タイトル: | 公開特許公報(A)_視床−皮質軸索でEGFPを発現するマウス |
出願番号: | 2014041326 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A01K 67/027,C12N 15/09 |
岩里 琢治 糸原 重美 JP 2015165780 公開特許公報(A) 20150924 2014041326 20140304 視床−皮質軸索でEGFPを発現するマウス 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 504202472 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 岩里 琢治 糸原 重美 A01K 67/027 20060101AFI20150828BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150828BHJP JPA01K67/027C12N15/00 A 7 OL 8 4B024 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA07 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA12 本発明は、視床−皮質軸索の発達を検討可能なトランスジェニックマウス及びその作製方法に関する。 大脳皮質は、大脳の表面に広がる、神経細胞の細胞体の密な灰白質の薄い層であり、知覚、随意運動、思考、推理、記憶など脳の高次機能を司る。一方、視床は、間脳の一部を占める部位であり、嗅覚を除く、視覚、聴覚、体性感覚などの感覚入力を大脳新皮質へ中継する重要な役割を担っている。 外界からの刺激を大脳皮質に伝える最も主要な経路である視床−皮質軸索の発達、大脳皮質の発達、感覚野の機能に影響する薬剤や遺伝子の探索や評価には、従来、視床−皮質軸索、大脳皮質領域、あるいは、層特異的マーカーを用いた免疫組織化学などの方法が用いられてきた(非特許文献1)。本方法は、切片作製や染色を必要としないことから、個体での解析、サンプル調製(例えば領域特異的DNA、RNA、蛋白質などの調製)に適している。 また、視床−皮質軸索の発達の評価には、従来、トレーサー注入あるいは電気穿孔法やウイルスを用いた遺伝子導入により軸索を標識すること、あるいは、視床-皮質軸索特異的マーカーによる免疫組織化学の手法による標識が行われてきた(非特許文献2)。Neuron 79, 970-986, September 4, 2013Neuron 19, 1201-1210, December, 1997 しかしながら、これら従来の方法では、実験ごとのばらつきが大きい、細胞種特異的が得られにくい(トレーサーでは不可能)、技術の習熟が要求される、手術を要するため動物の負担が大きいなどの問題を有していた。 従って、本発明の課題は、切片作製や組織学的染色、特殊な技術を必要とすることなく、個体での解析が可能な視床−皮質軸索、大脳皮質の発達、当該発達に影響を及ぼす薬剤や遺伝子の探索及び評価が可能なモデルを提供することにある。 そこで本発明者は、外界からの刺激を大脳に伝える最も主要な経路である視床−皮質軸索を選択的に標識する手段を開発すべく検討したところ、大腸菌由来人工染色体であるBACクローン上のセロトニントランスポーターのプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したBACクローンを作製し、これを受精卵にマイクロインジェクションすることにより、視床−皮質軸索において選択的にEGFPが発現するトランスジェニックマウスが得られ、当該トランスジェニックマウスは視床−皮質軸索が蛍光標識できるため、視床−皮質軸索の発達及び大脳皮質の発達状態が経時的に解析可能であることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔7〕を提供するものである。〔1〕視床−皮質軸索において、セロトニントランスポーターのプロモーター制御下で膜移行型EGFPを発現するトランスジェニックマウス。〔2〕大腸菌由来人工染色体クローン上のセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したクローンを導入したものである〔1〕記載のトランスジェニックマウス。〔3〕膜移行性シグナル遺伝子が、GAP43遺伝子である〔2〕記載のトランスジェニックマウス。〔4〕大腸菌由来人工染色体クローンが、RP23−39F11クローンである〔2〕又は〔3〕記載のトランスジェニックマウス。〔5〕受精卵に、大腸菌由来人工染色体クローン上のセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したクローンを導入することを特徴とする〔1〕記載のトランスジェニックマウスの作製方法。〔6〕膜移行性シグナル遺伝子が、GAP43遺伝子である〔5〕記載のトランスジェニックマウスの作製方法。〔7〕大腸菌由来人工染色体クローンが、RP23−39F11クローンである〔5〕又は〔6〕記載のトランスジェニックマウスの作製方法。 本発明のトランスジェニックマウスは、発達期の感覚系の視床神経核及びセロトニン神経で発現する遺伝子であるセロトニントランスポーターのプロモーターの制御下でEGFPが発現するため、視床−皮質軸索、及び大脳皮質の領野(感覚野)や層構造(第4層と第6層)を蛍光標識できることから、大脳皮質の領野や層の形成の評価に適している。また、切片作製や組織学的染色を必要とせず生体で体性感覚野、視覚野、聴覚野を明るく蛍光標識できることから、感覚野からのサンプル調製(DNA,RNA,蛋白質)にも適している。BACへの遺伝子導入コンストラクトを示す図である。生後7日目のトランスジェニックマウスの摘出脳標本で蛍光観察されたバレル地図を示す(B)。Cは、脳領域の説明図である。S1、一次体性感覚野;V1、一次視覚野;A1、一次聴覚野;OB、嗅球;SC、上丘;IC、下丘;Cb、小脳。生後2日(P2)から16日(P16)までの、大脳皮質の蛍光像を示す。生後7日のトランスジェニックマウスより作成された脳切片標本(thalamocortical section(A); tangential section (B))を示す。VPM、後内側腹側核;VPL、後外側腹側核;LGN、外側膝状体;Cx、大脳皮質;Hp、海馬。 本発明のトランスジェニックマウスは、視床−皮質軸索において、セロトニントランスポーターのプロモーターの制御下で膜移行型EGFPを発現するマウスである。当該マウスと同様の性質をもったマウスは、マウスの受精卵に、大腸菌由来人工染色体(BAC)クローンのセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したクローンを導入することにより作製することができる。 マウスとしては、特に制限はなく、通常実験動物として使用される系統のマウスであればよい。 BACクローンとしては、RP23−39F11を用いるのが好ましい。 BACクローンに導入する遺伝子は、膜移行性シグナル遺伝子及びEGFP遺伝子の融合体である。膜移行性シグナル遺伝子としては、GAP43遺伝子が好ましい。GAP43遺伝子とEGFP遺伝子を連結して、BACクローンに導入する。 GAP43遺伝子とEGFP遺伝子を挿入する部位は、セロトニントランスポーターの翻訳開始点付近である。セロトニントランスポーターは、発達期の感覚系の視床神経核及びセロトニン神経で発現するため、この遺伝子のプロモーター制御下に膜移行型EGFP遺伝子を挿入すれば、視床−皮質軸索で発現する。 得られた組み換えBACを、大腸菌中で増幅し、得られたBACクローンを線状化しマウスの受精卵にマイクロインジェクションする。当該受精卵を雌マウスの子宮に着床させ、出生させれば、目的のトランスジェニックマウスが得られる。 得られたトランスジェニックマウスを交配させれば、次世代でヘテロ接合型マウス及びホモ接合型マウスを作製することができる。 得られた本発明のトランスジェニックマウスは、生後から大脳皮質の発達に伴い、視床−皮質軸索にEGFPが発現し、視床−皮質軸索、大脳皮質が蛍光標識されるので、大脳皮質発達状態、層構造の発達、感覚野の機能等が評価できる。また、種々の薬剤及び遺伝子の視床−皮質軸索、大脳皮質の発達に対する影響も評価できる。また、必要に応じて、大脳皮質の発達段階の蛍光識別組織切片も作用可能である。 次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。実施例1 図1のように、トランスジェニックコンストラクトは、B6マウスゲノム由来BACクローンRP23−39F11の改変により作成した。膜移行GAP43シグナル配列(Moriyoshi et al., Neuron 1996(2); 255-260)は2つの一本鎖DNA(F−GAP、R−GAP)のアニーリングにより作成した。開始コドン削除EGFPをF−EGFPとR−EGFPのプライマー対を用いてpEGF−N1(クロンテック社)から増幅した。増幅物は、pEGFP−N1ベクターのNhe/BamHIサイトとBamHI/NotIを連結した。得られたベクター中のGAP43−EGFP−pA配列を、AseI/AftIIで切除し、平滑末端ライゲーションでpS120ベクターのSpeIサイトに挿入した。得られたGAP43−EGFP−pA−Amp−FRT配列をF−カセット及びR−カセットプライマーペアで増幅し、Red/ETシステムでBAC組み換えを行った。BACコンストラクト中のFRT−Amp−FRT配列を大腸菌中のflp/FRY組み換えで削除した。トランスジェニックファウンダーマウスは鎖状DNAコンストラクトのB6マウス受精卵へのマイクロインジェクションにより作成した。得られた受精卵を雌マウスの子宮に導入して、出産させてトランスジェニックマウスを作製した。 得られたマウスラインのうちライン♯40では、出生直後において、一次感覚野および一次感覚野に対応する視床核に限局した強いEGFPの発現が認められた(図2B、図2C)。このマウスラインでは、切片を作製することなしにバレル地図の観察を行うことが可能であった(図2)。実施例2 得られたトランスジェニックマウスの出生2〜16日後の大脳皮質蛍光像を示す(図3)。図3より、大脳皮質の層形成が明確に観察できる。実施例3 生後7日齢のトランスジェニックマウスの脳切片標本を図4に示す。図4より、EGFPが感覚系視床神経核(LGN,VPM,VPL)から大脳皮質(Cx)に伸びる軸索上に発現していることがわかる。 視床−皮質軸索において、セロトニントランスポーターのプロモーター制御下で膜移行型EGFPを発現するトランスジェニックマウス。 大腸菌由来人工染色体クローン上のセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したクローンを導入したものである請求項1記載のトランスジェニックマウス。 膜移行性シグナル遺伝子が、GAP43遺伝子である請求項2記載のトランスジェニックマウス。 大腸菌由来人工染色体クローンが、RP23−39F11である請求項2又は3記載のトランスジェニックマウス。 受精卵に、大腸菌由来人工染色体クローン上のセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーターの下流に膜移行性シグナル遺伝子とEGFP遺伝子の融合体を挿入したクローンを導入することを特徴とする請求項1記載のトランスジェニックマウスの作製方法。 膜移行性シグナル遺伝子が、GAP遺伝子である請求項4記載のトランスジェニックマウスの作製方法。 大腸菌由来人工染色体クローンが、RP23−39F11である請求項5又は6記載のトランスジェニックマウスの作製方法。 【課題】切片作製や組織学的染色、特殊な技術を必要とすることなく、個体での解析が可能な視床−皮質軸索、大脳皮質の発達、当該発達に影響を及ぼす薬剤や遺伝子の探索及び評価が可能なモデルの提供。【解決手段】視床−皮質軸索において、セロトニントランスポーターのプロモーター制御下で膜移行型EGFPを発現するトランスジェニックマウス。【選択図】なし