生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ニワトリリゾチーム由来の分泌シグナルペプチドを用いたブタリゾチームの製造方法
出願番号:2013205000
年次:2015
IPC分類:C12N 9/36,C12N 15/09,C07K 14/435


特許情報キャッシュ

土屋 佳紀 冨田 正浩 武田 公一 小林 岳史 森 智裕 JP 2015065936 公開特許公報(A) 20150413 2013205000 20130930 ニワトリリゾチーム由来の分泌シグナルペプチドを用いたブタリゾチームの製造方法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 村林 望 100169579 土屋 佳紀 冨田 正浩 武田 公一 小林 岳史 森 智裕 C12N 9/36 20060101AFI20150317BHJP C12N 15/09 20060101ALI20150317BHJP C07K 14/435 20060101ALN20150317BHJP JPC12N9/36C12N15/00 AC07K14/435 4 OL 13 (出願人による申告)平成22年度、農林水産省、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B024 4B050 4H045 4B024AA01 4B024BA12 4B024CA01 4B024CA07 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA11 4B050CC03 4B050DD11 4B050LL01 4H045AA10 4H045AA20 4H045BA10 4H045BA41 4H045CA40 4H045CA51 4H045EA20 4H045EA34 4H045FA74 本発明は、例えばニワトリリゾチーム由来の分泌シグナルペプチドを用いたブタリゾチームの分泌生産方法に関する。 近年、抗生物質の多用と乱用が耐性菌の発生を促し、抗生物質が効かない耐性菌による感染症が世界各国で深刻化している。抗生物質が成長促進剤として家畜飼料に添加されたり、また、一部の国では医師の処方箋無しで抗生物質が薬局で自由に販売されていることが問題を助長しており、耐性菌は留まる事を知らずにその種類を増し、世界中で蔓延し続けている。耐性菌の発生を抑えるには抗生物質の使用を制限する必要があるが、それには抗生物質に代わる新たな抗菌剤を開発し普及していく必要がある。 リゾチームは天然の抗菌性タンパク質であり、肺炎球菌やエンテロバクターのような抗生物質耐性菌として問題になっている細菌に対しても効果が高い。ブタリゾチーム等のリゾチーム類は抗菌タンパク質として古くから知られているが、抗菌活性以外にも多彩な機能がある。その中でも特筆すべきものは抗ウイルス作用であり、リゾチームがウイルスの外被(エンベロープ)を破壊することが報告され、今やAIDS(後天性免疫不全症候群)の治療薬としても注目され始めている。 さらに抗炎症作用や抗腫瘍作用等のリゾチームの重要な機能が次々と明らかにされており、リゾチームは単なる抗菌性タンパク質に留まらず、今や総合的な生体防御タンパク質という呼称がよりふさわしくなってきている。 リゾチームの利点の一つは、抗生物質とは抗菌作用のメカニズムが異なっていることである。リゾチームは細菌の細胞壁を溶かす溶菌作用を有しており、一方、抗生物質はDNA複製阻害作用、RNA合成阻害作用、タンパク質合成阻害作用、細菌細胞壁合成阻害作用等により細菌増殖を阻害する。このように、リゾチームと抗生物質とは作用機序が異なっているので、リゾチームは抗生物質耐性菌であっても殺滅することが可能である。従って、抗生物質耐性菌による感染症が深刻化した場合、リゾチームは貴重な治療手段となる。 リゾチーム類の中でもブタリゾチームは特に抗菌活性が強く、鶏卵白リゾチームの2〜10倍の抗菌活性を有する。抗生物質の代替薬としてブタリゾチームの使用が広まれば、抗生物質の使用量を大幅に減少させることが可能となる。しかしながら、天然のブタリゾチームは自然界に微量しか存在しないので、生物工学的な手法によって量産化することが望まれている。 特許文献1は、ブタリゾチームを大量に分泌生産すべく、ブタリゾチームをコードする遺伝子を有するヨトウガ由来の細胞(Sf-9細胞又はexpresSF+細胞)を特定の浸透圧(213mOsm/kg〜309mOsm/kg)下で培養し、ブタリゾチームを分泌生産する、ブタリゾチームの製造方法を開示する。このように、特許文献1は、ブタリゾチーム分泌生産の向上を目的とした組換え細胞の培養条件に関するものであり、ブタリゾチーム分泌生産を向上させる目的で分泌シグナルペプチドについて検討していなかった。 特許文献2は、ニワトリリゾチーム由来のシグナルペプチドの改変型シグナルペプチド、及び該改変型シグナルペプチドに融合させたヒトリゾチームを酵母で分泌発現させたことを開示する。非特許文献1〜4は、ニワトリリゾチーム由来のシグナルペプチド又は該シグナルペプチドの改変型シグナルペプチドと融合させたヒトリゾチームを酵母又は昆虫細胞(カイコ由来の細胞(BmN4))において分泌生産させたことを開示する。 しかしながら、特許文献2及び非特許文献1〜4のいずれも、ヒトリゾチームの分泌生産に関するものであり、ブタリゾチームの分泌生産に関するものではなかった。特許第4996934号公報特許第3136356号公報Yoshinori Tsuchiyaら, Peptide Science 2004, 2005年, pp. 557-560Yoshinori Tsuchiyaら, Nucleic Acids Research Supplement, 2003年, No. 3, pp. 261-262Yoshinori Tsuchiyaら, Nucleic Acids Symposium Series, 2004年, No. 48, pp. 181-182Yoshinori Tsuchiyaら, Nucleic Acids Symposium Series, 2005年, No. 49, pp. 305-306 本発明は、上述した実情に鑑み、ブタリゾチームを大量に生産することが可能なブタリゾチームの製造方法を提供することを目的とする。 上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ニワトリリゾチーム(鶏卵白リゾチーム)由来の分泌シグナルペプチド(以下、「ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド」と称する)に融合した成熟型ブタリゾチームタンパク質をコードする遺伝子をヨトウガ由来の細胞又はカイコに導入し、得られた形質転換体を培養又は生育させることで、ブタリゾチームを大量に分泌生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明は以下を包含する。 (1)以下の(a)又は(b)の分泌シグナルペプチドと以下の(c)〜(e)のいずれか1つの成熟型リゾチームタンパク質とを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を有するヨトウガ由来の細胞を培養するか、又は該遺伝子を有するカイコを生育させることを含み、前記培養又は生育によりリゾチームが分泌生産される、リゾチームの製造方法。 (a)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチド (b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチド (c)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るリゾチームタンパク質 (d)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質 (e)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質 (2)前記分泌シグナルペプチドが配列番号2に記載のアミノ酸配列から成る、(1)記載の方法。 (3)前記成熟型リゾチームタンパク質が配列番号4に記載のアミノ酸配列から成る、(1)又は(2)記載の方法。 (4)前記生育によりリゾチームが前記遺伝子を有するカイコの絹糸腺中に分泌生産され、且つ絹糸表層に蓄積される、(1)〜(3)のいずれか1記載の方法。 本発明に係るリゾチームの製造方法によれば、ブタリゾチームを安価に大量生産することができる。ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドとブタリゾチーム分泌シグナルペプチドとのアミノ酸レベルでのアライメントである。ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドとウシリゾチーム分泌シグナルペプチドとのアミノ酸レベルでのアライメントである。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明に係るリゾチームの製造方法(以下、「本方法」と称する)は、以下の(a)又は(b)の分泌シグナルペプチドと以下の(c)〜(e)のいずれか1つの成熟型リゾチームタンパク質とを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を有するヨトウガ由来の細胞を培養するか、又は該遺伝子を有するカイコを生育させることで、リゾチームを分泌生産する方法である。 (a)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチド; (b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1〜3個(好ましくは1又は2個、特に好ましくは1個)のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチド; (c)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列から成るリゾチームタンパク質; (d)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個(例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質; (e)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して80%以上(好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質。 ブタリゾチーム(配列番号4)の分泌発現を向上させる上で、宿主及び分泌シグナルペプチドの様々な組合せを検討した結果、分泌シグナルペプチドとしてニワトリリゾチーム(鶏卵白リゾチーム)分泌シグナルペプチド(配列番号2)を使用し、且つ宿主としてヨトウガ由来の細胞又はカイコを使用することで、天然型ブタリゾチーム分泌シグナルペプチドの使用と比較して、ブタリゾチームの分泌発現を向上させ、大量にブタリゾチームを生産できることを見出した。本方法によれば、ブタリゾチーム又はその機能的に等価なリゾチームタンパク質を大量生産することができる。 本方法において、使用する分泌シグナルペプチドとしては、上記(a)及び(b)の分泌シグナルペプチドが挙げられる。ここで、分泌シグナルペプチドとは、連結したタンパク質を細胞外に分泌させる活性(分泌シグナル活性)を有するペプチドを意味する。分泌シグナルペプチドに連結したタンパク質を含む融合タンパク質は、細胞内で産生された後、分泌シグナルペプチドを介して小胞体膜に貫入し、膜内に存在するシグナルペプチダーゼによって分泌シグナルペプチドと、連結したタンパク質との間の結合部で切断され、タンパク質部分のみが小胞体内腔へ移行し、細胞内輸送機構によって細胞外へ分泌される。 上記(a)の分泌シグナルペプチドは、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドである。図1に示すように、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドとブタリゾチーム分泌シグナルペプチド(配列番号5)とは、アミノ酸レベルで33%の相同性である。また、図2に示すように、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドとウシリゾチーム分泌シグナルペプチド(配列番号6)とは、アミノ酸レベルで50%の相同性である。このように、同じリゾチーム間でも分泌シグナルペプチドは、種間で有意な差異が存在する。 本方法では、上記(a)のニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドの代わりに機能的等価なペプチドである上記(b)の分泌シグナルペプチドを使用することができる。また、本方法では、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド(配列番号2)のアミノ酸配列に対して80%以上(好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上)の同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有するペプチドも使用することができる。 あるいは、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子(以下、「ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子」と称する:配列番号1);ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子の塩基配列において1又は数個(例えば、1〜5個、特に好ましくは1〜3個、1又は2個、あるいは1個)の塩基が置換、欠失又は付加された塩基配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有するペプチドをコードするDNA;ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子の塩基配列から成るDNAに相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ分泌シグナル活性を有するペプチドをコードするDNA;又はニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子の塩基配列に対して80%以上(好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有する塩基配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有するペプチドをコードするDNAによりコードされる分泌シグナルペプチドも本方法において使用することができる。 分泌シグナルペプチドの分泌シグナル活性は、該分泌シグナルペプチドに連結したタンパク質を含む融合タンパク質をコードする遺伝子を細胞等の宿主で発現させ、連結したタンパク質が宿主外に有意に分泌されるか否かを指標として評価することができる。 一方、本方法において分泌生産するリゾチームとしては、上記(c)〜(e)のリゾチームタンパク質が挙げられる。上記(c)のリゾチームタンパク質は、成熟型ブタリゾチーム(配列番号4)である。ここで、「成熟型リゾチーム」とは、分泌シグナルペプチドを除く、細胞外に分泌された形態のリゾチームを意味する。本方法では、上記(c)の成熟型ブタリゾチームの代わりに機能的に等価なタンパク質である上記(d)又は(e)の成熟型リゾチームを分泌発現対象とすることができる。成熟型ブタリゾチームは、成熟型ヒトリゾチーム(配列番号7)に対してアミノ酸レベルで73%程度の相同性を有する。 あるいは、成熟型ブタリゾチームをコードする遺伝子(以下、「成熟型ブタリゾチーム遺伝子」と称する:配列番号3);成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列において1又は数個(例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個)の塩基が置換、欠失又は付加された塩基配列から成り、且つリゾチーム活性を有するタンパク質をコードするDNA;成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列から成るDNAに相補的な塩基配列から成るDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つリゾチーム活性を有するタンパク質をコードするDNA;又は成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列に対して80%以上(好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、特に好ましくは99%以上)の同一性を有する塩基配列から成り、且つリゾチーム活性を有するタンパク質をコードするDNAによりコードされる成熟型リゾチームも本方法において分泌発現対象とすることができる。 例えば、遺伝子の安定性を考慮し、成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列(配列番号3)において、第304番目〜第306番目の3塩基「gac」を「gat」に変更した塩基配列から成るDNAによりコードされる成熟型リゾチームも本方法において分泌発現対象とすることができる。当該DNAは、成熟型ブタリゾチーム遺伝子(配列番号3)と同様に、成熟型ブタリゾチーム(配列番号4)をコードする。 リゾチーム活性(抗菌活性)は、例えば細菌(例えば、ミクロコッカス・リゾデイクチカス(Micrococcus lysodeikticus))の細胞壁に対する加水分解活性を指標に評価することができる。 また、ここで、ストリンジェントな条件は、例えば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。換言すれば、ストリンジェントな条件とは、例えば80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有する塩基配列にハイブリダイズする条件ということができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。 さらに、塩基配列又はアミノ酸配列の同一性(%)は、例えば当業者に周知のプログラム(例えば、BLAST)を用いたアラインメントにより決定することができる。 分泌シグナルペプチド遺伝子又は成熟型リゾチーム遺伝子は、例えば由来する動物種のゲノムDNAやcDNAを鋳型とし、これら遺伝子に対して設計した適当なプライマーを用いたPCRによって得ることができる。 本方法において、宿主としては、例えばヨトウガ由来の細胞(例えば、Sf-9細胞及びexpresSF+細胞等の細胞株)及びカイコが挙げられる。 本方法においては、先ず分泌シグナルペプチド遺伝子と成熟型リゾチーム遺伝子とを機能的に連結したDNAを作製する。例えば、N末端からC末端方向に分泌シグナルペプチド及び成熟型リゾチームを含む融合タンパク質をコード遺伝子(以下、「融合タンパク質遺伝子」と称する)を含むDNAを作製すべく、5'側から3'側方向に、分泌シグナルペプチド遺伝子と成熟型リゾチーム遺伝子とを機能的に連結する。ヨトウガ由来の細胞及びカイコへの導入すべき当該DNAの形態は、例えば、融合タンパク質遺伝子を含むDNA、又は該融合タンパク質遺伝子を含む発現ベクターであってよい。当該発現ベクターは、適当なベクターのマルチクローニングサイト等に融合タンパク質遺伝子を挿入することで得ることができる。適当なベクターとしては、例えばバキュロウイルスベクター(カイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)ベクター、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)ベクター等)が挙げられる。なお、ベクターには、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御領域が適宜含まれていることが好ましい。 次いで、融合タンパク質遺伝子を含むDNA又は融合タンパク質遺伝子を含む発現ベクターをヨトウガ由来の細胞又はカイコに導入し、融合タンパク質遺伝子を有するヨトウガ由来の細胞又はカイコ(即ち、形質転換体)を作製する。 ヨトウガ由来の細胞への融合タンパク質遺伝子を含むDNA又は融合タンパク質遺伝子を含む発現ベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。 一方、カイコへの融合タンパク質遺伝子を含むDNA又は融合タンパク質遺伝子を含む発現ベクターの導入方法としては、例えば、カイコの発生初期卵への顕微注入等が挙げられる。 本方法では、次いで得られた形質転換体を培養又は生育し、融合タンパク質遺伝子を発現させ、成熟型リゾチームを細胞外へ産生させる。 宿主がヨトウガ由来の細胞である場合には、培養条件としては、例えば20〜30℃(好ましくは25〜28℃)の温度、pH 6.0〜7.0(好ましくはpH 6.2〜6.5)下で、72時間〜240時間(好ましくは、96〜168時間)が挙げられる。また、培養は、浮遊培養で行われることが好ましい。使用する培地としては、例えばSf-900TMIII無血清培地等が挙げられる。 一方、宿主がカイコである場合には、生育条件としては、例えば幼虫の飼育を20℃〜29℃の飼育室で人工飼料を用いて行うことなどが挙げられる。 本方法においては、融合タンパク質遺伝子を有する形質転換体から成熟型リゾチームが細胞外に分泌生産されることとなる。従って、宿主がヨトウガ由来の細胞である場合には、培養後、培養液をそのまま使用してもよいし、また培養液を形質転換体から分離し、抽出や精製等に供することで、リゾチームを単離精製することができる。抽出や精製方法としては、一般的にタンパク質を抽出や精製する際に使用される方法であってよく、例えば、濾過、有機溶媒抽出、クロマトグラフィー、電気泳動等が挙げられる。 宿主がカイコである場合には、生育後、組換えカイコ(形質転換体)の絹糸腺で融合タンパク質遺伝子が発現され、且つ成熟型リゾチームが分泌され、カイコ幼虫が吐く糸の表層(セリシン層)に成熟型リゾチームが蓄積することとなる。成熟型リゾチーム含有繭や生糸を生理食塩水等の溶液に浸漬すると、成熟型リゾチームが容易に溶出される。従って、このようにして繭や生糸から成熟型リゾチームを回収し、使用することができる。あるいは、成熟型リゾチーム含有繭や生糸をそのまま抗菌活性を有する繊維材料として使用することもできる。 本方法によれば、組換え型ブタリゾチーム(又はその機能的に等価なタンパク質)を従来よりも安価に大量生産することができる。また、本方法により生産した組換え型ブタリゾチーム(又はその機能的に等価なタンパク質)は、抗生物質に代わる抗菌剤としての活用が期待される。 絹糸腺での分泌発現では、組換え型ブタリゾチーム(又はその機能的に等価なタンパク質)は、絹糸の表層に蓄積する。リゾチームを蓄積した絹糸が汗などの体液に触れると当該リゾチームが容易に滲出して抗菌活性を示す。従って、当該絹糸(繭)を繊維材料として応用すれば、殺菌力のあるガーゼ、マスク、包帯、絆創膏、人工血管等としても活用できる。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。〔実施例1〕各種細胞におけるニワトリリゾチーム(鶏卵白リゾチーム)分泌シグナルペプチドと成熟型ブタリゾチームとを含む融合タンパク質の分泌生産 成熟型ブタリゾチーム遺伝子にニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子を連結したハイブリッド(融合)遺伝子を人工的に合成し、ビール酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、昆虫細胞及びカイコ絹糸腺で発現させ、培養液中や絹糸表層に組換え型ブタリゾチームを分泌させることを試みた。 先ず、5'側から3'側の方向にニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子(塩基配列:配列番号1及びアミノ酸配列:配列番号2、DDBJ, LOCUS : AF410481)と成熟型ブタリゾチーム遺伝子(塩基配列:配列番号3及びアミノ酸配列:配列番号4、DDBJ, LOCUS: SSU44435)とを含むハイブリッド遺伝子(塩基配列:配列番号8及びアミノ酸配列:配列番号9)を、短鎖DNAオリゴマーからSPR法及びPCR法を用いて人工合成した。当該ハイブリッド遺伝子(配列番号8)においては、成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列(配列番号3)における第304番目〜第306番目の3塩基に対応する「gac」(配列番号8において第358番目〜第360番目)を「gat」に変更した。 次いで、得られたハイブリッド遺伝子を、YEpベクター(ビール酵母用)及びバキュロウイルスベクター(BmNPV:カイコ由来細胞(BmN4細胞)用、AcNPV:ヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)用)に導入した。 さらに、得られたハイブリッド遺伝子を含むベクターを、ビール酵母に塩化リチウム法によって形質転換した。また、カイコ由来細胞(BmN4細胞)及びヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)へは、リポフェクション法によって得られたハイブリッド遺伝子を含むベクターを形質転換した。 形質転換後、各形質転換体を7日間培養した後、培養液を回収して、培養液中の組換え型ブタリゾチームのミクロコッカス・リゾデイクチカス細胞壁(シグマ社製)に対する抗菌活性を測定した。当該抗菌活性1ユニットが組換え型ブタリゾチームの濃度0.0438mg/Lに相当する(特許文献1)ことから、これを元に抗菌活性から組換え型ブタリゾチーム分泌量を算出した。結果を表1に示す。表1には、各種細胞株における組換え型ブタリゾチームの分泌生産量を示す。 一方、カイコ卵への顕微注入によって、同じハイブリッド遺伝子をゲノムDNAに挿入した組換えカイコを作製した。当該組換えカイコの絹糸腺でハイブリッド遺伝子を発現させ、カイコ幼虫が吐く絹糸の表層(セリシン層)に組換え型ブタリゾチームを分泌させた。 次いで、組換え型ブタリゾチームを含有する繭を生理食塩水に浸漬し、浸漬の12時間後、上清を回収し、該上清中の組換え型ブタリゾチームの分泌生産量を上記と同様の方法で算出した。結果を表1に示す。 なお、比較対照として、上記ハイブリッド遺伝子の作製に準じて人工合成した天然型ブタリゾチーム(すなわち、ブタリゾチーム分泌シグナルペプチド(配列番号5)と成熟型ブタリゾチーム(配列番号4)とを含む融合タンパク質)をコードする遺伝子(塩基配列:配列番号10及びアミノ酸配列:配列番号11)を、同様の方法で各種細胞株及びカイコに導入し、培養液及び繭(絹糸腺)中に該天然型ブタリゾチームを分泌生産させた。当該遺伝子(配列番号10)においては、成熟型ブタリゾチーム遺伝子の塩基配列(配列番号3)における第304番目〜第306番目の3塩基に対応する「gac」(配列番号10において第358番目〜第360番目)を「gat」に変更した。結果を表1に示す。 それぞれの培養液及び繭中の組換え型ブタリゾチームを陽イオン交換カラムで精製してN末端アミノ酸配列を解析したところ、いずれも最初の5アミノ酸残基が成熟型ブタリゾチームのアミノ酸配列(配列番号4)における最初の5アミノ酸残基と完全に一致した。また、質量分析や電気泳動で解析したところ、成熟型ブタリゾチームのアミノ酸配列(配列番号4)から予想される分子量とほぼ一致した。従って、培養液及び繭中には、成熟型ブタリゾチームと物理化学的に同一の組換え型ブタリゾチームが分泌されていることが確認された。 表1に示すように、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドを使用した成熟型ブタリゾチームの分泌発現は、ビール酵母やカイコ由来のBmN4細胞では天然型ブタリゾチーム(ブタリゾチーム分泌シグナルペプチド)よりも劣っていた(それぞれ、天然型ブタリゾチーム(ブタリゾチーム分泌シグナルペプチド)に対して86%及び67%の分泌生産率)。 一方、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドを使用した成熟型ブタリゾチームの分泌発現は、ヨトウガ由来のexpresSF+細胞では天然型ブタリゾチームに対して137%の分泌生産率、絹糸腺では天然型ブタリゾチームに対して297%の分泌生産率であり、天然型ブタリゾチームよりも分泌量が大幅に増加していた。〔比較例1〕ヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)におけるニワトリリゾチーム(鶏卵白リゾチーム)分泌シグナルペプチドと成熟型ヒトリゾチームとを含む融合タンパク質の分泌生産 本比較例では、成熟型ヒトリゾチーム遺伝子にニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子を連結したハイブリッド(融合)遺伝子を人工的に合成し、ヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)で発現させ、培養液中に組換え型ヒトリゾチームを分泌させることを試みた。 実施例1に記載の方法に準じて、人工合成した天然型ヒトリゾチーム(すなわち、ヒトリゾチーム分泌シグナルペプチドと成熟型ヒトリゾチームとを含む融合タンパク質)をコードする遺伝子(塩基配列:配列番号12及びアミノ酸配列:配列番号13)を、ヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)に導入し、培養液中に該天然型ヒトリゾチームを分泌生産させた(培養期間:7日間)。また、5'側から3'側の方向にニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチド遺伝子(塩基配列:配列番号1及びアミノ酸配列:配列番号2)と成熟型ヒトリゾチーム遺伝子とを含むハイブリッド遺伝子(塩基配列:配列番号14及びアミノ酸配列:配列番号15)をヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)に導入し、培養液中に該天然型ヒトリゾチームを分泌生産させた(培養期間:7日間)。なお、配列番号12及び14に記載の塩基配列中の成熟型ヒトリゾチーム遺伝子は、遺伝子コドンの適合性と遺伝子の安定性を考慮し、天然型の成熟型ヒトリゾチーム遺伝子から改変されたものであり、且つ、天然型の成熟型ヒトリゾチームのアミノ酸配列をコードするものである(特公平5-59701号公報)。 結果を表2に示す。 表2に示すように、ヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)におけるニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドを使用した成熟型ヒトリゾチームの分泌発現は、天然型ヒトリゾチーム(ヒトリゾチーム分泌シグナルペプチド)よりも大幅に劣っていた(天然型ヒトリゾチーム(ヒトリゾチーム分泌シグナルペプチド)に対して16%の分泌生産率)。 このように、異種分泌シグナルペプチドを使用することは、タンパク質の分泌生産において不利に働く場合が多い。実施例1の表1におけるヨトウガ由来細胞(expresSF+細胞)及び絹糸腺の結果に示すように、ニワトリリゾチーム分泌シグナルペプチドと成熟型ブタリゾチームとの異種の組み合わせで天然型ブタリゾチームよりも分泌生産性が優れていたのは、非常に稀な例であると言える。 以下の(a)又は(b)の分泌シグナルペプチドと以下の(c)〜(e)のいずれか1つの成熟型リゾチームタンパク質とを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を有するヨトウガ由来の細胞を培養するか、又は該遺伝子を有するカイコを生育させることを含み、前記培養又は生育によりリゾチームが分泌生産される、リゾチームの製造方法。 (a)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成る分泌シグナルペプチド (b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つ分泌シグナル活性を有する分泌シグナルペプチド (c)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るリゾチームタンパク質 (d)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質 (e)配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つリゾチーム活性を有するリゾチームタンパク質 前記分泌シグナルペプチドが配列番号2に記載のアミノ酸配列から成る、請求項1記載の方法。 前記成熟型リゾチームタンパク質が配列番号4に記載のアミノ酸配列から成る、請求項1又は2記載の方法。 前記生育によりリゾチームが前記遺伝子を有するカイコの絹糸腺中に分泌生産され、且つ絹糸表層に蓄積される、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。 【課題】ブタリゾチームを大量に生産することが可能なブタリゾチームの製造方法を提供する。【解決手段】ヨトウガ由来の細胞又はカイコにニワトリリゾチーム由来の分泌シグナルペプチドに融合した成熟型ブタリゾチームタンパク質をコードする遺伝子を導入し、得られた形質転換体を培養又は生育させることで、ブタリゾチームを大量に分泌生産させる。【選択図】なし配列表


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る