タイトル: | 公開特許公報(A)_フグ毒の検査方法及びそれを利用して得られたフグ肝臓食品 |
出願番号: | 2013173931 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G01N 33/12,A23L 1/325 |
荒川 修 高谷 智裕 阪倉 良孝 谷口 香織 高尾 秀樹 JP 2015040852 公開特許公報(A) 20150302 2013173931 20130823 フグ毒の検査方法及びそれを利用して得られたフグ肝臓食品 株式会社萬坊 596162957 国立大学法人 長崎大学 504205521 榎本 一郎 100095603 荒川 修 高谷 智裕 阪倉 良孝 谷口 香織 高尾 秀樹 G01N 33/12 20060101AFI20150203BHJP A23L 1/325 20060101ALI20150203BHJP JPG01N33/12A23L1/325 C 4 1 OL 14 4B042 4B042AG35 4B042AH07 本発明は、フグ毒であるテトロドトキシン(以後、TTXという。)の検査方法及びそれを利用して得られたフグ肝臓食品に関する。 フグ科の多くのフグは、強力な神経毒であるTTXを保有する。通常、海産フグは肝臓と卵巣、汽水フグや淡水フグは皮の毒性が高い。日本人は昔からフグを好んで食べ、独自のフグ食文化を築き上げてきたが、現在でもフグによる食中毒があとを絶たない。フグ食の安全・安心を確保するためには、フグ毒に対する適切な検査方法の確立が必要である。一方、フグの毒化は有毒餌生物由来の外因性であり、これを遮断して無毒の餌で飼育すれば肝臓も無毒のフグを生産できることがわかっている。現在、フグ肝臓の食品としての販売等は全面的に禁じられているが、個別の毒性検査により毒力が概10(MU/g)以下であることを確認した場合はこの限りでは無いとされており、その様な検査方法を確立できれば、無毒養殖トラフグ肝臓を食用化できる可能性がある。フグ肝臓を食品として扱う場合、毒性検査において個体全体を細片化後、その一部を供試する方法では、食品としての価値が大幅に低下する。一方、肝臓中の毒性分布を明らかにできれば、毒性検査における効果的なサンプリング方法が明確となり、検査で使用する部位以外は貴重な食品として有効利用できる。トラフグ肝臓中の毒性分布については、(非特許文献1)があるが、トラフグ肝臓の有毒率が低く試料の入手が困難で、充分な調査ができなかったと記されている。このため、適切な検査方法の確立が求められている。 これらの課題を解決するために、(特許文献1)には、「複数個体のフグから取出した複数のフグ肝臓を、その繊維質を細切した後に撹拌混合により均一化し、その撹拌混合物から一部を抽出し、抽出したフグの肝臓の混合物を20℃〜60℃の温度範囲で油層と水層とに分離させ、分離後の水層から検体を一部抽出し、抽出した水層の検体についてテトロドトキシンの毒性検査を行う」フグ肝臓の毒性検査法が開示されている。森崎澄江,渕雄一,局伸男,林薫,フグ毒に関する研究(第4報)有毒フグ肝臓の毒性分布について,大分県公害衛生センター年報,14,28−29(1986)特開2006−214742 しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。(1)(特許文献1)に開示の技術は、フグ肝臓を細切した後、撹拌混合するので、細切されたフグ肝臓を原料とする加工食品としてしか利用できず食品としての価値が大幅に低下するという課題を有していた。 また、同様に、フグ肝臓そのものを食べることができず、細切されているため、外観が落ち、見た目を楽しむことができないという課題を有していた。(2)無毒化したフグを養殖することができるが、可食部として定められていないフグ肝臓は、適切な検査方法が無く、食品として提供するには、個体全体を細片化し均一にして検査を行う必要があり、フグ肝臓の刺身等、フグ肝臓の本来の食感を味わうことができないという課題を有していた。(3)また、(特許文献1)は食品にする為に、乳化剤、増粘剤などの食品添加剤を使用しなければならないという課題を有していた。(4)20℃〜60℃の温室に30分放置して油分と水分に分離させているので、衛生的な管理が必要であるという課題を有していた。 本発明は上記従来の課題を解決するもので、フグ肝臓の食品としての価値を損なうことなく行うことができ、安全性に優れたフグ毒の検査方法の提供、及び、安全で見栄えが良く、元来のフグ肝臓の食感を味わうことができるフグ毒の検査方法を利用して得られた安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することを目的とする。課題を解決するための手段及びそれによって得られる作用、効果 上記課題を解決するために本発明のフグ毒の検査方法及び、それを利用して得られたフグ肝臓食品は以下の構成を有している。 本発明の請求項1に記載のフグ毒の検査方法は、フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として、フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のテトロドトキシンを測定し、フグの可食の可否を判別する構成を有している。 この構成により、以下のような作用、効果を有する。(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として利用することができる。(2)乳化剤や、増粘剤などの食品添加物を使用する必要がないので、フグ肝臓そのものを提供することができる。(3)また、特定部のTTXを測定するだけで、フグ肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。(4)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができる。(5)フグ肝臓を取り扱う時に、20℃〜60℃の温度で行うといった特定の温度条件が無く、常温(作業場の温度)で作業できるので作業性に優れる。また、特定部のみを測定するので作業が短時間で済み作業性に優れる。(6)特定部のみを取り除き、その他の全部位に接触しないでよいため、特定部以外のフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。 フグ肝臓の特定部としては、例えば、生きたフグの脊髄に包丁をいれて折り即死にさせ解体したフグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として表側から見て左側を(L)、右側を(R)、さらに上下の全長を略均等に5分割で考え、左側上部から順に(L1)、(L2)・・・(L5)、右側の上部から順に(R1)、(R2)・・・(R5)と10部位としたとき、その内(R3)の下側や(R4)が挙げられる。検査方法としては、(R3)の下側や(R4)相当部を適宜、切り出せば良く、検査の為に、10部位に必ず分割しなければならないものではない。切り出す量は、フグの全重量に比例するので、個体によって適宜必要量切り出せば良いが、分析・保存用に10(g)以上確保することが好ましい。また、安全性に優れたフグ肝臓を食用とする為、本願発明者らは鋭意研究し、フグ肝臓の部位ごとの相対毒力につき、左右と上下の2要因に分けて要因ごとに評価したところ、左右では右の方の相対毒力が高く、上下では中央に近い下側の部位、すなわち肝臓の表右側下部中央寄りの部位が有意に高い毒性を示すことがわかった。このことから特に表右側下部中央寄りの部位から切り出したフグ肝臓のTTXを測定することでバラツキが小さくフグ肝臓の中でも毒性が高い部分のTTXを測定することで安全性に優れたフグ肝臓を1個体ずつ選別できる。 また、フグ肝臓から特定部を切り出す為に、10部位に必ず分割する必要は無く、左右に2分割と全長方向に3〜7分割としても良い。この場合も同様に表右側下部中央寄りに該当する部分のみを切り出し検査することで同様に安全性に優れる。全長方向の分割数が3より少なくなるにつれ、検査に使用しない食品となるフグ肝臓の部分が少なくなる傾向にあり、好ましくない。全長方向の分割数が7より多くなるにつれ、該当部位から分析・保存用に切り出す量が充分に得られなくなる傾向にあるので好ましくない。 TTXの分析方法としては、高速液体クロマトグラフ蛍光分析法(以後、HPLC−FL法という)や、マウス検定法、高速液体クロマトグラフ質量分析法(HPLC−MS法)、TTX−ELISA法(酵素免疫測定法)等を用いることができる。特に、HPLC−FL法が好適に用いられる。マウス検定法では生物を用いた検定になるため、約±20%の誤差が生じる場合があるが、HPLC−FL法は誤差が小さく、生命倫理上の問題がなく好ましい。 HPLC−FL法の分析方法としては、例えば、前処理では、採取したフグ肝臓の特定部を解剖バサミ等で適宜細切し、乳鉢に入れ乳棒ですり潰し細片化試料を得る。次にフグ肝臓の細片化試料をメジュム瓶または試験管に秤り取り、細片化試料の2倍量の0.1%酢酸溶液を加えて沸騰浴につけ10分間加熱し、氷浴につけ急冷する。冷却後、定容し、3500(rpm)で20分間、遠心分離したあと、上層の油分を除去し、フグ肝臓の抽出液を分取する。次に、予め、メタノール5(ml)と0.1%酢酸溶液10(ml)を通液してコンディショニングしたC18固相抽出カートリッジにフグ肝臓の抽出液10(ml)を通液し、固相抽出を行う。固相抽出後の溶出液をメンブランフィルターでろ過すると、フグ肝臓の分析試料が得られる。得られたフグ肝臓の分析試料中のTTXはHPLC−FLを用いて分析した。TTXの濃度は、分析試料のTTXピーク面積値と標準溶液のTTXピーク面積値との比例計算から求めることができる。ただし、予め、濃度の異なる標準溶液を分析して検量線を作成し、標準溶液の濃度とピーク面積値の間に定量性があることを確認することが必要である。 ここで、定容は、抽出比が変わらないように容積を一定にすることをいう。例えば、定容前の操作に加熱があるが、加熱する前にすり潰したフグ肝臓を10(g)量り取り、これに0.1%酢酸溶液を20(ml)加えると、肝臓からの抽出比は3となる。加熱すると、酢酸溶液中の水分が蒸発し溶液の量が減り、容積も減少するので、加熱によって酢酸溶液が減少した場合は、酢酸溶液を加えて、容積を一定にして抽出比が変わらないようにする。 固相抽出とは、溶液中の化合物とその他の不純物を物理・科学的な性質に基づいて分離する方法をいう。ここで使用したC18は、シリカをベースとし、結合官能基がオクタデシル(トリファンクショナル)基である充填剤である。C18は、肝臓抽出液中の油に溶けやすい物質と結びつきやすい性質があるが、TTXとは作用しないので、C18を充填したC18固相抽出カートリッジを用いることで溶出液中のTTXを損なうことなく、その他のC18に捕獲される不純物を取り除くことができる。これを用いることで分析の際に妨害ピークが減り、分析装置や分析カラムへの負荷を軽減することができるので運用効率に優れる。 請求項2に記載の発明は、請求項1にフグ毒の検査方法であって、一群のフグからフグ肝臓の前記特定部を切り出し、切り出された一群の前記特定部を混合して一つにまとめた混合物のテトロドトキシンを測定し、前記一群のフグの可食の可否を判別する構成を有している。 この構成により、請求項1の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。(1)一群のフグのフグ肝臓の特定部を混合して検査することができるので、個体ごとに測定するよりも、一つにまとめた混合物を一個の試料としてテトロドトキシンの測定を行うことで測定回数を少なくすることができ作業効率に優れる。(2)分析や分析の前処理操作で用いる試薬や使い捨ての器具の量を削減できるので省資源性に優れる。また、分析数が少ないので、分析カラムなどの機材や設備の長寿命性に優れる。(3)また、分析や分析の前処理で用いる試薬等の量も減るので廃液が減り、省資源性と環境性に優れる。(4)加熱からの前処理の作業時間と分析時間とを短縮することができるので省作業性に優れ、迅速に結果を得ることができフグ肝臓の鮮度が優れる。 ここで、一群のフグの個体数は、特に限定しない。特定部を混合して一つにまとめて測定するフグの数が増える程、作業効率や省資源性に優れるが、一群の数が増えるにつれてTTX濃度を測定する測定機器の測定下限により測定が困難になるため、1個体中のTTX濃度が10MU/gを超えない測定が充分に可能な範囲で個体数を適宜決めることができる。また、まとめて測定するフグの内、一個体のTTX濃度が基準値より高い場合、同時に廃棄になるフグ肝臓の数量が多くなる。このため状況により適宜個体数が決められる。 一群のフグから採取した生のフグ肝臓の特定部を混合してTTXの濃度を測定する方法としては、一群の生のフグ肝臓から特定部を採取し、細切し、更にすり潰して細片化し、それぞれの個体の細片化した肝臓試料より、一定重量ずつ量りとり充分に混合したものを混合物とする。この合一試料を〔0010〕欄に記載した様に抽出液を調製し、そのTTX濃度を測定すればよい。この場合、一緒に測定するフグ肝臓の個数をNとすると、TTXの含有量が10/N(MU/g)以上の時廃棄することで安全性を保つことができる。一緒に測定した試料の中に1つでも10(MU/g)を超える肝臓が含まれるのを防ぐためである。例えば、10個体をひとつにまとめ混合して測定した場合、フグ毒を検査する混合物中のTTX濃度は10分の1になる。このため、10個体を一つにまとめ混合した場合、混合物中のTTX濃度が1(MU/g)以下であることが確認できれば、全ての個体がTTXの規制値10(MU/g)であることが確認できたといえる。 また、このとき、安全性を考慮してTTX濃度の測定結果に安全率をかけた数値が10/N(MU/g)以下となる様にしても良い。また、本願発明者らは鋭意研究を進め特定部とフグ肝臓のその他の部位の毒性分布を分析し、本発明の特定部を測定する場合、生の肝臓では安全率は、平均毒力を評価するのであれば1.6倍、部分的な毒力まで問題とするのであれば2.4倍の値とすることで、より安全性に優れることがわかっている。 フグ毒の検査方法では、例えば、トロ箱(魚箱)に入れ、トロ箱に入れられた一群のフグの全てからフグ肝臓の前記特定部を切り出し、切り出された前記特定部を混合して一つにまとめた混合物のテトロドトキシンを測定し、前記一群のフグの可食の可否を判別する構成とすることもできる。これにより、一つのトロ箱毎に入れられた一群のフグをまとめて取り扱うので、フグを個々で取り扱い、管理するよりも作業量を削減することができるので作業性に優れる。また、トロ箱毎にテトロドトキシンを測定するので測定回数が少なくて済み作業性や省力性に優れる。 トロ箱は、魚産物を入れる箱であれば良く、特に限定するものではない。トロ箱単位でフグの採取からフグ毒の検査までを一貫して管理し、同じトロ箱にいれた全てのフグのフグ肝臓の特定部を切り出し、混合した混合物のテトロドトキシンを測定し、TTX濃度が基準値よりも高ければ、そのトロ箱のフグ肝臓は全て廃棄し、TTX濃度が基準値よりも低い場合、外観検査等の次の検査を行う。このように、トロ箱毎に管理することで作業性に優れると共に、フグ毒の検査が終わるまで同じトロ箱であったものを一緒に保管し管理することで、個別に扱うよりも取扱が容易で取り違い等が起こることが無く安全性に優れる等の利点がある。 請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品であって、フグ肝臓の前記特定部のテトロドトキシンを測定し、前記テトロドトキシンの含有量が10(MU/g)以下である前記フグ肝臓を調理してフグ肝臓食品にする構成を有している。 この構成により、請求項1の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は刺身等の貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができるとともに、従来は産業廃棄物として処理されていたフグ肝臓を有効利用し、対環境性、省資源性に優れる。(2)特定部のTTXの濃度を測定することで、迅速に安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することができる。(3)また、特定部のTTXの濃度を測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。(4)特定部のみを取り除き、その他の部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。 ここで、フグ肝臓食品としては、肝臓を適宜食べやすいようにスライスしたフグ肝臓の刺身や、フグ肝臓をそのまま鍋の具材として利用した物、また煮物、肝油、焼き物、蒸し物、炒め物、天ぷら、缶詰、味噌漬け、粕漬け、パテ等、として利用することができる。 請求項4に記載の発明は、請求項2に記載のフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品であって、一群(N個)のフグ肝臓の前記特定部のテトロドトキシンを測定し、前記テトロドトキシンの含有量が10/N(MU/g)以下である前記一群のフグ肝臓を調理してフグ肝臓食品にする構成を有している。 この構成により、請求項2の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができる。(2)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することができる。(3)また、特定部のTTXの濃度を測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。(4)特定部のみを取り除き、その他の全部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。(5)一群のフグのフグ肝臓の特定部を混合して検査することができるので、一つ一つ別々に測定するよりも、テトロドトキシンの測定を行うことで測定回数が少なく作業効率に優れる。(6)分析や分析の前処理操作で用いる試薬や使い捨ての器具の量を削減できるので省資源性に優れる。また、分析カラムなどの機材の寿命が延びるので、設備の長寿命性に優れる。(7)加熱からの前処理の作業時間と分析時間が短縮することができるので省作業性に優れ、迅速に結果を得ることができるので衛生面及び、フグ肝臓の鮮度が優れる。(8)更に、分析や分析の前処理で用いる試薬等の量が減るので廃液が減り、省資源性と環境性に優れる。実施の形態のフグ肝臓のTTXの測定位置を示すフグ肝臓の表側からの模式図実施の形態におけるフグ毒の検査方法のフロー図実施例1の16個体の相対毒性を示すグラフ 本発明の実施の形態におけるフグ毒の検査方法について、以下図面を参照しながら説明する。尚、本発明は以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。(実施の形態) 図1は実施の形態のフグ肝臓のTTXの測定位置を示すフグ肝臓の表側からの模式図であり、図2は実施の形態におけるフグ毒の検査方法のフロー図である。 図1中、1はフグ肝臓、2は肝門脈との結合部である。フグの肝臓の部位としては、フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門との結合部を上部として表側から見て左側を(L)、右側を(R)、さらに上下の全長を略均等に5区分にし、左側上部から順に(L1)、(L2)・・・(L5)、右側の上部から順に(R1)、(R2)・・・(R5)と10部位とした。尚、本発明におけるフグ肝臓の区分方法はこれに限定されるものではない。 次いで、図2中の実施の形態におけるフグ毒の検査方法を説明する。まず、フグを採取し(S1)、採取したフグを解体し、フグ肝臓を取出す(S2)。取出したフグ肝臓は外観チェックを行い(S3)、見た目が悪いものは廃棄し、見た目の良いものを分析する。分析は図1中のようにフグ肝臓を10区分に分割し(R4)の部位を切り出した(S4)。切り出したフグ肝臓を細切し、乳鉢に入れ乳棒ですり潰す。次にフグ肝臓の細片化試料をメジュム瓶または試験管に秤り取り、細片化試料の2倍量の0.1%酢酸溶液を加えて沸騰浴につけ10分間加熱し、次いで、氷浴につけ急冷した。冷却後、3500(rpm)で20分間遠心分離したあと、上層の油分を除去し、フグ肝臓の抽出液を分取した。(S5)次に、予め、メタノール5(ml)と0.1%酢酸溶液10(ml)を通液してコンディショニングしたC18固相抽出カートリッジにフグ肝臓の抽出液10(ml)を通液し、固相抽出を行った。固相抽出後の溶出液をメンブランフィルターを用いてろ過し、フグ肝臓の分析試料を得た(S6)。得られたフグ肝臓の分析試料についてHPLC−FLでTTXを分析する(S7)。TTXの分析の結果分析によって10(MU/g)を超えるものはラインアウトして調査を行い、10(MU/g)以下のものは外観チェックを行った(S8)。外観チェックで不適当であったものは廃棄し、良かったもののみ加工用若しくは生食用とした(S9)。 外観のチェックとしては、病的な変色(灰色や黄色(黄疸様)、真白(脂肪肝様))を呈したものを適宜廃棄している。 以上のように、本発明の実施形態におけるフグ毒の検査方法は構成されているので、以下のような作用が得られる。(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として細切等していないフグ肝臓そのものを有効利用できるフグ毒の検査方法を提供することができる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができる。(2)フグ肝臓そのものを食品とすることができるフグ毒の検査方法を提供することができる。(3)また、特定部のTTXを測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く迅速性や作業性に優れたフグ毒の検査方法を提供することができる。(4)フグ肝臓を取り扱う時に、20℃〜60℃の温室で行うといった特定の温度条件が無く、常温で作業できるので作業性に優れる。また、特定部のみを取り去るので作業が短時間で済み作業性に優れると共に、鮮度に優れたフグ肝臓を食品とすることができるフグ毒の検査方法を提供することができる。(5)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができる。(6)特定部のみを取り除き、その他の部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れたフグ毒の検査方法を提供することができる。<毒の分布確認> 日本近海で漁獲された天然トラフグの肝臓71個体を試料として用いた。この内、58個体の肝臓を採取後直ちに生のまま、10℃以下で冷蔵輸送した。生のまま輸送したフグ肝臓(以後、生肝臓という)は当日中に抽出液の調製まで行い、測定までは抽出液を適宜冷蔵・凍結保存した。残りの13個体は、採取後直ちに凍結し、冷凍輸送後、−20℃で凍結保存し、凍結後輸送した肝臓(以後、凍結肝臓という)は半解凍後、抽出液の調製を行いTTX濃度の測定を行った。 フグ肝臓は、生肝臓も凍結肝臓も同様に滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として左右に2分割し、さらに上下の全長を略均等に5分割して10部位(L1〜5及びR1〜5)に分けた。食品衛生検査指針理化学編フグ毒検査法に準じ、各部位をホモジナイズ後、通常は2倍量、試料の量が少ない場合は3〜5倍量の0.1%酢酸を加えて加熱抽出した。遠心分離後の上清を試験液とし、必要に応じて適宜希釈のうえ、ddY系雄マウス(体重19〜21g)の腹腔内に投与し、マウスの致死時間から1g当たりの毒力を算出した。TTXの1マウス単位(MU)は、体重20gのマウスを30分間で死亡させる毒力と定義されており、TTX220(ng)に相当する。 生および凍結フグ肝臓各1個体につき、毒性試験で調製した試験液を0.45(μm)のメンブランフィルターでろ過後、TTXを対象とするLC−MS分析(ZsprayTM MD 2000を搭載したAlliance 2690システム:Waters社製)を行った。測定はφ2.0×250(mm)のカラム(Mightysil RP−18GP)を用い、移動層には30(mmol/L)ヘプタフルオロ酪酸を含む1(mmol/L)酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を使用し、流速を0.2(ml/min)とした。デソルベーション温度350℃、ソースブロック温度120℃、コーン電圧50Vに設定し、イオン化法はESIポジティブモードで分析し、MassLynxTMオペレーションシステムにて解析した。外部標準には和光純薬製のTTX標準品を用いた。 生肝臓58個体のうち、16個体は10部位全てがマウス毒性を示し、4個体は一部の部位で毒性が認められ、22個体は全てが毒性未検出であった。また残り16個体については、1部位のみの毒性検査に基づき無毒と見なした。このうち全部位にマウス毒性が認められた生肝臓(n=16)につき、(表1)に各TTXの濃度を示す。また、各生肝臓を識別するため各個体番号1〜16を(表1)に示す。尚、後に示す相対毒性によって、フグ肝臓の各部位の毒性の分布を明らかにした為、一部の部位でしか毒性がみとめられなかった4個体と、全部分の毒性が検出できなかった22個体については、その値が測定下限以下であり、明確ではないため、計算には用いなかった。生肝臓の最高平均毒力は709(MU/g)で、食品衛生上の強毒(100〜999(MU/g))が10個体(17.2%)、弱毒(10〜99(MU/g))が5個体(8.6%)、無毒(10(MU/g)未満)が43個体(74.1%)であり、トラフグの有毒肝臓出現頻度は33.3%とされており、今回の生肝臓の調査結果はこれと概ね合致している。凍結肝臓では13個体中9個体は全部位にマウス毒性が認められ、残り4個体は全部位が毒性未検出であった。このうち、強毒が7個体(53.8%)、弱毒が2個体(15.4%)、無毒が4個体(30.8%)で、有毒個体出現頻度は生肝臓より高い結果となったが、凍結肝臓については、重量の大きいものを優先的に選択したため、有毒個体出現頻度が高くなったものと考えられる。これは、天然トラフグでは、高齢個体の大型肝臓になるほど毒性が高いためである。また、全部位にマウス毒性が認められた凍結肝臓(n=9)の各TTX濃度は(表2)に示した。また各凍結肝臓を識別する為、各個体番号1〜9を(表2)に示す。 個体の各部位の毒力をAR1,AR2,AR3,AR4,AR5,AL1,・・・,AL5(MU/g)とし、個体の各部位の重量をBR1,BR2,・・・,BL1,・・・,BL5(g)とすると、個体の各部位の毒量CR1,CR2,・・・,CL1,・・・,CL5(MU)は(数1)で示される。また、個体の総毒量を個体の総重量で割った個体の平均毒力D(MU/g)は(数2)で示される。これらより、(数3)に示すように、各部位の毒力を平均毒力Dで割ることで各部位の相対毒性(ER1,ER2,・・・,EL1,・・・,EL5)を求めた。以上の通り、それぞれの個体について同様の方法で求めた相対毒性値について個体番号1〜16の平均値と、その標準偏差(σ)を算出した数値を(表3)に示す。また、相対毒力の平均±σ及び相対毒力の平均±7σの値を(表4)に示す。 図3は実施例1の16個体の相対毒性を示すグラフである。 図1及び(表1)、(表3)より、生肝臓の個体別に10分割して毒性分布を調べたところ、極端に高い、もしくは極端に低い毒性を示す部位は認められなかった。しかしながら、個体別に平均毒力を1として各部位の相対毒力の部位ごとの平均を比較したところ、概ね中央部の毒性が高く、両端の毒性が低い傾向がみられる。各部位の相対毒力につき、左右と上下の2要因に分けて二元配置分散分析により解析したところ、有意水準5%で要因間の交互作用は認められなかった。そこで要因ごとに評価したところ、左右では右の方の相対毒力が高く、上下では中央に近い下側の(R4)の部位の毒力が他の部位よりも高かった。このことから、(R4)の部位、すなわち肝臓の表右側下側中央寄りの部位が有意に高い毒性を示すことがわかった。(表2)、(表3)より、有毒凍結肝臓についても、同様に各部位の相対毒力を求め比較したところ、生肝臓と同様の傾向が見られたが、二元配置分散分析による解析では、左右、上下のいずれの要因にも有意差が認められず、要因間の相互作用も検出されなかった。フグでは、凍結、解凍に伴い毒が他の組織へ移行することがある。凍結肝臓ではサンプル数が少なかったのに加え、凍結、解凍に伴い肝臓内の毒性分布の偏りが若干均一化した可能性も考えられる。 (表4)より、安全性確保を目的とした毒性試験では、毒性が最も高く見積もられる方法をとる必要がある。従って、相対毒力が他の部位より有意に高く、かつ標準偏差が最も小さい(R4)がサンプリング箇所として最も適切と考えられる。有毒であった生肝臓16個体につき、R4の毒力を1として他の部位の相対毒力を算出したところ、Av±σは0.88±0.21、最大値は、個体番号8(平均毒力10.4(MU/g))におけるL1(部位別毒力14.6(MU/g))の1.7で、R4を除いたデータ数144のうち、1.0未満は78.5%、1.5未満は98.6%に達した。凍結肝臓9個体では、相対毒力のAv±σは0.88±0.28、最大値は個体番号3の(R1)(部位別毒力35.9(MU/g))の1.7で(R4)を除いたデータ数81の内1.0%未満は67.9%、1.5未満は97.5%であった。 Kolmogorov−Smirnov検定により当該相対毒力の正規性を調べたところ、生肝臓、凍結肝臓ともに正規分布に従うと判定された。これを前提とすると、相対毒力がAv+7σの値(生肝臓2.33、凍結肝臓2.84)を超える確率は一千億分の一未満であり、事実上0と見なすことができる。一方、R4の毒力に対する肝臓1個体の平均毒力の相対値を求めたところ、当該相対値は正規分布に従い、生肝臓では、Av±σ=0.91±0.09、Av+7σ=1.56、凍結肝臓では、Av±σ=0.91±0.22、Av+7σ=2.44となった。従って、生肝臓では、(R4)の毒力が10(MU/g)未満であった場合、当該個体の平均毒力が15.6(MU/g)を、部位別毒力が23.3(MU/g)を超える確率は、事実上0とみなせることになる。従って、食用化を想定した検査の場合、これらを考慮した基準(例えば、平均毒力を評価するのであれば(R4)の毒力の1.6倍、部分的な毒力まで問題とする場合は2.4倍の値が10(MU/g)を超えないようにするなど)を設けることにより安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができることがわかった。 従って、フグの安全確保のため、フグ肝臓の毒性評価に際しては、表右側下部中央寄りの特定部を用いて毒性試験若しくは毒の定量をすることが望ましいことが明らかになった。 本発明は、フグ肝臓のフグ毒の検査を行うために、特定部のTTX濃度を測定することで、その他の部位のフグ肝臓を傷つけずに食品としての価値が高く安全性が優れたフグ肝臓を提供することができるフグ毒の検査方法及びそれを利用して得られた安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することができる。1 フグ肝臓2 肝門脈との結合部 フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として、フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のテトロドトキシンを測定し、フグの可食の可否を判別することを特徴とするフグ毒の検査方法。 一群のフグからフグ肝臓の前記特定部を切り出し、切り出された一群の前記特定部を混合して一つにまとめた混合物のテトロドトキシンを測定し、前記一群のフグの可食の可否を判別することを特徴とする請求項1に記載のフグ毒の検査方法。 請求項1に記載のフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品であって、フグ肝臓の前記特定部のテトロドトキシンを測定し、前記テトロドトキシンの含有量が10(MU/g)以下である前記フグ肝臓を調理してフグ肝臓食品にすることを特徴とするフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品。 請求項2に記載のフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品であって、一群(N個)のフグ肝臓の前記特定部のテトロドトキシンを測定し、前記テトロドトキシンの含有量が10/N(MU/g)以下である前記一群のフグ肝臓を調理してフグ肝臓食品にすることを特徴とするフグ毒の検査方法を利用して得られたフグ肝臓食品。 【課題】フグ肝臓の食品としての価値を損なうことなく行うことができる、フグ毒の検査方法の提供、及び、見栄えが良く、元来のフグ肝臓の食感を味わうことができるフグ毒の検査方法を利用して得られた安全性に優れたフグ肝臓食品を提供する。【解決手段】フグ肝臓1の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部2を上部として、フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のテトロドトキシンを測定し、フグの可食の可否を判別する構成を有している。【選択図】図1