タイトル: | 公開特許公報(A)_多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法 |
出願番号: | 2013226624 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C07K 1/14,C12N 9/96,C12N 15/09 |
森 肇 平山 寧華 水野 佳名子 JP 2015086182 公開特許公報(A) 20150507 2013226624 20131031 多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法 国立大学法人京都工芸繊維大学 504255685 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 森 肇 平山 寧華 水野 佳名子 C07K 1/14 20060101AFI20150410BHJP C12N 9/96 20060101ALN20150410BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150410BHJP JPC07K1/14C12N9/96C12N15/00 A 6 OL 20 4B024 4B050 4H045 4B024AA20 4B024BA11 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA02 4B024GA11 4B024HA06 4B050CC03 4B050DD02 4B050GG10 4B050JJ01 4B050JJ02 4H045AA20 4H045CA11 4H045DA89 4H045GA01 本発明は、多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法に関する。 昆虫ウイルスのサイポウイルス(細胞質多角体病ウイルス,CPV)やバキュロウイルス(核多角体病ウイルス,NPV)が作製するタンパク質結晶である多角体は、ウイルスの昆虫への感染の後期にウイルスを取り込む封入体である。 多角体は、宿主内でウイルスが感染する性質から、酸性や中性下においては分解せず、アルカリ条件下で急速に溶解する。すなわち、昆虫、特にリン翅目昆虫などの消化管はpHが11程度のアルカリ性であり、昆虫が多角体を餌とともに食下するとアルカリ性の消化管の中で多角体が溶解し、中に取り込まれていたウイルスが放出され感染が生じる(特許文献1)。 多角体がウイルスだけでなく、サイトカイン、抗原、酵素などの目的のタンパク質を封入(固定化)できることが知られており(特許文献2)、多角体は極めて強固な構造物であることから多角体の中に取り込まれた目的タンパク質は長期間安定に保護される。 タンパク質が例えば酵素の場合、酵素の公知の固定化方法として1)担体結合法、2)包括法、3)架橋法などが知られているが、例えば、担体結合法では酵素を比較的漏れなく固定化できる反面、固定化操作が煩雑である、包括法では簡便に固定化できる反面、酵素によっては一度担体に保持されたものが再度漏出する場合がある、また、いずれの固定化方法でも、酵素を作った後、精製しなければならないという大きな共通した問題があったが、多角体を用いた(酵素などの)タンパク質の固定化の場合、タンパク質を精製する必要が無く、またその多角体の精製も非常に簡便に行うことができる。そして、タンパク質の性質毎に対応する必要はなく、タンパク質が安定化される。 しかしながら、従来、固定化したタンパク質を多角体から速やかに取り出すには、アルカリ(pH10以上のpH)で溶解する以外の手段がなかった。そして、そのようなアルカリ性の条件下に多角体を置くと、多くのタンパク質が失活するという問題があった。また、多角体にタンパク質を固定化した状態では、酵素などのタンパク質の活性に寄与するタンパク質は、多角体の表面にあるタンパク質又は多角体から一部脱落したタンパク質であるため、非常に低い活性しか得られない。特許第4203543号WO2004/063371 本発明の目的は、タンパク質などの目的分子の本来の活性を維持しつつ、簡便に多角体から目的分子を取り出す方法を提供することにある。 本発明者らは、酵素を固定化した多角体を細胞破砕装置で物理的に粉砕したところ、期せずして、粉砕物を含む懸濁液が顕著に高い酵素活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。[1]多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法であって、目的分子を封入した多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子を粉砕することにより、目的分子を、担体粒子の前記目的分子を封入した空間の外側に露出させる工程からなることを特徴とする方法。[2]前記粉砕することは、粉砕装置により粉砕することを含む項1に記載の取り出し方法。[3]粉砕時の目的分子が固定化された担体粒子を含む水溶液又は懸濁液のpHが10未満である項1又は2に記載の取り出し方法。[4]前記目的分子がタンパク質又はペプチドからなる項1に記載の取り出し方法。[5]前記目的分子が酵素である項1に記載の取り出し方法。[6]項1〜5のいずれか一項に記載の取り出し方法により得られた、目的分子が担体粒子の表面で露出した粉砕された担体粒子。 本発明によれば、目的分子の本来の活性を保った状態で、多角体から簡便に目的分子を取り出すことが可能となる。 この物理的な粉砕による目的分子の取り出し方法は、目的分子の種類を選ばないため、広範な目的分子を、種々の用途で、使用する前に多角体に封入して保存し、使用時に適宜取り出すことができる。 また、目的分子が例えば酵素のような安定性の維持が困難なタンパク質の場合にも、1)酵素の精製が不要、2)酵素の安定化が可能、3)酵素の保管・運搬に必要なドライアイスが不要、などの効果が期待でき、研究者及び取扱い業者の労力の省力化や経済的効果が奏される。担体粒子(多角体)への目的分子の固定化を示す模式図。酵素ホスホジエステラーゼ(PDE)を多角体に包埋した場合と多角体に包埋しない場合の経時的な酵素活性の変化の比較を示すグラフ。大腸菌由来のヘム基盤ホスホジエステラーゼ(Ec-DOS)の配列及び触媒する反応について説明する模式図。EcDOSを固定化した2種類の組換え多角体を作製するための手順を示す模式図。(A)SDS-PAGEの結果、(B)Western Blottingの結果を示す図。空の多角体のレーンは、EcDOS、H1又はVP3を含まない多角体の試料のレーンを示す。粉砕処理を施した多角体懸濁液及び未粉砕の多角体懸濁液のホスホジエステラーゼ(PDE)活性を示すグラフ。PDE-GloTM Phosphodiesterase Assayによる測定原理を示す模式図。粉砕回数別のH1/EcDOS多角体の酵素活性を示すグラフ。粉砕回数別のH1/EcDOS多角体の光学顕微鏡写真。倍率:400倍。 本発明は、多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子(多角体)からの目的分子の取り出し方法であって、目的分子を封入した多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子を粉砕することにより、目的分子を担体粒子の表面で露出させる工程からなることを特徴とする方方を提供する。 本明細書において、「取り出し」とは、担体粒子内に封入された目的分子を、その目的分子の機能(例えば生物学的若しくは薬理学的な作用又は活性)を示すように、粉砕前の担体粒子の外部環境、すなわち担体粒子の前記目的分子を封入した空間の外側に露出させることを指す。具体的には、担体粒子内に封入された目的分子は、担体粒子表面で露出される。 なお本明細書において、目的分子の担体粒子への「固定化」とは、目的分子を担体粒子へ吸着、封入、包埋、又は担持させることを包含する。<目的分子> 目的分子は、多角体に封入かつ取り出される任意の分子であってもよいが、好ましくはタンパク質又はペプチドである。本明細書では、アミノ酸の数が2個から50個結合した分子をペプチドと称し、アミノ酸が51個以上結合した分子をタンパク質と称する。タンパク質又はペプチドは、好ましくは、抗原、抗体、抗体断片、リガンド、受容体、酵素、毒素、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、転写調節因子、蛍光分子、及び色素から成る群から選択されるタンパク質又はペプチドである。目的分子は天然に存在するインタクトな分子と同じ構造であってもよいし、種々の目的のために変異又は修飾されたものでもよい。<担体粒子> 本明細書において、「多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子」には、昆虫の多角体病ウイルスによってコードされた多角体タンパク質からなる多角体病ウイルスの多角体、その一部、及びその変異型を有するか、又はそれらから成る多角体である担体粒子を指す。担体粒子は、ウイルスに感染した細胞中に含まれる担体粒子であってもよい。 昆虫の多角体病ウイルスによってコードされた多角体タンパク質としては、例えば、昆虫の細胞質多角体病ウイルスコート外殻タンパク質である、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedrosis virus,BmCPV)の外殻タンパク質(viral capsid protein VP3)が例示される。細胞質多角体病ウイルスはレオウイルス科(Reoviridae)のサイボウイルス属(Cypovirus)に分類される。このウイルスは昆虫の中腸皮膜組織の円筒細胞に感染し、感染した細胞の細胞質に大きなタンパク質の結晶である多角体を産生するという特徴を有する。多角体の機能の一つに、ウイルス病の水平感染において外界からウイルス自身の感染力を保護することが挙げられる。すなわち、多角体は非イオン性やイオン性の界面活性剤、酸性や中性のpHの溶液にも全く溶解しない。また、紫外線照射を受けても、包埋されたウイルスには影響が及ぼされない。さらに、細菌による腐敗によっても多角体は溶解しないため、その中のウイルスは保護される。 一実施形態では、特定の目的分子を担持した多角体を形成するのに、カイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV) 由来の2種類の遺伝子またはそれを改変した遺伝子を用いる。 ひとつは、ポリヘドリンタンパク質の遺伝子であって、このタンパク質は自己集合して強固なタンパク質の粒子を形成する性質がある。BmCPVのウイルスゲノムは10本に分節された二本鎖RNA(セグメント1〜10はS1〜S10と表記する)であり、多角体を構成するタンパク質である多角体タンパク質(ポリヘドリン)はそのうちの最も小さいS10にコードされており、分子量は27kDa〜31 kDaである。 もうひとつは、VP3と呼ばれるタンパク質の遺伝子であって、このタンパク質の特定の領域がポリヘドリンと相互作用する。BmCPVのウイルス粒子はVP1(151kDa),VP2(142kDa),VP3(130kDa),VP4(67kDa),VP5(33kDa)の5種類のタンパク質から構成されている。125Iを用いたBmCPVの標識実験から、VP1とVP3が外殻を構成しているタンパク質であることがわかっている(Lewandowskietal. (1972) J. Virol. 10, 1053-1070)。ウサギの網状赤血球を用いたin vitro translation実験が行われ、ウイルスの外殻タンパク質であるVP1とVP3はそれぞれS1とS4にコードされているものと推定された(McCrae and Mertens(1983)Double-Stranded RNA Viruses, Elsevier Biomedicals,35-41)。 図1に示したように、これら2つのタンパク質を同時に存在させると、VP3を包埋し、かつその一部を表面に呈示した状態のタンパク質担体粒子(多角体)が形成される。VP3またはその特定の領域を、目的分子である任意のタンパク質と接続したキメラタンパク質を調製し、ポリヘドリンと共存させると、このキメラタンパク質が包埋されかつ表面に呈示された状態の多角体が形成される(Ikeda et al., 2006, Proteomics, 6, 54-66)。 よって、このことを利用して、特定のタンパク質を表面に呈示した多角体を形成させ、これを用いて、より簡便に、効率よく、相互作用性のある一群のタンパク質を担持できる。 ポリヘドリンタンパク質は、インタクトなポリヘドリンタンパク質であってもよいが、以下の(1)〜(5)のいずれかのポリヘドリンタンパク質の一部又はポリヘドリンタンパク質の変異型であってもよい:(1)ポリヘドリンタンパク質と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有するポリヘドリンタンパク質の変異型であって、ポリヘドリンタンパク質の多角体タンパク質粒子を形成する能力を有する変異型、(2)ポリヘドリンタンパク質から1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているポリヘドリンタンパク質の変異型、(3)ポリヘドリンタンパク質の多角体タンパク質粒子を形成する能力を有する、ポリヘドリンタンパク質の一部、(4)(3)のポリヘドリンタンパク質の一部に対し、さらに少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつポリヘドリンタンパク質の多角体タンパク質粒子を形成する能力を有する変異型、(5)(3)のポリヘドリンタンパク質の一部に対し、さらに1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているポリヘドリンタンパク質の変異型。 (2)の例としては、ポリヘドリンのN末端の13番目のアルギニンをアラニン、リジン、又はヒスチジンに変異させたポリヘドリンタンパク質の変異型が挙げられる。 VP3タンパク質も、インタクトなVP3タンパク質であってもよいが、以下の(1)〜(5)のいずれかのVP3タンパク質の一部又はVP3タンパクの変異型であってもよい:(1)VP3タンパク質と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有するVP3タンパク質の変異型であって、VP3タンパク質の多角体タンパク質粒子を形成する能力を有する変異型、(2)VP3タンパク質から1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているVP3タンパク質遺伝子の変異型、(3)ポリヘドリンタンパク質、その一部、又はその変異体との相互作用する能力を有する、VP3タンパク質の一部、(4)(3)のVP3タンパク質の一部に対し、さらに少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつVP3タンパク質の多角体タンパク質粒子を形成する能力を有する変異型、(5)(3)のVP3タンパク質の一部に対し、さらに1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているVP3タンパク質の変異型。 上記のVP3タンパク質の一部の例として、多角体を形成する際に、目的タンパク質の多角体包埋シグナルとして作用する、VP3タンパク質のN末端から40アミノ酸残基まで、又は41アミノ酸残基から79アミノ酸残基のVP3領域が挙げられる(WO2004/063371)。 別の実施形態では、特定の目的分子を担持した多角体を形成するのに、上記のV3タンパク質、その変異型、又はその一部の代わりに、ポリヘドリンタンパク質のN末端に存在するα−ヘリックス(H1ヘリックス)を用いてもよい。目的分子のN末端にH1ヘリックスを付加した融合タンパク質をコードする遺伝子を細胞中で発現させると、H1ヘリックスは目的分子の多角体への固定化シグナルとして作用し、多角体を形成することが可能である(特許第5234830)。H1ヘリックスはMet AlaAsp Val Ala Gly Thr Ser Asn Arg Asp Phe Arg Gly Arg Glu Gln Arg Asn Ser Glu Gln Tyr Asn Tyr Asn Ser Serの28個のアミノ酸配列からなる。 H1ヘリックスの代わりに、以下の(1)〜(5)のいずれかのH1ヘリックスタンパク質の一部又はH1ヘリックスの変異型であってもよい:(1)H1ヘリックスタンパク質と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有するH1ヘリックス3タンパク質の変異型であって、H1ヘリックスタンパク質の固定化シグナルとしての能力を有する変異型、(2)H1ヘリックスタンパク質から1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているH1ヘリックスタンパク質遺伝子の変異型、(3)ポリヘドリンタンパク質、その一部、又はその変異体との相互作用する能力を有する、H1ヘリックスタンパク質の一部、(4)(3)のH1ヘリックスタンパク質の一部に対し、さらに少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のアミノ酸配列同一性を有し、かつH1ヘリックスタンパク質の固定化シグナルとしての能力を有する変異型、(5)(3)のH1ヘリックスタンパク質の一部に対し、さらに1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個のアミノ酸が付加、欠失又は置換しているH1へリックスタンパク質の変異型。<目的分子が固定化された担体粒子の製造> 目的分子の、多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子への固定化方法は公知である。例えばWO2004/063371、特許第4230222号、又は特許第5234830号を参照されたい。 目的分子が固定化された担体粒子を産生するために用いる細胞は、ウイルスに感染できる細胞であれば特に制限されるものではない。細胞は昆虫細胞でも植物細胞でもよい。昆虫細胞の例は、例えばSpodoptera Frugiperda由来のIPLB−Sf21−AE(Sf21)である。 目的分子が固定化された担体粒子は、例えばポリヘドリンタンパク質、その一部、又はその変異体をコードする遺伝子を組み込んだウイルスベクターと、目的分子をコードする遺伝子を組み込んだウイルスベクターとを別々に調製し、次いでこの2種のウイルスベクターを昆虫の組織細胞に同時に感染させ、この2種のウイルスに感染した昆虫細胞中で多角体を生成させたのち、この多角体を結晶として取り出すことによって製造することができる。このように、2種のウイルスを同時に感染させることにより、一挙に目的分子の微結晶を内部に分散含有する多角体タンパク質結晶が得られる。 VP3タンパク質、その一部、又はその変異体(以下、VP3タンパク質等と称する)をコードする遺伝子又はH1ヘリックスタンパク質、その一部、又はその変異体(以下、H1ヘリックスタンパク質等と称する)をコードする遺伝子は、通常、目的分子をコードする遺伝子のN末端又はC末端に融合され、同じ細胞中で共発現される。 得られた、目的分子が固定化された担体粒子は、目的分子が外殻タンパク質(多角体タンパク質結晶)の担体粒子中に分散状態で含まれる複合タンパク質結晶体である。担体粒子内に固定化又は包埋された目的分子は、使用するまで、担体粒子内で安定に保存可能である。一例として、図2に示されるように、目的タンパク質を酵素ホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase,PDE)とし、ポリヘドリンタンパク質の多角体に包埋した場合と、多角体に包埋しない場合の保存日数に対するPDE活性を測定したところ、多角体に包埋すると一週間経ってもPDEが固定化された多角体を生成した日とほとんど変わらない酵素活性を維持できていることが理解される。<多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し> 本発明によれば、目的分子が固定化された担体粒子は、粉砕により多角体内部から取り出せることが見出された。目的分子を含む多角体をアルカリ環境下に置かずとも、物理的手段のみで簡便に目的分子を取り出せることは驚くべき発見である。 具体的には、粉砕は、任意の粉砕装置により行なうことできる。粉砕装置としては、細胞破砕装置、超音波処理装置、フレンチプレス細胞破砕機、ホモジナイザー等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの粉砕装置で粉砕を行なう際には粉砕を促進すべく、ビーズ(ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、セラミックビーズ)及びアルミナ粉末等を含むがこれらに限定されない粉砕手段を用いてよい。 また、目的分子が固定化された担体粒子を、そのまま粉砕してもよいし、水溶液又は懸濁液を加えて粉砕してもよい。そのような水溶液又は懸濁液には酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液(PBS)、Tris緩衝液が含まれるがこれらに限定されない。粉砕時の目的分子が固定化された担体粒子を含む水溶液又は懸濁液のpHは通常10未満であり、好ましくは9.5以下、より好ましくはpH3.0〜pH9.0、さらにより好ましくはpH4.0〜pH8.5である。一実施形態では、水溶液のpHは中性域、すなわちpH6.0〜8.0である。タンパク質の変性がないか変性が少ないpHで担体粒子を粉砕することにより、目的分子であるタンパク質の活性の低下が抑制される。 粉砕時の温度は特に限定されず、通常、−20℃〜40℃、好ましくは室温すなわち5〜30℃である。 粉砕条件として、通常5×104個/μL程度の濃度である担体粒子(多角体)の懸濁液に、粉砕手段を適量加えるか、及び/又は粉砕装置に供し、これを3000rpm〜5500rpmで10秒間〜5分間撹拌し、これを1回又は複数回、通常2、3、4、5、6、7、8、9、又は10回、例えば2〜7回、より好ましくは3〜6回、さらに好ましくは4〜6回、最も好ましくは5回繰り返す。撹拌の程度は、長時間を1回行うよりも、短時間を複数回行なう方が、タンパク質の活性を維持する上で好ましい。 粉砕した後の、目的分子を含む溶液は、目的分子を用いたその後の分析等の目的で、そのまま用いてよいが、任意選択で溶液をさらに濃縮、凍結乾燥、分画塩析等して、目的分子をより高純度の状態で回収してもよい。 上記の取り出し方法により、多量の目的分子が担体粒子すなわち多角体から取り出され、しかも目的分子の作用又は活性は殆ど損なわれないため、種々の目的に有用に使用することができる。 なお、本発明は、上記の取り出し方法により得られた、目的分子が担体粒子の表面で露出した、粉砕された担体粒子も包含する。かかる粉砕された担体粒子は、その目的分子の機能を示す。例えば、目的分子が酵素の場合、粉砕された担体粒子は酵素活性を示す。本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。 実施例1 ホスホジエステラーゼ活性を持つ大腸菌由来EcDOSを発現する組換ウイルスの作製 図3に示すように、大腸菌由来のヘム基盤ホスホジエステラーゼ(Ec-DOS)は酵素ホスホジエステラーゼのコード領域より上流にセンサードメインPASを有し(Toru Shimizu, Biosensors 2013, 3, 211-237)、PASにあるヘム鉄(Fe(II))へのO2の結合がシグナルとなり、ホスホジエステラーゼの酵素の活性が上昇すると考えられている。 このEc-DOSを用いて、ホスホジエステラーゼ(Phosphodiesterase)を目的分子として固定化した2種類の多角体を作製した(図4参照): 多角体1−H1/EcDOS多角体。ポリヘドリンタンパク質のN末端に存在するα−ヘリックス(H1ヘリックス)を、EcDOS遺伝子のN末端に付加したもの 多角体2−EcDOS/VP3多角体。多角体EcDOS遺伝子のC末端にVP3を付加したもの。1.PCR法によるEcDOS遺伝子の増幅 EcDOS配列を含むプラスミド(pET-28a+)のEcDOS配列の5’末端にattB1配列、3’末端にattB2配列(終始コドン有と無)を導入するためのプライマー配列を付加するために、KOD-plus(TaKaRa)を用いたPCRを行い、att配列を付加したEcDOS配列を増幅させた。 プライマーは、標的タンパク質のC末端に固定化シグナルVP3を付加するためにC末端付加用プライマーを、N末端に固定化シグナルVP3(L)およびH1を付加するためにN末端付加用プライマーを用いた。以下にプライマーの名称および配列を以下に示すと共に、反応液の組成を表1に示す。PCT酵素は株式会社東洋紡のKOD-Plusを用いた。<プライマーの名称および配列>C末端付加用プライマー・EcDOSフォワードプライマー5’-GGGG ACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCT-ATG-CGCCAGGATGCAGAGGTAATC -3’(配列番号1)(下線部はattB1配列)・EcDOSリバースプライマー 5’-GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTGATTTTCAGCGGTAACACGCTG -3’ (配列番号2)(下線部はattB2配列)N末端付加用プライマー・EcDOSフォワードプライマー5’-GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCT-ATG-CGCCAGGATGCAGAGGTAATC -3’ (配列番号3)(下線部はattB1配列)・EcDOSリバースプライマー 5’-GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGT-TCA-GATTTTCAGCGGTAACACGCTG -3’ (配列番号4)(下線部はattB2配列) PCR反応条件としては、反応液を94℃まで昇温し、94℃で2分間変性し、98℃ 10秒、63℃ 30秒、68℃2.5分を30サイクル行い、4℃に冷却した。2.エントリークローンの作製 BP ClonaseTMenzyme mixture(Invitrogen)を用いて、得られたPCR産物のattB1とattB2と、Kanamycin耐性遺伝子を持つpDONRTM221(Invitrogen)のattP1とattP2のatt配列間で相同組換えを行い、エントリークローン(pENTR)を以下のように作製した。増幅されたEcDOS配列をGateway(登録商標)cloning technology(Invitrogen)のプロトコルに従い、BP反応を行い、EcDOS配列をドナーベクターへ組み換えた。なお、ドナーベクターには発明者らの研究室でストックされているpDONRTM221を用いた。 上記の表2の反応液を25℃で16時間反応させ、Proteinase K solutionを2μl加え、37℃で10分間反応させた。その後、反応液1μlをLibrary efficiency DH5α Competent Cell(Invitrogen )のプロトコルに従って形質転換を行い、カナマイシンを含んだ2 × YTプレート培地(16g BactoTrypton、10g BactoYeastextract 、5g NaCl、15g Agar、50mg Kanamycin/l)に播き、37℃で16時間培養した。培養後、カナマイシンを含んだ2×YT液体培地(16g BactoTrypton、10g BactoYeastextract 、5g NaCl、50mg Kanamycin/l)で37℃で16時間振盪培養した。その後、Wizard(登録商標)Plus SV MiniprepsDNA Purification System(Promega)のプロトコルに従い、EcDOS配列を含むエントリークローンを抽出した。BigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Aplied Biosystems)のプロトコルに従い、ABI PRISM(R) 310 Genetic Analyzer(Aplied Biosystems)を用いてDNAシークエンスを行い、エントリーベクター内のEcDOS配列を確認した。EcDOSのC末端にVP3を付加するためのエントリークローン(pENT/VP3)及びEcDOSのN末端にH1を付加するためのエントリークローン(pENT-H1/EcDOS)を得た。3.LR反応によるEcDOS遺伝子を挿入した組換えトランスファーベクターの作製 GATEWAYTM PCR cloning system(Invitrogen)を用いて、2)で得られた2種のエントリークローン(pENT-EcDOS/VP3、pENT-H1/EcDOS) とデスティネーションベクターとの相同組換え反応により、EcDOS遺伝子を含む組換えトランスファーベクターを作製した。反応液は、付属の反応溶液を用いて、以下の表3の組成で調整した。 なお、ディスティネーションベクターとして、本研究室でストックされているpDEST1392を用いた。 反応液を25℃で16時間反応させ、Proteinase K solutionを2μl加え、37℃で10分間反応させた。反応液1μlをLibrary efficiency DH5α Competent Cell(Invitrogen)のプロトコルに従って形質転換を行い、アンピシリンを含んだ2×YTプレート培地(16g BactoTrypton、10g BactoYeastextract 、5g NaCl、15g Agar、50mg Ampicilin/l)に播いて37℃で16時間培養した。培養後、アンピシリンを含んだ2×YT液体培地(16g BactoTrypton、10g BactoYeastextract 、5g NaCl、50mgAmpicilin/l)で37℃で16時間振盪培養した。その後、Wizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega)を用いてプロトコルに従い、プラスミドDNAを得た。これにより、EcDOSの遺伝子を含んだトランスファーベクターを得た。 エントリークローンとデスティネーションベクターの組み合わせは、pENT-EcDOS/VP3とpDEST-VP3 sig52(C)、pENT-H1/EcDOSとpDEST-H1で行い、得られた2種の組換えトランスファーベクターをそれぞれpTRANS-EcDOS/VP3、pTRANS-H1/EcDOSとした。 回収したプラスミド中にEcDOSの配列が導入されているかを確認するために、H1/EcDOSはBamH1、EcDOS/VP3はEcoRIで制限酵素処理し、1%[w/v]アガロースゲルによる電気泳動を行った。 ジデオキシ法によるPCR反応を行い、トランスファーベクターのDNA塩基配列を確認した。得られたトランスファーベクターを鋳型にし、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems )のプロトコルに従ってPCRを行った。反応液の組成は以下の表4に示す。得られたPCR産物の塩基配列の確認はABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems )を用いて行った。4.組換えバキュロウイルスの作製 バキュロウイルスゲノムであるBD BaculoGoldTM Baculovirus DNA(BD Biosciences)をバイオラッドのプラスミド抽出キット(Aurum)の溶出液を用いて30倍希釈した。構築した組換えトランスファーベクター(100ng/μl)1μlと線状化されたバキュロウイルスゲノムであるBD BaculoGoldTM Baculovirus DNA(BD Biosciences) 10μlを1.5mLチューブで混合し、よく懸濁したのち、Lipofectin Reagent (invitrogen)を7μl加え、室温で15分静置した。ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)の卵巣由来のSf21細胞5.0×105cellを35mm dishにあらかじめ接着させ、血清成分を除くために無血清のGrace培地2mlに交換し、上記の混合液を全量加えた。27℃で一晩培養し、無血清培地を10%FBS入りGrace培地に交換し、27℃で4日間培養した。 4日後、35mmディッシュの底をラバーポリスマンで引っ掻き、細胞懸濁液を回収し、遠心(5000 rpm、5min、4℃)して細胞を沈殿させ、その上清を回収した。得られた組換えバキュロウイルス溶液のタイターを上げるため、それぞれのウイルス溶液を用い、立ち上げ接種を行った。Sf21を2.0×104cell/dishとなるように播種しディッシュに細胞を吸着させた後、培地を取り除き、組換えバキュロウイルス溶液200μl加え、組換えバキュロウイルス溶液が全体に広がるように、15分ごとに計1時間振盪した。そして、10%FBSを含んだGrace培地を2ml加え、27℃で5日間培養した。培養後、ラバーポリスマンで培養液を掻き取り、ファルコンチューブに移し遠心(5000 rpm、5min、4℃)した。その上清であるバキュロウイルス溶液を回収した。また、大量培養するために75cm2のフラスコにSf21細胞を2.0×105cells/flaskとなるように用意し、Grace培地(10%FBS)と合わせて14mlとなるようにした。このフラスコにさらに組換えバキュロウイルスを100μlずつ接種し、25℃で4日間培養した。培養後、ラバーポリスマンで培養液を掻き取り、ファルコンチューブに移し遠心(5000 rpm、5min、4℃)した。その上清であるバキュロウイルス溶液を回収した。その結果、AcNPV (Autographa californicanucleopolyhedrovirus) 由来のポリヘドリンプロモーターの下流でEcDOSを発現するH1/EcDOSとEcDOS/VP3の組換えバキュロウイルスのストックウイルス液を得た。 実施例2 多角体未固定のEcDOS酵素液の調製 35mmシャーレにSf21細胞を2.0×104cells/dishとなるように播種し、吸着させた。そこに組換えバキュロウイルス EcDOS/VP3とH1/EcDOSのどちらか一方のみ(以下、シングル接種と呼ぶ)を接種した。4日後、シャーレの底に吸着している細胞をラバーポリスマンで引っ掻き、その細胞懸濁液を1.5mlチューブに回収した後遠心(5000rpm、5min、4℃)し、細胞を沈殿させ上清を除いた。回収後のシャーレにPBS(−)(20mM NaH2PO4、20mM Na2HPO4、150mM NaCl[pH 7.2])を1ml加え、洗浄後に1.5mlチューブに移し、細胞を懸濁した。遠心(5000rpm、5min、4℃)し、細胞を沈殿させ上清を除いた。この沈殿にPBS(−)を加えて濁度がほぼ同じになる程度に再懸濁し、得られたシングル接種細胞液を酵素液とした。 実施例3 EcDOS固定化多角体の作製1.組換えウイルスの細胞への接種 35mmシャーレにSf21細胞を2.0×104cells/dishとなるように播種し、吸着させた。そこに組換えバキュロウイルス EcDOS/VP3とH1/EcDOSのどちらか一方とポリヘドリンを発現する組換えウイルスAcCP-Hを接種(以下、ダブル接種と呼ぶ)した。また、空の多角体を得るためにポリヘドリンを発現する組換えウイルスAcCP-Hのみの接種も行った。これらを27℃で4日間培養した。4日後、シャーレの底に吸着している細胞をラバーポリスマンで引っ掻き、その細胞懸濁液を1.5mlチューブに回収した後遠心(5000rpm、5min、4℃)し、細胞を沈殿させ上清を除いた。回収後のシャーレにPBS(−)(20mM NaH2PO4、20mM Na2HPO4、150mM NaCl[pH 7.2])を1ml加え、洗浄後に1.5mlチューブに移し、細胞を懸濁した。遠心(5000rpm、5min、4℃)し、細胞を沈殿させ上清を除いた。この沈殿にPBS(−)を加えて濁度がほぼ同じになる程度に再懸濁し、シングル接種細胞液とした。2.多角体の回収・精製 ダブル接種した感染後12日目の細胞をラバーポリスマンで掻き取り、50ml遠心用ポリエチレンチューブに懸濁液を回収した。これを遠心(7000 rpm、5min、4℃)した後、上清を取り除き、沈殿した細胞を500μlのPBS(−)に再懸濁し、1.5mlチューブに回収した。さらに500μl のPBS(−)でファルコンを洗い、1.5 mlチューブに回収した。この細胞懸濁液をULTRA S.HOMOGENIZER(TAITEC)に30秒間かけ、氷上で冷やした後、もう30秒かけ、細胞を破砕した細胞片を取り除くため(5000 rpm、5min、4℃)、遠心を行なって上清を除去し、再び沈殿をPBS(−)700μlに再懸濁した。この操作を繰り返し行なって、細胞片を完全に取り除き多角体を精製した。精製後の多角体は、抗生物質入り滅菌水 (penicillin G 100 unit,streptomycin 100μg/ ml)に懸濁し,多角体の個数を1ml当たり5 × 104 個に濃度を調整し、4℃で保存した。 実施例4 SDS-PAGEによる組換えEcDOSの発現確認と多角体への固定化確認1.SDS-PAGEによる融合タンパク質の発現確認 シングル接種細胞液を40μl分注し、10μlの5×SDS sample Buffer (250mM Tris-HCl(pH6.8)、500mM dithiothreitol、10%SDS、0.5% bromophenol blue、50%glycerol)を加え、超音波洗浄機(エスエヌディー)で15分間細胞を破砕した後、100℃で5分間熱処理した。これをSDS-PAGEのサンプルとした。以下の表5に記した組成で、分離ゲルおよび濃縮ゲルを作製し、12.5%ポリアクリルアミドゲルを作製した。ゲル版(BIO-RAD)に分離ゲル溶液を流し込み、その上に蒸留水を重層し、ゲルが完全に固まるまで静置した。分離ゲルが固まった後、蒸留水を抜き取り、濃縮ゲル溶液を上から流し込み、コームを挿してゲルが固まるまで静置した。 このゲルを用い、調整したサンプルとプレステインテッドタンパク質マーカー(nacalai tesque)を使用し泳動用buffer(0.1%[w/v] SDS、0.3g/l Tris-base、14.2g/l Glycine)中で20mAの定電流下で電気泳動を行った。泳動後、ゲルをクーマシー染色液(0.25% Coomassie brilliant blue、10%酢酸、50%メタノール)中で90分間振盪し染色を行った。染色したゲルを脱色液(メタノール:酢酸:水=25:7:68)に浸し、ゲルを脱色した。2.ウェスタンブロッティングによる融合タンパク質の発現確認 SDS-PAGEと同様に泳動したゲルを用いて、ウェスタンブロッティングを行った。ゲルの大きさに合わせた濾紙を6枚と、ニトロセルロース膜(ADVANTEC)を1枚用意し、転写用Buffer A(0.3M Tris-base、20%[v/v] methanol)、転写用Buffer B(25mM Tris-base、20%[v/v] methanol)、転写用Buffer C(25mM Tris-base、20%[v/v] methanol、40mM Epcilon-Amino-capronic acid)にそれぞれ濾紙を2枚ずつ浸しておき、ニトロセルロース膜は転写用Buffer Cに浸した。セミドライ式転写装置の上に、転写用Buffer Aに浸した濾紙2枚、転写用Buffer Bに浸した濾紙2枚、ニトロセルロース膜、泳動後のゲル、転写用Buffer Cに浸した濾紙2枚の順に重ね、転写装置にセットし、ニトロセルロース膜1cm2あたり1mAの定電流で90分間転写した。転写後ニトロセルロース膜を5%スキムミルクを含むT-TBS buffer(20mM Tris-base、500mM NaCl、pH7.5、0.05%[v/v]Tween)に浸して30分振盪しブロッキングを行った。T-TBS bufferで10分間の洗浄を3回行い、3%スキムミルク/T-TBS bufferで洗浄し、10mlの3%スキムミルク/T-TBS bufferに浸し、抗 VP3 sig52 rabit 抗体を3.3μl加え、ニトロセルロース膜とともに室温で二時間振盪し一次抗体と反応させた。T-TBS bufferで2度洗浄し、10min振盪後、3%スキムミルク/T-TBS bufferで洗浄した。10mlの3%スキムミルク/T-TBS bufferに浸し、Goat Anti-Rabbit IgG(H+L)Horseradish peroxidase conjugate (BIORAD社)を3.3μl加え、ニトロセルロースとともに室温で1hour 二次抗体と反応させた。その後T-TBS bufferで10分間の洗浄を3回、TBS bufferで10分間の洗浄を2回行い、ペルオキシターゼ染色DABキット(nacalai tesque)を使用し、発色させた。 図5(A),(B)によれば、SDD-PAGE及びWestern Blottingにおいて、EcDOS/VP3多角体のレーンでは、EcDOS/VP3多角体を示す96.5KDaのバンドが検出された。 各多角体は、実施例5及び6で後に使用するまで冷蔵保存した。 実施例5 多角体固定化EcDOS酵素液の調製と酵素活性の測定 空の多角体及びEcDOS固定化多角体の各々をビーズ式細胞破砕装置Micro SmashTMMS-100R(トミー精工株式会社)で粉砕した。 詳細には、実施例4で得た各多角体を、5×104個/μLとなるようPBS溶液に懸濁し、この多角体含有懸濁液100μLにガラスビーズGB-01(粒子径0.1mm)を加え、5,000rpmで1分間撹拌し、これを5回繰り返した。粉砕処理を施した多角体懸濁液と、未粉砕の多角体懸濁液とを酵素液として、PDE-GloTM Phosphodiesterase Assay(Promega社)を用いてホスホジエステラーゼ活性を測定した(ATTO Luminescencer-JNR AB-2100)。その結果、図6に示されるように、H1/EcDOS多角体の粉砕試料では、H1/EcDOS多角体の未粉砕試料に比べて、ホスホジエステラーゼ(PDE)活性が100倍超に増大していた。このため、一旦H1/EcDOS多角体に封入された酵素ホスホジエステラーゼが、粉砕処理により、その酵素活性を示すように取り出されたことが示された。 このPDE-GloTMPhosphodiesterase Assayによる測定原理は図7に示した通りである。PDE活性が増大すると、図7の反応(1)に示すように、cAMPが分解される。すると、反応(2)が右方向に進み、プロテインキナーゼが活性化されない。その結果、反応(3)でATPが消費されず、反応(4)が進み、ルシフェラーゼの発光強度が増大する。空の多角体の粉砕試料でも、空の多角体の未粉砕試料に比べてPDE活性が増大していたが、これは粉砕により多角体の結晶体内のATPが放出され、図7の工程(4)が発光を増大させる方向に進んだためと推察される。 実施例6 粉砕回数による酵素活性の変化 実施例5に従って、H1/EcDOS多角体の各々を、ビーズ式細胞破砕装置Micro SmashTMMS-100R(トミー精工株式会社)で粉砕した。ただし、5,000rpmで1分間撹拌することを1回とし、これを8回行い、1回から8回のそれぞれについて酵素活性を測定した。その結果、5回までは酵素活性が上昇したが、6回以降は酵素活性が減少した(図8)。また、それぞれの回数ごとの多角体の状態を顕微鏡で確認した所、2回ではまだ多角体が観察され、4回でも多角体の一部とみられる構造物が観察された。しかし、5回以上では多角体は観察されなかった(図9)。 実施例7 多角体未固定および固定化EcDOSの酵素活性の安定性 実施例2のシングル接種によって得たウイルス感染細胞懸濁液と実施例3のダブル接種によって得られたH1/EcDOS多角体を25℃で1週間放置し、その酵素活性の変化をPDE-GloTM Phosphodiesterase Assay(Promega社)を用いて測定した(図2)。 多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法であって、 目的分子を封入した多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子を粉砕することにより、目的分子を、担体粒子の前記目的分子を封入した空間の外側に露出させる工程からなることを特徴とする方法。 前記粉砕することは、粉砕装置により粉砕することを含む請求項1に記載の取り出し方法。 粉砕時の目的分子が固定化された担体粒子を含む水溶液又は懸濁液のpHが10未満である請求項1又は2に記載の取り出し方法。 前記目的分子がタンパク質又はペプチドからなる請求項1に記載の取り出し方法。 前記目的分子が酵素である請求項1に記載の取り出し方法。 請求項1〜5のいずれか一項に記載の取り出し方法により得られた、目的分子が担体粒子の表面で露出した粉砕された担体粒子。 【課題】目的分子を、その活性を維持しつつ簡便に取り出すこと。【解決手段】多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子からの目的分子の取り出し方法は、目的分子を封入した多角体病ウイルスの多角体構造に由来する担体粒子を粉砕することにより、目的分子を、担体粒子の前記目的分子を封入した空間の外側に露出させる工程からなる。【選択図】なし