タイトル: | 公開特許公報(A)_脳神経疾患の予防又は脳機能改善用食品を製造するための食品添加物 |
出願番号: | 2014092431 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A23L 1/305,A61K 38/00,A61P 25/00,A61P 25/28,A61P 25/24,A61P 25/16,A61P 25/18,A61P 25/22,A61P 25/20 |
古屋 茂樹 松井 利郎 田中 充 前渕 元宏 中森 俊宏 古田 均 JP 2015208282 公開特許公報(A) 20151124 2014092431 20140428 脳神経疾患の予防又は脳機能改善用食品を製造するための食品添加物 不二製油株式会社 000236768 国立大学法人九州大学 504145342 古屋 茂樹 松井 利郎 田中 充 前渕 元宏 中森 俊宏 古田 均 A23L 1/305 20060101AFI20151027BHJP A61K 38/00 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/00 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/28 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/24 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/16 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/18 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/22 20060101ALI20151027BHJP A61P 25/20 20060101ALI20151027BHJP JPA23L1/305A61K37/02A61P25/00A61P25/28A61P25/24A61P25/16A61P25/18A61P25/22A61P25/20 6 OL 13 4B018 4C084 4B018MD20 4B018ME14 4B018MF01 4B018MF12 4C084AA02 4C084AA03 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA14 4C084BA15 4C084MA52 4C084NA10 4C084NA14 4C084ZA012 4C084ZA022 4C084ZA052 4C084ZA122 4C084ZA152 4C084ZA162 4C084ZA182 本発明は、脳神経疾患の予防や脳機能の改善のために用いられる食品を製造するための食品添加物に関するものである。 老齢人口の増加と共に、アルツハイマー病を含む老人性痴呆患者数が増加している。厚生労働省によると、認知症の高齢者は2010年の280万人から、2020年には410万人にまで増加すると推計されている。 一方、仕事環境、家庭的事情、人間関係などの様々なストレスによるうつ病など、脳のトラブルを抱えている患者数は年々増加している。近年の研究で、食品成分が脳の機能に影響を及ぼすことが明らかになり、脳機能改善、抗うつ、抗認知症などに関する効果を有する食品成分が注目されている。 従来から研究されている脳機能を改善する方法は、脳細胞に栄養を効率よく吸収させて、細胞の働きを活性化する脳エネルギーの代謝を改善する方法(例えば脳内グルコースの上昇など)や、脳の血行を良くして脳細胞に必要な栄養や酸素を十分に供給しようとする脳循環を改善する方法(例えば、脳血流の増加)や、さらに、神経伝達物質を介してシナプス間隙で行われる神経伝達を活性化させる方法(神経伝達物質の前駆体の供給(例えば、コリン、アセチルCoAの補給など)や、放出された神経伝達物質の変換の阻害(たとえばアセチルコリンエステラーゼ阻害など)や、神経伝達物質放出の増加(たとえば、アセチルコリン、グルタミン酸の放出増加など)や、神経伝達物質受容体の活性化や、また神経細胞膜の保護(例えば、抗酸化、膜成分の補給、動脈硬化の予防など)などが検討されている。 ドーパミンやノルアドレナリンは、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンと共にモノアミン神経伝達物質と総称される。また、ドーパミンはノルアドレナリンの前駆体でもある。ドーパミンは、運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。さらに、注意、計画やワーキングメモリーなどの認知機能にドーパミンが関わっていることが示唆されている(非特許文献1,2)。一方、ノルアドレナリンは、覚醒状態の維持、感覚入力の調節、長期記憶の形成促進や注意等の認知機能に関与することが知られている(非特許文献3,4)。また、一部の抗うつ薬の作用標的である。 したがって、ドーパミンやノルアドレナリンを含むモノアミンの脳内レベルを増加させることにより、脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患を予防し、さらに改善効果を示し、安全性の高い食品原料の開発が強く望まれている。Nieoullon A. Dopamine and the regulation of cognition and attention. Prog Neurobiol. 2002; 67: 53-83.Cools R and Robbins TW. Chemistry of the adaptive mind. Phil Trans R Soc Lond A. 2004; 362: 2871-88.Foote SL, Freedman R, Oliver AP. Effects of putative neurotransmitters on neuronal activity in monkey auditory cortex. Brain Res. 1975; 86: 229-42.McGaugh JL and Roozendaal B. Drug enhancement of memory consolidation: historical perspective andneurobiological implications. Psychopharmacology (Berl). 2009; 202: 3-14. doi:10.1007/s00213-008-1285-6. 本発明は、食品に添加することでドーパミンやノルアドレナリンを含むモノアミンの脳内放出を促進し、脳神経疾患の予防機能や脳機能改善機能を食品に付加することのできる食品添加用原料を提供することを課題とする。 本発明者らは、脳内モノアミンレベルを効率よく増加させる安全性の高い食品添加用原料を鋭意研究した結果、構成アミノ酸の1つがチロシンであるジペプチドもしくはトリペプチド、及び、これを特定量含有するオリゴペプチド混合物が、脳内のモノアミンレベルを効率よく増加させることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のような構成を包含する。(1)脳神経疾患の予防用食品又は脳機能改善用食品を製造するために、構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドを含有するオリゴペプチド混合物を、食品添加物として使用する方法、(2)オリゴペプチド混合物中の全アミノ酸量に対するチロシン及びフェニルアラニンの量の割合が、5重量%以上である、前記(1)記載の方法、(3)オリゴペプチド混合物中の分子量500未満のペプチドの含量がペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して50重量%以上である、前記(1)記載の方法、(4)構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドがモノアミンの脳内放出を促進する有効成分として作用する、前記(1)又は(2)記載の方法、(5)有効成分として作用するジペプチドが、Ser-Tyr,Ile-Tyr及びTyr-Proからなる群より選択される1種又は2種以上である、前記(4)記載の方法、(6)脳神経疾患の予防又は脳機能改善のために用いられる食品を製造するために、構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドを、食品に有効成分として添加して使用する方法。 本発明の特定のジペプチド又はトリペプチドを有効成分として摂取することにより、ドーパミンやノルアドレナリンのようなモノアミンの脳内放出を促進させることができる。これにより、種々の脳神経疾患の予防や脳機能の改善に役立てることができる。 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。(オリゴペプチド混合物) オリゴペプチド混合物は特定のアミノ酸配列のみを有するペプチドではなく、様々なアミノ酸配列と分子量を有するペプチドの混合物である。 本発明の食品添加物として使用されるオリゴペプチド混合物は、一つの態様として蛋白質原料を酸で加水分解した蛋白質の酸加水分解物もしくは蛋白質加水分解酵素(プロテアーゼ)により酵素分解した蛋白質の酵素分解物であることができる。それ以外に、化学合成法や酵素法により常法で調製することもできる。 以下、酵素分解法によりオリゴペプチド混合物を得る態様について説明する。 蛋白質原料としては、動物性又は植物性の天然原料から蛋白質を抽出,濃縮,又は分離した各種蛋白質原料を用いることができ、該蛋白質原料中の好適な蛋白質含量は乾燥重量換算で50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。 動物性の蛋白質原料の由来としては、乳,卵,家畜肉,魚介肉,微生物などがあり、植物性の蛋白質原料の由来としては、大豆,エンドウ豆等の豆類や、米,小麦,大麦,トウモロコシ等の穀類等が挙げられる。 この中でも、蛋白質のアミノ酸配列中に芳香族アミノ酸であるチロシン残基やチロシンの原料となるフェニルアラニン残基を多く含むものが好ましく、そのような例としては、大豆,乳,家畜肉,魚介肉,卵等が挙げられ、さらに大豆が好ましい。大豆の場合、豆乳(全脂、脱脂等を問わない),濃縮大豆蛋白,分離大豆蛋白,分画大豆蛋白などを使用することができる。特に少量の摂取でより多量のオリゴペプチドを摂取できるようにしたい場合には、乾燥重量換算で80重量%以上の高い蛋白質含量を持つ分離大豆蛋白質や分画大豆蛋白の使用が好ましい。 蛋白質原料を蛋白質加水分解酵素(プロテアーゼ)により酵素分解、酵素分解の程度は、全ての分子が遊離アミノ酸にまで分解されていないことが適当であり、分解度がより高いことが好ましい。特にオリゴペプチド混合物中、分子量500未満のペプチド画分の含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して50重量%以上、好ましくは60重量%以上となる程度が適当である。 この分子量500未満のペプチドは、アミノ酸が2〜3分子結合したジペプチドおよびトリペプチドから実質的に構成されるものである。 オリゴペプチド混合物の分子量が大きすぎると吸収速度の優位性が少なくなり、モノアミン放出促進の効果が減殺される可能性がある。 なお、分子量500未満のペプチドの含量は、ペプチド用ゲルろ過クロマトグラフィーによりオリゴペプチド混合物における分子量500未満のペプチド及び遊離アミノ酸画分の割合を測定した後、アミノ酸分析により算出した蛋白質加水分解物中の遊離アミノ酸含量を差し引くことにより算出するものとする。 また、上記のように特定されるオリゴペプチド混合物は分子量500未満のペプチド以外のペプチド及び遊離アミノ酸の割合ができるだけ低減されたものが好ましい。すなわち、オリゴペプチド混合物中の遊離アミノ酸の含量は、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して12重量%以下、好ましくは5重量%以下となる程度が適当である。遊離アミノ酸が多くなりすぎると大量摂取による問題を生じる可能性があるためである。 さらに、該オリゴペプチド混合物中のペプチド体はより低分子であることが望ましいことから、オリゴペプチド混合物中の分子量500以上の画分の割合がペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して40重量%以下であることが好ましく、38重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下がさらに好ましい。 オリゴペプチド混合物を得るために酵素分解に使用されるプロテアーゼは、動物起源、植物起源又は微生物起源を問わず、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」,「酸性プロテアーゼ」,「チオールプロテアーゼ」,「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼ、好ましくは「金属プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼの中から適宜選択することができる。 特に2種類以上、あるいは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次若しくは同時に併用して作用させる分解方法が分子量500未満のペプチドの割合を増加させることができ、効率的で好ましい。 さらに、遊離アミノ酸の含量を減らすにはエキソプロテアーゼ活性の少ない酵素を使用することが好ましい。 このプロテアーゼの分類は、酵素科学の分野において通常行なわれている活性中心のアミノ酸の種類による分類方法である。 各々の代表として「金属プロテアーゼ」にはBacillus由来中性プロテアーゼ,Streptomyces由来中性プロテアーゼ,Aspergillus由来中性プロテアーゼ,『サモアーゼ』等が挙げられ、「酸性プロテアーゼ」にはペプシン,Aspergillus由来酸性プロテアーゼ,『スミチームFP』等が挙げられ、「チオールプロテアーゼ」にはブロメライン,パパイン等が挙げられ、「セリンプロテアーゼ」にはトリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomyces由来アルカリプロテアーゼ,『アルカラーゼ』,『ビオプラーゼ』等が挙げられる。 これら以外の酵素でも作用pHや阻害剤との反応性により、その分類を確認することができる。 活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なるため、「切れ残り」を減らし、効率よく酵素分解物を得ることができる。 また、異なった起源の(起源生物)の酵素を併用することで、更に効率よく酵素分解物を製造することができる。 同分類でも起源が異なれば、基質である蛋白質への作用部位も異なり、結果として分子量500未満のペプチドの割合を増やすことができる。 プロテアーゼ処理の反応pHや反応温度は、用いるプロテアーゼの特性に合わせて設定すれば良く、通常、反応pHは至適pH付近で行ない、反応温度は至適温度付近で行なえば良い。 概ね反応温度は20〜80℃、好ましくは40〜60℃である。反応後は酵素を失活させるのに十分な温度(60〜170℃程度)まで加熱し、残存酵素活性を失活させる。 プロテアーゼ処理後の反応液は、そのまま又は濃縮して用いることもできるが、通常、殺菌し、噴霧乾燥、凍結乾燥等して乾燥粉末の状態で利用する。 殺菌は、加熱殺菌が好ましく、加熱温度は110〜170℃が好ましく、130〜170℃が更に好ましく、加熱時間は3〜20秒間が好ましい。また、反応液を任意のpHに調整してもよい。 プロテアーゼ処理時やpH調整時に発生する不溶物(沈殿物や懸濁物)を遠心分離やろ過等により除去してもよく、この不溶物の除去はオリゴペプチド混合物中の有効成分の力価を向上させることができるため、好ましい。更に活性炭や吸着樹脂により精製してもよい。(構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチド:ARPs) 本発明において食品添加物として使用されるオリゴペプチド混合物は、「構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチド」〔以下、これらを「ARPs」(Aromatic Peptides)と略する場合がある。〕を含有することが重要である。すなわち、本発明は該ARPsをモノアミンの脳内神経細胞からの放出(分泌および代謝回転)を促進する有効成分として作用させることを本質とするものである。なお、フェニルアラニンはチロシンの前駆体であり、体内でフェニルアラニンからチロシンが生成されるため、実質はチロシンを摂取するのと同等である。 該ARPsは、ジペプチドの場合ではチロシン残基またはフェニルアラニン残基を1又は2残基含むものであり、トリペプチドの場合はチロシンまたはフェニルアラニン残基を1〜3残基含むものである。 チロシン残基またはフェニルアラニン残基はARPsのN末端又はC末端の何れに存在していてもよく、またトリペプチドの場合はアミノ酸配列の中間に存在していても良い。なお、消化管にはアミノ酸トランスポーターとは独立したペプチドトランスポーターが存在し、ジペプチドだけでなくトリペプチドもペプチド態のまま細胞内へと輸送されることが知られているため、実質はトリペプチドはジペプチドを摂取するのと同等である(Adibi SA. The oligopeptide transporter (Pept-1) in human intestine: biology and function. Gastroenterology. 1997; 113: 332-340.)。 またオリゴペプチド混合物中に含まれるARPsは、チロシンまたはフェニルアラニンを含む単一のアミノ酸配列のものだけでなく、チロシンまたはフェニルアラニンを含む2種類以上のアミノ酸配列を有するものの混合物であってよい。 本発明で使用されるARPsの中でも、特に腸管膜モデル細胞での透過係数(Papp)がより高いものが好ましく、実施例に記載される方法で測定した場合に、透過係数(Papp)が15×10ー8cm/sec以上であるのが好ましく、40×10ー8cm/sec以上であるのがより好ましく、65×10ー8cm/sec以上であるのがさらに好ましい。この透過係数は、腸管に存在するペプチドトランスポーターにおけるARPsの通りやすさを示す指標として用いる。 このような指標を満たすARPsとしては、例えばジペプチドではIle-Tyr,Tyr-Pro,Ser-Tyr,Tyr-Leu及びTyr-Serからなる群より選択されるのが好ましく、特にIle-Tyr,Tyr-Pro及びSer-Tyrからなる群より選択されるジペプチドが好ましい。 オリゴペプチド混合物中の全アミノ酸量に対するチロシン及びフェニルアラニンの量の割合は高いほどARPsの量も多くなると考えられるため、より高い方が好ましく、具体的には5重量%以上、80重量%以下となることが好ましい。 必須ではないが、オリゴペプチド混合物中のARPsの含量をより高めたい場合には、蛋白質原料を蛋白質加水分解酵素により酵素分解した後、蛋白質の酵素分解物をさらに濃縮又は精製することができる。 なお、本発明に使用されるARPsをオリゴペプチド混合物は、プラステイン反応やアミノ酸リガーゼを用いた酵素法により調製したり、化学的に合成したりして得ることも可能であるが、経済性、効率面、食品原料としての使用を考慮すると、蛋白質の加水分解物から濃縮や精製する方が好ましい。 濃縮は吸着剤等を用いてオリゴペプチド混合物中のARPsを多く含む画分を吸着させることにより行うことができる。 また精製は、オリゴペプチド混合物の溶液にエタノール等の極性有機溶媒を添加し、沈殿物を除去し可溶性画分を回収することで、ARPsを多く含む画分を得ることができる(国際公開WO2008/123033号)。(ARPsの生理機能) 腸管膜モデル細胞での透過効率が比較的高かった、Ile-Tyr,Tyr-Pro,Ser-Tyrの3つのARPsをマウスに投与することにより、マウスの脳内の大脳皮質や海馬においてモノアミンであるドーパミンとノルアドレナリンの代謝回転率が対照と比較して優位に高くなることが、本発明者らにより見出された。 上記のジペプチドほどではないが、Tyr-LeuやTyr-Serなども他のARPsより比較的透過係数が高いため、これらをマウスに投与しても上記代謝回転率が高くなることが支持される。 この実証結果から、ARPs、特に好ましくは腸管膜モデル細胞での透過効率が比較的高いARPsを含有するオリゴペプチド混合物は、これを摂取することにより、脳内でのドーパミンやノルアドレナリン等のモノアミンの高い放出促進効果を示すことが本発明者らにより実証された。(ARPs含有オリゴペプチド混合物の食品添加物としての使用) 上記生理機能により、脳神経疾患の予防のための食品や脳機能改善のための食品を製造するために、ARPsを有効成分として含有するオリゴペプチド混合物を上記生理機能を付与するための食品添加物として使用することができる。 なお、本発明における「食品添加物」は、食品に添加して特定の機能を付与するための原料を意味するものであり、各国の法律で規制される食品添加物の意味に限定解釈されるものではなく、より広い概念を意味するものである。 本発明の食品添加物として使用されるARPs含有オリゴペプチド混合物は、様々な形態の食品に利用することができる。例えば、飲料,タブレット,フードバー,肉製品,デザート,菓子類及び栄養補助食品などの製品に添加する原料として利用することができる。 これらの製品はパッケージや広告媒体に脳神経疾患の予防や脳機能の改善の効果が明示されているものであっても良いし、かかる明示がなくとも本発明に係る食品添加物を使用することにより実質的に該効果の付与を販売者が目的とし、又は期待するものであってもよい。(脳神経疾患) 脳神経疾患としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの高次脳機能障害や、これらの障害と病理学的に関連する症状、例えば、脳梗塞、頭部外傷、脳血管性認知症、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、総合失調症、うつ病、不安症などが挙げられる。(脳機能改善) 脳機能の改善効果としては、具体的には記憶力改善、学習能向上、注意力改善、ストレス耐性、抗うつ作用、抗不安作用、集中力改善、睡眠の質改善などが挙げられる。(遊離アミノ酸及びペプチド含量の測定方法) オリゴペプチド混合物の分子量分布は、以下のゲルろ過カラムを用いたHPLC法により測定するものとする。 ペプチド用ゲルろ過カラムを用いたHPLCシステムを組み、分子量マーカーとなる既知のペプチドをチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。なお、分子量マーカーは、オクタペプチドとして[β-Asp]-Angiotensin IIのβ-Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(分子量1046)、ヘキサペプチドとしてAngiotensin IVのVal-Tyr-Ile-His-Pro-Phe(分子量775)、ペンタペプチドとしてLeu-EnkephalinのTyr-Gly-Gly-Phe-Leu(分子量555)、トリペプチドとしてGlu-Glu-Glu(分子量405)、遊離アミノ酸としてPro(分子量115)を用いる。 オリゴペプチド混合物(1%)を10,000rpm、10分で遠心分離した上清を、ゲルろ過用溶媒で2倍に希釈し、その5μlをHPLCにアプライする。 蛋白質加水分解物中の遊離アミノ酸及び分子量500未満のペプチド画分の割合(%)は、全体の吸光度のチャート面積に対する、分子量500未満の範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(使用カラム:Superdex Peptide 7.5/300GL(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)、溶媒:1%SDS/10mMリン酸緩衝液、pH8.0、カラム温度25℃、流速0.25ml/min、検出波長:220nm)。 また蛋白質加水分解物中の分子量500以上のペプチド画分の割合(%)は、上記と同様に、全体の吸光度のチャート面積に対する、分子量500以上の範囲の面積の割合によって求める。 次に、アミノ酸分析により蛋白質加水分解物中の遊離アミノ酸含量の測定を行う。蛋白質加水分解物(4mg/ml)を等量の3%スルホサリチル酸に加え、室温で15分間振とうする。10,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上澄みを0.45μmフィルターでろ過し、アミノ酸分析器「JLC500V」(日本電子(株)製)にて、遊離アミノ酸を測定する。 蛋白質加水分解物中の遊離アミノ酸含量はケルダール法にて得られた蛋白質含量に対する割合として算出する。 以上より得られる、「遊離アミノ酸及び分子量500未満のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、蛋白質分解物中の「分子量500未満のペプチドの含量」とする。 以下、組成例、実施例及び実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 大豆由来オリゴペプチド混合物中に含まれるARPsを得るため、大豆蛋白質の主要成分である7Sグロブリンと11Sグロブリンの配列からチロシンの前もしくは後のアミノ酸を含むジペプチドをリスト化し、出現頻度の高かった下記表1の8種類のジペプチド(ペプチドA〜H)をARPsとして選択し、試験用に化学的に合成した。 各ARPsの腸管での吸収性の指標である透過係数の測定を以下のように実施した。 Caco-2細胞をCell culture insertに4.0×105cells/mLで播種し、腸上皮分化促進培地で3日間培養した。Caco-2細胞単層膜を切り出し、Ussing Chamberにセットした。各ChamberにHanks’Balanced Salt Solution (HBSS)(頂膜側:pH6.0、側基底膜側:pH7.4)を添加した。 15分間予備保温(37℃,95% O2/5% CO2 混合ガス)し、頂膜側に各ARPs水溶液(10mM)を添加した。側基底膜側から15分毎にサンプリングした(60分間)。ESI-TOF-MS分析(Electro Spray Ionization-Time of Flight-Mass Spectrometry)に供し、透過したペプチド量を測定した。透過係数(Papp)は下記数式で算出した。なお、ESI-TOF-MSの分析条件を下記表2に示した。 標準品のエリア面積から、各時間における側基底膜側に移行したペプチド濃度を計算した。なお、アミノ酸に分解されていないことも確認している。時間当りのペプチド透過量を算出し、上記の公式に従い、透過係数(Papp)を計算した。表3に透過試験結果を示す。 表3の結果より、透過係数が65cm/sec以上と比較的高かった3種のARPsとして、ペプチドA(Ser-Tyr),E(Tyr-Pro),H(Ile-Tyr)を化学的に合成し、動物試験に供した。すなわち、マウス(C57BL/6NCrlCrlj)を購入し、24時間慣化した(10-11週齢を使用)。 50mMの各ARPs水溶液又は水(対照) 0.6mlをゾンデで強制投与した(0.6ml/30g-body weight)。 投与30分後及び60分後に解剖し、脳組織である大脳皮質と海馬をサンプリングし、HPLC-ECD(電気化学検出器付き高速液体クロマトグラフィー)システムとして「HTEC-500」(エイコム社製)を用いて各部位おけるモノアミン濃度を測定し、ノルアドレナリンとドーパミンの代謝回転率を計算した。代謝回転率は下記数式で算出した。結果を表4,5に示した。 表4,5に見られるように、ノルアドレナリンの代謝回転率は、大脳皮質と海馬について、対照に対して各ARPsの投与で有意に高くなった。一方、ドーパミンについては、海馬において各ペプチドで高くなった。 すなわち、オリゴペプチド混合物中に含まれるARPsを摂取させることにより、ドーパミンやノルアドレナリンのようなモノアミンの脳内における分泌と代謝回転(すなわち脳内放出)が促進されることが示された。脳神経疾患の予防用食品又は脳機能改善用食品を製造するために、構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドを含有するオリゴペプチド混合物を、食品添加物として使用する方法。オリゴペプチド混合物中の全アミノ酸量に対するチロシン及びフェニルアラニンの量の割合が、5重量%以上である、請求項1記載の方法。オリゴペプチド混合物中の分子量500未満のペプチドの含量がペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して50重量%以上である、請求項1記載の方法。構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドがモノアミンの脳内放出を促進する有効成分として作用する、請求項1又は2記載の方法。有効成分として作用するジペプチドが、Ser-Tyr,Ile-Tyr及びTyr-Proからなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項4記載の方法。脳神経疾患の予防又は脳機能改善のために用いられる食品を製造するために、構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドを、食品に有効成分として添加して使用する方法。 【課題】 本発明は、食品に添加することでドーパミンやノルアドレナリンを含むモノアミンの脳内放出を促進し、脳神経疾患の予防機能や脳機能改善機能を食品に付加することのできる食品添加用原料を提供することを課題とする。 【解決手段】 脳神経疾患の予防用食品又は脳機能改善用食品を製造するために、構成アミノ酸としてチロシンもしくはフェニルアラニンを有するジペプチド又はトリペプチドを含有するオリゴペプチド混合物を、食品添加物として使用する方法。【選択図】なし20140430A1633000493