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タイトル:公開特許公報(A)_被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法
出願番号:2013139116
年次:2015
IPC分類:G01N 27/416,G01N 31/00


特許情報キャッシュ

蓮野 隆太 JP 2015011017 公開特許公報(A) 20150119 2013139116 20130702 被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法 住友金属鉱山株式会社 000183303 阿仁屋 節雄 100091362 油井 透 100090136 清野 仁 100105256 蓮野 隆太 G01N 27/416 20060101AFI20141216BHJP G01N 31/00 20060101ALI20141216BHJP JPG01N27/46 351KG01N31/00 QG01N31/00 Y 6 1 OL 11 2G042 2G042AA01 2G042BB18 2G042BC00 2G042CB03 2G042DA06 2G042EA13 2G042FA06 2G042FB02 本発明は被測定溶液中に含まれるふっ化物イオンの定量方法に係り、特に、ふっ化物イオン電極への妨害を行う金属元素と、硫黄とを含む被測定溶液中のふっ化物イオン濃度を測定する方法に関する。 JIS K 0102の「工場排水試験方法」(非特許文献1)には、排水中のふっ化物イオンの定量方法として、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法、イオン電極法、イオンクロマトグラフ法が記載されている。 これらのふっ化物イオンの定量方法は、被測定溶液が清浄なものであれば、当該被測定溶液を蒸留せずに測定できる場合もあると記載されている。しかしながら、被測定溶液が排水サンプル等の場合は、妨害元素を含む場合が多く、ほとんどの場合、蒸留が行われる。そして、この蒸留操作によってふっ化物イオンを単離した後に、定量分析操作が行われる。 しかし、被測定溶液によっては、蒸留が著しく困難な場合がある。 例えば、被測定溶液が、高濃度で硫黄を含む場合、これらを蒸留しようとすると、前処理の酸添加で有毒な硫化水素ガスが発生したり、硫黄を含む留出成分が蒸留装置を汚染したりする。この為、これらの被測定溶液は、安全上の理由や装置汚染の問題から蒸留が困難である。 以上の状況にも拘わらず、例えば、鉄鋼スラグには原料由来のふっ素が含まれる場合や、投入する副原料の一部に融点や粘性の調整を目的としてホタル石(CaF2)を使用することが一般に行われているため、その溶出液にもふっ化物イオンが含まれている場合があり、正確にふっ化物イオンの濃度を把握したい需要がある(特許文献1)。 また、安価、安全、迅速な分析という観点から考えても、蒸留装置は高価である。そして、当該蒸留操作においては、有毒ガスが蒸留装置の外に漏れるリスク、そして蒸留操作に熟練を要する上に時間がかかる等の問題点がある。 そこで妨害元素が含まれている場合でも、それらの影響を受けないよう処理をすることで、蒸留操作を省略できる分析方法が望まれる。 主な妨害元素である金属元素への処理としては多くの報告例があり、例えばランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法では、「アセチルアセトンをデマスキング剤とする水中フッ素の直接定量」(非特許文献2)が知られている。 イオン電極法においては、金属元素による妨害対策として多くの報告例があり、例えば「イオン電極法による廃水中のフッ化物イオンの簡易定量」(非特許文献3)をはじめとして様々なマスキング剤が検討されている。特開2003−183718号公報「工場排水試験方法」,JISK0102,2010,p.104橋谷 博、吉田 秀世、安達 武雄、「アセチルアセトンをデマスキング剤とする水中フッ素の直接定量」、分析化学28(11)、680−685,1979年11月05日発行山田 武他、「イオン電極法による廃水中のフッ化物イオンの簡易定量」、分析化学 37(5)、61−65,1988年05月05日発行 しかしながら、本発明者らの検討によると、高濃度の硫黄が共存し、前処理によって硫黄が析出する被測定溶液に対しては、吸光度測定の妨害となり、測定方法がないのが現状である。 また、高濃度の硫黄が共存し、前処理によって硫黄が析出する被測定溶液に対して、イオン電極法による検討報告はない。 本発明は、上述の状況に鑑みて為されたものであり、その解決しようとする課題は、高濃度の硫黄が共存する溶液のように、硫黄を大量に含むため蒸留が著しく困難で、且つ、ふっ化物イオン電極法の妨害元素である金属元素を多く含む被測定溶液中のふっ化物イオンを、迅速かつ簡単に定量する方法を提供することである。 上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を行った。 そして、高濃度の硫黄が共存する溶液のように、硫黄を大量に含むため蒸留が難しく、且つ、ふっ化物イオン電極法の測定を妨害する金属元素を多く含む被測定溶液であっても、蒸留操作を行わず、適宜な前処理を施すことにより、ふっ化物イオン電極を用いてふっ化物イオンを定量出来る分析方法に想到し、本発明を完成した。 即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、 被測定溶液中に含まれるふっ化物イオン濃度を、ふっ化物イオン電極を用いて定量分析する、ふっ化物イオン濃度測定方法であって、 前記被測定溶液に含有される金属元素の定性分析を行い、Ca、Al、Feのいずれかが検出された場合は、当該Ca、Al、Feを定量分析する操作と、 前記定性分析結果および定量分析結果を用いて、被測定溶液に添加するマスキング剤とその添加量を定める操作と、 前記被測定溶液へ、前記マスキング剤と全イオン強度調整剤を添加し、純水を加えて希釈する操作と、 前記マスキング剤と全イオン強度調整剤とが添加され、希釈された被測定溶液に対し、ふっ化物イオン電極を用いてふっ化物イオン濃度を定量分析する操作とを有する、ことを特徴とする被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 第2の発明は、 前記被測定溶液が硫黄を含有するものである、ことを特徴とする第1の発明に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 第3の発明は、 前記金属元素の定性分析において、Caが検出された際、マスキング剤としてCyDTAを用いる、ことを特徴とする第1または第2の発明に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 第4の発明は、 前記金属元素の定性分析において、Alが検出された際、マスキング剤として酒石酸とトリスヒドロキシメチルアミノメタンとの混合液、または、クエン酸を用いる、ことを特徴とする第1または第2の発明に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 第5の発明は、 前記金属元素の定性分析において、Feが検出された際、マスキング剤として酒石酸またはEDTAを用いる、ことを特徴とする第1または第2の発明に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 第6の発明は、 前記被測定溶液に含有される金属元素の定性および定量分析を、ICP−OESを用いて行うことを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法である。 本発明によれば、ふっ化物イオン電極法の測定を妨害する金属元素や、硫黄を含む被測定溶液中のふっ化物イオン濃度を、迅速かつ簡単に精度よく定量することができる。本発明に係る実施の一形態を示すフローチャートである。 以下、本発明を実施するための形態について、図1を参照しながら、(1)被測定溶液(2)被測定溶液の準備および保管、(3)被測定溶液としての高濃度の硫黄が共存する溶液、(4)被測定溶液中の妨害金属元素、(5)被測定溶液中の妨害金属元素の定量分析方法、(6)被測定溶液中の妨害金属元素であるCa、Al、Fe、(7)被測定溶液中におけるCa、Al、Feのマスキング操作、(8)被測定溶液中のCa以外の妨害金属元素への対応、(9)被測定溶液中の硫黄への対応、(10)ふっ化物イオン電極による被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定、の順に説明する。(1)被測定溶液 本発明において対象とする被測定溶液〈1〉は、特に限定されるものではないが、蒸留時にH2SガスやSO3ガスが、安全上の問題や装置汚染の問題を発生させる程の硫黄を含んでいるものが対象となり、例として、高濃度の硫黄が共存する溶液などがある。 ここで、蒸留時にH2Sガスが大量に発生する被測定溶液は、pH値が11以上であって、硫黄をHS−あるいはS2−として液中に含んでいるものが多い。これらは蒸留時のH2Sガス発生量が多く、蒸留操作の実施が困難である。(2)被測定溶液の準備および保管 被測定溶液によっては、サンプリングされた段階で固形物を含む場合がある。そして、当該固形物がふっ素を含む場合、上述した希釈などの操作中に溶け出し、ふっ化物イオンの定量分析値に正の誤差を与える可能性がある。こうした事態を回避する為、被測定溶液の固形物は、予めろ過して除去しておくことが望ましい。 一方、硫黄を含有する被測定溶液を空気中で長期間放置すると、H2S、HS−、S2−の酸化が進行し、例えば硫酸塩の沈殿が生じる場合がある。その場合もふっ化物イオンの共沈が懸念されるので、被測定溶液を採取した後すぐに測定できない場合は、窒素置換や大気に触れないよう密閉して保管することが望ましい。(3)被測定溶液としての高濃度の硫黄が共存する溶液 高濃度の硫黄が共存する溶液の中には、溶解しやすいCaS、K2Sなどから生成するS2−イオンと、次式により生成したS0との反応によりSx2−が生じ黄色を呈した液がある。 CaS+H2O→Ca(SH)(OH) 2CaS+2H2O→Ca(SH)2+Ca(OH)2 CaS+2H2O→Ca(OH)2+H2S H2S+1/2O2→H2O+S0 S0+Sx2−→S(X+1)2− また、蒸留を困難にするH2S、HS−、S2−は常温において大気の酸素分圧の下では、最終的に安定な硫黄の形態はSO42−であり、種々の酸化速度で、次式に示す経路を経てSO42−まで酸化されると考えられている。 S2− HS−→Sm2−(5≧m≧1)→S0→S2O32−→SO32−→SO42− H2S SO2 被測定溶液〈1〉中において、硫黄がSO42−の形態で存在するなら、蒸留を困難にするH2Sガスは発生しない。適当な酸化剤、例えばBr2などで硫黄を酸化することにより、硫黄をSO42−まで酸化することは容易に行える。 しかしながら、生じたSO42−は、被測定溶液中に含まれているCaと反応してCaSO4の沈殿を生じる。一方、被測定溶液中に溶けていたふっ化物イオンはCa2+と難溶解性のCaF2として沈殿することから、ふっ化物イオンがCaSO4に共沈することが考えられる。 本発明者らによる当該共沈反応の実験的な確認によれば、Br2を用いて硫黄を酸化し、蒸留した後にふっ化物イオンを定量した場合、ふっ化物イオンの添加回収率は75%程度に留まった。これは酸化反応実施前には被測定溶液中に溶け込んでいたふっ化物イオンがCaSO4と共沈し、その後の蒸留操作において、分解、単離できなかったためだと考えられる。(4)被測定溶液中の妨害金属元素 本発明において、被測定溶液〈1〉中に含有され、ふっ化物イオン電極法の測定を妨害する金属元素としては多様なものが想定されるが、なかでも妨害の影響が大きい金属元素としてはCa、Al、Fe等が考えられる。これらの金属は、被測定溶液中において、ふっ化物イオンと錯体を形成したり、沈殿を形成したりして、ふっ化物イオン電極での検出を妨害する。(5)被測定溶液中の妨害金属元素の定量分析方法 本発明においては、被測定溶液〈1〉中に含有され、ふっ化物イオン電極法の測定を妨害する金属元素の種類と濃度とを、予め定性・定量分析〈7〉し、定性・定量分析結果〈8〉を得ておく。当該妨害金属元素の定性・定量分析方法として、例えばICP−OESを好ましい例として挙げることが出来る。 当該妨害金属元素の定性、定量分析方法としてICP−OESを用いる場合は、被測定溶液中の硫黄成分を、予め、Br2〈11〉、硝酸〈12〉などの強力な酸化剤で酸化した後、含有される妨害金属元素の定性分析を行う。そして、当該定性分析で検出された妨害金属元素の含有量を、被測定溶液〈1〉中へ所定量の内部標準液〈14〉を添加して定量分析を行う検量線法等を用いて、例えばICP−OESにより定量分析することが出来る。 具体例としては、被測定溶液〈1〉10mLに、Br2〈11〉3〜5mL、硝酸〈12〉10mL、純水〈13〉適量を添加し、250℃に設定した鉄板上で加熱〈2〉して、余剰のBr2を揮散する。放冷した後に、硝酸〈12〉10mLと、純水〈13〉適量(この後、定容〈4〉操作をするため、例えば全量100mLのメスフラスコに移すのであれば、ビーカー目盛りで50mL程度になるように加えることが好ましい。)を加え、加熱溶解〈3〉させる。当該溶液を放冷後、定容〈4〉し、一定量を分取〈5〉し、適宜に希釈〈6〉後、所定量の内部標準液〈14〉を添加し、例えばICP−OESにより定性・定量分析〈7〉を行い、定性・定量分析結果〈8〉を得る。(6)被測定溶液中の妨害金属元素であるCa、Al、Fe 上述したように、妨害金属元素のなかでも、Ca、Al、Feは後述するふっ化物イオン定量方法において影響が大きい。そこで、Ca、Al、Feの各々の濃度を把握することが肝要であり、例えば、ICP−OESを用いた定量分析法によって定量する。 例えば、上述した高濃度の硫黄が共存する溶液は、妨害金属としてのCaを多く含有している。 ここで、CaF2の20℃における溶解度積KはK=[Ca++][F−]2=3.45×10−11と低いため、上述したように、妨害金属の中でもCaは、CaF2とを形成して沈殿し易いと考えられる。従って、被測定溶液中に妨害金属元素としてCaが多く含有されている場合は、当該Caとふっ化物イオンとの化合物による沈殿生成を抑止する対応が求められる、ことに想到した。 さらに、本発明者らは、Al、Feに対しても、Caと同様の対応が求められる場合があることに想到した。(7)被測定溶液中におけるCa、Al、Feのマスキング操作 「(6)被測定溶液中の妨害金属元素であるCa、Al、Fe」にて説明した、被測定溶液中の妨害金属元素であるCa、Al、Feへの対応としては、適宜なマスキング剤の添加によるマスキング操作を行うことが好ましい。 本発明におけるマスキング剤〈32〉の選択は、特に限定されるものではなく、含まれている妨害金属元素に応じて最適なものを選択することが好ましい。例えば、Caに対してはCyDTA(トランスー1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸、Trans−1,2−Diaminocyclohexane−N,N,N’,N’−tetraacetic acid)が好ましい。Alに対しては酒石酸とトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)の混合液やクエン酸が好ましい。Feに対しては、酒石酸またはEDTAが好ましい。 以下、Caを例として、測定溶液中におけるマスキング操作について説明する。 本発明者らの検討によると、上述した溶解度積Kにも拘らず、実際に高濃度の硫黄が共存する溶液においては、Ca2+とF−との反応生成物であるCaF2は、当該溶解度積に従った析出はせずに、準安定な過飽和状態として存在することを知見した。 当該知見に基づき、本発明者らは、妨害金属元素としてのCaを多く含有している被測定溶液中のふっ化物イオンを定量するにあたり、不適切な前処理操作によって当該準安定な過飽和状態を崩し、CaF2を生成させて沈殿させてしまうことは回避すべきであることを知見した。 上述の知見により、本発明では、上述したCaF2の沈殿生成を防ぐために、被測定溶液〈1〉へ、マスキング剤〈32〉を添加し、純水〈13〉を加えて希釈している。 実験的な確認によれば、Ca濃度が10g/Lの被測定溶液(高濃度の硫黄が共存する溶液)を10倍以上に希釈する際、希釈後の測定液中のCyDTA濃度が4.5g/LになるようにCyDTAを添加した(被測定液中のCa濃度(mol/L)の値が、CyDTA濃度(mol/L)の値の2倍を超えないようにした。)ところ、被測定溶液中のふっ化物イオンの濃度が10mg/L未満のときに、CaF2の沈殿は確認されなかった。 さらに、本発明者らは、被測定溶液へのCyDTAの添加は、CaF2などの形態でふっ化物イオンが沈殿することを防止するだけではなく、ふっ化物イオン電極では検出できないCaに配位したふっ素をふっ化物イオンの形に遊離させ、ふっ化物イオン電極で検出できる形態にする働きも果たしていることを知見した。 実験的な確認によれば、Ca濃度が1g/Lまでであれば、異なる希釈倍率でもふっ化物イオンの定量値は一定であり、またふっ化物イオンの添加回収率も95%以上であった。一方でCa濃度が1g/Lより高くなるとふっ化物イオン分析〈23〉の定量値は低くなる傾向であった。 一方、希釈後のCa濃度が1g/Lを超えると、ふっ化物イオン電極によるふっ化物イオンの定量分析値は低くなる傾向は、CyDTAのマスキング能力が不十分になり、一部のふっ化物イオンがCaに配位する為、ふっ化物イオン電極で検出出来なくなった為であると考えられる。 上述の知見を基に、本発明者らがさらに検討を行ったところ、CyDTAにより被測定溶液中のCaをマスキングできる濃度範囲は、ふっ化物イオンの濃度によっても異なることを知見した。 上述した例では、被測定溶液中のCyDTA濃度が4.5g/Lであって、ふっ化物イオン濃度が0mg/Lを超えて10mg/L以下のとき、ふっ化物イオンの定量分析が許容されるCa濃度は、最大1g/Lであった。 以上より、信頼性が高いふっ化物イオン定量値を得るためには、異なる希釈倍率の被測定溶液を調製し、ふっ化物イオン定量値を比較して一致を確認すること、および、ふっ化物イオンの添加回収率の確認を行うことが好ましい。 以上、Caを例として、被測定溶液中におけるマスキング操作について説明した。 そして、同様にAl、Feのマスキング操作も考えると、本発明において、被測定溶液〈1〉への純水〈13〉添加による定容〈22〉の希釈倍率は、ふっ化物イオン電極を用いてふっ化物イオン分析〈23〉を安定に測定できる範囲のなかで、できる限り高いほうが好ましい。(8)被測定溶液中のCa以外の妨害金属元素への対応 被測定溶液中には、上述したCa、Al、Feを初め、他種の妨害金属元素も含有されている場合がある。このような場合には、被測定溶液中の他種の妨害金属元素をマスキングするマスキング剤として、CyDTA以外のもの、例えば酒石酸とトリスヒドロキシメチルアミノメタンとの混合液、クエン酸、酒石酸、EDTAなどを添加する事によって妨害を防ぐことができる。マスキング剤には、マスキング可能な妨害金属元素の種類により、前述のもの以外にも複数種が存在する。そして、これらマスキング剤が、妨害金属元素をマスキングできる濃度範囲は、金属元素種、ふっ化物イオン濃度、マスキング剤の種類によって異なる。そこで、(5)で説明した妨害金属元素の種類や濃度を考慮しながら、マスキング剤〈32〉の種類や添加量を決定するとよい。 勿論、Ca、Al、Fe以外の妨害金属元素であっても、マスキング剤〈32〉等でマスキングできる濃度を超えて被測定溶液中に含有されている場合は、添加するマスキング剤でマスキングできる程度まで、当該被測定溶液を希釈する。(9)被測定溶液中の硫黄への対応 上述したように、ふっ化物イオン電極を用いて被測定溶液中のふっ化物イオン分析〈23〉を行う際、Caを初めとする妨害金属元素への対応の為、CyDTAを添加する前処理を行うが、このとき被測定溶液のpH値は5.0〜5.5に調整することが好ましい。pH値の調整は全イオン強度調整剤(Total Ion Strength Adjustment Buffer)、(本発明において、TISAB〈33〉と記載する場合がある。pH値とイオン強度を調整する目的で添加される。)の添加によって行われる。 本発明ではふっ化物イオン分析〈23〉のための前処理として、TISAB〈33〉を添加するが、このとき被測定溶液〈1〉はpH値が5.0〜5.5に調整される。H2S、HS−、S2−として被測定溶液中に溶けていた硫黄は、被測定溶液の酸化還元電位(ORP)によって異なるが、H2Sガスや、S0、SO42−の形態に変化する。そして、S0は不溶性のため析出したが、その場合でも、ふっ化物イオンの添加回収率は95%以上であったことから、ふっ化物イオン分析の定量値には影響がないと考えられる。(10)ふっ化物イオン電極による被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定 以上、説明したように、被測定溶液〈1〉を純水〈13〉にて適宜に希釈し、マスキング剤〈32〉を添加して、Caを初めとする妨害金属元素への対応を行い、TISABを加えることでpH値を調整すれば、妨害金属元素はふっ化物イオン電極法の測定を妨害しなくなり、また高濃度に含まれる硫黄もふっ化物イオン電極法の測定に影響しない。この結果、被測定溶液へ蒸留操作を行うことなく、TISAB〈33〉を加えた後に定容〈22〉とするだけで、直接にふっ化物イオン電極で、ふっ化物イオン分析〈23〉を行うことが可能となった。 この結果、ふっ化物イオン電極法の測定を妨害する金属元素や、硫黄を含む被測定溶液中のふっ化物イオン濃度を、迅速かつ簡単に精度よく定量することができた。 以下、実施例を参照しながら、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 (実施例1) 被測定溶液として高濃度で硫黄を含むサンプルを準備した。 まず、当該被測定溶液中の妨害金属元素を確認する。 被測定溶液を10mL分取し、これにBr23mLと硝酸10mLを加え、加熱することで硫黄成分を酸化し、SO42−まで酸化した。放冷後、硝酸10mLと純水30mLを加え、加熱溶解後に100mLの全量フラスコに定容し、適当量を分取、希釈後ICP−OESで定性分析し、検出された妨害金属元素に対し、ICP−OESで定量分析を行った。その結果、当該被測定溶液中には、Caが11g/L含まれ、Al、Feは検出下限未満であることが判明した。また、硫黄は16g/L含まれることも判明した。 次に、被測定溶液(Ca濃度11g/L、硫黄濃度16g/L)を5mL量り取り、プラスティック製の100mLメスフラスコに加えた。100mLメスフラスコの壁についた被測定溶液を純水で洗い流した後、濃度45g/LのCyDTA溶液を10mL添加し、かく拌した。 これにTISAB9mLを添加し、再度かく拌した後、純水で100mLに定容した。 メスフラスコ中の全量を100mLポリビーカーに移し、スターラーチップを入れ、かく拌しながら、ふっ化物イオン電極でふっ化物イオン濃度を測定した。 なお、本法の妥当性確認のため、サンプルに既知量のふっ化物イオン0.025mgを添加し、添加回収率を求めた。当該結果を表1に示す。 尚、表1において、測定値とは、被測定溶液を分取し、TISAB、マスキング剤を添加して定容した後に、イオン電極を用いて測定したときのふっ化物イオン濃度の読み取り値である。 定量値は、測定値×希釈倍率、の値である。実施例1においては20倍希釈であることから、0.223(mg/L)×20=4.46(mg/L)となる。 ふっ素回収率は、次式で求めた。 ふっ素回収率=[ふっ素回収量(mg)/ふっ素添加量(mg)]×100% =[0.475(mg/L)−0.223(mg/L)]/[0.025(mg)×1000mL/100mL]×100% =101% 以下、表2、3も同様である。 実施例1においては、イオン電極を用いて容易にふっ化物イオン濃度の読み取りが出来た。そして、表1の結果から明らかなように、ふっ化物イオンの添加回収率は101%と、ほぼ100%であった。従って、実施例1においては、被測定溶液中のふっ化物イオン濃度を、高い精度を持って容易に定量分析出来ることが判明した。(比較例1) 比較例1では、被測定溶液100mLを量り取り、JIS K 010234にしたがって蒸留操作を行った。 ところが、蒸留前の処理としてH2SO4を入れた段階において、サンプルからH2Sガスが発生し、蒸留を進めるとH2Sガスが蒸留器から漏洩した。また蒸留経路へ硫黄が析出した。安全上と作業上の理由から蒸留操作そのものが実施困難となり、蒸留を中止した。(比較例2) 上述した比較例1においてH2Sガスの発生により蒸留が困難となったことから、比較例2では、H2S、HS−、S2−として液中に溶けていた硫黄を予め酸化する目的で、被測定溶液25mLに30wt%H2O225mLを加え、1晩静置した。当該静置後に、溶出液へ蒸留法を行い、単離したふっ化物イオンを含む留出液を250mLに定容し、ふっ化物イオン電極で測定した。 当該結果を表2に示す。 比較例2においては、予め、被測定溶液中の硫黄を酸化してから蒸留した為、問題なく蒸留を実施できた。しかし、表2に示すように、ふっ化物イオンの添加回収率は75%であった。これは、硫黄の酸化処理によって生じたCaSO4にふっ化物イオンの一部が共沈した為だと考えられる。(比較例3) 比較例3は、実施例1と同様の操作ではあるが、被測定溶液5mLへCyDTAを10mL添加することなく、TISABのみを添加した例である。 当該結果を表3に示す。 表3の結果から明らかなように、ふっ化物イオンの添加回収率は86%程度であった。さらに、この回収率は不安定であり、定容後にふっ化物イオン電極で測定するタイミングが遅くなればなるほど、CaF2の沈殿が生じ、回収率は最も低い場合で10%程度まで低下した。 CyDTAを添加しないと、Caのマスキングができず、添加されたふっ化物イオンがCaF2として沈殿した為と考えられる。 被測定溶液中に含まれるふっ化物イオン濃度を、ふっ化物イオン電極を用いて定量分析する、ふっ化物イオン濃度測定方法であって、 前記被測定溶液に含有される金属元素の定性分析を行い、Ca、Al、Feのいずれかが検出された場合は、当該Ca、Al、Feの定量分析する操作と、 前記定性分析結果および定量分析結果を用いて、被測定溶液に添加するマスキング剤とその添加量を定める操作と、 前記被測定溶液へ、前記マスキング剤と全イオン強度調整剤を添加し、純水を加えて希釈する操作と、 前記マスキング剤と全イオン強度調整剤とが添加され、希釈された被測定溶液に対し、ふっ化物イオン電極を用いてふっ化物イオン濃度を定量分析する操作とを有する、ことを特徴とする被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 前記被測定溶液が硫黄を含有するものである、ことを特徴とする請求項1に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 前記金属元素の定性分析において、Caが検出された際、マスキング剤としてCyDTAを用いる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 前記金属元素の定性分析において、Alが検出された際、マスキング剤として酒石酸とトリスヒドロキシメチルアミノメタンとの混合液、または、クエン酸を用いる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 前記金属元素の定性分析において、Feが検出された際、マスキング剤として酒石酸またはEDTAを用いる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 前記被測定溶液に含有される金属元素の定性および定量分析を、ICP−OESを用いて行うことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法。 【課題】硫黄を大量に含むため蒸留が著しく困難で、且つ、ふっ化物イオン電極法の妨害元素である金属元素を多く含む被測定溶液中のふっ化物イオンを、迅速かつ簡単に定量する方法を提供する。【解決手段】被測定溶液に含有される金属元素の定性分析を行ない、Ca、Al、Feのいずれかが検出された場合は定量分析する操作と、前記定性分析結果および定量分析結果を用いて、被測定溶液に添加するマスキング剤を定めて前記被測定溶液へ添加し、全イオン強度調整剤を加えた後に前記被測定溶液を希釈する操作と、ふっ化物イオン電極を用いてふっ化物イオン濃度定量分析する操作とを有する、ことを特徴とする被測定溶液中のふっ化物イオン濃度測定方法を提供する。【選択図】図1


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