タイトル: | 公開特許公報(A)_電離水素水を製造するための遺伝子、酵素、薬品、電離水素水の製造方法、電離水素水製造装置 |
出願番号: | 2013185195 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12N 9/02,C12P 3/00,C12M 1/00,C12N 1/20,A61K 38/44,A61K 9/14,A61K 9/28,A61P 39/06,C02F 1/00 |
及川 栄作 及川 胤昭 JP 2015050960 公開特許公報(A) 20150319 2013185195 20130906 電離水素水を製造するための遺伝子、酵素、薬品、電離水素水の製造方法、電離水素水製造装置 独立行政法人国立高等専門学校機構 504237050 及川 胤昭 512054296 片寄 恭三 100098497 及川 栄作 及川 胤昭 C12N 15/09 20060101AFI20150220BHJP C12N 1/15 20060101ALI20150220BHJP C12N 1/19 20060101ALI20150220BHJP C12N 1/21 20060101ALI20150220BHJP C12N 5/10 20060101ALI20150220BHJP C12N 9/02 20060101ALI20150220BHJP C12P 3/00 20060101ALI20150220BHJP C12M 1/00 20060101ALI20150220BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150220BHJP A61K 38/44 20060101ALI20150220BHJP A61K 9/14 20060101ALI20150220BHJP A61K 9/28 20060101ALI20150220BHJP A61P 39/06 20060101ALI20150220BHJP C02F 1/00 20060101ALI20150220BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 101C12N9/02C12P3/00 ZC12M1/00 ZC12N1/20 AA61K37/50A61K9/14A61K9/28A61P39/06C02F1/00 P 13 2 OL 9 4B024 4B029 4B050 4B064 4B065 4C076 4C084 4B024AA01 4B024AA03 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024DA06 4B024DA11 4B024DA12 4B029AA27 4B029BB01 4B029BB16 4B050DD02 4B050LL01 4B050LL10 4B064AA03 4B064BJ20 4B064CA21 4B064CB30 4B064CC24 4B065AA01X 4B065AA26X 4B065AA26Y 4B065AA57X 4B065AA72X 4B065AA87X 4B065AA90X 4B065AB01 4B065AC14 4B065CA01 4B065CA44 4B065CA47 4B065CA60 4C076AA29 4C076AA36 4C076CC50 4C084DC23 4C084MA35 4C084MA43 4C084NA14 4C084ZC37 本発明は、電離水素水を製造するための遺伝子、酵素、薬品、電離水素水の製造方法、電離水素水製造装置に関し、特に、H−水素イオンを安定的にかつ豊富に含んだ水素イオン水を遺伝子、酵素、薬品等により作製する方法であって、作製した水素水から水素を取り出したり、電子を取り出すことによる発電、水素の溶解による貯蔵法、還元力を利用した生体内の活性酸素消去や水質や大気などの環境浄化に応用する技術である。 ヒドロゲナーゼは、水中の水素分子H2の分解による水素イオン生成反応とこの逆反応の水素イオンから水素分子の合成反応を触媒する酵素である。以下に反応式を示す。H2分子の分解により、H+イオンとH−イオンが等量生成されると考えられているが、H−イオンの存在量を明確に示す測定法がなく、(1)式で示される場合が多い。本発明者らは、(2)式により示す。 (1) H2⇔2H++2e− (2) H2⇔H++H−+2e− ドロゲナーゼには膜結合性でH2uptake型(H2の取り込みとイオン化;H2→2H++2e-を行う)と呼ばれるヒドロゲナーゼと細胞質にある双方向性ヒドロゲナーゼ(H2のイオン化とH2の合成;H2⇔2H++2e-)のヒドロゲナーゼが知られる。Uptake型ヒドロゲナーゼはNiFeを活性中心に持ち、酸素分子O2がある条件では、NiFe活性中心の立体構造を変化させて酸素分子を分解し、水に変えてO2耐性を獲得している(非特許文献1)。双方向性ヒドロゲナーゼは酸素O2に極めて敏感でありUptake型と異なる。 また、ヒドロゲナーゼはパラ型水素分子p-H2をオルト型水素分子o-H2に転換する反応を触媒することが知られている(非特許文献2)。しかし、水素分子のイオン化とオルト型水素分子およびパラ型水素分子の関係については知られていなかった。このような中、発明者らは(a)オルト型水素分子はイオン結合性水素分子であり、パラ型水素分子は共有結合性水素分子であること。(b)イオン結合性のオルト型水素分子はイオン化(H2→H++H-)する水素分子であるが、共有結合性のパラ型水素分子はイオン化しない水素分子であること。(c)従って、uptake型ヒドロゲナーゼによる水中の水素分子のイオン化反応は、初めにヒドロゲナーゼ酵素が水中のパラ型水素をオルト型水素分子に転換させ、次にイオン化反応を起こさせるのではないかと考えるに至った。(d)電離水素水はuptake型ヒドロゲナーゼによるH2分解の際生じたH+イオンとH-イオンによって生成されると考えられるが、実験的に証明されていない。 一方、H2分子がH+イオンとH-イオンにイオン化された水分子を再びH2分子に戻す反応を触媒するのは、双方向性ヒドロゲナーゼによると考えられるが、実験的に証明されていない。 大腸菌は、HydrogenaseIとHydrogenaseII、HydrogenaseIII、HydrogenaseVの4つのヒドロゲナーゼを持つ。このうちHydrogenaseIとHydrogenaseIIは、uptake型(取り込み型)のヒドロゲナーゼであり、水素ガスを消費する反応のみを行う。HydrogenaseIIIは、双方向性型のヒドロゲナーゼであり、ギ酸を触媒する反応において水素ガスを発生させる。HydrogenaseVは、特殊条件下でのみ働くヒドロゲナーゼ酵素であり、通常の条件下では働かない(Silent)である。非特許文献3は、大腸菌の複数のHydrogenaseを欠損させた多重変異種を作製し、それらを用いて水素発生量能を高めることができるとしている。ただし、この文献で測定している水素量は培養液から発生したガス状の水素分子であり、本発明者らが計測しているのは、水中に溶けている水素量を示す溶存水素濃度である。Shomura Y, Yoon K. S, Nishihara H, and Higuchi Y (2011) Structural basis for a [4Fe-3S]cluster in the oxygen-tolerant membrane-bound [NiFe]-hydrogenase. Nature. 479:253-256.Masukawa H., Mochimaru M., and Sakurai H.(2002)Disruption of the uptake hydrogenase gene, but not of the bidirectional hydrogenase gene, leads to enhanced photobiological hydrogen production by the nitorogen fixing cyanobacterium Anabaena sp.PCC 7120. Appl. Microbiol. Biotechnol. 58:618-624.前田憲成、尾川博昭(2009)大腸菌の代謝改変およびタンパク質改変による水素ガスの高度生産化、環境バイオテクノロジー学会誌、Vol.9:69-74. これまで、電離水素水を製造するために働く酵素や遺伝子は、ヒドロゲナーゼ酵素およびヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子であると考えられていたが、実験で確認されておらず未だ十分に解明されていない。 本発明は、このような従来の課題を解決し、電離水素水を製造するための遺伝子、酵素、薬品、電離水素水の製造方法、電離水素水製造装置を提供することを目的とする。 電離水素水製造に働いているのではないかと考えられる3種類の大腸菌のヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子破壊株と野生株により電離水素水を製造した。これらそれぞれの電離水素水に電離水素水に働いて水素を発生する能力を有した根粒菌を添加して、水素発生量の違いから電離水素水生成能の違いを比較した。この結果、水素を分解する反応のみを触媒するuptake型ヒドロゲナーゼI,II酵素を欠損した変異体で作製した電離水素水は根粒菌による水素発生量が低く、水素分子の分解と合成に働く双方向性ヒドロゲナーゼ酵素IIIを欠損した変異体で作製した電離水素水は根粒菌による水素発生量が高いことが示された。これらより、電離水素水を製造するために働く酵素はuptake型ヒドロゲナーゼであることが示された。 本発明に係る電離水素水を製造するための遺伝子は、常温・常圧で水中のパラ型水素分子からオルト型水素分子に転換し、さらにオルト型水素分子をH+イオンとH−イオンにイオン化する反応を行うことによって前記電離水素水製造する遺伝子である。好ましくは遺伝子は、水素分子H2分解してH+イオンとH−イオンを生成する反応を触媒する分解型のヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子である。 本発明に係る電離水素水を製造するための酵素は、常温・常圧で水中のパラ型水素分子からオルト型水素分子に転換し、さらにオルト型水素分子をH+イオンとH−イオンにイオン化する反応を行うことによって前記電離水素水を製造する酵素である。好ましくは酵素は、H2分解型のヒドロゲナーゼ酵素である。 さらに本発明に係る電離水素水を製造するための薬品は、電離水素水を製造するためにH2分解型のヒドロゲナーゼ酵素を固定化した担体などの材料や粉末や錠剤とした薬品である。このような薬品を用いることで従来技術と比較してH−イオンを含む電離水素水を容易に作成することができる。さらに本発明の電離水素水の製造方法は、上記遺伝子または酵素を用いて電離水素水を製造するものである。このような遺伝子または酵素を用いることで、従来技術と比較してH−イオンを含む電離水素水を容易に作成することができる。さらに本発明の電離水素水製造装置は、上記遺伝子または酵素を用いて電離水素水を製造する電離水素水製造装置である。好ましくは、水を収容する収容手段と、収容手段に収容された水に上記した遺伝子、酵素、薬品を投与することで電離水素水を製造する。 電離水素水を製造するために働く遺伝子およびこの遺伝子のコードする酵素が水素の分解のみを触媒するuptake型ヒドロゲナーゼであることを明らかにすることができた。 このuptake型ヒドロゲナーゼや双方向性ヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、組換え酵素の発現を高め、酵素を大量生産させ、この酵素を電離水素水製造材料として用いることにより、さらに効率良い電離水素水製造や水素発生法を開発することができると考えられる。本遺伝子や酵素は、燃料電池の開発や、植物の延命剤や開花制御、活性酸素の消去、還元剤などに応用することができる。実験装置の概略構成を説明する図である。大腸菌野生株BW25113株、分解型ヒドロゲナーゼI欠損株ΔhydI、分解型ヒドロゲナーゼII欠損株ΔhydII、双方向性ヒドロゲナーゼIII欠損株ΔhydIIIで作製した電離水素水に根粒菌を添化した場合の最大溶存水素発生量を示す図である。 電離水素水を製造するために働く遺伝子や酵素はこれまで明らかにされて来なかった。そこで、大腸菌の電離水素水製造に関わると考えられる3種類のヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株と野生株を用いて電離水素水を作製した。これらそれぞれの電離水素水に電離水素水に働いて水素を発生する能力を有した根粒菌を添加して、水素発生量の違いから電離水素水生成能の違いを比較した。 この結果、水素を分解する反応のみを触媒するuptake型ヒドロゲナーゼI,II酵素を欠損した変異体で作製した電離水素水は根粒菌による水素発生量が低く、水素分子の分解と合成に働く双方向性ヒドロゲナーゼ酵素IIIを欠損した変異体で作製した電離水素水は根粒菌による水素発生量が高いことが示された。これらより、電離水素水を作製するために働く酵素はuptake型ヒドロゲナーゼであることが示された。 これらの背景より本発明者らは、ヒドロゲナーゼが電離水素水製造に関わる酵素であるのではないかと考え、大腸菌の一遺伝子破壊株を保存している、国立遺伝学研究所より、3種類のヒドロゲナーゼ欠損株および野生株の譲与を受け、これらの株を用いて電離水素水を作製した。次にこれらの大腸菌で作製した電離水素水に電離水素から水素発生能を有することが本願発明者らによって明らかになっている根粒菌を添加して、水素発生能の比較実験を行った。この実験の詳細は実施例に示してある。実験方法:使用菌株: 今回の実験で使用した菌株は以下の通りである。 Mesorhzobium sp.GN1は山形県蔵王山中腹の湧水から単離された微生物であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託番号NITE P-1240 として寄託してある。 各4株の大腸菌は、以下の株番号と株名で国立遺伝学研究所に保存されており、入手することが可能である。野生株はStrainNO.9062、Strain NameBW25113株である。uptake型ヒドロゲナーゼ酵素ヒドロゲナーゼIのラージサブユニットをコードするhybB遺伝子破壊株はStrain NO.JW0955、Strain Name hyaB株である。uptake型ヒドロゲナーゼ酵素ヒドロゲナーゼIIのラージサブユニットをコードするhybC遺伝子破壊株はStrainNO.JW2962、Strain Name hyaC株である。双方向性ヒドロゲナーゼ酵素ヒドロゲナーゼIIIのラージサブユニットをコードするhycE遺伝子破壊株はStrainNO.JW2691、Strain Name hycE株である。その他に、電離水素水から水素発生を行う根粒菌として、Mesorhzobium sp.GN1株と同等の水素生成能力を有した、環境中から単離したBradyrhizoboum属の株を用いた。使用培地: 微生物培養の培地としてはPB培地(蔵王山湧水由来株用)とLB培地(大腸菌用)の2種類を用いた。PB培地の組成は、ポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム7水和物1g、寒天15g(寒天培地の場合)、蒸留水1L(up to 1L)であり、これをオートクレーブ処理(20min、121℃、2atm)して用いた。LB培地の組成は、トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl 5g、グルコース1g、寒天15g(寒天培地の場合)、蒸留水1L(up to 1L)であり、これをオートクレーブ滅菌(20min、121℃、2atm)して用いた。大腸菌変異体の培養の際は各培地にカナマイシンを終濃度が50μg/mlになるように添加した。使用試薬: 培養液を集菌した後の菌体の凍結保存液として、スキムミルク(10%スキムミルク、1%グルタミン酸ナトリウム溶液:SG溶液)を用いた。スキムミルクの組成は、スキムミルク10g、グルタミン酸ナトリウム1g、蒸留水100mL(up to 100mL)であり、これをオートクレーブ滅菌(20min、121℃、2atm)して用いた。実験装置: 実験装置の概略構成を図1に示す。同図に示すように、実験装置は、30℃の恒温槽100、恒温槽100内に収容されたビーカー110、菌体入りの透析膜チューブ120(SnakeSkin Dialysis Tubing/Thermo SCIENTIFIC社)、pH計130(HM-31P+GSF-2739C/東亜ディーケーケー株式会社)、ORP(酸化還元電位)計140(HM-31P+PST-2729C/東亜ディーケーケー株式会社)、DH(溶存水素)計150(KM2100 DH/有限会社共栄電子研究所)、DH用PC(パーソナルコンピュータ)160、pH用PC170、ORP用PC180を含む。但し、図に示す縮尺比は実際のものと異なる。実験手順: 実験の基本フローは、(1)微生物の培養(前培養・本培養)、(2)菌体の集菌・スキムミルク保存液に懸濁して-85℃凍結、(3)実験装置の調整、(4) 菌体入り透析膜の調整と溶存水素濃度の計測である。その他、(5)の手順により大腸菌で作った電離水素水に根粒菌を添化することによる水素発生量の測定を行った。実験は3回以上行い標準偏差値を求めた。(1)微生物の培養(前培養・本培養) 微生物の培養は、次の手順で行った。(a)−85℃に凍結保存しておいた各菌株を白金耳でかきとり、寒天培地へ画線植菌し、30℃で約7日間、静置培養した。(b)出現した単一のコロニーを白金耳でかき取り、100mLの液体培地を加えた200mL容の三角フラスコに植え継ぎ、30℃、70rpm(大腸菌110rpm)で、約7日間(大腸菌2日間)培養で定常期まで、振とう培養した(前培養)。(c)この培養液10mLを新しい1Lの液体培地を加えた2L容の三角フラスコに植え継ぎ、30℃、70rpm(大腸菌110rpm)で、7日〜10日間(大腸菌2日間)培養で定常期まで、振とう培養した(本培養)。(2)菌体の集菌・スキムミルク調整 菌体の集菌・調整は、次の手順で行った。(a)1Lの培養液を450mL容の遠心管3本に移し、4℃、5,000rpm、5min遠心した。(b)上澄み(培地)を捨て、菌体を5mlのスキムミルクに懸濁した。(c)懸濁液を500μLずつ分取し、1.5mL容マイクロチューブに入れ(1本あたり100mLの培養液量)、測定実験に使用するまで−85℃で凍結保存した。(3)実験装置の調整 実験装置の調整は、次の手順で行った。(a)恒温槽100に水を適当量補充し、30℃に設定した。(b)400mLの蒸留水を入れた1Lビーカー110を用意し、恒温槽100の中に設置した。(c)ビーカー110中の蒸留水に水素イオン(pH)計130、酸化還元電位(ORP)計140、溶存水素(DH)計150の電極を浸漬した。なお、実験は太陽光が入る窓際に装置を設置し、ブラインドを開けて行った。(4)菌体入り透析膜の調整と溶存水素濃度の計測 電離水素水から水素発生実験は、次の手順で行った。(a)保存しておいた菌体懸濁液を使用する本数分だけ氷中で解凍し、マイクロピペットで透析膜チューブ(スペクトラ製、分画分子量6,000〜8,000、長さ7〜9cm×幅40mm)に注入した。(b)透析膜の両端を専用のポリプロピレン製のクリップ(スペクトラ製)で留めた。(c)(b)の菌体入り透析膜を400mLの蒸留水を加えた1L容ビーカーに投入した。(d)菌体入り透析膜が浮かないようにガラス棒で抑えた。(e)pH計、ORP計のデータを、専用のソフトウェア(東亜DKK)を用いて、30分おきにパソコン170、180のハードウェアに収集した。DH計のデータはパソコン160に内蔵されているデジタルビデオカメラを用いて、1時間置きに1分間録画した。(5)大腸菌で作った電離水素水に根粒菌添加による水素発生量の測定 予め菌体懸濁液を加える30分以上前にpH計130、DH計150、ORP計140の電極を400mLの蒸留水を加えたビーカー110に浸漬して安定化させておくと同時に計測を開始する。-85℃で凍結保存した各大腸菌菌体懸濁液を使用する本数分だけ氷中で解凍した。次に菌体懸濁液を透析膜に移し、クリップで留めた。菌体懸濁液を入れた透析膜を400mLの蒸留水を加えた1L容ビーカーに投入した。ビーカーの水温は恒温槽を30℃に設定することにより調節した。22時間〜24時間後に、同様にMesorhizobium GN1株やBradyrhizobium属の根粒菌を加えた。 水中の水素分子H2を分解して水素を作り出す酵素がuptake型ヒドロゲナーゼであることの確認実験: 大腸菌の一遺伝子破壊株を用いて、まずヒドロゲナーゼにより電離水素水が合成されるか(実際は野生株と遺伝子破壊株で製造した電離水素水の根粒菌による水素素生成量の比較)を行った。図2に、最大溶存水素発生量と菌株との関係を示す。この結果、大腸菌野生株、H2の分解のみを行う(電離水素水を製造すると考えられる)ヒドロゲナーゼIおよびIIを破壊した株(ΔhydI、ΔhydII)では、根粒菌による水素成生は低い値が示された。 野生株の水素生成量が低い値を示したのは、生体内の酸化と還元の恒常性維持のためにH2分子の合成と分解の収支が一定であるためであると考えられた。また、ヒドロゲナーゼIとIIの欠損株が低い値を示したのは、破壊されていないもう一方のH2分解性ヒドロゲナーゼIかIIの酵素の分解(H2の消費)活性より高いH2合成活性を持つ双方向性ヒドロゲナーゼの合成活性により、O株を添加前に速やかにH+イオンとH-イオンを消費して、H2分子を合成しているためであると考えられた。一方で、双方向性ヒドロゲナーゼIII破壊株(ΔhydIII)で作った電離水素水に根粒菌を添加した場合は高い水素生成が検出された。これより、まず一遺伝子の欠損により電離水素水が多く生成されたり、少なく生成されたりすることから、本遺伝子によって電離水素水が製造されていることが確認された。 また、H2分解に働くuptake型ヒドロゲナーゼIまたはIIの欠損株で根粒菌による水素生成反応が低く、H2分解と生成に働いている双方向性ヒドロゲナーゼIIIの欠損で根粒菌による水素生成が高くなった。これより、H2分子を分解する酵素であるuptake型ヒドロゲナーゼIおよびIIがH2をイオン化(H2→H++H-)して、電離水素水を生成する酵素であり、遺伝子はuptake型ヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子であることが示された。uptake型ヒドロゲナーゼ遺伝子は多くの微生物が保有していることが知られており、この遺伝子の働きが強い微生物であれば、電離水素水を製造する能力が高い微生物であると言うことができる。野生型の大腸菌は水素の分解と合成の収支が同じレベルで水素発生量が低いことが示され、電離水素水製造には不適であると考えられた。 双方向性ヒドロゲナーゼ欠損株は、正常のuptake型ヒドロゲナーゼにより水を分解する活性のみが進行するために、根粒菌添加により、水素生成が高まったと考えられる。逆にどちらか1つのuptake型ヒドロゲナーゼ変異株は、正常のもう一方のuptake型ヒドロゲナーゼの作り出した水素イオンを速やかに、正常の双方向性ヒドロゲナーゼが水素に変換してしまうことから、根粒菌を加えた段階で基質となる水素イオンが少ないために、わずかしか水素生成を行うことができなかったと考えることができる。このことは双方向性ヒドロゲナーゼが電離水素水中の水素イオンを消費し、水素分子を合成するために働く酵素であると推測される。 これらの結果より、今後は組換えDNA技術を応用することにより、このuptake型ヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子を大腸菌等に導入して、組換え酵素の発現を高め、酵素を大量生産させ、この酵素を電離水素水製造材料として用いることにより、さらに効率良い電離水素水製造を行うことができると考えられる。 以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。電離水素水を製造するための遺伝子であって、 常温・常圧で水中のパラ型水素分子からオルト型水素分子に転換し、さらにオルト型水素分子をH+イオンとH−イオンにイオン化する反応を行うことによって前記電離水素水製造する遺伝子。前記遺伝子は、水素分子H2分解してH+イオンとH−イオンを生成する反応を触媒する分解型のヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子である、請求項1に記載の遺伝子。電離水素水を製造するための酵素であって、 常温・常圧で水中のパラ型水素分子からオルト型水素分子に転換し、さらにオルト型水素分子をH+イオンとH−イオンにイオン化する反応を行うことによって前記電離水素水を製造する酵素。前記酵素は、H2分解型のヒドロゲナーゼ酵素である、請求項3に記載の酵素。電離水素水を製造するために請求項4に記載のヒドロゲナーゼ酵素を固定化した担体などの材料や粉末や錠剤とした薬品。請求項1または2に記載の遺伝子を用いて電離水素水を製造する方法。請求項3または4に記載の酵素を用いて電離水素水を製造する方法。請求項1または2に記載の遺伝子を用いて電離水素水を製造する電離水素水製造装置。請求項3または4に記載の酵素を用いて電離水素水を製造する電離水素水製造装置。分解型のヒドロゲナーゼ酵素活性を有する微生物。分解型ヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した組み換え生物。請求項10に記載の微生物を固定化した担体などの材料や微生物を粉末や錠剤とした薬品。請求項10に記載の微生物を固定化した担体などの材料や微生物を粉末や錠剤とした添加物。 【課題】 電離水素水を製造するための遺伝子、酵素を提供することを目的とする。【解決手段】 本発明に係る電離水素水を製造するための遺伝子は、常温・常圧で水中のパラ型水素分子からオルト型水素分子に転換し、さらにオルト型水素分子をH+イオンとH−イオンにイオン化する反応を行うことによって電離水素水製造する遺伝子である。好ましくは遺伝子は、水素分子H2分解してH+イオンとH−イオンを生成する反応を触媒する分解型のヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子である。【選択図】 図2