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タイトル:公開特許公報(A)_多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及び外用剤
出願番号:2013245677
年次:2015
IPC分類:A61K 31/685,A61P 31/04,A61K 9/06


特許情報キャッシュ

小園 真里恵 吉田 英人 JP 2015101580 公開特許公報(A) 20150604 2013245677 20131128 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及び外用剤 キユーピー株式会社 000001421 大森 純一 100104215 折居 章 100117330 山田 大樹 100123733 関根 正好 100160989 中村 哲平 100168181 金子 彩子 100168745 吉田 望 100170346 金山 慎太郎 100176131 小園 真里恵 吉田 英人 A61K 31/685 20060101AFI20150508BHJP A61P 31/04 20060101ALI20150508BHJP A61K 9/06 20060101ALI20150508BHJP JPA61K31/685A61P31/04A61K9/06 5 OL 21 4C076 4C086 4C076AA07 4C076BB31 4C076CC32 4C076DD09 4C076DD34 4C076DD37 4C076DD38 4C076DD44 4C076DD46 4C076EE53 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA41 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA28 4C086MA63 4C086NA14 4C086ZB35 本発明は、多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及びこれを含有する外用剤に関する。 多数の薬剤に対して耐性を有する、多剤耐性菌が問題となっている。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、多剤耐性菌のうち、抗生物質であるメチシリンに対して耐性を有する黄色ブドウ球菌であり、メチシリンを含む複数の抗生物質に対して耐性を有することもある。MRSA感染症は、院内感染で多く見られ、重篤な感染例も見受けられるため、十分な対策が求められている。 多剤耐性菌感染症の対策としては、菌が耐性を獲得していない抗生物質を使用することが考えられる。しかしながら、抗生物質の使用は新たな耐性菌を発生させ、対策がより困難になるという可能性がある。 一方、抗生物質以外の物質であって、黄色ブドウ球菌等のグラム陽性菌に対して抗菌性を有する物質が知られている。例えば、非特許文献1には、リゾリン脂質の一種であるリゾレシチンが黄色ブドウ球菌の静菌、殺菌効果を有する旨が記載されている。また、特許文献1には、同じくリゾレシチンが耐熱性芽胞菌の発芽を抑制する旨が記載されている。特開平5−11937号公報"Inflammation"(米国)、Springer、1979年9月、3(4)、p.365-377 しかしながら、非特許文献1及び特許文献1には、リゾレシチンがMRSA等の多剤耐性菌に対しても効果を有する旨は記載されていない。このように、多剤耐性菌に対して殺菌、静菌効果を有する抗生物質以外の物質、及びその特性については、十分な知見が得られていなかった。 以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、多剤耐性菌に耐性を持たれていない新たな成分を有効成分として含有する多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及びこれを含有する外用剤を提供することにある。 本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤の有効成分として、HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を用いることで、多剤耐性グラム陽性菌に対し、高い抗菌作用を発揮することを見出し、本発明を完成するに到った。 すなわち、本発明は、(1)HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として含有する 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。(2)(1)に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記モノアシル型グリセロリン脂質は、リゾフォスファチジルコリンを含む 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。(3)(1)又は(2)に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記モノアシル型グリセロリン脂質は、卵黄由来のモノアシル型グリセロリン脂質を含む 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記有効成分を300ppm以上含有する 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤を含有する外用剤、 である。 また、HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として含有する抗菌剤により、多剤耐性グラム陽性菌を殺菌することが可能となる。あるいは、多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤の製造ため、HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を使用することが可能となる。 本発明により、多剤耐性菌に耐性を持たれていない新たな成分を有効成分として含有する多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及びこれを含有する外用剤を提供することが可能となる。ディスク法の説明をするための模式的な図である。本発明の抗菌剤の想定される作用機序を説明するための模式的な図である。 以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。また以下の説明における「抗菌性」又は「抗菌作用」という語は、広く菌の増殖を抑制する特性又はその作用を意味し、菌を死滅させて増殖を抑制する殺菌性又は殺菌作用も含むものとする。<本発明の特徴> 本発明の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤は、HLB値が9.5より大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として含有することを特徴とする。このような特徴により、多剤耐性グラム陽性菌に対しても、良好な抗菌性を有する抗菌剤を提供できる。<多剤耐性グラム陽性菌> 多剤耐性グラム陽性菌は、複数の薬剤に対して耐性を有するグラム陽性菌をいい、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)等が挙げられる。<グラム陽性菌> グラム陽性菌は、グラム染色により青色若しくは紫色に染色される細菌をいい、例えば黄色ブドウ球菌等が挙げられる。グラム陽性菌は、細胞膜の周囲に厚いペプチドグリカン層を有する点、及び細胞膜の周囲に外膜を有さない点等を特徴とする。グラム陽性菌は、グラム陽性球菌でも、グラム陽性桿菌でも特に限定されない。<HLB値> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は、9.5より大きく20以下であり、10より大きく19以下であり、13以上16以下である。HLB値は、グリセロリン脂質等の両親媒性化合物の親水性と疎水性のバランスを示す尺度であり、大きいほど親水性が高いことを示す。一般に、両親媒性化合物は、そのHLB値により以下のような特性を有する。すなわち、HLB値が1〜6程度の化合物は、水に全く分散しないか、あるいは一部のみ分散する。HLB値が6〜9.5程度の化合物は、混合することによって水に分散して乳濁液となる。10〜13程度の化合物は、水に溶解し、例えば半透明の水溶液となる。HLB値が13〜20程度の化合物は、水に溶解し、例えば透明な水溶液となるが、一方で油には溶解しにくい。HLB値が上記範囲のモノアシル型グリセロリン脂質は、比較的親水性が高く、水に溶解しやすい。このようなモノアシル型グリセロリン脂質を含有する本発明の抗菌剤は、MRSA等の多剤耐性グラム陽性細菌に対し、良好な抗菌作用を発揮することが可能となる。 <HLB値の算出方法> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質のHLB値は、例えば以下のように算出することができる。すなわち、2種類の両親媒性化合物A,Bを混合し、これを乳化剤として油脂を水に乳化した場合、最も乳化が良くなるHLB値を「油脂の要求HLB値」とする。この油脂の要求HLBと、化合物AのHLB値とが既知であった場合、化合物A及び化合物Bの質量をそれぞれ測定することで、(1)式から化合物BのHLB値を求めることができる。これにより、非イオン界面活性剤のみならず、本発明のモノアシル型グリセロリン脂質のような両性イオン界面活性剤であっても、適切なHLB値を求めることが可能となる。 (要求HLB)=(X×HA+Y×HB)/(X+Y)…(1) X:化合物Aの重量 Y:化合物Bの重量 HA:化合物AのHLB値 HB:化合物BのHLB値<モノアシル型グリセロリン脂質> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、本発明の抗菌剤の有効成分として作用する。1つのアシル基のみを有するモノアシル型のグリセロリン脂質を採用することにより、親水性を適度に高めることができ、上記範囲のHLB値を容易に満足させることが可能となる。アシル基は、例えば16〜20程度の炭素数のものを用いることができる。また、本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、両性イオン界面活性剤であることから、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤と比較して、皮膚に対する刺激を緩和することが可能となる。したがって、上記モノアシル型グリセロリン脂質を含有する抗菌剤を、後述する軟膏剤等の外用剤として用いることで、刺激の少ない外用剤を提供することが可能となる。<モノアシル型グリセロリン脂質のヨウ素価> モノアシル型グリセロリン脂質は、例えば、ヨウ素価が25以下であり、20以下であり、さらに9以下である。ヨウ素価は、対象となる物質100gと反応するハロゲンの量(g)を、ヨウ素の量に換算したものである。ヨウ素価が低い場合には、アシル基を構成する脂肪酸に含まれる炭素間の二重結合の数が少なく、飽和脂肪酸の割合が高いものと評価できる。したがって、上記リン脂質のヨウ素価が25以下である場合には、より化学構造上の安定性が高い飽和脂肪酸が、多剤耐性グラム陽性菌の菌体表面に効果的にアプローチし、抗菌性を発揮できるものと考えられる(後述する図2参照)。<ヨウ素価測定法> 本発明において、ヨウ素価は、以下に説明するウィイス法で測定することができる。まず、試料となる上記リン脂質のヨウ素価に応じて、表1の試料採取量を精密に量り、シクロヘキサン10mLを加えて溶かす。次に、一塩化ヨウ素試液25mLを正確に加え、栓をして軽く振り混ぜる。そして、20〜30℃で遮光して、適宜振り混ぜながら放置する。放置する時間は、表1の作用時間とする。さらに、ヨウ化カリウム溶液20mL及び水100mLを加えて振り混ぜた後、遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定する(指示薬は、デンプン試液1mL)。同様の方法で空試験を行う。 そして、次の(2)式により、ヨウ素価を算出する。 (ヨウ素価)={(a−b)×1.2690}/(試料の量(g))…(2) a:空試験における0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液の消費量(mL) b:試料を用いたときの0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液の消費量(mL)<食品由来のモノアシル型グリセロリン脂質> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、食品由来のモノアシル型グリセロリン脂質を含んでいてもよい。これにより、より安全性の高い抗菌剤を提供することができる。食品由来の上記リン脂質としては、卵黄由来のものや、大豆由来のものを用いることができる。<食品由来のモノアシル型グリセロリン脂質:卵黄由来のモノアシル型グリセロリン脂質> 卵黄由来のモノアシル型グリセロリン脂質としては、卵黄リン脂質をリゾ化したものを用いることができる。卵黄リン脂質は、ヒトの細胞膜に含まれるリン脂質とも比較的近い。したがって、卵黄由来のモノアシル型グリセロリン脂質を用いることにより、肌なじみが良好で、使用感の高い抗菌剤を提供することができる。また卵黄リン脂質は、一般に、フォスファチジルコリンを70%以上含むため、リゾフォスファチジルコリンを容易に抽出することができる。<モノアシル型グリセロリン脂質:リゾリン脂質> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、リゾフォスファチジルコリン、リゾフォスファチジルエタノールアミン、リゾフォスファチジルイノシトール、その他のリゾリン脂質を含んでいてもよい。本発明のリゾリン脂質は、グリセロリン脂質をフォスフォリパーゼA等の酵素により加水分解(リゾ化)し、抽出、生成されたものをいう。すなわち、上記リゾリン脂質は、リゾ化により一部のアシル基が遊離し、モノアシル型に変換されたグリセロリン脂質である。上記モノアシル型グリセロリン脂質は、例えば、全グリセロリン脂質のうち90%以上がリゾリン脂質であってもよい。これにより、上記モノアシル型グリセロリン脂質全体の親水性を適度に高めることが可能となる。リゾリン脂質は、以下の化学式1で表される。(式中、R1はアルキル基を表し、Xはコリン、エタノールアミン、水酸基、イノシトール等を表す。)<リゾフォスファチジルコリン> 本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、リゾリン脂質として、リゾフォスファチジルコリンを含んでいてもよい。リゾフォスファチジルコリンは、フォスファチジルコリンをリゾ化したものであり、リゾレシチンとも称される。上記リゾフォスファチジルコリンは、以下の化学式2で表される。(式中、R1はアルキル基を表す。)<リゾフォスファチジルコリンのHLB値> リゾフォスファチジルコリンは、一般に、13以上16以下のHLB値を有し、上記HLB値の範囲内に含まれる。これにより、リゾフォスファチジルコリンは、MRSA等の多剤耐性グラム陽性菌に対し、安定した抗菌作用を発揮することができる。<卵黄由来のリゾフォスファチジルコリン> 上記リゾフォスファチジルコリンは、卵黄由来のものであってもよい。卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、例えば、卵黄液をフォスフォリパーゼA等の酵素の活性条件下で処理し、エタノール抽出、精製することにより生成することができる。 卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、化粧品の原料としても認可されており、特に肌なじみがよく、保湿製剤等としても用いられている。これにより、例えば上記抗菌剤を含む外用剤を製造した場合にも、使用感を高めるとともに、肌の保湿性を高め、治療効果を高めることが可能となる。さらに、食品である卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンを用いることで、より安心感、安全性の高い抗菌剤を提供することが可能となる。<卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンのヨウ素価> さらに、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、ヨウ素価を約9とすることができる。これにより、上述のように、飽和脂肪酸の割合を高めることが可能となり、安定した抗菌作用を発揮できる。例えば、リゾフォスファチジルコリンが大豆由来であった場合は、リゾ化処理で遊離しない1位の脂肪酸に不飽和脂肪酸が多いため、水素添加すればヨウ素価を25以下とすることは可能ではあるが、水素添加しなければヨウ素価を25以下とすることが難しい。これに対し、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、水素添加等の処理をしなくともヨウ素価を低く抑えることが可能であり、製造上も有利となる。<抗菌剤> 本発明の抗菌剤は、例えば、乳化剤等の医薬品添加物として用いることができる。例えば、上記抗菌剤をMRSA除菌軟膏剤等に添加することで、MRSA等に対する殺菌効果を高めることが可能となる。 また、皮膚の抗炎症用軟膏剤等に添加することも可能である。副作用として免疫抑制作用を有する免疫抑制剤やステロイド等の薬剤を使用している患者は、皮膚表面の免疫力が低下しているため、多剤耐性黄色ブドウ球菌等が増殖しやすいという知見が得られている。したがって、このような患者向けの抗炎症用軟膏剤等に本発明の抗菌剤を添加することで、多剤耐性菌の増殖を抑制することが可能となる。 あるいは、褥瘡患者等の入院患者向けの皮膚損傷部位に対する消毒薬等に添加することも可能である。これにより、院内で問題になる、多剤耐性菌感染症の伝播のリスクを防止することが可能となる。 また、本発明の抗菌剤は、例えば、医薬部外品に用いることも可能である。具体的には、例えば、液状タイプ、スプレータイプの人体用消毒薬や、消毒用ウェットシートの抗菌成分として用いることが可能である。あるいは、医療器具、院内のリネンその他の物品の消毒薬の抗菌成分としても用いることができる。<有効成分の含有量> 上記抗菌剤は、上記モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として300ppm以上、好ましくは5000ppm以上含有してもよい。これにより、MRSA等の多剤耐性グラム陽性菌に対し、顕著な抗菌効果を発揮することが可能となる。<組み合わせ可能な他の抗菌剤> 本発明の抗菌剤は、他の抗菌剤と組み合わせても使用することができる。このような他の抗菌剤としては、例えば、ニトロイミダゾール抗生物質(例えばチニダゾール及びメトロニダゾール)、テトラサイクリン系薬剤(テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン)、ペニシリン系薬剤(例えばアモキシリン、アンピシリン、タランピシリン、バカンピシリン、レナンピシリン、メズロシリン、スルタミシリン)、セファロスポリン系薬剤(例えば、セファクロル、セファドロキシル、セファレキシン、セフポドキシムプロキセチル、セフィキシム、セフジニル、セフチブテン、セフオチアムヘクセチル、セフタメットピボキシル、セフロキシムアクセチル)、ペネム系薬剤(例えば、フロペネム、リチペネムアコキシル)、マクロライド系薬剤(例えば、エリスロマイシン、オレアンドマイシン、ジョサマイシン、ミデカマイシン、ロキタマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン)、リンコマイシン系薬剤(例えば、リンコマイシン、クリンダマイシン)、アミノグリコシド系薬剤(例えば、パロモマイシン)、キノロン系薬剤(例えば、オフロキサシン、レボフロキサシン、ノルフロキサシン、エノキサシン、シプロフロキサシン、ロメフロキサシン、トスフロキサシン、フレロキサシン、スパフロキサシン、テマフロキサシン、ナジフォキサシン、グレパフロキサシン、パズフォキサシン)並びにニトロフラントインが挙げられる。<外用剤> 本発明の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤は、外用剤に含有させることができる。これにより、MRSA等の多剤耐性菌に対する殺菌・抗菌作用を有する外用剤を提供することができる。また、本発明の外用剤としては、以下の軟膏剤の他、例えば、スプレー剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、ローション剤等が挙げられる。 本発明の外用剤は、抗菌剤として、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンを含有していてもよい。上述のように、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、化粧品の原料としても認可されているため、肌の保湿性を高め、肌のバリア機能を高めることが可能となる。これにより、高い使用感の外用剤を提供することができるとともに、外用剤としての治療効果を高めることも可能となる。 <外用剤に配合される成分> 本発明の外用剤には、上述した抗菌剤以外に本発明の効果を損なわない範囲で一般的に用いられる添加剤、例えば乳化剤、湿潤剤、安定剤、安定化剤、分散剤、可塑剤、pH調節剤、吸収促進剤、ゲル化剤、防腐剤、充填剤、保存剤、防腐剤、色素、香料、清涼剤、増粘剤、酸化防止剤、美白剤、紫外線吸収剤、静菌剤、静菌効果を有する物質、免疫抑制剤やステロイド等の薬剤などの成分を配合してもよい。上記成分としては、例えば、カチオン化多糖類(例えば、カチオン化ヒアルロン酸、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアーガム、カチオン化澱粉、カチオン化ローカストビーンガム、カチオン化デキストラン、カチオン化キトサン、カチオン化ハチミツ等)、アニオン界面活性剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体等)、陽イオン界面活性剤(例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等)、両性界面活性剤(例えば、アルキルベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、イミダゾリニウムベタイン、卵黄レシチン、大豆レシチン等)、油分(例えば、シリコーン、シリコーン誘導体、流動パラフィン、スクワラン、ミツロウ、カルナバロウ、オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、ホホバ油、馬油等)、保湿剤(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、加水分解ヒアルロン酸、アセチル化ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ジメチルシラノール、セラミド、ラウロイルグルタミン酸ジフィトステリルオクチルドデシル、フィトグリコーゲン、加水分解卵殻膜、トレハロース、グリセリン、アテロコラーゲン、ソルビトール、マルチトール、1、3−ブチレングリコール等)、高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等)、高級アルコール(例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、バチルアルコール等)、多価アルコール(例えば、グリセリン、ジグリセリン、1、3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ペンチレングリコール等)、増粘剤(例えば、セルロースエーテル、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、パルミチン酸デキストリン等)、両性高分子樹脂化合物(例えば、ベタイン化ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体等)、カチオン性高分子樹脂化合物(例えば、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体カチオン化物、ポリジメチルジアリルアンモニウムハライド型カチオン性ポリマー等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、プロピルパラベン、フェノキシエタノール等)、酸化防止剤(例えば、トコフェノール、BHT等)、金属封鎖剤(例えば、エデト酸塩、エチドロン酸塩等)、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシ桂皮酸誘導体等)、紫外線反射剤(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等)、タンパク質加水分解物(例えば、ケラチンペプチド、コラーゲンペプチド、大豆ペプチド、コムギペプチド、ミルクペプチド、シルクペプチド、卵白ペプチド等)、静菌剤(例えば、リゾチーム、グリシン、酢酸ナトリウム、ε‐ポリリジン)、免疫抑制剤やステロイド等の薬剤(例えば、タクロリムス、シクロスポリン、プロピオン酸クロベタゾール、酢酸ジフロラゾン、ジフルプレドナート、ジプロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ジフルコルトロン、フレオシノニド、アムシノニド、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、硫酸フラジオマイシン、フルオシノロンアセトニド、プロピオン酸アルクロメタゾン、ヒドロコルチゾン・クロタミン等)、アミノ酸(例えば、アルギニン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、ヒドロキシプロリン、システイン、セリン、L−テアニン等)、天然物エキス(クジンエキス、カジルエキス、テンチカエキス、海草エキス、ユーカリエキス、ローヤルゼリーエキス、ローズマリーエキス、ブナの木エキス等)、その他の機能性成分(コエンザイムQ10、アルブチン、ポリクオタニウム51、エラスチン、白金ナノコロイド、パルミチン酸レチノール、パンテノール、アラントイン、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、L−アスコルビン酸2−グルコシド、エラグ酸、コウジ酸、リノール酸、トラネキサム酸等)、リン脂質ポリマー、香料、色素が挙げられる。<外用剤:軟膏剤> 本発明の外用剤は、軟膏剤であってもよい。本発明の抗菌剤を含有する軟膏剤は、例えば、基剤に上記抗菌剤を融解させ、練合させることで、製造することができる。本発明の抗菌剤は、乳化作用を有するため、多様な基剤に対して良好に混合させることができる。軟膏剤中の上記抗菌剤の配合量は特に限定されない。また上記軟膏剤には、添加剤として、以下の成分を配合してもよい。<軟膏剤に配合される成分> 軟膏剤の基剤には、高級脂肪酸及びそのエステル(アジピン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、イソオクタン酸セチル、ラノリンおよびラノリン誘導体等)、ロウ類(鯨ロウ、ミツロウ、セレシン等)、高級アルコール(セタノール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等)、炭化水素類(親水ワセリン、白色ワセリン、精製ラノリン、流動パラフィン等)および動植物油の何れか1種またはそれらの2種以上の混合物が含まれる。また所望により、上記軟膏基剤に加えて、流動パラフィン等のパラフィン、ラノリン、動植物油、天然ワックス、水素添加大豆リン脂質(レシチン)または高級アルコール等を含んでいてもよい。本発明の軟膏剤に含有された軟膏基剤は、可溶化剤と非混和性であっても混和性であってもよい。 次に、本発明を実施例等に基づき、さらに説明する。[実施例1] まず、実施例1の抗菌剤を調製した。実施例1は、抗菌剤の有効成分として、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリン(キユーピー株式会社製、卵黄リゾレシチンLPC-1)を用いた。実施例1のリゾフォスファチジルコリンのHLB値は14、ヨウ素価は9であった。表2は、本発明の実施例及び比較例各々の物質名、由来、HLB値を示す表である。 次に、所定量のリゾフォスファチジルコリンを秤量し、これを滅菌精製水(以下、精製水とする)に攪拌し、溶解した。これにより、0.5質量%(5000μg/mL、5000ppm)のリゾフォスファチジルコリンを含む試験液を20mL精製した。 続いて、上記試験液を精製水を用いて、2倍ずつ、3段階で希釈した。これにより、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。[実施例2] 実施例2は、抗菌剤成分として、水素添加大豆リゾリン脂質(日光ケミカルズ株式会社製、レシノールLL-20)を用いた。実施例2の大豆リゾリン脂質は、複数のリン脂質が混合されていると考えられるが、11〜20のHLB値を有することが確認されている。ヨウ素価は、20以下であった。なお、大豆リゾリン脂質は、上記の化学式1で表される。この大豆リゾリン脂質を実施例1と同様に調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。なお、大豆リゾリン脂質が精製水に溶解しにくい場合は、約70℃に加温した。[比較例1] 比較例1は、抗菌剤成分として、大豆由来のリゾフォスファチジルグリセロール(ナガセケムテックス製、リゾPGナガセ)を用いた(表2参照)。比較例1のリゾフォスファチジルグリセロールのHLB値は、約22であった。上記リゾフォスファチジルグリセロールは、以下の化学式3で表される。(式中、R1はアルキル基を表す。) このリゾフォスファチジルグリセロールを実施例1と同様に調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。なお、リゾフォスファチジルグリセロールが精製水に溶解しにくい場合は、約70℃に加温した。<試験例1> 実施例1、2、及び比較例1を用いて、抗菌性の判定を行った。 (供試菌株) まず、表3に示す菌株1及び菌株2を、それぞれ標準寒天培地(SPC(Standard Plate Count))で35℃、48時間の条件で培養した。そして、得られた菌株を、それぞれ約107cfu/mLとなるように生理食塩水に懸濁した。 (試験液の調製) 実施例1、比較例1、及び実施例2の化合物を上述のように調製し、各濃度の試験液を調製した。 (ディスク法による抗菌性の判定) まず、液状の標準寒天培地20mLと、各供試菌株1mLを、滅菌したシャーレに添加し、混合する。そして、このシャーレを冷却することにより、培地を固化させる。固化させた培地は、クリーンベンチ内でさらに20〜30分程度乾燥させる。 次に、滅菌したペーパーディスクを滅菌したピンセットで培地上に置き、押さえて密着させる。そして、調製された実施例1,実施例2及び比較例1の各試験液を50μLずつ所定のディスク上に滴下し、ディスクに試験液が吸収されるまでしばらく静置する。さらに、この培地を、30℃で48時間程度培養する。 培養後、ペーパーディスクの周囲に菌が増殖していない部分(阻止円)の直径を、メジャーで計測する。 図1は、ディスク法の説明をするための模式的な図であり、図中の符号Sはシャーレ、符号D1〜D5は、それぞれペーパーディスク、符号Bは阻止円を示す。抗菌性が高い試験液は、ペーパーディスクから染み出して培地に含まれる菌を殺菌するため、阻止円が形成され、その抗菌性が高いほど阻止円が大きくなる。逆に、抗菌性が低い場合は、菌を十分に殺菌しないため、阻止円が形成されない。そこで、阻止円の直径dを計測することで、その抗菌性を評価する。 (結果) 表4は、試験例1の結果を示す表である。同表に示すように、実施例1の各試験液は、黄色ブドウ球菌及びMRSAに対して、10mmよりも大きい直径の阻止円が認められた。これにより、実施例1の卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、MRSAに対して抗菌作用を発揮することが確認された。さらに、実施例1については、313ppmの濃度の試験液についてもMRSAに対して10mmよりも大きい阻止円が認められた。これにより、実施例1の卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンは、300ppm以上の濃度で十分な抗菌性を有することが確認された。 また、実施例2については、MRSAに対しては5000ppmの濃度の試験液で13.0mmの阻止円が形成され、黄色ブドウ球菌に対しても5000ppm、1250ppmの濃度の試験液で12.0mmの阻止円が形成された。実施例2について、実施例1よりも抗菌性が低い結果が得られたことは、実施例2の水素添加大豆リゾリン脂質の精製度等が関与していると考えられる。 一方、比較例1は、5000ppmの濃度でMRSA及び黄色ブドウ球菌に対して10.0mmの阻止円が形成されたものの、1250ppm、313ppmの濃度では、MRSA及び黄色ブドウ球菌に対して阻止円が形成されなかった。これにより、モノアシル型グリセロリン脂質であっても、HLB値が20よりも大きい場合には、MRSAに対して十分な抗菌性を有さないと考えられる。 次に、HLB値の値による抗菌性の評価に供するため、さらに以下の比較例2〜6を調製した。[比較例2] 比較例2は、抗菌剤成分として、ショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬株式会社製、DKエステルF-10)を用いた(表2参照)。比較例2のショ糖脂肪酸エステルのHLB値は1であった。ショ糖脂肪酸エステルは、例えば、以下の化学式4で表される。(式中、R1はアルキル基を表す。) 比較例2のショ糖脂肪酸エステルは、精製水に溶解しないため、日本薬局方ダイズ油(カネダ株式会社製)(以下、ダイズ油とする)により調製した。すなわち、このショ糖脂肪酸エステルを、精製水でなくダイズ油を用いた点以外は実施例1と同様に段階的に希釈し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。[比較例3] 比較例3は、抗菌剤成分として、グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、エマルジーMS粉)を用いた(表2参照)。比較例3のグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は4.3であった。このグリセリン脂肪酸エステルを比較例3と同様にダイズ油を用いて調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。[比較例4] 比較例4は、抗菌剤成分として、ショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬株式会社製、DKエステルF-50)を用いた(表2参照)。比較例4のショ糖脂肪酸エステルのHLB値は6であった。このショ糖脂肪酸エステルを実施例1と同様に調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。なお、ショ糖脂肪酸エステルが精製水に溶解しにくい場合は、約70℃に加温した。[比較例5] 比較例5は、抗菌剤成分として、グリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製、ポエムM-100)を用いた(表2参照)。比較例5のグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は7であった。このグリセリン脂肪酸エステルを実施例1と同様に調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。なお、グリセリン脂肪酸エステルが精製水に溶解しにくい場合は、約70℃に加温した。[比較例6] 比較例6は、抗菌剤成分として、ショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬株式会社製、DKエステルF-90)を用いた(表2参照)。比較例6のショ糖脂肪酸エステルのHLB値は9.5であった。このショ糖脂肪酸エステルを実施例1と同様に調製し、5000ppm(5000μg/mL)、1250ppm(1250μg/mL)、313ppm(313μg/mL)の各濃度の試験液を調製した。なお、ショ糖脂肪酸エステルが精製水に溶解しにくい場合は、約70℃に加温した。<試験例2> 実施例1、比較例2〜6を用いて、試験例1と同様に、表3に示す供試菌株を用いて、ディスク法による抗菌性の判定を行った。この手順は、試験例1と同様であるので、その説明を省略する。 (結果) 表5は、本試験例の結果を示す表である。同表に示すように、HLB値が1〜7の比較例2〜5は、いずれの試験液についても、MRSA及び黄色ブドウ球菌に対して阻止円が形成されなかった。また、比較例6は、5000ppmの試験液で、MRSAに対して阻止円が形成されたが、他の試験液については、MRSA及び黄色ブドウ球菌に対して阻止円が形成されなかった。一方で、実施例1は、いずれの試験液についても、MRSA及び黄色ブドウ球菌に対して10mmよりも大きい阻止円が形成されることが確認された。<試験例1及び試験例2の結果(総括)> 試験例1及び2の結果により、HLB値が9.5より大きいモノアシル型グリセロリン脂質は、十分な抗菌性を有することが確認された。特に、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンを含有する実施例1の試験液では、300ppm以上の濃度でも十分な抗菌性が確認された。一方で、HLB値が1〜9.5である場合には、MRSAに対して抗菌性を有さないことが確認された。加えて、試験例1における比較例1の結果により、HLB値が20よりも大きい場合には、抗菌作用が発揮できないことが示唆された。したがって、HLB値が9.5よりも大きく20以下のモノアシル型グリセロリン脂質であれば、MRSAに対する抗菌性を有するといえる。 以上の結果により、モノアシル型グリセロリン脂質等の両親媒性化合物のMRSAに対する抗菌性には、親水性、疎水性のバランスが大きく関与しており、至適なHLB値の範囲が存在することが確認された。以下、これらの結果を踏まえて考察する。<考察> 図2は、本実施例の抗菌剤について、想定し得る作用機序を説明するための図である。同図に示すように、多剤耐性グラム陽性菌10は、細胞膜11に覆われており、内部に細胞質等を有する。細胞膜11は、同図中の拡大図に示すように、親水基111と疎水基112を有する脂肪酸110を主成分とする脂質2分子層を有する。なお、同図において細胞膜11は、説明のため、一部のみ記載している。 本発明の、HLB値が9.5よりも大きく、20以下のモノアシル型グリセロリン脂質20は、その疎水性及び親水性のバランスにより、細胞膜11の脂肪酸110と適度な親和性を有する。モノアシル型グリセロリン脂質20は、その親和性を利用して、細胞膜11の脂質2分子層に楔のように割り込むことが可能となる。これにより、細胞膜11の構造が乱れて透過性が亢進し、細胞質成分が漏れ出すことで、モノアシル型グリセロリン脂質20が多剤耐性グラム陽性菌10を死滅等させるものと考えられる。 特に、グラム陽性菌は、グラム陰性菌と比較して、外膜を有さないという特徴を有する。これにより、モノアシル型グリセロリン脂質20がより効果的に細胞膜11にアプローチし、抗菌作用を発揮するものと考えられる。 また、本発明の抗菌剤は、既知の抗生物質とは異なり、多剤耐性グラム陽性菌に薬剤耐性を獲得されにくいものと考えられる。例えば、抗生物質であるペニシリンやメチシリンなどのβ-ラクタム剤は、細菌の細胞壁合成酵素であるPBP(Penicillin‐binding Protein)に結合し、細胞壁の網目構造の完成を妨げ溶菌させることで、抗菌作用を発揮する。これに対し、多剤耐性グラム陽性菌は、ペニシリンを分解するβ-ラクタマーゼを発現することにより、ペニシリンに対する薬剤耐性を獲得している。また、メチシリンに対しては、β-ラクタマーゼにより分解することはできないが、β-ラクタム剤との親和性が低い細胞壁合成酵素PBP2aを生成することにより、薬剤耐性を獲得した。このように、多剤耐性グラム陽性菌は、主に、薬剤自体を分解する、薬剤との親和性を低下させる等の新たな生化学的機構を発現させることで、薬剤に対する耐性を獲得してきた。 一方、本発明のモノアシル型グリセロリン脂質は、上述のように、細胞膜を物理的に破壊することにより、抗菌作用を発揮する。すなわち、本発明の抗菌剤は、上記抗生物質と異なる抗菌作用機序を有することで、MRSA等の多剤耐性グラム陽性菌が耐性を獲得することは困難と考えられる。したがって、本発明の抗菌剤は、薬剤耐性のリスクを低減させ、安心して広く使用することができるものであると言える。 さらに、実施例1の抗菌剤を用いて、以下の処方例1〜3の外用剤を製し、使用感を確認した。[処方例1:軟膏剤] 本処方例では、実施例1の抗菌剤を使用して、内容物が下記の配合である軟膏剤を製した。 (配合割合)実施例1の抗菌剤 0.5%白色ワセリン 25.0%ステアリルアルコール 20.0%プロピレングリコール 12.0%ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 4.0%モノステアリン酸グリセリン 1.0%パラオキシ安息香酸メチル 0.1%パラオキシ安息香酸プロピル 0.1%精製水 残量―――――――――――――――――――――――――――――――――――計 100%[処方例2:抗菌スプレー剤] 本処方例では、実施例1の抗菌剤を使用して、内容物が下記の配合である抗菌スプレー剤用溶液を製した。また、この抗菌スプレー剤用溶液を市販の50mL容ポンプ式スプレー容器に充填し、手指消毒用の抗菌スプレー剤を製した。 (配合割合)実施例1の抗菌剤 0.05%グリセリン 0.50%カプリン酸モノグリセリド 0.20%エタノール 50.00%精製水 残量―――――――――――――――――――――――――――――――――――計 100%[処方例3:抗菌クリーム剤] 本処方例では、実施例1の抗菌剤を使用して、内容物が下記の配合であるクリーム剤を製した。また、このクリーム剤50gをスクリューキャップ付プラスチック製容器に充填し、抗菌クリーム剤を調製した。 (配合割合)実施例1の抗菌剤 0.05%ポリエチレングリコール 4.00%1、3−プロパンジオール 6.00%スクワラン 11.00%ジメチコン 1.00%セタノール 6.00%ステアリン酸 2.00%水添ココグリセリル 4.00%トリカプリリン 8.00%モノステアリン酸グリセリン 3.00%POE(20)セチルアルコールエーテル 2.00%コエンザイムQ10 0.03%セラミド 0.10%ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム 0.10%EDTA−2ナトリウム 0.02%プロピルパラベン 0.10%メチルパラベン 0.15%香料 適量精製水 残量―――――――――――――――――――――――――――――――――――計 100% 処方例1〜3の外用剤各々を肌に塗布又は撒布したところ、いずれも、しっとりとして肌なじみのよい使用感が得られた。これは、処方例1〜3の外用剤が、いずれも、卵黄由来のリゾフォスファチジルコリンを含有する実施例1の抗菌剤を含んでいることによると考えられる。したがって、本発明の抗菌剤を含有した外用剤によれば、多剤耐性グラム陽性菌に対して高い抗菌作用を発揮するとともに、肌の保湿性を高めることが可能になる。また、特に軟膏剤やクリーム剤により、肌のバリア機能を高め、多剤耐性グラム陽性菌感染症に対する治療効果を高めることが期待される。 S…シャーレ D1,D2,D3,D4,D5…ペーパーディスク B…阻止円 10…多剤耐性グラム陽性菌 11…細胞膜 20…モノアシル型グリセロリン脂質 110…脂肪酸 111…親水基 112…疎水基 HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として含有する 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。 請求項1に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記モノアシル型グリセロリン脂質は、リゾフォスファチジルコリンを含む 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。 請求項1又は2に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記モノアシル型グリセロリン脂質は、卵黄由来のモノアシル型グリセロリン脂質を含む 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤であって、 前記有効成分を300ppm以上含有する 多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤。 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤を含有する外用剤。 【課題】多剤耐性菌に耐性を持たれていない新たな成分を有効成分として含有する多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤及びこれを含有する外用剤を提供する。【解決手段】本発明の多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤は、HLB値が9.5よりも大きく、20以下であり、モノアシル型グリセロリン脂質を有効成分として含有する。また、本発明の外用剤は、上記多剤耐性グラム陽性菌抗菌剤を含有する。【選択図】なし


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