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タイトル:公開特許公報(A)_蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法、並びに該乳化系試料中の微生物種の同定方法
出願番号:2013183560
年次:2015
IPC分類:G01N 27/62,G01N 27/64


特許情報キャッシュ

片瀬 満 JP 2015049235 公開特許公報(A) 20150316 2013183560 20130905 蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法、並びに該乳化系試料中の微生物種の同定方法 不二製油株式会社 000236768 片瀬 満 G01N 27/62 20060101AFI20150217BHJP G01N 27/64 20060101ALI20150217BHJP JPG01N27/62 VG01N27/62 KG01N27/64 BG01N27/62 F 5 OL 8 2G041 2G041AA10 2G041CA01 2G041DA04 2G041FA10 2G041GA06 2G041JA08 2G041LA07 本発明は、微生物種の同定を品質管理項目として有する蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法、並びに、蛋白質及び油脂を含む乳化系試料中の微生物種をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて同定する方法に関する。 食品、医薬品及び環境などの管理において、微生物試験及び検出された微生物の分類・同定を行うことは、衛生管理、汚染原因の究明、二次汚染防止及び殺菌処理方法の対応策設定を行ううえで重要なことである。 かかる微生物の分類・同定は製造工程管理の観点から、工程中の汚染の有無や出荷判断を迅速に行う必要がある。病原菌の迅速測定法としては、非特許文献1のようなキット化された測定法が実用化されている。具体的には、酵素免疫測定法(ELISA法)やイムノクロマト法などの免疫学的検出法とPCR法などの遺伝子検出法などであるが、いずれも培養時間込みで2〜3日間を要する測定法であり、更なる迅速な測定法が要望されていた。 また、非特許文献2では、微生物の属レベルの同定にキノン分子種やCG含量、種レベルの同定には細胞壁組成、脂肪酸分析、16SrRNA塩基配列、DNA-DNA hybridization、PCR-RFLPなどが記載されている。その中で、方法が確立しており最も手軽でデータベースも充実している16SrRNA塩基配列の解析で、97%以下の相同性であれば別種と判定するのが通常であるものの、多くの細菌で16SrRNAのゲノム中のコピー数はばらついており、配列の異なるものも含まれる。また属によっては相同性が高すぎて、97%という閾値で種を分類できないという問題点が指摘されている。すなわち、従来の同定法では菌種、菌株の正確な同定は困難という問題があった。 一方、マトリックス支援レーザー・脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/MS、以下「MALDI」と略する)を用いて菌体を構成する総タンパク質の質量を分析し、得られたマススペクトルパターンを微生物データベースと比較することによって微生物の分類・同定を行う手法(MALDI法)がある(特許文献1,2及び非特許文献3〜5)。該方法によると、微生物の細胞構成成分のMALDIマススペクトルのパターンを指紋判定することにより、菌種の同定や菌株の識別が可能と言われている。 上記のMALDI法の測定原理は以下のとおりである。微生物を含む試料とマトリックス(レーザー光によってイオン化されやすい物質で、シナピン酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸、フェルラ酸、ゲンチシン酸、3−ヒドロキシピコリン酸などが代表的なものである。)を予め混合しておき、この混合物に窒素レーザー(波長370nm)のパルスを当てると、マトリックスは瞬時に励起され、受け取った余剰エネルギーを熱エネルギーとして放出する。その結果、試料とマトリックスの混合物のごく一部が気化され、同時に試料とマトリックス間でプロトンの授受が起こって試料がイオン化する。生成したイオンは加速電圧(20〜25KV前後)を印加されて運動エネルギーを生じ、イオン検出器まで飛行して行く。このときの飛行速度は、イオン質量が大きいと低速で、逆にイオン質量が小さいと高速で飛行する。この飛行速度の差異に由来する検出器に到達する時間差から、試料の質量や質量分布(マススペクトル)を測定することができる。 このMALDI法は、菌が分離されていればマススペクトルを得るまで数分で完了し、数百のサンプルでも1日で解析可能なほど迅速であること、寒天培地に形成されるほどの菌体量があれば分析可能で、操作も簡便で低コストであるなどのメリットのある方法である。 しかし、MALDI法においても、分析に必要な菌体量を得るために、最低でも1日以上の平板培地による培養が必須とされており、更なる迅速な微生物の分類・同定法が求められていた。また、損傷を受けた菌や生命力を保持しているが通常の培養では発育出来ないviable but non-culturable(VNC)の状態になった菌は、培養によっても必要とされる菌体量が得られないため、MALDI法によって検出できないという問題点があった。 これらの問題を解決するため、血液から直接分離した微生物濃縮物を界面活性剤で処理することでMALDI法での同定に供する方法(特許文献3)や牛乳中の微生物について直接同定する方法が検討されている(非特許文献6)。また食品試料を微細孔膜に通すことで直接分離した微生物濃縮物をMALDI法に供する方法(特許文献4)が考案されている。特表2001-502164号公報特表2010-515915号公報WO2011/006911号公報特開2012-215557号公報分析技術最前線SCAS NEWS 2005−II7−10頁化学と生物 Vol.48,No.9,2010 598−601頁Rapid Commun.Mass Spectrom.,10,1227,1996Rapid Commun.Mass Spectrom.,10,1992,1996Nature Biotechnol.,25,1334,1996Proteomics., 12, 2739-2745, 2012 特許文献3,4などの方法により、試料の迅速な微生物の分類・同定法はある程度確立されるに到っている。 しかしながら、特許文献4のような微細孔膜を通す方法ではバシラス・メガテリウムや酵母のような大きな細胞を有する微生物の場合、微細孔膜を通りにくいため、細胞サイズの大きな微生物の同定は困難であった。また特許文献3のような界面活性剤を用いる方法においても油脂成分の多い乳化系試料では油脂成分及び蛋白質成分の双方の強固な乳化作用により微生物から食品成分を分離することが難しく、同定が阻害されてしまう問題があった。 かかる状況に鑑みて、本発明は油脂及び蛋白質を含む乳化系試料中の微生物種をMALDI法を用いて、迅速かつ高精度で同定分析する方法を提供することを課題とするものである。 前記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った。その結果、従来は必須とされていた最低でも1日以上の平板培地による培養を行うことなく、迅速かつ簡易な方法でMALDI法で分析可能な試料検体を得る方法として、試料由来の蛋白質成分を等電点沈殿により除蛋白処理したのち、得られる微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄する試料の前処理の方法が有効であることを見出し、本発明を完成するに到った。すなわち本発明は、(1)蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造において、品質管理項目として下記(A)〜(D)記載の方法により微生物種の同定を経ることを特徴とする、蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法、 (A)製造過程において得られる蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品)又は(その中間製品をサンプリングし、試料とする、 (B)該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、微生物濃縮物を得る、 (C)該微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄する、 (D)該洗浄後の微生物濃縮物を検体として、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて微生物種を同定する、(2)蛋白質及び油脂を含む乳化系試料中の微生物種をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて同定する方法であって、該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、得られる微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄した後に、該微生物濃縮物を検体として該質量分析法に供することを特徴とする、微生物種の同定方法、(3)等電点沈殿による除蛋白処理が、試料由来の蛋白質を等電点沈殿させ、該沈殿を除去して微生物を含む液部を回収することにより行われる、前記(2)記載の微生物種の同定方法、(4)微生物濃縮物が、微生物を含む液部をさらに遠心分離して微生物を沈殿させ、該沈殿を回収することにより得られる、前記(3)記載の微生物種の同定方法、(5)界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである、前記(2)〜(4)の何れか1項に記載の微生物種の同定方法、である。 本発明によれば、蛋白質と油脂を含む乳化系試料であっても、迅速かつ高精度で微生物種を同定することができる。特に、試料中の微生物を、1日以上の平板培地による培養を行うことなく同定できるため、微生物の同定・分類を極めて短時間で同定することが可能となる。さらに、損傷を受けた菌や生命力を保持しているが通常の培養では発育できないVNCの状態になった菌の同定をすることも可能となる。 本発明の蛋白質及び油脂を含む乳化系試料中の微生物種の同定方法は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて同定する方法であって、該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、得られる微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄した後に、該微生物濃縮物を検体として該質量分析法に供することを特徴とするものである。そして、本発明の蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法は、上記方法による微生物種の同定を品質管理項目として経ることを特徴とするものである。以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。(試料) 本発明の微生物種の同定方法に用いられる試料は、蛋白質及び油脂を含む乳化系試料、すなわち、少なくとも蛋白質を含む水相と少なくとも油脂を含む油相がO/W型やW/O型などの乳化系となっている試料である。該試料は液状、固体状のいずれでも適用することができる。固体状の試料の場合は、殺菌処理した蒸留水などの液体に溶解または分散させたものを用いる。その場合、試料が蒸留水中で分散すれば問題ないが、1〜20重量%となるように蒸留水を添加するのが好ましい。試料の種類は、蛋白質及び油脂を含む乳化系であれば限定されず、飲食品、医薬品、化粧品等の何れであっても良い。特に蛋白質及び油脂を多量に含む乳化系試料に対して本発明の同定方法を適用するのが適しており、より具体的には油脂を固形分中50重量%以上含む試料に対して好適である。(飲食品) 本発明の微生物種の同定方法に用いられ、あるいはそれを品質管理工程に組み込まれた製造工程で製造される飲食品は、蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品であり、上述した試料とは同義に定義される。飲食品の種類は、O/W型やW/O型などの乳化系であれば限定されず、例えば牛乳,チーズ,ヨーグルト,バター,クリーム,ホイップクリーム,コーヒーホワイトナー,クリーミングパウダー,アイスクリーム類,粉乳等の乳製品や、ホワイトソース,ベシャメルソース等の乳製品を含むソース類や、全卵,乾燥全卵,加糖全卵,卵黄,乾燥卵黄,加糖卵黄,酵素処理卵黄,カスタードクリーム,マヨネーズ等の卵加工品や、マーガリン,バター,バタークリーム,粉末油脂等の加工油脂や、ホワイトチョコレート,ミルクチョコレート等のチョコレート類や、豆乳,豆乳クリーム(大豆から調製される生クリーム様の製品),等の豆乳製品や、濃厚流動食などが挙げられる。(検体の微生物の菌数) 菌数は、一般的に用いられる平板培地で集落を形成する生菌数濃度、colony forming unit(CFU)の単位であらわすことができる。試料中の菌数は単位g当り、10の6乗CFU以上、好ましくは10の7乗CFU以上が好ましい。菌数が下限未満であると、本発明の方法で得られる微生物濃縮物中の菌数が少ないため、MALDI法により正確なマススペクトルが得られにくくなるため、予め培養して上記数値範囲まで増菌しておくのが好ましい。(等電点沈殿による除蛋白処理) 本発明の微生物種の同定に供する蛋白質及び油脂を含む乳化系試料に対しては、予め等電点沈殿による除蛋白処理を行い、試料から測定を阻害する蛋白質成分を除去することにより、微生物濃縮物を得ることが重要である。 具体的には試料に適当な酸を加え、試料のpHを蛋白質の等電点付近に調整するが、ここで用いる酸は特に制限されない。例えば、塩酸,硫酸,リン酸等の鉱酸や、クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,乳酸,グルコン酸,フマル酸,コハク酸,酢酸,蓚酸などの有機酸を挙げることができ、2種以上の酸を混合して用いてもよい。 その際のpHは試料中の蛋白質の等電点±0.5、好ましくは等電点の±0.3、さらに望ましくは等電点が好ましい。例えば乳蛋白質や大豆蛋白質などの等電点はpH4.5付近であるため、pHは4〜5、好ましくは4.2〜4.8が適当である。 調整されるpHが等電点から大きく離れると、MALDI法で分析する際に試料由来の蛋白質の混入が多くなり、正確なマススペクトルを得ることが困難となる。 等電点沈殿により生じた沈殿は、適当な除去手段により除去し、微生物を含む液部を回収することにより、試料から蛋白質が除去される。除去手段としては、沈殿した蛋白質を除去し、かつ、微生物は除去せずに液部に移行させることが可能な手段が好ましく、具体的には食品中の微生物検査に用いられるフィルター付きストマッカー用袋等により濾過する方法が好ましい。 試料由来の蛋白質を除去した後は、適当な方法によりさらに微生物を濃縮することができ、これによってMALDIに供する検体中の菌数を増加させ、マススペクトルの精度を向上させることができる。具体的には、例えば微生物を含む上述の液部をさらに遠心分離して微生物を沈殿させ、該沈殿を回収することにより、より高度に濃縮された微生物濃縮物を得ることができる。この場合、遠心力(×g)は微生物が沈殿として回収できるレベルであればよく、例えば3000〜10000×gが好ましい。(界面活性剤による洗浄) 本発明の微生物種の同定において、上述の方法で試料から調製される微生物濃縮物を、さらに界面活性剤で洗浄することが重要である。洗浄方法としては、例えば微生物濃縮物に界面活性剤の溶液を適量加え、撹拌後に遠心分離して上清を除去し、沈殿を回収する方法が挙げられる。油脂成分を含んだ試料中から等電点沈殿によって蛋白質を除去した段階では液部に蛋白質の残渣や油脂成分が乳化状態で存在しており、さらには遠心分離した微生物濃縮物中にも試料由来の成分が多量に混入しているため、このような状態のものを検体としてMALDI法に供与しても、正確なスペクトルは得ることが困難なためである。界面活性剤で微生物濃縮物を洗浄することによって、MALDI法で高精度に同定することができる。 使用する界面活性剤としては、蛋白質や脂質を溶解できるものであればよい。アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤や、生体内に存在し細胞膜などを構成しているレシチンや、植物界に広く分布するサポニンなども挙げられる。その中でも特にアニオン界面活性剤が好ましく、特にドデシル硫酸ナトリウムの水溶液が好適である。強い界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムの水溶液を0.1〜1%、好ましくは0.3〜0.7%の濃度で加えることで蛋白質および脂質の非共有結合すべてを溶解させ、分子の三次構造および四次構造を破壊する。 試料由来の脂質及び蛋白質は遠心分離などにより上清として共に除去することができる。一方、微生物の細胞壁は非常に安定であるため、界面活性剤の溶解効果に耐えうる。そのため、洗浄された微生物濃縮物を沈殿として回収できる。この後のMALDI法による分析では微生物の細胞壁内部の蛋白質が失われていない限り問題とならない。(MALDI法による微生物種の同定) 上述の方法によって得られた微生物濃縮物をMALDI法による同定の検体とし、そのままで又はギ酸等を用いて微生物濃縮物のタンパク質を抽出した溶液と、マトリックス試薬とをMALDIプレート上に添加する。続いて定法によりMALDI測定を行い、取得したマススペクトルを解析ソフトに登録されているスペクトルデータベースと照合することで微生物の分類・同定を行う。 上記のマトリックス試薬としては、微生物の分類・同定用としては、中〜高分子量の試料分析に適するα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)などが好適に利用できる。また、MALDI測定機器は、市販の測定機器が利用できるが、「Autoflex-II」(ブルカー・ダルトニクス株式会社製)や「AXIMA微生物同定システム」(株式会社島津製作所製)などが好適に利用できる。スペクトルデータベースは、MALDI測定機器メーカーから提供されるものを利用することができる。 次に、実施例及び比較例を示し、本発明の実施形態をより具体的に説明する。◆実施例1 豆乳クリーム(不二製油株式会社製、固形分20重量%、脂質が固形分中60重量%、蛋白質が固形分中30重量%)にEscherichia coli(NBRC3301)を10の7乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。 次に当該試料15gに滅菌水15mlを加えて混合し、濃塩酸45μlを加えて5分間静置することで等電点沈殿した蛋白質をフィルター付きストマッカー用袋(エルメックス社製)で除去し、得られたろ過上清1mlを8000gで2分間遠心分離して微生物濃縮物を沈殿として回収した。そしてさらに界面活性剤として0.5%濃度のドデシル硫酸ナトリウム水溶液を1ml加えて撹拌混合した後、再度8000gで2分間遠心分離して上清を取り除くことで洗浄した。 次に微生物濃縮物を滅菌水300μlに懸濁し、900μlのエタノールを添加した。遠心分離後に上清を捨て、70%ギ酸10μlを添加した。さらにアセトニトリル10μlを添加し、遠心分離後の上清を分析試料とした。分析試料1μlをMALDIプレートのスポットにアプライして常温で風乾した。その上にマトリックス溶液〔CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)を使用〕1μlを重ね同様に風乾し、MALDI「Autoflex-II」(ブルカー・ダルトニクス株式会社製)にて正イオンでリニアモードにて分析した。 得られたスペクトルから微生物同定ソフトウエア「MALDI Biotyper 2.0」(ブルカー・ダルトニクス株式会社製)にて菌種の同定を行った。 その結果、当該溶液中の菌はEscherichia coliと同定された。◆実施例2 実施例1で用いた豆乳クリームにEscherichia coli(NBRC3301)を10の4乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。予め、37℃で6時間培養後、10の7乗CFU/mlまで増殖させた試料について、実施例1と同様の操作で分析試料を調製し、MALDI法による菌種の同定を行った。 その結果、当該試料中で増殖した菌はEscherichia coliと同定された。◆実施例3 生クリーム(高梨乳業(株)製、固形分40重量%、脂質が固形分中89重量%、蛋白質が固形分中5重量% )にEscherichia coli(NBRC3301)を10の7乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。実施例1と同様の操作で同定を行ったところ 、当該溶液中の菌はEscherichia coliと同定された。◆実施例4 牛乳(高梨乳業(株)製、固形分12重量%、脂質が固形分中32重量%、蛋白質が固形分中27重量%)にEscherichia coli(NBRC3301)を10の7乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。実施例1と同様の操作で同定を行ったところ、当該溶液中の菌はEscherichia coliと同定された。◆比較例1 (界面活性剤処理を用いない、微細孔膜による試料の前処理方法) 実施例1で用いた豆乳クリームにEscherichia coli(NBRC3301)を10の7乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。 次に当該試料15gに滅菌水15mlを加えて混合し、濃塩酸45μlを加えて5分間静置することで蛋白質を等電点沈殿させ、次いで微細孔膜として細孔径10μmのメンブレンフィルター(アクロディスク・バーサポアメンブレン:ポール社)を用いてろ過除去した。次にろ液を8000gで2分間遠心分離し、微生物濃縮物を沈殿として回収した。 以後は該微生物濃縮物から実施例1と同様にして、分析試料を調製し、MALDI法にて試料中の菌種の同定を行った。 しかし、界面活性剤による洗浄を行わず、微細孔膜による前処理方法で調製した分析試料では良好なスペクトルを得ることができず、菌種の同定を行うことができなかった。この原因は、豆乳クリームは脂質の含量が通常の豆乳に比べて高いため、微細孔膜による前処理のみでは乳化状態の脂質と蛋白質の除去が不十分であったためと考えられる。◆比較例2(等電点沈殿による除蛋白処理を行わない試料の前処理方法) 実施例1で用いた豆乳クリームにEscherichia coli(NBRC3301)を10の7乗CFU/mlになるように人為的に汚染させたものを試料とした。 次に実施例1で行った等電点沈殿による除蛋白処理を行わずに、当該試料15gに滅菌水15mlを加えて混合したものから900μlの試料を取り出し、5%濃度のドデシル硫酸ナトリウム溶液を100μl加えて混合した後、遠心分離して微生物濃縮物を沈殿として回収した。 以後は該微生物濃縮物から実施例1と同様にして、分析試料を調製し、MALDI法にて試料中の菌種の同定を行った。 しかし、等電点沈殿による除蛋白処理を行わず、界面活性剤による洗浄のみによる前処理方法で調製した分析試料では良好なスペクトルを得ることができず、菌種の同定を行うことができなかった。この原因は、豆乳クリームは脂質の含量が通常の豆乳に比べて高いため、界面活性剤による洗浄のみでは乳化状態の脂質と蛋白質の除去が不十分であったためと考えられる。 本発明は、油脂と蛋白質を含む乳化系の飲食品、医薬、化粧品等の各種製品の製造における品質管理、特に飲食品の製造における品質管理工程において好適に利用することができ、微生物の同定の大幅な時間短縮に大きく寄与するものである。蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造において、品質管理項目として下記(A)〜(D)記載の方法により微生物種の同定を経ることを特徴とする、蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法。 (A)製造過程において得られる蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品又はその中間製品をサンプリングし、試料とする。 (B)該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、微生物濃縮物を得る。 (C)該微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄する。 (D)該洗浄後の微生物濃縮物を検体として、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて微生物種を同定する。蛋白質及び油脂を含む乳化系試料中の微生物種をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いて同定する方法であって、該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、得られる微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄した後に、該微生物濃縮物を検体として該質量分析法に供することを特徴とする、微生物種の同定方法。等電点沈殿による除蛋白処理が、試料由来の蛋白質を等電点沈殿させ、該沈殿を除去して微生物を含む液部を回収することにより行われる、請求項2記載の微生物種の同定方法。微生物濃縮物が、微生物を含む液部をさらに遠心分離して微生物を沈殿させ、該沈殿を回収することにより得られる、請求項3記載の微生物種の同定方法。界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである、請求項2〜4の何れか1項記載の微生物種の同定方法。 【課題】油脂及び蛋白質を含む乳化系試料中の微生物種をMALDI法を用いて、迅速かつ高精度で同定分析する方法を品質管理項目に組み込んだ蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法を提供する。【解決手段】蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造において、品質管理項目として下記(A)〜(D)記載の方法により微生物種の同定を経ることを特徴とする、蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品の製造法。(A)製造過程において得られる蛋白質及び油脂を含む乳化系飲食品又はその中間製品をサンプリングし、試料とする。→(B)該試料に対して等電点沈殿による除蛋白処理を行い、微生物濃縮物を得る。→(C)該微生物濃縮物を界面活性剤で洗浄する。→(D)該洗浄後の微生物濃縮物を検体として、MALDI法を用いて微生物種を同定する。【選択図】なし


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