タイトル: | 公開特許公報(A)_方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法 |
出願番号: | 2014002208 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 21/62,C23C 22/00,H01F 1/16,H01F 1/18,C21D 8/12 |
名越 正泰 山下 孝子 臼井 幸夫 高城 重宏 花澤 和浩 JP 2015129726 公開特許公報(A) 20150716 2014002208 20140109 方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法 JFEスチール株式会社 000001258 井上 茂 100126701 森 和弘 100130834 名越 正泰 山下 孝子 臼井 幸夫 高城 重宏 花澤 和浩 G01N 21/62 20060101AFI20150619BHJP C23C 22/00 20060101ALI20150619BHJP H01F 1/16 20060101ALI20150619BHJP H01F 1/18 20060101ALI20150619BHJP C21D 8/12 20060101ALN20150619BHJP JPG01N21/62 AC23C22/00 AH01F1/16 BH01F1/18C21D8/12 D 3 1 OL 15 1.PHOTOSHOP 2G043 4K026 4K033 5E041 2G043AA03 2G043CA05 2G043EA11 2G043FA01 2G043JA02 2G043LA01 4K026AA03 4K026BA02 4K026BA08 4K026BB10 4K026CA16 4K026CA18 4K026DA02 4K026EB01 4K033AA02 4K033JA04 4K033LA01 4K033MA00 4K033PA07 4K033PA08 4K033PA09 4K033RA04 4K033SA02 4K033SA03 4K033TA02 4K033TA04 4K033TA05 4K033TA06 5E041AA02 5E041BC01 5E041CA01 5E041HB05 本発明は、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の評価方法に関する。 方向性電磁鋼板は、主にトランスおよびその他の電気機器の鉄心材料として利用される。このため、磁化特性が優れている方向性電磁鋼板、とりわけ鉄損が低い方向性電磁鋼板が求められている。 かかる方向性電磁鋼板は、二次再結晶に必要なインヒビター、たとえば、MnS、MnSe、AlNなどを構成する成分を含む鋼スラブを、熱間圧延した後、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、次いで、1回または中間焼鈍をはさむ2回以上の冷間圧延によって最終板厚とした後、脱炭焼鈍を行う。次いで、鋼板の表面にMgOなどの焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を行って製造される。なお、この方向性電磁鋼板の表面には、特殊な場合を除いて、フォルステライト(Mg2SiO4)質の絶縁被膜(フォルステライト層とも呼ぶ。)が形成している。 このフォルステライト層は、鋼板を積層して使用する場合に、その層間を電気的に絶縁し、渦電流を低減するのに有効に寄与する。ところが、鋼板表面のフォルステライト層が不均一であったり、巻き鉄心作製の際にフォルステライト層の剥離が生じたりすると、商品価値が低下する。加えて、占積率が低下し、さらには鉄心組立ての際の締めつけにより絶縁性が低下して局所的な発熱を起こすため、変圧器における事故の原因につながる。 また、このフォルステライト層は、電気的絶縁の目的のみで使用されるのではなく、その低熱膨張性を利用して引張応力を鋼板に付与できるので、鉄損、さらには磁気歪の改善に寄与している。さらに、このフォルステライト層は、二次再結晶が完了して不要となったインヒビター成分を層中に吸い上げ、鋼板を純化することによっても、磁気特性の向上に寄与している。したがって、均一、かつ平滑なフォルステライト層を得ることは、方向性電磁鋼板の製品品質を左右する重要なポイントの一つである。 加えて、一般的に、フォルステライト層の形成量が多すぎると、局所的にフォルステライト層が剥離する点状欠陥が発生しやすい。一方、フォルステライト層の形成量が少なすぎると、鋼板などとの密着性が劣る。そこで、従来から、フォルステライト層の形成量(以下、フォルステライト量と称することもある。)および分布形態が重要であり、方向性電磁鋼板の製造にあたっては、これらを制御する必要がある。 従来、フォルステライト量やその分布を調査する従来技術としては、次のようなものがある。 フォルステライト量を、鋼板表面の酸素分析により測定する方法がある。具体的には、フォルステライト層の上には通常さらに磁気特性を向上させる張力コーティング層が付与されているため、これを先ず除去し、鉄を溶解した後、燃焼赤外法で酸素を測定する。 また、フォルステライト層の分布を確認する方法としては、張力コーティング層を除去した表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察する方法がある。このとき、特性X線を検出し、元素分析を行ってもよい。 また、断面から分布を見る方法としては、鋼板の断面を研磨等により調製し、同様にSEMで断面を観察する方法がある(例えば、特許文献1)。 一方で、鉄損をさらに低くするために、方向性電磁鋼板に対して磁区細分化を行う方法がある。この方法には、溝を付与したり、電子線照射やレーザー光線照射により鋼板に残留応力を入れることが有効である。しかしながら、電子線照射やレーザー光線照射を行うと、照射条件によりフォルステライト層が剥離してしまい、方向性電磁鋼板の耐食性を低下させてしまう。この対策として、例えば、剥離部を覆う目的で再度コーティングする方法がある。しかしながら、この方法では方向性電磁鋼板の製造コストが高くなる。 このため、フォルステライト層の剥離を最小限に抑えることが重要であり、磁区細分化前の方向性電磁鋼板(フォルステライト層の上に張力コーティングが施されているもの)については、剥離に強い、すなわち絶縁被膜の密着性が高いものが求められるとともに、絶縁被膜の密着性の正確な評価が要望されている。特開2012−36447号公報 特許文献1に記載の方法では、試料調製に時間がかかる。また、前述したような、張力コーティング層を除去した表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察する方法では、測定面積が小さいため、データとしての代表性に欠ける。また、データとしての代表性を満足するような測定面積で行うと、膨大な時間がかかってしまうため、非常に効率的ではないという問題がある。また、絶縁被膜の密着性評価については、従来では剥離が発生する曲げ径(単位cm)を密着性の指標としており、定量性に欠ける。 本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜のフォルステライト層の密着性を、短時間で容易に、かつ正確に評価する方法を提供することにある。 発明者らは、フォルステライト層を評価する方法を粘り強く検討した結果、特願2013−068403号において、方向性電磁鋼板表面に電子線を照射するとフォルステライト層からの発光があることを報告している。この光は電子線励起光、すなわちカソードルミネッセンス(以下、CLと略す。)である。発明者らは、SEMに光評価部(光検出部などからなる光評価部)を取りつけ、方向性電磁鋼板の表面および断面に、電子線を照射し、発生した光の光信号で像をつくるCL像観察を行い、つぎのことを明らかにしている。(1)フォルステライト層から発生するCLにもとづいて、フォルステライト層が試料中に存在することを、可視化して確認(評価)できる。(2)方向性電磁鋼板の表面からの観察では張力コーティング層がついたままであってもフォルステライト層のCL像を得ることができる。(3)フォルステライト層での電子線励起光から得られるCL信号量(信号強度や明るさ)はフォルステライト層との相関が高い。(4)フォルステライト層による電子線励起光から得られるCL像にもとづいて、方向性電磁鋼板のフォルステライト層の分布を導出できる。(5)フォルステライト層での電子線励起光の光強度を直接検出するのではなく、まずCL像を取得して、CL像の輝度を数値化することで、フォルステライト層の分布を、定量的かつ容易に評価できる。 本発明は、さらに検討を重ねてなされたものであり、発明者らは、方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層から得られるCL像の輝度を数値化することで、フォルステライト層の密着性を評価することができることを見出した。また、発明者らは、磁区細分化を目的として電子線やレーザー光線が照射された後のフォルステライト層から得られるCL像の輝度を数値化することで、磁区細分化の影響を受けた後のフォルステライト層の密着性を評価することができることを見出した。その要旨は下記に述べるものである。[1]表面側から張力コーティング層、フォルステライト層、方向性電磁鋼板をこの順で有する方向性電磁鋼板表面に電子線を照射し、該電子線による励起で発生する光を検出することで得られる像により、前記方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜であるフォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。[2]前記像の輝度を明るい部分と暗い部分に二値化して、明るい部分または暗い部分の面積の比率を求めることにより、フォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする[1]に記載の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。[3]電子線またはレーザー光線を照射させることにより磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする[1]または[2]に記載の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。 本発明によれば、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性を、短時間で容易に、かつ正確に評価することができる。フォルステライト層の評価装置の一例を模式的に示す図である。図1に示すフォルステライト層の評価装置が備える光評価部を模式的に示す図である。密着性指標の異なる方向性電磁鋼板について、磁区細分化を施した後(磁区細分化用の電子線照射後)のフォルステライト層のCL像および輝度のヒストグラムを示す図である。密着性指標と磁区細分化を施した後(磁区細分化用の電子線照射後)の剥離面積率との関係を示す図である。フォルステライト層の形成条件が異なる方向性電磁鋼板について、磁区細分化を施した後(磁区細分化用の電子線照射後)に電子線照射を行った後のフォルステライト層のCL像の図である。(a)は密着性指標と磁区細分化を施した後(磁区細分化用の電子線照射後)の剥離面積率との関係を示す図であり、(b)は損傷発生電流と磁区細分化を施した後(磁区細分化用の電子線照射後)の剥離面積率との関係を示す図である。 以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。 まず、本発明においては、絶縁被膜の密着性を評価する方向性電磁鋼板として、方向性電磁鋼板表面側から張力コーティング層、フォルステライト層(絶縁被膜)、方向性電磁鋼板をこの順で有する積層構成からなる方向性電磁鋼板が挙げられる。もしくは、方向性電磁鋼板表面側から張力コーティング層、フォルステライト層(絶縁被膜)、方向性電磁鋼板をこの順で有する積層構成からなる方向性電磁鋼板に対して、電子線またはレーザー光線を照射させることにより磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板が挙げられる。なお、磁区細分化を目的とする電子線またはレーザー光線を照射する際の条件については、後述する。 方向性電磁鋼板にフォルステライト層を形成する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。先ず、最終板厚に仕上げた、適量のSiを含有する方向性電磁鋼板に対して、脱炭焼鈍(再結晶焼鈍を兼用する)を施す。次いで、焼鈍分離剤(MgOを主成分とするものが好適である)を塗布し、その後コイルに巻きとって二次再結晶及びフォルステライト層の形成を目的として最終仕上げ焼鈍を施す。ここで、脱炭焼鈍では鋼板表面にSiO2を主成分とする酸化膜(サブスケール)を生成させておき、最終仕上げ焼鈍中に、この酸化膜と焼鈍分離剤中のMgOとを反応させることにより、方向性電磁鋼板上にフォルステライト層(Mg2SiO4)が形成される。 張力コーティング層を形成する方法としては、例えば、最終仕上げ焼鈍後に、無機系コーティングや物理蒸着法、化学蒸着法等によるセラミックコーティング等により、フォルステライト層上に張力コーティング層を形成する方法が挙げられる。張力コーティング層を形成すれば、鉄損を低減できる。 次いで、本発明の評価方法を実施できるフォルステライト評価装置について説明する。図1は、フォルステライト評価装置の一例を模式的に示す図である。図2は、図1に示すフォルステライト評価装置が備える光評価部を模式的に示す図である。図1に示す通り、フォルステライト評価装置1は、試料台10と、電子線照射部11と、光評価部12と、真空チャンバー13と、波長カットフィルター14を有する。図1に示す通り、真空チャンバー13内に、試料台10と、電子線照射部11と、光評価部12と、波長カットフィルター14が収容されている。ここで、真空チャンバーにより実現できる真空とは、SEMを動作可能な真空度であり、通常は10−2Paである。ただし、差動排気を備えた装置ではこの限りではない。例えば、200Pa程度までの真空度でも可能である。 なお、本実施形態のフォルステライト評価装置1は、波長カットフィルター14を備えるが、波長カットフィルター14がなくても、光の情報に基づいて、フォルステライト量等の目的とする情報を確認することができる。したがって、波長カットフィルター14はなくてもよい。 フォルステライト評価装置1では、試料台10に保持された試料2に対して、電子線照射部11(例えば、電子線発生部と電子線を絞り走査する電子光学系)から電子線を照射できる(電子線を点線矢印で示した)。電子線が照射された試料2がフォルステライトを有する場合、電子線による励起で試料2が発光する。この発光を光評価部12で評価することで、フォルステライトが存在すること、フォルステライトが存在する位置、フォルステライト量、フォルステライト量の分布を確認できる。なお、フォルステライト評価装置1は波長カットフィルター14を有する。波長カットフィルター14を用いると、電子線励起光の中から特定の範囲の波長を持つ光を、光評価部12で評価できる。後述する通り、560nm以上の波長の光を用いることで、確認の精度が高まる。本発明の確認方法を実施するための評価装置の中でも、波長カットフィルター14を有する評価装置が、本発明の評価装置に相当する。 図2に示す通り、光評価部12は、光測定部120と、定量分析部121、相関関係記憶部122とを有する。光評価部12とは、光を検出して光の信号強度や明るさを測定する一般的な光検出器に、特定の相関関係を記憶した相関関係記憶部122と、上記相関関係に光検出器からの情報をあてはめて、定量分析を行う定量分析部121とを組み合わせたものである。したがって、例えば、上記相関関係を記憶させるとともに通常の定量分析機能を有するコンピュータと、一般的な光検出器を組み合わせれば、本発明において好ましい光評価部12となる。 光測定部120は、可視光を検出できれば特に限定されず、光増倍管(PMT)等を使用して光を検出するものであってもよい。また、光測定部120は、検出した光の情報を信号強度や明るさ等の情報に変換する機能を有する。したがって、試料に対して、電子線照射部11から電子線を照射したときに、該電子線による励起で発光する光を検出し、この光の情報を信号強度や明るさ等の情報に変換する。以上の通り、光測定部120からの光の検出を確認することで、フォルステライト層の存在を確認することができる。 また、光測定部120は、電子線による励起で発光する光を、試料の表面を複数の領域に分割したときの領域毎に検出することができる。このため、光測定部120からの光の検出を確認することで、フォルステライトが存在する位置(領域)も確認することができる。なお、上記領域の面積は特に限定されず、要求される確認の精度等に応じて、適宜調整すればよい。 以上のようにすれば、フォルステライトの存在や位置を確認することができる。なお、光測定部120が検出した光の情報を確認する方法は、特に限定されないが、光評価部12をSEMと組み合わせて用いることで確認できる。 上記の通り、光測定部120では光の信号強度又は明るさを測定できる。この信号強度又は明るさは、定量分析部121に送られ、定量分析部121において、この光の情報と相関関係記憶部122に記憶された相関関係(フォルステライトを有する試料に電子線を照射したときに、電子線による励起で発光する光の信号強度又は明るさとフォルステライト量との間の相関関係)とに基づいて、試料中のフォルステライト量やフォルステライト量の分布が導出される。より具体的には、信号強度や明るさと、相関関係から、所定の領域でのフォルステライト量が導出され、複数の領域でのフォルステライト量の情報を合わせることで、フォルステライト量の分布が導出される。なお、明るさとは、電子線励起光の信号強度に基づいて導出したCL像における明るさを指し、例えば、輝度を用いて表すことができる。 なお、相関関係記憶部122に記憶される相関関係を導出する方法は特に限定されないが、例えば、試料中のフォルステライト量が判明しており、フォルステライト量が異なる複数の試料を用い、それぞれの試料に電子線を照射し、電子線励起光の信号強度や明るさを測定することで導出できる。 そこで本発明では、絶縁被膜であるフォルステライト層が形成された方向性電磁鋼板表面について、CL像を取得することで、フォルステライト層のみを可視化できるため、容易にフォルステライト層が存在する部分や欠損した部分、すなわち被覆部分や剥離部分を特定できる。よって、この可視化情報からフォルステライト層の剥離の形態や程度を知ることもできる。 加えて、CL像では、フォルステライト層が存在しない部分、すなわち剥離した部分などは信号が得られないため、容易に二値化することができる。したがって、CL像を適当な閾値で二値化し、明るい部分と暗い部分に分けることができる。明るい部分と暗い部分の和に対する明るい部分または暗い部分の面積率を算出することにより、フォルステライト層の被覆率またはフォルステライト層の剥離率を得ることができる。この値はフォルステライト層の密着性指標となる。すなわち、フォルステライト層の被覆率が大きいほど、フォルステライト層の密着性が高いフォルステライト層となる。 本発明の評価方法において、測定対象としては、上述したように、方向性電磁鋼板上に、フォルステライト層および張力コーティング層をこの順で積層させた積層構成を有する方向性電磁鋼板が挙げられる。したがって、本発明では、短時間で容易に、かつ簡便に方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の密着性を評価することができる。さらに、このような測定試料の場合、測定試料を破壊せずに、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の密着性を評価することができる。このため、フォルステライト層の形成過程におけるフォルステライト層の状況を確認することができる。本発明を用いれば、フォルステライト量や分布について、所望の範囲にフォルステライト層を形成させるための条件を容易に決めることができる。 また、本発明では、上述したように、表面側からフォルステライト層および張力コーティング層をこの順で積層させた積層構成を有する方向性電磁鋼板表面に、電子線またはレーザー光線を照射させることにより磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板を測定対象とすることもできる。磁区細分化は、電子線照射やレーザー光線照射により行われる。このため、本発明においては、電子線またはレーザー光線を照射した後の方向性電磁鋼板表面について、フォルステライト層の密着性を評価することにより、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の磁区細分化の影響を調べることができ、磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の密着性を評価することができる。また、本発明では、磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の密着性を評価できるため、本発明を用いれば、フォルステライト量や分布について、磁区細分化を施してもフォルステライト層が剥離しないフォルステライト層の形成条件を容易に決めることができる。 ここで、磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜(フォルステライト層)の密着性を評価する場合の、測定試料の作製方法の一例を説明する。まず、磁区細分化を目的として、評価する方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層を剥離させる。方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層を剥離させるために、電子線照射またはレーザー光線照射を行えばよい。 磁区細分化を目的とする電子線照射の際、加速電圧E(kV)、ビーム電流I(mA)およびビームの走査速度V(m/s)は、以下の条件で行うことが好ましい。40≦E≦1506≦I≦12V≦40なお、電子線のビーム径は0.4mm以下とすることが好ましい。また、照射は、1回で行ってもよく、複数回行ってもよい。 磁区細分化を目的とするレーザー光線照射の際、平均レーザー出力P(W)、ビームの走査速度V(m/s)およびビーム径d(mm)は、以下の条件で行うことが好ましい。10≦P/V≦35V≦30d≧0.20なお、dの上限は0.85mm程度が好ましい。 次に、上述した方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層の密着性を評価する方法について、説明する。 電子線を試料に照射し、そのとき発光する光を検出するとCL強度(電子線励起光の強度)が得られる。また、絞った電子線を試料表面上で走査した位置に同期させてCL強度を測定することでCL像が得られる。ここで、上記試料を用いる場合、入射電子の加速電圧は、0.1kV〜100kVの範囲で選ぶことが好ましい。 通常、フォルステライト層の上に張力コーティング層を形成した状態であると、フォルステライト層の状態を非破壊で評価することは困難であると考えられる。しかし、本発明の評価方法によれば、張力コーティング層を除去しなくても、フォルステライト層の状態を評価できる。これは、電子線を照射したときに、加速された電子が、上層の張力コーティング層を突き抜けフォルステライト層に達するためである。したがって、本実施形態のように、張力コーティング層よりも下に存在するフォルステライト層を評価する場合には、電子線の照射条件である加速電圧を調整する必要がある。必要な加速電圧は、張力コーティング層の種類や厚みによって異なるが、リン酸塩系張力コーティング層の厚みが1〜2μmの場合、加速電圧は10〜60kVの範囲から適宜設定すればよい。具体的には、加速電圧が高いほど励起できる光は多くなるので情報量が多い点で検出に有利である。しかし、加速電圧が高いほど電子線が測定対象内でより拡がるため空間分解能は低下する。また、電子線のエネルギーが高いため、発光強度が低下する。これらの指針と、張力コーティング層の厚さにより、加速電圧を調整すればよい。 次に、得られたCL像を二値化する。二値化したCL像において、明るい部分と暗い部分の和に対する明るい部分(または暗い部分)の面積率を算出することにより、フォルステライト層の被覆している(欠損している)割合を導出することができる。フォルステライト層の被覆している割合が大きいほど、フォルステライト層の密着性が高いといえる。なお、得られたCL像を二値化する際の閾値は、例えば、CL像の頻度分布(ヒストグラム)を取り、明るい部分と暗い部分のピークの中間の頻度を閾値とすることができる。 なお、面積率は、全体の面積に対して明るい部分もしくは暗い部分の面積の割合を算出すればよい。また、全体の面積については、フォルステライト層の剥離部分を含む十分広い面積を適宜選べば良く、複数の視野から得られる面積を平均化した面積を用いることが望ましい。 なお、フォルステライト層の存在確認の精度は、電子線励起光の中から、特定の波長範囲の光を検出することで改善する。方向性電磁鋼板の表面から加速電圧25kVで得られるCLスペクトルは、大きく分けて400nmと650nmのピークを有するため、例えば、波長カットフィルターを用いることでフォルステライト量の確認がより正確になる。つまり、400nm付近のピークを含まない条件で、560nm以上の範囲の光を評価対象とすることで、確認の精度が高まる。 また、得られたCL像について、二値化以外にも、三値化や四値化することにより、フォルステライト層の被覆割合を導出してもよい。 以上より、本発明の評価方法によれば、方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性を短時間で容易に、かつ正確に評価することができる。 密着性の異なる4種類の方向性電磁鋼板(No.1〜No.4)について、フォルステライト層の評価装置にてCL像を取得し、二値化した。具体的には、これらの方向性電磁鋼板の2.3mm×1.7mm角の3視野について、加速電圧30kVで電子線を走査して照射し(電子線径:300μm、電流値:16mA)、光ガイドとPMTで構成された光評価部12を用いて同一条件でCL像を取得した。得られたCL像を既存の画像処理ソフトウエア(Photoshop CS6)を用いて平均輝度を256階調で評価し、ヒストグラムを確認して二値化した。 なお、4種類の方向性電磁鋼板については、鋼板表面にフォルステライト層、リン酸塩系張力コーティング層をこの順で有している方向性電磁鋼板を用いた。 また、4種類の方向性電磁鋼板の密着性については、予め、曲げ試験(種々の直径が異なる円筒状の棒に電磁鋼板を巻き付けたとき、被膜の剥離が発生しない最小曲げ径(直径)を求めることで被膜の密着性を評価する試験。)を行い、剥離したときの曲率直径Rの値から5段階で評価し、密着性指標とした。なお、密着性指標の数値が大きいほど密着性が悪い。 次に、二値化した値から、明るい部分と暗い部分の和に対する暗い部分の面積率を算出することにより、フォルステライト層の剥離面積率(%)とした。なお、剥離面積率の算出においては、各測定試料について、3視野の剥離面積率の平均値を算出した。 上記の評価方法により、密着性指標と剥離面積率との関係を調べた結果、曲げ試験により密着性が悪いと判断された方向性電磁鋼板、すなわち密着性指標の値が大きい方向性電磁鋼板は、剥離面積率の値も大きくなることがわかった。したがって、曲げ試験による密着性が悪い方向性電磁鋼板は、フォルステライト層の剥離量が多く、フォルステライト層の剥離面積率の値から、密着性を簡便に評価することができる。また、従来の密着性評価方法と本発明の評価方法の所要時間について調べたところ、従来の密着性評価方法に比べて、本発明の評価方法の方が、所要時間は少ないことも確認できた。以上より、本発明の評価方法を用いることにより、短時間で簡便に評価することができる。 次に、実施例1と同じ密着性の異なる4種類の方向性電磁鋼板(No.1〜No.4)について、磁区細分化用の電子線を照射させた後の方向性電磁鋼板のフォルステライト層の剥離率を求めた。電子線照射後の方向性電磁鋼板について、フォルステライト層の評価装置にてCL像を取得し、二値化した。二値化した値から、フォルステライト層の被覆率を導出した。磁区細分化用の電子線照射は、1回行った。長さ約2.3mmの領域(図中の点線部)に照射し、電子ビームの径:約300μm、電流値:12mA、走査速度:32m/s、加速電圧60kVとした。また、二値化およびフォルステライト層の剥離率については、実施例1と同様の方法で求めた。 図3は、4種類の方向性電磁鋼板について、1回の電子線照射を行った後の表面について得られたCL像および輝度のヒストグラムの一例である。また、図4は、横軸を密着性指標、縦軸をフォルステライト層の剥離面積率とするグラフである。図3から、密着性の悪いNo.1は、暗い部分が多く、フォルステライト層の剥離量が多いことがわかる。一方、密着性の良いNo.4は暗い部分が少なく、フォルステライト層の剥離量が少ないことがわかる。 また、図4から、曲げ試験により密着性が悪いと判断された方向性電磁鋼板、すなわち密着性指標の値が大きい方向性電磁鋼板は、剥離面積率の値も大きい。したがって、電子線を照射させて磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板の場合でも、曲げ試験による密着性が悪い方向性電磁鋼板は、フォルステライト層の剥離量が多く、フォルステライト層の剥離面積率の値から、密着性を簡便に評価することができる。また、従来の密着性評価方法と本発明の評価方法の所要時間について調べたところ、実施例1と同様に従来の密着性評価方法に比べて、磁区細分化を目的とする電子線照射の工程がある場合でも、本発明の評価方法の方が、所要時間は少ないことがわかった。以上より、磁区細分化後の方向性電磁鋼板であっても、本発明の評価方法を用いることにより、短時間で簡便に密着性を評価することができる。 フォルステライト層の形成条件が異なる7つの方向性電磁鋼板(No.3−1〜No.3−7)について、実施例1と同じ条件で、密着性指標を求めた。フォルステライト層の形成条件については、焼鈍分離剤の組成を適宜変更して作製した。 7つの方向性電磁鋼板について、No.3−1およびNo.3−2については密着性指標が2、No.3−3〜No.3−5については密着性指標がいずれも3であり、密着性指標の差が見られなかった。したがって、従来の密着性評価結果から、フォルステライト層の形成条件を見出すことはできなかった。 次に、磁区細分化を目的とする電子線照射を行った。この電子線の照射条件については、実施例2と同じ条件で行った。磁区細分化用の電子線照射後の方向性電磁鋼板について、実施例1、2と同様にCL値の取得および輝度の二値化を行い、剥離面積率を求めた。一方で、磁区細分化用の電子線照射における、フォルステライト層の剥離が発生する電流値(損傷発生電流)を求めた。フォルステライト層の剥離発生については、目視で確認した。 図5は、磁区細分化用の電子線照射後の各測定試料について得られたCL像である。図5において、No.3−1、No.3−2は密着性指標が2(図5内のカッコ内の数値)、No.3−3〜No.3−5は密着性指標が3、No.3−6は密着性指標が5、No.3−7は密着性指標が4である。図5から、密着性指標が同じNo.3−1およびNo.3−2、No.3−3〜No.3−5について、密着性指標が同じであるにもかかわらず、暗い部分の面積が異なることがわかる。 また、図6(a)は密着性指標と剥離面積率との関係を示すグラフであり、図6(b)は損傷発生電流と剥離面積率との関係を示すグラフである。図6(a)から、密着性指標が同じNo.3−1およびNo.3−2、No.3−3〜No.3−5については、剥離面積率が異なる。したがって、剥離面積率からフォルステライト層の形成条件の閾値を適宜決定することができる。また、損傷発生電流については、損傷発生電流が同じNo.3−3およびNo.3−5〜No.3−7については、剥離面積率が異なることがわかる。以上より、従来の密着性評価(密着性指標)や損傷発生電流では、フォルステライト層の形成条件の閾値を見出すことは難しい。一方で、本発明の評価方法(剥離面積率)を用いることにより、フォルステライト層の形成条件の閾値を適宜決定することができる。 1 フォルステライト層の評価装置 10 試料台 11 電子線照射部 12 光評価部 120 光測定部 121 定量分析部 122 相関関係記憶部 13 真空チャンバー 14 波長カットフィルター 2 試料(方向性電磁鋼板) 表面側から張力コーティング層、フォルステライト層、方向性電磁鋼板をこの順で有する方向性電磁鋼板表面に電子線を照射し、該電子線による励起で発生する光を検出することで得られる像により、前記方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜であるフォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。 前記像の輝度を明るい部分と暗い部分に二値化して、明るい部分または暗い部分の面積の比率を求めることにより、フォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。 電子線またはレーザー光線を照射させることにより磁区細分化を施した後の方向性電磁鋼板表面のフォルステライト層の密着性を評価することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。 【課題】方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜のフォルステライト層の密着性を、短時間で容易に、かつ正確に評価する方法を提供する。【解決手段】表面側から張力コーティング層、フォルステライト層、方向性電磁鋼板をこの順で有する方向性電磁鋼板表面に電子線を照射し、該電子線による励起で発生する光を検出することで得られる像により、前記方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜であるフォルステライト層の密着性を評価する方向性電磁鋼板表面の絶縁被膜の密着性の評価方法。【選択図】図1