タイトル: | 公開特許公報(A)_ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子 |
出願番号: | 2013100984 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 33/547,G01N 33/553,B82Y 25/00,G01N 33/543 |
石原 一彦 井上 祐貴 石原 絵美 松下 夏子 JP 2014222152 公開特許公報(A) 20141127 2013100984 20130513 ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子 国立大学法人 東京大学 504137912 三菱瓦斯化学株式会社 000004466 特許業務法人 津国 110001508 津国 肇 100078662 柳橋 泰雄 100131808 伊藤 佐保子 100119079 小澤 圭子 100135873 田中 洋子 100122747 石原 一彦 井上 祐貴 石原 絵美 松下 夏子 G01N 33/547 20060101AFI20141031BHJP G01N 33/553 20060101ALI20141031BHJP B82Y 25/00 20110101ALI20141031BHJP G01N 33/543 20060101ALI20141031BHJP JPG01N33/547G01N33/553B82Y25/00G01N33/543 501J 7 OL 23 本発明は、磁力により容易に分離し回収することができ、生体分子の非特異的な吸着が抑制された、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子に関する。 生体分子を特定の粒子に捕捉させることは、生体分子の分離、精製、測定、検出等を行う手段として非常に有用である。 生体分子を特定の粒子に捕捉させることによって、例えば、感染症や癌のバイオマーカーやホルモン等の検査対象物質を患者から検出して診断すること、核酸やタンパク質等の特定の生体分子を分離・定量すること、特定の細菌や細胞を分離することができる。 そのため、生体分子を捕捉することができる粒子(生体分子捕捉粒子)について広く検討が行われている。例えば特許文献1には、磁性粒子表面に重合開始基を導入し、当該重合開始基を重合開始源としてリビング重合反応を行い、磁性粒子表面にポリマーをグラフト化して得られた磁性ポリマー粒子が開示されている。磁性粒子をポリマーで被覆することによって、ポリマーの有する各種機能を磁性粒子に付与することができる。 ところで、このような生体分子捕捉粒子について問題となるのが、生体分子補足粒子が捕捉することを目的としていない非対象物を捕捉してしまう、非特異的吸着である。非特異的吸着は、非対象物と生体分子補足粒子との物理的・化学的な相互作用によっておこる現象である。 このような非特異的吸着により、精製や分離が不十分となったり、測定結果が不正確となる可能性がある。そこで非特異的吸着を低減するために従来行われているのが、ブロッキングと言われる方法である。ブロッキングは、生体分子捕捉物質を粒子上に固定化した後に、夾雑物の吸着量が少ないアルブミンやカゼイン等のバイオ分子系ブロッキング剤で粒子表面を被覆する方法である。しかし、ブロッキング剤の被覆効果が十分得られない場合や、ブロッキング剤の変質等によってその作用が経時的に変化し非特異的吸着が発生する場合がある。このため、ブロッキング剤による非特異的吸着の低減は不十分なものであった。 このような背景のもと、非特異的吸着をさらに低減させるため、粒子を各種機能性ポリマーで処理する技術が開発された。 例えば特許文献2には、非磁性体核粒子を磁性体層で被覆し、さらにその磁性体層を、2,3−ジヒドロキシプロピル基を含むポリマー(その水酸基の一部が、トシルオキシ基又はカルボキシアルキルカルボニルオキシ基に変換されている)層で被覆された磁性粒子が開示されている。2,3-ジヒドロキシプロピル基の存在により非特異的吸着が抑制される。さらに前記ポリマー層における各種官能基を、生体分子捕捉物質と結合させることによって、前記磁性粒子に生体分子捕捉機能を導入することができる。なお、磁性粒子は磁力により容易に分離・回収することができることから、この分野において広く利用されている。 また、ホスホリルコリン基を有するポリマーに非特異的吸着を抑制する作用があることが知られている。例えば特許文献3には、生体分子捕捉物質が固定化されたマイクロ粒子であって、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有する第一単位と、電子求引性の置換基がカルボニル基に結合されてなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子が、表面に被覆されていることを特徴とするマイクロ粒子が開示されている。 また、例えば非特許文献1には、磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆するポリスチレンからなるコア粒子が、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を含むポリマーで被覆された磁気粒子について開示されている。非特許文献1には、磁気粒子の粒径が約1μmであったこと、ポリマーの末端にカルボキシル基を導入し、カルボキシル基を介してストレプトアビジンの固定化と、ストレプトアビジン−ビオチン結合を用いることで、粒子上にDNAを固定化することができたこと、そして非特異的な吸着がほとんど見られなかったことも開示されている。特開2006−328309号公報特許第4716034号公報特開2006−201091号公報福田義人、金野智浩、石原一彦、“単一細胞遺伝子発現解析での使用を目指したリン脂質ポリマー被覆磁気ビーズの創製”、第20回日本MRS学術シンポジウム予稿集、2010年12月 しかしながら、特許文献3や非特許文献1に開示されたリン脂質ポリマー被覆粒子は、粒径がマイクロメートルオーダーと大きく、その特異的吸着量も十分とは言い難いものであった(下記の比較例1参照)。したがって本発明は、磁力により容易に分離・回収可能で、生体分子を固定化することができ、かつ生体分子の非特異的な吸着が抑制された、リン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子であって、特に、粒径が小さく、特異的吸着量が改善されたリン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子、並びにそのようなリン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位及び生体分子固定可能な末端官能基を含むグラフト鎖とからなり、粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子、並びにそのようなリン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。1. 超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、少なくとも1の下記式(1):(式中、 mは2〜6であり、 nは2〜500であり、 Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、 S1は単結合又は2価の有機基であり、そして Tは生体分子固定可能な官能基である)で表されるグラフト鎖とからなり、かつ粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。2. 超常磁性ナノ粒子が、粒径20nm以下の酸化鉄系の微粒子である、上記1に記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。3. 超常磁性ナノ粒子が、Fe3O4及びγ−Fe2O3から選択される少なくとも1種のナノ粒子を含む、上記1又は2に記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。4. 疎水性ポリマーを構成するモノマーが、スチレン、ジビニルベンゼン又はそれらの混合物である、上記1〜3のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。5. 生体分子固定可能な末端官能基が、カルボキシル基若しくはその活性エステル、エポキシ基、トシル基、アミノ基、チオール基、又はブロモアセトアミド基である、上記1〜4のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。6. 式(1)で表されるグラフト鎖が、下記式(1′):(式中、nは2〜500であり、oは1〜10である)で表されるものであるか、又はその末端カルボン酸の活性エステル誘導体である、上記1〜5のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。7. nが3〜30である、上記1〜6のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 本発明によれば、磁力により容易に分離・回収可能で、生体分子を固定化することができ、かつ生体分子の非特異的な吸着が抑制されたものであると同時に、粒径が小さく、特異的吸着量が改善されたポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子、並びにそのようなリン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子の製造方法を提供することができる。実施例1で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の、動的光散乱(DSL)を用いて測定された粒径分布図である。実施例2で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の、動的光散乱(DSL)を用いて測定された粒径分布図である。比較例1で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の、動的光散乱(DSL)を用いて測定された粒径分布図である。 以下、本発明を詳細に説明する。≪ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子≫ 本発明は、超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、少なくとも1の下記式(1):(式中、 mは2〜6であり、 nは2〜500であり、 Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、 S1は単結合又は2価の有機基であり、そして Tは生体分子固定可能な官能基である)で表されるグラフト鎖とからなり、かつ粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子に関する。<疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子> 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、超常磁性ナノ粒子と該超常磁性ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子をコアとするものである。ここで、超常磁性ナノ粒子としては、粒径20nm以下、好ましくは粒径5〜20nmの酸化鉄系の微粒子が代表的であり、MFe2O4(M=Co、Ni、Mg、Cu、Li0.5Fe0.5等)で表されるフェライト、Fe3O4で表されるマグネタイト、あるいはγ−Fe2O3が挙げられ、飽和磁化が強く、かつ残留磁化が少ないγ−Fe2O3及びFe3O4から選択される少なくとも1種のナノ粒子を含むことが好ましい。さらにこのような磁性体は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤若しくは高級脂肪酸等の公知の疎水化処理剤により処理されたものであってもよい。 疎水性ポリマーは、水性溶媒との親和性に乏しいポリマーであり、疎水性ポリマーをコアに用いることにより、本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子に機械的強度や耐熱性を付与することができる。疎水性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー、炭素数4以上のアルキル基を有するメタクリル酸エステル、ブタジエン等のジエン類等が挙げられる。好ましくは、スチレン、ジビニルベンゼン又はそれらの混合物である。疎水性ポリマーは、一種のモノマーからなるホモポリマーであっても、二種以上のモノマーからなるコポリマーであってもよい。 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子におけるコアである、超常磁性ナノ粒子と該超常磁性ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子は、粒径を小さくするため、疎水性モノマーを、超常磁性ナノ粒子、アニオン性界面活性剤及び重合開始剤の存在下で乳化重合させて得られたものであることが好ましい。非特許文献1記載の方法とは異なり、アニオン性界面活性剤の存在下で乳化重合することにより、粒径をナノオーダーに制御することできる。<グラフト鎖> 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、コアである前記疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に、少なくとも1の下記式(1):(式中、 mは2〜6であり、 nは2〜500であり、 Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、 S1は単結合又は2価の有機基であり、そして Tは生体分子固定可能な官能基である)で表されるグラフト鎖を有する。 nは、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位の数を意味し、代表的には、2〜500であり、特異的吸着量の改善の観点から、より好ましくは10〜100である。 Rは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を意味する。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基が挙げられる。Rは、好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは水素原子又はメチル基である。 S1は、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位と、後述する生体分子固定可能な官能基Tとを結ぶ架橋基を意味し、単結合又は2価の有機基を意味する。そのような2価の有機基は、生体分子固定可能な官能基Tを導入するために使用される化合物から誘導される。代表的には、S1は、下記式(a)又は(b):(式中、S2は炭素数1〜10のアルキレン基、−O−、−S−、−C(=O)−、−NH−及びそれらの2以上の組み合わせから選択される2価基である)で表される2価の有機基である。このような2価の有機基を誘導しうる化合物は、クリックケミストリー試薬として、フナコシ(株)、Sigma-Aldrich等の試薬供給業者より入手することができる。 Tは、生体分子固定可能な官能基であり、例えば、カルボキシル基若しくはその活性エステル基、エポキシ基、トシル基、アミノ基、チオール基、又はブロモアセトアミド基等が挙げられる。 前記活性エステル基とは、カルボニルオキシ基に電子吸引性の基や嵩高い基が結合してなるエステル基である。このようなエステル結合はアミノ基、チオール基及び水酸基などによって容易に求核置換反応等の反応を受けるので、この活性エステルの部分に生体分子を反応させることにより、本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子に生体分子を固定することができる。カルボキシル基及びエポキシ基も同様に反応性の高い基で、この部分に生体分子を反応させることができる。なお、生体分子に活性エステル基、カルボキシル基又はエポキシ基と反応し得る部位が無い場合には、公知の方法で、例えばアミノ基のようなこれらの基と反応し得る基を生体分子に導入すればよい。 前記活性エステル基は、例えば下記式(c)又は(d)の構造で示される基である。 式(c)及び式(d)において、R′およびR″は、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよい。また、式(d)において、二つのR″はそれらが結合するNとともに環を形成してもよい。 このような活性エステル基の具体例として、下記構造の基が挙げられる。 これらの他に、活性エステル基として、ペンタフルオロフェノールのエステル基、チオフェノールのエステル基;5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド基及びN−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等の複素環ヒドロキシ化合物のエステル基;並びにシアノメチルエステル基が挙げられる。 式(1)で表されるグラフト鎖の好ましい具体的な態様は、下記式(1′):(式中、nは2〜500であり、oは1〜10の整数を表す)で示されるもの、又はその末端カルボン酸の活性エステル誘導体である。<粒径> 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、粒径が500nm以下である。ここで粒径は、動的光散乱を用いて測定された粒度分布図(頻度分布)から読み取れるモード径を意味する。したがって、本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、モード径が500nm以下であり、好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下、特に好ましくは300nm以下である。≪ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の製造方法≫ 本発明はまた、超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、少なくとも1の下記式(1):(式中、 mは2〜6であり、 nは2〜500であり、 Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、 S1は単結合又は2価の有機基であり、そして Tは生体分子固定可能な官能基である)で表されるグラフト鎖とからなり、かつ粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の製造方法を提供する。 本発明の製造方法は、具体的には、(1)疎水性モノマーを、超常磁性ナノ粒子、アニオン性界面活性剤及び重合開始剤の存在下で乳化重合させて疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子を得る工程;(2)重合開始基を導入しうるモノマーを、工程(1)で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子、界面活性剤及び重合開始剤の存在下で乳化重合させて該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子に重合開始基を導入する工程;(3)該重合開始基と式(2):(式中、mは2〜6であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるモノマーを原子移動ラジカル重合させ、該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に、少なくとも1の、末端に重合開始基を有するグラフト鎖を形成する工程;(4)グラフト鎖の末端に生体分子固定可能な官能基を導入する工程を含む、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の製造方法に関する。 工程(1)では、疎水性モノマーを、超常磁性ナノ粒子、アニオン性界面活性剤及び重合開始剤の存在下で乳化重合させて疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子を得る。上述のとおり、アニオン性界面活性剤の存在下で乳化重合を実施することにより、粒径をナノオーダーに制御することできる。 工程(1)で使用できる疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、ブタジエン等のジエン類等が挙げられる。疎水性モノマーは、一種のモノマーを使用してもよいが、二種以上のモノマーを使用してもよい。 工程(1)で使用できる超常磁性ナノ粒子としては、上述のとおり、粒径20nm以下、 好ましくは粒径5〜20nmの酸化鉄系の微粒子が代表的であり、MFe2O4(M=Co、Ni、Mg、Cu、Li0.5Fe0.5等)で表されるフェライト、Fe3O4で表されるマグネタイト、あるいはγ−Fe2O3が挙げられ、飽和磁化が強く、かつ残留磁化が少ないγ−Fe2O3及びFe3O4から選択される少なくとも1種のナノ粒子を含むことが好ましい。さらにこのような磁性体は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤若しくは高級脂肪酸等の公知の疎水化処理剤により処理されたものであってもよい。 工程(1)における、超常磁性ナノ粒子とモノマーの使用量は、重量比で超常磁性ナノ粒子1に対してモノマーが2〜6が好ましい。 工程(1)で使用できるアニオン性界面活性剤としては、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ペルフルオロノナン酸、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩等のカルボン酸型;1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1−オクタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロブタンスルホン酸、トルエンスルホン酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型;ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のリン酸エステル型を挙げることができ、中でもドデシル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸エステル塩類の存在下で乳化重合を実施するのが好ましい。 工程(1)で使用できる重合開始剤としては、ラジカル発生剤であれば、特に限定はないが、例えば、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ開始剤が挙げられる。 工程(1)における、アニオン性界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度以上となるようにした。また、重合開始剤の使用量は、疎水性モノマー対して0.01〜10重量%が好ましい。 乳化重合は、疎水性モノマー、超常磁性ナノ粒子、アニオン性界面活性剤及び重合開始剤を水等の極性溶媒中に、必要であれば、助剤として疎水性有機溶媒(例えば、クロロホルム)を用いたり、超音波ホモジナイザー等を用いて、分散、乳化させたのち、例えば、0〜100℃の温度で、0.5〜24時間実施する。 工程(2)では、シード乳化重合により該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子に重合開始基を導入する。すなわち、工程(1)で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子をシードとし、重合開始基を導入しうるモノマーを、界面活性剤及び重合開始剤の存在下で乳化重合させ、該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子に重合開始基を導入する。 工程(2)で使用できる重合開始基を導入しうるモノマーとしては、続く工程(3)のグラフト鎖の形成に、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を採用することから、重合開始基としてハロゲン原子、特に塩素(Cl)又は臭素(Br)原子を導入することができるモノマーが挙げられる。そのようなモノマーとしては、エチレン性不飽和基と、臭素原子とを有するモノマーが挙げられ、例えば、2−(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリラート、10−ウンデセニル 2−ブロモイソブチラート等を用いることが好ましい。 工程(2)では、重合開始基の導入量を調整する観点から、重合開始基を導入しうるモノマーに加えて、他のモノマーを使用してもよい。他のモノマーは、エチレン性不飽和基を有するモノマーであれば特に限定はないが、工程(1)で挙げた疎水性モノマーに加え、(メタ)アクリル酸若しくはその炭素数1〜18のアルキルエステル等の(メタ)アクリラートモノマー;メタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドモノマー;N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルアミド/ビニルエステルモノマー等が挙げられる。 工程(2)で使用できる界面活性剤としては、工程(1)で挙げたアニオン性界面活性剤に加え、モノ、ジ若しくはトリアルキルアミン塩酸塩等のアルキルアミン塩型、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩型、塩化ドデシルピリジニウム等のピリジニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステルエーテル型のノニオン性界面活性剤が挙げられる。中でもドデシル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸エステル塩類の存在下で乳化重合を実施するのが好ましい。 工程(2)で使用できる重合開始剤としては、工程(1)で挙げた重合開始剤と同様に、ラジカル発生剤であれば特に限定はないが、例えば、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ開始剤が挙げられる。 工程(2)における、界面活性剤の濃度は臨界ミセル濃度以上となるようにした。また、重合開始剤の使用量は、モノマーに対して0.01〜10重量%が好ましい。 シード乳化重合は、工程(1)で得られた疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子、重合開始基を導入しうるモノマー、界面活性剤及び重合開始剤を水等の極性溶媒中に、必要であれば、超音波ホモジナイザー等を用いて分散、乳化させたのち、例えば、0〜100℃の温度で、0.5〜24時間実施する。 工程(3)では、該重合開始基と式(2):(式中、m及びRは上記と同義である)で表されるモノマーを原子移動ラジカル重合させ、該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に少なくとも1のグラフト鎖を形成する。 原子移動ラジカル重合(ATRP)は、分子量や分子量分布、官能性や組成などのポリマー構造の制御に優れた技術として知られている。工程(3)は、代表的には、溶媒中で、工程(2)で得られた重合開始基を導入した磁性ナノ粒子と、式(2)で表されるモノマーを、触媒の存在下で反応させることにより実施される。 工程(3)で使用できる式(2)で表されるモノマーとしては、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(2−エチルアクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(2−プロピルアクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン、2−(2−ブチルアクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン等が挙げられる。好ましくは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が用いられる。例えばMPCは、公知の方法(例えば、Polymer Journal, Vol. 22, No. 5,(May 1990), pp. 355-360参照)により調製することにより、あるいは東京化成工業(株)等の試薬供給業者より入手することができる。 工程(3)で使用できる触媒としては、原子移動ラジカル重合に使用できる触媒として公知のものであれば特に限定はないが、例えば、遷移金属錯体、具体的には、銅、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン又はルテニウム等の遷移金属化合物と窒素含有配位子とをベースとする触媒が挙げられる。ここで遷移金属化合物としては、塩化銅(I)若しくは塩化銅(II)、臭化銅(I)若しくは臭化銅(II)、塩化チタン(II)、塩化チタン(III)若しくは塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)、塩化鉄(II)若しくは塩化鉄(III)、臭化鉄(II)若しくは臭化鉄(III)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)、塩化モリブデン(III)、塩化モリブデン(V)又は塩化ルテニウム(III)等を用いることができる。窒素含有配位子としては、2,2′−ビピリジル、4,4′−ジメチル−2,2′−ジピリジル、4,4′−ジ−tert−ブチル−2,2′−ジピリジル、4,4′−ジノニル−2,2′−ジピリジル等のビピリジル配位子;N−ブチル−2−ピリジルメタンイミン、N−オクチル−2−ピリジルメタンイミン、N−ドデシル−2−ピリジルメタンイミン、N−オクタデシル−2−ピリジルメタンイミン等のアルキルピリジルメタンイミン配位子;N,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、トリス[2−(ジメチルアミノ)エチル]アミン等のアルキルアミン配位子;1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、1,4,8,11−テトラメチル−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン等の環状アミン配位子;トリス(2−ピリジルメチル)アミン、N,N,N′,N′−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン等のピリジルメチルアミン配位子等を用いることができる。好ましくは、銅と窒素含有配位子とをベースとする触媒、特に、銅(I)化合物とビピリジル配位子とをベースとする触媒が挙げられる。 工程(3)で使用できる溶媒としては、原子移動ラジカル重合に使用できる溶媒として公知のものであれば特に限定はないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール類;ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。 工程(3)は、さらに必要であれば、還元剤の存在下で実施してもよい。還元剤により、酸素による金属錯体の失活を低減することができ、ひいては金属錯体の使用量を減らすこともできる。そのような還元剤としては、原子移動ラジカル重合法に使用できる還元剤として公知のものであれば特に限定はないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ開始剤、アスコルビン酸若しくはその塩、グルコース、ヒドラジン、銅(0)等が挙げられる。 工程(3)により、本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子のコアである、疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に、少なくとも1の下記式(2′): (式中、m、n及びRは上記と同義であり、Xはハロゲン原子、特に塩素又は臭素原子である)で表される、末端に重合開始基を有するグラフト鎖を形成することができる。 工程(4)では、グラフト鎖の末端に生体分子固定可能な官能基を導入する。工程(3)で形成されたグラフト鎖の末端の重合開始基(ハロゲン原子)と、生体分子固定可能な官能基を有する化合物を、公知の方法により反応させることにより、特に、該末端重合開始基(ハロゲン原子)をアジド源と反応させてアジド化し、次いで生体分子固定可能な官能基を有するアルキン化合物と反応させることにより(いわゆる、クリック反応により)、グラフト鎖の末端に生体分子固定可能な官能基を導入することができる。 末端重合開始基(ハロゲン原子)とアジド源との反応は、溶媒中、工程(3)で得られたMPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子とアジド源とを反応させることにより実施される。この反応により、MPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子の末端重合開始基(ハロゲン原子)が、アジド基に変換される。 アジド化で使用できるアジド源としては、例えば、アジ化リチウム(水溶液)、アジ化ナトリウム、アジ化セシウム、アジドトリメチルシラン、アジ化テトラブチルアンモニウム、4−カルボキシベンゼンスルホニルアジド、4−アセトアミドベンゼンスルホニルアジド等が挙げられる。 アジド化で使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール類;ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。 続く、MPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子の末端アジド基と生体分子固定可能な官能基を有するアルキン化合物との反応(いわゆる、クリック反応)は、溶媒中、銅触媒及び還元剤の存在下又は非存在下に実施される。 クリック反応で使用できる生体分子固定可能な官能基を有するアルキン化合物は、クリックケミストリー試薬として、フナコシ(株)、Sigma-Aldrich等の試薬供給業者より入手することができる。例えば、末端アジド基との反応により、生体分子固定可能な官能基Tと共に、架橋基S1として、下記式(a): (式中、S2は炭素数1〜10のアルキレン基、−O−、−S−、−C(=O)−、−NH−及びそれらの2以上の組み合わせから選択される2価基である)で表される2価の有機基を形成するアルキン化合物としては、2−プロピン酸、3−ブチン酸、4−ペンチン酸、5−ヘキシン酸、6−ヘプチン酸、10−ウンデシン酸等のカルボキシル基を有するアルキン化合物及びその活性エステル誘導体;プロパルギルアルコール、3−ブチン−1−オール、5−ヘキシン−1−オール等の水酸基を有するアルキン化合物のp−トルエンスルホナート誘導体及びグリシジルエーテル誘導体;プロパルギルアミン、3−ブチニルアミン、4−ペンチニルアミン、2−メチル−3−ブチン−2−アミン、4−エチニルアニリン等のアミノ基を有するアルキン化合物及びそのブロモアセトアミド誘導体等が挙げられる。 さらに、末端アジド基との反応により、生体分子固定可能な官能基Tと共に、架橋基S1として、下記式(b):(式中、S2は炭素数1〜10のアルキレン基、−O−、−S−、−C(=O)−、−NH−及びそれらの2以上の組み合わせから選択される2価基である)で表される2価の有機基を形成するアルキン化合物としては、種々のシクロオクチン誘導体化合物が知られているが、代表的には、DBCO-Acid、DBCO-NHS ester、DBCO-sulfo-NHS ester、DBCO-S-S-NHS ester、DBCO-PEG4-Acid、DBCO-Amine等が挙げられる。その具体的な構造は、以下のとおりである。 クリック反応で使用できる溶媒としては、特に限定はないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール類;ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。 クリック反応で使用できる銅触媒としては、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)又はその水和物等を挙げることができる。還元剤としては、代表的には、アスコルビン酸若しくはその塩等が挙げられる。 さらに必要であれば、クリック反応は、窒素含有配位子の存在下で実施してもよい。窒素含有配位子により、銅触媒による付加環化の効率を高めることができる。そのような窒素含有配位子としては、トリス[(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル]アミン、トリス(2−ベンゾイミダゾリルメチル)アミン等を挙げることができる。 なお、クリックケミストリー試薬の種類によっては、銅触媒及び還元剤を添加しなくともよい。例えば、式(b)で表される2価の有機基を形成するアルキン化合物であるシクロクチン誘導体は、環の歪みから活性化エネルギーが低く、触媒なしでも容易にアジドと反応することができる。 このような製造方法により、本発明の超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、リン脂質由来の繰り返し単位及び生体分子固定可能な末端官能基を含むグラフト鎖とからなり、粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子を得ることができる。なお、生体分子固定可能な末端官能基は、目的とする官能基を有するクリックケミストリー試薬を使用することによって導入してもよいが、クリックケミストリー試薬との反応後、該試薬の有する官能基を、適宜、目的とする官能基に変換してもよい。例えば、クリックケミストリー試薬として水酸基を有するアルキン化合物を末端アジド基と反応させ、次いで水酸基をp−トルエンスルホナート化又はグリシジルエーテル化し、生体分子固定可能な官能基がトシル基又はエポキシ基であるポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子を調製してもよい。≪ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の用途≫ 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、グラフト鎖の末端に生体分子固定可能な官能基を有することから、生体分子を固定化することができる。この生体分子は、標的となる生体分子に特異的に相互作用する物質であれば特に制限されない。前記特異的な相互作用は物理的な相互作用であっても化学的な相互作用であってもよい。 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、ホスホリルコリン構造を有する繰り返し単位及び生体分子固定可能な末端官能基を含むグラフト鎖を有することから、非特異的吸着が抑制されると考えられる。 本発明のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子は、標的ではない生体分子の非特異的吸着が生じ難い、優れた生体分子捕捉粒子として利用することができる。より具体的には、感染症や癌のバイオマーカーやホルモン等の検査対象物質を患者から検出して診断を行ったり、核酸やタンパク質等の特定の生体分子を分離・定量したり、特定の細菌や細胞を分離することができる。 そのような生体分子の具体例としては、核酸、アプタマー、タンパク質、ペプチド、糖鎖および糖タンパク質が挙げられる。例えば、前記タンパク質としては、酵素、抗体、抗原等が挙げられる。 以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例の内容のみに制限されるものではない。 実施例中で用いた略号は、以下の意味を有する:DVB-=ジビニルベンゼン、LPO=過酸化ラウロイル、SDS=ドデシル硫酸ナトリウム、BIEM=2−(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチルメタクリラート、SDBS=ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、KPS=過硫酸カリウム、MPC=2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、bpy=2,2’−ビピリジン、EBIB=α−ブロモイソ酪酸エチル、DMSO=ジメチルスルホキシド、PVP=ポリビニルピロリドン。[実施例1]ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の調製(1)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子の合成 疎水性コート酸化鉄(粒径約10nm)1.0gとクロロホルム1.5gとを混合して超音波ホモジナイザーにて分散させた分散液に、スチレンモノマー3.0gを加えた後、減圧によりクロロホルムを除去し、酸化鉄のスチレンモノマー分散液を得た。 次いで、上記分散液にDVB 0.16gとLPO 60.9mgを加え、次いで水50mLに溶かしたSDS 0.14gを混合して超音波ホモジナイザーにて乳化させた。 得られた乳化液を200mLフラスコに投入し、アルゴン置換を行った後、60℃で20時間、乳化重合を行うことによりポリスチレン被覆磁性ナノ粒子を得た。(2)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子へ重合開始基の導入 工程(1)で得たポリスチレン被覆磁性ナノ粒子0.60gを1mg/mL SDBS水溶液100mLに分散させた分散液に、BIEM 0.30gを加え、アルゴン雰囲気下、室温で2時間撹拌した後、水1mLに溶かした開始剤KPS 18.3mgを添加して、60℃で16時間、乳化重合を行うことにより重合開始基(Br)を導入した磁性ナノ粒子を得た。(3)重合開始基を導入した磁性ナノ粒子へのMPCポリマーブラシの導入 MPC 3.0g、CuBr 0.017g、bpy 0.035gをメタノールに溶かして、MPCモノマー濃度1.0mol/L溶液とした。溶液をアルゴン置換した後、工程(2)で得た重合開始基を導入した磁性ナノ粒子0.2gと開始剤EBIB 14.9μLを添加して、濃度が、MPCモノマー:CuBr:bpy:EBIB=100:1:2:1(モル比)となるようにした。20℃で24時間、原子移動ラジカル重合を行い、MPCポリマーブラシ(n=100)を有する磁性ナノ粒子を得た。(4)末端Br基の末端アジド基への変換 工程(3)で得たMPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子0.2gとメタノール:アセトニトリル=7:3溶媒20mLに溶かしたアジ化ナトリウム71.6mgを50℃、8時間反応させることにより末端官能基をアジド基に変換した磁性ナノ粒子を得た。(5)末端アジド基の末端カルボキシル基への変換 硫酸銅5水和物3.2mg、L−アスコルビン酸ナトリウム25.0mg、4−ペンチン酸11.8mgをDMSO:水=1:1溶媒12mLに溶かし、工程(4)で得たMPCポリマーブラシ末端にアジド基を有する磁性ナノ粒子0.2gと混合して室温、14時間反応させることにより末端官能基をカルボキシル基に変換したポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子を得た。[比較例1]ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の調製(1)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子の合成 疎水性コート酸化鉄(粒径約10nm)0.50g、スチレンモノマー3.0g、DVB 0.16g、LPO 62.2mgを混合した分散液と、PVP 1.2g、塩化ナトリウム2.5g、亜硝酸ナトリウム5.4mgを水50mLに溶かした溶液を混合して超音波ホモジナイザーにて乳化させた。 得られた乳化液を200mLフラスコに投入し、アルゴン置換を行った後、70℃で24時間、乳化重合を行うことによりポリスチレン被覆磁性ナノ粒子を得た。(2)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子へ重合開始基の導入 工程(1)で得たポリスチレン被覆磁性ナノ粒子0.67gを1mg/mL SDBS水溶液100mLに分散させた分散液に、BIEM 0.34gとDVB 68.1mgを加え、アルゴン雰囲気下、室温で2時間撹拌した後、水1mLに溶かした開始剤KPS 20.3mgを添加して、70℃で14時間、乳化重合を行うことにより重合開始基(Br)を導入した磁性ナノ粒子を得た。(3)重合開始基を導入した磁性ナノ粒子へのMPCポリマーブラシの導入 MPC2.3g、CuBr0.013g、bpy0.024gをメタノールに溶かして、MPCモノマー濃度0.7mol/L溶液とした。溶液をアルゴン置換した後、工程(2)で得た重合開始基を導入した磁性ナノ粒子0.5gと開始剤EBIB 10.5μLを添加して、濃度が、MPCモノマー:CuBr:bpy:EBIB=100:1:2:1(モル比)となるようにした。20℃で24時間、原子移動ラジカル重合を行い、MPCポリマーブラシ(n=100)を有する磁性ナノ粒子を得た。(4)末端Br基の末端アジド基への変換 工程(3)で得たMPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子0.2gとメタノール:アセトニトリル=1:1溶媒20mLに溶かしたアジ化ナトリウム0.13gを室温、24時間反応させることにより末端官能基をアジド基に変換した磁性ナノ粒子を得た。(5)末端アジド基の末端カルボキシル基への変換 硫酸銅5水和物5.2mg、L−アスコルビン酸ナトリウム40.2mg、4−ペンチン酸98.1mgをエタノール:水=1:1溶媒20mLに溶かし、工程(4)で得たMPCポリマーブラシ末端にアジド基を有する磁性ナノ粒子75.0mgと混合して室温、24時間反応させることにより末端官能基をカルボキシル基に変換したポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子を得た。[実施例2]ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子の調製(1)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子の合成 疎水性コート酸化鉄(粒径約10nm)0.99gとクロロホルム1.6gとを混合して超音波ホモジナイザーにて分散させた分散液に、スチレンモノマー3.1gを加えた後、減圧によりクロロホルムを除去し、酸化鉄のスチレンモノマー分散液を得た。 次いで、上記分散液にDVB 0.15gとLPO 59.7mgを加えた溶液と、次いで水50mLに溶かしたSDS 0.15gを混合して超音波ホモジナイザーにて乳化させた。 得られた乳化液を200mLフラスコに投入し、アルゴン置換を行った後、60℃ で21時間、乳化重合を行うことによりポリスチレン被覆磁性ナノ粒子を得た。(2)ポリスチレン被覆磁性ナノ粒子へ重合開始基の導入 工程(1)で得たポリスチレン被覆磁性ナノ粒子0.20gを1mg/mL SDBS水溶液50mLに分散させた分散液にBIEM 0.10gを加え、アルゴン雰囲気下、室温で2時間撹拌した後、水1mLに溶かした開始剤KPS 7.1mgを添加して、60℃で17時間、乳化重合を行うことにより重合開始基(Br)を導入した磁性ナノ粒子を得た。(3)重合開始基を導入した磁性ナノ粒子へのMPCポリマーブラシの導入 MPC3.0g、CuBr0.14g、bpy0.31gをメタノールに溶かして、MPCモノマー濃度1.0mol/L溶液とした。溶液をアルゴン置換した後、工程(2)で得た重合開始基を導入した磁性ナノ粒子0.07gと開始剤EBIB 0.15mLを添加して、濃度が、MPCモノマー:CuBr:bpy:EBIB=10:1:2:1(モル比)となるようにした。20℃で24時間、原子移動ラジカル重合を行い、MPCポリマーブラシ(n=10)を有する磁性ナノ粒子を得た。(4)末端Br基の末端アジド基への変換 工程(3)で得たMPCポリマーブラシを有する磁性ナノ粒子0.07gとメタノール:アセトニトリル=7:3溶媒10mLに溶かしたアジ化ナトリウム33.2mgを室温、26時間反応させることにより末端官能基をアジド基に変換した磁性ナノ粒子を得た。(5)末端アジド基の末端カルボキシル基への変換 硫酸銅5水和物3.0mg、L−アスコルビン酸ナトリウム23.7mg、4−ペンチン酸12.1mgをDMSO:水=1:1溶媒12mLに溶かし、工程(4)で得たMPCポリマーブラシ末端にアジド基を有する磁性ナノ粒子0.07gと混合して室温、18時間反応させることにより末端官能基をカルボキシル基に変換したポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子を得た。(粒径分布測定) 実施例1及び2、並びに比較例1の各工程(1)で得られたポリスチレン被覆磁性ナノ粒子を水に分散させ、動的光散乱(DLS) を用いて粒径分布を測定した。結果を図1〜3に示す。(特異的吸着の程度) 実施例1〜2及び比較例1で得られた磁性粒子10mgを15mM MES−NaOH緩衝液(pH6.0)に分散させ、磁性粒子を磁気分離にて洗浄後、40mg/mLの水溶性カルボジイミドを加え、室温で回転攪拌機にて20分間攪拌した。磁性粒子を磁気分離にて回収、上清を除去後、1mg/mLのプロテインA溶液(Sigma Aldrich製、Protein A from Staphylococcus aureus Soluble, Cowan strain, recombinant, expressed in E. coli, aqueous solution, ≧95%(HPLC)を15mM MES−NaOH緩衝液(pH6.0)で希釈)を加え、室温で回転攪拌機にて一晩攪拌した。磁性粒子を磁気分離にて回収し、PBS(0.1%Tween20含有)で洗浄後、更にPBS(0.02%Tween20含有)で洗浄を行った。磁気分離にて上清を除去後、5倍希釈したウサギ血清(VECTOR LABORATRIES. INC. 製Serum, Rabbit, NormalをPBS(0.02%Tween20含有)で希釈)を加え、室温で回転攪拌機にて1時間攪拌した。磁性粒子を磁気分離にて回収し、PBS(0.02%Tween20含有)で洗浄後、0.1M Glycine−HCl緩衝液(pH2.8)を加え、室温で回転攪拌機にて15分攪拌した。その後磁性粒子と反応液を磁気にて分離し、反応液における280nmの吸光度を測定した。吸光度の測定には株式会社日立ハイテクフィールディング製の分光光度計(U−3500)を用いた。この吸光度には主として磁性粒子に特異的に捕捉されたウサギ抗体IgGの量が反映される。この吸光度とウサギ抗体IgGのモル吸光係数(A280(1mg/mL)≒1.4)から反応液中のウサギ抗体IgG量が算出される。算出されたウサギ抗体IgG量を表1に示す。実施例1〜2は比較例1の3倍以上の抗体捕捉量であった。また、実施例2は実施例1より抗体捕捉量が約20%増加した。(磁気応答性) 実施例1〜2及び比較例1で得られた磁性粒子2mgをPBS緩衝液に分散させ、磁石を近づけてから、液の色が透明になるまでの時間(磁性粒子を完全に回収するまでの時間)を測定した。結果を表1に示す。実施例1〜2は比較例1より磁気応答性が勝っていた。 超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、少なくとも1の下記式(1):(式中、 mは2〜6であり、 nは2〜500であり、 Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、 S1は単結合又は2価の有機基であり、 Tは生体分子固定可能な官能基である)で表されるグラフト鎖とからなり、かつ粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 超常磁性ナノ粒子が、粒径20nm以下の酸化鉄系の微粒子である、請求項1に記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 超常磁性ナノ粒子が、Fe3O4及びγ−Fe2O3から選択される少なくとも1種のナノ粒子を含む、請求項1又は2に記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 疎水性ポリマーを構成するモノマーが、スチレン、ジビニルベンゼン又はそれらの混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 生体分子固定可能な末端官能基が、カルボキシル基若しくはその活性エステル、エポキシ基、トシル基、アミノ基、チオール基、又はブロモアセトアミド基である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 式(1)で表されるグラフト鎖が、下記式(1′):(式中、nは2〜500であり、oは1〜10である)で表されるものであるか、又はその末端カルボン酸の活性エステル誘導体である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 nが、3〜30である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。 【課題】磁力により容易に分離・回収可能で、生体分子を固定化することができ、かつ非特異的な吸着が抑制された、特に、粒径が小さいリン脂質ポリマー被覆磁性ナノ粒子の製造方法を提供する。【解決手段】超常磁性ナノ粒子と該ナノ粒子の周囲を被覆する疎水性ポリマーとからなる疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子と;該疎水性ポリマー被覆磁性ナノ粒子の表面に存在する、少なくとも1の下記式(1):で表されるグラフト鎖とからなり、かつ粒径が500nm以下である、ポリマーブラシ層被覆磁性ナノ粒子。【選択図】なし