タイトル: | 公開特許公報(A)_ニコチンアミドによる妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び子宮内胎児発育遅延の改善 |
出願番号: | 2013163726 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A61K 31/455,A61P 9/12,A61P 15/06,A61P 15/00,A61P 43/00 |
高橋 信行 JP 2015030721 公開特許公報(A) 20150216 2013163726 20130807 ニコチンアミドによる妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び子宮内胎児発育遅延の改善 国立大学法人東北大学 504157024 大野 聖二 230104019 金本 恵子 230111590 田中 玲子 100105991 松任谷 優子 100119183 北野 健 100114465 伊藤 奈月 100156915 梅田 慎介 100149076 高橋 信行 A61K 31/455 20060101AFI20150120BHJP A61P 9/12 20060101ALI20150120BHJP A61P 15/06 20060101ALI20150120BHJP A61P 15/00 20060101ALI20150120BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150120BHJP JPA61K31/455A61P9/12A61P15/06A61P15/00A61P43/00 111 5 OL 15 特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日:平成25年2月14日 ウェブサイトのアドレス:http://www.mtoyou.jp/skp23/program.pdf ウェブサイトの掲載日:平成25年2月28日 ウェブサイトのアドレス:https://endai.umin.ac.jp/cgi−open−bin/hanyou/lookup/detail.cgi?cond=%27A00018−00046−20538%27&&&parm=a00018−00046 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC19 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA42 4C086ZA81 4C086ZC02 本発明は、ニコチンアミド(ニコチン酸アミド)を利用した妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び子宮内胎児発育遅延の改善に関する。より詳細には、妊娠高血圧症候群、それに伴う流産・早産、及び子宮内胎児発育遅延の病態の本質である血管内皮障害を改善することで、前記病態を根本的に予防・治療する方法に関する。 主として妊娠後期にみられる、高血圧を主体とし、浮腫、蛋白尿を来す病態を妊娠高血圧症候群と呼ぶ。旧来“妊娠中毒症”と称されていた疾患は、日本産科婦人科学会により2005年からこの妊娠高血圧症候群という名称に変更された。妊娠高血圧症候群は、さらに、妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、加重型妊娠高血圧腎症、子癇に病型分類される。 妊娠高血圧腎症は、高血圧に尿蛋白を伴う妊娠高血圧症候群の病型で、妊婦の5〜10%に生じ、脳卒中や心不全による妊婦死亡、胎児死亡、未熟児発生の大きな原因となる。妊娠高血圧症候群の根本的原因は、胎盤の虚血、低酸素状態による血管内皮障害と考えられている。 妊娠高血圧症候群では、血管新生に関与する血中の可溶性因子:可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)の増加、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び胎盤由来VEGF様タンパク質(PlGF)の減少が認められることが報告されている(非特許文献1〜2等)。また、s-Flt-1を過剰発現させたマウスでは、妊娠高血圧腎症特有の高血圧、蛋白尿、糸球体硬化症を生じ(非特許文献3)、胎盤由来の可溶性因子、主としてsFlt-1による内皮障害が妊娠高血圧腎症の発症に寄与するとの報告もある(非特許文献3〜4等)。さらに、sFlt-1を胎盤特異的に発現させた妊娠高血圧症候群モデル動物に関する特許出願もある(特許文献1)。 妊娠高血圧症候群では、まず安静・食事療法による改善を試み、安静・食事療法で改善が望めない場合に降圧薬を投与する。しかし、降圧薬は催奇形性の点から妊婦に禁忌になっているものが多く、投与可能な降圧薬で十分な降圧が望めないことが多い。降圧薬で十分に降圧できない場合、又は、妊婦の降圧による胎盤・胎児血流の減少から胎児仮死となる場合には、帝王切開にて妊娠を早期に終了させ、胎児と胎盤を取り出す。 上記のように、妊娠高血圧症候群の最終的な治療手段は帝王切開による妊娠の中断である。これは、従来の降圧治療が妊娠高血圧症候群の本質である血管内皮障害による血流低下を改善しないためである。周産期医療の進歩により、重症の未熟児を救うことは可能となってきたものの、この子供たちには、成長後の精神発達障害やメタボリック症候群が多いことが最近明らかになってきている。一方で、人工授精の増加により妊娠高血圧腎症は増加傾向にある。 ニコチンアミドはcyclic ADPリボースの合成酵素であるADPリボシルサイクラーゼを強力に阻害し、エンドテリン-1(ET-1)やアンジオテンシンII(Ang II)による血管収縮を抑制することが知られている。ニコチンアミドは催奇形性・発癌性がなく(非特許文献5)、すでにペラグラや経口摂取の十分でない妊婦にも投与されている安全な医薬(ビタミン剤)である。しかしながら、これまでニコチンアミドが血管内皮障害や妊娠高血圧症候群の改善に有効であるという報告はなかった。 発明者らは、sFlt-1を過剰発現させた非妊娠マウスにニコチンアミドを投与することで高血圧、蛋白尿、内皮障害(endotheliosis)が軽減することを見出した(非特許文献6)。しかし、その作用機序や、妊娠マウス及び胎児に対する作用は解明できていなかった。WO2011/108711号R. J. Levine et al., N Engl J Med350, 672 (Feb 12, 2004)R. J. Levine et al., JAMA293, 77 (Jan 5, 2005)S. E. Maynard et al., J Clin Invest 111, 649 (Mar, 2003)S. Venkatesha et al., Nat Med12, 642 (Jun, 2006)M. Knip et al., Diabetologia43, 1337 (Nov, 2000)第33回 日本妊娠高血圧学会大会(2012年9月7日〜8日) 抄録集 69頁 本発明の課題は、妊娠高血圧症候群の本質である血管内皮障害を改善し、妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延等の病態を根本的に改善する手段を提供することにある。 発明者らはsFlt-1を高発現させることで、非妊娠状態でも妊娠高血圧腎症と同様の病態を呈する妊娠高血圧腎症モデルマウスを作製し、ニコチンアミドが血管内皮障害、高血圧、尿蛋白を改善させることを確認した。また、sFlt-1を高発現させた妊娠マウスを用いて、ニコチンアミドが子宮内胎児発育遅延を改善し、流産・早産を予防できることを明らかにした。さらに、妊娠高血圧(腎症)発症前からニコチンアミドを投与することで、妊娠高血圧症候群やこれに伴う病態の発現が予防できることを明らかにした。これらの効果は、いずれもヒトへの投与量に換算して、既に安全性が確認されている量で認められることも確認した。 本発明は上記知見に基づくもので、ニコチンアミドと、薬理学上許容される担体とを含む、妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を予防又は治療するための組成物に関する。 上記組成物において、ニコチンアミドはヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現増強を介して血管内皮障害を改善することにより、妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延に対する予防又は治療効果を奏する。 組成物は、好ましくはニコチンアミドの量として1日3000mgを上限に経口投与され、より好ましくは1日500mgを上限に経口投与され、さらに好ましくは1日25mg〜250mgで経口投与される。 ニコチンアミドは今まで妊婦に投与許可されている降圧薬と異なり、妊娠高血圧腎症の病態の本質である血管内皮障害を改善し、妊婦の血圧を下げると同時に胎児の発育遅延も改善することができる。ニコチンアミドは催奇形性・発癌性がなく(M. Knip et al., Diabetologia43, 1337 (Nov, 2000))、すでにペラグラや経口摂取の十分でない妊婦にも投与されている安全な医薬(ビタミン剤)である。母体の血管内皮障害や血圧、ならびに胎児の発育遅延に対する効果は、既にヒトに対する安全性が確認されている量で認められた。それゆえ、本発明の組成物は、血管内皮障害を改善することで、妊娠高血圧腎症等の妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延・流産・早産の予防・治療に有用である。図1は、ニコチンアミド(Nam)は妊娠高血圧腎症マウスモデル(PEマウス)の(A)血圧上昇及び(B)蛋白尿の増加を予防(Day0にNam投与開始)ならびに改善(Day7、PE発症後にNam投与開始)することを示す。図2は、ニコチンアミド(Nam)は妊娠高血圧腎症マウスモデル(PEマウス)の血管の異常を改善することを示す。(A−E)PEマウス腎組織切片のPAS染色像:腎糸球体の中の白く抜けてみえる毛細血管内腔の面積の糸球体面積に対する割合(open capillary volume)の減少(B)を、Namは予防(C)ならびに改善(D)する。(F−I)電子顕微鏡像:NamはsFlt-1による腎糸球体内皮の隙間(矢印)の減少及び内皮(En)のswelling(G)を予防(H)・改善(I)できる。Ep:糸球体上皮。図3は、ニコチンアミド(Nam)による妊娠期間の延長と子宮内胎児発育遅延の予防・改善を示す。(A)NamはPEマウスの流産・早産を予防し、妊娠期間を延長する。(B, C)また、NamはsFlt-1による子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth restriction, IUGR)を予防・改善する。図4は、ニコチンアミドを投与したICRマウスから摘出した胎盤(A,B)及び、ニコチンアミドで処理したマウス血管内皮細胞株(C,D)における、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の遺伝子発現を示す。1.血管内皮障害の改善 本発明は、ニコチンアミドを有効成分とする妊娠母体等の血管内皮障害の改善を介した妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を予防又は治療に関する。 血管内皮障害 主として妊娠後期にみられる、高血圧を主体とし、浮腫、蛋白尿を伴う病態を妊娠高血圧症候群と呼ぶ。最近、この妊娠高血圧症候群の原因が母体の血管内皮異常にあることが明らかになってきた。さらに、この血管内皮異常には、虚血胎盤から放出される可溶性因子:可溶性fms様チロシンキナーゼ1(soluble fms-like tyrosine kinase 1: sFlt-1)、可溶性エンドグリン(sEng)、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)のアンバランスが寄与していること、なかでもsFlt-1の増加が深く関与していることがわかってきた。 ニコチンアミド ニコチンアミド(nicotinamide)は、ナイアシンアミドもしくはニコチン酸アミドとも呼ばれ、ビタミンB群に含まれる水溶性ビタミンである。ニコチン酸(ナイアシン)は肝臓でニコチンアミドに変換され、ビタミンとしての機能はニコチンアミドとほぼ同じであるが、フラッシング(紅潮)が多い。ニコチンアミドはcyclic ADPリボースの合成酵素であるADPリボシルサイクラーゼを強力に阻害し、ET-1やAng IIによる血管収縮を抑制することが知られている。ニコチンアミドは催奇形性・発癌性がなく、ペラグラや経口摂取の十分でない妊婦のための安全な医薬あるいは食品(ビタミン剤)として利用されている。本邦でも、1961年に10%散剤(ゾンネ)として医療用医薬品の製造承認を受けている。 発明者らは、ニコチンアミドの投与により、sFlt-1の過剰発現によって生じた血管内皮障害が顕著に改善されることを見出した。さらに、この作用は、ニコチンアミドによるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現上昇を介したものであることを確認した。2.妊娠高血圧症候群の改善 本発明は、ニコチンアミドによる血管内皮障害の改善を介して、妊娠高血圧症候群を改善(予防又は治療)するための手段を提供する。 妊娠高血圧症候群とは、高血圧を主体とし、浮腫、蛋白尿を来す病態であり、日本産科婦人科学会よれば「妊娠20週以降,分娩後12週までに高血圧が見られる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいう」と定義されている。 前述のように、妊娠高血圧腎症を含む妊娠高血圧症候群の原因は、血管内皮障害による血管攣縮と過凝固状態にある。そのため、従来の降圧薬では、母体や胎児への安全性が問題となることに加えて、病態の根本的治療ができなかった。 本発明で使用されるニコチンアミドは、妊婦にも処方される安全な医薬品・ビタミン剤であり、母体や胎児に安全な量で、妊娠高血圧症候群の本質である血管内皮障害を改善させることができる。3.子宮内胎児発育遅延及び流産・早産の改善 本発明はまた、ニコチンアミドによる血管内皮障害の改善を介して、流産・早産、及び子宮内胎児発育遅延を改善(予防又は治療)するための手段を提供する。 妊娠高血圧腎症等の妊娠高血圧症候群では、胎盤の酸素交換が上手くいかない結果、血管内皮が障害され、過凝固状態や異常な血管収縮が生じ、胎児の発育が悪くなる。本発明で使用されるニコチンアミドは、妊婦にも処方される安全な医薬品・ビタミン剤であり、母体や胎児に安全な量で、子宮内胎児発育遅延や流産・早産の危険を防止することができる。4.妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を予防又は治療するための組成物 本発明は、ニコチンアミドと薬理学上許容される担体とを含む、妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を改善(予防又は治療)するための組成物(以下、「本発明の組成物」という)を提供する。本発明の組成物は、治療効果のみならず、予防的効果もあり、医療用の医薬組成物、一般用(OTC)の医薬組成物のほか、医薬部外品や食品にも利用できる。 本発明の組成物の投与量、投与回数は、患者の症状、年齢、体重、投与形態、併用される薬剤の投与量、投与回数等に応じて、適宜調整される。限定されるものではないが、例えば医薬品の場合、有効成分であるニコチンアミドの量として、患者あたり3000mg/dayを上限として、好ましくは500mg/dayを上限として、より好ましくは、10〜400mg/day、さらに好ましくは25〜250mg/dayの範囲で、1日1回から数回投与することができる。 本発明の組成物の投与経路は特に限定されず、経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、経鼻、経皮、直腸内、膣内投与のいずれも可能であるが、経口投与が好ましい。 本発明の組成物は、上記投与経路に適した形態に製剤化でき、例えば顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤等の形態に製剤化される。 本発明の組成物は、有効成分であるニコチンアミドのほか、薬理学上許容される担体や添加物を含むことができる。そのような担体や添加物としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。 本発明において、有効成分であるニコチンアミドはそのままの形態で用いられるほか、本発明の目的を損なわない範囲において、その薬理学上許容される塩は、溶媒和物、水和物であってもよく、包摂体、エステル、エーテル、プロドラッグ等に誘導体化されてもよい。 「プロドラッグ」とは、生物学的条件下(in vitro又はin vivo)で加水分解、酸化、又はそれ以外の反応を起こして活性な化合物(とくに、本発明の化合物)を提供することのできる化合物を意味する。プロドラッグは、典型的には、Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery 6th ed.等に記載されているような周知の方法を用いて調製することができる。 以下、実施例により本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 実施例1:1.材料及び方法 妊娠高血圧腎症マウスモデル 4月齢の非妊娠C57BL/6野生型マウス(雌)に、1 x 109 PFUのsFlt-1遺伝子発現アデノウイルスベクターを投与し、sFlt-1過剰発現による妊娠高血圧腎症(preeclampsia, PE)マウスモデル(PEマウス)を作製した(S. E. Maynard et al., J Clin Invest 111, 649 (Mar, 2003))。PEマウスは3群に分け、第1群([sFlt-1+Nam(d0)]、N=6)には、ニコチンアミドの予防効果をみるために、アデノウイルス投与と同日(Day 0)にニコチンアミド500mg/kg/dayの経口投与を開始し、第2群([sFlt-1+Nam(d7)]、N=4)には、ニコチンアミドの治療効果をみるために、アデノウイルス感染後7日目(Day 7)にニコチンアミド500mg/kg/dayの経口投与を開始し、第3群([sFlt-1]、N=5)はニコチンアミド非投与群とした。 血圧測定 血圧測定は、既報の発明者らの報告した方法にしたがい、マウスにあらかじめ無線遠隔測定用の送信器を埋め込むことで測定した(F. Li et al., J Am Soc Nephrol 23, 652 (Apr, 2012))。 蛋白尿・生化学的検査 血圧測定とは別に、15匹のPEモデルマウス(上記と同様に3群、各N=5)を用いて、尿蛋白を測定した。マウスは、アデノウイルス投与19日後に代謝ケージに移し、2日間にわたり24時間毎に、体重、摂取した餌・水の量、尿の量を測定した。尿中アルブミン量はAlbuwell-M kits (Exocell Inc., Philadelphia, PA)を用いて測定し、尿中クレアチニン量はLC-MS/MSを用いて発明者らの開発した方法により測定した(N. Takahashi et al. Kidney Int 71, 266 (Feb 2007))。尿蛋白は尿中アルブミン濃度を尿中クレアチン濃度で補正したアルブミン・クレアチニン比(ACR)で表した。また、アデノウイルス感染後7日目(Day 7)及び21日目(Day 21)において、血中sFlt-1濃度をELISA kit (R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN)を用いて測定し、3群間で相違がないことを確認した。 形態学的検査 イムノグロブリンFc領域発現アデノウイルスを導入したマウスをコントロールとして、ニコチンアミド投与・非投与マウスの腎組織の病理学的変化を検査した。腎組織切片をPAS染色し、腎糸球体の損傷と毛細血管内腔の面積を既報にしたがって測定した(前掲、F. Li et al.)。また、電子顕微鏡にてsFlt-1による腎糸球体内皮の隙間を観察した。 試験の概要を下記に示す。2.結果(1) ニコチンアミド投与群では、ニコチンアミドの投与開始後、非投与群に比較して血圧上昇(図1A)及び尿蛋白増加(図1B)の有意な抑制が認められた。(2) ニコチンアミド投与群では、非投与群に比較してPEマウスの血管の異常 (endotheliosis)の改善(図2A−D)及び、毛細血管内腔の面積の糸球体面積に対する割合の減少の有意な予防・改善(図2E)が認められた。また電子顕微鏡観察の結果、ニコチンアミド投与群では、非投与群に比較して、腎糸球体内皮の隙間の減少及び血管内皮のswellingの予防・改善が認められた。(3) 既報にしたがい、マウスに投与したニコチンアミドの量を、ヒト(1.2 g/m2、60kg individual)に換算すると、以下のように現在臨床で使用されている量の範囲内にある(Shannon Reagan-Shaw et al., The FASEB Journal vol. 22 no. 3 659-661 (March 2008))。 Human dose (mg/kg/d) = mouse dose 500 mg/kg/d x3/37 = 40.5 mg/kg/d = 2.0 g/50kg/d 以上の結果から、ニコチンアミドは妊娠高血圧腎症等の妊娠高血圧症候群に対して、治療効果と予防効果の両方を有することが確認された。実施例2:1.材料及び方法 妊娠中のJcl:ICRマウスに、妊娠12.5日 (Gestational Day GD12.5)からニコチンアミドを500mg/kg/day経口投与し、妊娠14.5日(GD14.5)に6 x 108 PFUのsFlt-1遺伝子発現アデノウイルスベクターを投与した([sFlt-1+Nam]、N=6)。比較として、ニコチンアミドを投与しない以外は、上記と同様に処置した同腹のマウス([sFlt-1]、N=6)、ニコチンアミドを投与した同腹の野生型マウス([Nam]、N=10)、sFlt-1遺伝子発現アデノウイルスベクターに代えて、6 x 108 PFUのイムノグロブリンFc遺伝子発現アデノウイルスベクターを投与した同腹のマウス(control、N=10)を用意し、妊娠18.5日(GD18.5)における胎児の数及び体重を比較した。実験の概要を下記に示す。2.結果(1) ニコチンアミド投与群では、非投与群に比較して顕著な流産・早産の予防、妊娠期間の延長が認められた(図3A)。また、ニコチンアミド投与群では、sFlt-1過剰発現による子宮内胎児発育遅延の予防・改善効果が認められた(図3B、C)。(2) マウスに投与したニコチンアミドの量は、ヒト(1.2 g/m2、60kg individual)に換算すると40.5 mg/kg/dであり、現在臨床で使用されている量の範囲内にある。以上の結果から、ニコチンアミドは母体の血管内皮障害に起因する子宮内胎児発育遅延に対して、予防・治療効果を有することが確認された。実施例3: 妊娠16.5日で流産するマウスや、妊娠17.5日で未熟児出産するマウスもあったが、多くは妊娠18.5日まで妊娠を継続した。ニコチンアミドの投与により流産・早産や未熟児出産が(統計的に有意ではないものの)抑制される傾向が認められた。ニコチンアミドの投与/非投与群における産仔数や新生仔の体重に差異は認められなかった。実施例4:1.材料及び方法(1)ニコチンアミドを投与した及び非投与のICR sFlt-1過剰発現マウスを妊娠18.5日目に安楽死させ、摘出した胎盤からRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRにより、遺伝子発現を解析した。(2)マウス血管内皮細胞株(ATCC, Cat# CRL-2299)を1 mM ニコチンアミドで6時間処理した。細胞からRNAを抽出し、遺伝子発現を解析した。2.結果 ニコチンアミドはヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を胎盤(図4A,B)・血管内皮細胞(図4C,D)で増加させた。このことにより、ニコチンアミドは妊娠高血圧症候群及びそれに伴う流産・子宮内胎児発育遅延を改善していると考えられる。実施例5: 上記実施例に準じて、血管内皮細胞、腎臓糸球体上皮細胞、胎盤栄養膜細胞に対するニコチンアミドの効果についてin vitroで明らかにする。実施例6: 妊娠に合併することの多い、あるいは合併すると悪化する腎疾患(IgA腎症、ループス腎炎、ネフローゼ症候群、腎不全)に対するニコチンアミドの効果を明らかにする。実施例7: 子癇に対するニコチンアミドの効果を明らかにする。 本発明によれば、従来の降圧剤では十分な予防治療効果が期待できなかった母体の血管内皮障害に起因する妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延を、安全かつ効果的に、予防・治療することができる。 ニコチンアミドと、薬理学上許容される担体とを含む、妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を予防又は治療するための組成物。 ニコチンアミドがヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現増強を介して血管内皮障害を改善することにより、妊娠高血圧症候群、流産・早産、及び/又は子宮内胎児発育遅延を予防又は治療する、請求項1記載の組成物。 ニコチンアミドの量として1日3000mgを上限に経口投与される、請求項1又は2記載の組成物。 ニコチンアミドの量として1日500mgを上限に経口投与される、請求項1又は2記載の組成物。 ニコチンアミドの量として1日25mg〜250mg経口投与される、請求項1又は2記載の組成物。 【課題】 妊娠高血圧症候群の本質である母体の血管内皮障害を改善し、妊娠高血圧腎症等の重篤な病態や、子宮内胎児発育遅延の病態を根本的に改善する手段を提供すること。【解決手段】 ニコチンアミド(ニコチン酸アミド)を母体に投与することで、妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延の病態の本質である母体の血管内皮障害を改善し、前記病態を根本的に予防・治療する。【選択図】なし