生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_新規なカウンターセレクション法
出願番号:2013226229
年次:2015
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

佃 美雪 宮崎 健太郎 中島 信孝 JP 2015084722 公開特許公報(A) 20150507 2013226229 20131031 新規なカウンターセレクション法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 佃 美雪 宮崎 健太郎 中島 信孝 C12N 15/09 20060101AFI20150410BHJP C12N 1/00 20060101ALI20150410BHJP JPC12N15/00 AC12N1/00 T 10 OL 25 4B024 4B065 4B024AA20 4B024CA01 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA06 4B024FA07 4B024FA10 4B024GA11 4B024HA20 4B065AA26 4B065AB01 4B065AC20 4B065BA02 4B065BD13 本発明は、大腸菌細胞内に存在するベクターを脱落せしめ、該ベクターを保持していない細胞を選択する方法に関する。より詳しくは、脱落せしめる対象ベクター上に大腸菌の生育に必須な遺伝子の発現を抑制する遺伝子を含ませ、該遺伝子をコンディショナルに発現させることにより、該マーカーを含むベクターを保持しない細胞を選択することを特徴とする、カウンターセレクション法、及び該方法に有効なカウンターセレクション遺伝子マーカーに関する。 細胞にベクターを導入する方法としては、化学的な方法(コンピテントセル法)、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、接合伝達法など、物理的、化学的、生物的な種々の方法がある。導入された細胞とそうでないものとの選別は、ベクター上に薬剤耐性遺伝子や栄養要求性遺伝子等の遺伝子マーカーを含ませ、薬剤耐性や栄養要求性などに基づき選択することが一般的である。 これに対し、一度細胞内に導入されたベクターを脱落せしめ、該ベクターを保持していない細胞を選択するには、以下の方法が考えられる。すなわち、細胞に導入する際に用いた選択マーカーを利用し、この選択マーカーの形質を失ったクローンを選択する方法がある。しかし、一度導入されたベクターは比較的安定的に細胞内に維持されるのが一般的であり、非選択条件で細胞を培養し続けた場合でも自然に脱落する頻度は低い。このため、導入時に用いたマーカーを指標に脱落クローンを選択するには大量のクローンをスクリーニングする必要があり、非常に非効率である。 薬剤耐性遺伝子や栄養要求性遺伝子マーカーのように導入されたベクターを簡便に選択するポジティブセレクションマーカーとなる遺伝子とは逆に、発現することで細胞を死に至らしめる遺伝子も存在する。例えば、ヌクレアーゼやプロテアーゼをコードする遺伝子、ある基質を変換することで毒物に変換する遺伝子などが知られている。このような毒性遺伝子は発現抑制することでクローニングすることが可能であり、発現抑制を解除することで細胞死を誘導することができる。この原理に基づき、細胞内からベクターを脱落したクローンを効率的に選択することが可能となる。このように、発現することで細胞死が誘導される原理を利用し、発現しないクローン、例えばそのような致死因子を脱落したクローンを選択する方法はカウンターセレクションと呼ばれている。 細胞内にベクターを導入する技術については各種選択マーカーや複製開始点の組み合わせにより多様な方法が取られる一方、ベクターを脱落するための技術は方法論、マーカー遺伝子ともに不足しており、その開発が強く求められている。とりわけ、遺伝子工学実験で頻用される大腸菌において有効なカウンターセレクションマーカーの開発が求められてきた。 これまで、カウンターセレクションに使用する致死性遺伝子としては、大腸菌などのグラム陰性菌において、枯草菌由来のsacB遺伝子がよく知られている(非特許文献1)。大腸菌などのグラム陰性菌において、sacB遺伝子産物であるレバンシュークラーゼはショ糖をレバンに変換し、レバンがペリプラズム層に蓄積することにより細胞が死に至ることが知られている。ショ糖の非存在下では致死性を示さないことから、ショ糖の有無によりコンディショナルにsacB遺伝子を含むベクターを選択できる。本方法は、大腸菌を中心に広く用いられているが、レバンシュークラーゼ酵素自身が非特異的に細胞毒性を持つことなども報告されており、またショ糖添加により細胞死を誘導する際、5%〜15%程度の極めて高濃度のショ糖という通常の生育条件から乖離した条件を適用することによる予期せぬ変異の発生や表現型の変化も懸念されている。また、sacB遺伝子を用いたカウンターセレクションでは、ショ糖なしの非選択培地で選択後、改めてショ糖培地にて選択する必要がある。このように多段階を要することが欠点となっていた。より迅速に目的プラスミドDNAのみが機能する細胞を選択する方法としては、直接脱落条件を適用出来ることが望ましい。また、固体培地のみならず、液体培地で選択可能であることも望まれるが、sacB遺伝子を利用した液体培地での選択では擬陽性が多く検出されてしまうこともよく知られている(非特許文献2)。遺伝子工学実験の宿主として最も頻用される大腸菌の場合、sacB遺伝子以外にカウンターセレクション遺伝子マーカーがいくつか報告されている(非特許文献3)。しかしながら、従来のマーカーには、種々の問題があり、例えば、特殊な遺伝子型を持つ宿主菌にしか適用できない、液体培地での選択に好適に用いることができない等、必ずしも安定的にかつ簡便に利用することができなかった。そこで、カウンターセレクションの新たな方法、マーカーの開発が求められている。 上記の方法では、ベクター内に細胞死を誘導する遺伝子を含ませる方法について例示したが、遺伝子そのものには毒性はないが、発現することにより生育必須遺伝子の発現を抑制することにより、細胞を死に至らしめることも可能である。例えば、大腸菌のゲノムには生育に必須な遺伝子が数多くもコードされている。例えば脂質合成系のfabI遺伝子などが挙げられる。本遺伝子などを発現抑制すれば、発現抑制因子を含むベクターを脱落した細胞を選択することができると思われる。 また、大腸菌ゲノムやゲノム外DNAには、多くの毒性遺伝子・抗毒性遺伝子(TA family)も含まれている。例としてccdAB遺伝子(非特許文献4)、relBE遺伝子(非特許文献5)、mqzEF遺伝子(非特許文献6)、dinJ/yafQ遺伝子(非特許文献7)、hipBA遺伝子(非特許文献8)、hicAB遺伝子(非特許文献9)、pas遺伝子(非特許文献10)、yefM-yoeB遺伝子(非特許文献11)、mqsRA遺伝子(非特許文献12)、rnlAB遺伝子(非特許文献13)などが知られている。これらに関わる毒性遺伝子は通常の生育条件では毒素遺伝子に対して抗毒素遺伝子が過剰量発現することで、毒性をマスクしている。そのため、抗毒素遺伝子の発現を抑制することにより、毒素遺伝子が機能し、細胞死に至らしめることが可能である。Gay, P. et al., J. Bacteriol. 164: 918-921. 1985Hiroshi Mizoguchi et al., Biosci. Biothechnol. Biochem., 71 (12), 2905-2911, 2007JEAN-MARC REYRAT et al., Infection and Immunity, 66, 9, 4011-4017, 1998Van Melderen et al., Mol. Microbiol. 11, 1151-1157, 1994Christensen, S.K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98, 14328-14333, 2001Christensen, S.K. et al., J. Mol. Biol. 332, 809-819. 2003Prysak, M.H. et al., Mol. Microbiol. 71, 1071-1087. 2009Hansen, S. et al., PLoS One 7 (6), e39185.Jorgensen, M.G. et al., J. Bacteriol. 191, 1191-1199. 2009Smith, A.S.G. et al., J. Bacteriol. 180, 5458-5462. 1998Christensen, S.K. et al., Mol. Microbiol. 51, 1705-1717. 2004Wang, X. et al., Nat. Chem. Biol. 7, 359-366. 2011Koga, M. et al., Genetics 187, 123-130. 2011. 細胞にベクターを導入する技術は確立されている一方、ベクターを脱落した細胞を選択することによりベクターを脱落、除去する技術の進展は乏しい。カウンターセレクションに基づく従来のベクター選択方法では、一般的に液体培養によって行なう実験系が皆無であった。すなわち、プレート培養による選択方法が主流であったが、この方法では選択するまでに時間がかかること、大規模なサンプルの処理には不都合なことが問題となっている。 本発明では、アンチセンス法を用いたカウンターセレクション方法の提供、該方法に用いる有効なカウンターセレクションマーカーの提供を目的とし、それらの提供により、従来法に比して操作性を向上させることができる。 上記課題を解決する為に、発明者らは、必須遺伝子の発現を抑制する技術に着目した。中でも、アンチセンスRNAに着目した。アンチセンスRNAは、標的遺伝子のmRNAにハイブリダイズし、そのmRNAの翻訳阻害や、分解促進を行なう事によって標的遺伝子の発現を抑制する。一般的に、標的遺伝子mRNAのリボソーム結合部位(RBS)からスタートコドン周辺を標的配列にすると最も効率よく発現抑制ができるとされている。本発明では、宿主として大腸菌を用いた。ベクターとしてはプラスミドDNAを用いた。アンチセンスRNAの標的遺伝子は、発現抑制によって大腸菌の生育を阻害するもの、特に必須遺伝子や毒性遺伝子・抗毒性遺伝子システム(TAシステム)の抗毒性遺伝子とする。本発明では、予め、前記標的遺伝子に対するアンチセンスDNAをプラスミドDNAにコードしておく。そして、アンチセンスRNAを発現することにより、標的必須遺伝子の発現量を低下させる。必須遺伝子の発現量の低下した細胞は生育できなくなるため、その状況下で生育可能な細胞は、プラスミドDNAが除去されたもののみとなる。このようなプラスミドDNA選択方法に使用可能な大腸菌内のTAシステムは、上で例示した通り数多く存在し、その他の生育必須遺伝子についても302もの遺伝子が知られている(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/)(Kato J. et al., Mol. Syst. Biol. 2007;3:132)。本発明では、大腸菌MG1655株(ゲノム配列:NC_000913.2)にコードされた必須遺伝子とTAシステムの中から、必須遺伝子であるfabI遺伝子と種々のTAシステムを標的に効果的なカウンターセレクションができるターゲット、それに応じた遺伝子マーカーを開発した。その結果、毒性遺伝子mqsR遺伝子の抗毒性遺伝子のmqsA遺伝子、毒性遺伝子rnlA遺伝子の抗毒性遺伝子のrnlB遺伝子を標的遺伝子として選んだ場合に特に良好な結果を示した。 すなわち、本発明は、以下のプラスミドDNA選択方法および当該方法で用いるアンチセンスRNA、それがコードされたプラスミドDNA、そのプラスミドDNAを含む大腸菌株を包含する。 従って、本発明は以下の通りである。[1] 大腸菌において発現を抑制することにより致死となる遺伝子を標的とするアンチセンスRNAをコードするDNAを発現する発現ベクターを大腸菌に導入し、アンチセンスRNAを発現させることにより該ベクターを保持する大腸菌を死滅させ、前記ベクターを保持しない大腸菌を選択することを含むカウンターセレクション方法。[2] アンチセンスRNAをコードするDNAに発現誘導性プロモーターを連結させ、発現誘導によりアンチセンスRNAを発現させる、[1]のカウンターセレクション方法。[3] 発現を抑制することにより致死となる遺伝子が大腸菌の生育に必須な遺伝子である、[1]又は[2]のカウンターセレクション方法。[4] 大腸菌の生育に必須な遺伝子がfabI遺伝子である、[3]のカウンターセレクション方法。[5] 発現を抑制することにより致死となる遺伝子が大腸菌の抗毒性遺伝子である、[1]又は[2]のカウンターセレクション方法。[6] 大腸菌の抗毒性遺伝子がmqsA遺伝子又はrnlB遺伝子である、[5]のカウンターセレクション方法。[7] [1]のカウンターセレクションに用いる、アンチセンスRNAをコードするDNAを含み、該アンチセンスRNAを発現し得るベクター。[8] アンチセンスRNAをコードするDNAに発現誘導性プロモーターが連結しており、発現誘導により、アンチセンスRNAが発現する、[7]のベクター。[9] アンチセンスRNAが大腸菌の生育に必須な遺伝子、又は大腸菌の抗毒性遺伝子を標的とし発現を抑制する、[7]又は[8]のベクター。[10] 大腸菌の生育に必須な遺伝子がfabI遺伝子であり、大腸菌の抗毒性遺伝子がmqsA遺伝子又はrnlB遺伝子である、[9]のベクター。 大腸菌の形質転換方法の確立と多種多様な抗生物質及びその耐性遺伝子の存在により、様々なベクターを簡便かつハイスループットに細胞内に導入できるようになり、組換えDNA実験は大きく発展した。これに対し、一度導入されたベクターを細胞から脱落させる技術は未熟である。合成生物学の時代を迎え、ゲノムを直接改変することがなされるようになった。ゲノム改変などの手法で育種した変異株の性質を特徴づけるには、宿主菌にベクターを導入するとともに、自在に脱落させる技術が必要である。例えば、ゲノム改変によりベクターにコードされた外来遺伝子の発現が向上するようになった変異株を選択する場合など、宿主菌株から導入したベクターを脱落させ、再度ベクターを導入し、変異株の特性を見極めることがなされる。このような、当該ベクターを持たないもののみが選択される技術、すなわちカウンターセレクション技術は、ゲノム工学をはじめとする合成生物学に無くてはならない技術であるが、使用可能なカウンターセレクションマーカーは限定的である。 組換え実験で最もよく利用される大腸菌においては、ショ糖存在下で毒性を示す枯草菌由来のsacB遺伝子がカウンターセレクションマーカーとして利用されてきた。しかし、sacB遺伝子を用いたカウンターセレクションは液体培養には不向きで、一度ショ糖なし培地で増殖したコロニーをショ糖入りの寒天培地で選択することで脱落させることがなされてきた。このように、最もよく利用されるsacB遺伝子においても、手間や効率の点で不利な点があった。トリクロサン(0.2μM)とアンチセンスRNAによる宿主大腸菌の致死効果を示す図である。fabI遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション効果(pHSG299)を示す図である。図2Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図2Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図2Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。fabI遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション効果(pHSG396)を示す図である。図3Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図3Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図3Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAの細胞内量による宿主大腸菌の致死効果を示す図である。mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション効果(pHSG299)を示す図である。図5Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図5Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図5Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション効果(pHSG396)を示す図である。図6Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図6Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図6Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAの細胞内量による宿主大腸菌の致死効果を示す図である。rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAを利用したカウンターセレクション効果(pHSG299)を示す図である。図8Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図8Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図8Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAを利用したカウンターセレクション効果(pHSG396)を示す図である。図9Aはカウンターセレクション開始から5時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図9Bはカウンターセレクション開始から10時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を、図9Cはカウンターセレクション開始から15時間後の培養液に存在する各薬剤耐性細胞の割合を示す。和合性プラスミドが共発現する細胞でのカウンターセレクション効果を示す図である。各プラスミドDNAの組み合わせ時のカウンターセレクション効果を示す図である。横軸は、カウンターセレクション開始から15時間培養後の菌液50μLをプレート培養した際のCFUを表している(対数グラフ)。fabI×pHSG299はpHN1009-fabIとpHSG299が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を、fabI×pHSG396はpHN1009-fabIとpHSG396が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を、mqsA×pHSG299はpHN1009-mqsAとpHSG299が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を、mqsA×pHSG396はpHN1009-mqsAとpHSG396が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を、rnlB×pHSG299はpHN1009-rnlBとpHSG299が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を、rnlB×pHSG299はpHN1009-rnlBとpHSG396が含まれる大腸菌JM109でのカウンターセレクションの結果を示している。スクロースによる致死効果を示す図である、図12A、B、C及びDは、それぞれ、スクロース0%、1%、5%及び10%を含む場合の効果を示す。sacB遺伝子の発現による細胞増殖の抑制を示す図である。図13A、B及びCは、それぞれ、0.01mM、0.1mM及び1.0mM IPTGを含むLB培地を用いた場合の結果を示す。大腸菌K-12 MG1655株で同定された生育に必須な302遺伝子を示す図である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、カウンターセレクションにより、特定のベクターを保持している宿主細胞(E.coli)を死滅させ、該特定のベクターが自然に脱落しそのベクターを保持していない宿主細胞のみを選択的に生存させる方法である。カウンターセレクションとは、発現することにより細胞死を誘導し得る核酸を利用し、該核酸が脱落等することにより、該遺伝子が発現しない細胞を選択する方法をいう。本発明の方法により、結果的に宿主細胞集団から特定のベクターを脱落させ、除去することができる。この点で、本発明は細胞中のベクターを脱落させる方法ということもできる。 本発明のカウンターセレクション方法において、脱落させようとするベクターには、あらかじめ発現を抑制することにより致死になる遺伝子を抑制し得る核酸を含ませておく。発現を抑制することにより致死になる遺伝子として、宿主細胞の生育に必須な遺伝子の発現を抑制し得る核酸、又は宿主細胞の毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)において、抗毒性遺伝子の発現を抑制し得る核酸が挙げられる。 生育に必要な遺伝子とは、その遺伝子の発現がなければ大腸菌が生育できないものをいう。該遺伝子を特定の化合物で誘導すること等によりコンディショナルに発現させると宿主細胞の生育に必須な遺伝子の発現が抑制され、前記ベクターを保持している宿主細胞が死滅する。 また、宿主細胞の生育に必須な遺伝子の発現を抑制する核酸の代わりに、宿主細胞の毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)において、抗毒性遺伝子の発現を抑制し得る核酸を用いることもできる。抗毒素遺伝子の発現を抑制することにより、宿主細胞において毒素遺伝子が作用し、宿主細胞が死滅する。 本発明のカウンターセレクションを利用した方法により、死滅させることができる宿主細胞は、遺伝子工学技術においてベクターを導入し得る宿主細胞ならば限定されず、細菌、真菌、動物細胞等を含み、発現抑制により宿主細胞が死滅する、生育に必須な遺伝子や抗毒素遺伝子が知られている細胞が対象となる。この点、大腸菌は生育に必須な遺伝子や抗毒素遺伝子が解析されており、本発明のカウンターセレクション方法を好適に適用することができる。 本発明の方法において、アンチセンスRNAが標的とする遺伝子をカウンターセレクションマーカーと呼ぶ。 大腸菌の発現に必須な遺伝子(essential gene)として、例えば、大腸菌MG1655株(ゲノム配列:NC_000913.2)ではゲノムにコードされた遺伝子はトータルで4,746遺伝子あると報告されている。生育に必須遺伝子はそのうちの302遺伝子である。大腸菌MG1655株の発現に必須の遺伝子としては、データベースPec Profiling of E.coli Chromosome(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/)、Kato J. et al., Mol. Syst. Biol. (2007) 3:132)、Homma et al., Gene (2002) 294:25-33)等に記載の必須遺伝子から選択することができる。大腸菌K-12 MG1655株で同定された生育に必須な302遺伝子を図14に示す。これは、大腸菌K-12 MG1655株で同定された遺伝子であるが、他の株においても、同一の遺伝子あるいは相同遺伝子から選択すればよい。本発明のカウンターセレクション方法を大腸菌に適用する場合、この生育に必須な302遺伝子、あるいはその相同遺伝子が発現抑制すべき遺伝子となる。これらの遺伝子は大腸菌の生育に必須であることが判明している遺伝子であり、生育に必須である遺伝子の発現を抑制することにより、大腸菌が致死となることは自明であり、当業者ならば上記の302遺伝子のいずれを本願発明の「発現を抑制することにより致死となる遺伝子」として用い得ることを予測することができる。 本発明で利用する大腸菌の株は限定されないが、研究や有用物資の生産に通常利用されているK-12株(NBRC 3301)及びB株(NBRC 13168)、あるいはこれらの株から派生した亜株を好適に用いることができる。K-12株及びB株並びにそれらの亜株として、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株、BB4株、BL21株、BM25.5株、BMH71-18mutS株、BW313株、C-Ia株、C600株、CJ236株、DH1株、DH5株、DH5α株、DH10B株、DP50supF株、ED8654株、ED8767株、ER1647株、ER2508株、HB101株、HMS174株、HST02株、HMS174株、HST02株、HST04 dam-/dcm-株、HST08 Premium株、JM83株、JM101株、JM105株、JM106株、JM107株、JM108株、JM109株、JM110株、K802株、K803株、LE392株、MC1061株、MV1184株、MN1193株、NovaBlue株、RR1株、TAP90株、TG1株、TG2株、TH2株、χ1776株、Y-1088株、Y-1099株、Y-1090株、REL606株等が挙げられる。これらのうち、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株等はK-12株由来の株としてよく利用されている株であり、REL606株及びBL21株等はB株由来の株としてよく利用されている株である。 302の大腸菌の生育に必須の遺伝子の中でも、例えば、fabI遺伝子、accA遺伝子、infC遺伝子等を好適に選択することができる。 また、毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)における抗毒素遺伝子として、ccdAB遺伝子、relBE遺伝子、mqzEF遺伝子、dinJ/yafQ遺伝子、hipBA遺伝子、hicAB遺伝子、pas遺伝子、yefM-yoeB遺伝子、mqsRA遺伝子、rnlAB遺伝子等を好適に選択することができる。これは、大腸菌K-12 MG1655株で同定された遺伝子であるが、他の株においても、同一の遺伝子あるいは相同遺伝子から選択すればよい。 宿主細胞の生育に必須な遺伝子、又は抗毒素遺伝子の発現を、宿主細胞の生育に必須な遺伝子、又は抗毒素遺伝子を標的とするアンチセンスRNAを用いることにより抑制する。すなわち、脱落させようとするベクターに、あらかじめ含ませておく宿主細胞の生育に必須な遺伝子の発現を抑制する核酸、又は抗毒素遺伝子の発現を抑制する核酸としては、アンチセンスRNAをコードするDNAを用いればよい。アンチセンスRNAは、上記の宿主細胞の生育に必須な遺伝子、又は抗毒素遺伝子のDNA配列の一部に相補的な配列からなるRNAであり、宿主細胞の生育に必須な遺伝子、又は抗毒素遺伝子のmRNAに相補的に結合し、該遺伝子の翻訳を阻害し、発現を抑制する。アンチセンスRNAは、長さが10〜400のヌクレオチドであり、好ましくは長さが10〜250のヌクレオチド、さらに好ましくは長さが10〜150のヌクレオチド、さらに、好ましくは長さが15〜150のヌクレオチド、さらに好ましくは長さが50〜150のヌクレオチドである。アンチセンスRNAが相補的に結合する位置は限定されないが、遺伝子発現のサイレンシング効果が強く表れる領域が好ましい。このような領域として、標的遺伝子のリボソーム結合領域(RBS)及び開始コドンを含む領域が好ましい。また、アンチセンスRNA分子内で二次構造を形成しないことが望ましく、このためアンチセンス内に互いに相補的な配列部分が存在しないことが望ましい。さらに、アンチセンスRNAを含む転写物全域も二次構造を形成しない事が望ましい。アンチセンスRNAの標的配列の手法として種々の方法が知られており、発現を制御しようとする遺伝子の配列情報に基づいて適切な配列を設計することができる。 アンチセンスRNAがコードされたDNAを含むベクターから転写されるアンチセンスRNAは、細胞内でRNaseEなどのRNAヌクレアーゼによって分解されるが、アンチセンスRNAを含む転写物の両末端が二次構造を形成する等して、RNaseEなどのヌクレアーゼからの分解を阻害するような構造をしているものが好ましい。 大腸菌の生育に必須な遺伝子であるfabI遺伝子、accA遺伝子及びinfC遺伝子の塩基配列を、それぞれ、配列番号29、配列番号30及び配列番号31に示す。また、抗毒素遺伝子relB遺伝子、mazE遺伝子、dinJ遺伝子、hipB遺伝子、yefM遺伝子、mqsA遺伝子及びrnlB遺伝子の遺伝子塩基配列を、それぞれ、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37及び配列番号38に示す。 アンチセンスRNAの例として、fabI遺伝子、relB遺伝子、mqzE遺伝子、dinJ遺伝子、hipB遺伝子、yefM遺伝子、mqsA遺伝子、rnlB遺伝子の発現制御に用い得るアンチセンスRNAを以下に示す。以下においては、アンチセンスRNAをコードするDNA配列(アンチセンスDNA配列)を示す。本発明のカウンターセレクション方法により脱落させようとするベクターに、以下のDNA配列からアンチセンス配列が転写されるように挿入すればよい。fabI遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域GGTTGATTATAATAACCGTTTATCTGTTCGTACTGTTTACTAAAACGACGAATCGCCTGATTTTCAGGCACAACAAGCATCAACAATAAGGATTAAAGCTATGGGTTTTCTTTCCGGTAAGCGCATTCTGGTAACCGGTGTTGCCAGCAAACTATCCATCGCCTACGGTATCGCTCAGGCGATGCA(配列番号1)relB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域GCGATACTTGTAATGACATTTGTAATTACAAGAGGTGTAAGACATGGGTAGCATTAACCTGCGTATTGACGATGAACTTAAAGCGCGTTCTTACG(配列番号18)mqzE遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域ATATACTGTATCTACATATGATAGCGGTTTGAGGAAAGGGTTATGATCCACAGTAGCGTAAAGCGTTGGGGAAATTCACCGGCGGTGCGGATCCCGGCTACGT(配列番号19)dinJ遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域CTACAATTCAAGCTGAATAAATATACAGCACAGGAGATACCCCAATGGCTGCTAACGCGTTTGTTCGCGCCCGAATCGATGAAGATCTGAAGAATCAGGCAGCGGACGTACTGG(配列番号20)hipB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域GATAAAACTTATAATATCCCCTTAAGCGGATAAACTTGCTGTGGACGTATGACATGATGAGCTTTCAGAAGATCTATAGCCCAACGCAATTGGCGAATGCAATGA(配列番号21)hicB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域CGCCAATTAAAAAGGTTAATGACATGCGAGAGACAGTCGAAATTATGCGTTATCCCGTCACTCTTACACCCGCGCCGGAAGGCGGTTATATGGTTTCTT(配列番号22)yefM遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域TAACGCTCATCATTGTACAATGAACTGTACAAAAGAGGAGATTGACATGCGTACAATTAGCTACAGCGAAGCGCGTCAGAATTTGTCGGCAACAATGATGAAAG(配列番号23)mqsA遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域ATTACGGTAATTCATGACGTACTGATCGTCTCGTTTAAGGAGAAGTAATATGAAATGTCCGGTTTGCCACCAGGGAGAAATGGTTTCTGGCATTAAAGATATT(配列番号24) 本発明のカウンターセレクションにおいては、脱落させようとするベクターに上記のアンチセンスRNAをコードするDNAを含ませればよい。この際、アンチセンスRNAの発現は、例えば、特定の化合物で誘導することによりコンディショナルに発現させればよい。アンチセンスRNAをコンディショナルに発現させる方法として、特定の物質で誘導されるプロモーターを用いればよい。このような発現誘導性プロモーターとして、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)誘導性のlacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、キシロース誘導性のxylFプロモーター、xylAプロモーター、xylBプロモーター、アラビノース誘導性のaraBADプロモーター、araBプロモーター、等が挙げられる。脱落させようとするベクター中にアンチセンスRNAをコードするDNAに上記プロモーターを作動可能に連結すればよい。 用いる発現ベクターには、プロモーター、上記のアンチセンスRNAをコードするDNAのほか、ターミネーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、イントロンの5’末端側に存在するスプライス供与部位及びイントロンの3’末端側に存在するスプライス受容部位からなるスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、薬剤耐性選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを作動可能に連結して用いればよい。薬剤耐性選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。 また、アンチセンスRNAを発現し得るベクターを用いずに、特定のベクターを脱落させたい時期に細胞外から、アンチセンスRNAを添加し、宿主細胞内に取り込ませてもよい。この場合、例えばアンチセンスRNAを化学合成し、それを添加すればよい。 さらに、アンチセンスRNAの代わりに発現を抑制することにより致死になる遺伝子を抑制し得るPNA(ペプチド核酸)やdsRNA(double stranded RNA)等を用いてもよい。dsRNAはRNA干渉(RNAi)により致死になる遺伝子のmRNAを切断し、該遺伝子の発現を抑制する。dsRNA分子は、siRNA分子及びshRNA分子を含み、またmiRNA分子を形成し得る。dsRNAを用いる場合、脱落させようとするベクターにdsRNAをコードするDNAを含ませればよい。 本発明において、例えば、ある遺伝子に対するアンチセンスRNAをコードするDNAを含むプラスミドを、遺伝子がfabI遺伝子であり、プラスミドがpH1009である場合、pH1009-fabIのように示す。 宿主細胞に、アンチセンスRNAをコードするDNAを含むベクター以外の他のベクターが含まれている場合、本発明のカウンターセレクション法により、アンチセンスRNAをコードするDNAを含むベクターを脱落させ、他のベクターを回収することができる。この場合、アンチセンスRNAを含むベクターと他のベクターは不和合性であることが好ましい。他のベクターは限定されないが、pHSG299やpHSG396、pUC18、pUC19、pJexpress404等が挙げられる。 宿主細胞へのベクターの導入方法は、限定されず、例えばカルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。用いるベクターも限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等の公知の発現ベクターを利用することができる。 宿主細胞の培養は公知の方法に従い行うことができる。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDM等を使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液やその他のサプリメント試薬等を添加して用いればよい。 本発明のカウンターセレクションを行なうときの培養温度は限定されないが、30〜40℃、好ましくは35〜40℃、さらに好ましくは37℃である。 本発明のカウンターセレクション方法は、液体培養で行なうことが可能であるが、寒天培地等を用いるプレート培養等の固体培養でも行なうこともできる。 本発明は、宿主細胞の生育に必須な遺伝子や宿主細胞の毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)における抗毒性遺伝子を標的とし、これらの発現を抑制し得る上記のアンチセンスRNAをコードするDNAを含み、カウンターセレクションに用いるためのベクターを含む。該ベクターは、アンチセンスRNAを誘導発現させるために、アンチセンスRNAをコードするDNAに作動可能に連結した発現誘導性プロモーターを含んでいてもよい。さらに、該発現ベクターは、プロモーター、上記のアンチセンスRNAをコードするDNAのほか、ターミネーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、イントロンの5’末端側に存在するスプライス供与部位及びイントロンの3’末端側に存在するスプライス受容部位からなるスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、薬剤耐性選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを作動可能に連結して含んでいてもよい。 本発明は、カウンターセレクションに用いるための遺伝子からなるカウンターセレクションマーカーを含む。該カウンターセレクションマーカーとして、発現することにより宿主細胞が致死になる遺伝子が挙げられ、宿主細胞の生育に必須な遺伝子や宿主細胞の毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)における抗毒性遺伝子が含まれる。具体的には、例えば、大腸菌の生育に必須の遺伝子として、fabI遺伝子、accA遺伝子、infC遺伝子等が挙げられ、毒性遺伝子-抗毒性遺伝子システム(TAシステム)における抗毒素遺伝子として、ccdAB遺伝子、relBE遺伝子、mazEF遺伝子、dinJ/yafQ遺伝子、hipBA遺伝子、hicAB遺伝子、pas遺伝子、yefM-yoeB遺伝子、mqsRA遺伝子、rnlAB遺伝子等が挙げられる。 以下に本発明の実施例を説明するが、ここで挙げる実施例は単なる具体例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。実施例1 大腸菌必須遺伝子、fabI遺伝子を標的遺伝子としたアンチセンスRNAの利用によるカウンターセレクション(1)fabI遺伝子を標的遺伝子としたアンチセンスRNAがコードされた発現プラスミドの構築 アンチセンスRNA発現プラスミドとして、中島らによって構築されたpHN1009を用いた(Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2006; Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2009)。ここにfabI遺伝子に対するアンチセンスRNAがコードされたプラスミドDNA、fabI-PT7 asRNA plasmid(本願内ではpHN1009-fabIと呼ぶ)はJM109の形質転換に使用された(Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2006; Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2009)。その形質転換体からプラスミドDNAを精製した。fabI遺伝子に対するRNA領域のPCR増幅には、オリゴヌクレオチドプライマーとして、配列番号39(sSN90)及び配列番号40(sSN91)のプライマーを用いた。(2)fabI遺伝子に対するアンチセンスRNAのサイレンシング効果 pHN1009-fabI一種類のプラスミドDNAのみを含む大腸菌JM109株のアンチセンスRNAの転写誘導による細胞死を観察する。アンチセンスRNAの細胞内濃度はイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside、IPTG)の濃度によって調節できる。そこで、IPTGの添加量に応じた細胞の増殖を以下の手順に従い観察した。また、トリクロサンはFabIの合成に関し、阻害剤として機能する。この事から、低濃度のトリクロサンを培地中に添加した状態は、添加しない場合と比べてアンチセンスRNAによるfabIの発現抑制が高くなることが知られている。そこで、各条件において、トリクロサンを添加することとした。 まず、pHN1009-fabIにより大腸菌JM109を形質転換した。寒天プレート上に生育した形質転換体コロニーを2 mL LB培地(50μg/mL アンピシリン)に植菌して37℃で17時間培養した。その後、トリクロサン0.2μM、IPTG 0, 0.1, 0.5, 1.0 mMのLB培地(50μg/mL アンピシリン)に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。そして、37℃で15時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。 その結果、アンチセンスRNAの転写誘導をした場合とそうではない場合とでは、転写誘導に使用したIPTGの濃度にほぼ関係なく、増殖し始める時間に約8時間の違いが観察された(図1)。これは、アンチセンスRNAの発現により増殖が抑制された事を意味している。しかし、完全な死滅には至らなかった。(3)fabI遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション 本実施例では、複数種のプラスミドを保持する大腸菌から、アンチセンスDNAを含むプラスミドを選択的に除去することにより、除去効率を定量評価した。大腸菌宿主はJM109株を使用し、アンチセンスDNAを含むプラスミドはpHN1009-fabIを使用する。これに加え、pHSG299(タカラバイオ社製、カナマイシン耐性)またはpHSG396(タカラバイオ社製、クロラムフェニコール耐性)をpHN1009-fabI保持菌と共存させた。 まず、大腸菌JM109株をpHN1009-fabIにより形質転換し、さらに本組換JM109を定法(Hanahan法)に従いコンピテントセル化した。本コンピテントセルをpHSG299あるいはpHSG396により形質転換した結果、pHSG299を使用した場合は1×106 CFU/μL、pHSG396の場合は1×105 CFU/μLの効率が得られた。 このコンピテントセル100μLとpHSG299 40 ngを混合し、氷上で15分間静置した。その後、42℃で45秒間熱ショックを与え、再び氷上で1分間静置した。そこにSOC培地1 mLを加え、37℃で45分間震盪培養した。次に、500μLの8種類の培地、(1)LB Lennox、(2)LB Lennox、0.5 mM IPTG、(3)LB Lennox、カナマイシン25μg/ml、(4)LB Lennox、カナマイシン25μg/ml、0.5 mM IPTG、(5)LB Lennox、0.2μM トリクロサン、(6)LB Lennox、0.2μM トリクロサン、0.5 mM IPTG、(7)LB Lennox、0.2μM トリクロサン、25μg/ml カナマイシン、(8)LB Lennox、0.2μM トリクロサン、25μg/ml カナマイシン、0.5 mM IPTGに菌液を50μLずつ植菌し、37℃で震盪培養した。そして、5時間後、10時間後、15時間後の大腸菌細胞内のpHN1009-fabIとpHSG299またはpHSG396の2種のプラスミドの割合を、培養菌液をpHN1009-fabIの耐性薬剤であるアンピシリンプレート(LB Lennox, 50μg/ml アンピシリン)と、pHSG299の耐性薬剤であるカナマイシンプレート、またはpHSG396の耐性薬剤であるクロラムフェニコールプレートに同量を撒き、37℃で一晩培養して出現したコロニー数を計数した。 その結果、薬剤、IPTGともに非添加(LB)の場合、IPTGのみ添加の場合、トリクロサンのみ添加の場合、そして、トリクロサンとIPTGを添加の場合では、15時間培養しても大腸菌JM109内のプラスミドはすべてpHN1009-fabIであることがわかった(図2、C)。また、カナマイシンのみを添加した場合とトリクロサンとカナマイシンを添加した場合では、15時間培養時の細胞内プラスミドDNA存在率は、pHN1009-fabIとpHSG299が同等であった(図2、C)。一方、カナマイシンとIPTGを添加した場合と、トリクロサンとカナマイシン、IPTGを添加した場合では、15時間培養時の細胞内には100%pHSG299となっていた図2、C)。また、この条件の5時間培養時および10時間培養時でさえ、pHSG299が大部分占めている事が分かった(図2、A、B)。つまり、上記条件を適用することで、pHN1009-fabIを選択的に脱落させる事ができた。 また、pHN396を使用した場合では(抗生物質濃度は34μg/mL)、致死効果が現れるのに要する時間が長いものの、pHN299の時と同様の条件(クロラムフェニコールとIPTGを添加した場合とトリクロサンとクロラムフェニコールとIPTGを添加した場合)では、15時間培養時にpHN396のみの存在、pHN1009-fabIの脱落を確認できた(図3、C)。 以上より、大腸菌の必須遺伝子、fabI遺伝子に対するアンチセンスRNAを利用する事により、液体培養系でも選択的なカウンターセレクションを行えることを確認した。実施例2 アンチセンスRNAの標的となる大腸菌ゲノムにコードされている抗毒性遺伝子の選択(1)抗毒性遺伝子をターゲットとしたアンチセンスRNAの設計 relB(Van Melderen et al., Mol. Microbiol. 11, 1151-1157, 1994)、mazE(Christensen, S.K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 98, 14328-14333, 2001)、dinJ(Christensen, S.K. et al., J. Mol. Biol. 332, 809-819. 2003)、hipB(Prysak, M.H. et al., Mol. Microbiol. 71, 1071-1087. 2009)、hicB(Hansen, S. et al., PLoS One 7 (6), e39185.)、yefM(Smith, A.S.G. et al., J. Bacteriol. 180, 5458-5462. 1998)、mqsA(Christensen, S.K. et al., Mol. Microbiol. 51, 1705-1717. 2004)、rnlB(Wang, X. et al., Nat. Chem. Biol. 7, 359-366. 2011)遺伝子はみな、大腸菌MG1655株(NC_000913.2)のゲノムにコードされた抗毒性遺伝子である。これらの遺伝子の発現を抑制するアンチセンスRNAを各々設計した。設計されたアンチセンスRNAは、これらの遺伝子のRBS(リボソーム結合領域)と開始コドンを含み、全長が100bp程度である。(2)抗毒性遺伝子をターゲットとしたアンチセンスRNAの調整 大腸菌MG1655株(NC_000913.2)のゲノムを鋳型に、アンチセンスRNAとなる領域をPCR増幅により抽出した。その反応に用いたプライマーは、フォワードプライマーにはXhoI制限酵素切断部位が、リバースプライマーにはNcoI制限酵素切断部位が付加されているため、増幅産物には両端にこれらの制限酵素切断部位が添加されている。relB、mqzE、dinJ、hipB、hicB、yefM、mqsA、rnlB遺伝子に対応するアンチセンスRNA領域のPCR増幅には、オリゴヌクレオチドプライマーとして、配列番号2(relB-R-NcoI)、3(relB-F-XhoI)、4(mazE-R-NcoI)、5(mazE-F-XhoI)、6(dinJ-R-Nco)、7(dinJ-F-XhoI)、8(hipB-R-NcoI)、9(hipB-F-XhoI)、10(hicB-R-NcoI)、11(hicB-F-XhoI)、12(yefM-R-NcoI)、13(yefM-F-XhoI)、14(mqsA-R-NcoI)、15(mqsA-F-XhoI)、16(rnlB-R-NcoI)、17(rnlB-F-XhoI)を各々使用した。反応溶液(総量25μL)は、1x PCR Buffer for KOD Neo(東洋紡社製)、各0.2mM dATP、dGTP、dCTP、dTTP(以上、東洋紡社製)、各25 pmol プライマー、0.5μL ゲノムDNA(約10 ng)、0.5ユニット KOD Neo(東洋紡社製)を含む。本溶液を98℃ 2分間の保温後、98℃ 10秒、53℃ 30秒、68℃ 10秒の温度サイクルを25回繰り返し、最後に68℃で2分間保温した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、30μLの水で溶出した。その結果、アンチセンスDNAとして、配列番号18(relB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、19(mqzE遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、20(dinJ遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、21(hipB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、22(hicB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、23(yefM遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、24(mqsA遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)、25(rnlB遺伝子に対応したアンチセンスDNA領域)を得た。(3)アンチセンスRNA領域のPCR増幅断片の制限酵素処理 (2)で得られたDNA溶液に、3μL NEB Buffer 4(New England Biolabs社製)、5 ユニット NcoI(New England Biolabs社製)、5ユニット XhoI(New England Biolabs社製)を加え、37℃で2時間保温した。その後、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、20μLの水で溶出した。(4)アンチセンスRNA発現プラスミドの制限酵素処理 実施例1と同様に、アンチセンスRNA発現プラスミドとしてpHN1009を使用する(Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2006; Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2009)。アンチセンスDNAのクローニングは、制限酵素NcoIとXhoIで行なう。制限酵素反応液は、プラスミドDNA、pHN1009 40 ng(5μL)、2μL NEB Buffer 4(New England Biolabs社製)、5 ユニット NcoI(New England Biolabs社製)、5ユニット XhoI(New England Biolabs社製)を加え、総量が20μLとなるように滅菌水を加えた。反応液を37℃で5時間保温後、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、20μLの水で溶出した。(5)アンチセンスDNAのpHN1009へのクローニング (3)で得たDNA断片と、(4)で得た線状プラスミドDNAのライゲーションを行なう。反応液は、2μL T4 DNA Ligase Buffer(New England Biolabs社製)、5μLアンチセンスDNA溶液、5μL pHN1009溶液、400ユニット T4 DNA Ligase、滅菌水を加え総量を20μLとした。反応液を室温で1時間保温し、その一部を用いて大腸菌JM109を形質転換した。50μg/mlアンピシリンを含むLBプレートでコロニーを選択し、50μg/ml アンピシリンを含むLB培地で液体培養しグリセロースストック(終濃度20%となるように滅菌グリセロールを添加し、-80℃にて凍結保存)を作成するのと共に、培養液の一部からプラスミドを精製し、20μLの水で溶出した。こうして、各抗毒性遺伝子に対するアンチセンスDNAを含むアンチセンス発現プラスミドが発現する大腸菌JM109株を得た。(6)サイレンシング効果の検証 (5)で得られた大腸菌JM109株のアンチセンスRNA発現誘導によるサイレンシング効果を観察する。 まず、(5)で作製したグリセロースストックから2 mL LB培地(50μg/mLアンピシリン)に植菌して37℃で17時間培養した。その後、IPTG0 mMおよび1.0 mMのLB培地(50μg/mLアンピシリン)1000μlに1:10000で前培養菌液を混合し17時間培養した。その結果、mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAを使用した場合、とくに顕著なサイレンシング効果が観察された(表1)。mqsA以外では、rnlBに対応するアンチセンスRNAでも若干の増殖阻害効果が見られた(表1)。実施例3 大腸菌ゲノムにコードされている抗毒性遺伝子、mqsA遺伝子を標的遺伝子とするアンチセンスRNAの利用によるカウンターセレクション(1)mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAのサイレンシング効果 まず、実施例2の(5)で作製したグリセロースストックから2 mL LB培地(50μg/mLアンピシリン)に植菌して37℃で17時間培養した。その後、IPTG 0, 0.1, 0.5, 1.0 mMのLB培地(50μg/mLアンピシリン)に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。その後、37℃で22時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。その結果、培養液へのIPTGの添加によるアンチセンスRNAの転写誘導によって、細胞の生育が阻害され、培養15時間経っても増殖しないという事が分かった(図4)。(2)mqsA遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション 大腸菌宿主として、大腸菌JM109株を使用した。除去するプラスミドとして、pHN1009-mqsAを使用する。脱落効率を定量的に評価するため、pHN1009-mqsAとともにpHSG299(タカラバイオ社製、カナマイシン耐性)およびpHSG299(タカラバイオ社製、クロラムフェニコール耐性)を保持させた。 まず、pHN1009-mqsAにより大腸菌JM109株を形質転換し、さらに本形質転換体のコンピテントセルをHanahan法により作製した。形質転換効率を測定したところ、pHSG299を用いた場合1×106 CFU/μL、pHSG396を用いた1×105 CFU/μLと算出された。コンピテントセル100μLとpHSG299 40 ngを混合し、氷上で15分間放置した。その後、42℃で45秒間熱ショックを与え、再び氷上で1分間放置した。それにSOC培地1 mLを加え、37℃で45分間震盪培養した。その後、500μLの4種類の培地、(1)LB Lennox、(2)LB Lennox、0.5 mM IPTG、(3)LB Lennox、25μg/mlカナマイシン(pHSG299の場合)または34μg/mLクロラムフェニコール(pHSG396の場合)、(4)LB Lennox、25μg/mlカナマイシン(pHSG299の場合)または34μg/mL クロラムフェニコール(pHSG396の場合)、0.5 mM IPTGに50μLずつ植菌し、37℃で震盪培養した。5時間後、10時間後、15時間後の大腸菌細胞内のpHN1009-mqsAとpHSG299またはpHSG396の2種のプラスミドの割合を、培養菌液をpHN1009-mqsAの耐性薬剤であるアンピシリンプレート(LB Lennox, 50μg/ml アンピシリン)と、pHSG299の耐性薬剤であるカナマイシンプレート、またはpHSG396の耐性薬剤であるクロラムフェニコールプレートに同量を撒き、37℃で一晩培養して出現したコロニーの数で概算した。 pHSG299を使用した場合、抗生物質による選択もIPTGによるアンチセンスRNAの発現誘導を行わなかった場合、15時間培養後の大腸菌JM109内のプラスミドは全てpHN1009であることがわかった(図5、C)。また、IPTGを添加したのみの培地でも同様の結果となった(図5、C)。一方、抗生物質で選択した状態では、10時間培養後にはpHSG299が50%となっていた(図5、B)が、培養時間を伸ばしても完全にpHN1009-mqsAを細胞から除去する事はできなかった(図5、C)。薬剤による選択をかけた上で、IPTGを添加した場合では、10時間培養の時点でpHSG299の細胞内存在率が90%程になっており(図5、B)、更に5時間培養を継続するとpHN1009は完全に細胞から除去された(図5、C)。 また、pHSG396を使用した場合では、濃縮効果の現れの時期はやや遅いものの、pHSG299の時と同様の条件(抗生物質とIPTGを添加した場合)では、15時間培養時にカウンターセレクションが効いているという結果を得た(図6、C)。 以上より、大腸菌の抗毒性遺伝子であるmqsA遺伝子に対するアンチセンスRNA(配列番号4)を利用することで、液体培地中で効率的にカウンターセレクション可能であることが確認された。実施例4 大腸菌ゲノムにコードされている抗毒性遺伝子、rnlB遺伝子を標的遺伝子とするアンチセンスRNAの利用によるカウンターセレクション(1)rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAの設計 実施例2では、rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNA(配列番号25)の発現サイレンシング効果が、微弱ながら観察された。サイレンシング効果は、標的遺伝子の発現量低下に伴う、未だ知られていない相補機構があることも考えられるが、多くの場合、標的遺伝子とアンチセンスRNAの転写量の関係や、それらの半減期の関係、細胞内での高次構造形成の関係などが大きく影響すると考えられる。そこで、アンチセンスRNAが細胞内で二次構造を形成しないよう、設計し直した。アンチセンスRNAの高次構造形成は、標的遺伝子mRNAへのハイブリダイゼーション効率を低下させ、最終的にサイレンシング効果の低下を招くと考えられる。基本的なアンチセンスRNA領域の設計の条件は、実施例2と変わらず、RBSと開始コドンを含む100bp程の領域とした。二次構造の予測は、CentroidFold(http://www.ncrna.org/centroidfold)で行なった。(2)rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAの調整 大腸菌MG1655株(NC_000913.2)のゲノムを鋳型に、オリゴヌクレオチド、rnlB-R-NcoI(配列番号26)とrnlB-F-XhoI(配列番号27)(Sigma-Aldrich社製)をプライマーとして用いて、ポリメラーゼチェインリアクション(PCR)法によりrnlB遺伝子の当該領域を増幅した。これらのプライマーには各々NcoI, XhoIの制限酵素サイトが付加されている。反応溶液(総量25μL)は、1x PCR Buffer for KOD Neo(東洋紡社製)、各0.2 mM dATP、dGTP、dCTP、dTTP(以上、東洋紡社製)、各25 pmolプライマー、0.5μLゲノムDNA(約10 ng)、0.5ユニット KOD Neo(東洋紡社製)を含む。本溶液を98℃ 2分間の保温後、98℃ 10秒、53℃ 30秒、68℃ 10秒の温度サイクルを25回繰り返し、最後に68℃で2分間保温した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、30μLの水で溶出した。こうして、rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAとなるアンチセンスDNAを含む断片を得た。アンチセンスDNA配列は配列番号28(rnlB-antisense RNA)である。(3)rnlB遺伝子翻訳開始領域断片の制限酵素処理 (2)で得られたDNA溶液に、3μL NEB Buffer 4(New England Biolabs)、5ユニットNcoI(New England Biolabs社製)、5ユニット XhoI(New England Bionlabs社製)を加え、37℃で2時間保温した。その後、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、20μLの水で溶出した。(4)アンチセンスRNA発現プラスミドの制限酵素処理 実施例1と同様に、アンチセンスRNA発現プラスミドとしてpHN1009を使用する(Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2006; Nobutaka Nakashima et al., Nucleic Acids Research, 2009)。アンチセンスDNAのクローニングは、制限酵素NcoIとXhoIで行なう。制限酵素反応液は、プラスミドDNA、pHN1009 400 ng(5μL)、2μL NEB Buffer 4(New England Biolabs社製)、5ユニットNcoI(New England Biolabs社製)、5ユニット XhoI(New England Bionlabs社製)、そして滅菌水を加え総量を20μLとした。そして、37℃で5時間保温した。その後、マッハライナーゲル社製のDNA精製キット(NucleoSpin Extract II)を用いてマニュアルに従って精製し、20μLの水で溶出した。(5)rnlB遺伝子に対するアンチセンスDNAのpHN1009へのクローニング (3)で得たアンチセンスDNA断片と、(4)で得た線状プラスミドDNAのライゲーションを行なう。反応液は、2μL T4 DNA Ligase Buffer(New England Biolabs社製)、5μLアンチセンスDNA溶液、5μL pHN1009溶液、400ユニット T4 DNA Ligase、そして滅菌水を加え総量を20μLとし、室温で1時間保温した。反応産物を大腸菌JM109(TaKaRa社製)に導入し、50μg/mlアンピシリンを含むLBプレートで選択し、その形質転換体からグリセロースストックを作成するのと共に、そこからプラスミドを精製し、20μLの水で溶出した。こうして、rnlBに対するアンチセンスDNAをコードするアンチセンス発現プラスミド、pHN1009-rnlBを得た。(6)rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAのサイレンシング効果 まず、(5)で作製したグリセロースストックから2 mL LB培地(50μg/mLアンピシリン)に植菌して37℃で17時間培養した。その後、IPTG濃度が0, 0.1, 0.5, 1.0 mMのLB培地(50μg/mLアンピシリン)に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。その後、37℃で22時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。その結果、IPTG添加によりアンチセンスRNAを発現誘導すると細胞の生育が阻害され、添加していない場合に比べて増殖開始時間に約10時間程度の遅延が見られた(図7)。(7)rnlB遺伝子に対するアンチセンスRNAによるカウンターセレクション 大腸菌宿主は、大腸菌JM109株を使用した。除去するプラスミドとして、pHN1009-rnlBを使用する。脱落効率を測定するため、pHN1009-mqsAとともにpHSG299およびpHSG299を保持させた。 まず、pHN1009-rnlBにより大腸菌JM109株を形質転換した。さらに本形質転換体のコンピテントセルをHanahan法により作製した。形質転換効率を測定したところ、pHSG299を用いた場合1×106 CFU/μL、pHSG396を用いた1×105 CFU/μLと算出された。コンピテントセル100μLとpHSG299 40 ngを混合し、氷上で15分間放置した。その後、42℃で45秒間熱ショックを与え、再び氷上で1分間放置した。それにSOC培地1 mLを加え、37℃で45分間震盪培養した。その後、500μLの4種類の培地、(1)LB Lennox、(2)LB Lennox、0.5 mM IPTG、(3)LB Lennox、25μg/mLカナマイシン(pHSG299の場合)または34μg/mL クロラムフェニコール(pHSG396の場合)、(4)LB Lennox、25μg/mLカナマイシン(pHSG299の場合)または34μg/mLクロラムフェニコール(pHSG396の場合)、0.5 mM IPTGに50μLずつ植菌し、37℃で震盪培養した。5時間後、10時間後、15時間後の大腸菌細胞内のpHN1009-rnlBとpHSG299またはpHSG396の2種のプラスミドの割合を、培養菌液をpHN1009-rnlBの耐性薬剤であるアンピシリンプレート(LB Lennox, 50μg/mlアンピシリン)と、pHSG299の耐性薬剤であるカナマイシンプレート、またはpHSG396の耐性薬剤であるクロラムフェニコールプレートに同量を撒き、37℃で一晩培養して出現したコロニーの数で概算した。 pHSG299共存の場合、抗生物質(カナマイシン)もIPTGも添加しない場合とIPTGのみを添加する場合では、15時間培養しても大腸菌JM109内のプラスミドは全てpHN1009であることがわかった(図8、C)。また、カナマイシンによる選択を行った場合、15時間培養後にはpHSG299が50%となっていた(図8、C)。一方、カナマイシンによる選択を行った上で、さらにIPTGを添加した場合では、すでに10時間培養の時点でpHSG299の細胞内存在率がほぼ100%になっており(図8、B)、更に5時間培養を継続するとpHN1009は完全に細胞から除去されたことが分かった(図8、C)。 また、pHSG396を使用した場合では、濃縮効果の現れの時期はやや遅いものの、pHSG299の時と同様の条件(薬剤とIPTGを添加した場合)では、15時間培養時にプラスミドDNA選択が成功しているという結果を得る事ができた(図9、C)。 以上より、大腸菌の抗毒性遺伝子であるrnlB遺伝子に対するアンチセンスRNA(配列番号7)を利用することで、液体培地中で効率的にカウンターセレクション可能であることが確認された。実施例5 当該方法による和合性プラスミドでのカウンターセレクション効果(1)pKn1009-mqsAと和合性のpBAD24(p15A origin)でのカウンターセレクション 大腸菌宿主として、大腸菌JM109株を使用した。除去するプラスミドとして、pKn1009-mqsAを使用する。このプラスミドはpHN1009-mqsAのアンピシリン耐性遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子に置き換えたものである。脱落効率を測定するため、pKn1009-mqsAとともにpBAD24(タカラバイオ社製、アンピシリン耐性)を保持させた。 まず、pKn1009-mqsAにより大腸菌JM109株を形質転換し、さらに本形質転換体のコンピテントセルをHanahan法により作製した。形質転換効率を測定したところ、pHSG299を用いた場合1×106 CFU/μLと算出された。コンピテントセル100μLとpBAD24 40 ngを混合し、氷上で15分間放置した。その後、42℃で45秒間熱ショックを与え、再び氷上で1分間放置した。それにSOC培地1 mLを加え、37℃で45分間震盪培養した。その後、500μLの4種類の培地、(1)LB Lennox、(2)LB Lennox、0.5 mM IPTG、(3)LB Lennox、100μg/mlアンピシリン、(4)LB Lennox、100μg/ml アンピシリン、0.5 mM IPTGに50μLずつ植菌し、37℃で震盪培養した。5時間後、10時間後、15時間後の大腸菌細胞内のpKn1009-mqsAとpBAD24の割合を、培養菌液をpKn1009-mqsAの耐性薬剤であるカナマイシンプレート(LB Lennox, 25μg/mlカナマイシン)と、pBAD24の耐性薬剤であるアンピシリンプレート(LB Lennox, 100μg/mlアンピシリン)に同量を撒き、37℃で一晩培養して出現したコロニーの数で概算した。 その結果、2種類のプラスミドの混在状態において、抗生物質による選択もIPTGによるアンチセンスRNAの発現誘導を行わなかった場合、およびIPTGのみを添加し、抗生物質による選択がない条件でアンチセンスRNAを発現させた場合、15時間培養後の大腸菌JM109内のプラスミドは全てpKn1009であることがわかった(図10)。一方、抗生物質で選択した状態では、15時間培養後には2種類のプラスミドの細胞内の存在率は等しかった(図10)。薬剤による選択をかけた上で、IPTGを添加した場合では、15時間培養後にはpKn1009-mqsAの細胞内存在率が10-8程であった(図10)。 以上より、当該方法では和合性を示すプラスミドが混在する細胞でも、任意のプラスミドのみが発現する細胞を選択する事ができる事が明らかとなった。実施例6 各アンチセンスRNAのカウンターセレクション効果の比較(1)カウンターセレクション 大腸菌宿主は、大腸菌JM109株を使用した。除去するプラスミドとして、pHN1009-fabIおよびpHN1009-mqsA、pHN1009-rnlBをそれぞれ使用した。大腸菌内に共存させるプラスミドとしては、pHSG299およびpHSG396を使用した。 pHN1009-fabIおよびpHN1009-mqsA、pHN1009-rnlBをそれぞれ含む大腸菌JM109株のコンピテントセル100μLとpHSG299またはpHSG396 40 ngを混合し、氷上で15分間放置した。その後、42℃で45秒間熱ショックを与え、再び氷上で1分間放置した。それにSOC培地1 mLを加え、37℃で45分間震盪培養した。その後、試験管で2 mLの培地、LB Lennox、カナマイシン25μg/mLまたはクロラムフェニコール34μg/mL、0.5 mM IPTGに200μLずつ植菌し、37℃で震盪培養した。15時間後の菌液を×1、×10-1、×10-2、×10-3、×10-4、×10-5、×10-6、×10-7、×10-8、×10-9、×10-10、×10-11、×10-12、×10-13、×10-14にLB培地で希釈し、50μlずつアンピシリンプレートとカナマイシンプレートまたはクロラムフェニコールプレートにまき、37℃で培養した。このとき、データの定量性を考慮し、各条件に対し3枚のプレートに同量を撒いた。17時間培養後、コロニーがよく分離された希釈率のシャーレを各々の条件から選び、コロニーを計数した。そして、元の菌液50μLでのコロニー数を計算した。 これらの結果は図11に示した。pHN1009-fabIとpHSG299を使用した場合では、カウンターセレクションを開始してから15時間後の菌液には、pHSG299がpHN1009-fabIの約10,000,000倍多く含まれている事が分かった。また、pHSG396の場合では、pHSG396がpHN1009-fabIの約10,000倍多く含まれている事が分かった。pHN1009-mqsAとpHSG299を使用した場合では、pHSG299がpHN1009-mqsAの約100,000,000倍多く含まれている事が分かった。pHSG396の場合では、pHSG396がpHN1009-mqsAの約100,000倍多く含まれている事が分かった。pHN1009-rnlBとpHSG299を使用した場合では、pHSG299がpHN1009-rnlBの約10,000,000倍多く含まれている事が分かった。さらに、pHSG396の場合でも、pHSG396はpHN1009-rnlBの約10,000,000倍多く含まれていた。 これらのことから、アンチセンスRNAの種類によってカウンターセレクション後もごく僅かにpHN1009に由来するアンピシリン耐性クローンが混入していたものの、混入率は最も高い場合でもたかだか1/10,000程度であった。このように、本発明は、液体培養によるカウンターセレクションという操作性、簡便性とともにバックグラウンドの低減、スループットの改善など、従来法と比較し格段に高い効率を示した。実施例7 当該方法とsacB遺伝子を利用したカウンターセレクション効率の比較(1)致死効果 sacB遺伝子は発現プラスミド、pTD-tacプラスミドにクローニングした。大腸菌JM109株はpTD-tacプラスミドおよびsacB遺伝子をクローニングしたプラスミドで形質転換された。形質転換体はグリセロールストックとして-80℃に保存された。ここで、sacB遺伝子を含む細胞が致死を示す条件を検証する。スクロースによる致死効果を観察した。LB培地(アンピシリン50μg/ml, 2ml)にスクロース0%, 1%, 5%および10%を含む培地に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。そして、37℃で15時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。その結果、濃度に関わらず、スクロースを含む培地で増殖させた場合、sacB遺伝子を含む細胞の方が増殖し始める時間が僅かに遅くなったが、いずれの条件でも細胞の増殖を完全に抑制する事はできなかった。また、明らかにスクロースを含まない培地よりも、スクロースを含有する程に2種類の細胞とも最終濁度が低くなることが明らかである(図12(A,B,C,D))。(2)sacB遺伝子の発現による細胞毒性 (1)では、sacB遺伝子の発現を転写誘導剤であるIPTGを添加せずに、発現が漏れている状態を利用している。そこで、グルコースを培地中に添加し、発現を完全に抑制した状態と発現が漏れている状態の増殖を観察する事とした。(1)と同様に、(1)で作成したグリセロールストックからLB培地プレート(アンピシリン50μg/ml)にストリークして37℃で培養した。よく分離されたコロニーを2つずつLB培地(アンピシリン50μg/ml, 2ml)に植菌し、17時間37℃で培養した。その後、LB培地(アンピシリン50μg/ml, 2ml)と0.9%グルコースLB培地(アンピシリン50μg/ml)に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。そして、37℃で15時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。その結果、グルコースを含む培地では2種類の細胞の差はほとんど見られなかったが(図12(A))、グルコースを含まない培地では、sacB遺伝子を含有する細胞が二段階の増殖をしている事が分かった(図13)。培養開始から200分を過ぎた頃から一度増殖を停止させ、再度500分頃から増殖を開始している。この非増殖状態はsacB遺伝子の発現による細胞毒性によって生じていると考えられる。そこで、sacB遺伝子の発現量の違いによる細胞毒性を観察するため、(1)と同様に、(1)で作成したグリセロールストックからLB培地プレート(アンピシリン50μg/ml)にストリークして37℃で培養した。よく分離されたコロニーを2つずつLB培地(アンピシリン50μg/ml, 2ml)に植菌し、17時間37℃で培養した。その後、LB培地(アンピシリン50μg/ml, 2ml)と0.01mM, 0.1mM, 1.0 mM IPTGを含むLB培地(アンピシリン50μg/ml)に1:10000で前培養菌液を混合し、それらをマイクロプレートに200μLずつ分注した。そして、37℃で15時間培養し、その間15分毎に増殖濁度(OD600)を測定した。その結果、IPTGを含有する培地で培養した場合、前述のような非増殖状態は観察されず、初期からsacB遺伝子を含む細胞は増殖が抑制されていることが分かった。しかし、(1)と同様に、完全に増殖を停止する場合はなかった。ここから、sacB遺伝子の発現は、その量がわずかな場合でも細胞毒性を示す事が分かった。配列番号2〜17、26、27 プライマー配列番号1、18〜25、28 合成 大腸菌において発現を抑制することにより致死となる遺伝子を標的とするアンチセンスRNAをコードするDNAを発現する発現ベクターを大腸菌に導入し、アンチセンスRNAを発現させることにより該ベクターを保持する大腸菌を死滅させ、前記ベクターを保持しない大腸菌を選択することを含むカウンターセレクション方法。 アンチセンスRNAをコードするDNAに発現誘導性プロモーターを連結させ、発現誘導によりアンチセンスRNAを発現させる、請求項1記載のカウンターセレクション方法。 発現を抑制することにより致死となる遺伝子が大腸菌の生育に必須な遺伝子である、請求項1又は2に記載のカウンターセレクション方法。 大腸菌の生育に必須な遺伝子がfabI遺伝子である、請求項3記載のカウンターセレクション方法。 発現を抑制することにより致死となる遺伝子が大腸菌の抗毒性遺伝子である、請求項1又は2に記載のカウンターセレクション方法。 大腸菌の抗毒性遺伝子がmqsA遺伝子又はrnlB遺伝子である、請求項5記載のカウンターセレクション方法。 請求項1に記載のカウンターセレクションに用いる、アンチセンスRNAをコードするDNAを含み、該アンチセンスRNAを発現し得るベクター。 アンチセンスRNAをコードするDNAに発現誘導性プロモーターが連結しており、発現誘導により、アンチセンスRNAが発現する、請求項7記載のベクター。 アンチセンスRNAが大腸菌の生育に必須な遺伝子、又は大腸菌の抗毒性遺伝子を標的とし発現を抑制する、請求項7又は8に記載のベクター。 大腸菌の生育に必須な遺伝子がfabI遺伝子であり、大腸菌の抗毒性遺伝子がmqsA遺伝子又はrnlB遺伝子である、請求項9記載のベクター。 【課題】アンチセンス法を用いたカウンターセレクション方法の提供。【解決手段】大腸菌において発現を抑制することにより致死となる遺伝子を標的とするアンチセンスRNAをコードするDNAを発現する発現ベクターを大腸菌に導入し、アンチセンスRNAを発現させることにより該ベクターを保持する大腸菌を死滅させ、前記ベクターを保持しない大腸菌を選択することを含むカウンターセレクション方法。【選択図】なし配列表


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