タイトル: | 公開特許公報(A)_カロテノイドの新規用途、並びにバリア機能改善薬のスクリーニング方法 |
出願番号: | 2013170817 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 31/01,A61K 31/015,A61P 17/00,A61P 37/08,A61P 9/00,A61P 9/10,A61P 13/02,A61P 13/12,A61P 25/28,A61P 25/02,A61P 11/00,A61P 1/00,A61P 27/02,A61P 3/10,A61P 35/00,A61P 19/10,A61P 27/12,A61P 43/00,A61P 17/16,A61K 31/336,A61K 31/122,A61K 31/045,A61K 31/121,C12Q 1/02,G01N 33/50,G01N 33/15,C12N 15/09,C12Q 1/68 |
藤田 隆司 JP 2015040181 公開特許公報(A) 20150302 2013170817 20130820 カロテノイドの新規用途、並びにバリア機能改善薬のスクリーニング方法 学校法人立命館 593006630 高島 一 100080791 土井 京子 100125070 鎌田 光宜 100136629 田村 弥栄子 100121212 山本 健二 100122688 村田 美由紀 100117743 小池 順造 100163658 當麻 博文 100174296 藤田 隆司 A61K 31/01 20060101AFI20150203BHJP A61K 31/015 20060101ALI20150203BHJP A61P 17/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 37/08 20060101ALI20150203BHJP A61P 9/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 9/10 20060101ALI20150203BHJP A61P 13/02 20060101ALI20150203BHJP A61P 13/12 20060101ALI20150203BHJP A61P 25/28 20060101ALI20150203BHJP A61P 25/02 20060101ALI20150203BHJP A61P 11/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 1/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 27/02 20060101ALI20150203BHJP A61P 3/10 20060101ALI20150203BHJP A61P 35/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 19/10 20060101ALI20150203BHJP A61P 27/12 20060101ALI20150203BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150203BHJP A61P 17/16 20060101ALI20150203BHJP A61K 31/336 20060101ALI20150203BHJP A61K 31/122 20060101ALI20150203BHJP A61K 31/045 20060101ALI20150203BHJP A61K 31/121 20060101ALI20150203BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20150203BHJP G01N 33/50 20060101ALI20150203BHJP G01N 33/15 20060101ALI20150203BHJP C12N 15/09 20060101ALN20150203BHJP C12Q 1/68 20060101ALN20150203BHJP JPA61K31/01A61K31/015A61P17/00A61P37/08A61P9/00A61P9/10A61P9/10 101A61P13/02A61P13/12A61P25/28A61P25/02A61P11/00A61P1/00A61P27/02A61P3/10A61P35/00A61P19/10A61P27/12A61P43/00 105A61P17/16A61K31/336A61K31/122A61K31/045A61K31/121C12Q1/02G01N33/50 ZG01N33/15 ZC12N15/00 AC12Q1/68 AC12N15/00 F 7 OL 21 2G045 4B024 4B063 4C086 4C206 2G045AA29 2G045AA40 2G045BA13 2G045BA14 2G045BB20 2G045BB24 2G045CB01 2G045CB09 2G045DA36 2G045FA19 2G045FA27 2G045FB01 2G045FB03 2G045FB12 2G045FB13 2G045GC15 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QQ79 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR48 4B063QR55 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS32 4B063QX01 4C086AA01 4C086AA02 4C086BA02 4C086GA02 4C086MA01 4C086MA02 4C086MA03 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA16 4C086ZA20 4C086ZA33 4C086ZA36 4C086ZA45 4C086ZA59 4C086ZA66 4C086ZA81 4C086ZA89 4C086ZA91 4C086ZA97 4C086ZB13 4C086ZB21 4C086ZC35 4C086ZC52 4C206AA01 4C206AA02 4C206BA02 4C206BA04 4C206CA13 4C206CB15 4C206CB25 4C206MA01 4C206MA02 4C206MA03 4C206MA04 4C206NA14 4C206ZA16 4C206ZA20 4C206ZA33 4C206ZA36 4C206ZA45 4C206ZA59 4C206ZA66 4C206ZA81 4C206ZA89 4C206ZA91 4C206ZA97 4C206ZB13 4C206ZB21 4C206ZC35 4C206ZC52 本発明は、カロテノイドの新規用途に関する。より詳細には、本発明は、カロテノイドを含有してなる上皮組織のバリア機能改善剤に関する。本発明はまた、Cdx-フィラグリン系の活性化を指標とした上皮組織のバリア機能改善薬の候補物質のスクリーニング方法に関する。 アトピー性皮膚炎は、アレルギー反応と関連があるもののうち皮膚の炎症(湿疹など)を伴うもので過敏症の一種であり、角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリア機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる。 アトピー性皮膚炎の治療には、「薬物療法」、「スキンケア」、「原因・悪化因子の除去」の3つがある。薬物療法については、従来からステロイド治療が行われている。人間の体の中では、「副腎皮質ステロイドホルモン」というホルモンが分泌され、血液の中に入って体内を循環しながらさまざまな働きをしている。その一つに、免疫抑制、抗アレルギー、抗炎症作用がある。ステロイド外用薬は、この副腎皮質ステロイドホルモンの化学構造をもとに作られた薬で、強い抗炎症作用をもっている。しかし、副作用が強く、新しい標的因子に作用する薬の開発が求められている。 皮膚のバリア機能に関し、ほぼすべての人において「日焼け」により発赤が生じたり、皮がめくれる(上皮の代謝による)といった現象が起こる。このとき、皮膚の上皮バリアは弱くなり、バリア再構築に時間がかかる。皮膚バリア機能を維持することは、アトピー性皮膚炎の感作および病態進行においても重要で、皮膚バリア機能が高く維持されると、外的因子から体を守ることができる。しかしながら、一旦「日焼け」した皮膚症状を改善するメカニズムや当該改善効果を持った化合物は見いだされてこなかった。 フィラグリン(Filaggrin;以下、Flgと略記する場合がある)は、表皮の顆粒細胞で産生される塩基性タンパク質の一種であり、皮膚のバリア機能に欠かすことのできない角質層を形成するにあたり、ケラチンとともに重要な役割を担っている。Flgが作られないと角質に異常がおこり、皮膚のバリア機能が低下し、皮膚炎の原因となる。アトピー性皮膚炎の患者に、Flg遺伝子異常が多く見つかっていて、アトピー性皮膚炎治療の鍵となる物質として注目されており、また尋常性魚鱗癬の患者は、Flgの発現が極度に低下していることが報告されている(非特許文献1)。そこで、Flgの産生を促進する物質の探索が行われており、例えば、マタタビ、ノニ、檸条、油茶等の植物の水性溶媒抽出物や米糠油などの天然成分、ポリγ-グルタミン酸などがフィラグリンの産生を促進することが報告されている(特許文献1〜5)。しかしながら、これらの物質がFlgの産生を促進するメカニズムについては不明のままであった。 ところで、カロテノイドの一種であるフコキサンチンは、従来プロビタミンAとして体内で作用すると考えられており、また、培養皮膚細胞において、酸化ストレスによる活性酸素種(ROS)の生成を抑制する抗酸化作用を有することが知られている。しかしながら、カロテノイドのFlg産生に及ぼす影響については、これまで報告されていない。特開2010−120876号公報特開2010−90093号公報特開2010−83786号公報特開2013−40113号公報特開2005−15347号公報今山修平, 「スキンケアを科学する」, 南山堂, pp. 145-146 (2008) 従って、本発明の目的は、アトピー性皮膚炎の原因遺伝子でもあるFlgの発現誘導のメカニズムを解明し、該メカニズムに基づいた、皮膚バリア機能改善作用を有する新規薬剤の探索手段を提供することである。また、本発明の別の目的は、カロテノイドのFlg産生に及ぼす作用を明らかにし、当該作用に基づくカロテノイドの新規用途を提供することである。 本発明者は、老化関連遺伝子の探索研究の過程で、老化を進める原因物質である終末糖化産物(AGE)の受容体の1つであるRAGE(Receptor for AGE)のシグナリングにより発現が調節される遺伝子群の抽出を試みた。RAGEは老化した皮膚で発現が高いことから、皮膚の若さの指標になる。糖尿病時における皮膚や他の組織において、コラーゲン繊維などの細胞外基質がAGEの蓄積によって不規則に架橋されると、弾力性など組織の力学的剛性に影響が生じる。このため、皮膚や関節軟骨、骨、腎尿細管、血管など幅広い組織に障害をもたらすが、RAGEを介した病態の発症メカニズムは明らかではなかった。そこで、本発明者は、RAGEがリガンドであるAGEの刺激を受けたときに、細胞内で生じる組織剛性に関わる遺伝子を発現調節していることを想定して、マイクロアレイ解析を行った。その結果、AGE刺激により発現が低下する遺伝子としてFlg遺伝子が抽出された。Flgの遺伝子プロモーターを調べたところ、がんなどの細胞増殖を抑制する転写因子として知られるCdxの結合コンセンサス配列を多数検出した。そこで、Cdxファミリーの発現を調べたところ、RAGEの強発現により、Cdx1、Cdx4の発現は低下もしくは低下傾向を示し、RAGEのドミナントネガティブ体(DN-RAGE)によっては逆に発現亢進もしくは発現亢進の傾向を認めた。Cdx1を強制発現すると、Flgを強く誘導した。 紫外線による細胞障害は、細胞内に産生するROSによるものと従来考えられてきたが、本発明者は、紫外線による皮膚障害もまた老化のトリガーであることから、紫外線による皮膚障害におけるFlgおよびCdx1の発現を調べた。また、ROSを生成を抑制して抗酸化作用を示すフコキサンチン(FX)や、同様の抗酸化作用を有するN-アセチルシステイン(NAC)、FXが体内で代謝されて生じるビタミンAであるレチノイン酸(RA)について、Cdx-Flg系に及ぼす効果及び紫外線による皮膚障害に対する予防及び治療効果を調べた。その結果、FXは、紫外線による皮膚障害に対して予防及び治療効果を示し、皮膚細胞におけるFlg発現を維持・増強したが、NACやRAにはそれらの効果は認められなかった。FXと同じカロテノイドの一種であるアスタキサンチン(AX)も、Flg遺伝子誘導活性を示したことから、FXの上記効果は、ビタミンA活性・抗酸化活性非依存的なカロテノイド特有の作用効果であることが明らかとなった。 さらに、本発明者は、Cdxが結合するシスエレメントをタンデムに連結した合成プロモーターにレポーター遺伝子を連結したコンストラクトを構築して皮膚細胞に導入し、該レポーター遺伝子の発現を指標として、Cdx-Flg系を活性化して皮膚バリア機能を改善する作用を有する物質をスクリーニングし得る評価系を構築して、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は以下の通りである。[1]カロテノイドを含有してなる、Cdx-フィラグリン系活性化剤。[2]カロテノイドが、フコキサンチン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カプサンチン、リコピン、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン及びそれらの誘導体からなる群より選択される1種以上である、上記[1]記載の剤。[3]カロテノイドが、少なくともフコキサンチン又はその誘導体を含有する、上記[1]記載の剤。[4]フィラグリンの発現低下が関与する疾患又は状態の改善剤である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の剤。[5]前記状態が上皮組織のバリア機能異常である、上記[4]記載の剤。[6]以下の(1)〜(3)の工程を含む、上皮組織のバリア機能改善薬のスクリーニング方法。(1)Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程(2)前記細胞におけるレポータータンパク質の発現量を測定する工程(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、レポータータンパク質の発現量を増加させた被検物質を、皮膚バリア機能改善薬の候補物質として選択する工程[7]上皮組織が皮膚である、上記[6]記載のスクリーニング方法。 本発明のCdx-Flg系の活性化を指標としたスクリーニング系によれば、紫外線による皮膚障害のみならず、アトピー性皮膚炎をはじめとするFlgを原因遺伝子とする皮膚障害において、皮膚バリア機能を維持・回復し得る物質を探索することができる。従って、従来のステロイドや免疫抑制剤とは全く異なった作用機序を持つ創薬開発が可能となる。また、FXをはじめとするカロテノイドは、Cdx-Flg系の活性化を介して、皮膚バリア機能を維持・回復することができるので、皮膚バリア機能の異常を伴う各種疾患・状態の予防及び治療薬として、有用である。RAGE及びそのドミナントネガティブ体によるFlg発現調節を示す図である。マウス皮膚線維芽細胞にRAGEもしくはDN-RAGEを発現するアデノウイルスにより導入すると、48時間でFlgの遺伝子発現が変化した。各カラムデータは4wellの平均値±標準誤差値で示した。ヒトFlgプロモーター配列(配列番号1)及びその中に存在するCdx結合コンセンサス配列を示す図である。クローニングしたFlgプロモーターの塩基配列には、Cdxの結合コンセンサス配列(太字下線で示す)が多数認められた。マウスのFlgプロモーター配列(配列番号2)及びその中に存在するCdx結合コンセンサス配列を示す図である。クローニングしたFlgプロモーターの塩基配列には、Cdxの結合コンセンサス配列(太字下線で示す)が多数認められた。RAGE及びそのドミナントネガティブ体によるCdxファミリーの発現調節を示す図である。マウス皮膚線維芽細胞にRAGEもしくはDN-RAGEを発現するアデノウイルスにより導入すると、48時間でCdxファミリーのうち、Cdx1の遺伝子発現が顕著に変化した。各カラムデータは4wellの平均値±標準誤差値で示した。過酸化水素(H2O2)、UVによる細胞内ROS産生の経時変化を示す図である。上段には、H2O2刺激後のタイムラプス解析によって得られた画像を示した。緑色の蛍光を示すものが細胞内ROSである。左図には、H2O2刺激による細胞内ROS産生の経時変化を、右図には、UVによる細胞内ROS産生の経時変化を示した。各カラムデータは8-24wellの平均値±標準誤差値で示した。UV誘発性細胞内ROS産生に対するフコキサンチン(FX)、N-アセチルシステイン(NAC)、レチノイン酸(RA)の効果を示す図である。FX、NACはUV誘発性細胞内ROS産生を抑制したが、RAにはその効果は認められなかった。FX、NACの濃度設定は、ORAC法による濃度検討の後、本試験に供した。各カラムデータは8wellの平均値±標準誤差値で示した。UV照射による皮膚障害に対するFXの保護効果及び治癒効果の試験における、UV照射及びFX投与スケジュールを示す図である。除毛処理を施したマウス背部正中の左側をワセリン(Vaseline)、右側を0.1%FXを含むワセリン(0.1%FX)をペントバルビタールによる麻酔下、塗布し、365nmの波長でUV照射を1時間行った。保護効果の観察(Protection)には、4日間のUV照射により顕著な発赤を認め、発赤を指標にFXの効果を調べた。治療効果の観察(Repair)には、4日間のUV照射により発赤を観察した後、Vaseline、0.1%FXを塗布して治療効果を調べた。マウスはそれぞれ、3匹ずつ試験した。なお、後述のNAC、RAの試験においても同様のスケジュールで行った。UV照射による皮膚障害に対するFXの保護効果及び治癒効果を示す図である。0.1%FXはUV照射4日間(1時間/1日)による皮膚の発赤を著名に抑制した。また、UV照射4日間によって一端生じた発赤に対して、0.1%FXは4日間の塗布によりほぼ完全に治癒した。UV誘発性Flg発現減少に対するFX、NAC、RAの効果を示す図である。0.1%FXは4日間のUV照射に対してFlgの発現低下を顕著に抑制効果を示したのに対して、10%NAC、0.5%RAはFlg発現低下に対して効果を示さなかった。UV照射による発赤形成後のFX塗布により、Flg発現が誘導されることを示す図である。0.1%FXは4日間のUV照射により発赤を形成させた後、4日間の塗布により、Flg発現誘導効果を認めた。Flg遺伝子プロモーター活性に対するCdx1、並びにFX、NAC、RAの効果を示す図である。Cdx1をコードする核酸を一過性発現ベクターにサブクローン化し、Flg遺伝子のプロモーターを含むコンストラクトと共導入してプロモーターに及ぼす効果を調べた(A)。Flgプロモーター活性はCdx1の導入により顕著に亢進した。MOCKは空ベクターを用いた。10μM FX(FX)、10mM NAC(NAC)、10μM RA(RA)によるFlg遺伝子プロモーター活性に及ぼす影響(B)。FXのみ、Flg遺伝子プロモーター活性を亢進させた。各カラムデータは8wellの平均値±標準誤差値で示した。FX、アスタキサンチン(AX)及びRAのFlg遺伝子プロモーター活性への影響と抗酸化活性とを比較した図である。FX、NACおよびRAのFlgプロモーター活性への影響比較(A)。いずれも10μMの濃度で、FX>AXの順にFlg遺伝子プロモーター活性を亢進させた。RAは誘導しなかった。各カラムデータは8wellの平均値±標準誤差値で示した。ORAC法による抗酸化活性評価比較(B)。FXは0.1μMから強い抗酸化活性を示し、濃度依存的に抗酸化活性を認めた。AXもまた抗酸化活性を認めたが、その効果はFXより弱かった。なお、RAには抗酸化活性は認められなかった。縦軸は任意の蛍光強度を示した。各カラムデータは3wellの平均値±標準誤差値で示した。カロテノイドの作用メカニズムモデルを示す図である。カロテノイドであるFXは、抗酸化活性、プロビタミンA効果を有する。しかしながら、抗酸化活性を有するNAC、ビタミンAであるRAにより皮膚の発赤、並びに皮膚バリア機能をもつFlg遺伝子の発現に効果を示さなかった。すなわち、FXは新規Cdx-Flg軸を駆動させることにより、皮膚バリア能を高める効果を有し、本効果は紫外線による皮膚障害に対して保護効果にとどまらず治療効果をも有した。本発明のスクリーニングシステムの模式図である。Flg遺伝子プロモーター活性(Flgプロモーター-ルシフェラーゼ(luc))、Cdx活性(12×Cdx-luc)を指標とするスクリーニングシステムは、皮膚におけるバリア能をしめす化合物のみならず、さまざまな上皮組織におけるバリア機能を回復、治療する化合物などをスクリーニングすることができる。 本発明は、カロテノイドを含有してなる、Cdx-フィラグリン(Flg)系活性化剤を提供する。ここで「Cdx-Flg系」とは、転写因子であるCdxによるトランス活性化を介するFlg遺伝子の発現系を意味する。 本発明のCdx-Flg系活性化剤の有効成分であるカロテノイドとしては、特に制限はないが、例えば、フコキサンチン(FX)、アスタキサンチン(AX)、アンテラキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カプサンチン、リコピン、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン及びそれらの誘導体などが挙げられる。 誘導体としては、例えば、グリシン、アラニン等のアミノ酸とのエステル類、酢酸、クエン酸等のカルボン酸とのエステル及びその塩類、リン酸、硫酸等の無機酸とのエステル及びその塩類、またはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸等の高度不飽和脂肪酸、オレイン酸やリノール酸等の不飽和脂肪酸や、パルミチン酸やステアリン酸等の飽和脂肪酸等との脂肪酸エステル類等から選択されるモノエステル体及び同種または異種のジエステル体、グルコシド等の配糖体類等が挙げられる。これらは、化学合成品であっても、また、植物、動物、微生物などの天然物から抽出されたものであってもよく、その原料の種類や産地、製法は特に限定されず、一種又は二種以上を配合することができる。 上記カロテノイドのうち、好ましくはFX、AX及びそれらの誘導体が挙げられる。より好ましくはFX及びその誘導体である。FXはワカメ等の褐藻やその他の不等毛藻から自体公知の方法により抽出し、分離精製することができる。例えば、後述の実施例に記載の方法等が挙げられるが、それに限定されない。一方、AXは、オキアミ、サケ、マス、福寿草、赤色酵母、ヘマトコッカス藻等の天然物から抽出したものや合成品を用いることができる。 本発明のCdx-Flg系活性化剤には、通常化粧料や医薬品、医薬部外品、食品に用いられるその他の成分を配合することができる。このような任意成分としては、ビタミン類、色素類、無機塩類、油性基剤、界面活性剤、防腐剤、香料等が挙げられる。ビタミン類としては、レチノール、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール、カルニチン、オロット酸などがある。色素類としては、赤色106号、青色1号、だいだい色205号、黄色202号の(1)、黄色203号、緑色3号などがある。無機塩類としては、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、塩化カリウム、ミョウバンなどがある。油性基剤としては、液状ラノリン、ホホバ油、米胚芽油、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、スクワラン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、ワセリン、流動パラフィンなどがある。界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレングリコールモノステアレートなどが挙げられる。さらに、水(精製水、温泉水、深層水等)、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、消臭剤、pH調整剤、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等を加えることもできる。 本発明のCdx-Flg系活性化剤中に配合されるカロテノイドの割合に特に制限はなく、例えば0.0001〜100重量%、好ましくは0.001〜10重量%配合することができる。 本発明のCdx-Flg系活性化剤は、例えば化粧料、医薬品、医薬部外品、食品等としてヒト又は他の哺乳動物に適用することができる。例えば、化粧料、外用医薬品または医薬部外品等として利用する場合には、特に限定されるものではないが、例えばローション、スプレー、エアゾールスプレー、クリーム、清拭剤、上がり湯用組成物、入浴剤などの形態に調製することができる。 本発明のCdx-Flg系活性化剤は、Flgの発現を増強することができるので、Flgの発現低下が関与する疾患又は状態の改善剤として使用することができる。ここで「Flgの発現低下が関与する疾患又は状態」としては、例えば、Flgがバリア機能に関して役割を担っている任意のバリア形成組織(例えば、皮膚、気管、肺胞、消化管、尿細管、角膜等の任意の上皮組織及び血管内皮、リンパ管内皮等の任意の内皮組織)のバリア機能の異常、並びに当該バリア機能異常を伴う各種疾患もしくは障害(例、アトピー性皮膚炎、尋常性魚鱗癬、紫外線による皮膚障害(例、日焼け、光老化)、精油等による光毒性等)の他、RAGEシグナリングの亢進に伴うあらゆる老化現象及び疾患(例、肌のしみ、しわ、アルツハイマー病などの認知症、動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性脳・心血管障害、糖尿病及びその合併症(例、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性末梢神経障害)、がん、骨粗鬆症、白内障等)なども包含される。 本発明のCdx-Flg系活性化剤は、その使用目的に応じて、適当な経路でヒト又は他の哺乳動物に適用することができる。例えば、上記の各種疾患又は状態の改善を目的とする化粧料、医薬品、医薬部外品、食品として適用される場合、経口又は非経口的に投与(又は摂取)される。例えば、化粧料、外用医薬品または医薬部外品等として利用する場合には、本発明のCdx-Flg系活性化剤は、経皮投与により投与される。 本発明のCdx-Flg系活性化剤の投与量は、対象者の年齢、性別、症状、疾患又は状態の種類及び程度等に応じて適宜選択され得るが、例えば、アトピー性皮膚炎の予防・治療剤とする場合の適用量は、通常、有効成分であるカロテノイド量として、例えば、1日当たり0.01〜50mg/kg、好ましくは0.1〜30mg/kg程度を外用すればよい。あるいは、経口的に投与(摂取)する場合には、例えば、1日当たり0.01〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kg程度を、1回ないし数回に分けて投与(摂取)することができる。 上述のとおり、Cdx-Flg系が活性化されると、Flgの産生が促進され、上皮組織のバリア機能が改善される。従って、Cdx-Flg系を活性化する物質は、上皮組織のバリア機能改善薬、当該機能の異常が関与する疾患又は状態の予防及び/又は治療薬として使用することができる。したがって、Cdx及びFlgを産生する細胞は、Cdx-Flg系の活性化を指標とすることにより、上皮組織のバリア機能改善薬のスクリーニングのためのツールとして用いることができる。 すなわち、本発明は、以下の(1)〜(3)の工程:(1)Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーター(Flg遺伝子プロモーターを含む)の制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程(2)前記細胞におけるレポータータンパク質の発現量を測定する工程、及び(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、レポータータンパク質の発現量を増加させた被検物質を、皮膚バリア機能改善薬の候補物質として選択する工程を含む、上皮組織のバリア機能改善薬のスクリーニング方法を提供する。 ここで「上皮組織」としては、上記本発明のCdx-Flg系活性化剤について例示したのと同様の組織を挙げることができるが、好ましくは皮膚である。 Cdxが結合するシスエレメントは、A(A/T)T(A/T)AT(A/G)のコンセンサス配列もしくはCdxが結合し得るその類似配列を含むものであれば特に制限はない。当該類似配列としては、A(A/T)T(A/T)AT(A/G)において1もしくは2塩基が置換、欠失、挿入もしくは付加された塩基配列であって、A(A/T)T(A/T)AT(A/G)と同等(例、0.5〜2倍)もしくはそれ以上のCdxとの結合親和性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、図2に太字下線で示される塩基配列のうち、A(A/T)T(A/T)AT(A/G)以外の塩基配列が挙げられる。Cdxとの結合能を保持することは、例えばゲルシフトアッセイ、アフィニティーカラムクロマトグラフィーなどにより容易に確認することができる。Cdxとしては、Cdx1もしくはCdx4、好ましくはCdx1が用いられる。組換えCdxファミリータンパク質は市販されている。 当該シスエレメントはプロモーター中に1つのみ存在してもよいし、複数存在してもよいが、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは5個以上、特に好ましくは10個以上存在するものが挙げられる。プロモーターは上記のCdxが結合するシスエレメントをその配列中に含む限り、任意の遺伝子の天然のプロモーターであってよく、あるいはbasalなプロモーター活性を有し、かつ上記のCdxが結合するシスエレメントを少なくとも1つ、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、さらに好ましくは5個以上、特に好ましくは10個以上がタンデムに連結された配列を含む合成プロモーターであってもよい。天然のプロモーターとしては、特に制限はないが、好ましくはFlg遺伝子のプロモーターである。天然のプロモーターは、例えば、(i)5'-レース法(5'-RACE法)(例えば、5'-full Race Core Kit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5'末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5'-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することが出来る。Flg遺伝子プロモーターの場合、図2に示すヒト及びマウスFlgプロモーターの配列情報に基づいて、常法に従って任意の哺乳動物由来のFlgプロモーターを単離することができる。 Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターの下流に機能可能な形でレポータータンパク質をコードする核酸(以下、「レポーター遺伝子」という)を連結して、レポータータンパク質発現ベクターを構築する。該ベクターは当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出されたプロモーターを、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。 レポータータンパク質としては、β-グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ(GAS)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)等が挙げられる。 調製したCdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターを機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。ベクターに搭載される選択マーカー遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、安定な形質転換細胞を得ることができる。あるいは、Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターを機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、宿主細胞内に一過的に発現させてもよい。 宿主細胞としては、哺乳動物細胞、例えば、HepG2細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、ヒトFL細胞、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、CHO細胞と略記)、dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr-)細胞と略記)、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットH4IIE-C3細胞、ラットGH3細胞などが用いられ得るが、これらに限定されない。 前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。形質転換体の培養は、哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。 形質転換は、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより行うことができる。例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263-267 (1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456 (1973)に記載の方法を用いることができる。 上記のようにして得られる形質転換細胞は、例えば、約5〜20%の胎仔牛血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122巻,501(1952)〕,ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などの培地中で培養することができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。 レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。 上皮組織のバリア機能改善薬をスクリーニングする場合、該スクリーニング方法は、上記のようにして調製された細胞を、被検物質の存在下および非存在下に培養し、両条件下におけるレポータータンパク質の量を比較することを含む。 本発明のスクリーニングを実施するに当たり、被検物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。 また、上皮組織のバリア機能改善薬を選択する際に、被検物質を接触させない対照細胞を比較対照として用いることもできる。ここで「被検物質を接触させない」とは、被検物質の代わりに被検物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターの活性に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。 被検物質の上記細胞との接触は、例えば、上記の培地や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被検物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被検物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM〜約100μMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約10分〜約24時間が挙げられる。 以下の実施例は、単に本発明をより具体的に例示するためのものであって、本発明の範囲を制限するものではない。〔1〕老化因子としてのFlgの同定(方法)1.細胞培養 ヒト皮膚真皮細胞(human dermal fibroblasts: HDF)は東洋紡より購入し、10%fetal bovine serum (FBS)(Invitrogen, Tokyo, Japan)、抗生物質溶液を含むdulbecco’s modified eagle medium (DMEM)(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan(以下、10%FCSDMEM)で培養した。培養マウス皮膚細胞は、ddY系E15.5の胎仔から皮膚組織を摘出し、0.1%トリプシンと0.1%コラゲナーゼで懸濁し、常法により培養を行った。酵素反応とピペッティングによって懸濁された細胞は10%FCS DMEMで反応を止め、回収した。それから、細胞を再懸濁し1×107cells/15cmディッシュの濃度で播種した。培養2〜3日後に、RNA解析用に6穴プレートに播種した。2.アデノウイルスおよびレポーターベクターの作成 マウスのRAGE及びdominant negative (DN)-RAGE cDNAは次のオリゴヌクレオチドを用いてPCRによって作製した。RAGE、DN-RAGE、Flag-Cdx1はそれぞれpUC-CMV-IRES-GFPにサブクローン化した。また、ddY系マウスmouse Flg promoterはマウス尾より調製したゲノムDNAを鋳型にして、同様にPCRにて増幅し、pGL4.10(Promega, Madison, WI)にサブクローン化した。PCRプライマーのリストTarget mRNA Primer Sequences (5’-------3’;括弧内数字は配列番号を示す)RAGE (forward) gcGAATTCATGCCAGCGGGGACAGCAGC (3)RAGE (reverse) gcGAATTCTTACGGTCCCCCGGCACCAT (4)DN-RAGE (reverse) gcGAATTCTCATCGCCACAGGATAGCCCCGA (5)Flag-Cdx1(forward) gcGGATCCATGGACTACAAAGACGATGACGACAAGatgtacgtgggctatgtgct (6)Cdx1(reverse) gcGAATTCctagggtagaaactcctcct (7)Flg(forward) GCGAGCTCTTACAAGCAGCATGAGGTAG (8)Flg(reverse) GCCTCGAGAAGACTGAATCGAATGCAGC (9) アデノウイルスは常法に従い、293細胞への遺伝子導入(pUC-CMV-IRES-GFPのサブクローンベクターとpJM17の共導入)から相同組換え型アデノウイルスを得て、これを増幅した。Cdx活性を測定するためにデザインしたレポーターベクター:12×Cdx-lucは、Genescript(Tokyo, Japan)で受託合成した。3.マイクロアレイ解析による老化因子としてのFLGの抽出同定 GFP、RAGE、DN-RAGEを発現するアデノウイルスを用いて、培養皮膚細胞に感染させた。感染2日後の細胞からのtotal RNA抽出はRNeasyMinikit (Qiagen, Tokyo, Japan)を用いて常法に従って調製した。RNAの純度は2100 BioAnalyzer(AgilentTechnoloies, Santa Clara, CA)により検定した。4.リアルタイムPCR解析 Toal RNAはSepasol(R)-RNA I Super G (NACALAI TESQUE,INC.)を用いて抽出した。cDNAはTotal RNA1μgをReverTraAce(R) cDNAsynthesiskit (TOYOBO)で逆転写した。定量的real-time PCRは、2 x mastermix (日本ジェネティックス,Tokyo,Japan)5μlとcDNA、0.5μM プライマーを混ぜた後、PikoRealPCRsystem (ThermoFisherScientific Inc., Yokohama, Japan)で増幅した。実験結果は5つの異なる濃度のcDNAから得た検量線から定量を行った。PCR産物はハウスキーピング遺伝子のGAPDHを基準にし、サンプル間の測定値はCtで比較した。使用したプライマーは以下のものを使用した。GAPDH-F 5’-TGCACCACCAACTGCTTAG-3’ (配列番号10)GAPDH-R 5’-GGATGCAGGGATGATGTTC-3’ (配列番号11)RAGE-F 5’-AGAACATCACAGCCCGGATT-3’ (配列番号12)RAGE-R 5’-TTCCTGTGTTCAGTTTCCAT-3’ (配列番号13)Flg-F 5’-GCTTAAATGCATCTCCAG-3’ (配列番号14)Flg-R 5’-AGTCAGTCCTATTGCAGG-3’ (配列番号15)Cdx-1-F 5’-CTAGGACAAGTAGCTTGCCCTCTT-3’ (配列番号16)Cdx-1-R 5’-TCCAACAGGCTCACCACACA-3’ (配列番号17)Cdx-2-F 5’-CGATACATCACCATCAGGAGG-3’ (配列番号18)Cdx-2-R 5’-TGGCTCTGCGGTTCTGAAAC-3’ (配列番号19)Cdx-4-F 5’-GAGGAAGTCAGAGCTGGCAG-3’ (配列番号20)Cdx-4-R 5’-GGCTCTGCGATTCTGAAACC-3’ (配列番号21) ハウスキーピング遺伝子GAPDHの発現量は内部標準として算出に用いた。すべての測定は3回または4回行った。(結果、考察) マイクロアレイ解析から抽出したRAGE応答性遺伝子、Flg(Gene ID: 14246)について調べた。マウス皮膚線維芽細胞に老化受容体RAGEを強制発現させると、皮膚バリア遺伝子Flgの発現が低下することが分かった(図1)。逆に、DN-RAGEを強制発現させると対照であるGFP導入細胞よりも発現亢進した。マウスFlg遺伝子のプロモーターを解析すると、Cdx結合コンセンサス配列を多数認めた(図2B)。そこで、Cdxファミリーの発現レベルについて同様に調べたところ、Cdx1の発現はRAGEにより低下し、DN-RAGEによってGFPよりも高い発現が認められた(図3)。同様の傾向は、Cdx4の発現に観察されたが、Cdx2の発現はほとんど変化しなかった。これらの成績から、Cdx-Flgのシグナル軸が老化受容体RAGEによって低下することが示唆された。 Flg遺伝子は、アトピー性皮膚炎の原因遺伝子の1つであることが明らかにされてきた。このFlg遺伝子が老化受容体RAGEによって発現調節されていた。すなわち、Flg遺伝子は老化や糖尿病時など、RAGE応答が過剰に起こると、発現が低下し、皮膚の弾力性が失われ、また皮膚バリア能が低下することによりアレルギー症状が進行するものと推定された。〔2〕紫外線による皮膚障害とFlg 活性酸素種(ROS : reactive oxygen species)は生体の膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し、炎症、虚血、ガン化など多様な病態に深く関与していると言われている。生体内に取り込まれた酸素O2は代謝過程を経て種々のROS(狭義にスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素、過酸化水素)に変化する。紫外線による細胞障害は、細胞内に産生するROSによるものと考えられてきた。このため、現在市場にある化粧品にはビタミンCやビタミンE、システインをはじめ、抗酸化活性をもった化合物が有効成分として添加されている。また、ビタミンAは保険薬:ザーネ(エーザイ株式会社)として供給されているが、紫外線による皮膚障害に対する適応はもっていない。 紫外線による皮膚障害もまた老化のトリガーであることから、紫外線照射におけるFlg、Cdx1の発現調節を調べた。加えて、抗酸化作用を有するカロテノイドであるフコキサンチン:FXのCdx-Flg活性化についても調べた。(方法)1.細胞内Reactive Oxygen Species(ROS)産生の測定 HDFを100μM DCFH-DAで1時間培養後、FCS不含DMEM(SF-DMEM)で5回洗浄し、FCS非存在下、1mMの過酸化水素(H2O2)により刺激した。タイムラプス解析には、エアブラウン社のJULIを用い、CO2インキュベーター内で計測した。また、細胞内に発生したROS量を定量するために、細胞を可溶化後、マイクロプレートリーダー(Corona Electric model: SH-8100lab, Ibaraki, Japan)にて蛍光強度を測定した。紫外線による障害の評価には、ハンディーUVランプ(アズワン:365nm)を用いてUV照射し、細胞内ROS産生を経時計測した。2.わかめからのフコキサンチンの抽出 わかめの根は、脱塩の後、乾燥させ、粉末とした。この粉末200gに1.5Lのメタノールの割合で2回抽出し、合計3Lのメタノールからエバポレーションした(1回分)。ヘキサン二層分配法により抽出したあと、エバポレーションにより濃縮した。これを、シリカゲルクロマトグラフィーにより細分画し、フコキサンチンは薄層クロマトグラフィー、フォトダイオードアレイ検出器による高速液体クロマトグラフィー解析により分離精製した。3.ORAC法による抗酸化活性評価 食品の抗酸化力の指標として欧米で普及が進んでいるORAC(oxygen radical absorbance capacity)法により調べた。蛍光物質であるfluorescein(Wako Pure Chemicals Osaka, Japan)に、ラジカル発生剤である2,2’-azobis(2-methylpropion amidine ) dihydrochloride :AAPH(WAKO Pure Chemicals)を加え、ラジカルによってfluoresceinが分解され、蛍光強度の減少を経時的に測定して、抗酸化活性を測定した。具体的には、細分画したフラクションもしくは精製品をメタノールに溶解し、それぞれのサンプルを96穴プレートに10μlずつ添加した。そこへ1×phosphate-buffered saline(PBS)で7.5μMに希釈したfluoresceinを40μMずつ添加した(終濃度3μM)。400MのAAPHを各wellに50μlずつ添加し(終濃度200μM)、5分間隔で経時的に蛍光強度をマイクロプレートリーダー(Ex=480/Em=520)で測定した。標準物質には、10μM Trolox(R)(6-hydroxy-2,5,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid)(Sigma Chemicals, Saint Louis, MI))(終濃度1μM)を、陰性コントロールには、溶媒として用いたメタノールを用いた。また、メタノールで希釈したフコキサンチン(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、アスタキサンチン(フナコシ株式会社, Tokyo, Japan)を対照試験に使用した。得られた蛍光強度をブロットし、陰性コントロールとして用いたメタノールによって得られたブロットに囲まれた面積、area under the curve (AUC)を、Image Jソフトウェア(NIH, Bethesda, MD)を用いて算出した。4.光毒性試験(UV照射による皮膚障害に及ぼす薬効の評価系として実施した) ddY雄性マウス(10-11週齢)の背部を除毛処理し、ペントバルビタールナトリウムにより麻酔を施した。保護効果を調べた実験では、背部正中より左側にワセリン、右側に化合物を含むワセリンを塗布した。その後、ハンディーUVライトにより背部をUVに1時間さらした。これを4日間繰り返し、肌スコープ;ドルフィン(コアフロント、Tokyo, Japan)により、マクロ撮影(背部皮膚組織の全体的変化を評価)、LED落射撮影(キメの変化を評価)、偏光撮影(シミの変化を評価)、UV撮影(角栓形成を評価)を行った。治療効果を調べた実験では、発赤が認められるまで予め4日間UVにさらし、その後ワセリンとフコキサンチンを含むワセリンの対照試験を、保護効果を調べた実験と同様に4日間経過観察を行った。5.組織解析と免疫組織学的解析 マウスを安楽死させた後、光毒性試験を行ったマウス背部より皮膚組織を摘出した。3-5mm角の皮膚をOTCコンパウンドに包埋し、クリオスタットにて10μmの薄切切片を作成し、常法により免疫組織化学的解析を行った。抗Flg抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., M-290:sc-30230)を1次抗体として1時間反応させた後洗浄して、次にFITC共役抗ウサギ抗体と1時間反応させた。洗浄後、マウント剤で封入し、EVOS (R)FL Cell Imaging system(Life Technologies, Tokyo, Japan)にて組織におけるFlgの発現分布を評価した。6.ウエスタンブロット解析 マウス背部のサンプルをホモジナイズした後、常法により、タンパク定量を行った。SDS-PAGEしたのち、抗Flg抗体、抗Cdx1抗体(Abcam, Tokyo, Japan: ab116111)を一次抗体として用いた。いずれも、PO共役抗ウサギ抗体を2次抗体として用いた。ケミルミネセンス反応の後、LAS4000(FUJI, Tokyo, Japan)にて発光強度を測定した。7.レポーター活性の測定 プロモーターを含むレポーターコンストラクトFlg-luc、もしくは12×Cdx-lucを0.1μ g、pRL-CMV (Promega, Madison, Wl) 0.002μgのFugene 6 (Promega)による一過性導入により行った。ルシフェラーゼ活性は、Dual Luciferase Assay System(Promega)を用いて、20/20n luminometer (Turner BioSystems, Sunnyvale, CA)にて、renilla luciferaseのシグナルに対する比活性を測定した。(結果と考察) 紫外線照射は、肌の老化をもたらすことは広く知られている。上記1.に記したように、糖尿病性の老化受容体RAGEの標的遺伝子として見いだしたFlg遺伝子、並びにその調節因子であるCdxファミリー遺伝子(特にCdx1)は、RAGE刺激により発現が低下した。また、UV照射による皮膚障害試験の結果から、紫外線による皮膚障害に対しては、抗酸化活性を有する化合物は抗光老化活性、皮膚バリア機能の保護、回復活性は認められず、またビタミンAによっても認められなかった。しかしながら、カロテノイドであるFXはFlg遺伝子の発現を伴ってUV照射による発赤を保護、治癒した。すなわち、カロテノイド応答性受容体活性としてのCdxの新たな機能が示された。 過酸化水素のようにそのものがラジカル発生剤であれば、細胞内に一過的にROSを産生させた(図4)。従来考えられてきた紫外線による障害は、細胞内のROS産生に起因することは、UV照射により細胞内ROS産生が認められたこと(図4)からも類推できた。一方、ROS産生をクエンチングする効果を有する抗酸化活性を示すNAC(図5)、および別の抗酸化物質A(すくも成分:インドールの二量体)のいずれもが、マウス皮膚への紫外線による障害を保護できなかった(図8)。すなわち、抗酸化活性を有する化合物では、紫外線による皮膚障害は防御できないことが示唆された。 一方、カロテノイドであるFXは、図6に示したスケジュールでのUV照射に対して保護効果(図7)、治療効果(図7)を示した。またこれらの時、Flg遺伝子の発現を伴っていた(図8及び9)。FXは、Flg遺伝子のプロモーターに対して活性化作用を有していることがわかった(図10)。Flg遺伝子への誘導活性は、NAC、RAによって認められなかったことから(図8及び10)、Flg遺伝子の発現は抗酸化活性を有する化合物やビタミンA活性を有する化合物の作用ではないことがわかった。RAは、抗酸化活性を有さず(図5)、Flg遺伝子誘導活性も認められなかった(図8、10B、11A)。よって、カロテノイドがプロビタミンAであることは周知の事実であるが、ビタミンA活性は、紫外線による皮膚障害に予防効果がないこと、またカロテノイドは、抗酸化活性、ビタミンA活性に依らない新たなメカニズムで、紫外線による皮膚障害に対して保護、治癒効果を有することがわかった(図12)。 カロテノイドは、β-カロチンをはじめ多種類存在する。このうち、抗酸化活性を有するアスタキサンチン(AX)を対象物質として、FXの効果と比較検討した(図11)。Flg遺伝子誘導活性並びにORAC法による抗酸化活性評価比較において、FXの効果はAXに勝っていた。 Flg遺伝子の発現制御において、その遺伝子プロモーターは重要な役割を担っている。Flg遺伝子プロモーターには、Cdx結合コンセンサス配列を多数認め(図2)、Cdxファミリー遺伝子がFlg発現のキーファクターとなっていると推定された。これは、RAGEによるFlg遺伝子発現制御からも裏付けられた(図3)。すなわち、老化と光老化は少なくとも一部は同じメカニズムで生じ、バリア機能を有する遺伝子Flgの発現を制御することで、老化が進行すると考えられた。また、Cdx1を強制発現させると、Flg遺伝子プロモーター活性を誘導することがわかった(図10A)。本活性はプロビタミンAとして認識されている2つのカロテノイド(FXとAX)には認められたが、ビタミンAであるRAによっては認められなかったことから(図10B)、カロテノイド特有の新規のメカニズム、すなわちCdx-Flg軸の活性化によって、抗酸化活性非依存的に皮膚バリア能を維持(日常的なカロテノイドの摂取による)、並びに紫外線による皮膚障害に対する保護、治癒効果を有することが強く示唆された(図12)。 従って、図13に示したように、Flg遺伝子プロモーター活性、並びにCdx活性を指標としたスクリーニングシステムは、光老化を含む紫外線による皮膚障害のみならず、アトピー性皮膚炎をはじめ、バリア機能の低下を伴うあらゆる皮膚障害において、皮膚バリア機能を維持・回復することで、病態の発症を予防し、治癒する効果を有する新規薬剤の探索に強力なツールとなり得る。 本発明のCdx-Flg系の活性化を指標としたスクリーニング系は、紫外線による皮膚障害のみならず、アトピー性皮膚炎をはじめとするFlgを原因遺伝子とする皮膚障害における、皮膚バリア機能の維持・回復作用を有す物質の探索に有用。また、FXをはじめとするカロテノイドは、Cdx-Flg系の活性化を介して、皮膚バリア機能を維持・回復することができるので、皮膚バリア機能の異常を伴う各種疾患・状態の予防及び治療薬として有用。 カロテノイドを含有してなる、Cdx-フィラグリン系活性化剤。 カロテノイドが、フコキサンチン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、クリプトキサンチン、ビオラキサンチン、カプサンチン、リコピン、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン及びそれらの誘導体からなる群より選択される1種以上である、請求項1記載の剤。 カロテノイドが、少なくともフコキサンチン又はその誘導体を含有する、請求項1記載の剤。 フィラグリンの発現低下が関与する疾患又は状態の改善剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。 前記状態が上皮組織のバリア機能異常である、請求項4記載の剤。 以下の(1)〜(3)の工程を含む、上皮組織のバリア機能改善薬のスクリーニング方法。(1)Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程(2)前記細胞におけるレポータータンパク質の発現量を測定する工程(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、レポータータンパク質の発現量を増加させた被検物質を、皮膚バリア機能改善薬の候補物質として選択する工程 上皮組織が皮膚である、請求項6記載のスクリーニング方法。 【課題】皮膚バリア機能の新規予防・治療薬、並びにその探索方法の提供。【解決手段】カロテノイドを含有してなる、Cdx-フィラグリン系活性化剤、並びに(1)Cdxが結合するシスエレメントを含むプロモーターの制御下にあるレポータータンパク質をコードする核酸を含む細胞を、被検物質に接触させる工程、(2)前記細胞におけるレポータータンパク質の発現量を測定する工程、及び(3)被検物質の非存在下において測定した場合と比較して、レポータータンパク質の発現量を増加させた被検物質を、皮膚バリア機能改善薬の候補物質として選択する工程からなる、上皮組織のバリア機能改善薬のスクリーニング方法。【選択図】なし配列表