タイトル: | 公開特許公報(A)_創傷治療剤 |
出願番号: | 2013104722 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/716,A61P 17/02,A61K 35/68,A61P 43/00 |
鈴木 健吾 吉田 絵梨子 中野 長久 大串 美沙 JP 2014231479 公開特許公報(A) 20141211 2013104722 20130517 創傷治療剤 株式会社ユーグレナ 506141225 公立大学法人大阪府立大学 505127721 秋山 敦 100088580 城田 百合子 100111109 鈴木 健吾 吉田 絵梨子 中野 長久 大串 美沙 JP 2013096760 20130502 A61K 31/716 20060101AFI20141114BHJP A61P 17/02 20060101ALI20141114BHJP A61K 35/68 20060101ALI20141114BHJP A61P 43/00 20060101ALI20141114BHJP JPA61K31/716A61P17/02A61K35/68A61P43/00 111 7 5 OL 18 4C086 4C087 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA20 4C086GA17 4C086MA01 4C086MA04 4C086MA63 4C086NA14 4C086ZA89 4C086ZC02 4C087AA01 4C087AA02 4C087AA04 4C087BB01 4C087CA10 4C087CA14 4C087CA37 4C087NA14 4C087ZA89 4C087ZC02 本発明は、創傷治癒効果が高められた創傷治療剤に関する。 近年、切り傷,擦り傷,やけど等の創傷の層部の滲出液中に治癒を促進する種々の因子の存在が明らかになり、創傷の治療方法として、創部を滲出液で濡れた湿潤状態に保つ、いわゆるウェットドレッシングの研究が進められている。 このようなウェットドレッシング材としては、例えば、粘着性ポリウレタンフィルム,ハイドロコロイド等のほか、微生物由来セルロースの無定形ゲル創傷包帯が提案されている(例えば特許文献1)。 特許文献1の微生物由来セルロース無定形ゲル創傷包帯は、アセトバクター・キシリナムなどのセルロース産生生物により産生された生合成セルロースが、水酸化ナトリウム,過酸化水素による一連の化学的洗浄によって非発熱性が与えられてセルロース薄膜とされ、その後この薄膜が湿潤粉砕され、セルロース含量が約4重量%または約7重量%である無定形ゲル形状が作製されることによって調製される。 特許文献1の微生物由来セルロース無定形ゲル創傷包帯は、創傷に水分を与える水分供給源としての水分供給能力が増強されるだけでなく、滲出している創傷床から体液を吸収する体液吸収能力も同時に達成できる。特表2006−512981号公報(段落0015〜0016等) しかし、特許文献1の微生物由来セルロース無定形ゲル創傷包帯のような創傷治療剤において、更に創傷の治癒促進効果の高いものの開発が求められていた。 本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、創傷の治癒促進効果の高い新規な創傷治療剤を提供することにある。 本発明の他の目的は、創傷治癒過程のうち初期段階において治癒促進効果の高い創傷治療剤を提供することにある。 本発明者らは、鋭意研究した結果、驚くべきことに、ユーグレナ由来のパラミロンが、従来公知の創傷治癒促進剤と対比しても高い創傷治癒促進効果を有することを見出し、本発明に到達した。 また、創傷治癒過程は、炎症期,増殖期,成熟期という相互に重複する期間を有し、炎症期においては損傷部に湿潤する好中球や単球/マクロファージが重要な役割を担っていることが知られている(佐藤保則、「皮膚創傷治癒過程におけるインターロイキン(以下、IL)−10の発現とその法医学的応用」、金沢大学十全医学界雑誌、第108巻、第4号、p.486−502)。 そして、ユーグレナ由来のパラミロンは、特に、腫瘍性および炎症性マクロファージに作用し、炎症性サイトカイン分泌を促進することが分かった。 従って、前記課題は、請求項1によれば、ユーグレナ由来のパラミロンを有効成分とする創傷治療剤により、解決される。 このとき、請求項1記載の創傷治療剤が、受傷直後から炎症期までの期間を含む治癒過程にある創傷用の治療剤であってもよい。 パラミロンによるサイトカイン分泌促進効果は、受傷直後から炎症期,特に、炎症期の初期の間の期間において顕著であることから、このように構成することにより、創傷の治癒を効率よく促進することができる。 また、創傷の治癒過程における前記創傷の周囲の真皮の盛り上がりを促進して、前記創傷の周囲の真皮の形成を促進する創傷治療剤としてもよい。 創傷の周囲の真皮の盛り上がりが顕著な場合に創傷の治癒が早いことが、経験的に知られている。このような創傷治療剤として構成することにより、治癒過程の初期から治癒が促進され、創傷の早期治癒が可能となる。従って、治癒が進んでいることを実感し易くなり、身体的,精神的負担が軽減される。また同時に、連鎖的な創傷部位症状の悪化を防止し、身体の他の臓器、組織への影響も軽減し、全身的な治癒効果の向上が得られる。 前記創傷の治癒過程におけるサイトカイン分泌を促進する創傷治療剤としてもよい。 このように構成することにより、創傷治癒過程のうち、好中球やマクロファージが大きく関与する炎症期における創傷治癒を促進でき、治癒過程の初期から治癒が促進され、創傷の早期治癒が可能となる。従って、治癒が進んでいることを実感し易くなり、身体的,精神的負担が軽減される。また同時に、連鎖的な創傷部位症状の悪化を防止し、身体の他の臓器、組織への影響も軽減し、全身的な治癒効果の向上が得られる。 請求項1乃至4いずれか記載の創傷治療剤が、糖尿病患者用創傷治療剤であってもよい。 糖尿病患者では、細胞の遊走が鈍くなって、サイトカインの分泌が抑制されて、創傷の治癒の進行が遅れたり進まなかったりすることがあるため、本発明の創傷治療剤を糖尿病患者の創傷に適用することにより、サイトカインの分泌を促進し、創傷の治癒を進行させることが可能となる。 また、前記パラミロンを、80℃以下の温度でパラミロン溶解性溶媒に溶解させたパラミロン溶液を、前記パラミロンの貧溶媒であり、かつ前記パラミロン溶解性溶媒を抽出し得る溶剤中を通過させることにより得られるパラミロン成形体としてもよい。 このように構成することにより、患部に直接適用可能で、使い易い創傷治療剤を得ることができる。 また、創傷治療剤は、皮膚外用剤であるとよい。 本発明のユーグレナ由来のパラミロンを有効成分とする創傷治療剤によれば、従来公知の創傷治癒促進剤と対比しても高い創傷治癒促進効果を有する創傷治療剤を得ることができる。 また、創傷治癒過程のうち、好中球やマクロファージが大きく関与する炎症期における創傷治癒を促進でき、治癒過程の初期から治癒が促進され、創傷の早期治癒が可能となる。従って、治癒が進んでいることを実感し易くなり、身体的,精神的負担が軽減される。また同時に、連鎖的な創傷部位症状の悪化を防止し、身体の他の臓器、組織への影響も軽減し、全身的な治癒効果の向上が得られる。試験例1の実験プロトコルである。試験例1において、マウスに作製した欠損創及び適用したフィルム等の配置を示す説明図である。試験例1における各群のマウスの体重変化を示すグラフである。試験例1における各群のマウスの創傷面積比の変化を示すグラフである。試験例1における創傷作製0日目の各群のマウスの創傷周辺真皮面積の変化を示すグラフである。試験例1における創傷作製0日目の各群のマウスの創傷の外観を示す写真である。試験例1における創傷作製1日後の各群のマウスの創傷の外観を示す写真である。試験例1における創傷作製3日後の各群のマウスの創傷の外観を示す写真である。試験例1における創傷作製5日後の各群のマウスの創傷の外観を示す写真である。試験例1における創傷作製0日目,3日後,5日後のコントロール群のマウスの血中IL−6量を示すグラフである。試験例1における創傷作製3日後,5日後の各群のマウスの血中IL−6量を示すグラフである。試験例1における創傷作製0日目,3日後,5日後のコントロール群のマウスの血中IFN−γ量を示すグラフである。試験例1における創傷作製3日後,5日後の各群のマウスの血中IFN−γ量を示すグラフである。試験例1における創傷作製0日目,3日後,5日後のコントロール群のマウスの血中VEGF量を示すグラフである。試験例1における創傷作製3日後,5日後の各群のマウスの血中VEGF量を示すグラフである。 以下、本発明の実施形態に係る創傷治療剤について、説明する。 本発明の創傷治療剤は、ユーグレナ由来のパラミロンを主要成分とする創傷治療剤に関する。 本明細書において、創傷とは、外的,内的要因によって起こる皮膚組織等の体表組織の物理的な損傷である傷や潰瘍をいい、糜爛、切り傷、擦過傷、火傷、挫傷、裂創、咬創、褥瘡、糖尿病性潰瘍、皮膚の潰瘍等を含む。 本発明の「ユーグレナ」とは、動物学や植物学の分類でユーグレナ属(Euglena)に分類される植物、その変種、その変異種のすべてを含み、かつα−グルコシダーゼ活性の阻害作用を有する成分を含むすべての植物を意味する。 ここで、ユーグレナ属(Euglena)の微生物とは、動物学では原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属するミドリムシ目(Euglenida)のユーグレノイディナ亜目(Euglenoidina)に属する微生物である。一方、ユーグレナ属の微生物は、植物学ではミドリムシ植物門(Euglenophyta)のミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)に属するミドリムシ目(Euglenales)に属している。 ユーグレナ属の微生物としては、具体的には、Euglena acus、Euglena caudata、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena oxyuris、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridis、Euglena vermiformisなどが挙げられる。このうち特に、広く研究に利用されているユーグレナ グラシリス(Euglena gracilis)が好適である。 ユーグレナは、Cramer−Myers培地、Hutner培地、Koren−Hutner培地や、これらの一部組成を変更した改変培地などを用いて培養することができる。培養容器には、坂口フラスコ、三角フラスコ、試薬ビンなどを用いることができる。ユーグレナはCO2を資化するため、独立栄養培地であるCramer−Myers培地を用いて培養する場合は1〜5%CO2を含む空気を培地中に通過させることが好ましい。また、さらに、葉緑体を十分に発達させるために、培地1リットルあたり1〜5g程度のリン酸アンモニウムを加えるとよい。培養温度は、通常20〜34℃で、特に28〜30℃が好適である。また、培養条件にもよるが、ユーグレナは通常、培養開始後2〜3日で対数増殖期となり、4〜5日程度で定常期に到達する。 ユーグレナは、光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよい。 パラミロン(paramylon)とは、約700個のグルコースが、β−1,3−結合により重合した高分子体であり、ユーグレナが含有する貯蔵多糖である。パラミロンは、ユーグレナを、グルコースを主体とした培地上で培養することにより、その細胞内に蓄積させることができる。ユーグレナ細胞中のパラミロンは、細胞内では直径数μm程度の大きさの粒子状の形態をとり、細胞を破砕することにより簡単に取り出すことができると共に、アルコールやトルエン処理により精製することができる。 本発明では、創傷治療剤の調製に、パラミロン粉末が用いられるが、アルカリ処理、化学修飾、架橋結合等の処理を施したものや、水溶性パラミロン誘導体等を用いてもよい。 本発明の創傷治療剤は、創傷治療用外用剤であってもよく、創傷治療用外用剤は、フィルム状体としたパラミロンフィルムとするとよい。 本発明の創傷治療剤の一実施形態としてのパラミロンフィルムは、パラミロンを、室温以上80℃以下、好ましくは、60〜70℃の温度で、パラミロン溶解性溶媒に溶解させて、パラミロン溶液を調製し、このパラミロン溶液を、パラミロンの貧溶媒であり、かつパラミロン溶解性溶媒を抽出し得る溶剤中を通過させることにより、作製される。 パラミロンフィルムの作製方法では、まず、パラミロンを、室温以上80℃以下、好ましくは、60〜70℃の温度で、パラミロン溶解性溶媒に溶解させ、パラミロン溶液を調製する。 パラミロン溶解性溶媒としては、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液,DMSO(ジメチルスルホキシド),ギ酸水溶液のほか、ホルムアルデヒド等を用いてもよい。 また、イミダゾリウム陽イオンとハロゲンまたは擬ハロゲン陰イオンからなるイオン液体と窒素系有機溶媒、又はこのイオン液体とDMSO(ジメチルスルホキシド)からなる溶媒を用いてもよい。 ここで、イミダゾリウム陽イオンとハロゲンまたは擬ハロゲン陰イオンからなるイオン液体は、特に、化1の化学構造式で表される化合物が好ましい。 式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は炭素1〜4のアルキル基またはアリル基である。Xはハロゲン又は擬ハロゲンである。 これらのイオン液体としては、例えば、塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(BMIMCL)、臭化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、臭化1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートが挙げられる。 また、窒素系有機溶媒はN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。 イミダゾリウム陽イオンとハロゲンまたは擬ハロゲン陰イオンからなるイオン液体と窒素系有機溶媒、又はこのイオン液体とDMSO(ジメチルスルホキシド)からなる溶媒に対するパラミロン粉末の添加量は、パラミロン溶液中のパラミロン濃度が2〜20重量%の範囲であることが好ましい。 また、パラミロンをパラミロン溶解性溶媒に溶解させるときの温度は、80℃を超えると溶媒の分解が起こり始めるため、80℃以下とするとよい。また、低温であると、溶解に時間を要するため、60〜70℃とすると好適である。 次いで、パラミロン溶液を、40〜50℃に冷却し、公知のバーコート法により、ガラス基板に、ウェット膜厚が約700μmになるように、塗布する。ここで、バーコート法とは、基板よりも少し厚みのあるガイドを基板両側に置き、基板に垂らしたゲル状物質をバーで延ばす手法である。 次いで、バーコート法でパラミロン溶液を塗布したガラス基板を、凝固剤に浸漬する。パラミロン溶液の凝固に伴い、ゲルフィルムが基板から剥離してくるため、このゲルフィルムを引き上げ、新しい凝固剤に浸漬することを3回繰り返し、溶媒置換を行う。 本発明のパラミロン溶液の凝固剤としては、イオン液体および窒素系有機溶媒を抽出し得る溶剤であれば無機系溶剤または有機系溶剤のいずれでもよく特に制限されるものではないが、水、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、酢酸メチル等のエステル類、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が好ましい、これらのうちで水、アセトン、メタノール、エタノールが本発明の課題を達成するために特に好ましく用いられる溶剤である。 その後、ゲルフィルムをガラス基板に貼り付け、室温で2−3時間乾燥を行い、乾燥後、基板から剥離して厚さ約20μmのフィルムを得る。 また、以上の実施形態では、本発明の創傷治療剤を、フィルム状体として形成したが、バーコート法でフィルム状に成形する代わりに、押し出し機能を持つ紡糸機の容器に入れ、ノズルからパラミロン溶液の凝固剤中に吐出することにより、繊維状に形成してもよい。また、押し出し機を用いて、ペレット状等他の形状に成形してもよい。 また、ユーグレナ由来のパラミロンと共に、薬学的に許容される製剤担体として、従来から公知の剤型としてもよい。 具体的には、パスタ剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、貼付剤、パップ剤、パッチ剤などの剤型、エマルジョン型の剤型等とすることができる。 パスタ剤は、油性パスタ剤の剤型で使用でき、基剤成分として、例えば脂肪類、ロウ類、炭化水素等が使用される。 また、軟膏剤の場合には、基剤成分として、例えば脂肪類、多価アルコール、炭化水素等を使用することができる。 クリーム剤の場合には、基剤成分として、例えば界面活性剤、高級アルコール、高級脂肪酸、炭化水素、多価アルコール、水(精製水)等を使用することができる。 液剤及びゲル剤の場合には、基剤成分として、例えば水(精製水)、低級アルコール、ケトン類、脂肪類、多価アルコール、界面活性剤、炭化水素、合成及び天然高分子等を使用することができる。但し、パラミロンは水に不溶性のため、基剤成分として水を用いる場合には、パラミロンの代わりに、水溶性パラミロン誘導体等を用いてもよい。 また、本発明の創傷治療剤は、治療剤自体をそのまま患部に塗布してもよいが、例えば、当該外用剤をさらに伸縮性を有する布や不織布あるいはプラスチックシート等に塗布したパップ剤やプラスター剤等の貼付剤として患部に適用してもよい。また、液剤の剤型とした創傷治療用外用剤を、スプレー容器に格納し、患部に噴霧してもよい。 創傷治癒過程は、炎症期,増殖期,成熟期という相互に重複する期間を有し、炎症期においては損傷部に湿潤する好中球や単球/マクロファージが重要な役割を担っている。マウス皮膚損傷部におけるIL−10蛋白の発現量は、損傷部に遊走する好中球が徐々に増加する炎症期早期(受傷後3時間)にピークに達した後、一旦減少し、マクロファージの集簇が最も顕著となる炎症期極期(受傷後72時間)に再びピークに達し、mRNAの発現もこれとよく相関するという報告がある(佐藤保則、「皮膚創傷治癒過程におけるインターロイキン−10の発現とその法医学的応用」、金沢大学十全医学界雑誌、第108巻、第4号、p.486−502)。ここで、IL−10は、抗炎症性サイトカインである。 各時期における具体的な期間は、例えば、炎症期が、受傷後0〜3日,増殖期が、受傷後3日〜2週間,成熟期が、受傷後2週間〜数か月又は年等といわれている。 そして、本発明者らの実験により、ユーグレナ由来のパラミロンは、特に、腫瘍性および炎症性マクロファージに作用し、炎症性サイトカイン分泌を促進することが分かっている。炎症性サイトカインとしては、例えば、TNF−α,IFN−α,IFN(インターフェロン)−γ,IL−6等が挙げられる。 従って、本発明の創傷治療剤は、少なくとも、創傷の受傷直後から、治癒過程のうち炎症期までの間に、創傷に適用されるとよい。 このように適用されることにより、炎症期早期,炎症期極期等におけるサイトカインの分泌が効率よく促進され、創傷の治癒促進効果が向上する。 また、本発明の創傷治療剤は、細胞の遊走が鈍くなり、サイトカインの分泌が抑制される糖尿病患者の創傷に適用される糖尿病患者用創傷治療剤として用いられてもよい。 以下、実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。<実施例1:パラミロンフィルムの作製> 塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(BMIMCL)とジメチルアセトアミドを5:2の比率で混合した混合溶媒100部に対し、パラミロン粉末10部を加え、60〜70℃にて、パラミロン粉末を溶解してパラミロン溶液を得た。この溶液を40〜50℃に冷却し、バーコート法により、ウェット膜厚約700μmとなるよう、ガラス基板に塗布した。その後、塗布物を、ガラス基板ごとメタノール浴に浸漬した。パラミロン溶液の凝固に伴い、ゲルフィルムが基板から剥離してくるため、ゲルフィルムを引き上げ、新しいメタノールに浸漬することを3回繰り返し、溶媒置換を行った。その後、ゲルフィルムをガラス基板に貼り付け、室温で2〜3時間乾燥した。乾燥後、基板から剥離して厚さ約20μmのパラミロンフィルムを得た。<試験例1:実施例1のパラミロンフィルムによる創傷治癒促進作用の検討> マウス背部に作製した欠損創の修復を評価することにより、実施例1のパラミロンフィルムの抗炎症作用,創傷治癒促進作用の検討を行った。なお、本試験例1は、図1に示す実験プロトコルに沿って行い、順化期間および本試験期間は水および飼料を自由摂取とした。マウスMは、室温22±1℃、明暗サイクル12時間(明サイクル:8:00−20:00)で飼育した。 また、本試験例1は、実験動物の飼養及び保管等に関する基準(2006:環境省告示)に則り実施した。1.創傷の作製及び各種フィルム等の固定 まず、8週齢の雄性Jcl:ICRマウス(日本クレア株式会社)を、4日間、飼育繁殖用飼料CE−2(日本クレア株式会社)で順化した。 次いで、マウスMは、抱水クロラール(400mg/kg:和光純薬工業株式会社,東京)麻酔下において、バリカンと除毛ジェルムース(レキットベンキーザー・ジャパン株式会社,東京)を用いて、背部を広範囲に除毛した。マウスMを横向きに寝かせて背部の皮膚を引っ張りながら重ねて、生検パンチ(直径8mm)で上皮を切りぬき、図1に示すように、直径8mmの創傷1を作製した。 実施例1群のマウスについては、創傷1に、生検パンチで直径8mmの円形とした実施例1のパラミロンフィルムFを傷に埋め込み、ドレッシングフィルム2(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,東京,以下同じ)を用い、図2のように固定を行った。 また、比較例1群のマウスについては、創傷1に、生検パンチで直径8mmの円形とした比較例1のセルロースフィルムF(透析用セロハンチューブ23.8φ×5m,分画分子量10,000−14,000:株式会社ケニス,大阪)を傷に埋め込み、ドレッシングフィルム2を用い、図2のように固定を行った。 比較例2群のマウスは、コントロール群であり、創傷1に、何も塗布せず、絆創膏およびドレッシングフィルム2を用い、図2のように固定を行った。2.創傷治癒経過の観察 上記1.で創傷を作製した各群について、創傷作製後0日目,1日後,3日後,5日後,7日後におけるマウスの体重,創傷治癒面積と、0日目,1日後,3日後,5日後におけるマウスの創傷周辺の真皮の盛り上がった部分の大きさの評価を行った。 各群の抗炎症の治癒度合いとして、経日的な創傷治癒面積を、創傷面積比を用いて算出した。 創傷面積比は、 創傷面積比(%)=A/B×100 但し、A:各測定日における欠損創部の長径×短径 B:欠損創作製日における欠損創部の長径×短径により算出した。 また、創傷周辺の真皮の盛り上がった部分の大きさとして、経日的な創傷周辺真皮面積を算出した。 創傷周辺真皮面積は、 創傷周辺真皮面積(mm2)=C−A 但し、C:各測定日における創傷周辺真皮の長径×短径 A:各測定日における欠損創部の長径×短径により算出した。 創傷周辺の真皮の盛り上がりが大きい場合には、創傷の治癒が促進されることが経験的に知られていることから、本試験例では、各群のマウスの創傷周辺の真皮の盛り上がった部分の大きさを評価することとしたものである。 データの集計および解析には、統計解析プログラムである4stepsエクセル(登録商標)統計Statcel 3(有限会社オーエムエス出版,埼玉)を使用した。各群の正規化を確認後、解析を行った。 各群内の差および各群間の差の検定には分散分析(ANOVA:two−way layout)および多重比較検定(Tukey−Kramer)を用いた。なお、有意水準は5%未満とし、すべての分析値は平均±標準偏差で表した。 各群のマウスの体重の0,1,3,5,7,10日における測定結果を、図3に示す。図3のように、実験期間を通じて、各群間において体重による大きな変化はみられなかった。 各群のマウスの創傷面積比の0,1,3,5,7,10日における測定結果を、図4に示す。図4のように、創傷作成日0日目と比較し、3,5,7,10日目には各群とも創傷面積比は減少していた。特に、実施例1のパラミロンフィルム群において経日的に顕著に減少していた。 各群のマウスの創傷周辺真皮面積の0,1,3,5,7,10日における測定結果を、図5に示す。図5のように、創傷周辺真皮面積は、3日目までは各群共に変化はみられなかった。しかし、5日目には、実施例1のパラミロンフィルム群において、顕著な増加がみられ、比較例1群及び比較例2群の2倍の面積になり、その後、7日目には、比較例1よりも小さくなった後、10日目には、比較例1,2と同様の面積になっていた。 また、各群のマウスの5,7日における創傷面積比及び創傷周辺真皮面積を、表1に示す。 従って、実施例1群では、図5に示すように、比較例1,2よりも早い時期に創傷治癒過程のうち炎症期での治癒が進行し、図4に示すように、3日目以降において、創傷自体の面積が比較例1,2よりも小さくなっていたことが分かった。 実施例1群は、真皮の形成時期を早め、傷を治癒していた。実施例1群は、自然治癒に近く、体に負担を与えずに治癒を促進する効果があることが分かった。 図6〜図9は、それぞれ、創傷作製後0日目,1日後,3日後,5日後における各群の創傷周辺の写真である。目視による観察では、創傷作製後1日後に、実施例1のパラミロンフィルム群のみにおいて、創傷周辺の真皮が大きく盛り上がっていることが観察された。 以上より、図6,図7に示すように、比較例1,2と対比し、実施例1のパラミロンフィルム群では、創傷作製後0,1日後に、比較例1,2と対比して創傷周辺の真皮が大きく盛り上がっているのが目視で観察されると同時に、図7〜図9に示すように、創傷作製後1日後から5日後までの間,そのうちでも特に5日後において、比較例1,2と対比して創傷周辺真皮面積が顕著に大きくなっていた。 また、実施例1のパラミロンフィルム群では、創傷作製後1日後から7日後までの間,特に、5日後から7日後において、創傷治癒面積も、比較例1,2と対比して、創傷の面積が顕著に小さくなっていた。 創傷周辺の真皮の盛り上がりの大きいときには、創傷の治癒が促進されることが、経験的に知られている。実施例1のパラミロンフィルム群においても、図6,図7に示すように、創傷作製後0,1日後に、創傷周辺の真皮が大きく盛り上がっていることが観察され、その後図7〜図9に示すように、創傷の治癒が大幅に促進されていた。3.ELISA法による血中サイトカイン量の測定 上記1.で創傷を作製した各群のマウス血中のIL−6量,IFN−γ量,VEGF量を、ELISA法(サンドイッチ法)で測定した。 上記1.で創傷を作製した各群について、創傷作製後0日目,3日後,5日後におけるマウスの血液を、ELISA用サンプルとした。 測定には、PeproTech社のELISA Kitを使用した。 IL−6量,IFN−γ量,VEGF量の測定結果を、図10〜図15に示す。図10,図12,図14は、比較例2のコントロール群における創傷作製後0日目,3日後,5日後の血中IL−6量,血中IFN−γ量,血中VEGF量を示しており、図11,図13,図15は、実施例1のパラミロンフィルム群,比較例1のセルロースフィルム群,比較例2のコントロール群における創傷作製後3日後,5日後の血中IL−6量,血中IFN−γ量,血中VEGF量を示している。 図12,図13より、比較例1,2では、3日後にIFN−γ量が減少していたが、実施例1では、3日後におけるIFN−γが多く、実施例1のパラミロンフィルム群では、治癒初期にあたる炎症期後期に血中IFN−γが発現し、その後、低下する傾向がみられた。 IFN−γは、腫瘍性及び炎症性マクロファージの活性化に寄与するサイトカインであり、炎症期に過剰放出される。炎症期には、IFN−γを含む炎症性サイトカイン,ヒスタミン,プロスタサイクリン等の過剰放出により、血管拡張や血管透過性亢進が生じる。 実施例1では、図13に示すように、治癒初期において炎症性サイトカインの一つであるIFN−γが、比較例1,2と対比しても顕著に発現していた。この傾向は、上記2.において、治癒初期に当たる炎症期に創傷周辺の真皮が大きく盛り上がり、その後創傷の治癒が大幅に促進された結果と一致していた。F フィルム(パラミロンフィルム,セルロースフィルム)M マウス1 創傷2 ドレッシングフィルム ユーグレナ由来のパラミロンを有効成分とする創傷治療剤。 請求項1記載の創傷治療剤が、受傷直後から炎症期までの期間を含む治癒過程にある創傷用の治療剤であることを特徴とする創傷治療剤。 創傷の治癒過程における前記創傷の周囲の真皮の盛り上がりを促進して、前記創傷の周囲の真皮の形成を促進することを特徴とする請求項1又は2記載の創傷治療剤。 前記創傷の治癒過程におけるサイトカイン分泌を促進することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の創傷治療剤。 請求項1乃至4いずれか記載の創傷治療剤が、糖尿病患者用創傷治療剤であることを特徴とする創傷治療剤。 前記パラミロンを、80℃以下の温度でパラミロン溶解性溶媒に溶解させたパラミロン溶液を、前記パラミロンの貧溶媒であり、かつ前記パラミロン溶解性溶媒を抽出し得る溶剤中を通過させることにより得られるパラミロン成形体からなることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の創傷治療剤。 請求項1乃至6いずれか記載の創傷治療剤が、皮膚外用剤であることを特徴とする創傷治療剤。 【課題】創傷の治癒促進効果の高い新規な創傷治療剤及びその製造方法を提供する。【解決手段】ユーグレナ由来のパラミロンを有効成分とする創傷治療剤であって、受傷直後から炎症期までの期間を含む治癒過程にある創傷用の治療剤である。創傷の治癒過程における前記創傷の周囲の真皮の盛り上がりを促進して、前記創傷の周囲の真皮の形成を促進し、創傷の治癒過程におけるサイトカイン分泌を促進する。また、糖尿病患者用創傷治療剤として用いられる。【選択図】図5