タイトル: | 公開特許公報(A)_フィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法 |
出願番号: | 2013133001 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | G06F 19/00,G01N 33/44 |
上野 真一 JP 2015007908 公開特許公報(A) 20150115 2013133001 20130625 フィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法 住友ゴム工業株式会社 000183233 住友 慎太郎 100104134 上野 真一 G06F 19/00 20110101AFI20141212BHJP G01N 33/44 20060101ALI20141212BHJP JPG06F19/00 110G01N33/44 4 2 OL 13 本発明は、フィラー間の相互作用ポテンシャル、とりわけレナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算により求めることができる方法に関する。 近年、ゴム配合の開発のために、フィラーと高分子材料とからなる複合材料の性質を、コンピュータを用いて評価するためのシミュレーション方法(数値計算)が種々提案されている。この種のシミュレーション方法では、コンピュータに、フィラーをモデル化したフィラーモデルが入力される。さらに、フィラーモデル間には、例えば、下記式(1)に示す相互作用ポテンシャル(レナードジョーンズポテンシャル)ULJが定義される。 ここで、各パラメータは、次のとおりである。 rij:各フィラー粒子モデル間の距離 εLJ:各フィラー粒子モデル間のポテンシャルの強度 σLJ:各フィラー粒子モデルの直径に相当Kurt Kremer & Gary S. Grest 著「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 5057 (1990) 従来のシミュレーション方法では、上記式(1)のεLJ及びσLJを計算により求める方法がなかった。このため、εLJ及びσLJは、オペレータの経験や勘によって定められ、精度の高いシミュレーションを行うことが難しいという問題があった。 本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、フィラー間の相互作用ポテンシャル、とりわけレナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算により求めることができる方法を提供することを主たる目的としている。 本発明のうち請求項1記載の発明は、高分子材料中に配合されたフィラー間の相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて計算する方法であって、前記コンピュータに、前記フィラーをモデル化したフィラーモデルを設定する工程、前記コンピュータに、前記高分子材料をモデル化したポリマーモデルを設定する工程、前記コンピュータが、予め定められた仮想空間に配置された前記フィラーモデルと前記ポリマーモデルとを用いて、平均場理論に基づいて前記フィラーモデルの自由エネルギーを計算するシミュレーション工程、及び前記コンピュータが、前記自由エネルギーを、レナードジョーンズポテンシャルに近似させて、前記レナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算する計算工程を含むことを特徴とする。 また、請求項2記載の発明は、前記シミュレーション工程は、一対の前記フィラーモデルを当接させて、前記フィラーモデル間の自由エネルギーの最小値Fsを計算する工程と、一対の前記フィラーモデルを離間させて、前記フィラーモデル間の自由エネルギーの最大値Fmを計算する工程とを含む請求項1に記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法である。 また、請求項3記載の発明は、前記パラメータは、前記フィラーモデル間の斥力の強度を示すεLJと、前記フィラーモデルの直径に相当するσLJを含み、前記計算工程は、前記自由エネルギーの前記最大値Fmと前記最小値Fsとの差(Fm−Fs)から前記εLJを求める工程、及び一対の前記フィラーモデルが当接した状態の粒子間距離から前記σLJを求める工程を含む請求項2に記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法である。 また、請求項4記載の発明は、前記フィラーモデルと前記ポリマーモデルとの相互作用パラメータであるχパラメータは、0.0〜10.0である請求項1乃至3のいずれかに記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法である。 本発明では、コンピュータが、予め定めた仮想空間に配置されたポリマーモデルとフィラーモデルとを用いて、平均場理論に基づいてフィラーモデルの自由エネルギーを計算するシミュレーション工程、及び自由エネルギーを、レナードジョーンズポテンシャルに近似させて、レナードジョーンズポテンシャルのパラメータを求める計算工程を含む。 発明者らの種々の実験の結果、平均場理論に基づいて計算されたフィラーモデルの自由エネルギーは、フィラーモデル間の相互作用ポテンシャルに近似することが判明した。そこで、本発明では、フィラーモデルの前記自由エネルギーに基づいて、レナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算により求めることができる。従って、本発明では、オペレータの経験や勘に頼ることなく、精度の高いシミュレーションを行うのに役立つ。本実施形態の計算方法を実行するコンピュータの斜視図である。本実施形態の計算方法の一例を示すフローチャートである。仮想空間の概念図である。フィラーモデル及びポリマーモデルの概念図である。仮想空間に配置されたフィラーモデル及びポリマーモデルの概念図である。本実施形態のシミュレーション工程の一例を示すフローチャートである。(a)は、一対のフィラーモデルが当接した仮想空間の概念図、(b)は、一対のフィラーモデルが離間した仮想空間の概念図である。フィラーモデル間の自由エネルギーと、フィラーモデルの粒子間距離との関係を示すグラフである。レナードジョーンズポテンシャルが設定されるフィラーモデルの概念図である。レナードジョーンズポテンシャルと、フィラー粒子モデル間の距離との関係を示すグラフである。本実施形態の計算工程の一例を示すフローチャートである。 以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。 本実施形態の計算方法は、高分子材料中に配合されたフィラー間の相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて計算する方法である。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ又はアルミナ等が含まれる。また、高分子材料としては、例えば、ゴム、樹脂又はエラストマー等が含まれる。 図1に示されるように、コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリー、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2などが設けられている。なお、記憶装置には、本実施形態の計算方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。 図2には、本実施形態の計算方法の処理手順の一例が示されている。この計算方法では、先ず、図3に示されるように、コンピュータ1に、予め定められた仮想空間3(以下、単に「系」ということがある。)が設定される(工程S1)。本実施形態の仮想空間3は、横長矩形状に形成された二次元系として設定されている。仮想空間3を囲む各辺3a、3bには、周期境界条件が設定されている。 また、仮想空間3の各辺3a、3bの長さL1、L2は、適宜設定することができるが、例えば、フィラーをモデル化したフィラーモデル4及びポリマーモデル6(図4に示す)の慣性半径(図示省略)の2倍以上、より好ましくは10倍以上に設定されるのが望ましい。このような仮想空間3は、コンピュータ1に記憶される。 次に、コンピュータ1に、フィラーをモデル化したフィラーモデルが設定される(工程S2)。図4に示されるように、フィラーモデル4は、仮想空間3が粒子状(メッシュ状)に区分された領域5に、強制的に配置されたフィラーセグメント4Sでモデル化される。このフィラーセグメント4Sは、領域5に拘束される。本実施形態の領域5は、二次元の円状に形成されている。なお、フィラーセグメント4Sが三次元の場合には、球状に形成されるのが望ましい。本実施形態では、図5に示されるように、フィラーモデル4が、仮想空間3に2つ配置されている。このようなフィラーモデル4は、コンピュータ1に記憶される。本実施形態のフィラーセグメント4Sは、平均場理論( Flory-Huggins 理論等)に基づくシミュレーションの最小単位として扱われる。ここで、平均場理論とは、着目したポリマーが周辺から受ける相互作用を平均場近似するのに用いられる高分子溶液の統計熱力学理論である。 次に、コンピュータ1に、高分子材料をモデル化したポリマーモデルが設定される(工程S3)。図4に示されるように、ポリマーモデル6は、複数のポリマーセグメント7でモデル化されている。ポリマーセグメント7は、フィラーモデル4のフィラーセグメント4Sと同様に、平均場理論に基づくシミュレーションにおける最小単位として取り扱われる。 ポリマーセグメント7、7間には、それらを拘束する結合鎖8が設けられている。この結合鎖8の長さK1は、例えば系のメッシュ幅と同じ長さが設定される。これにより、ポリマーモデル6は、ポリマーセグメント7、7間の相対距離が安定して保持される直鎖状のニ次元構造をなしている。 さらに、一対のポリマーモデル6、6間には、ポリマーセグメント7、7間に、例えば、0.0〜10.0程度のχパラメータK2が設定されている。これにより、ポリマーセグメント7、7間には、斥力相互作用の強さが定義される。 図5に示されるように、ポリマーモデル6は、仮想空間3に、予め定められた体積分率(例えば、50%〜99%程度)に基づいて配置されている。このようなポリマーモデル6のポリマーセグメント7の濃度分布情報は、コンピュータ1に記憶される。 次に、コンピュータ1に、フィラーモデル4とポリマーモデル6との相互作用パラメータであるχパラメータK3が設定される(工程S4)。図4に示されるように、χパラメータK3は、フィラーセグメント4Sとポリマーセグメント7との間にそれぞれ設定されている。本実施形態のχパラメータK3は、例えば0.0〜10.0に設定される。これにより、フィラーセグメント4Sとポリマーセグメント7との間には、斥力相互作用の強さが定義される。このようなχパラメータK3は、コンピュータ1に記憶される。 χパラメータK3が10.0を超えると、平均場理論に基づくシミュレーションにおいて、フィラーモデル4及びポリマーモデル6の配置が安定する状態(平衡状態)に近づいても、直前の計算ステップとのエネルギー差が大きくなり、計算が収束しなくなるおそれがある。このような観点より、χパラメータK3は、より好ましくは5.0以下である。 次に、コンピュータ1が、仮想空間3に配置されたフィラーモデル4とポリマーモデル6とを用いて、平均場理論に基づいてフィラーモデル4の自由エネルギーを計算する(シミュレーション工程S5)。図5に示されるように、平均場理論に基づくシミュレーションでは、ポリマーモデル6の配置のエントロピーを考慮したSCF法( Self-Consistent Field Method )に基づいて、フィラーモデル4とポリマーモデル6とを含む系全体の平衡状態における自由エネルギーFが計算される。なお、各自由エネルギーFは、ヘルムホルツの自由エネルギーである。 このような平均場理論に基づくシミュレーションは、例えばOCTAに含まれるSUSHIを用いて処理することができる。図6には、本実施形態のシミュレーション工程S5の処理手順の一例が示されている。 本実施形態のシミュレーション工程S5では、先ず、一対のフィラーモデル4、4を当接させて、系全体の自由エネルギーの最小値Fsが計算される(工程S51)。この工程S51では、図7(a)に示されるように、一対のフィラーモデル4、4が当接される。これにより、一対のフィラーモデル4、4が当接した状態での系全体の自由エネルギーFが計算される。なお、一対のフィラーモデル4、4が当接した状態では、フィラーモデル4近傍に配置されるポリマーモデル6が最も少なくなるため、ポリマーの配置のエントロピー低下が抑えられ、系全体の自由エネルギーが最小となる。なお、図7(a)及び(b)は、ポリマーモデル6(図5に示す)を省略して表示している。 また、工程S51では、一対のフィラーモデル4、4が当接した状態の粒子間距離R(最小粒子間距離Rs)が計算される。なお、粒子間距離Rは、フィラーセグメント4Sが配置される領域5、5の中心5c、5c間の距離として定義される。そして、自由エネルギーの最小値Fs、及び最小粒子間距離Rsが、コンピュータ1に記憶される。 次に、一対のフィラーモデル4、4を離間させて、系全体の自由エネルギーの最大値Fmが計算される(工程S52)。図7(b)に示されるように、工程S52では、一対のフィラーモデル4、4が当接した状態から一定の間隔で離間させて、各粒子間距離Rでの系全体の自由エネルギーFが計算される。 また、各粒子間距離R、及び各粒子間距離Rでの系全体の自由エネルギーFは、コンピュータ1に記憶される。これにより、図8に示されるように、フィラーモデル4、4間の自由エネルギーFと、フィラーモデル4、4の粒子間距離Rとの関係を示すグラフを求めることができる。 一対のフィラーモデル4、4の粒子間距離Rが大きくなると、フィラーモデル4とポリマーモデル6との接する部分が大きくなるため、系全体の自由エネルギーFが大きくなる。本実施形態の工程S52では、系全体の自由エネルギーFの増分がゼロになるまで、一対のフィラーモデル4、4の粒子間距離Rを大きくして、系全体の自由エネルギーFが計算される。これにより、工程S52では、系全体の自由エネルギーFの最大値Fmを求めることができる。 次に、コンピュータが、系全体の自由エネルギーFを、レナードジョーンズポテンシャルULJに近似させて、レナードジョーンズポテンシャルULJのパラメータを計算する(計算工程S6)。 図9に示されるように、レナードジョーンズポテンシャルULJは、分子動力学計算において、フィラー粒子モデル12でモデル化されたフィラーモデル11、11間に作用する斥力を定義することができる。レナードジョーンズポテンシャルULJは、下記式(1)で定義される。また、図10には、レナードジョーンズポテンシャルULJと、フィラー粒子モデル12、12間の距離rijとの関係を示すグラフが示される。 ここで、各パラメータは、次のとおりである。 rij:各フィラー粒子モデル間の距離 εLJ:各フィラー粒子モデル間のポテンシャルの強度 σLJ:各フィラー粒子モデルの直径に相当 なお、距離rijは、各フィラー粒子モデル12、12の中心間の距離として定義される。 レナードジョーンズポテンシャルULJは、フィラー粒子モデル12、12間の距離rijが21/6σLJから0に近づくほど、その値が無限大に大きくなる。このようなレナードジョーンズポテンシャルULJは、フィラー粒子モデル12、12間に大きな斥力を作用させることができる。 また、レナードジョーンズポテンシャルULJは、フィラー粒子モデル12、12(図9に示す)間の距離rijが21/6σLJであるときに最小となり、その値が−εLJとなる。レナードジョーンズポテンシャルULJが最小となるのは、一対のフィラー粒子モデル12、12が当接したときである。従って、一対のフィラー粒子モデル12、12の当接時の距離rijは、21/6σLJである。 さらに、レナードジョーンズポテンシャルULJは、フィラー粒子モデル12、12間の距離rijが21/6σLJよりも大きくなるほど、その値が0に近づく。これは、フィラー粒子モデル12、12が互いに離間するほど、レナードジョーンズポテンシャルULJの影響が小さくなることを示している。 発明者らは、種々の実験の結果、フィラーモデル4、4の粒子間距離Rが大きくなるほど系全体の自由エネルギーFが大きくなること、及びフィラー粒子モデル12、12間の距離rijが大きくなるほどレナードジョーンズポテンシャルULJの影響が小さくなることが互いに関連し、自由エネルギーFと、レナードジョーンズポテンシャルULJとに相関があることを知見した。本発明では、オペレータの経験や勘によって定められていたレナードジョーンズポテンシャルULJの各パラメータεLJ及びσLJを、フィラーモデル4、4間の粒子間距離Rに応じた系全体の自由エネルギーFの変化に基づいて、計算により求めている。図11には、本実施形態の計算工程S6の処理手順の一例が示されている。 本実施形態の計算工程S6では、先ず、コンピュータ1が、自由エネルギーFの最大値Fmと最小値Fsとの差(Fm−Fs)からレナードジョーンズポテンシャルULJのパラメータεLJを求める(工程S61)。 図10に示されるように、距離rijが21/6σLJ以上となるレナードジョーンズポテンシャルULJにおいて、最大値と最小値との差(0−εLJ)はεLJである。この工程S61では、レナードジョーンズポテンシャルULJの差εLJと、図8に示す自由エネルギーFの最大値Fmと最小値Fsとの差(Fm−Fs)とを同一とみなし、パラメータεLJを下記式(3)より求めている。このεLJの値は、コンピュータ1に記憶される。 εLJ=Fm−Fs…(3) 次に、コンピュータ1が、一対のフィラーモデル4が当接した状態の最小粒子間距離RsからレナードジョーンズポテンシャルULJのパラメータσLJを求める(工程S62)。図10に示されるように、レナードジョーンズポテンシャルULJにおいて、一対のフィラー粒子モデル12、12の当接時の距離rijは、21/6σLJである。この工程S62では、一対のフィラー粒子モデル12、12の当接時の距離rijである21/6σLJと、自由エネルギーFの最小粒子間距離Rsとを同一とみなし、パラメータσLJを下記式(3)より求めている。このσLJの値は、コンピュータ1に記憶される。 σLJ=R/21/6…(4) このように、本実施形態の計算工程S6では、解析対象のフィラーをモデル化したフィラーモデル4を含む系全体の自由エネルギーFに基づいて、レナードジョーンズポテンシャルULJのパラメータεLJ、σLJを計算により求めることができる。従って、本実施形態では、従来のようにオペレータの経験や勘に頼ることなく、解析対象のフィラー毎に、パラメータεLJ、σLJを適宜設定することができるため、精度の高いシミュレーションの実施に役立つ。 次に、コンピュータ1が、新たに設定された仮想空間、フィラーモデル及びポリマーモデルを用いて、系全体の変形計算を行う(工程S7)。 図9に示されるように、仮想空間13は、解析対象の高分子材料の微小構造部分に相当する。本実施形態の仮想空間13は、互いに向き合う少なくとも三対の面13s、13sを有する立方体として定義される。各面13sは、周期境界条件等の境界条件が定義される。 フィラーモデル11は、球状に形成された一つのフィラー粒子モデル12でモデル化される。フィラー粒子モデル12は、運動方程式の質点として取り扱われる。このようなフィラーモデル11は、仮想空間13に複数個配置される。 フィラー粒子モデル12、12間には、上記式(1)のレナードジョーンズポテンシャルULJが定義される。このレナードジョーンズポテンシャルULJには、計算工程S6で求められたパラメータεLJ、σLJが設定される。 ポリマーモデル14は、仮想空間13において、各面13sとフィラーモデル4との間の空間に充填されるモデルとして定義される。このようなポリマーモデル14は、一様流体としてモデル化される。また、ポリマーモデル14には、高分子材料の粘度が定義される。 変形計算は、運動方程式及びナビエ・ストークス(Navier-Stokes)方程式に基づいて、ポリマーモデル14を含む系の変形計算が行われる。本実施形態の系の変形計算は、例えば、変形量が歪1〜100程度になるまで行われ、系全体の物性値(例えば、応力や粘度等)が計算される。また、系の変形速度は、10−6〜1σ/τ程度に設定される。 また、フィラーモデル11は、古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻でのフィラーモデル11の動きが追跡される。さらに、本実施形態の変形計算を行うに際しては、系内の粒子、体積及び温度は一定で行われる。このような変形計算は、OCTAに含まれるKAPSELを用いて処理することができる。 このように、本実施形態の工程S7では、フィラーモデル11、11間に設定されたレナードジョーンズポテンシャルULJに、計算工程S6において、解析対象のフィラーに基づいて設定されたパラメータεLJ、σLJが設定される。従って、工程S7では、精度の高いシミュレーションを行うことができる。 次に、コンピュータ1が、系全体の物性値が許容範囲内であるかを判断する(工程S8)。この工程S8では、系全体の物性値が許容範囲内であると判断された場合、フィラーモデル11及びポリマーモデル14の諸条件に基づいて、フィラーを含む高分子材料が製造される(工程S9)。 一方、系全体の物性値が許容範囲外と判断された場合は、フィラーモデル11及びポリマーモデル14の諸条件が変更されて(工程10)、工程S1〜S9が再度実施される。このように、本実施形態では、系全体の物性値が許容範囲内になるまで、フィラーモデル11及びポリマーモデル14の諸条件が変更されるため、所望の性能を有する高分子材料を、効率よく設計することができる。 以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。 図2に示した手順に従って、仮想空間に配置されたフィラーモデルとポリマーモデルとが用いられ、フィラーモデルとポリマーモデルとのχパラメータを設定し、平均場理論に基づいてフィラーモデルの自由エネルギーが計算された(実施例)。さらに、実施例の自由エネルギーを、レナードジョーンズポテンシャルULJに近似させて、レナードジョーンズポテンシャルULJの各パラメータεLJ、σLJが計算された。そして、実施例のレナードジョーンズポテンシャルの各パラメータεLJ、σLJが設定されたフィラーモデルを用いて、系の変形計算が行われた。 また、比較のために、レナードジョーンズポテンシャルULJのパラメータεLJ、σLJを、文献(Takuya Iwashita & Ryoichi Yamamoto 著「Direct numerical simulations for non-Newtonian rheology of concentrated particle dispersions」、Phys. Rev. E 079,031401 (2009) )に基づいて、オペレータによって設定されたフィラーモデルを用いて、ポリマーモデルの変形計算が行われた(比較例)。 そして、実施例及び比較例の各物性値(粘度)と、実際のゴムの物性値(粘度)とを比較して、シミュレーション精度が評価された。評価は、比較例を100とする指数で表示している。数値が大きいほど、シミュレーション精度が高く、良好である。なお、計算の仕様は次のとおりである。また、テストの結果を表1に示す。 平均場理論のシミュレーション: 仮想空間: 長さL1:30σ 長さL2:60σ フィラーモデル: 仮想空間に配置される個数:2個 直径:6σ ポリマーモデル: 仮想空間に配置される体積分率:80% ポリマーセグメントの鎖長:50(直鎖分子) ポリマーセグメントの直径:1σ ポリマーセグメント間のχパラメータK2:0.0 ポリマーセグメント・フィラーセグメント間のχパラメータK3:3.0 変形計算: 仮想空間(立方体): 一辺の長さL1:300σ フィラーモデル: 仮想空間に配置される個数:100個 直径:6σ ポリマーモデル: 高分子材料の粘度:1.0η 絶対温度:1.0ε/kB テストの結果、実施例では、比較例に比べて、シミュレーション精度を向上しうることが確認できた。 3 仮想空間 4 フィラーモデル 6 ポリマーモデル 高分子材料中に配合されたフィラー間の相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて計算する方法であって、 前記コンピュータに、前記フィラーをモデル化したフィラーモデルを設定する工程、 前記コンピュータに、前記高分子材料をモデル化したポリマーモデルを設定する工程、 前記コンピュータが、予め定められた仮想空間に配置された前記フィラーモデルと前記ポリマーモデルとを用いて、平均場理論に基づいて前記フィラーモデルの自由エネルギーを計算するシミュレーション工程、及び 前記コンピュータが、前記自由エネルギーを、レナードジョーンズポテンシャルに近似させて、前記レナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算する計算工程を含むことを特徴とするフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法。 前記シミュレーション工程は、一対の前記フィラーモデルを当接させて、前記フィラーモデル間の自由エネルギーの最小値Fsを計算する工程と、 一対の前記フィラーモデルを離間させて、前記フィラーモデル間の自由エネルギーの最大値Fmを計算する工程とを含む請求項1に記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法。 前記パラメータは、前記フィラーモデル間の斥力の強度を示すεLJと、前記フィラーモデルの直径に相当するσLJを含み、 前記計算工程は、前記自由エネルギーの前記最大値Fmと前記最小値Fsとの差(Fm−Fs)から前記εLJを求める工程、及び 一対の前記フィラーモデルが当接した状態の粒子間距離から前記σLJを求める工程を含む請求項2に記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法。 前記フィラーモデルと前記ポリマーモデルとの相互作用パラメータであるχパラメータは、0.0〜10.0である請求項1乃至3のいずれかに記載のフィラー間の相互作用ポテンシャルの計算方法。 【課題】フィラー間の相互作用ポテンシャル、とりわけレナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算により求める。【解決手段】高分子材料中に配合されたフィラー間の相互作用ポテンシャルを、コンピュータを用いて計算する方法である。この方法では、予め定められた仮想空間3に配置されたフィラーモデル4とポリマーモデル6とを用いて、平均場理論に基づいてフィラーモデル4の自由エネルギーFを計算するシミュレーション工程S5、及び自由エネルギーFを、レナードジョーンズポテンシャルに近似させて、レナードジョーンズポテンシャルのパラメータを計算する計算工程S6を含む。【選択図】図2