タイトル: | 公開特許公報(A)_口腔用組成物、歯周病疾患リスク予測装置および動物の歯周病治療方法 |
出願番号: | 2014031956 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 8/99,A61K 8/19,A61Q 11/00,A61K 35/74,A61P 1/02,A23G 4/00,A23L 2/52,A23L 2/02,A23L 1/30,C12M 1/34,C12N 1/20 |
南部 隆之 川添 堯彬 JP 2015157768 公開特許公報(A) 20150903 2014031956 20140221 口腔用組成物、歯周病疾患リスク予測装置および動物の歯周病治療方法 学校法人大阪歯科大学 595148176 特許業務法人グローバル知財 110000822 南部 隆之 川添 堯彬 A61K 8/99 20060101AFI20150807BHJP A61K 8/19 20060101ALI20150807BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20150807BHJP A61K 35/74 20150101ALI20150807BHJP A61P 1/02 20060101ALI20150807BHJP A23G 4/00 20060101ALI20150807BHJP A23L 2/52 20060101ALI20150807BHJP A23L 2/02 20060101ALI20150807BHJP A23L 1/30 20060101ALI20150807BHJP C12M 1/34 20060101ALI20150807BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150807BHJP JPA61K8/99A61K8/19A61Q11/00A61K35/74 AA61P1/02A23G3/30A23L2/00 FA23L2/02 ZA23L1/30 ZC12M1/34 DC12N1/20 E 14 1 OL 18 特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名 第55回歯科基礎医学会学術大会 総会プログラム・抄録集 発行日 平成25年 8月26日 発行所 一般財団法人 歯科基礎医学会 該当ページ 113 4B014 4B017 4B018 4B029 4B065 4C083 4C087 4B014GB13 4B014GG18 4B017LC04 4B017LK01 4B017LK21 4B018LB01 4B018LB08 4B018MD01 4B018MD80 4B018ME09 4B018ME14 4B029AA07 4B029BB03 4B029CC07 4B029FA09 4B029GA01 4B065AA01X 4B065AC14 4B065AC20 4B065BA22 4B065BB02 4B065CA41 4B065CA44 4C083AA031 4C083AA032 4C083AB271 4C083AB272 4C083BB55 4C083CC41 4C083DD15 4C083DD22 4C083DD23 4C083DD27 4C083DD41 4C083EE31 4C083EE33 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC15 4C087BC28 4C087CA09 4C087CA10 4C087MA16 4C087MA27 4C087MA35 4C087MA36 4C087MA47 4C087MA52 4C087MA57 4C087NA14 4C087ZA67 本発明は、口腔用組成物、歯周病疾患リスク予測装置および動物の歯周病治療方法に関するものである。 歯周病を予防するためには、歯周病の原因であるプラーク(歯垢)を除去することが重要であり、プラークを取り除くことやプラークをつきにくくするプラークコントロールによる歯周病菌の除去が行われている。 また、歯周病のリスクファクター(危険因子)を少なくすることも重要である。 昨今、歯周病予防剤として薬用歯磨剤(練り歯磨き、液体歯磨き)が多数商品化されており、プラーク除去を目的として、薬用成分としてデキストラナーゼ(酵素)を含み、プラークの分解を促進させている。 歯周病(歯肉炎・歯周炎)の予防を目的としては、出血防止効果があるトラネキサム酸、抗炎症作用があるε-アミノカプロン酸、グリチルリチン酸ジカリウムまたはβ-グリチルレチン酸、殺菌作用があるIPMP(イソプロピルメチルフェノール)、塩化セチルピリジニウム(CPC)またはトリクロサン、収れん作用がある塩化ナトリウム、血行作用がある酢酸トコフェロール(ビタミンE)が薬用成分として知られている。 また、むし歯予防を目的としては、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)やフッ化ナトリウム(NaF)が薬用成分として知られており、これらの成分は歯質強化、再石灰化の促進、酸産生の抑制の働きがある。 また、歯石予防を目的として、歯石形成の抑制効果があるポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが薬用成分として知られている。 この他、冷たいものが歯にしみるのを防ぐのを目的として、乳酸アルミニウムや硝酸カリウムが薬用成分として知られており、これらは刺激の伝達を防ぐ働きを担っている。 また、薬用歯磨剤の他、歯周病予防や歯周病治療として、歯周病巣に殺微生物的有効量の金属イオンを投入する技術(特許文献1)、口腔細菌の菌体外水溶性低分子物質を含有する口腔用組成物の技術(特許文献2)、有効量のカテキンを含有する口腔常在菌叢調整剤の技術(特許文献3)、生きた乳酸菌とキシリトールを含有する口腔内疾患の予防剤の技術(特許文献4)が知られている。 また、有効塩素濃度が50〜700ppm、pHが6.3〜8であって、次亜塩素酸及び炭酸水素ナトリウムを含んでなり、歯周病原菌を殺菌する技術(特許文献5)が知られている。特表2001−515042号公報特開2004−292401号公報特開2010−064961号公報特許第3921175号公報特許第4369530号公報 歯周病の病原菌として、嫌気性のグラム陰性桿菌が主に知られている。具体的には、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、エイケネラ・コローデンス(Eikenella corrodens)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)である。 歯周病の予防法や治療法は以前から多くの方法があるが、いずれも根本的な治療方法を見出せていないのが現状である。これは、歯周病原菌の殆どが、浮遊菌ではなく、自ら産生した菌体外多糖からなるバイオフィルムで保護されており、このバイオフィルムで抗生剤等を遮断しながら、緩やかに増殖を続けるためである。 このため、歯周病原菌の殺菌には、持続的に効果が続くことが期待でき、体内に安全で、さらに、歯周病原菌に対して特異的な殺菌効果があり他の常在菌(共生菌)を殺菌しないことが望まれる。 かかる状況に鑑みて、本発明は、口腔内細菌を活用し、体内を循環する物質との相互作用によって、持続的かつ安全的に、歯周病原菌に対して特異的な殺菌効果がある口腔用組成物を提供することを目的とする。 本発明者らは、口腔内細菌を鋭意検討した結果、口腔内細菌の内、Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸塩存在下で、歯周病原菌を殺菌できることの知見を得た。すなわち、Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸還元菌として作用し、口腔善玉菌として働くこと、ならびに歯周病原菌の殺菌の仕組みを見出した。 すなわち、本発明の口腔用組成物は、アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌と、硝酸塩あるいは硝酸イオンを含有してなることを特徴とする。 Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸還元菌として作用し、硝酸塩存在下で一酸化窒素(NO)を生成することによって、歯周病原菌の殺菌および歯周病の予防や治療を可能とする。 具体的な細菌は、例えば、Actinomyces oris MG-1菌株、Actinomyces naeslundii ATCC12104菌株、Rothia aeria JCM11412菌株、Rothia mucilaginosa DY-18菌株、Rothia dentocariosa ATCC17931菌株から選ばれる菌株から得られる。 本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用したときに、唾液のpHを5.5〜6.5の範囲に下降させることが好ましい。歯周病原菌の硝酸塩存在下での殺菌は、pHが6.5以下になると著しく効果が現れる。pHが5.5より下回っても殺菌効果は現れるが、他の副作用を生じさせるリスクを回避すべく上記の範囲とする。 また、本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用したときに、硝酸濃度が2〜10mMであることが好ましい。硝酸濃度が2mM以上とすることで著しく殺菌効果が現れる。硝酸濃度が10mMを超えても殺菌効果は現れるが、他の副作用を生じさせるリスクを回避すべく上記の範囲とする。 硝酸塩は、具体的には、硝酸ナトリウム(NaNO3)または硝酸カリウム(KNO3)である。硝酸ナトリウム(NaNO3)または硝酸カリウム(KNO3)は、本来的に食品に含まれる硝酸塩であり、葉菜類(ホウレンソウ、春菊、レタス)に多く含まれる。これらの硝酸塩であれば口腔内に投与しても安全である。 本発明の口腔用組成物は、Porphyromonas gingivalis及びPrevotella intermediaの歯周病原菌を殺菌できる。 Porphyromonas gingivalis及びPrevotella intermediaは、代表的な歯周病原菌であり、後述する実施例において、これらの歯周病原菌が硝酸依存的に殺菌されることが確認できている。 本発明の口腔用組成物は、歯磨剤、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、トローチ、チューイングガム、タブレットまたはジュースの形態で提供できる。 次に、本発明の歯周病疾患リスク予測装置について説明する。 本発明の歯周病疾患リスク予測装置は、口腔内細菌叢(フローラ)におけるアクチノマイセス(Actinomyces)属およびロシア(Rothia)属の細菌の存在割合を測定する手段を備え、歯周病疾患の発生リスクを予測する。 Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸還元菌として作用し、硝酸塩存在下で一酸化窒素(NO)を生成して歯周病原菌を殺菌するので、口腔内細菌叢(フローラ)におけるアクチノマイセス(Actinomyces)属およびロシア(Rothia)属の細菌の存在割合を測定することで、歯周病疾患の発生リスクを予測することができる。 また、本発明の歯周病疾患リスク予測装置は、口腔内における硝酸還元能を測定する手段を備え、歯周病疾患の発生リスクを予測する。例えば、唾液成分の硝酸還元能の測定、その他口腔内における硝酸還元能を測定することにより、硝酸塩存在下で一酸化窒素(NO)を生成して歯周病原菌を殺菌できる能力を測定するのである。 次に、本発明の歯周病治療方法について説明する。 本発明の歯周病治療方法は、硝酸塩水溶液を歯肉炎下へ注入することにより、人を除く動物の歯周病を治療する。硝酸塩水溶液を歯肉炎下へ注入することにより、口腔内に元々存在するアクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌が、硝酸を還元して亜硝酸を生成する。亜硝酸は、口腔内の弱酸性環境によって還元され、一酸化窒素(NO)を生成するので歯周病原菌が殺菌される。なお、硝酸塩水溶液を歯肉炎下へ注入することにより、人の歯周病を治療することも可能である。 また、歯周病の治療や予防目的で、硝酸塩水溶液を口腔内に投与することも効果的である。例えば、野菜ジュース程度の硝酸濃度(5mM)でも歯周病原菌の十分な殺菌効果がある。なお、過剰摂取した硝酸イオンは尿として排出され、人体に害となる亜硝酸や一酸化窒素が過剰になることはない。 ここで、硝酸塩水溶液は、アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌が混入されているのが好ましい。口腔内に元々存在するアクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌の量を増加して、硝酸還元能を高めるためである。 混入されている細菌は、具体的には、Actinomyces oris MG-1菌株、Actinomyces naeslundii ATCC12104菌株、Rothia aeria JCM11412菌株、Rothia mucilaginosa DY-18菌株、Rothia dentocariosa ATCC17931菌株から選ばれる菌株から得られる。 また、本発明の歯周病治療方法において、硝酸塩水溶液のpHを5.5〜6.5の範囲に調製することが好ましい。弱酸性環境に保つことにより、亜硝酸が還元されやすく、一酸化窒素(NO)が生成される量が多くなるからである。また、本発明の歯周病治療方法において、硝酸塩水溶液の濃度が2〜10mMであること好ましい。 本発明の口腔用組成物によれば、歯周病原菌を硝酸依存的に殺菌することができ、また特異的に歯周病原菌を殺菌でき、歯周病の予防や治療が期待できる。歯周病原菌を殺菌する仕組みの説明図歯周病原菌を殺菌する仕組みを検証する方法の説明図R. mucilaginosaとP. gingivalisを共培養した際のP. gingivalisの生存率を示すグラフR. mucilaginosaとP. gingivalisを共培養した際のR. mucilaginosaの生存率を示すグラフP. gingivalis単独培養時の生存率を示すグラフ硝酸カリウム添加時のP. gingivalisの生存率を示すグラフPTIOによる硝酸イオン依存的殺菌の抑圧の様子を示すグラフ培養液のpHと殺菌効果を示すグラフ硝酸ナトリウム濃度と殺菌効果を示すグラフ硝酸還元酵素と亜硝酸還元酵素の欠損株における殺菌効果を示すグラフA. orisとP. gingivalisの共培養におけるA. orisの生存率を示すグラフ口腔内細菌(Rothia属,Actinomyces属)における殺菌効果を示すグラフR. mucilaginosaによる硝酸ナトリウム依存的P. intermediaの殺菌作用を示すグラフ 以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。 まず、本発明者らが見出した歯周病原菌の殺菌の仕組みについて説明する。 図1は、アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌が、硝酸銀存在下で、歯周病原菌を殺菌する仕組みを示している。アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌が善玉菌として働き、硝酸イオン(NO3−)を亜硝酸イオン(NO2−)に還元する。弱酸性環境下では亜硝酸イオン(NO2−)から一酸化窒素(NO)への還元過程が自発的に起きる。歯周病原菌(P. intermediaなど)は、一酸化窒素(NO)に非常に弱い細菌であるため、一酸化窒素によって歯周病原菌を特異的に殺菌できるのである。 次に、歯周病原菌を殺菌する仕組みを検証する方法について、図2を参照して説明する。 図2に示すように、歯周病原菌(P. intermediaなど)と、善玉菌であるアクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌を共培養する。共培養は、硝酸塩(硝酸イオン)を添加する場合と非添加の場合の2通りの条件で行い、それぞれ37℃、嫌気条件で数分から数時間振盪培養する。培養開始時および培養中における生菌数の算出は、段階希釈した培養液を寒天培地上へ塗抹して、生じたコロニー数からコロニー形成単位(CFU:Colony Forming Unit)を求めることで行う。 後述する実施例で使用した菌株、実験方法、共培養と共存率の算出方法について、以下に説明する。<アクチノマイセス(Actinomyces)属の口腔内細菌>・Actinomyces odontolyticus ATCC17929(以下、A. odontolyticus)・Actinomyces oris MG-1(以下、A. oris)・Actinomyces oris TN9011 (narG)・Actinomyces oris TN9012 (nirK)・Actinomyces naeslundii ATCC12104(以下、A. naeslundii)<ロシア(Rothia)属の口腔内細菌>・Rothia aeria JCM11412(以下、R. aeria)・Rothia mucilaginosa DY-18(以下、R. mucilaginosa)・Rothia dentocariosa ATCC17931(以下、R. dentocariosa)<歯周病原菌>・Porphyromonas gingivalis ATCC33277(以下、P. gingivalis)・Prevotella intermedia ATCC25611(以下、P. intermedia)(方法、共培養と共存率の算出方法について) R. mucilaginosa,R. aeria,R. dentocariosa, A. naeslundiiは、ハートインフュージョン培地(HIB:Heart Infusion Broth,Difco社製)に接種し、37℃、好気条件で一晩静置培養した。また、A. orisは、HIBに接種し,37℃、好気条件で一晩振盪培養した。 また、歯周病原菌のP. gingivalis,P. intermediaは、変法GAM培地(ニッスイ社製)で一晩嫌気培養した。 培養後の細菌細胞は嫌気培養装置内での遠心操作によりHIBで2回洗浄した。HIBに懸濁したロシア(Rothia)属の細菌あるいはアクチノマイセス(Actinomyces)属の細菌を200、歯周病原菌のP. gingivalisあるいはP. intermediaを1の容量比で混合した。 必要に応じて、終濃度0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液(和光純薬工業製)でpHを7.2,6.5,6.0に調整したHIB、終濃度0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液(和光純薬工業製)でpHを5.5に調整したHIBを用いた。 また、必要に応じて硝酸ナトリウム(和光純薬工業製),硝酸カリウム(和光純薬工業製),PTIO(2-Phenyl-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-3-oxide-1-oxyl(東京化成工業社製)を加えた。 なお、PTIOを用いる際は、HIBではなくリン酸緩衝生理食塩水(PBS,タカラバイオ社製)で洗浄した細菌細胞を用いた。それぞれの共培養液は、37℃嫌気条件で数分から数時間振盪培養した。培養開始時、培養中における生菌数の算出は、段階希釈した培養液を寒天培地上へ塗抹し、生じたコロニー数からコロニー形成単位(CFU)を求めることで行った。 歯周病原菌(P. gingivalis,P. intermedia)のCFUの算出は、段階希釈液を25mg/Lのゲンタマイシン(和光純薬工業製)を添加した変法GAM培地へ塗抹して、嫌気培養することにより求めた。また、ロシア(Rothia)属の細菌あるいはアクチノマイセス(Actinomyces)属の細菌のCFUの算出は、段階希釈液をHIB寒天培地へ塗抹して好気培養することにより求めた。 共培養開始時(0時間)のそれぞれの菌種のCFUを100%として、経時的に得たCFUから生存率(%)を求めた。なお、全ての実験は独立した3系統で行っており、平均と標準誤差を求めて図に示すグラフにプロットした。 ロシア(Rothia)属のR. mucilaginosaによる歯周病原菌(P. gingivalis)の硝酸依存的な殺菌効果について調べた結果を説明する。 まず、R. mucilaginosaとP. gingivalisをHIBに懸濁し、37℃で3時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMとなるよう硝酸ナトリウム(NaNO3)を添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行い、培養開始時のP. gingivalisのCFU(3.4×107)を100%とし、経時的に測定したCFUからP. gingivalisの生存率を求めた。 R. mucilaginosaとP. gingivalisを共培養した際のP. gingivalisの生存率を図3に示す。 P. gingivalisの生存率は、硝酸ナトリウム(NaNO3)非添加条件では時間経過に関わらずほぼ100%で推移したのに対して、硝酸ナトリウム(NaNO3)添加条件では、経時的に著しい生存率の低下がみられ、3時間後では約95%のP. gingivalisが殺菌されていた。 一方、培養開始時のR. mucilaginosaのCFU(2.8×107)を100%とし、培養3時間後のCFUからR. mucilaginosaの生存率を求めた。R. mucilaginosaの生存率を図4に示す。R. mucilaginosaは、P. gingivalisと異なり、硝酸ナトリウムの添加、非添加の条件に関わらず、生存率の低下はみられなかった。 図3および図4に示す生存率の結果から、P. gingivalisとR. mucilaginosaを共培養した場合、硝酸ナトリウム依存的にP. gingivalisの殺菌がみられることが理解できる。 また、P. gingivalis単独培養時の生存率を確認するため、P. gingivalisをHIBに懸濁し、37℃で3時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMとなるよう硝酸ナトリウム(NaNO3)を添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行い、培養開始時のP. gingivalisのCFU(2.0×107)を100%とし、培養3時間後のCFUから生存率を求めた。P. gingivalis単独培養時の生存率を図5に示す。 図5から、培養液にR. mucilaginosa を加えず、P. gingivalis単独での培養を行った場合、硝酸依存的な殺菌は見られなかった。 次に、硝酸カリウム(KNO3)添加時のP. gingivalisの生存率を調べた。 R. mucilaginosaとP. gingivalisをHIBに懸濁し、37℃で3時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMとなるよう硝酸カリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行い、培養開始時のP. gingivalisのCFU(3.8×107)を100%とし、培養3時間後のCFUからP. gingivalisの生存率を求めた。 硝酸カリウム(KNO3)添加時のP. gingivalisの生存率を図6に示す。硝酸カリウム(KNO3)添加時も、硝酸ナトリウム(NaNO3)の場合と同様に、経時的に著しい生存率の低下がみられ、3時間後では約90%のP. gingivalisが殺菌されていた。 一方、培養開始時のR. mucilaginosaのCFU(3.0×107)を100%とし、培養3時間後のCFUからR. mucilaginosaの生存率を求めたが、硝酸カリウムの添加、非添加の条件に関わらず、生存率の低下はみられなかった。 すなわち、硝酸カリウムを用いて共培養した場合でも、硝酸ナトリウムを用いた場合と同様の結果が得られた。実施例1および実施例2の結果から、R. mucilaginosaとP. gingivalisの共培養系でのP. gingivalisの殺菌は、R. mucilaginosaと硝酸イオン依存的であることが確認できた。 R. mucilaginosaとP. gingivalisの共培養系でみられたP. gingivalisの殺菌は、R. mucilaginosaが硝酸イオンを還元した際に生じる一酸化窒素が原因となっている可能性があり、これを調べるために、共培養系に一酸化窒素スカベンジャー(捕捉剤)を添加して、硝酸イオン依存的な殺菌が抑圧されるか確認した。 実験は、PBSで洗浄したR. mucilaginosaとP. gingivalisをHIBに懸濁し、37℃、4時間でインキュベートした。培養は、終濃度10mMとなるよう硝酸ナトリウム(NaNO3)を添加した場合(+)と非添加の場合(−)、また、終濃度1mMとなるようPTIOを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行った。 培養開始時のP. gingivalisのCFU(2.0×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。また、培養開始時のR. mucilaginosaのCFU(2.1×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。 結果を図7に示す。R. mucilaginosaとP. gingivalisの共培養系に一酸化窒素スカベンジャー(捕捉剤)であるPTIOを加えた際のP. gingivalisの生存率の変化を調べた。硝酸ナトリウム非添加の場合、培養液へのPTIOの添加の有無に関わらず、培養4時間後のP. gingivalisの生存率はほぼ100%であった。 一方、硝酸ナトリウムを添加した場合、PTIO非添加では著しい生存率の減少がみられたが、PTIO添加によって生存率の減少の程度が抑圧されたことが確認できた。このことから、P. gingivalisの殺菌は、R. mucilaginosaによる硝酸イオン還元の結果生じた一酸化窒素によるものであると理解できる。 硝酸還元により生じた亜硝酸イオンは、酸性側pH環境下でその一部が自発的に一酸化窒素に変換する。従って、一酸化窒素が殺菌効果に関与しているのであれば、pH環境の違いでP. gingivalisの生存率が異なるはずであり、それを調べた。 R. mucilaginosaとP. gingivalisをリン酸ナトリウム緩衝液(終濃度0.1M)でpH7.2,6.5,6.0に調整したHIBに懸濁し、37℃で2時間インキュベートした。また、これらの菌をクエン酸ナトリウム緩衝液(終濃度0.1M)でpH5.5に調整したHIBにも懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMの硝酸ナトリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行った。培養開始時のP. gingivalisのCFU(pH7.2とpH6.5では2.3×107、pH6.0では2.6×107、pH5.5では4.4×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。また、培養開始時のR. mucilaginosaのCFU(pH7.2とpH6.5では2.0×107、pH6.0では2.7×107、pH5.5では3.0×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。 結果を図8に示す。R. mucilaginosaとP. gingivalisを異なるpHに調整されたHIBに懸濁し、37℃でインキュベートした。培養2時間後のP. gingivalisの生存率を求めたところ、pH7.2とpH6.5に調製した培養液を用いた場合では、硝酸ナトリウム添加時においてもほとんど生存率の低下はみられなかった。一方、pH6.0の培養液を用いた場合,生存率が1%以下に減少した。さらに、pH5.5の培養液を用いた場合、1時間で生存率が1%以下に減少した。このことから、中性より酸性側pHの方が、P. gingivalisの殺菌効果が高いことがわかった。 硝酸イオン濃度と殺菌効果を調べた。R. mucilaginosaとP. gingivalisをリン酸ナトリウム緩衝液(終濃度0.1M)でpH6.0に調整したHIBに懸濁し、37℃で2時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMの硝酸ナトリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行った。培養開始時のP. gingivalisのCFU(1.6×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。なお、培養開始時のR. mucilaginosaのCFUは、2.0×107であったが、生存率の変化はなかった。 結果を図9に示す。R. mucilaginosaとP. gingivalisを異なる硝酸ナトリウム濃度に調整されたHIBに懸濁し、37℃でインキュベートした。培養2時間後のP. gingivalisの生存率を求めたところ、硝酸ナトリウムの濃度依存的にP. gingivalisの生存率の減少が確認された。 次に、R. mucilaginosa以外にも硝酸還元活性を持つとされるActinomycesでも硝酸イオン依存的にP. gingivalisを殺菌できるか調べた。具体的には、硝酸還元酵素をコードする遺伝子(narG)、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子(nirK)の欠損株(亜硝酸還元酵素の欠損株)において、P. gingivalisの殺菌効果が消失するか確認した。 A. oris(MG−1)、その硝酸還元酵素欠損株(TN9011,narG)、亜硝酸還元酵素欠損株(TN9012,nirK)のいずれかと、P. gingivalisをリン酸ナトリウム緩衝液(終濃度0.1M)で、pH6.0に調整したHIBに懸濁し、37℃で8時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMの硝酸ナトリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行った。培養開始時のP. gingivalisのCFU(MG−1,TN9011,TN9012との培養では、それぞれ4.1×107,4.5×107,4.4×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。 結果を図10、図11に示す。図10に示すように、A. orisとP. gingivalisを共培養したところ、P. gingivalisの生存率は硝酸依存的に著しく減少した。しかし、硝酸還元酵素narG欠損株TN9011を添加した場合では、P. gingivalisの生存率が減少しておらず、硝酸依存的殺菌効果が消失したことを確認できた。このことは硝酸イオンの還元反応の結果生じた一酸化窒素が、P. gingivalisを殺菌しているということと矛盾しない。 一方、亜硝酸還元酵素nirK欠損株TN9012を添加した場合では、P. gingivalisの生存率は著しく減少し、硝酸依存的殺菌効果は消失しなかったことを確認できた。これは、酸性pH環境では亜硝酸から一酸化窒素への還元過程が自発的に起こることから説明できる。 なお、図11に示すように、A. orisとP. gingivalisを共培養において、A. orisの生存率はいずれの場合も変化しなかった。 上述の実施例で、R. mucilaginosaやA. orisが、硝酸依存的にP. gingivalisを殺菌することを示したが、これら以外の口腔に存在するRothia属の細菌またはActinomyces属の細菌も、硝酸依存的にP. gingivalisを殺菌することができるか調べた。 具体的には、口腔内のRothia属の細菌(R. dentocariosa,R. aeria)、あるいは口腔内のActinomyces属の細菌(A. naeslundii)のいずれかと、P. gingivalisを共培養した際のP. gingivalisの生存率を調べた。培養開始時のP. gingivalisのCFUを100%とし、3時間後のCFUとの比較から生存率を求めた。培養は、終濃度0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液でpHを6.0に調整したHIBを用い、終濃度10mMの硝酸ナトリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行った。培養開始時の培養液には、2.7×107CFUのP. gingivalisと1.0×109CFUのR. dentocariosa,2.9×107CFUのP. gingivalisと1.3×108CFUのR. aeria,2.8×107CFUのP. gingivalisと1.0×108CFUのA. naeslundiiが含まれていた。 結果を図12に示す。図12のグラフの横軸において、RdはR. dentocariosa、RaはR. aeria、AnはA. naeslundiiを表す。 P. gingivalisと口腔内のRothia属の細菌(R. aeria,R. dentocariosa)あるいは口腔内のActinomyces属の細菌(A. naeslundii)とを共培養したところ、硝酸ナトリウム依存的にP. gingivalisの生存率の低下が確認できた。このことから、上述の実施例で示されたR. mucilaginosaやA. orisにおよる硝酸依存的なP. gingivalisの殺菌は、口腔内の主要なRothia属の細菌やActinomyces属の細菌でもみられる共通の特徴であることがわかった。すなわち、硝酸依存的殺菌効果は、Actinomyces属,Rothia属細菌で一般化できることが確認できた。 次に、P. gingivalisと並び、歯周病原菌として知られるP. intermediaにおいても、R. mucilaginosaとの共培養で硝酸ナトリウム依存的に殺菌されるかを調べた。 R. mucilaginosaとP. intermediaをリン酸ナトリウム緩衝液(終濃度0.1M)でpH6.0に調整したHIBに懸濁し、37℃で2時間インキュベートした。培養は、終濃度10mMの硝酸ナトリウムを添加した場合(+)と非添加の場合(−)で行い、培養開始時のP. intermediaのCFU(2.1×107)を100%とし、経時的に測定したCFUから生存率を求めた。なお、培養開始時のR. mucilaginosaのCFUは、4.1×107であったが、生存率の変化はなかった。 結果を図13に示す。R. mucilaginosaとP. intermediaを共培養したところ、硝酸ナトリウム存在下において著しいP. intermediaの生存率の減少が確認できた。R. mucilaginosaによる硝酸ナトリウム依存的殺菌効果は、歯周病原菌のP. gingivalisだけではなく、P. intermediaにも有効であることがわかった。 本発明は、歯周病菌殺菌剤、歯周病菌予防剤または歯周病菌治療剤として、歯磨剤、サプリメント、食品(タブレット、ジュース)に有用である。 アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌と、硝酸塩あるいは硝酸イオンを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。 前記細菌が、Actinomyces oris MG-1菌株、Actinomyces naeslundii ATCC12104菌株、Rothia aeria JCM11412菌株、Rothia mucilaginosa DY-18菌株、Rothia dentocariosa ATCC17931菌株から選ばれる菌株から得られることを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。 口腔内に適用したときに、唾液のpHを5.5〜6.5の範囲に下降させることを特徴とする請求項1又は2に記載の口腔用組成物。 口腔内に適用したときに、硝酸濃度が2〜10mMであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の口腔用組成物。 硝酸塩が、硝酸ナトリウム(NaNO3)または硝酸カリウム(KNO3)であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の口腔用組成物。 Porphyromonas gingivalis及びPrevotella intermediaの歯周病原菌を殺菌することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の口腔用組成物。 歯磨剤、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、トローチ、チューイングガム、タブレットまたはジュースの形態にある請求項1〜6の何れかに記載の口腔用組成物。 口腔内細菌叢(フローラ)におけるアクチノマイセス(Actinomyces)属およびロシア(Rothia)属の細菌の存在割合を測定する手段を備え、歯周病疾患の発生リスクを予測する歯周病疾患リスク予測装置。 口腔内における硝酸還元能を測定する手段を備え、歯周病疾患の発生リスクを予測する歯周病疾患リスク予測装置。 硝酸塩水溶液を歯肉炎下へ注入することにより、人を除く動物の歯周病を治療する歯周病治療方法。 前記硝酸塩水溶液には、アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌が混入されていることを特徴とする請求項10に記載の人を除く動物の歯周病を治療する歯周病治療方法。 前記細菌が、Actinomyces oris MG-1菌株、Actinomyces naeslundii ATCC12104菌株、Rothia aeria JCM11412菌株、Rothia mucilaginosa DY-18菌株、Rothia dentocariosa ATCC17931菌株から選ばれる菌株から得られることを特徴とする請求項11に記載の人を除く動物の歯周病を治療する歯周病治療方法。 硝酸塩水溶液のpHを5.5〜6.5の範囲に調製することを特徴とする請求項10〜12の何れかに記載の人を除く動物の歯周病を治療する歯周病治療方法。 硝酸塩水溶液の濃度が2〜10mMであることを特徴とする請求項10〜13の何れかに記載の人を除く動物の歯周病を治療する歯周病治療方法。 【課題】口腔内細菌を活用し、体内を循環する物質との相互作用によって、持続的かつ安全的に、歯周病原菌に対して特異的な殺菌効果がある口腔用組成物を提供する。【解決手段】Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸還元菌として作用し、口腔善玉菌として働き、歯周病原菌を殺菌することを見出した。すなわち、口腔用組成物は、アクチノマイセス(Actinomyces)属またはロシア(Rothia)属の細菌と、硝酸塩あるいは硝酸イオンを含有してなる。Actinomyces属やRothia属の細菌が、硝酸還元菌として作用し、硝酸塩存在下で一酸化窒素(NO)を生成することによって、歯周病原菌の殺菌および歯周病の予防や治療を可能とする。口腔用組成物は、口腔内に適用したときに、唾液のpHを5.5〜6.5の範囲に下降させることが好ましく、また、硝酸濃度が2〜10mMであることが好ましい。【選択図】図1