天などの、一般的な寒天培地上で培養した場合に、Candida属酵母株の生育がZ.rouxii株よりも遅いために、Candida属酵母株などが形成する菌集落(コロニー)のサイズがZ.rouxii株の菌集落(コロニー)よりも小さく、ゆえにその大きさ(や色調)を指標に、目視で両者を判別(または区分け)するというものである。たとえば、伊藤寛・菊池修平(編著)の「中国の豆類発酵食品(幸書房 (2003))」中のp74、すなわち「第3章 中国の発酵食品の微生物」の「(2)耐塩性酵母の培養条件」の項にも、『(p74)醤油、醤やトウチーに含まれる耐塩性酵母は高濃度食塩の中で生育するための前述のビタミンなどを必要とするが、これらは大豆が分解したトウチーや醤油に含まれ、これらの諸味の成分を加えると増殖が良くなる。例えば、種培養や分離培地に5〜7%のトウチーや10〜12%の生醤油(火入れや保存料を添加してないもの)を加えると増殖が良くなる。30℃でZ.rouxiiは2〜3日で、Candida属の酵母は5〜7日で増殖し、コロニーが検出される。普通の酵母より培養期間が長く、Candida属の酵母はコロニーが小さく滑らかである。Z.rouxiiではよく増殖した大きなコロニーは粗面でしわ状になり、Candida属の酵母と判別しやすい。(後略)』と記されている。 たとえば、図38.は、「下記の試験3.において、埼玉県内の醤油メーカーで醸造された市販の生醤油E(生揚げ)から分離し、かつ26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法の結果から、現行の分類ではZ.rouxiiに分類される株であ(り、さらに下記の試験4.のHarrisonらのPCR法(下記)の結果から、このZ.rouxiiの中の、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株であ)ると判別されたNo.7−1−66株」と、「下記の試験3.において、同じ生醤油Eから分離し、かつ同じ簡易同定法の結果から、C.versatilisだと判明したNo.7−3−42株」とを、10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天(pH=5.2)上で、30℃、2日培養した際に生じた菌集落(コロニー)の様子を撮影したものである(注:試験3.及び試験4.の詳細については後記する)。このように、接種後の培養時間を厳密に決めておけば、菌集落(コロニー)の大きさ(サイズ)を指標に、目視でもある程度判別(または区分け)する事はできる。しかしながら、同属同種の酵母株であっても、同寒天上での生育速度は、株ごとに異なっていて、しかも培養時間がより長くなると、Candida属酵母の菌集落(コロニー)もより大きく成長し、Z.rouxii株の菌集落(コロニー)と見分けがつかない大きさ(サイズ)になってしまう。 さらに、醤油よりも食塩(NaCl)濃度の低い味噌の酵母(菌)叢(フローラ)には、Z.rouxii株やCandida属酵母株以外に、Pichia属酵母株なども含まれるため、菌集落(コロニー)の大きさ(サイズ)や色調だけを指標にして酵母株を目視で判別(または区分け)する事は、ほぼ不可能となる。たとえば、三瀬勝利・井上富士男(編)の「食品中の微生物検査法解説書(講談社サイエンティフィク (1996))」中のp284(好井久雄(著))、すなわち「5 食品別微生物の検査法」の「5.18 調味料類―みそ」の「5.18.2 検査法」のうちの「F.耐塩性酵母」の項には、生醤油寒天培地上に形成された菌集落(コロニー)の『(p284)計数に当たって、産膜酵母(Pichia farinosaなど)は集落の形状から除外する。Candida群の集落は、Z.rouxiiに比べてやや小型ではあるが、集落の大きさによる判別は困難である。』と記されている。 また、上記した、それ以外の判別(または区分け)法についても(たとえば18%塩化ナトリウム(NaCl)存在下でのマルトース資化性能の有無や生育pH域の違い、2,3,5−トリフェニル−テトラゾリウム クロライド(2,3,5−triphenyl−tetrazolium chloride(TTC))還元能の有無、亜鉛(Zn)やリチウム(Li)に対する感受性能を指標とする方法の特徴や実際の手順などについては、たとえば山里一英・宇田川俊一・児玉徹・森地敏樹(編)の「微生物の分離法(R&Dプランニング (1986))」のp287−289(好井久雄(著))及びp314−315(伊藤寛及びティカ・カルキィ(著))などにも記されているが)、いずれも培養法であるために、即日では判別(または区分け)できず、また方法によっては判別(または区分け)精度自体が悪い。たとえば、醤油酵母の糖(マルトース)の資化性は、培地中の食塩(NaCl)濃度や培養温度次第で変化し、そもそも株ごとでも異なっている(今井誠一、松本伊左尾:醸協、70(6)、413−415 (1975))。また、TTC法などは作業が煩雑であり、判別(または区分け)も容易ではない(微生物生態研究会(編):微生物の生態7 ―技術論をめぐって<識別>、p13−29(馬場林留(著))、学会出版センター (1980))。 酵母株を判別、あるいは選択的に検出するために利用できる細胞成分としては、たとえば菌体糖(の組成(J.Sugiyama,M.Fukagawa,S.−W.Chiu and K.Komagata:J.Gen.Appl.Micribiol.,31(6),519−550 (1985)))や、あるいは細胞壁のマンナンやグルカン(J.F.T.Spencer and P.A.J.Gorin:Antonie van Leeuwenhoek,35(1),361−378 (1969)、J.Kocourek and C.E.Ballou:J.Bacteriol.,100(3),1175−1181 (1969)、J.F.T.Spencer and P.A.J.Gorin:Antonie van Leeuwenhoek,36(1),135−141 (1970)、J.F.T.Spencer and P.A.J.Gorin:Antonie van Leeuwenhoek,36(1),509−524 (1970))、菌体脂肪酸(の組成(C.W.Moss,T.Shinoda and J.W.Samuels:J.Clin.Micribiol.,16(6),1073−1079 (1982)、B.C.Viljoen,J.L.F.Kock,H.B.Muller and P.M.Lategan:J.Gen.Microbiol.,133(4),1019−1022 (1987)))や(ユビ)キノンのイソプレノイド側鎖(の長さ(=イソプレン単位数)や、さらに一部の酵母の場合にはイソプレノイド側鎖の二重結合の水素飽和度とその水素飽和の位置(Y.Yamada and Kondo:J.Gen.Appl.Microbiol.,19(1),59−77 (1973)、Y.Yamada,Y.Kanematsu,M.Ohashi and K.Kondo:Agric.Biol.Chem.,37(3),621−628 (1973)、Y.Yamada,T.Okada,O.Ueshima and K.Kondo:J.Gen.Appl.Microbiol.,19(3),189−208 (1973)、Y.Yamada,M.Arimoto and K.Kondo:J.Gen.Appl.Microbiol.,19(5),353−358 (1973)))、上記のアイソザイムなどを含む酵素群や、それらも含めた蛋白質群(のゲル電気泳動パターン(=バンド、すなわち蛋白質や酵素の数とそれぞれの移動度)(M.Yamazaki and K.Komagata:Int.J.Syst.Bacteriol.,31(3),361−381 (1981)、M.T.Smith,M.Yamazaki and G.A.Poot:Yeast,6(4),299−310 (1990)、M.Yamazaki and K.Komagata:J.Gen.Appl.Microbiol.,28(2),119−138 (1982)、M.Yamazaki and K.Komagata:J.Gen.Appl.microbiol.,29(5),365−378 (1983)、T.Nakase and M.Suzuki:J.Gen.Appl.Microbiol.,31(1),71−86 (1985)))、核酸におけるグアニン(guanine(G))とシトシン(cytosine(C))のモル百分率、いわゆる「GC含量(またはG+C含量(guanine plus cytosine contents in moles percent(G+Cmol%)))」(D.Yarrow and T.Nakase:Antonie van Leeuwenhoek,41(1),81−88 (1975))などがある(森治彦:醸協、80(8)、519−529 (1985)、鈴木健一朗・平石明・横田明(編):微生物の分類・同定実験法 ―分子遺伝学・分子生物学的手法を中心に(Springer Lab Manual)、シュプリンガー・フェアラーク東京 (2001)(注:現在は丸善出版から再出版されている)、杉山純多(編):[バイオディバーシティ・シリーズ4]菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統、p111−120(西田洋巳・杉山純多(著))、裳華房 (2005)、工藤俊章・大熊盛也(監修):難培養微生物の利用技術、p45−56(平石明(著))、シーエムシー出版 (2010)、矢口貴志:モダンメディア、55(8)、205−216 (2009)、矢口貴志:日食微誌(Jpn.J.Food Microbiol.)、27(2)、47−55 (2010))。こうした細胞成分を指標にしてZ.rouxiiを判別(または区分け)、あるいは選択的に検出する方法としては、たとえば茂木らのグループによる、リノール酸(linoleic acid(18:2))やリグノセリン酸(lignoseric acid(24:0))などの脂肪酸組成の違いを指標とする方法が報告されている(茂木恵太郎、内田金治、茂木孝也:農化、46(12)、657−663 (1972))。 1952年にLodder及びKreger−Van Rijによって編まれた酵母分類学の聖書”The yeast,a taxonomic study”(J.Lodder and N.J.W.Kreger−Van Rij:The yeasts,a taxonomic study,North−Holland Publishing Company,Amsterdam (1952))及び1970年改訂の2版(J.Lodder(ed.):The yeasts,a taxonomic study(2nd ed.),North−Holland Publishing Company,Elsevier Science Publ.,B.V.,Amsterdam (1970))に記されている酵母株の分類基準は、上記した形態や生理・生化学的性状だけで構成されたものに過ぎなかったが、1984年改訂の3版(N.J.K.Kreger van Rij(ed.):The yeasts,a taxonomic study(3rd ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1984))からは、これに菌体糖組成、(ユビ)キノンタイプ、GC含量(またはG+C含量)や染色体DNA−DNA再会合(または分子交雑、ハイブリッド形成、ハイブリダイゼーション)試験結果も分類に生かす、化学(系統)分類学(chemotaxonomy、またはchemosystematics)的な考え方が加えられ(1998年改訂の4版(C.P.Kurtman and J.W.Fell(eds.):The yeasts,a taxonomic study(4th ed.),Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam (1998))からは、さらに18SrRNA遺伝子や、上記の26SrRNA遺伝子の塩基配列などの分子生物学的な特徴も、分類基準として追加されるようになっ)た(杉山純多(編):[バイオディバーシティ・シリーズ4]菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統、p222−227(杉山純多(著))、裳華房 (2005))。 しかしながら、こうした酵母株ごとでの細胞成分の違いは、あくまでも他の指標を用いた際の識別(または区分け)結果を補強する手がかりとして使えるに過ぎず、これらの手がかり(単独)だけでZ.rouxiiを判別(または区分け)する事はできない(杉山純多(編):[バイオディバーシティ・シリーズ4]菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統、p111−120(西田洋巳・杉山純多(著))、裳華房 (2005))。たとえば、酵母株2株の核酸組成の違い、すなわちGC含量(またはG+C含量)の違いが、融点(Tm)法で分析した結果が1.5〜2.0mol%G+C超、また酵素分解物の高速液体クロマトグラフィー(high−performance liquid chromatography(HPLC))による定量法を用いた場合には1.0mol%G+C超であれば、両株のDNAに大きな共通塩基配列部分は存在せず、それゆえに両株は別種である可能性が高いものと見做されるが、ただし両株が同じGC含量(またはG+C含量)を示したとしても、その結果だけを理由に、両株が同種だと判別(または区分け)する事はできない(森治彦:醸協、80(8)、519−529 (1985))。また、アイソザイム(=同じ反応を触媒する複数の酵素群)のゲル電気泳動パターン(またはバンドパターン)についても、たとえば酵母株2株の場合に生じたバンドパターンが同じ、すなわちバンド(=アイソザイム)の数とそれぞれの移動度が同じであったとしても、両株の持つそれぞれの酵素(の分子量やアミノ酸配列など)が同一であるという保証はまったくない(杉山純多(編):[バイオディバーシティ・シリーズ4]菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統、p111−120(西田洋巳・杉山純多(著))、裳華房 (2005))。そもそも、酵母細胞の糖や脂肪酸の組成などは、その酵母株の培養条件(または生育環境)によっても大きく異なる事が知られている。さらに、上記の茂木らのグループによる脂肪酸組成の違いを指標とする判別(または区分け)法は、作業自体が煩雑であり、しかも熟練を要する。 味噌・醤油やその仕掛品、すなわち仕込み工程における味噌・醤油諸味や製成工程における生揚げ醤油などの酵母(菌)叢(フローラ)の中からZ.rouxii株を判別(または区分け)、あるいは選択的に検出するための免疫学的な方法としては、たとえば茂木及び逆井による「スライド凝集法」の報告がある。茂木及び逆井は、S.rouxii(=現在のZ.rouxii)とTorulopsis属酵母(=現在のCandida属酵母)とをスライド凝集法で判別(または区分け)できる事を報告しているが(茂木恵太郎、逆井利夫:農化、48(11)、613−617 (1974))、この方法もやはり作業が煩雑であり、熟練を要する。 ただ、最近では、質量分析計(Mass Spectrometer(MS))を用いて、微生物が持つ(主に分子量5000〜15000程度の)蛋白質群をまとめて一気に分析する事で得られるマススペクトルパターン(=蛋白質群のパターン)を指標に、微生物を判別(または区分け)する方法の研究開発も進められており、臨床検査の現場に、(特に病原性)微生物同定法として導入されたりもしているようである。細胞が壊れやすい「細菌」での試験例(ケース)が多いものの(S.Q.van Veen,E.C.J.Claas and Ed J.Kuijper:J.Clin.Microbiol.,48(3),900−907 (2010))、酵母についても、たとえばMarkleinらの報告などがある。酵母の場合にも、その種類ごとに細胞内の蛋白質群のパターンが異なっているため、これらの蛋白質群をまとめて一気に分析する事で得られるマススペクトルのパターンも酵母の種類ごとで異なっており(松山由美子:食品と開発、46(11)、14−15(2011)、松山由美子:ジャパンフードサイエンス、51(1)、57−62 (2012))、たとえばMarkleinらのグループは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化・飛行時間型質量分析計(MALDI TOF MS)を用いて、血液や脳脊髄液などの臨床サンプルから分離したCandida属酵母、Cryptococcus属酵母(クリプトコッカス属酵母)、Saccharomyces属酵母、Trichosporon属酵母、Geotrichum属酵母(ゲオトリクム属酵母)、Pichia属酵母、Blastoschizomyces属酵母(ブラストシゾミセス属酵母、またはブラストシゾマイセス属酵母)など、計267株を非常に高い精度で同定(または判別)できたと報告している(G.Marklein,M.Josten,U.Klanke,E.Muller,R.Horre,T.Maier,T.Wenzel,M.Kostrzewa,G.Bierbaum,A.Hoerauf and H.−G.Sahl:J.Clin.Microbiol.,47(9),2912−2917 (2009))。前処理はほとんど不要で、しかも供試株の細胞を機器に載せてから蛋白質群パターン検出と相同性解析までの作業も自動化でき、さらに同定(または判別)結果を得るまでせいぜい5分程度ときわめて短時間で、そのうえランニングコストも安いが(川崎浩子:生物工学、90(9)、592 (2012))、そもそも本法で用いている質量分析計(MS)自体が、他の分析機器類に較べて非常に高価であり、ゆえに本法はまだまだ一般的であるとは言えない。また、本発明で取り上げているZ.rouxii株の同定(または判別)に関する実施報告はない。 さまざまな酵母の全ゲノム配列が解読され、そして解読結果が公開される、いわゆる「ポストゲノム時代」に突入した最近では、酵母株が持つ塩基配列など、遺伝情報を指標とする判別(または区分け)法(や、その結果に基づいた現行の分類法自体の見直し)の研究開発が非常に盛んに行なわれており、たとえば上記の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする「簡易同定法」のように、なかには公定法として認められている手法もある。Z.rouxiiにおける遺伝情報を指標とする同定法ないしは判別法に関する報告は、S.cerevisiaeなどで研究開発された方法を模倣したもの(ケース)が多いが、これも世界で初めて全ゲノム配列が解読された酵母株が、上記した通り、1996年のS.cerevisiae S288C株であり(A.Goffeau,B.G.Barrel,H.Bussey,R.W.Davis,B.Dujon,H.Feldmann,F.Galibert,J.D.Hoheisel,C.Jacq,M.Johnston,E.J.Louis,H.W.Mewes,Y.Murakami,P.Philippsen,H.Tettelin and S.G.Oliver:Science,274(5287),546−567 (1996))、その後の研究を通して蓄積された遺伝学的な情報量が圧倒的に多いためである。Z.rouxii株の全ゲノム配列が解読され、その配列情報が公開されたのは2009年、しかもこの際に解読用の供試株として用いられたのは、(味噌・醤油及びその仕掛品である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油などではなく)黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)であり(The Genolevures Consortium:Genome Res.,19(10),1696−1709 (2009))、現時点(2014年3月31日時点)でも全ゲノム配列が解読され、かつその情報が公開されているのはこのCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)だけである。ただし、上記した通り、味噌・醤油主発酵酵母であるZ.rouxii株や醤油産膜性Z.rouxii株など、さまざまなZ.rouxii株の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分的な塩基配列や、あるいは上記のSOD(=ZrSOD2及びZrSOD22)やHOG(=ZrHOG1及びZrHOG2)、GPD(=ZrGPD1及びZrGPD2)やGCY(=ZrGCY1及びZrGCY2)、細胞内のナトリウムイオン(Na+)の排出に関与する酵素であるNa+−ATPアーゼ(Na+−ATPase)をコードしているZENA1(Y.Watanabe,T.Iwaki,Y.Shimono,A.Ichimiya,Y.Nagaoka and Y.Tamai:J.Biosci.Bioeng.,88(2),136−142 (1999))、細胞外の浸透圧の変化に応じて細胞内のグリセロール濃度を調節するグリセロール・チャネル蛋白質(またはグリセロール取り込み/排出促進蛋白質(glycerol facilitator))をコードしているZrFPS1(X.−M.Tang,G.Kayingo and B.A.Prior:Yeast,22(7),571−581 (2005))などの、主に耐塩性能に関わる遺伝子や、また遺伝子工学的な研究において遺伝子組換え用マーカーとして利用される事が多いADE2(H.Sychrova,V.Braun and J.−L.Souciet:Yeast,15(13),1399−1402 (1999))やHIS3(H.Sychrova,V.Braun and J.−L.Souciet:Yeast,16(7),581−587 (2000))、β−イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(β−isopropylmalate dehydrogenaze)をコードしているLEU2などの遺伝子の塩基配列は解読され、その配列情報は公開されている(H.Sychrova:Yeast,18(10),989−994 (2001))。 酵母などの真核生物の場合には、細胞(内)小器官(オルガネラ)にもDNAがあり、たとえばS.cerevisiaeでは、環状のミトコンドリアDNA(mitochondrial DNA(mtDNA))の塩基配列(約80kb)も解読され、その配列情報が公開されている(F.Foury,T.Roganti,N.Lecrenier and B.Purnelle:FEBS Lett.,440(3),325−331 (1998))。さらに、たとえばS.cerevisiae A364D5株が持つ環状プラスミドの2μmDNA(または2−μmDNA、2μDNA、2μ circle、2μm)(J.H.Sinclair,B.J.Stevens,P.Sanghavi and M.Rabinowitz:Science,156(3779),1234−1237 (1967))やKluyveromyces lactis(クリベロミセス(またはクリベロマイセス、クルイベロミセス、クルイベロマイセス)・ラクティス) IFO1267株が持っている線状プラスミドのpGKl1(またはpGKL1(8.9kb))やpGKl2(またはpGKL2(13.4kb))(N.Gunge,A.Tamaru,F.Ozawa and K.Sakaguchi:J.Bacteriol.,145(1),382−390 (1981))などのように、一部の酵母株はその細胞内にプラスミドを持っており(飯野徹雄・深沢俊夫・由良隆(編):組換えDNA実験技術 その現状と展望、p14−25(大嶋泰治(著))、学会出版センター (1984)、平野正(編):酵母のバイオテクノロジー 基礎と応用、p25−37(菱沼文男・菊池洋・徳永正雄・平井啓子・和田直美・北田邦雄(著))、学会出版センター (1988))、こうしたプラスミドの塩基配列については、上記のゲノム情報などよりもずっと以前に解読され、そしてその配列情報は公開されている。 たとえば、S.cerevisiae A364D5株が持つ2μmは、S.cerevisiaeの実験室酵母株の多くが持つプラスミドで、この「2μm」という名称は、電子顕微鏡観察で判明したプラスミドの長さに因んで付けられたものである(C.P.Hollenberg,P.Borst and E.F.J.van Bruggen:Biochim.Biophys.Acta,209(1),1−15 (1970))。2μmの細胞内でのコピー数は1倍体細胞当たり50〜100コピー程度と高く、プラスミドを有する株(=cir+株)と持っていない株(=cir0株)とを交雑させると、その子孫がすべてプラスミドを持つ株(=cir+株)になるという、典型的な非メンデル遺伝様式を示す(D.M.Livingston:Genetics,86(1),73−84 (1977))。このプラスミドの全塩基配列も解読され(J.L.Hartley & J.E.Donelson:Nature,286(5776),860−864 (1980))、その配列情報は公開されている(J01347.1、GI:172190)。 このプラスミドの鎖長(または全塩基数)は6318bpで、そのプラスミド上には、図12.の(1)の模式図の通り、プラスミドの分子内組換え(後記)に関係する蛋白質をコードしている遺伝子であるFLP、プラスミド上のSTB領域(stability region、またはREP3)とともに細胞内でのプラスミドの安定性やコピー数増加に関係する蛋白質をコードしている遺伝子であるREP1やREP2などが(M.Jayaram,Y.−Y.Li and J.R.Broach:Cell,34(1),95−104 (1983))、また599bpの相同な塩基配列で構成される1対の逆向きの反復配列(インバーテッド・リピート(inverted repeart(IR)))がある。酵母の細胞内では、プラスミドpSR1は、このインバーテッド・リピート(IR)内の塩基配列部分どうしで高頻度に分子内組換えを起こすために構造(form)が変化し(J.R.Broach,V.R.Guarascio and M.Jayaram:Cell,29(1),227−234 (1982))、結果的には「A型(A−form)」及び「B型(B−form)」(=図12.の(1)の模式図)と名付けられた、2種類の構造のプラスミドが1:1の比率で混じり合った状態で存在している(C.P.Hollenberg,P.Borst and E.F.J.van Bruggen:Biochim.Biophys.Acta,209(1),1−15 (1970))。たとえば、さまざまな醸造用酵母(S.cerevisiaeを含むSaccharomyces sensu stricto)を対象に、2μmの有無を調べた結果によると、調べたパン酵母やビール酵母の大半が2μmを持っていたのに対して、清酒、泡盛、焼酎など、日本の酒類の醸造に利用される酵母株のほとんどは2μmを持っていなかったという、中里らの興味深い報告もあるものの(中里厚実、安光得、門倉利守、竹田正久:東京農大農学集報(Jour.Agri.Sci.,Tokyo Univ.of Agric.))、47(3)、226−230 (2002))、S.cerevisiaeが2μmを持っているその生理学的な意義さえ、そもそもあまりよく分かってはいない(飯野徹雄・深沢俊夫・由良隆(編):組換えDNA実験技術 その現状と展望、p451−462(菊池淑子(著))、学会出版センター (1984)))。 Z.rouxiiの場合にも、たとえばマジパン(marzipan)から分離されたZ.rouxii G4118株(=NBRC10671株)からはプラスミドpSR1(6521bp)、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)からはプラスミドpSR2(A.Toh−e,S.Tada and Y.Oshima:J.Bacteriol.,151(3),1380−1390 (1982))、またオランダの塩漬豆(salted beans)から分離された Z.rouxii NBRC1730株(=旧名:S.bisporus(サッカロミセス(またはサッカロマイウス)・ビスポラス) IFO1730株)からはプラスミドpSB3(6615bp)及びプラスミドpSB4(約6.0kb)が、またZ.bailii(チゴサッカロミセス(またはチゴサッカロマイセス)・ベイリー(またはバイリー))では、高粱酒の諸味(kaoliangchiu−moromi)から分離されたZ.bailii IFO0468株やウスターソースから分離されたZ.bailii IFO0488株、赤ワイン(sour red wine)から分離されたZ.bailii IFO1137株、土(soil)から分離されたZ.bailii IFO1801株(=NBRC1801株)からはプラスミドpSB1(約6.0kb)が、また同じくIFO1801株(=NBRC1801株)、IFO0468株やIFO1047株からはプラスミドpSB2(5415bp)が発見されており(A.Toh−e,H.Araki,I.Utatsu and Y.Oshima:J.Gen.Microbiol.,130(10),2527−2534(1984))、うちプラスミドpSR1(H.Araki,H.Tatsumi,A.Jearnpipatkul,T.Sakurai,K.Ushio,T.Muta and Y.Oshima:J.Mol.Biol.,182(2),191−203 (1985))、プラスミドpSB3(A.Toh−e & I.Utatsu:Nucleic Acids Res.,13(12),4267−4283 (1985))及びプラスミドpSB2の、計3種類のプラスミドについては、全塩基配列が解読され(I.Utatsu,S.Sakamoto,T.Imura and A.Toh−e:J.Bacteriol.,169(12),5537−5545 (1987))、それらの配列情報が公開されている(注:B−formのプラスミドpSR1(6251bp)の塩基配列情報はX02398.1、GI:5258、プラスミドpSB3(6615bp)の塩基配列情報はX02608.1、GI:5253、プラスミドpSB2(5415bp)の塩基配列情報はM18274.1、GI:173334)。 2μmと似ている事から「2μmDNA類似プラスミド」と総称されるこれらのプラスミドのうち、特にプラスミドpSR1(=図12.の(2)の模式図)については、S.cerevisiaeの2μmとの比較研究もなされた結果、同プラスミド上には、上記の2μmと同様、3つの蛋白質をコードしているものと見られる3つの遺伝子、すなわち2μm上のREP1に相当する、すなわちプラスミドの安定性に関わる分子量46000の蛋白質をコードしているものと見られるP遺伝子(open reading frame P)、2μm上のREP2に相当する、すなわちプラスミドのコピー数制御に関わる分子量26000の蛋白質をコードしているものと見られるS遺伝子(open reading frame S)、2μm上のFLPに相当する、すなわち分子内組換えに関わる分子量56000の蛋白質をコードしているものと見られるR遺伝子(open reading frame R)が載っている事、またこれも2μmと同様、相同な一対のインバーテッド・リピート(IR)も持っており、酵母の細胞内ではこのインバーテッド・リピート(IR)内の塩基配列部分どうしで分子内組換えを起こして構造(form)変化する事などが判っている(永井進(編):酵母の細胞工学と育種、p97−114(荒木弘之・東江昭夫・歌津幾代・辰巳宏樹・Amornrat Jearnpipatkul・牛尾公平・大嶋泰治(著))、学会出版センター (1986))。 味噌・醤油やその仕掛品、すなわち仕込み工程における味噌・醤油諸味の酵母(菌)叢(フローラ)の中から[A]Z.rouxii株を判別、あるいは選択的に検出するための遺伝学的な方法としては、上記の、26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標として利用する、いわゆる「簡易同定法」があるが、ただし本法をZ.rouxii株の分類に適用した場合には、上記したSuezawaらの報告(Y.Suezawa,M.Suzuki and H.Mori:Biosci.Biotechnol.Biochem.,72(9),2452−2455 (2008))の通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群の中には、少なくとも2種類以上の種(しゅ)が混在しているという結果が出てしまう。 実際に、市販の生(=加熱処理を施していない)の米味噌や麦味噌、(除菌処理もしていない)生醤油から耐塩性酵母株を分離し、これらの株の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を調べてみた。 試験3.市販の生味噌・生醤油からの耐塩性酵母株の分離と、分離した株の(D1/D2領域を含む)部分配列の塩基配列解読(シークエンシング)/簡易同定試験: 本試験において、耐塩性酵母株を分離するための分離源として用いた生味噌・生醤油は、インターネット上で販売されている市販製品群の中から選び出した。生味噌については、上記した通り、「普通味噌」のうちの(「豆味噌」及び「合わせ味噌(=調合味噌)」を除き)、「米味噌(ただし米甘味噌を除く)」ないしは「麦味噌」に分類される、加熱殺菌処理を施していない味噌とし、さらに製品のラベルやインターネット上の製品紹介・説明欄の「原材料(または原材料名)」の記載が、「大豆」、「米」、あるいは「麦」ないしは「はだか麦」、及び「食塩」のみで、それ以外の原材料、たとえば酒精・酒粕、保存料(ソルビン酸)や酸化防止剤、漂白剤、甘味料などの食品添加物に関する記載はなく、かつ「味噌(製品)の食塩(NaCl)濃度が低い、いわゆる減塩タイプではない」製品を選択し、以下の試験に用いた。すなわち、青森県内の味噌メーカーで製造された米味噌A、富山県内の味噌メーカーで製造された米味噌B(越中味噌)、岡山県内の味噌メーカーで製造された米味噌C(赤味噌)及び、同メーカーで製造された麦味噌Dの計4試料である。また、生醤油については、製品ラベルの「原材料名」欄に、原材料として記されているのが「有機大豆(国内産)」、「有機小麦(国内産)」、「食塩」だけであり、それ以外の原材料、たとえば保存料(安息香酸ナトリウム)など、食品添加物に関する記載はなく、かつ(圧搾後の生揚げ醤油に一般的に施される)火入れ処理や精密濾過処理なども施されていない製品を選択し、以下の試験に用いた。すなわち、埼玉県内の醤油メーカーで製造された生醤油E(生揚げ)の1試料である(注:市販の生醤油は、濾過除菌処理した無菌の製品が多い。そこで、埼玉県産生醤油E(生揚げ)中に醤油産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)が混入している事を確認する試験を予め行なった。すなわち、壜詰め状態の埼玉県産生醤油E(生揚げ)をクリーンベンチ内(=無菌条件下)で開栓し、うち5mlを殺菌済み「空」試験管に移し替え、その口をシリコン栓で塞いだ上で、30℃条件下で30日間放置してみた。結果は、図14.の(1)の写真の通り、醤油の液面に皮膜が形成され、同生醤油E(生揚げ)が無菌ではなく、少なくとも産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)が生息している事は確認できた)。味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天の培地組成: 5%(W/V)グルコース、8.3%(W/V)塩化ナトリウム(NaCl)、10%(V/V)濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)、2.4%(W/V)寒天(和光純薬工業(株)製、製品コード:No.010−15815)、pH=5.2〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。同試験に用いた味噌・醤油酵母分離用生醤油寒天は、全国味噌技術会が発行した「みそ技術ハンドブック 付 基準みそ分析法(1995)」のp62に記されている同培地の組成のうち、寒天の濃度を同書記載の1.7〜2.0%(W/V)から2.4%(W/V)に変更したものである。寒天の濃度を高く変更した理由は、同寒天上に試料溶液を塗抹しやすくするためである。同寒天中の寒天濃度を1.7〜2.0%(W/V)にすると、寒天が軟らかくなり、寒天上に殺菌したスパーテルなどを用いて液体試料を塗抹しようとした場合に、寒天に亀裂が入ったり、ひび割れたりしてしまう事がある。同寒天中の寒天濃度を2.4%(W/V)にしたのは、こうした事態を避けるためである。味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天の調製法: 5gグルコース、8.3g塩化ナトリウム(NaCl)、10ml濃口生揚げ醤油、2.4g寒天を蒸留水に溶かし、これに1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.2〜5.3に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。これを高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した後、熱いうちに、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、殺菌済みシャーレに(シャーレ1枚につき約10mlずつ)流し込み、冷やして固める。生味噌・生醤油からの耐塩性酵母株の分離: 生味噌・生醤油からの耐塩性酵母株の分離は、以下の手順で行なった。まず、クリーンベンチなどの無菌条件下で、生味噌5g、あるいは生醤油5mlを採り、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した、45mlの10%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液入りの三角フラスコ」に入れ、ヤマト科学株式会社製タッチミキサMT−31(注:回転数は2800〜3300rpm.程度)などを使ってよく攪拌する。攪拌後の「三角フラスコ中の溶液」、すなわち「生味噌・生醤油の10倍希釈液」のうち、0.1mlを採り、殺菌済みのスパーテルなどを使って、これを上記の味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天の表面に塗抹する。また、攪拌後の「三角フラスコ中の溶液(=生味噌・生醤油の10倍希釈液)」のうち、1mlを採り、これを殺菌済みの10%塩化ナトリウム(NaCl)水溶液9ml入りの試験管に入れ、タッチミキサなどを使ってよく攪拌する。攪拌後の試験管中から、溶液(=種培養液の100倍希釈液)0.1mlを採り、新しい10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天の表面に塗抹する。生味噌・生醤油の希釈倍率が100万倍(=1000000倍=106倍)に至るまで、この作業を繰り返す。希釈液を塗抹した寒天は、30℃に設定した恒温器(または培養器)内に3〜7日間置き、寒天上に形成された菌集落(コロニー)の数を計数する。寒天上に形成された菌集落(コロニー)は、クリーンベンチなどの無菌条件下で、殺菌済みの爪楊枝や白金線などを使って、新しい味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天上に植え継ぎ、30℃に設定した恒温器(または培養器)内に3〜7日間置いて培養した後(の様子を撮影したのが、図13.及び図14.の写真)、これらの菌集落(コロニー)の中から、4〜8個の菌集落(コロニー)を選び出し、新しい味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天上に2〜3回植え継ぐ事で(注:培養条件は30℃、3〜5日)、シングルコロニー化した。 生味噌・生醤油中の耐塩性酵母数を、上記の手順で計数した結果、青森県産米味噌A中の耐塩性酵母数は3.0×102CFU/g、富山県産米味噌B(越中味噌)は5.1×106CFU/g、岡山県産米味噌C(赤味噌)は6.0×103CFU/g、岡山県産麦味噌Dは2.0×103CFU/g、埼玉県産生醤油E(生揚げ)は1.0×104CFU/mlであった。図13.の(1)は青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母株群、図13.の(2)は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母株群、図13.の(3)は岡山県産米味噌C(赤味噌)から分離した耐塩性酵母株群、図13.の(4)は岡山県産麦味噌Dから分離した耐塩性酵母株群、図14.の(2)は埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株群の、味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天上での生育の様子を撮影した写真である。 この、図13.の(1)の青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母株群の中から、No.1−1−1株、No.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株、No.1−2−8株、No.1−2−13株、No.1−2−14株、No.1−2−19株の8株、図13.の(2)の富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母株群の中からは、No.5−1−1株、No.5−1−7株、No.5−1−10株、No.5−1−16株、No.5−2−2株、No.5−2−9株、No.5−2−12株、No.5−2−17株の8株、図13.の(3)の岡山県産米味噌C(赤味噌)から分離した耐塩性酵母株群の中からは、No.6−1−1−2株、No.6−1−1−5株、No.6−1−2−25株、No.6−1−2−50株の4株、図13.の(4)の岡山県産麦味噌Dから分離した耐塩性酵母株群の中からはNo.6−4−1−10株、No.6−4−1−20株、No.6−4−2−7株、No.6−4−2−14株の4株、また図14.の(2)の埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株群の中からはNo.7−1−23株、No.7−1−66株、No.7−1−83株、No.7−1−89株、No.7−2−1株、No.7−2−2株、No.7−2−6株、No.No.7−3−42株の8株の、計32株を選び出し、上記の手順でシングルコロニー化した。YPD液体培地の培地組成: 2%(W/V)グルコース、1%(W/V)酵母エキス(Bacto Yeast Extract、べクトン・ディッキンソン アンド カンパニー(BD)製、製品コード:No.212750)、2%(W/V)ポリペプトン(日本製薬株式会社製、製品コード:No.394−00115)、pH=4.8〜5.2(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。YPD液体培地の調製法: 2gグルコース、1g酵母エキス、2gポリペプトンを蒸留水に溶かし、1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=4.8〜5.2に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。この液体培地2mlずつを試験管に分注し、試験管の口を綿栓で塞いだ状態で、高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)を使い、121℃、15分間殺菌し、殺菌後は冷却する。分離株の培養: クリーンベンチなどの無菌条件下で、分離株を上記のYPD液体培地2mlに接種し、30℃、2日間(=約30時間)、140rpm.振とう培養し、この培養液2mlのうちの0.4mlを新しいYPD液体培地2mlに接種し、これを30℃、18時間、140rpm.振とう培養した。 上記の培養液2mlを、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、30分間殺菌した、2ml容量のマイクロチューブ」に流し込み、株式会社トミー精工製遠心分離器MRX−152を用いて、4℃条件下で、3000rpm×2分間遠心分離処理し、遠心処理後に上清(=液体培地)を丁寧に除去し、沈殿(=分離株の細胞)を得た。 分離株の細胞からの核酸成分の調製(または抽出)には、(a)ビーズ破砕/フェノール処理法を用いた。ビーズ破砕/フェノール処理法の手順: (a)ビーズ破砕/フェノール処理法の手順は、京都大学・大学院・農学研究科・応用生命科学専攻・分子細胞科学講座・エネルギー変換細胞学分野(Laboratory of Molecular Microbiology(LMM))のホームページ「微生物実験プロトコール集(仮設)」(http://www.molmicrobiol.kais.kyoto−u.ac.jp/prot.html(2013年8月20日時点))に公開されていた手法『酵母からのゲノム抽出』を、若干改変したものである。すなわち、手順は、以下の通りである。 まず、上記の沈殿(=供試株の細胞)の入ったマイクロチューブに、沈殿とほぼ同(湿)重量のシグマ・アルドリッチ(SIGMA−ALDRICH,Inc.)製ガラスビーズ(Glass beads,acid−washed(製品コード:G8772−100G)、425〜600μmサイズのビーズ)と、0.2mlの「Detergent lysis buffer(注:同溶液の組成は、2%トリトンX−100、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、100mM塩化ナトリウム(NaCl)、10mMトリス(Tris)、1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(ethylenediaminetetraacetic acid(EDTA),disodium salt(EDTA・2Na(2H2O)))、pH=8.0)」とを加え、ヤマト科学株式会社製タッチミキサMT−31(注:回転数は2800〜3300rpm.程度)を使って、30秒間よく攪拌する。攪拌後の溶液に、株式会社ニッポンジーン製のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1、遺伝子工学研究用、製品コード:No.311−90151)0.2mlを加えて、マイクロチューブを優しく反転させながら攪拌した後、さらにキアゲン(QIAGEN)株式会社製細胞破砕装置「Tissue Lyser」を使って、5分間激しく攪拌する(注:frequency(1/S)=30.0に設定)。攪拌終了後の溶液に、トリス(Tris)−EDTA(TE)溶液(pH=7.5)0.4mlと、上記のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール0.2mlを加え、再度マイクロチューブを優しく反転させながら攪拌した後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10分間遠心分離処理を行うと、上層(=水溶液層)と下層(=溶剤層)との2層に分離するので、その上層を(下層が混入しないように)丁寧に新しいマイクロチューブに移し、これに再びフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール0.5mlを加え、再度マイクロチューブを優しく反転させながら攪拌した後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10分間遠心分離処理を行い、再び上層を(下層が混入しないように)丁寧に新しいマイクロチューブに移す。これに、クロロホルム0.5mlを加え、やはりマイクロチューブを優しく反転させながらよく攪拌した後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10分間遠心分離処理を行うと、やはり上層(=水溶液層)と下層(=クロロホルム層)との2層に分離するので、その上層を(下層が混入しないように)丁寧に新しいマイクロチューブに移し、これに溶液量の0.6倍〜等量のイソプロパノールを加え、マイクロチューブを優しく反転させながらよく攪拌した後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10分間遠心分離処理を行なうと、生味噌・生醤油からの分離株の核酸成分がマイクロチューブの底に沈殿する。遠心分離処理後、チューブ内の上清を丁寧に除去したうえで、あらかじめ冷凍庫内(−20℃)で冷やしておいた70%エタノール水溶液1mlを加え、マイクロチューブを優しく反転させながらよく攪拌した後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10分間遠心分離処理を行い、再び上清(=エタノール水溶液)を丁寧に除去したうえで、このチューブを室温条件下で放置し、乾燥させる。乾燥処理後のチューブに、適当量のトリス−EDTA(TE)溶液を流し込み、チューブの底に沈殿している分離株の核酸成分をTE溶液に溶解させ、これを「分離株の核酸成分」として、以下の試験に用いた。 上記の手順で調製(または抽出)した分離株の核酸成分(溶液)の濃度(及びその純度)は、260nmの紫外線の吸光度を指標として利用する測定法で測定した(注:同法の原理は、たとえば田村隆明・村松正實(著)の「基礎分子生物学(第3版)(東京化学同人 (2007))」のp151−152などに記されている)。実際に用いた機器は、ナカ・インスツルメンツ株式会社(Naka Instruments CO.,Ltd.)製分光光度計「Gene SpecIII(7A0−0030)」(注:プログラム「No.7A00571−02」を搭載)であり、本機器で230〜320nmの範囲の吸光度を測定し、機器に搭載されているプログラムを使って核酸成分(溶液)の濃度(及びその純度)を算出した。 分離株が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を増幅するためのPCR法は、以下の手順で行なった。なお、同手順は、たとえばT.Boekhout&V.Robert(Ed.)「Yeasts in Food,Beneficial and Detrimental Aspects.,B.Behr’s Verlag GmbH & Co. (2003)」中のp85−88「3.6.5 DNA methods:protocols for sequencing the D1/D2 domain of the 26SrDNA,18SrDNA and the internally transcribed spacer(ITS)」などにも記されている。 分離株が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を増幅するためのPCR法では、プライマーNL−1(=配列番号3)及びNL−4(=配列番号4)を用いた。用いたプライマーの塩基配列は、下記の通りである。 プライマーNL−1(=配列番号3):(Forward、24塩基、分子量(MW)=7468、Tm=61.7)5’−GCATATCAATAAGCGGAGGAAAAG−3’ プライマーNL−4(=配列番号4):(Reverse、19塩基、MW=5860、Tm=60.3)5’−GGTCCGTGTTTCAAGACGG−3’PCR法で用いたこれらのプライマーの化学合成は、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。 PCR反応には、[1]東洋紡株式会社製のキット「KOD −plus−(製品コード:No.KOD−201)」ないしは[2]タカラバイオ株式会社製キット「TaKaRa Ex Taq(登録商標)(製品コード:RR001A)」を用いた。KOD −plus−PCR法の手順: KOD −plus−PCR法には、東洋紡株式会社製のキット「KOD −plus−(製品コード:No.KOD−201)」を用いた(注:以下、これをKOD −plus−PCR法と呼ぶ)。KOD −plus−PCR反応液の調製は、ほぼ同キット付属の説明書中の「○一般的なPCR反応液量(total 50μl)」を参考に、たとえばPCR反応液25μl分であれば、すなわち同キット付属の緩衝液(10×KOD −plus− buffer)2.5μl、同キット付属の核酸溶液(dNTP)2.5μl、同キット付属の25mM硫酸マグネシウム溶液1μl、KOD −plus−(=1U/μlのDNAポリメラーゼ溶液)0.5μl、鋳型DNAとして用いる、分離株から調製(または抽出)した核酸成分(濃度は500〜1000μg/ml)0.5μl、プライマーNL−1(=配列番号3)溶液(10pmol/μl濃度)0.25〜1.0μl、プライマーNL−4(=配列番号4)溶液(10pmol/μl濃度)0.25〜1.0μlに、さらに「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水」を加えて、全量を25μlにする。つまり、PCR反応液中のプライマーと、鋳型DNAとして用いる分離株由来の核酸成分の濃度を、同キット付属の説明書に記載されている濃度よりも高めに設定している。PCR反応用のマイクロチューブ1本当たりの反応液量は25μlとした。Ex Taq−PCR法の手順: Ex Taq−PCR法には、タカラバイオ株式会社製キット「TaKaRa Ex Taq(登録商標)(製品コード:RR001A)」を用いた(注:以下、これをEx Taq−PCR法と呼ぶ)。Ex Taq−PCR反応液の調製は、ほぼ同キット付属の説明書中「○一般的なPCR反応液量(total 50μl)」を参考に、たとえばPCR反応液25μl分であれば、すなわち同キット付属の緩衝液(10×Buffer)2.5μl、同キット付属の核酸溶液(dNTP)2μl、キット付属のEx Taq(=5U/μlのDNAポリメラーゼ溶液)0.125μl、鋳型DNAとして用いる、分離株から調製(または抽出)した核酸成分(濃度は500〜1000μg/ml)0.5μl、プライマーNL−1(=配列番号3)溶液(10pmol/μl濃度)0.25〜1.0μl、プライマーNL−4(=配列番号4)溶液(10pmol/μl濃度)0.25〜1.0μlに、さらに「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水」を加えて、全量を25μlにする。つまり、PCR反応液中のプライマーと、鋳型DNAとして用いる分離株由来の核酸成分の濃度を、同キット付属の説明書に記載されている濃度よりも高めに設定している。PCR反応チューブ内での反応溶液量(=マイクロチューブ1本当たりの反応溶液量)は25μlとした。 PCRサイクラーは、バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製の「MyCyclerサーマルサイクラー」を用いた。PCR法によるDNA合成反応は、[1]鋳型DNAの熱変性(denaturation)、[2]アニーリング(annealing)、[3]DNAポリメラーゼ反応の、3つの過程から構成される。KOD −plus−PCR法、Ex Taq−PCR法ともに、[1]鋳型DNAの熱変性温度は94.0℃、[2]アニーリング温度は52.0℃とし、ただし[3]DNAポリメラーゼ反応の温度はKOD −plus−PCR法では68.0℃、またEx Taq−PCR法では72.0℃とした。[1]〜[3]の反応の繰り返し回数は36回とした。すなわち、実際のPCR反応条件は、KOD −plus−PCR法は図15.の(1)、Ex Taq−PCR法については図15.の(3)の通りである(注:(1)KOD −plus−PCR法の[増幅条件]及び(3)Ex Taq−PCR法の[増幅条件]での実施例、すなわち生じた増幅産物を、下記のアガロースゲル電気泳動法でアガロースゲル上に展開(後記)した際の様子を撮影した写真を、それぞれ、各[増幅条件]の下、すなわちKOD −plus−PCR法の実施例は図15.の(2)、Ex Taq−PCR法の実施例は図15.の(4)に示した)。アガロースゲル電気泳動法の手順: KOD −plus−PCR法やEx Taq−PCR法による増幅産物の生成の有無及びその産物の鎖長の確認には、アガロースゲル電気泳動法を用いた。実際に用いた電気泳動装置は、株式会社アドバンス(ADVANCE)製サブマリン−タイプ電気泳動システム「Mupid−2plus」である。ゲル電気泳動法の場合、用いるゲルのアガロース濃度を変えると、DNA断片の分画能力(=きれいに分画できるDNA断片の鎖長の大きさ)も変わる。0.7〜1.0%のアガロースゲルを用いるのが一般的だが、本試験3.で生じる増幅産物の鎖長は500〜600bp程度と小さいため、たとえば村松正實(編)の「[新臨床医のための分子医学シリーズ]よくわかる遺伝子工学 ―ベーシックな技術から臨床応用まで―(羊土社 (2000))」のp27(三嶋行雄(著))の「表1 アガロースゲルの濃度と分画に適したDNAの大きさ」なども参考にして、1.5%アガロースゲルを用いた。1.5%アガロースゲルの調製: 電気泳動用のゲルは、1.5gのタカラバイオ株式会社製アガロースL03「TaKaRa」(製品コード:5003)にTAE緩衝液(注:TAE緩衝液は、50×TAE緩衝液(は、トリス(Tris)242g、酢酸(Acetic acid)57.1ml、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na(2H2O))を蒸留水に溶かし、さらに蒸留水を加えて全量を1Lとした水溶液)を50倍希釈したものである)を加えて、全量を100mlとし、これを市販の電子レンジで加熱して、アガロースをよく溶かしたうえで、上記の同電気泳動システム付属のゲルメーカーセット(注:成形型であるゲルメーカースタンド−L及びゲルトレイ−S、ゲルトレイ−L。ただし、コームについては、同セットの付属品ではなく、株式会社アドバンスの別売製品である「ミニゲル電気泳動システム≪ミューピッド≫コームセット(コーム25)」を使用した)に流し込んで室温下で冷やして固めたもの(注:ゲルサイズは、ゲルトレイ−Sが52mm(W)×60mm(L)、ゲルトレイ−Lが107mm(W)×60mm(L))を用いた。以下、これを1.5%アガロースゲルと呼ぶ。1.5%アガロースゲル電気泳動用マーカーの調製: ゲル電気泳動時の分子量マーカーとしては、ニューイングランド・バイオラボ(NEW ENGLAND BioLabs.)製「100bp DNA Ladder(製品コード:N3231S、濃度500μg/ml×容量100μl)」1本に対して、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水300μl」と、100μlのタカラバイオ株式会社製10×Loading Buffer(注:上記の制限酵素ApaIの付属品)とを加えて、全量を500μlとし(注:マーカーの濃度は0.1μg/μlとなる)、これを1レーン(=アガロースゲル上の窪み(ウェル)1つ)当たり3.0μlずつ流し込む(または載せる)形で用いた。以下、これを1.5%アガロースゲル電気泳動用マーカーと呼ぶ。PCR反応後溶液の前処理及びゲル電気泳動処理: 上記のPCR反応後溶液などの試料は、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水3μl」及び上記の10×Loading Buffer1.5μlと混合したうえで、これを「TAE緩衝液を充たした上記のシステム(=電気泳動層)」内に置いた1.5%アガロースゲル上の窪み(ウェル)に流し込み(または載せ)、30分〜1時間程通電した。ゲルの染色法及び観察方法: ゲル電気泳動終了後、アガロースゲルを電気泳動層内から取り出し、「Biotium,Inc.製の核酸染色剤「GelRed Nucleic Acid Stain,10,000×in Water(製品コード:41003)」に蒸留水を加えて調製した5000〜10000倍希釈溶液200〜300ml」に漬け込み、室温下で30〜1時間程度放置した(=染色処理)。染色処理の済んだアガロースゲルを、アトー株式会社製ゲルイメージング「AE−6932GXプリントグラフ」内の所定の位置に置いてUV照射(波長:312nm)し、アガロースゲル(上の増幅産物)を観察し、写真を撮影した。ゲル上の増幅産物の鎖長は、上記の分子量マーカーに含まれる断片群との目視での相対的な移動度(=ゲル上の位置)比較によって推定した。 図16.の(1)は青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.1−1−1株、No.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株、No.1−2−8株、No.1−2−13株、No.1−2−14株、No.1−2−19株、図16.の(2)は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.5−1−1株、No.5−1−7株、No.5−1−10株、No.5−1−16株、No.5−2−2株、No.5−2−9株、No.5−2−12株、No.5−2−17株、図16.の(3)は岡山県産米味噌C(赤味噌)及び麦味噌Dから分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.6−1−1−2株、No.6−1−1−5株、No.6−1−2−25株、No.6−1−2−50株、No.6−4−1−10株、No.6−4−1−20株、No.6−4−2−7株、No.6−4−2−14株、図16.の(4)は埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.7−1−23株、No.7−1−66株、No.7−1−83株、No.7−1−89株、No.7−2−1株、No.7−2−2株、No.7−2−6株、No.No.7−3−42株の8株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAとするPCR法で生じた増幅産物をゲル電気泳動した結果を示す写真である。 それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物も同時に載せたが、図16.の(4)の埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株8株のうちの1株であるNo.7−3−42株を除く31株の場合に生じた増幅産物は、目視ではこのNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物と同じ鎖長に見えた。 なお、公開されているZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の全ゲノム情報によると、プライマーNL−1(=配列番号3)及びプライマーNL−4(=配列番号4)を用いたPCR法で増幅されるであろう、26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)塩基配列部分は、染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の3箇所、すなわち[1]821469番目のグアニン(G)から822092番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(624bp)と、[2]831337番目のグアニン(G)から831960番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(624bp)、[3]838046番目のグアニン(G)から838669番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(624bp)であり、これら3箇所の塩基配列は完全に同一(=100%相同)である。 得られた増幅産物の粗精製及び塩基配列解読(シークエンシング、またはシーケンシング(sequencing))は、以下の手順で行なった。PCR産物の調製: 増幅産物の粗精製は、以下の手順で行なった。まず、KOD −plus−PCR法ないしはEx Taq−PCR法で調製した増幅産物を含むPCR反応液15〜20μlを、1.5〜2.0mlサイズの殺菌済みマイクロチューブに入れ換えたうえで、PCR反応液の容量の、少なくとも2倍量以上の冷エタノールを加え、マイクロチューブを優しく反転させながらよく攪拌してから、−80℃下で最低2時間以上置いた(=エタノール沈殿)後、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10〜30分間遠心分離処理を行い、上清(=冷エタノール溶液)を丁寧に除去したうえで、このチューブを室温条件下で放置し、乾燥させる(=乾燥処理)。本手順では、エタノール沈殿処理で一般的に用いられる、たとえば株式会社ニッポンジーン製の3M酢酸ナトリウム(3M Sodium Acetate(製品コード:316−90081))などは使わず、また冷エタノール量もたとえばPCR反応液の容量の3〜5倍といった、一般的な使用量である2倍よりも多めに用いると、PCR反応液中のプライマーなどが沈殿物に混入しにくくなり、以下の塩基配列解読(シークエンシング)がスムーズに行なえる。乾燥処理後のチューブに、適当量(=20〜30μl)のTE溶液を流し込み、チューブの底に沈殿している分離株の核酸成分をTE溶液に溶解させ、これを「PCR産物」とした。 PCR法で生じた増幅産物から上記の手順で調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)には、上記のプライマーNL−1(=配列番号3)及びNL−4(=配列番号4)に加え、さらに解読用プライマーNL−5(=配列番号5)及びNL−6(=配列番号6)も用いた。用いた解読用プライマーNL−5(=配列番号5)及び解読用NL−6(=配列番号6)の塩基配列は、下記の通りである。 解読用プライマーNL−5(=配列番号5):(22塩基、MW=6712、Tm=60.9)5’−GACAAAATGTCGCATACCTCAG−3’ 解読用プライマーNL−6(=配列番号6):(22塩基、MW=6809、Tm=61.1)5’−CTTGGAACAGGACGTCATAGAG−3’これらのプライマーの化学合成も、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。 PCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)は、株式会社バイオマトリックス研究所に委託した(注:DNAシーケンス受託解析のAタイプ)。 PCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)結果の、既知の塩基配列情報との照合(=相同性検索)などの解析処理には、米国(立)バイオテクノロジー情報センター(または米国(立)生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information(NCBI))のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)上に公開されている相同性検索プログラム「BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)」(http://blast.ncbi.nlm.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastn&BLAST_PROGRAMS=megaBlast&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthome)のうちの、データベース上の既知の塩基配列情報の中から「問い合わせ(クエリー(query))配列」との類似性が高いものだけを選択するための、つまり「塩基対塩基」用プログラムである「nucleotide blast(Seatch a nucleotide database using a nucleotide query)」を用いた。ただし、上記のPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)結果のうち、「プライマーNL−1(=配列番号3(24塩基))とプライマーNL−4(=配列番号4(19塩基))に相当する塩基配列部分を除いた残りの塩基配列部分(=両プライマー間配列)」のみを、この相同性検索(BLAST)処理用の塩基配列データとして用いた。 上記32株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物のうち、11株、すなわち青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母株であるNo.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株、富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母株であるNo.5−1−7株、岡山県産米味噌C(赤味噌)から分離した耐塩性酵母株であるNo.6−1−1−2株及びNo.6−1−1−5株、埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株であるNo.7−1−23株、No.7−1−66株、No.7−1−83株、No.7−1−89株、No.7−3−42株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、上記の手順で容易に解読でき、うち8株、すなわちNo.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.7−1−23株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−66株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−83株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−89株(生醤油E(埼玉))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)部分及びプライマーNL−4(=配列番号4)部分を除いた塩基配列部分(581bp)はいずれも、[1]Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))と完全に一致(=100%相同)しており(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、ゆえにこれら8株は現行の分類ではZ.rouxiiの、SuezawaらがType1と仮称している26SrRNA遺伝子(の部分配列(Zr type))を持つ株群に区分けされる株であると同定できた。 1例として、この8株のうちの1株であるNo.1−1−6株(米味噌A(青森))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を、プライマーNL−1(=配列番号3)を用いて解読(シークエンシング)した際の、実際のシークエンサーで読み取られた蛍光強度の波形図と変換(ベースコール)された塩基配列(図17.)(注:変換(ベースコール)された塩基は、波形の真上に記されている。図中の「A」はアデニン(Adenine)、「T」はチミン(Tymine)、「G」はグアニン(Guanine)、「C」はシトシン(Cytosine)を、また「N」は2種類以上の塩基の波形が重なっていたり、あるいは蛍光強度が弱く、波形から塩基への変換(ベースコール)ができなかった部位、いわゆる「解読不能」を示している)と、(この解読結果を含む)すべての塩基配列解読(シークエンシング)結果をつなぎ合わせて作成した「No.1−1−6株(米味噌A(青森))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物」の塩基配列のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)やプライマーNL−4(=配列番号4)の配列の一部を含む塩基配列部分(=配列番号7、図18.)とを示す。図17.及び図18.(=配列番号7)中の矢印(1)〜(6)及び矢印(8)〜(14)で示した「波形」部分(図17.)と塩基への変換(ベースコール)処理後の塩基配列(=配列番号7、図18.)上の各塩基は、SuezawaらのグループがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(果醪)))や、クリーミーケーキから分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜から分離されたIFO0686株(=NISL3456株)などの株群が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)と、SuezawaらのグループがType2と仮称した、すなわち花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)や醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株など、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxiiに区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場)などの株群が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)との「塩基の一致しない部分(=位置)」に相当し、これは図5.中の矢印に付けた番号とも一致しているが、図17.の波形図では、いずれの矢印付きの部分(=位置)も(単一の塩基を示す)単一の波形で構成されており、つまりきれいに塩基配列解読(シークエンシング)できている事が分かる。 また、No.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))及びNo.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))の2株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)部分及びプライマーNL−4(=配列番号4)部分を除いた塩基配列部分(580bp)は両方ともに、[2]味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))や、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))とも完全に一致(=100%相同)しており(注:これらの相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、ゆえにこれら2株も現行の分類ではZ.rouxiiの、SuezawaらがType2と仮称している26SrRNA遺伝子(の部分配列(Zp type))を持つ株であると同定できた(注:なお、上記したNBRCでは、SuezawaらがType1と仮称した、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))とほぼ一致(=99%以上相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)を持っておらず、この部分配列(Zp type)との類似性が99%に満たない、GordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)のみを持つ株については、Z.rouxiiと見做さず、Zygosaccharomyces sp.に区分けしているようであり、そのルールに従うならば、No.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))及びNo.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))もZygosaccharomyces sp.に区分けすべき株となる)。 1例として、この2株のうちの1株であるNo.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)やプライマーNL−4(=配列番号4)の塩基配列の一部を含む塩基配列部分(=配列番号8、図19.)を示す。図19.中の矢印(1)〜(5)、(7)及び矢印(9)〜(14)で示した「塩基」は、SuezawaらのグループがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))や、クリーミーケーキから分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)や、蜂蜜から分離されたIFO0686株(=NISL3456株)などが持つ26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)と、SuezawaらのグループがType2と仮称した、すなわち花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)や醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株など、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxiiに区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)との「塩基配列の一致しない部分(=位置)」に相当し、これは図5.中の矢印に付けた番号の位置と一致している。 また、Z.rouxiiの基準株であるNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))などの場合とは異なる鎖長の増幅産物が生じたNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))の場合の、その増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の、うちプライマーNL−1(=配列番号3)やプライマーNL−4(=配列番号4)の配列の一部を含む塩基配列部分は、図20.(=配列番号9)の通りで、うちプライマーNL−1(=配列番号3)部分及びプライマーNL−4(=配列番号4)部分を除いた塩基配列部分(521bp)は、たとえば味噌(miso paste)から分離されたCandida versatilis Miso83株の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB196211.1、GI:88759177(521bp)(Y.Suezawa,I.Kimura,M.Inoue,N.Gohda and M.Suzuki:Biosci.Biotechnol.,Biochem.,70(2),348−354 (2006)))など、C.versatilisの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列と完全に一致(=100%相同)しており(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、ゆえにこのNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))はC.versatilisであると同定できた。 しかしながら、分離株32株の中から、上記の、これら11株を除いた残りの21株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)されたPCR産物については、上記の手順による、すなわちプライマーNL−1(=配列番号3)及びプライマーNL−4(=配列番号4)、さらにはプライマーNL−5(=配列番号5)やプライマーNL−6(=配列番号6)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)処理でも、その塩基配列すべてを確定する事ができなかった。 1例として、この「解読し切れなかった21株」のうちの1株であるNo.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合のPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)の際の、シークエンサーで読み取られた蛍光強度の波形図と変換(ベースコール)された塩基配列を添付した(図21.)(注:変換(ベースコール)された塩基は、波形の真上に記されている)。図中の「A」はアデニン(Adenine)、「T」はチミン(Tymine)、「G」はグアニン(Guanine)、「C」はシトシン(Cytosine)を示しており、「N」は2種類以上の塩基の波形が重なっていたり、あるいは蛍光強度が弱く、波形から塩基への変換(=ベースコール)ができなかった部位、いわゆる「解読不能」を示している。図21.中の矢印(1)〜(10)で示した「波形」部分は、[1]SuezawaらのグループがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))やクリーミーケーキから分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜から分離されたIFO0686株(=NISL3456株)などの株群が持つ26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)(=配列番号1)と、[2]SuezawaらのグループがType2と仮称した、すなわち花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)や醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株など、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxiiに区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域の一部を含む)部分配列(Zp type)(=配列番号2)との「塩基の一致しない部分(=位置)」に相当し、それゆえにこれは図5.中の矢印に付けた番号とも一致している。その事を踏まえた上で図21.を見てみると、このPCR産物の塩基配列がきちんと解読できないのは、図21.中の矢印(1)〜(10)で示した、[1]SuezawaらのグループがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))やクリーミーケーキから分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜から分離されたIFO0686株(=NISL3456株)などの株群が持つ26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)(=配列番号1)と、[2]SuezawaらのグループがType2と仮称した、すなわち花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)や醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株など、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxiiに区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)(=配列番号2)との「塩基の一致しない部分(=位置)」に複数(2種類)の塩基の存在を示す複数(2種類)の波形が生じているためである事に気づく。つまり、この結果は、このPCR産物の中に、[1]SuezawaらのグループがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるIFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(果醪)))や、クリーミーケーキから分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜から分離されたIFO0686株(=NISL3456株)などの株群が持つ26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)(=配列番号1)と完全に一致する(=100%相同な)、あるいは類似性がきわめて高い塩基配列のPCR産物と、[2]SuezawaらのグループがType2と仮称した、すなわち花から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)や醤油諸味から分離されたZR14株やTSY−5株など、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxiiに区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域の一部を含む)部分配列(Zp type)(=配列番号2)と完全に一致する(=100%相同な)、あるいは類似性が高い塩基配列のPCR産物とが混在している可能性を暗示するものである。 なお、この「(恐らくは複数の26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列の混在によるものと見られる)2種類の塩基の混在による塩基配列の部分的な解読不能」の原因が、これら21株のシングルコロニー化処理の不全によるものでない事は、再度シングルコロニー処理した21株を用いた再試験でも、この「解読不能」の状態が改善されなかった事から確認済みである(データ省略)。 細胞内での蛋白質・ペプチド合成の役割を担う細胞(内)小器官(オルガネラ)であるリボソームは、細胞内に多数存在し、しかもrRNAはリボソームの質量の大部分を占める主要な構成成分であるために、細胞内では多量のrRNAの合成と供給とが必要となる。実際に、酵母などの真核生物の場合や、また原核生物の場合でも、細胞内での転写産物、すなわち全RNA量の約80〜90%をrRNAが占めている(Benjamin Lewin(著)/菊池韶彦・榊佳之・水野猛・伊庭英夫・紅順子(訳):エッセンシャル 遺伝子(Essential GENE(2006))、東京化学同人、p85 (2007))。そのため、rRNAの遺伝子(rDNA)は、(Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))を含む)多くの生物種では、ゲノム上に多コピーで保存されており(相同組換えによる部分配列の欠失やコピー数の低下を防ぐ独自のシステムも持っており(http://www.nig.ac.jp/labs/CytoGen/research_fig1.html(国立遺伝学研究所・小林研究室)))、このような進化的起源が同一のコピー遺伝子群(多重遺伝子族)は1つの遺伝子ファミリーとして協調進化(concerted evolution)する(=コピー遺伝子のうちのどれかに変異が入ると、それが組み換えによって他のコピー遺伝子にも伝搬し、やがてコピー遺伝子群全部に同じ変異が入るために、遺伝子群が組となって進化していく)ために、原則的にそれらの塩基配列はすべて同じになるとされるものの(久米田裕子:日食微誌(Jpn.J.Food Microbiol.)、25(2)、66−69 (2008)))、なかには塩基配列の異なる(=相同ではない)、複数のrRNA遺伝子(rDNA)を持つ微生物がいる事も知られている(R.U.Onyenwoke,Y.−J.Lee,S.Dabrowski,B.K.Ahring and J.Wiegel:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,56(6),1391−1395 (2006)、Y.Yang,H.−L.Cui,P.−J.Zhou and S.−J.Liu:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,57(1),103−106 (2007))。 このような複数のrRNA遺伝子(rDNA)を持つ微生物の、そ(れら)のrRNA遺伝子(rDNA)(を鋳型とするPCR法で調製した増幅産物)の塩基配列をそのまま上記の方法で解読しようとすると、当然の事ながら、その塩基配列解読(シークエンシング)結果には「複数の塩基の検出」を示す蛍光強度の波形が出現するために「解読不能(N)」となる塩基部分が混じる事になる。そのような場合には、複数の増幅産物を、(1)クローンライブラリ(ー)(clone library)法(下記)などを使って区分けし、各々の増幅産物の塩基配列を解読する場合と、また(2)その解読結果の、「複数の塩基の検出」を示す蛍光強度の波形が生じた(ために「解読不能」とされた)塩基部分については、これらの波形から目視で複数の塩基を読み取り、それに相当する2〜3種類の混合塩基の略号を「手入力(修正)」して塩基配列を完成させる場合とがある。そのため、米国(立)バイオテクノロジー情報センター(または米国(立)生物工学情報センター(NCBI))の「GenBank」、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute(EBI))の「ENA(European Nucleotide Archive)」、日本の国立遺伝学研究所の「DNA Data Bank of Japan(DDBJ)」が協力して構築している国際塩基配列データベース(International Nucleotide Sequence Databases(INSD)には、「A(アデニン)」、「C(シトシン)」、「G(グアニン)」、「T(チミン)」の計4種類の塩基(略号)の他に、さらに「K(グアニン、またはチミン)」、「S(グアニン、またはシトシン)」、「M(アデニン、またはシトシン)」、「R(アデニン、またはグアニン)」、「W(アデニン、またはチミン)」、「Y(シトシン、またはチミン)」、「D(アデニン、またはグアニン、またはチミン)」、「H(アデニン、またはシトシン、またはチミン)」などの2〜3種類の混合塩基の略号も使った様式の塩基配列情報も登録されている。 そこで、たとえば、上記の「No.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)の際の、シークエンサーで読み取られた蛍光強度の波形図と変換(ベースコール)された塩基配列(図21.)」中の、矢印(1)〜(10)で示した「2種類の塩基の検出」を示す蛍光強度の波形が出現した(ために「解読不能(N)」となっている)塩基部分については、これらの波形から目視で2種類の塩基を読み取り、(たとえば図21.中の矢印(1)及び(2)の位置にはアデニン(A)とグアニン(G)の波形が出ているので(Nを)「R」に、矢印(3)の位置にはシトシン(C)とチミン(T)の波形が出ているので(Nを)「Y」に、矢印(4)の位置にはアデニン(A)とチミン(T)の波形が出ているので(Nを)「W」にといった具合に)それに相当する(上記の)2〜3種類の混合塩基の略号を「手入力(修正)」して塩基配列を完成させ、この「修正後配列」を「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみたところ、Zygosaccharomyces sp.(またはZygosaccharomyces hybrid)UniL(ever)261株の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(554bp)(FR690862.1、GI:307075874)との類似性がきわめて高い(=相違が1%未満)との結果を得る事ができた。 同様に、21株の塩基配列解読(シークエンシング)結果の「手入力修正」した塩基配列を問い合わせ(クエリー)配列とする相同性検索を行なってみたところ、No.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))、No.6−4−1−10(麦味噌D(岡山))、No.7−2−1株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−2株(生醤油E(埼玉))などの「手入力修正」した塩基配列は、このUniL(ever)261株の26SrRNA遺伝子の部分配列(FR690862.1、GI:307075874)と、またNo.5−1−10株(米味噌B(富山))やNo.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.7−2−6株(生醤油E(埼玉))などの「手入力修正」した塩基配列は、Zygosaccharomyces sp.(またはZygosaccharomyces hybrid)UniL(ever)266株の26SrRNA遺伝子の部分配列(554bp)(FR690861.2、GI:307611895)(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))との類似性がきわめて高い(=相違が1%未満)との結果を得る事ができた。 そこで、このような21株の「解読し切れなかったPCR産物」については、(1)クローンライブラリー法と呼ばれる以下の手順(中村和憲・関口勇地(著):微生物相解析技術 ―目に見えない微生物を遺伝子で解析する―、米田出版 (2009)、日本生態学会(大園享司・鏡味麻衣子)(編):[シリーズ 現代の生態学11]微生物の生態学、共立出版 (2011))に従って、すなわちPCR産物をいったんプラスミドに連結して、これを大腸菌株の細胞内に導入し(=形質転換処理)、得られた形質転換株(クローン(clone))をシングルコロニー化処理(する事で、「プラスミドに連結した状態のPCR産物」を精製)したうえで、その細胞内から再びプラスミドを回収し、この回収したプラスミド上のPCR産物部分の塩基配列を解読してみた。 塩基配列解読(シークエンシング)用のPCR産物は、上記のEx Taq−PCR法で調製したものを、またこれを連結させるプラスミドとしては、タカラバイオ株式会社製のプラスミド「T−Vector pMD19(Simple)(製品コード:No.3271)」を用いた。Taq DNAポリメラーゼ(polymerase)は、末端核酸付加酵素(terminal deoxyribonucleotidyl transferase(TdT))としての活性も持つため、上記のEx Taq−PCR法で調製した増幅産物の3’−末端にはアデニン(dA)が付いている(工藤俊章・大熊盛也(監修):難培養微生物の利用技術、p33−44(本郷裕一(著))、シーエムシー出版 (2010)、野島博(著):遺伝子工学 ―基礎から応用まで―、東京化学同人 (2013))。「T−Vector pMD19(Simple)(製品コード:No.3271)」は、TAクローニング(TA−cloning)用のプラスミドである。 PCR産物の、プラスミド「T−Vector pMD19(Simple)」上のT−クローニングサイトへの連結には、タカラバイオ株式会社製のキット「DNA Ligation Kit<Mighty Mix>(製品コード:6023)」を用いた。連結(ライゲーション)反応時の「T−Vector pMD19(Simple)」、PCR産物、殺菌済み蒸留水、「DNA Ligation Kit<Mighty Mix>」の溶液量及び、「連結(ライゲーション)」作業手順は、製品「T−Vector pMD19(Simple)」付属の説明書中の「○使用例」の通りである。 PCR産物を連結したT−Vector pMD19(Simple)を導入する宿主としては、ストラタジーン(STRATAGENE)製の大腸菌株(の細胞)「SURE2 Supercompetent Cells(製品コード:200152)」を用いた。同大腸菌株へのプラスミドの導入(=形質転換処理)手順は、同大腸菌株に添付されている説明書中の「Transformation Protocol」に記されている通りである。X−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天の培地組成: 2.5%(W/V)ルリア基礎培地(粉末)(LURIA BROTH BASE(MILLER’S LB BROTH BASE(インビトロジェン(invitrogen)製、製品コード:12795−027)))、0.01%(W/V)5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactopyranoside(X−Gal)(和光純薬工業株式会社製、製品コード:029−07853))、0.03%(W/V)イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside(IPTG),dioxane free(ナカライテスク株式会社製、製品コード:19742−81))、0.000001%(W/V)アンピシリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製、製品コード:012−23303)、2.0%(W/V)寒天(和光純薬工業株式会社製、製品コード:010−15815)、pH=6.8〜7.2(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。X−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天の調製法: 2.5gのルリア基礎培地(粉末)、2.0g寒天を蒸留水に溶かし、これに1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=6.8〜7.2に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を75mlにする。これを溶液A(75ml)とする。次に、0.136gの燐酸二水素カリウム(potassium dihydrogenphosphate(KH2PO4))を蒸留水に溶かして全量を100mlとした、すなわち10mM燐酸二水素カリウム水溶液と、0.174gの燐酸水素二カリウム(dipotassium hydrogenphosphate(K2HPO4))を蒸留水に溶かして全量を100mlとした、すなわち10mM燐酸水素二カリウム水溶液との両者を、その混合液のpHをpH計で測定しながら混合して、10mM燐酸カリウム緩衝液(pH=6.8〜7.2)を調製し、この緩衝液20mlに0.01gの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)を加え、「懸濁液」を調製する(注:X−Galは水には溶けない)。これを溶液B(20ml)とする。また、0.03gのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を4mlの蒸留水に溶かし、これを溶液Cとする。さらに10mgのアンピシリンナトリウムを1mlの蒸留水に溶かし、これを溶液Dとする。溶液A及び溶液Bは、高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌し、また溶液C及び溶液Dは、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、ワットマン(WHATMAN)株式会社製「シリンジ・フィルター 25mmGD/X Sterile(製品コード:6900−2504)」を用いる除菌濾過処理を施して無菌化する。高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で殺菌した後の溶液A及び溶液Bを、熱いうちに、クリーンベンチ内などの無菌条件下で混合し、これにさらに溶液Cを加え、よく混合する。この溶液A/溶液B/溶液Cの混合液9.9mlを、冷えて固まらないうちに、あらかじめ溶液D0.1mlを流し込んでおいた殺菌済みシャーレに流し込んで、シャーレを揺さぶりながら、両溶液をよく混合したうえで、室温下で冷やして固める。 形質転換処理直後の大腸菌株を含む溶液を、上記のX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上に、殺菌済みのスパーテルなどを使って塗抹し、これを37℃に設定した培養器(または恒温器)内に置いて、2〜3日間静置培養する。培養終了後の同寒天上に生じた菌集落(コロニー)のうち、「極端に」青い菌集落(コロニー)は除き(注:詳細については後記する)、残りの菌集落(コロニー)の中から50〜60コロニーを無作為に選択し、これらを殺菌済みの白金線や爪楊枝などを使って、新しいX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上に植え継ぎ、これを2〜3回繰り返して、シングルコロニー化処理し(て、形質転換株(クローン)を得)た。アンピシリンナトリウム加LB液体培地の培地組成: 2.5%(W/V)ルリア基礎培地(粉末)(LURIA BROTH BASE(MILLER’S LB BROTH BASE(インビトロジェン(invitrogen)製、製品コード:12795−027)))、0.000001%(W/V)アンピシリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製、製品コード:012−23303)、pH無調整。アンピシリンナトリウム加LB液体培地の調製法: 2.5gのルリア基礎培地(粉末)を蒸留水に溶かし、全量を99mlにする。これを溶液Aとする。溶液Aは、1.98mlずつ試験管に分注し、試験管の口を綿栓で塞いだ状態で、高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した後、室温下で冷やした。次に、10mgのアンピシリンナトリウムを1mlの蒸留水に溶かし、これを溶液Bとする。溶液Bは、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、ワットマン(WHATMAN)株式会社製「シリンジ・フィルター 25mmGD/X Sterile(製品コード:6900−2504)」を用いる除菌濾過処理を施して無菌化し、これを試験管1本(当たり2mlの溶液A)に対して20μl(=0.02ml)加えた。シングルコロニー化処理済みの形質転換株(クローン)の培養と集菌: シングルコロニー化処理済みの形質転換株(クローン)は、上記のアンピシリンナトリウム加LB液体培地に接種し、37℃、18時間振とう培養(140rpm.)した。培養終了後の培養液2mlを、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、30分間殺菌した、1.5〜2ml容量のマイクロチューブ」に流し込み、上記の遠心分離器MRX−152を用いて、4℃条件下で、3000rpm、1〜2分間遠心分離処理し、遠心処理後に上清(=液体培地)を丁寧に除去し、沈殿物(=形質転換株(クローン)の細胞)を得た。形質転換株(クローン)からのプラスミドの回収: 得られた沈殿物(=形質転換株(クローン)の細胞)からのプラスミドの回収には、キアゲン(QIAGEN)株式会社製のキット「QuickLyse Miniprep(製品コード:27405)」を用いた。作業手順は、同キット付属の「QuickLyse Miniprep Handbook」中のp14−15「Protocol:Plasmid DNA Purification Using the QuickLyse Miniprep Kit」に記されている通りである。アガロースゲル電気泳動法の手順: 形質転換株(クローン)の細胞内から回収したプラスミドの有無及びその鎖長の確認には、アガロースゲル電気泳動法を用いた。電気泳動装置は、上記の通りである。ゲルは、一般的によく用いられる0.7%アガロースゲルを用いた。0.7%アガロースゲルの調製法: 電気泳動用のゲルは、0.7gのタカラバイオ株式会社製「アガロースL03「TaKaRa」(製品コード:5003)」にTAE緩衝液を加えて、全量を100mlとし、これを市販の電子レンジで加熱して、アガロースをよく溶かしたうえで、上記の同電気泳動システム付属のゲルメーカーセット(注:成形型であるゲルメーカースタンド−L及びゲルトレイ−S、ゲルトレイ−L。ただし、コームについては、同セットの付属品ではなく、株式会社アドバンスの別売製品である「ミニゲル電気泳動システム≪ミューピッド≫コームセット(コーム25)」を使用した)に流し込んで、室温下で冷やして固めたものを用いた(注:ゲルサイズは、ゲルトレイ−Sが52mm(W)×60mm(L)、ゲルトレイ−Lが107mm(W)×60mm(L))。0.7%アガロースゲル電気泳動用マーカーの調製: また、ゲル電気泳動時の分子量マーカーとしては、ニューイングランド・バイオラボ(NEW ENGLAND BioLabs.)製「1kb DNA Ladder(製品コード:N3232S、濃度500μg/ml×容量200μl)」を用いた。1本に対して、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した、200μlの蒸留水」及び100μlのタカラバイオ株式会社製10×Loading Buffer(注:制限酵素ApaI(下記)の付属品)を加えて、全量を500μlとし(注:マーカーの濃度は0.2μg/μlとなる)、これを1レーン(=アガロースゲル上の窪み(ウェル)1つ)当たり1.5μlずつ載せる(または注ぎ込む)形で用いた。 ゲル電気泳動法に関する、その他(=サンプルの前処理、ゲル電気泳動処理、ゲルの染色法及び観察法)の手順は上記の通りである。 1例として、青森県産米味噌Aから分離したNo.1−1−1株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物を連結させたT−Vector pMD19(Simple)の導入処理で得られた、アンピシリン耐性を示す形質転換株(クローン)群53株(=e−1株(No.1−1−1(Type2−2))〜e−53株(No.1−1−1(Type2)))のうちの10株などの、X−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上での生育の様子を撮影した写真(図22.の(1))と、それらの形質転換株(クローン)から上記の手順で回収したプラスミドのゲル電気泳動写真を示す(図22.の(2))。T−Vector pMD19(Simple)は、大腸菌の形質転換株(クローン)作出の際に非常によく用いられるプラスミドpUC19をベースに作製されたものと見られ、挿入断片の連結部位の違い、すなわちプラスミドpUC19におけるマルチクローニングサイトがT−クローニングサイトにかわっている点を除けば、それ以外の塩基配列部分はプラスミドpUC19と完全に同じである。そのため、T−クローニングサイトに「No.1−1−1株(米味噌A(青森))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を増幅するためのEx Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物」を連結したプラスミドT−Vector pMD19(Simple)を大腸菌SURE2株の細胞内に導入した場合に得られる形質転換株(クローン)も、プラスミドpUC19を用いた場合と同様、β−ガラクトシダーゼ陰性を示すアンピシリン耐性株となるはずであり、それゆえにX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上に出現する白色の菌集落(コロニー)のみを選択(=青/白選択、またはブルー/ホワイト選択)し、その細胞内からプラスミドを回収し、同プラスミド上のT−クローニングサイトにつながっているPCR産物の塩基配列を解読するという手順を採るのが正しいはずである(田村隆明・村松正實(著):基礎分子生物学(第3版)、p171−172、東京化学同人 (2007))。 しかしながら、今回の試験の前に予め行なった予備試験の際に、X−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で比較的青っぽい菌集落(コロニー)を形成した形質転換株(クローン)の細胞内からも、高い頻度でPCR産物の連結したプラスミドが見出される事を確認していた。 1例として、図22.の(1)及び(2)を示す。図22.の(1)の写真中の形質転換株(クローン)「(1)β-ガラクトシダーゼ陽性株(pUC19)」は、プラスミドpUC19の導入処理で得られたβ-ガラクトシダーゼ陽性を示すアンピシリン耐性株であり、それゆえにX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養すると、β-ガラクトシダーゼ陽性を示す青い菌集落(コロニー)を形成する。また、形質転換株(クローン)(2)〜(11)は、上記の手順通りに、T−クローニングサイトに「No.1−1−1株(米味噌A(青森))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を増幅するためのEx Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物」を連結したプラスミドT−Vector pMD19(Simple)を大腸菌の細胞内に導入した場合に得られた形質転換株(クローン)群のうちの10株であるが、これらの形質転換株(クローン)のうち、「(2)β−ガラクトシダーゼ陽性株(pMD19’)」は、X−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養した際に(β−ガラクトシダーゼ陽性を示す)青い菌集落(コロニー)を形成する株であり、同株の細胞内から回収したプラスミドの鎖長は、図22.の(2)のゲル写真の通り、プラスミドpUC19の導入処理で得られたβ-ガラクトシダーゼ陽性/アンピシリン耐性を示す形質転換株(クローン)「(1)β-ガラクトシダーゼ陽性株(pUC19’)」の細胞内から回収したプラスミド(pUC19)の鎖長とほぼ同じで、恐らくはT−Vector pMD19(Simple)がセルフライゲーション化したもの(pMD19’)と見られる。これら、β−ガラクトシダーゼ陽性の形質転換株(クローン)(1)及び形質転換株(クローン)(2)が青い菌集落(コロニー)を形成するX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養した際に(β-ガラクトシダーゼ陰性を示す)白い菌集落(コロニー)を形成した形質転換株(クローン)7株、すなわち(3)e−8株(No.1−1−1(Type1))、(4)e−9株(No.1−1−1(Type1−2))、(5)e−17株(No.1−1−1(Type1−3)、(6)e−23株(No.1−1−1(Type1−3))、(7)e−24株(No.1−1−1(Type1−4))、(10)e−1株(1−1−1(Type2−2))、(11)e−11株(1−1−1(Type2−3))の細胞内から回収したプラスミドの鎖長は、上記の形質転換株(クローン)「(2)β−ガラクトシダーゼ陽性株(pMD19’)」の細胞内から回収したプラスミド(pMD19’)よりも明らかに大きく、それゆえに「T−Vector pMD19(Simple)上のT−クローニングサイトにPCR産物が連結したもの」だと判別できた。 ただし、これら、β−ガラクトシダーゼ陽性の形質転換株(クローン)(1)及び形質転換株(クローン)(2)が青い菌集落(コロニー)を形成するX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養した際に、β-ガラクトシダーゼ擬陽性(または疑陽性)を示す、すなわち図22.の(1)の写真のような、β−ガラクトシダーゼ陽性の形質転換株(クローン)よりも少し淡い色調の、「青っぽい菌集落(コロニー)」を形成した形質転換株(クローン)2株、すなわち(8)e−6株(No.1−1−1(Type2))及び(9)e−12株(No.1−1−1(Type2))の細胞内から回収したプラスミドの鎖長も、図22.の(2)のゲル写真の通り、上記の形質転換株(クローン)「(2)β−ガラクトシダーゼ陽性株(pMD19’)」の細胞内から回収したプラスミド(pMD19’)よりも明らかに大きく、しかもX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養した際に(β-ガラクトシダーゼ陰性を示す)白い菌集落(コロニー)を形成した形質転換株(クローン)7株、すなわち(3)e−8株(No.1−1−1(Type1))、(4)e−9株(No.1−1−1(Type1−2))、(5)e−17株(No.1−1−1(Type1−3)、(6)e−23株(No.1−1−1(Type1−3))、(7)e−24株(No.1−1−1(Type1−4))、(10)e−1株(No.1−1−1(Type2−2))、(11)e−11株(No.1−1−1(Type2−3))の細胞内から回収したプラスミドと、目視では同じ鎖長に見え、つまり同プラスミド上のT−クローニングサイトにもPCR産物が連結されている事が判明した。そこで、本試験では、上記の形質転換処理で得られる、たとえば上記の8株のような、「白い菌集落(コロニー)を形成した形質転換株(クローン)」だけでなく、さらにこのような「Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上で培養した際にβ-ガラクトシダーゼ擬陽性(または疑陽性)を示す、青っぽい菌集落(コロニー)を形成した形質転換株(クローン)」も試験対象と見做し、すべてシングルコロニー化処理したうえで、それらの株の細胞内からプラスミドを回収した。 上記の手順で選択した形質転換株(クローン)の細胞内から回収したこれらのプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっているのはPCR産物であり、その塩基配列解読(シークエンシング)には上記のプライマーNL−1(=配列番号3)やプライマーNL−4(=配列番号4)、さらにはプライマーNL−5(=配列番号5)やプライマーNL−6(=配列番号6)を用いた。この塩基配列解読(シークエンシング)も、株式会社バイオマトリックス研究所に委託した(注:DNAシーケンス受託解析のAタイプ)。 塩基配列解読(シークエンシング)結果の解析処理、すなわち既知の塩基配列情報との照合などは、上記の手順通りに行なった。 図23.〜29.(=配列番号10〜16)は、図22.の(1)の形質転換株(クローン)のうちの9株、すなわち(3)e−8株(No.1−1−1(Type1))、(4)e−9株(No.1−1−1(Type1−2))、(5)e−17株(No.1−1−1(Type1−3))及び(6)e−23株(No.1−1−1(Type1−3))、(7)e−24株(No.1−1−1(Type1−4))、(8)e−6株(No.1−1−1(Type2))及び(9)e−12株(No.1−1−1(Type2))、(10)e−1株(No.1−1−1(Type2−2))、(11)e−11株(No.1−1−1(Type2−3))の細胞内から回収したプラスミド(のゲル電気泳動写真は図22.の(2))の、また図30.(=配列番号17)は同様に上記の手順で作出した形質転換株(クローン)e−36株(No.1−1−1(Type2−4))の細胞内から回収したプラスミド(注:ゲル写真は省略)の、T−クローニングサイトに連結されているPCR産物の、上記手順による塩基配列解読(シークエンシング)結果をまとめたものである。図23.〜30.(=配列番号10〜17)の塩基配列中の先頭3塩基「アデニン−チミン−チミン(ATT)」と末尾3塩基「アデニン−アデニン−チミン(ATT)」は、プラスミド「T−Vector pMD19(Simple)」上のT−クローニングサイト上の部分配列であり、それらに隣接している「矢印付きの塩基配列部分」はEx Taq−PCR法で用いたプライマーNL−1(=配列番号3(24塩基))及びプライマーNL−4(=配列番号4(19塩基))を示している。 これらの形質転換株(クローン)から得られたプラスミド上の、T−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列は、図23.〜30.に記した計8種類で、うち形質転換株(クローン)(3)e−8株(No.1−1−1(Type1))の細胞内から回収したプラスミドe−8(No.1−1−1)上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号10、図23.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(581bp)は、上記のSuezawaらがType1と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))と完全に一致(=100%相同)しており(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、かつSuezawaらがType2と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))とは2.4〜2.5%異なっていた。 また、形質転換株(クローン)(8)e−6株(No.1−1−1(Type2))及び形質転換株(クローン)(9)e−12株(No.1−1−1(Type2))の細胞内から回収したプラスミドe−6(No.1−1−1)及びプラスミドe−12(No.1−1−1)上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号14、図27.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(580bp)はいずれも、上記のSuezawaらがType2と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)しており(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、かつSuezawaらがType1と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とは2.4%異なっていた。 上記の結果から、このNo.1−1−1株(米味噌A(青森))は、少なくとも、上記のSuezawaらがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列と完全に一致(=100%相同)する塩基配列と、SuezawaらがType2と仮称した、すなわちGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域の一部を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)する塩基配列との両方を持っている事が判明した。 さらに、形質転換株(クローン)(4)e−9株(No.1−1−1(Type1−2))の細胞内から回収したプラスミドe−9(No.1−1−1(Type1−2))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号11、図24.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(581bp)は、上記のSuezawaらがType1と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とは、[1]図24.(=配列番号11)中の矢印(1)が指す塩基の位置、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の821972番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[2]図24.(=配列番号11)中の矢印(2)が指す塩基の位置、すなわち821875番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[3]図24.(=配列番号11)中の矢印(3)が指す塩基の位置、すなわち821870番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている、[4]図24.(=配列番号11)中の矢印(4)が指す塩基の位置、すなわち821833番目のチミン(T)がアデニン(A)になっている、[5]図24.(=配列番号11)中の矢印(14)が指す塩基の位置、すなわち821561番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっているという計5塩基の相違点を除けば、残り576塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type1−2と呼ぶ。 形質転換株(クローン)(5)e−17株(No.1−1−1(Type1−3))及び形質転換株(クローン)(6)e−23株(No.1−1−1(Type1−3))の細胞内から回収したプラスミドe−17(No.1−1−1(Type1−3))及びプラスミドe−23(No.1−1−1(Type1−3))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号12、図25.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(581bp)はいずれも、上記のSuezawaらがType1と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とは、[1]図25.(=配列番号12)中の矢印(1)が指す塩基の位置、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の821972番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[2]図25.(=配列番号12)中の矢印(2)が指す塩基の位置、すなわち821875番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[3]図25.(=配列番号12)中の矢印(3)が指す塩基の位置、すなわち821870番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている、[4]図25.(=配列番号12)中の矢印(4)が指す塩基の位置、すなわち821833番目のチミン(T)がアデニン(A)になっているという計4塩基の相違点を除けば、残り577塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type1−3と呼ぶ。 形質転換株(クローン)(7)e−24株(No.1−1−1(Type1−4))の細胞内から回収したプラスミドe−24(No.1−1−1(Type1−4))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号13、図26.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(581bp)は、上記のSuezawaらがType1と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とは、[1]図26.(=配列番号13)中の矢印(1)が指す塩基の位置、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の821972番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[2]図26.(=配列番号13)中の矢印(a)が指す塩基の位置、すなわち821892番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[3]図26.(=配列番号13)中の矢印(b)が指す塩基の位置、すなわち821814番目のアデニン(A)がない(または欠けている(・))という計3塩基の相違点を除けば、残り578塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type1−4と呼ぶ。 また、形質転換株(クローン)(10)e−1株(No.1−1−1(Type2−2))の細胞内から回収したプラスミドe−1(No.1−1−1(Type2−2))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号15、図28.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(580bp)は、上記のSuezawaらがType2と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域の一部を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))とは、[1]図28.(=配列番号15)中の矢印(1)が指す塩基の位置、すなわちGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域の一部を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))上の89番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている、[2]図28.(=配列番号15)中の矢印(2)が指す塩基の位置、すなわち186番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている、[3]図28.(=配列番号15)中の矢印(3)が指す塩基の位置、すなわち191番目のシトシン(C)がチミン(T)になっている、[4]図28.(=配列番号15)中の矢印(4)が指す塩基の位置、すなわち228番目のアデニン(A)がチミン(T)になっているという計4塩基の相違点を除けば、残り576塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type2−2と呼ぶ。 形質転換株(クローン)(11)e−11株(No.1−1−1(Type2−3))の細胞内から回収したプラスミドe−11(No.1−1−1(Type2−3))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号16、図29.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(580bp)は、上記のSuezawaらがType2と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))とは、[1]図29.(=配列番号16)中の矢印(5)が指す塩基の位置、すなわちGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))上の450番目のグアニン(G)がチミン(T)になっているという1塩基の相違点を除けば、残り579塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type2−3と呼ぶ。 形質転換株(クローン)e−36株(No.1−1−1(Type2−4))の細胞内から回収したプラスミドe−36(No.1−1−1(Type2−4))上のT−クローニングサイトに連結していたPCR産物の塩基配列(=配列番号17、図30.)のうち、プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間にある部分配列(580bp)も、上記のSuezawaらがType2と仮称した株群が持つ塩基配列、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii NRRL Y−2547株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))とは、[1]図30.(=配列番号17)中の矢印(1)が指す塩基の位置、すなわちGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))上の89番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている、[2]図30.(=配列番号17)中の矢印(c)が指す塩基の位置、すなわち187番目のシトシン(C)がチミン(T)になっているという計2塩基の相違点を除けば、残り578塩基については一致していた(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。この塩基配列を、以下、Type2−4と呼ぶ。 図31.は、得られた計8種類の塩基配列、すなわち上記のSuezawaらがType1と仮称した、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))と完全に一致(=100%相同)していた塩基配列(Type1)及びその塩基配列との類似性がきわめて高い塩基配列、すなわちType1−2、Type1−3及びType1−4、またSuezawaらがType2と仮称した、味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)していた塩基配列(Type2)及びその塩基配列との類似性がきわめて高い塩基配列、すなわちType2−2、Type2−3及びType2−4を模式図化したものである。 Type1−2、Type1−3、Type1−3は、Type1、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))との類似性に基づいて、Type1も含めてすべて「灰色」の棒として模式図化し、Type1−2、Type1−3、Type1−4上にある「塩基違い(=Type1の塩基配列と一致しない塩基)」の部分は白い、あるいは黒い三角形の印を付けて示した。また、Type2−2、Type2−3、Type2−4は、Type2、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))との類似性に基づいて、Type2も含めてすべて「白い」棒として模式図化し、Type2−2、Type2−3、Type2−4上にある「塩基違い(=Type2の塩基配列と一致しない塩基)」の部分は灰色、または黒い三角形の印を付けて示した。 Type1−2、Type1−3、Type1−4上にある「Type1と一致しない塩基」の部分のうちの、Type1−4上にある[2]821892番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[3]821814番目のアデニン(A)がない(または欠けている(・))という2箇所(注:図31.中の黒い三角形の印を付けた塩基)を除いた残りの箇所は、実はType1、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とType2、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))との「塩基違い(=一致しない塩基)」の部分に相当し、しかもType2の株群が持つ塩基配列上の「同位置の塩基」と一致している事を見出した。 そのため、これらの塩基配列、すなわちType1−2、Type1−3、Type1−4は、塩基配列全長ではType1の株群が持つ塩基配列との類似性のほうが高いと評価されるものの、その塩基配列の中の一部のみを抽出して、これを「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみると、Type2の株群が持つ塩基配列と完全に一致(=100%相同)する、あるいは(Type1よりも)Type2の塩基配列との類似性のほうが高いとの結果を得る事ができる。 たとえば、Type1−3を例に挙げて説明すると、図25.のType1−3の塩基配列(=配列番号12)の「プライマーNL−1(=配列番号3)の3’−末端のグアニン(G)の右隣の塩基、すなわちアデニン(A)を起点に、そのアデニン(A)から、上記の「Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、NCBI−GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))と一致しない計4塩基」のうちの1塩基、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の[4]821833番目のアデニン(A)の左隣の塩基、すなわち821832番目のグアニン(G)までの部分配列(237bp)」を抽出して、これを「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみると、この部分配列はType2、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)しているとの結果を得る事ができる(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)は、IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株(味噌))、IFO0845株(=NISL3459株(溜醤油諸味))の場合は8e−120、NCYC3042株(ソフトドリンク工場)の場合は2e−115)。それゆえに、これらの塩基配列、すなわちType1−2、Type1−3、Type1−4は、図32.中の模式図でも示した通り、Type1とType2とのキメラ配列(ないしはモザイク配列)だと見る事ができる。 また、Type2−2、Type2−3、Type2−4の「塩基違い(=Type2と一致しない塩基)」の部分のうちの、Type2−4で見つかった[2]187番目のシトシン(C)がチミン(T)になっているという1箇所(注:図31.中の黒い三角形の印を付けた塩基)を除いた残りの箇所も、実はType1、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))とType2、すなわち味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))との「塩基違い(=一致しない塩基)」の部分に相当し、しかもType1の株群が持つ塩基配列上の「同位置の塩基」と一致している事を見出した。そのため、これらの塩基配列、すなわちType2−2、Type2−3、Type2−4は、塩基配列全長ではType2の株群が持つ塩基配列との類似性のほうが高いと評価されるものの、その塩基配列の中の一部のみを抽出して、これを「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみると、Type1の株群が持つ塩基配列と完全に一致(=100%相同)する、あるいは(Type2よりも)Type1の株群が持つ塩基配列との類似性のほうが高いとの結果を得る事ができる。 たとえば、Type2−2を例に挙げて説明すると、図28.のType2−2の塩基配列(=配列番号15)の「プライマーNL−1(=配列番号3)の3’−末端のグアニン(G)の右隣の塩基、すなわちアデニン(A)を起点に、そのアデニン(A)から、上記の「味噌から分離されたZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302810.1、GI:208609200(580bp))や溜醤油諸味から分離されたZ.rouxii IFO0845株(=NISL3459株)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302805.1、GI:208609195(580bp))、さらにはGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と一致しない計4塩基」のうちの1塩基、すなわちGordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))上の[4]228番目のチミン(T)の左隣の塩基、すなわち229番目のグアニン(G)までの部分配列(237bp)」を抽出して、これを「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみると、この部分配列はType1、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))や醤油醸造工程から分離されたZ.rouxii IFO0494株(=NISL3445株)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302791.1、GI:208609181(581bp))と完全に一致(=100%相同)しているとの結果を得る事ができる(注:これらの相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=8e−120)。それゆえに、これらの塩基配列、すなわちType2−2、Type2−3、Type2−4も、図32.中の模式図で示した通り、Type1とType2とのキメラ配列(ないしはモザイク配列)だと見る事ができる。 図31.で示したNo.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合のPCR産物の塩基配列上の、三角印で示した「塩基違い(=一致しない塩基)」の部分を、上記の「キメラ配列(ないしはモザイク配列)化」現象によるものと仮定した場合の模式図が、図32.である。図31.では三角印で示した「塩基違い(=一致しない塩基)」の部分の大半が「キメラ配列(ないしはモザイク配列)化」現象で説明可能であり、Type1でもType2でも見出されない塩基は、Type1−4で見つかった、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上の[a]821892番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている、[b]821814番目のアデニン(A)がない(または欠けている(・))、またType2−4で見つかった、Z.pseudorouxii群に区分けすべきとされるNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))上の[c]187番目のシトシン(C)がチミン(T)になっているという計3塩基に過ぎなかった。 ただ、PCR法及びクローンライブラリー法によって見出されたこれらのキメラ配列(ないしはモザイク配列)については、(1)No.1−1−1株(米味噌A(青森))の染色体上に実際にある塩基配列部分だという可能性と、(2)(No.1−1−1株(米味噌A(青森))の染色体上にはなく)26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列の塩基配列解読(シークエンシング)のために行なった上記の手順(=PCR法やクローンライブラリー法)の際に生じた人工産物(artifacts)である可能性との両方が考えられる。 上記の手順での塩基配列の解読結果から、No.1−1−1株(米味噌A(青森))は、少なくとも、上記のSuezawaらがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))と完全に一致(=100%相同)するタイプの(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)と、SuezawaらがType2と仮称した、GordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)を持っている事は判明している。そして、染色体上にこのような類似性の高い塩基配列部分が複数存在する場合には、それらの塩基配列部分どうしで組み換えを起こす事がある。そのため、両者の部分配列、すなわちType1の部分配列(Zr type)とType2の部分配列(Zp type)から成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)も、細胞内でのType1の部分配列(Zr type)とType2の部分配列(Zp type)との組み換えによって生じたものである可能性が考えられる。 No.1−1−1株(米味噌A(青森))と同様に「PCR産物をそのまま解読する事ができない」耐塩性酵母株、すなわちNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))などについても、上記の手順でPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)を行なってみたところ、やはりNo.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合と同様に、SuezawaらがType1と仮称した、すなわちZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)と、SuezawaらがType2と仮称した、GordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)と同時に、この両者、すなわちType1の部分配列とType2の部分配列とから成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)が見出された。 このNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))などの場合に生じたPCR産物(群)の塩基配列解読(シークエンシング)の結果から、株ごとに見出されるキメラ配列(ないしはモザイク配列)の種類と数は異なっている事も判明した(データ省略)。No.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合のPCR産物から見つかった「D1/D2領域(またはD1/D2ドメイン)を含む部分配列」は、上記した通り、Type1(Zr type)とType2(Zp type)と、さらに(それらの組み換えによって生じたのかも知れない)両者、すなわちType1(Zr type)の部分配列とType2(Zp type)の部分配列とから成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)であるType1−2、Type1−3、Type1−4、Type2−2、Type2−3、Type2−4の計8種類であったが、たとえば同じ分離源から分離されたNo.1−2−8株(米味噌A(青森))の場合のPCR産物から見つかったのは、Type1(Zr type)とType2(Zp type)と、(それらの組み換えによって生じたのかも知れない)両者、すなわちType1(Zr type)の部分配列とType2(Zp type)の部分配列とから成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)であるType1−2、Type1−3、Type2−2と、(Type1−4、Type2−3、Type2−4は見出されなかった代わりに)さらにNo.1−1−1株(米味噌A(青森))の場合には見られなかった新たな6種類の部分配列(Type1−5、Type1−6、Type1−7、Type1−8、Type1−9、Type2−5)を加えた計11種類であり、このNo.1−2−8株(米味噌A(青森))において見つかった6種類の部分配列も、Type1(Zr type)とType2(Zp type)との、(組み換えによって生じたのかも知れない)両者、すなわちType1(Zr type)の部分配列とType2(Zp type)の部分配列とから成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)の形をとっている事が判明している(データ省略)。 上記した通り、下面発酵ビール酵母であるS.pastorianus(旧:S.carlsbergensis)も、S.cerevisiaeとS.bayanus(ないしはその近縁種)との種間交雑によって生まれた異種倍数体株であり、さまざまなS.pastorianus株の染色体を調べたところ、S.cerevisiae由来のものと見られる(Sc型)染色体と(S.cerevisiaeではなく)S.bayanus(ないしはその近縁種)由来のものと見られる(非Sc型(またはNon−Sc型))染色体との間で、多数の乗換えを起こしていて、それゆえに一部の染色体は両者が組み合わさったモザイク状を呈しているのだが、こうしたモザイク型染色体における乗換えの位置(や、そもそも染色体の数自体)は株ごとに異なっていたとの報告がある(S.Rainieri,Y.Kodama,Y.Kaneko,K.Mikata,Y.nakao and T.Ashikari:Appl.Environ.Microbiol.,72(6),3968−3974 (2006))。rRNA遺伝子(rDNA)については、上記した通り、多くの生物種がゲノム上に多コピーで持つ代わりに、相同組換えによる部分配列の欠失やコピー数の低下を防ぐ独自のシステムを備えてはいるものの、組換え(による一時的なコピー数の低下)自体は起こる可能性がある(ために、コピー数を元通りに直すためのシステムも備えている(http://www.nig.ac.jp/labs/CytoGen/research_fig1.html(国立遺伝学研究所・小林研究室)))。 ただ、さまざまなラガービール酵母(S.pastorianus)の26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域を含む部分配列を調べてみた結果でも、(1)上記のWeihenstephan 34/70株や、IFO10011株(=NBRC10011株)、RH6136株(AJ508593.1、GI:32127530)のように、S.cerevisiaeが持っている26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域を含む部分配列(Sc type)と同一の(=100%相同な)部分配列を持つ株群や(2)IFO613株(=NBRC11024株)やIFO1167株(=NBRC11023株=NRRL Y−12693株)、NRRL Y−1525株(=NBRC10610株)のように、S.bayanusが持っている26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域を含む部分配列(Sb type)と同一の(=100%相同な)部分配列を持つ株群、さらには(3)たとえばIFO1962株のように、その両方の部分配列(Sc type及びSb type)を持つ株も見つかったとの報告はあるものの(H.−M.Daniel and W.Meyer:Int.J.Food Microbiol.,86(1−2),61−78 (2003)、C.P.Kurtzman and C.J.Robnett:FEMS Yeast Res.,3(4),417−432 (2003)、M.Kawahata,T.Fujii and H.Iefuji:Biosci.Biotechnol.Biochem.,71(7),1616−1620 (2007))、両方の部分配列が混じり合ったキメラ配列(ないしはモザイク配列)は見出されてはいないようである。 一方、PCR法及びクローンライブラリー法によって見出されたこれらのキメラ配列は、(2)その26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列の塩基配列解読(シークエンシング)のために行なった上記の手順(=PCR法やクローンライブラリー法)の際に生じた人工産物である可能性も考えられる。 今回、Type1の部分配列(Zr type)とType2の部分配列(Zp type)とから成るキメラ配列が見出されたのは、いずれも「Type1の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)」と「Type2の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)」とを持つ21株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物である。つまり、これら21株の場合のEx Taq−PCR法では、これらの酵母株から調製(または抽出)した核酸成分中に含まれる複数の鋳型DNA部分、すなわち「Type1の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)」と「Type2の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)」との両方を増幅させている事になる。しかも、これらの鋳型DNA部分の塩基配列は、非常に類似性が高い(rRNA遺伝子である)。 このような、塩基配列の類似性がきわめて高い、複数の鋳型DNA部分を増幅するためのPCR法を行なった場合には、PCR反応溶液中でType1の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)とType2の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)とがヘテロ2本鎖DNA(heteroduplex DNA)を形成しやすく、これをクローンライブラリー法でクローン化した場合には、大腸菌が持つMutHLSによる塩基配列修復システム(MutHLS−mediated mismatch repair)(注:システムの詳細は、たとえば田村隆明・村松正實(著)の「基礎分子生物学(第3版)(東京化学同人 (2007))」のp124−126を参照)によって(1本鎖のType1(Zr type)と1本鎖のType2(Zp type)との結合によって生じた)ヘテロ2本鎖DNA上のミスマッチ塩基(または不対合塩基)部分が修復されるために、結果的にはちょうど(Type1(Zr type)とType2(Zp type)の)2種類の塩基配列が所々に混ざり合った、モザイク状のホモ2本鎖DNAが作り出されてしまう可能性がある(J.R.Thompson,L.A.Marcelino and M.F.Polz:Nucleic Acids Res.,30(9),2083−2088 (2002))。 また、調製(または抽出)した核酸成分中に断片化されたDNA(特に鋳型DNA)が含まれていたり、またPCR法における伸長反応時間が短い場合、増幅反応の繰り返し回数が多過ぎる場合(T.Kanagawa:J.Biosci.Bioeng.,96(4),317−323 (2003))、あるいはテンプレートスイッチング(鋳型(鎖)乗り換え(template switching))によっても、2種類の配列が成るキメラ配列が作り出されてしまう事も報告されている(中村和憲・関口勇地(著):微生物相解析技術 ―目に見えない微生物を遺伝子で解析する―、米田出版 (2009))。 前者、すなわち大腸菌の塩基配列修復システムによるキメラ配列(ないしはモザイク配列)の形成については、クローンライブラリー法で用いる宿主(大腸菌株)として、(本試験で用いたSURE2株は、親株と較べるとミスマッチ塩基部分の修復機能も低下しているとされるものの(SURE2 Supercompetent Cellsの販売元であるアジレント・テクノロジー株式会社からの私信)、そもそも塩基配列修復システムに変異を導入した株ではなく)たとえばタカラバイオ株式会社製の、塩基配列修復システム欠損株(の細胞)である「E.coli BMH71−18 mutS Competent Cells(製品コード:9054)を用いる事により抑制する事ができ(E.coli BMH71−18 mutS Competent Cellsの販売元であるタカラバイオ株式会社からの私信)、また後者の場合のキメラ配列の形成についても、PCR反応条件を精査して、より適正化させる事により抑える事はできる。 こうしたキメラ配列(ないしはモザイク配列)の形成は、たとえば16SrRNA遺伝子を指標とする、微生物叢(フローラ)の直接的な(=培養を伴わない)解析研究の場面では、古くから認識されていた現象ではあるものの(A.R.Shuldiner,A.Nirula and J.Roth:Nucleic Acids Res.,17(11),4409 (1989)、W.Liesack,H.Weyland and E.Stackebrandt:Microb.Ecol.,21(1),191−198 (1991)、E.Fernandez,T.Bienvenu,F.Desclaux Arramond,K.Beldjord,J.C.Kaplan and C.Beldjord:PCR Methods Appl.,3(2),122−124 (1993)、E.D.Kopczynski,M.M.Bateson and D.M.Ward:Appl.Environ.Microbiol.,60(2),746−748 (1994)、G.Ruano,A.S.Deinard,S.Tishkoff and K.K.Kidd:PCR Methods Appl.,3(4),225−231 (1994)、M.J.Ferris and D.M.Ward:Appl.Environ.Microbiol.,63(4),1375−1381 (1997))、その塩基配列が自然物なのか人工産物なのかの判別が時には(特に系統的に非常に近い複数種由来の塩基配列がキメラ配列化したような場合など)難しい場合もあり、公式の塩基配列データベースにも、こうした人工的なキメラ配列(ないしはモザイク配列)が多数登録されているという(P.Hugenholtst and T.Huber:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,53(1),289−293 (2003))。 なお、Taq DNAポリメラーゼは、その複製反応時に増幅ミスを起こす事が知られてはいるものの、そうした増幅ミス(の頻度)は微生物の塩基配列の相同性を指標とする分類には影響を及ぼさない程度のものに過ぎず、上記の、人工的なキメラ配列のほうが分類上の問題となりやすいとの、Acinasらの報告がある(S.G.Acinas,R.Sarma−Rupavtarm,V.Klepac−Ceraj and M.Polz:Appl.Environ.Microbiol.,71(12),8966−8969 (2005))。製品・キット化されているTaq DNAポリメラーゼの多くは、遺伝子操作によって増幅ミスの発生頻度が改善(=低減化)されており(野島博(著):遺伝子工学 ―基礎から応用まで―、東京化学同人 (2013))、その頻度はきわめて低い。今回のPCR産物の調製に用いたEx Taq−PCR法での増幅ミスによる「塩基違い(=鋳型DNAと一致しない塩基)」の発生頻度もわずか0.03%程度に過ぎないといい(Ex Taqの販売元であるタカラバイオ株式会社からの私信)、プライマーNL−1(=配列番号3(24塩基))及びプライマーNL−4(=配列番号4(19塩基))を用いたEx Taq−PCR法で調製したPCR産物(623〜624bp)に見出された、上記の1〜5塩基の違いがこうした増幅ミスによるものだと仮定した場合には、その増幅ミスの発生頻度は上記の0.03%を遥かに超える(1〜5/623〜624=)0.16〜0.80%となる事から、見出されたこれらの塩基すべてがPCR反応中の増幅ミスによるものだとは考えづらい。 生味噌及び生醤油から分離したNo.1−1−1株(米味噌A(青森))やNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))などの場合に生じたPCR産物の、クローンライブラリー法を用いての塩基配列解読(シークエンシング)によって見出された、Type1の部分配列(Zr type)とType2の部分配列(Zp type)から成るキメラ配列(ないしはモザイク配列)群のすべて、あるいは一部が(1)これら株の染色体上に実際にある塩基配列部分なのか、あるいは(2)(これらの株の染色体上にはなく)26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列の塩基配列解読(シークエンシング)のために行なった上記の手順(=PCR法やクローンライブラリー法)の際に生じた人工産物なのかは、そもそもキメラ配列のもととなった両方の配列(=Type1の部分配列(Zr type)とType2の部分配列(Zp type))自体がこれらの株の細胞内から同時に見出されている事もあって、よく分からない。 ただ、いずれにせよ、こうしたNo.1−1−1株(米味噌A(青森))やNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))などの株群も、SuezawaらがType1と仮称した、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体E(CU928181.1、GI:238942531)上にある、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AB302806.1、GI:208609196(581bp)(=配列番号1))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zr type)を持つ事から、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株であると、またSuezawaらがType2と仮称した、GordonらやHarrisonらがZ.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)する(D1/D2領域を含む)部分配列(Zp type)も持つ事から(GordonらやHarrisonらが提唱しているZ.pseudorouxii群も、現行の分類上はZ.rouxiiに分類されている事から)現行の分類でZ.rouxiiに分類される株であると簡易同定できる。 また、これらの株は、GordonらやHarrisonらが提唱している区分けに従うとすれば、Z.rouxiiの基準株であり、彼らも[1](生粋の)Z.rouxiiに分類すべきとしているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))と、彼らがZ.rouxiiとは同属「別種」の[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の、両方の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を持っている事から、Z.rouxii株とZ.pseudorouxii株との交雑株、つまり[3]Zygosaccharomyces hybrid strain群に区分けすべきとしているZygosaccharomyces sp.(注:種名は「なし」)だともいえる。 ただ、この26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域の鎖長と塩基配列とを指標として用いる微生物の(属種)簡易同定法は、あくまで供試株の持つD1/D2領域が1種類だけであるという前提条件の下でのみ、利用すべきであり、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている株群のように、株によってType1の部分配列(Zr type)ないしはType2の部分配列(Zp type)という、2種類の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を持つ場合がある酵母株に対しては利用すべきではない。さらに、味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離したZ.rouxii株の場合には、たとえば上記のNo.1−1−6株(米味噌A(青森))やNo.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))などのように、(Type1の部分配列(Zr type)ないしはType2の部分配列(Zp type)のいずれかしか持っていないために)上記の手順に従って26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列のPCR産物を調製し、その塩基配列を直接解読するだけという、比較的容易な方法で、現行の分類上のZ.rouxiiだと簡易同定できる株だけでなく、たとえば上記のNo.1−1−1株(米味噌A(青森))などのように、(複数の生物種に由来するものと見られる)複数の26SrRNA遺伝子(のD1/D2領域を含む部分配列)を持つ(がゆえに(現行の分類ではZ.rouxiiに分類されているものの)GordonらやHarrisonらがZygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとしている)株もおり、これらの株では、その塩基配列を直接解読する事ができず、その塩基配列解読(シークエンシング)のためには(前処理としての)上記の形質転換処理や形質転換株(クローン)の選択(クローンライブラリー法)、形質転換株(クローン)からプラスミドの回収という、非常に煩雑で多大な労力とコストを要する作業が必要で、しかもPCR法条件やクローンライブラリー法で使用する宿主(大腸菌株)の選択にも注意が必要であり、しかもX−Gal/IPTG/アンピシリンナトリウム加LB寒天上での形質転換株(クローン)の選択(=擬陽性(または疑陽性)の色調を呈する形質転換株(クローン)を試験の対象として選択するか否かという判断)には熟練を要する場合がある。 そもそも、Z.rouxiiと同属(Zygosaccharomyces属)の、Zygosaccharomyces sapae(チゴサッカロミセス・サパエ)の基準株であるABT301株(バルサミコ酢(イタリア))が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(623bp)(AJ966342.3、GI:384080460、またはAM947682.1、GI:170650321)の塩基配列は、(Z.sapaeではないとされる)Z.pseudorouxii NCYC3042株が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(560bp)(AJ555406.1、GI:46094756)と同一(=100%相同)だとの報告があり(L.Solieri,T.C.Dakal and P.Giudici:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,63(Pt 1),364−371 (2013))、さらにはたとえばZ.rouxii IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株(味噌))が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(580bp)(AB302810.1、GI:208609200)などとも同一(=100%相同)であり、つまり26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域の鎖長と塩基配列とを指標として用いる判別法(=簡易同定法)ではZygosaccharomyces属内の数種、すなわちZ.sapaeやZ.pseudorouxii、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多い、Zygsaccharomyces hybrid strain群に区分けすべきとされる(現行の分類ではZ.rouxiiに分類されている)株群に含まれる一部(の株群)を区分けする事はできない。 [B]同属同種内の酵母株を、その産業上用途に応じて区分け(または判別)する事もきわめて重要であり、その方法は当然産業上有用であるため、手法の研究と開発が盛んに行なわれている。Z.rouxiiの場合には、上記した通り、[B]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群を、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高いZ.rouxii株」と、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低く、それゆえに「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」とを区分け(または判別)する事も、味噌・醤油醸造及び製品などの製造・品質管理上きわめて重要な事であり、これらを区分け(または判別)する方法も産業上有用である。 しかしながら、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能が高いZ.rouxii株」と、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低く、それゆえに「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」とを区分け(または判別)するための形態学的及び生理学的性質・細胞成分検査法については、ほとんど報告がなく、また一部の報告についても同種内株の判別(または区分け)方法として実用化できる水準にまでは整備されていない。 たとえば、森らのグループは、味噌・醤油諸味などから分離された耐塩性のZ.rouxii株が、グルコースとフラクトース(=果糖(fructose))を1:1の比率で含む環境で培養した場合にも、他の多くの酵母と同様に、何よりもまずグルコースを炭素源として消費するのに対して、蜂蜜やマジパン、ショートケーキなどから分離された耐糖性のZ.rouxii株の場合には、(グルコースよりも先に)フラクトースから先に消費するという特徴、すなわち「好フラクトース資化性(fructophily)」を示す事を報告している(森治彦、瀬能幸雄、島津善美:日本醗酵工学会大会(千里阪急ホテル、大阪大学工学部(大阪))講演要旨集、昭和62年度、p67(講演番号257)、1987−11−02 (1987)、森治彦:醸協、96(7)、475−482 (2001))。このような好フラクトース資化性は、耐糖性のZ.rouxii株に特異的なものではなく、同様に高濃度の糖質を含む環境から分離されたS.bailii(=現在のZ.bailii)などの酵母でも報告されており(W.Emmerich&F.Radler:J.Gen.Microbiol.,129(11),3311−3318 (1983))、非常に興味深いが、もしこのような糖の「優先的」資化性能の違いを指標にして、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に利用できるZ.rouxii株」と、「味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株とを区分け(または判別)しようとするならば、培養前後の培地中のグルコース濃度とフラクトース濃度の変化を分析するという煩雑な成分分析作業が必要となる。 上記した通り、本発明者(=馬渕)は、2001年に、Z.rouxii株群をいくつかの株群に区分けする方法(馬渕清人:醤油酵母の分離識別法、特許3904187)と、本法を利用して、醤油諸味のエタノール発酵に寄与できる「特に高い」能力を持つZ.rouxii株のみを選択する方法を考案しており(馬渕清人:エタノール高生産性醤油主醗酵酵母株の分離識別用寒天培地、同酵母株の分離法及び同酵母株を用いる含塩醗酵食品の製造法、特許3938488)、後者の方法を用いれば、(醤油及びその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)の中での生存能力が高く、醤油諸味中でのエタノール生産性能が高いZ.rouxii株群の中に含まれる)「特に高い」エタノール生産性能を持ち、それゆえに実際の醤油醸造への利用に向いているZ.rouxii株のみをきわめて容易かつ迅速に選択・取得する事はできる。ただし、本法では、本発明で求めている、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群を、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高いZ.rouxii株群」と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低く、それゆえに「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株群」との2群に、正確に区分け(または判別)する事は、本法ではできない。 また、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株群の同属同種内での区分けに関する免疫学的な試みも、ほとんどなされてはいない。 上記した通り、1996年のS.cerevisiae S288C株の全ゲノム配列解読完了(A.Goffeau,B.G.Barrel,H.Bussey,R.W.Davis,B.Dujon,H.Feldmann,F.Galibert,J.D.Hoheisel,C.Jacq,M.Johnston,E.J.Louis,H.W.Mewes,Y.Murakami,P.Philippsen,H.Tettelin and S.G.Oliver:Science,274(5287),546−567 (1996))をきっかけに、さまざまな醸造用酵母のゲノム解読から得られた遺伝情報どうしの比較を通して、S.cerevisiaeの株群を区分けしようとする研究が盛んに行なわれるようになった。 同属同種の酵母株を区分け(または判別)するための指標として利用できる遺伝情報としては、上記したITSなどのスペーサー領域の他に、特定の株群のみが持っている遺伝子や、「遺伝的多型(または遺伝子多型(genetic polymorphism))」と総称される、(1)塩基配列上に見受けられる特定の位置の塩基の、株群ごとでの違い、すなわち一塩基多型(single nucleotide polymorphism(SNP))や、(2)数塩基(=マイクロサテライト(反復)配列(microsatellite repeat))から数十塩基の塩基配列(=ミニサテライト(反復)配列(minisatellite repeat))を単位とする繰り返し配列(=可変回縦列反復配列(various number of tandem repeat(VNTR))の繰り返し回数の、株群ごとでの違い、(3)塩基配列の挿入や欠落、あるいは(4)遺伝子などのコピー数変化(=コピー数多型(copy number polymorphism(CNP))などがある(田村隆明・村松正實(著):基礎分子生物学(第3版)、p217−218、東京化学同人 (2007)、川喜田正夫(著):遺伝子(普及版)、p172−174、朝倉書店 (2008)、菅野純夫(監修)/水島−菅野純子・服部成介(著):よくわかるゲノム医学 ―ヒトゲノムの基本からテーラーメード医療まで、p28−44、羊土社 (2011))。 そして、このような遺伝情報を指標とする株群の区分け(または判別)方法として、古くは、株ごとの染色体DNA(chromosomal DNA)自体の、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(pulsed field gel electrophoresis(PFGE))での泳動パターン(D.C.Schwartz and C.R.Cantor:Cell,37(1),67−75 (1984))の違い、すなわち[1]染色体長多型(chromosome length polymorphism、または電気泳動的核型(electrophoretic karyotype))(P.De Jonge,F.C.M.De Jonge,R.Meijers,H.Y.Steensma and W.A.Scheffers:Yeast,2(3),193−204 (1986)、J.R.Johnston and R.K.Mortimer:Int.J.Syst.Bacteriol.,36(4),569−572 (1986)、G.P.Casey,W.Xiao and G.H.Rank:J.Inst.Brew.,94(4),239−243 (1988)、Y.Takata,J.Watari,N.Nishikawa and K.Kamada:J.Am.Soc.Brew.Chem.,47,109−113 (1989))を指標とする手法が検討された事もあり(見方洪三郎:Microbiol.Cult.Coll.,12(2),99−103 (1996))、たとえば後藤らによる、染色体長多型(または電気泳動的核型)を指標とする、きょうかい10号(K10)及びその派生株の判別(または区分け)(後藤邦康、蓮尾徹夫、小幡孝之、原昌道:醸協、85(3)、185−189 (1990))や、また山本らによるワイン酵母の株レベルでの判別(または区分け)に関する報告などがあるが(山本奈美、山本信城、雨宮秀仁、横森洋一、清水健一、戸塚昭:醸協、85(8)、573−575 (1990)、N.Yamamoto,N.Yamamoto,H.Amemiya,Y.Yokomori,K.Shimizu and A.Totsuka:Am.J.Enol.Vitic,42(4),358−363 (1991))、このような染色体長多型(または電気泳動的核型)での酵母株の区分け(または判別)には限界があった。 また、上記の、染色体DNA−DNA再会合(または分子交雑、ハイブリッド形成、ハイブリダイゼーション)試験も、酵母株の区分け(または判別)の際によく用いられる方法の1つであり、DNA相同値が70〜80%以上の場合には同種だと見做されるものの(L.G.Wayne,D.J.Brenner,R.R.Colwell,P.A.D.Grimont,O.Kandler,M.I.Krichevsky,L.H.Moore,W.E.C.Moore,R.G.E.Murray,E.Stackebrandt,M.P.Starr and H.G.Truper:Int.J.Syst.Bacteriol.,37(4),463−464 (1987))、70%未満の場合でも別種だとの判断はできず、他の指標での区分け(または判別)結果も参考にする必要があるとされる(杉山純多(編):[バイオディバーシティ・シリーズ4]菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統、p111−120(西田洋巳・杉山純多(著))、裳華房 (2005))。 ただ、その後、たとえば供試株のDNA上の特定領域だけを解析するためのサザンブロットハイブリダイゼーション(Southern blot hybridization)法や[2]ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction(PCR))法・LAMP(Loop−mediated Isothermal Amplification)法など(牛久保宏:ウイルス、54(1)、107−112 (2004))、さまざまな遺伝子工学的手法が開発されるに伴って、こうした手法を利用した、酵母株が持つゲノム上の特定の塩基配列部分だけを指標とした判別(または区分け)方法も次々と開発された。たとえば、上記の一塩基多型(SNP)を検出する手法としては、たとえばアニーリング時の特異性(=塩基配列選択性)が低い10〜15塩基程度の短いランダムプライマーをわざと用いるPCR法で生じた増幅産物の泳動パターン(=増幅産物の数と鎖長)を指標に、多型を検出する[3]ランダム増幅多型DNA(Random Amplified Polymorphism DNA(RAPD))解析法(J.G.K.Williams,A.R.Kubelik,K.J.Livak,J.A.Rafalski and S.V.Tingey:Nucleic Acids Res.,18(22),6531−6535 (1990))、制限酵素(restriction endonuclease)処理で生じた供試株のDNA断片群の中から、適当なプローブを用いるサザンブロットハイブリダイゼーション法で検出した断片群のパターン(=断片の数と鎖長)を指標とする[4]DNAフィンガープリント(DNA fingerprinting)法、制限(酵素切)断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism(RFLP))解析法や、特定の塩基配列部分のみをPCR法で増幅して得られる増幅産物を制限酵素処理した際に生じる断片の泳動パターンを指標に、多型を検出する[5]PCR−RFLP解析法(またはCAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequences)解析法)(加藤隆一・鎌滝哲也(編):薬物代謝学(第2版) ―医療薬学・毒性学の基礎として―、p150−151(有吉範高(著))、東京化学同人 (2000)、日本生態学会(森長真一・工藤洋)(編):[シリーズ 現代の生態学7]エコゲノミクス ―遺伝子からみた適応―、p11−35(井鷺裕司(著))、共立出版 (2012))、あらかじめ制限酵素処理した断片化DNAを鋳型に、アダプターと、そのアダプター配列も参考にして設計したプライマーとを使って、特定の塩基配列部分のみを選択的にPCR法で増幅した際に生じる増幅産物の泳動パターンを指標に、多型を検出する[6]増幅(DNA)断片長多型(Amplified DNA Fragment Length Polymorphism(AFLP))解析法(P.Vos,R.Hogers,M.Bleeker,M.Reijans,T.van de Lee,M.Hornes,A.Friters,J.Pot,J.Paleman,M.Kuiper and M.Zabeau:Nucleic Acids Res.,23(21),4407−4414 (1995))、そうした増幅産物などをホルムアミド溶液中で加熱してから急冷した際に生じる一本鎖DNAの高次構造の違いを指標に、多型を検出する[7]一本鎖(DNA)高次構造多型((PCR−)Single−Strand Conformation Polymorphism(SSCP))法(K.Suzuki,M.Iwata,H.Tsuji:Hum.Genet.,99,454−461 (1997)、K.Ogasawara,R.Yabe,M.Uchikawa:Immunogenetics,53(3),190−199 (2001)、中村貴子:筑波大学技術報告、28、39−44 (2008)、吹屋貞子、數田行雄:山口県環境保健センター所報、53、49−51 (2010))、一塩基多型を3’−末端側に配置したプライマーを用いるPCR法での増幅産物の有無を指標に、多型を検出する[8]対立遺伝子特異的増幅(Allele Specific Amplification(ASA)、または対立遺伝子特異的PCR(Allele Specific(AS) PCR)、あるいはMutation Allele Specific Amplification(MASA))法(加藤隆一・鎌滝哲也(編):薬物代謝学(第2版) ―医療薬学・毒性学の基礎として―、p152(有吉範高(著))、東京化学同人 (2000))や[9]一塩基多型を3’−末端側に配置した標識化オリゴヌクレオチドを使って多型を検出する対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide(ASO)法、[10]マルチプレックス一塩基伸長反応法(橋谷田真樹、那谷雅之、舟山眞人:DNA多型、9、249−253 (2001))などが、また株ごとに見受けられる繰り返し配列(=可変回縦列反復配列(VNTR))の繰り返し回数の違いを検出する手法としては、[11]単純反復配列多型(Simple Sequence Repeat Polymorphism(SSRP))解析法などが考案・開発された。最近では、[12]直接的な塩基配列解読(ダイレクトシークエンシング(direct sequencing)やプライマー伸長(primer extension)法)も容易に行なえるようになり、また[13]マイクロアレイ(microarray)やDNAチップが多型検出用に利用できる環境も整い、これらの手法を用いた酵母株の区分けも比較的簡単に行えるようになった(加藤隆一・鎌滝哲也(編):薬物代謝学(第2版) ―医療薬学・毒性学の基礎として―、p148−155(有吉範高(著))、東京化学同人 (2000)、藤井建夫(編):[食品微生物II―制御編]食品の保全と微生物、p242−251(木村凡(著))、幸書房 (2001)、村松正実(監修)/林崎良英・岡崎康司・近藤伸二(編):[現代化学 増刊40]解読されたゲノム情報をどう活かすか、p77−95(相沢克則・伊藤昌可・柴田一浩・外丸靖浩(著))、東京化学同人 (2001)、川喜田正夫(著):遺伝子(普及版)、p172−174、朝倉書店 (2008)、西方敬人・川上純司・藤井敏司・長濱宏治(著):[細胞工学別冊]ゼロからはじめるバイオ実験マスターコース (1)実験の基本と原理、学研メディカル秀潤社 (2012)、野島博(著):遺伝子工学 ―基礎から応用まで―、東京化学同人 (2013))。 上記のPCR法を用いた事例(ケース)としては、たとえばRyuらのリボソーマル蛋白質L2(ribosomal protein L2(RPL2))をコードしている遺伝子座での染色体転座を指標としたS.cerevisiaeやS.bayanusなどの簡易判別法に関する報告(S.−L.Ryu,K.Mikata,Y.Murooka,Y.Kaneko:J.Ferment.Bioeng.,86(3),249−252 (1998)、金子嘉信:Microbiol.Cult.Coll.,15(1),1−7 (1999))、ランダム増幅多型DNA(RAPD)解析法については、たとえばAndrighettoらによる、乳製品から分離されたS.cerevisiaeを含む、さまざまな酵母群の種判別に関する報告(C.Andrighetto,E.Psomas,N.Tzanetakis,G.Suzzi and A.Lombardi:Lett.Appl.Microbiol.,30(1),5−9 (2000))やLaidlawらのrRNA遺伝子(rDNA)の一部を指標とするビール酵母などのSaccharomyces属酵母の種同定に関する報告(L.Laidlaw,T.A.Tompkins,L.Savard and T.M.Dowhanick:J.Am.Soc.Brew.Chem.,54(2),97−102 (1996))、またDNAフィンガープリント法や制限(酵素切)断片長多型(RFLP)解析法、PCR−RFLP解析法については、たとえばMasneufらの、MET2領域の制限(酵素切)断片長多型(RFLP)による(I.Masneuf,M.Aigle and D.Dubourdieu:FEMS Microbiol.Lett.,138(2−3),239−244 (1996))、あるいはAntunovicsらによる、電気泳動的核型解析との併用によるSaccharomyces属酵母の種同定(Z.Antunovics,L.Irinyi and M.Sipiczki:J.Appl.Microbiol.,98(4),971−979 (2005))、LavalliEEらやMolzahnら、あるいはVezinhetらによる、上記の染色体長多型(または電気泳動的核型)との併用による醸造酵母の株レベルでの判別(または区分け)法(F.Vezinhet,B.Blondin and J.−N.Hallet:Appl.Microbiol.Biotechnol.,32(5),568−571 (1990)、F.LavalliEE,Y.Salvas,S.Lamy,D.Y.Thomas,R.Degre and L.Dulau:Am.J.Enol.Vitic.,45(1),86−91 (1995)、S.W.Molzahn and D.E.Quain:J.Inst.Brew.,101(2),75−78 (1995))、VersavaudらやConstantiらによる、(現行の分類でS.cerevisiaeに分類されている)さまざまなワイン酵母が持つミトコンドリアDNAなどの解析による、生物地理学的な分布調査(A.Versavaud,P.Courcoux,C.Roulland,L.Dulau and J.N.Hallet:Appl.Environ.Microbiol.,61(10),3521−3529 (1995))や醸造期間中の酵母(菌)叢(フローラ)解析の報告などがある(M.Constanti,M.Poblet,L.Arola,A.Mas and J.M.Guillamon:Am.J.Enol.Vitic.,48(3),339−344 (1997))。上記した山岸及び尾形の、rRNA遺伝子(rDNA)のスペーサー領域の塩基配列を指標とする下面発酵ビール酵母の分類法(山岸裕美、尾形智夫:新規オリゴヌクレオチドとそれを用いた酵母分類法、特許3795259)や、さらに細胞の凝集性に関わるFLO1遺伝子などをも指標として用いる酵母の同定方法(山岸裕美、大蔦由紀、尾形智夫:酵母を同定する方法、特開平11−56366)でも、PCR法で調製したスペーサー領域などの増幅産物の塩基配列上の特徴を簡便かつ迅速に検査するための手段として、PCR−(MspI/ScrFI−)RFLP法が利用されている。 増幅DNA断片長多型(AFLP)解析法は、このようなランダム増幅多型DNA(RAPD)解析法や制限(酵素切)断片長多型(RFLP)解析法よりも増幅産物パターンの再現性や多型の検出感度が高いとされ(J.−J.Lin,J.Kuo,J.Ma,J.A.Saunders,H.S.Beard,M.H.MacDonald,W.Kenworthy,G.N.Ude and B.F.Matthews:Plant Mol.Biol.Rep.,14(2),156−169 (1996)、J.R.Russell,J.D.Fuller,M.Macaulay,B.G.Hatz,A.Jahoor,W.Powell,R.Waugh:Theor.Appl.Genet.,95(4),714−722 (1997)、C.J.Jones,K.J.Edwards,S.Castaglione,M.O.Winfield,F.Sala,C.van de Wiel,G.Bredemeijer,B.Vosman,M.Matthes,A.Daly,R.Brettschneider,P.Bettini,M.Buiatti,E.Maestri,A.Malcevschi,N.Marmiroli,R.Aert,G.Volckaert,J.Rueda,R.Linacero,A.Vazquez and A.Karp:Mol.Breeding,31(5),381−390 (1997))、たとえばDe Barros Lopesらによる、S.cerevisiaeを含む、さまざまな酵母群の種判別に関する報告がある(M.De Barros Lopes,S.Rainieri,P.A.Henschke and P.Langridge:Int.J.Sys.Bacteriol.,49(2),915−924 (1999))。 Azumi及び後藤(Goto−Yamamoto)は、増幅DNA断片長多型(AFLP)解析法を行ない、その断片の共有率から非加重平均法で樹形図を作成したみたところ、S.cerevisiae、S.bayanus、S.carlsbergensis(=S.pastorianus)がそれぞれ独立したクラスターを形成し、かつその条件下で、S.cerevisiaeの株が[1]清酒酵母・焼酎酵母群(とウィスキー酵母1株を含む)、[2]パン酵母・ワイン酵母・上面発酵ビール酵母群(とウィスキー酵母2株を含む)、[3]実験室酵母群の3つのクラスターに分かれる事を見出し、ゆえにこれらの株群が別個に進化した系統であると推論しており(M.Azumi&N.Goto−Yamamoto:Yeast 18(12)、1145−1154 (2001)、清酒酵母・麹研究会(編):清酒酵母の研究 ―90年代の研究―、p63−67(後藤奈美(著))、清酒酵母・麹研究会 (2003)、後藤奈美:醸協、103(6)、418−425 (2008))、Litiらのグループも、S.cerevisiaeの株が持つ塩基置換(SNP)を指標にして系統樹を作成してみたところ、やはり清酒酵母群やワイン酵母群、実験室酵母群が別々のクラスターを形成した事を報告している(G.Liti,D.M.Canter,A.M.Moses,J.Warringer,L.Parts,S.A.James,R.P.Davey,I.N.Roverts,A.Burt,V.Koufopanou,I.J.Tsai,C.M.Bergman,D.Bensasson,M.J.T.O’Kelly,A.van Oudenaarden,D.B.H.Barton,E.Bailes,A.N.N.Ba,M.Jones,M.A.Quail,I.GoodHead,S.Sims,F.Smith,A.Blomberg,R.Durbin&E.J.Louis:Nature 458(7236)、337−341 (2009))。 特に清酒酵母群の場合には、上記した通り、清酒酵母群特異的な細胞壁蛋白質をコードしているAWA1を持っているため、たとえばこのAWA1を標的とするPCR法(下飯仁、宮下晃一、清水正史:清酒酵母の菌株同定法、特許3834649)や増幅DNA断片長多型(AFLP)解析法を使えば、(一部の例外株を除く)清酒酵母群を判別する事ができる(M.Shimizu,K.Miyashita,H.Kitagaki,K.Ito and H.Shinoi:J.Biosci.Bioeng.,100(6),678−680 (2005))。 増幅DNA断片長多型(AFLP)解析法は、栽培植物の種ないしは品種の判別(または区分け)や類縁関係の推定などにもよく用いられる方法であり(M.Hill,H.Witsenboer,M.Zabeau,P.Vos,R.Kesseli and R.Michelmore:Theor.Appl.Genet.,93(8),1202−1210 (1996))、R.P.Ellis,J.W.McNicol,E.Baird,A.Booth,P.Lawrence,B.Thomas and W.Powell:Mol.Breeding,3(5),359−369 (1997)、L.Hartl and S.Seefelder:Theor.Appl.Genet.,96(1),112−116 (1998))、たとえば上記の後藤(山本)は、従来のランダム増幅多型DNA(RAPD)解析法や制限(酵素切)断片長多型(RFLP)解析法、単純反復配列多型(SSRP)解析法などでは判別(または区分け)が困難であった、ワイン用の葡萄であるピノ・ノワール(Pinot noir)種とピノ・ブラン(Pinot blanc)種の判別(または区分け)も、この増幅DNA断片長多型(AFLP)解析法を使えば、容易に行なえると報告している(後藤(山本)奈美:日本ブドウ・ワイン学会誌(J.ASEV Jpn.)、9(2)、83−88 (1998))。また、久保は、清酒酵母のアミノ酸生合成系の調節遺伝子(GCN4)上の一塩基多型(SNP)を指標にして、清酒酵母群(きょうかい7号(K7)、きょうかい9号(K9)、きょうかい10号(K10)、きょうかい14号(K14)などを含む)とその他の酵母群(ワイン酵母、焼酎酵母、ビール酵母、パン酵母、実験室酵母などを含む)とを区分けするPCR方法を考案している(久保義人:福井県農業試験場研究報告、47、38−43 (2010))。 単純反復配列多型(SSRP)解析法についても、たとえばGallegoらのグループが、マイクロサテライト反復配列がS.cerevisiae株の区分けの指標として利用できる事を報告しており(F.J.Gallego,M.A.Perez,I.Martinez and P.Hidalgo:Am.J.Enol.Vitic.,49(3),350−351 (1998))、これを醸造用酵母の判別(または区分け)に利用した事例(ケース)としては、たとえば福田らによる、ワイン酵母群や焼酎酵母群、清酒酵母群を判別(または区分け)するための、酵母の細胞壁蛋白質をコードしている遺伝子(AGA1、DAN4、HSP150、SED1)などに含まれているミニサテライト反復配列を指標とするPCR法(福田央、周延、三上重明:醸協、101(5)、357−364 (2006)、福田央、周延、三上重明:醸協、101(8)、601−613 (2006))や、FLO5や、第8染色体のテロメア近傍の右腕上の塩基配列(YHR213W)などを参考にして設計したプライマーを用いるPCR法の報告などがある(福田央、周延、三上重明:醸協、102(2)、139−145 (2007)、福田央、三上重明:YHR213W又はYAR062W遺伝子を利用した醸造用酵母の判別法、特許5158669)。 こうした繰り返し配列(の、特にミニサテライト反復配列)の繰り返し回数の多型は、法医学分野での(ヒトの)親子鑑定や個人識別の際の指標としても使われている(木南凌、内藤笑美子:蛋白質核酸酵素、37(4)、764−771 (1992))。 このようなS.cerevisiaeでのさまざまな知見は、他の酵母株の分類にも応用されているが、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、味噌・醤油醸造に寄与する能力を持つZ.rouxii株」、いわゆる味噌・醤油主発酵酵母株と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低く、それゆえに「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」とを区分け(または判別)するために、これらの分子生物学的な方法が利用されたとの報告もほとんどない。 上記した通り、Z.rouxiiの遺伝学的な研究を通して、最近では、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株群の中には、複数の酵母株群が混在している可能性が指摘されている。現時点では、26SrRNA遺伝子上のD1/D2領域やITSなどのスペーサー領域、さらにはさまざまな遺伝子(CDS)の塩基配列の比較研究などを通じて、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群の中には、少なくとも2〜3種類以上の酵母株群が混在しているものと見られているが、こうした指標を用いた判別法(や簡易同定法)で、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、味噌・醤油醸造に寄与する能力を持つZ.rouxii株」と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」とを区分け(または判別)する事はできない。 上記した通り、たとえばSuezawaらは、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株群の中には、26SrRNA遺伝子の塩基配列の違いを指標にすれば、彼らがType1と仮称した塩基配列(を含む26SrRNA遺伝子)を持つ株群と、彼らがType2と仮称した塩基配列(を含む26SrRNA遺伝子)を持つ株群との2群が混在している事を報告しているが(Y.Suezawa,M.Suzuki and H.Mori:Biosci.Biotechnol.Biochem.,72(9),2452−2455 (2008))、同報告中のこの2群、すなわちType1の塩基配列(を含む26SrRNA遺伝子)を持つ株群とType2の塩基配列(を含む26SrRNA遺伝子)を持つ株群とに区分けした結果、すなわち同報告のp2453の『Table 1. Genotyping of Z.rouxii and Z.mellis Strains by Analyses of 26S rDNA and ITS Sequence』を詳しく見てみると、2群のうちの一方、すなわち黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)(Concentrated black−grape must(Italy))から分離されたZ.rouxii IFO1130株(=ATCC2623株=CBS732株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)やクリーミーケーキ(Creamy cake(Japan))から分離されたZ.rouxii IFO1914株(=NBRC1914株)、蜂蜜(Honey(Canada))から分離されたZ.rouxii IFO0686株などが含まれるType1群には醤油諸味(Soy sauce mash(Japan))から分離されたKF−4株やZR1株も含まれているし、もう一方の株群、すなわち醤油諸味(Soy sauce mash(Japan))から分離されたZR14株やTSY−5株などが含まれるType2群の方にも、花(Flower(Japan))から分離されたZ.rouxii IFO1812株(=NBRC1812株)が含まれている。つまり、Type1群にも、Type2群にも味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株と「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株とが混在しており、ゆえにこの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列の違いを指標とする区分け法だけでは、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株と「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株とを判別(または区分け)できない事が分かる。 ちなみに、Suezawaらは、同報告において、さらにITSも指標として利用した場合には、さらに9群(=Type1−I、Type1−II、Type1−III、Type1−V、Type1−VII、Type2−I、Type2−IV、Type2−VI、Type2−VII)に細分化できると記しているが、この区分け法を用いても、一部の株群(Type)の中には味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株と「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株とが混在しており(注:たとえば、SuezawaらがType1−Iと名付けた株群の中には、醤油諸味(Soy sauce mash(Japan))から分離されたZR1株とクリーミーケーキ(Creamy cake(Japan))から分離されたIFO1914株(=NBRC1914株)とが、またType2―VIと名付けた株群の中にも、たとえば味噌諸味(Miso paste(Japan))から分離されたIFO0525株(=NISL3452株)や醤油諸味(Shoyu−moromi(Japan))から分離されたIFO0521株(=NISL3450株)と、花(Flower(Japan))から分離されたIFO1812株(=NBRC1812株)が混在しており)、やはり味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株と、「味噌・醤油及びその仕掛品である(味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株とを判別(または区分け)できない事が見てとれる。 Sujayaらのグループは、味噌から分離されたZ.rouxii M2株のITSの鎖長とその制限酵素(HaeIII及びHhaI)処理で生じる分解断片長の泳動パターン(が他の味噌酵母などとは異なっている事)を指標としたM2株の判別法を開発し、本法を用いて味噌(miso)中でのM2株の挙動を調べているが(I.Sujaya,Y.Tamura,T.Tanaka,T.Yamaki,T.Ikeda,N.Kikushima,H.Yata,A.Yokota,K.Asano and F.Tomita:J.Biosci.Bioeng.,96(5),438−447 (2003))、この事は即ちSuezawaらも上記の報告(Y.Suezawa,M.Suzuki and H.Mori:Biosci.Biotechnol.Biochem.,72(9),2452−2455 (2008))中で示している通り、味噌から分離されたZ.rouxii株であっても、そのITSの塩基配列は株ごとに異なっていて、(まだ見出されていないパターンも含めて)いくつものパターンがあるものと見られる。 同報告中のp441に載せられた『FIG.1.ITS amplicons(A),and HhaI(B) and HaeIII(C) restriction patterns.』を見てみると、味噌から分離されたZ.rouxii株の断片長のパターンは1種類ではなく、たとえば味噌から分離されたZ.rouxii株であっても、株特有のパターンを示したM2株のパターン(=同FIG.1.の電気泳動写真のレーン19.)、IFO1876株(=CBS4837株=NBRC1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株=NISL3369株(味噌))のパターン(=同FIG.1.の電気泳動写真のレーン1.)、IFO0525株(=NISL3452株(味噌))のパターン(=同FIG.1.の電気泳動写真のレーン3.)など、「いくつか」のパターンがある事が分かる。上記のSuezawaらも、計42株のZ.rouxii株を調べ、6種類のITSを見出しているが、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群の持つITSパターンが果たして全部で何種類あるのか、現時点ではまったく分かっておらず、その点が明確にならない限り、このITSが、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、味噌・醤油醸造に寄与する能力を持つZ.rouxii株」と「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」との区分け(または判別)に利用できるのか否かさえ分からない。 上記した通り、Gordonらは、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群の中には、[1]黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)のような(生粋の)Z.rouxii群、[2]ソフトドリンク工場(イギリス)から分離されたNCYC3042株のようなZ.pseudorouxii群、そして[3]ATCC42981株(=IAM12879株=NISL3763株(味噌))のような(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多いとされる)、上記[1](生粋の)Z.rouxiiと[2]Z.pseudorouxiiとの交雑によって誕生したものと見られるZygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群の、計3群が混在していると見ており(J.L.Gordon and K.H.Wolfe:Yeast,25(6),449−456 (2008))、Harrisonらは、現行の分類でZ.rouxiiに分類される酵母株群を、さらにこのGordonらが提唱している計3群に区分けするための、株群特異的なプライマーを用いるPCR法を考案している(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))。 このHarrisonらのPCR法は、[1](生粋の)Z.rouxii群に区分けすべきとされる、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))がその染色体F(1554288bp)(CU928178.1、GI:238940103)上に持つイミダゾールグリセロール燐酸デヒドラダーゼ遺伝子(HIS3)上の塩基配列を参考にして設計されたプライマー Forward(=配列番号18(22塩基、MW=6921、Tm=59.9)):5’−AGGTAAGAAGAGAGTTGAAAGT−3’ Reverse(=配列番号19(22塩基、MW=6708、Tm=59.7)):5’−TGCTTCAGTAAAACTTTCTAGA−3’(注:以下、上記のプライマーForward(=配列番号18)をプライマーZR−1、プライマーReverse(=配列番号19)をプライマーZR−2と記す)を用いるPCR法と、[2]Z.pseudorouxiiに区分けすべきとされるNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))が持つ26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列(560bp)(AJ555406.1、GI:46094756)と同一の(=100%相同な)(D1/D2領域を含む)部分配列(623bp)(AJ966342.3、GI:384080460)を持つ、Z.sapaeの基準株であるABT301株(バルサミコ酢(イタリア))(L.Solieri,T.C.Dakal and P.Giudici:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,63(Pt 1),364−371 (2013))の、NCYC3042株が持つイミダゾールグリセロール燐酸デヒドラダーゼ遺伝子(HIS3)の部分配列(362bp)(AJ634594.1、GI:61999921(S.A.James,C.J.Bond,M.Stratford and I.N.Roberts:FEMS Yeast Res.,5(8),747−755 (2005)))と、その塩基配列が同一(=100%相同)な遺伝子(HIS3)の部分配列(495bp)(AM279707.1、GI:109627402、L.Solieri,S.Cassanelli and P.Giudici:Yeast,24(5),403−417 (2007))を参考にして設計されたプライマー Forward(=配列番号20(20塩基、MW=6921、Tm=59.9)):5’−GTAACGGTGTAGCCACACAG−3’ Reverse(=配列番号21(20塩基、MW=6708、Tm=59.7)):5’−AGGTTGCCTCTCTGAGAGCC−3’(注:以下、上記のプライマーForward(=配列番号20)をプライマーZP−1、プライマーReverse(=配列番号21)をプライマーZP−2と記す)を用いるPCR法との両方を実施し、前者のPCR法では([1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の)増幅産物が生じるものの、後者のPCR法では([2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の)増幅産物が生じない供試株を[1](生粋の)Z.rouxii群に区分けすべき株だと、また後者のPCR法では([2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の)増幅産物が生じるものの、前者のPCR法では([1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の)増幅産物が生じない供試株を[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべき株だと判別し、さらに前者と後者の両方のPCR法で増幅産物が生じる供試株については[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株だと判別(または区分け)する方法である。 上記した通り、最近では、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株は、この[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株に相当するものだとの推論も出されており、もしこの推論が正しいとすれば、このHarrisonらの方法は、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が高いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、味噌・醤油醸造に寄与する能力を持つ(現行の分類上の)Z.rouxii株(または味噌・醤油主発酵酵母株)」、つまり[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しい(現行の分類上の)Z.rouxii株」、つまり[1](生粋の)Z.rouxii株や[2]Z.pseudorouxii株に区分けすべき株とに区分けできる、味噌・醤油醸造産業上有用な方法だという事になり、大変興味深い。 そこで、上記の試験3.で生味噌・生醤油から分離した32株を、このHarrisonらのPCR法を用いて区分けしてみた。 試験4.市販の生味噌・生醤油から分離した耐塩性酵母32株(上記)の、HarrisonらのPCR法による判別試験: 供試株は、上記の試験3.で、生味噌・生醤油から分離した計32株である。 供試株の培養、核酸成分の調製(法である(a)ビーズ破砕/フェノール処理法)は、上記の試験3.の手順の通りである。 [1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるためのPCR法では、上記の、プライマーZR−1(=配列番号18)とプライマーZR−2(=配列番号19)、また[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるためのPCR法では、上記の、プライマーZP−1(=配列番号20)とプライマーZP−2(=配列番号21)を用いた。用いたプライマーの塩基配列は、上記の通りである。PCR法で用いたこれらのプライマーの化学合成は、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。LA Taq−PCR法の手順: PCR反応には、タカラバイオ株式会社製キット「TaKaRa LA Taq(登録商標)(製品コード:RR002A)」を用いた(注:以下、これをLA Taq−PCR法と呼ぶ)。PCR反応液の調製は、ほぼ同キット付属の説明書中「○一般的なPCR反応液量(total 50μl)」を参考にした。たとえば、上記の2種類のLA Taq−PCR法のうちの1つである「[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるためのLA Taq−PCR法(プライマーZR−1(=配列番号18)とプライマーZR−2(=配列番号19)を使用)」の場合のPCR反応液25μl分であれば、すなわち同キット付属の緩衝液(10×Buffer)2.5μl、同キット付属の硫酸マグネシウム溶液2.5μl、同キット付属の核酸溶液(dNTP)4μl、キット付属のLA Taq(=5U/μlのDNAポリメラーゼ溶液)0.25μl、鋳型DNAとして用いる、供試株から調製(または抽出)した核酸成分(濃度は500〜1000μg/ml)0.5〜0.75μl、一方のプライマー(=10pmol/μl濃度のプライマーZR−1(=配列番号18)溶液)0.25〜1.0μl、もう一方のプライマー(=10pmol/μl濃度のプライマーZR−2(=配列番号19)溶液)0.25〜1.0μlに、さらに「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水」を加えて、全量を25μlにした。つまり、PCR反応液中のプライマーと、鋳型DNAとして用いる核酸成分の濃度を、同キット付属の説明書に記載されている濃度よりも高めに設定している。PCR反応用マイクロチューブ1本当たりの反応液量は25μlとした。必ずTaKaRa LA Taq(登録商標)を使用しなければならないわけではなく、たとえば上記の試験3.で用いた同社製のキット「TaKaRa Ex Taq(登録商標)(製品コード:RR001A)」や東洋紡株式会社製のキット「KOD −plus−(製品コード:KOD−201)」などを用いてもよい。以下に説明するLA Taq−PCR反応についても、特別な注釈がない場合には、これらのPCR反応液組成/量条件で行なっている。 用いたPCRサイクラーは、上記の試験3.の通りである。PCR法によるDNA合成反応は、[1]鋳型DNAの熱変性、[2]アニーリング、[3]DNAポリメラーゼ反応の、3つの過程から構成される。このLA Taq−PCR法では、[1]鋳型DNAの熱変性温度は94.0℃、[2]アニーリング温度は60.0℃(30秒間)、[3]DNAポリメラーゼ反応の温度は72.0℃(30秒間)とした。[1]〜[3]の反応の繰り返し回数は35回とした。すなわち、実際のPCR反応条件は、図33.〜36.中の、向かって右側の枠内の[増幅条件]に記した通りである。 ゲル電気泳動法の手順も、上記の試験3.の通りである。ゲル及び電気泳動用マーカーも、試験3.に記した1.5%アガロースゲル及び1.5%アガロースゲル電気泳動用マーカーを用いた。PCR反応後溶液の前処理及びゲル電気泳動処理、ゲルの染色法及び観察方法の手順も、試験3.に記した通りである。 図33.は青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.1−1−1株、No.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株、No.1−2−8株、No.1−2−13株、No.1−2−14株、No.1−2−19株、図34.は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.5−1−1株、No.5−1−7株、No.5−1−10株、No.5−1−16株、No.5−2−2株、No.5−2−9株、No.5−2−12株、No.5−2−17株、図35.は岡山県産米味噌C(赤味噌)及び麦味噌Dから分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))、No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))、No.6−1−2−25株(米味噌C(岡山))、No.6−1−2−50株(米味噌C(岡山))、No.6−4−1−10株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−2−7株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−2−14株(麦味噌D(岡山))、図36.は埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母株8株、すなわちNo.7−1−23株、No.7−1−66株、No.7−1−83株、No.7−1−89株、No.7−2−1株、No.7−2−2株、No.7−2−6株、No.No.7−3−42株の8株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする、[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法(の結果を示したのが各図の上段(1)の写真)と、[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZP−1(=配列番号20)及びZP−2(=配列番号21)を用いたLA Taq−PCR法(の結果を示したのが各図の下段(2)の写真)で生じた増幅産物をゲル電気泳動した結果を示すゲル写真となっている。それぞれのゲルごとに、Z.rouxiiの基準株であるNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物を、鎖長比較用として、同時に載せたが、このNISL3461株はGordonらやHarrisonらが[1](生粋の)Z.rouxii群に分類すべきとしている株であるため、[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の上段(1)の写真)では増幅産物が生じるものの、[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZP−1(=配列番号20)及びZP−2(=配列番号21)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の下段(2)の写真)では増幅産物が生じない。この条件下において、各図のゲル写真が示す通り、上記の生味噌・生醤油から分離した計32株のうち、「上記の試験3.の、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法でC.versatilisだと同定されたNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))」を除く31株の場合には、[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の上段(1)の写真)と、[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZP−1(=配列番号20)及びZP−2(=配列番号21)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の下段(2)の写真)との両方で増幅産物が生じ、しかも[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3遺伝子の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の上段(1)の写真)で生じた増幅産物の鎖長は、鎖長比較用の、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))での増幅産物と、目視上は同じであった。 この結果から、これら31株は、(現行の分類ではZ.rouxiiに分類され、さらに)GordonらやHarrisonらが[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとしている株だと判明した。 なお、これら31株のうちの、たとえばNo.1−1−1株(米味噌A(青森))やNo.5−1−10株(米味噌B(富山))などの21株については、上記した通り、通常の(26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする)簡易同定法では同定し切れず、「手入力修正した塩基配列」を問い合わせ(クエリー)配列とした相同性検索により、Zygosaccharomyces sp.(またはZygosaccharomyces hybrid)UniL(ever)261株(FR690862.1、GI:307075874)やZygosaccharomyces sp.(またはZygosaccharomyces hybrid)UniL(ever)266株(FR690861.2、GI:307611895)などの26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(554bp)との類似性が(相違は1%未満と)きわめて高い事も見出したが、このUniL(ever)261株やUniL(ever)266株は、HarrisonらがこのPCR法に関する報告(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))の中で供試株として用い、[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法と、[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZP−1(=配列番号20)及びZP−2(=配列番号21)を用いたLA Taq−PCR法との両方で増幅産物が生じた事から、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株だと判別した株である。つまり、生味噌・生醤油から分離した、これら31株はすべて、(1)26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法の結果と、(2)HarrisonらのPCR法の結果から、[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとしているUniL(ever)261株やUniL(ever)266株と同じ株群に区分けすべき株である事が判明した。 また、「上記の試験3.の、26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法でC.versatilisだと同定されたNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))」の場合にも、図36.の通り、[1](生粋の)Z.rouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZR−1(=配列番号18)及びZR−2(=配列番号19)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の上段(1)の写真)と、[2]Z.pseudorouxiiタイプのHIS3の有無を調べるための、プライマーZP−1(=配列番号20)及びZP−2(=配列番号21)を用いたLA Taq−PCR法(の結果が各図の下段(2)の写真)との両方で増幅産物が生じず、ゆえに「Z.rouxii以外の酵母」だと正しく判別(または区分け)できた。 このように、上記の試験3.で生味噌・生醤油から分離した計32株について、HarrisonらのPCR法を用いる事により、上記の試験3.の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法を用いた場合よりも遥かに迅速かつ容易に、うちC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))を除く31株が、(現行の分類ではZ.rouxiiに分類される)GordonらやHarrisonらが[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきだとしている株だと、またC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))についても、「Z.rouxii以外の酵母だ」と区分け(または判別)できた。 ただし、このHarrisonらのPCR法を使って、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などから分離した酵母株を同定する場合には、供試株1株につき、[1](生粋の)Z.rouxii群に特異的なプライマーを用いてのPCR法と、[2]Z.pseudorouxii群に特異的なプライマーを用いてのPCR法の両方、つまり供試株1株当たり2種類のPCR法を実施し、その両方で、予測通りの鎖長を持つ増幅産物が生じるか、あるいは生じないかを確認する必要がある。 上記した通り、[C]「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、味噌・醤油醸造に寄与する能力を持つZ.rouxii株群」を、さらに(皮膜形成能を持たず、それゆえに)味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株と、(皮膜形成能を有し)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質劣化を引き起こす味噌・醤油産膜性Z.rouxii株とに区分けする事も、味噌・醤油醸造における仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)及び製品などの品質管理上きわめて重要な事であり、これらを判別(または区分け)する方法も産業上有用である。 現時点で、両者を判別(または区分け)するための形態学的及び生理学的性質・細胞成分検査法としては、実際に供試株を醤油に接種して、静置培養し、皮膜が形成されるか否かを調べる方法、いわゆる「醤油産膜性試験」と、その他には寒天培地上の菌集落(コロニー)の形態や色調を指標に目視で判別(または区分け)する方法、また遺伝学的な検査としてはRAPD法などの報告がある。 酵母の産膜性能の有無を調べる方法、すなわち「産膜性試験」の手順は、たとえば飯塚廣及び後藤昭二(著)の「酵母の分類同定法(東京大学出版会 (1969))」中のp30−31に詳しく記されている。すなわち、培地は試験管や三角フラスコに入れた『(i)麦芽汁(malt extract)またはYM(peptone・yeast extract・malt extract medium:0.5%(W/V)ペプトン、0.3%(W/V)酵母エキス、0.3%(W/V)マルツエキス、1.0%(W/V)グルコース)、あるいは培地(ii)(0.1%酵母エキス(yeast extract)、0.2%グルコース、0.05%硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)、0.1%燐酸二水素カリウム(KH2PO4)、0.07%硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)、0.01%塩化ナトリウム(NaCl)、0.01%塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)、pH=3.4)』や、場合によっては『(iii)清酒、醤油、ブドウ汁、ブドウ酒など』を用い、この培地に『(p30−31)(前略)酵母1白耳接種、15〜20℃で4〜7日間、ときには3週間まで培養し皮膜の形成状況を観察する。(中略)Pichia、Hansenula、Sporobolomyces、Trichosporon属などでは前記(i)、(ii)両培地に皮膜を形成するが、Saccharomyces(Zygosaccharomyces系)、Torulopsis、Candida属などの一部の種類では、培地(ii)のみに産膜し、仮性産膜性酵母とも呼ばれる。』とある。 上記した通り、濃口醤油は16%前後ないしはそれ以上の食塩(NaCl)を含んでいるため、醤油中で皮膜を形成できるのは、こうした高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応性が高い、すなわち高い耐塩性能を有する産膜性酵母株(=醤油産膜性酵母株)のみであり、現行の分類でZ.rouxiiという1属1種に分類されている株群に含まれる株ぐらいしかいない。しかしながら、培地(i)や(ii)は、高濃度の塩化ナトリウム(NaCl)を含んでいないために、この培地(i)ないしは(ii)を使う方法は、あくまで供試株(=酵母)が液体培地中で皮膜を形成する能力を持っているか否かを調べるための方法に過ぎず、この方法で産膜酵母であると判別された供試株群の中には、たとえば(図7.のP.farinosa NBRC0991株のような)Pichia属酵母などのような、醤油中では皮膜を形成する事ができない株、すなわち産膜性/醤油「非」産膜性株も含まれている。そのため、供試株が醤油中で皮膜を形成するか否かを調べるためには、培地として、(iii)のうちの「醤油」を用いる必要がある。 この「供試株が醤油中で皮膜を形成するか否かの試験」、すなわち「醤油産膜性試験」の実施手順は、たとえば伊藤武・森地敏樹(編)の「食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―(サイエンスフォーラム (2004))」中の「第7章 高塩分食品・アルコール飲料で問題となる微生物」の「第1節 醤油(p187―193(半谷吉識(著)))」の項にも記されている。すなわち、『(p188)(前略)方法としては、あらかじめ殺菌した試験管に0.45μmのメンブランフィルターで除菌した被検醤油を5ml入れ、それに分離した酵母を終濃度104個/ml程度になるように接種し、25℃で静置培養する。培養期間は目的に応じて変更すればよいが、一般に2〜3週間程度を目安とする。醤油に産膜酵母が生育した場合は、目視ですぐ分かる。はじめはスポット状に白い菌の塊が表面に見られるようになり、それが次第に大きくなり、最終的には醤油の表面全体を覆うまでになる。(後略)』。つまり、同方法で醤油産膜性酵母であるか否かを判別するには、2〜3週間もの日数を要するという事である。もちろん、供試株の接種菌数を増やせば、醤油に接種してから皮膜が形成され始めるまでの日数をある程度は短縮し、つまり判別(または区分け)結果を得るまでに要する日数を短くする事はできる。試験5.供試株の醤油産膜性試験: 上記の試験1.や試験2.で用いた供試株20株について、醤油中での産膜性能、すなわち醤油産膜性能の有無を調べる「醤油産膜性試験」を行なってみた。 本試験、すなわち供試株の産膜性試験で用いた液体培地は、YM液体培地、YPD液体培地、生醤油液体培地、濃口醤油及び濃口生揚げ醤油、また同試験で用いた寒天培地は、10%塩化ナトリウム加YD寒天及び生醤油寒天である。YM液体培地の培地組成: 1%(W/V)グルコース、2.1%(W/V)YMブロス(YEAST MOLD BROTH(BD製、製品コード:271120))、pH=5.0(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。YM液体培地の調製法: 1gグルコース、2.1gのYMブロスを蒸留水に溶かし、1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.0に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。この液体培地5mlずつを試験管に分注し、産膜性試験用の試験管の口はシリコ栓で、また産膜性試験用に用いる種培養液調製用の試験管の口は綿栓で塞いだ状態で、高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌する。 YPD液体培地の培地組成及び調製法は上記の試験3.中の手順の通りである。ただし、上記の図10.で用いた0.2〜16.0%塩化ナトリウム(NaCl)加YPD液体培地は、このYPD液体培地に、0.2〜16%(W/V)分の塩化ナトリウム(NaCl)を加えた後にpH調整したものである。なお、この液体培地5mlを入れた試験管のうち、産膜性試験用の試験管の口はシリコ栓で、また産膜性試験用に用いる種培養液調製用の試験管の口は綿栓で塞いだ。 生醤油液体培地の培地組成及び調製法は上記の試験1.中の手順の通りである。なお、この液体培地を入れた試験管のうち、産膜性試験用の試験管の口はシリコン栓で、また産膜性試験用に用いる種培養液調製用の試験管の口は綿栓で塞いだ。 醤油産膜性試験に用いる濃口醤油は、上記の試験2.中にも記した通り、市販(醤油)製品のうち、製品ラベルの「原材料名」欄に原材料として記されているのが「大豆(遺伝子組換えでない)」、「脱脂加工大豆(遺伝子組換えでない)」、「小麦」、「食塩」、「アルコール」のみであり、それ以外の原材料、たとえば保存料(安息香酸ナトリウムやパラオキシ安息香酸エステル類)などの食品添加物に関する記述がないもの、すなわち群馬県や千葉県、香川県などにある醤油メーカー7社(A〜G)の市販の濃口醤油各3本ずつ、計21試料を用いた。濃口醤油21試料の成分値は、表2〜4.の通りである。 また、濃口生揚げ醤油については、上記の7社のうちの1社から入手した濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)を用いた。 濃口醤油の調製法、濃口生揚げ醤油の培地組成及び調製法は上記の試験2.中の手順の通りである。この液体培地5mlを入れた試験管(は、醤油産膜性試験用としてのみ使用したため、試験管)の口はすべてシリコン栓で塞いだ。 10%塩化ナトリウム加YD寒天の培地組成及び調製法は上記の試験1.中の手順の通りである。生醤油寒天の培地組成: 7%(W/V)グルコース、7.51%(W/V)塩化ナトリウム(NaCl)、15%(V/V)濃口生揚げ醤油(=脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩を原料とする、発酵・熟成後の濃口醤油諸味の圧搾後液汁を清澄化処理したもの。火入れ処理前(=非加熱)、成分無調整)、2.4%(W/V)寒天(和光純薬工業(株)製、製品コード:No.010−15815)、pH=5.2〜5.3(1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)でpH調整)。(注:上記の試験3.で用いた「味噌・醤油酵母株分離用生醤油寒天」の培地組成とは、若干異なっている)生醤油寒天の調製法: 7gグルコース、7.51g塩化ナトリウム(NaCl)、15ml濃口生揚げ醤油、2.4g寒天を蒸留水に溶かし、これに1N塩酸(ないしは1N水酸化ナトリウム)を加えてpH=5.2〜5.3に調整した後、更に蒸留水を加えて全量を100mlにする。これを高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した後、熱いうちに、クリーンベンチ内などの無菌条件下で、殺菌済みシャーレに(シャーレ1枚につき約10mlずつ)流し込み、冷やして固める。産膜性試験用に用いる種培養液の調製: 上記のYM液体培地での産膜性試験に用いる種培養液は、綿栓で口を塞いだ試験管に入れたYM液体培地、上記のYPD液体培地での産膜性試験に用いる種培養液は、綿栓で口を塞いだ試験管に入れたYPD液体培地、上記の生醤油液体培地、濃口醤油、濃口生揚げ醤油での産膜性試験に用いる種培養液は、綿栓で口を塞いだ試験管に入れた生醤油液体培地で、それぞれ30℃、18時間振とう(140rpm.)培養したものを用いた。醤油産膜性能の有無の判定: 試験用の液体培地5ml(入りの試験管)に、供試株の種培養液(を液体培地の2%(V/V)に相当する)0.1ml、または(液体培地の20%(V/V)に相当する)1.0mlを接種し、その口をシリコン栓で塞いだうえで、30℃に設定した培養器(または恒温器)内で静置培養した。試験に用いた液体培地は、YM液体培地やYPD液体培地、生醤油液体培地、濃口醤油や濃口生揚げ醤油であり、供試株をYM液体培地、YPD液体培地、生醤油液体培地に接種した場合には最大10日間、また濃口醤油及び濃口生揚げ醤油の場合には30日(だが、一部の株についてのみ最大45日)間培養した。ただし、YM液体培地、YPD液体培地、生醤油液体培地を用いた産膜性試験の結果は、供試株の特徴、すなわち産膜性能の有無を調べるための調査に過ぎない。供試株の醤油中での皮膜形成能(=醤油産膜性能)の有無は、あくまで濃口醤油を用いた「醤油産膜性試験」での結果に基づいて判定した。 上記の試験2.の「供試株の醤油中での生存性試験」では、濃口醤油5mlに対して、供試株の種培養液を(濃口醤油容量の2%(V/V)に相当する)0.1ml接種した後に、30℃に設定した培養器(または恒温器)内で30日間静置培養したために、培養終了時、すなわち30日後の時点で(うち醤油産膜性能を持たない株を接種した濃口醤油(試験区)では、醤油の液面には目視で確認できるような変化は生じないものの)醤油産膜性能を持つ株を接種した濃口醤油(試験区)では、醤油の液面に、目視ではっきりと確認できる、白〜淡い褐色の、乾燥して粉をふいたような性状の皮膜が形成された。この醤油の液面に形成された皮膜は、上記した通り、醤油産膜性酵母株の細胞の凝集体であり、たとえばヤマト科学株式会社製タッチミキサMT−31(注:回転数は2800〜3300rpm.程度)を使ってよく攪拌してもなかなか崩れず、ゆえに皮膜が形成された濃口醤油などから、酵母の細胞がきれいに分散した状態の、均質な溶液を調製する事はできなかった。上記の試験2.の「供試株の醤油中での生存性試験」において、培養終了後の醤油の液面に皮膜が形成された試験区を同試験(=生存性試験)の「対象外」としたのは、均質な溶液を調製(して生存酵母数を測定する事が)できなかったためである。この試験5.では、供試株1株につき、その種培養液を濃口醤油容量(5ml)の2%(V/V)に相当する0.1ml接種した試験区と、20%(V/V)に相当する1.0ml接種した試験区との、計2種類の試験区をつくり、ともに30℃に設定した培養器(または恒温器)内に置いて、30日間静置培養した後の醤油の液面での皮膜の形成の有無を目視で確認し、両試験区のうちの少なくともどちらか一方で皮膜が形成された場合に、供試株が醤油産膜性株だと判別し、両試験区ともに皮膜が形成されなかった場合には、醤油「非」産膜性株だと判別した。なお、たとえば醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜(カナダ)))の種培養液を生醤油液体培地に接種した場合(=図37.の(1)の写真)や、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる醤油「非」産膜性のNo.1−1−4株(米味噌A(青森))の種培養液を濃口醤油に接種した場合(=図37.の(2)の写真)のように、供試株によっては、生醤油液体培地や濃口醤油などの液面と試験管との接触面ないしはやや上方の管壁に細胞の塊(=管壁付着物)が付着する事もあったが、これは「皮膜」ではなく、ゆえにこのような「管壁付着物」が形成されるものの、「皮膜」が形成されなかった場合には、供試株は醤油「非」産膜性株であると判別(または区分け)した。 表5.は、さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株20株の醤油産膜性能の有無を調べた結果をまとめたものである。濃口醤油中で皮膜を形成した、すなわち醤油産膜性株はいずれも味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された4株、すなわちNISL3452株(=IFO0525株(味噌))、NISL3459株(=IFO0845株(溜醤油諸味))、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))、NISL3359株(=A31株(醤油))であり、それ以外の16株の種培養液を接種した醤油には、皮膜が形成されなかった。図6.は、醤油産膜性Z.rouxii株だと判別された株のうちの1株である、溜醤油諸味から分離されたNISL3460株(=IFO0846株)を市販の濃口醤油II(注:醤油の各種成分濃度は以下の通り。食塩分(NaCl)16.20%(W/V)、全窒素分(T.N.)1.594%(W/V)、還元糖分(R.S.)2.73%(W/V)、エタノール2.99%(V/V)、pH=4.86)に、接種後の細胞の濃度(=終濃度)が上記の方法の100倍、すなわち106CFU/mlになるように接種して(=改変法)、30℃で静置培養した場合の、培養経過に伴う皮膜形成の様子を試験管の側面から撮影したものである。この改変法を用いた場合でも、皮膜の形成が始まるのは接種後(6〜)7日であり、つまりこの株が醤油産膜性酵母であるとの判別結果を得るのに、最低でも(6〜)7日の日数を必要とする。 接種してから皮膜が形成されるまでに要する日数は、供試株の種類や試験に用いる醤油などの成分組成によっても大きく異なる。たとえば、表6.は、醤油産膜性Z.rouxiiであるNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))及びNISL3359株(=A31株(醤油))を含む計5株を、(1)生醤油液体培地及び(2)市販の濃口醤油計7種類(=濃口醤油A1、濃口醤油B1、濃口醤油C1、濃口醤油D1、濃口醤油E1、濃口醤油F1、濃口醤油G1)に終濃度が106CFU/mlになるように接種して、30℃で30日間静置培養した場合の皮膜の有無(液面の写真)と、接種してから皮膜が形成され始める、すなわち図6.の接種後(6〜)7日の写真のような「醤油の表面に粉、試験管壁に白い付着物が発生した」状態に達するまでに要した日数(が写真下の括弧内の数値)を示したものである。 表6.中の写真が示す通り、醤油産膜性Z.rouxiiであるNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))及びNISL3359株(=A31株(醤油))は、生醤油液体培地及び濃口醤油7種類(A1〜G1)のすべて(の試験区)で皮膜を形成したが、醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))はすべての試験区で皮膜を形成しなかった。また、Z.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))とP.farinosa NBRC0991株(味噌)は、(1)塩化ナトリウム濃度が10.99%の生醤油液体培地に接種した際には皮膜を形成したものの、(2)食塩分(NaCl)が15.62%(W/V)(濃口醤油G1)〜16.24%(W/V)(濃口醤油B1)と高い濃口醤油7試料すべてにおいて皮膜を形成しなかった。つまり、これら2株は、(液体培地の条件次第では)皮膜を形成する、いわゆる産膜性能自体は持っているものの、(2)食塩(NaCl)濃度の高い濃口醤油中では皮膜を形成する能力、すなわち醤油産膜性能は持っていない、すなわち「産膜性/醤油「非」産膜性酵母株」である事が判明した。 同じ醤油産膜性Z.rouxii株でも、濃口醤油中での増殖速度が株によって異なるため、接種してから皮膜が形成され始めるまでに要する日数も異なる。たとえば、表6.の(2)の濃口醤油C1の場合、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))は接種後6日で皮膜を形成し始めたのに対して、NISL3359株(=A31株)は接種後12日、また濃口醤油E1の場合だと、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))は接種後7〜8日で皮膜を形成し始めたのに対して、NISL3359株(=A31株)は接種後13日、濃口醤油G1の場合だと、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))は接種後15〜16日で皮膜を形成し始めたのに対して、NISL3359株(=A31株)は22〜23日と、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))とNISL3359株(=A31株)とでは皮膜を形成し始めるまでの所要日数が異なる、つまりNISL3359株(=A31株)のほうがより長かった。 また、醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を接種してから皮膜が形成され始めるまでに要する日数は、7社の市販の濃口醤油7種類(=濃口醤油A1〜G1)を用いた試験結果(表6.の(2))や7社21種類の濃口醤油を用いた試験結果(表7.(注:皮膜形成の様子を撮影した写真は省略))に示した通り、早いもの(=濃口醤油A2)では接種後5〜6日、遅いもの(=濃口醤油G1)では15〜16日と、濃口醤油の種類、たとえば醤油メーカーや製品ロットの違いによっても大きく異なる。上記した通り、醤油産膜性Z.rouxiiによる皮膜形成を抑制する醤油中の成分としては、全窒素分(T.N.)、アルコールや食塩(NaCl)などがあるが、本試験で用いた市販の濃口醤油中のこれらの成分値が、表2.〜4.の通り、醤油メーカーの醤油(製品)ごとに異なっているために、醤油産膜性Z.rouxii株を接種してから皮膜が形成され始めるまでの所要日数もメーカーの醤油(製品)ごとに異なってくるようである。 たとえば、表2.〜4.に示した市販の濃口醤油計21種類の各種成分値(%)をよく見てみると、醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))を接種してから皮膜が形成され始めるまでに14〜16日もかかったG社の濃口醤油G1〜G3は、接種してから皮膜が形成され始めるまでに5〜6日しかかからなかったA社の濃口醤油A1〜A3に較べると、食塩分(NaCl)や全窒素分(T.N.)は幾分低めだが、エタノール濃度はA社の濃口醤油が2.62%(V/V)(濃口醤油A2)〜2.98%(V/V)(濃口醤油A1)であるのに対して、G社の濃口醤油は3.61%(V/V)(濃口醤油G2)〜3.91%(V/V)(濃口醤油G1)と、1%(V/V)近くも高く、恐らくはこの事がこの皮膜形成に至るまでの所要日数の差の原因となったものと思われる。 さらに、表2.〜4.に示した市販の濃口醤油計21種類の各種成分値(%)を見れば分かる通り、同じメーカーの醤油(製品)であっても、成分値はその製品(ロット)ごとにも多少異なるため、同じメーカーの濃口醤油にNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))やNISL3359株(=A31株)を接種して30℃で静置培養した場合であっても、接種してから皮膜が形成され始めるまでに要する日数は製品(ロット)ごとで若干異なってくる。 表7.に示した通り、たとえばA社の濃口醤油A1〜A3にNISL3359株(=A31株)を接種してから皮膜が形成され始めるまでに要する所要日数は、エタノール濃度が低めの濃口醤油A2(2.62%(V/V))や濃口醤油A3(2.69%(V/V))では6〜8日だが、エタノール濃度が高めの濃口醤油A1(2.98%(V/V))では8〜9日と少し長くなり、また上記した、他社に較べるとエタノール濃度が高めのG社の濃口醤油の場合には、濃口醤油G1では接種後15〜16日で皮膜が形成され始めたものの、濃口醤油G2や濃口醤油G3では、接種後45日まで培養期間を延長しても、結局皮膜を形成しなかった。この事はすなわち、もしNISL3359株(=A31株)の醤油産膜性試験を、G社の濃口醤油だけを用いて行なった場合には、他のメーカーの醤油中では皮膜を形成する醤油産膜性株である同株を「醤油産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)ではない」と誤って判別(または区分け)する危険性がある事を示している。 つまり、醤油中で皮膜を形成する醤油産膜性Z.rouxii株であるか否かを判別する上で重要な、醤油産膜性試験における「皮膜形成に至るまでの所要日数」は、醤油の種類や供試株の種類によっても大きく異なるため、用いる醤油自体を注意深く選ばないと(あるいは注意深く選べるだけの力量を持つ熟練者が試験を行なわないと)、判別(または区分け)を誤る危険性もある。 醤油産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)を市販の濃口醤油に接種してから皮膜が形成され始めるまでに5日以上もの日数を要するのは、市販の濃口醤油が通常16%前後ないしはそれ以上の食塩(NaCl)、3%前後ないしはそれ以上のエタノール、1.5%以上の全窒素分(T.N.)などの「皮膜形成を抑制する成分」を含んでいて、それらの成分によって醤油産膜性酵母株(=醤油産膜性Z.rouxii株)の活動が抑制されるためである。市販の濃口醤油の代わりに、濃口醤油よりも食塩(NaCl)やエタノール、全窒素分(T.N.)の濃度の低い液体培地を用いて、産膜性試験を行なえば、供試株が産膜性酵母であるか否かの判別をより迅速に行える。 表6.の(1)は、市販の濃口醤油よりも食塩(NaCl)やエタノール、全窒素分(T.N.)の濃度の低い生醤油液体培地に、醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))やNISL3359株(=A31株)を含む計5株を、終濃度が106CFU/mlになるように接種して、30℃で10日間静置培養した場合の皮膜の有無(液面の写真)と、接種してから皮膜が形成され始めるまでに要した日数(が括弧内の数値)を示したものである。表6.の(1)の通り、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))とNISL3359株(=A31株)は、接種してから2日という、上記の濃口醤油を用いた場合よりも遥かに早い日数で皮膜を形成し始めた。 ただし、この生醤油培地を用いた産膜性試験では、市販の醤油濃口醤油7種類、すなわち濃口醤油A1〜G1に接種した際には皮膜を形成しなかったZ.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))やP.farinosa NBRC0991株(味噌)も皮膜を形成してしまう。つまり、この生醤油培地を用いた産膜性試験では、より迅速に結果を得る事はできるものの、それは供試株が液体培地中で皮膜を形成する能力を有しているか否か、すなわち「産膜性能」の有無を調べているに過ぎず、醤油産膜性Z.rouxii株のみを持つ、高濃度の食塩(NaCl)を含む醤油中での皮膜形成能、すなわち醤油産膜性能を調べてはおらず、ゆえにこの方法では醤油産膜性Z.rouxii株を判別(または区分け)できない。 醤油中で皮膜を形成しない醤油「非」産膜性Z.rouxii株は、寒天培地上で培養した際に、クリーム色の、表面がすべすべした菌集落(コロニー)を形成する事が多いのに対して、醤油産膜性Z.rouxii株の方は、寒天培地上で培養した際に、白っぽく、粉をふいたような菌集落(コロニー)を形成する事が多いため、両者を適当な寒天培地上で培養して、その菌集落(コロニー)の色調や形状を指標に、目視で判別(または区分け)する方法が以前は用いられていた。 たとえば、味噌や醤油の仕込み工程において、味噌・醤油諸味中の味噌・醤油酵母の菌数を計測する際には、上記の試験3.の手順のように、味噌・醤油諸味を10〜15%塩化ナトリウム水溶液で適宜希釈したうえで、生醤油寒天に塗抹し、これを25〜30℃で2〜7日培養し、同寒天上に出現した菌集落(コロニー)を計測する方法が用いられるが、その際に同寒天上に出現した菌集落(コロニー)の色調や形状を指標に、醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株とを目視で判別(または区分け)していた事もあったようである(好井久雄・金子安之・山口和夫(著):<改訂増補版> 食品微生物学、p457−459、技報堂出版 (1976))。 図39.及び図40.、図41.は、溜醤油諸味から分離された醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3460株(=IFO0846株)及び味噌から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、花から分離された産膜性/醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNBRC1812株(=IFO1812株)、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株である、「非」産膜性のNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)、醤油諸味から分離された「非」産膜性のCandida etchellsii NISL3720株(=IFO10037株)、味噌から分離された産膜性/醤油「非」産膜性酵母株であるP.farinosa NBRC0991株などを生醤油寒天(pH=5.3)(図39.及び図40.)と10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天上(注:写真(図41.)は、菌集落(コロニー)の色調が見やすいように、青紙上に(寒天培地の)シャーレを置いて撮影したものである)で培養した際の菌集落(コロニー)の様子を撮影した写真である。 確かに、どちらの寒天上においても、濃口醤油に接種した際に皮膜を形成する醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の菌集落(コロニー)の色調は、そもそも皮膜形成能を持たない「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))(図39.〜41.)やNISL3468株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の菌集落(コロニー)の色調(図40.及び図41.)と較べると、白っぽく粉をふいたような感じで、この違いは目視でも識別できる(注:なお、生醤油液体培地に接種した際には皮膜を形成するものの、濃口醤油中では皮膜を形成しない産膜性/醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNBRC1812株(=IFO1812株(花))は、図1.でも示した通り、耐塩性能が弱く、10%の塩化ナトリウム(NaCl)を含む生醤油寒天(pH=5.3)(図40.)や10%塩化ナトリウム(NaCl)加YD寒天上(図41.)では生育できず、菌集落(コロニー)を形成しない)。 ただし、こうした酵母数計数用の寒天培地の食塩(NaCl)濃度は醤油よりも低いために、醤油産膜性Z.rouxii以外の産膜性/醤油「非」産膜性酵母株も生育可能で、たとえば味噌から分離された産膜性/醤油「非」産膜性酵母株であるP.farinosa NBRC0991株も、生醤油寒天上では産膜性酵母株特有の白っぽい色調の菌集落(コロニー)を形成する。P.farinosaは、味噌や(特に仕込み初期の)醤油諸味などからも分離される酵母株であり、図40.及び図41.中の(1)生醤油液体培地中で皮膜を形成している写真が示す通り、産膜性能は持つものの、耐塩性能が弱いために、図40.及び図41.中の(2)濃口醤油に接種した場合の写真が示す通り、16%前後ないしはそれ以上の食塩(NaCl)を含む醤油(製品)やその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)の中では生育できず、特に醤油(製品)中では皮膜を形成しない、つまり醤油産膜性酵母株ではない、すなわち醤油「非」産膜性の産膜性酵母株である。つまり、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離した酵母株群を、こうした寒天上に出現した菌集落(コロニー)の(白っぽい)色調や形状を指標にして、醤油産膜性Z.rouxii株と、このような産膜性/醤油「非」産膜性酵母株とに目視で判別(または区分け)するのは非常に難しい。 上記した茂木らのグループは、(現行の分類でのZ.rouxiiに相当する)S.rouxiiと(現行の分類でのCandida属酵母に相当する)Torulopsis属酵母との免疫学的手法(スライド凝集法)を用いた判別法を検討した過程において、(現行の分類での、醤油産膜性Z.rouxiiに相当する)『(p616)(前略)醤油の白カビの原因となるSacch.rouxii var.halomembranisと推定され(る株は)、血清学的に(現行の分類での、醤油「非」産膜性Z.rouxiiに相当する)非産膜性のS.rouxiiとやや差異が認められた(後略)』と報告しており(茂木恵太郎、逆井利夫:農化、48(11)、613−617 (1974))、非常に興味深いものの、これを指標に両者を判別(または区分け)できる方法としてまではつくり上げてはいない。また、上記した通り、こうした免疫学的な方法は作業が煩雑であり、熟練を要する。 味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株と、「悪玉菌」と評される味噌・醤油産膜性Z.rouxii株とを判別(または区分け)するためのRAPD法の実施手順も、同じく伊藤武・森地敏樹(編)の「食品のストレス環境と微生物―その挙動・制御と検出―(サイエンスフォーラム (2004))」中の「第7章 高塩分食品・アルコール飲料で問題となる微生物」の「第1節 醤油(p187−193(半谷吉識(著)))」のp188−189「1.3 遺伝子を用いた検査方法」の項で簡単に触れられている。手順は以下の通りである。まず、ゲノムDNA抽出法や、たとえばタカラバイオ株式会社の「Genとるくん(登録商標)(酵母用)」などのキットなどを使って、供試株と、「比較用の酵母」、つまりこの場合であれば、醤油産膜性Z.rouxii株や醤油「非」産膜性Z.rouxii株などのゲノムDNAをそれぞれ調製(または抽出)して、これらを鋳型とする、アマシャム・バイオサイエンス株式会社(Amersham Biosciences)製のキット「Ready−To−Go RAPD Analysis Beads」を用いたPCR反応を実施し、供試株から調製したゲノムDNAを鋳型とするPCR反応で生じた増幅産物のパターン(またはバンドパターン)、すなわち増幅産物の数とそれぞれの鎖長を、比較用の酵母から調製したゲノムDNAを鋳型とするPCR反応で生じた増幅産物のパターンと比較して、供試株を「供試株と同じパターンを示した比較用の酵母株」と同一株ないしはそれに近い株だと判別する。 しかしながら、本手法についてのこれ以上の詳細な実施手順は公表されておらず、詳細は不明である。本手法では、(同書「食品のストレス環境と微生物」中のp189の「図−3 RAPD法による産膜酵母の識別(注:非産膜酵母1株及び産膜酵母2株の場合の増幅産物をゲル電気泳動法で処理した際のゲル写真)」を見たところ)鎖長の異なる複数の増幅産物が生じるため、そのバンドパターンの比較作業が煩雑であり、時には判別にも熟練を要する。 そもそも、上記した通り、RAPD法自体が、緩い条件設定でPCR反応を行なう方法であるために、バンドパターンの再現性そのものが低いという弱点もある。同書「食品のストレス環境と微生物」では、この点の改善に「Sequence Tagged−site化(配列タグ部位化(STS化))」が有効だと記されているが、この方法はあらかじめ『(p189(半谷吉識(著)))(前略)RAPD法で得られた識別マーカーとなるバンドの配列を決定し、そのバンドだけが増幅できるようなプライマーおよびPCR条件を設定(後略)』しておいたうえで、RAPD法(による判別)を行なうというものであり(伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、サイエンスフォーラム (2004))、この事前の最適化(準備)作業は非常に煩雑である。また、本手法で得られるバンドパターンは酵母株ごとに異なっているため、数多くの比較用の酵母株とそのバンドパターンに関するデータとをあらかじめ収集しておく必要がある。ただ、供試株の判別(または区分け法)作業前に、すべての酵母株のバンドパターンを網羅的に収集しておく事は、理論上不可能であろう。つまり、得られた供試株のバンドパターンが「手持ちの比較用の酵母株のバンドパターン群の中の醤油産膜性Z.rouxii株のバンドパターン」と同一であれば、供試株がその比較用の醤油産膜性Z.rouxii株と同一株であるか、あるいはそれにきわめて近い醤油産膜性Z.rouxii株であると判別(または区分け)できるが、得られた供試株のバンドパターンが「手持ちのバンドパターン」群の中にない場合には、その供試株が「醤油産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのか」という判別(または区分け)ができないのはもちろん、その供試株がそもそも「Z.rouxiiであるか否か」さえ判別(または同定)できない。 上記した通り、渡部らは、ワインやシェリーから分離された産膜性S.cerevisiae株での知見(M.Ishigami,Y.Nakagawa,M.Hayakawa and Y.Iimura:Biosci.Biotechnol.Biochem.,70(3),660−666 (2006)、戸田康裕、中川洋史、飯村穣:日本農芸化学会大会(福岡国際会議場・マリンメッセ福岡(福岡))講演要旨集、平成21年度、p256(講演番号3P0718B)、2009−03−29 (2009)、Y.Nakagawa,Y.Toda,H.Yamamura,M.Hayakawa and Y.Iimura:J.Biosci.Bioeng.,111(1),7−9 (2011))を参考にして、醤油諸味中に形成された皮膜から分離した産膜性Z.rouxii Z3株の皮膜形成に関わる遺伝子を調べ、「(上記の、公開されているZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の全ゲノム情報の中から見出した、FLO11様蛋白質をコードしているものと思われる3つの遺伝子、すなわちFLO11A、FLO11B、FLO11Cは、皮膜形成には関係しない事を確認したが、それとは異なる)新規」のFLO11様蛋白質をコードしているものと見られるFLO11D遺伝子を見出した事を報告しているが(渡部潤、上原健二、茂木喜信:醤研、38(6)、370(第75回 研究発表会講演要旨集(平成24年度成田大会)) (2012)、J.Watanabe,K.Uehara and Y.Mogi:Genetics,195(2),393−405 (2013))、このFLO11Dが醤油産膜性Z.rouxii株を識別(または区分け)するための指標として利用できるか否かについての(複数の醤油産膜性Z.rouxii株を供試株とした)検証を行なったとの報告は、現時点ではまだない。 このように、現時点では、[C]「(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く)皮膜形成能を持たず、それゆえに味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株」と、「(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高いが)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株」とを精度よく判別(または区分け)する方法もない。 本発明は、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などから分離した酵母群を、まず[A][1]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群と[2]それ以外の酵母株群(Candida属酵母など)とに区分けし、さらにそのうちの[1]Z.rouxii株群については、[B及びC][1]−2−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、しかも皮膜形成能は持っていないがゆえに、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株群、[1]−2−2.(同じく)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多いものの、こうした環境中で皮膜を形成する能力を持ち、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質劣化を引き起こす事から、「悪玉菌」と評される醤油産膜性Z.rouxii株群、[1]−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株群の3群に区分けするための、簡便な遺伝学的な方法を提供する事を課題とする。 本発明は、Z.rouxii CBS732株が染色体C上に持つ、トリプトファン転移(または運搬)RNA(tryptophan−transfer RNA(tRNA−Trp(CCA)))遺伝子と見られる塩基配列部分と、その下流に位置する未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS))との間にある塩基配列部分や、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)と、その下流に位置する未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)との間にある(374498番目の塩基を含む)塩基配列部分、ないしはこれらの配列部分を含む塩基配列部分を増幅するためのPCR法などで生じる増幅産物の有無、及びその鎖長、プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分の有無や塩基配列の特徴、特にCBS732株の染色体C上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基多型(SNP)を指標として用いる、酵母株の判別(または区分け)法である。 本発明、すなわち「Z.rouxii G4118株(=NBRC10671株(マジパン))から見つけられたプラスミドpSR1」の塩基配列上の部分配列との類似性が高い、染色体上の領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのPCR法及び、同法で生じた増幅産物(から調製(または粗精製)したPCR産物)の塩基配列解読(シークエンシング)法ないしはPCR−MaeIII−RFLP法によって生じる「分解(または制限)断片の本数」及び「それぞれの断片の鎖長」のパターン(=バンドパターン)を指標として用いる事により、図109.及び図110.に記した通り、たとえば味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された、表現形質及び属種不明の味噌・醤油酵母群について、[A]各株がまず[1]現行の分類ではZ.rouxiiに分類される株なのか、あるいはたとえばCandida属酵母株やPichia属酵母株などの、[2]Z.rouxii株以外の株なのかを、さらに[1]Z.rouxiiに分類された株群については、図110.に記した通り、[B]各株が[1]−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、(味噌・)醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株なのか、あるいは[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株、いわゆる「味噌・醤油主発酵酵母株」なのかを、そして[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株群、いわゆる味噌・醤油主発酵酵母株群に区分けされた株については、[C]各株が[1]−2−1.(味噌・)醤油諸味中でのエタノール生産性能が高く、しかも醤油中で皮膜を形成する能力を持たない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは[1]−2−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成する能力を持ち、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成し、その品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株なのかを、迅速かつ簡便に判別できる事が判明した。塩化ナトリウム(NaCl)加YD/生醤油寒天上でのZ.rouxii NBRC1812株(花(日本))の生育 ―生育に及ぼす塩化ナトリウム(NaCl)濃度の影響―Z.rouxii NISL3369株とZ.rouxii NISL3461株の、醤油諸味液汁中での増殖とエタノール生産性さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株の、醤油諸味液汁中でのエタノール生産性濃口醤油II中でのZ.rouxii株の生存性 ―接種後30日(30℃)での醤油0.1ml中の生存酵母数―Z.pseudorouxii NCYC3042株(上段の配列(=配列番号2))とZ.rouxii CBS732株のD1/D2領域(下段の配列(=配列番号1))の違い濃口醤油II中での醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の皮膜形成Pichia farinosa NBRC0991株(味噌)とZ.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の皮膜形成Z.rouxii株の中には、濃口醤油で皮膜を形成する醤油産膜性株と形成しない醤油「非」産膜性株とがいる生醤油液体培地での、醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の皮膜形成YPD液体培地中での醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の皮膜形成YPD液体培地、YM液体培地中での醤油産膜性Z.rouxii株の皮膜形成S.cerevisiaeのプラスミド(2μmDNA)とZ.rouxiiのプラスミド(pSR1)生味噌(=米味噌A〜C、麦味噌D)から分離した耐塩性酵母埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母耐塩性酵母のD1/D2領域を増幅するためのKOD −plus−PCR法及びEx Taq−PCR法米味噌A〜C、麦味噌D、生醤油Eから分離した耐塩性酵母32株の、D1/D2領域を指標とする同定 ―KOD −plus−PCR法、またはEx Taq−PCR法で生じた増幅産物―青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母No.1−1−6株のPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)を用いた塩基配列解読の波形図青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母No.1−1−6株のPCR産物の塩基配列(=配列番号7) ―プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間の塩基配列(581bp)を含む―岡山県産米味噌Cから分離した耐塩性酵母No.6−1−1−2株のPCR産物の塩基配列(=配列番号8) ―プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間の塩基配列(580bp)を含む―埼玉県産生醤油Eから分離した耐塩性酵母No.7−3−42株のPCR産物の塩基配列(=配列番号9) ―プライマーNL−1(=配列番号3)とプライマーNL−4(=配列番号4)との間の塩基配列(521bp)を含む―青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母No.1−1−1株のPCR産物の、プライマーNL−1(=配列番号3)を用いた塩基配列解読の波形図青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母No.1−1−1株のPCR産物を連結したプラスミドを導入した形質転換株(アンピシリン耐性株)と、それらの株から回収したプラスミド形質転換株(3)e−8株(No.1−1−1(Type1))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号10(Type1))形質転換株(4)e−9株(No.1−1−1(Type1−2))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号11(Type1−2))形質転換株(5)e−17株(No.1−1−1(Type1−3))及び(6)e−23株(No.1−1−1(Type1−3))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号12(Type1−3))形質転換株(7)e−24株(No.1−1−1(Type1−4))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号13(Type1−4))形質転換株(8)e−6株(No.1−1−1(Type2))及び(9)e−12株(No.1−1−1(Type2))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号14(Type2))形質転換株(10)e−1株(No.1−1−1(Type2−2))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号15(Type2−2))形質転換株(11)e−11株(No.1−1−1(Type2−3))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号16(Type2−3))形質転換株e−36株(No.1−1−1(Type2−4))から回収したプラスミド上のT−クローニングサイトにつながっていた耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(=配列番号17(Type2−4))耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(8種類)耐塩性酵母No.1−1−1株(米味噌A(青森))のPCR産物の塩基配列(8種類) ―Type1とType2、そのキメラ配列ないしはモザイク配列―青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母8株の、Harrisonらの方法による同定富山県産米味噌Bから分離した耐塩性酵母8株の、Harrisonらの方法による同定岡山県産米味噌C及び麦味噌Dから分離した耐塩性酵母8株の、Harrisonらの方法による同定埼玉県産生醤油Eから分離した耐塩性酵母8株の、Harriosnらの方法による同定醤油産膜性試験時に観察された「管壁付着物」10%塩化ナトリウム加YD寒天上に形成されたZ.rouxii株及びC.versatilis株の菌集落(=コロニー)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=NRRL Y−2547株)と醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株) ―生醤油寒天上で形成される菌集落(=コロニー)の形状―さまざまな耐塩性酵母の産膜性と、生醤油寒天上で形成される菌集落(=コロニー)の形状さまざまな耐塩性酵母の産膜性と、10%NaCl加YD寒天上で形成される菌集落(=コロニー)の形状Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上にある、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(1)及び領域(2)(模式図)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(1)を含む部分配列(=配列番号35(2760bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(1)を含む部分配列(=配列番号35(2760bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(1)を含む部分配列(=配列番号35(2760bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(1)を含む部分配列(=配列番号35(2760bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(2)を含む部分配列(=配列番号40(2235bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(2)を含む部分配列(=配列番号40(2235bp))(一部)Z.rouxii CBS732株(=IFO1130株=NISL3461株)の染色体C上の、プラスミドpSR1との類似性が高い領域(2)を含む部分配列(=配列番号40(2235bp))(一部)領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―核酸成分調製法の違いによる影響―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油からの分離株の場合(1)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油からの分離株の場合(2)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油からの分離株の場合(3)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油以外からの分離株の場合(1)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油以外からの分離株の場合(2)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―味噌・醤油以外からの分離株の場合(3)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―Z.rouxii以外の株の場合(1)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―Z.rouxii以外の株の場合(2)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―Z.rouxii以外の株の場合(3)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―(b)ISOPLANT法で調製した核酸成分を用いた場合(1)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―(b)ISOPLANT法で調製した核酸成分を用いた場合(2)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―Z.rouxii以外の株の場合(4)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―Z.rouxii以外の株の場合(5)―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―青森県産米味噌Aからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―青森県産米味噌Aからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―富山県産米味噌Bからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―富山県産米味噌Bからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―岡山県産米味噌Cからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―岡山県産麦味噌Dからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―埼玉県産生醤油Eからの分離株の場合―領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―埼玉県産生醤油Eからの分離株の場合―醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号42)の一部)醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号42)の一部)醤油産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号43)の一部)醤油産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号43)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=NRRL Y−2547株(味噌))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号44)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=NRRL Y−2547株(味噌))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号44)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii(Zygosaccharomyces hybrid strain) No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号45)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii(Zygosaccharomyces hybrid strain) No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号45)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii(Zygosaccharomyces hybrid strain) No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号46)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii(Zygosaccharomyces hybrid strain) No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))のPCR産物(領域(2))の塩基配列(一部)(=tRNA−Trp(CCA)遺伝子と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号46)の一部)領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じたPCR産物の塩基配列(模式図)醤油「非」産膜性Z.rouxii NBRC1914株(クリーミーケーキ)のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号47)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NBRC1914株(クリーミーケーキ)のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号47)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NBRC1914株(クリーミーケーキ)のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号47)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号48)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号48)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号48)の一部)醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=NRRL Y−2547株(味噌))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号49))醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号50))醤油産膜性Z.rouxii(Zygosaccharomyces hybrid strain) No.1−2−13株(米味噌A(青森))のPCR産物(領域(1))の塩基配列(一部)(=MSS4と「未知の蛋白質」遺伝子との間の塩基配列部分(=配列番号51))領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じたPCR産物の塩基配列(模式図)領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法 ―NBRC1812株(花)の場合―領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で用いたプライマーC374076(=配列番号22)の設計のもととなったZ.rouxii CBS732株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子と見られる塩基配列(一部(=配列番号52))と、Z.bailii CLIB213株、S.cerevisiae S288C株及びEC1118株の同塩基配列部分(一部(=配列番号53〜55))領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で用いたプライマーC376835(=配列番号23)の設計のもととなったZ.rouxii CBS732株の「未知の蛋白質」をコードしている遺伝子と見られる塩基配列(一部(=配列番号56))と、Z.bailii CLIB213株の同塩基配列部分(一部(=配列番号57))さまざまな分離源から分離されたZ.rouxii株の、静置培養条件下における醤油諸味液汁中でのエタノール生産性青森県産米味噌Aから分離した耐塩性酵母8株の産膜性富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した耐塩性酵母8株の産膜性岡山県産米味噌C(赤味噌)、麦味噌Dから分離した耐塩性酵母8株の産膜性埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した耐塩性酵母8株の産膜性領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法のPCR産物の塩基配列解読時の蛍光強度の波形(一部) ―青森県産米味噌Aから分離したZ.rouxii株(Zygosaccharomyces hybrid strain)の場合―領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じたPCR産物上に存在するMaeIII認識/切断配列の位置PCR−MaeIII−RFLP法 ―醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合―PCR−MaeIII−RFLP法 ―醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合―PCR−MaeIII−RFLP法 ―分離源の異なる3株の場合―PCR−MaeIII−RFLP法 ―味噌・醤油以外の分離源から分離された醤油「非」産膜性株の場合―PCR−MaeIII−RFLP法 ―米味噌A(青森)及びB(富山)から分離した醤油産膜性/醤油「非」産膜性株の場合―発明した方法(2)を用いた、味噌・醤油及び仕掛品中の耐塩性酵母群の区分け(=グルーピング)発明した方法(1)を用いた、味噌・醤油及び仕掛品中の耐塩性酵母群の区分け(=グルーピング) 上記の、2009年初夏に公開された、イタリアの黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離された、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の全ゲノム情報を詳細に調べてみたところ、その染色体C(CU928175.1、GI:238938559(1464093bp))上には、「マジパンから分離されたZ.rouxii G4118株(=NBRC10671株)の細胞内から見つかったプラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258(6251bp))上の「(2μm上のREP1遺伝子に相当するものと見られる)P遺伝子(open reading frame P)及びインバーテッド・リピート(IR)の一部から構成される部分配列」、すなわち図12.中の(2)のプラスミドpSR1(6251bp)のうちの「破線で囲んだ部分」との類似性が高い塩基配列部分」が少なくとも2箇所ある事(図42.)を見出した。以下、このプラスミドpSR1上の部分配列との類似性が高い塩基配列部分(=pSR1類似配列)2箇所を、それぞれ「領域(1)」、「領域(2)」と呼ぶ事にする。 塩基配列どうしの類似性の評価には、上記の、米国(立)バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)上に公開されている相同性検索プログラム「BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)」(http://blast.ncbi.nlm.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastn&BLAST_PROGRAMS=megaBlast&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthome)のうちの、データベース上の既知の塩基配列情報の中から「問い合わせ(クエリー(query))配列」との類似性が高いものだけを選択するための、つまり「塩基対塩基」用プログラムである「nucleotide blast(Seatch a nucleotide database using a nucleotide query)」を用いた。 2箇所のpSR1類似配列のうちの1つ、「領域(1)」は、図43.〜46.(=実際の塩基配列(=配列番号35))及び図42.(=模式図)の上段の図の通り、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、「374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)」である。 図43.〜46.は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」上の374076番目のシトシン(C)(図43.)から、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」上の376835番目のチミン(T)(図46.)までの、すなわち領域(1)を含む塩基配列部分(=配列番号35(2760bp))を「4分割」表記したものである。図43.〜46. (=配列番号35)中の塩基配列のうち、「実線及び丸破線様式の下線付きの塩基配列部分」は、プラスミドpSR1上の部分配列との類似性が非常に高い塩基配列部分を、また「実線様式の下線付きの塩基配列部分」は「遺伝子」と見られる塩基配列部分(CDS)を示している。 この領域(1)のうちの、「374528番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1736bp)」を、プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上の「P遺伝子及びインバーテッド・リピート(IR)の一部から構成される部分配列」と比較しながら見てみると、図42.の上段の模式図にも記した通り、プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上にある「インバーテッド・リピート(IR)の一部、すなわち602番目のチミン(T)から788番目のグアニン(G)までの部分配列(187bp)」との類似性が高い374528番目のチミン(T)から374715番目のグアニン(G)までの部分配列(188bp)と、「P遺伝子及びインバーテッド・リピート(IR)の一部、すなわち982番目のチミン(T)から2530番目のチミン(T)までの部分配列(1549bp)」との塩基配列の類似性が高い374716番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの部分配列(1548bp)との2つの部分配列から構成されていて、この2つの部分配列の間には「プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上の、789番目のチミン(T)から981番目のチミン(T)までの部分配列(193bp)」に相当する部分配列がない(または欠けている)事が分かる。 領域(1)(1751bp)の塩基配列のうちの、この「図43.中の374716番目のチミン(T)から、図45.中の376263番目のチミン(T)までの部分配列(1548bp)」の、プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上にある「P遺伝子(の全長)及びインバーテッド・リピート(IR)の一部、すなわち982番目のチミン(T)から2530番目のチミン(T)までの部分配列(1549bp)」との塩基配列の類似性は98.5%(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、また「図43.中の374528番目のチミン(T)から374715番目のグアニン(G)までの部分配列(188bp)」の、プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上にある「インバーテッド・リピート(IR)の一部、すなわち602番目のチミン(T)から788番目のグアニン(G)までの部分配列(187bp)」との塩基配列の類似性も96.3%(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=2e−80)と、非常に高い。 「領域(1)」と定義した塩基配列部分は、厳密には、図43.〜45.中の「実線及び丸破線様式の下線付きの塩基配列部分」が示す、プラスミドpSR1上の「P遺伝子(の全長)及びインバーテッド・リピート(IR)の一部から構成される部分配列」との類似性が非常に高い2つの部分配列(1548bpと188bp)から構成される、すなわち上記の「CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374528番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1736bp)」に、さらに図43.中の374515番目のチミン(T)から374523番目のチミン(T)までの、プラスミドpSR1上の「インバーテッド・リピート(IR)の部分配列」との類似性が非常に高い塩基配列(9bp)」と、その上流にある「374513番目のチミン−374514番目のシトシン(TC)(2bp)」をも加えた塩基配列部分(11bp)と、さらにはその2つの塩基配列の間に入り込む形となっている、プラスミドpSR1の塩基配列との類似性が低い4bpの塩基配列部分も加えた、すなわち図42.の上段の模式図が示す通り、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374513番目のチミン(T)(図43.)から376263番目のチミン(T)(図45.)までの塩基配列部分(1751bp)に相当する。 ちなみに、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の372086番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの、すなわち図43.〜46.の塩基配列部分(=配列番号35(2760bp))を含む配列部分上に、制限酵素ApaIの認識/切断配列 5’−G GGCC↓C−3’ (3’−C↑CCGG G−5’ は存在しない(注:矢印(↑↓)は、ApaI処理による切断部位を示している)。 2箇所のpSR1類似配列のうちのもう1つ、すなわち「領域(2)」は、図47.〜49.(=実際の塩基配列(=配列番号40))及び図42.(=模式図)の下段の図の通り、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)」及び「1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)」に当たる「トリプトファン転移(または運搬)RNA(Tryptophan−transfer RNA(tRNA−Trp(CCA)))遺伝子と見られる塩基配列部分」と、1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」との間に位置する、1132454番目のシトシン(C)(図47.)から1133788番目のチミン(T)(図49.)までの塩基配列部分(1335bp)である。 図47.〜49.は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)」と「1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)」に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」上の1132044番目のアデニン(A)(図47.)から、1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」上の1134278番目のグアニン(G)(図49.)までの、すなわち領域(2)を含む塩基配列部分(=配列番号40(2235bp))を「3分割」表記したものである。図47.〜49. (=配列番号40)中の塩基配列のうち、「実線及び丸破線様式の下線付きの塩基配列部分」は、プラスミドpSR1上の部分配列との類似性が非常に高い塩基配列部分を、また「実線様式の下線付きの塩基配列部分」はその塩基配列部分上の、「遺伝子」と見られる塩基配列部分(CDS)を示している。 この領域(2)も、厳密には、図47.〜49.(=配列番号40)中の「実線及び丸破線様式の下線付きの塩基配列部分」が示す通り、プラスミドpSR1上の部分配列との類似性が高い、図47.中の(CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の)1132454番目のシトシン(C)から図48.中の1133025番目のアデニン(A)までの572bpの塩基配列部分(注:この塩基配列部分を、以下、「領域(2)−(a)」と記す)、図48.中の1133047番目のシトシン(C)から図48.中の1133468番目のグアニン(G)までの422bpの塩基配列部分(注:この塩基配列部分を、以下、「領域(2)−(b)」と記す)、図49.中の1133752番目のグアニン(G)から1133788番目のチミン(T)までの37bpの塩基配列部分(注:この塩基配列部分を、以下、「領域(2)−(c)」と記す)の、3つのpSR1類似配列と、その「領域(2)−(a)」と「領域(2)−(b)」との間と、「領域(2)−(b)」と「領域(2)−(c)」との間に入り込んだ、プラスミドpSR1上の部分配列との類似性が低い2つの塩基配列部分とから構成されている。 領域(2)−(a)、すなわち「図47.中の1132454番目のシトシン(C)から図48.中の1133025番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(572bp)」は、「プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上にあるP遺伝子の2214番目のシトシン(C)から1611番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(604bp)」との類似性が78.6%(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=2e−143)、領域(2)−(b)、すなわち「図48.中の1133047番目のシトシン(C)から1133468番目のグアニン(G)までの422bpの塩基配列部分」は、「プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上にあるP遺伝子の1495番目のシトシン(C)から1073番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(423bp)」との類似性が82.7%(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=5e−117)、また領域(2)−(c)、すなわち「図49.中の1133752番目のグアニン(G)から1133788番目のチミン(T)までの塩基配列部分(37bp)」は、「プラスミドpSR1(X02398.1、GI:5258)上のインバーテッド・リピート(IR)の521番目のグアニン(G)から557番目のチミン(T)までの塩基配列部分(37bp)」との類似性が86.5%(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=1.6)と、「上記の領域(1)の、プラスミドpSR1上の部分配列との類似性」と較べると低めではあるものの、それでもプラスミドpSR1上の部分配列との類似性が認められる。 ちなみに、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の1131980番目のチミン(T)から1134447番目のアデニン(A)までの、すなわち図47.〜49.の塩基配列部分(=配列番号40(2235bp))を含む配列部分上に、制限酵素ApaIの認識/切断配列 5’−G GGCC↓C−3’ (3’−C↑CCGG G−5’ は存在しない(注:矢印(↑↓)は、ApaI処理による切断部位を示している)。 そこで、このCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))以外の、現行の分類でZ.rouxii株に分類されている酵母株にも、この領域(1)及び領域(2)があるのか、あるいはないのかを、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の領域(1)及び(2)の上流及び下流にある遺伝子(CDS)上の塩基配列を参考にして設計したプライマーを用いるPCR法を行なう事で調べてみた。試験6.さまざまなZ.rouxii株における領域(1)及び領域(2)の有無の調査: 試験に用いた供試株は、菌株保存研究機関で保存されているZ.rouxii株の中から、その株の分離源に関する記録がきちんと公表されている株のみを選び出した。すなわち、上記の試験1.、試験2.、試験5.で用いた、[1]味噌から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、NISL3455株(=IFO0533株)、NISL3763株(=ATCC42981株=IAM12879株)の計3株、[2]味噌から分離された醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3452株(=IFO0525株)、[3]醤油や醤油諸味などから分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNBRC0505株、NISL3402株(=IFO0506株)、NISL3445株(=IFO0494株)、NISL3450株(=IFO0521株)の計4株、[4]醤油や醤油諸味などから分離された醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3359株(=A31株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の計3株、[5]「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株であるNBRC1730株(塩漬豆(オランダ))、NBRC1733株(発酵した蜂蜜(カナダ))、NBRC1812株(=IFO1812株(花(日本)))、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ(日本)))、NBRC10671株(=G4118株(マジパン(西ドイツ)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン(フランス)))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜(カナダ)))、NISL3458株(=IFO0740株(痰(ノルウェー)))、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)(イタリア)))の計9株、すべて合わせると5群、計20株である。 供試株の培養と、その細胞からの核酸成分の調製(または抽出)には、上記の試験3.で用いた方法、すなわち(a)ビーズ破砕/フェノール処理法と、さらに(b)ISOPLANT法と(c)PrepMan Ultra Sample Preparation Reagent法も加えた、計3種類の方法のうちのいずれかを用いた。(b)ISOPLANT法の手順: 「ISOPLANT」は、株式会社ニッポンジーン製のDNA抽出キット(製品コード:No.310−02733、20回分)である。上記の試験3.の「ビーズ破砕/フェノール処理法の手順」における供試株の細胞(=マイクロチューブに入った状態の沈殿)から、同キットを使って調製(または抽出)したものを「核酸成分」として、以下の実験に用いた。調製手順は、キットに添付されている「ISOPLANTマニュアル(第8版)」のp4の「Vプロトコール」に記されている通りである(注:手順には一切改変を加えなかった)。(c)PrepMan Ultra Sample Preparation Reagent法の手順: 「PrepMan Ultra Sample Preparation Reagent」も、Applied Biosystems社のキット(P/N 4318930)である。上記の試験3.の「ビーズ破砕/フェノール処理法の手順」における供試株の細胞(=マイクロチューブに入った状態の沈殿)から、同キットを使って調製(または抽出)したものを「核酸成分」として、以下の実験に用いた。調製手順は、キットに添付されている「Quick Reference Card」に記されている通りである(注:手順には一切改変を加えなかった)。核酸成分の制限酵素処理: 供試株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAとして用いるPCR法を行なう場合、核酸成分を予め(増幅する塩基配列部分上に認識/切断配列がない)制限酵素で処理して(断片化して)おくと、PCR法における増幅効率が向上する事が知られている(村松正實(編):[新臨床医のための分子医学シリーズ]よくわかる遺伝子工学 ―ベーシックな技術から臨床応用まで―、p24−36(三嶋行雄(著))、羊土社 (2000))。上記した通り、少なくともCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合には、本試験で増幅しようとしている(プライマーの結着配列部分を含む)両塩基配列部分、すなわち図43.〜46.の塩基配列部分(=配列番号35)及び図47.〜49.の塩基配列部分(=配列番号40)上には制限酵素ApaIの認識/切断配列(5’−G GGCC↓C−3’及び3’−C↑CCGG G−5’から構成される6塩基対)がない事が分かっており、ゆえに供試株から調製(または抽出)した核酸成分を予め制限酵素ApaIで処理しておけば、PCR法での増幅効率が向上する事が予想される。そこで、本試験での一部、すなわち上記の計3種類の核酸成分調製法のうちの、(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)した核酸成分の「一部」については、予め制限酵素ApaIで処理したうえで、PCR法の鋳型DNAとして用いた。制限酵素ApaIによる前処理は、1.5mlサイズの殺菌済みマイクロチューブ内で行なった。マイクロチューブに移した核酸成分1μgに対して、タカラバイオ株式会社製の制限酵素ApaI(製品コード:No.1005A)2U(=0.14μl)、同製品付属の緩衝液(10×L Buffer)1μlを加え、これにさらに「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水」を加えて全量を10μlにする。この溶液を、37℃に設定した反応器(または恒温器)などを使って(注:本試験では、旭テクノグラス株式会社製卓上小型恒温培養器NIB−11を使用)、37℃に保温しながら、一夜置く(=酵素反応処理)。核酸成分の前処理に用いる制限酵素は、ApaIに限られるものではなく、増幅しようとする塩基配列(プライマーの結着配列部分を含む)上に認識/切断配列がない制限酵素であれば何でもよい。用いたプライマーとその調製: 供試株の領域(1)の有無を調べるためのPCR法では、プライマーC374076(=配列番号22)と、プライマーC376835(=配列番号23)を用いた。用いたプライマーC374076(=配列番号22)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」の、その部分配列(=図43.中の破線形式の下線付き塩基配列部分)を参考にして設計したもの、またプライマーC376835(=配列番号23)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分」の、その部分配列(=図46.中の破線形式の下線付き塩基配列部分)を参考にして設計したもので、それぞれの塩基配列は下記の通りである。 プライマーC374076(=配列番号22):(Forward、30塩基、MW=9268、Tm=64.5) 5’−CTACTACTGGTGCAATTGGTGCAGGTTTAG−3’ プライマーC376835(=配列番号23):(Reverse、30塩基、MW=9228、Tm=64.8) 5’−ATGTATCGAGACAACTGTCGTGCTTCTGTG−3’ちなみに、プライマーC374076(=配列番号22)の5’−末端のシトシン(C)に相当する、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374076番目のシトシン(C)から、プライマーC376835(=配列番号23)の5’−末端のアデニン(A)に相当する、376835番目のチミン(T)までの塩基配列部分(図43.〜46.(=配列番号35))の長さ(=塩基数)は、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)では、図42.の上段の模式図にも記した通り、2760bpである。 また、供試株の領域(2)の有無を調べるためのPCR法では、プライマーC1132044(=配列番号24)とプライマーC1134278(=配列番号25)を用いた。用いたプライマーC1132044(=配列番号24)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」の、その部分配列(=図47.中の破線形式の下線付き塩基配列部分)を参考にして設計したもの、またプライマーC1134278(=配列番号25)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」の、その部分配列(=図49.中の破線形式の下線付き塩基配列部分)を参考に設計したもので、それぞれの塩基配列は下記の通りである。 プライマーC1132044(=配列番号24):(Forward、31塩基、MW=9489、Tm=65.3) 5’−ACTGGAGTCGAAAGCTCTACCATTGAGCCAC−3’ プライマーC1134278(=配列番号25):(Reverse、31塩基、MW=9463、Tm=64.4) 5’−CAGACTATGTTCTCGAAGATCTCACAAAGTC−3’ちなみに、プライマーC1132044(=配列番号24)の5’−末端のアデニン(A)に相当する、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の1132044番目のアデニン(A)から、プライマーC1134278(=配列番号25)の5’−末端のシトシン(C)に相当する、1134278番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(図47.〜49.(=配列番号40))の長さ(=塩基数)は、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)では、図42.の下段の模式図にも記した通り、2235bpである。 上記のPCR法で用いたこれらのプライマーの化学合成は、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。 PCR反応は、LA Taq−PCR法で行なった。反応液の調製は、上記の試験4.の手順の通りである。もちろん、TaKaRa LA Taq(登録商標)を使用しなければならないわけではなく、たとえば上記の同社製キット「TaKaRa Ex Taq(登録商標)(製品コード:RR001A)」や東洋紡株式会社製のキット「KOD −plus−(製品コード:KOD−201)」などを用いてもよい。 PCRサイクラーは、上記の「MyCyclerサーマルサイクラー」を用いた。[1]鋳型DNAの熱変性温度は(94〜)95℃とし、また[3]DNAポリメラーゼ反応の温度は72℃とした。[2]アニーリング反応は、通常ならば55〜60℃の範囲内の、さらに用いる2種類のプライマーの融解温度(melting temperature(Tm))のうちの低いほうの温度(ないしはそれより5℃程度低めの温度)で行なうのが一般的とされるが(西方敬人・川上純司・藤井敏司・長濱宏治(著):[細胞工学別冊]ゼロからはじめるバイオ実験マスターコース (1)実験の基本と原理、学研メディカル秀潤社 (2012))、本試験では、データ収集の目的から、この55〜60℃の範囲を超える、53.5℃、56.7℃、61.0℃、64.4℃の計4種類の温度条件を用いた。[1]〜[3]の反応の繰り返し回数は30回とした。すなわち、実際のPCR反応条件は、図51.中の、向かって右側の枠内の[増幅条件]の通りである。アガロースゲル電気泳動法の手順: PCR法による増幅産物の有無及び(増幅産物が生じた場合の)その増幅産物の鎖長の確認には、アガロースゲル電気泳動法を用いた。電気泳動装置は、上記のサブマリン−タイプ電気泳動システム「Mupid−2plus」、電気泳動用のゲルは上記の0.7%アガロースゲル、またゲル電気泳動用マーカーは上記の「1kb DNA Ladder」を用いた。上記のPCR反応後の溶液25μlのうち、1.5〜3μlに、上記の10×Loading Buffer1.5μlを加えたうえで、これを「TAE緩衝液を充たした上記のシステム(=電気泳動層)」内に置いた1.5%アガロースゲル上の窪み(ウェル)に流し込み、30分〜1時間程通電した(=ゲル電気泳動法)。泳動処理後のゲルを、上記の試験3.中の手順通りに染色処理したうえで、ゲルイメージング「AE−6932GXプリントグラフ」を使って、UV照射(波長:312nm)下でゲル(上の増幅産物)を観察し、増幅産物の有無、本数とそれぞれの鎖長を目視で確認し、写真も撮影した。ゲル上の増幅産物の鎖長は、上記の分子量マーカーに含まれる断片群との目視での相対的な移動度(=ゲル上の位置)比較によって推定した。 図50.〜57.は、上記の供試株20株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAとするLA Taq−PCR法で、各株における領域(1)及び領域(2)の有無を調べた結果を示すゲル電気泳動写真である。なお、図50.〜57.のすべては、上下2段の写真で構成されており、うち上段は「領域(1)の有無を調べるための、プライマーC374076(=配列番号22)とプライマーC376835(=配列番号23)とを用いたLA Taq−PCR法」で生じた増幅産物をゲル電気泳動した結果を示すゲル写真、うち下段は「領域(2)の有無を調べるための、プライマーC1132044(=配列番号24)とプライマーC1134278(=配列番号25)とを用いたLA Taq−PCR法」で生じた増幅産物をゲル電気泳動した結果を示すゲル写真となっている。 図50.は、(写真の上下段とも、向かって左側から順に)味噌から分離されたNISL3452株(=IFO0525株)、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)、醤油醸造工程から分離されたNISL3445株(=IFO0494株)、痰から分離されたNISL3458株(=IFO0740株)の計4株の場合のLA Taq−PCR法の結果を示すゲル写真である。本試験では、(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)した各株の核酸成分をあらかじめApaI処理したうえで、LA Taq−PCR法の鋳型DNAとして使用した。 まず、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法では、図50.の下段の写真が示す通り、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物は単一で、その鎖長は2kb強と、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)から算出される、プライマーC1132044(=配列番号24)の5’−末端のアデニン(A)に相当する1132044番目のアデニン(A)(図47.)と、プライマーC1134278(=配列番号25)の5’−末端のシトシン(C)に相当する1134278番目のグアニン(G)(図49.)との間の塩基数(2235bp)と合致しており、他の3株で生じた増幅産物も単一で、目視ではこのNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物と同じ鎖長に見える。 しかしながら、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法では、図50.の上段の写真が示す通り、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物の鎖長は3kb弱と、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)から算出される、プライマーC374076(=配列番号22)の5’−末端のシトシン(C)に相当する374076番目のシトシン(C)(図43.)と、プライマーC376835(=配列番号23)の5’−末端のアデニン(A)に相当する376835番目のチミン(T)(図46.)との間の塩基数(2760bp)と合致しており、NISL3458株(=IFO0740株(痰))の場合に生じた単一の増幅産物も、目視ではこのNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物と同じ鎖長に見えるのだが、ただし味噌から分離されたNISL3452株(=IFO0525株)や醤油醸造工程から分離されたNISL3445株(=IFO0494株)の場合に生じた増幅産物は単一だが、その鎖長は、目視でもはっきりと見分けられる程に、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)やNISL3458株(=IFO0740株(痰))の場合に生じた増幅産物よりも短く、1kb前後しかない。 上記した通り、PCR反応における[2]アニーリング反応温度としては、53.5℃、56.7℃、61.0℃、64.4℃の4条件を設定したが、株ごとに生じた増幅産物の(本数と)鎖長は、領域(1)及び(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で、4条件ともに(目視では)同じに見えた。つまり、この領域(1)及び(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法では、通常よりもより広範なアニーリング温度条件下においても、安定した結果を得る事ができる。 図51.は、この図50.の供試株4株のうちの2株、すなわち味噌から分離されたNISL3452株(=IFO0525株)と黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)について、上記した計3種類の核酸成分調製(または抽出)法、すなわち(写真の上下段とも、向かって左側から順に)(a)ビーズ破砕/フェノール処理法、(b)ISOPLANT法、(c)PrepMan Ultra Sample Preparation Reagent法で調製(または抽出)した核酸成分を、うち(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)した核酸成分については予めApaI処理したうえで、また(b)ISOPLANT法及び(c)PrepMan Ultra Sample Preparation Reagent法で調製(または抽出)した核酸成分については、ApaI処理せずに、そのままの状態で、鋳型DNAとして用いた場合のLA Taq−PCR法の結果を示すゲル写真である。 領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法では、図51.の(2)、すなわち下段のゲル写真3枚が示す通り、両株ともに、(a)(b)(c)のいずれの方法で調製(または粗精製)した核酸成分を用いた場合でも、2kb強の、同じ鎖長の増幅産物が生じ、また領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法でも、図51.の(1)、すなわち上段のゲル写真3枚示す通り、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物の鎖長は、(a)(b)(c)のいずれの方法で調製(または粗精製)した核酸成分を用いた場合でも3kb弱、NISL3452株(=IFO0525株)の場合に生じた増幅産物の鎖長も、(a)(b)(c)のいずれの方法で調製(または粗精製)した核酸成分を用いた場合でも1kb前後と、少なくとも目視では図50.の場合と同じで、しかも両株で生じた増幅産物の鎖長は、目視で簡単に見分けられる程に、明らかに異なっていた。つまり、上記の図50.の結果で見出された、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた、供試株ごとでの増幅産物の鎖長の違いは、供試株からの核酸成分の調製(または抽出)法や制限酵素処理の有無などに関係なく、安定的に観察されるものである事が判明した。 図52.〜54.は、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)から分離されたZ.rouxii株9株、すなわちNISL3763株(=IAM12879株)、NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、NBRC0505株、NISL3359株(=A31株)、NISL3402株(=IFO0506株)、NISL3450株(=IFO0521株)、NISL3455株(=IFO0533株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の場合の、領域(1)及び(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の結果を示したものである。LA Taq−PCR法で鋳型DNAとして用いた供試株の核酸成分は、(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)したものを、予めApaI処理したうえで用いた。それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、アニーリング反応温度を61.0℃としたLA Taq−PCR法での、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))及びNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物を同時に載せたが、これら9株の場合の、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物も図52.〜54.の(2)、すなわち下段の写真の通り、単一で、その鎖長は、鎖長比較用の2株の場合に生じた増幅産物の鎖長と、少なくとも目視では同じに見える一方、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物は図52.〜54.の(1)、すなわち上段の写真の通り、単一で、その鎖長は、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物よりも短く、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物とは、少なくとも目視では同じ鎖長に見える。つまり、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された9株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった際に生じる増幅産物のパターン(=バンドパターン)、すなわち本数及び各断片の鎖長は、同じく味噌・醤油及びその仕掛品(に当たる醤油醸造工程)から分離されたNISL3452株(=IFO0525株)やNISL3445株(=IFO0494株)の場合に生じるバンドパターンとは同じだが、黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)や痰といった、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)やNISL3458株(=IFO0740株)の場合に生じるバンドパターンとは異なっている、より具体的には増幅産物の鎖長が異なっている事が分かる。 図55.〜57.は、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株8株、すなわちNISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))、NBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合の、領域(1)及び(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の結果を示すゲル写真である。LA Taq−PCR法で鋳型DNAとして用いた供試株の核酸成分は(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)したものを、予めApaI処理したうえで用いた。それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、アニーリング反応温度を61.0℃としたLA Taq−PCR法での、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))及びNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物を同時に載せた。8株のうち、まずNBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合には、図57.の(1)及び(2)、すなわち上下段のゲル写真2枚の通り、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で、(アニーリング温度の如何を問わず)増幅産物が生じなかった(注:この増幅産物が生じなかった原因については、後に追加データを示して考察する)。このNBRC1812株(=IFO1812株(花))を除いた7株の場合の、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物は、図55.〜57.の(2)、すなわち下段のゲル写真の通り、単一で、その鎖長は鎖長比較用の2株の場合に生じた増幅産物と、少なくとも目視では同じ鎖長に見える一方、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物は、図55.〜57.の(1)、すなわち上段のゲル写真の通り、単一だが、その鎖長は、うちNBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合を除く6株では、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物よりも長く、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物とは、少なくとも目視では同じ鎖長に見える。つまり、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された8株のうち、NBRC1812株(=IFO1812株(花))及びNBRC10671株(=G4118株)を除く6株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった際に生じる増幅産物のパターン(=バンドパターン)、すなわち本数と各断片の鎖長は、同じく黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)や痰といった、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)やNISL3458株(=IFO0740株)の場合に生じるバンドパターンとは同じだが、味噌・醤油及びその仕掛品(に当たる醤油醸造工程)から分離されたNISL3452株(=IFO0525株)やNISL3445株(=IFO0494株)の場合に生じるバンドパターンとは異なっている、より具体的には増幅産物の鎖長が異なっている事が分かる。また、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合には、図57.の(1)、すなわち上段の写真の通り、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物も単一ではあったが、その鎖長は、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物の鎖長よりも短く、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物とは、少なくとも目視では同じ鎖長に見える(注:このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物の鎖長が、他の「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の場合に生じた増幅産物の鎖長と異なっていた原因についても、後に考察する)。 このように、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合に、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている株の場合には、(NBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合を除き)2kb強の(単一の)増幅産物が生じる事、また、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合には、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の場合は、(NBRC1812株(=IFO1812株(花))とNBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合を除き)Z.rouxiiの基準株であるNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))も含め、3kb弱の増幅産物が生じるのに対して、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株の場合には、それよりも短い1kb前後の増幅産物が生じ、しかも両者の増幅産物の鎖長の違いは上記の0.7%アガロースゲル電気泳動法を用いれば目視で簡単に見分ける事ができるため、現行の分類では同じ属種であるZ.rouxiiに分類されている株群を、[1]−1.「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された、(試験1.及び試験2.で示した通り)醤油及びその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)という高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応能力が低く、醤油諸味液汁中でのエタノール生産性能も低いために、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株群と、[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された、(試験1.及び2.で示した通り)醤油及びその仕掛品(である醤油諸味や生揚げ醤油など)という高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応能力が高く、醤油諸味液汁中でのエタノール生産性能も高いために、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株群との2群に容易に、かつ迅速に区分けできる事が判明した。 次に、Z.rouxii以外の酵母株にも、この領域(1)及び領域(2)があるのか否かを、同様に上記の、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で調べてみた。 試験7.Z.rouxii以外の酵母株における領域(1)及び領域(2)の有無の調査: 本試験に用いる供試株としては、菌株保存研究機関(=独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCや公益財団法人野田産業科学研究所(NISL))で保存されている酵母株群の中から、(1)Z.rouxiiとの近縁性なども考慮して選び出した。たとえば、Jamesらのグループが行なった、ITS1を指標としたZygosaccharomyces属酵母の系統分類の結果によると、Z.rouxiiと近縁な関係にあるのはZ.bailiiやZ.bisporus(チゴサッカロミセス(またはチゴサッカロマイセス)・ビスポラス)、またITS2を指標とした系統分類の結果では、Z.rouxiiと近縁な関係にあるのはZ.mellisだとされる事から(S.A.James,M.D.Collins and I.N.Roberts:Int.J.Syst.Bacteriol.,46(1),189−194 (1996))、現行の分類でこうした属種に分類されている酵母株も供試株として選択した。すなわち、Z.bailii NBRC1801株(=IFO1801株(土(日本)))、Z.bailii NBRC10667株(腐敗したトマトケチャップ(日本))、Z.bailii NISL3440株(=NBRC0493株=旧:Z.rouxii IFO0476株(日本酒粕))、Z.bisporusの基準株であるNBRC1131株(分離源不明)、Z.mellisの基準株であるNBRC1615株(蜂蜜(アメリカ))に、さらにS.cerevisiae NISL3398株(=ATCC4126株(分離源不明))とS.cerevisiae NISL3750株(=IAM4919株(廃糖蜜))も加えた7株である。また、本試験に用いる供試株としては、菌株保存研究機関で保存されている酵母株群の中から、分離源に関する記録が公表されていて、(2)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などから分離された株であるものも選び出した。たとえば、耐塩性を有するC.etchellsii NISL3720株(=IFO10037株(醤油諸味(日本)))とその基準株であるNISL3719株(=IFO1592株(発酵キュウリ漬(アメリカ)))、C.versatilis NISL3722株(=IFO10038株(醤油諸味(日本)))、Candida famata var.famata(キャンディダ(またはカンジダ)・ファマタ・バリエタス・ファマタ) NBRC0856株(溜醤油諸味(日本))、C.krusei(クルゼイ) NBRC0201株(誉味噌(日本))、C.halonitratophila(ハロニトラトフィラ) NBRC1906株(醤油諸味)、C.tropicalis(トロピカリス) NBRC0199株(桜味噌(日本))、産膜性/醤油「非」産膜性のP.farinosa NBRC0991株(味噌(日本))の8株である。上記の、Zygosaccharomyces属やSaccharomyces属に分類されている酵母株7株と合わせると、計15株である。 まず、図58.〜60.は、Z.rouxiiの近縁種であるZ.mellis NBRC1615株(蜂蜜)、Z.rouxiiと同属(Zygosaccharomyces属)のZ.bailii NBRC1801株(=IFO1801株(土))、Z.bailii NBRC10667株(腐敗したトマトケチャップ)、Z.bailii NISL3440株(=NBRC0493株=旧:Z.rouxii IFO0476株(日本酒粕))やZ.bisporus NBRC1131株(分離源不明)、S.cerevisiae NISL3398株(=ATCC4126株(分離源不明))及びS.cerevisiae NISL3750株(=IAM4919株(廃糖蜜))の計8株についての、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の結果を示すゲル写真である。LA Taq−PCR法で鋳型DNAとして用いた供試株の核酸成分は(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製したものを、予めApaI処理したうえで用いた。それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、アニーリング反応温度を61.0℃としたLA Taq−PCR法での、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))及びNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物を同時に載せたが、これら8株の場合には、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方において、増幅産物自体が生じなかった。 上記の図57.〜60.のゲル写真で示した、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で増幅産物が生じなかったZ.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))、Z.bailii NBRC1801株(=IFO1801株(土))やZ.bailii NBRC10667株(腐敗したトマトケチャップ)、Z.bailii NISL3440株(=NBRC0493株=旧:Z.rouxii IFO0476株(日本酒粕))、Z.bisporus NBRC1131株(分離源不明)、Z.mellis NBRC1615株(蜂蜜(アメリカ))、S.cerevisiae NISL3398株(=ATCC4126株(分離源不明))、S.cerevisiae NISL3750株(=IAM4919株(廃糖蜜))の計8株については、((a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製(または抽出)した核酸成分の代わりに)、(b)ISOPLANT法で調製(または抽出)した核酸成分を、ApaI処理せずに、そのまま鋳型DNAとして用いるLA Taq−PCR法も試してみたが、8株すべてにおいて、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方において、増幅産物自体が生じなかった。1例として、この8株のうちの4株、すなわちZ.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))、Z.mellis NBRC1615株(蜂蜜)、S.cerevisiae NISL3398株(=ATCC4126株(分離源不明))、S.cerevisiae NISL3750株(=IAM4919株(廃糖蜜))の場合の結果(=図61.及び図62.のゲル写真)を示す。この結果から、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった際に、これら8株の場合に増幅産物が生じないという現象には再現性があり、かつ供試株からの核酸成分の調製(または抽出)法や制限酵素処理の有無などに関係なく、安定的に観察されるものである事が判明した。 図63.及び図64.は、C.etchellsii NISL3719株(=IFO1592株(発酵キュウリ漬))、C.etchellsii NISL3720株(=IFO10037株(醤油諸味))、C.versatilis NISL3722株(=IFO10038株(醤油諸味))、C.famata var.famata NBRC0856株(溜醤油諸味)、C.krusei NBRC0201株(誉味噌)、C.halonitratophila NBRC1906株(醤油諸味)、C.tropicalis NBRC0199株(桜味噌)、P.farinosa NBRC0991株(味噌)の計8株についての、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の結果を示すゲル写真である。LA Taq−PCR法で鋳型DNAとして用いた供試株の核酸成分は(a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製したものを、予めApaI処理したうえで用いた。それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、アニーリング反応温度を61.0℃としたLA Taq−PCR法での、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))及びNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物を同時に載せたが、これら8株の場合にも、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方において、増幅産物自体が生じなかった。領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で増幅産物が生じなかったこれら8株については、((a)ビーズ破砕/フェノール処理法で調製した核酸成分の代わりに)、(b)ISOPLANT法で調製した核酸成分を、ApaI処理せずに、そのまま鋳型DNAとして用いるLA Taq−PCR法も試してみたが、8株すべてにおいて、そして両方のLA Taq−PCR法において、増幅産物自体が生じなかった(注:データは省略する)。この結果から、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった際に、これら8株の場合に増幅産物が生じなかったという現象には再現性があり、かつ供試株からの核酸成分の調製(または抽出)法や制限酵素処理の有無などに関係なく、安定的に観察されるものである事が判明した。 このように、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合に、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株の場合には(NBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合を除き)2kb強の増幅産物が生じるのに対して、Z.rouxii以外の酵母株の場合には、たとえその株がZ.bailiiやZ.bisporus、Z.mellisといった、同属の近縁株であったとしても、またたとえその株が、たとえばC.versatilis NISL3722株(=IFO10038株(醤油諸味(日本)))、C.famata var.famata NBRC0856株(溜醤油諸味(日本))、C.krusei NBRC0201株(誉味噌(日本))、C.halonitratophila NBRC1906株(醤油諸味)、C.tropicalis NBRC0199株(桜味噌(日本))、P.farinosa NBRC0991株(味噌(日本))などのように、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株であったとしても、増幅産物が生じず、しかもその増幅産物の有無は上記の0.7%アガロースゲル電気泳動法を用いれば目視で簡単に確認できる、つまりこの領域(2)の有無を指標に、たとえば味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された(未同定の)酵母株群を、[1]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群と、たとえばCandida属酵母株やPichia属酵母などのような、[2]Z.rouxii以外の酵母株群との2群に容易に、かつ迅速に区分けできる事が判明した。 また、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合にも、[1]−1.現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株で、かつ「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された株の場合には(NBRC1812株(=IFO1812株(花))及びNBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合を除き)3kb弱、また[1]−2.現行の分類でZ.rouxiiに分類されている酵母株で、かつ味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)から分離された株の場合には1kb前後の増幅産物が生じるのに対して、[2]Z.rouxii以外の酵母株の場合には、たとえその株がZ.bailiiやZ.bisporus、Z.mellisといった、同属の近縁株であったとしても、またたとえその株が、たとえばC.versatilis NISL3722株(=IFO10038株(醤油諸味(日本)))、C.famata var.famata NBRC0856株(溜醤油諸味(日本))、C.krusei NBRC0201株(誉味噌(日本))、C.halonitratophila NBRC1906株(醤油諸味)、C.tropicalis NBRC0199株(桜味噌(日本))、P.farinosa NBRC0991株(味噌(日本))などのように、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株であったとしても、増幅産物が生じず、しかもその増幅産物の有無は上記の0.7%アガロースゲル電気泳動法を用いれば目視で簡単に確認できる、つまりこの領域(1)の有無を指標に、たとえば味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された(未同定の)酵母株群を、[1]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群と、たとえばCandida属酵母株やPichia属酵母などのような、[2]Z.rouxii以外の酵母株群との2群に容易に、かつ迅速に区分けでき、さらに[1]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群については、その増幅産物の鎖長を指標に、[1]−1.「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された、(試験1.及び試験2.で示した通り)醤油という高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応能力が低く、醤油諸味(液汁)中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株群と、[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)から分離された、(試験1.及び2.で示した通り)醤油という高濃度の食塩(NaCl)を含む環境への適応能力が高く、醤油諸味(液汁)中でのエタノール生産性能も高い事から、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株群との2群に容易に、かつ迅速に区分けできる事が判明した。 そこで、上記の試験6.のLA Taq−PCR法で生じた増幅産物について、それらの塩基配列を解読してみた。 試験8.さまざまなZ.rouxii株の核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物の塩基配列解読(シークエンシング): 上記の試験6.における、各株の、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物のうち、64.4℃のアニーリング温度条件下で生じた増幅産物から、上記の試験3.の手順で、PCR産物を調製(または粗精製)した。 増幅産物の塩基配列解読(シークエンシング)は、以下の手順で行なった。キャピラリーシークエンサーを用いての、1回の塩基配列解読(シークエンシング)で読み取れる塩基配列の鎖長は、せいぜい800bp前後が限界とされる(藤博幸(編):はじめてのバイオインフォマティクス、p79−96(平川英樹(著))、講談社サイエンティフィク (2006))。領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物の鎖長はすべて2kb強なので、1回の塩基配列解読(シークエンシング)で、その全長を解読する事はできない。そこで、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の解読には、解読用プライマーC1132159(=配列番号26)、解読用プライマーC1133448R(=配列番号27)、解読用プライマーC1134123R(=配列番号28)の、計3種類の解読用プライマーを用いた。この解読用プライマーC1132159(=配列番号26)は、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」の、その部分配列(=図47.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考にして設計したもの、解読用プライマーC1134123R(=配列番号28)は1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」よりもやや上流の配列部分(=図49.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考に設計したもの、また解読用プライマーC1133448R(=配列番号27)も、1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」と、1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」との間に位置する、1132454番目のシトシン(C)から1133788番目のチミン(T)までの塩基配列部分の、その部分配列(=図48.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考に設計したものであり、これらの解読用プライマーの塩基配列は、下記の通りである。 解読用プライマーC1132159(=配列番号26):(21塩基、MW=6458、Tm=60.2)5’−TGTTCTTGCATATGGGCATTG−3’ 解読用プライマーC1133448R(=配列番号27):(21塩基、MW=6342、Tm=60.8)5’−CAGGATCCTTCTCAGAGCCTC−3’ 解読用プライマーC1134123R(=配列番号28):(21塩基、MW=6504、Tm=61.3) 5’−AGAGTCGGAACCAAGCGTTAG−3’この解読用プライマーC1132159(=配列番号26)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)では、領域(2)−(a)の上流領域を起点に、その下流にある領域(2)−(a)の全長と、さらに領域(2)−(b)の一部を、また解読用プライマーC1133448R(=配列番号27)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)では、領域(2)−(b)上の塩基配列部分を起点に、その上流にある領域(2)−(a)の一部を、さらに解読用プライマーC1134123R(=配列番号28)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)では、領域(2)−(c)の下流領域を起点に、その上流にある領域(2)−(c)の全長と、領域(2)−(b)の一部を解読する事ができる(注:プライマー名の末尾の「R」は、下流側から上流側へ向けて逆手方向に解読するプライマーである事を示している)。 領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列の解読の際に用いる解読用プライマーは、これらの塩基配列に限定されるものではない。上記の3種類の解読用プライマーのうち、たとえば解読用プライマーC1134123R(=配列番号28)の代わりに、解読用プライマーC1133112(=配列番号29)を用いたとしても、解読用プライマーC1134123R(=配列番号28)を用いた際の塩基配列解読(シークエンシング)と同様、正確に塩基配列を解読する事ができる。用いた解読用プライマーC1133112(=配列番号29)の塩基配列は、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1133047番目のシトシン(C)から1133468番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(422bp)に当たる「領域(2)−(b)」の、その部分配列(=図48.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考にして設計したもので、その塩基配列は下記の通りである。 解読用プライマーC1133112(=配列番号28):(22塩基、MW=6769、Tm=61.5)5’−GCAATGCAGGAAGCTTGCAATC−3’PCR法で用いたこれらのプライマーの化学合成は、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。 一方、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法では、上記した通り、供試株の種類、より正確には供試株の「分離源」とその「醸造特性」の違いによって、鎖長の異なる2種類の増幅産物、すなわち[1]−1.Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))を含む、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた3kb弱の増幅産物と、[1]−2.NISL3452株(=IFO0525株(味噌))を含む、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた1kb前後の増幅産物とが生じたため、前者の増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の解読に必要な必要な解読プライマーの本数及び種類は、後者の増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の解読に必要な解読用プライマーの本数及び種類とは異なる。後者の増幅産物、すなわち[1]−2.NISL3452株(=IFO0525株(味噌))を含む、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた1kb前後の増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)には、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(228bp)」の、その部分配列(=図46.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考にして設計した解読用プライマーC376797R(=配列番号30)を用いた。用いた解読用プライマーC376797R(=配列番号30)の塩基配列は、下記の通りである。 解読用プライマーC376797R(=配列番号30):(22塩基、MW=6831、Tm=61.3)5’−GTTGATAGACGACAGGTTGCTG−3’ この[1]−2.NISL3452株(=IFO0525株(味噌))を含む、味噌や醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた1kb前後の増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列の解読の際に用いる解読用プライマーは、この塩基配列に限定されるものではない。この解読用プライマーC376797R(=配列番号30)の代わりに、たとえば解読用プライマーC374123(=配列番号31)を用いても、きれいに解読する事ができる(注:詳しいデータは省略する)。用いた解読用プライマーC374123(=配列番号31)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」の、その部分配列(=図43.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考にして設計したもので、その塩基配列は下記の通りである。 解読用プライマーC374123(=配列番号31):(22塩基、MW=6688、Tm=61.4) 5’−AGAAATAGCACTGTCGTCCCAC−3’ 一方、前者の増幅産物、すなわち[1]−1.Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))を含む、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の鎖長は3kb弱と、前者、すなわち[1]−2.NISL3452株(=IFO0525株(味噌))を含む、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた増幅産物(1kb前後)から調製(または粗精製)したPCR産物よりも大きく(=鎖長が長く)、ゆえに上記の解読用プライマーC376797R(=配列番号30)ないしは解読用プライマーC374123(=配列番号31)を用いた塩基配列解読(シークエンシング)1回だけでは、PCR産物の全塩基配列を解読し切れない。そこで、こうした増幅産物の塩基配列解読(シークエンシング)には、上記の解読用プライマーC376797R(=配列番号30)及び解読用プライマーC374123(=配列番号31)と、さらに領域(1)上の部分配列(=図44.中の破線形式の矢印付き塩基配列部分)を参考にして設計した解読用プライマーC375297(=配列番号32)及び解読用プライマーC375464R(=配列番号33)も加えた、計4種類の解読用プライマーを用いた。新たに用いた解読用プライマーC375297(=配列番号32)及び解読用プライマーC375464R(=配列番号33)の塩基配列は、下記の通りである。 解読用プライマーC375297(=配列番号32):(21塩基、MW=6365、Tm=59.7) 5’−AGTTCTGTACTTCCACAGAAC−3’ 解読用プライマーC375464R(=配列番号33):(21塩基、MW=6432、Tm=59.9) 5’−CCAAAGCAATGTTAGGACAAC−3’ なお、[1]−1.Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))を含む、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株群の場合に生じた3kb弱の鎖長のPCR産物の塩基配列の解読の際に用いる解読用プライマーは、これらの塩基配列に限定されるものではない。上記4種類の解読用プライマーのうち、たとえば解読用プライマーC375297(=配列番号32)の代わりに、領域(1)上の部分配列(=図44.中の破線形式の下線付き塩基配列部分)を参考にして設計した解読用プライマーC375269(=配列番号34)を用いたとしても、解読用プライマーC375297(=配列番号32)を用いた際の解読と同様、正確に塩基配列を解読する事ができる(注:詳しいデータは省略する)。用いた解読用プライマーC375269(=配列番号34)の塩基配列は、下記の通りである。 解読用プライマーC375269(=配列番号34):(22塩基、MW=6800、Tm=61.2)5’−TGATCTTGACCAGGAGATGCAG−3’PCR法で用いたこれらのプライマーの化学合成は、株式会社日本バイオサービスに委託した(DNA合成:スモールスケール品)。 PCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)は、株式会社バイオマトリックス研究所に委託した(注:DNAシーケンス受託解析のAタイプ)。 塩基配列解読(シークエンシング)結果の、既知の塩基配列情報との照合(=相同性検索)などの解析処理には、米国(立)バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)上に公開されている相同性検索プログラム「BLAST」(http://blast.ncbi.nlm.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastn&BLAST_PROGRAMS=megaBlast&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthome)のうちの、データベース上の既知の塩基配列情報の中から「問い合わせ(クエリー(query))配列」との類似性が高いものだけを選択するための、つまり「塩基対塩基」用プログラムである「nucleotide blast(Seatch a nucleotide database using a nucleotide query)」を用いた。 上記の試験6.で示した通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株20株の、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、うちNBRC1812株(=IFO1812株(花))を除いた19株の場合に生じた増幅産物の鎖長はいずれも2kb強と、目視上は同じ鎖長に見え、しかも公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)から算出される、プライマーC1132044(=配列番号24)の5’−末端のアデニン(A)に相当する1132044番目のアデニン(A)(図47.)と、プライマーC1134278(=配列番号25)の5’−末端のシトシン(C)に相当する1134278番目のグアニン(G)(図49.)との間の塩基数(2235bp)と合致しているように見えた。そこで、これらの増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を解読し、CBS732株(=ATCC2623株IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同領域の塩基配列と比較してみた。 図73.〜78.は、上記の試験6.での、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株の、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から上記の手順で調製(または精製)したPCR産物の塩基配列の解読結果の一部、つまり公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1132394番目のシトシン(C)から1133843番目のシトシン(C)までの、すなわち領域(2)を含む塩基配列部分(1450bp)に相当する配列部分(=配列番号42〜44)を示したものであり、また図83.はこれらPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)結果を、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(1450bp)との比較で模式図化したものである。図83.中の三角形の印は、それぞれの株のPCR産物の解読結果の、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分と一致しない塩基の位置を示している。 これらのPCR産物の塩基配列を解読した結果、まず[1]NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分のそれと完全に一致(=100%相同)している事、そして[2]19株ともに鎖長(=塩基数)は同じ(1450bp)で、[3]うち8株、すなわちNISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))、NISL3359株(=A31株(醤油))、NISL3459株(=IFO0845株(溜醤油諸味))、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図73.及び図74.(=配列番号42)、模式図は図83.の(1))も、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(1450bp)のそれと完全に一致(=100%相同)している事、また[4]うち3株、すなわちNISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図75.及び図76.(=配列番号43)、模式図(後記)は図83.の(2))はいずれも、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(1450bp)とは、「1132800番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている」、「1133049番目のシトシン(C)がグアニン(G)になっている」、「1133564番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」、「1133683番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている」という計4塩基の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事、[5]うち7株、すなわちNISL3445株(=IFO0494株(醤油醸造工程))、NISL3763株(=IAM12879株(味噌))、NISL3402株(=IFO0506株(醤油関連))、NISL3450株(=IFO0521株(醤油諸味))、NISL3455株(=IFO0533株(味噌))、NBRC0505株(醤油関連)、NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図77.及び図78.(=配列番号44)、模式図(後記)は図83.の(3))はいずれも、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(1450bp)とは、「1133060番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている」という1塩基の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事が判明した。 上記の試験6.で示した通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された9株のうち、唯一増幅産物が生じなかったNBRC1812株(=IFO1812株(花))と、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))を除いた7株、すなわちNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物の鎖長はいずれも3kb弱と、目視上は同じ鎖長に見え、しかも公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)から算出される、プライマーC374076(=配列番号22)の5’−末端のシトシン(C)に相当する374076番目のシトシン(C)(図43.)と、プライマーC376835(=配列番号23)の5’−末端のアデニン(A)に相当する376835番目のチミン(T)(図46.)との間の塩基数(2760bp)とも合致しているように見えた。そこで、これらの増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を解読し、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同領域の塩基配列と比較してみた。 図84.〜91.は、上記の試験6.での、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から上記の手順で調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列の解読結果の一部、つまり公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」の、その374426番目のチミン(T)から、「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」の、その376675番目のグアニン(G)までの、すなわち領域(1)を含む塩基配列部分(2250bp)に相当する配列部分(=配列番号47〜50)を示したものであり、また図93.は、これらPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)結果を、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(2250bp)との比較で模式図化したものである。図93.中の三角形の印は、それぞれの株のPCR産物の解読結果の、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(2250bp)と一致しない塩基の位置を示している。 これらのPCR産物の塩基配列を解読した結果、まず[1]NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=塩基配列は省略、模式図は図93.の(1)−1.)は、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(2250bp)のそれと完全に一致(=100%相同)している事、そして[2]うち2株、すなわちNISL3458株(=IFO0740株(痰))及びNBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図84.〜86.(=配列番号47)、模式図は図93.の(1)−2.)は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の376332番目のチミン(T)と376333番目のチミン(T)との間に、「シトシン−チミン−チミン(CTT)」の3塩基の繰り返しで構成された、「シトシン−チミン−チミン−シトシン−チミン−チミン−シトシン−チミン−チミン(CTTCTTCTT)」の9塩基(=図86.中の枠囲いにした塩基配列部分)が余分にある事を除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事、また[3]うち4株、すなわちNISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図87.〜89.(=配列番号48)、模式図は図93.の(1)−3.)は、上記[2]の2株で見つかった「376332番目のチミン(T)−376333番目のチミン(T)間の余分な9塩基(=図89.中の枠囲いにした塩基配列部分)」に加え、さらに領域(1)上の「375563番目のグアニン(G)がシトシン(C)になっている」という違いも見つかったものの、この2箇所の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事が判明した。つまり、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された9株のうちの7株は、pSR1類似配列のうちの1つである領域(1)、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)を持っている事が判明した。上記した通り、供試株のうちの6株、すなわちNISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物は、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物よりも鎖長が9塩基分長かったり、また一致しない塩基部分もあるが、こうした塩基や鎖長(=塩基数)の違いは上記のゲル電気泳動法での目視検査だけでは見分けられない。 一方、上記の試験6.で示した通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された11株、すなわち醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3445株(=IFO0494株)やNISL3763株(=IAM12879株)、NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、NISL3402株(=IFO0506株)、NISL3450株(=IFO0521株)、NISL3455株(=IFO0533株)、NBRC0505株、醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3452株(=IFO0525株)やNISL3359株(=A31株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の場合に生じた増幅産物の鎖長はいずれも1kb前後と、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)から算出される、プライマーC374076(=配列番号22)の5’−末端のシトシン(C)に相当する374076番目のシトシン(C)(図43.)と、プライマーC376835(=配列番号23)の5’−末端のアデニン(A)に相当する376835番目のチミン(T)(図46.)との間の塩基数(2760bp)や、さらには「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された7株、すなわちNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物の鎖長(3kb弱)よりも短かった。 そこで、これらの増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を解読し、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(2250bp)と比較してみたところ、[4]醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))(=図90.(=配列番号49)、模式図は図93.の(2))や醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))(=図91.(=配列番号50)、模式図は図93.の(3)−1.)を含む11株では、pSR1類似配列のうちの1つである領域(1)、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)がない(または欠けている)事が判明した。そのため、これら11株では、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間の塩基配列部分の塩基数は、わずか493bpしかない。上記の試験6.の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された11株の場合に生じた増幅産物の鎖長が1kb前後と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株(のうち、NBRC1812株(=IFO1812株)及びNBRC10671株(=G4118株)を除いた7株)の場合に生じた増幅産物の鎖長(3kb弱)よりも短かったのは、そのためだと判明した。 さらに、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された11株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)結果を詳細に調べてみると、[5]醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))(=図90.(=配列番号49)、模式図は図93.の(2))や醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))(=図91.(=配列番号50)、模式図は図93.の(3)−1.)を含む11株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列では、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分(2250bp)と合致しない計4箇所(=計4塩基)、すなわち「374459番目のアデニン(A)がない(または欠けている(・))」、「376292番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」、「376306番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている」、「376377番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」という塩基違いが見つかった。さらに、[6]11株のうち、上記の試験5.の醤油産膜性試験において、濃口醤油(及び濃口生揚げ醤油)中で皮膜を形成した、つまり醤油産膜性Z.rouxii株である4株、すなわちNISL3452株(=IFO0525株)、NISL3359株(=A31株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図91.(=配列番号50)、模式図は図93.の(3)−1.)では、さらに「CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」という塩基違いが見つかった。この「CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」という塩基違いは、上記の試験5.の醤油産膜性試験において、濃口醤油(及び濃口生揚げ醤油)中で皮膜を形成しなかった、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株の7株、すなわちNISL3445株(=IFO0494株(醤油醸造工程))、NISL3763株(=IAM12879株(味噌))、NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))、NISL3402株(=IFO0506株(醤油関連))、NISL3450株(=IFO0521株(醤油諸味))、NISL3455株(=IFO0533株(味噌))、NBRC0505株(醤油関連)の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物はもちろん、上記の「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された(醤油「非」産膜性の)Z.rouxii株の7株、すなわちNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列にも見られないものであり、つまり「醤油産膜性Z.rouxii株特異的な塩基違い」である事が判明した。 なお、上記の試験6.で記した通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株の、領域(1)及び(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxiiの9株のうち、図57.や図61.でも示した通り(=図94.の(1)及び(2)に再度示す)、「唯一」増幅産物が生じなかったZ.rouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))については、上記の試験4.、すなわちHarrisonらのPCR法(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))で、この株が持つイミダゾールグリセロール燐酸デヒドラダーゼ遺伝子(HIS3)の数と種類とを調べてみた。 図94.の(3)及び(4)は、その結果を示すゲル写真である。比較用の供試株としては、Z.rouxii特異的なプライマーを用いたPCR法では増幅産物が生じるが、Z.pseudorouxii特異的なプライマーを用いたPCR法では増幅産物が生じず、ゆえにGordonらやHarrisonらが[1](生粋の)Z.rouxii群に分類すべきとしているZ.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))と、Z.rouxii特異的なプライマーを用いたPCR法とZ.pseudorouxii特異的なプライマーを用いたPCR法との両方で増幅産物が生じ、ゆえに[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされる醤油産膜性Z.rouxii NISL3452株(=IFO0525株(味噌))とを用いた。PCR法で鋳型DNAとして用いた核酸成分は、3株ともに、上記の(b)ISOPLANT法で調製した。 図94.の(4)のゲル写真が示す通り、NBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合には、Z.pseudorouxii特異的なプライマーを用いたPCR法ではNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物と、目視では同じ鎖長に見える増幅産物が生じたものの、図94.の(3)のゲル写真が示す通り、Z.rouxii特異的なプライマーを用いたPCR法では増幅産物自体が生じず、ゆえに(この株を保存しているNBRCでも、発明者が同株を分譲された際(2010年7月時点)にはZ.rouxiiに分類していたものの、現在はZygosaccharomyces sp.に区分けし直しており)GordonやHarrisonらが[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとしている株である(可能性が高い)事が判明した。IFO1812株(=NBRC1812株(花))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列は、上記した通り、Suezawaらによって既に解読されているが(AB302807.1、GI:208609197)、その鎖長は580bpで、いわゆるSuezawaらがType2と称している、GordonらやHarrisonらが[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとしているNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(AJ555406.1、GI:46094756(560bp)(=配列番号2))と完全に一致(=100%相同)している事も、この推察を支持するものである。 上記した通り、試験1.の醤油諸味液汁(のエタノール)発酵試験、試験2.の生存試験や試験5.の醤油産膜性試験などの際に、このNBRC1812株(=IFO1812株(花(日本)))だけは、他のZ.rouxii株に較べると耐塩性能が極端に弱い事も確認している。試験1.、試験2.、試験5.で用いた供試株20株の種培養液1ml当たりの酵母数(CFU/ml)の計数には、食塩(NaCl)濃度が約10%と、種培養液とほぼ同じ食塩(NaCl)濃度の生醤油寒天を用いる塗抹培養法を用いたが、供試株20株の中で唯一、このNBRC1812株(=IFO1812株(花(日本)))だけが、図1.で示した通り、同寒天上では菌集落(コロニー)を形成せず、種培養液1ml当たりの酵母数(CFU/ml)の計数用に、食塩(NaCl)濃度を7%程度にまで減らした「生醤油寒天(7%NaCl)」を用いざるを得なかった。 仮に、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で増幅しようとした、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、プライマーC374076(=配列番号22)の5’−末端のシトシン(C)に相当する374076番目のシトシン(C)(図43.)と、プライマーC376835(=配列番号23)の5’−末端のアデニン(A)に相当する376835番目のチミン(T)(図46.)との間の塩基配列部分(注:この場合には、同塩基配列上の領域(1)の有無は考慮しない)や、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で増幅しようとした、同じく染色体C上の、プライマーC1132044(=配列番号24)の5’−末端のアデニン(A)に相当する1132044番目のアデニン(A)(図47.)と、プライマーC1134278(=配列番号25)の5’−末端のシトシン(C)に相当する1134278番目のグアニン(G)(図49.)との間の塩基配列部分が[1](生粋の)Z.rouxii群に由来する塩基配列部分だと仮定した場合、「NBRC1812株(=IFO1812株(花))だけが、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で増幅産物が生じなかった」という事実は、論理的に納得のゆく話でもある。もし仮りに、これらの塩基配列部分が[1](生粋の)Z.rouxii群に由来する塩基配列部分であるとすれば、これらの塩基配列部分を持つのは[1](生粋の)Z.rouxii群に区分けすべきとされる株群と、その(生粋の)Z.rouxii群に区分けすべきとされる株とZ.pseudorouxii群に区分けすべきとされる株との交雑によって生まれた株だとさ(れ、(生粋の)Z.rouxii群由来の遺伝子情報も受け継いでいるものと見ら)れる[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされる株群だけであり、NBRC1812株(=IFO1812株(花))のような、[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとされる株群は同塩基配列部分を持っていないはずだからである。 このように、NBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合に、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で増幅産物が生じなかった理由としては、この株が、供試株として選んだ計20株の中で唯一[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとされる株であったためとも考えられる。 ただし、[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべきとされる株に関する報告は、上記した通り、JamesらによるNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))(S.A.James,C.J.Bond,M.Stratford and I.N.Roberts:FEMS Yeast Res.,5(8),747−755 (2005))ぐらいしかなく、現時点ではその表現形質に関する報告もない。 たとえば、上記の、バルサミコ酢(イタリア)から分離されたZ.sapae ABT301株や、Z.sapae ABT601株は、Z.pseudorouxii NCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))と同一(=100%相同)の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列を持つ事から、当初はZ.pseudorouxiiだと見做され(L.Solieri,S.Landi,L.De Vero and P.Giudici:J.Appl.Microbiol.,101(1),63−71 (2006))、それゆえにGenBank、ENA、DDBJが協力して構築している国際塩基配列データベース(INSD)にもZ.pseudorouxii株の塩基配列情報として登録されたが(注:Z.pseudorouxii ABT301株の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(623bp)の情報はAJ966342.3(GI:384080460)、Z.pseudorouxii ABT601株の26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列(623bp)の情報はAJ966517.3(GI:388489492))、その後の研究結果から判明した生理・生化学的、あるいは分子生物学的な特徴がZ.rouxiiの基準株であるCBS732株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪))やZ.pseudorouxii NCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))のそれとは明らかに異なる事(L.Solieri,S.Cassanelli and P.Giudici:Yeast,24(5),403−417 (2007)、L.Solieri,S.Cassanelli,M.A.Croce and P.Giudici:Fungal Genet.Biol.,45(12),1582−1590 (2008)、L.Solieri,T.C.Dakal,M.A.Croce and P.Giudici:FEMS Yeast Res.,13(3),245−258 (2013))を理由に、結果的にはこれらの株を区分けするための(Z.pseudorouxii NCYC3042株とは別種の)Zygosaccharomyces sapae sp.nov.(チゴサッカロミセス・サパエ・スピーシーズ・ノバ)という新種が設けられ、うちABT301株(バルサミコ酢(イタリア))は基準株に指定された(L.Solieri,T.C.Dakal and P.Giudici:Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,63(Pt 1),364−371 (2013))。国際塩基配列データベース(INSD)にZ.pseudorouxii株のものとして登録されている26SrRNA遺伝子の(D1/D2領域を含む)部分配列情報としては、他にATCC42981株(=IAM12879株(味噌))の部分配列(=clone1(AM947681.1、GI:170650320(624bp))及びclone2(AM947680.1、GI:170650319(622bp)))やOUT7136株(醤油諸味)の部分配列(HE664094.1、GI:380496958(570bp))もあるが(2014年2月28日調査時点)、いずれも味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された株であり、少なくとも主要な菌株保存研究機関ではZ.rouxiiとして取り扱われている。つまり、Z.pseudorouxiiに区分けすべき株は、現時点ではNCYC3042株(ソフトドリンク工場(イギリス))以外にない。 そして、[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべき株なのか否かを調べる方法も、上記のHarrisonらのPCR法(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))ぐらいしかない。 それゆえに、NBRC1812株(=IFO1812株(花))を[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべき株だと現時点で断定する事は難しく、ゆえにNBRC1812株(=IFO1812株(花))の場合に、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で増幅産物が生じなかった理由としては、単に今回発見した法則性に合致しない「例外的な株」であった可能性も考えられる。ただ、本発明は、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される、現行の分類ではZ.rouxiiに分類され、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高い株群」の迅速かつ容易な判別法に関するものであり、ゆえに「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株群の一部に、このNBRC1812株(=IFO1812株(花))のような、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で増幅産物が生じない例外株がいたとしても、特に問題にはならない。現時点で、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)からZ.pseudorouxiiが分離されたとの報告はないからである。 また、上記の試験6.で示した通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株20株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された9株のうち、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物の鎖長は、(上記のNBRC1812株(=IFO1812株(花))を除いた)他の7株の場合に生じた増幅産物(3kb弱)よりも短く、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))を含む、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された11株の場合に生じた増幅産物(1kb前後)と、少なくとも目視では同じ鎖長に見えた。そこで、このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を解読し、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分と比較してみたところ、[1]pSR1類似配列のうちの1つである領域(1)、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)がなく(または欠けており)、[2]「374459番目のアデニン(A)がない(または欠けている(・))」、「376292番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」、「376306番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている」、「376377番目のチミン(T)がシトシン(C)になっている」という計4箇所(=計4塩基)の塩基違いが見つかった(注:ちなみに、374498番目の塩基はチミン(T)である)。つまり、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、たとえばNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)など、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株の7株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列と完全に一致(=100%相同)していた。上記の試験6.の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物の鎖長が1kb前後と、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された(NBRC1812株(=IFO1812株(花))及びこのNBRC10671株(=G4118株(マジパン))を除いた)7株の場合に生じた増幅産物の鎖長(3kb弱)より短く、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味など)から分離されたZ.rouxii株の場合に生じた増幅産物と、目視上同じ鎖長に見えたのは、そのためである。 そこで、このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))についても、上記のNBRC1812株(=IFO1812株(花))と同様に、上記の試験4.、すなわちHarrisonらのPCR法(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))で、この株が持つイミダゾールグリセロール燐酸デヒドラダーゼ遺伝子(HIS3)の数と種類とを調べてみたところ(注:データは省略する)、(生粋の)Z.rouxii特異的なプライマーを用いたPCR法とZ.pseudorouxii特異的なプライマーを用いたPCR法との両方で、ともに単一の、しかも醤油産膜性Z.rouxii NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物と、目視上同じ鎖長の増幅産物が生じ、ゆえに(NBRCを含む菌株保存研究機関では、この株を現行の分類ではZ.rouxiiに分類しているものの)GordonやHarrisonらが[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとしている株である(可能性が高い)事が判明した。つまり、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))の場合に生じた増幅産物が味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株の場合に生じた増幅産物とまったく同一のものであった理由としては、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))が、[1](生粋の)Z.rouxii群から派生したと見られる[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株であるためとも考えられる。 ただし、上記のNBRC1812株(=IFO1812株(花))と同様、このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))も、本試験で発見した法則性に合致しない「例外的な株」であるという可能性も捨てきれない。というのも、現時点で、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株が分離されたとの報告がないためである。なお、このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))は、上記した通り、その細胞内からプラスミドpSR1が発見された、「非常に珍しい」株としても知られている。いずれにせよ、本発明は、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される、現行の分類ではZ.rouxiiに分類され、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高い株群」の迅速かつ容易な判別法に関するものであり、ゆえに「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株の一部に、このNBRC10671株(=G4118株(マジパン))のような、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の両方で増幅産物が生じない例外株がいたとしても、特に問題にはならない。 上記した通り、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合に、Z.rouxii以外の株、すなわちZ.bailiiやZ.bisporus、Z.mellis、S.cerevisiae、P.farinosaやCandida属酵母などでは、増幅産物自体が生じなかった。供試株の、領域(1)の有無を調べるためのPCR法で用いたプライマーC374076(=配列番号22)を設計する際に参考にした、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2343bp)にコードされているものと見られるホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)は、(Z.rouxii特異的な酵素ではなく)さまざまな生物種に普遍的に分布している酵素であり、たとえばS.cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombe(シゾサッカロミセス・ポンベ)、メタノール資化酵母のPichia pastoris(ピチア・パストリス)、焼酎や泡盛などの製造に用いられる黒麹菌(または黒麹カビ(Aspergillus niger(アスペルギルス・ニガー)))や、合成樹脂・繊維や印刷用インキなどの原料として用いられるイタコン酸(itaconic acid)などの生産にも利用される糸状菌Asp.terreus(アスペルギルス・テレウス)、アカパンカビ(Neurospora crassa(ニューロスポラ・クラッサ))、さらには植物のシロイズナズナ(Arabidopsis thaliana(アラビドプシス・サリアナ))、ヒト(Homo sapiens(ホモ・サピエンス))、動物実験で使われるハツカネズミ(Mus musculus(ムス・ムスキュラス(またはムスクルス)))やドブネズミ(Rattus norvegicus(ラッツス・ノルベギクス))など、さまざまな生物種が持つ同酵素の遺伝子の塩基配列が解読され、その情報が公開されている。特に、S288C株やEC1118株など、一部のS.cerevisiae株については、上記した通り、全ゲノム情報が公開されている事から、S288C株やEC1118株などの「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))」やその下流領域の塩基配列情報と、Z.rouxii株の「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」やその下流の塩基配列部分との類似性を調べる事ができる。 ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))は、たとえばS.cerevisiae S288C株の場合には、染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上の、868224番目のアデニン(A)から870563番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2340bp)に、またS.cerevisiae EC1118株の場合にも、同じく染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上の、750643番目のアデニン(A)から752982番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2340bp)にあり、その鎖長はいずれも2340bpと、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上にある、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))よりもやや短い。 このS.cerevisiae S288C株の染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2340bp)))とS.cerevisiae EC1118株の染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2340bp)))との、塩基配列の類似性は99.5%と非常に高い一方(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)、すなわち372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2343bp)との類似性の高い塩基配列部分は、うち(同酵素のN末端寄りのアミノ酸配列部分をコードしている塩基配列部分を除いた)1283bp分に過ぎず、その類似性も72.6%程度に過ぎない(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。 また、Z.rouxiiと同属(Zygosaccharomyces属)の、Z.bailiiの基準株であるCLIB213株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)、すなわち1214194番目のアデニン(A)から1216434番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2241bp)を含む塩基配列情報(HG316454.1、GI:523420946)も公開されているが、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)、すなわち372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(2343bp)との類似性の高い塩基配列部分は、うち(同酵素のN末端寄りのアミノ酸配列部分をコードしている塩基配列部分を除いた)1215079番目のシトシン(C)から1216434番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(1356bp)だけで、しかもその類似性も73.6%程度に過ぎない(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。 「Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)上にある、プライマーC374076(=配列番号22(30塩基))の設計の際に参考とした塩基配列部分、すなわち374076番目のシトシン(C)から374105番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(30bp)」(=図95.の(2)(=配列番号52))に相当する、S288C株やEC1118株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp)))上の同塩基配列部分を、上記のBLASTを用いた相同性検索で探してみたところ、図95.の(4)の通り、S288C株の場合には、染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上の870205番目のシトシン(C)から870222番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(=配列番号54(18bp))、またEC1118株の場合には、染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上の752624番目のシトシン(C)から752641番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(=配列番号55(18bp))がそれに相当するとの結果を得る事ができるが、ただしそれらの塩基配列部分の鎖長はZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の塩基配列部分(30bp)よりも短く、塩基配列の類似性もきわめて低く、特にプライマーC374076(=配列番号22)上の3’−末端寄りに相当する塩基配列部分の類似性が(うち11塩基が欠けていて)きわめて低い事が分かる。 上記した通り、同じS.cerevisiaeに分類されているS288C株と、(S288C株とはまったく異なる特徴(=表現形質)を示す)清酒酵母であるきょうかい7号(K7)の持つ遺伝子のほとんどが98%以上という高い類似性を示す事(下飯仁、藤田信之:化学と生物、45(8)、539−543 (2007)、下飯仁、赤尾健、渡辺大輔:生物工学、89(9)、532−535 (2011)、T.Akao,I.Yashiro,A.Hosoyama,H.Kitagaki,H.Horikawa,D.Watanabe,R.Akada,Y.Ando,S.Harashima,T.Inoue,Y.Inoue,S.Kajiwara,K.Kitamoto,N.Kitamoto,O.Kobayashi,S.Kuhara,T.Masubuchi,H.Mizoguchi,Y.Nakao,A.Nakazato,M.Namise,T.Oba,T.Ogata,A.Ohta,M.Sato,S.Shibasaki,Y.Takatsume,S.Tanimoto,H.Tsuboi,A.Nishimura,K.Yoda,T.Ishikawa,K.Iwashita,N.Fujita and H.Shimoi:DNA Res.,18(6),423−434 (2011)、北本勝ひこ(監修):発酵・醸造食品の最新技術と機能性II、p129−139(下飯仁(著))、シーエスシー出版 (2011))、そしてこのS288C株とEC1118株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp)))どうしの類似性も99.5%ときわめて高い事から、(上記の試験7.で用いたATCC4126株(分離源不明)やIAM4919株(廃糖蜜)を含む)これらの株と同属同種(S.cerevisiae)の株群のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))は、これらの株のそれと同一(=100%相同)か、きわめて類似性が高く、それゆえに「Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)上にある、プライマーC374076(=配列番号22)の設計の際に参考とした塩基配列部分、すなわち374076番目のシトシン(C)から374105番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(30bp)」との類似性は低いものであろうと予想される。 また、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)上にある、プライマーC374076(=配列番号22)の設計の際に参考とした塩基配列部分、すなわち「374076番目のシトシン(C)から374105番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(30bp)」(=図95.の(2)(=配列番号52))に相当する、Z.bailii CLIB213株(HG316454.1、GI:523420946)の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2241bp))上の同塩基配列部分についても、上記のBLASTを用いた相同性検索で探してみたところ、図95.の(3)の通り、1216085番目のシトシン(C)から1216111番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(=配列番号53(27bp))がそれに相当するとの結果を得る事ができるが、その塩基配列部分(=配列番号53)の鎖長も、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の塩基配列部分(=配列番号52(30bp))よりもやや短く、やはりプライマーC374076(=配列番号22)上の3’−末端寄りに相当する塩基配列部分の類似性が(うち4塩基分が欠けていて)低い。 そして、(上記の試験7.で用いたNBRC1801株(=IFO1801株(土(日本)))やNBRC10667株(腐敗したトマトケチャップ(日本))、NISL3440株(=NBRC0493株=旧:Z.rouxii IFO0476株(日本酒粕))を含む)このCLIB213株と同属同種(Z.bailii)の株群のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))も、このCLIB213株のそれと同一(=100%相同)か、きわめて類似性が高く、それゆえに「Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)上にある、プライマーC374076(=配列番号22)の設計の際に参考とした塩基配列部分、すなわち374076番目のシトシン(C)から374105番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(=配列番号52(30bp))」との類似性は低いものである可能性が高い。 ゆえに、上記の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、S.cerevisiae株や、Z.rouxiiと同属のZ.bailii株などの場合にも増幅産物が生じなかった原因としては、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)を参考にして設計したプライマーC374076(=配列番号22)の塩基配列(30塩基)と、これらの株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))上の、相当する塩基配列部分(=鋳型DNA)との類似性が低く、プライマーC374076(=配列番号22)がPCR法でのアニーリング反応時にこれらの株の同塩基配列部分(=鋳型DNA)にうまく結着できなかったためではないかと考えられる。 上記のBLAST処理で、S.cerevisiae S288C株の染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上やEC1118株の染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上にあるホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp)))やZ.bailii CLIB213株(HG316454.1、GI:523420946)が持つホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2241bp))と、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2340bp))との類似性を詳細に調べてみたところ、この(CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の)374076番目のシトシン(C)から374105番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(=配列番号52(30塩基))以外にも、きわめて類似性の低い塩基配列部分が何箇所もある事が判明した。そのため、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なう場合に、プライマーC374076(=配列番号22)の代わりに、こうしたBLAST処理で見出される「Z.rouxii−それ以外(=Z.bailiiやS.cerevisiaeなど)の酵母株間で類似性の低い、別の塩基配列部分」を参考にして(特に類似性の低い塩基配列部分が3’−末端側に来るように)設計した、最低18塩基以上、好ましくは24塩基以上、より好ましくは27〜33塩基のプライマーを用いても、プライマーC374076(=配列番号22)を用いた場合と同様の結果、すなわち「Z.rouxii株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとするLA Taq−PCR法では増幅産物が生じるものの、このようなZ.rouxii以外の株では、増幅産物自体が生じない」という結果を得る事ができる(データ省略)。 ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」は、S.cerevisiae S288C株の場合には、染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上の871074番目のアデニン(A)から871301番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(228bp)、S.cerevisiae EC1118株の場合には、同じく染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上の753455番目のシトシン(C)から753868番目のチミン(T)までの塩基配列部分(414bp)、またZ.bailii CLIB213株の場合(HG316454.1、GI:523420946)には、1217029番目のアデニン(A)から1217214番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(186bp)に相当する。これらの塩基配列部分(CDS)のうち、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」、すなわち376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との類似性が高いのは、同属(Zygosaccharomyces属)のZ.bailii CLIB213株の塩基配列部分(186bp)だけで、しかもその類似性も80%未満に過ぎない(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0)。 「Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」上にある、プライマーC376835(=配列番号23(30塩基))の設計の際に参考とした塩基配列部分、すなわち376806番目のシトシン(C)から376835番目のチミン(T)までの塩基配列部分(30bp)」(=図96.の(2)(=配列番号56))に相当する、CLIB213株(HG316454.1、GI:523420946)の「1217029番目のアデニン(A)から1217214番目のアデニン(A)までの、未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(186bp))」上の同塩基配列部分を、上記のBLASTを用いた相同性検索で探してみたところ、図96.の(3)の通り、1217132番目のシトシン(C)から1217161番目のチミン(T)までの塩基配列部分(=配列番号57(30bp))がそれに相当するとの結果を得る事ができるが、上記のプライマーC374076(=配列番号22)の場合と同様、特にプライマーC376835(=配列番号23)上の3’−末端寄りに相当する塩基配列部分の類似性が低い。上記の試験7.で用いた、CLIB213株と同属同種(Z.bailii)のNBRC1801株(=IFO1801株(土(日本)))やNBRC10667株(腐敗したトマトケチャップ(日本))、NISL3440株(=NBRC0493株=旧:Z.rouxii IFO0476株(日本酒粕))などのホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)の下流の塩基配列部分も、このCLIB213株のそれと同一(=100%相同)か、きわめて類似性の高いものだとすれば、上記の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、S.cerevisiae株や、Z.rouxiiと同属のZ.bailii株などの場合にも増幅産物が生じなかった原因としては、(上記の原因の他に)Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」を参考にして設計したプライマーC376835(=配列番号23)の塩基配列(30塩基)と、これらの株のホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」上の、相当する塩基配列部分(=鋳型DNA)との類似性が低く、プライマーC374076(=配列番号22)がPCR法のアニーリング反応時にこれらの株の同塩基配列部分(=鋳型DNA)にうまく結着できなかった事が関係している可能性も考えられる。 上記のBLAST処理で、Z.bailii CLIB213株(HG316454.1、GI:523420946)が持つ、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)と、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS))の下流に位置する「(順番的に)「次」の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)との類似性を詳細に調べてみたところ、この(CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の)376806番目のシトシン(C)から376835番目のチミン(T)までの塩基配列部分(=配列番号56(30塩基))以外にも、きわめて類似性の低い塩基配列部分が何箇所もある事が判明した。そのため、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なう場合に、プライマーC376835(=配列番号23)の代わりに、こうしたBLAST処理で見出される「Z.rouxii−それ以外(=Z.bailiiなど)の酵母株間で類似性の低い、別の塩基配列部分」を参考にして(特に類似性の低い塩基配列部分が3’−末端側に来るように)設計した、最低18塩基以上、好ましくは24塩基以上、より好ましくは27〜33塩基のプライマーを用いても、プライマーC376835(=配列番号23)を用いた場合と同様の結果、すなわち「Z.rouxii株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとするLA Taq−PCR法では増幅産物が生じるものの、このようなZ.rouxii以外の株では、増幅産物自体が生じない」という結果を得る事ができる(データ省略)。 さらに、S.cerevisiae S288C株の染色体IV(BK006938.2、GI:329138864)上の、「ホスファチジルイノノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2340bp)))」と「その下流に位置する、(順番的に「次」の)蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」との間、すなわち870564番目のグアニン(G)から871073番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(510bp)や、S.cerevisiae EC1118株の染色体IV(FN393063.1、GI:259145041)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)(と見られる塩基配列部分(CDS(2340bp)))」と「その下流に位置する、(順番的に「次」の)蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」との間、すなわち752983番目のグアニン(G)から753454番目のアデニン(A)までの塩基配列部分(472bp)、Z.bailii CLIB213株(HG316454.1、GI:523420946)が持つホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2241bp))と「その下流に位置する、(順番的に「次」の)蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」との間、すなわち1216435番目のチミン(T)から1217028番目のチミン(T)までの塩基配列部分(594bp)を調べてみたが、その塩基配列部分上には、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上にある「領域(1)」のような、pSR1類似配列は存在せず、(このS.cerevisiae S288C株の両遺伝子(CDS)間配列部分と、同じくS.cerevisiaeであるEC1118株の両遺伝子(CDS)間配列部分との類似性は99%弱ときわめて高いものの(注:この相同性検索結果の偶然性の期待値(e−value)=0.0))Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、領域(1)を含む塩基配列部分(=両遺伝子(CDS)間配列部分)、すなわち図43.中の374429番目のアデニン(A)から図45.中の376672番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(2244bp)や、あるいは領域(1)を持たないZ.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))の同塩基配列部分(=両遺伝子(CDS)間配列部分(493bp)(=図90.(=配列番号49)))、Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の同塩基配列部分(=両遺伝子(CDS)間配列部分(493bp)(=図91.(=配列番号50)))などとの類似性も認められない。 つまり、このZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」の下流領域の遺伝子(CDS)の配置や、この「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」と「その下流領域の遺伝子(CDS)」との間の塩基配列部分は、同種内ではよく保存されている一方、属種間では大きく異なっているようであり、それゆえにこうした塩基配列部分の鎖長やその塩基配列を指標に、Z.rouxiiという1属1種の株群とZ.rouxii以外の酵母群とが見分けられる。 上記の通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株20株のうち、Z.rouxii NBRC1812株(花)を除いた19株から調製(または粗抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において生じた増幅産物(から調製(または粗精製)したPCR産物)の塩基配列解読(シークエンシング)の結果から、このうちの7株、すなわち「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたNISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(果醪)))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵蜂蜜)、NBRC1914株(クリーミーケーキ)が持つ領域(1)、すなわちZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)(=配列番号37)に相当する塩基配列部分のパターンは、図93.にもまとめた通り、わずか2種類に過ぎず、しかも両者の違いはわずか1塩基でしかなく、つまり塩基配列どうしの類似性は99.9%以上と、配列自体が種内で非常によく保存されていた。また、19株が持つ領域(1)の近傍、すなわちZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、領域(1)を除いた配列部分、つまり374429番目のアデニン(A)から374512番目のチミン(T)までの塩基配列部分(84bp)(=配列番号36)に相当する塩基配列部分と、376264番目のチミン(T)から376672番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(409bp)(=配列番号38)に相当する塩基配列部分の塩基配列パターンも、図93.にもまとめた通り、4種類(から、後記の、市販の生味噌・生醤油から分離した31株の場合を加えたとしても5種類)に過ぎず、しかもこれらの塩基の違いは9塩基以下に過ぎず、つまり塩基配列どうしの類似性は98.2%以上と、こちらも配列自体が種内でよく保存されていた。 そのため、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)を含む、さまざまな分離源から分離した、表現形質及び属種が不明な酵母株について、その細胞から調製(または粗抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を実施した際に、3kb弱の増幅産物が生じ、かつその増幅産物から上記の手順で調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を調べた際に、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)(=配列番号37)と少なくとも80%以上、好ましくは98%以上の類似性を示す塩基配列部分が見出されれば、その塩基配列部分を領域(1)と見做し、そしてその供試株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、(味噌・)醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株」だと、また1kb前後の増幅産物が生じ、かつその増幅産物から上記の手順で調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を調べた際に、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)(=配列番号37)と98%以上、好ましくは80%以上の類似性を示す塩基配列部分が存在せず、しかもZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(phosphatidylinositol−4−phosphate 5−kinase(PIP5K))をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS)(2343bp))」と「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、領域(1)を除いた配列部分、つまり374429番目のアデニン(A)から374512番目のチミン(T)までの塩基配列部分(84bp)(=配列番号36)及び376264番目のチミン(T)から376672番目のグアニン(G)までの塩基配列部分(409bp)(=配列番号38)との類似性が少なくとも80%以上、好ましくは98%以上あれば、その供試株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株」だと容易に区分けする事ができる。 上記した通り、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合にも、Z.rouxii以外の株、すなわちZ.bailiiやZ.bisporus、Z.mellis、S.cerevisiae、P.farinosaやCandida属酵母などでは、増幅産物自体が生じなかった。供試株の、領域(2)の有無を調べるためのPCR法で用いたプライマーC1132044(=配列番号24)を設計する際に参考にした、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)にあるトリプトファン転移(または運搬)RNA(tryptophan−transfer RNA(tRNA−Trp(CCA)))も、蛋白質合成工場であるリボソームにトリプトファン(tryptophan(Trp))を輸送する役割を担っている、生物に必須の機能性核酸成分であり、多くの生物種のtRNA−Trp(CCA)遺伝子を含む塩基配列部分が解読され、その塩基配列情報が公開されているため、(S288C株やEC1118株など、一部のS.cerevisiae株を含む)さまざまな生物種のtRNA−Trp(CCA)遺伝子やその下流の塩基配列部分との類似性も調べる事ができる。 Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)のtRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分は、この染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)だけでなく、染色体E(CU928181.1、GI:238942531)や染色体G(CU928179.1、GI:238940910)、染色体D(CU928175.1、GI:238939334)上にもあり、それらの塩基配列はたとえば同属のZ.bailii CLIB213株が持つtRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分(HG316457.1、GI:523422971)とは完全に一致(=100%相同)、またS.cerevisiae S288C株やEC1118株などが持つtRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分ともほぼ同じ(=97.3%の類似性)であるため(注:データは省略する)、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の際に用いたプライマーC1132044(=配列番号24)はPCR法のアニーリング反応時に(条件さえきちんと整えてやれば)これらの塩基配列部分(=鋳型DNA)にうまく結着できるものと予想される。 しかしながら、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法の際に用いたプライマーC1134278(=配列番号25)を設計する際に参考にした、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」を「問い合わせ(クエリー)配列」とする相同性検索を行なってみても、少なくとも現時点で公開されている塩基配列情報の中にはヒットするもの(=塩基配列の類似性が高いもの)が見当たらない(注:データは省略する)。上記の通り、S.cerevisiae S288C株やEC1118株を初め、多くの生物種の全ゲノム配列の解読が終了し、公開されているものの、そうした塩基配列情報の中にもこの「未知の蛋白質をコードしているものと見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」との類似性の高いものは見当たらない。つまり、この、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている株群が持つ、tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分の下流にある「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」自体が、他の生物種には見られない特徴的(あるいはZ.rouxii特異的)なものなのかも知れない。 つまり、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、Z.rouxii以外の株群の場合に増幅産物が生じなかった理由としては、これらの生物種の染色体(=鋳型DNA)上に、このZ.rouxii株群が持つ「未知の蛋白質をコードしているものと見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」に相当する塩基配列部分、あるいは類似性の高い塩基配列部分がないために、PCR法のアニーリング反応時にプライマーC1134278(=配列番号25)が結着できなかった事が関係しているものと考えられる。 このZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分の下流に「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」があるという塩基配列上の特徴は、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群の一部(注:Z.rouxii NBRC1812株(花)を除く)にしか見られない特徴的(または特異的)なものと見られるため、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なう場合に、プライマーC1134278(=配列番号25)の代わりに、「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」上の別の塩基配列部分を参考にして設計した、最低18塩基以上、好ましくは24塩基以上、より好ましくは27〜33塩基のプライマーを用いても、プライマーC1134278(=配列番号25)を用いた場合と同様の結果、すなわち「Z.rouxii株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとするLA Taq−PCR法では増幅産物が生じるものの、このようなZ.rouxii以外の株では、増幅産物自体が生じない」という結果を得る事ができる(データ省略)。 このZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」の下流領域の遺伝子(CDS)の配置や、この「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」と「その下流領域の遺伝子(CDS)」との間の塩基配列部分も、同種内ではよく保存されている一方、属種間では大きく異なっているようであり、それゆえにこうした塩基配列部分の鎖長やその塩基配列を指標に、Z.rouxiiという1属1種の株群とZ.rouxii以外の酵母群とが見分けられるものと見られる。 上記の通り、現行の分類でZ.rouxiiに分類されている供試株20株のうち、Z.rouxii NBRC1812株(花)を除いた19株から調製(または粗抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において生じた増幅産物(から調製(または粗精製)したPCR産物)の塩基配列解読(シークエンシング)の結果から、これらの供試株が持つ領域(2)、すなわちZ.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」と「その下流領域の遺伝子(CDS)」との間の、1132454番目のシトシン(C)から1133788番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1335bp)(=配列番号41)に相当する塩基配列部分の塩基配列のパターンも、図83.にもまとめた通り、わずか3種類(から、後記の、市販の生味噌・生醤油から分離した31株を加えたとしても5種類)に過ぎず、しかもその違いもわずか4塩基以下にとどまっており、つまり塩基配列どうしの類似性は99.7%以上と、配列自体が種内で非常によく保存されていた。 そのため、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)を含む、さまざまな分離源から分離した、表現形質及び属種が不明な酵母株について、その細胞から調製(または粗抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を実施した際に、2kb強の増幅産物が生じ、かつその増幅産物から上記の手順で調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列を調べた際に、Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」と「その下流領域の遺伝子(CDS)」との間の、1132454番目のシトシン(C)から1133788番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1335bp)(=配列番号41)と少なくとも80%以上、好ましくは98%以上の類似性を示す塩基配列部分が見出されれば、その塩基配列部分を領域(2)と見做し、そしてその供試株を現行の分類ではZ.rouxiiに分類される株だと容易に区分けする事ができる。 上記の試験6.〜8.の結果に基づき、以下の法則性を見出した。 [A]Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1131980番目のチミン(T)から1132015番目の(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」と、1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」との間に存在するpSR1類似配列である「領域(2)」、すなわち1132454番目のシトシン(C)から1133788番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1335bp)は、(たとえば[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべき株である可能性が高いNBRC1812株(=IFO1812株(花))など、一部の株を除く)Z.rouxii株のみが持っている「特徴的な塩基配列部分」である。特に、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群では、供試株すべてが領域(2)を持っており、しかもその塩基配列はよく「保存」されていた(注:ただし、その塩基配列はすべての株において同一(=100%相同)なのではなく、株ごとで若干異なってはいる)。また、(Z.pseudorouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))と)Z.rouxii以外の株は、領域(2)を持っておらず、さらにその領域(2)の上流、あるいは下流にある遺伝子などの塩基配列部分(CDS)も、Z.rouxiiのそれらとは異なっているようであった。 そのため、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された(属種不明の)酵母株について、その株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAに、たとえば上記のプライマーC1132044(=配列番号24)のような、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、1131980番目のチミン(T)から1132015番目のチミン(T)までの塩基配列部分(36bp)と1132045番目のシトシン(C)から1132080番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(36bp)に当たる「tRNA−Trp(CCA)遺伝子と見られる塩基配列部分」を参考にして設計したプライマーと、たとえば上記のプライマーC1134278(=配列番号25)のような、同染色体C上の、1134238番目のアデニン(A)から1134447番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(210bp))」を参考にして設計したプライマーとを用いるPCR法を行なった際に、もし「2kb強の増幅産物」が生じれば、その酵母株を「Z.rouxii株である」と、また増幅産物が生じなかった場合には、その酵母株を「Z.rouxii以外の(=異種の)株である」と判別(または区分け)できる。この判別(または区分け)法は、上記の、従来の判別(または区分け)法に較べて、非常に簡便であり、非常に迅速に判別結果を得る事ができる。 [B]Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に存在するpSR1類似配列である「領域(1)」、すなわち374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)は、(たとえば[2]Z.pseudorouxii群に区分けすべき株である可能性が高いNBRC1812株(=IFO1812株(花))や[3]Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべき株である可能性が高いNBRC10671株(=G4118株(マジパン))など、一部の株を除く)「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離されたZ.rouxii株にのみ認められる「特徴的な塩基配列」である。味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株は、現行の分類では同じZ.rouxiiに分類されているものの、「領域(1)を除く塩基配列部分」のみしか持っておらず、ただしその塩基配列は非常によく「保存」されていた(注:ただし、その塩基配列はすべての株において同一(=100%相同)なのではなく、株ごとで若干異なってはいる)。また、(Z.pseudorouxii NBRC1812株(=IFO1812株(花))と)Z.rouxii以外の株は、領域(1)を持っておらず、さらに「領域(1)を除く塩基配列部分」やその上流、あるいは下流にある遺伝子などの塩基配列部分も、Z.rouxiiのそれらとは異なっているようであった。 そのため、試験6.及び試験7.で示した通り、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された(属種不明の)酵母株について、その株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAに、たとえば上記のプライマーC374076(=配列番号22)のような、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」を参考にして設計したプライマーと、たとえば上記のプライマーC376835(=配列番号23)のように、同染色体C上の、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」を参考にして設計したプライマーとを用いるPCR法を行なった際に、もし「1kb前後の増幅産物」が生じれば、その酵母株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が高く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も高いZ.rouxii株、いわゆる味噌・醤油主発酵酵母株だ」と、また「3kb弱の増幅産物」が生じた場合には、その酵母株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が低く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株だ」と、そして増幅産物が生じなかった場合には、その酵母株を「Z.rouxii以外の(=異種の)株だ」と判別(または区分け)できる。この判別(または区分け)法は、上記した、従来の判別(または区分け)法に較べて、非常に簡便であり、非常に迅速に判別結果を得る事ができる。 さらに、[C]Z.rouxii CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する「374498番目の塩基」が、醤油中で皮膜を形成する能力を持つ醤油産膜性Z.rouxii株の場合にはシトシン(C)、また醤油中で皮膜を形成する能力を持たない醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合には、その株の分離源に関係なくチミン(T)になっていた。つまり、374498番目の塩基の違いは、Z.rouxii株の「醤油中での皮膜形成能」という産業上重要な特徴(=表現形質)、すなわち醸造特性と相関している。 そのため、上記[B]で調製した増幅産物の鎖長とその塩基配列を調べ、もし「1kb前後の増幅産物で、しかもその増幅産物上の、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基がシトシン(C)」であれば、その酵母株が「(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が高く)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成して、その品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株だ」と、また「1kb前後の増幅産物で、しかもその増幅産物上の、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基がチミン(T)」である場合には、その酵母株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が高く(醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く)味噌・醤油及び仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)中で皮膜を形成しない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株だ」と、そして「3kb前後の増幅産物で、しかもその増幅産物上の、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基がチミン(T)」である場合には、その酵母株を「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境に対する適応能力が低く(それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成する能力も持っていないが、醤油諸味中でのエタノール生産性能も低く)、それゆえに味噌・醤油醸造に利用するのが難しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株だ」と判別(または区分け)できる。この判別(または区分け)法は、上記した、従来の判別(または区分け)法に較べて、非常に簡便であり、あるいは非常に迅速に判別結果を得る事ができる。 この「現行の分類でZ.rouxiiという同属同種内に分類されている酵母株群の中の株ごとに、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基が異なる」という現象は、上記した通り、試験1.で用いた供試株20株のうちの、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基がチミン(T)である醤油「非」産膜性Z.rouxii株の15株(75%)と、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基がシトシン(C)である醤油産膜性Z.rouxii株の4株(20%)との2群において観察されたものであり、最も高頻度に見出された塩基、すなわちチミン(T)のその出現頻度は95%未満と低く、またこれに対立する塩基、すなわちシトシン(C)の出現頻度も1%以上と高く、ゆえにこの塩基違いは「一塩基多型(SNP)」だと見られる(日本生態学会(森長真一・工藤洋)(編):[シリーズ 現代の生態学7]エコゲノミクス ―遺伝子からみた適応―、p11−35(井鷺裕司(著))、共立出版 (2012))。 日本の特許庁の「遺伝子関連発明の審査の運用に関する事例集」(http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/shinsa/pdf/jirei.pdf)中の、ヒトの一塩基多型(SNP)を例とする「事例8 SNP」(p10−11)の記述によれば、一塩基多型(SNP)の発見自体については複数のヒトの塩基配列を解読して比較すれば容易になせる成果であるために、進歩性が認められず、ゆえに特許性もないものと判断すべきだが、発見したその一塩基多型(SNP)が特定の診断などの用途に利用できる事が実験的に証明されれば、進歩性が認められるとされる(村松正実(監修)/林崎良英・岡崎康司・近藤伸二(編):[現代化学 増刊40]解読されたゲノム情報をどう活かすか、p114−118(隅蔵康一(著))、東京化学同人 (2001))。上記のZ.rouxii株群における「374498番目の位置の一塩基多型(SNP)」は、Z.rouxii株の濃口醤油中での皮膜形成能の有無という、味噌・醤油産業上重要な特徴(=表現形質)、すなわち「醸造特性」を見極めるという特定の用途に利用できる、つまり味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質管理に悪影響を及ぼす醤油産膜性酵母株の判別(または区分け)という産業上重要な用途に利用できるという点で進歩性があり、実施可能要件も充たしている。 なお、上記[C]の増幅産物における、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の一塩基多型(SNP)については、上記の試験8.のような解読用プライマーを用いる塩基配列解読(シークエンシング)法で調べる事ができるが、塩基配列解読(シークエンシング)法を用いずに調べる事もできる。 醤油産膜性Z.rouxii株の場合に生じた増幅産物では、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目に相当する位置の塩基がシトシン(C)であるため、この374498番目のシトシン(C)を含む374494番目の塩基から374498番目の塩基までの5塩基(対)が制限酵素MaeIIIの認識/切断配列である「グアニン−チミン−アデニン−アデニン−シトシン 5’−↓GTAAC −3’ (3’− CATTG↑−5’ 」となっている(注:制限酵素MaeIIIの認識/切断配列は、厳密には、上記の塩基配列パターンを含むグアニン−チミン−塩基−アデニン−シトシン 5’−↓GTNAC −3’ (3’− CANTG↑−5’である。塩基「N」は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)のいずれでもよい。矢印(↓↑)は、MaeIII処理による切断部位を示している)のに対して、醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合には、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目に相当する位置の塩基がチミン(T)であるため、この374498番目のチミン(T)を含む374494番目の塩基から374498番目の塩基までの5塩基(対)が「グアニン−チミン−アデニン−アデニン−チミン 5’− GTAAT −3’ (3’− CATTA −5’」となっており、これは制限酵素MaeIIIの認識/切断配列(=5’−↓GTNAC −3’及び3’− CANTG↑−5’から構成される5塩基対)ではない。 図103.は、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた醤油「非」産膜性Z.rouxii株の増幅産物や、醤油産膜性Z.rouxii株の増幅産物を模式図化したものである。味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合に生じた(領域(1)がない)増幅産物上には、図103.の(2)が示す通り、3箇所のMaeIIIの認識/切断配列(=5’−↓GTNAC −3’及び3’− CANTG↑−5’から構成される5塩基対)があるが、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油産膜性Z.rouxii株の場合に生じた(領域(1)がない)増幅産物上には、図103.の(3)が示す通り、さらに(CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目に相当する位置の塩基がシトシン(C)になっているために)この374494番目のグアニン(G)から374498番目のシトシン(C)までの塩基配列部分(=5’−↓GTAAC −3’及び3’− CATTG↑−5’から構成される5塩基対)も加えた計4箇所のMaeIII認識/切断配列(=5’−↓GTNAC −3’及び3’− CANTG↑−5’構成される5塩基対)がある。 そのため、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合に生じた増幅産物をMaeIIIで処理した場合には、図103.の(2)が示す通り、517bp、333bp、87bp、72bpの、計4本の分解(または制限)断片(restriction fragment)が生じるのに対して、醤油産膜性Z.rouxii株の場合に生じた増幅産物をMaeIIIで処理した場合には、図103.の(3)が示す通り、(上記の517bpの分解(または制限)断片上にある、CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目に相当する位置のシトシン(C)を含むMaeIII認識/切断配列部位での切断によって生じる)418bpと99bp、333bp、87bp、72bpの、計5本の分解(または制限)断片が生じる事になる。つまり、供試株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物をMaeIII処理した際に生じる分解(または制限)断片の本数と、それぞれの断片の鎖長を指標にすれば、(上記の塩基配列解読(シークエンシング)法を用いずとも)供試株が醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは醤油産膜性Z.rouxii株なのかを判別(または区分け)できる。 実際に、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物をMaeIII処理した際に生じる分解(または制限)断片の本数とそれぞれの断片の鎖長を指標にして、供試株が醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは醤油産膜性Z.rouxii株なのかを判別(または区分け)できるか否かの試験を実施した。 試験9.さまざまなZ.rouxii株から調製(または抽出)した核酸成分を鋳型DNAとする「領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法」で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物への、PCR−MaeIII−RFLP法の適用による一塩基多型(SNP)の識別と、これを指標とする醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株との判別(または区分け): 上記の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物のうち、64.4℃のアニーリング温度条件下で生じた増幅産物(と、一部の試験(図104.の(a))については、61.0℃のアニーリング温度条件下で生じた増幅産物も)から、上記の手順で、「PCR産物」を調製(または粗精製)した。PCR産物のMaeIII処理: 制限酵素MaeIIIは、ロシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics GmbH)製のもの(製品コード:10 822 230 001)を用いた。調製(または粗精製)したPCR産物のMaeIII処理は、「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、30分間殺菌した、1.5mlサイズのマイクロチューブ」内で行なった。マイクロチューブに移したPCR産物1μg(を含む溶液)に対して、MaeIII1U(=0.5μl)(ないしは一部の試験(図106.の(b))では5U(=2.5μl))、同製品付属の緩衝液(2×Buffer)12.5μlを加え、これにさらに「高圧蒸気滅菌釜(オートクレーブ)で121℃、15分間殺菌した蒸留水」を加えて全量を25μlにする。この25μlの溶液入りのマイクロチューブを、55℃に設定した反応器(または恒温器)を使って(注:本試験では、旭テクノグラス株式会社製卓上小型恒温培養器NIB−11を使用)、55℃に保温しながら、一夜置く(=酵素反応させる)。この溶液に、株式会社ニッポンジーン製の3M酢酸ナトリウム(3M Sodium Acetate(製品コード:316−90081))1〜2μlを加え、よく混合したうえで、少なくとも溶液の容量の2倍以上(=52〜54μl以上)の冷エタノールを加え、マイクロチューブを優しく反転させながらよく攪拌した後、−80℃下で最低2時間以上置き(=エタノール沈殿)、上記の遠心分離器MRX−152を使って、12000rpm.×10〜30分間遠心分離処理(4℃下)を行い、上清(=冷エタノール溶液)を丁寧に除去したうえで、このチューブを室温条件下で放置し、乾燥させる(=乾燥処理)。乾燥処理後のチューブに、適当量(=5μl程度)のトリス−EDTA(TE)溶液を流し込み、チューブの底の沈殿物をTE溶液に溶解させ、これを「MaeIII処理物」とした。アガロースゲル電気泳動法の手順: MaeIII処理物に含まれる分解(または制限)断片の本数及び各断片の鎖長の確認には、アガロースゲル電気泳動法を用いた。電気泳動装置は、上記のサブマリン−タイプ電気泳動システム「Mupid−2plus」、電気泳動用のゲルは上記の1.5%アガロースゲル、またゲル電気泳動用マーカーは上記の「100bp DNA Ladder」を用いた。上記の「MaeIII処理物」に、上記の10×Loading Buffer1.5μlを加えたうえで、これを「TAE緩衝液を充たした上記のシステム(=電気泳動層)」内に置いた1.5%アガロースゲル上の窪み(ウェル)に流し込み、30分〜1時間程通電した(=ゲル電気泳動法)。泳動処理後のゲルを、上記の試験3.中の手順通りに染色処理したうえで、ゲルイメージング「AE−6932GXプリントグラフ」を使って、UV照射下でゲル(上の増幅産物)を観察し、MaeIII処理によって断片化した分解(または制限)断片の本数とそれぞれの断片の鎖長とを目視で確認した。ゲル上の増幅産物の鎖長は、上記の分子量マーカーに含まれる断片群との目視での相対的な移動度(=ゲル上の位置)比較によって推定した。 図104.及び図105.は、醤油産膜性Z.rouxii株の4株、すなわちNISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))、NISL3452株(=IFO0525株(味噌))、NISL3459株(=IFO0845株(溜醤油諸味))、NISL3359(=A31株(醤油))と、醤油「非」産膜性Z.rouxii株の6株、すなわちNISL3763株(=IAM12879株(味噌))、NISL3445株(=IFO0494株(醤油醸造工程))、NBRC0505株(醤油関連)、NISL3402株(=IFO0506株(醤油関連))、NISL3450株(=IFO0521株(醤油諸味))、NISL3455株(=IFO0533株(味噌))の、試験6.における領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法(アニーリング温度:61.0℃ないしは64.4℃)で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物(=図104.の(1)及び図105.の(1))を、上記の手順でMaeIII処理したうえで、そのMaeIII処理物をゲル電気泳動処理した結果を示すゲル写真(=図104.の(2)及び図105.の(2))である。 図104.及び図105.のゲル写真が示す通り、醤油産膜性Z.rouxii株の場合でも、醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合でも、目視で確認できる分解(または制限)断片の本数は3本である。PCR産物のMaeIII処理で生じる断片群のうち、醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株の両方の場合に生じる、鎖長が87bpの断片と72bpの断片と、さらに醤油産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる99bpの断片は1.5%アガロースゲル電気泳動法では分離し切れず、同ゲル上では1本のバンドに見える。ただし、醤油産膜性Z.rouxii株と醤油「非」産膜性Z.rouxii株との両方の場合に生じる333bpの断片と、(CBS732株の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目に相当する位置の一塩基多型(SNP)が断片の鎖長にそのまま反映される)醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる517bpの断片や醤油産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる418bpの断片は、目視で明確に確認できる(=見分けられる)。 この結果から、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行い、(いちいち増幅産物の塩基配列を解読せずとも)生じた増幅産物を粗精製したうえでMaeIII処理し、この分解(または制限)断片群をゲル電気泳動法でゲル上に展開して、その断片群の中に醤油「非」産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる517bpの断片があるか、あるいは醤油産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる418bpの断片があるかを、目視で確認するだけで、その供試株が醤油産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのかを判別(または区分け)できる事が判明した。 上記した通り、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法において、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離された9株のうち、唯一増幅産物が生じなかったNBRC1812株(=IFO1812株(花))と、NBRC10671株(=G4118株(マジパン))を除く7株、すなわちNISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた増幅産物の鎖長はいずれも3kb弱と、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された11株、すなわち醤油「非」産膜性Z.rouxii株であるNISL3445株(=IFO0494株)やNISL3763株(=IAM12879株)、NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株)、NISL3402株(=IFO0506株)、NISL3450株(=IFO0521株)、NISL3455株(=IFO0533株)、NBRC0505株、あるいは醤油産膜性Z.rouxii株であるNISL3452株(=IFO0525株)やNISL3359株(=A31株)、NISL3459株(=IFO0845株)、NISL3460株(=IFO0846株)の場合に生じた増幅産物(1kb前後)よりも明らかに大きいため、この領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法によって生じる増幅産物を(塩基配列解読(シークエンシング)したり、あるいはMaeIII処理したりせずとも)ゲル電気泳動法で調べた際に、その増幅産物の鎖長(3kb弱)を目視で確認するだけで、その株が「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株」だと判別(または区分け)できるのだが、これら7株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物を、同様の手順でMaeIII処理した「MaeIII処理物」をゲル電気泳動処理した場合の結果からでも、同様に「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株」だと判別(または区分け)する事ができる。 1例として、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合の結果を示すゲル写真(=図106.の(2))と、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合の結果を示すゲル写真(=図107.)とを示す。公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の染色体Cの塩基配列情報(CU928175.1、GI:238938559)によれば、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物をMaeIII処理した場合に生じる分解(または制限)断片の本数と、それぞれの断片の鎖長は、図103.の(1)の模式図が示す通り、(向かって左側から順に)583bp、65bp、151bp、14bp、22bp、45bp、646bp、214bp、528bp、333bp、87bp、72bpの断片の計12本であり、うち3本、すなわち333bp、87bp、72bpの断片は、上記の、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油産膜性Z.rouxii株や醤油「非」産膜性Z.rouxii株のPCR産物をMaeIII処理した場合にも生じるものである。実際に、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物(=図106.の(1))を(a)1Uないしは(b)5UのMaeIIIで処理した場合のゲル写真(=図106.の(2))を見ると、目視で観察できる分解(または制限)断片の本数は7本である。MaeIII処理で生じる計12本の断片のうち、その鎖長が65bp、14bp、22bp、45bp、87bp、72bpの、計6本の断片が1.5%アガロースゲルでは分離し切れず、ゲル上では1本のバンドに見える。ただし、これら6本の断片を除いた(鎖長順に)646bp、583bp、528bp、333bp、214bpと151bpの断片はそれぞれ、きれいに分離されており、上記の、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株や醤油産膜性Z.rouxii株の場合に生じる「分解(または制限)断片の本数」及び「それぞれの断片の鎖長」から構成されるパターン(=バンドパターン)とは明らかに異なっており、醤油産膜性Z.rouxii株の場合にのみ生じる特徴的な「418bpの断片」が生じていない事も目視ではっきりと確認できる。 また、図107.のゲル写真が示す通り、NISL3443株(=IFO0487株(ビターオレンジシロップボンボン))、NISL3456株(=IFO0686株(蜂蜜))、NISL3458株(=IFO0740株(痰))、NBRC1730株(塩漬豆)、NBRC1733株(発酵した蜂蜜)、NBRC1914株(=IFO1914株(クリーミーケーキ))の場合に生じた分解(または制限)断片のバンドパターンは、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株)の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物をMaeIII処理した場合の分解断片(または制限断片)のバンドパターンとまったく同じであった。 これらの結果から、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物をMaeIII処理した際に生じる418bpの断片は、「醤油産膜性Z.rouxii株特有」のものであり、それゆえに(いちいちPCR産物の塩基配列を解読せずとも)MaeIII処理で生じる分解(または制限)断片の本数とそれぞれの断片の鎖長のパターン(=バンドパターン)を指標にして、現行の分類でZ.rouxiiに分類される供試株群を、[1]−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株群、[1]−2−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、しかも味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成する能力は持っていない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株群、[1]−2−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多いが、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成する能力を持ち、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株群の3群に区分け(または判別)できる事が判明した。 PCR法で調製した増幅産物上の遺伝的多型(または遺伝子多型)を検出する方法としては、上記した通り、シークエンサーを用いる塩基配列解読(シークエンシング)法の他に、RAPD法や(PCR−)RFLP法、AFLP法、SSCP法などがあるが、本法はこのうちの(PCR−)RFLP法に相当する事から、以下、PCR−MaeIII−RFLP法と呼ぶ事にする。このPCR−MaeIII−RFLP法による判別(または区分け)法は、上記した、従来の判別(または区分け)法はもちろん、上記の試験8.の塩基配列解読(シークエンシング)法と較べても、さらに非常に簡便であり、さらに非常に迅速に区分け(または判別)結果を得る事ができる。 そこで、上記の試験結果から考案した本発明、すなわち「新手法」が実際に使用できるか否かの試験をさらに実施してみた。 試験10.市販の生味噌・生醤油から分離した耐塩性酵母株への発明(=新手法)の適用例1.(=実施例1.): 供試株としては、上記の、青森県産米味噌Aから分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる8株、すなわちNo.1−1−1株、No.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株、No.1−2−8株、No.1−2−13株、No.1−2−14株、No.1−2−19株、富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる8株、すなわちNo.5−1−1株、No.5−1−7株、No.5−1−10株、No.5−1−16株、No.5−2−2株、No.5−2−9株、No.5−2−12株、No.5−2−17株、岡山県産米味噌C(赤味噌)から分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる4株、すなわちNo.6−1−1−2株、No.6−1−1−5株、No.6−1−2−25株、No.6−1−2−50株、岡山県産麦味噌Dから分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる4株、すなわちNo.6−4−1−10株、No.6−4−1−20株、No.6−4−2−7株、No.6−4−2−14株、埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる7株、すなわちNo.7−1−23株、No.7−1−66株、No.7−1−83株、No.7−1−89株、No.7−2−1株、No.7−2−2株、No.7−2−6株と、同じ生醤油Eから分離した、C.versatilisに分類される1株、すなわちNo.7−3−42株の、計32株を用いた。 なお、これら生味噌・生醤油から分離した分離株計32株については、上記の試験1.及び試験2.の手順通りに、濃口醤油諸味液汁発酵能(=エタノール生産性能)(=図97.の(2))と醤油中での生存能力、さらに試験5.の手順通りに、醤油中での皮膜形成能、すなわち醤油産膜性能の有無を調べた(=図98.〜101.及び表8.〜9.)。 図98.は青森県産米味噌Aから分離した8株、図99.は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した8株、図100.は岡山県産米味噌C(赤味噌)及び麦味噌Dから分離した計8株、図101.は埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した8株の醤油産膜性試験の結果、すなわち生醤油液体培地及び濃口醤油中での皮膜形成の様子を撮影した写真である。 この試験結果から、No.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−1株(米味噌B(富山))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))、No.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))、No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))、No.6−4−1−10株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))、No.7−1−23株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−66株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−83株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−89株(生醤油E(埼玉))の16株は醤油「非」産膜性株、またNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))、No.6−1−2−25株(米味噌C(岡山))、No.6−1−2−50株(米味噌C(岡山))、No.6−4−2−7株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−2−14株(麦味噌D(岡山))、No.7−2−1株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−2株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−6株(生醤油E(埼玉))の15株は醤油産膜性株である事が判明した。なお、埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離したC.versatilis No.7−3−42株も、醤油産膜性能を持ち合わせてはおらず、醤油「非」産膜性株である事が判明した。 また、図97.の(2)は、この生味噌・生醤油から分離した分離株計32株のうち、C.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))を除く、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる31株について、上記の試験1.の手順通りに、静置培養条件下での、濃口醤油諸味液汁中でのエタノール生産性能を調べた結果を、また表8.及び表9.は濃口醤油中での(皮膜形成能力と)生存能力を調べた結果をまとめたものである。図97.の(2)で用いた濃口醤油諸味液汁については、上記の試験2.の際に用いた濃口醤油諸味液汁とは異なる製造ロットの液汁を用いたため、予め、上記の試験1.で用いた供試株20株の、静置培養条件下でのエタノール生産性能を調べ、上記の試験1.で得られた結果と同じ結果が得られる事(=図97.の(1))を確認したうえで、本試験に用いた。 生醤油・生味噌から分離した31株のうち、醤油「非」産膜性Z.rouxii株(で、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされる株)である16株、すなわちNo.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−1株(米味噌B(富山))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))、No.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))、No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))、No.6−4−1−10株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))、No.7−1−23株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−66株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−83株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−89株(生醤油E(埼玉))はいずれも、濃口醤油中で高い生存能力を示し(=表8.及び9.)、かつ濃口醤油諸味液汁中でも、たとえばNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))やNISL3763株(=IAM12879株(味噌))などの、上記の試験1.の、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性Z.rouxii株7株(=図97.の(1)中の黒い棒グラフ)と同程度ないしはそれ以上のエタノール生産性能を示した(=図97.の(2)中の黒い棒グラフ)。つまり、これら16株の、醤油及びその仕掛品(である醤油諸味液汁や生揚げ醤油)という環境への適応能力の高さは、上記の試験1.で用いた、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離されたZ.rouxii株群が示した特徴(=表現形質)と合致していた。 一方、醤油産膜性Z.rouxii株(であり、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされる株)である15株、すなわちNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))、No.6−1−2−25株(米味噌C(岡山))、No.6−1−2−50株(米味噌C(岡山))、No.6−4−2−7株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−2−14株(麦味噌D(岡山))、No.7−2−1株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−2株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−6株(生醤油E(埼玉))は、上記の図98.〜101.で示した通り、濃口醤油中で皮膜を形成したため、濃口醤油中での生存能力を調べる事はできなかった(=表8.及び表9.)。 また、これら15株を醤油諸味液汁中で静置培養した後の、その液汁中のエタノール濃度(V/V)を測定してみたところ、上記の試験1.の、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油産膜性Z.rouxii株4株の場合(=図97.の(1)中の白い棒グラフ)よりも明らかに低く、上記のガスクロマトグラフィー法で測定した場合の検出限界以下に相当する0.1%(V/V)未満であった(=図97.の(2)中の白い棒グラフ)。これは、醤油産膜性Z.rouxii株が「仮性」産膜性酵母株である事、そして生味噌・生醤油から分離した「ばかり」の、これら15株は、上記の試験1.で用いた供試株(のうちの醤油産膜性Z.rouxii株4株)のように「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの分離源から分離された後に、長期間に渡って菌株保存研究機関で冷蔵あるいは冷凍保存されていた、いわゆる保存株」よりも、さまざまな液体培地中での増殖が明らかに早く、ゆえに(たとえば市販の濃口醤油中での皮膜形成も、No.1−2−8株(米味噌A(青森))やNo.5−2−17株(米味噌B(富山))のほうが、NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))よりも早かった(表7.)ように)醤油諸味液汁に接種してから皮膜を形成し始めるまでに要した日数も短かった事が関係しているものと思われる。仮性産膜性酵母株は、醤油諸味液汁中で培養すると、まず液汁中のグルコースを消費してエタノールを生産しながら増殖し、液汁中のグルコース濃度が低下してくると、今度はエタノールを(好気的)資化して増殖する(に伴い、細胞表層が変化して疎水性が高まり、液面で凝集して皮膜を形成する)。生味噌・生醤油から分離した醤油産膜性Z.rouxii株(であり、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされる株)である15株の増殖は「保存株4株」よりも明らかに早かったために、液汁中のグルコース濃度の低下(とエタノール濃度の上昇)に伴う液汁中エタノールの好気的資化への代謝変換と細胞表層の変化に伴う皮膜形成も早くなった(ために、液汁中のエタノールも速やかに消費され、0.1%(V/V)未満にまで低下した)ものと見られる。 これら、生味噌・生醤油から分離した32株から、上記したビーズ破砕/フェノール処理法で核酸成分を調製(または抽出)し、これを鋳型DNAとする、領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった。PCR法でのアニーリング反応時の温度としては、上記の試験と同様に、53.5℃、56.7℃、61.0℃、64.4℃の計4種類の温度条件を用いた。ゲル電気泳動法では、0.7%アガロースゲルを用い、それぞれのゲルごとに、鎖長比較用に、アニーリング反応温度を61.0℃としたLA Taq−PCR法で、NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))やNISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物を同時にスポットした。 図65.及び図66.は青森県産米味噌Aから分離した8株、図67.及び図68.は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した8株、図69.は岡山県産米味噌C(赤味噌)から分離した4株、図70.は岡山県産麦味噌Dから分離した4株、図71.及び図72.は埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離した8株の結果を示すゲル写真である。市販の生味噌・生醤油から分離したこれら32株について、それぞれの株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なってみたところ、うちC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))を除く31株、すなわち現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる株の場合には、各図の(2)、すなわち下段のゲル写真の通り、Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))やZ.rouxii NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物(2kb強)と、目視上同じ鎖長に見える増幅産物が生じ、またC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))の場合には、図72.の(2)、すなわち下段のゲル写真の通り、(PCR反応におけるアニーリング温度の如何を問わず)増幅産物自体が生じなかった。 ちなみに、これら31株の場合に生じた増幅産物については、上記の手順でPCR産物を調製(または粗精製)し、その塩基配列を解読してみた結果、[1]うち4株、すなわち醤油産膜性のNo.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))、No.7−2−1株(生醤油E(埼玉))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、公開されているCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分と完全に一致(=100%相同)している事、そして[2]うち2株、すなわち醤油「非」産膜性のNo.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))及びNo.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図79.及び図80.(=配列番号45))は、図83.の(4)の模式図の通り、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分とは、「1133060番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている」、「1133653番目のシトシン(C)がグアニン(G)になっている」という計2塩基の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事、[3]うち2株、すなわち醤油「非」産膜性のNo.6−4−1−10株(麦味噌D(岡山))及びNo.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図81.及び図82.(=配列番号46))は、図83.の(5)の模式図の通り、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分とは、「1132694番目のグアニン(G)がシトシン(C)になっている」、「1133060番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている」という計2塩基の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事、[4]残る23株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、図83.の(3)の模式図で示した醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列と完全に同じ(=100%相同)で、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の同塩基配列部分とは、「1133060番目のグアニン(G)がアデニン(A)になっている」というわずか1塩基の違いを除けば、それ以外の部分の塩基配列は完全に一致している事が判明した。 これら、市販の生味噌・生醤油から分離した32株についての、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合の結果は、本発明で用いている法則性に合致するものであった。つまり、市販の生味噌・生醤油から分離した供試株32株のうち、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる31株も、その塩基配列上に1〜2塩基の違いはあるものの、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群(のうち、一部の例外株を除いた株群)のみが持っているものと推察した「領域(2)」を持っていた。また、埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離したC.versatilis No.7−3−42株の場合には、この株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なってみたものの、増幅産物自体が生じなかった。つまり、これらの株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(2)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なう事により、うち31株については、2kb強の鎖長の増幅産物が生じた事を根拠に、(上記の試験3.、すなわち26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法や試験4.のHarrisonらのPCR法を用いずとも)これらの株が[1]現行の分類でZ.rouxiiに分類される株だと、またNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))については、増幅産物自体が生じなかった事を根拠に、[2]Z.rouxii以外の株だと判別(または区分け)でき(図109.)、この判別結果は上記の試験3.、すなわち26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法や試験4.のHarrisonらのPCR法の結果による判別(または区分け)結果と一致していた。 また、市販の生味噌・生醤油から分離したこれら32株について、それぞれの株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なってみたところ、うちC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))を除く31株、すなわち現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる株の場合には、図65.〜72.の(1)、すなわち上段のゲル写真の通り、Z.rouxii NISL3461株(=ATCC2623株=CBS732株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株(黒葡萄濃縮粗果汁(=果醪)))の場合に生じた増幅産物(3kb弱)よりも鎖長が短く、Z.rouxii NISL3452株(=IFO0525株(味噌))の場合に生じた増幅産物(1kb前後)と、目視上同じ鎖長に見える増幅産物が生じ、またC.versatilis No.7−3−42株(生醤油E(埼玉))の場合には、図72.の(1)、すなわち上段のゲル写真の通り、増幅産物自体が生じなかった。 これら31株の場合に生じた増幅産物については、上記の手順でPCR産物を調製(または粗精製)し、その塩基配列を解読してみた結果、[1]31株の場合に生じたPCR産物のすべてにおいて、pSR1類似配列のうちの1つである領域(1)、すなわちCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の、372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間に位置する、374513番目のチミン(T)から376263番目のチミン(T)までの塩基配列部分(1751bp)がなく(または欠けており)、そして[2]うち醤油「非」産膜性の16株、すなわちNo.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−1株(米味噌B(富山))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))、No.6−1−1−2株(米味噌C(岡山))、No.6−1−1−5株(米味噌C(岡山))、No.6−4−1−10株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−1−20株(麦味噌D(岡山))、No.7−1−23株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−66株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−83株(生醤油E(埼玉))、No.7−1−89株(生醤油E(埼玉))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、図93.の(2)の模式図で示した醤油「非」産膜性Z.rouxii NISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列と完全に一致(=100%相同)、また[3]うち醤油産膜性の15株のうちの14株、すなわちNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))、No.6−1−2−25株(米味噌C(岡山))、No.6−1−2−50株(米味噌C(岡山))、No.6−4−2−7株(麦味噌D(岡山))、No.6−4−2−14株(麦味噌D(岡山))、No.7−2−1株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−2株(生醤油E(埼玉))、No.7−2−6株(生醤油E(埼玉))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列は、図93.の(3)−1.の模式図で示した醤油産膜性Z.rouxii NISL3460株(=IFO0846株(溜醤油諸味))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列と完全に一致(=100%相同)しており、また[4]残る1株、すなわち醤油産膜性のNo.1−2−13株(米味噌A(青森))の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の塩基配列(=図92.(=配列番号51))も、図93.の(3)−2.の模式図でも示した通り、上記[3]で示した塩基配列に、さらに「374470番目のアデニン(A)がグアニン(G)になっている」という1塩基の違いが加わったもの(=図93.の(3)−1.の模式図)に過ぎなかった。つまり、上記の手順で調製(または粗精製)した、これらのPCR産物における、CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する塩基が、醤油「非」産膜性Z.rouxii株であ(り、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされ)る16株の場合に生じたPCR産物ではチミン(T)、醤油「非」産膜性Z.rouxii株であ(り、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとされ)る15株の場合に生じたPCR産物ではシトシン(C)である事が判明した。 1例として、青森県産米味噌Aから分離した計8株の、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法で生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の、「CBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上の374498番目の塩基に相当する位置の塩基を含む一部配列」をシークエンサーで読み取った際の蛍光強度の波形(図)を示す(図102.)。 この図102.における「向かって左側の4つの波形」、すなわち醤油「非」産膜性Z.rouxii株であ(り、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strainに区分けすべきとされ)るNo.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))の4株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の解読時の波形(図)では、矢印が示している「374498番目の塩基に相当する塩基」の位置に生じているのは、単一の塩基による波形で、しかも(PCR産物の塩基配列を、下流の「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」上から上流の「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」上に向けて解読するプライマーC376797R(=配列番号30)を用いて解読したために)その塩基は(チミン(T)と相補的な塩基対(complementary base pair)をなす)アデニン(A)である事、また図102.における「向かって右側の4つの波形」、すなわち醤油産膜性Z.rouxii株であ(り、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strainに区分けすべきとされ)るNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))の4株の場合に生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物の解読時の波形(図)では、矢印が示している「374498番目の塩基に相当する塩基」の位置に生じているのは、単一の塩基による波形で、しかも(PCR産物の塩基配列を、下流の「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS)」上から上流の「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS)」上に向けて解読するプライマーC376797R(=配列番号30)を用いて解読したために)その塩基は(シトシン(C)と相補的な塩基対をなす)グアニン(G)である事が明確に見てとれる。 これら、市販の生味噌・生醤油から分離した32株についての、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なった場合の結果も、本発明で用いている法則性に合致するものであった。つまり、市販の生味噌・生醤油から分離した供試株32株のうち、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる31株では、Z.rouxiiの基準株であるCBS732株(=ATCC2623株=IFO1130株=NCYC568株=NRRL Y−229株=PYCC5276株=NISL3461株)の染色体C(CU928175.1、GI:238938559)上、の372086番目のアデニン(A)から374428番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「ホスファチジルイノシトール−4−燐酸 5−キナーゼ(PIP5K)をコードしている遺伝子(MSS4)と見られる塩基配列部分(CDS(2343bp))」と、376673番目のアデニン(A)から376900番目のアデニン(A)までの塩基配列部分に当たる「未知の蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(CDS(228bp))」との間の塩基配列部分に相当する塩基配列部分上に、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された、現行の分類でZ.rouxiiに分類される株群(のうち、一部の例外株を除いた株群)と同様に、領域(1)がなく(または欠けており)、また埼玉県産生醤油E(生揚げ)から分離したC.versatilis No.7−3−42株の場合には、この株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なってみたものの、増幅産物自体が生じなかった。それゆえに、これらの株から調製(または粗精製)した核酸成分を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を行なう事により、うち31株については、1kb前後の鎖長の増幅産物が生じた事を根拠に、(上記の試験3.、すなわち26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法や試験4.のHarrisonらのPCR法を用いずとも)これらの株が[1]−2.「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株」であり、さらに、うち16株についてはその増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物上の374498番目の塩基がチミン(T)である事を根拠に、(上記の試験5.の醤油産膜性試験を行なわずとも)[1]−2−1.醤油「非」産膜性Z.rouxii株だと、またうち15株についてはその増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物上の374498番目の塩基がシトシン(C)である事を根拠に、(上記の試験5.の醤油産膜性試験を行なわずとも)[1]−2−2.醤油産膜性Z.rouxii株だと、またNo.7−3−42株(生醤油E(埼玉))については、増幅産物自体が生じなかった事を根拠に、[2]Z.rouxii以外の株だと判別(または区分け)でき(図110.)、この判別結果は上記の試験3.、すなわち26SrRNA遺伝子上の(D1/D2領域を含む)部分配列を指標とする簡易同定法、試験4.のHarrisonらのPCR法や試験5.の醤油産膜性試験の結果による判別(または区分け)結果と一致していた。 本特許中で用いた供試株すべての分離源、醤油醸造特性(=表現形質)と遺伝学的特性を、表10.にまとめた。 試験11.市販の米味噌・麦味噌・生醤油から分離した耐塩性酵母株への発明(=新手法)の適用例2.(=実施例2.(PCR−MaeIII−RFLP法)): 上記の、青森県産米味噌A及び富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した、現行の分類ではZ.rouxiiに分類さ(れ、Zygosaccharomyces hybrid(またはZygosaccharomyces sp.)strain群に区分けすべきとさ)れる醤油「非」産膜性の8株、すなわちNo.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−1株(米味噌B(富山))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))と醤油産膜性の8株、すなわちNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))との計16株を供試株とし、各株から上記のビーズ破砕/フェノール処理法で調製した核酸成分(のApaI処理後分解(または制限)断片群)を鋳型DNAとする、領域(1)の有無を調べるためのLA Taq−PCR法を実施し、生じた増幅産物から調製(または粗精製)したPCR産物を、上記の手順通りに、MaeIII処理し、これをゲル電気泳動処理し、ゲル上に展開された分解(または制限)断片の数と各断片の鎖長のパターン(=バンドパターン)を観察してみた。 図108.の(1)、すなわち上段の写真は、青森県産米味噌Aから分離した醤油「非」産膜性のNo.1−1−1株、No.1−1−4株、No.1−1−5株、No.1−1−6株及び醤油産膜性のNo.1−2−8株、No.1−2−13株、No.1−2−14株、No.1−2−19株の場合の結果を示すゲル写真、また図108.の(2)、すなわち下段の写真は富山県産米味噌B(越中味噌)から分離した醤油「非」産膜性のNo.5−1−1株、No.5−1−7株、No.5−1−10株、No.5−1−16株及び醤油産膜性のNo.5−2−2株、No.5−2−9株、No.5−2−12株、No.5−2−17株の場合の結果を示すゲル写真である。図108.の(1)(=上段の写真)及び(2)(=下段の写真)ともに、醤油「非」産膜性の8株、すなわちNo.1−1−1株(米味噌A(青森))、No.1−1−4株(米味噌A(青森))、No.1−1−5株(米味噌A(青森))、No.1−1−6株(米味噌A(青森))、No.5−1−1株(米味噌B(富山))、No.5−1−7株(米味噌B(富山))、No.5−1−10株(米味噌B(富山))、No.5−1−16株(米味噌B(富山))の場合には、醤油「非」産膜性Z.rouxii株特有の517bpの分解(または制限)断片が生じ、また醤油産膜性の8株、すなわちNo.1−2−8株(米味噌A(青森))、No.1−2−13株(米味噌A(青森))、No.1−2−14株(米味噌A(青森))、No.1−2−19株(米味噌A(青森))、No.5−2−2株(米味噌B(富山))、No.5−2−9株(米味噌B(富山))、No.5−2−12株(米味噌B(富山))、No.5−2−17株(米味噌B(富山))の場合には、醤油産膜性Z.rouxii株特有の418bpの断片が生じているのが、目視で明確に確認できた。それゆえに、(PCR産物の塩基配列解読(シークエンシング)を行なわずとも)このPCR産物のMaeIII処理(=PCR−MaeIII−RFLP法)によって生じる分解(または制限)断片群の本数と各断片の鎖長のパターン(=バンドパターン)を指標に、より具体的にはMaeIII処理による517bpの断片の出現を指標に、うち8株を「醤油「非」産膜性Z.rouxii株」だと、またMaeIII処理による418bpの断片の出現を指標に、うち8株を「醤油産膜性Z.rouxii株」だと判別(または区分け)する事ができ、この判別結果は上記の試験5.、すなわち醤油産膜性試験での結果による判別(または区分け)結果と一致していた。本発明、すなわち「Z.rouxii G4118株(=NBRC10671株(マジパン))から見つけられたプラスミドpSR1」の塩基配列上の部分配列との類似性が高い、染色体上の領域(1)及び領域(2)の有無を調べるためのPCR法及び、同法で生じた増幅産物(から調製(または粗精製)したPCR産物)の塩基配列解読(シークエンシング)法ないしはPCR−MaeIII−RFLP法によって生じる「分解(または制限)断片の本数」及び「それぞれの断片の鎖長」のパターン(=バンドパターン)を指標として用いる事により、図109.及び図110.に記した通り、たとえば味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された、表現形質及び属種不明の味噌・醤油酵母群について、[A]各株がまず[1]現行の分類ではZ.rouxiiに分類される株なのか、あるいはたとえばCandida属酵母株やPichia属酵母株などの、[2]Z.rouxii株以外の株なのかを、さらに[1]Z.rouxiiに分類された株群については、図110.に記した通り、[B]各株が[1]−1.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)」以外の分離源から分離される事が多く、(味噌・)醤油諸味中でのエタノール生産性能も低い事から、味噌・醤油醸造に利用するのが難しいZ.rouxii株なのか、あるいは[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株、いわゆる「味噌・醤油主発酵酵母株」なのかを、そして[1]−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、それゆえに味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株群、いわゆる味噌・醤油主発酵酵母株群に区分けされた株については、[C]各株が[1]−2−1.(味噌・)醤油諸味中でのエタノール生産性能が高く、しかも醤油中で皮膜を形成する能力を持たない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株なのか、あるいは[1]−2−2.味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成する能力を持ち、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の中で皮膜を形成し、その品質劣化を引き起こす醤油産膜性Z.rouxii株なのかを、迅速かつ簡便に判別できる事が判明した。 なお、上記した通り、一部の菌株保存研究機関では、現行の分類ではZ.rouxiiに分類されている「保存株」の一部について、その(属)種名(及び学名)の見直しを行なっているようであり、たとえば本発明で供試株として用いたZ.rouxii株20株のうち、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離された醤油「非」産膜性株であるNISL3369株(=CBS4837株=NBRC1876株=IFO1876株=NCYC1682株=NRRL Y−2547株(味噌))、NBRC0505株(醤油関連)、NISL3402株(=NBRC0506株=IFO0506株(醤油関連))、NISL3450株(=NBRC0521株=IFO0521株(醤油諸味))と醤油産膜性株であるNISL3452株(=NBRC0525株=IFO0525株(味噌))及びNISL3459株(=NBRC0845株=IFO0845株)、花から分離されたNBRC1812株(=IFO1812株(花))の計8株については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のNBRCが、ホームページ上の登録(属種)名を、従来の「Z.rouxii」から「Zygosaccharomyces sp.」に変更している(http://www.nbrc.nite.go.jp/modification.html)。上記した通り、現行の分類法自体に問題がある事は以前から指摘されていた事であり、GordonやHarrisonらによってこうした問題を解消するための新しい分類基準及びその手法が考案された事などから、こうした保存株の(属)種名(及び学名)の見直しは、今後もさまざまな菌株保存研究機関で行なわれる可能性が高いものと予想される。 ただし、このような見直しの結果として、本発明で用いた供試株の一部ないしは全部の(属)種名(及び学名)がたとえ変更になったとしても、本発明の方法の「効果」自体には何らの影響もない。それは、本発明で酵母株の区分け(または判別)の基準としているのが、(属)種名(及び学名)というよりも、あくまで味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力、より具体的には生存能力やエタノール生産性能、あるいは醤油産膜性能といった、それぞれの株が持つ、味噌・醤油醸造と密接に関係する特徴(=表現形質)、すなわち「醸造特性」であり、各株の醸造特性は上記の試験で示した通り(で、これらの特徴は(属)種名(及び学名)が変更されたとしても、その影響を受けないため)だからである。 そのため、本発明の方法は、味噌・醤油醸造などの産業分野で利用できる。たとえば、本発明の方法を用いれば、図109.や図110.に記した通り、さまざまな味噌・醤油やその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から、醤油「非」産膜性の味噌・醤油主発酵酵母(Z.rouxii)株群を簡便かつ迅速に取得でき、これらの株を味噌・醤油諸味のエタノール発酵用の実用株(または種酵母)として用いる事により、味噌・醤油諸味のエタノール発酵の適正化/効率化を図る事ができる。上記した通り、本発明者(=馬渕)は、2001年に、現行の分類ではZ.rouxiiに分類される酵母株群の中から、醤油醸造、すなわち16%前後ないしはそれ以上という、高濃度の食塩(NaCl)を含む醤油諸味のエタノール発酵に寄与できる、特に高い能力を持つ酵母株のみを選択する方法を考案している(馬渕清人:エタノール高生産性醤油主醗酵酵母株の分離識別用寒天培地、同酵母株の分離法及び同酵母株を用いる含塩醗酵食品の製造法、特許3938488)。そのため、まず本発明の方法を用いて、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、かつ醤油諸味(液汁)中でのエタノール生産性能も高く、醤油中で皮膜を形成しない醤油「非」産膜性Z.rouxii株群を選び出したうえで、さらに同方法(特許3938488)を使えば、上記の、非常に煩雑な同定試験や、試験3.の26SrRNA遺伝子のD1/D2領域の塩基配列を指標とする簡易同定法、あるいは試験4.のHarrisonらのPCR法(E.Harrison,A.Muir,M.Stratford and A.Wheals:FEMS Yeast Res.,11(4),356−365 (2011))、試験5.の醤油産膜性試験や試験1.の醤油諸味液汁(のエタノール)発酵試験などを一切行なわずに、簡便かつ迅速、効率的に実用株(または種酵母株)を得る事ができる。本発明の方法で取得した実用株(または種酵母株)はいずれも、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高く、かつ味噌・醤油諸味(液汁)中でのエタノール生産性能も高いという、共通した特徴(=表現形質)、すなわち醸造特性を持っているものの、その他の「醸造特性」、たとえば低温条件下でのエタノール生産性能や、上記した醤油の特徴香といわれるHEMFや高級アルコール類などの生産性能などについては、当然株ごとに大きく異なっている。本発明の方法を使えば、さまざまな「醸造特性」を持つ、いわば「味噌・醤油醸造用種酵母株ライブラリー(またはコレクション)」も容易に構築でき、さまざまな味噌・醤油(製品)を開発・製造する際に種酵母株を使い分ける事も可能になる。 本発明の方法を使えば、味噌・醤油などの仕込み工程や製成工程などでの仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の酵母(菌)叢(フローラ)も簡便かつ迅速に解析できるため、仕込み工程での味噌・醤油諸味の発酵管理の適正化/効率化を図り、(また(仕掛品や製品である)味噌の表面や、仕掛品である生揚げ醤油や(醤油)製品の液面に皮膜が形成していなくても(または形成される前に)、それらに混入している醤油産膜性Z.rouxii株をきわめて簡便に検出できるので)製成工程以降の工程での仕掛品(である味噌や生揚げ醤油など)の品質管理を徹底させる事も可能となる。たとえば、上記の手順で取得した実用株(または種酵母株)を味噌・醤油諸味に添加した際の、味噌・醤油諸味中での同株の挙動、すなわち添加後の増殖の様子や酵母(菌)叢(フローラ)中の占有率なども、本発明の方法や、さらには上記の、本発明者(=馬渕)が考案した、酵母株群をいくつかの株群に区分けするための方法(馬渕清人:醤油酵母の分離識別法、特許3904187)なども併用すれば、詳しく調べる事ができる。また、本発明の方法を使えば、味噌・醤油(製品)中から検出された酵母の同定・判別試験を迅速・高精度化させる事もでき、味噌・醤油(製品)の品質管理を効率化させる事も可能となる。 たとえば、清酒(製品及び貯蔵中の仕掛品)は15%以上のエタノールを含んでいるために、(醤油の場合と同様に)大半の微生物はたとえ混入したとしても清酒中では増殖できないものの、「火落菌(ひおちきん)」と呼ばれるLactobacillus homohiochi(ラクトバチルス・ホモヒオチ)やL.fructivorans(フルクティボランス)などの限られた乳酸菌だけは清酒中で増殖して、濁り(=清酒の白濁化)や酸敗(=酢酸やグリコール酸などの有機酸、ヒスタミン、ジアセチルやアセトインなどの生成による酸味と酸臭(=火落香)の形成)を引き起こす事が知られている(好井久雄、金子安之、山口和夫(共著):<改訂増補版>食品微生物学、p159−162及びp454−457、技報堂出版 (1976)、伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、p194−200(後藤奈美(著))、サイエンスフォーラム (2004))。そのため、製品中に混入した火落菌を迅速に検出する技術は清酒醸造業上非常に有用であり、このような火落菌を検出するためのS.I.培地(注:現在は日本醸造協会から頒布されているSI培地)を用いる培養法がまず考案され(菅間誠之助、井口琢郎:醸協、65(8)、720−725 (1970))、より迅速に結果を得るための工夫が加えられ、さらに迅速かつ高精度に検出するための、抗火落菌モノクローナル抗体を用いるELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法(J.Nakamura,M.Minami(Iwata),K.Doi and M.Hamachi:Biosci.Biotech.Biochem.,59(11),2039−2043 (1995))や16SrRNA遺伝子−23SrRNA遺伝子間のスペーサー領域を指標とするPCR法(T.Nakagawa,M.Shimada,H.Mukai,K.Asada,I.Kato,K.Fujino and T.Sato:Appl.Environ.Microbiol.,60(2),637−640 (1994))、そしてマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計を用いる火落菌の同定法(孫麗偉、寺本華奈江、島村政基、佐藤浩昭、田尾博明:分析化学、56(12)、1071−1079 (2007))などが次々と開発され、このようにして開発された迅速検出法の一部については特許出願・特許化もされ(培養法における検出の迅速化技術については、真崎秀彦、林亮:火落菌の培養方法、特開平5−103695、鄭正權:火落菌の測定方法、特許3453168(2014年3月31日現時点では権利消滅)、高橋秀臣:火落菌数の測定法、特開平11−346759、兜森忠道、古木吉孝、南原智之:火落菌の検出法、特開2002−186498。また、免疫学的検出法で用いる抗体の作製に関する特許出願としては、土肥健児、浜地正昭、本馬健光、布川弥太郎:火落菌に対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ、特開平5−84070。分子生物学的な検出法については、中川朋子、向井博之、嶌田雅光、富士野公也、加藤郁之進:ラクトバチルス属細菌の検出方法、特許2935791(2014年3月31日現時点では権利消滅)、嶌田雅光、富士野公也、加藤郁之進:ラクトバチルス属細菌の検出方法、特許3107904(2014年3月31日現時点では権利消滅))、実際の醸造現場で利用されている。 また、ビール(製品及び貯蔵中の仕掛品)も、エタノール(約5%)を含み、pHが3.8〜4.7と比較的低めで、しかも栄養分は(発酵性糖類の濃度が0.3%以下と)枯渇し、溶存酸素量も少なく(0.1ppm.程度)、さらに抗菌性を示す「ホップ」が原料として用いられる事もあって、こうしたビールの中で増殖して濁り(=ビールの白濁化)や(ジアセチルなどの生成による)不快臭を生じさせる微生物も、ホップ耐性能に関わるhorA遺伝子(M.Sami,H.Yamashita,T.Hirono,H.Kadokura,K.Kitamoto,K.Yoda and M.Yamasaki:J.Ferment.Bioeng.,84(1),1−6 (1997))も持つLactobacillus brevis(ブレビス)やL.lindneri(リンドネリ)、Pediococcus damnosus(ペディオコッカス・ダムノサス)などの(グラム陽性の)乳酸菌株や、またPectinatus cerevisiiphilus(ペクチネイタス・セレビシフィラス)やP.frisingensis(フリシンゲンシス)、Megasphaera cerevisiae(メガスフェラ・セレヴィシエ)などのグラム陰性の偏性嫌気性菌株などに限られる(三瀬勝利・井上富士男(編):食品中の微生物検査法解説書、p268−272(宮本豊(著))、講談社サイエンティフィク (1996)、宮本豊:醸協、96(7)、455−465 (2001)、K.Sakamoto and W.N.Konings:Int.J.Food Microbiol.,89(2−3),105−124 (2003))。 それゆえに、製品中に混入したこれらの細菌を迅速に検出する技術はビール醸造業上非常に有用であり、このような細菌を効率的に検出するためのさまざまな培地と培養法がまず編み出され(A.Nakagawa:Bull.Brew.Sci.,24,1−10 (1978)、W.Back:Brauwelt,120,1562−1569 (1980)、S.Y.Lee:J.Am.Soc.Chem.,52,115−119 (1994))、さらにより迅速かつ高精度に検出するための免疫学的な手法(S.L.Gares and M.S.Whiting:Am.Soc.Brew.Chem.,51,158−163 (1993)、T.Yasui and K.Yoda:J.Ferment.Bioeng.,84(1),35−40 (1997)、T.Yasui and K.Yoda:Appl.Environ.Microbiol.,63(11),4528−4533 (1997))や、rRNA遺伝子やhorA遺伝子などを指標とする分子生物学的な手法が次々と開発され(Y.Tsuchiya,H.Kaneda,Y.Kano and S.Koshino:J.Am.Soc.Brew.Chem.,50,64−67 (1992)、L.J.DiMichele and M.J.Lewis:J.Am.Soc.Brew.Chem.,51,63−66 (1993)、Y.Tsuchiya,Y.Kano and S.Koshino:J.Am.Soc.Brew.Chem.,51,40−41 (1993)、Y.Tsuchiya,Y.Kano and S.Koshino:J.Am.Soc.Brew.Chem.,52,95−99 (1994)、R.J.Stewart and T.M.Dowhanick:J.Am.Soc.Brew.Chem.,54(2),78−84 (1996)、T.A.Tompkins,R.Stewart,L.Savard,I.Russell and T.M.Dowhanick:J.Am.Soc.Brew.Chem.,54(2),91−96 (1996)、T.Yasui,H.Taguchi and T.Okamoto:Can.J.Microbiol.,43(2),157−163 (1997)、M.Sami,H.Yamashita,H.Kadokura,K.Kitamoto,K.Yoda and M.Yamasaki:J.Am.Soc.Brew.Chem.,55(4),137−140 (1997)、R.Satokari,R.Juvonen,A.von Wright and A.Haikara:J.Food Prot.,60(12),1571−1573 (1997)、R.Satokari,R.Juvonen,K.Mallison,A.von Wright and A.Haikara:Int.J.Food Microbiol.,45(2),119−127 (1998)、R.Juvonen,R.Satokari,K.Mallison and A.Haikara:J.Am.Soc.Brew.Chem.,57(3),99−103 (1999)、Y.Motoyama and T.Ogata:J.Am.Soc.Brew.Chem.,58(1),4−7 (2000)、S.Asano,K.Iijima,K.Suzuki,Y.Motoyama,T.Ogata and Y.Kitagawa:J.Biosci.Bioeng.,108(2),124−129 (2009))、それらの多くは特許化もされ(免疫学的な検出方法としては、佐藤敦、大竹康之、森俊夫、宮本豊:乳酸菌に対するモノクローナル抗体およびこれを用いた乳酸菌の検出法、特許2609982(2014年3月31日現時点では権利消滅)、宮本豊、深田美奈子、西中直子:乳酸菌に特異的なモノクローナル抗体およびこれを用いた乳酸菌の検出法、特開平6−311895、中北保一:免疫学的手法によるメガスフェラ属微生物の検出法、特開平8−319297、横山昌人、田中美佐、伊藤美恵、田口博:乳酸菌検出用抗体及びそれを用いた乳酸菌検出方法、特許3614997(2014年3月31日現時点では権利消滅)、土屋陽一:ビール有害乳酸菌検出用抗体とその診断的用途、特許3614779。また、分子生物学的な検出方法としては、土屋陽一、狩野幸信:乳酸菌の簡易同定法、特開平6−113888、土屋陽一、狩野幸信:乳酸菌の高感度検出法、特開平6−141899、船橋亙:乳酸菌検出用オリゴヌクレオチド及び該当菌の検出方法、特開平10−210980、坂本幹太:ペクチネータス属菌の検出、WO97/20071、坂本幹太:微生物検出用オリゴヌクレオチド及び微生物検出方法、特開平10−323190、佐見学:乳酸菌検出用オリゴヌクレオチド及びそれを用いた判定法、特開平11−18780、本山靖朗、尾形智夫、坂井和久:細菌検出のための遺伝子及びそれを用いた検出法、WO00/09683、安原貴臣:ペクチネータス属の細菌検出用核酸プローブおよびビール混濁原因菌の検出方法、特開2001−145492、安原貴臣:ペクチネータス属菌の特異的ならびに定量的検出方法、特開2001−218598、飯島和丸、本山靖朗:細菌検出のためのオリゴヌクレオチドおよびそれを用いた検出法、特開2001−231564、土屋陽一:乳酸菌検出方法、特開2001−296300、本山靖朗、安原貴臣、高橋恭子:ペクチネータス属菌検出のための核酸プローブ、およびその細菌に由来する核酸の検出方法、特開2002−17356、安原貴臣:メガスフェラ・セレビジエ検出のための核酸プローブ、およびビール混濁の原因となる細菌物質の検出方法、特開2002−34571、安原貴臣、高橋恭子、本山靖朗:ラクトバチルス属菌及びぺディオコッカス属菌検出のための塩基配列、およびそれらの菌の検出方法、特開2002−34578、本山靖朗、安原貴臣、高橋恭子:メガスフィラ・セレビジエ検出のための核酸プローブ、およびビールの混濁細菌の検出方法、特開2002−125677、飯島和丸、本山靖朗:細菌検出のためのオリゴヌクレオチドおよびそれを用いた検出法、特開2003−38181、バイムフォール・クラウディア、スナイドル・イリ:ビールに対し有害な細菌の特異的迅速検出方法、特表2004−529662、坂本幹太:ペクチネータス属菌の検出、特開2004−121259、土屋陽一、小川雅裕、中北保一:酵母、乳酸菌及び偏性嫌気性菌検出・識別のためのプライマー及びプライマーセット並びにそれらを用いた検出・識別方法、WO2005/093059、鈴木康司:ビール有害菌の検出方法、特開2005−6556、中北保一、土屋陽一:偏性嫌気性グラム陰性菌の検出・識別方法、特開2005−229838、中北保一、土屋陽一:乳酸菌の検出・識別方法、特開2005−229839)、製品(ビール)の品質管理の場面に取り入れられ、大きな効果を上げているようである(伊藤武・森地敏樹(編):食品のストレス環境と微生物 ―その挙動・制御と検出―、p194−200(後藤奈美(著))、サイエンスフォーラム (2004)、工藤俊章・大熊盛也(監修):難培養微生物の利用技術、p255−265 (北垣浩志・北本勝ひこ(著)) シーエムシー出版 (2010))。 本発明の方法の中には、このような清酒やビールに害を及ぼす特定の微生物の検出法の、いわば「味噌・醤油」版と言える要素、すなわち味噌・醤油に混入した際に皮膜を形成して見た目を「見ため」を悪くするとともに、さらには混入してから皮膜を形成するまでの増殖過程で、食品中の糖質やアルコールなどの各種成分を消費したり、また食品としての嗜好性に悪い影響を及ぼす呈味成分や香気成分(=アルデヒドや酸など)を生成したりする事を通じて、仕掛品や製品の品質の劣化を引き起こす味噌・醤油産膜性Z.rouxii株を迅速かつ簡便に検出する方法も含まれている。つまり、本発明の方法を使えば、味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)に混在している味噌・醤油産膜性Z.rouxii株を迅速かつ簡便に検出する事ができ、味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)の品質管理を効率化させる事も可能となる。 Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分の有無を指標に、味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などから分離される酵母株群を、[1]Zygosaccharomyces rouxii株と[2]Zygosaccharomyces rouxii以外の酵母株とに区分けする酵母株の判別法、及び本法を用いる事を特徴とする味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの検査法。 請求項1の、酵母株における、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分の有無を調べるために、同塩基配列部分ないしはその上流及び下流にある、蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS))上の部分塩基配列を参考にして設計した合成ヌクレオチドを用いて同塩基配列部分を増幅させるPCR法を用いる事を特徴とする、請求項1及び請求項5の判別法。 Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を含む、374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)」に相当する塩基配列部分か、あるいは「374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)から、プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を除いた塩基配列部分、すなわち374429番目の塩基から374512番目の塩基までの配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)に相当する塩基配列部分」に相当する塩基配列部分かのいずれかの有無を指標に、味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などから分離される酵母株群を、[1]Zygosaccharomyces rouxii株と[2]Zygosaccharomyces rouxii以外の酵母株とに区分けする酵母株の判別法、及び本法を用いる事を特徴とする味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの検査法。 請求項3の、酵母株における、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を含む、374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)」に相当する塩基配列部分か、あるいは「374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)から、プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を除いた塩基配列部分、すなわち374429番目の塩基から374512番目の塩基までの配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分かのいずれかの有無を調べるために、同塩基配列部分ないしはその上流及び下流にある、蛋白質をコードしている遺伝子と見られる塩基配列部分(coding sequence(CDS))上の部分塩基配列を参考にして設計した合成ヌクレオチドを用いて同塩基配列部分を増幅させるPCR法を用いる事を特徴とする、請求項3及び請求項5の判別法。 Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分及び、「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を含む、374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)」に相当する塩基配列部分または「374429番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号39)から、プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)を除いた塩基配列部分、すなわち374429番目の塩基から374512番目の塩基までの配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分の有無を指標に、味噌・醤油及び醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などから分離される酵母株群を、[1]Zygosaccharomyces rouxii株と[2]Zygosaccharomyces rouxii以外の酵母株とを区分けする酵母株の判別法、及び本法を用いる事と特徴とする味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの検査法。 上記の請求項1、請求項3、請求項5によって区分けされる、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「374429番目の塩基から374512番目の塩基までの塩基配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの塩基配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分を持ち、かつ/または「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの塩基配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分を持つ酵母株群を、CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)」に相当する塩基配列部分の有無を指標に、[1]−2.味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などといった環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株、いわゆる味噌・醤油主発酵酵母株と[1]−1.それ以外のZygosaccharomyces rouxii株、すなわち味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などといった環境への適応能力が低いために、「味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)」以外の環境から分離される事が多く、醤油諸味中でのエタノール生産性能が低いために、味噌・醤油醸造に利用する事が難しいZ.rouxii株とに区分けする酵母株の判別法、及び本法を用いる事を特徴とする味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの検査法。 上記の請求項1、請求項3、請求項5によって区分けされる、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「374429番目の塩基から374512番目の塩基までの配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分を持ち、かつ/または「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分を持つ酵母株群の中から、CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)」に相当する塩基配列部分の有無を指標に、味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油)などといった環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油醸造に関与する能力を持つZ.rouxii株、すなわち味噌・醤油醸造用の種酵母株(または実用株)として利用できる味噌・醤油主発酵酵母株を選択する方法、及び本法を用いて取得した種酵母株を用いる事を特徴とする味噌・醤油の醸造方法。 上記の請求項1、請求項3、請求項5、請求項6によって区分けされる、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「374429番目の塩基から374512番目の塩基までの塩基配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分を持ち、かつ/または「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分を持つが、かつCBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)」に相当する塩基配列部分は持っていない酵母株群を、CBS732株の染色体C上の374498番目の塩基に相当する塩基がシトシン(Cytosine(C))であるか、あるいはチミン(Tymine(T))であるかを指標に、[1]−2−2.(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く)味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)中で皮膜を形成し、それらの品質劣化を引き起こす醤油産膜性Zygosaccharomyces rouxii株と[1]−2−1.(味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く)味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、しかも皮膜を形成する能力を持たない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Zygosaccharomyces rouxii株とに区分けする酵母株の判別法、及び本法を用いる事を特徴とする味噌・醤油(製品)及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)などの検査法。 上記の請求項1、請求項3、請求項5、請求項6によって区分けされる、Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「374429番目の塩基から374512番目の塩基までの配列部分(=配列番号36)と376264番目の塩基から376672番目の塩基までの配列部分(=配列番号38)」に相当する塩基配列部分を持ち、かつ/または「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分(=配列番号41)」に相当する塩基配列部分を持つが、かつCBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い374513番目の塩基から376263番目の塩基までの配列部分(=配列番号37)」に相当する塩基配列部分は持っていない酵母株群の中から、CBS732株の染色体C上の374498番目の塩基に相当する塩基がシトシン(Cytosine(C))であるか、あるいはチミン(Tymine(T))であるかを指標に、「味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)という環境への適応能力が高いために、味噌・醤油及びその仕掛品(である味噌・醤油諸味や生揚げ醤油など)から分離される事が多く、味噌・醤油諸味中でのエタノール生産性能も高く、しかも皮膜を形成する能力を持たない事から、味噌・醤油醸造に利用するに相応しい醤油「非」産膜性Z.rouxii株」、すなわち味噌・醤油醸造用の種酵母株(または実用株)として相応しい株を選択する方法、及び本法を用いて取得した種酵母株を用いる事を特徴とする味噌・醤油の醸造方法。 請求項4のPCR法で調製した増幅産物を制限酵素MaeIIIで処理する事によって生じる分解断片のパターン、すなわち分解断片の本数と各断片の鎖長を調べる事を特徴とする、請求項8及び請求項9の判別法(PCR−MaeIII−RFLP法)。 【課題】さまざまな酵母株の塩基配列情報の違いから、酵母株を、味噌・醤油醸造業上重要な特徴の異なる株群(グループ)に区分けする方法の提供。【解決手段】Zygosaccharomyces rouxii CBS732株の染色体C上にある「プラスミドpSR1上の部分塩基配列との類似性が高い塩基配列部分を含む、1132454番目の塩基から1133788番目の塩基までの配列部分に相当する塩基配列部分の有無を指標に、味噌・醤油(製品)及びその醸造工程中の仕掛品などから分離される酵母株群を、[1]Zygosaccharomyces rouxii株と[2]Zygosaccharomyces rouxii以外の酵母株とに区分けする酵母株の判別法、及び判別法を用いる味噌・醤油(製品)及びその仕掛品の検査法。【選択図】図110配列表


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