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タイトル:公開特許公報(A)_脂肪酸系イオン液体を有効成分とする外用剤組成物
出願番号:2013125873
年次:2013
IPC分類:A61K 47/12,A61K 47/18,A61K 31/405


特許情報キャッシュ

山口 俊和 河井 健太 山中 勝弘 辰巳 昇 JP 2013173805 公開特許公報(A) 20130905 2013125873 20130614 脂肪酸系イオン液体を有効成分とする外用剤組成物 株式会社 メドレックス 302005628 青山 葆 100062144 山田 卓二 100101454 松谷 道子 100106518 橋本 諭志 100146259 山口 俊和 河井 健太 山中 勝弘 辰巳 昇 JP 2007303784 20071122 JP 2008202639 20080806 A61K 47/12 20060101AFI20130809BHJP A61K 47/18 20060101ALI20130809BHJP A61K 31/405 20060101ALN20130809BHJP JPA61K47/12A61K47/18A61K31/405 4 2009542480 20081120 OL 50 4C076 4C086 4C076BB31 4C076DD41N 4C076DD50N 4C076FF34 4C086AA01 4C086BC15 4C086MA03 4C086MA05 4C086MA63 4C086NA11 4C086ZB11 本発明は、脂肪酸系イオン液体を必須成分とする外用剤用の組成物に関するものである。特に塩基性薬物、酸性薬物またはそれらの塩を含有する外用剤用の組成物に関するものである。更には、該組成物を含有する経皮吸収性の外用剤に関するものである。 これまで、薬物の経皮吸収性を向上させ、経皮吸収製剤とするためには、色々な方法が考えられて来た。一つには、薬物自体の経皮吸収性を向上させるために、イオン対形成を行なうことが試みられている。例えば、非特許文献1や特許文献1には、幾つかの試みが記載されており、また、米国ではフレクター(登録商標)パッチ(Flector Patch)として、ジクロフェナックのヒドロキシエチルピロリジン塩を含有する貼付剤が、最近市販されるようになっている(特許文献2)。 また、薬物の経皮吸収性を向上させる別の方法として、薬物を溶解させる溶液を工夫し、薬物の経皮吸収性を向上させようとする試みが行なわれて来た。例えば、特許文献3では動植物性油脂、多価アルコールと水の溶媒系、あるいは特許文献4では炭素原子数16〜20のカルボン酸エステルと炭素原子数2〜5のアルコールの溶媒系が、塩基性薬物などの経皮吸収を促進することが示されている。 非特許文献2では、乳酸/エタノール/ミリスチン酸イソプロピルの溶媒系やトリエタノールアミン/エタノール/ミリスチン酸イソプロピルの溶媒系が塩基性薬物や酸性薬物を経皮吸収促進させるのに良好な溶媒系であるとされている。 しかしながら、動植物性油脂と多価アルコールの系では二層分離して均一な溶液を作り難い。一方、均一な溶媒系を作りやすいエタノール/ミリスチン酸イソプロピルの溶媒系では、エタノールが揮発しやすいため、溶媒組成が変わり易く、安定した経皮吸収性が得難いところがある。しかも、特許文献5(段落0011)によると、低級アルコールと脂肪酸エステルの系では、必ずしも充分な吸収促進効果が得られていないと述べられている。 以上のように、外用剤を作成するために薬物を溶解させる溶媒系として、薬物の経皮吸収を促進させ、しかも溶媒組成が安定していて、薬物の分解が抑制されている溶媒系が求められている。 一方、経皮吸収促進助剤の添加により、薬物の経皮吸収性の向上を促進させる試みも行なわれている。例えば特許文献6、8には、塩基性薬物と共に酢酸ナトリウム等の有機酸塩を更に添加すると、マトリックス型貼付剤の経皮吸収性が向上すると報告されている。また、特許文献7には酸性薬物と共にジエチルアミン塩酸塩等のアンモニウム塩を添加することにより、マトリックス製剤の経皮吸収性の向上を図っている。 しかしながら、薬剤の経皮吸収性を更に向上させるためには、より抜本的な溶媒組成そのものの改良が求められている。特開2005−82512特許第3526887号特開平4−99716特開平6−40947特開2007−8871WO 00/61120WO 01/005381WO 01/007018久保一義、真弓忠範、Fragrance Journal, 1998-9, 71〜78(1998)方亮 et al、Biol. Pharm. Bull., 25, 1339-1344(2002) 本発明は、上記の現状を克服するため、薬物を安定に溶解し、溶媒組成が経時的に変動することがなく、薬物の経皮吸収性が促進される溶媒組成物を提供することを課題とする。 本発明者らは鋭意検討の結果、非水条件でイオン液体を使用することによって溶液中での薬物の安定性を高めることができ、しかも炭素数が5〜20である脂肪酸系イオン液体を溶媒として使用することによって薬物あるいはその塩を溶解して複合イオン組成物を形成させると、薬物の経皮吸収性を向上させることができることを見出した。その際、本発明者らは、酸性薬物と塩基性薬物の経皮吸収性に関して、次のような脂肪酸系イオン液体の傾向があることを見出した。[酸性薬物の経皮吸収性の傾向] イソステアリン酸 > カプリン酸 > オレイン酸 > レブリン酸[塩基性薬物の経皮吸収性の傾向] カプリン酸 > オレイン酸、レブリン酸 > イソステアリン酸 また、脂肪酸系イオン液体に使用される有機アミン化合物としては、酸性薬物の場合には、有機アミン化合物間で経皮吸収性にあまり大きな差は見られなかった。しかし、塩基性薬物として塩酸塩の化合物を使用する場合には、経皮吸収性を向上させるためには、薬物の塩基性(pKa)よりも有機アミン化合物の塩基性が強いものを選択することが必要であることを見出した。一方、塩基性薬物の脂肪酸塩の場合には、薬物の塩基性よりも弱い塩基性の有機アミン化合物を選択する方が好適であることを見出した。 更に本件発明者らは、薬物の塩やイオン液体(常温溶融塩)化した薬物を、炭素数5〜20の脂肪酸系イオン液体に溶解し、複合イオン組成物を形成させ、更には適切な有機溶媒(プロトン・ドナー性溶媒とプロトン・アクセプター性溶媒の混合溶媒)中で複合イオン組成物を溶媒和すれば、より経皮吸収されやすくなることを見出した。また、経皮吸収促進助剤として、脂肪酸を数%添加することにより、更に経皮吸収が促進されることを見出した。 また、本発明の更なる知見は、炭素数5〜20の脂肪酸と炭素数4〜10の有機アミン化合物の塩による脂肪酸系イオン液体が、二層分離しやすい経皮吸収促進溶媒系(例えばセバシン酸ジエチルとプロピレングリコールなど)に対して、界面活性剤的に働くことを見出したことである。 これらの結果、本発明の薬物含有の外用剤用組成物は、構造的には薬物を包含する複合イオン組成物であり、更には有機溶媒中で溶媒和された複合イオン組成物を含有する溶液でもある。また、有機溶媒として二層分離しやすい複数の経皮吸収促進溶媒を使用した場合でも、本発明の脂肪酸系イオン液体の効果により、本発明の外用剤組成物は均一溶液となっている。本発明者らは、この均一溶液を液剤として使用し、更に薬物の経皮吸収性を上昇できることを見出した。本発明者らは、これらの知見により本発明を完成した。 即ち、本発明の要旨は以下の通りである。(1)炭素数5〜20の脂肪酸系イオン液体に、薬物又はその塩を溶解して含有する、外用剤組成物。(2)脂肪酸系イオン液体が、炭素数5〜20の脂肪酸と炭素数4〜12の有機アミン化合物とから得られるものである、上記(1)記載の外用剤組成物。(3)薬物が酸性薬物または塩基性薬物である、上記(1)又は(2)に記載の外用剤組成物。(4)非水系の外用剤組成物である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の外用剤組成物。(5)有機溶媒が添加されている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の外用剤組成物。(6)外用剤組成物が液剤である、上記(5)に記載の外用剤組成物。(7)有機溶媒がプロトン・ドナー性溶媒とプロトン・アクセプター性溶媒の混合溶媒からなる、上記(5)に記載の外用剤組成物。(8)炭素数4〜12の有機アミン化合物が一つ又は複数の水酸基を持つアルキルアミン化合物である、上記(1)〜(7)に記載の外用剤組成物。(9)炭素数4〜12の有機アミン化合物が、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から一つまたは複数が選択されるものである、上記(1)〜(8)に記載の外用剤組成物。(10)薬物の塩が、イオン液体化している塩である、上記(1)〜(9)に記載の外用剤組成物。(11)イオン液体化している塩が、酸性薬物と炭素数4〜12の有機アミン化合物の塩であるか、または塩基性薬物と炭素数5〜20の脂肪酸の塩である、上記(10)に記載の外用剤組成物。(12)炭素数5〜20の脂肪酸が、レブリン酸、カプリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸の中から一つまたは複数が選択されるものである、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の外用剤組成物。(13)有機酸を更に含有する、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の外用剤組成物。(13’)有機酸が炭素数5〜20の脂肪酸である、(13)に記載の外用剤組成物。(14)ピロリドン誘導体を更に含有する、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の外用剤組成物。(15)脂肪酸系イオン液体の含量が5〜50w/w%である上記(1)〜(14)のいずれかに記載の外用剤組成物。(16)脂肪酸系イオン液体の含量が5〜25w/w%である上記(1)〜(14)のいずれかに記載の外用剤組成物。(17)含有される薬物又はその塩に対して、2倍モル量までの有機酸または有機塩基を更に含有する、上記(1)〜(16)のいずれかに記載の外用剤組成物。(18)酸性薬物がNSAIDである、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の外用剤組成物。(18’)酸性薬物がカルボキシル基を有する薬効成分である、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の外用剤組成物。(19)NSAIDとして、インドメタシン、フルルビプロフェン、エトドラク、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ケトプロフェン、ジクロフェナクから選ばれるものである、上記(18)に記載の外用剤組成物。(20)塩基性薬物が局所麻酔薬、筋弛緩薬、鎮痛薬またはオピオイド鎮痛剤である、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の外用剤組成物。(20’)塩基性薬物が1級アミノ基、2級アミノ基または3級アミノ基のいずれか一つ以上を有する薬効成分である、上記(1)〜(17)のいずれかに記載の外用剤組成物。(21)局所麻酔薬がリドカインである、上記(20)記載の外用剤組成物。(22)筋弛緩薬がエペリゾンである、上記(20)記載の外用剤組成物。(23)鎮痛薬がトラマドールである、上記(20)記載の外用剤組成物。(24)オピオイド鎮痛剤がモルヒネである、上記(20)記載の外用剤組成物。(25)プロトン・ドナー性溶媒がアルコール系溶媒である、上記(7)記載の外用剤組成物。(26)プロトン・アクセプター性溶媒が脂肪酸エステル類である、上記(7)記載の外用剤組成物。(27)アルコール系溶媒が、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールから選ばれるものである、上記(25)記載の外用剤組成物。(28)脂肪酸エステル類が、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチルである、上記(26)記載の外用剤組成物。(29)有機酸が酢酸、オレイン酸、レブリン酸から選ばれるものである、上記(13)に記載の外用剤組成物。(30)薬物又はその塩の含量が、0.5〜30w/w%である、上記(1)〜(29)のいずれかに記載の外用剤組成物。(31)薬物又はその塩に対して、脂肪酸系イオン液体が0.3〜20倍モル存在することを特徴とする、上記(1)〜(30)のいずれかに記載の外用剤組成物。(32)薬物又はその塩に対して、脂肪酸系イオン液体が3〜20倍モル存在することを特徴とする、上記(1)〜(30)のいずれかに記載の外用剤組成物。(33)有機塩基が、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンから選ばれるものである、上記(17)記載の外用剤組成物。(34)ピロリドン誘導体が、N−メチル−2−ピロリドンである、上記(14)記載の外用剤組成物。(35)上記(1)〜(34)記載の外用剤組成物が、貼付剤用の基剤であるスチレン−イソプレン−スチレン共重合体に配合されている、貼付剤製剤。(35’)上記(1)〜(34)記載の外用剤組成物が、貼付剤用の基剤であるスチレン−イソプレン−スチレン共重合体に配合されている、非水系テープ剤。(36) 上記(1)〜(34)記載の外用剤組成物が、軟膏用の基剤であるプラスチ・ベースに配合されている、軟膏剤製剤。(36’)上記(1)〜(34)記載の外用剤組成物が、軟膏用の基剤であるプラスチ・ベースに配合されている、非水系軟膏剤製剤。(37)炭素数5〜20の脂肪酸と炭素数4〜12の有機アミン化合物からなる脂肪酸系イオン液体を有効成分とする、酸性薬物あるいは塩基性薬物、その塩の経皮吸収促進助剤。(37’)脂肪酸系イオン液体が、レブリン酸、カプリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸の中の一つ以上の脂肪酸と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの中から一つ以上の有機アミン化合物の等モル塩である、上記(37)記載の経皮吸収促進助剤。(38)炭素数4〜12の有機アミン化合物が、一つ又は複数の水酸基を持つアルキルアミンである、上記(37)記載の経皮吸収促進助剤。(39)脂肪酸がイソステアリン酸である、上記(37)又は(38)に記載の経皮吸収促進剤。(40)有機アミン化合物がジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンである、上記(37)〜(39)のいずれかに記載の経皮吸収促進助剤。(40’)脂肪酸系イオン液体を形成する有機アミン化合物が、ジイソプロパノールアミンまたはジエタノールアミンである、上記(37)〜(39)のいずれか記載の経皮吸収促進助剤。(41)脂肪酸系イオン液体がイソステアリン酸系イオン液体である、酸性薬物又はその塩を経皮吸収促進させるための、上記(37)に記載の経皮吸収促進助剤。(42)脂肪酸系イオン液体がカプリン酸系イオン液体である、塩基性薬物又はその塩を経皮吸収促進させるための、上記(37)に記載の経皮吸収促進助剤。(43)イソステアリン酸と炭素数4〜12の有機アミン化合物の等モル塩。(44)有機アミン化合物が、一つ又は複数の水酸基を持つアルキルアミン化合物である上記(43)の等モル塩。(45)有機アミン化合物が、ジイソプロパノールアミンまたはジエタノールアミンである、上記(43)又は(44)記載の等モル塩。(46)イソステアリン酸とジイソプロパノールアミンまたはジエタノールアミンの等モル塩である、脂肪酸イオン液体。 本発明の薬物を含有する炭素数5〜20の脂肪酸系イオン液体を必須成分とする外用剤用組成物によれば、脂肪酸系イオン液体の添加効果により、薬物を安定化すると共に、経皮吸収性を向上させることができる。また、外用剤組成物中で複合イオン組成物させ、更に脂肪酸を添加することにより、薬物の経皮吸収性を更に上昇させることができる。このように、本発明の外用剤組成物は、これまで経皮吸収性が乏しいとされていた薬剤を脂肪酸系イオン液体に溶解し、複合イオン組成物を形成させて、溶媒和等の制御を行うことにより、優れた経皮吸収性を達成することが出来ている。 以上のことから、本発明の組成物は、液剤、軟膏、貼付剤などの各種外用剤に適用することができる。更に、本発明の組成物を配合したマトリックス型の貼付剤を作成して、良好な経皮吸収性を示す製剤品を提供することもできる。本発明の外用剤組成物の経皮吸収性評価試験の結果を示した図である。イソステアリン酸ジイソプロパノールアミン塩(等モル)のIRスペクトルの測定結果を示した図である。イソステアリン酸トリイソプロパノールアミン塩(等モル)のIRスペクトルの測定結果を示した図である。−本発明の第一の態様− 本発明の第一の態様は、薬物またはその塩を含有する外用剤用の組成物に関するものである。 本明細書において「薬物」とは、酸性を示す薬物(「酸性薬物」)あるいは塩基性を示す薬物(「塩基性薬物」)のことを言う。 本明細書において「酸性薬物」とは、官能基としてカルボン酸を有し化合物として酸性を示す薬物であって、例えば、インドメタシン(indomethacin)、ケトプロフェン(ketoprofen)、イブプロフェン(ibuprofen)、フルルビプロフェン(flurbiprofen)、ジクロフェナク(diclofenac)、エトドラク(etodolac)、ロキソプロフェン(loxoprofen)等の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、例えば、トラニラスト(tranilast)、クロモグリク酸、ペシロラスト等の抗アレルギー薬、例えば、アモバルビタール、セコバルビタール、フェノバルビタール等の催眠鎮静・抗不安薬、例えば、ダントロレン、ミバクリン等の筋弛緩薬などを言う。好ましいものとしては、インドメタシン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、エトドラク、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクを挙げることができる。 本発明において「塩基性薬物」とは、官能基として1級、2級または3級のアミン構造を有し、化合物として塩基性を示す薬物であって、例えば、リドカイン(lidocaine)、ジブカイン(dibucaine)、ブピバカイン(bupivacaine)、プロカイン(procaine)、メピバカイン(mepivacaine)、ブピバカイン(bupivacaine)、テトラカイン等の局所麻酔薬、例えば、ジフェンヒドラミン(diphenhydramine)等の抗ヒスタミン薬、例えば、トラマドール(tramadol)等の鎮痛薬、例えば、エペリゾン(eperisone)等の鎮痙薬、例えばトルペリゾン(tolperisone)等の筋弛緩薬、例えば、デキストロメトロファン(dextromethorphan)等の鎮咳薬、例えば、ドネペジル(donepezil)等のアセチルコリン分解抑制薬、例えばモルヒネ、コデイン、ナロキソン、フェンタニル等のオピオイド鎮痛剤などを挙げることができる。好ましいものとしては、リドカイン、トルペリゾン、ブビバカイン、エペリゾン、トラマドール、モルヒネ、ドネペジルをあげることができる。 本明細書において「(薬物又は)その塩」とは、酸性薬物の場合には外用剤適用として薬学的に使用可能な塩基を用いて作成される塩のことであり、塩基性薬物の場合には外用剤適用として薬学的に使用可能な酸を用いて作成される塩のことである。ここで使用される塩基とは、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属などの無機塩基、例えば、n−オクチルアミン、n−ヘキシルアミン、ピペラジン、ピペリジン、ピペロニルアミン等の直鎖または環状のアルキルアミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン、N−ヒドロキシエチルピロリジン等の水酸基が置換した直鎖または分枝状、あるいは環状のアルキルアミン化合物、例えばベンジルアミン等のアルアルキルアミンなどの有機塩基を挙げることができる。ここで使用される酸とは、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸等の炭素数1〜4の低級アルキルカルボン酸、例えば、カプリン酸、オクタン酸、カプリン酸等の炭素数5〜10の中級脂肪酸、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等の飽和、不飽和の炭素数11〜20の高級脂肪酸、例えば、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸等のアルキルスルホン酸などの有機酸を挙げることができる。 更には、前述の酸性薬物と塩基性薬物とによる塩であってもよい。 薬物又はその塩の含量としては、必要に応じて適宜量を設定できるが、0.5〜30w/w%が好ましい。より好ましい量としては、1〜20w/w%を挙げることができる。 本明細書において「イオン液体化している塩」とは、「その塩」の中で常温で液体であるものを言う。例えば、酸性薬物の場合には、以下のものを挙げることができる。a)インドメタシンのイオン液体: ジブカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、トラマドール塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトルファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン塩、b)ケトプロフェンのイオン液体: リドカイン塩、ジブカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、トラマドール塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトルファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン塩、c)フルルビプロフェンのイオン液体: リドカイン塩、ジブカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、トラマドール塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトロファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン塩、 d)ジクロフェナクのイオン液体: ジブカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトロファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノー1−プロピルアミン塩、e)エトドラクのイオン液体: リドカイン塩、ジブカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、トラマドール塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトロファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン塩。f)ロキソプロフェンのイオン液体: ジブカイン塩、ジブカイン塩、ブピバカイン塩、ジフェンヒドラミン塩、トラマドール塩、エペリゾン塩、トルペリゾン塩、デキストロメトルファン塩、ドネペジル塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジイソプロパノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン塩。 本明細書において「炭素数5〜20の脂肪酸系イオン液体」とは、炭素数5〜20の脂肪酸と有機アミン化合物との反応で得られるものであり、脂肪酸と有機アミン化合物との塩及び/又は平衡混合物を言う。炭素数5〜20の脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、オクタン酸、カプリン酸等の炭素数5〜10の中級脂肪酸、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等の飽和、不飽和の炭素数11〜20の高級脂肪酸を挙げることができる。好ましくは、カプリン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸、オレイン酸を挙げることができる。更にこれらの酸を適宜、複数用いて本発明のイオン液体を作製することができる。 なお、本発明の脂肪酸系イオン液体の含量としては、薬物又はその塩の使用量とも関連し、薬物の使用量が少なければ脂肪酸系イオン液体の使用量も少なくて済むが、本発明の場合、5〜50w/w%を挙げることができる。より好ましい含量としては、5〜25w/w%を挙げることができる。 薬物又はその塩の使用量との関連で言えば、薬物又はその塩に対して、脂肪酸系イオン液体が0.3〜20倍モル量存在することが望ましい。より望ましい量比としては、3〜20倍モルを挙げることができる。 本明細書において「有機アミン化合物」とは、炭素数5以上の脂肪酸と反応して脂肪酸系イオン液体を形成する有機塩基である。ここで有機塩基とは、例えば、n−オクチルアミン、n−ヘキシルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、3−ジメチルアミノ−1−プロピルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール等の置換または無置換である直鎖または分枝状アルキルアミン化合物、例えば、ピペラジン、ピペリジン、ピペロニルアミン、N−ヒドロキシエチルピロリジン等の置換または無置換の環状アルキルアミン化合物、例えば、ベンジルアミン等の置換または無置換のアルアルキルアミン化合物、例えば、1−エチルー3−メチル−イミダゾール等の置換または無置換の複素芳香環アミン化合物などを挙げることができる。置換基としては、水酸基、例えば塩素、臭素等のハロゲン原子、水酸基またはハロゲン原子で置換されていても良い炭素数1〜5の低級アルキル基を表す。好ましい有機塩基としては、水酸基で置換された直鎖または分枝状アルキルアミン化合物を挙げることができる。より好ましいものとしては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンを挙げることができる。 本明細書において「炭素数4〜12の有機アミン化合物」とは、上記有機アミン化合物の内、炭素数が4〜12のものを言う。好ましいものとしては、水酸基で置換された直鎖または分枝状アルキルアミン化合物を挙げることができる。より好ましいものとしては、上記と同様のジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンを挙げることができる。 本発明の脂肪酸系イオン液体とは、前述のように脂肪酸と有機アミン化合物との塩及び/又は平衡混合物を意味する。そして、脂肪酸と有機アミン化合物の等モル反応物が、IR的に塩であるか、平衡混合物であるかは、脂肪酸のpKaと有機アミン化合物のpKaの差に影響される。IR的に脂肪酸と有機アミン化合物の等モル塩が形成されるためには、脂肪酸と有機アミン化合物のpKaの差が約4前後あることが望ましい。pKaの差が約3前後であれば、使用した脂肪酸の約半量が塩を形成している平衡混合物となっている。 脂肪酸のpKaは約4.5〜4.9でほぼ一定と考えられるので、主には有機アミン化合物のpKaによって、脂肪酸と有機アミン化合物の等モル反応物がIR的に塩であるか、平衡混合物であるが決まることになると考えられる。従って、pKaが約8.5以上である有機アミン化合物(例えばジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン等)を使用した場合には、図2で示されるように塩を形成するが、pKaが約8.5以下の有機アミン化合物(例えばトリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等)を使用した場合には、図3で示されるように平衡混合物となる。 本明細書において「非水系の外用剤組成物」とは、水を添加しない外用剤組成物のことを言う。即ち、薬物、脂肪酸系イオン液体、有機溶媒等の非水系の化合物で構成されるものを言う。従って、薬物や脂肪酸系イオン液体、有機溶媒等に付着または吸収されている水分は考慮されていない。 なお、前述の酸性薬物や塩基性薬物は、一般に、無機塩の形で存在することが多く、そのため、非水系の有機溶媒には難溶であった。それ故、溶解して製剤化するためには、それらの無機塩が溶解しやすい含水系の処方が多く用いられている。しかし、含水系であれば、薬物の加水分解が不可避であり、薬物の安定性に大きな影響を与えることになる。従って、非水系の製剤処方であれば、薬物の安定性向上に寄与できることになる。 本発明では、有機溶媒に難溶の薬物や難溶の塩であっても、炭素数5以上の脂肪酸系イオン液体を用いて、薬物又はその塩を可溶化できるようになるので、非水系処方の外用剤を容易に作製できることになる。その結果、非水系であることから薬物の安定性が向上すると共に、更に非水系溶液中で薬物が複合イオン組成物を形成し、経皮吸収性が向上する。 このように、本発明の脂肪酸系イオン液体を使用して製剤処方を行なう場合には、非水系の製剤処方が好ましいものであると考えられる。 本明細書において「有機溶媒」とは、薬物と脂肪酸系イオン液体とで形成される複合イオン組成物を溶解し、溶媒和する働き示すものを言う。更には、皮膚表面に対して経皮吸収性を向上させるために働きかけるものが望ましい。例えば、複合イオン組成物を溶解し溶媒和する働きを示すものとして、水素結合に基づく溶媒和が構築できるプロトン・ドナー性溶媒とプロトン・アクセプター性溶媒の組合せ等が望ましい。 本明細書において「プロトン・ドナー性溶媒」とは、水素結合を構築できるように、プロトンを提示しやすい溶媒を言い、例えば有機酸やアルコール系溶媒を挙げることができる。アルコール系溶媒としては、例えば、ベンジルアルコール,ラウリルアルコール,ミリスチルアルコール,セチルアルコール,ステアリルアルコール,セトステアリルアルコール,2−オクチルドデカノール等の高級アルコール、例えばエタノール、プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、オクタノール、ドデカノール等の炭素数1〜10の低級アルコール、又は例えばエチレングリコール,グリセリン,プロピレングリコール,1,3−ブチレンアルコール等の多価アルコール等を挙げることができる。好ましいものとしては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールを挙げることができる。 有機酸としては、例えば乳酸、プロピオン酸、カプリン酸、ソルビン酸、サリチル酸、没食子酸、酢酸、酪酸、吉草酸、レブリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などのモノカルボン酸、例えばアジピン酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、リンゴ酸、セバシン酸などのジカルボン酸、例えばクエン酸などのトリカルボン酸を挙げることができる。その他、薬学的に許容しうる有機酸であればよい。好ましいものとしては、酢酸、オレイン酸、レブリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、ソルビン酸を挙げることができる。 本明細書において「プロトン・アクセプター性溶媒」とは、水素結合を構築できるように、プロトンを受け入れやすい溶媒を言い、例えばTHF、ブチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテル等のエーテル類、例えばメチルイソブチルケトン等のケトン類、例えば酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸エチル等の低級アルキルカルボン酸エステル、例えばセパシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸ミルスチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸トリグリセリド、リグノセリン酸セリル、セロリン酸ラクセリル、ラクセル酸ラクセリル等の脂肪酸エステル類、例えば炭酸プロピレン等の炭酸エステル類、例えばオリーブ油、やし油等の植物油類等を挙げることができる。好ましいものとしては、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル等の脂肪酸エステル類、やし油、オリーブ油等の植物油類を挙げることができる。 本明細書において「ピロリドン誘導体」とは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、1,5-ジメチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン等のピロリドン骨格を有する化合物のことである。好ましいものとしては、N−メチル−2−ピロリドンを挙げることができる。 本明細書において「有機酸」とは、例えば乳酸、プロピオン酸、カプリン酸、ソルビン酸、サリチル酸、没食子酸、酢酸、酪酸、吉草酸、レブリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などのモノカルボン酸、例えばアジピン酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、リンゴ酸、セバシン酸などのジカルボン酸、例えばクエン酸などのトリカルボン酸を挙げることができる。その他、薬学的に許容しうる有機酸であればよい。好ましいものとしては、レブリン酸、カプリン酸、ミリスチン酸、ソルビン酸を挙げることができる。これらの適用量としては全体の1〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%である。 本明細書において「有機塩基」とは、前段で言う有機アミン化合物と同じ意味のことを言うが、使用されるものとしては、目的に応じて、有機アミン化合物とは異なるものを使用することができる。−本発明の第二の態様− 本発明の第二の態様は、本発明の組成物を含有する外用剤に関するものである。 本明細書において「基剤」とは、製剤中の有効成分以外の添加物の中で、製剤を形成するための基本的な添加物のことを言う。例えば、軟膏剤においては、ワセリン、流動パラフィン、プラスチベースなどが基剤とすることが挙げられる。 クリーム剤においては、例えば、スクワラン、流動パラフィン、ワセリン、ラノリン、固形パラフィン、蜜ロウ等の油分と、水と、界面活性剤、保湿剤などを加えて乳化したものを基剤とすることが挙げられる。 液剤においては、例えば、イソプロパノール、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類と、例えばオリブ油、ダイズ油等の油脂類と水との混合溶液を基剤とすることが挙げられる。 貼付剤においては、粘着剤が基剤とされる。ここで言う粘着剤とは、主にエラストマーと粘着付与剤、軟化剤、充填剤、抗酸化剤等からなるものである。特に、軟化剤、充填剤、抗酸化剤は必要に応じ適宜増減、削除できる。 上記エラストマーとしては、例えばスチレン−イソプレン−スチレンブロック(以下SISという)共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエンゴム−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ブチルゴム、シリコンゴム等の合成ゴム、例えばポリアクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル等のアクリル酸系樹脂、天然ゴムなどを挙げることができる。好ましいものとしては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブテン、ポリイソプレン、ブチルゴム、天然ゴム等のゴム系重合体をベースとするものが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上記樹脂フィルムは単独で使用されてもよく、二種以上が積層されて使用されてもよい。 上記粘着付与剤とは、脂環族炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、ポリスチレン系樹脂、ロジン、水添ロジン等を言う。好ましいものとしては、脂環族炭化水素樹脂を挙げることができる。 上記軟化剤としては、例えばプロセスオイル、低分子ポリブテン等の石油系軟化剤、例えばヒマシ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、精製ラノリン等を挙げることができる。 上記充填剤としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸類などのものを挙げることができる。 上記抗酸化剤としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(以下BHTという)、4,4−ジオキシジフェニル、EDTA−2Na等を挙げることができる。 本発明の経皮吸収性外用剤は、種々の剤形の外用剤として経皮に適用することができる。そのような外用剤の剤形としては、液剤、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、リニメント剤、貼付剤、リザーバー型貼付剤などが挙げることができ、その製造は、製剤学的に汎用されている手段を採用して行うことができる。−本発明の第三の態様− 本発明の第三の態様は、脂肪酸系イオン液体を経皮吸収促進剤として使用することに関するものである。脂肪酸系イオン液体は、2層分離する有機溶媒を均一化させる界面活性剤の働きをすると共に、酸性薬物や塩基性薬物と相互作用して、複合イオン組成物を溶液中に形成すると考えられる。そして、この複合イオン組成物が皮膚への浸透性を高める働きをしていると考えられる。以上のことから、脂肪酸系イオン液体は、酸性薬物や塩基性薬物の新たな経皮吸収促進剤になっている。 脂肪酸系イオン液体として界面活性剤の働きを強化するためには、脂肪酸として炭素数が10以上のものが望ましい。例えば、カプリン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸等を挙げることができる。 また、経皮吸収促進剤としての働きを強化するためには、酸性薬物の場合には、脂肪酸として例えばイソステアリン酸やオレイン酸等の高級脂肪酸を使用し、有機アミン化合物としては、水酸基を持ったアルキルアミン化合物を使用することが望ましい。フリーの塩基性薬物の場合には、脂肪酸としては炭素数が10前後の中級脂肪酸が好ましく、有機アミン化合物としては、塩基性薬物のpKaと同等か、それより弱い塩基性のものが望ましい。例えば、トリイソプロパノールアミンやトリエタノールアミン等の三級アミン化合物を挙げることができる。−本発明の第四の態様− 本発明の第四の態様は、イソステアリン酸の等モル塩に関するものである。イソステアリン酸はpKaが約4.9であるので、等モル塩を作製するには、有機アミン化合物のpKaが約8.9前後以上のものを使用することが必要である。従って、有機アミン化合物としては、一級アミン化合物、二級アミン化合物が望ましいものとして挙げることができる。より好ましいものとしては、例えば、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン等を挙げることができる。 以下、実施例および試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。実施例1:酸性薬物(インドメタシン)含有の外用剤組成物(1)インドメタシン及びその塩の組成物と経皮吸収性 インドメタシン100mg(0.28mM)を秤取し、塩を作成する場合には等モル量の有機塩基等を添加する。更に、脂肪酸系イオン液体であるイソステアリン酸/ジイソプロパノールアミン(SDE/PG)を加えて、全量を1gとした。この試料をそのまま使用する。あるいは溶媒で4倍に希釈し、4ml溶液(インドメタシン濃度2.5%)とした。溶媒希釈溶液の100μlを秤取して、試験例1に準じフランツ・セルを用いた皮膚透過試験を行った。以下の表1に示されるように、有機塩基と塩基性薬物を用いてインドメタシンの塩を作製した。 以上のようにして、インドメタシンやインドメタシンの等モル塩を脂肪酸系イオン液体に溶解させた外用剤組成物を以下の表1の組成(数値はw/w%)で作製し、その経皮吸収性を評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表1に併せて示す。[注記]・ジイソ:ジイソプロパノールアミン・SDE:セバシン酸ジエチル・PG:プロピレングリコール 以上の結果に示されるように、インドメタシンは経皮吸収性が悪く、脂肪酸系イオン液体が存在しないと3μg/cm2程度の経皮吸収性しか認められない。しかし、イオン液体に溶解させれば、試験No.173に示されるように約30倍にも経皮吸収性が向上する。 しかし、医薬品添加物事典(2007年度版)によると、イソステアリン酸のような脂肪酸やジイソプロパノールアミンのようなアルキルアミン化合物には、使用上限が定められている。従って、脂肪酸系イオン液体の使用濃度は抑える必要がある。しかし、使用する薬物の含量が高ければ、溶解と複合イオン組成物形成に必要な脂肪酸系イオン液体の量も増加する。本発明では、取り合えず脂肪酸系イオン液体が25%以下の濃度となるように外用剤組成物の濃度を設定して以降の検討を進めた。 本発明の上記表1の組成物中には、以下のpKaを持つ酸性と塩基性の物質が存在する。 [注記] *1)エペリゾンと同等と仮定。 表1の場合、脂肪酸系イオン液体は、インドメタシン量の約7〜8倍モル量存在する。また、pKaの点で、脂肪酸系イオン液体の塩基(ジイソプロパノールアミン)のpKaより低いか同等であると、インドメタシン塩は塩基の交換反応を起こす。それ故、試験No.156、161、177、158では、本発明の外用剤組成物中では、ジイソプロパノール塩を主体とする複合イオン組成物が生成していると考えられる。その複合イオン組成物の経皮吸収性が外用剤組成物の経皮吸収性に影響していると考えられる。(2)脂肪酸系イオン液体の塩基の種類と経皮吸収性に対する影響 インドメタシンの複合イオン組成物の塩基部分の交換による経皮吸収性への影響を評価するため、上記(1)の方法に基づき、以下の表3の組成(w/w%)でインドメタシンの外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルで評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を、表3に併せて記載する。[注記]・ジイソ、SDE、PGは上記と同じ意味を表す。・ジエタ:ジエタノールアミン・トリイソ:トリイソプロパノールアミン・トリエタ:トリエタノールアミン 上記の結果によれば、イソステアリン酸系イオン液体の中で、有機アミン化合物が2級アミン(ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン)及び3級アミン(トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン)と変化しても、これら4種のイオン液体の変化による経皮吸収性に対する影響は少なく、インドメタシンの経皮吸収性は、ほぼ同じもの(約100μg/cm2)であった。 溶液中では、インドメタシンのジイソプロパノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリイソプロパノールアミン塩、トリエタノールアミン塩を主体とする複合イオン組成物が生成している。これらの複合イオン組成物の経皮吸収性が、表3の外用剤組成物の経皮吸収性に影響すると考えられるが、酸性薬物であるインドメタシンの場合には、塩基の変化はあまり経皮吸収性に影響を与えないことが分かった。(3)脂肪酸系イオン液体の酸の種類と経皮吸収性に対する影響 インドメタシンの複合イオン組成物の酸部分の交換による経皮吸収性への影響を評価するため、上記(1)の方法に基づき、以下の表4の組成(w/w%)でインドメタシンの外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルで評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を、表4に併せて記載する。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、PGは上記と同じ意味を表す。 SDE/PG溶媒においては、二層分離しやすく、SDE:PGが約9:1の場合にようやく均一に混合した。また、SDE:PGが1:1の場合、脂肪酸系イオン液体を一定量添加することによって、このイオン液体が界面活性剤的に作用し、均一溶液となることを確認した。即ち、SDE:PGが1:1の溶媒を1部として、0.2以上のイオン液体が存在すると均一溶液となることを見出した。 界面活性剤的な作用は、イソステアリン酸のような高級脂肪酸であると強いが、カプリン酸では強くない。レブリン酸においては、更に弱いことが分かった。例えば、イソステアリン酸の場合、イオン液体の量が0.16以上であれば、SDE:PGが1:1の溶液は二層分離せず均一溶液となることが分かった。 そこで上記の均一条件下で脂肪酸系イオン液体の酸部分の変化を評価した。レブリン酸系イオン液体の場合、均一溶液とならず二層分離した。 インドメタシンの場合、溶液中でジイソプロパノール塩の複合イオン組成物を形成する。その複合イオン組成物中には、イソステアリン酸等の脂肪酸が加わっており、その複合イオン組成物の安定性や経皮吸収性に大きな影響を与えていると考えられる。上記の結果は、これを支持するものであり、経皮吸収性に対する脂肪酸系イオン液体の寄与は以下のようになると考えられる。 SDE/PGの系は二層分離しやすいと考えられるので、PGよりもエタノールやイソプロパノール等の低級アルコールを使用すれば、二層分離を回避することができる。あるいは、以下の(5)のようにMIP/エタノールの系を使用すれば、経皮吸収性が更に向上することが示された。(4)酸性薬物(インドメタシン)の塩形成(イオン液体化)の程度と経皮吸収性への影響(インドメタシンに対する塩基の添加量とその効果) 前項(1)に準じて、インドメタシンに対するジイソプロパノールアミンの添加量を増加させ、溶液中の平衡反応を傾け、インドメタシンの塩が形成されるようにした。このようにイオン液体化の程度が異なる複合イオン組成物を作製し、その経皮吸収性を検討した。以下の表6の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製し、この組成物の経皮吸収性を試験例1に準じ評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表6に示す。[注記]・ジイソ:ジイソプロパノールアミン 試験No.173では、インドメタシン2.5%(2.5gで7mM相当)、イオン液体22.5%(22.5gで53.9mM相当)になるので、インドメタシンの約8倍モル量のジイソプロパノールアミンが存在する。インドメタシンのpKaは4.2であり、イソステアリン酸のpKaは約4.9であるので、溶液中のインドメタシンは大部分がインドメタシンのジイソプロパノールアミン塩となっていると考えられる。 ジイソプロパノールアミンの添加量を増加させると、経皮吸収性が増加し、インドメタシンと等モルの添加量と2倍モル量の範囲でピークを向かえる。塩基が過剰になってくれば、経皮吸収が抑制されることが分かった。 上記の結果では、アミンの添加量は3倍モル量の範囲まで、経皮吸収性が約100μg/cm2)前後となっている。これは、インドメタシンのジイソプロパノールアミン塩を主な成分とする複合イオン組成物(イソステアリン酸等も関与)が溶液中に生成し、その経皮吸収性が反映していると考えられる。(5)溶媒変化による経皮吸収への影響 前項の結果、インドメタシンの塩形成(複合イオン組成物)の程度が高いほど、経皮吸収性が高くなることが明らかになった。また、前項(3)の結果から、PGの代わりに均一に混合しやすい溶媒としてエタノールの可能性が示唆されるので、これを選択し、溶媒和された複合イオン組成物の経皮吸収性を検討した。前項(1)の方法に準じて、以下の表7の組成(w/w%)で外用剤組成物を作製し、試験例1に準じ経皮吸収性を評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表7に示す。[注記]・ジイソ、SDE、PG、MIPは上述のものと同じ意味を表す。 上記結果によれば、溶媒系がSDE/PG系からMIP/エタノール系に変更されると経皮吸収性は向上して9倍以上になることが示されている。 また、均一溶液であるため、脂肪酸系イオン液体の添加量も少量化できている。試験No.D522では、イオン液体化した薬物量の約1.7倍モル量の脂肪酸系イオン液体が添加されていれば、高い経皮吸収性が達成できている。更に、脂肪酸系イオン液体の添加量が多くても、試験No.D521のように、あまり影響を与えないと考えられる。(6)酸性薬物(インドメタシン)の塩に用いる塩基の種類と経皮吸収変化 インドメタシンと有機塩基との等モル塩(イオン液体を含む)を作製し、脂肪酸系イオン液体に溶解して複合イオン組成物を形成させ、その経皮吸収性を検討する。前記(1)に記載の方法に準じて、以下の表8記載の組成(w/w%)の外用剤組成物を作製し、試験例1に準じ経皮吸収性を評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表8に示す。[注記]・ジイソ、SDE、PG、MIPは前述記載のものと同じ意味を表す。 上記の結果に示されるように、試験No.161のジイソプロパノールアミン塩と比較して、いずれのアミン塩も経皮吸収性は良好ではない。しかし、前項(5)の場合と同じく、試験No.201とNo.378の結果から、溶媒をSDE/PG系からMIP/エタノール系に置換すれば、経皮吸収性が大きく向上することが示された。 溶媒変更によって経皮吸収性が大きく変化する理由として、一つには、溶液中に形成される複合イオン組成物が溶媒和されており、溶媒和された複合イオン組成物が経皮吸収性に大きな影響を与えること、もう一つには、溶媒自体が皮膚表面に働きかけて皮膚表面の薬物透過性を大きく変化させること、等が考えられた。 SDE/PG系溶媒でインドメタシン有機アミン塩の経皮吸収性が低い理由として次のことが示唆される。本発明の上記表8の組成物中には、以下のpKaを持つ酸と有機アミン化合物が存在する。有機アミン化合物はいずれもジイソプロパノールアミンよりも塩基性が高い。従って、溶液中で、脂肪酸系イオン液体の塩基(ジイソプロパノールアミン)と塩基交換することが少なく、それぞれのアミン塩を中心にした複合イオン組成物が主に生成していると考えられる。[注記]・アルカノールアミンのpKaはDOW社の公表値を記載。*1)n−ヘプチルアミン(pKa10.66)と同等と仮定。 従って、表8の結果から、SDE/PG系溶液中に形成される各種アミン塩との複合イオン組成物は、試験No.161のジイソプロパノールアミン塩の複合イオン組成物と比べて、経皮吸収性がよくないことが示された。ジイソプロパノールアミンとこれらの各種有機アミン化合物を対比すると、化合物の脂溶性(logP値)が異なることがわかる。その脂溶性の相違は水酸基の有無と水酸基の数に由来すると考えられる。例えば、N−ヒドロキシエチルピロリジンのように水酸基が1個の化合物では、経皮吸収性がよくなかったが、一方、表3の結果を見れば、水酸基を3つ持つ有機アミン化合物の方が経皮吸収性が良い傾向にあった。 以上のことから、酸性薬物と塩を形成させるために使用する有機アミン化合物としては、複数の水酸基が置換していることが好ましい。これにより水素結合に関与しやすくなり、溶液中に適切な複合イオン組成物が形成され、溶媒和されて、経皮吸収されやすい組成物になると考えられる。実施例2:酸性薬物(フルルビプロフェン)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、フルルビプロフェンを使用し、以下の表10の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表10に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PG、MIPは前述と同じ意味を表す。 フルルビプロフェンやそのリドカイン塩は、イオン液体を形成しており、それを脂肪酸系イオン液体に溶解して、複合イオン組成物を形成させると、経皮吸収性が約80倍近くに上昇する。フルルビプロフェンのpKaは3.78であり、イソステアリン酸(約4.9)より強い酸であるため、溶液中ではフルルビプロフェンのジイソプロパノール塩が主体となった複合イオン組成物が生成していると考えられる。そのため、試験No.151、118、122に示される経皮吸収性は良く似たものとなっている。 また、試験No.118と122に示されるように、溶媒をSDEからMIPに交換しても大きな影響は出なかった。 以上のことから、プロトン・アクセプター性の溶媒の中では、溶媒の種類を換えても余り影響がないことが分かった。また、表7に記載の試験No.D522等で示されるように、プロトン・ドナー性の溶媒を交換する方が、経皮吸収性に対する影響が強いと考えられる。実施例3:酸性薬物(エトドラク)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、エトドラクを使用し、以下の表11の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表11に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。*1)5種類のNSAID(ケトプロフェン、フルルビプロフェン、エトドラク、インドメタシン、ロキソプロフェン)との混合系のデータである。 エトドラクのリドカイン等モル塩は、イオン液体を形成する。それを脂肪酸系イオン液体に溶解して、複合イオン組成物を形成させる。その結果、脂肪酸系イオン液体が共存しない参考例40の場合と比較して、経皮吸収性が約25倍近くに上昇する。 エトドラクのpKaは4.5と酸性が低いが、イソステアリン酸(約4.9)よりも酸性が高い。それ故、溶液中では主に、エトドラクのジイソプロパノールアミン塩を中心とする複合イオン組成物が形成されている。そのため、試験No.139、140の経皮吸収性の値はほぼ同じものとなっている。実施例4:酸性薬物(イブプロフェン)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、イブプロフェンを使用し、以下の表12の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表12に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PGは前述と同じ内容を表す。 イブプロフェンのpKaは4.25であり、インドメタシンと同様のpKa値を示す。pKaの点からは、前述のインドメタシン、フルルビプロフェンやエトドラクと同様に、溶液中でイブプロフェンのジイソプロパノールアミン塩を中心にした複合イオン組成物が形成していると考えられる。それ故、脂肪酸系イオン液体が共存しない参考例172と比較して、経皮吸収性が約13〜19倍向上した。実施例5:酸性薬物(ロキソプロフェン)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、イブプロフェンを使用し、以下の表13の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表13に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 ロキソプロフェンのpKaは、4.20であり、インドメタシンやイブプロフェンとほぼ同じ値である。従って、溶液中にはロキソプロフェンのジイソプロパノールアミン塩を中心にした複合イオン組成物が形成していると考えられる。それ故、脂肪酸系イオン液体が共存しない参考例68と比較して、経皮吸収性が約5〜13倍向上した。実施例6:酸性薬物(ケトプロフェン)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、ケトプロフェンを使用し、以下の表14の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表14に併せて示す。[注記]・SDE、PG、ジイソは前述と同じ意味を表す。 ケトプロフェンのpKaは、3.90であり、フルルビプロフェンやリドカインとほぼ同じ値である。従って、溶液中にはケトプロフェンのジイソプロパノールアミン塩を中心にした複合イオン組成物が形成していると考えられる。それ故、脂肪酸系イオン液体が共存しない参考例40と比較して、経皮吸収性が約3〜9倍向上した。実施例7:酸性薬物(ジクロフェナク)含有の経皮吸収組成物 実施例1(1)に準じて、ジクロフェナクを使用し、以下の表15の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表15に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリイソ、SDE、PG、MIPは上記と同じ。・イソステアリン酸、オレイン酸/ジイソ、トリイソは、イソステアリン酸(6%)、オレイン酸(7%)、ジイソ(3.3%)、トリイソ(4%)の組成である。*1)ケトプロフェン、フルルビプロフェン、エトドラク、ジクロフェナク、インドメタシンの5つの化合物を各2.5%含有する混合系のデータである。 ジクロフェナクのpKaは4.0であり、オレイン酸、イソステアリン酸が約4.9であるので、脂肪酸系イオン液体に溶解した場合には、溶液中でジクロフェナクのジイソプロパノールアミン塩を主とする複合イオン組成物が生成していると考えられる。それ故、脂肪酸系イオン液体が共存しない参考例7と比較して、ジクロフェナクの経皮吸収性が約5〜10倍向上した。 なお、試験No.299に示されるようにジクロフェナクNa塩を使用しても、脂肪酸系イオン液体(イソステアリン酸/ジイソプロパノールアミン)に溶解し、高い経皮吸収性を示している。この場合も、溶液中では、ジクロフェナクのジイソプロパノール塩やリドカイン塩の複合イオン組成物が形成されると共に、イソステアリン酸のNa塩も形成され、均一溶液となっていると考えられる。それ故、試験No.306や307と同様の経皮吸収性を示したと考えられる。実施例8:塩基性薬物(リドカイン)含有の経皮吸収組成物(1)リドカインとその塩の経皮吸収性 実施例1(1)に準じて、リドカインを使用し、以下の表16の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表16に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。*1)リドカイン、トルペリゾン、ブビバカイン、エペリゾンが各2.5%共存した混合系のデータである。 リドカインあるいはその有機酸塩を脂肪酸系イオン液体に溶解して、溶液中に複合イオン組成物を形成すると、脂肪酸系イオン液体の共存しない参考例11、24の結果と比較すると、リドカインの経皮吸収性は約3〜5倍の範囲で向上する。即ち、試験No.94では、脂肪酸系イオン液体にリドカインが溶解して、リドカインのイソステアリン酸塩を主な成分とする複合イオン組成物が形成されると考えられる。 また、試験No.118、138、155、140に見られるように、リドカインの各種の塩を使用しても、経皮吸収性が向上し、約100μg/cm2前後の値を示している。これらの経皮吸収性のデータと上記表16に記載された各種の酸と塩基のpKa(以下の表17)とから、次のことが示される。 即ち、溶液中では、pKaの点でリドカイン塩に付加している各種の酸は、脂肪酸系イオン液体と酸の交換を起こす。例えばリドカインのフルルビプロフェン塩を用いた場合、フルルビプロフェンのジイソプロパノールアミン塩が主に生成していると考えられる。そのため、リドカインでは主にイソステアリン酸の塩として複合イオン組成物を形成していると考えられる。その結果、試験No.118、138、155、140の経皮吸収性は、試験No.94と同様の経皮吸収性を示している。即ち、リドカインのイソステアリン酸塩の経皮吸収性(約100μg/cm2)を示していることに他ならないと考えられる。(2)脂肪酸系イオン液体の種類と経皮吸収性に与える影響 リドカインは脂肪酸系のイオン液体に溶解して新たな複合イオン組成物を形成し、それが経皮吸収性に大きく寄与することが示されたので、脂肪酸系イオン液体の種類を以下のように検討した。a)脂肪酸系イオン液体の酸の効果 実施例1(1)に準じて、リドカインを使用し、以下の表18の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表18に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 脂肪酸系イオン液体の酸の効果を検討すると、イソステアリン酸系よりもカプリン酸系の方がより優れた経皮吸収性を示した。レブリン酸系イオン液体は界面活性剤的な効果が弱く、SDE/PG系溶媒の二層分離を抑制できなかった。脂肪酸系イオン液体の塩基の効果としては、水酸基を3つ持つ三級アミン(トリエタノール)の方がより優れた経皮吸収性を与えることが示された。 溶液中に形成されるイソステアリン酸塩複合イオン組成物とカプリン酸塩複合イオン組成物の経皮吸収性を比較すると、以下の表19のようになる。この結果は、酸性薬物に関する表5の経皮吸収性の傾向とは大きく異なっている。b)脂肪酸系イオン液体の塩基の効果 高い経皮吸収性を示したカプリン酸系イオン液体を使用して、塩基部分を変化させ、経皮吸収性に対する影響を検討した。測定は上記と同様に行い、以下の表20の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表20に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 リドカイン・カプリン酸塩は、カプリン酸系イオン液体で使用されている塩基の相違で溶液中ではそれぞれ異なる複合イオン組成物になっている。そこで、塩基とリドカインをpKaの順序で並べれば、以下の表21のようになる。 カプリン酸系イオン液体としてリドカインよりも塩基性が強い塩基を用いた場合には、試験No.133、143、146に示されるように、経皮吸収性はほぼ同じ約200μg/cm2前後の値を示している。一方、リドカインより塩基性が弱い塩基を使用した場合には、試験No.127に示されるように、約300μg/cm2の値を示している。 以上のことから、脂肪酸酸系イオン液体の塩基が、塩基性薬物のpKaよりも塩基性が強い場合には、経皮吸収性のためには余り寄与しないことが分かった。従って、リドカインの場合には、経皮吸収性を向上させるためには、リドカインの塩基性(pKa7.86)よりも、塩基性の弱いトリエタノールアミンを塩基として使用した脂肪酸系イオン液体が好ましいことが分かった。(3)経皮吸収性に対する各種のリドカイン塩の影響 リドカインを経皮吸収させるには、脂肪酸系イオン液体としてカプリン酸/トリエタノールアミンがよいことが分かった。そこで、このイオン液体に各種のリドカイン等モル塩を溶解させ、溶液中に複合イオン組成物を形成させて、リドカインに付加する有機塩の相違により、その経皮吸収性がどのような影響を受けるかを検討した。 実施例1(1)に準じて、リドカインを使用し、以下の表22の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表22に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 試験No.128と試験No.123〜127に見られるように、リドカインとリドカインの有機酸等モル塩をカプリン酸系イオン液体に溶解させた場合で、経皮吸収性が異なる。即ち、リドカイン有機酸塩の溶液と、リドカインだけの溶液とでは、リドカイン有機酸塩の溶液の方が、経皮吸収性は良いとの結果が得られた。 また、リドカイン有機酸塩を溶解させた場合の経皮吸収性は、試験No.123〜127に見られるように、約300μg/cm2の値を示し、塩を構成する有機酸の種類には余り影響を受けていない結果であった。 そこで、溶液中に存在する各種の酸と塩基のpKaを整理すると、以下の表23のようになる。 リドカインとトリエタノールアミンのpKaがほぼ同じであり、カプリン酸の存在量がリドカイン塩を構成する酸に対して約6〜7倍モル量となっている。従って、溶液中では、リドカインとトリエタノールアミンの交換反応が起き、リドカインのカプリン酸塩の複合イオン組成物が形成される濃度が高くなっていると考えられる。また、リドカイン有機酸塩の付加している酸のpKaがカプリン酸より高い(酸性が強い)場合には、存在量の多いトリエタノールアミンと塩基の交換を起こしやすいと考えられる。 従って、リドカインの場合に、脂肪酸系イオン液体としてカプリン酸/トリエタノールアミンを用いる場合には、溶液中でリドカインのカプリン酸塩の複合イオン組成物が主に生成していると考えられる。そのため、経皮吸収性がいずれのリドカイン塩においても約300μg/cm2前後の値になっていると考えられる。(4)リドカイン濃度(含量)の経皮吸収性に及ぼす影響 一般に、薬物の経皮吸収性は薬物濃度(含量)に依存する傾向がある。そこでリドカインに関しても、この事実を確認するため、以下のように、リドカイン含量が2〜20w/w%の組成のものを作製し、濃度依存による経皮吸収性の変化を検討した。 実施例1(1)に準じて、以下の表24の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表24に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PG、MIPは前述と同じ意味を表す。 上記結果に示されるように、リドカインの含量(濃度)が高くなるに従い、経皮吸収性が上昇することが分かった。 リドカイン20%含量(85.3mM相当)の場合、オレイン酸系イオン液体は10.3%(24.8mM相当)である。従って、リドカインに対してオレイン酸系イオン液体の存在量は約0.3倍モル量である。しかし、この程度の少ないオレイン酸系イオン液体の添加量でも、以下の表25の試験No.251、252と対比しても約2倍の経皮吸収性の向上効果が得られている。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PG、MIPは前述と同じ意味を表す。 更に上記表25の結果から、アルコール系溶媒の有無によって、リドカインの経皮吸収性は大きく変化することが分かった。即ち、アルコール系溶媒の存在によって、リドカインの経皮吸収性は約3~4倍向上する。 以上のように、MIPやSDEのようなプロトン・アクセプター性の溶媒と共に、アルコール系溶媒のようなプロトン・ドナー性溶媒が共存すると、薬物の経皮吸収性が更に向上することが示された。実施例9:塩基性薬物(トラマドール)含有の経皮吸収組成物(1)トラマドールに関する経皮吸収性 リドカイン(pKa7.86)より塩基性の強いトラマドール(pKa9.41)の塩酸塩を使用する場合、表21で示されたように、塩基性がトラマドールより強い有機アミン化合物を使用して塩酸を除去する必要がある。そのため脂肪酸系イオン液体の有機アミン化合物として塩基性の高いジイソプロパノールアミン(pKa9.00)を選択した。これにより、トラマドールと脂肪酸の複合イオン組成物を形成し易くなる。そこで、実施例1(1)に準じて、以下の表26の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性をフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表26に併せて示す。[注記]・ジイソ、トリエタ、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。・ピロリドン:N−メチル−2−ピロリドン 上記表26に示されるように、塩酸トラマドールを脂肪酸系イオン液体(カプリン酸ジイソプロパノールアミン塩)に溶解させると、更に経皮吸収性が向上することが示されている。 なお、脂肪酸系イオン液体の酸はトラマドールに対して約8〜11倍モル量存在する。また、溶液中に存在する塩基のpKaは、トラマドール(pKa9.41)の方がジイソプロパノールミン(pKa9.00)よりも塩基性が強い。 従って、pKaと存在量から考えて、試験No.360、362においては溶液中のトラマドールはカプリン酸塩を主とする複合イオン組成物を形成していると考えられる。溶媒系としては、SDE/PGよりもMIP/エタノール系の方が好ましい経皮吸収性を与えることが分かった。 また、添加物として、レブリン酸を加えると更に経皮吸収性が良好となることが示された。(2)脂肪酸系イオン液体の変化による経皮吸収性への影響a)脂肪酸の変化とその影響 塩酸トラマドールに対する脂肪酸系イオン液体の種類の効果を検討した。まず、脂肪酸系イオン液体の脂肪酸部分を変化させ、経皮吸収性を評価した。また、使用した溶媒系はリドカインの場合と異なり、二層分離しないMIP/エタノール系を用いた。前述と同様にして、以下の表27の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表27に併せて示す。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、MIPは前述と同じ意味を表す。 使用する脂肪酸系イオン液体によって、トラマドールの経皮吸収性が大きく異なっている。この相違は、前述するように、溶液中で形成される複合イオン組成物の経皮吸収性の相違に基づくものと考えられる。これらの複合イオン組成物の経皮吸収性には、以下の表28のような傾向があると考えられる。 上記経皮吸収性の傾向は、リドカインにおける表19の経皮吸収性の傾向とよく一致している。この傾向は、使用する塩基性薬物が相違し、使用する溶媒系も相違する状況で得られたものである。従って、塩基性薬物に関して経皮吸収性を向上させるためには、溶液中でカプリン酸系の複合イオン組成物を形成させることが好ましいと考えられた。b)塩基の変化とその影響 上記のカプリン酸系の複合イオン組成物に関する有機アミン化合物の効果を検討するため、以下の表29の組成(w/w%)に従って、脂肪酸系イオン液体の種類を換えた外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表29に併せて示す。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、MIPは前述と同じ意味を表す。 塩酸トラマドールに対して脂肪酸系イオン液体は約10倍モル量存在する。従って、溶液中では、それぞれトラマドールのカプリン酸塩を主体とする複合イオン組成物が形成されていると考えられる。また、塩酸トラマドールの塩酸部分は、脂肪酸系イオン液体の有機アミン化合物と塩を形成している。脂肪酸系イオン液体の有機アミン化合物の塩基性はトラマドールよりも弱いが存在量が多いので塩酸が除去されている。従って、溶液中では主にトラマドールのカプリン酸塩が形成されている。そのため、試験NO.313、329、328に示されるように、経皮吸収性は、いずれも約400μg/cm2前後の値を示し、トラマドールに対する脂肪酸系イオン液体の存在量が多ければ、有機アミン化合物のpKaの影響は少ないことが示された。(3)溶媒組成による経皮吸収性への影響 脂肪酸系イオン液体として、特にカプリン酸/ジイソプロパノールアミンが良好な経皮吸収性を与えることが分かったので、溶液中で生成しているトラマドール・カプリン酸塩の複合イオン組成物に関して、溶媒系の変化に対する経皮吸収性への影響を検討した。前述と同様にして、以下の表30の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表30に併せて示す。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、MIPは前述と同じ意味を表す。・ピロリドン:N−メチル−2−ピロリドン 溶媒組成の変化で経皮吸収性は210〜680μg/cm2の範囲で変動することが示されている。溶液中には、トラマドールのカプリン酸塩を主体とする複合イオン組成物が形成されており、共存する溶媒によって溶媒和されている。従って、上記の表30の経皮吸収性の変動理由は、一つには、使用溶媒によって皮膚表面の薬物透過性が影響を受けることであり、もう一つには、使用溶媒によって溶媒和された複合イオン組成物の性状が変化するので、それに伴い経皮吸収性が変化すると考えられる。 例えば、試験No.320に示されるように、経皮吸収性を向上させるためには、ある一定の溶媒和を行うことが必要と考えられ、低級アルキルアルコール(エタノール)や有機酸(レブリン酸)の添加が好ましいことが示された。(4)アルコール系溶媒の添加効果 溶媒系として、溶媒和を促進できるようにアルコール系溶媒の添加が望ましいことが分かったので、二層分離しにくいアルコール系溶媒を選択し、その効果を検討した。 前述と同様にして、以下の表31の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じてフランツ・セルにて測定、評価した。特に、経皮吸収性に関しては試験開始の3時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表31に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIPは前述と同じ意味を表す。 上記結果から示されるように、エタノールやイソプロパノールのような低級アルキルアルコールをプロトン・ドナー性溶媒として使用した場合には、ほぼ同様の経皮吸収性が見られた。しかし、n−オクタノールのような中級アルキルアルコールを使用した場合には、経皮吸収性が半減した。(5)塩酸トラマドールからの塩酸を除去する効果 塩酸トラマドールを使用した場合、溶液中には塩酸が存在し、脂肪酸系イオン液体の有機アミン化合物と反応して、その一部は例えばジイソプロパノールアミン塩酸塩を形成すると考えられる。そこで、系を単純化するため、塩酸を除くことを検討した。即ち、塩酸トラマドールに等モルの脂肪酸ナトリウムを添加し、塩化ナトリウムとして塩酸を除去した。これにより、トラマドールの脂肪酸塩とカプリン酸との複合イオン組成物が形成できることになる。 そこで、前述と同様にして、以下の表32の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性をフランツ・セルにて測定、評価した。特に、経皮吸収性に関しては試験開始の4時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表32に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIP、PGは前述と同じ意味を表す。 表32の結果によれば、カプリン酸と同様の炭素数8〜12の脂肪酸ナトリウムを使用した場合には、約250μg/cm2前後の経皮吸収性を示し、炭素数が14のミリスチン酸ナトリウムを使用すると、約2倍に経皮吸収性が向上した。ところが炭素数6で水酸基が5個のグルコン酸ナトリウムの場合には、経皮吸収性がよくなかった。このことは、溶液中に生成するトラマドールの複合イオン組成物の経皮吸収性を反映しているものと考えられる。 従って、上記表32の結果から、トラマドールの複合イオン組成物の経皮吸収性は、上記溶媒組成の中では、より脂溶性の高い脂肪酸(炭素数の多い脂肪酸)の方が、良好な経皮吸収性を与えることが分かった。実施例10:塩基性薬物(モルヒネ)含有の経皮吸収組成物(1)モルヒネ塩に関する経皮吸収性 塩基性薬物としてモルヒネを使用し、脂肪酸系イオン液体による経皮吸収性の向上を検討した。モルヒネの塩基性はpKa8.4であるので、これまでの結果から、脂肪酸系イオン液体の塩基は、以下の表33に示されるように、モルヒネから塩酸を脱離させるためにモルヒネより塩基性が高いものを選ぶことが必要である。 そこで、脂肪酸系イオン液体の有機アミン化合物としてはpKaが9.00のジイソプロパノールアミンを選択した。 実施例1(1)に準じ、以下の表34の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表34に併せて示す。[注記]・ジイソ、SDE、PG、MIPは前述と同じ意味を表す。 塩酸モルヒネは、アルコール系溶媒には可溶であるが、エステル系溶媒には難溶である。参考例374と試験No.388、371−2の結果等に示されるように、脂肪酸系イオン液体が添加されることにより、経皮吸収性は飛躍的に向上した。モルヒネの場合にも、脂肪酸系イオン液体として、カプリン酸系イオン液体が良好な経皮吸収性を与えることが示された。 また、試験No.371−2と試験No.369−2に示されるように、リドカインやトラマドールの場合と同様に、塩基性薬物においてはレブリン酸を添加すると、更に経皮吸収性が向上することが分かった。(2)脂肪酸系イオン液体の変化による経皮吸収性への影響a)脂肪酸の変化とその影響 塩酸モルヒネに関しても脂肪酸系イオン液体の種類の効果を検討した。まず、脂肪酸系イオン液体の酸部分を変化させ、経皮吸収性を評価した。また、使用した溶媒系はトラマドールの場合と同じ、二層分離しないMIP/エタノール系を用いた。前述と同様にして、以下の表35の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表35に併せて示す。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、MIPは前述と同じ意味を表す。 使用する脂肪酸系イオン液体によって、モルヒネの経皮吸収性が大きく異なり、以下の表36の傾向が見られた。 上記経皮吸収性の傾向は、リドカインの経皮吸収性の傾向(表19)ともよく一致している。しかし、トラマドールの経皮吸収性の傾向(表28)とは、オレイン酸とレブリン酸の順序が異なっている。以上のことから、塩基性薬物の経皮吸収性向上のためには、カプリン酸系イオン液体を溶媒として使用することが好ましいと考えられた。b)塩基の変化とその影響 カプリン酸系イオン液体の有機アミン化合物の効果を検討するため、以下の表37の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表37に併せて示す。[注記]・ジイソ、ジエタ、トリイソ、SDE、MIPは前述と同じ意味を表す。 上記表37に示されるように、モルヒネの塩は結晶性が高く、溶液中で塩の結晶が析出しやすい。従って、モルヒネの複合イオン組成物も、溶解度が低く、析出しやすいと考えられる。そのため、アルコール系溶媒の一定量が必要であると考えられる。なお、試験No.395の場合のように、複合イオン組成物が溶解している場合には、トラマドール(表29、試験No.329)と同様の経皮吸収性を示すことが分かった。 また、これらモルヒネの複合イオン組成物の経皮吸収性は、溶媒系の影響や経皮促進剤の添加効果を受けやすく、レブリン酸の添加によっても、大きく経皮吸収性が向上することが分かった。(3)溶媒組成による経皮吸収性への影響 モルヒネの場合、脂肪酸系イオン液体として、カプリン酸/ジイソプロパノールアミンが良好な経皮吸収性を示している。そこで、溶解性を影響を与える、溶媒組成の効果を検討した。前述と同様にして、以下の表38の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性は試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表38に併せて示す。[注記]ジイソ、SDE、PG、MIPは前述と同じ意味を表す。 上記表38に示されるように、アルコール系の溶媒が存在しないと沈殿が析出する。また、アルコール系溶媒としても、エタノールのような低級アルキルアルコールの添加が不可欠であることが示された。 更に、経皮吸収性を向上させるためには、リドカインやトラマドールと同様にレブリン酸等の有機酸の添加が好ましいことが示された。(4)アルコール系溶媒の添加効果 上述のように溶媒系として、低級アルキルアルコールの添加が望ましく、更にレブリン酸の添加が良好な結果を与えることが分かったので、低級アルキルアルコールの内容検討を行なった。そのため、前述と同様にして、以下の表39、表40の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性に関しては試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表39と表40に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIP、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 上記表39の結果から示されるように、エタノールやイソプロパノールのような低級アルキルアルコールを使用すれば、高い経皮吸収性を与えることが示された。しかし、低級アルキルアルコールの含量が低下し、5%付近になれば、経皮吸収性に影響するアルコール溶媒の効果は少なくなることが示された。 なお、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコールの場合には、20%付近の含量になれば、経皮吸収性に対して、あまり大きな影響を与えないことが示された。 同様のことは、以下の表40に示すように、使用する脂肪酸イオン液体が、カプリン酸/ジエタノールアミンの場合にも見出されている。[注記]・ジイソ、MIP、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 以上の結果は、モルヒネ(pKa8.4)よりもジエタノールアミン(pKa8.88)の塩基性が強いのでジイソプロパノールアミンと同様にモルヒネ塩酸塩から塩酸を除去できることと、脂肪酸系イオン液体の存在量が多ければ有機アミン化合物の影響を受け難くなることが考えられる。従って、表33に示されるように、モルヒネよりも塩基性の強い有機アミン化合物から作製された脂肪酸系イオン液体が、モルヒネに良好な経皮吸収性を与えることが示された。(5)脂肪酸系イオン液体の含量と経皮吸収性に対する影響 経皮吸収性を向上させるためには、塩酸モルヒネに対してどのような量の脂肪酸系イオン液体を使用すればよいのかを検討した。そのために、前述と同様にして、以下の表41の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性に関しては試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表41に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIP、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 上記表41の結果から、カプリン酸ジイソプロパノールのような脂肪酸系イオン液体の含量は、少なくとも8%(モルヒネの約5倍モル量)以上が望ましいことが示された。なお、含量が1%(モルヒネの約0.6倍モル量)のように極端に少ない場合には、モルヒネの複合イオン組成物があまり形成されず、経皮吸収性も良くないことが示された。(6)経皮吸収促進剤の添加効果 経皮吸収促進剤としてレブリン酸が良好であることは先に示した通りであるが、更にそれ以外の経皮促進剤(N−メチルピロリドン等)の効果を確認するため、前述と同様にして、以下の表42の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性を試験例1に準じフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性に関しては試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表42に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIP、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 上記表42に示されるように、レブリン酸、イソステアリン酸、N−メチル−2−ピロリドンは経皮吸収促進効果を示すことが分かった。L−メントールについては、経皮吸収性に、あまり寄与しないことが示された。また、試験NO.506に示されるように、レブリン酸やイソステアリン酸等の脂肪酸の含量が増加すると経皮吸収性が向上することが示された。 以上のように、一般的に使用される経皮吸収促進剤の中で、酸や塩基の化合物が好適であり、L−メントールはあまり好適なものではなかった。これは、酸や塩基の化合物の方が、溶液中で形成されるモルヒネの複合イオン組成物に、溶媒和等でより大きな影響を与えるからと考えられる。(7)塩酸モルヒネからの塩酸を除去する効果 塩酸モルヒネの複合イオン組成物から塩酸の影響を削除するため、等モルのカプリン酸ナトリウムを添加して、溶液内で反応させ、塩酸を塩化ナトリウムで系外に除去することを行なった。そのため、前述と同様にして、以下の表43の組成(w/w%)に従って、外用剤組成物を作製した。その組成物の経皮吸収性をフランツ・セルにて測定、評価した。経皮吸収性に関しては試験開始の6時間後の累積透過量で評価した。 その結果を以下の表43に併せて示す。[注記]・ジイソ、MIP、SDE、PGは前述と同じ意味を表す。 上記表43の結果から示されるように、塩酸モルヒネから塩酸を除去した場合(試験No.454)と、単にレブリン酸を等モル量添加した場合と比較すると、塩酸を除去せず、レブリン酸を添加した場合の方が、より良好な経皮吸収性を与えることが分かった。更に、試験No.506(表42)や試験No.400の結果から、脂肪酸系イオン液体の脂肪酸と異なる種類の脂肪酸の添加があれば、更に経皮吸収性が向上する傾向が見られた。実施例11:トラマドールと有機酸による等モル塩の合成(1)トラマドールの2−エチルヘキサン酸塩の合成 トラマドール塩酸塩を精製水に溶解し、約1.5倍のモル量の水酸化ナトリウムをこの溶液に添加し溶解させた後、更に約2倍容量の酢酸エチルを添加し、分液ロートを用い酢酸エチル画分を回収した。この画分から酢酸エチルを留去し油状のトラマドール(pKa9.41)を得た。このトラマドールと等モル量の2−エチルヘキサン酸をメタノールに加え、均一に混合した後、メタノールを留去することで、トラマドールの2−エチルヘキサン酸塩(粘稠油状)を合成した。得られた粘稠油状物をそのまま岩塩板に塗布し、赤外吸収スペクトル(島津製FTIR8400S)を測定した。 赤外吸収スペクトル(nujol)では、原料の2−エチルヘキサン酸のカルボン酸の吸収(1709cm−1)が消失し、新たにカルボキシルイオンの吸収(1597cm−1)が現れた。(2)他の有機酸塩の合成 前項と同様にして、他の有機酸のトラマドール塩を作製した。得られたトラマドール塩の中で、粘稠液体はそのまま(neat)で岩塩板に塗布して測定し、結晶はヌジョール(nujor)法で測定した。この結果を併せて表44に示す。 トラマドールの等モル有機カルボン酸塩では、IR測定の結果、遊離の有機カルボン酸の吸収(1700〜1730cm−1)が消失し、カルボキシルアニオン(1590〜1630cm−1)の吸収が発現した。 なお、トラマドールのデカン酸塩(融点約65℃)及び安息香酸塩(融点約140℃)は結晶形成性が良好であった。特にデカン酸塩は水に難溶であった。 実施例12:トラマドールの有機酸等モル塩を含有する液剤(1)脂肪酸系イオン液体が共存しない液剤: 実施例11(2)で得られたトラマドールの塩を以下の表45の組成(w/w%)でサンプル容器に秤取し、次いで流動パラフィンを300mg添加し、更にミリスチン酸イソプロピル:中鎖脂肪酸トリグリセリド(パナセート810)=1:1である溶媒を加えて、全量を2gに調製した。室温下で攪拌均一化してトラマドール塩の液剤を作製した。これらのトラマドール有機酸塩の液剤を用いて、試験例1に準じてラットの皮膚透過率試験を行なった。 その結果を、表45に併せて示す。[注記]・IPM:ミリスチン酸イソプロピル・MCT:中鎖脂肪酸トリグリセリド・ラット皮膚透過率は、6時間後の薬効成分の皮膚透過量を、ラット皮膚上に添加した薬効成分量の百分率で表した。 上記表45に示されるように、脂肪酸系イオン液体の存在しない液剤中では、トラマドールの酪酸塩や2−エチルへキサン酸塩の経皮吸収性が高く、カプリン酸塩やレブリン酸塩の経皮吸収性は塩酸塩の約1.5倍であった。(2)脂肪酸系イオン液体が共存する液剤: トラマドール塩酸塩80mgをサンプル容器に秤取し、次いで以下の表46(w/w%)に示されるように、脂肪酸系イオン液体、N−メチル−2−ピロリドンを加え、中鎖脂肪酸トリグリセリド(パナセート810)、イソプロパノール、ミリスチン酸イソプロピルの各溶媒を添加して、全量を2gに調製した。加温し攪拌均一化してトラマドール塩酸塩の液剤を製した。これらのトラマドール塩酸塩の含有液剤を用いて、試験例1に準じてラットの皮膚透過性試験を行なった。4時間後の皮膚透過量を用いて経皮吸収性を評価した。 その結果を、表46に併せて示す。[注記]・NM2P:N−メチル−2−ピロリドン・ジイソ、ジエタ、MIPは前述と同じ意味を表す。 上記表46に示されるように、脂肪酸系イオン液体を使用すると、いずれも経皮吸収性が向上した。経皮吸収性に関する脂肪酸系イオン液体の効果は、これまでの結果(表19、表28)と同じ傾向を示した。更に、低級アルキルアルコールの添加効果も大きく、添加量が多ければ、経皮吸収性が向上する傾向が見られた。 以上のことから、脂肪酸系イオン液体含量の減量とアルコール系溶媒含量の増量、あるいは脂肪酸系イオン液体含量の増量とアルコール系溶媒の減量の方法で対処可能であることが見出された。実施例13:トラマドールを含有するテープ剤の作製と経皮吸収性 実施例11(2)で得られたトラマドールのカプリン酸塩の結晶を用いて、以下の表47の組成(w/w%)の試剤を秤量し、公知のテープ剤作製方法により、トラマドールと脂肪酸系イオン液体を含有するテープ製剤を作製した。即ち、SISを加熱溶解し、カオリン、BHT、流動パラフィン、溶媒等を加え、混合した。溶解確認後、トラマドールのカプリン酸塩の脂肪酸系イオン液体溶液を添加し、均一な膏体を得た。得られた膏体を塗工しテープ剤を作製した。 得られたテープ剤の経皮吸収性を評価するため、フランツセルの形にテープ剤を切り、それを用いて、試験例1に準じてラットの皮膚透過率試験を行なった。6時間後の皮膚透過量を用いてトラマドールの皮膚透過率を評価した。 その結果を、表47に併せて示す。[注記]・MIP:ミリスチン酸イソプロピル・MCT:中鎖脂肪酸トリグリセリド・ラット皮膚透過率は、6時間後の薬効成分の皮膚透過量を、ラット皮膚上に添加した薬効成分量の百分率で表した。 上記表47に示されるように、液剤の結果と同様に、脂肪酸系イオン液体を加えることによって、テープ剤においてもトラマドールの経皮吸収性が向上した。参考例1:脂肪酸系イオン液体の作製(1)イオン液体の作製とIR吸収による塩形成の確認 以下の表48の4種の有機アミン化合物をそれぞれ5.0g秤取し、その有機アミン化合物と等モルの下記カルボン酸を秤取・添加して、80℃で加温し攪拌した。得られた均一溶液をサンプリングし、ヌジョールに溶解または混合させNaCl板に挟んでIR吸収を測定した。 下記カルボン酸のIR吸収が消失して、カルボン酸イオンの吸収が生成することを塩形成の指標とした。この結果を以下の表48に示す。[注記]・CO2H→CO2−とは、カルボン酸のIR吸収が消失して、カルボン酸イオンのIR吸収が生成したことを示す。・CO2H+CO2−とは、カルボン酸とカルボン酸イオンの経皮吸収が共存していることを示す。この場合には、IR的に平衡混合物になっていることが示されている。 更に、オクタン酸とラウリン酸に関して、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンを4倍モル量を反応させると平衡は塩に傾き、IR吸収からはフリーのカルボン酸が消失していた。従って、イオン液体が、塩を形成するためには、pKaの差として約4前後の値は必要と考えられる。(2)イソステアリン酸の等モル塩の作製 イソステアリン酸10.68gとジイソプロパノールアミン5.0g、あるいはイソステアリン酸13.53gとジエタノールアミン5.0gをそれぞれ秤取し、混合して約80℃に加温する。得られた無色粘稠溶液のIRスペクトルを取り、カルボキシル基の消失を確認した。以下の表49にイソステアリン酸の等モル塩のカルボキシル基の吸収位置の変化を示す。 IR測定については、イソステアリン酸とそのイオン液体を一部サンプリングし、ヌジョールに溶解または混合して岩塩板に塗布し挟んで測定した。 上記イソステアリン酸のジイソプロパノール塩(1:1)のIRスペクトルを図2に示す。なお、参考のために、イソステアリン酸のトリイソプロパノール塩(1:1)のIRスペクトルを図3に示す。参考例2:インドメタシン・脂肪酸系イオン液体含有製剤 本発明の外用剤組成物を含有するテープ剤を作成するため、インドメタシン・ジイソプロパノールアミン塩3.4w/w%、脂肪酸系イオン液体7.95w/w%(イソステアリン酸3w/w%、オレイン酸2w/w%、カプリン酸0.35w/w%、ジイソプロパノールアミン2.6w/w%)、溶媒4.4w/w%(MIP2w/w%、SDE2w/w%、ステアリルアルコール0.4w/w%)、流動パラフィン18.8w/w%、BHT1w/w%、アルコンp−100、44w/w%、SIS5250p 20.45w/w%の組成物を作成し、インドメタシン塩・脂肪酸系イオン液体含有テープ剤を作成する。試験例1:フランツセルによる経皮吸収性の評価試験 6週齢雄性のウイスター系ラットを用いた。試験前日にバリカンを用いて腹部を除毛しておき、エーテルにて安楽死後、腹部皮膚を摘出した。なお、状況によっては、雄性のウイスター系ラットの市販皮膚凍結品使用した。これらの腹部皮膚を縦型拡散セル(有効拡散面積:1cm2)に挟み、角質層側に表1に記載の各実施例及び参考例の各組成物を、また、真皮層側に生理的食塩水を適用した。実験温度は32℃とし、実験開始後2,4そして6時間目に生理的食塩水を300μLサンプリングし、皮膚を透過して溶出した薬物の濃度をHPLCにより測定し、各時間における薬物の累積透過量を測定した。 例えば、塩酸トラマドールを用いた場合の結果を示す。代表例として脂肪酸系イオン液体のない場合(試験No.338)と脂肪酸系イオン液体(試験No.319)の結果を図1に示した。 本発明の外用剤は、脂肪酸系イオン液体を使用することにより、酸性薬効成分や塩基性薬効成分をそれに溶解して複合イオン組成物を形成させることを特徴とする外用剤である。この複合イオン組成物に好適な溶媒組成、あるいは基剤組成を選択することにより、経皮吸収性が良好な、液剤、軟膏剤、テープ剤等を作製することができた。従来、経皮吸収性が悪く、投与ルートが経口投与に限定されていたような薬効成分においても、本発明の脂肪酸系イオン液体を使用して、外用剤を作製できることが明らかになった。これにより、副作用や代謝等の問題で、経口投与が困難であった薬効成分においても、本発明の外用剤に適用することにより、新たな用途を開拓することができるようになった。 レブリン酸、カプリン酸、イソステアリン酸及びオレイン酸からなる群から少なくとも一つ選択される脂肪酸と、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリイソプロパノールアミンからなる群から少なくとも一つ選択される有機アミン化合物の等モル塩である脂肪酸系イオン液体(但し、レブリン酸ジエタノールアミン塩、レブリン酸トリエタノールアミン塩を除く)を有効成分とする、酸性薬物あるいは塩基性薬物、またはそれらの塩の経皮吸収促進助剤。 脂肪酸がイソステアリン酸である、酸性薬物又はその塩を経皮吸収促進させるための、請求項1に記載の経皮吸収促進助剤。 脂肪酸がカプリン酸である、塩基性薬物又はその塩を経皮吸収促進させるための、請求項1または2に記載の経皮吸収促進助剤。 イソステアリン酸とジイソプロパノールアミンまたはジエタノールアミンの等モル塩である、脂肪酸イオン液体。 【課題】経皮吸収性の良好な外用剤組成物を提供する。【解決手段】薬物またはその塩を脂肪酸系イオン液体に溶解させて、薬物の複合イオン組成物を形成させることにより、経皮吸収性に優れた外用剤組成物を作製できる。この外用剤組成物は、液剤、軟膏剤、クリーム剤、硬膏剤等に使用でき、経皮吸収性に優れた製剤品を提供できるようになる。【選択図】なし


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