生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_AKR1C3阻害剤
出願番号:2013149089
年次:2015
IPC分類:A61K 31/222,A61P 35/00,A61P 35/02,A61P 43/00,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

遠藤 智史 松永 俊之 豊岡 尚樹 JP 2015020966 公開特許公報(A) 20150202 2013149089 20130718 AKR1C3阻害剤 岐阜市 591060289 萩野 幹治 100114362 遠藤 智史 松永 俊之 豊岡 尚樹 A61K 31/222 20060101AFI20150106BHJP A61P 35/00 20060101ALI20150106BHJP A61P 35/02 20060101ALI20150106BHJP A61P 43/00 20060101ALI20150106BHJP A23L 1/30 20060101ALI20150106BHJP JPA61K31/222A61P35/00A61P35/02A61P43/00 111A23L1/30 Z 6 OL 22 4B018 4C206 4B018LB01 4B018LB03 4B018LB07 4B018LB08 4B018MD07 4B018MD08 4B018MD09 4B018ME08 4B018MF14 4C206AA01 4C206AA02 4C206DB20 4C206DB58 4C206NA14 4C206ZB26 4C206ZB27 4C206ZC20 本発明はAKR1C3(Aldo-Keto Reductase Family 1 Member C3)阻害剤及びその用途に関する。 最近、欧米・アジア諸国で化学療法済治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する薬剤として、アンドロゲン合成に関与するCYP17の選択的阻害剤アビラテロンが承認され、使用されている。しかし、本薬剤はグルココルチコイド合成も同時に阻害することから、グルココルチコイドの同時処方が必要となる。AKR1C3はアンドロゲン代謝におけるCYP17の下流に位置する。従って、AKR1C3阻害剤によればグルココルチコイドの合成を阻害することなしにアンドロゲン合成を阻害できる。また、AKR1C3はアンドロゲン合成のみならず、細胞増殖性のプロスタノイドやイソプレノイドの合成に関与することから、AKR1C3の阻害はホルモン依存性、非依存性に関わらず前立腺がん治療に有効と考えられる。AKR1C3には高次構造が類似するが、高いアンドロゲン作用を有する5α-ジヒドロアンドロステロンの不活性化に関わるAKR1C1とAKR1C2が存在する。したがって、AKR1C1とAKR1C2を阻害しないAKR1C3阻害剤の開発が望まれるが、未だ選択性と強力な阻害効果を兼ね備えたAKR1C3阻害剤に関する報告はない。Endo S. et al. J. Nat. Prod. 2012, 75, 716-721. AKR1C3に対する高い阻害効果に加えて、その他の構造類縁酵素(AKR1C1、AKR1C2)に対する高い選択性を兼ね備えたAKR1C3阻害剤は存在しない。そこで、本発明の課題は、強力な阻害効果と選択性を兼ね備えたAKR1C3阻害剤を提供することにある。 本発明者らの研究グループは、ブラジル産のプロポリスの成分に注目して研究し、バッカリンに選択的なAKR1C3阻害活性があることを報告した(非特許文献1)。本発明者らは、臨床応用を見据え、バッカリンよりも効果が高く且つ選択性の高いAKR1C3の創出を目指した。具体的には、バッカリンをリード化合物として種々の誘導体を合成し、特性を詳細に調べた。その結果、高い阻害効果と選択性を兼ね備えた新規化合物を見出すことに成功するとともに、阻害効果と選択性に重要な構造に関する知見が得られた。以下の発明は当該成果に基づく。 [1]以下の化学式1で表されるAKR1C3阻害剤: 但し、式中のR1は水酸基、アミノ基又は塩素原子であり、R2は以下の化学式2又は3で表され、 但し、式中のR3、R4、R5、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。 [2]以下の化学式4で表される、[1]に記載のAKR1C3阻害剤: [3][1]又は[2]に記載のAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、抗がん薬。 [4]前立腺がん、乳がん、肝細胞がん、非小細胞肺がん又は白血病の治療又は予防に使用される、[3]に記載の抗がん薬。 [5][3]又は[4]に記載の抗がん薬を含有する食品組成物。 [6]がん患者に対して、[3]又は[4]に記載の抗がん薬を治療上有効量投与するステップを含む、がんの治療又は予防法。新規化合物の合成スキーム1。新規化合物の合成スキーム2。バッカリン誘導体によるAKR1C3阻害効果。新規に合成した各種誘導体について比較評価した。下段はバッカリンの構造。バッカリンと化合物14の阻害選択性。括弧内は阻害活性の選択性(他の酵素(AKR1C1、AKR1C2、AKR1C4、AKR1B1又はAKR1B10)のIC50/AKR1C3のIC50)。バッカリンと化合物14によるA549細胞内アンドロステロン代謝阻害。各種濃度のバッカリンと化合物14の存在下でA549細胞に50μM アンドロステロンを添加し、24時間後に培地中のアンドロステロン及びその代謝物5α-androstane-3α,17β-diolをLC/MSによって検出した。*はバッカリンとの間で有意差(p < 0.05)があることを示す。化合物14によるPC3及びU937細胞増殖抑制効果。AKR1C3発現ベクターを導入した細胞(AKR1C3 ; □)とベクターのみを導入した細胞(ベクター; ■)に化合物14とバッカリンを添加し、72時間後の生細胞数をカウントした。*は、AKR1C3発現ベクターを導入した場合において、化合物(化合物14、バッカリン)の非添加と添加の間で有意差があることを示す。†は、化合物14とバッカリンの間で有意差があることを示す。AKR1C3が関与する代謝経路。AKRスーパーファミリーメンバー(AKR1B10 、AKR1B1、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3、AKR1C4)に対する各化合物の阻害活性。IC50で比較した。括弧内は所定の濃度での阻害%。ndは「検出できず」を表す。図8の続き。 本発明の第1の局面はAKR1C3阻害剤に関する。AKR1C3は別名17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素5型とも呼ばれ、アンドロゲン合成及びプロスタグランジン(PG)代謝に重要な役割を果たす(図7を参照)。AKR1C3は白血病細胞、ホルモン依存性がんである前立腺がんと乳がんなどで著しく高発現し(Kurkela, R. Li, Y. Patrikainen, L. Pulkka, A. Soronen, P. Torn, S. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2005, 93, 277-283.; Byrns, M. C. Penning, T. M. Chem.-Biol. Interact. 2009, 178, 221-227.; Penning, T. M. Curr. Opin. Endocrinol. Diabetes Obes. 2010, 17, 233-239.)、また本酵素の発現上昇は肝細胞がんや非小細胞肺がんを含む様々ながんにおいても認められてきた(Guise, C. P. Abbattista, M. R. Singleton, R. S. Holford, S. D. Connolly, J. Dachs, G. U. Fox, S. B. Pollock, R. Harvey, J. Guilford,P. Donate, F. Wilson, W. R. Patterson, A. V. Cancer Res. 2010, 70,1573-1584.)。AKR1C3遺伝子をノックダウンすると前立腺がん細胞の増殖は阻害され、逆に本酵素の人為的過剰発現は前立腺がん細胞および乳がん細胞の増殖を促進する(Downs, T. M. Burton, D. W. Araiza, F. L. Hastings, R. H. Deftos, L. J. Cancer Lett. 2011, 306, 52-59.; Byrns, M. C. Duan, L. Lee, S. H. Blair, I. A. Penning, T. M. J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 2010, 118, 177-187.; Dozmorov, M. G. Azzarello, J. T. Wren, J. D. Fung, K. M. Yang, Q. Davis, J. S. Hurst, R. E. Culkin, D. J. Penning, T. M.; Lin, H. K. BMC Cancer 2010, 10, 672.)。 「AKR1C3阻害剤」とは、AKR1C3の活性を阻害ないし抑制する剤である。本発明のAKR1C3阻害剤は、AKR1C3の阻害を介して、アンドロゲンや細胞増殖性のプロスタノイドやイソプレノイドの合成を抑制するため、がん増殖の抑制に用いることができる。 ここで、AKR1C3に高次構造が類似するAKR1C1とAKR1C2が存在する。AKR1C1とAKR1C2は高いアンドロゲン作用を有する5α-ジヒドロアンドロステロンの不活性化に関わる。本発明のAKR1C3阻害剤は、AKR1C3に対する特異性が高い。本明細書において「AKR1C3に対する特異性が高い」とは、AKR1C1、AKR1C2及びAKR1C3の中で、選択的にAKR1C3を阻害することを意味する。 本発明のAKR1C3阻害剤は以下の化学式1で表される。尚、本発明のAKR1C3阻害剤はバッカリンをリード化合物として創出されたものであり、バッカリンに構造が類似する。 但し、構造解析の結果より、R1の位置において水素結合又は水素結合類似の結合を形成できることが好ましいことから、式中のR1は水酸基、アミノ基又は塩素原子である。一方、R2は以下の化学式2又は3で表される。 但し、式中のR3、R4、R5、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。「置換基を有していても良い炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えばC1〜C6の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基などが挙げられる。本発明において「C1〜C6アルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖、分枝鎖または環状アルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基を挙げることができる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基またはtert−ブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である。尚、アルキル基の炭素数が多すぎると、立体障害による活性の低下のおそれがある。 本願が提供する化合物の具体例を以下に示す。 上記化合物(化4)の選択性は極めて高く、AKR1C1とAKR1C2と比べてAKR1C3に約3000倍の選択性(IC50で比較)を示す(後述の実施例に示した実験ではIC50 = 28 nM)。 上記の通り、様々ながんにおいてAKR1C3の発現上昇が認められる。また、がん細胞の増殖・成長へのAKR1C3の関与が報告されている。これらの事実に鑑みれば、AKR1C3阻害剤は、がんの治療や予防に有効である。換言すれば、抗がん薬の有効成分としてAKR1C3阻害剤が有用である。そこで本発明の第2の局面は、本発明のAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する抗がん薬を提供する。 本発明において用語「がん」は広義に解釈され、用語「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。一般に、がんはその発生の母体となった臓器の名、もしくは発生母組織の名で呼ばれ、主なものを列記すると、舌癌、歯肉癌、咽頭癌、上顎癌、喉頭癌、唾液腺癌、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、甲状腺癌、副腎癌、脳下垂体腫瘍、松果体腫瘍、子宮癌、卵巣癌、膣癌、膀胱癌、腎臓癌、前立腺癌、尿道癌、網膜芽細胞腫、結膜癌、神経芽腫、神経膠腫、神経膠芽細胞腫、皮膚癌、髄芽種、白血病、悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などである。そして、さらに発生臓器の部位の特徴によって、上・中・下咽頭癌、上部・中部・下部食道癌、胃噴門癌、胃幽門癌、子宮頚癌、子宮体癌などと細分類されているが、これらが限定的ではなく本発明の「がん」としての記載に含まれる。 AKR1C3はアンドロゲン代謝におけるCYP17の下流に位置する。従って、AKR1C3阻害剤によればグルココルチコイドの合成を阻害することなしにアンドロゲン合成を阻害できる。また、AKR1C3はアンドロゲン合成のみならず、細胞増殖性のプロスタノイドやイソプレノイドの合成に関与することからAKR1C3の阻害はホルモン依存性、非依存性に関わらず前立腺がん治療に有効と考えられる。この観点から、本発明の抗がん薬の典型的な標的の一つは、前立腺がんである。 「抗がん薬」とは、標的の疾病ないし病態である、がんに対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、がんに特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、がんに特徴的な症状の再発発現(発症)を阻止ないし遅延することである。尚、がんに対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、抗がん薬に該当する。 本明細書における「薬理学的に許容される塩」の例として塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等との塩(無機酸塩)や、ギ酸、酢酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸等との塩(有機酸塩)を挙げることができる。これらの塩の調製は慣用手段によって行なうことができる。尚、以上の例示は、「薬理学的に許容される塩」が限定解釈されるために用いられるべきではない。即ち、「薬理学的に許容される塩」は、広義に解釈されるべきであり、各種の塩を含む用語である。 本発明の抗がん薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水など)を含有させることができる。製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤及び座剤である。本発明の抗がん薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の抗がん薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.01重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。 本発明の抗がん薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用して標的組織特異的に有効成分が送達されるように投与してもよい。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では、適用対象はヒトである。 本発明の抗がん薬の使用形態の一つとして、本発明の抗がん薬を含有する食品組成物が提供される。本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類(例えばクッキー、ビスケット、ゼリー、飴)、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の抗がん薬を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。本発明の食品組成物には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。 本発明の更なる局面は、本発明の抗がん薬を使用した、がんに対する治療方法又は予防方法(以下、これら二つの方法をまとめて「治療方法等」という)が提供される。本発明の治療方法等は、上記本発明の抗がん薬を、がんを罹患する又はがんの兆候を認める患者に投与するステップを含む。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経鼻、経粘膜などを挙げることができる。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。抗がん薬の投与量は一般に、患者の症状、年齢、性別、及び体重などによって変動し得るが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。 バッカリンよりも効果が高く且つ選択性の高いAKR1C3阻害剤の創出を目指し検討した。具体的には、分子ドッキング技術とアミノ酸部位特異的変異法から得られる構造情報をもとに種々のバッカリン誘導体を合成し、各誘導体の特性を比較評価した。1.方法(1)バッカリン誘導体の合成 図1及び図2に示すスキームに従って、様々な化合物を合成した。以下、スキーム2に関して詳細に説明する。 3,4-Dihydroxybenzaldehyde(8, 1 mmol)のDMSO(8 mL)溶液にNaH(2.2 mmol)を0℃にて加え30分間攪拌した。反応液にBenzyl chloride(1 mmol)を加え室温にて12時間攪拌した。反応を10% HClにて停止した反応混合物をEtOAc(5 mL x 3)で抽出した有機層をNa2SO4で乾燥し溶媒を留去した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(15 g, ヘキサン:アセトン=10:1〜50:1)にて精製し以下の化合物を得た。4-hydroxy-3-{3-(methoxymethoxy)benzyloxy}benzaldehyde. (9a) Yiled: 92%; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.49 (3H, s), 5.16 (2H, s), 5.21 (2H, s), 6.22 (1H, br), 7.06 (2H, d, J = 8.3 Hz), 7.11 (1H, s), 7.34 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.44 (1H, t, J = 6.8, 1.3 Hz), 7.49 (1H, d, J = 1.7 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 56.0, 71.0, 94.3, 110.3, 114.7, 115.8, 116.4, 121.4, 127.6, 129.8, 129.9, 137.0, 146.3, 151.8, 157.5, 190.8; IR (neat): 1684, 1508, 1288, 1151 cm-1; MS (EI): m/z 288 (M+); HRMS: Calcd for C16H16O5 288.0998, Found: 288.0999.4-hydroxy-3-{(3-methoxybenzyl)oxy}benzaldehyde. (9b) Yield: 92%; mp: 92-93 oC; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ 3.83 (3H, s), 5.15 (2H, s), 6.22 (1H, br), 6.92 (H, dd, J = 5.7, 2.6 Hz), 6.93 (1H, s), 7.01 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.06 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.34 (1H, t, J = 8.0 Hz), 7.45 (1H, dd, J = 6.3, 1.7 Hz), 7.50 (1H, d, J = 1.7 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 55.2, 71.0, 110.3, 113.5, 113.9, 114.7, 120.1, 127.5, 129.7, 129.8, 136.9, 146.3, 151.9, 159.8, 190.8; IR (KBr): 3368, 1686, 1597, 1292, 1271 cm-1; MS (EI): m/z 258 (M+); HRMS: Calcd for C15H14O4 258.0892, Found: 258.0892. 4-Hydroxy-3-benzylbenzaldehyde(9, 1 mmol)のCH2Cl2(4 mL)溶液に3.4-Dihydro-2H-pyran(10 mmol)とPPTS(0.2 mmol)を加え12時間加熱還流した。冷後反応を飽和NaHCO3水溶液で停止した混合物をCH2Cl2(5 mL x 3)で抽出した有機層をNa2SO4で乾燥し溶媒を留去した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(15 g, ヘキサン:アセトン=40:1〜20:1)にて精製し以下の化合物を得た。3-((3-(methoxymethoxy)benzyl)oxy)-4-((tetrahydro-2H-pyran-2-yl)oxy)benzaldehyde. (10a) Yield: 61%; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.60-2.06 (6H, m), 3.64 (1H, d, J = 11.0 Hz), 3.90 (1H, t, J = 8.1 Hz), 5.16 (2H, s), 5.19 (2H, s), 5.60 (1H, t, J = 5.6 Hz), 6.99 (1H, dd, J = 4.9, 2.7 Hz), 7.10 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.18 (1H, s), 7.27-7.32 (2H, m), 7.45 (1H, dd, J = 6.3, 2.0 Hz), 7.49 (1H, d, J = 7.8 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 18.1, 24.8, 29.8, 54.8, 61.6, 70.4, 96.5, 97.1, 112.1, 112.5, 113.2, 115.8, 118.9, 126.2, 129.5, 130.5, 138.7, 149.1, 152.2, 159.5, 190.6; IR (neat): 1689, 1514, 1267, 1153 cm-1; MS (EI): m/z 288 (M+-84); HRMS: Calcd for C16H16O5 288.0998, Found: 288.1000.3-((3-methoxybenzyl)oxy)-4-((tetrahydro-2H-pyran-2-yl)oxy)benzaldehyde. (10b) Yield: 63%; mp:73-77 oC; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ 1.55-2.17 (6H, m), 3.64 (1H, d, J = 7.1 Hz), 3.82 (3H, s), 3.90 (1H, t, J = 8.0 Hz), 5.17 (2H, s), 5.61 (1H, t, J = 6.1 Hz), 6.86 (1H, dd, J = 5.7, 2.6 Hz), 7.03 (1H, d, J = 6.3 Hz), 7.05 (1H, s), 7.27 (1H, m), 7.30 (1H, t, J = 7.5 Hz), 7.45 (1H, dd, J = 6.3, 2.0 Hz), 7.50 (1H, d, J = 2.0 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 18.1, 24.8, 29.8, 54.8, 61.6, 70.2, 96.5, 112.1, 112.5, 113.2, 115.8, 118.9, 126.2, 129.3, 130.5, 138.1, 149.1, 152.2, 159.5, 190.6; IR (KBr): 1684, 1508, 1273, 1123 cm-1; MS (EI): m/z 258 (M+-84); HRMS: Calcd for C15H14O4 258.0892, Found: 258.0892. Horner-Wadsworth-Emmons (HWE)反応の一般的方法(スキーム1と同様)で以下の化合物を得た。(E)-ethyl3-(3-((3-(methoxymethoxy)benzyl)oxy)-4-((tetrahydro-2H-pyran-2-yl)oxy)phenyl)acrylate. (11a) Yield: 82%; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.33 (3H, t, J = 7.1 Hz), 1.63-1.96 (6H, m), 3.47 (3H, s), 3.61 (1H, d, J = 11.1 Hz), 3.95 (1H, t, J = 7.8 Hz), 4.24 (2H, quint, J = 7.1 Hz), 5.11 (2H, s), 5.18 (2H, s), 5.51 (1H, t, J = 5.9 Hz), 6.27 (1H, d, J = 15.9 Hz), 6.98 (1H, dd, J = 5.6, 2.7 Hz), 7.08-7.16 (5H, m), 7.30 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.58 (1H, d, J = 15.9 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 14.8, 18.3, 25.0, 30.0, 55.8, 60.2, 61.8, 70.9, 94.2, 96.9, 114.0, 114.8, 115.6, 116.2, 117.3, 122.7, 128.5, 129.4, 138.6, 144.2, 149.0, 149.1, 157.3, 167.0; IR (neat): 1684, 1508, 1121 cm-1; MS (EI): m/z 358 (M+-84); HRMS: Calcd for C20H20O6 358.1416, Found: 358.1419.(E)-ethyl-3-(3-((3-methoxybenzyl)oxy)-4-((tetrahydro-2H-pyran-2-yl)oxy)phenyl)acrylate. (11b) Yield: 96%; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ 1.33 (3H, t, J = 7.2 Hz)1.56-2.17 (6H, m), 3.59-3.63 (1H, m), 3.82 (3H, s), 3.94 (1H, t, J = 8.0 Hz), 4.24 (2H, quin, J = 7.2 Hz), 5.12 (2H, s), 5.51 (1H, m), 6.28 (1H, d, J = 15.9 Hz), 6.85 (1H, dd, J = 6.3, 2.3 Hz), 7.02 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.05 (1H, s), 7.10-7.16 (3H, m), 7.29 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.59 (1H, d, J = 15.9 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 14.2, 18.3, 25.0, 30.0, 54.9, 60.1, 61.7, 70.8, 96.8, 112.2, 113.2, 113.8, 116.2, 117.7, 119.0, 122.6, 128.5, 129.3, 138.5, 144.2, 148.9, 149.1, 159.6, 166.9; IR (neat): 1707, 1508, 1258, 1165 cm-1; MS (EI): m/z 328(M+-84); HRMS: Calcd for C19H20O5 328.1311, Found: 328.1309. エステル(11, 1 mmol)のMeOH:H2O (3:1)溶液にLiOH-H2O(2 mmol)を加え2時間加熱還流した。冷後反応を10% HClで停止し酸性とした後EtOAc(5 mL x 3)で抽出した有機層を Na2SO4で乾燥し溶媒を留去した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(15 g, CH2Cl2:MeOH=80:1〜70:1)にて精製し以下の化合物を得た。(E)-3-(4-hydroxy-3-((3-(methoxymethoxy)benzyl)oxy)phenyl)acrylic acid. (12a) Yield: 99 %; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.51 (3H, s), 5.12 (2H, s), 5.20 (2H, s), 6.26 (1H, d, J = 15.9 Hz), 6.95 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.05-7.14 (5H, m), 7.34 (1H, t, J = 8.1 Hz), 7.67 (1H, d, J = 15.9 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 56.0, 71.0, 94.3, 111.3, 114.7, 115.1, 115.6, 116.4, 121.2, 123.7, 126.6, 129.9, 137.3, 146.0, 146.9, 148.6, 157.5, 172.3; IR (neat): 2361, 1684, 1508, 1271 cm-1; MS (EI): m/z 330 (M+); HRMS: Calcd for C18H18O6 330.1103, Found: 330.1106.(E)-3-(4-hydroxy-3-((3-methoxybenzyl)oxy)phenyl)acrylic acid. (12b) Yield: 89%; mp: 167-169 oC; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ 3.83 (3H, s), 5.13 (2H, s), 6.26 (1H, d, J = 15.9 Hz), 6.91-6.97 (3H, m); 7.01 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.12 (2H, m), 7.34 (1H, t, J = 7.7 Hz), 7.67 (1H, d, J = 15.9 Hz); 13C-NMR (125 MHz, DMSO-d6): δ 55.6, 70.2, 113.5, 113.7, 113.8, 116.2, 116.4, 120.4, 123.7, 126.3, 130.0, 139.3, 145.0, 147.3, 150.0, 159.9, 168.6; IR (KBr): 2939, 1684, 1514, 1271 cm-1; MS (EI): m/z 300 (M+); HRMS: Calcd for C17H16O5 300.0998 , Found: 300.1000 . 化合物 (6a-z)と同様に以下の化合物の合成を行った。(E)-3-(3-((3-methoxybenzyl)oxy)-4-((3-phenylpropanoyl)oxy)phenyl)acrylic acid. (13b) Yield: 54%; mp: 97-99 oC; 1H-NMR (500 MHz, CDCl3): δ 2.79 (2H, t, J = 7.4 Hz), 3.02 (2H, t, J = 7.4 Hz), 3.80 (3H, s), 5.08 (2H, s), 6.34 (1H, d, J = 15.9 Hz), 6.86 (1H, dd, J = 5.3, 2.3 Hz), 6.95 (1H, s), 6.96 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.03 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.14-7.18 (2H, m), 7.20-7.24 (3H, m), 7.28-7.31 (3H, m), 7.68 (1H, d, J = 15.9 Hz), 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 30.9, 35.6, 55.2, 70.6, 112.8, 113.0, 113.6, 117.3, 119.3, 121.8, 123.3, 126.4, 128.3, 128.5, 129.7, 132.9, 137.7, 140.2, 142.2, 146.2, 150.5, 159.9, 170.7, 171.4; IR (KBr): 2934, 1763, 1690, 1265, 1122 cm-1; MS (EI): m/z 432 (M+); HRMS: Calcd for C26H24O6 423.1573 , Found: 432.1572.(E)-3-(3-((3-hydroxybenzyl)oxy)-4-((3-phenylpropanoyl)oxy)phenyl)acrylic acid. (14) Yield: 52%; mp: 150-152 oC; 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ 2.89 (2H, t, J = 7.6 Hz), 3.03 (2H, t, J = 7.6 Hz), 5.05 (2H, s), 6.31 (1H, d, J = 15.7 Hz), 6.78 (1H, dd, J = 6.1, 1.9 Hz), 6.83 (1H, s), 6.91 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.01 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.09 (1H, s), 7.12 (1H, d, J = 8.1 Hz), 7.19-7.31 (6H, m), 7.66 (1H, d, J = 15.9 Hz); 13C-NMR (125 MHz, CDCl3): δ 31.0, 35.7, 70.4, 113.1, 114.1, 115.3, 115.7, 119.2, 121.9, 123.3, 126.5, 128.4, 128.6, 133.0, 140.2, 142.2, 146.2, 150.5, 156.2, 171.3, 171.4; IR (KBr): 3030, 1686, 1508, 1263, 1121 cm-1; MS (EI): m/z 418 (M+); HRMS: Calcd for C25H22O6 418.1416, Found: 418.1413.(参考文献) 1. Rene, F.; Candice, M.; Angelique, S.; Caroline, M.; Karin K.; Heike, S.; Alan C.; Gary, W.; Denis, B. Org. Biomol. Chem. 2010,8, 5199-5211.. 2. Yun, S. L.; Hye, Y. K.; Young, S. K.; Jae, H. S.; Eun, J. R.; Hogyu, H. K.; Jung, S. Bioorg. Med. Chem. 2012, 15, 4921-4935. 3. Reddy, S. V.; Rao, R. J.; Kumar, U. S.; Rao, J. M. Chem. Lett. 2003, 32, 1038-1039. 4. Veldhoven, J. P. D.; Blad, C. C.; Artsen, M.; Klopman, C.; Wolfram, D. R.; Abdelkadir, M. J.; Lane, J. R.; Brussee, J.; IJzerman A. P. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2011, 1, 2736-2739.(2)AKR1C3タンパクの調製 AKR1C3 cDNAを組み込んだpkk223-3ベクターのプラスミドによって形質転換された大腸菌JM109を50 μg/mLアンピシリンを含むLB培養液中に懸濁して37℃で一晩培養した。その大腸菌を1 LのLB培養液に植菌し、600 nmにおける濁度が0.4〜0.6になるまで37℃で培養した後、isopropyl-β-D-galactopyranoside (IPTG)を終濃度が1 mMになるように添加し、37℃にてさらに8時間培養した。リコンビナント酵素の発現を誘導した大腸菌は、遠心分離(5,000 x g、15分間、4℃)により集菌し、0.5 mM EDTAと5 mM 2-メルカプトエタノール(2-ME)を含む10 mM Tris-HCl(pH 8.0)に懸濁した。この懸濁液を氷冷下超音波処理(150 W、5分間)した後、遠心分離(12,000 x g、15分間、4℃)し、その上清を大腸菌粗抽出液とした。粗抽出液を0.15 M NaCl、20 % グリセロールを添加したbuffer A(10 mM Tris-HCl、0.5 mM EDTA、5 mM 2-ME; pH 8.0)で平衡化したSephadex G-100カラムを用いてゲル濾過を行った。溶出した酵素画分をYM-10限外濾過膜を用いて濃縮後、buffer Aに対して透析し、buffer Aで平衡化したQ-Sepharose カラムに添加した。未吸着タンパク質をbuffer Aで洗浄後、吸着した酵素を0〜0.2 M NaClまでグラジエントにより溶出した。酵素活性画分をYM-10限外濾過膜を用いて濃縮後、buffer Aで平衡化したRed A-Sepharoseカラムに添加した。Buffer Aでカラムを洗浄後、酵素画分を0.5 mM NADP+を含むbuffer Aにより溶出した。AKR1C3精製標品はsodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE) 分析後のクマジーブリリアントブルー(CBB)R250染色において、単一のバンドを示した。(3)AKR1C1、AKR1C2、AKR1C4タンパクの調製 AKR1C1、AKR1C4はMatsuuraらの方法(Matsuura et al., Biochem. J., 336, 429-436. (1998))、AKR1C2はShiraishiらの方法(Shiraishi et al., Biochem. J., 334, 399-405)に従って均一に精製した。(4)バッカリン誘導体によるAKR1C3阻害 AKR1Cアイソフォーム (AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3)の脱水素酵素活性は、以下の反応系におけるNADPHの生成速度を蛍光分光学的 (Ex. 340 nm、Em. 455 nm)に測定した。標準反応系は、0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 7.4)、0.25 mM NADP+、S-(+)-1,2,3,4-tetrahydro-1-naphthol(S-tetralol)および酵素を含む全量2.0 mLとした。酵素活性1 unit(U)は、25℃において1分間に1μmolのNADPHを生成する酵素量とした。阻害剤のIC50値は、0.1 M リン酸カリウム緩衝液(pH 7.4)、0.25 mM NADP+、S-tetralol (AKR1C1の場合は0.1 mM、他のAKR1Cアイソフォームでは1 mM)および酵素を含む全量2.0 mLの反応系にて、5点の異なる濃度の阻害剤をに添加した時の阻害率から算出した。これらの阻害定数は少なくとも3回以上の測定の平均値±標準偏差で表した。(5)バッカリン誘導体によるA549細胞内アンドロステロン代謝阻害 ヒト肺癌A549細胞は、37℃、5% CO2条件下で培養し、2日毎に培地を交換して4〜6日毎に継代維持した。培地として10% FBS、100 U/mLぺニシリンGカリウムおよび100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを含むDMEM(pH 7.4)を用いた。細胞の剥離には0.25%トリプシンおよび0.02% ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA)を含むDPBS(pH 7.4)を用い、トリプシン処理の停止は同量の培地を添加した。 A549細胞を2 x 104 cells/mLずつ播種し、90%コンフルエントに達したところで、FBS不含培地に交換して2時間培養した。様々な濃度の阻害剤を培地に添加して2時間培養後、50μMアンドロステロンを加え、それぞれ24 時間培養した。その培地を遠心分離(1,500 x g、 10分間)により回収した。培地に等量の蒸留水を混合し、このまま2容量の酢酸エチルを添加し、ステロイドおよびその代謝物を抽出した。有機溶媒層を蒸発乾固させ、得られた残渣をイソプロピルアルコール(IPA)に溶解させた。ステロイドおよびその代謝物の定量は、溶媒(n-hexane : IPA = 90 : 10)とDaicel Chiralcel OJ-H 5 μm (4.6 x 250 mm)カラムを用いたLC/MSにより定量した。アンドロステロン(m/z = 274.5)とその代謝物5α-androstane-3α,17β-diol (m/z = 276.5)の分子イオンピークは小さく、それぞれからH2Oが脱離したイオンピーク(それぞれm/z = 265.5とm/z = 258.5)が高いので、このピーク面積により定量した。なお、両ステロイドの保持時間はそれぞれ24分と27分であった。両ステロイドの代謝における代謝率とバッカリン及び化合物14による阻害率は2回の実験の平均値として表した。(6)バッカリン誘導体による癌細胞増殖抑制効果 ヒト白血病U937細胞とヒト前立腺癌PC3細胞を48穴プレートに3 x 104 cells/mLで播種し、24時間後に抗生物質を不含培地に交換した。接着細胞PC3細胞においては、2時間培養後、AKR1C3のcDNAを含有するpGW1ベクターをLipofectamine 2000を用いて導入した。導入効果はAKR1C3抗体を用いたウエスタンブロット分析により確認した。ベクター導入後に抗生物質を含む培地に交換し、バッカリンを培地に添加し、その0、24、48および72時間後に5 mM WST-1および0.2 mM 1-methoxy PMSを含む20 mM HEPES-NaOH緩衝液(pH 7.4) 10 μL を添加した。37℃、3時間培養した後、マイクロプレートリーダーModel 680 (Bio Rad)を用いて測定した吸光度から生細胞数を算出した。浮遊細胞U937細胞においては、AKR1C3過剰発現細胞あるいはコントロール細胞を48穴プレートに3 x 104 cells/mLずつ播種し、阻害剤を添加し、トリパンブルー色素排除試験法を用いて可視化した生細胞数を測定した。その結果は少なくとも3回以上の測定の平均値±標準偏差で表した。統計解析は、対応のないStudent t-testおよびANOVA、Fisher’s testにより行った。p < 0.05で有意差ありと判定した。2.結果 AKR1C3の選択的阻害剤として見出してきたバッカリンをリード化合物として種々の誘導体を合成し、その阻害効果を評価した(図3)。多様な化合物の合成を可能にするため、バッカリン(図3の下段)のイソプレニル部分(R2)はエーテルに変更した。これら18化合物はすべて新規化合物である。その結果、化合物では阻害効果は若干低下したが、エーテルを有する誘導体の中からバッカリンと同程度の阻害効果を示す化合物6m、6nを見出した。さらに、化合物6mのAKR1C3へのドッキングモデルを作成し、そのモデルから得られた結合様式に基づき、バッカリンよりも強力な阻害効果を示す化合物14( (E)-3-(3-((3-hydroxybenzyl)oxy)-4-((3-phenylpropanoyl)oxy)phenyl)acrylic acid)を得た。化合物14は他のAKRアイソフォームに対して約3000倍の高い選択性を示した(図4)。また、化合物14はAKR1C3を高発現している肺がんA549細胞におけるステロイド代謝を有意に阻害し、その効果はバッカリンよりも強かった(図5)。さらに、化合物14はAKR1C3過剰発現細胞において、バッカリンと比較し72時間後の生細胞数を有意に減少させたことより、化合物14のバッカリンよりも強い細胞増殖抑制効果が示された(図6)。これまでにバッカリンがAKR1C3阻害活性を介してがん細胞増殖および浸潤に関与することを明らかにしている。化合物14は現時点で最も高い選択性を示すAKR1C3阻害剤であり、高い細胞増殖抑制効果を示すため、CRPCを含めたAKR1C3を高発現しているがんの治療薬の有効成分として有用といえる。 尚、新規に合成した各化合物について、AKRスーパーファミリーメンバー(AKR1B10、AKR1B1、AKR1C1、AKR1C2、AKR1C3、AKR1C4)に対する阻害活性を図8及び9に比較して示した。 世界保健機構の報告によると、全世界で新たながん患者は毎年1400万人以上増え、年間760万人が死亡している。中でもホルモン依存性がんである前立腺がんの日本における罹患率は欧米の10%程度と低いが、食の欧米化などに伴い増加している。これらホルモン依存性がんの治療にはホルモン療法が有効であるが、先天的に若しくは治療の過程でホルモン感受性が消失した去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)についてはホルモン療法は全く効果がなく、新規抗がん剤の開発が必要である。近年、治療奏効率の優れた抗がん剤が上市されているが、その大半は抗体医薬である。抗体医薬はがんの原因タンパクに直接作用するために高い効果が得られる反面、大量生産が困難などの原因によるその高い薬価が問題となり、金銭上の理由から治療を選択できない患者も多く存在する。そのため、大量生産が容易であり、比較的安価である低分子医薬の開発が望まれる。 本発明のAKR1C3阻害剤はAKR1C3を強力かつ特異的に阻害できるものであり、上記の現状を打開する新規がん治療を可能にする。本発明のAkR1C3阻害剤は化学合成も容易であり、大量生産にも適する。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。 以下の化学式1で表されるAKR1C3阻害剤: 但し、式中のR1は水酸基、アミノ基又は塩素原子であり、R2は以下の化学式2又は3で表され、 但し、式中のR3、R4、R5、R6、R7は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。 以下の化学式4で表される、請求項1に記載のAKR1C3阻害剤: 請求項1又は2に記載のAKR1C3阻害剤又はその薬理学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、抗がん薬。 前立腺がん、乳がん、肝細胞がん、非小細胞肺がん又は白血病の治療又は予防に使用される、請求項3に記載の抗がん薬。 請求項3又は4に記載の抗がん薬を含有する食品組成物。 がん患者に対して、請求項3又は4に記載の抗がん薬を治療上有効量投与するステップを含む、がんの治療又は予防法。 【課題】強力な阻害効果と選択性を兼ね備えたAKR1C3阻害剤を提供することを課題とする。【解決手段】バッカリン誘導体であるAKR1C3特異的阻害剤が提供される。【選択図】なし


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