生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体
出願番号:2013199660
年次:2015
IPC分類:C07K 16/28,C07K 16/02,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

伊井野 貴史 山下 裕輔 堀江 健二 林 由佳子 前橋 健二 JP 2015063499 公開特許公報(A) 20150409 2013199660 20130926 苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体 株式会社ファーマフーズ 500101243 林 由佳子 510249667 学校法人東京農業大学 598096991 岩谷 龍 100077012 伊井野 貴史 山下 裕輔 堀江 健二 林 由佳子 前橋 健二 C07K 16/28 20060101AFI20150313BHJP C07K 16/02 20060101ALI20150313BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150313BHJP JPC07K16/28C07K16/02C12N15/00 A 8 OL 18 特許法第30条第2項適用申請有り 日本農芸化学会2013年度大会、東北大学、平成25年3月26日 4B024 4H045 4B024AA05 4B024AA20 4B024BA61 4B024CA03 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA12 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA03 4B024HA09 4H045AA11 4H045AA30 4H045CA40 4H045DA75 4H045EA01 4H045FA71 本発明は、苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体に関するものである。 哺乳動物は、少なくとも5つの基本的味覚、すなわち、甘味、苦味、酸味、塩味、及び旨味を認識する感覚を持つと考えられている。苦味、甘味、及び旨味の感知は、舌の表面にある味覚受容体細胞で発現するGタンパク共役受容体(GPCR)を介して行なわれ、酸味、塩味の感知は、イオンチャネルを介して行なわれると考えられている。 味覚は、生物にとって食物の種類や質に関する情報を得るための重要な役割を持っている。例えば、甘味(糖のシグナル)、旨味(タンパク質や核酸のシグナル)、塩味(ミネラルのシグナル)は、生きていくために必要な栄養素を含む食物であることを知らせ、酸味(腐敗物のシグナル)や苦味(毒物のシグナル)は、有毒な物質や有害な物質を含むことを知らせる。 しかし、ヒトにとって苦味や酸味はその強さの程度によってはおいしさの重要な要素となり得るものである。特に嗜好性の強い食品においては苦味や酸味は重要な要素となっている。 苦味物質は味蕾の味細胞膜上に特異的に発現する苦味受容体T2Rによって受容される。T2Rは細胞膜を貫通する領域を7つ持った「7回膜貫通型タンパク質」と呼ばれる膜タンパク質であり、細胞内に位置する部分でGタンパク質と共役して苦味刺激を伝達する。T2Rファミリーには多くの種類があることが知られている。 これまで、苦味受容体T2Rに対するアンタゴニスト活性を有する抗体は報告されているが(特許文献1)、苦味受容体T2R活性化作用(苦味受容体T2Rに対するアゴニスト活性)を有するポリクローナル抗体は報告されていない。特開2012−51867号公報 本発明は、苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体を提供することを目的とする。 本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。[1]鳥類由来のポリクローナル抗体であって、苦味受容体T2R活性化作用を有することを特徴とするポリクローナル抗体。[2]苦味受容体T2Rの全長タンパク質を抗原として、鳥類に免疫して得られるポリクローナル抗体であることを特徴とする前記[1]に記載のポリクローナル抗体。[3]抗原が、苦味受容体T2Rの立体構造を維持している全長タンパク質であることを特徴とする前記[2]に記載のポリクローナル抗体。[4]抗原が、N末端にFLAGタグ及びC末端にHisタグを付加した苦味受容体T2Rの全長タンパク質であることを特徴とする前記[2]又は[3]に記載のポリクローナル抗体。[5]苦味受容体T2Rが、ヒト苦味受容体hT2R16であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリクローナル抗体。[6]前記抗原を免疫されたニワトリの卵から調製されることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリクローナル抗体。[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリクローナル抗体を有効成分として含有することを特徴とする苦味受容体T2R活性化用組成物。[8]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリクローナル抗体と、苦味受容体T2R発現細胞とを接触させることを特徴とする苦味受容体T2R活性化方法。 本発明によれば、苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体を提供することができる。この抗体は苦味刺激自体が及ぼす生理機能のさらなる解明やリガンド結合部位の解明に繋がるツールとして利用することができる。精製したFLAG−hT2R16−HisのSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングの結果を示す図である。精製したFLAG−hT2R16−HisのCDスペクトル(円偏光2色性)測定の結果を示した図である。精製したFLAG−hT2R16−Hisの二次構造を示す図である。調製したFLAG−hT2R16−Hisを抗原とし、一次免疫後、二次免疫後及び三次免疫後にそれぞれ卵黄中の抗体力価をELISAにより測定した結果を示す図である。精製した鶏卵抗体の力価をELISAによって測定した結果を示す図である。hT2R16発現HEK293細胞を用いて、サリシン添加後の細胞内カルシウム濃度の推移を調べた結果を示す図である。hT2R16発現HEK293細胞を用いて、本発明のポリクローナル抗体添加後の細胞内カルシウム濃度の推移を調べた結果を示す図である。各種サンプルについて、hT2R16発現HEK293細胞の細胞内カルシウム濃度の変化を比較した結果を示す図である。抗体(抗hT2R16−IgY)及びサリシンの苦味強度及び味質を評価した結果を示す図であり、(a)は苦味強度の評価結果、(b)は味質の評価結果である。抗体を事前摂取した場合のサリシンの苦味強度の官能評価の結果を示す図であり、(a)は抗hT2R16−IgYを事前摂取した場合の結果、(b)はコントロール抗体を事前摂取した場合の結果である。 本発明は、鳥類由来のポリクローナル抗体であって、苦味受容体T2R(以下、単にT2Rという。)活性化作用を有することを特徴とするポリクローナル抗体(以下、本発明のポリクローナル抗体という。)を提供する。T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体は、T2Rに対するアゴニスト活性を有するポリクローナル抗体と換言することができる。 抗原が受容体である場合、当該受容体を抗原として得られる抗体は、抗原と結合することにより本来のリガンドの結合を阻害し、アンタゴニストとして作用することが予想される。しかし、本願発明者らが取得した鳥類由来のポリクローナル抗体は、予想に反して抗原受容体を活性化させる(アゴニストとして作用する)ものであった。しかも、多種類の抗体の混合物であるポリクローナル抗体中には、抗原受容体に対するアンタゴニスト活性を奏する抗体が含まれることが予想されるところ、全体として抗原受容体の活性化作用を奏するポリクローナル抗体が得られたことは、全く予期できないことであった。 本発明のポリクローナル抗体は、鳥類由来のポリクローナル抗体であり、以下に説明する抗原を鳥類に免疫することにより取得することができる。 抗原は、T2Rの全長タンパク質又はその一部を含むものであればよいが、T2Rの全長タンパク質を含むことが好ましく、T2Rの全長タンパク質以外のタンパク質(例えばGFPなど)を含まないことがより好ましい。すなわち、抗原は、T2Rの全長タンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質でなく、単独のT2Rの全長タンパク質であることが好ましい。 抗原に用いるT2Rの全長タンパク質は、T2Rの立体構造を維持していることが好ましい。抗原に用いるT2Rの全長タンパク質が立体構造を維持していることは、CDスペクトル測定やリガンド結合能の有無により確認することができる。また、抗原に用いるT2Rの全長タンパク質は、精製のためのアフィニティータグを有していてもよい。アフィニティータグは公知のアフィニティータグから適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、FLAGタグ、Hisタグ、MYCタグ、HAタグ、V5タグなどが挙げられる。抗原に用いるT2Rの全長タンパク質として、好ましくは、N末端にFLAGタグ及びC末端にHisタグを付加したT2Rの全長タンパク質である。 T2Rファミリーには多くの種類があり、ヒトでは25種類(hT2R1、hT2R3、hT2R4、hT2R5、hT2R7、hT2R8、hT2R9、hT2R10、hT2R13、hT2R14、hT2R16、hT2R38、hT2R39、hT2R40、hT2R41、hT2R42、hT2R43、hT2R44、hT2R45、hT2R46、hT2R47、hT2R48、hT2R49、hT2R50、hT2R60)が存在し、マウスでは35種類(T2R3、T2R4、T2R9、T2R10、T2R11、T2R12、T2R13、T2R14、T2R15、T2R16、T2R17、T2R18、T2R20、T2R21、T2R22、T2R23、T2R24、T2R26、T2R27、T2R29、T2R30、T2R31、T2R34、T2R35、T2R36、T2R37、T2R38、T2R40、T2R43,T2R104、T2R106、T2R108、T2R109、T2R119、T2R122、T2R139)が存在する(Chandrashekar J.,Hoon M.A. Ryba N.J.et al:The receptors and cells for mammalian taste.Nature,2006;444;288−294)。 苦味受容体T2Rは、リガンドが判明しているものが好ましく、例えばT2R4,44(リガンド:デナトニウム)、マウスT2R5(リガンド:シクロヘキシミド)、T2R10(リガンド:ストリキニーネ)、T2R16(リガンド:サリシン)、T2R38(リガンド:フェニルチオカルバミド)、T2R43,44(リガンド:サッカリン)等が挙げられる。好ましくは、ヒト苦味受容体hT2R16である。hT2R16のアミノ酸配列(配列番号1)及びコードする遺伝子の塩基配列(配列番号2)は、それぞれアクセッション番号:AAH95524及びBC095524として、DDBJ/GenBank/EMBLに登録されている。 公知の方法でT2R遺伝子をクローニングして、種々の発現系において発現させることで得ることができる。上記各T2R遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBLなど)から取得することができる。取得した塩基配列に基づいてPCRプライマーを作製し、常法に従ってクローニングすることができる。 クローニングしたT2R遺伝子を導入する発現ベクターは、宿主に応じて適宜選択すればよく、例えば、宿主が哺乳動物細胞等の場合はpME18SFL3(Genbank Accession AB009864)等、大腸菌の場合はpET3、pET11(ストラタジーン社製)、pGEX(アマシャムファルマシアバイオテク社製)等、酵母の場合はpESP−Iエクスプレッションベクター(ストラタジーン社製)、pRS426(Addgene社製)、pPIC3.5K(Invitrogen社製)等、昆虫細胞の場合はBacPAK6(クロンテック社製)等が用いられる。 本発明においては、宿主は特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞(例えば、大腸菌等の細菌、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Pichia pastoris、Pichia methanolica)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞、動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、及びBowes黒色腫細胞)など)を用いることができるが、中でも酵母が好ましく用いられる。 上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法を用いることができる。得られた形質転換体を培養し、発現誘導した後、培養物などから、濾過、遠心分離、破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどの慣用的な手法を組み合わせて、T2Rタンパクを回収、精製することができる。 抗原を免役する鳥類は特に限定されないが、例えばニワトリ、ウズラ、アヒル等の家禽類、ダチョウ等が挙げられる。好ましくはニワトリである。本発明においては、抗体の量産性などの点から、鳥類に免疫して、その卵から抗体を調製することが好ましい。 免疫の方法は特に限定されず、例えば、Makoto S.et al,Biosci.Biotech.Biochem.,56(2):270−274,1992に記載された方法、Production and Characterization of Anti−human Insulin Antibodies in the Hen’s Egg(Agric.Biol.Chem.,55(8).2141−2143.1991)に記載された方法等が挙げられる。免疫は抗原を免疫増強剤(アジュバント)と共に接種(皮下注射、筋肉注射など)することにより行うことが好ましい。アジュバントとしては、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペス、カルボキシビニルポリマーなどの沈降性アジュバンドや、流動パラフィン、ラノリン、CFA(完全フロイントアジュバント)、IFA(不完全フロイントアジュバント)などの油性アジュバントが例示できる。 抗原の接種量は、目的とする抗体が体内に適当量形成され、かつ動物に対して過度の毒性が発揮されないように適宜決定すればよい。また、抗原の接種は数回に分けて行い、高力価が持続するように追加接種することが好ましい。 抗原を免疫された鳥類が生産した卵からポリクローナル抗体を調製する方法は、公知の方法で行うことができる。例えば、免疫したニワトリの卵中に抗体が適当量生成したことを確認した後、卵を採取し、卵から卵黄液を分離し、得られた卵黄液を粉末化した後、その粉末をエタノール等を用いて脱脂した粉末中から緩衝液を用いて抽出する方法、カラギーナンを使用した方法(H.Hatta.et al.,Agric.Biol.chem.,54(10),2531−2535,1990)などによってポリクローナル抗体を調製することができる。 上記で得られたポリクローナル抗体は、適宜、塩析やカラムを用いた方法などにより更に精製することもできる。 得られたポリクローナル抗体がT2R活性化作用を有することは、例えばT2R発現細胞に得られたポリクローナル抗体を接触させ、カルシウム応答の推移を調べることにより確認することができる。ポリクローナル抗体をT2R発現細胞に接触させた後、T2Rリガンドとして知られるサリシン等と同様のカルシウム応答の推移を示した場合には、ポリクローナル抗体はT2R活性化作用を有すると判断することができる。 本発明のポリクローナル抗体は、T2Rを活性化することにより、本来のリガンドによる苦味強度を増大させる効果を奏する。本発明のポリクローナル抗体とリガンドとを同時にT2Rと接触させてもよく、本発明のポリクローナル抗体とT2Rとを接触させた後にリガンドとT2Rとを接触させてもよいが、本発明のポリクローナル抗体とT2Rとを接触させた後にリガンドとT2Rとを接触させると効果を増大させることができる。 本発明は、上記本発明のポリクローナル抗体を有効成分として含有するT2R活性化用組成物(以下、本発明の組成物という。)を提供する。本発明の組成物は、上記本発明のポリクローナル抗体を有効成分として含有していればよく、T2R活性化作用を損なわない限り、さらに他の成分を含有していてもよい。本発明の組成物における本発明のポリクローナル抗体の含有量はT2R活性化作用を有する範囲内で適宜設定することができる。本発明の組成物の形態は特に限定されず、固体、液体等の何れであってもよい。 本発明は、上記本発明のポリクローナル抗体と、T2R発現細胞とを接触させることを特徴とするT2R活性化方法(以下、本発明の方法という。)を提供する。本発明の方法において、T2R発現細胞は、細胞膜上にT2Rを発現している細胞であればよく、生体に存在するT2R発現細胞、及び組換えT2Rを強制発現させた細胞のいずれであってもよい。生体に存在するT2R発現細胞としては、例えば、味蕾の味細胞などが挙げられる。接触の方法は特に限定されないが、例えば、本発明のポリクローナル抗体を舌上に載せる方法、組換えT2R強制発現細胞の培地に本発明のポリクローナル抗体を添加する方法等が挙げられる。 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。〔実施例1:抗原の調製〕(1)FLAG−hT2R16−His発現酵母株の作製(1−1)ヒトT2R16(hT2R16)遺伝子のクローニング hT2R16遺伝子は、ヒトゲノムDNA(クロンテック社製)を鋳型に用いて表1に示すF1及びR1プライマーを用いてPCR法により増幅しクローニングした。 マウス・ロドプシンのN末端38残基配列遺伝子(mRho)は、Dr.LiquanHuang(モネル研究所、USA)から供与された遺伝子を鋳型にして表1のF2及びR2プライマーを用いてPCR法により増幅した。表1のF3及びR3プライマーを用いて再度PCR法により増幅したhT2R16とmRhoを混合し、これを鋳型として表1のF2及びR3プライマーを用いてPCR法にてmRho−hT2R16融合遺伝子を増幅した後、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen社製)にクローニングし、pcDNA3.1/mRho−hT2R16を得た。(1−2)FLAG−hT2R16−His融合遺伝子の増幅 表2に示すFLAG−hT2R16 Forward primer及び8×His−hT2R16 Reverse primerを用い、pcDNA3.1/mRho−hT2R16を鋳型としてPCRを行った。得られたPCR産物は、1%アガロースゲル電気泳動により目的のサイズであることを確認した。(1−3)形質転換酵母の作製 YPD培地で前日から培養しておいた酵母(S.cerevisiae:BJ3501株)を、YPD培地30mLでO.D.600nm=0.4になるように調製し、30℃で4時間培養した。培養後、培養液を遠心分離して菌体を回収し、1Mソルビトールで3回洗浄後、1Mソルビトール:500μLに再懸濁した。 PCR産物(FLAG−hT2R16−His融合遺伝子)とSmaIで直線化したpPrGS−DDGFP(京都大学水谷博士より供与)と酵母懸濁液とを混合させて40℃で40分間インキュベートし、リチウムアセテート法(酢酸リチウム法)により形質転換を行った。その後、SD−UHプレートに散布し、約3日後まで30℃でインキュベートしてコロニーが複数できていることを確認した。(2)FLAG−hT2R16−Hisの精製(2−1)FLAG−hT2R16−His発現酵母の培養及び膜画分の回収 プレートのコロニーから、2%グルコース含SC−U培地中で30℃で2〜3日間前々培養を行った後、2%グルコース含SD−CAA培地を含む2Lフラスコに植菌し、30℃で48時間培養した(前培養)。培養後遠心分離し、上清を捨て、酵母をSD−CAA培地に移し、ガラクトース(終濃度2%)を加えて20℃で72時間誘導培養した。培養後遠心分離し上清を捨て、cell suspension bufferに懸濁した。ファルコンチューブにglass beadsと懸濁液を入れ、高速振盪機(CM1000)に直接固定する方法により、1時間低温室で攪拌して細胞壁を破砕した。遠心分離し、上清を集めた。ペレットをcell suspension bufferで洗浄し、さらに2回遠心分離して上清を集めた。集めた上清を4℃、30,000rpm、1時間、遠心分離機(HITACHI社)にかけ沈殿画分をmembrane suspension bufferに再懸濁した。上記操作はクリーンベンチ内で行った。保存する場合は液体窒素で凍結させ、−80℃で保存した。(2−2)アフィニティーカラム(Niカラム)による精製 膜画分をdilution membrane bufferで希釈し、界面活性剤(Anzergent 3−14、最終濃度1%)を加え、4℃で1時間処理して可溶化した後、遠心分離して上清を集めた。集めた上清をNi−NTAミニカラムにアプライし、2時間吸着させた。次にwash bufferでミニカラムを洗浄した後、elution bufferをミニカラムにアプライし、溶出フラクション(目的タンパク質)を1mlずつ4本のチューブに分取した。(3)精製したFLAG−hT2R16−Hisの確認 精製したFLAG−hT2R16−Hisを、SDS−PAGEのCBB染色及び抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングにより確認した。結果を図1に示した。精製したFLAG−hT2R16−Hisのバンドの位置を矢印で示した。SDS−PAGEのCBB染色及び抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロッティングのいずれにおいても同じ位置にバンドが現れ、高純度のFLAG−hT2R16−Hisが得られたことが確認できた。 次に、精製したFLAG−hT2R16−Hisの二次構造を調べるために、CDスペクトル(円偏光2色性)測定(円二色性分散計「J−820」、日本分光社製)を行った。結果を図2に示した。タンパク質のαへリックスのスペクトルは208nmと222nm付近に二つの負の極大を持つという特性を持つが、精製したFLAG−hT2R16−Hisについても同様のスペクトルが得られ(図中、T2R16(25℃))、また222nmの値から算出したαへリックス含量が予測値と近い値を示した。以上より、FLAG−hT2R16−Hisは二次構造を保持していることが明らかとなった。精製したFLAG−hT2R16−Hisの二次構造のイメージを図3に示した。 また、FLAG−hT2R16−Hisのリガンド結合能を調べるために、リガンドの存在下及び非存在下において温度を変化させてCDスペクトルを測定した。温度25℃においては、リガンドであるサリシンを加えてもスペクトルに変化はなかった(図中、T2R16+salicin(25℃))。温度を90℃に上昇させると、208nm及び222nmにおける負の値が小さくなり、タンパク質中のα−ヘリックスが減少することが示されたが(図中、T2R16(90℃))、サリシン存在下ではα−ヘリックスの減少が抑制されるという結果が得られた(図中、T2R16+salicin(90℃))。このα−ヘリックスの減少抑制は、サリシンがFLAG−hT2R16−Hisに結合したことにより、変性が抑制されたと考えられた。つまり、精製したFLAG−hT2R16−Hisはリガンド結合能を有していることから、二次構造を保持していると考えられた。〔実施例2:抗体の調製〕(1)免疫 実施例1で調製したFLAG−hT2R16−Hisを抗原とし、以下の条件で産卵鶏(2羽)のももの筋肉に注射して免疫を行った。・一次免疫(0週とする) FLAG−hT2R16−His:0.2mg/羽 アジュバント:CFA(完全フロイントアジュバント)・二次免疫(2週間後) FLAG−hT2R16−His:0.5mg/羽 アジュバント:IFA(不完全フロイントアジュバント)・三次免疫(4週間後) FLAG−hT2R16−His:0.2mg/羽 アジュバント:IFA(不完全フロイントアジュバント) 抗原を接種したニワトリの卵黄中の抗体力価の推移をELISAによって調べた。結果を図4に示した。図4より、三次免疫後の卵黄で抗体力価が上昇することが確認された。(2)鶏卵からの抗体精製 十分に抗体力価が上昇した6週間後及び7週間後(三次免疫から2及び3週間後)の卵から卵黄を分離し、得られた卵黄を均質化した後、抗体精製時まで−20℃に凍結保存した。解凍した卵黄液225gを用い、3倍量の0.5%食塩水(675mL)を加え、均質になるよう撹拌した。更に、2倍量の0.4%のλ−カラギーナン水溶液450mLを加え、撹拌後、1時間静置した。静置後、8,000rpm、30分間遠心分離し、その上清を回収した。回収した上清を、セライト−545、ろ紙、ヌッチェ型ロート、ろ過びんを用いてろ過した。ろ液に硫酸ナトリウムを加え、塩析を行った。塩析は3回実施した。その後、10mMリン酸水素二ナトリウム溶液を透析外液として用いて4℃で一晩透析を行った。その後、0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、抗体溶液を得た。得られた抗体溶液は凍結乾燥した。(3)抗体の評価 精製した抗体のhT2R16に対する抗体力価をELISAによって測定した。ELISAは、hT2R16を固相化した96ウェルプレートを用い、一次抗体に抗hT2R16−IgY又はコントロールIgYを10,000ng/mLから2倍段階希釈した抗体液、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗ニワトリIgY抗体、発色液にはpNPPを用いた。コントロールIgYは未免疫鶏卵から上記と同様な方法で精製したものを使用した。ELISAの結果を図5に示した。精製した抗hT2R16−IgYは濃度依存的に抗体力価が上昇した。一方、コントロールIgYは、いずれの濃度でも抗体力価は上昇しなかった。この結果から、得られた鶏卵抗体は、hT2R16に特異的な抗体であることが明らかとなった。(4)カルシウムイメージング法による評価 カルシウムイメージング法とは細胞にカルシウム感受性の試薬を負荷し、細胞内のカルシウムイオン濃度を測定する方法であり、苦味物質によって苦味受容体が活性化すると細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇する。(4-1)実験1 hT2R16を発現させたHEK293細胞を用いて、サリシン又はhT2R16抗体添加後の細胞内カルシウム濃度の推移を調べた。細胞数が5×104/ウェルになるよう96ウェルプレートに播種し、37℃のCO2インキュベーターに入れ、1日培養したのち、Ca2+感受性蛍光色素Fluo4−AM(Invitrogen社製)(終濃度2μM)を含むOpti‐MEM培地で、室温で30分間、続いて37℃で30分間インキュベートした。ウェル中の液を取り除き、DPBS(+)中、室温で30分間インキュベートしAM基の切断を促した。その後、マイクロプレートリーダーPOWERSCAN HT(DSファーマバイオメディカル社製)を用いてウェルに試料液をインジェクションして細胞の蛍光変化を1分間測定(励起485nm/測定528nm)した。結果を図6及び図7に示した。図6はサリシン添加後の細胞内カルシウム濃度の推移を示した図であり、図7は得られた抗体を添加した後の細胞内カルシウム濃度の推移を示した図である。図6より、サリシン添加により細胞内のカルシウム濃度が上昇したこと、つまり、サリシンによりhT2R16発現細胞が活性化されたことが示された。また、図8より、得られた抗体の添加により、濃度依存的に細胞内のカルシウム濃度が上昇したことが明らかとなった。この結果から、得られた抗体(鶏卵ポリクローナル抗体)は、hT2R16を濃度依存的に活性化させることが明らかになった。(4-2)実験2 hT2R16発現HEK293細胞を用いたカルシウムイメージング法により、各種サンプル添加時の細胞内カルシウム濃度の推移を比較した。サンプルには、DPBS(溶媒対照)、陽性対照として1mM Salicin(図中:Sal)及び25μM Isoproterenol(図中:Iso)、0.05%抗hT2R16−IgY(上記により得られた鶏卵ポリクローナル抗体)(図中:Anti−T2R16IgY)、陰性対照として未免疫鶏卵より精製した0.05%コントロールIgY(図中:IgY)を用いた。いずれのサンプルも、20個の細胞について細胞内カルシウム濃度の推移を測定し、サンプル添加前と添加後の細胞内カルシウム濃度の差を求めた。 結果を図8に示した。図8に示されるように、陰性対照として用いた0.05%IgYではDPBS(溶媒対照)と同程度の細胞内カルシウム濃度の上昇であったが、0.05%抗hT2R16−IgYを添加した場合は、1mM Salicinを添加した場合よりも強く、もっとも強いカルシウム濃度の上昇が認められた。〔実施例3:抗体が苦味受容に及ぼす影響〕 抗体が苦味受容にどのような影響を及ぼすのかを詳しく分析するため、20〜26歳の健康な成人男女を被験者として官能試験を行った。具体的には、感じた苦味強度をVAS(ヴィジュアルアナログスケール)を用いて評価した。また、抗体単独については、味質(苦味、甘味、塩味、うま味、酸味、その他)についても評価した。(1)抗体(抗hT2R16−IgY)の苦味強度及び味質の評価 抗体溶液(250μg/mL)及びサリシン溶液(3mM)をそれぞれ被験者(n=30)に摂取させ、苦味強度及び味質について回答を得た。結果を図9(a)、(b)に示した。(a)は苦味強度の評価結果、(b)は味質の評価結果である。図9(a)及び(b)より、得られた抗体(抗hT2R16−IgY)は、サリシン程強い苦味強度はないが、抗hT2R16−IgY単体でも30%の人が苦味を感じることが明らかとなった。(2)抗体(抗hT2R16−IgY)摂取後のサリシンの苦味強度の評価 抗体溶液(250μg/mL)を摂取した後にサリシン溶液(1mM)を摂取した時の苦味強度を、水を摂取した後にサリシン溶液(1mM)を摂取した時の苦味強度と比較した。また、抗体を抗hT2R16−IgYからコントロールIgYに代えて同様にサリシン溶液の苦味強度を比較した。結果を図10(a)、(b)に示した。(a)は抗hT2R16−IgYの結果、(b)はコントロールIgYの結果である。図10(a)、(b)から明らかなように、抗hT2R16−IgYを事前に摂取する(予め口に含む)ことにより、サリシンの苦味が有意に強く感じられるが、コントロールIgYを事前に摂取してもサリシンの苦味強度に有意な変化はないことが示された。この結果から、今回得られたhT2R16活性化作用を有する鶏卵ポリクローナル抗体は、事前摂取することによってhT2R16のリガンドであるサリシンの苦味強度を増大させる特性を持つことが明らかとなった。 鳥類由来のポリクローナル抗体であって、苦味受容体T2R活性化作用を有することを特徴とするポリクローナル抗体。 苦味受容体T2Rの全長タンパク質を抗原として、鳥類に免疫して得られるポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項1に記載のポリクローナル抗体。 抗原が、苦味受容体T2Rの立体構造を維持している全長タンパク質であることを特徴とする請求項2に記載のポリクローナル抗体。 抗原が、N末端にFLAGタグ及びC末端にHisタグを付加した苦味受容体T2Rの全長タンパク質であることを特徴とする請求項2又は3に記載のポリクローナル抗体。 苦味受容体T2Rが、ヒト苦味受容体hT2R16であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリクローナル抗体。 前記抗原を免疫されたニワトリの卵から調製されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリクローナル抗体。 請求項1〜6のいずれかに記載のポリクローナル抗体を有効成分として含有することを特徴とする苦味受容体T2R活性化用組成物。 請求項1〜6のいずれかに記載のポリクローナル抗体と、苦味受容体T2R発現細胞とを接触させることを特徴とする苦味受容体T2R活性化方法。 【課題】本発明は、苦味受容体T2R活性化作用を有するポリクローナル抗体を提供することを目的とする。【解決手段】鳥類の卵から調製されたポリクローナル抗体であって、苦味受容体(T2R)活性化作用を有することを特徴とするポリクローナル抗体。当該抗体は、T2Rの全長タンパク質を抗原として、鳥類に免疫して得られることが好ましい。当該抗体は苦味刺激自体が及ぼす生理機能のさらなる解明やリガンド結合部位の解明に繋がるツールとして利用することができる。【選択図】なし配列表


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