タイトル: | 公開特許公報(A)_遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌変異株及びこれを製造する方法 |
出願番号: | 2013093388 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 1/21,C12N 1/20,C12N 15/09 |
若松 美紀 湯 不二夫 大野 ふみ JP 2013255486 公開特許公報(A) 20131226 2013093388 20130426 遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌変異株及びこれを製造する方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 辻居 幸一 100092093 熊倉 禎男 100082005 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 山崎 一夫 100119013 市川 さつき 100123777 渡辺 浩司 100147588 若松 美紀 湯 不二夫 大野 ふみ JP 2012112758 20120516 C12N 1/21 20060101AFI20131129BHJP C12N 1/20 20060101ALI20131129BHJP C12N 15/09 20060101ALN20131129BHJP JPC12N1/21C12N1/20 AC12N15/00 A 6 3 OL 25 4B024 4B065 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA02 4B024CA20 4B024DA05 4B024EA04 4B024FA10 4B024FA20 4B024GA19 4B024GA25 4B024GA27 4B065AA45X 4B065AB01 4B065BA01 4B065BA23 4B065BB37 4B065CA60 本発明は、ロドコッカス属に属する細菌のゲノムの標的配列を改変する方法に関する。具体的には、前記細菌の有する非相同的な外来DNA挿入能力を喪失させ、標的遺伝子改変が容易になった前記細菌とその製造方法に関する。 ロドコッカス属に属する細菌(以下「ロドコッカス属細菌」という)は、その物理的強度、有機溶媒耐性、酸化還元能、酵素などを細胞内に多量に蓄積する能力などを有することから、産業的に有用な微生物触媒として知られている。例えば、ロドコッカス属細菌は、ニトリル類の酵素的水和や加水分解によるアミド若しくは酸の生産などに利用されている(特許文献1、特許文献2)。また、難分解性化合物に対する分解能の高い微生物種としても知られており(特許文献3〜6)、その能力を活用することで、種々の有用物質の生産や環境浄化へ応用することへの検討が進められている。そのような応用の例としては、脱硫による石油からの有用物質の生産、あるいは環境への石油流出時におけるバイオレメディエーションなどが挙げられる。 加えて、ロドコッカス属細菌を遺伝子組換えの方法により、さらに有用なものに改変する試みがなされている(特許文献7〜9)。例えば、ロドコッカス属細菌の遺伝子操作を効率的に推し進めるために、宿主−ベクター系の開発が進められており、新規なプラスミドの探索(特許文献10〜12)、ベクターの開発(特許文献13〜20、非特許文献1)などが行われている。このようにロドコッカス属細菌の有用性が明らかになるに従って、従来の遺伝子組換え手法の開発に加えて、宿主としてのロドコッカス属細菌自体を使用目的に応じて望む特性を有するように改変する手法の開発が期待されてきた。 ところで、細胞におけるDNAの組換えは、様々な状況で生じる現象であり、例えば、ゲノムDNAに切断等の損傷が発生した際や、外来DNAが何らかの原因により細胞内に侵入してゲノムDNAに組み込まれる際に生じることが分かっている。DNAの組換えのメカニズムについては、DNA修復に関する精力的な研究により多くの知見が得られてきている。重篤なDNA損傷であるDNA二本鎖切断(DSB: double strand break)の修復においては、哺乳動物や酵母など真核生物では2つの主要な修復経路が機能していることが明らかになっている。その1つはDNA配列間の相同配列間の組換え(相同組換え、HR: homologous recombination)であり、もう1つはDNAの相同性を利用することなくDNA末端の直接的なライゲーションによりDBSを修復する非相同的な組換え(非相同末端結合、NHEJ: non-homologous end joining)である。HR及びNHEJのうち、どちらの経路が優先的に機能するかは生物種により異なる。これに関連して、糸状菌においては、NHEJの鍵酵素であるATP依存性DNAリガーゼIV、又はDNA末端結合タンパク質Kuの機能を低下又は喪失させることにより、相同組換えの効率が向上した例が報告されている(特許文献21、特許文献22)。 原核生物における相同組換えによるDSB修復については、大腸菌をモデル生物とした研究がなされており、RecAと呼ばれるリコンビナーゼとRecBCD複合体(へリカーゼとヌクレアーゼからなる複合体)が関与していることが知られている。非相同末端結合によるDSB修復については、マイコバクテリア属細菌をモデル生物にした研究がなされており、DNA末端結合タンパク質(Ku)及びATP依存性DNAリガーゼの2つのタンパク質が、DSB修復に関与していることが知られている(非特許文献2)。しかしながら、マイコバクテリア属細菌では、ロドコッカス属細菌で見られるような外来DNAのゲノムへの非相同的な組換えに関する研究例は無く、マイコバクテリア属細菌がロドコッカス属細菌で見られる上記特徴を有しているかは不明である。特開平2-470号公報特開平3-251192号公報欧州特許第188316号明細書欧州特許第204555号明細書欧州特許第348901号明細書欧州特許出願第307926号明細書特開平4-211379号公報特開平6-25296号公報特開平6-303791号公報特開平4-148685号公報特開平4-330287号公報特開平7-255484号公報特開平5-64589号公報特開平8-56669号公報米国特許第4,920,054号明細書特開平8-173169号公報特開平10-248578号公報特開2006-180843号公報特開2006-50967号公報特開2008-154552公報特開2006-158269公報特開2007-300857公報Journal of Bacteriology, vol. 170, p. 638-645 (1988)Molecular Microbiology 79, 316-330(2011) 上記の通り、産業分野への応用がなされているロドコッカス属細菌をより有効に活用するためには、従来の遺伝子組換えによる有用タンパク質の発現に加え、ロドコッカス属細菌のゲノム上の遺伝子を特異的に欠失あるいは不活性化することにより、代謝経路を改変若しくは再設計することが効果的である。 ゲノム上に存在する遺伝子を欠失あるいは不活性化する手法としては、相同組換えを利用する方法が挙げられる。ロドコッカス属細菌において相同組換えにより遺伝子を欠失又は不活性化させる場合、通常の形質転換法であるエレクトロポレーション法を用いても、目的の遺伝子の欠失株や不活性化株を得ることは非常に困難である。これは、ゲノム上の標的遺伝子への「相同的な」組換えではなく、「非相同的な」組換えが優先的に起こってしまうためであると考えられる。 そして、ロドコッカス属細菌に関しては、上記のようなDNA修復等のメカニズムに関する研究例はなく、また、外来DNAのゲノムへの非相同的な組換えに関しても、どのようなメカニズムで起こっているのか明らかになっていなかった。 本発明は、非相同的な外来DNA挿入能力を喪失し、標的遺伝子の改変が容易なロドコッカス属細菌を提供することを目的とする。 本発明者らは、ロドコッカス属細菌の非相同組換えに関与するタンパク質を明らかにし、その機能を抑制することにより、前記細菌の有する非相同的な外来DNA挿入能力を喪失させ、標的遺伝子改変が容易なロドコッカス属細菌を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。 具体的には、本発明は以下の通りである。 本発明は、ゲノムへの非相同的な外来DNA断片挿入に関与するタンパク質をコードする遺伝子を欠失又は不活性化させたロドコッカス属細菌変異株に関するものである。 本発明は、本発明のロドコッカス属細菌変異株に、前記変異株のゲノムの少なくとも一部と相同な配列を含む遺伝子構築物を導入することを含む、遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌を製造する方法でもある。 なお、本発明において、「外来DNA断片」とは、宿主であるロドコッカス属細菌とは異なる生物種に由来するDNA断片、宿主であるロドコッカス属細菌と同種の生物種に由来するDNA断片、及び複数の生物種由来のDNA断片により構成されるキメラDNA断片を指す。キメラDNA断片には、宿主であるロドコッカス属細菌由来の配列が含まれていてもよいものとする。 本発明のロドコッカス属細菌変異株によれば、ロドコッカス属細菌のゲノム改変が容易になるので、ロドコッカス属細菌に対して、より効率的に代謝経路の改変若しくは再設計を実施できる。これにより、当該細菌を宿主等に用いた効率的な物質生産をより容易に実施することが可能になる。PR4株LigD(ATP-dependent DNA ligase、accession no: YP_002767969)遺伝子欠失用プラスミドpTJ002の遺伝子地図を示す図である。PR4株ICL(isocitrate lyase、accession no: YP_002765021)遺伝子破壊用プラスミドpTJ007、pTJ008、pTJ009の遺伝子地図を示す図である。PR4KSΔLigD株のゲノム上のICL遺伝子が破壊されたことを確認した結果を示す図である。複数のロドコッカス属細菌由来のLigDホモログのアラインメントを示す図である。J1-CmΔRΔligD株のゲノム上のNHase遺伝子が欠失したことを確認した結果を示す図である。 以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。 なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。1.標的とする非相同組換え遺伝子を有する微生物 本発明に係るゲノムへの非相同的な外来DNA挿入能力を喪失させたロドコッカス属細菌(以下、「本発明の微生物」ということがある)は、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する遺伝子(以下、「非相同組換え遺伝子」)が欠失又は不活性化された変異株である。 ロドコッカス属細菌としては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1、M8(SU1731814)、M33(VKM Ac-1515D)、ATCC 184、ATCC 999、ATCC 4001、ATCC 4273、ATCC 4276、ATCC 9356、ATCC 12483、ATCC 12674、ATCC 13808、ATCC 14341、ATCC 14347、ATCC 14350、ATCC 15905、ATCC 15998、ATCC 17041、ATCC 17043、ATCC 17895、ATCC 19067、ATCC 19149、ATCC 19150、ATCC 21243、ATCC 21291、ATCC 21785、ATCC 21924、ATCC 21999、ATCC 29670、ATCC 29672、ATCC 29675、ATCC 33258、ATCC 33275、ATCC 39484、IFO 3338、IFO 14894、JCM 3202、NCIMB 11215、NCIMB 11216、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4(NBRC 100887)、NBRC 12320、NBRC 15567、NBRC 16296、IFM 155、DSM 743、DSM 9675、DSM 43200、JCM 6821、JCM 6822、JCM 6823、JCM 6824、JCM 6827、DSM 11397、DSM 44522、JCM 2895、JCM 2893、JCM 2894、IAM 1400、IAM 1503、SK121、ロドコッカス・ピリジノボランス(Rhodococcus pyridinovorans)MW3、S85-2、PA、AK37、PYJ-1、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)B4、PD630、ロドコッカス・ジョスティ(Rhodococcus jostii)RHA1等、ロドコッカス・イムテケンシス(Rhodococcus imtechensis)、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)103S、ATCC 33707が挙げられる。 本発明における非相同組換え遺伝子とは、ロドコッカス属細菌において、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与するタンパク質(非相同組換えタンパク質)をコードする遺伝子、すなわち非相同組換え遺伝子のことを指す。非相同組換え遺伝子としては、配列番号1または配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。配列番号1で示されるタンパク質は、全ゲノム情報が公開されているロドコッカス・エリスロポリスPR4の有するタンパク質で、LigD(ATP-dependent DNA ligase、accession no: YP_002767969)とアノテーション(注釈)されている。本発明においては、前記LigDとアノテーションされた遺伝子(LigDホモログ遺伝子)の機能を喪失させることにより、PR4株が非相同的な外来DNA挿入が抑制されることが明らかとなった。LigDは上述のように、マイコバクテリア属細菌においてNHEJ の鍵酵素として機能することが知られているため、ロドコッカス属に見られる非相同的な外来DNA挿入には、NHEJ 経路が関与していると推測される。また、配列番号21で示されるタンパク質は、ロドコッカス・ロドクロウスJ1の有するタンパク質で、ATP-dependent DNA ligaseと相同性を有するタンパク質である。本発明においては、前記ATP-dependent DNA ligaseと相同性を有する遺伝子を欠失させることにより、J1株の相同組換能が向上することが明らかとなった。 また、本発明における非相同組換え遺伝子には、配列番号1または配列番号21で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列を含み、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質;及び配列番号1または配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であり、且つ、ゲノムへの外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質を含む。 これらのタンパク質は、PR4株、J1株以外のロドコッカス属細菌の複数の株においても、LigDとアノテーションされており、且つ、前記PR4株、J1株の「非相同組換えタンパク質」と高いホモロジーを有するタンパク質をコードしている。これらも各株における非相同的な外来DNA挿入に関与していると推測される。PR4株、J1株の「非相同組換えタンパク質」と高いホモロジー(相同性)を有するタンパク質としては、ロドコッカス・エリスロポリスSK121のLigC(ATP-dependent DNA ligase、accession no: ZP_04383046;配列番号13;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は98%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は63%)、ロドコッカス・オパカスB4のLigD(ATP-dependent DNA ligase、accession no: YP_002782304;配列番号14;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は73%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は66%)、ロドコッカス・ジョスティRHA1のDNA ligase(ATP-dependent、accession no: YP_704987;配列番号15;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は73%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は65%)、ロドコッカス・イムテケンシスRKJ300のATP-dependent DNA ligase(accession no: EID78745;配列番号16;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は73%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は66%)、ロドコッカス・オパカスPD630のDNA ligase(accession no: EHI44149;配列番号17;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は73%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は65%)、ロドコッカス・エクイ103SのATP-dependent DNA ligase(accession no: YP_004005863;配列番号18;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は68%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は62%)、ロドコッカス・エクイATCC 33707のDNA ligase(accession no: ZP_08155867;配列番号19;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は68%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は62%)、ロドコッカス・ピリジノボランスAK37のATP-dependent DNA ligase(accession no: ZP_09308731;配列番号20;配列番号1のアミノ酸配列との相同性は61%、配列番号21のアミノ酸配列との相同性は95%)等が挙げられる。以上の生物種で見出されている各LigDホモログのアラインメントを図4に示す。 また、本発明の非相同組換え遺伝子には、配列番号2で示される前記PR4株LigD遺伝子及び前記PR4株LigDホモログ遺伝子と相補的な配列を含むDNA、または配列番号22で示される前記J1株LigD遺伝子及び前記J1株LigDホモログ遺伝子と相補的な配列を含むDNAの各々とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。 ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をさす。ストリンジェントな条件は配列に依存的であるが、通常、一般的なハイブリダイゼーション条件よりも塩濃度を低く設定したり、ホルムアミドを加えたりすることにより最適化できる。 例えば、5×SSC、1% SDSおよび50%ホルムアミドを含む緩衝液中における42℃でのハイブリダイゼーション、あるいは5×SSC、および1%SDSを含む緩衝液中における65℃でのハイブリダイゼーション(両方とも0.2×SSCおよび0.1%SDSで65℃での洗浄を伴う)が挙げられる。当業者であれば、このような緩衝液の塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ(標的遺伝子と相補的な配列を含むDNA断片)濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明の非相同組換え遺伝子を特定するための条件を適宜設定することができる。2.標的とする非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化された微生物の製造方法 標的とする非相同組換え遺伝子を欠失又は不活性化する方法は限定されず、如何なる方法を適用してもよい。例えば、当該遺伝子又はその周辺配列と相同な配列を有するプラスミドでロドコッカス属細菌を形質転換する方法を用いることができる。形質転換の方法としては、エレクトロポレーション法や接合伝達法等が使用できる。 エレクトロポレーション法によるロドコッカス属細菌の形質転換の手法は本発明の技術の属する分野において周知である。また、形質転換法の詳細については、Journal of General Microbiology 138: 1003-1010等を参照することができる。 ここで、上記欠失又は不活性化する方法として、エレクトロポレーション法を使用した場合、非相同組換え株が圧倒的に多く出現し、所望の相同組換え微生物を探し当てることが困難であるため、本発明では接合伝達法が特に好ましい。接合伝達法による形質転換方法の詳細については、特開2011-200133号公報を参照することができる。 具体的には、例えば、ドナー微生物からレシピエント微生物への接合伝達を利用した形質転換方法を用いることにより、本発明の、標的とする非相同組換え遺伝子の欠失又は不活性化する方法であって、以下の工程(a)〜(d)を含むことを特徴とする方法により、本発明の微生物を得ることができる。本発明における接合伝達法による形質転換は、以下の工程(a)〜(d)を含む方法により行われることが好ましい。(a)レシピエント微生物として、ドナー微生物の生育を阻害する生育条件への耐性を示す選択マーカー(以下、「ドナー微生物生育阻害マーカー」という)が導入され、或いは強化されたロドコッカス属細菌を作製する工程;(b)ドナー微生物として、下記(i)〜(v) を含む、非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する工程; (i)レシピエント微生物中の標的とする非相同組換え遺伝子とその周辺の塩基配列とを含む塩基配列において当該遺伝子を欠失又は不活性化させた塩基配列領域、 (ii)当該ドナー微生物において機能する接合伝達開始領域、 (iii)当該ドナー微生物において機能する複製開始領域、 (iv)レシピエント微生物の生育を阻害する生育条件への耐性を示す選択マーカー(以下、「レシピエント微生物生育阻害マーカー」という)、及び (v)レシピエント微生物に対する条件致死遺伝子(c)工程(b)で作製されたドナー微生物から工程(a)で作製されたレシピエント微生物への接合伝達を行うことにより、当該レシピエント微生物の形質転換体を作製する工程;並びに(d)工程(c)で作製された形質転換体を、前記条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する工程。 上記欠失又は不活性化方法においてレシピエントとして使用するロドコッカス属細菌は、特に限定されない。 接合伝達を用いた遺伝子欠失又は不活性化を行う場合、ドナーとなる微生物の組換え株(ドナー微生物)とレシピエントとなる微生物(レシピエント微生物)の非組換え株の双方の生育を阻害しなければならないため、2種類の選択マーカー(ドナー微生物生育阻害マーカー及びレシピエント微生物生育阻害マーカー)が必要である。ドナー微生物生育阻害マーカーはレシピエント微生物自体が有している必要がある。レシピエント微生物生育阻害マーカーは、非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド中に含まれている必要がある。両マーカーの詳細については、下記の各工程において説明する。2-1. 工程(a) 工程(a)では、ドナー微生物生育阻害マーカーが導入され、或いは強化されたロドコッカス属細菌を作製する。上述の理由から、レシピエントとなるロドコッカス属細菌にはドナー微生物の生育を阻害するための薬剤耐性マーカー(ドナー微生物生育阻害マーカー)が必要である。よって、薬剤耐性を有していない、又は薬剤耐性の乏しいロドコッカス属細菌を使用する場合、ドナー微生物生育阻害マーカーとして機能しうる薬剤選択可能な程度の薬剤耐性を有する変異株の作製が必要となる。 ロドコッカス属細菌はいくつかの薬剤に対し耐性を示すことは知られているが、その耐性は弱い場合もあり、その特性は、接合伝達用のマーカーとしてそのまま利用するには十分ではない。 そこで、ロドコッカス属細菌が本来有している薬剤耐性を利用する場合、高濃度の薬剤に対しても十分な耐性を示すよう耐性が強化されたロドコッカス属細菌の変異株を製造し、当該変異株をレシピエントとすることにより、汎用性に優れ且つ高効率な相同組換えが可能となる。 ここで、ドナー微生物生育阻害用の薬剤としては、接合伝達時にドナーとして用いる微生物(ドナー微生物)の有する薬剤耐性を考慮し、ドナー微生物が感受性を示す薬剤を選択することが好ましい。当該薬剤としては、クロラムフェニコール、アンピシリン、カナマイシン、トリメトプリム、ゲンタマイシン、ナルジクス酸、カルベニシン、チオストレプトン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等が好ましく、クロラムフェニコール、アンピシリンがより好ましい。 ドナー微生物生育阻害マーカーが強化されたレシピエント微生物を作製する方法としては、特に限定はされないが、例えば、(イ)自然変異誘発法、(ロ)紫外線照射や変異誘発剤を用いる突然変異誘発法、(ハ)あらかじめ非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドとは別の、抗生物質耐性獲得用のプラスミドを導入する方法等が好ましく挙げられ、中でも自然変異誘発法がより好ましい。 自然変異誘発法は、所望の薬剤を一定濃度で含有する培地中で対象とする微生物を継代培養等することにより、もともとは当該培地中で生育不可又は困難な微生物に自然変異を誘発させて、より高濃度の薬剤を含有する当該培地中でも生育し得る株を取得する方法である。 レシピエント微生物となるロドコッカス属細菌の薬剤耐性をどの程度まで強化するかは、使用するロドコッカス属細菌の種類、ドナー微生物及び選択する薬剤により異なるため必要に応じて適宜調整すればよいが、レシピエント微生物の生育が抑制されず、且つ、ドナー微生物の生育が十分阻害される薬剤濃度を基準に薬剤耐性を強化することが好ましい。例えば、レシピエント微生物としてのロドコッカス属細菌を用い、ドナー微生物として大腸菌を、選択用薬剤としてクロラムフェニコールを用いる場合、自然突然変異により、クロラムフェニコール10〜200 mg/L、好ましくは20〜200 mg/L、より好ましくは50〜200 mg/Lを含有する培地において生育可能なロドコッカス属細菌(クロラムフェニコール耐性強化株)を得ることが望ましい。2-2. 工程(b) 工程(b)では、接合伝達に供するドナー微生物として、所定の非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドを用いて形質転換された微生物を作製する。非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド、すなわちレシピエント微生物中の標的とする薬剤耐性遺伝子を欠失又は不活性化するためのプラスミドとしては、前述の(i)〜(v)の構成(遺伝子・塩基配列等)を含むものを用いる。 接合伝達に用いる非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドは、如何なるベクターをベースとして構築されたものであってもよく、その種類は特に限定はされない。使用するベクターとしては、例えば、pBR322、pSC101、pACYC184、pACYC177、pTrc99A、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pHSG298、pHSG299、pSP64、pSP65、pGEM-3、pGEM-3Z、pGEM-3Zf(-)、pGEM-4p、pGEM-4Z、pBluescript M13+、pBluescript M13-、pK19mob、pK18mob、pK18mobsacB等が挙げられる。中でも、プラスミド内部に既にプラスミドRP4由来のoriT及びmobを有しているpK19mob、pK18mob、pK18mobsacB(Schaefer等, Gene, vol. 45, p. 69-73(1994))を用いることがより好ましい。 ドナー微生物からレシピエント微生物にプラスミドを伝達するためには、oriTに加え、mob遺伝子及びtra遺伝子(群)が最小限必要である。mobはoriT特異的ニック酵素をコードする遺伝子で、この酵素がoriTに働くことによりドナー微生物からレシピエント微生物への(非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドの)移行が開始される。traは多数の遺伝子群の総称で、性繊毛形成、接合管形成、接合制御に関与する遺伝子群で構成されている。mob遺伝子及びtra遺伝子(群)は必ずしも非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド上になくてもよく、別のプラスミド(ヘルパープラスミド)、若しくはドナーとなる微生物ゲノム上に組み込まれていてもよい(蛋白質 核酸 酵素, vol. 38, p. 60-68 (1993))。 本発明の製造方法において、ドナー微生物としては、上記レシピエント微生物と接合伝達可能な微生物であればよく、限定されないが、上記の接合伝達に最低限必要な構成要件を満たしている必要がある。例えば、使用する非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド上にoriT 、mob遺伝子及びtra遺伝子(群)が一通り備わっている場合は、それぞれが機能しうる微生物であれば特に限定されないが、使用する非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド上にoriTのみが備わっている場合は、oriTに対応するmob遺伝子及びtra遺伝子(群)を保有する微生物を用いる必要がある。ドナーとなる微生物と非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドの組み合わせとしては、例えば、大腸菌S17-1と、pK19mob、pK18mob、pK18mobsacBのいずれかとの組み合わせが好ましい。大腸菌S17-1のゲノム上には、プラスミドRP4由来のtra遺伝子(群)が、pK19mob、pK18mob、pK18mobsacBには(前記のとおり)プラスミドRP4由来のoriT及びmob遺伝子がそれぞれ備わっているため、上記3種のプラスミドいずれかで形質転換された大腸菌S17-1はドナー微生物として使用可能である。 ここで、前記(i)の配列は、(改変の対象とする)ロドコッカス属細菌中の標的とする非相同組換え遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列とを含む塩基配列において、当該遺伝子を欠失又は不活性化させた塩基配列領域である。当該遺伝子の欠失は、(1)レシピエント微生物のゲノムにコードされる非相同組換え遺伝子の一部又は全部が欠失等されたもの、(2)プロモーター配列の一部又は全部が欠失等されたもの、(3)非相同組換え遺伝子の発現調節に関連する遺伝子の一部又は全部が欠失等されたものなどが挙げられ、これらの欠失等された領域は単独でもよいし複数を組み合わせたものでもよい。不活性化させた遺伝子としては、(1)レシピエント微生物のゲノムにコードされる非相同組換え遺伝子又は当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子に変異を導入する、(2)非相同組換え遺伝子又は当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子の内部に、例えば薬剤耐性遺伝子等の外来塩基配列等を導入する等の方法により、本来の機能(非相同的な外来DNA導入能力)を発現しない遺伝子に改変されたものなどが挙げられる。この際の外来塩基配列挿入による不活性化を行う場合、使用する外来配列は当該遺伝子が正常に発現しない状態にできるものであれば限定されない。従って、必ずしも何らかの遺伝子をコードしている必要はないが、レシピエント微生物中で当該微生物の生育を著しく阻害しないものが好ましい。 レシピエント微生物のゲノムから、標的とする非相同組換え遺伝子と当該遺伝子の周辺の塩基配列の単離(クローニング)は、遺伝子ライブラリー作製やPCR等の公知技術を用いて行うことができる。 なお、標的とする非相同組換え遺伝子の周辺の塩基配列としては限定されないが、当該ロドコッカス属細菌ゲノムとの相同領域(標的遺伝子周辺の塩基配列)が長いほどより効率よく相同組換えを起こすことが出来るため、クローニングに支障が出ない範囲でより長い配列を用いることが好ましい。 例えば、当該遺伝子の上流及び下流の相同領域がそれぞれ100〜3000 bpの塩基配列を含む配列であることが好ましく、より好ましくは500〜2000 bpの塩基配列を含む配列である。単離した塩基配列を用いて、前述(i)を作製する方法は特に限定されず、PCR法や制限酵素を用いた標的遺伝子部分の切除又は置換等の公知技術を用いて行うことができる。 欠失された遺伝子としては、ロドコッカス属細菌のゲノムにコードされる標的とする非相同組換え遺伝子の一部又は全部が欠失されたもの、プロモーター配列の一部又は全部が欠失されたもの、当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子が存在する場合は、その一部又は全部が欠失されたものなどが挙げられ、これらの欠失された領域は単独でもよいし複数を組み合わせたものでもよい。 不活性化された遺伝子としては、ロドコッカス属細菌のゲノムにコードされる標的とする非相同組換え遺伝子若しくは当該遺伝子の発現調節に関連する遺伝子の内部に、外来DNA、例えは薬剤耐性遺伝子等を導入し、本来の機能を発現しない遺伝子に改変されたものが挙げられる。 前記(ii)の接合伝達開始領域は、使用するドナー微生物中において接合伝達の開始点となる塩基配列を含む領域であればよく、特に限定されない。例えば、Fプラスミド由来の接合伝達開始領域を含む配列、プラスミドR6K由来のoriT、プラスミドRP4由来のoriTが好ましい。 前記(iii)の複製開始領域は、使用するドナー微生物中において前記非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドの自己複製起点として機能し得る塩基配列を含む領域であればよく、特に限定はされない。例えば、プラスミドpMB1及び広宿主域プラスミドRK2由来の複製開始点並びにその派生物等を含む領域の使用が好ましい。 前記(iv)のレシピエント微生物生育阻害マーカーは、形質転換後に非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドが挿入されたロドコッカス属細菌の取得を可能にするものであれば特に限定されない。レシピエント微生物生育阻害マーカーとしては、例えばポジティブセレクションに使用される薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。 薬剤耐性遺伝子としては、例えば、アミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子、β-ラクタム系抗生物質耐性遺伝子、クロラムフェニコール系抗生物質耐性遺伝子、テトラサイクリン系抗生物質耐性遺伝子、トリメトプリム耐性ジヒドロキシ葉酸レダクターゼ等が挙げられる。 ここで、アミノグリコシド系抗生物質耐性遺伝子としては、カナマイシン及びネオマイシン耐性遺伝子であるアミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ等のリン酸転移酵素遺伝子群、ストレプトマイシン耐性遺伝子であるアミノグリコシド3’-アデニリルトランスフェラーゼ等のヌクレオチジル転移酵素遺伝子群、アセチル転移酵素遺伝子群が挙げられる。β-ラクタム系抗生物質耐性遺伝子としては、β-ラクタマーゼ遺伝子が挙げられる。クロラムフェニコール系抗生物質耐性遺伝子としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられる。テトラサイクリン系抗生物質耐性遺伝子としては、トランスポゾンTn10由来テトラサイクリン耐性遺伝子が挙げられる。 当該生育阻害マーカーを元々レシピエント微生物が有している場合は、当該レシピエント微生物が有する薬剤耐性遺伝子のみでは耐性を獲得できない高濃度薬剤を用いることで、目的の組換え株(相同組換え株)を取得することも可能である。 また、非相同組換え遺伝子機能喪失を実施するロドコッカス属細菌が栄養要求性を示す株(例えば、必須代謝経路の欠損変異株や、特定の炭素源及び/又は窒素源を資化する代謝系を持たない株等)である場合、その株の欠損等を相補するような遺伝子(群)を選択マーカーとして用いることもできる。栄養要求性としては、代表的なものに、アミノ酸要求性(アミノ酸生合成経路欠損)、核酸要求性(核酸生合成経路欠損)、ビタミン要求性(ビタミン生合成経路欠損)等がある。 前記(v)の条件致死遺伝子は、ロドコッカス属細菌のゲノム上に導入され、且つある特定条件下にさらされた場合に、当該細菌を死に至らしめる作用を有し得る遺伝子であれば限定されない。例えば、sacB遺伝子が好ましく挙げられる。sacB遺伝子は、当該遺伝子を保有し発現する微生物(例えばロドコッカス属細菌等)をスクロース含有培地で培養した場合に、スクロースを基質とし当該微生物に対して致死作用を有する有害物質を産生する酵素(レバンスクラーゼ)をコードする遺伝子である。グラム陽性菌の一部やグラム陰性菌では、スクロース存在下においてsacB遺伝子が導入された細胞株を排除(ネガティブセレクション)することにより、目的とする遺伝子改変細胞株を効率よく選択することが可能である(Jagar W et al., Journal of bacteriology 1992; 5462-5465、Pelicic V et al., Journal of bacteriology 1996; 1197-1199)。なお、SacB遺伝子の発現が、スクロース存在下において細胞に致死性を付与する理由は明らかになっていない。 上記sacB遺伝子以外のレバンスクラーゼをコードする遺伝子としては、fefA遺伝子(accession number: AJ508391, Lactobacillus sanfranciscensis由来のレバンスクラーゼ)、lev遺伝子(accession number: Q8GGV4, Lactobacillus reuteri由来のレバンスクラーゼ)、mlft遺伝子(accession number: AAT81165, Leuconostoc mesenteroides由来のレバンスクラーゼ)、lsc遺伝子(accession number:O68609, Pseudomonas syringae由来のレバンスクラーゼ)、lsxA遺伝子(accession number:BAA93720, Gluconacetobacter xylinus由来のレバンスクラーゼ)等が挙げられるが、他のレバンスクラーゼをコードする遺伝子であっても、これらに限定されることなく用いることができる。 前記非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドにおける(i)〜(v)の構成は、その配置については特に限定されず、如何なる順番で配置されていてもよい。前記(i)〜(v)の構成を含む非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドの構築は、公知の遺伝子組換え技術を用いて実施することができる。 工程(b)では、上述したような各構成を有する非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドをドナーとして用いる微生物内に導入して形質転換された微生物、すなわち接合伝達に供するドナー微生物を作製する。その際、形質転換の方法としては、エレクトロポレーション法や塩化カルシウム法等の、微生物の形質転換方法として公知の方法を用いることができる。2-3. 工程(c) 工程(c)では、工程(b)で得られたドナー微生物から工程(a)で得られたレシピエント微生物への接合伝達を行う。通常は、ドナー微生物及びレシピエント微生物のそれぞれの菌体懸濁液を混合し、適当なプレート培地(LB培地等)上に均一に広げて、両微生物の接合を行わせる。当該接合においては、ドナー微生物中の非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドがレシピエント微生物内に移動し、レシピエント微生物のゲノムと上記プラスミドとの相同配列で相同組換えが起こり、非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドの一部又は大部分が当該レシピエント微生物のゲノム上に導入される。この接合により、レシピエント微生物の形質転換体、すなわち相同組換え株が作製される。 本工程(c)における所望の相同組換え株は、1重交差により標的遺伝子の上流又は下流に当該非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミドが導入されたものである。所望の相同組換え株であるかどうかの確認は、レシピエント微生物自体の薬剤耐性、及び前記非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド由来の薬剤耐性を利用して行うことができる。具体的には、両薬剤を含む培地(例えば、カナマイシン及びクロラムフェニコール含有培地)において上記接合後の微生物を培養することにより、所望の相同組換え株を選択することができる。2-4. 工程(d) 工程(d)では、工程(c)で作製されたレシピエント微生物の相同組換え株(相同組換え微生物)を、前記非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド由来の条件致死遺伝子が機能し得る培養条件で培養する。条件致死遺伝子が機能し得る培養条件としては、条件致死遺伝子が機能する限り、特に限定はされない。例えば、条件致死遺伝子がsacB遺伝子の場合は、スクロース含有培地を用いた培養が用いられる。 当該培養においては、上記条件致死遺伝子を有する相同組換え微生物は生育困難であるため、当該微生物のゲノム上から2度目の相同組換えにより上記条件致死遺伝子、薬剤耐性遺伝子、接合伝達開始領域、複製開始領域を含む非相同組換え遺伝子機能喪失用プラスミド由来の塩基配列領域が除かれた(脱落した)ロドコッカス属細菌を得ることができる。 ただし、当該培養により得られた微生物の中には、レシピエント微生物中の標的の非相同組換え遺伝子が、当初の目的通り欠失又は不活性化しているものと、そうでないもの(上記脱落の際の相同組換えにより元の非相同組換え遺伝子の機能が復活したもの)が含まれている。よって、通常は、得られた微生物からゲノムを抽出し、非相同組換え遺伝子周辺配列を解析することにより、標的の非相同組換え遺伝子欠失又は不活性化を確認する。3.非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化されたロドコッカス属細菌の更なる遺伝子改変 本発明の非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化されたロドコッカス属細菌は、非相同的な外来DNA挿入能力を喪失しているため、前記ロドコッカス属細菌のゲノムの一部と相同な配列を含む遺伝子構築物を導入することにより、高頻度に生じる相同組換えを利用して遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌を効率よく作製することができる。この目的に利用できる遺伝子構築物は、ロドコッカス属細菌のゲノムの一部と相同な配列を含み相同組換えに利用できる遺伝子構造物であれば特に限定されず、例えばロドコッカス属細菌で自律複製ができないプラスミドに前記ゲノムの一部と相同な配列を組み込んだもの等が挙げられる。前記遺伝子構造物は、当業者によく知られた方法で作製することができる。特に、非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化されたロドコッカス属細菌に、前記遺伝子構築物をエレクトロポレーション法により導入した場合でも非相同組換えが抑制され、相同組換えが効率的に生じるため、非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化されており、且つ更に遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌を容易且つ効率的に作製することが可能である。 本明細書において、「遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌」とは、人為的なゲノム改変が施されたロドコッカス属細菌のことを指す。非相同組換え遺伝子の欠失又は不活性化に加えて更に施し得る人為的なゲノム改変には、当該細菌のゲノム上に存在する内在性遺伝子の破壊又は欠失、及び、ゲノム上に存在しない外来DNA断片の挿入又は置換が含まれる。本発明のロドコッカス属細菌変異株を用いれば、非相同組換え遺伝子が欠失又は不活性化されていることにより、更なる人為的なゲノム改変が容易かつ効率的に行えるため、たとえば当該細菌の代謝経路をより望ましい状態に改変することが容易になる。 代謝経路の改変としては、例えば、微生物の生育時又は所望の物質生産時に律速となる代謝経路の改変(反応速度の向上)が挙げられる。この場合、当該律速経路を触媒する酵素をコードする遺伝子をより高活性な酵素遺伝子に置き換えて酵素活性を上げる、当該酵素遺伝子のプロモーターをより強力なものに置き換えて生体内の当該酵素量を上げる、当該律速経路そのものを経由せず、当該律速経路をバイパス可能にする酵素遺伝子を導入し、当該律速経路を経由しない新規代謝経路をデザインするなどの改変を施すことにより、当該経路の律速状態を解除し、生育時又は所望の物質生産を促進することができる。 所望の物質生産時に同時に生成する副産物の生成抑制も代謝改変例として挙げられる。例えば、副産物生成に関与する代謝経路を触媒する酵素をコードする遺伝子を欠失させ、副生物生成を抑制することができる。 本発明の微生物を用いて生産し得る所望の物質は特に限定されないが、本発明の微生物の生育を著しく阻害しないものが好ましい。そのような所望の物質には、例えば、酵素や多糖類のような高分子化合物や、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の炭化水素類、各種アミノ酸及びその誘導体、ニトリル、アミド、カルボン酸等が含まれる。 以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。本明細書では、「%」は「W/V」を意味する。<実施例1>接合伝達用レシピエントPR4KSの作製 ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4(製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門;受託番号:NBRC 100887)を特開2011-200133号公報に記載の方法により改変し、120 mg/Lのクロラムフェニコールに耐性を示し、且つカナマイシン耐性遺伝子を欠失した変異株を作製し、PR4KS株と命名した。 具体的には、クロラムフェニコール耐性を強化するために、MYK培地(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4)中のクロラムフェニコールの濃度を10mg/mLから始めて120mg/mLまで段階的に徐々に高めつつ、PR4株を継体培養することにより自然変異を誘発し、120mg/mLのクロラムフェニコールに耐性を有する変異株RhCmSR-09株を得た。 次いで、上記RhCmSR-09株を、特開2011-200133号公報に記載のカナマイシン耐性遺伝子欠失変異導入用プラスミドpKM043を保有する大腸菌株と1:1の比率で混合して培養し、接合伝達によりRhCmSR-09株内にpKM043を導入後、カナマイシン硫酸塩200 mg/L 及びクロラムフェニコール50 mg/L含有MYKプレート(0.5% polypeptone、0.3% bact yeast extract、0.3% malt extract、0.2% KH2PO4、0.2% K2HPO4、1.5%寒天)にて培養することにより、pKM043がRhCmSR-09株ゲノム内に挿入された相同組換え株を得た。前記相同組換え株を、10%スクロース含有MYKプレートにて培養し、得られたコロニーの中からカナマイシン感受性株となった変異株、すなわちカナマイシン耐性遺伝子欠失変異株PR4KS株を得た。接合伝達用レシピエントJ1-Cmの作製 ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)J1株(受託番号:FERM BP−1478として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託)を改変し、クロラムフェニコール耐性を有するJ1株の変異株を下記の方法で取得し、J1-Cm株と命名した。 2 mg/lのクロラムフェニコールを含んだMYKプレートにJ1株を接種し、コロニーが生育するまで30℃で保温した。約2週間後、生育してきたクロラムフェニコール耐性株を、再度2 mg/lのクロラムフェニコール入りMYKプレートに接種して、30℃で保温した。 次に、2 mg/lのクロラムフェニコール入りMYKプレートから生育したコロニーを、5 mg/lのクロラムフェニコール入りMYKプレートに接種し、クロラムフェニコール耐性株が出現するまで30℃で保温した。以下、同様の操作をクロラムフェニコール濃度10 mg/lに高めて繰り返し、10 mg/lのクロラムフェニコール濃度で生育するクロラムフェニコール耐性株(J1-Cm株)を得た。<実施例2>LigDホモログ遺伝子のクローニングと遺伝子欠失用プラスミドの作製 PR4KS株のLigDホモログ遺伝子(accession no: YP_002767969)を標的遺伝子とした。LigD遺伝子周辺配列を含む約5.4 kbのDNAをPCRにより増幅後、特開2011-200133に記載された、sacB遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子の下流且つ同方向に導入されたプラスミドベクターpK19mobsacB1にクローニングし、プラスミドpTJ001を得た。PCR条件は以下の通りである。プライマー:GB-138: 5'- GGCCTGCAGGTACCGATCATCACCATCGGTGTC -3' (配列番号3)GB-139: 5'- GGTCTAGACTGAGCAGTGTTCCAATGCG -3'(配列番号4)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-138(配列番号3) 1 μlGB-139(配列番号4) 1 μlPR4KSゲノム(50 ng/μl) 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、55℃ 10秒及び72℃ 120秒の反応を35サイクル pTJ001内部のLigDホモログ遺伝子全長(約2.3 kb)を欠失させLigDホモログ遺伝子の上流及び下流配列のみを残存させた、LigDホモログ遺伝子欠失用プラスミドpTJ002を作製した(図1参照)。pTJ002は、標的であるLigDホモログ遺伝子の開始コドン付近の配列と終始コドン付近の配列の両方を含み、それぞれ開始コドンから上流方向又は終始コドンから下流方向に伸長するように設計されたプライマーGB-140とGB-141によりpTJ001内部の配列を増幅することにより得られたLigDホモログ遺伝子を含まないPCR産物により大腸菌JM109株を形質転換して、環状DNAとすることにより取得した。PCRの条件は以下の通りである。プライマー:GB-140: 5'- GAGGAAATGGTCACAGGGCGAGAATAGGTTG -3' (配列番号5)GB-141: 5'- GCCCTGTGACCATTTCCTCATTGTGCTGG -3'(配列番号6)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-140(配列番号5) 1 μlGB-141(配列番号6) 1 μlpTJ001(1 ng/μl) 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、50℃ 10秒及び72℃ 180秒の反応を30サイクル 上記プラスミドpTJ002製造手順において、PR4株からのゲノム抽出にはWizard Genomic DNA Purification Kit(Promega社製)を、制限酵素により切断したDNA断片及びPCR産物の精製にはGel/PCR Purification Kit(FAVORGEN社製)を、DNA同士の接続にはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を、プラスミドの抽出にはQIAprep miniprep kit(QIAGEN社製)を用いた。<実施例3>PR4KSのLigDホモログ遺伝子欠失株の作製 大腸菌(Escherichia coli)S17-1λpirをpTJ002により形質転換したものをドナーとし、実施例1の方法により得られたPR4KSをレシピエントとして、特開2011-200133号公報に記載の方法と同様に接合伝達を行い、相同組換えによって生じた13株のligD遺伝子欠失株を得た。前記欠失株から1株を選び、PR4KSΔLigD株と命名した。<実施例4>PR4KSΔLigD株における相同組換え頻度の改善 本発明のロドコッカス属細菌変異株を使用することにより、容易に相同組換えによる遺伝子改変を実施できることを実証するために、以下の実験を行った。 破壊する標的遺伝子にイソクエン酸リアーゼ(ICL)(accession no: YP_002765021)を選んだ。PR4ゲノム配列情報を基に、ICL遺伝子部分配列をPR4KS株から抽出したゲノムを鋳型に使用したPCRにより増幅し、増幅した遺伝子をpK19mobsacB1にクローニングした。 PR4KS株から抽出したゲノムを鋳型に使用し、HindIIIサイトを付加したプライマーGB-208(配列番号7)及びGB-211(配列番号10)、又はGB-209(配列番号8)及びGB-210(配列番号9)を使用したPCRにより、約0.8 kb又は約0.4 kbのICL遺伝子部分配列を増幅した。増幅条件は以下の通りである。プライマー:GB-208: 5'- GGAAGCTTACCGGCAACATGGCTGTG -3' (配列番号7)GB-209: 5'- GGAAGCTTCGGTGGCGCTCTCAACGC -3'(配列番号8)GB-210: 5'- GGAAGCTTCTTTGCAACCTCGAGATC -3'(配列番号9)GB-211: 5'- GGAAGCTTCTGGAACTTCGCGATGGTC -3'(配列番号10)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-208(配列番号7)又はGB-209(配列番号8) 1 μlGB-210(配列番号9)又はGB-211(配列番号10) 1 μlPR4KSゲノム(50 ng/μl) 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、55℃ 10秒及び72℃ 120秒の反応を35サイクル ICL遺伝子部分配列2種をそれぞれ制限酵素HindIII(タカラバイオ社製)にて消化後、同酵素で消化したpK19mobに接続し、プラスミドpTJ007(ICL遺伝子の470 bpから888 bpを含む)、pTJ008(ICL遺伝子の470 bpから888 bpを含む)、pTJ009(ICL遺伝子の214 bpから1002 bpを含む)を構築した(図2)。pTJ007とpJT008は同じICL遺伝子断片が挿入されているが、挿入方向が異なる。前記プラスミド各製造手順では、実施例2記載のキット類を使用した。 PR4KS株とPR4KSΔligD株対数増殖期の細胞を遠心分離器により集菌し、氷冷した滅菌水で3回洗浄後、滅菌水に懸濁して、コンピテントセルを作製した。両株のコンピテントセル20 μlと、プラスミドpTJ007、pTJ008、pTJ009(全て1 ng/μl)1 μlをそれぞれ混合し、氷冷した。遺伝子導入装置 Gene Pulser(BIO RAD)用のキュベットに各混合液を入れ、Gene Pulserを用いて20 KV/cm、200 OHMSで電気パルス処理を行った。電気パルス処理後、キュベットにLB培地(1% bact tryptone、0.5% bact yeast extract、1% NaCl)500 μlを加え、30 ℃、5時間静置した後、カナマイシン硫酸塩50 mg/L含有LB寒天培地に塗布し、30 ℃、3日間培養した。 得られたコロニーを2個ずつ選び、各形質転換株からゲノムを抽出した。抽出したゲノムを鋳型にしたPCRを行い、標的であるICL遺伝子にpTJ007、pTJ008、pTJ009が挿入されているかを確認した。増幅条件は以下の通りである。プライマー:GB-60: 5'- CGTAGGAATCTTCACAGAC -3' (配列番号11)GB-216: 5'- GGCCAGCGTGATGAACTGGAACTTG -3'(配列番号12)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-60(配列番号11) 1 μlGB-216(配列番号12) 1 μl各形質転換株ゲノム 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、50℃ 10秒及び72℃ 180秒の反応を30サイクル PCRの結果を図3に示す。ICL遺伝子にpTJ007、pTJ008、pTJ009が挿入されている場合(相同組換えが起こった場合)、約5.4 kb(pTJ007挿入及びpTJ008挿入)又は約5.8 kb(pTJ009挿入)のDNA断片が増幅し、挿入が起こっていない場合は約1.2 kbのDNA断片が増幅する。ACE01、ACE02のゲノムを鋳型に用いた場合、約1.2 kbのDNA断片が増幅し、PR4KS株を用いた場合と同じ結果となった。すなわち、LigDが欠失していない宿主にICL破壊用プラスミドpTJ007を導入した場合、ゲノム上のICL遺伝子へのプラスミド挿入は起こっていなかった。それに対し、ACE03、ACE04、ACE05、ACE06のゲノムを鋳型に用いた場合は約5.4 kbのDNA断片が、ACE07、ACE09のゲノムを用いた場合は約5.8 kbのDNA断片が増幅した。PR4KSΔLigDを鋳型に用いた場合には、PR4株を用いた場合と同じく約1.2 kbのDNA断片が増幅した。すなわち、LigDを欠失させた宿主にICL遺伝子を含む(非複製型)プラスミドを導入した場合、ゲノム上のICL遺伝子へのプラスミド挿入が起こっていた。従って、LigD遺伝子欠失により、標的遺伝子の相同組換えが容易になったと考えられる。<実施例5>LigDホモログ遺伝子欠失による非相同的な外来DNA挿入の抑制効果 PR4KSΔLigD株において、そのゲノムとの相同配列を持たない直鎖状DNA(非複製型DNA)による形質転換、即ち、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入が起こるどうか、確認を実施した。PR4KSΔLigD株ゲノムと相同配列を持たないDNAとしては、特開2011-223925号公報記載のpK19Bを鋳型として作製した、カナマイシン耐性遺伝子とプラスミド複製開始領域(大腸菌内で機能)を含むDNA断片MK09を使用した。対照株としてPR4KS株を、形質転換効率確認用プラスミドにはpK4(特開05-064589号公報、ロドコッカスATCC12674/pK4:旧工業技術研究所・微工研条寄第3731号)を使用した。形質転換は実施例4と同様にエレクトロポレーション法により実施した。 その結果、両株はプラスミドpK4に対しては同程度の形質転換効率であるにもかかわらず、MK09を用いた場合に、PR4KSΔLigD株ではコロニーが出現しなかった。PR4KS株では282個のコロニーが出現したことから、LigDホモログ遺伝子を欠失させることにより、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入率が2桁以上低下することが分かった(表1)。表1:pK4又はMK09によるPR4KS株及びPR4KSΔLigD株の形質転換効率(cfu/μg DNA)<実施例6>LigDホモログ遺伝子のクローニングと遺伝子欠失用プラスミドの作製1) J1-Cm株の染色体DNAの調製 ロドコッカス・ロドクロウス (Rhodococcus rhodochrous) J1-Cm株 (J1-Cm株) を100 mlのMYKG培地中、30℃にて72時間振とう培養した。 培養後、集菌し、集菌された菌体をSaline-EDTA溶液 (0.1 M EDTA, 0.15 M NaCl (pH8.0)) 4 mlに懸濁した。懸濁液にリゾチーム40 mgを加えて37℃で1時間〜2時間振とうした後、-20℃で凍結した。 次に、10 mlのTris-SDS液 (1 % SDS, 0.1 M NaCl, 0.1 M Tris-HCl (pH 9.0)) を穏やかに振とうしながら加え、さらにプロテイナーゼK (メルク社) (10 mg/ml) を10 μl加えて37℃で1時間振とうした。 次に、等量のTE (10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA (pH8.0)) 飽和フェノールを加え、攪拌後、遠心した。上層を採取し、2倍量のエタノールを加えた後、ガラス棒でDNAを巻き取り、90 %, 80 %, 70 %のエタノールで順次フェノールを取り除いた。 次に、DNAを3 mlのTE緩衝液に溶解させ、リボヌクレアーゼA溶液 (100℃, 15分間の加熱処理済) を10 μg/mlになるように加え、37℃で30分間振とうした。さらに、プロテイナーゼKを加え37℃で30分間振とうした後、等量のTE飽和フェノールを加えて遠心し、上層と下層に分離させた。 上層についてこの操作を2回繰り返した後、同量のクロロホルム (4 %イソアミルアルコール含有) を加え、同様の抽出操作を繰り返した。その後、上層に2倍量のエタノールを加え、ガラス棒でDNAを巻き取り回収し、染色体DNA標品を得た。2) LigDホモログ遺伝子を含む断片のクローニング J1-Cm株のLigD遺伝子をPCRで増幅するためのプライマーを以下の方法で設計した。 図4はロドコッカス属細菌の産生するATP dependent DNA ligaseのアミノ酸ホモロジー解析結果を示す。図4中、特に保存されている2つの領域を選んで配列番号23および配列番号24のデジェネレイトプライマーを設計し、1)で調製したJ1菌染色体DNAを鋳型としてデジェネレイトPCRを以下の条件で実施した。その結果、約1.4 kbのバンドの増幅が確認された。反応液組成 鋳型DNA (J1-Cm染色体DNA) 1 μl 10×Ex Buffer (タカラバイオ社) 10 μl 150 μMプライマーDG-01 (配列番号23) 1 μl 150 μMプライマーDG-02 (配列番号24) 1 μl 2.5 mM dNTP 8 μl DMSO 10 μl 滅菌水 18 μl ExTaq DNAポリメラーゼ (タカラバイオ社) 1 μl 総量 50 μl温度サイクル: 94℃ 30秒、65℃ 30秒および72℃ 1分の反応を30サイクルプライマー:DG-01: 5'- ggccarcargcngcnctsgar-3’(配列番号23)DG-02: 5'- ggyttscgsagsaggctsacgcc-3’(配列番号24) なお、上記プライマー中、rはプリン塩基(puRine)を、sはグアニン又はシトシン(Strong interactions)を、yはピリミジン塩基(pYrimidine)を指す。 次に、増幅された配列のダイレクトシークエンシングをPCRで使用したプライマー(DG-01及びDG-02)を用いて実施した。その結果、配列番号25に示す配列が得られ、ホモロジー検索の結果、前述のATP dependent DNA ligaseとの相同性が認められた。3) ゲノミックサザンハイブリダイゼーション ApaI, ApaLI, BamHI, ClaI, Eco52I, EcoT14I, KpnI, MluI, NcoI, NotI, PvuI, SacI, XbaIそれぞれで消化したJ1-Cm染色体DNAに対し、後述の方法で調製したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーションを行ったところ、ApaIで消化した断片から、約6.4 kbの単一シグナルが得られた。 なお、プローブは以下のようにして調製した。 2)で調製したPCR産物をGFX PCR DNA band and Gel Band Purification kit (GEヘルスケア バイオサイエンス社) を用いて精製した。精製したPCR産物に対してAlkPhos Direct Labeling kit (GEヘルスケア バイオサイエンス社) を用い、添付のマニュアルにしたがってラベリングを行い、プローブとした。4) コロニーハイブリダイゼーション J1-Cm染色体DNAを制限酵素ApaIで分解して0.7 %アガロースゲル電気泳動で分離し、ゲルからGFX PCR DNA band and Gel Band Purification kit (GEヘルスケア バイオサイエンス社) を使用して約6.4 kbの断片を回収した。得られた断片は、pBluescriptII SK (+) ベクター (Stratagene社製) にDNA ligation kit <Mighty mix> (タカラバイオ社製) を用いて連結した。反応条件は以下の通りである。反応液組成: ligation mighty mix (タカラバイオ社製) 5 μl J1-Cm染色体DNA/ApaI切断断片 4 μl pBluescriptII SK (+)/ApaI切断断片 1 μl 総量 10 μl反応:16℃, 1時間 上記ライゲーション産物の全量を大腸菌JM109株コンピテントセル200 μlに加え、0℃で30分放置した。続いて、前述コンピテントセルに42℃で45秒間ヒートショックを与え、0℃で2分間冷却した。その後、SOC培地 (20 mMグルコース、2 %バクトトリプトン、0.5 %バクトイーストエキス、10 mM NaCl, 2.5 mM KCl, 1 mM MgSO4, 1 mM MgCl2) を1 ml添加し、37℃にて1時間振とう培養した。培養後の培養液を200 μlずつ、LB AIXプレート (100 μg/lアンピシリン、100 μM IPTG, 50μg/l X-galを含むLB寒天培地) に塗布し、37℃で一晩放置した。プレート上に生育した白色の組換コロニーを新しいLB AIXプレートに、プレート1枚に付き94個、プレート10枚分単離した。各プレートにはインサートを含まないpBluescriptII SK (+) で形質転換したJM109株を2コロニー/プレート植菌した。コロニー単離したプレートを37℃で一晩放置した後、Hybond-N+ (GEヘルスケア バイオサイエンス社) 膜にコロニーを写し取り、3) で調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行った。 検出されたコロニーを培養して得られた培養液を集菌後、QIAprep miniprep kit (QIAGEN社製) を用いて組換えプラスミドを回収した。キャピラリーDNAシーケンサーCEQ2000 (ベックマン・コールター社製) を用いて、添付のマニュアルに従って、プラスミド中にクローニングされている染色体DNA断片の塩基配列を解析した。その結果、配列番号26に示される塩基配列が得られた。配列番号26に示される塩基配列中に、配列番号22に示す2493 bpのオープンリーディングフレーム (ORF1) を見出した。このORF1のコードするアミノ酸配列は、図4中に示したロドコッカス属細菌由来ATP dependent DNA ligaseに対して62 %〜95 %の相同性を持っていることから、ORF1はATP dependent DNA ligaseをコードしていることが推定されたため、ORF1のコードするATP dependent DNA ligaseをJ1 ATP dependent DNA ligaseと命名した。また、得られたORF1を含むプラスミドをpBJ1LigDと命名した。5) J1 ATP dependent DNA ligase (LigD) 遺伝子欠失用プラスミドの作製 J1菌のLigD遺伝子周辺配列を含む約4.2 kbのDNAをPCRにより増幅後、特開2011-200133に記載された、sacB遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子の下流且つ同方向に導入されたプラスミドベクターpK19mobsacB1にクローニングし、プラスミドpK19ligDを得た。PCR条件は以下の通りである。プライマー:GB-224: 5'- GGTCCTGCAGGCCGTTGAGATACGCCTCG -3' (配列番号27)GB-225: 5'- GGTTCTAGAGATATCCGATCGCGACGAATC -3'(配列番号28)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-224(配列番号27) 1 μlGB-225(配列番号28) 1 μlJ1-Cm染色体DNA 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、55℃ 10秒及び72℃ 120秒の反応を35サイクル pK19ligD内部のLigDホモログ遺伝子全長(約2.5 kb)を欠失させLigDホモログ遺伝子の上流及び下流配列のみを残存させた、LigDホモログ遺伝子欠失用プラスミドpK19ΔligDを作製した。pK19ΔligDは、標的であるLigDホモログ遺伝子の開始コドン付近の配列と終始コドン付近の配列の両方を含み、それぞれ開始コドンから上流方向又は終始コドンから下流方向に伸長するように設計されたプライマーGB-226とGB-227によりpK19ligD内部の配列を増幅することにより得られたLigDホモログ遺伝子を含まないPCR産物により大腸菌JM109株を形質転換して、環状DNAとすることにより取得した。PCRの条件は以下の通りである。プライマー:GB-226: 5'- GTCGGACCCTCTGCTAACGTTCGTCCGAAG -3' (配列番号29)GB-227: 5'- ACGTTAGCAGAGGGTCCGACTCCCGACGCG -3'(配列番号30)反応液組成:滅菌水22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlGB-226(配列番号29) 1 μlGB-227(配列番号30) 1 μlpK19ligD(1 ng/μl) 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、50℃ 10秒及び72℃ 180秒の反応を30サイクル 上記プラスミドpK19ΔligD製造手順において、制限酵素により切断したDNA断片及びPCR産物の精製にはGel/PCR Purification Kit(FAVORGEN社製)を、DNA同士の接続にはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を、プラスミドの抽出にはQIAprep miniprep kit(QIAGEN社製)を用いた。<実施例7>J1-CmのLigDホモログ遺伝子欠失株及びその誘導株の作製 大腸菌(Escherichia coli)S17-1λpirをpK19ΔligDにより形質転換したものをドナーとし、実施例1の方法により得られたJ1-Cmをレシピエントとして、特開2011-200133号公報に記載の方法と同様に接合伝達を行い、相同組換えによって生じた2株のligD遺伝子欠失株を得た。前記欠失株から1株を選び、J1-CmΔLigD株と命名した。 次に、特開2013−5792号公報に記載の方法で調製したJ1菌の制限酵素RrhJ1I遺伝子欠失用プラスミドpK19ΔRを用いて大腸菌S17-1λpirを形質転換し、得られた形質転換体をドナー、J1-CmΔLigD株をレシピエントとして上記と同様に接合伝達を行い、相同組換えによって生じた3株のRrhJ1I遺伝子欠失株を得た。前記欠失株から1株を選び、J1-CmΔLigDΔR株と命名した。<実施例8>J1-CmΔLigDΔR株におけるエレクトロポレーションによる相同組換え、遺伝子欠失 本発明のロドコッカス属細菌変異株を使用することにより、容易に相同組換えによる遺伝子改変を実施できることを実証するために、以下の実験を行った。 欠失する標的遺伝子にニトリルヒドラターゼ(NHase)を選んだ。NHase遺伝子の上流部分と下流部分を含む領域を取得するため、J1-Cm株から抽出した染色体DNAを鋳型に使用したPCRにより増幅し、増幅した遺伝子をpK19mobsacB1にクローニングした。 J1-Cm株から抽出した染色体DNAを鋳型に使用し、プライマーNH-121(配列番号31)及びNH-122(配列番号32)、またはNH-123(配列番号33)及びNH-124(配列番号34)を使用したPCRにより、それぞれ約1.8 kbのNHase遺伝子周辺配列を増幅した。増幅条件は以下の通りである。プライマー:NH-121: 5'- GGCCTGCAGGagctgctgacgatgttcatcc -3' (配列番号31)NH-122: 5'- tcttcgctgattcctcattcctttcatcgg -3'(配列番号32)NH-123: 5'- gaatgaggaatcagcgaagatgagatccgc -3'(配列番号33)NH-124: 5'- CCTCTAGAtggcacgactgatcgatgcc -3'(配列番号34)反応液組成:滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlNH-121(配列番号31) 1 μlNH-122(配列番号32) 1 μlJ1-Cm染色体DNA 1 μl総量 50 μlまたは、滅菌水 22 μl2×PrimeSTAR(タカラバイオ社製) 25 μlNH-123(配列番号33) 1 μlNH-124(配列番号34) 1 μlJ1-Cm染色体DNA 1 μl総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、55℃ 10秒及び72℃ 120秒の反応を35サイクル PCR終了後、反応液2 μlを0.7 %アガロースゲル電気泳動に供し、それぞれ約1.8 kbpのPCR産物の検出を行った。PCR産物を確認した後、反応液をGFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(アマシャムバイオサイエンス社製)で精製した。 次に上記の増幅した2つのPCR断片を連結するため、以下の条件でAssembly PCRを行った。反応液組成: 鋳型DNA1(NH-121とNH-122の増幅産物) 0.5 μl 鋳型DNA2(NH-123とNH-124の増幅産物) 0.5 μl プライマーNH-121(配列番号31) 1 μl プライマーNH-124(配列番号34) 1 μl 滅菌水 22 μl 2×PrimeSTAR Max(タカラバイオ社製) 25 μl 総量 50 μl温度サイクル:98℃ 10秒、55℃ 5秒及び72℃ 20秒の反応を30サイクル PCR終了後、約3.6 kbpの増幅産物を0.7 %アガロース電気泳動で確認し、Mighty Cloning Kit(Blunt End)(タカラバイオ社製)を使用してpUC118に連結した。このようにして得たプラスミドをpUC118/ΔNHと命名した。 続いて、上記プラスミドpUC118/ΔNH及びプラスミドベクターpK19mobsacB1を制限酵素XbaI及びSse8387Iで切断した。反応液組成1: プラスミドpUC118/ΔNH 20 μl XbaI(タカラバイオ社製) 1 μl Sse8387I(タカラバイオ社製) 1 μl 10×M Buffer(酵素に添付) 5 μl 10×BSA(酵素に添付) 5 μl 滅菌水 18 μl 総量 50 μl反応液組成2: プラスミドpK19mobsacB1 5 μl XbaI(タカラバイオ社製) 0.5 μl Sse8387I(タカラバイオ社製) 0.5 μl 10×M Buffer(酵素に添付) 2 μl 10×BSA(酵素に添付) 2 μl 滅菌水 10 μl 総量 20 μl反応:37℃, 2.5時間 反応終了後、プラスミドpUC118/ΔNHについては反応液の全量を0.7 %アガロースゲル電気泳動に供して約3.6 kbの断片を切り出し、GFX PCR DNA band and GelBand Purification kit(アマシャムバイオサイエンス社製)で回収してΔNH/XbaI-Sse8387Iとした。 プラスミドベクターpK19mobsacB1については、反応液に2 μlの3 M酢酸ナトリウム、50 μlの99.5 %エタノールを加えてよく混和し、-20℃で1時間冷却した。冷却後の溶液を15,000 rpm, 4℃, 10分遠心して上清を除去し、減圧乾燥にて溶媒を除去した。その後、乾燥させたペレットに50 μlの滅菌水を加えて再度溶解させ、pK19mobsacB1/XbaI-Sse8387Iのベクター溶液を得た。 次に回収したΔNH断片とベクターpK19mobsacB1/XbaI-Sse8387Iを連結した。反応液組成: Ligation mighty mix(タカラバイオ社製) 5 μl ΔNH/XbaI-Sse8387I 4 μl pK19mobsacB1/XbaI-Sse8387I 1 μl総量 10 μl反応:16℃, 1時間 反応終了後、反応産物で大腸菌JM109株を形質転換し、NHase遺伝子欠失プラスミドを得た。本プラスミドをpBKNH01と名付けた。次にプラスミドpBKNH01を用いて大腸菌SCS110株(Stratagene社製)を形質転換し、得られたコロニーからプラスミドを調製した。 次に、後述の方法により作製したJ1-CmΔligDΔR株のコンピテントセル20 μlと、大腸菌SCS110株から調製したプラスミドpBKNH01(1 ng/μl)1 μlをそれぞれ混合し、氷冷した。遺伝子導入装置 Gene Pulser(BIO RAD)用のキュベットに混合液を入れ、Gene Pulserを用いて印加条件1.5 kV, 400Ω, 25 μFにてエレクトロポレーションした。その後、氷上で10分間放置し、続いて37℃で10分間放置した。キュベットにMYK液体培地0.5 mlを加えてよく混和し、懸濁液を全量Φ10×105 mmワッセルマン試験管に移して30℃, 180 rpmで一晩振盪し、復帰培養を行った。復帰培養後の培養液全量をMYK寒天培地(10 mg/lカナマイシン含有)に塗布し、30℃で3日間培養した。 得られたコロニーを1個選んで滅菌水に懸濁して、10 %スクロースを含んだMYKプレートに懸濁液を適度に希釈して塗布し、30℃で静置した。生育したコロニー10個についてコロニーPCRを行い、PCR断片のサイズを電気泳動で調べた。反応液組成: プライマーNH-121(配列番号31) 0.2 μl プライマーNH-124(配列番号34) 0.2 μl 滅菌水 4.1 μl 2×PrimeSTAR Max(タカラバイオ社製) 5 μl 総量 10 μl温度サイクル: 98℃ 10秒、55℃ 5秒および72℃ 35秒の反応を30サイクル その結果、10個のコロニーはNHase遺伝子が欠失していることが確認された。PCRの結果を図5に示す。図5中、Lane Mは分子量マーカー、Lane P, Lane GはプラスミドpBKNH01,J1-Cm株染色体DNAを鋳型としたときの増幅パターンである(Lane Pは約3.6kb、Lane Gは約5.7kb)。NHase遺伝子が欠失した場合(エレクトロポレーションによるpBKNH01の導入により相同組換えが起こり、続く10 %スクロースによる選抜で、pBKNH01上のNHase周辺配列と、ゲノム上のNHase周辺配列の間での相同組換えが起こり、NHase遺伝子とベクター部分の脱落が起こった場合)、約3.6 kbのDNA断片が増幅し、NHase遺伝子が欠失しなかった場合(エレクトロポレーションによるpBKNH01の導入により相同組換えが起こり、続く10 %ショ糖による選抜で、pBKNH01上のNHase周辺配列と、ゲノム上のNHase周辺配列の間での相同組換えが起こり、NHase周辺配列とベクター部分の脱落が起こった場合)は約5.7 kbのDNA断片が増幅する。コロニーPCRの結果、すべて約3.6 kbのDNA断片が増幅し、NHase遺伝子が欠失していることが分かった(図5、Lane 1から10)。すなわち、LigDが欠失した宿主にNHase欠失用プラスミドpBKNH01をエレクトロポレーションにより導入した場合、ゲノム上のNHase遺伝子周辺配列との相同組換えが起こっていることが示された。従って、LigD遺伝子欠失により、エレクトロポレーションによる標的遺伝子の相同組換えが容易になったと考えられる。 なお、J1-CmΔligDΔR株のコンピテントセルは以下の方法で調製した。 MYKG培地(0.5 %ポリペプトン、0.3 %バクトイーストエキス、0.3 %マルツエキス、0.2 %KH2PO4,0.2 %K2HPO4,1 %グルコース)をΦ24 mm×165 mm試験管に10 mlずつ分注し、各試験管にJ1-CmΔligDΔR株のコロニーを植菌した。30 ℃,350 rpmで1日培養した後、得られた培養液各3 mlをMYKG-20 %Sucrose培地(500 ml三角フラスコ中の100 ml)に植菌し、30 ℃、230 rpmで20時間培養した。得られた培養液を全量50 ml容のチューブに移し、遠心分離(5000 rpm,10分間、4℃)により各菌体を回収した。回収した各菌体を10 mlのElectroporation Buffer(2 mM K2HPO4,10 %スクロース、pH8.3;以降EBと略記することがある)で2回洗浄した後、菌濃度が同一となるように、それぞれEBに懸濁し、-80℃で凍結してコンピテントセルとした。 ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与するタンパク質をコードする遺伝子を欠失又は不活性化させたロドコッカス属細菌変異株。 ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する前記タンパク質が(a)から(f)のいずれかのタンパク質である請求項1に記載のロドコッカス属細菌変異株:(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列を含み、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と60 %以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であり、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質(d)配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(e)配列番号21で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列を含み、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質(f)配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と60 %以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であり、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質。 ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する前記タンパク質をコードする遺伝子が(a)から(d)のいずれかのDNAによりコードされる請求項1又は2に記載のロドコッカス属細菌変異株:(a)配列番号2で示される塩基配列を含むDNA(b)配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質をコードするDNA(c)配列番号22で示される塩基配列を含むDNA(d)配列番号22で示される塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与する機能を有するタンパク質をコードするDNA。 ロドコッカス属細菌がロドコッカス・ロドクロウス、ロドコッカス・エリスロポリス、ロドコッカス・ピリジノボランス、ロドコッカス・オパカス、ロドコッカス・ジョスティ、ロドコッカス・イムテケンシス、ロドコッカス・エクイのいずれかである請求項1〜5のいずれかに記載のロドコッカス属細菌変異株。 請求項1〜4のいずれかに記載のロドコッカス属細菌変異株に、前記変異株のゲノムの少なくとも一部と相同な配列を含む遺伝子構築物を導入することを含む、遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌を製造する方法。 ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与するタンパク質をコードする遺伝子を欠失または不活性化させることを特徴とする、ロドコッカス属細菌の標的遺伝子の改変を容易にする方法。 【課題】非相同的な外来DNA挿入能力を喪失し、標的遺伝子の改変が容易なロドコッカス属細菌を提供すること。【解決手段】ゲノムへの非相同的な外来DNA挿入に関与するタンパク質をコードする遺伝子を欠失又は不活性化させたロドコッカス属細菌変異株、及び当該ロドコッカス属細菌変異株に、前記変異株のゲノムの少なくとも一部と相同な配列を含む遺伝子構築物を導入することを含む、遺伝的に改変されたロドコッカス属細菌を製造する方法。【選択図】図3配列表