タイトル: | 公開特許公報(A)_ボツリヌス毒素製剤用溶解剤 |
出願番号: | 2013249154 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61K 47/34,A61K 47/02,A61K 9/08,A61P 1/00,A61P 25/02 |
千田 高寛 小山 美雪 JP 2015105261 公開特許公報(A) 20150608 2013249154 20131202 ボツリヌス毒素製剤用溶解剤 テルモ株式会社 000109543 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 伊東 秀明 100152984 千田 高寛 小山 美雪 A61K 38/00 20060101AFI20150512BHJP A61K 47/34 20060101ALI20150512BHJP A61K 47/02 20060101ALI20150512BHJP A61K 9/08 20060101ALI20150512BHJP A61P 1/00 20060101ALI20150512BHJP A61P 25/02 20060101ALI20150512BHJP JPA61K37/02A61K47/34A61K47/02A61K9/08A61P1/00A61P25/02 8 OL 12 4C076 4C084 4C076AA12 4C076BB11 4C076CC01 4C076CC16 4C076DD23D 4C076EE23 4C076EE49 4C076FF31 4C084AA02 4C084AA03 4C084DA33 4C084MA05 4C084MA17 4C084MA57 4C084MA66 4C084NA05 4C084NA12 4C084NA13 4C084ZA201 4C084ZA202 4C084ZA671 4C084ZA672 本発明は、ボツリヌス毒素製剤用溶解剤に関する。より詳細には、本発明は、ボツリヌス毒素の拡散抑制添加剤の生理食塩水溶液または水溶液であるボツリヌス毒素製剤用溶解剤に関する。 多発性脳梗塞の後遺症や変性疾患に伴う嚥下障害は、飲込みの障害による低栄養や脱水、気道内への流入による窒息や誤嚥性肺炎などの原因となる。 嚥下障害の治療方法としては、従来、咽頭挙上術や輪状咽頭筋切断術が行われているが、患者の多くは様々な合併症を伴っており、高齢者が多いことから、全身麻酔を必要とする手術はリスクが大きいこと、また、組織を不可逆的に損傷することから、本人や家族の手術希望がないこと等を理由に手術が不可能な場合がある。 近年、特に手術が適用不可能な輪状咽頭筋弛緩不全患者に対する治療法として、ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法が着目されている(非特許文献1)。 輪状咽頭筋の弛緩不全は、多発性脳梗塞等により口腔咽頭の諸筋の麻痺が生じて嚥下圧が低下した結果として生じる例が多く存在する。ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法は、輪状咽頭筋にボツリヌス毒素を局所注入することで筋を弛緩させ、嚥下障害を改善するものである。横山智一、外4名、「ボツリヌストキシンの輪状咽頭筋内注入により嚥下障害の軽快が見られた2症例」、日本耳鼻咽喉科学会会報、日本耳鼻咽喉科学会、2003年7月20日、第106巻、第7号、p.754-757 ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法は低侵襲で組織を障害しないというメリットがあり、効果も高いが、1回の注入により効果が持続する期間が短く、概ね3〜6カ月間で効果が消失する。そのため、非常に高価な薬剤であるボツリヌス毒素製剤を1年間に何回も注入する必要があり、治療を受ける患者の副作用リスクおよび経済的負担が増大している。 そこで、本発明は、ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法において、治療効果をより長期にわたり持続させることができる手段を提供することを課題とする。 本発明者らは、ボツリヌス毒素製剤は生理食塩液に溶解して注射剤として使用されている点に鑑み、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、様々な手段の利害得失を比較考量した結果、特定の拡散抑制添加剤を特定の濃度で含有する生理食塩水溶液からなるボツリヌス毒素製剤溶解剤を用いることで、ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法において、治療効果をより長期にわたり持続させることができることを知得し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明は以下に掲げるものである。(1)みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)および拡散抑制添加剤を含有する生理食塩水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記拡散抑制添加剤非含有である前記生理食塩水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率が95%以下となる濃度で前記拡散抑制添加剤を含有する生理食塩水溶液からなる、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(2)前記拡散抑制添加剤がポロキサマーである、上記(1)に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(3)前記拡散抑制添加剤がプロピレンオキシドとエチレンオキシドとからなり、ポリプロピレンオキシドブロックがポリエチレンオキシドブロックに挟まれてなるトリブロック共重合体である、上記(1)または(2)に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(4)前記拡散抑制添加剤を前記比率が75%以下となる濃度で含有する、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(5)みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)および拡散抑制添加剤を含有するRO水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記拡散抑制添加剤非含有である前記RO水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率が95%以下となる濃度で前記拡散抑制添加剤を含有するRO水溶液からなる、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(6)前記タンパク質(A)がみかけの分子量が140kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40である乳酸脱水素酵素である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(7)1分子中にエチレンオキシド単位を60〜90モル%含み、1分子中のポリプロピレンオキシドブロックの分子量が1800〜3800であるポロキサマーと、水とを含み、前記ポロキサマーの含有量が1.5〜3.5質量%である、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(8)さらに、塩化ナトリウムを、7.0〜10.0g/L含有する、上記(7)に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。(9)ボツリヌス毒素と、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載のボツリヌス毒素溶解剤とを混合して得られる、ボツリヌス毒素製剤。(10)筋肉内注射または皮下注射に適する、上記(9)に記載のボツリヌス毒素製剤。 本発明によれば、ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法において、治療効果をより長期にわたり持続させることができる手段を提供することができる。図1のAは平板状アガロースゲルに3個の貫通孔(Through Hole)をあけた状態を示す図である。図1のBはCBB染色および脱色後の平板状アガロースゲルである。貫通孔から拡散したLDHがCBBにより染色されている。 以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の従来技術と比較した特徴的な点を述べる。 本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤の一つの特徴は、ボツリヌス毒素の局所滞留性を向上させることにより、周囲への拡散を抑制し、もって治療効果をより長期にわたり持続させる点にある。また、ボツリヌス毒素の周囲筋肉への拡散が抑制されることにより、副作用リスクの低減を図ることができる。 本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤の別の一つの特徴は、ボツリヌス毒素製剤を溶解するために従来用いられている生理食塩液に代えて使用することができる点にある。このため、従来の手順に大きな変更を加えることなく、本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤を用いてボツリヌス毒素製剤を溶解し、注射剤として用いることができる。[ボツリヌス毒素] ボツリヌス毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が生産する分子量約150kDaのタンパク質である。ボツリヌス毒素は、細胞外に分泌された後に、菌自身のプロテアーゼまたは動物消化管のトリプシンによって、分子量約50kDaの活性サブユニット(Aサブユニット、軽鎖)と、約100kDaの結合サブユニット(Bサブユニット、重鎖)とに切断される。AサブユニットとBサブユニットとはジスルフィド結合によって一分子ずつ結合している。AB型毒素に分類される細菌外毒素である。活性サブユニットが、毒素の本体である亜鉛結合性の金属プロテアーゼであり、結合サブユニットは標的となる神経細胞表面に特異的に存在する特定のタンパク質(毒素受容体となる)との結合に関与する。ボツリヌス毒素は神経-筋接合部や自律神経のシナプスへ作用して、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害するので、弛緩性の麻痺をおこす。 ボツリヌス毒素製剤は、ボツリヌス毒素を精製した医療用医薬品であり、A型ボツリヌス毒素製剤、B型ボツリヌス毒素製剤等がある。例を挙げれば、A型ボツリヌス毒素製剤としては、ボトックス(R)(グラクソ・スミスクライン)が、B型ボツリヌス毒素製剤としては、ナーブロック(R)(エーザイ)が、それぞれ販売されている。[ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法] ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法は、輪状咽頭筋弛緩不全に陥っている嚥下障害の患者を対象として、輪状咽頭筋にボツリヌス毒素を注入し、輪状咽頭筋を開いて、咽頭期の反射を起こすことにより、嚥下障害を改善するものである。[みかけの分子量、みかけの等電点] 本発明では、タンパク質のみかけの分子量は、非変性条件でSDS−PAGEを行って測定される分子量をいう。また、本発明では、タンパク質のみかけの等電点は、非変性条件で一次元等電点電気泳動を行って測定される等電点をいう。 非変性条件は複数のタンパク質サブユニットからなるタンパク質複合体のサブユニット同士が解離しない条件をいう。[ボツリヌス毒素製剤用溶解剤]1.本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤(以下、単に「本発明の溶解剤(1)」という場合がある。)は、特定の拡散抑制添加剤を特定濃度で含有する生理食塩水溶液からなる。〈拡散抑制添加剤およびその濃度〉 本発明の溶解剤(1)に含有される拡散抑制添加剤およびその濃度は、みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)と、特定濃度の候補化合物とを含有する生理食塩水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記候補化合物を非含有である、前記生理食塩水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率(拡散率)が95%以下となる候補化合物およびその濃度である。〈拡散抑制添加剤およびその濃度の決定方法〉 本発明の溶解剤(1)に含有される拡散抑制添加剤およびその濃度は、以下の(a)〜(k)を備えるスクリーニング試験によって決定することができる。なお、各工程の順序はアルファベットの順に限定されず、適切な場合には、順序を変更することができる。(a)みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)を準備する。タンパク質(A)は、みかけの分子量140kDa、みかけの等電点6.37のL−乳酸酸脱水素酵素(EC 1.1.1.27)またはみかけの分子量150kDa、みかけの等電点6.14のA型ボツリヌス毒素が好ましい。見かけの分子量および見かけの等電点は、従来公知の方法により測定することができる。(b)拡散抑制添加剤の候補となる候補化合物を準備する。候補化合物としては、筋注・静注実績あるポリマーであること、安全に使用可能であること、シリンジによる吸引および注入が可能であることを条件として、選定することが好ましい。候補化合物としては、例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとからなり、ポリプロピレンオキシドブロックがポリエチレンオキシドブロックに挟まれてなるトリブロック共重合体、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸等が挙げられる。(c)候補化合物と、タンパク質(A)と、生理食塩水とを混合し、特定濃度の候補化合物および1.6mg/Lのタンパク質(A)を含有する生理食塩水溶液を準備する。混合の方法は特に限定されないが、生理食塩水と候補化合物とを混合し、得られる混合液にさらにタンパク質(A)を混合してもよいし、生理食塩水とタンパク質(A)とを混合し、得られる混合液にさらに候補化合物を混合してもよい。生理食塩水は、ヒトの体液とほぼ等張の塩化ナトリウム水溶液であれば特に限定されない。生理食塩水としては、例えば、塩化ナトリウムを0.7〜1.0w/v%(7〜10g/L)、好ましくは0.9w/v%(9g/L)含有する食塩水、日本薬局方生理食塩液等が挙げられる。 以下、この生理食塩水溶液をサンプル溶液という。(d)タンパク質(A)と、生理食塩水とを混合し、1.6mg/Lのタンパク質(A)を含有する生理食塩水溶液を準備する。 以下、この生理食塩水溶液をリファレンス溶液という。(e)シャーレにRO水に溶解したアガロース(0.8w/v%)を注ぎ込み、シャーレの中に平板状アガロースゲルを作製する。シャーレは特に限定されないが、直径8〜12cm、深さ1〜2cmのガラス製またはプラスチック製のものが好ましく、プラスチック製のものがより好ましい。RO水は逆浸透水であれば特に限定されず、pHは5.6〜7.0の範囲内が好ましく、5.8〜6.8の範囲内がより好ましい。(f)平板状アガロースゲルにサンプル溶液またはリファレンス溶液を注入するための貫通孔をあける。貫通孔を複数あける場合には、貫通孔同士の間隔が狭くなり過ぎないようにする。貫通孔から拡散するタンパク質(A)が近隣の貫通孔から拡散するタンパク質(A)と混合しないようにし、拡散面積をより正確に測定できるようにするためである。(g)平板状アガロースゲルにあけた貫通孔に、20μLのサンプル溶液またはリファレンス溶液を注入する。(h)サンプル溶液またはリファレンス溶液を注入した平板状アガロースゲルを37℃で9時間静置する。(i)静置後、クーマジーブリリアントブルー(CBB)を用いて、アガロースゲルの染色および脱色をする。CBB染色された面積がタンパク質(A)の拡散面積である。(j)画像解析ソフト(ImageJ,NIH)を用いて、サンプル溶液およびリファレンス溶液のタンパク質(A)の拡散面積を測定し、リファレンス溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対するサンプル溶液のタンパク質(A)の拡散面積の比率(拡散率)(%)を求める。(k)拡散率が95%以下、好ましくは75%以下となる候補化合物およびその濃度の組合せが、本発明の溶解剤(1)が含有する拡散抑制添加剤およびその濃度である。2.本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤(以下、単に「本発明の溶解剤(2)」という場合がある。)は、特定の拡散抑制添加剤を特定濃度で含有するRO水溶液からなるものであってもよい。〈拡散抑制添加剤およびその濃度〉 本発明の溶解剤(2)中に含有される拡散抑制添加剤およびその濃度は、みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)と、特定濃度の候補化合物とを含有するRO水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記候補化合物を非含有である、前記RO水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率(拡散率)が95%以下となる候補化合物およびその濃度である。 本発明の溶解剤(2)は、上述した本発明の溶解剤の生理食塩水をRO水に変更したものである、したがって、上述した事項は、生理食塩水をRO水と読み替えることにより、本発明の溶解剤(2)についても該当する。3.本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤(以下、単に「本発明の溶解剤(3)」という場合がある。)は、1分子中にエチレンオキシド単位を60〜90モル%含み、1分子中のポリプロピレンオキシドブロックの分子量が1800〜3800であるポロキサマーと、水とを含み、前記ポロキサマーの含有量が1.5〜3.5質量%であるものであってもよく、所望によりさらに7.0〜10.0g/L(0.7〜1.0g/100mL)、好ましくは9.0g/L(0.9g/100mL)の塩化ナトリウムを含有してもよい。 上記ポロキサマーは、反復投与毒性がより低いという観点から、1分子中にエチレンオキシド単位を70〜85モル%含むことが好ましく、75〜80モル%含むことがより好ましく、また、1分子中のポリプロピレンオキシドブロックの分子量が2050〜3250であることが好ましく、2250〜3250であることがより好ましい。 本発明の溶解剤(3)中、上記ポロキサマーの含有量は、拡散抑制効果がより優れるという観点から、2.5〜3.5質量%が好ましい。 上記ポロキサマーとしては、具体的には、プルロニック(R) F108、プルロニック(R) F98、プルロニック(R) F77、プルロニック(R) F87等が挙げられ、拡散抑制効果の観点から、プルロニック(R) F108およびプルロニック(R) F98が好ましく、反復投与毒性がより低いことから、プルロニック(R) F108がより好ましい。 上記水としては、RO水、パイロジェン除去蒸留水、日本薬局方注射用水等を使用することができる。ボツリヌス毒素製剤溶解剤が塩化ナトリウムを含有する場合には、水として食塩水を使用してもよく、食塩水としては、例えば、日本薬局方生理食塩液(塩化ナトリウムを約9.0g/L含有する)が挙げられる。[ボツリヌス毒素製剤] 本発明は、さらに、ボツリヌス毒素と、上述した本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤とを混合して得られるボツリヌス毒素製剤(以下「本発明のボツリヌス毒素製剤」という場合がある。)を提供する。 本発明のボツリヌス毒素製剤は、従来のボツリヌス毒素を生理食塩液に溶解したものに比べて、薬効期間の延長が見込まれる。これは、ボツリヌス毒素の細胞内への取込み量が増加し、ボツリヌス毒素の局所滞留性が増大することで、周囲筋肉への拡散が抑制されることによるものであると考えられる。周囲筋肉への拡散が抑制されるので、標的筋肉以外にボツリヌス毒素が作用することがなくなることによって副作用リスクが軽減され、また、治療有効量を局所に滞留させることが可能になるので1回あたりのボツリヌス毒素注入量を減少させることもできる。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。[候補化合物の選定] 筋注・静注実績あるポリマーであること、安全に使用可能であること、シリンジによる吸引および注入が可能であることを条件として、表1に示す候補化合物を選定した。[スクリーニング例1]1.サンプル溶液およびリファレンス溶液の準備(1)候補化合物 ポロキサマーとして、プルロニック F-98(BASF)、プルロニック F-108(BASF)、プロノン #188(日油)およびプロノン #407(日油)を、カルボキシメリルセルロースとして CMC DAICEL(ダイセル)を、ポリエチレングリコールとして PEG 6000(和光純薬株式会社)を、デキストランとして Dextran 70 (名糖産業株式会社)を、ポリソルベートとして Polysorbate 80(日油株式会社)を、ポリビニルピロリドンとして K-30PH (第一工業株式会社)を、それぞれ用いた。(2)タンパク質(A) タンパク質(A)として、豚心臓由来乳酸脱水素酵素(オリエンタル酵母;分子量140kDa,等電点6.37)(以下「LDH」という場合がある。)を用いた。(3)生理食塩水 日本薬局方生理食塩液(テルモ)を用いた。(4)リファレンス溶液 生理食塩水にLDHの濃度が1.6mg/Lとなるようにタンパク質(A)を溶解して、リファレンス溶液(No.1−0)を作製した。(5)サンプル溶液 生理食塩水にタンパク質(A)の濃度が1.6mg/Lとなるようにタンパク質(A)を溶解し、さらに、表2に示す候補化合物を表2に示す濃度となるように添加して、サンプル溶液(No.1−1〜1−12)を作製した。2.平板状アガロースゲルの準備 アガロース(Agarose L03「TAKARA」,タカラバイオ)をRO水(逆浸透濾過水)に加熱溶解し、0.8w/v%アガロース溶液を調製した。 調製した0.8w/v%アガロース溶液を、テルモシャーレ(SH−20S,テルモ;90φ×20mm)に注入し、固化させて、厚みが5mmの平板状アガロースゲルを作製した。 作製した平板状アガロースゲルに直径4mmの貫通孔を正三角形に配置されるように3個あけた。3.拡散試験(1)平板状アガロースゲルにあけた貫通孔に、1つあたり20μLのサンプル溶液またはリファレンス溶液を注入した(図1のAを参照)。各サンプル溶液およびリファレンス溶液につき、3連(n=3)で行った。すなわち、1つのシャーレを1つのサンプル溶液またはリファレンス溶液で使用した。(2)サンプル溶液またはリファレンス溶液を注入した平板状アガロースゲルを37℃で9時間静置した。(3)静置後、各シャーレについて、クーマジーブリリアントブルー(CBB)を用いて、アガロースゲルの染色および脱色をした(図1のBを参照)。脱色後、画像処理ソフトImageJ(NIH)を用いて、CBB染色された面積を測定し、LDHの拡散面積を求めた。(4)以下の式により、拡散率を算出した。 拡散率(%)=(サンプル溶液のLDHの拡散面積)/(リファレンス溶液のLDHの拡散面積)×100 各サンプル溶液について、拡散率を表2に示す。4.表2中、拡散率が95%以下であるものが本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤である。なお、プロノン #188を使用したサンプル溶液No.1−5は、ゲル化(gelation)したため、拡散率を算出することができなかった。[スクリーニング例2] 生理食塩水に代えてRO水を使用した点を除き、スクリーニング例1と同様にしてリファレンス溶液(No.2−0)およびサンプル溶液(No.2−1〜2−12)を調製してスクリーニングを行った。 結果を表3に示す。表3中、拡散率が95%以下であるものが本発明のボツリヌス毒素製剤用溶解剤である。なお、プロノン#188を使用したサンプル溶液No.2−5は、ゲル化(gelation)したため、拡散率を算出することができなかった。 みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)および拡散抑制添加剤を含有する生理食塩水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記拡散抑制添加剤非含有である前記生理食塩水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率が95%以下となる濃度で前記拡散抑制添加剤を含有する生理食塩水溶液からなる、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 前記拡散抑制添加剤がポロキサマーである、請求項1に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 前記拡散抑制添加剤がプロピレンオキシドとエチレンオキシドとからなり、ポリプロピレンオキシドブロックがポリエチレンオキシドブロックに挟まれてなるトリブロック共重合体である、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 前記拡散抑制添加剤を前記比率が75%以下となる濃度で含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)および拡散抑制添加剤を含有するRO水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記拡散抑制添加剤非含有である前記RO水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率が95%以下となる濃度で前記拡散抑制添加剤を含有するRO水溶液からなる、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 前記タンパク質(A)がみかけの分子量が140kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40である乳酸脱水素酵素である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 1分子中にエチレンオキシド単位を60〜90モル%含み、1分子中のポリプロピレンオキシドブロックの分子量が1800〜3800であるポロキサマーと、水とを含み、前記ポロキサマーの含有量が1.5〜3.5質量%である、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 さらに、塩化ナトリウムを、7.0〜10.0g/L含有する、請求項7に記載のボツリヌス毒素製剤用溶解剤。 【課題】ボツリヌス毒素注入による神経ブロック療法において、治療効果をより長期にわたり持続させることができる手段を提供する。【解決手段】みかけの分子量が140〜150kDaであり、みかけの等電点が6.10〜6.40であるタンパク質(A)および拡散抑制添加剤を含有する生理食塩水溶液を、37℃において平板状アガロースゲル内で拡散させ、前記タンパク質(A)を染色し、前記ゲルを脱色し、染色された部分の水平投影面積を測定して得られるタンパク質(A)の拡散面積の、前記拡散抑制添加剤非含有である前記生理食塩水溶液のタンパク質(A)の拡散面積に対する比率が前記拡散抑制添加剤を95%以下となる濃度で含有する生理食塩水溶液からなる、製剤の拡散抑制に用いるボツリヌス毒素製剤用溶解剤。【選択図】なし