タイトル: | 公開特許公報(A)_赤外分光測定用試料作製治具、およびそれを用いた分析方法 |
出願番号: | 2014087156 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 21/3563,G01N 1/36 |
鍋谷 広美 JP 2015206677 公開特許公報(A) 20151119 2014087156 20140421 赤外分光測定用試料作製治具、およびそれを用いた分析方法 凸版印刷株式会社 000003193 鍋谷 広美 G01N 21/3563 20140101AFI20151023BHJP G01N 1/36 20060101ALI20151023BHJP JPG01N21/35 103G01N1/28 R 5 3 OL 8 2G052 2G059 2G052FD08 2G052FD13 2G052GA11 2G052JA07 2G052JA11 2G059AA02 2G059BB09 2G059DD01 2G059DD05 2G059EE01 2G059EE12 2G059HH01 本発明は、分析用サンプルの作製用治具である錠剤成型器とそれによって作られたサンプル、およびそれを用いた分析方法に関するものであり、詳細には、赤外分光分析における微量、または微小な試料の分析方法に関する。 赤外分光法は、物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで、試料の構造解析や定量を行う分析手法である。透過測定では、厚さが10μm前後の薄膜状の試料であれば、直接測定を行うことが出来るが、目的の試料が粉末や厚みのある板、ペレットなど、そのままでは測定することが難しい形状の場合、測定用のサンプルを調製する前処理が必要になる。 このような前処理方法のうち、最も一般的に用いられている手法が錠剤法である。これは赤外スペクトルの測定範囲(一般的には4000〜400cm−1)に赤外吸収を持たないハロゲン化アルカリが可塑性を有し、圧力をかけることによって透明な板にすることが出来る性質を利用したものである。錠剤用に用いられるハロゲン化アルカリとしては臭化カリウム(KBr)が最も一般的で、塩化カリウム(KCl)やヨウ化セシウム(CsI)が用いられることもある。 具体的な手順としては、メノウ乳鉢などで細かく粉砕した目的試料にこれらの粉末を加えて混合したあと、圧力をかけて薄い板状に成型して、透過測定に供するものである。この成型には通常、図1に示すような錠剤成型器と呼ばれる治具を使用する。その手順はまず中央に突起のある下板1の突起部分に、穴の空いた円盤状の中板2をはめ、その凹みに調製した試料粉末4を適量入れて、上から下板と同様に中央に突起のある上板3をかぶせて加圧した後、上下板を外すと、中板の穴中に微細な目的試料が分散した薄板が形成されるといったものである。 この方法は粉末だけでなく、粉砕して微粉末にできる試料であれば、元の形状に関わらず透過試料とすることが可能な方法で、安価、簡便であり、また試料濃度や厚さの調製が容易という長所を持つ。 これに比べて目的試料を延伸、熱プレス、切削などの方法で直接測定出来る厚さに薄膜化する薄膜法、流動パラフィン(ヌジョール)に粉砕した試料を練りこませてペースト状にし、窓板に塗布するヌジョール法などは、試料の変質や作製の煩雑さ、不純物の影響などの理由から、使用例は錠剤法より限定的である。 しかし、その一方で、錠剤法にはいくつかの欠点も存在する。ひとつはハロゲン化アルカリには潮解性があり吸湿しやすいため、作製した錠剤サンプルのスペクトルに水分の吸収ピークが現れやすく、この範囲と重なる吸収帯を持つ水酸基、アミンやアミド基の評価が難しくなる点である。 これは、粒子は細かくなるほど表面積が増し、吸湿性が高くなるが、測定で得られるスペクトルのベースラインが傾いたり、スペクトルが歪んだりすることを防ぐためには、目的試料をハロゲン化アルカリ粉末中に均一に分散させる、つまり双方を細かく粉砕してよく混ぜる過程を経ねばならず、十分な混合と素早い成型操作の両立が難しいことによるものである。 実際には、メノウ乳鉢などで目的試料を粉砕する工程も、粘弾性が強いもの、硬いものなどは細かくすり潰しにくく、このような操作はかなりの熟練を必要とする。事前に目的試料、ハロゲン化アルカリ粉末、使用する器具などを出来るだけ乾燥させてもなお、吸湿の影響を完全に除いた、目的試料が均一に分散した錠剤成型は難しい。 また通常、錠剤法での透過測定では、目的試料を加えないハロゲン化アルカリのみの錠剤をバックグラウンドとして測定し、目的試料を加えた錠剤との吸光の差分を目的試料のスペクトルとするが、よい結果を得るにはこの2枚の厚さなどを出来るだけ揃える必要がある。錠剤の厚みは、中板の穴に入れる混合試料の量や加圧の度合いによって調整するが、ハンドプレス等を使用して簡便に作製する場合は経験に頼ることが多く、常に作製する錠剤の厚さを同程度に揃えるのはそれほど容易ではない 更に、粉砕、混合に用いた器具、たとえばメノウ乳鉢などの壁面に調製した粉末がこびりつくため、若干の試料損失は避けられず、目的試料がごく少量の場合は錠剤中の試料濃度、または錠剤自体が薄くなり、成分同定に十分なスペクトル強度が得られないことがある。 このような問題を解決するための方法は、これまでにいくつか考案されてきた。 まず、吸湿による影響を軽減する方法としては、錠剤成型の際、成型板の周囲をカバーなどで覆って内部を減圧状態とし、水分を除去しつつ加圧するという方法が挙げられる。(特許文献1、2参照) しかしこの方法は真空ポンプなどの設備が別途必要になる上、成型器自体もかなり高価なものとなり、全体に簡便な方法とは言い難くなる。 また、使用するハロゲン化アルカリを粉砕せず、結晶の状態のまま薄板に加工して、この2枚の板の間に目的試料を挟みこみ、加圧によって適正な厚みに試料を調製するといった方法もある。(特許文献3参照) しかし、ここで用いられる薄板が1枚約0.5mm〜1mm程度であるため、全体の厚さが厚くなるうえ、加圧の際の割れやひび、目的試料の圧延不十分などによって、必ずしも透過性がよい測定試料が得られるとは限らず、結果として錠剤法より良い方法とは云えない。 錠剤厚さの再現性向上については、中板を使わず、任意の深さの凹みを穿った、赤外光を透過する材質で作られた下板に目的試料を入れ、平らな上板を被せて加圧したのち、下板ごと測定を行うという手法が提案されている。(特許文献4、5参照) しかし、この方法で目的試料の圧延を十分に行うには、下板の材質がダイヤモンドなど高い剛性をもつものでなければならず、下板の材質がハロゲン化アルカリのように脆いものの場合は液状やペースト状のごく柔らかい試料にしか適用できず、錠剤法の長所を大きく損なうものになる。 試料量の損失については、現在もほぼ測定者の技量に依存しており、作製者の経験とスキルによってばらつきが大きい状態になっている。特開昭56−92431号公報特開昭59−217135号公報特開平7−234179号公報特開2007−10351号公報特開平8−178841号公報 赤外分光分析における透過測定用試料の作製方法として錠剤法を用いる場合、使用するハロゲン化アルカリによる吸湿という錠剤法最大の欠点を改善するため、成型を減圧下で行う、試料やハロゲン化アルカリの粉砕をなるべく行わずに試料を調整するなどの手法が考案されているが、いずれの方法も、安価、簡便で厚さの調製が容易、適用出来る試料形状の範囲が広いといった錠剤法の長所を損なわずに改善を実現したものではない。(特許文献1〜3参照) また錠剤厚さの再現性についてもいくつかの提案がなされているが、安価、簡便性と適用範囲の広さや作業性の良さを両立させたものにはなっていない。 本発明では、赤外分光分析における錠剤法において、ハロゲン化アルカリの吸湿の影響を軽減するためには、出来るだけ大気に触れさせず、粉砕などの作業手順を最小限とすることが重要である点に着目し、これを発展させたもので、錠剤成型器の内部で目的試料の粉砕と圧延、分散、成型までを一貫して行うことを特徴とする測定用試料の作製治具である錠剤成型器を提供する。 本発明の請求項1に係る発明は、赤外分光分析における錠剤法における測定用試料作製のための錠剤成型器であって、 前記錠剤成型器は少なくとも、凸部を有する上板、貫通孔を有する中板、凸部を有する下板から構成されており、 前記上板の凸部の高さと前記下板凸部の高さの合計が、前記中板の厚みと同じか、または、前記中板の厚みとの差が0.5mmを超えない程度に大きくすることで、 目的試料を直接前記下板の凸部上に乗せ、さらに前記中板と前記上板を被せた状態で、前記下板と前記上板との間に挟まれた目的試料をすり潰すことが可能であることを特徴とする錠剤成形器である。 本発明の請求項2に係る発明は、前記錠剤成型器はスペーサーを有しており、前記上板と前記下板の凸部で目的試料をすり潰し、圧延したあと、一旦上板を外し、前記中板の貫通孔内にハロゲン化アルカリを加え、再度上板を戻す際に前記スペーサーを中板に重ねることで、作製する錠剤の厚さ調製が可能であることを特徴とする請求項1に記載の錠剤成型器である。 本発明の請求項3に係る発明は、前記錠剤成型器の上板および/または下板の凸部の表面に、微細な凹凸を設けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の錠剤成型器である。 本発明の請求項4に係る発明は、前記錠剤成型器の上板および/または下板の凸部の表面に、滑り性層を設けることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の錠剤成型器である。 本発明の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の錠剤成型器を用いて、錠剤成型器の上板の凸部と下板の凸部と中板およびスペーサーの中の空隙で目的試料の粉砕と分散、ハロゲン化アルカリの粉砕を行い、そのまま加圧して密閉内で錠剤成型を完了させることを特徴とする赤外分光分析測定用試料の作製方法である。 赤外分光分析における錠剤法において、安価、簡便で応用範囲が広いという長所を損なわず、最大の欠点である吸湿による影響を大幅に軽減させ、なおかつ試料厚さの正確な調整など、作業性を向上させることが可能となる。一般的な錠剤成型器の概略図である。一般的な錠剤成型器を使用した試料作製手順の概要図である。本発明における錠剤成型器を使用した試料作製手順に概要図である。 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこれに限るものではなく、図示したものは概略図である。 本発明の錠剤成型器の概略構成を図3に示す。下板1、中板2と上板3とを有しており、下板及び上板にはそれぞれ凸部が設けられている。中板には、下板及び上板の凸部が嵌め込まれる貫通孔が設けられている。 また、本発明の錠剤成型器は、スペーサー6を用いることを特徴としている。スペーサーの直径は中板と同程度であり、中板の貫通孔の大きさと同じかそれよりやや大きい径の貫通孔が中央に設けられている。スペーサーの厚みは、最終的に目的とする試料板と同程度の厚みを持つのもが望ましい。 本発明の錠剤成型器の材質は特に限定されるものではなく、本体の一般な材質は鉄であるが、錠剤作成に必要十分な耐久性と寸法安定性を持つものであればいずれでもよい。これはスペーサーの材質についても同様である。また治具の防食を目的とした表面処理や加工も、錠剤の作成を可能とする限りにおいて方法は自由である。 本発明の錠剤成型器の上下板の凸部の表面には、目的試料をすり潰し易くするための微細な凹凸を設けてもよい。微細な凹凸を設けることにより、粉砕性を向上させることが可能となる。 また、本発明の錠剤成型器の上下板の凸部の表面には、フッ素やセラミックコーティングのような滑り性向上のための表面処理や加工を施して、滑り性層を設けてもよい。これにより、すり潰したあとの目的試料が剥離し易くなり作業性が向上する。 本発明の錠剤成型器の全体の大きさは、微量な試料を調整する目的から概ね数cm、中板の厚みや中板の穴径は数mm程度を目安とし、それほど大きくないことが望ましい。 また、下板の凸部の高さ1aと上板の凸部の高さ3aの合計は、中板の厚み2aと同じか、ごく僅かに大きくなるように調整する。このような中板の厚みとすることで、目的試料を直接下板の凸部に乗せ、中板と上板をセットした状態で、上下板の凸部の間に挟まれた目的試料をすり潰すことが可能となる。 試料作製に用いるハロゲン化アルカリは、不純物の吸収等が現れない十分な純度を持つものであればメーカーやグレードは任意であるが、吸湿を軽減する目的から、結晶の状態で購入し、作成直前に少量ずつ砕いて使用することが望ましい。 試料作製時の加圧の方法は、赤外光を十分に透過する錠剤の形成が可能で、加圧の程度が任意に調整できるものであればよく適宜選択できる。 本発明の分析方法に用いる赤外分光分析装置は特に限定されるものではなく、赤外分光法による測定が可能で、試料を設置する試料室のほか、分光器および集光光学系、検出器、データ処理装置などから構成される一般的なものであれば、いずれでもよい。また光源や分光器、検出器の種類、測定条件は、測定に最適な効果を上げられるよう、測定対象に応じて任意に選んでよい。<実施例> 以下に本発明の錠剤成型器を用いた試料作製の実施例を、図3を用いて説明する。 中板の厚み(2a)を調整し、上下板の凸部の高さ(1a+3a)の合計と同じか、ごく僅かに大きくなるようにした錠剤成型器の下板1の凸部の上に目的試料を適量乗せる(図3−A)。そののち中板2を嵌めて上板3を被せる(図3−B)。この状態で、被せた上板に加圧しながら上下板の凸部をすり合わせるようにし、間に挟まれた目的試料が潰れて薄く広がるようにする(図3−C)。その後、一旦上板を外し、中板との間にスペーサー6を入れる(図3−D)。このスペーサーの形状は、前述したとおり、中板と同じかそれよりやや大きい貫通孔を中央に設け、直径を中板と同程度にした、最終的に目的とする試料板と同程度の厚みを持つものが望ましい。 中板の貫通孔の中の潰れた目的試料の上に、直前に結晶から荒めに砕いたハロゲン化アルカリの細粒を入れ(図3−E)、再度この上に上板を被せて図3−Cの場合と同様に上板に加圧しながら上下板の凸部をすり合わせるようにし、間に挟まれた目的試料とハロゲン化アルカリが粉砕されながら混じり合うようにしたあと、更に加圧を加え(図3−F)上下板を外し、スペーサーとほぼ同程度の厚みを持った赤外透過測定用錠剤を得た。<比較例> 比較例として、図2に概要を示した従来法で赤外透過測定用錠剤を作成し、前述のものと共に赤外スペクトルを測定した。 測定には、パーキンエルマー製の赤外分光装置「Spectrum One」を用いた。積算回数は共に12回とした。 得られた透過IRスペクトルは、従来法に比べ吸湿による水分ピークが小さくなっていた。また調整に用いる目的試料のロスが従来法に比べ大きく改善したため、従来法では困難であった少量の試料でも、顕微赤外分光装置を使用しない通常の赤外分光装置で検出、解析に十分なスペクトルを得られることが確認出来た。 本発明によれば、赤外分光分析における錠剤法において、安価、簡便で応用範囲が広いという長所を損なわず、最大の欠点である吸湿による影響を大幅に軽減させ、なおかつ試料厚さの正確な調整など、作業性を向上させることが可能となり、得られる成分情報の向上および測定における操作の簡便化、効率化を通じ、品質向上に寄与することが出来る。1 ・・・下板1a・・・下板凸部厚み2 ・・・中板2a・・・中板の厚み3 ・・・上板3a・・・上板凸部厚み4 ・・・ハロゲン化アルカリ粉末と目的試料の粉砕混合物(調整後試料)5 ・・・目的試料6 ・・・スペーサー7 ・・・ハロゲン化アルカリ粉末 赤外分光分析における錠剤法における測定用試料作製のための錠剤成型器であって、 前記錠剤成型器は少なくとも、凸部を有する上板、貫通孔を有する中板、凸部を有する下板から構成されており、 前記上板の凸部の高さと前記下板凸部の高さの合計が、前記中板の厚みと同じか、または、前記中板の厚みとの差が0.5mmを超えない程度に大きくすることで、 目的試料を直接前記下板の凸部上に乗せ、さらに前記中板と前記上板を被せた状態で、前記下板と前記上板との間に挟まれた目的試料をすり潰すことが可能であることを特徴とする錠剤成形器。 前記錠剤成型器はスペーサーを有しており、前記上板と前記下板の凸部で目的試料をすり潰し、圧延したあと、一旦上板を外し、前記中板の貫通孔内にハロゲン化アルカリを加え、再度上板を戻す際に前記スペーサーを中板に重ねることで、作製する錠剤の厚さ調製が可能であることを特徴とする請求項1に記載の錠剤成型器。 前記錠剤成型器の上板および/または下板の凸部の表面に、微細な凹凸を設けることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の錠剤成型器。 前記錠剤成型器の上板および/または下板の凸部の表面に、滑り性層を設けることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の錠剤成型器。 請求項1から請求項4のいずれかに記載の錠剤成型器を用いて、錠剤成型器の上板の凸部と下板の凸部と中板およびスペーサーの中の空隙で目的試料の粉砕と分散、ハロゲン化アルカリの粉砕を行い、そのまま加圧して密閉内で錠剤成型を完了させることを特徴とする赤外分光分析測定用試料の作製方法。 【課題】赤外分光分析における錠剤法において、ハロゲン化アルカリの吸湿の影響を軽減するために、錠剤成型器の内部で目的試料の粉砕と圧延、分散、成型までを一貫して行う測定用試料作製のための錠剤成型器を提供する。【解決手段】錠剤成型器は少なくとも、凸部を有する上板、貫通孔を有する中板、凸部を有する下板から構成されており、上板の凸部の高さと下板凸部の高さの合計が、中板の厚みと同じか、または、中板の厚みとの差が0.5mmを超えない程度に大きくすることで、目的試料を直接下板の凸部上に乗せ、さらに中板と上板を被せた状態で、下板と上板との間に挟まれた目的試料をすり潰すことが可能である。【選択図】図3