生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_乳酸菌のカロテノイド生産促進および酸化ストレス耐性向上技術
出願番号:2013262900
年次:2015
IPC分類:C12P 23/00,C12N 1/20,A23L 1/30,A61K 35/74,A61P 39/06,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

萩 達朗 野村 将 小林 美穂 JP 2015116167 公開特許公報(A) 20150625 2013262900 20131219 乳酸菌のカロテノイド生産促進および酸化ストレス耐性向上技術 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 深見 伸子 100120905 萩 達朗 野村 将 小林 美穂 C12P 23/00 20060101AFI20150529BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150529BHJP A23L 1/30 20060101ALI20150529BHJP A61K 35/74 20150101ALI20150529BHJP A61P 39/06 20060101ALI20150529BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150529BHJP JPC12P23/00C12N1/20 AA23L1/30 ZA61K35/74 AA61P39/06C12N15/00 A 5 OL 15 特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:FEMS Microbiology Letters 電気通信回線発表:2013年12月11日 掲載アドレス:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1574−6968.12341/abstract 公開者:萩 達朗、小林 美穂、野村 将 4B018 4B024 4B064 4B065 4C087 4B018MD86 4B018ME06 4B024AA01 4B024AA05 4B024CA04 4B024CA11 4B024CA20 4B064AH01 4B064CA02 4B064CC12 4B065AA01X 4B065AC14 4B065BC05 4B065BC06 4B065CA02 4B065CA41 4B065CA44 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC32 4C087CA09 4C087CA12 4C087NA05 4C087ZC21 本発明は、乳酸菌を用いてカロテノイドを効率的に生産する方法、およびカロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法に関する。 乳酸菌はヨーグルトやチーズなどの乳製品や、漬物、味噌、醤油などの発酵食品の製造に用いられており、プロバイオティクスとして消化管内の細菌叢の改善による整腸効果、免疫力向上効果、抗腫瘍効果などの種々の健康保持効果を有することから、人類にとって重要な微生物資源である。乳酸菌が生産する抗酸化物質は、乳酸菌自体が受ける酸化ストレスを軽減するほか、酸化ストレスに起因する潰瘍などの疾患を予防することから、乳酸菌の育種分野および酸化ストレス性疾患の予防医学分野から注目されている。これまで、酸化ストレスを消去するために、trxB1 (チオレドキシンレダクターゼ)、ahpC (アルキルヒドロペルオキシダーゼ)、gshR (グルタチオンレダクターゼ)、およびsodA (スーパーオキシドジスムターゼ)などの遺伝子が、乳酸菌における抗酸化活性に関連することが報告されており(非特許文献1、2)、酸化ストレス性疾患の予防に向けて研究が行われている。 一方、カロテノイドは、その化学構造上に二重結合を多く含むために抗酸化作用が大きく、酸化ストレスや紫外線ストレスのような環境ストレスへの防御機構に関与している。これまで微生物によるカロテノイド製造技術に関しては、培養液の溶存酸素濃度を調節してアスタキサンチン生産能を有するパラコッカス属細菌を培養する方法(特許文献1)、酵母類を用いてオルタナティブオキシダーゼ活性を制御することでアルタキサンチンの生産を促進する方法(特許文献2)、ビオチンを添加した培地でパラコッカス属細菌を培養することによってカンタキサンチンの生産を抑えつつ効率的にアスタキサンチンを製造する方法(特許文献3)、カルシウム化合物を添加した培地にてアスタキサンチン生産能を有するパラコッカス属細菌を培養してリコペンなどのカロテノイドを製造する方法(特許文献4)、培養中の培養液の溶存酸素濃度を制御することでカロテノイド化合物の生成割合を変える方法(特許文献5)などがある。 一方、4,4’-ジアポニューロスポレンは、乳酸菌を含む一部の細菌が生産するC30カロテノイド類である。このカロテノイド(4,4’-ジアポニューロスポレン)を組み換え技術によって微生物で生産する技術として、枯草菌においてスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のカロテノイド生合成遺伝子を発現させる方法(特許文献6;非特許文献3)および乳酸菌においてエンテロコッカス・ギルバス(Enterococcus gilvus)由来のカロテノイド生合成遺伝子を発現させる方法(非特許文献4)などが報告されており、これらの報告では、カロテノイドを生産させることで、宿主微生物の酸化ストレス耐性が向上することが示されている。しかしながら、このような組み換え技術を用いずに乳酸菌のカロテノイド生産を促進し、また、乳酸菌の酸化ストレス耐性を向上させるより簡便な方法が望まれるところである。特開2007−244222特開2002−253266特開2011−188795特開2012−139164特開2001−352995特開2011−135856Serrano LM, Molenaar D, Wels M, Teusink B, Bron PA, de Vos WM & Smid EJ (2007) Thioredoxin reductase is a key factor in the oxidative stress response of Lactobacillus plantarum WCFS1. Microb Cell Fact 6: 29.Pedersen MB, Garrigues C, Tuphile K, Brun C, Vido K, Bennedsen M, Mollgaard H, Gaudu P & Gruss A (2008) Impact of aeration and heme-activated respiration on Lactococcus lactis gene expression: identification of a heme-responsive operon. J Bacteriol 190: 4903-4911.Yoshida K, Ueda S, Maeda I. (2009) Carotenoid production in Bacillus subtilis achieved by metabolic engineering. Biotechnol Lett., 31; (11):1789-93.Hagi T, Kobayashi M, Kawamoto S, Shima J & Nomura M (2013) Expression of novel carotenoid biosynthesis genes from Enterococcus gilvus improves the multistress tolerance of Lactococcus lactis. J Appl Microbiol 114: 1763-1771. そこで、本発明は、組み換え技術なしに乳酸菌のカロテノイド生産を促進するとともに、乳酸菌に酸化ストレス耐性を付与する技術を開発し、乳酸菌利用の効率化・拡大を図ることを課題とする。 本発明者らは上記課題を解決すべく、培養方法や条件について鋭意研究を重ねた結果、通性嫌気性細菌である乳酸菌は、本来は嫌気培養されるが、本発明者らが牛乳より分離したエンテロコッカス・ギルバス(Enterococcus gilvus)を好気培養したところ、驚くべきことに嫌気培養時よりもカロテノイド生産量が飛躍的に増加するともに、嫌気培養時に比べて好気培養した菌体のほうが過酸化水素に対する耐性が大きく向上することを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。 即ち、本発明は以下の発明を包含する。(1) crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養することを特徴とする、カロテノイドの生産方法であって、該カロテノイド生合成遺伝子が以下の(a)〜(g)のいずれかに示すDNAを含むものである、上記生産方法。 (a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA (b) 配列番号1に示す塩基配列に対して60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (c) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (e) 配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (f) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (g) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に対して46%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA(2) crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養することを特徴とする、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法であって、該カロテノイド生合成遺伝子が以下の(a)〜(g)のいずれかに示すDNAを含むものである、上記製造方法。 (a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA (b) 配列番号1に示す塩基配列に対して60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (c) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (e) 配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (f) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (g) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に対して46%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA(3) (2)に記載の製造方法で得られた乳酸菌。(4) (3)に記載の乳酸菌を含む抗酸化性組成物。(5) 飲食品または医薬品である、(4)に記載の抗酸化性組成物。 本発明によれば、乳酸菌を培養方法を改変するという非常に簡便な方法で、組み換え技術を用いずに乳酸菌のカロテノイド生産を促進することができるとともに、乳酸菌の酸化ストレス耐性を向上させることができる。よって、本発明により得られたカロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌は、優れた抗酸化作用に基づき、酸化ストレスに関連する様々な生体障害を予防または改善するための飲食品や医薬品に利用できる。図1Aは、Enterococcus gilvus の生育(菌体濁度:OD600nm)の経時変化(白丸:嫌気培養、黒丸:好気培養)および培養液pHの経時変化を示す(白四角:嫌気培養、黒四角:好気培養)。図1Bは、グルコース消費量の経時変化(白四角:嫌気培養、黒四角:好気培養)および乳酸生成量の経時変化を示す(白三角:嫌気培養、黒三角:好気培養)。図2Aは、嫌気または好気培養したEnterococcus gilvus の菌体の色味(カロテノイド生産)を示す(左:嫌気培養、右:好気培養)。図2Bは、嫌気または好気培養したEnterococcus gilvus の単一菌体量あたりのカロテノイド生産量の経時変化を示す(白丸:嫌気培養、黒丸:好気培養)。嫌気または好気培養したEnterococcus gilvus の過酸化水素水処理(濃度16mmolL-1および32mmolL-1)後の生残率を示す。1.カロテノイドの生産方法、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法 本発明のカロテノイドの生産方法、およびカロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法は、crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養することを特徴とする。 本発明に使用する乳酸菌としては、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAを含むカロテノイド生合成遺伝子を有していれば特に限定はされない。配列番号1に示す塩基配列は、第1位から第1488位までの領域にデヒドロスクアレンデサチュラーゼ(ジアポフィトエンデサチュラーゼ)をコードするcrtN遺伝子と第1478位から第2362位までの領域にデヒドロスクアレンシンターゼ(ジアポフィトエンシンターゼ)をコードするcrtM遺伝子がオペロン構造を形成している。上記のカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌としては、該遺伝子が由来するエンテロコッカス(Enterococcus)属の乳酸菌のほか、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、テトラゲノコッカス(Tetragenococcus)属等の乳酸菌が挙げられる。本発明において乳酸菌は複数種類の菌を混合して用いることもできる。 本発明に使用する乳酸菌が有するカロテノイド生合成遺伝子は、好ましくは、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子であるが、当該遺伝子には限定はされず、カロテノイド生合成酵素活性を有する限り、そのホモログ遺伝子であってもよい。ここで、「カロテノイド生合成酵素活性を有する」とは、該活性が、配列番号1に記載の遺伝子が有する活性と実質的に同等であることをいう。 ホモログ遺伝子には、配列番号1に示す塩基配列に対して60%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む遺伝子、配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなるDNAを含む遺伝子、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子が包含される。 上記の「60%以上の相同性(配列同一性)」は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。「配列同一性」とは、2つのDNAの配列類似性をいい、比較対象のDNAの塩基配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの塩基配列を比較することにより決定される。配列同一性(%)は、両方の配列に存在する同一の塩基を決定して、適合部位の数を決定し、次いで、この適合部位の数を比較対象の配列領域内の塩基の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出され得る。最適なアラインメントおよびホモロジーを得るためのアルゴリズムは、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。DNAの配列同一性は、例えば、配列解析ソフトウエア(例えば、BLASTN、FASTAなど)を用いて測定される。 上記の欠失、置換若しくは付加されてもよい「1若しくは数個」の範囲は、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異導入法により欠失、置換、若しくは付加できる程度の数の塩基をいい、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、ここにいう「変異」は、主には部位特異的突然変異誘発法等により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。 また、上記の「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高いDNA、すなわち配列番号1で表わされる塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNAの相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、0.25M Na2HPO4, pH7.2, 7%SDS, 1mM EDTA, 1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましく65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16〜24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM Na2HPO4, pH7.2, 1%SDS, 1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60〜68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回を行う条件をいう。当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、こうしたホモログ遺伝子を容易に取得することができ、また、配列番号1に示す塩基配列との相同性は、BLAST検索やFASTA検索により決定することができる。 上記のホモログ遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAを含む遺伝子を当該技術分野で公知の手法によって改変することによって得ることができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA-BIO社)やMutant-G(TAKARA-BIO社))、TAKARA-BIO社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットなどが使用できる。 本発明に使用する乳酸菌が有するカロテノイド生合成遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNAであってもよい。また、crtN遺伝子は、配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするものであってもよく、また、crtM遺伝子は、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするものであってもよい。ここで、「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」について、欠失、置換若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、たとえば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。さらに、crtN遺伝子は配列番号2に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするものであってもよく、crtM遺伝子は配列番号3に示すアミノ酸配列に対して45%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするものであってもよい。配列番号2、3のアミノ酸配列に対してそれぞれ上記の相同性を有するcrtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むDNAは、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、テトラゲノコッカス(Tetragenococcus)属等の乳酸菌に存在し、本発明において用いることできる。配列番号2、3のアミノ酸配列との相同性は、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。 本発明において乳酸菌の培養は、好気条件で行う以外は、通常の乳酸菌培養で用いられる培養条件に従って行えばよい。好気条件とは、本来通性嫌気性乳酸菌が生存および増殖可能な程度の酸素が存在する環境下をいい、例えば、振とう機を用いた振とう培養、スターラー等を用いた攪拌培養、気体を通気させる通気培養などにより好気条件とすることができる。そのような培養を行うことにより、乳酸菌のカロテノイド生産を促進することができ、また、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌が得られる。 培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、乳酸菌が生育し、カロテノイド生産を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよく、当業者であれば使用する菌株に適切な公知の培地を適宜選ぶことができる。炭素源としてはグルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、トレハロース、スクロース、マンノース、廃糖蜜などを使用することができ、窒素源としては肉エキス、ペプトン、イーストエキストラクト、カゼイン加水分解物、ホエータンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物などを使用することができる。また無機塩類としては、リン酸塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどを用いることができる。乳酸菌の培養に適した培地としては、例えばMRS液体培地、BL培地、GAM培地、Broth培地、Briggs Liver Broth、獣乳、脱脂乳、乳性ホエーなどが挙げられる。 培養条件は、乳酸菌が生育し得る条件であれば特に制限はないが、例えば、pHは5.0〜8.0、好ましくは5.0〜7.0、温度が20〜45℃、好ましくは30℃〜40℃で、時間は10〜30時間、好ましくは18〜24時間である。培養の形式は、静置培養、振とう培養、タンク培養などでが挙げられる。 乳酸菌により生産されたカロテノイドは、菌体から回収することできる。回収に用いる抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド等が挙げられる。また、抽出されたカロテノイドの定量は、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより行なうことが好ましい。 本発明の製造方法により、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌のが得られる。乳酸菌は、培養終了後の培地を遠心分離、ろ過などの方法で集菌したもの(生菌)であってもよく、さらに凍結乾燥や加熱処理などの処理を行ってもよい。 本発明の製造方法により得られた乳酸菌は、その抗酸化性とストレス耐性を損なわない範囲で適宜他の成分を配合し、医薬品や飲食品等の組成物として提供することができる。 本発明の抗酸化性組成物は、上記の製造方法で得られた抗酸化物質であるカロテノイドの生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌を有効成分とするので、酸化ストレスに関連する障害の予防及び/又は改善を目的として日常的に摂取または服用することができる。酸化ストレスに関連する障害としては、生体内において活性酸素によって誘発又は助長される様々な疾患や病態、例えば癌、脳卒中(脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作など)、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)、糖尿病、糖尿病合併症、動脈硬化症、虚血再灌流障害、胃粘膜障害、炎症性腸疾患、腎硬化症、腎不全、腎炎、眼疾患(老化や糖尿病による白内障または網膜症など)、皮膚組織障害(色素沈着症、シワ、光線過敏症等)、老化、老人性疾患等が挙げられるが、これらに限定はされない。 本発明の抗酸化性組成物を医薬品として用いる場合は、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した基材や担体、ならびに添加物(例えば、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、滑沢剤、湿潤化剤 、緩衝剤、香料等)を用いて、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。 本発明の医薬品は、経口または非経口的に投与することができるが、好ましくは経口投与である。本発明の医薬品を経口投与する場合は、錠剤(糖衣錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等に製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬品を非経口投与する場合は、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。 本発明の医薬品を前述の酸化ストレスに関連する障害の予防及び/又は改善用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して投与することができる。本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度法などに応じて適宜決定することができる。本発明の医薬品の投与量としては、有効成分である乳酸菌の菌数でいうと、例えば、1日当たりの投与量が1×107〜1×1011個が好ましく、1×109〜1×1011個がより好ましい。 また、本発明において、飲食品とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品を含む意味で用いられる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル(硬カプセル、軟カプセル)状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、健康食品および機能性食品に適した形状として、タブレット状、カプセル状、顆粒状、粉末状が例示できる。例えば、タブレット状の健康食品の製造は、本発明の方法により得られた乳酸菌を配合した処方物を一定の形状に圧縮するか、または水もしくはアルコールのような溶媒で湿潤させた練合物を一定の形状にするか、あるいは、一定の型に流し込んで成型することにより行なうことができる。 飲食品の種類としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)、加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品、パン類、麺類、菓子類、水産・畜産加工食品、豆腐等の大豆加工食品、油脂及び油脂加工食品などが挙げられる。 本発明の抗酸化性組成物を飲食品として用いる場合は、その有効成分である乳酸菌の有効量を飲食品の製造原料に配合してもよく、あるいは、製造後の製品に配合してもよい。 本発明の飲食品は、食品素材に加えて、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、砂糖、果糖、異性化液糖、ブドウ糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;増量剤、結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。 本発明の飲食品における乳酸菌の配合量は、そのその抗酸化作用が充分に発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性およびコストなどを考慮して適宜設定すればよい。本発明の飲食品の摂取量としては、有効成分である乳酸菌の菌数でいうと、例えば、1日当たりの摂取量が1×107〜1×1011個が好ましく、1×109〜1×1011個がより好ましい。この量はあくまで例示であって、本発明の乳酸菌は優れた抗酸化性を有し、また乳酸菌は本来安全性の高いものであるから上限は問わない。 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、本実施例では、有意差をStudent's t-test で確認した。(実施例1)嫌気および好気培養条件におけるEnterococcus gilvusの生育とカロテノイドの生産(1)乳酸菌の生育 牛乳から分離したE. gilvus CR1 (AB742448)を用いて実験を行った。前培養物を調製するために、E. gilvus をGM17培地(0.5%グルコースを添加したM17培地(Difco Laboratories製))にて30℃、24時間嫌気培養した。この前培養物を200mLのGM17培地(0.5% v/v)を含む500mL容三角フラスコに接種した。好気培養条件では、この三角フラスコを30℃にて振とう培養(回転数110 rpm)した。嫌気培養条件では、この三角フラスコをAneroPackシステム(AnaeroPack, 三菱ガス化学製)内で30℃にて静置培養した。培養液中の溶存酸素濃度は、Fibox 3 trace fiber optic device (PreSens製)を備えたPSt3 oxygen meterで測定した。菌の生育度は、OD600nmの濁度をUVmini-1240 UV-VIS 吸光度計(島津製作所製)にて測定し、培養液のpHはSevenEasy pH metre (メトラートレド製)で30℃にて測定した。また、培養液中の乳酸量およびグルコース量は、それぞれF kit for DL-lactic acid (ロシュダイアグノスティク製)とGlucose CII test kit (和光純薬工業製)を用いて測定した。 10時間培養後のE. gilvusの菌濁度(OD600)は、嫌気条件では3.2、好気条件では2.7と、嫌気条件のほうがE. gilvus生育が良かった(P<0.05)(図1A)。これは、好気によって、通性嫌気性細菌であるE. gilvusがダメージを受けたと考えられる。また、10時間培養後の培養液のpHは、嫌気条件では5.6、好気条件では5.8であった(図1A)。 グルコース消費量は、好気条件よりも嫌気条件の方が高かった(図1B)。また、乳酸生成量(L-乳酸)も、好気条件よりも嫌気条件の方が高かった。また、培養液中の酸素濃度は、好気条件では5.2-7.3 mg mL-1、嫌気条件では 0.01-0.07 mg mL-1であった(データ示さず)。(2)E. gilvusからのカロテノイドの抽出 嫌気または好気条件で培養したE. gilvus CR1を2時間おきに集菌し、遠心分離後、菌体沈殿物を生理食塩水で2回洗浄した。これらの洗浄した菌体をメタノールで抽出した。黄色色素を含むメタノール抽出物に、等量のヘキサンと半量の水を加えた。遠心分離(1500g,5分)後、カロテノイドを含む有機層を回収した。この有機層を窒素ガス下で乾燥した後、カロテノイドを1mLの石油エーテル(cat. no. 26619-75, ナカライテスク製)に再懸濁した。抽出物中の黄色色素量を吸光度計を用いて470nmの最大吸光度から決定した。黄色色素をTLCシルカゲル60プレート(メルク製)上で石油エーテル:アセトン(9:1, v/v)で展開した後、黄色色素のスポットを回収し、石油エーテルに溶解して、UV-VIS spectrophotometerを用いて吸光度を測定した。 図2Aは、嫌気または好気条件で生育させたときのE. gilvusの黄色色素(カロテノイド)量を示す。E. gilvusの黄色色素は、好気条件下で顕著に増加した。図2Bは、嫌気または好気条件下におけるカロテノイド生産量の経時変化を示す。好気条件下では、カロテノイド生産量が培養2時間後に顕著に増加した。同時点において、嫌気条件下でのカロテノイド生産量はかなり低く、その後、わずかだけ増加した。4時間後にカロテノイド生産量が最も高くなり、好気条件下でのカロテノイド生産量は、嫌気条件下でのカロテノイド生産量の22倍であった。好気条件下で10時間培養したE. gilvusから抽出した精製色素の最大吸光度は412、434.5、及び464 nmであり、これらは既報(Hagi T, Kobayashi M, Kawamoto S, Shima J & Nomura M (2013) Expression of novel carotenoid biosynthesis genes from Enterococcus gilvus improves the multistress tolerance of Lactococcus lactis. J Appl Microbiol 114: 1763-1771)の4,4′-ジアポニューロスポレンのそれらと一致した。(実施例2)crtNM発現のリアルタイム定量PCR(qRT-PCR)による評価 嫌気または好気培養したE. gilvus CR1の菌体からRNeasy Protect Bacteria Mini Kit (QIAGEN Valencia製)を用いて製造業者の指示に従い全RNAを抽出した。全RNAは、各条件(嫌気条件および好気条件)において3つの独立した細胞培養物から抽出した。DNAを完全に除去するために、RNase-Free DNase Set (QIAGEN製)を用いてDNase処理した。逆転写PCRはPrimeScript II 1st strand cDNA Synthesis Kit (タカラ製)を用いて実施した。変性は、C1000 thermal cycler (BIO-RAD製)を用いて、10μL溶液(1μLランダム6 mer、1μL dNTP 混合物、200 ng 全RNA含有、蒸留水で10μLまでメスアップ)中で65℃で5分行った。次に、10μLのRT-PCR 混合物(4μL 5× Primescript buffer、0.5μL RNase インヒビター、1μL Primescript IItase、蒸留水4.5μL含有)を変性試料に添加した。これらの混合物20μLの全量に対して逆転写PCRをC1000 thermal cyclerを用い、次の条件:30℃、10分の前処理の後、42℃で60分、72℃で15分で行った。得られたcDNA溶液を60μLの蒸留水で希釈し、リアルタイムPCRのための鋳型に用いた。 リアルタイム定量PCRは、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡製)とC1000 Thermal Cycler CFX96 Real Time System(BioRad製)を用いて行った。 crtN遺伝子とcrtM遺伝子を定量PCRで増幅するために、以下のプライマーを用いた。(crtN遺伝子増幅用プライマー:増幅サイズ135 bp) crtNqF1:5'-GTAGAGGCGTTGCATTCGATTC-3'(配列番号4) crtNqR1:5'-TCTGGTACAGGCACTAACGCAT-3'(配列番号5)(crtM遺伝子増幅用プライマー:増幅サイズ227 bp) crtMqF1:5'-GTAATGCGTGACCAATTGGA-3'(配列番号6) crtMqR1:5'-GCCAATTTGCAGAGAGAATG-3'(配列番号7) 補正のために、E. gilvusのcrtN遺伝子とcrtM遺伝子の全長を有するpRC発現プラスミドの段階希釈物(1反応につき105 〜109 コピー)を構築し、標準鋳型として用いた。mRNA量を16S rRNA 遺伝子転写物量に対して標準化した。16S rRNA 遺伝子の増幅には、以下のプライマーを用いた。(16S rRNA 遺伝子の増幅用プライマー:増幅サイズ161 bp) 341F:5'-CCTACGGGAGGCAGCAG-3'(配列番号8) 518R:5'-ATTACCGCGGCTGCTGG-3'(配列番号9) 補正のために、E. gilvus (AB742448; pGCR1と称する) の16S rRNA遺伝子の部分配列を有するpGEM-T Easy vector (Promega製)の段階希釈物(1反応につき105 〜109 コピー)を調製し、これを標準鋳型として用いた。 試料のコピー数を補正値内に維持するために、10倍希釈したcDNA 溶液を16S rRNA 遺伝子を増幅するのに用いた。検量線の各値(スロープ、効率= 10-1/slope −1, y-切片, 相関係数= r2) およびE. gilvusにおける遺伝子発現量はCFX Manager Software version 2.1を用いて分析し、各試料につき3回定量PCRを実施した。RNA抽出後、DNAが除去されたことを確認するために、逆転写酵素で処理していない全RNA試料を各プライマーセットを用いたリアルタイムPCRの鋳型として用いた。 定量PCRの反応液量は、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mixの説明書に準じた。両条件の測定において、1μLのcDNA希釈液を19μLのPCR混合物(1μL cDNA、10μL THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix、1.2μL 各プライマー(10 pmol)、6.6μL 滅菌水含有)に添加した。反応時間は次の条件:95℃10秒の後、95℃5秒、60℃30秒を40サイクル、メルティングプログラムは95℃10秒、65℃5秒、95℃50秒とした。 まず、crtN遺伝子、crtM遺伝子、および16S rRNA遺伝子の発現量を評価するために、定量PCRに用いる上記各プライマーセットの正確性を確認した。各プライマーセットを用いた定量PCR増幅産物は、融解曲線において単一のピークと一反応あたり1000コピーのの標的DNAの検出限界を有していた。また、RNA抽出とDNase 処理後のDNAの混入に関しては、RNAを鋳型として各プライマーセットを用いた定量PCRを行ったところ、増幅産物は得られず、RNA試料には不要なDNAは存在しないとが確認できた。 16S rRNAの遺伝子発現量でカロテノイド生合成遺伝子(crtN遺伝子およびcrtM遺伝子)の遺伝子発現量を割って標準化(補正)した結果、嫌気培養では、crtNとcrtMの補正遺伝子発現量は、それぞれ1.26±0.21×10-4〜4.98±1.47×10-4、5.49±2.28×10-5〜2.22 ±1.07×10-4で、好気培養では、それぞれ7.36±0.16×10-4〜1.32±0.84×10-3、3.14±0.73×10-4〜5.72±3.82×10-4であった。 好気培養の補正遺伝子発現量を、嫌気培養の補正遺伝子発現量で除し、嫌気培養に対して好気培養での遺伝子発現量がどれくらい増加したか計算した結果、嫌気培養に比べて好気培養した方がcrtN遺伝子の発現量は2.65〜5.86倍、crtM遺伝子も2.55〜5.71倍と、好気培養することでカロテノイド生合成遺伝子の発現量が増加することが確認された(P < 0.05:表1)。(実施例3)過酸化水素(H2O2)耐性評価 前記実施例において、好気培養でE. gilvusのカロテノイド量が増加したことから、カロテノイドの増加によって過酸化水素に対する耐性が向上していることが予想された。そこで、好気および嫌気培養したE. gilvusの過酸化水素に対する生残率を調べた。 濁度がOD600=1.0となるまで嫌気または好気培養したE. gilvus(各1mL)を遠心(9,100g×5分)して回収し、菌体を生理食塩水で洗浄した。洗浄した菌体をOD600=2.0となるように、過酸化水素水(16mmol L-1及び32mmol L-1)を含む生理食塩水500μLに再懸濁した。その菌体懸濁液を37℃で90分間処理(ストレス処理)した後、遠心し、生理食塩水で2回洗浄した。これらの洗浄した菌体を500μLの生理食塩水に再懸濁し、菌体懸濁液の段階希釈液を調製し、GM17寒天培地に塗布して過酸化水素水暴露後の生菌数を測定した。また、コントロールとして生理食塩水中で37℃で90分間処理(過酸化水素水未処理)した後の生菌数を測定した。生残率は、未処理の生菌数に対するストレス処理後の生菌数の比を求めることで、算出した。各試験(16mmol L-1 H2O2処理、32mmol L-1 H2O2処理、未処理)は3回行った。 図3に示すように、16mmol L-1及び32mmol L-1濃度の過酸化水素水でE. gilvusを処理した場合、好気培養の生残率はそれぞれ 16.6% と 0.0029%であり、嫌気培養では0.27%と0.00004%であった。すなわち、好気培養したE. gilvus の生残率は嫌気培養したものと比べて、61.5 (16 mmol L-1) および 72.5倍 (32 mmol L-1)高くなり、好気培養することによって過酸化水素に対する耐性(酸化ストレス耐性)が向上することが明らかになった。これらの生残率の違いは統計学的有意差であった (P < 0.05)。 抗酸化効果に優れた乳酸菌を利用する食品や医薬品の製造分野において利用できる。 crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養することを特徴とする、カロテノイドの生産方法であって、該カロテノイド生合成遺伝子が以下の(a)〜(g)のいずれかに示すDNAを含むものである、上記生産方法。 (a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA (b) 配列番号1に示す塩基配列に対して60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (c) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (e) 配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (f) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (g) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に対して46%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養することを特徴とする、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法であって、該カロテノイド生合成遺伝子が以下の(a)〜(g)のいずれかに示すDNAを含むものである、上記製造方法。 (a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA (b) 配列番号1に示す塩基配列に対して60%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (c) 配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加された塩基配列からなり、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつカロテノイド生合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA (e) 配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (f) 配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、および/または付加されたアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA (g) 配列番号2に示すアミノ酸配列に対して60%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtN遺伝子と、配列番号3に対して46%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするcrtM遺伝子を含むDNA 請求項2に記載の製造方法で得られた乳酸菌。 請求項3に記載の乳酸菌を含む抗酸化性組成物。 飲食品または医薬品である、請求項4に記載の抗酸化性組成物。 【課題】組み換え技術なしに乳酸菌のカロテノイド生産を促進するともに、乳酸菌に酸化ストレス耐性を付与する方法を提供する。【解決手段】crtN遺伝子とcrtM遺伝子を含むカロテノイド生合成遺伝子を有する乳酸菌を好気培養する、カロテノイドの生産方法、および、カロテノイド生産性と酸化ストレス耐性が向上した乳酸菌の製造方法。前記乳酸菌を含む抗酸化性組成物。飲食品または医薬品である、前記抗酸化性組成物。【選択図】なし配列表


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