タイトル: | 公開特許公報(A)_組織修復性マクロファージへの分化誘導剤および組織修復性マクロファージの製造方法 |
出願番号: | 2014015555 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 35/54,A61P 43/00,A61P 17/02 |
徳江 辰一 石塚 隆伸 JP 2015140334 公開特許公報(A) 20150803 2014015555 20140130 組織修復性マクロファージへの分化誘導剤および組織修復性マクロファージの製造方法 テルモ株式会社 000109543 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 伊東 秀明 100152984 徳江 辰一 石塚 隆伸 A61K 35/54 20150101AFI20150707BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150707BHJP A61P 17/02 20060101ALI20150707BHJP JPA61K35/54A61P43/00 111A61P17/02 9 OL 14 4C087 4C087AA01 4C087AA02 4C087BB61 4C087MA55 4C087MA63 4C087NA14 4C087ZA89 本発明は、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤および組織修復性マクロファージの製造方法に関する。 末梢血液中の単球は、血管壁を通り抜け組織に侵入した後、各組織において様々な環境因子および誘導因子の影響を受けてマクロファージに分化する。マクロファージのフェノタイプには、インターフェロン(IFN)−γ等のTh1サイトカインや腫瘍壊死因子(TNF)−α、リポ多糖(LPS)等の刺激により分化誘導される炎症性マクロファージ(以下「炎症性MΦ」または「M1MΦ」という場合がある。)と、インターロイキン(IL)−4、IL−13等のTh2サイトカインによって分化誘導される組織修復性マクロファージ(以下「組織修復性MΦ」または「M2MΦ」という場合がある。)との少なくとも2種類があることが知られている。さらに、マクロファージにはこれらに代表される活性型以外にも、休止型(resting)マクロファージがあることが知られている。 炎症性MΦはTNF−α、IL−1等の炎症性サイトカインの発現レベルが高く、それらの分泌を介して酸化ストレスの誘発や好中球浸潤を誘導し、壊死組織を分解し、異物や細菌を除去するとともに、自らの貪食作用によりそれらの一翼を担っていると考えられている。一方、組織修復性MΦはIL−10、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−β等を高発現しており、IL−10の分泌を介して炎症性MΦからの炎症性サイトカイン分泌を低下させることなどにより炎症を抑制させる方向に働くと共に、TGF−βや血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の分泌を介して組織修復にも関与していると考えられている。 近年、創傷治癒過程に関するマクロファージの役割が注目されている。創傷の治癒過程は、経時的に観察すると、血小板が凝集する「出血・凝固期」、好中球等の炎症細胞が遊走し異物を除去する「炎症期」、血管新生、肉芽形成および再上皮化が行われる「増殖期」、ならびに肉芽が吸収され、治癒が終了する「再構築期」の4段階の過程から構成されている。実際の創傷では、これらの過程がオーバーラップして治癒に向かう一連の生体反応が起こる。糖尿病(DM)、末梢動脈障害(PAD)等の基礎疾患を持つ創傷の症例においては、創傷の秩序だった治癒カスケードが障害されることにより、創傷が難治化すると考えられているが、炎症期から増殖期への移行においては、炎症性MΦおよび組織修復性MΦのバランスをM2主導に傾かせること、すなわち、炎症性マクロファージまたは休止型マクロファージから組織修復性マクロファージへの転換が重要な役割を担っていると考えられている。 そこで、本発明は、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤および組織修復性マクロファージの製造方法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、卵殻膜またはその加水分解物が、炎症性マクロファージを組織修復性マクロファージに分化誘導することを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の(1)〜(19)を提供する。(1)卵殻膜またはその加水分解物を含有する、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤。(2)濃度依存的な組織修復性マクロファージへの分化誘導作用を有する、(1)に記載の分化誘導剤。(3)濃度依存的なマクロファージの増殖促進作用を有する、(1)または(2)に記載の分化誘導剤。(4)前記卵殻膜またはその加水分解物が、卵殻膜をアルカリ加水分解して得られる卵殻膜加水分解物である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(5)炎症性マクロファージから組織修復性マクロファージへ分化誘導する、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(6)少なくとも1種類の炎症性マクロファージマーカーを発現させたまま、少なくとも1種類の組織修復性マクロファージマーカーを発現させる、(5)に記載の分化誘導剤。(7)単球から組織修復性マクロファージへ分化誘導する、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(8)投与経路が皮膚上投与、経皮投与、皮内投与または皮下投与である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の分化誘導剤。(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の分化誘導剤をin vitroで炎症性マクロファージまたは単球と接触させる工程を含む、組織修復性マクロファージへの分化誘導方法。(10)(1)〜(8)のいずれか1項に記載の分化誘導剤をin vitroで炎症性マクロファージまたは単球と接触させる工程を含む、組織修復性マクロファージの製造方法。(11)単球から休止型マクロファージを介して組織修復性マクロファージへ分化誘導する、(7)に記載の分化誘導剤。(12)炎症性マクロファージがヒトまたはマウスに由来する炎症性マクロファージである、(5)に記載の分化誘導剤。(13)単球がヒトまたはマウスに由来する単球である、(7)に記載の分化誘導剤。(14)以下の工程を含む、(9)に記載の分化誘導方法: (a)炎症性マクロファージまたは単球を含む培養液に(1)〜(8)のいずれか1項に記載の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて炎症性マクロファージまたは単球を培養する工程。(15)以下の工程を含む、(10)に記載の製造方法: (a)炎症性マクロファージまたは単球を含む培養液に(1)〜(8)のいずれか1項に記載の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて炎症性マクロファージまたは単球を培養する工程。(16)以下の工程を含む、マクロファージ組成物の製造方法: (a)(10)または(15)に記載の製造方法によって製造した組織修復性マクロファージを回収する工程、および (b)回収した組織修復性マクロファージを生理食塩水、血清または血漿に分散する工程。(17)以下の工程を含む、難治性創傷の治療方法: (a)難治性創傷を持つ患者から炎症性マクロファージまたは単球を採取する工程、 (b)前記患者から採取した炎症性マクロファージまたは単球と(1)〜(8)のいずれかに記載の分化誘導剤とを in vitro で接触させ、炎症性マクロファージまたは単球を組織修復性マクロファージに分化させる工程、 (c)(b)で分化させた組織修復性マクロファージを回収する工程、 (d)(c)で回収した組織修復性マクロファージを生理食塩水、血清または血漿に分散し、組織修復性マクロファージ組成物を製造する工程、および (e)製造した組織修復性マクロファージ組成物を注射により前記患者に投与する工程。(18)前記難治性創傷が、糖尿病性(神経原性)潰瘍、動脈性(虚血性)潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、バージャー病による潰瘍および膠原病に伴う潰瘍からなる群から選択される少なくとも1つの難治性創傷である、(17)に記載の治療方法。(19)前記患者が、糖尿病、末梢動脈障害、下肢静脈瘤、バージャー病および膠原病からなる群から選択される少なくとも1つの基礎疾患を有する、(17)に記載の治療方法。 本発明によれば、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤および組織修復性マクロファージの製造方法を提供することができる。 本発明の分化誘導剤は、炎症性マクロファージに影響を与えず、組織修復性マクロファージへの変換を濃度依存的に増加させることができる。図1は、比較例(Comp. ex.)1、2および実施例(Ex.)1〜3の、M1MΦ(炎症性マクロファージ、F4/80(+)CD11b(+)細胞)への分化率(%)を表すグラフである。図2は、比較例(Comp. ex.)1、2および実施例(Ex.)1〜3の、M2MΦ(組織修復性マクロファージ、F4/80(+)CD206(+)細胞)への分化率(%)を表すグラフである。図3は、比較例(Comp. ex.)2および実施例(Ex.)1〜3の、比較例(Comp. ex.)1を100とした細胞増殖指標を表すグラフである。〔組織修復性マクロファージへの分化誘導剤〕 本発明の組織修復性マクロファージへの分化誘導剤は、有効成分として、卵殻膜またはその加水分解物を含有する。〈卵殻膜またはその加水分解物〉 卵殻膜は鳥類の卵の殻の内側にある薄膜である。主成分はタンパク質であり、外側は粗く、内側は密な構造になった二層の網目状構造をしており、柔軟性と強靭性に富む。 網目構造による組織への密着性、適度な保湿性および通気性が創傷被覆材として適していることから、古くは力士が怪我をした際に傷口に卵殻膜を貼り、傷を早く治したと言われるなど、卵殻膜は創傷被覆材(ドレッシング材)として有効であることが知られている。 卵殻膜は鳥類の卵に由来する卵殻膜であれば特に限定されるものではなく、あらゆる鳥類の卵の卵殻膜をそのまま、またはパウダーもしくは加水分解物として使用することができる。鳥類の卵としては、例えば、ニワトリ、キジ、シチメンチョウ、アヒル、カモ、アイガモ、ウズラ、ハト、ヤマウズラ、ライチョウ、タシギ、ヤマシギ、ダチョウ、カラス、スズメ、ツバメ、ガン、ハクチョウ等の卵を利用しうる。 卵殻膜は水または水系溶媒への分散性、溶解性の点から、卵殻膜パウダーまたは卵殻膜加水分解物として使用することが好ましい。(卵殻膜パウダー) 卵殻膜パウダーの製造方法としては、鳥類の卵、例えば鶏卵から、卵殻膜を分離し、乾燥し、粉砕し、篩過して製造する方法がある。粉砕の程度および篩過のサイズにより、パウダーの粒径をコントロールすることができる。 卵殻膜パウダーとしては、例えば、EMパウダー(300)(キューピー社製)等が挙げられる。(卵殻膜加水分解物) 卵殻膜加水分解物の製造方法としては、鳥類の卵、例えば鶏卵の卵殻膜を水酸化ナトリウム等のアルカリで溶解した後、アルカリを中和し、ろ過し、脱塩し、精密ろ過し、背凍結乾燥し、篩過して粉末状の加水分解物を製造する方法、脱塩後、成分調整し、精密ろ過して溶液状態の加水分解物を製造する方法などが挙げられる。また、例えば、特開平1−275512号、特開平5−97897号公報、特開2009−132661号公報等に記載された卵殻膜加水分解物の製造方法によっても製造することができる。 卵殻膜加水分解物としては、例えば、EMプロテイン−P(キューピー社製,パウダー)、EMプロテイン−L(キューピー社製,リキッド)等が挙げられる。《剤形》 本発明の分化誘導剤は、生体から採取した炎症性マクロファージまたは単球に対してin vitroで用いられることが好ましいが、直接、生体に対して用いてもよい。本発明の分化誘導剤がin vivoで炎症性マクロファージまたは単球に接触し、組織修復性マクロファージへの分化誘導を促進するため、炎症性マクロファージまたは単球を採取する工程が不要であり、生体に対して低侵襲であるという利点がある。 本発明の分化誘導剤を生体に対して用いる場合の剤形は、特に限定されず、例えば、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠等を含む錠剤;硬カプセル剤、軟カプセル剤等を含むカプセル剤;発泡顆粒剤等を含む顆粒剤;散剤;エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤等を含む経口液剤;シロップ用剤等を含むシロップ剤;経口ゼリー剤;トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤等を含む口腔用錠剤;口腔用スプレー剤;口腔用半固形剤;含嗽剤;輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤等を含む注射剤;吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤等を含む吸入剤;点眼剤;眼軟膏剤;点耳剤;点鼻粉末剤、点鼻液剤;坐剤;直腸用半固形剤;注腸剤;膣錠;膣用坐剤;外用散剤等を含む外用固形剤;リニメント剤、ローション剤等を含む外用液剤;概要エアゾール剤、ポンプスプレー剤等を含むスプレー剤;軟膏剤;クリーム剤;ゲル剤;および、テープ剤、パップ剤等の貼付剤などの剤形が挙げられる。これらの中では、創傷部位に直接的な作用を及ぼすことができることから、局所投与可能な剤形が好ましい。《製薬学的に許容可能な添加剤》 また、本発明の分化誘導剤は、その製造の際に、製薬学的に許容可能な添加剤を用いてもよく、そのような添加剤としては、例えば、でん粉、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、p−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、シロップ、水、エタノール、プロピレングリコール、ワセリン、カーボワックス、グリセリン、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、スクロース等が挙げられる。〈マクロファージ、単球〉 本発明の分化誘導剤は、炎症性マクロファージまたは単球を組織修復性マクロファージへ分化誘導する。《マクロファージ》 本発明において、マクロファージとは、ヒトマクロファージのマーカーであるCD14が陽性(以下「CD14(+)」と記す場合がある。)であるヒト細胞、またはマウスマクロファージのマーカーであるF4/80が陽性(以下「F4/80(+)」と記す場合がある。)であるマウス細胞を意味する。さらに、マクロファージはそのフェノタイプにより、炎症性マクロファージおよび組織修復性マクロファージを包含する活性型マクロファージならびに休止型マクロファージに分類することができる。 以下に、活性型マクロファージ、炎症性マクロファージ、組織修復性マクロファージおよび休止型マクロファージについて説明する。(活性型マクロファージ) 本発明において、活性型マクロファージとは、CD14(+)で、ヒト炎症性マクロファージのマーカーであるCD80も陽性(以下「CD80(+)」と記す場合がある。)であるヒト細胞、F4/80(+)で、マウス炎症性マクロファージのマーカーであるCD11bが陽性(以下「CD11b(+)」と記す場合がある。)であるマウス細胞、ヒト組織修復性マクロファージのマーカーであるCD206が陽性(以下「CD206(+)」と記す場合がある。)であるヒト細胞、またはマウス組織修復性マクロファージのマーカーであるCD206が陽性(以下「CD206(+)」と記す場合がある。)であるマウス細胞をいう。すなわち、活性型マクロファージは炎症性マクロファージおよび組織修復性マクロファージを含む。(炎症性マクロファージ) 本発明において、炎症性マクロファージとは、CD14(+)かつCD80(+)であるヒト細胞、またはF4/80(+)かつCD11b(+)であるマウス細胞を意味する。炎症性マクロファージは、古典的活性化マクロファージとしても知られ、免疫を亢進し、炎症を惹起・促進する。(組織修復性マクロファージ) 本発明において、組織修復性マクロファージとは、CD14(+)かつCD206(+)であるヒト細胞、またはF4/80(+)かつCD206(+)であるマウス細胞を意味する。組織修復性マクロファージは、創傷治癒マクロファージ、抗炎症性マクロファージとしても知られ、免疫を抑制し、炎症を終結に向かわせる。(休止型(resting)マクロファージ) 本発明において、休止型マクロファージとは、CD14(+)で、CD80およびCD206がともに陰性(それぞれ、「CD80(-)」、「CD206(-)」と記す場合がある。)であるヒト細胞、またはF4/80(+)で、CD11bおよびCD206がともに陰性(それぞれ、「CD11b(-)」、「CD206(-)」と記す場合がある。)であるマウス細胞を意味する。休止型マクロファージは、血中から組織へ浸潤した単球がマクロファージに分化しているものの、非活性化状態(休止状態)にある。《単球》 単球は、血液中を循環している未熟な食細胞であり、抗原提示免疫細胞として働き、病原体や異物を食作用によって取り込み、分解する機能を持つ。 本発明において、単球としては、ヒトまたはマウスに由来する単球を用いることができる。これらの中でも、ヒト由来の単球が好ましく、ヒト末梢血由来の単球(ヒト末梢血単球)がより好ましい。 単球は、ヒトまたはマウスの末梢血に由来する単球等の市販品を用いてもよいし、ドナーから採血した末梢血全血からアフェレシスにより採取した単球でもよい。アフェレシスの方法は、全血から単球を分離しうるものであれば特に限定されないが、血液成分分離装置を用いることが好ましい。血液成分分離装置としては、例えば、COBE(R) Spectra(テルモBCT社製)、COM.TEC(フレゼニウスカービ社製)等が挙げられる。また、血液成分分離装置を用いなくても、密度勾配遠心法により全血から単球を分離・回収することができる。なお、ドナーから採血する場合には、採血の数日前からドナーに顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を投与していてもよい。[組織修復性マクロファージの分化誘導方法] 本発明の分化誘導剤によって、炎症性マクロファージまたは単球から、組織修復性マクロファージへ分化誘導することができる。 本発明の分化誘導剤によって、炎症性マクロファージまたは単球から、組織修復性マクロファージへ分化誘導する方法(以下、単に「本発明の分化誘導方法」という場合がある。)は、炎症性マクロファージまたは単球と本発明の分化誘導剤とをin vitroで接触させる工程を含むことを特徴とする。 炎症性マクロファージまたは単球と本発明の分化誘導剤とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、本発明の分化誘導剤の存在下で炎症性マクロファージまたは単球を培養する方法が挙げられる。例えば、炎症性マクロファージまたは単球を含む培地中に本発明の分化誘導剤を添加することが好ましい。その他にも、本発明の分化誘導剤を培地中に添加する方法と同様の効果を示す方法であれば、いずれも用いることができる。 具体的には、例えば、本発明の分化誘導方法は以下の工程を含む: (a)炎症性マクロファージまたは単球を含む培養液に本発明の分化誘導剤を添加する工程、および (b)(a)の培養液を用いて炎症性マクロファージまたは単球を培養する工程。 炎症性マクロファージまたは単球の培地としては、本発明の目的を損なわない範囲で、従来公知の培地を使用することができる。例えば、ギブコ(R)RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ社製)、HL−1既知組成、無血清培地(ロンザ社製)、単球接着培地(プロモセル社製)、単核細胞培地(プロモセル社製)などを使用することができる。 培養条件は、炎症性マクロファージまたは単球の培養に適した方法であれば、特に限定されないが、例えば、炎症性マクロファージまたは単球を培地に好ましくは1×100〜1×107cells/mL、より好ましくは1×102〜1×106cells/mLの密度となるように懸濁し、培養プレートに播種後、温度は、好ましくは30〜39℃、より好ましくは35〜39℃、さらに好ましくは37℃で、時間は、好ましくは1〜10日間、より好ましくは1〜7日間で、好ましくは約5%の二酸化炭素を通したCO2条件下で、培養する方法を挙げることができる。 本発明の分化誘導剤の濃度は、特に限定されないが、有効成分である卵殻膜パウダーまたは卵殻膜加水分解物の固形分濃度として、好ましくは0.01〜1mg/Lである。この範囲内であると、より効率的に炎症性マクロファージまたは単球から組織修復性マクロファージへ分化誘導することができる。 本発明の分化誘導剤を添加した培地を用いて培養する前に、炎症性マクロファージまたは単球の前培養をしてもよい。前培養は、温度は、好ましくは30〜39℃、より好ましくは35〜39℃、さらに好ましくは37℃で、時間は、好ましくは4〜48時間、より好ましくは8〜36時間で、好ましくは5%の二酸化炭素を通したCO2条件下で、インキュベートする方法を挙げることができる。 培養液中で炎症性マクロファージまたは単球を分化誘導することにより得られた組織修復性マクロファージは、引き続き、公知の方法による細胞回収、分離、精製法を用いることにより、高純度の組織修復性マクロファージを効率的かつ多量に得ることができる。[組織修復性マクロファージの製造方法] 上述した本発明の分化誘導方法を使用することによって、炎症性マクロファージまたは単球から組織修復性マクロファージを製造することができる(製造された組織修復性マクロファージを、以下「本発明の組織修復性マクロファージ」という場合がある。)。 本発明の組織修復性マクロファージの用途は、特に限定されるものではないが、例えば、後述する難治性創傷の治療の用途に供することができる。 本発明の組織修復性マクロファージをこの用途に用いる場合、取扱いのし易さ等の観点から、組織修復性マクロファージを後述する組織修復性マクロファージ組成物の製造方法によって組織修復性マクロファージ組成物として用いることが好ましい。[組織修復性マクロファージ組成物の製造方法] 上述した組織修復性マクロファージの製造方法によって製造した組織修復性マクロファージを、遠心分離、膜分離等の公知の方法によって回収し、所望により精製、洗浄等した後、生理食塩水、血清または血漿に分散することによって、組織修復性マクロファージ組成物を製造することができる(製造された組織修復性マクロファージ組成物を、以下「本発明の組織修復性マクロファージ組成物」という場合がある。)。本発明の組織修復性マクロファージ組成物は、さらに薬理学的に許容され得る従来公知の添加剤と混合して用いてもよい。 ここで、血清とは、血液(全血)を凝固させ血小板や凝固因子を除いたものをいい、血漿とは、抗凝固剤入りの容器に採血した血液を遠心分離して細胞成分(赤血球、白血球、血小板)を除いたものをいう。 本発明の組織修復性マクロファージ組成物の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、後述する難治性創傷の治療の用途に供することができる。[組織修復性マクロファージ組成物およびそれを用いる難治性創傷の治療] 本発明の組織修復性マクロファージ組成物は、難治性創傷の治療の用途に好適である。難治性創傷を有する患者(哺乳動物、好ましくはヒト)においては、創傷の秩序だった治癒が障害されることにより創傷が難治化していると考えられるが、本発明のマクロファージまたはマクロファージ組成物を当該患者に投与することで、創傷部位における治癒カスケード段階にあわせた作用を発揮させることにより、創傷治癒の促進が期待できるからである。 ここで、難治性創傷とは、慢性化した治りにくい創傷をいい、特に限定されないが、例えば、糖尿病性(神経原性)潰瘍、動脈性(虚血性)潰瘍、静脈うっ滞性潰瘍、バージャー病による潰瘍、膠原病に伴う潰瘍等が挙げられる。また、難治性創傷の基礎疾患としては、例えば、糖尿病、末梢動脈障害、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症、バージャー病、膠原病等が挙げられる。 組織修復性マクロファージ組成物を患者に投与する方法としては、注射が好ましく、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮内注射および皮下注射が挙げられる。 また、組織修復性マクロファージ組成物を投与される患者と、組織修復性マクロファージ組成物を製造するために使用される炎症性マクロファージまたは単球のドナーとは、同種(ヒトまたはマウス)であることが好ましく、同系のヒトまたはマウスであることがより好ましく、同一個体のヒトまたはマウスであることがさらに好ましい。同系とは、例えば、一卵性双生児、純系動物同士の関係にあるものをいう。患者とドナーとが同系または同一個体である場合には、遺伝的に同一なので、拒絶反応のような重篤な副作用もない。 さらに、組織修復性マクロファージ組成物を製造する際に血清または血漿を使用する場合には、患者から採取したものを用いることで、組織修復性マクロファージ組成物が投与された患者がウイルスその他の病原体に感染するリスクを低減することができる。 以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。[比較例1](前培養) メタボリックシンドロームモデルマウス(C57BL/6Jマウス,日本エスエルシー社製)腹腔内に炎症誘導剤(チオグリコレート培地)を注射し、72時間後に腹腔内マクロファージを採取した。チオグリコレート培地は炎症を惹起することから、マクロファージ(以下、単に「MΦ」と記す場合がある。)はM1MΦとして存在している。 採取したMΦをマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)含有RPMI−1640培地にて約1×106cell/mLに調整し、接着細胞培養用マルチプレート(6ウェル)(日本ベクトン社製)に播種し、37℃、5% CO2環境下にて24時間、前培養した。(本培養、細胞数の計測) RPMI−1640培地を交換後、前培養と同条件にてさらに7日間培養した後、各ウェルから細胞を回収した。回収した細胞を、マウスマクロファージのマーカーであるF4/80、マウス炎症性マクロファージのマーカーであるCD11b、マウス組織修復性マクロファージのマーカーであるCD206にて標識し、フローサイトメトリー(Cytomics FC500、ベックマン・コールター社製)を用いて、培養液1mLあたりの全細胞数、F4/80(+)CD11b(+)細胞数、およびF4/80(+)CD206(+)細胞数を計測した。(分化率の算出) 計測データから、炎症性マクロファージ(M1MΦ)への分化率を、全細胞中のF4/80(+)CD11b(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD11b(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。同様に、組織修復性マクロファージ(M2MΦ)への分化率を全細胞中のF4/80(+)CD206(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD206(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。この結果を表1、図1および図2に示す。[比較例2](前培養) 比較例1の前培養を用いた。(本培養、細胞数の計測) RPMI−1640培地を交換後に、Th2サイトカイン(IL−4、IL−10およびIL−13)をそれぞれの最終濃度が10ng/mLとなるように各ウェルに添加した。 その後、前培養と同条件にてさらに7日間培養した後、各ウェルから細胞を回収した。回収した細胞を、マウスマクロファージのマーカーであるF4/80、マウス炎症性マクロファージのマーカーであるCD11b、マウス組織修復性マクロファージのマーカーであるCD206にて標識し、フローサイトメトリー(Cytomics FC500、ベックマン・コールター社製)を用いて、培養液1mLあたりの全細胞数、F4/80(+)CD11b(+)細胞数、およびF4/80(+)CD206(+)細胞数を計測した。(分化率および細胞増殖指標の算出) 計測データから、炎症性マクロファージ(M1MΦ)への分化率を、全細胞中のF4/80(+)CD11b(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD11b(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。同様に、組織修復性マクロファージ(M2MΦ)への分化率を全細胞中のF4/80(+)CD206(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD206(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。この結果を表1、図1および図2に示す。 また、計測データから、比較例1に対する細胞増殖指標を比較例2の全細胞数の比較例1の全細胞数に対する割合=(比較例2の全細胞数/比較例1の全細胞数)×100として算出した。この結果を表1および図3に示す。[実施例1〜3](前培養) 比較例1の前培養を用いた。(本培養、細胞数の計測) RPMI−1640培地を交換後に、EMプロテイン−Pの最終濃度が0.01mg/mL(実施例1)、0.1mg/mL(実施例2)、または1mg/mL(実施例3)となるように各ウェルに添加した。 その後、前培養と同条件にてさらに7日間培養した後、各ウェルから細胞を回収した。回収した細胞を、マウスマクロファージのマーカーであるF4/80、マウス炎症性マクロファージのマーカーであるCD11b、マウス組織修復性マクロファージのマーカーであるCD206にて標識し、フローサイトメトリー(Cytomics FC500、ベックマン・コールター社製)を用いて、培養液1mLあたりの全細胞数、F4/80(+)CD11b(+)細胞数、およびF4/80(+)CD206(+)細胞数を計測した。(分化率および細胞増殖指標の算出) 計測データから、炎症性マクロファージ(M1MΦ)への分化率を、全細胞中のF4/80(+)CD11b(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD11b(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。同様に、組織修復性マクロファージ(M2MΦ)への分化率を全細胞中のF4/80(+)CD206(+)細胞の割合={(F4/80(+)CD206(+)細胞数)/全細胞数}×100(%)として算出した。この結果を表1、図1および図2に示す。 また、計測データから、比較例1に対する細胞増殖指標を実施例1〜3のそれぞれの全細胞数の比較例1の全細胞数に対する割合=(実施例1〜3のそれぞれの全細胞数/比較例1の全細胞数)×100として算出した。それぞれの結果を表1および図3に示す。 実施例1〜3と比較例1との間で、M1MΦ(炎症性マクロファージ)への分化率にほとんど差が無いことがわかる(図1)。 一方、実施例1〜3と比較例1との間で、M2MΦ(組織修復性マクロファージ)への分化率に大きな差があることがわかる(図2)。また、M2MΦへの分化率は、本発明の分化誘導剤(卵殻膜加水分解物)の濃度に依存して増大し、1mg/mLで98%に達することがわかる(図2)。 以上のことから、本発明の分化誘導剤は、M1MΦ(炎症性マクロファージ)には影響を与えず、M2MΦ(組織修復性マクロファージ)への分化を濃度依存的に増大させることがわかる。 また、実施例1〜3では、細胞増殖指標も本発明の分化誘導剤の濃度に依存して増大することがわかる(図3)。 卵殻膜またはその加水分解物を含有する、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤。 濃度依存的な組織修復性マクロファージへの分化誘導作用を有する、請求項1に記載の分化誘導剤。 濃度依存的なマクロファージの増殖促進作用を有する、請求項1または2に記載の分化誘導剤。 前記卵殻膜またはその加水分解物が、卵殻膜をアルカリ加水分解して得られる卵殻膜加水分解物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 炎症性マクロファージから組織修復性マクロファージへ分化誘導する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 少なくとも1種類の炎症性マクロファージマーカーを発現させたまま、少なくとも1種類の組織修復性マクロファージマーカーを発現させる、請求項5に記載の分化誘導剤。 単球から組織修復性マクロファージへ分化誘導する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 投与経路が皮膚上投与、経皮投与、皮内投与または皮下投与である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の分化誘導剤。 請求項1〜8のいずれか1項に記載の分化誘導剤をin vitroで炎症性マクロファージまたは単球と接触させる工程を含む、炎症性マクロファージまたは単球から組織修復性マクロファージを製造する方法。 【課題】組織修復性マクロファージへの分化誘導剤を提供する。【解決手段】卵殻膜またはその加水分解物を含有する、組織修復性マクロファージへの分化誘導剤およびそれを用いる組織修復性マクロファージの製造方法。【選択図】なし