タイトル: | 公開特許公報(A)_麦芽及び麦芽飲料 |
出願番号: | 2014112964 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12C 1/02,C12C 1/027,C12C 1/067,C12G 3/02,C12G 3/04,A23L 2/38 |
山寺 順哉 上遠野 史基 JP 2015226490 公開特許公報(A) 20151217 2014112964 20140530 麦芽及び麦芽飲料 サントリーホールディングス株式会社 309007911 小野 新次郎 100140109 小林 泰 100075270 竹内 茂雄 100101373 山本 修 100118902 梶田 剛 100129458 山寺 順哉 上遠野 史基 C12C 1/02 20060101AFI20151120BHJP C12C 1/027 20060101ALI20151120BHJP C12C 1/067 20060101ALI20151120BHJP C12G 3/02 20060101ALI20151120BHJP C12G 3/04 20060101ALI20151120BHJP A23L 2/38 20060101ALI20151120BHJP JPC12C1/02C12C1/04C12G3/02C12G3/04A23L2/38 J 11 OL 13 特許法第30条第2項適用申請有り 平成26年5月20日 http://www.mbaa.com/meetings/annual/proceedings/Pages/M−16.aspxを通じて発表 4B015 4B017 4B115 4B015AG03 4B015LH12 4B017LC02 4B017LG13 4B115AG03 4B115LH12 本発明は、蛋白質分解率(KI)が比較的低く、比較的リン酸イオン供給源の量が多い麦芽、及び当該麦芽を用いて製造された麦芽飲料に関する。本発明は、さらに、当該麦芽及び当該麦芽飲料の製造方法にも関する。 ビール等のビールテイスト飲料を含む麦芽飲料の味については、コクを高めること、後味の苦味を低減すること等が求められている。 麦芽は、原料となる麦の品種によっては、リン酸イオン供給源の多いものがある。ビールテイスト飲料の香味の面では、飲料中のリン酸イオンは、締まりのある酸味を付与する。そして、リン酸イオン供給源の多い麦芽を用いてビールテイスト飲料を製造すると、当該ビールテイスト飲料中のリン酸イオンの量も高くなり、酸味が過剰に高くなることがある。結果として、当該飲料の香味設計が難しくなることがある。 このような課題のために、様々な技術が提供されている。例えば、特許文献1には、グルタミン酸とコハク酸との組み合わせ等の調味料を用いてビール風味麦芽飲料の酸味の低減・緩和を行うことが記載されている。WO2010/079634 本発明は、リン酸イオン供給源の含有量の多い麦芽を用いた麦芽飲料の過剰な酸味を低減又は緩和すること、当該飲料のコクを高めること、及び当該飲料の後味の苦味を低減することという課題の内の、少なくとも一つ、好ましくは全てを解決することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した。その結果、麦芽中のリン酸イオン供給源の含有量が多くとも、当該麦芽が特定範囲のKI値を有すれば、その麦芽を用いて製造された麦芽飲料には、過剰な酸味は感じられず、かつ当該飲料のコクが強化され、或いは後味の苦味が改善されることを見出した。さらに、当該麦芽の製造方法も見出した。 本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されるわけではない。1.麦芽であって、以下の特徴(A)及び(B): (A) BCOJビール分析法 「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」の項に記載の方法に従って測定されるリン酸イオン含有量:550〜750ppm、 (B) MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.4.5.3 Eiweissloesungsgrad」の項に記載の方法に従って測定される蛋白質分解率(KI):34〜45%を有する麦芽。2.前記1に記載の麦芽であって、MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.3.8 Malzloesung und Homogenitaet」の項に定義された方法に従って測定される当該麦芽の細胞壁分解率が、80〜100%である、麦芽。3.麦芽の製造方法であって、麦を水に浸漬する浸麦工程、及び浸麦工程で処理された麦を発芽させる発芽工程を含み、当該浸麦工程が、2回の浸漬、即ち一次浸漬及び二次浸漬と、それらの間の断水により行われる、製造方法。4.発芽工程の温度が15〜30℃である、3に記載の製造方法。5.一次浸漬の時間が10時間以下であり、かつ断水の時間が5〜25時間である、3又は4に記載の製造方法。6.前記3〜5のいずれかに記載の製造方法により製造された麦芽。7.前記1〜2及び6のいずれかに記載の麦芽を用いて製造された、麦芽飲料。8.ビールテイスト飲料である、7に記載の麦芽飲料。9.ビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、又はノンアルコールビールテイスト飲料である、8に記載の麦芽飲料。10.BCOJビール分析法 「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」の項に記載の方法に従って測定されるリン酸イオン含有量が500〜750ppmである、7〜9のいずれかに記載の麦芽飲料。11.前記3〜5のいずれかに記載の製造方法に従って麦芽を得て、当該麦芽を糖化工程に付すことを含む、麦芽飲料の製造方法。 本発明の麦芽は、麦芽飲料の過剰な酸味を低減又は緩和し、そしてそのコクを高め、又は後味の苦味を低減することができる。また、本発明の製造方法は、当該麦芽を効率よく製造することができる。 尚、本明細書において、「コク」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味で表される5基本味では表すことのできない味であって、飲食物に含まれる数多くの成分が複雑に絡み合って生まれる味であり、飲食物を口に含んだときに感じる香味の総合的な強度を意味する。これは、例えば、麦芽飲料の香味の強さ(濃さや力強さ)、広がりがある、ハーモニー(深さやまろやかさ、心地よさ)がある、ボディ感がある、飲み応えがある、重い等の言葉で表現され、ドイツではフォルムンディッヒカイト(Vollmundigkeit、豊醇さ)としても表現される。「後味の苦味」とは、味覚は喫食後の時間経過とともに変化する点を考慮し、飲用直後から順に、先味(飲用後0から2秒までに感じる呈味)、中味(飲用後2秒から5秒までに感じる呈味)及び後味(飲用後5秒以降に感じる呈味)とした場合に、後味として感じる苦味を意味する。「酸味」とは、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味で表される5基本味の一つであって、酸により呈されるすっぱい味を意味する。図1は、浸漬回数が、KIとタンパク質分解率(modification)に与える影響を表すグラフである。図2は、発芽温度が、KIとタンパク質分解率(modification)に与える影響を表すグラフである。図3は、図1と図2のグラフを組み合わせたグラフである。図4は、種々の麦芽から得られた麦芽飲料についての官能評価結果を示すグラフである。 (麦芽) 本発明の麦芽は、特定範囲のKI値を有しかつ特定量のリン酸イオンを供給するリン酸イオン供給源を含有する。 本明細書で用いられる「麦芽」との用語は、発芽した麦を乾燥したものを意味し、一般的には除根して用いる。 本明細書で用いられる「麦」との用語は、ビールや発泡酒の製造において一般的に用いられる、外見が類似するイネ科の穀物(通常は、その実である)を意味する。前記麦として、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦等が挙げられ、好ましくは大麦を用いる。大麦には、日本国産、欧州産、豪州産等の品種が存在するが、本発明は、リン酸イオン供給源の含有量の多い麦品種に好適に用いられる。好ましい品種の大麦は、例えば、サチホゴールデンである。麦は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を複数組み合わせて用いてもよい。 本発明の麦芽中のリン酸イオン供給源としては、五酸化二リン(P2O5)及び無機リン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸イオン供給源から供給される、麦芽中のリン酸イオンの含有量の上限値は、好ましくは750ppm、より好ましくは730ppmであり、下限値は、好ましくは550ppm、より好ましくは570ppmである。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、例えば、当該麦芽中のリン酸イオン供給源から供給されるリン酸イオンの含有量の好ましい範囲は、550〜750ppm又は570〜730ppmである。尚、本明細書において、「ppm」は、特に断りがない限り、重量/容量のppmを意味する。このように、リン酸イオン供給源の含有量の多い麦芽を用いて麦芽飲料を製造すると、締まりのある酸味が過剰に高まることがあると考えられるが、後述するように特定範囲のKI値を有する麦芽を用いて製造された麦芽飲料では、そのような酸味が低減又は緩和され得る。本明細書においては、リン酸イオンの含有量を、ビール酒造組合国際技術委員会(BCOJ)のビール分析法の「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」の項に定義された方法に従って測定する。尚、本明細書に記載されているBCOJのビール分析法は、2013年12月20日 公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編集、「改定 BCOJビール分析法」2013年増補改訂、に記載されたビール分析法である。 本明細書において用いられる「蛋白質分解率」又は「KI」は、麦芽中のタンパク質の分解の程度を示す指標である。 KI値は、可用性窒素分の量に影響される。可溶性窒素分を供給する可溶性窒素供給源としては、大麦等の麦由来の蛋白質が挙げられる。本発明の麦芽に含まれる可溶性窒素供給源から供給される可溶性窒素分の指標となるKI値の上限値は、好ましくは45%、より好ましくは43%、より好ましくは41%であり、KI値の下限値は、好ましくは34%、より好ましくは35%、より好ましくは37%である。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、例えば、当該麦芽のKI値の好ましい範囲は、34〜45%、又は37〜41%である。KI値が適切な範囲にある麦芽を用いて麦芽飲料を製造すると、コクがあり後味の良い麦芽飲料が得られ得る。また、リン酸イオン供給源の含有量の多い麦芽を用いて麦芽飲料を製造しても、適切な範囲のKI値を有する場合、過剰な締まりのある酸味は低減又は緩和され得る。本明細書においては、KI値を、MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.4.5.3 Eiweissloesungsgrad」の項に定義された方法に従って測定する。 本明細書において用いられる「細胞壁分解率」又は「modification」との用語は、麦芽の細胞壁分解の程度を示す指標である。本発明の麦芽における細胞壁分解率の下限値は、好ましくは80%、より好ましくは85%である。下限値及び上限値の組み合わせは任意に選ぶことができ、例えば、当該麦芽の細胞壁分解率の好ましい範囲は、80〜100%、又は85〜100%である。細胞壁の分解は、麦芽成分の効率的な溶出につながり得る。本明細書においては、細胞壁分解率を、MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.3.8 Malzloesung und Homogenitaet」の項に定義された方法に従って測定する。 (麦芽の製造方法) 麦芽の製造方法は、一般に、原料である麦を精選する工程(精選工程)、麦を水に浸漬する工程(浸麦工程)、浸麦工程で処理された麦を発芽させる工程(発芽工程)、焙燥工程、除根工程等を含む。本発明の製造方法においては、浸麦工程および発芽工程が重要である。 先ず、精選工程では、原料である麦から埃やごみをきれいに取り除く。本発明は、リン酸イオン供給源を多く含有する麦に好適に使用することができる。 次いで、浸麦工程では、浸麦槽で麦を水に浸漬させることによる麦への吸水と、断水による麦への酸素の供給を行い、浸麦度(麦又は麦芽中の水分含量(重量%))を目標の範囲に調整する。麦芽製造のための典型的な浸麦度は、35〜45%程度である。 麦は吸水すると膨潤し、発芽に必要な酵素が発現する。吸水は毛細管現象で進んでいくと考えられており、浸漬させ続けるよりも、一定時間の断水を間に入れることで、効率的に浸麦度を上昇させることができると考えられる。本発明においては、当該浸麦工程が、2回の浸漬、即ち一次浸漬及び二次浸漬と、それらの間の断水により行われる。尚、日本国産の麦から麦芽を製造する場合、3回の浸漬と、2回の断水を行うのが通常である。本発明におけるように、二回の浸漬と一回の断水を行うと、得られる麦芽は、充分なModificationと低いKIを有する。 一次浸漬の時間は、好ましくは10時間以下である。当該時間の下限値は、好ましくは0.5時間、より好ましくは1時間、より好ましくは2時間、より好ましくは3時間である。例えば、一次浸漬の時間は、0.5〜10時間、1〜10時間、2〜10時間、又は3〜10時間である。断水時間の上限値は、好ましくは25時間、より好ましくは19.5時間であり、下限値は、好ましくは5時間、より好ましくは9.5時間である。これらの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができ、例えば、断水時間は、5〜25時間、5〜19.5時間、9.5〜25時間、又は9.5〜19.5時間である。本発明においては、浸漬温度は、典型的には15〜30℃である。 発芽工程では、浸麦工程で発現した酵素により、細胞壁、蛋白質、及び澱粉質を分解する。本発明においては、発芽温度を一定以上に高めることが好ましい。具体的には、発芽工程の温度は、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜30℃、より好ましくは21〜27℃、より好ましくは21〜25℃、より好ましくは22〜25℃である。 次いで、発芽した麦を焙燥工程に付す。この工程では、乾燥により酵素反応を止め、細胞壁、蛋白質、及び澱粉質の分解の進行を止める。焙燥工程の典型的な条件は、当業者に周知である。 次いで、焙燥処理された麦を除根工程に付す。この工程では、発芽により生えた麦芽根を除去することで、水分の再吸収を防止する。 本願発明の麦芽の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り、麦芽の製造において一般に行われる追加の工程を含んでもよい。しかしながら、追加の浸漬や断水を行うべきではない。これらの回数を増やすと、KI値が上昇すると考えられる。 (麦芽飲料及びその製造方法) 続いて、製造された麦芽を、糖化工程に付す。結果として、麦汁が得られる。そして、この麦汁を用いて麦芽飲料を製造することができる。 本明細書において用いられる「麦芽飲料」との用語は、麦芽から得られた麦汁を原料とする飲料を意味し、これはアルコール飲料であっても、ノンアルコール飲料であってもよい。ここで、アルコールとは、主にエタノールを意味する。ノンアルコール飲料には、アルコール度数が四捨五入により0.0%や0.00%となる飲料が含まれる。当該飲料のアルコール度数の上限は、典型的には15%程度である。 また、麦芽飲料には、ビールテイスト飲料が含まれる。本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味(独特の苦味と旨み)をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。ビールテイスト飲料には、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、及びノンアルコールビールテイスト飲料が含まれる。 本発明の麦芽飲料は、本発明の麦芽を用いて、当業者に知られる通常の方法で製造することができる。すなわち、麦芽の他、必要に応じて麦や他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料を、仕込釜又は仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糖化を行なわせ、ろ過し、必要に応じてホップなどを加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。 麦芽飲料がアルコール飲料である場合には、次いで酵母を添加して発酵を行なわせ、ろ過機などで酵母を取り除いて製造することができる。発酵条件は、知られている条件を用いればよい。必要であれば、膜処理や希釈などの公知の方法によりアルコール濃度を低減させる。あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい。更に、貯蔵、必要により炭酸ガス添加、濾過、容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、アルコール麦芽飲料を得ることができる。 一方、麦芽飲料がノンアルコール飲料の場合、アルコールが生成しない非発酵性の方法によって飲料を製造することが好ましい。例えば、発酵工程を経ることなく、上記固形分除去工程に次いで、貯蔵、炭酸ガス添加、濾過、容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、ノンアルコール麦芽飲料を得ることができる。 本明細書においては、飲料のアルコール度数は、飲料中のアルコール分の含有量(v/v%)を意味し、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、飲料から濾過又は超音波によって炭酸ガスを抜いた試料を調製し、そして、その試料を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算して求めることができる。アルコール度が1.0%未満の低濃度の場合は、市販のアルコール測定装置や、ガスクロマトグラフィーを用いても良い。 このようにして得られた麦芽飲料は、原料である麦芽の特性、即ち、リン酸イオン供給源の含有量の多い品種の麦を用いて得られた麦芽であったとしても、特定範囲のタンパク質分解率(KI)に起因して、コクが高められ又は後味の苦味が低減され、かつ過剰な締まりのある酸味が低減又は緩和され得る。得られる麦芽飲料中のリン酸含有量は、好ましくは、500〜750ppm、より好ましくは530〜700ppmである。また、当該麦芽から得られる麦汁中のリン酸含有量は、好ましくは670〜1000ppm、より好ましくは690〜900ppmである。これらのリン酸含有量の測定には、上記したBCOJビール分析法 「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」に記載の方法を用いる。 本発明の麦芽飲料は、容器に充填・密閉して、容器詰めとすることができる。いずれの形態・材質の容器を用いてもよく、容器の例としては、ビン、缶、樽、又はペットボトルが挙げられる。 (その他の添加物) 本発明の麦芽及び麦芽飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、様々な成分を添加してもよい。例えば、甘味料、香料、酵母エキス、カラメル色素等の着色料、コーンや大豆などの植物タンパク質及びペプチド含有物等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤、各種酸味料を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。 (数値範囲) 明確化のために記載すると、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、即ち「下限値〜上限値」は、それら下限値及び上限値を含む。例えば、「1〜2」により表される範囲は、1及び2を含む。 実施例において、具体例を挙げて本発明について説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。 実施例1 大麦を原料として、KIを低下させることができる浸麦工程の条件を検討した。大麦として、日本国産品種のサチホゴールデンを使用した。浸漬は、2回又は3回行った。浸漬時間、断水時間、発芽温度、浸麦度、KI、及びModification(細胞壁分解率)を表1に示す。またModificationとKIとの関係を図1に示す。図1から明らかなとおり、浸漬回数を2回にすることで、KIとModificationの関係を変化させることが可能となった。具体的には、浸漬回数を2回にすると、充分なModificationを確保しつつ低いKIを達成することができた。 実施例2 大麦を原料として、KIを低下させることができる発芽温度を検討した。大麦として、日本国産品種のサチホゴールデンを使用した。発芽工程の温度を、20℃又は25℃にした。浸漬時間、断水時間、発芽温度、浸麦度、KI、及びModificationを表2に示す。またModificationとKIとの関係を図2に示す。図2から明らかなとおり、発芽温度を25℃にすると、浸麦度及びModificationを維持したまま、KIを抑制することが可能となった。 KIとModificationの関係について、図1と図2を合わせたものを図3に示した。実施例1及び2の結果から、浸漬回数を2回にし、及び/又は発芽温度を15〜30℃、特に25℃にすると、充分なModificationを確保しつつ低いKIを達成できることができることが明らかとなった。 実施例3 実施例1及び2に記載の方法に準じて、種々の大麦を用いて麦芽を製造し、KI、Modification、及びリン酸イオン含有量を測定した。使用された大麦は、欧州産(品種及び浸漬回数は不明)、及び日本国産の品種(サチホゴールデン)である。 麦芽の製造条件(浸漬回数及び発芽温度)は表3に記載した通りである。得られた麦芽の分析結果を表3に示す。尚、表3中の、麦芽のリン酸イオン含有量は、先ず、麦芽からBCOJビール分析法に則って麦汁を作成し、その麦汁中の当該成分の含有量を測定して得られた値である。 表3に示されている通り、日本国産の大麦から得られた麦芽は、いずれも高いリン酸イオン含有量を示した。また、日本国産の大麦から、2回浸漬と25℃における発芽を経て得られた麦芽は、いずれも低いKIと十分なModificationを有していた。 次いで、得られた麦芽から麦芽飲料を製造した。上記の麦芽の各々24kgを適切な粒度に粉砕し、それらを別々に仕込槽に入れた後、88Lの温水を加えて、約50℃の5種のマッシュを作った。各マッシュについて、一部は100℃まで昇温して煮沸し、残りは糖化を行った。糖化が完了した5種のマッシュを78℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し、濾過を行って5種の濾液を得た。得られた各濾液の一部をとり、ホップを添加してから80分間煮沸を行って5種の調整麦汁を得た。これら調整麦汁に、同一条件下で、グルコース、スクロース、マルトース及びイソマルトースを主として資化し、三糖類を資化しない又は資化し難いビール酵母を添加して、約13℃にて約14日間発酵を行って、5種類の貯酒ビールを得た。これらの貯酒ビール中の、及びその製造中に得られた調整麦汁(冷麦汁)中のリン酸含有量を測定し、結果を表3に示した。日本国産の大麦から得られた麦汁のいずれにおいても、そして貯酒ビールのいずれにおいても、リン酸イオン含有量が高かった。 実施例4 実施例1〜3の結果に基づき、大麦として、一般的に広く使用されているヨーロッパ産品種の一つであるTippleと、日本国産品種のサチホゴールデンの2品種から麦芽を製造した。Tippleの浸漬回数及び発芽温度は不明である。一方、サチホゴールデンに関しては、2種類の条件で麦芽を製造した。一つは、発芽温度20℃、浸漬回数3回(サチホゴールデン1)であり、他方は、発芽温度25℃、浸漬回数2回(サチホゴールデン2)である。表4に、得られた各麦芽のKI及びModificationを示した。 表4は、サチホゴールデン2由来の麦芽で、充分なModificationと低いKIが達成されたことを示している。さらに、実施例3の結果を考慮すると、サチホゴールデン1及び2でリン酸イオン含有量が高いものと考えられる。従って、サチホゴールデン2の麦芽では、高いリン酸イオン含有量において、低いKIが達成されていると考えられる。 次いで、得られた麦芽を使用して、実施例3に記載の方法に準じてビールの試醸を行った。そして、得られたビールについて官能試験を行った。官能試験は、訓練された27名のパネリストにより行われた。後味の苦味及びコクについて、以下の基準に従って採点し、平均点を求めた:2点(非常に好ましい)、1点(好ましい)、0点(好ましくない)。官能試験の結果を図4に示した。 図4は、充分なModificationと低いKIを有するサチホゴールデン2の麦芽に由来するビールは、コクがあり後味が良いビールであったことを示している。また、当該ビールはリン酸イオンの含有量に起因する、締まりのある酸味を過剰に感じることもなく、好ましい風味であった。 麦芽であって、以下の特徴(A)及び(B): (A) BCOJビール分析法 「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」の項に記載の方法に従って測定されるリン酸イオン含有量:550〜750ppm、 (B) MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.4.5.3 Eiweissloesungsgrad」の項に記載の方法に従って測定される蛋白質分解率(KI):34〜45%を有する麦芽。 請求項1に記載の麦芽であって、MEBAK BRAUTECHNISCHE ANALYSENMETHODEN Rohstoffe「3.1.3.8 Malzloesung und Homogenitaet」の項に定義された方法に従って測定される当該麦芽の細胞壁分解率が、80〜100%である、麦芽。 麦芽の製造方法であって、麦を水に浸漬する浸麦工程、及び浸麦工程で処理された麦を発芽させる発芽工程を含み、当該浸麦工程が、2回の浸漬、即ち一次浸漬及び二次浸漬と、それらの間の断水により行われる、製造方法。 発芽工程の温度が15〜30℃である、請求項3に記載の製造方法。 一次浸漬の時間が10時間以下であり、かつ断水の時間が5〜25時間である、請求項3又は4に記載の製造方法。 請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法により製造された麦芽。 請求項1〜2及び6のいずれかに記載の麦芽を用いて製造された、麦芽飲料。 ビールテイスト飲料である、請求項7に記載の麦芽飲料。 ビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、又はノンアルコールビールテイスト飲料である、請求項8に記載の麦芽飲料。 BCOJビール分析法 「8.23 陰イオン(塩素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン)」の項に記載の方法に従って測定されるリン酸イオン含有量が500〜750ppmである、請求項7〜9のいずれかに記載の麦芽飲料。 請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法に従って麦芽を得て、当該麦芽を糖化工程に付すことを含む、麦芽飲料の製造方法。 【課題】本発明は、リン酸イオン供給源の含有量の多い麦芽を用いた麦芽飲料の過剰な酸味を低減又は緩和すること、当該飲料のコクを高めること、及び当該飲料の後味の苦味を低減することという課題の内の、少なくとも一つを解決することを目的とする。【解決手段】リン酸イオン供給源の量が多い麦芽の蛋白質分解率(KI)を特定範囲内にする。【選択図】なし