タイトル: | 公開特許公報(A)_プラスチックのバイオマス由来判別方法 |
出願番号: | 2013193718 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 23/00,G01T 1/204,G01N 33/44 |
永川 栄泰 柚木 俊二 斎藤 正明 JP 2014132255 公開特許公報(A) 20140717 2013193718 20130919 プラスチックのバイオマス由来判別方法 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター 506209422 福田 賢三 100082669 福田 伸一 100095337 加藤 恭介 100095061 永川 栄泰 柚木 俊二 斎藤 正明 JP 2012266048 20121205 G01N 23/00 20060101AFI20140620BHJP G01T 1/204 20060101ALI20140620BHJP G01N 33/44 20060101ALI20140620BHJP JPG01N23/00G01T1/204 AG01N33/44 8 3 OL 20 2G001 2G188 2G001AA11 2G001BA01 2G001CA07 2G001DA01 2G001GA12 2G001HA12 2G001KA14 2G001LA05 2G188BB05 2G188CC11 2G188CC21 2G188EE01 2G188EE14 2G188EE25 2G188HH06 2G188HH08 本発明は、プラスチックのバイオマス由来判別方法に関するものである。 従来、燃料やプラスチックは化石資源から製造されていたが、近年ではバイオマスから製造されたものが増えている。これらは化学的に等価であるが、燃料やプラスチックの偽称防止や信頼性の失墜防止などの観点から、判別して用いる必要がある。これらを判別する方法として、加速器質量分析法(AMS法:Accelerator Mass Spectrometry)と、液体シンチレーション法(LSC法:Liquid Scintillation Counting)とが提案されている。 いずれの方法もバイオマスに含まれている放射性炭素(14C)を測定することで、燃料やプラスチックがバイオマス由来か化石資源由来かを判別する。これは放射性炭素(14C)が、半減期が渡過した太古の有機物である化石資源に含まれず、現代の有機物であるバイオマスにのみ含まれているという事実に基づいている。 AMS法では、加速器を用いてイオン化した炭素原子を加速して放射性炭素(14C)を測定する。一方、LSC法では、例えば液体シンチレーションカウンタ(LSC:Liquid Scintillation Counter)を用いて、検出体である液体シンチレータに液体試料を混和し放射性炭素(14C)を測定する。具体的には、例えば、燃料から排出される二酸化炭素中の放射性炭素(14C)をAMS法で測定して燃料のバイオマス比率を求める方法(下記非特許文献8参照)、バイオマス由来のプラスチックと化石資源由来のプラスチックとの配合比を求める方法(下記非特許文献9参照)、が報告されている。また、化石資源由来の燃料に添加したバイオエタノールの濃度をLSC法およびAMS法で求め、LSC法でもAMS法と同様にバイオエタノールの濃度が求められることが報告されている(非特許文献10参照)。 LSCについて詳説すれば、LSCは放射性試料である三重水素(3H)(18.6keV)や放射性炭素(14C)(156keV)の原子核から放出される低エネルギーのβ線を測定する装置である。LSCによれば、放射性試料を液体シンチレータに混和させて内部試料計数を行うことにより、試料中における自己吸収をなくすことができる。さらにLSCは液体シンチレータが分子レベルで試料の全方位を覆うため、4π計数が可能となり精度良く測定できる。なお、低エネルギーのβ線は試料中の自己吸収によりほぼ全てのエネルギーが失われるため、放射性試料を外部から測定する通常の放射線計測器での測定が困難である。 このようなLSCを用いたLSC法は液体試料の判別に特化した測定技術である。液体試料に限定すれば、LSC法はAMS法よりも試料の前処理が簡単で、かつ、装置が安価であるため、普及に適している(下記非特許文献1から3、および11参照)。プラスチックが化石資源由来からバイオマス由来に変遷されつつある近年において、AMS法に替わる普及性が高い測定方法として、LSC法の活用が求められる。 LSC法による放射性炭素(14C)の測定方法として、下記特許文献1に記載の自動車燃料中の植物由来エタノール含有量の測定方法が提案されている。この測定方法では、植物由来のエタノールを含む炭化水素系自動車燃料の試料に水を添加し、混合して静置した後二層分離した水相を取得する抽出操作を行い、次いで抽出液中の放射性炭素(14C)の量を分析する炭化水素系自動車燃料中の植物由来のエタノール含有量を測定する。特開2008−297489号公報斎藤正明、中村優、水を使用した抽出濃縮法によるバイオガソリンE3のC−14簡易測定、RADIOISOTOPES、56(7)、157−159(2007)斎藤正明、中村優、2段階水抽出法によるバイオガソリンE3のC−14簡易測定、RADIOISOTOPES、56(9)、529−531(2007)斎藤正明、液体シンチレーションカウンタによるバイオディーゼル燃料の放射性炭素測定、RADIOISOTOPES、58(7)、455−460(2009)石河寛昭 著、最新液体シンチレーション測定法(南山堂 1992)野口正安、富永洋 著、放射線応用計測、160−161、226−236(日刊工業新聞社 2004)GLENN F. KNOLL 著 木村逸郎、阪井英次 訳、放射線計測ハンドブック 第2版、231−232、348−350(日刊工業新聞社1991)アロカ株式会社 鬼島明洋、古澤考良、山野俊也、田中守、シンチレーションカウンタの概要と応用、放射線、Vol.34、No.3、166−181(2008)S.W.L. Palstra,H.A.J. Meijer,Carbon−14 based determination of the biogenic fraction of industrial CO2 emissions−Application and validation, Bioresource Technology, 101 3702−3710 (2010)Masao Kunioka, Yoshifumi Inuzuka, Fumi Ninomiya, Masahiro Funabashi, Biobased Contents of Biodegradable Poly(ε−caprolactone) Composites Polymerized and Diredtly Molded Using Aluminium Triflate from Caprolactone with Cellulose and Inorganic Filler, Macromolecular Bioscience, 2006, 6, 517−523Ivo J Dijs, Eric van der Windt, Lauri Kaihola, Klass van der Borg, Quantitative Determination by 14C Analysis of the Biological Component in Fuels, Radiocarbon, Vol 48, Nr 3, 2006, p 315−323大島一史、興石君子、木村俊範、放射線計測技術を利用したバイオ燃料由来判別の現状、放射線と産業、No.125 21−25(2010.03.01) しかし、上記した特許文献1に記載の測定方法によれば、植物由来のエタノールを含む炭化水素系自動車燃料の試料として、例えばバイオガソリンやバイオ軽油などの液体試料が挙げられ、固体を試料とすることが想定されていない。 また、LSC法によれば、芳香族化合物が主たる溶媒である液体シンチレータに試料を溶解しなければ測定が困難であるという当該技術分野の常識(非特許文献4から7参照)のもと、溶解し難い試料である固体プラスチックなどを試料として測定する試みはなされていない。すなわち、LSC法ではクエンチング(消光現象)が生じて内部試料計数における計数効率が低下すること、4π測定を行うには試料がバイアル中で均質に混和されている必要があることから、LSC法が固体プラスチックに馴染まないと考えられているためである。以下、液体シンチレータに固体プラスチックが可溶であると仮定してさらに詳説する。 仮に固体プラスチックが液体シンチレータに可溶であるとする。LSC計測は通常、20mLのガラスバイアルに液体試料と液体シンチレータとを適宜混合して行う。例えば固体プラスチック5gと液体シンチレータ10mLとを混合して試料を調製する。ポリエチレン5gには炭素が約4.3g含まれている。バイオマス炭素に含まれる放射性炭素(14C)の壊変率は約14dpm/g carbonであるため、試料の壊変率は約60dpmである。理想的なLSCの計数効率はほぼ100%に近いので、60dpmの計数率が得られる。低バックグラウンド(BG)型LSCはBGが約5cpmであるため、50分間の計測で統計的に有意な差が得られ、バイオマス由来の判別に十分な計数率が得られる計算になる。 しかし、通常固体プラスチック(ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系プラスチック)は液体シンチレータに不溶である。固体プラスチック5gを1粒100mgのペレット50粒と仮定する。ポリエチレンの比重は約1.0であるため、ペレット1粒の半径は約3mmである。放射性炭素(14C)から放射されるβ線の飛程(荷電粒子が物質中でその運動エネルギーを失うまでに移動する距離)は平均で約30μmであることから、ペレット表面から30μm以上内側にある放射性炭素(14C)は計測にほとんど関与できないと仮定する。ペレット表面から深さ30μmの‘殻’の体積は、全ペレット体積の3%である。β線は全方位に放射されるので、殻からの全β線の約半分がペレット外に届いたとしても計数率が48×0.03÷2=0.72cpmとなり、計数効率が1.5%となる。通常のLSCによる計測を考えた場合、計数効率が1.5%では信頼性に乏しい。このような理由から溶媒に不溶である固体プラスチックの由来判別をLSCで行うことは原理的に困難であるとされてきた。 なお、AMS法によれば固体プラスチックなどを試料とすることができるが、AMS法での測定には大規模で高価な装置を必要とするうえ、日本国内でAMS法に準拠した分析機関は限られている。 本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)を、固体のままLSC法を用いて測定するプラスチックのバイオマス由来判別方法の提供を目的とする。 上記目的を達成するために、本発明に係るバイオマス由来判別方法は、液体シンチレータを用いて試料に含まれる放射能を測定するプラスチックのバイオマス由来判別方法において、前記試料が固体プラスチックであり、この固体プラスチックの非晶領域に芳香族化合物を浸透させる手順である浸透手順を含む、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記固体プラスチックの非晶領域に浸透させる前記芳香族化合物が、前記液体シンチレータに含まれた第一芳香族化合物であり、前記浸透手順を、前記第一芳香族化合物が含まれた前記液体シンチレータに前記固体プラスチックを浸漬して行う、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記固体プラスチックの非晶領域に浸透させる前記芳香族化合物が、前記液体シンチレータに含まれた第一芳香族化合物と別に用意した第二芳香族化合物であり、前記浸透手順を、前記第二芳香族化合物に前記固体プラスチックを浸漬して行い、前記浸透手順を経た後、前記非晶領域に前記第二芳香族化合物を浸透させた前記固体プラスチックを前記液体シンチレータに浸漬する、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記浸透手順を、約0.5時間から約2時間放置することで行う、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記浸透手順を、約20℃から前記芳香族化合物の沸点未満で行う、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記固体プラスチックが、ポリエチレン、またはエチレンの共重合体から構成されたペレットである、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記固体プラスチックが、ポリプロピレン、またはプロピレンの共重合体から構成されたペレットである、ことを特徴としている。 また、本発明に係る方法は、前記芳香族化合物が、ベンゼン、キシレン、およびトルエンのうちの少なくとも一種類または二種類以上を含む、ことを特徴としている。 本発明に係るプラスチックのバイオマス由来判別方法は、上記した構成である。この構成により、固体プラスチック内部で放射される放射線(β線)の飛程の範囲内に芳香族化合物が浸透する。したがって、固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)を、固体のままLSC法を用いて測定することができる。 本発明に係るプラスチックのバイオマス由来判別方法によれば、固体プラスチックの非晶領域に浸透させる芳香族化合物が、第一芳香族化合物と別に用意した第二芳香族化合物であり、浸透手順を、第二芳香族化合物に固体プラスチックを浸漬して行い、浸透手順を経た後、非晶領域に第二芳香族化合物を浸透させた固体プラスチックを液体シンチレータに浸漬する。液体シンチレータと別に用意した第二芳香族化合物に固体プラスチックを浸漬すれば、液体シンチレータを放置することがないため、浸透手順の際に液体シンチレータの組成変化を避けることができる。したがって、正確に測定することができ、判別の精度が上がる。 本発明に係るバイオマス由来判別方法では、浸透手順を、約0.5時間から約2時間放置することで行う。この構成により、芳香族化合物の非晶領域への浸透が増大するため、多くの蛍光物質が蛍光する。したがって、計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。 本発明に係るバイオマス由来判別方法では、浸透手順を、約20℃から前記芳香族化合物の沸点未満で行う。この構成により、芳香族化合物の非晶領域への浸透が促進される。したがって、浸透手順に要する時間を短縮させつつ計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。 本発明に係るバイオマス由来判別方法では、固体プラスチックが、ポリエチレン、またはエチレンの共重合体から構成されたペレットであるか、ポリプロピレン、またはプロピレンの共重合体から構成されたペレットである。この構成により、固体プラスチックが液体シンチレータや芳香族化合物に溶解せず、固体のままLSC法を用いて測定することができる。また、固体プラスチックがペレット等の粒状であれば内部に芳香族化合物が浸透しやすくなり、固体プラスチック内部の放射線(β線)の飛程の範囲内に芳香族化合物が浸透する。したがって、計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。本発明の実施例1の結果を示した図である。本発明の実施例1の結果を示した図である。本発明の実施例1の結果のグラフである。本発明の実施例2の結果を示した図である。本発明の実施例2の結果を示した図である。本発明の実施例2の結果のグラフである。本発明の実施例5の結果を示した図である。本発明の実施例5の結果を示した図である。本発明の実施例5の結果のグラフである。本発明の実施例3、4の結果を比較例の結果と共に示した図である。計測値と誤差の評価1に関する図である。計測値と誤差の評価1のグラフである。計測値と誤差の評価2に関する図である。計測値と誤差の評価2のグラフである。計測値と誤差の評価3に関する図である。計測値と誤差の評価3のグラフである。計測値と誤差の評価4に関する図である。計測値と誤差の評価4のグラフである。本発明の実施例6の結果を示した図である。本発明の実施例6の結果を示した図である。本発明の実施例6の結果のグラフである。本発明の実施例7の結果を示した図である。本発明の実施例7の結果を示した図である。本発明の実施例7の結果を示した図である。本発明の実施例7の結果のグラフである。 以下に、本発明の実施形態を説明する。 本発実施形態では、試料を固体プラスチックとし、液体シンチレータ(シンチカクテル)を用いて固体プラスチックの放射能を測定する。この測定は、固体プラスチックの非晶領域に芳香族化合物としての溶媒を浸透させる手順である浸透手順が含まれる。本実施形態の実施に際し、例えばLSCが用いられる。なお、本実施形態であるバイオマス由来判別測定方法は、LSCによる測定と、その前になされる前処理とが含まれる。 LSCは、対面して配置された主検出部である一対の光電子増倍管、この光電子増倍管同士の間に配置されたガラス製の試料容器であるバイアル(容量20ml)、電気ノイズを低減させるための計数回路、光電子増倍管からのパルス信号を計数するための計数部(MCA)、計数データを処理するためのデータ処理部などから構成されている。バイアルは、第一芳香族化合物としての溶媒と蛍光体とから構成された液体シンチレータで満たされ、試料である固体プラスチックが浸漬される。 LSCの発光過程は、放射線エネルギー、溶媒分子の励起、蛍光体の励起、発光、からなる。ここで芳香族化合物のπ電子が重要な役割を果たす。芳香環の炭素原子は4個の価電子を持ち、3個はSP2混成軌道(σ結合)を形成し、残る1個の価電子がSP2混成軌道と垂直方向にSPz軌道(π結合)を形成する。π電子は芳香環の正六角形の平面の上下方向に広がるように存在(非局在化)している。σ電子は分子の平面軌道を運動していて結合エネルギーが大きく、発光の際のエネルギー移行には寄与しない。π電子はσ軌道に対して垂直方向に分布していて、移動性に富み、容易に励起されるので発光過程におけるエネルギー移行に大きく関与している。 溶媒は、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、プソドイクメン、フェニルシクロヘキサン、エチルベンゼン、アニソール、メシチレン、クメン、p-シメン、シクロヘキサン、などである。価格の低さや入手の容易さから、好ましくはトルエン、キシレン、ベンゼンであり、このうち少なくとも一種類または二種類以上が含まれている。 蛍光体は、例えばPPO、POPOP、DPO、PBDなどであり、最大蛍光波長が300nmから500nmであることが好ましい。 本発明の分析対象となる固体プラスチックはバイオマス由来のポリオレフィンである。ポリオレフィンは、例えばポリエチレンやポリプロピレンである。ポリオレフィンはエチレンを主なモノマーとする共重合体、またはプロピレンを主なモノマーとする共重合体から構成されていてもよい。固体プラスチックは、例えばペレットなどの粒状、粉状などである。 浸透手順では、バイアルに満たされた液体シンチレータに固体プラスチックを浸漬して放置すると、固体プラスチックの非晶領域に液体シンチレータの溶媒が浸透する。すなわち、溶媒が、固体プラスチック内部で放射される放射線(β線)の飛程の範囲内に浸透する。固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)から放射線(β線)が放出され、溶媒が励起する。溶媒は非晶領域に浸透しているため、放射性炭素(14C)の原子同士の間で、放射性炭素(14C)から全方位に放射される放射線(β線)を受けて励起する。励起した溶媒分子のエネルギーは未励起溶媒分子に移行され、更に蛍光体にエネルギー移行され励起して蛍光する。このようにして、固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)から放出された放射線(β線)は液体シンチレータにより光エネルギーに変換される。 ここで、浸透手順は、液体シンチレータとは別に用意した第二芳香族化合物としての溶媒に固体プラスチックを浸漬して放置するものとしてもよい。その後、溶媒が非晶領域に浸透した固体プラスチックを液体シンチレータに浸漬する。なお、第二芳香族化合物としての溶媒は、上記した溶媒と同じであるが、第一芳香族化合物と異なる組み合わせであってもよい。 光電子増倍管は蛍光した蛍光体の光を受光し、光エネルギーを電気信号に変換して電子を増倍する。計数部は光電子増倍管から出力された信号から計数値を波高弁別し、計数されたデータをデータ処理部が処理する。 上記した浸透手順は約20℃から芳香族化合物の沸点未満で行う。その際、液体シンチレータの温度を一定に保たせる。なお、浸透手順は、高温で行われるほど溶媒の非晶領域への浸透が促進されるが、液体シンチレータの溶媒であるトルエンなどの第4類危険物は、気化して蒸気が引火する可能性があるため、沸点近傍を避けた温度であることが好ましい。より好ましくは40℃から60℃の範囲である。 この液体シンチレータに固体プラスチックを浸漬して放置する時間は任意であるが、約0.5時間から約2時間であることが好ましい。放置する時間を延ばすことにより、溶媒の非晶領域への浸透が増大する。これにより、放射線(β線)量が増加して計数率が上がり、バイオマス由来の判別の精度が上がる。すなわち、放置する時間が延びるとバイオマス由来の判別の精度が上がる。 なお、浸透手順では放置しなくても溶媒は非晶領域へ浸透する。そのため、放置しなくてもLSCの精度が高ければバイオマス由来の判別が可能である。また、放置する時間が10時間を超えても溶媒は非晶領域へ浸透し続けるため、これに伴ってバイオマス由来の判別の精度も上がる。 次に、本実施形態の効果を説明する。 上記したように本実施形態によれば、バイアルに満たされた液体シンチレータに固体プラスチックを浸漬して放置すると、固体プラスチックの非晶領域に液体シンチレータの溶媒が浸透する。すなわち、溶媒が、固体プラスチック内部で放射される放射線(β線)の飛程の範囲内に浸透する。固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)から放射線(β線)が放出され、溶媒が励起する。溶媒は非晶領域に浸透しているため、放射性炭素(14C)の原子同士の間で、放射性炭素(14C)から全方位に放射される放射線(β線)を受けて励起する。励起した溶媒分子のエネルギーは未励起溶媒分子に移行され、更に蛍光体にエネルギー移行され励起して蛍光する。したがって、固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)を、固体のままLSC法を用いて測定することができる。 本実施形態では、液体シンチレータとは別に用意した溶媒に固体プラスチックを浸漬して放置する。液体シンチレータと別に用意した溶媒に固体プラスチックを浸漬すれば、液体シンチレータを放置、加温することがないため、浸透手順の際に液体シンチレータの組成変化を避けることができる。すなわち、LSC計測の再現性が低下し、判別の精度が低下することを避けることができる。したがって、正確に測定することができ、判別の精度が上がる。 本実施形態では、浸透手順を約0.5時間から約2時間で行う。この構成により、溶媒による非晶領域への浸透が増大するため、放射線(β線)量が増加して非晶領域で多くの溶媒が励起して発光すると共に、多くの蛍光体が蛍光する。したがって、計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。 本実施形態では、浸透手順を約20℃から芳香族化合物の沸点未満で行う。この構成により、溶媒の非晶領域への浸透が促進される。したがって、浸透手順に要する時間を短縮させつつ計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。 本実施形態では、固体プラスチックがポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンであり、ペレットなどの粒状である。この構成により、固体プラスチックが液体シンチレータや溶媒に溶解せず、固体のままLSC法を用いて測定することができる。また、固体プラスチックがペレット等の粒状であれば内部に溶媒が浸透しやすくなり、固体プラスチック内部で放射される放射線(β線)の飛程の範囲内に溶媒が浸透する。したがって、計数率を上げることができ、判別の精度を上げることができる。 本実施形態は判別方法が容易であるため、広範な普及が期待できる。また、本実施形態はプラスチック由来の偽称防止、信頼性の失墜防止に役立つ。さらに、バイオマス由来のプラスチックに関する優遇税制を活用するに際し、プラスチックの判別に役立つ。 次に、本発明の実施例を説明する。LSCはTris−Carb3180TR/SL(Perkin−Elmer社製)であり、測定モードが放射性炭素(14C)測定モードである。測定に用いた液体シンチレータ(シンチゾルAL−1、同仁化学株式会社製)は、溶媒がトルエン:キシレン=95:5の混合溶媒、蛍光体がDPO(λmax=364nm、4g/L)、POPOP(λmax=418nm、0.1g/L)である。 <実施例1:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(Braskem植物由来ポリエチレン、Braskem社製、グレード:SGF4950、密度:0.956g/cm3、直径約3mm)である。このポリエチレンペレットを60℃に保温したキシレンに浸漬して数時間(0、0.5、2、8、および10時間)放置した。その後、ポリエチレンペレットを回収して液体シンチレータ(10ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した(図1、図2、および図3参照)。なお、BGとして化石資源由来のポリエチレンペレット(ノバテックHD、日本ポリエチレン製、グレード:HJ360、密度:0.951g/cm3、直径約3mm)を60℃に保温したキシレンに8時間浸漬した。 <実施例2:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)である。このポリエチレンペレットを60℃に保温したトルエンに浸漬して数時間(0、0.5、および2時間)放置した。その後、ポリエチレンペレットを回収して液体シンチレータ(10ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した(図4、図5、および図6参照)。なお、BGとして化石資源由来のポリエチレンペレットを60℃に保温したキシレンに8時間浸漬した。 <実施例3:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)である。このポリエチレンペレットを常温の液体シンチレータ(10ml)に浸漬して4日間放置した。結果は計数時間が500min、計数率が37.41cpm、誤差(2σ)が0.55cpmである(図10参照)。 <実施例4:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)である。このポリエチレンペレット(7g)をキシレン(20ml)に浸漬して4日間放置した。その後、ポリエチレンペレットを回収して液体シンチレータ(10ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した。結果は、計数時間が50min、計数率が20.22cpm、誤差(2σ)が1.27cpmである(図10参照)。実施例4により、試料に溶媒が浸透していることが解る。 <実施例5:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)である。このポリエチレンペレットを保温(常温、40、60、および80℃)したキシレンに浸漬して2時間放置した。その後、ポリエチレンペレットを回収して液体シンチレータ(10ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した(図7、図8、および図9。なお、BGとして化石資源由来のポリエチレンペレットを60℃に保温したキシレンに8時間浸漬した。 <比較例1:ペレット> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)である。このポリエチレンペレットを液体シンチレータ(10ml)に浸漬して4日間放置した後、ポリエチレンペレットを取り除き、液体シンチレータのみをLSCで測定した。すなわち、実施例3において、ポリエチレンペレットが取り除かれた後の液体シンチレータをLSCで測定した。結果は、計数時間が500min、計数率が3.5cpm、誤差(2σ)が0.17cpmである(図10参照)。比較例1により、試料が液体シンチレータに溶解していないことが解る。 <比較例2:ペレット> 試料は化石資源由来のポリエチレンペレットである。このポリエチレンペレットを液体シンチレータ(10ml)に浸漬して4日間放置した。結果は、計数時間が500min、計数率が3.68cpm、誤差(2σ)が0.17cpmである(図10参照)。 <比較例3:ペレット> 試料は化石資源由来のポリエチレンペレットである。このポリエチレンペレットをキシレン(20ml)に浸漬して4日間放置した。その後、ポリエチレンペレットを回収して液体シンチレータ(10ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した。結果は、計数時間が50min、計数率が3.54cpm、誤差(2σ)が0.53cpmである(図10参照)。 <比較例4:ペレット> 試料は化石資源由来のポリエチレンペレットである。このポリエチレンペレットを液体シンチレータ(10ml)に浸漬して4日間放置した後、ポリエチレンペレットを取り除き、液体シンチレータのみをLSCで測定した。すなわち、比較例2において、ポリエチレンペレットが取り除かれた後の液体シンチレータをLSCで測定した。結果は、計数時間が500min、計数率が3.32cpmであり、誤差(2σ)が0.16cpmである(図10参照)。 <実施例6:紛体> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)を粉状にしたものである。ポリエチレンペレットを液体窒素で冷却した後、ニューパワーミルPM−2005m(大阪ケミカル社製)を用いて粉体化処理した。粉体化処理したポリエチレン(3.01g)を液体シンチレータ(15ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した(図19、図20および図21参照)。図19および図20において、グラム当りの計数率(cpm/g)を示し、通常のペレットと比較するため、未処理(非加熱)のポリエチレンペレット(図1および図2参照)の計数率およびグラム当たりの計数率を併記する。結果は、計数時間が50min、ペレットのグラム当たりの計数率が5.03cpm/g、誤差(2σ)が0.63、粉体のグラム当たりの計数率が9.32cpm/g、誤差(2σ)が0.86である。実施例6により、溶媒との接触面積が増大すると、得られる計数値も増大することが解る。 <実施例7:円柱体> 試料はバイオマス由来のポリエチレンペレット(7g)を円柱状にしたものである。ポリエチレンペレットを金型(直径15mm、高さ15mm)に投入し、小型熱プレス機AH−1TC(アズワン社製)を用いて200℃に加熱溶解し、円柱状に成形した。結晶化度が異なる試料を作成するため、加熱溶解後に一晩放置して徐冷した試料(6.23g、結晶化度73%)、及び氷水で急冷した試料(6.69g。結晶化度52%)を作成した。円柱体を液体シンチレータ(15ml)が入ったバイアルに移し、LSCで測定した(図22、図23、図24および図25参照)。通常のペレットと比較するため未処理(非加熱)のポリエチレンペレット(図1および図2参照)の計数率およびグラム当たりの計数率を併記する。結果は、計数時間が500min、ペレットのグラム当たりの計数率が4.99cpm/g、誤差(2σ)が0.20、円柱体(結晶化度52%)のグラム当たりの計数率が1.20cpm/g、誤差(2σ)が0.10、円柱体(結晶化度73%)が0.98cpm/g、誤差(2σ)が0.09である。実施例7により、溶媒との接触面積が減少したため、得られる計数値も減少したことが解る。また、結晶化度が低い試料は結晶化度が高い試料よりも計数値が高いことが解る。 <結果と考察> 形状が計測値に与える影響を調べる為、ペレット、粉体、円柱体の3条件で、LSCで測定し、グラム当りの計数率で計測値を解析した(図19から図25参照)。ペレットは計数率が飽和に達するまで約2000minを要したが、粉体では計測開始直後から飽和値に達した。円柱体では計数率の上昇は緩やかで、計測開始80hを経ても飽和に達しなかった。測定終点での計測値は、粉体>ペレット>円柱体となり、粉体が最大値を示した。更に結晶化度が計測値に与える影響を評価する為、結晶化度の異なる円柱体をLSCで測定した。結晶化度の異なる試料では、結晶化度の低い試料の計数率が結晶化度の高い試料の計数率よりも統計的に有意であった。 粉体のグラム当たりの計数率は計測開始直後から飽和値に達し、測定終点の計測値は3つの形状で最大値を示した。これには2つの理由が考えられる。 (1)粉体処理によりポリエチレンと液体シンチレータの接触面積が向上し、飽和に達する時間が短縮された。 (2)粉体処理により発光に寄与できる放射線(β線)が増加した。 粒径直径2〜3mmのペレットでは、飽和値に達するまでに2000minを要した。円柱体は粉体・ペレットと比較して溶媒との接触面積が小さいことから、計測開始後80hを経ても飽和に達しなかったと考えられる。粉体はミルで粉砕した為、正確な表面積は明らかでない。しかし粉体は、溶媒との接触面積が少なくともペレットや円柱体と比較して大きい。溶媒との接触面積がペレットや円柱体よりも大きいことから、溶媒の浸透が促進され飽和に達する時間も短縮されたと考察される。 14Cの放射線(β線)はエネルギーが低く(Emax=156keV)、炭化水素中での平均飛程は数十μmである。ペレットの粒径は直径が2〜3mmであり結晶領域に溶媒は浸透できない為、ペレットでは計数されていない放射線(β線)があると予測される。粉体処理により発光に寄与できる放射線(β線)が増加したと考察される。結晶化度の異なるバイオマス由来のポリエチレンを計測した結果では結晶化度低い試料の計数率が統計的に有意であった。この結果からポリエチレンの非晶領域に溶媒が浸透していることが示唆された。 次に、図11から図18に基づいて誤差について説明する。計数誤差は次式1により表される。 総計数/計測時間=計数率 計数率=n±(n/t)1/2 ・・・[式1] ここでn:試料の計数率、t:試料の計測時間である。[式1]より計測時間が短く、nに含まれるBGの総計数が高くなる程、誤差は大きくなる。BGの計数率はLSCのスペックに依存する(実施例のLSCは高スペックなため、BGは約4cpmであるが、一般的なLSCは20〜30cpm程度である)。以下、得られた計数率を基にLSCのスペック及び計測時間を様々に仮定して評価を行う。 1)評価1としてBGが30cpmのLSCで10分計測したと仮定する(図11、図12参照)。(A)加熱なし、(B)60℃で30分加熱処理した場合及びBGの計数率±2σはそれぞれ、33.92±3.69cpm、52.66±4.59cpm、30±3.46cpmとなり、(A)は統計的に判別不可能であるが、(B)では可能である。30分以上加熱した場合、得られる計数率は増えるので、30分以上加熱を行った条件では全てで判別が可能である。 2)評価2として上記の仮定で計測時間を50分にした場合を考える(図13、図14参照)。(A)加熱なし、(B)60℃で30分加熱した場合及びBGそれぞれの計数率±2σはそれぞれ、33.92±1.65cpm、52.66±2.05cpm、30±1.55cpmとなり、(A)、(B)の条件とも判別が可能である。30分以上加熱を行った条件では1)と同様に全てで判別が可能である。 3)評価3として実施例で使用したLSCを用いて10分間計測した場合を仮定してみる(図15、図16参照)。(A)加熱なし、(B)60℃で30分加熱した場合及びBGの計数率±2σはそれぞれ、7.94±1.78cpm、26.68±3.27cpm、4.02±1.27cpmとなり(A)、(B)とも判別が可能である。30分以上加熱を行った条件では1)、2)と同様に全てで判別が可能である。 なお、評価4として実施した試験では50分の計測で(A)加熱なし、(B)60℃で30分加熱及びBGの計数率はそれぞれ、7.94±0.80cpm、26.88±1.46cpm、4.02±0.57cpmであり(A)、(B)とも判別可能であった(図17、図18参照)。30分以上加熱を行った条件では1)、2)、3)と同様に全てで判別が可能であった。 実用的な面から考えた場合、実施例で使用した低BGのLSCが使われることは少ないと考えられ、BGは実施例の約4cpmよりも大きいと仮定される。また加熱を行わなかった2)の(A)、3)の(A)、実施した試験の(A)の3つの結果は計算上、判別可能であったが、BGの誤差の範囲に近接している。よって加熱処理をすることにより得られる計数を増やす、もしくは計数時間を大きくし誤差を小さくすることが望ましい。 以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。本発明は既存のLSCを用いて実施することが可能である。 液体シンチレータを用いて試料に含まれる放射能を測定するプラスチックのバイオマス由来判別方法において、 前記試料が固体プラスチックであり、 この固体プラスチックの非晶領域に芳香族化合物を浸透させる手順である浸透手順を含む、 ことを特徴とするプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記固体プラスチックの非晶領域に浸透させる前記芳香族化合物が、前記液体シンチレータに含まれた第一芳香族化合物であり、 前記浸透手順を、前記第一芳香族化合物が含まれた前記液体シンチレータに前記固体プラスチックを浸漬して行う、 ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記固体プラスチックの非晶領域に浸透させる前記芳香族化合物が、前記液体シンチレータに含まれた第一芳香族化合物と別に用意した第二芳香族化合物であり、 前記浸透手順を、前記第二芳香族化合物に前記固体プラスチックを浸漬して行い、 前記浸透手順を経た後、前記非晶領域に前記第二芳香族化合物を浸透させた前記固体プラスチックを前記液体シンチレータに浸漬する、 ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記浸透手順を、約0.5時間から約2時間放置することで行う、 ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記浸透手順を、約20℃から前記芳香族化合物の沸点未満で行う、 ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記固体プラスチックが、ポリエチレン、またはエチレンの共重合体から構成されたペレットである、 ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記固体プラスチックが、ポリプロピレン、またはプロピレンの共重合体から構成されたペレットである、 ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 前記芳香族化合物が、ベンゼン、キシレン、およびトルエンのうちの少なくとも一種類または二種類以上を含む、 ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のプラスチックのバイオマス由来判別方法。 【課題】固体プラスチックに含まれる放射性炭素(14C)を、LSC法を用いて固体のまま測定するプラスチックのバイオマス由来判別方法を提供する。【解決手段】芳香族化合物としての溶媒と蛍光物質とを含む液体シンチレータに固体プラスチックを浸漬し、固体プラスチックの非晶領域に溶媒を浸透させて放射能を測定することで固体プラスチックのバイオマス由来を判別する。【選択図】図3