タイトル: | 公開特許公報(A)_液体浸透吸収判定方法 |
出願番号: | 2013104605 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 21/17 |
山越 学 JP 2014224777 公開特許公報(A) 20141204 2013104605 20130517 液体浸透吸収判定方法 独立行政法人 国立印刷局 303017679 山越 学 G01N 21/17 20060101AFI20141107BHJP JPG01N21/17 B 2 1 OL 13 2G059 2G059AA05 2G059BB04 2G059BB08 2G059EE02 2G059EE17 2G059FF01 2G059FF04 2G059GG01 2G059GG02 2G059HH02 2G059HH06 2G059KK04 2G059MM01 本発明は、任意の試料液体を紙基材に滴下し、試料液体表面にレーザ照射を行った時に発生するスペックルパターンを用いて、紙基材への液体の浸透吸収判定を行う方法に関するものである。 印刷業界では、多種多様なインキ、製紙業界では、新規プライマリ剤(インキ密着性や意匠性向上のために施される印刷物下地材)やサイズ剤(基材に対し、インキや水の浸透抵抗性を与える薬剤)等の開発が行われている。それらを製品化するにあたっては、前述の多種多様なインキと新規薬品が添加された紙との密着性や、薬剤の配合や性能評価を行うことが重要であり、その評価項目の一つに紙への浸透吸収適性の評価が挙げられる。 その紙への浸透吸収適性の評価は、容易に、かつ、安価で客観的に測定できることが求められている。 紙基材への吸液特性を評価するものに、ブリストー法(JAPAN TAPPI No.51)とよばれる標準試験方法がある(例えば、非特許文献1参照)。これは、帯状に加工された試料紙片を回転ホイールの円周上に沿うように巻きつけ、わずかに染色された試料液体が充填された液体ヘッドボックスを試料紙片に接触させ、ホイールを一定速度で回転させて液体を紙片に転移させ、そのトレース長、液体の転移性から吸収特性を評価するものである。 インキ及び水等の液体の浸透に対する紙の抵抗性を評価する方法として、ステキヒトサイズ度法(JIS P8122)と呼ばれる標準試験方法がある(例えば、非特許文献2参照)。これは、試験片の四すみを折り、試薬溶液A上に浮かべ、同時に試薬溶液Bを1滴落とす。その瞬間から、3個の発色反応の斑点が表出するまでの時間を測定し、サイズ度として吸収特性について評価するものである。 また、紙又は板紙の片面が一定時間水と接触するときの吸水度の標準試験方法として、コッブ法(JIS P8140)と呼ばれるものがある(例えば、非特許文献3参照)。これは、質量測定後の試料紙片を台と金属環の間に固定し、所定量の水を注ぎ入れて所定時間接触させた後、吸取紙で表面の水を除き、質量を測定し、単位面積あたりの吸水量を求め、吸水度として吸収特性について評価するものである。 また、注射針を用いて紙上に液滴を落としたときの濡れ性の試験方法として、接触角法(TAPPI T458)がある。これは、紙表面と液体との接触角の変化を、投影法、写真法及び顕微ゴニオメータ等の方法により測定し吸収特性について評価するものである。 さらに、積層した複数枚の紙を一対の電極版で水平にはさみ、積層された最下部の紙の底部から液体と積層の厚み方向に浸透させ、電極版における静電容量の経時変化を計測し、浸透度を検査する方法及び装置に関する発明が出願されている(例えば、特許文献1参照)。特開2007−255891紙パルプ技術協会、紙パルプ技術便覧、5版、1992年JIS P 8122 紙及び板紙−サイズ度試験方法−ステキヒト法(日本規格協会)JIS P 8140 紙及び板紙−吸水度試験方法−コッブ法(日本規格協会) 現在、任意の試料液体、特にインキジェットインキやグラビアインキのような低粘度インキの紙基材への浸透吸収適性を評価するための方法又は装置は存在しない。さらには、前述した全ての方法では、試料液体の種類と体積が限定的であり、任意の液体の種類や体積に適応することが困難である。また、試料液体の付与手段についても限定的であり、滴下された試料及び塗布用ローラによって付与された試料への対応が困難である。 より詳細には、前述したブリストー法(JAPAN TAPPI No.51)に基づく方法は、最も普及し、様々な紙に対する液体浸透機構の解明に用いられている一方、ホイールの回転機構、試料液体ヘッドボックス作動部、液体ヘッドの液体供給ノズル、液体加圧機構と連結ホース等の大掛かりの装置が必要である。それに、装置の機構上、浸透時間が短い液体の測定に不向きである。また、試料液体を交換するたびに装置のクリーニングを行うことが、大きな労力となっている。なお、検体は、回転ホイール装置に適合するように加工する必要があるため、小さな試験片を測定することができない。さらに、試料液体の付与方法が極めて限定的であり、必ずしも滴下された一定体積の液体試料の浸透・吸収時間を計測することができるものではない。 ステキヒトサイズ度法(JIS P8122)は、液体の浸透に関する評価方法であるが、特定の試薬A及びBに限定されており、規定試薬以外である、例えば、低粘度インキ及びアルコール等といった任意液体の浸透時間を計測することができない。また、本方法は、両試薬の発色反応を人が主観評価するものであり、客観性が十分とはいえない。 コッブ法(JIS P8140)は、水以外の任意の液体にも適用可能な方法であるが、インキジェットインキや筆記用インキのような少量の試料液体が接触する場合の評価法ではないと定められている。 接触角法(TAPPI T458)は、任意の試料液体が浸透吸収し、前述の液体がレベリング(水平化)する状態を観察することができる。しかし、観察方向は、試料の側面方向であるため、試料表面(凹凸の間)に残留した液体の有無を確認することができない。したがって、試料液体の浸透吸収の終了を正確に判定することができるものではない。 その他の測定方法として、特許文献1に示される液体浸透度検査方法および液体浸透度検査装置は、二枚の板状金属電極の間にある水分量を、その電極がコンデンサであると考えたときの電気容量変化から読みとるコンデンサ方式によるものである。しかし、適用可能な液体試料は、電導度の高い塩溶液に限定されてしまう。 よって、前述したこれらの方法では、多くの種類の液体に対応することができず、試料液体が限定的であった。また、試料液体の体積や試料液体の付与方法に関しても限定されてしまう問題があった。 そこで、本発明は、レーザ光を用いて、基材表面の変化状態をスペックルパターンとして観察することで、あらゆる試料液体に対応するとともに、試料液体の体積及び付与方法に関しても高い自由度を有する。また、測定対象となる基材に対しても特別な加工を必要とせず、液体試料の基材に対する浸透吸収適性を、容易に、かつ、客観的に測定することができる方法を提供し、前述の課題を解決することを目的とする。 紙基材上に液体を滴下する工程と、液体を滴下した位置にレーザ光を照射する工程と、液体を滴下した位置から反射したレーザ干渉光をスペックルパターンとして時間経過に伴って撮影し、複数の画像データとして取得する工程と、複数の画像データから相関係数を算出する工程と、相関係数が極小値を示したときに、滴下した液体が浸透して紙基材が露出したと判断し、紙基材へ液体が浸透したと判定する工程と、を有することを特徴とする液体インキ浸透吸収判定方法。 取得する工程は、あらかじめ所定の撮影間隔で撮影を行い、目安となる極小値を示す時間を求め、求められた目安となる極小値を示す時間を基準とする前後の期間は、所定の撮影間隔より短い間隔で撮影し、複数の画像データとして取得することを特徴とする液体浸透吸収判定方法。 本発明の液体浸透吸収判定方法は、低出力のダイオードレーザ、汎用CMOSカメラ、PC及び相関係数演算部を主要構成とする簡易な装置構成ながら、基材に滴下された試料液体にレーザ照射をしたときに発生するスペックルパターンの経時変化を観察することによって、従来技術では不可能であった、グラビアインキ及びインキジェットインキ等の低粘度インキや、インキワニス、有機溶剤、油及び水等の任意の試料の試料基材への浸透吸収の計測が可能になった。 また、本発明の液体浸透吸収判定方法は、専門的知識を必要とせず、迅速で簡易に液体の浸透吸収時間を客観的に計測する方法であり、ブリストー法のように、試料液体ごとの装置及び関連部品のクリーニングが不要である。 また、試料液体の体積に関しても自由度が高く、任意の設定で対応することができるとともに、コッブ法では適用不可能な筆記用インキのような少量の試料液体にも対応が可能である。また、試料液体を付与する方法は、滴下方式に限定されず、筆やローラで塗布された試料の計測にも適用が可能である。 さらに、ブリストー法に見られるような、ローラに固定するための試料紙片の加工が不要である。また、液体浸透度検査方法および液体浸透度検査装置と呼ばれる発明(特開2007−255891)のように、規定寸法、かつ、複数枚の試料紙片が不要である。本発明では、試料紙片固定台に固定可能な必要最小限の単一の試料紙片だけで測定が可能である。本発明の液体インキ浸透吸収判定方法におけるフローチャート図である。液体インキ浸透吸収判定装置の概略図である。液体の浸透吸収を示す模式図である。スペックルパターンの例である。経過時間と時間的に隣接するスペックルパターン間の相関係数の値である。(実施例1)経過時間と相関係数のグラフである。(実施例1)経過時間と時間的に隣接するスペックルパターン間の相関係数の値である。(実施例2)経過時間と相関係数のグラフである。(実施例2) 本発明の概要を、図面を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。 図1は、本発明の液体インキ浸透吸収判定方法のフローチャート図であり、図2は装置の模式図である。これらを用いて説明する。 本発明の液体インキ浸透吸収判定方法について、図1を用いて説明する。まず、振動等の外的要因によって動かないように固定された試料紙片上に、試料液体を滴下(S1−1)する。滴下すると同時に、試料液体表面にレーザを照射(S1−2)し、発生するスペックルパターンを時間経過に伴って撮影し、画像データとして取得(S2)する。取得した画像データから相関係数を算出(S3)する。その後、極小値を示す時点を試料液体と試料紙片の浸透吸収時間と判定(S4)する。なお、各工程の詳細については、図2の液体インキ浸透吸収判定装置の模式図を用いて後述する。 測定する試料紙片(4)については、市販される紙全般に関して測定が可能であり、上質紙、中性紙、再生紙、塗工紙、コート紙及び和紙等といった、あらゆる紙において適応し、滴下する試料液体(3)については、水、アルコール、インキジェットインキ、有機溶剤及び油等のあらゆる液体が適応する。特に揮発性の少ない液体については、浸透の判定に優れている。よって、これら試料紙片(4)と試料液体(3)について、自由度が高く、あらゆる組合せで測定可能である。 なお、試料紙片(4)が異なれば、同じ試料液体(3)を用いても、浸透時間が異なり、試料紙片(4)が同じでも、異なる試料液体(3)を用いれば、浸透時間が異なることはいうまでもない。 次に、実際の測定方法について説明する。まず、前述した試料紙片(4)の固定として、試料紙片(4)が外的要因によって不安定にならないように、治具(5)上に設置された試料紙片固定台(6)に、静電吸着や粘着テープ等を用いてしっかりと固定する。 液体試料の滴下(S1−1)は、試料紙片固定台(6)の上に、外的要因から影響を受けないように固定された試料紙片(4)の上部方向に同じく固定されたマイクロピペットやマイクロシリンジ等の滴下器具を用いて行う。この際、試料紙片から滴下器具の先端までの距離は、試料紙片の差し替え等のクリアランス距離を考慮すると約1cm程度が望ましいが適宜設定の範囲とする。ただし、必要以上の距離に設定すると滴下液体が重力によって加速することが考えられるので注意が必要である。 水等のように表面張力が比較的大きい液体試料の場合は、所望する試料体積での滴下が困難な場合がある。このような場合には、試料紙片固定台に昇降機能を付与し、滴下装置の先端部に所望する規定の試料体積が蓄えられた時点で、試料紙片固定台を滴下装置方向に上昇させて液体を紙片に付与させた後に下降する方法が想定される。この際には、紙片を下降させた(元の位置に戻した)時点で、所定の場所にレーザ照射とスペックルパターンの撮影が可能なように位置関係を適宜設定することが必要である。 また、ここでいう滴下とは、紙片試料の上方から液体を落とす方法だけに限定するのではなく、ローラ塗布や筆記によるもの等、任意の方法で試料液体を付与する方法が想定される。なお、ローラ塗布により試料液体を付与する場合には、試料紙片の浮き沈みに注意する必要がある。また、筆記による場合は、レーザを照射する位置から外れないことが求められる。 また、試料液体を滴下(S1−1)し、レーザ照射(S1−2)とスペックルパターン撮影(S2)を開始する。レーザを照射するタイミングやスペックルパターンの撮影を開始するタイミングとしては、試料液体の滴下と同時に行えば浸透時間を算出する際に時間的な補正をする必要はないが、滴下と照射が同時に行えない場合は、滴下した後、所定の時間後からレーザを照射しても良い。その場合は、浸透時間を算出する際に、前述の所定の時間分の補正を忘れずに行うことが必要になる。 レーザ照射(S1−2)は、変化を確認するためのスペックルパターンを生じさせるためにコヒーレントな光を用いて、試料液体を滴下(S1−1)した液体表面にレーザを照射(S1−2)する。使用するレーザに関しては、市販の半導体レーザ等を用いることができ、特に限定はない。また、レーザの設置箇所については、目安として試料紙片固定台(6)の上部15cm程度の位置が良いと考えられる。理由としては、測定操作を行う際に試料液体滴下部(1)との干渉を起こさない距離であり、作業性からも試料の交換がしやすいといった利点である。また、装置としても、巨大化せず取り扱いやすい大きさであると考えられる。しかしながら、この設置箇所に関しては、実際に測定を行う者が、外部からの干渉の起こらない所望の箇所に設置して問題ない。出力は、レーザ光を照射される試料液体がレーザ光の照射による加熱によって蒸発しないように、数mW〜10mW程度の微弱なものが良い。 経時変化における基材上の状況を見極めるために、試料にレーザを照射(S1−2)し、試料から反射したスペックルパターンを市販のCMOSカメラやCCDカメラ等を使って時間経過に伴い複数回撮影し、画像データを取得(S2)する。撮影する間隔については、適宜設定すれば良く、1秒以下の間隔でも数秒間隔でも良い。また、等間隔で撮影しても良いし、必要に応じて一時的に短い間隔で撮影をしても問題はない。 また、効率的、かつ、判定の精度の更なる向上を図るためには、浸透時間の目安を算出するために事前測定として、10秒程度の長めの間隔で撮影を行い、浸透時間の目安を算出することで、本測定の際に、事前測定であらかじめ得た浸透時間の目安の前後のタイミングで撮影する間隔を短くすることが望ましい。 なお、浸透時間の目安の前後のタイミングについては、事前測定の撮影間隔や試料液体が試料紙片に浸透する時間が影響してくる。そのため、少なくとも浸透時間の目安を基準に前後30秒の合計1分間程度を浸透時間の目安の前後のタイミングとして撮影する間隔を短くすることが望ましい。 浸透時間の目安を基準に前後30秒程度ずつ幅を持たせることで、確実に真の浸透時間(厳密な浸透時間)がその期間に存在し、精度良く測定することができる。 例えば、事前測定を10秒の等間隔で撮影し、浸透時間の目安を算出する。その後、本測定において、事前測定であらかじめ得た浸透時間の目安の30秒前から30秒後までの間、撮影する間隔を2秒おきとし、撮影する間隔を短くする。そのことで、浸透時間をより正確に、かつ、効率的に判定することができる。 前述で撮影したスペックルパターンを画像データとして取得(S2)する。取得した後に、後述する相関係数の算出に使用する汎用パソコンに内蔵された記憶媒体に直接入力しても良いし、一度、外部記憶媒体に保存し、他の専用回路基板等にデータを再入力しても良い。 次に、取得した画像データをもとに時間的に連続するスペックルパターンの相関係数を求める(S3)。この相関係数は、時間的に連続するスペックルパターンの類似性を示す値であり、類似性が低いときに、相関係数も低い値をとり、類似性が高くなるにつれて、相関係数も高い値をとる。 算出された相関係数の変化から浸透時間を算出する(S4)。この相関係数は、試料液体の滴下後、時間経過に伴い徐々に低下して最小値となる。その後、上昇に転じて値は大きくなる。その最小値は、数学的用語において極小値という。その極小値を示す時間が、浸透時間となる。相関係数と浸透については、判定原理を踏まえて後述する。 また、必要に応じて、前述で求めた相関係数と時間とのグラフを作成しても良い。グラフを作成することにより、相関係数の変動が理解しやすいという利点がある。このグラフ作成は、汎用パソコンに導入されている表計算ソフトを用いて行うと容易に行うことができる。もちろん、汎用パソコンを用いるだけでなく、専用回路基板を用いたり手作業でプロットすることで、グラフを作成しても問題はない。 本発明において、相関係数を類似性の指標として使用しているが、相関係数に限らず位相限定相関法や差分絶対値和等、時間経過における前後のスペックルパターンの類似性を算出することができる他のアルゴリズムを使用しても構わない。 また、本発明でいう液体及び低粘度インキの基材への浸透吸収とは、滴下又は任意の手段で基材に付与された液体が、基材に浸透吸収するとともに、基材表面上に存在する液体の体積が徐々に低下し、やがて、連続した滑らかな液体表面が破断し、基材表面の微細な凹凸形状が部分的に露出し、最後に、基材表面の微細な凹凸形状が全面的に露出する状態を液体の浸透吸収が終了したものと判断する。 任意の低粘度インキの場合も同様であり、滴下又は任意の手段で基材に付与された低粘度インキ中の各種の溶剤成分が、基材に浸透吸収するとともに、基材表面上に存在する低粘度インキの体積が徐々に低下し、やがて、連続した滑らかな低粘度インキの表面が破断し、基材表面の微細な凹凸形状又は低粘度インキ成分中の溶剤を除く顔料成分、若しくは、その双方が部分的に露出し、最後に、低粘度インキ中の各種の溶剤成分が浸透吸収し、基材表面の微細な凹凸形状又は低粘度インキ成分中の溶剤を除く顔料成分、若しくは、その双方が全面的に露出する状態をインキの浸透吸収が終了したものと判断する。 本発明における浸透吸収の判定の原理について、図3の試料液体(3)と試料紙片(4)から構成される模式図と、図6の70%エタノールの相関係数と時間のグラフ(実施例1で算出した相関係数と時間のグラフ)を用いて説明する。 本発明は、試料紙片上への試料液体の滴下直後からレーザ照射によって発生するスペックルパターンの経時変化を利用している。より詳細には、図3に示される状態Aから状態Bへと推移するときは、試料液体(3)が徐々に試料紙片(4)への浸透に伴い、滑らかな液体表面の一部が破断し、試料紙片表面の微小な凹凸が所々突出している最中である。このとき、照射したレーザ光は、表面形状が変化している試料液体(3)から反射し、スペックルパターンとして捉えることから、時間的に隣接するスペックルパターンの類似性を示す相関係数は、前述のスペックルパターンの変化が大きくなるにつれて低下する。これが、図6のグラフでいう(ア)の状態である。 さらに、時間の経過に伴い、図3の状態Cになる。これは、試料紙片(4)の基材表面の微細形状が全面的に露出した状態であり、図3の状態Bまでは、試料液体(3)から反射したスペックルパターンであったが、試料紙片(4)から反射したスペックルパターンに変わった瞬間である。このとき、経時変化における連続する前後の類似性が最も低くなり、時間的に隣接するスペックルパターンの類似性を示す相関係数は、状態Cの時点で極小値をとる。これが、図6のグラフでいう(イ)の状態である。 その後、試料紙片(4)の基材表面から試料液体(3)がなくなり、照射したレーザ光は、試料紙片(4)の基材表面から反射したスペックルパターンを捉えることとなり、微細形状が変化しない安定した状態が継続されるので、時間的に隣接するスペックルパターンの類似性が高まり、相関係数は上昇傾向に転じる。これが、図6のグラフでいう(ウ)の状態である。 よって、浸透時間は、本発明において、基材表面の微細な凹凸形状の全面的な露出の状態(図3状態C)を、時間的に隣接するスペックルパターン間の相関係数の変化、詳細には、相関係数の経時変化における極小値によって見極めるものである。 液体インキ浸透吸収判定装置(S)に設置された試料紙片固定部(6)に、試料紙片(再生紙)(紀州製紙(株)PPC100)(4)を固定する。液体インキ浸透吸収判定装置(S)の試料液体滴下部(1)に固定されたマイクロピペットを用いて試料液体(水、70%アルコール、汎用インキジェットインキ)を滴下した。このとき、滴下する高さを1cmとし、滴下すると同時にレーザ照射部(2)に固定された汎用ダイオードレーザ(波長:675nm、出力:6.8mw)を用いて、滴下された試料液体を照射した。 前述のレーザの照射に伴い、紙片に滴下された液体表面から発せられるスペックルパターンを、試料液体の滴下直後から汎用のCMOSカメラ(8)を用いて撮影した。 実施例における撮影間隔については、水の特性から浸透吸収時間が10分程度と予想されたため、誤差を考慮して10秒間隔と設定した。 なお、汎用CMOSカメラ(8)(画像サイズ:1280×960pix、画素サイズ:4.65×4.65um)には、照射するレーザの波長に対応したバンドパスフィルタ(波長域670nm)を装着した。図4に汎用PC(7)内に入力されたスペックルパターンの例を示す。 時間的に隣接する二つのスペックルパターンの画像データp及びqは、次のように表される。 このとき、これらの画像の相関係数R(p,q)は、次式で表される。 経過時間と時間的に隣接するスペックルパターンの相関係数の値を図5に示す。試料紙片として紀州製紙株式会社製PPC100(再生紙)、試料液体として、水、70%アルコール、汎用インキジェットインキを選定し、浸透吸収の測定し、それぞれの試料液体の相関係数の極小値をとった時間、いわゆる、浸透吸収の時間を読み取ると、水は9分10秒、70%アルコールは3分50秒、汎用インキジェットインキは40秒となることが分かった。 なお、本実施例では、スペックルパターンの撮影間隔を試料液体の水、70%アルコール及び汎用インキジェットインキにおいて共通の10秒としたが、試料液体によって異なる撮影間隔を用いても良い。また、必要に応じて、10秒より短い撮影時間間隔に設定しても問題はなく、測定者が適宜設定すれば良い。さらに、事前に予備的な測定を行うことで、浸透吸収時間の終了の目安を付け、前述の浸透吸収時間の終了の目安の前後のタイミングで撮影間隔を狭めることができ、効率的、かつ、正確な測定を行うことができる。 また、本実施例において、隣接するスペックルパターンを時間的に比較評価する方法として、ごく一般に広く用いられている相関係数を用いたが、本実施例における数学的演算に限定されず、経時変化するスペックルパターン画像の変化の度合いが分かればその他の方法を用いても良い。〔比較例〕 本発明の測定精度を確認するために、TAPPI(The Technical Association of the Pulp and Paper industry) の規格である接触角法(TAPPI T458)を用いて実験を行った。接触角計(共和界面化学株式会社、FACECA−X型)を用いて、本実施例で用いた試料紙片に対する水と70%アルコールの液体の浸透吸収に伴う液滴の接触角度が0度になるまでの時間を計測した。この方法をとった理由は、浸透吸収によって試料液体が水平化した時点を滴下液体の接触角度が0度を示した時点とみなすことができることや、課題でも前述したが、ブリストー法、ステキヒトサイズ度法及びコッブ法では、試験片の大きさや試料液体の量に関して制限や、任意の液体の測定が不可能なことから、比較的に制限を受けることのない接触角法を選んで確認実験を行った。計測した結果、水は8分50秒であり、70%アルコールは3分40秒となった。この結果は、本発明より若干短めに出る傾向となった。これは、接触角度法の測定方法が、紙片表面の垂直方向からでなく、側面方向から測定を行っていることから、紙片表面の凹凸間に入り込んだ液体までを正確に測定することができないという欠点があるからである。なお、本発明での水と70%アルコールの測定結果と接触角度法での水と70%アルコールの測定結果には、相関性を確認することができ、本発明と接触角法との整合性を確かめることができた。 以上、実施例1で述べたとおり、試料紙片への浸透吸収とともに紙片表面上に存在する試料液体の体積が徐々に低下し、やがて、連続した滑らかな液体表面が破断するとともに、紙片表面の微細な凹凸形状が部分的に露出し、最後に、紙片表面の微細な凹凸形状が全面的に露出し、試料液体の浸透吸収が終了したことを、試料液体(3)の表面から発せられるスペックルパターンの経時変化を観察することによって判定する方法の詳細を開示した。 本実施例2では、実施例1とは異なる試料紙片として、塗工紙(日本製紙株式会社製、Npiコート)を用い、試料液体として、70%アルコールと水を用いた場合の浸透吸収時間の測定例について述べる。なお、測定に用いた装置及び測定手順は、実施例1で述べた装置及び方法と同一である。 経過時間と時間的に隣接するスペックルパターンの相関係数の値(それぞれの試料液体における極小値の前後の時間と相関係数の値)を図7に示す。図7より、塗工紙に対する試料液体の浸透吸収時間は、70%アルコールは5分20秒、水は14分30秒であることが分かった。また、この結果をグラフ化したものを図8に示す。 この結果から、実施例1で用いた再生紙から実施例2で用いた塗工紙に変更したことによって、試料液体の浸透時間が長くなったが、これは、塗工紙に含有される顔料や樹脂材が、液体の浸透を阻害したことが考えられる。その他にも、再生紙(非塗工紙)の場合、紙の表面に凹凸があり、塗工紙の場合、コーティングされていることから、紙の表面は滑らかであるため、液体との接触面の大きさの違いからも浸透時間の差が生じたものと考えられる。 なお、実施例1と同様に、スペックルパターンの撮影間隔は、適宜設定の範囲であり、試料液体によって異なる撮影間隔を用いても良いし、短い撮影時間間隔に設定しても問題はなく、測定者が適宜設定すれば良い。さらに、事前に予備的な測定を行っても良い。 また、実施例2においては、時間的に隣接するスペックルパターンの比較評価として、ごく一般に広く用いられている相関係数を用いたが、本実施例における数学的演算に限定されず、経時変化するスペックルパターン画像の変化の度合いが分かればその他の方法を用いても良い。 以上、実施例1及びん実施例2で示したとおり、本発明は、異なる試料液体の場合や異なる試料紙片の場合にも適応が可能であり、あらゆる試料液体、試料紙片の組合せおいて液体の浸透吸収時間の判定が可能な方法である。1 試料液体滴下部2 レーザ光照射部3 試料液体4 試料紙片5 治具6 試料紙片固定台7 汎用パソコン8 汎用CMOSカメラ 紙基材上に液体を滴下又は付与する工程と、 前記液体を滴下又は付与した位置にレーザ光を照射する工程と、 前記液体を滴下又は付与した位置から反射したレーザ干渉光をスペックルパターンとして時間経過に伴って複数回撮影し、複数の画像データとして取得する工程と、 前記複数の画像データから相関係数を算出する工程と、 前記相関係数が極小値を示した時に、前記紙基材へ前記液体が浸透したと判定する工程と、を有することを特徴とする液体浸透吸収判定方法。 前記取得する工程は、あらかじめ所定の撮影間隔で撮影を行い、目安となる極小値を示す時間を求め、求められた前記目安となる極小値を示す時間を基準とする前後の期間は、前記所定の撮影間隔より短い間隔で撮影し、複数の画像データとして取得することを特徴とする請求項1記載の液体浸透吸収判定方法。 【課題】測定対象となる液体試料、体積及び付与方法に高い自由度を有するとともに、測定対象となる基材に対しても特別な加工を必要とせず、液体試料の基材に対する浸透吸収適性を、容易、かつ、安価で客観的に測定することができる方法を提供することを目的とする。【解決手段】 本発明は、レーザ光を検体に照射し、基材から反射したレーザ干渉光をスペックルパターン(画像)として観測した後、相関係数を求め、その変化状態から、客観的に液体試料の基材に対する浸透吸収判定を行う方法を提供する。【選択図】 図1