生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B1)_皮膚真菌症治療剤
出願番号:2013556922
年次:2014
IPC分類:A61K 31/198,A61P 17/00,A61P 31/10,A61K 9/08,A61K 9/10


特許情報キャッシュ

吉崎 司郎 JP 5548832 特許公報(B1) 20140523 2013556922 20130911 皮膚真菌症治療剤 吉崎 司郎 596094452 澤 喜代治 100084630 小川 泰州 100127764 吉崎 司郎 JP 2012208794 20120921 20140716 A61K 31/198 20060101AFI20140626BHJP A61P 17/00 20060101ALI20140626BHJP A61P 31/10 20060101ALI20140626BHJP A61K 9/08 20060101ALI20140626BHJP A61K 9/10 20060101ALI20140626BHJP JPA61K31/198A61P17/00 101A61P31/10A61K9/08A61K9/10 A61K 31/198 A61K 9/08 A61K 9/10 A61P 17/00 A61P 31/10 CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) Al-Bakri, A.G. et al,The assessment of the antibacterial and antifungal activities of aspirin, EDTA and aspirin-EDTA combination and their effectiveness as antibiofilm agents,J. App.l Microbiol. ,2009年,Vol.107, No.1,p.280-286 Kubo, I. et al,Effect of EDTA alone and in combination with polygodial on the growth of Saccharomyces cerevisiae,J. Agric. Food Chem. ,2005年,vol.53, No.5,p.1818-1822 Chandra, S.S. et al,Antifungal efficacy of 5.25% sodium hypochlorite, 2% chlorhexidine gluconate, and 17% EDTA with and without an antifungal agent,J. Endod.,2010年,Vol.36, No.4,p.675-678 8 JP2013074503 20130911 13 20140115 伊藤 清子 本発明は、皮膚真菌症の治療剤に関し、さらに詳しくは有効成分としてマグネシウムイオン、カルシウムイオンとの強い結合能を有する有機酸塩類を含有する皮膚真菌症の治療剤に関する。 いくつかの有機酸が微生物に対する抗菌作用を有することはよく知られており、例えばソルビン酸や安息香酸などは食品、化粧品、医薬品などの保存料として広く使用されている。そして、代表的な皮膚真菌症である皮膚糸状菌症(水虫)に対しても、安息香酸などが治療効果を有することが知られている。しかし、有機酸の塩類が皮膚真菌症の原因となる病原性真菌(皮膚糸状菌、カンジダ、マラセチアなど)に対して抗菌作用を有することは、あまり知られていない。 皮膚真菌症の治療のために使われている有機酸としては、安息香酸、ウンデシレン酸(10−ウンデセン酸)、酢酸、クエン酸などが皮膚糸状菌症治療剤として知られている。これらの有機酸は古い年代から使われているので、これらの有機酸が単独で皮膚糸状菌症に対する治療効果を持つと規定している特許情報は存在しておらず、他の抗菌活性物質とこれらの有機酸との混合物が水虫治療効果を示す、とする特許情報が散見される程度である。このような特許情報の例としては、硝酸ミコナゾールまたは硝酸エコナゾールに助剤として安息香酸またはその塩を加えた水虫外用薬(特許文献1)、イミダゾール系抗真菌剤にウンデシレン酸を配合した抗真菌剤(特許文献2)、竹酢液と1%クエン酸との混合物(特許文献3)などを挙げることができる。 有機酸の塩類を主成分とする皮膚真菌症治療剤としては、ウンデシレン酸の亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩あるいは銅塩を包含する皮膚糸状菌症治療剤に関する特許が出願されている。しかし、これらの塩類がどのような作用機構で皮膚糸状菌に作用しているのか、あるいは抗菌作用の本体であるウンデシレン酸とどのような関連にあるのか、などについては記載されていない(特許文献4,5)。 有機酸塩類と皮膚真菌症との関連について述べている特許文献としては、皮膚糸状菌症に関連する次の7つを挙げることができる。硝酸ミコナゾールまたは硝酸エコナゾールに助剤として安息香酸またはその塩を加えた水虫外用薬が開示されているが、安息香酸塩については具体的な記載が見当たらない(特許文献1)。テルビナフィンとジクロフェナックまたはインドメタシンとの配合剤が開示されており、抗菌剤の1つとしてウンデシレン酸およびその塩も包含されるとされているが、ウンデシレン酸およびその塩に関しては具体的な記載が見当たらない(特許文献6)。資生堂(株)の商品であるオーデコロン・マッサージジェル「キオラインナーセラムR(ディスペンサータイプ)」が水虫患者の水虫を完治させるとして、この商品に含まれている11個の構成成分すべてを含む混合物が水虫治療薬として開示されている。これらの構成成分の一つとしてクエン酸ナトリウムおよびエデト酸塩が含まれているが、これらの11個の成分のうちのどの成分が水虫治癒作用を示すのかは不明なままであり、解明されていない。なお、この特許情報に記載されているクエン酸ナトリウムは慣用的に用いられている名称であり、正確にはクエン酸三ナトリウムである。また、エデト酸塩は、通常使用されるエデト酸二ナトリウム塩であると考えられる(特許文献7)。公知の水虫薬であるラノコナゾールと、ウンデシレン酸亜鉛との配合剤が開示されている(特許文献8)。公知の水虫薬であるテルビナフィンを爪へ浸透させるための助剤として、酢酸ナトリウムを含む爪用貼付剤が開示されている(特許文献9)。公知の水虫薬であるビホナゾールに助剤(クエン酸ナトリウム、没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス)を加えるとビホナゾールの抗菌活性が上昇することが開示されている。しかし、これらの助剤によりビホナゾールの抗真菌活性が上昇する理由については不明であるとされており、助剤とされるクエン酸三ナトリウムの役割についても解明されていない(特許文献10)。殺菌作用を持つグアイアズレンとソルビン酸またはその塩類(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩)との混合物が抗真菌剤として開示されているが、実施例においてはソルビン酸とグアイアズレンとを組み合わせた一種類の薬剤が記載されているだけであり、ソルビン酸の塩類については何の説明もなされていない(特許文献11)。以上の特許情報において、使用されている有機酸塩類はいずれも公知の抗真菌剤への助剤として添加されているものであり、あるいは有機酸塩類を含むと単に記載されているだけであってその実体がないものである。 一方、有機酸塩類と皮膚糸状菌症以外の真菌症との関連について述べている特許文献としては、エデト酸カルシウム二ナトリウムなどのエデト酸塩類が膣カンジダ症の治療剤となることが開示されている(特許文献12)。また、エデト酸四ナトリウムなどのエデト酸塩類が、カンジダ菌などのバイオフィルム(菌膜)の形成を抑制することが開示されている(特許文献13,14)。これらの特許文献ではエデト酸塩類がカンジダ菌を抑制することが開示されているが、皮膚カンジダ症については言及されていない。有機酸塩類とマラセチア症との関連について述べている特許情報は、見当たらない。 有機酸が抗菌活性を示すことの大きな要因としては、有機酸の酸性に由来するpHの低下が挙げられている。また、イオン化していない非解離の有機酸が微生物の菌体内へと取り込まれることによる菌体内のpH低下による障害や、有機酸固有の効果も抗菌活性の一因であると考えられている(非特許文献1、2)。皮膚真菌症治療剤として使われている有機酸としては、安息香酸とウンデシレン酸とがある。安息香酸は、サリチル酸を配合したウィットフィールド軟膏として、皮膚糸状菌症に対する抗真菌療法に使用されている(英国医学会、1998年、非特許文献3)。中国では類似の組成を有する軟膏が華陀膏という名称で使用されているが、日本薬局方では安息香酸は抗真菌剤として登録されていない。皮膚糸状菌症治療剤として我が国で認可を得ている有機酸としては炭素数11個のウンデシレン酸があるが、臨床上はわずかに使われているだけである(非特許文献4)。酢酸(食酢、木酢液、竹酢液)は、民間伝承薬として皮膚糸状菌症(水虫)の治療に使われている。クエン酸も民間療法薬として知られている(非特許文献5)が、一方ではクエン酸は真菌に対して抗菌作用を示さないとする学術論文がある(非特許文献6)。上述のように、有機酸の抗菌活性は非解離の有機酸分子に由来するものと考えられていることから、有機酸の塩類に関しては抗菌活性がないものと理解されている。たとえば安息香酸に関しては、国際化学物質簡潔評価文書No.26「安息香酸および安息香酸ナトリウム」の要約において、「非解離型安息香酸が抗菌作用を発現するので、両化合物はひとまとめで検討されている。安息香酸それ自体は水にわずかにしか溶けないため、酸性条件下で非解離型安息香酸に変換する安息香酸ナトリウムが代わりに用いられることが多い。」と解説されている(非特許文献7)。また、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸)はグラム陰性菌や真菌に対する弱い抗菌活性を有しているが、単独では保存料として使うことができず、他の保存料との併用で使用されている程度である(非特許文献8)。有機酸の塩類がイオン解離して生じる有機酸アニオンは、微生物の細胞壁を通過しないものと理解されており、このことからも有機酸の塩類は抗菌活性を持たないと一般的に考えられている。 最近になって、エデト酸二ナトリウムがカンジダ菌に対する抗菌活性を持つこと(非特許文献9)、および、アスペルギルス菌に対する抗菌活性を持つこと(非特許文献10)が報告されている。また、各種のエデト酸製剤がカンジダ菌に対する抗菌活性を示すことが報告されている(非特許文献11)。特開平6−9395号公報特開平9−110693号公報特許第3628647号公報特開平10−158161号公報特開2000−26288号公報特表2004−528317号公報特開2005−263695号公報特開2007−91661号公報特開2010−189440号公報日本特許第3120965号公報特開2001−302504号公報アメリカ特許第4107331号明細書特開2008−273984号公報日本特許第4012328号公報食品危害微生物のターゲット制御、33―41頁、松田敏生、幸書房(日本)、2009年微生物殺菌実用データ集、362−363頁、山本茂貴ら、SCIENCE FORUM(日本),2005年IPCS(WHO),国際化学物質簡潔評価文書、No.26,安息香酸および安息香酸ナトリウム、11頁、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部(日本)、2007年Foley, E. J. and Lee, S. W., J. Invest. Dermatol., 10, 249 (1948)クエン酸で医者いらず、114頁、長田正松、小島徹、日東書院(日本)、2005年有機酸類の抗菌作用―各種pHにおける最少発育阻止濃度の検討―、松田敏生、矢野俊博、丸山昌弘、熊谷英彦、日本食品工業学会誌(日本)、41、687(1994)IPCS(WHO)、国際化学物質簡潔評価文書、No.26,安息香酸および安息香酸ナトリウム、4頁、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部(日本)、2007年。医薬品添加物ハンドブック、100頁、エデト酸、抗菌活性、永井恒司監修、薬事日報社(日本)、2001年B. Chudzik, A. Malm, B. Rajtar and M. Polz−Dacewicz, Annals of Microbiology, 57(1), 115−119 (2007)L. Abrunhosa and A. Venancio, Asian J. Biochemistry, 3(3), 176−181 (2008).市販EDTA製剤の抗菌性、中島薫,寺田林太郎、久保田稔、第125回日本歯科保存学会講演集(日本)、144頁(2006年) 皮膚真菌症は、主に皮膚の角層に生じる真菌感染症であり、皮膚糸状菌症(水虫)が代表的なものである。人や動物の皮膚糸状菌症は人獣共通感染症であり、薬物治療を行ってもなかなか完治には至りにくいことが知られている。皮膚の浅い部分に寄生している皮膚糸状菌をなぜ殺すことができないのか、その理由は明らかにはされていないが、皮膚科領域で使われているアゾール系抗真菌剤やアリルアミン系抗真菌剤などの合成抗真菌剤が皮膚の中へと透過しにくいことが一つの大きな要因になっているためではないか、と考えられる。これらの抗真菌剤は、in vitroの薬剤感受性試験では皮膚糸状菌に対する強力な抗菌活性を示すのであるが、しかし薬剤が皮膚糸状菌のいる部位まで届かなければ水虫は治らないわけである。この観点から、新規な水虫薬としては皮膚への透過性に優れた新しいタイプの薬剤の開発が望ましく、そのような皮膚への浸透性を持つ薬剤は水虫を完治させるだけの効力を備えているものと期待される。また、爪水虫に対しては内服用抗真菌剤を用いる治療法が行われているが、この内服療法では肝障害などの副作用を伴うこともあるので、外用療法で爪水虫を治すことができる薬剤の開発も望まれている。なお、現在皮膚科領域で用いられている合成抗真菌剤は、一般に皮膚糸状菌症、皮膚カンジダ症、癜風などの皮膚真菌症に対する適応を持っており、本発明でもこれらの皮膚真菌症に対して有効な治療剤が得られる可能性が高いと考えられる。 本発明は、前記技術的課題を解決することを目的として研究開発されたものであって、皮膚や爪に対する浸透性に優れ、皮膚糸状菌症をはじめとする皮膚真菌症を効果的に治療することができる新規な皮膚真菌症治療剤を提供することを目的とする。 上記の課題を解決するためには、従来行われてきた合成抗真菌剤の類縁体を研究する手法とは全く異なる観点から抗真菌剤の研究を行う必要があることが明らかであろう。従来の合成抗真菌剤は一般に水に不溶性ないしは難溶性であるが、このことが皮膚への透過性を失う大きな要因になっているものと考えられる。皮膚への透過性を高めるためには、水溶性の高い化合物を選択することが望ましいであろう。酢酸は皮膚への透過性が高く、優れた抗真菌剤であるので、各種の有機酸を用いて皮膚糸状菌の薬剤感受性試験をCLSI(Clinical Laboratory Standards Institute、米国)ガイドラインに準拠して検討したところ、クエン酸が皮膚糸状菌に対する抗菌活性を持つことが判明した。この薬剤感受性試験は緩衝剤であるMOPS(3−Morphorinopropanesuolfonic acid)を用いて中性条件下で行われるので、試験系内ではクエン酸は酸性を持たないクエン酸三アニオンの形で存在しており、そのクエン酸三アニオンが皮膚糸状菌に対する抗菌活性を示したわけである。 そこで、種々の有機酸の塩類について各種の病原性真菌(皮膚糸状菌、カンジダ、マラセチア、アスペルギルス、クリプトコックス)に対する抗菌活性を検討したところ、安息香酸、ソルビン酸およびエチレンジアミン四酢酸の塩類が強い抗菌活性を持つことが判明した。この結果により、ある種の有機酸塩類が広範な病原性真菌に対する抗真菌作用を有することが初めて明らかにされたのである。これらの有機酸の塩類としては、水への溶解性が大きいナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩を適宜選択することができる。これらの有機酸塩類は皮膚への透過性が良く、皮膚の水虫を完治させる効力が強いことが判明した。また、これらの有機酸塩類は爪水虫に対しても外用で優れた効力を示し、爪水虫を容易に完治させることが明らかとなった。さらに、これらの有機酸塩類は皮膚カンジダ症、爪カンジダ症、マラセチア症に対しても優れた治療効果を持つことが示された。 本発明の皮膚真菌症治療剤は、有効成分としてエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウムあるいはエチレンジアミン四酢酸マグネシウム二ナトリウムを含有することを特徴とする。 有機酸そのものは自身の持つ酸性のために皮膚への刺激が強く、水虫などの真菌症の治療には使いにくいのであるが、有機酸の塩類は酸性が消失しているか、あるいは酸性が弱くなっているので皮膚への刺激が少なく、安心して使える水虫治療薬になっている。本発明化合物は、皮膚糸状菌症などに対して高い治療効果を持つ、副作用の少ない理想的な皮膚真菌症治療薬として人類社会に貢献するであろう。 本発明の皮膚真菌症治療剤は、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウムから選ばれた少なくとも一種以上であるものが好ましい態様となる。 また、本発明の皮膚真菌症治療剤は、上記の有機酸塩類が液状媒体に溶解もしくは分散されてなり、皮膚真菌症の患部が皮膚真菌症治療剤に浸漬されることによって、患部に投与されるように用いられるものが好ましい態様となる。 本発明によれば、皮膚真菌症を効果的に治療することができる。 本発明の皮膚真菌症治療剤は皮膚や爪への浸透性が良く、これまで治りにくいとされてきた皮膚糸状菌症(水虫)を容易に完治させることが判明した。皮膚の水虫に対しては、本発明化合物を含む薬剤を1日1〜3回水虫患部に適用することにより、皮膚糸状菌を殺すために必要な皮膚内の薬剤濃度が保たれて皮膚糸状菌を消滅させることができ、数日〜数カ月間の処理で水虫完治を達成することができる。また、本発明化合物を用いることにより、爪水虫を外用療法で治すことにも成功した。爪水虫を外用療法で治すためには、爪全体を本発明化合物含有液剤に長時間浸漬する方法が有効であり、爪の中に存在する皮膚糸状菌を効果的に殺菌・消滅させることができる。この爪浸漬処理法では、1日1回、1〜5時間あるいは就寝時に処理を行い、この処理を1回〜15回程度連続で行えば爪の中の皮膚糸状菌が消失し、そのあとは時間の経過とともに新しい爪が生えてきて健康な爪を回復することができる。爪水虫では爪周辺の皮膚にも皮膚糸状菌感染が起きていることが多いので、この爪全体を薬液に浸漬する処理は数か月間継続することが好ましい。従来、爪水虫は内服用抗真菌剤の内服療法でしか治せないものであったが、本発明化合物含有液剤を用いれば外用療法で爪水虫を治せるようになったのである。また、爪水虫の爪標本からは皮膚糸状菌とともにカンジダ菌が分離されることも多く、両者の混合感染が生じているものと考えられるが、本発明化合物はそのような混合感染が起きている爪水虫症例に対しても十分な治療効果を発揮している。本発明化合物含有物は中性に近いpHを示し、有機酸由来の酸性による皮膚への刺激が消失しているか、あるいは弱くなっているので、皮膚の炎症を起こしにくいという優れた特性も併せ持っている。このように、本発明の皮膚真菌症治療剤は、理想的な水虫治療剤として人類社会に貢献する役割を担えるであろう。また、本発明の皮膚真菌症治療剤は、マラセチア感染症に対しても良好な治療効果を発揮し、皮膚のマラセチア症を容易に完治させることが明らかとなった。 本発明化合物の薬剤濃度は、病原性真菌を殺し得る任意の範囲内の濃度を選択できるが、有機酸アニオン類を皮膚内へと透過させて長時間その濃度を維持することが必要であり、また、爪水虫では爪の奥深くに潜む皮膚糸状菌の生息部位まで有機酸アニオン類を到達させることも必要であり、そのような観点から皮膚真菌症治療剤の濃度は0.001〜10%程度であることが好ましく、さらに0.01〜5%であることがより好ましい。この薬剤濃度が低すぎると病原性真菌に対する効果が十分でないので、薬剤の使用回数を多くする必要が生じてくる。また、逆に薬剤濃度が高すぎると皮膚に対する刺激が大きくなって皮膚の敏感な部分に炎症が生じることになり、真菌症治療効果を損なう可能性がある。なお、JECFA(FAO/WHO)による食品添加物の安全性評価ではエデト酸二ナトリウムの1日摂取許容量は体重1kg当たり2.5mg以下と設定されているので、これらの基準は遵守しなければならない。 本発明化合物は、医薬品とするために必要な程度の水溶性を備えている。このため、液剤、クリーム剤、噴霧剤、軟膏剤などの各種の剤型を必要に応じて適宜選択することができる。本発明化合物を溶解するための溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、マクロゴールなどの本発明化合物が可溶な任意の溶媒を使うことができる。本発明の皮膚真菌症治療剤は、既知の合成抗真菌薬と混合して使用してもよく、また、木酢液、竹酢液、酢酸、植物抽出液などの水虫に対する民間伝承薬と任意の割合で混合しても差し支えはない。さらにまた、治療剤には、必要に応じて、製薬上一般的に使用される添加剤が含有されてもよい。 本発明の皮膚真菌症治療剤の抗菌活性は、主要な病原性真菌の薬剤感受性試験をCLSI(Clinical Laboratory Standards Institute、米国)ガイドラインに準拠して行い、評価した。病原性真菌としては、トリコフィトン属(T. rubrum、T. mentagrophytes、T. tonsurans)、ミクロスポルム属(M. gypseum)、エピデルモフィトン属(E. floccosum)、カンジダ属(C. albicans)、アスペルギルス属(A. fumigatus)、クリプトコックス属(C. neoformans)を選定した。試験結果は実施例1〜2に示すが、代表的な皮膚糸状菌であるT. mentagrophytesに対する主要な本発明化合物の抗菌活性(MIC, mg/ml)は次の通りであり、良好な結果が得られている:エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、0.078;エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、0.039。また、マラセチア属菌種(M. furfur)の薬剤感受性試験は、寒天培地希釈法を用いる杉田らの方法に準拠して行った(T. Sugita et. al., J. Clinical Microbiology, 43, 2824−2829 (2005))。主要な本発明化合物のM. furfurに対する抗菌活性(MIC, mg/ml)は次の通りであり、良好な結果が得られている:エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、0.063(実施例2)。本発明化合物は水溶性であり、皮膚への浸透性もあるので、これらのMIC値は臨床用量を設定するための一つの指標となり得るものである。この薬剤感受性試験では、真菌の分生子(胞子)が発芽成長するために必要なMgイオンとCaイオンが培地に含まれている。有機酸の持つカルボキシル基はこれらのイオンと結合するので、有機酸は真菌の発育に対して競合的な阻害作用を持っているわけである。本発明化合物は、これらのイオンと強固に結合する化学構造上の特徴を持っており、試験系内からこれらのイオンを排除することにより、真菌の生育を阻んで抗菌活性を発揮するものと考えられる。マグネシウムイオン、カルシウムイオンとの強い結合能を有する有機酸塩類が真菌に対して抗菌活性を示すことは、非解離の有機酸が抗菌活性を示すとする従来の常識を覆す知見である。なお、本発明化合物は主にMgイオン、Caイオンと結合することによって抗菌活性を発揮するので、これらのイオンが血液中から供給されにくい皮膚角層内では効果的な抗菌作用を発揮することができるが、一方、内臓器官などではこれらのイオンが豊富に存在するために失活することが明白であり、本発明化合物は深在性真菌症に対しては効果がないと考えられる。また、エデト酸塩類のカンジダ菌に対する抗菌活性は、エデト酸塩類が亜鉛イオンと結合して亜鉛を枯渇させることによるものであるとする説があり(特許文献12)、この場合にはこの説が正しいものと考えられる。 本発明化合物については、人の皮膚真菌症に対する治癒作用も検討した。本発明化合物は、代表的な皮膚真菌症である皮膚糸状菌症(水虫)に対して、良好な治療効果を示した。試験に使用した水虫の症例としては、皮膚の小水泡型水虫、趾間型水虫、角質増殖型水虫、体部水虫、および爪水虫などの各種の水虫を選定した。実施例に示すように、本発明化合物を含有する薬剤は皮膚の水虫を完治させる優れた効果を示し、さらに、爪水虫を外用療法で完治させた。有機酸塩類含有物が皮膚糸状菌症を治すことはこれまで全く知られておらず、本発明により初めて明らかにされたのである。また、爪水虫患部の爪標本を採取してカンジダ培地(日水製薬(日本))で培養すると、皮膚糸状菌のほかにカンジダ菌が密な円盤状のコロニーを形成することがしばしば観察され、そのようなケースでは皮膚糸状菌症とカンジダ症との混合感染が起きているものと考えられるが、本発明化合物はそのような混合感染型水虫も容易に完治させることができ、本発明化合物がカンジダ症に対しても効果的な治療剤となることが判明した。 本発明の皮膚真菌症治療剤であるエチレンジアミン四酢酸四置換塩、エチレンジアミン四酢酸三置換塩、あるいはエチレンジアミン四酢酸二置換塩は、水の存在下でおのおのエチレンジアミン四酢酸四アニオン、エチレンジアミン四酢酸三アニオンあるいはエチレンジアミン四酢酸二アニオンに解離するわけであるが、これらの有機酸アニオンが皮膚内へと容易に浸透して皮膚糸状菌を消滅させていることが明らかである。そして、これらの有機酸アニオンがいずれも良好な水虫治療効果を示すことから、有機酸由来の酸性が抗菌作用を示すと解釈する従来の抗菌作用機序とは全く異なる、未知の作用機構で有機酸アニオンが皮膚糸状菌に作用していることが明らかである。有機酸アニオン類のこの未知の抗菌作用は、皮膚に寄生する病原性真菌から重要な役割を担う金属イオン(マグネシウムイオン、カルシウムイオンなど)が奪われて菌体が破壊されることに由来するのであろう、と推定される。 代表的な皮膚真菌症である皮膚糸状菌症の原因となる皮膚糸状菌は、トリコフィトン・ルブルムとトリコフィトン・メンタグロフィテスとが主なものであり、本発明の実施例における各種の水虫においても、これらの皮膚糸状菌が皮膚症状の原因となっていることを適宜確認した。この皮膚糸状菌の確認は、真菌を培養するためのカンジダ培地(日水製薬)に水虫患部の皮膚や爪の標本を植え付けて、生育してくる皮膚糸状菌を分離し、形態観察あるいは遺伝子解析を行って確認した。また、培養によってカンジダ菌が得られた場合にも、形態観察あるいは遺伝子解析を行った。真菌同定の詳細については、実施例に記述した。 上記の説明に基づき、本発明は、以下の態様を包含する。 (1)エチレンジアミン四酢酸塩類からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の有機酸塩のみを有効成分として含む外用剤であることを特徴とする、皮膚真菌症治療剤。 (2)前記有機酸塩が、前記有機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である、上記(1)に記載の皮膚真菌症治療剤 (3)エチレンジアミン四酢酸塩類が、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウムおよびエチレンジアミン四酢酸マグネシウム二ナトリウムから選ばれる、上記(1)または(2)に記載の皮膚真菌症治療剤。 (4)外用剤が液剤である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の皮膚真菌症治療剤。 (5)有機酸塩類が液状媒体に溶解もしくは分散されてなり、かつ、被験者の皮膚糸状菌症の患部が皮膚糸状菌症治療剤に浸漬されることによって、患部に投与されるように用いられるものである、上記(4)に記載の皮膚真菌症治療剤。 (6)皮膚真菌症が皮膚糸状菌症である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の皮膚真菌症治療剤。 (7)皮膚真菌症がカンジダ症を併発している皮膚糸状菌症である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の皮膚真菌症治療剤。 (8)皮膚真菌症がマラセチア症である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の皮膚真菌症治療剤。 ここで本発明化合物の抗真菌活性および水虫治癒作用、カンジダ症治癒作用について実施例を挙げて説明するが、本発明の効果はこれらの実施例のみに限定されるものではない。[実施例1] 本発明化合物の抗真菌活性は、各種病原性真菌の薬剤感受性試験を行って評価した。試験方法は微量液体希釈法を用いて、CLSI(Clinical Laboratory Standards Institute、米国)のガイドラインに準拠して行った。エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムの各種病原性真菌に対する抗菌活性は次の通りであった(真菌名、菌番号とMIC(mg/ml)を併記する): T. rubrum IFM 59814、0.039; T. mentagrophytes IFM 59813、0.078; M. gypseum IFM 59816、0.078; E. floccosum IFM 53345、0.078; C. albicans IFM 5740、0.00020; A. fumigatus IFM4942、0.0098; C. neoformans IFM5807、0.0098。また、エチレンジアミン四酢酸三カリウムのT. mentagrophytes IFM 59813に対する抗菌活性(MIC(mg/ml))は0.078であった。 なお、本発明化合物は新規な抗菌作用機序を有しているために、試験結果の比較対照となり得る対照薬は存在しない。 また、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムおよびエチレンジアミン四酢酸マグネシウム二ナトリウムのmentagrophytes IFM 59813に対する抗菌活性(MIC(mg/ml))は、それぞれ0.039、0.078および0.078であった。[実施例2] 本発明化合物のマラセチア属菌種に対する抗菌活性は、Sugita et al.(2005)の方法に準じてヒト関連マラセチア菌種の薬剤感受性試験を実施し、評価した。24−wellマイクロタイタープレートのwellに、被験薬とmLNA培地を加えて全量を2mLとした。約1 x 104 cell/mL濃度の菌懸濁液50μLを培地に加え、32℃で7日間好気的に培養した。コントロール(被験薬なし)に比べて、増殖が完全に阻止された濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。M. furfurに対する本発明化合物の抗菌活性(MIC, mg/ml)は次の通りであった:エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、0.063。また、各種のマラセチア菌種に対するエチレンジアミン四酢酸三ナトリウムの抗菌活性は次の通りであった(菌種とMIC, mg/mlとを併記する): M. gloobsa, 0.063; M. restricta, 0.031; M. sympodialis, 0.063; M. dermatis, 0.031; M. obtusa, 0.031; M. sloffiae. 0.063; M. japonica, 0.063; M. yamatoensis, 0.063。[実施例3] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物46.0gにグリセリン(84−87%水溶液)20mlを加え、さらに15%エタノールを加えて2Lとし、2%試験液を調製した。足裏の土ふまず部分〜側面部分に広くできている角質増殖型水虫に対して、この試験液を1日2回スプレーで噴霧した。この処理により、これまで表面化していなかった病巣も表面化してきた。約2カ月間の処理により、難治性で再発を繰り返してきた角質増殖型水虫が消滅し、きれいな皮膚を回復した。この症例の水虫患部からは白癬菌とカンジダ菌とを分離しており、白癬菌についてはらせん状の菌糸が形成されていることと分生子の形成様式から、トリコフィトン・メンタグロフィテスであることを確認した。[実施例4] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物57.5gにグリセリン(84−87%水溶液)50mlを加え、さらに15%エタノールを加えて5Lとし、1%試験液を調製した。足裏、側面部、指、趾間、足の甲部分にかけて広範な角質増殖型水虫がある足をこの1%処理液に1日1時間浸漬処理した。処理の進行とともに角化型皮膚は徐々にはがれてピンク色の皮膚へと変化してきた。約1か月半後に、足全体を覆っていた水虫は消失して、健康な皮膚を回復した。[実施例5] 薬指と小指との間にできた趾間水虫に、実施例3と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム2%試験液を1日1回スプレーで噴霧・塗布した。約2ヶ月後に皮膚症状が消失して健康な皮膚を回復した。この患部の皮膚から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってrDNA ITS領域の塩基配列を決定し、トリコフィトン・ルブルムであると同定した。[実施例6] 胸部にできた発赤状体部水虫(幅5cm、高さ3cm程度)に、実施例4と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム1%試験液を1日1回スプレーで噴霧・塗布した。約2週間の処理で発赤患部が消失し、健康な皮膚を回復した。この患部の原発病巣である突起状発赤患部から白癬菌を分離したので、遺伝子解析を行ってrDNA ITS領域の塩基配列を決定し、トリコフィトン・メンタグロフィテスであると同定した。[実施例7] 左太ももに出来た、直径数ミリの赤い斑状隆起物が群発している体部水虫(幅10cm、高さ5cm程度)に、実施例4と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム1%試験液を1日1回スプレーで噴霧・塗布した。約1ヶ月後に皮膚症状は消失あるいは瘢痕化して、この体部水虫が完治した。皮膚症状の特徴から、この水虫はイヌ小胞子菌(M. canis)によるものと考えられる。[実施例8] エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物119mgに20%エタノールを加えて1Lとし、0.01%試験液を調製した。太ももにできた発赤隆起状の体部水虫に対してこの試験液を1日3回噴霧したところ、約2週間の処理で発赤が消滅して色素沈着物へと変化し、水虫が完治した。 同様の手順で、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムおよびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの0.01%試験液を調製し、各々が体部水虫を完治させることを確認した。[実施例9] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物230gにグリセリン(84−87%水溶液)100mlを加え、さらに15%エタノールを加えて10Lとし、2%試験液を調製した。爪全体が変色変形して重度の爪水虫になっている右足親指に適度の大きさの巻指サックをかぶせてその中にこの2%処理液を入れ、適宜処理液を補充しながら3日間連続浸漬する処理を繰り返し行ったところ、微小な白い組織剥片が多量に遊出してきた。この処理を約2か月間継続して行ったところ、爪根元から健康な爪が伸び出してきて、半年後には健康な爪を回復した。この爪患部から白癬菌を分離したので遺伝子解析を行ってrDNA ITS領域の塩基配列を決定し、トリコフィトン・ルブルムであると同定した。[実施例10] 実施例3と同様にして、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムの2%試験液を調製した。この試験液を市販の巻指サック(Mサイズ)に約2ml入れ、その中に爪先端部の三分の一程度および爪先の皮膚部分が水虫になっている右手小指を浸して就寝時に浸漬処理した。この処理を2カ月間行ったところ、爪床部分の皮膚が数回はがれたのちに健康な爪と皮膚を回復した。この症例の爪水虫患部からは白癬菌とカンジダ菌とを分離しており、白癬菌については菌糸の形態観察によりトリコフィトン・メンタグロフィテスであることを確認した。[実施例11] 左下腹部にできた淡褐色班(大きさは4x10cm程度)に、実施例4で用いた1%エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム試験液を1日2回塗付した。約3週間後に淡褐色班は消失した。この症例の淡褐色班は発赤やかゆみを伴わないという特徴を持っており、皮膚病カラーアトラスに収載されているマラセチア症の写真と酷似しており、マラセチア感染症であると考えられる。[実施例12] イトリゾールを用いる内服薬療法が無効であった左足親指爪の爪水虫に対して、実施例3と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム2%試験液を1日2回噴霧塗布した。その結果、爪根元から新しい爪が伸長してきて、爪水虫患部が徐々に爪先へと排出された。約7ヶ月後に、爪水虫患部は爪先へと排出されて切除し終わり、爪水虫が完治した。[実施例13] 指の付け根から土踏まずにかけてできている角質増殖型水虫に対して、実施例3と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム2%試験液を1日2回噴霧塗布した。その結果、角質増殖した皮膚が徐々に健康な皮膚へと置き換わり、約6ヶ月後には患部全体が健康な皮膚を回復した。この症例の皮膚から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・ルブルムであることを確認した。[実施例14] 後頭部の毛髪中に生じている紅色小丘疹に対して、実施例3と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム2%試験液を1日2回噴霧塗布した。2週間後、丘疹が消滅して平板化し、完治に至った。[実施例15] 右足太もも裏に生じている紅色小丘疹に対して、実施例3と同様にして調製したエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム2%試験液を1日2回噴霧塗布した。10日後、丘疹が消滅して色素沈着化し、完治に至った。この症例の丘疹から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・メンタグロフィテスであることを確認した。[実施例16] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物69.0gにグリセリン(84-87%水溶液)20mlを加え、さらに15%エタノール水溶液を加えて2Lとし、結晶を溶解して3%試験液を調製した。爪全体が変色している左足小指爪に対して、この3%液を1日2回噴霧塗布した。その結果、爪根元から新しい爪が伸長してきて、爪水虫患部が徐々に爪先へと排出された。約8ヶ月後に、爪水虫患部は爪先へと排出されて切除し終わり、爪水虫が完治した。この症例の爪から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・ルブルムであることを確認した。[実施例17] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物115gにグリセリン(84-87%水溶液)20mlを加え、さらに15%エタノール水溶液を加えて2Lとし、結晶を溶解して5%試験液を調製した。左右のかかとに生じている角質増殖型水虫に対して、この5%試験液を1日2回噴霧塗布した。白変化した皮膚は徐々に消失して、約3ヶ月後には健康な皮膚を回復した。この症例の皮膚から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・ルブルムであることを確認した。[実施例18] エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物115gに水885gを加えて溶解し、10%試験液を調製した。右手親指の先端部分にできている爪水虫に対して、この10%試験液を1日1回塗布した。侵蝕された爪部分は徐々に爪先へと押し出されて、約1ヶ月後には健康な爪を回復した。この症例の爪から白癬菌を分離し、遺伝子解析を行ってトリコフィトン・ルブルムであることを確認した。 本発明は、皮膚真菌症の治療剤に関するものであり、日本でも数多くの患者が存在するといわれている皮膚糸状菌症(水虫)の効果的な治療剤をも包含するものである。これまで水虫は完治しにくいものであったが、本発明の皮膚真菌症治療剤を用いることにより水虫は容易に完治できるものとなった。また、内服薬療法でしか治らないとされている爪水虫を外用療法で完治させる道がひらかれた。本発明は、皮膚真菌症という厄災から人類を救済し得るものであり、産業上の利用可能性は極めて大きい。 エチレンジアミン四酢酸塩類からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の有機酸塩のみを有効成分として含む外用剤であることを特徴とする、皮膚真菌症治療剤。 前記有機酸塩が、前記有機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である、請求項1に記載の皮膚真菌症治療剤 エチレンジアミン四酢酸塩類が、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二カリウムおよびエチレンジアミン四酢酸マグネシウム二ナトリウムから選ばれる、請求項1または2に記載の皮膚真菌症治療剤。 外用剤が液剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の皮膚真菌症治療剤。 有機酸塩類が液状媒体に溶解もしくは分散されてなり、かつ、被験者の皮膚糸状菌症の患部が皮膚糸状菌症治療剤に浸漬されることによって、患部に投与されるように用いられるものである、請求項4に記載の皮膚真菌症治療剤。 皮膚真菌症が皮膚糸状菌症である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚真菌症治療剤。 皮膚真菌症がカンジダ症を併発している皮膚糸状菌症である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚真菌症治療剤。 皮膚真菌症がマラセチア症である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の皮膚真菌症治療剤。 この発明は、皮膚真菌症を容易に完治させるだけの効力をもつ薬剤、具体的には、安息香酸塩類、ソルビン酸塩類およびエチレンジアミン四酢酸塩類からなる群から選ばれた少なくとも1種以上の有機酸塩を主要な有効成分として含む外用剤であることを特徴とする皮膚真菌症治療剤を提供する。


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