タイトル: | 公開特許公報(A)_ピーク検出装置 |
出願番号: | 2013088530 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 30/86 |
田中 聡 JP 2014211393 公開特許公報(A) 20141113 2013088530 20130419 ピーク検出装置 株式会社島津製作所 000001993 特許業務法人京都国際特許事務所 110001069 田中 聡 G01N 30/86 20060101AFI20141017BHJP JPG01N30/86 E 5 4 OL 17 本発明は、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)などで取得されたクロマトグラムデータや質量分析計で取得されたマススペクトルデータなどに対してデータ処理を行うことで、クロマトグラムやマススペクトルなどに現れるピークを検出するピーク検出装置に関する。 ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ、或いはこれらと質量分析装置とを組み合わせたガスクロマトグラフ質量分析装置や液体クロマトグラフ質量分析装置では、試料を測定することで得られたデータに基づいてクロマトグラムが作成される。クロマトグラムには試料に含まれる成分に対応したピークが現れ、そのピークの出現位置(時間)は成分の種類に依存する。また、ピークの大きさ、つまりその高さや面積は該ピークに対応する成分の量に依存する。そのため、試料中の未知の成分を特定するには、つまり定性分析を行うにはピークの位置が重要であり、試料中の成分の量や濃度を把握するには、つまり定量分析を行うにはピークの高さや面積が重要である。 いずれにしても、クロマトグラム上のピークの位置やその高さ或いは面積値などを求めるには、クロマトグラムからピークを的確に検出することが必要となる。 また、四重極型質量分析装置においてスキャン測定が実施される場合や飛行時間型質量分析装置では、取得された生データ(Raw data)に基づくプロファイルスペクトルが得られるが、そのプロファイルスペクトルに対しセントロイド処理を行ってマススペクトルを作成するためには、プロファイルスペクトルからピークを的確に検出する必要がある。 このようにクロマトグラムやプロファイルスペクトルからピークを検出する方法として、従来から様々な方法が提案され、また使用されている。 例えば従来のピーク検出方法として特許文献1に記載の方法が知られている。この方法は、簡単に言えば、或る高さhのデータ点Aが存在し、そのデータ点Aの両側のデータ点の値がhよりも大きくなることなくh未満の特定の値、例えばh/2以下の値まで下がったときに、上記データ点Aを頂点とするピークを抽出する、という方法である。図10はこの方法によるピーク検出の一例を説明するためのクロマトグラムである。 図中のデータ点Aの左方(時間的に前方)と右方(時間的に後方)との両側では、データ点の高さ(信号強度)が上記データ点Aの高さhを上回ることなくh/2以下にまで下がっているので、データ点Aを頂点とするピークが存在すると判断される。これに対し、データ点Bについては、その右方においてデータ点の高さがh/2以下に下がる前にhを上回るデータ点B’が現れているので、データ点Bはピークの頂点としては抽出されない。 上記ピーク検出方法はその処理アルゴリズムが簡単であるので、比較的性能の低いハードウエア(例えばパーソナルコンピュータ)であっても短時間でピークを検出することができる。また、ノイズが比較的多い波形であってもピーク検出の正確性が高いという利点もある。 しかしながら、上記ピーク検出方法では、ピーク頂点の候補であるデータ点の高さに基づいて決めた閾値(上記例ではh/2)を利用して該候補が真のピーク頂点として適切かどうかが判断されるため、ベースラインが高いクロマトグラム波形やスペクトル波形では、ピークが検出されにくくなるという問題がある。例えばクロマトグラフ分析では、カラムの汚染や劣化などの要因のためにベースラインが上昇することがあるが、こうした場合にピークの検出漏れが多発するおそれがある。 また、上記ピーク検出方法では、クロマトグラムやプロファイルスペクトルの横軸方向の端部から順にピークを探索してゆくため、限られた処理時間でピークを検出しようとした場合に、探索開始位置から遠い位置に存在する強度の大きなピークを検出できないおそれがある。一般に、強度の大きなピークは成分同定や定量分析において重要である、つまり分析者が分析したいピークである可能性が高く、こうしたピークの検出漏れは分析精度の信頼性低下に繋がる。 さらにまた、上記ピーク検出方法ではピーク頂点の位置は求まるものの、そのピークの開始点や終了点は同時には求まらないため、別の方法でピーク開始点及び終了点を決める必要がある。その際、隣接する二つのピークの裾部(リーディングとテーリング)に重なりがある場合には、重なった二つのピークを分離するようにそれぞれのピーク開始点及び終了点を決める必要があり、そうしたデータ処理は煩雑で時間を要する。特開2006−170710号公報 本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、ベースラインが高い場合でもピークを正確に検出することができ、また強度の高いピークを優先的に検出することができるピーク検出装置を提供することにある。 また本発明の別の目的は、上記のような特徴を有しつつ、ピーク頂点と併せてピーク開始点及び終了点を的確に決定することができるピーク検出装置を提供することにある。 上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、分析装置で得られるデータに基づいて作成される、縦軸が強度軸、横軸が時間軸を含む別のパラメータ軸であるグラフ上のピークを検出するピーク検出装置であって、 a)与えられたグラフを構成する複数のデータの中で最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出するピーク頂点抽出部と、 b)該ピーク頂点抽出部によりピーク頂点として抽出されたデータから前記グラフの横軸方向にその前後にそれぞれ、順次各データの強度を調べ、所定データ点数に亘って更新されない極小値を示すデータを探索して該データをピーク開始点及びピーク終了点と定めるピーク開始点・終了点決定部と、 c)前記ピーク頂点抽出部による処理対象であるグラフの中で前記ピーク開始点・終了点決定部で決定されたピーク開始点とピーク終了点との間の領域を除外し、該領域で以て分離された複数又は一つのグラフを取得するグラフ再構成部と、 d)初期的に与えられたグラフについて前記ピーク頂点抽出部、前記ピーク開始点・終了点決定部及び前記グラフ再構成部による処理を実行することで得られた複数又は一つのグラフを再び前記ピーク頂点抽出部に与える、というサイクルを所定回数繰り返し、その過程で得られるピーク頂点、ピーク開始点及びピーク終了点を含むピーク情報を収集する繰り返し制御部と、 を備えることを特徴としている。 また上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様は、分析装置で得られるデータに基づいて作成される、縦軸が強度軸、横軸が時間軸を含む別のパラメータ軸であるグラフ上のピークを検出するピーク検出装置であって、 a)与えられたグラフの中で横軸方向に前端部及び後端部の一部領域をそれぞれ除外した残りのグラフを構成する複数のデータの中で、横軸方向に両端部に位置するデータを除いて最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出するピーク頂点抽出部と、 b)該ピーク頂点抽出部に与えられたグラフを、該ピーク頂点部により抽出されたピーク頂点の位置で分離して複数又は一つのグラフを取得するグラフ再構成部と、 c)初期的に与えられたグラフについて前記ピーク頂点抽出部及び前記グラフ再構成部による処理を実行することで得られた複数又は一つのグラフを再び前記ピーク頂点抽出部に与える、というサイクルを所定回数繰り返し、その過程で得られるピーク頂点を含むピーク情報を収集する繰り返し制御部と、 を備えることを特徴としている。 本発明に係るピーク検出装置は専用のハードウエアで構成することも可能であるが、一般には、コンピュータに予めインストールされた専用のデータ処理プログラムを該コンピュータ上で実行することにより具現化される装置である。 また、本発明に係るピーク検出装置による処理対象のグラフとは、典型的には、液体クロマトグラフィやガスクロマトグラフィにより得られる横軸が時間軸であるクロマトグラム、質量分析装置により得られる横軸が質量電荷比m/z軸であるプロファイルスペクトル、などである。 本発明の第1の態様によるピーク検出装置において、例えば或る時間範囲のクロマトグラムが与えられると、繰り返し制御部による制御の下に、ピーク頂点抽出部は、与えられたクロマトグラムを構成する複数のデータの中で最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出する。次いで、ピーク開始点・終了点決定部は、ピーク頂点として抽出されたデータから元のクロマトグラムの前方つまり時間を遡る方向と、後方つまり時間の経過方向とにそれぞれ、順次各データの強度を調べてゆき、所定データ点数に亘って更新されない極小値を示すデータを探索する。そして、クロマトグラム上で上記ピーク頂点の前方側で見つかったデータをピーク開始点、後方側で見つかったデータをピーク終了点と定める。これにより、一つのピークの頂点、開始点及び終了点が求まる。 グラフ再構成部は、ピーク頂点抽出対象であったクロマトグラムの中で、上記のように求まったピーク開始点とピーク終了点との間の領域を除外して、該領域で以て前後に分離されたクロマトグラムを取得する。通常は二つのクロマトグラムが得られるが、ピークがちょうど元のクロマトグラムの始端や終端に存在するような場合には、ピーク開始点とピーク終了点との間の領域を除外しても一つのクロマトグラムしか得られないこともある。こうして抽出されたピーク領域を除外した、時間範囲が狭められたクロマトグラムが得られると、それが再びピーク頂点抽出部に与えられ、ピーク頂点抽出部、ピーク開始点・終了点決定部、及びグラフ再構成部により上記のような処理が実行される。このようなサイクルが繰り返し制御部の制御の下で所定回数繰り返され、その繰り返し毎に新たにピークが抽出されてピーク情報が収集される。 なお、この第1の態様によるピーク検出装置では、好ましくは、上記ピーク開始点・終了点決定部において極小値を示すデータを探索するために用いられる上記所定データ点数を示すパラメータ、及び、上記繰り返し制御部においてサイクルの繰り返し回数を決めるパラメータ、をそれぞれ分析者が設定するためのパラメータ設定部をさらに備える構成とするとよい。もちろん、これらパラメータは予め適宜の値がデフォルト値として定められ、これを分析者が変更したい場合にパラメータ設定部より入力設定するようにすればよい。 一方、本発明の第2の態様によるピーク検出装置において、例えば或る時間範囲のクロマトグラムが与えられると、ピーク頂点抽出部は、第1の態様のピーク検出装置におけるピーク頂点抽出部と同様に、クロマトグラムを構成する複数のデータの中で最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出するが、与えられたクロマトグラムを構成する全てのデータを用いるのではなく、前端部及び後端部の一部領域をそれぞれ除外した残りのクロマトグラムを構成する複数のデータの中から強度が最大のデータを抽出する。ここで、除外する前端部及び後端部の一部領域の幅は、例えば元のクロマトグラム(又はそれ以外のグラフ)全体に対する割合で決めることができる。 ピーク頂点が定まるとグラフ再構成部は、ピーク頂点抽出対象であったクロマトグラムの中で、ピーク頂点で以て前後に分離されたクロマトグラムを取得する。そうして時間範囲が狭められたクロマトグラムが得られると、それが再びピーク頂点抽出部に与えられ、ピーク頂点抽出部及びグラフ再構成部により上記のような処理が実行される。このようなサイクルが繰り返し制御部の制御の下で所定回数繰り返され、その繰り返し毎に新たにピークが抽出されてピーク情報が収集される。 第2の態様によるピーク検出装置では、第1の態様によるピーク検出装置のようにピーク開始点及び終了点で決まるピーク領域が次のピーク頂点抽出対象のグラフから除外されるのではなく、ピーク開始点・終了点とは無関係にピーク頂点の前後に設定される所定の範囲内のグラフが次のピーク頂点抽出対象から除外される。このため、その除外範囲を適切に設定することで、クロマトグラム等のグラフ上の狭い範囲に強度の大きなピークが多数集中している場合に、その集中しているピークのみを検出し、それ以外の位置に存在する比較的強度の低いピークが全く無視されてしまうことを回避できる。 特にプロファイルスペクトルでは、分析対象の試料によって低質量電荷比の領域に強度が大きなピークが集中することがあるが、第2の態様によるピーク検出装置によれば、低質量電荷比の領域に片寄らずにピーク頂点が抽出されるので、上記サイクルを繰り返しつつピーク情報を収集する際にプロファイルスペクトルが質量電荷比軸上で満遍なく分割される傾向にある。その結果、サイクルの繰り返し毎にプロファイルスペクトルの分割数が確実に増えるので、効率よくピークを検出することができる。即ち、同じ処理時間内で数多くのピークを検出することができる。 ただし、横軸方向に前端部及び後端部の一部領域をそれぞれ除外した残りのグラフの中で最大の強度を与えるデータが横軸方向に両端部に位置している場合、そのグラフ中には抽出すべき適切なピークが存在せず、除外された一部領域中にピーク頂点とみなせるデータが存在する可能性がある。そこで、この場合には、最大の強度を与えるデータから横軸方向に、除外された一部領域中のデータの強度の単調増加性を調べてゆき、単調増加性が認められる場合にその一部領域中で強度が極大を示すデータをピークの頂点として抽出する構成とするとよい。 この構成によれば、ピーク頂点であるとみなせないようなデータではなく、よりピーク頂点として適切なデータを抽出できる可能性が高まる。それによって、偽のピークを検出する確率を下げることができる。 なお、第1の態様によるピーク検出装置と同様にこの第2の態様によるピーク検出装置でも、好ましくは、繰り返し制御部においてサイクルの繰り返し回数を決めるパラメータを分析者が設定するためのパラメータ設定部をさらに備える構成とするとよい。 本発明に係る第1及び第2の態様によるピーク検出装置によれば、上述した従来のピーク検出方法のように、強度が極大を示すデータからの強度の低下度合いはピーク検出には利用されないので、ベースラインが上昇してピーク開始点や終了点のレベルが上がってもピークを的確に検出することができる。即ち、ベースラインの高さに拘わらず、ピーク検出の正確性を確保することができる。また、与えられたグラフの中でピークの可能性が高いものから優先的に順次ピーク頂点が抽出されるので、一般的に強度が低いノイズピークに比べて目的とするピーク、例えば成分由来のピークを検出できる可能性が高くなる。 また特に本発明に係る第1の態様によるピーク検出装置によれば、ピーク頂点と併せてピーク開始点及び終了点を明確に決定することができるので、ピーク面積を容易に求めることができる。そのため、例えば本発明に係る第1の態様によるピーク検出装置をクロマトグラム上のピーク検出に利用することで、定量分析を容易に行うことができる。また特に本発明に係る第2の態様によるピーク検出装置によれば、グラフ上の狭い範囲に強度の大きなピークが多数集中している場合でも、その集中しているピークのみに片寄らず、グラフ全体からバランス良くピークを検出することが可能である。本発明に係るピーク検出装置を用いたLCシステムの第1実施例の要部の構成図。第1実施例のLCシステムにおいてピーク検出部を中心に実行されるピーク検出処理のフローチャート。第1実施例のLCシステムにおけるピーク開始点及び終了点探索処理のフローチャート。第1実施例のLCシステムにおけるピーク検出処理を説明するための概念図。第2実施例のLCシステムにおいてピーク検出部を中心に実行されるピーク検出処理のフローチャート。第2実施例のLCシステムにおけるピーク頂点抽出処理のフローチャート。第2実施例のLCシステムにおけるピーク頂点抽出処理を説明するための概念図。第2実施例のLCシステムにおけるピーク検出処理を説明するための概念図。第2実施例によるピーク検出処理をプロファイルスペクトルに適用したときに検出されるピークを説明するための概念図。従来のピーク検出方法を説明するための概念図。 [第1実施例] 以下、本発明に係るピーク検出装置を用いた液体クロマトグラフ(LC)システムの一実施例(第1実施例)について、添付図面を参照して説明する。図1は第1実施例のLCシステムの要部の構成図である。 図示しないものの、LC部1はインジェクタ、カラム、検出器などを含む。LC部1において、試料中の各種成分はカラムを通過する間に分離されて時間的にずれてカラムから溶出し、検出器は溶出した各成分を検出してそれぞれの濃度に応じた強度信号を出力する。時間経過に伴って順次LC部1から出力されるアナログ検出信号はアナログデジタル変換器(ADC)2でデジタルデータに変換されてデータ処理部3に入力される。 データ処理部3は、機能ブロックとして、データ収集部31、クロマトグラム作成部32、ピーク検出部33などを含む。このピーク検出部33は本発明に係るピーク検出装置に相当するものであり、検出パラメータ設定部331、検出処理制御部332、処理対象波形抽出部333、ピーク抽出部334、ピーク情報格納部335などの機能ブロックを含む。また、データ処理部3には分析者により操作される入力部4や分析者に分析結果などを提示する表示部5が接続されている。 データ処理部3においてデータ収集部31は、上述したようなLC部1によるLC分析によって順次入力されるデータを収集し、内部の記憶装置に格納する。クロマトグラム作成部32はデータ収集部31により収集されたデータに基づいて、横軸が時間、縦軸が信号強度であるクロマトグラムを作成する。ピーク検出部33は作成されたクロマトグラムに対する波形処理を行うことでピークを検出する。ピーク検出部33により検出されたピークの位置、より詳しくはピークの頂点が存在する時間は、例えばそのピークに対応する成分を同定するために利用される。また、検出されたピークの高さや面積はそのピークに対応する成分の濃度又は量を算出するために利用される。 なお、データ処理部3は専用のハードウエアとすることも可能であるが、一般的には、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該コンピュータに予めインストールされた専用のアプリケーションソフトウエアを動作させることでその機能を具現化させる構成とすることができる。この構成では、入力部4はマウス等のポインティングデバイスやキーボードであり、表示部5はディスプレイモニタである。 次に、本実施例のLCシステムにおけるデータ処理上の特徴であるピーク検出について詳しく説明する。図2はピーク検出部33を中心に実行されるピーク検出処理のフローチャート、図3はピーク検出の過程でピークの開始点及び終了点を求めるための処理のフローチャート、図4は与えられたクロマトグラム上でのピーク検出処理の一例を示す概念図である。 ここでは、クロマトグラム作成部32において作成された、図4(a)に示すような波形形状を有するクロマトグラムに対してピーク検出を行う場合を例に挙げて説明する。 説明の便宜上、後述するピーク検出に関する複数回の繰り返し処理において、k回目の処理の対象となるクロマトグラムの集合をGk、そのクロマトグラムの集合Gkに含まれるi番目(iは1以上の整数)のクロマトグラムをGk(i) を、クロマトグラム集合Gkの要素の個数(つまりクロマトグラムの個数)を|Gk|とする。さらに、与えられたクロマトグラムを構成する多数のデータ点の座標(x, y) の集合をQとする。クロマトグラムの横軸は時間軸、縦軸は信号強度軸であるから、xは時間軸上の座標、yは信号強度上の座標である。 ピーク検出の実行に先立ち、検出処理制御部332の制御の下で、検出パラメータ設定部331は表示部5の画面上にピーク検出用パラメータ入力画面を表示する。この例では、分析者が設定可能であるピーク検出用パラメータとは、ピークの開始点及び終了点を探索する際のデータ点数を規定する検出窓幅W、及びピーク検出の所要時間を実質的に制限する繰り返し上限回数tlimitである。これらのパラメータについて分析者が入力部4より適宜の値を入力すると、検出パラメータ設定部331はこれを読み込み、それぞれのパラメータの値として内部に設定する。検出窓幅W及び繰り返し上記回数tlimitはいずれも1以上の整数である。なお、これらのパラメータの値として予めデフォルト値を決めておくか、或いは直近に入力設定された値をデフォルト値とすることにより、分析者が毎回入力設定しなくてもよいようにすることができる。 ピーク検出処理が開始されると、検出処理制御部332はまず繰り返し回数変数kを1に設定し、処理対象波形抽出部333はクロマトグラム作成部32で作成されたクロマトグラムを構成する全てのデータ点の集合Qをk=1であるGk、つまりクロマトグラム集合G1に設定する(ステップS10)。このときのクロマトグラムの個数は1であるから、|G1|は1である。 次に、繰り返し回数変数k=1における処理の初期設定として、処理対象波形抽出部333は繰り返し回数変数kが1だけ大きいクロマトグラム集合Gk+1つまりはG2の内容をリセットし、ピーク抽出部334は1回の処理中の処理の順序を決める変数iを1に設定する(ステップS11)。そして、ピーク抽出部334はクロマトグラム集合Gkに設定されている一つのクロマトグラムGk(i)を構成する多数のデータを対象としてピーク頂点を求める。具体的には、クロマトグラムGk(i)を構成する多数のデータの中で信号強度値つまりは座標値yが最大であるデータ点を探索し、そのデータ点の(x、y)座標をピーク頂点の座標(xapex,yapex)として決定する(ステップS12)。このステップS12が初めて実行されるときには変数k、iはともに1であり、クロマトグラムG1(1)を構成するデータがピーク頂点抽出処理の対象となる。図4(a)の例では、始点ts〜終点teの時間範囲に含まれるクロマトグラム全体がピーク頂点探索対象であり、時刻tp1において信号強度が最大になるデータ点p1がピーク頂点として決定される。つまり、このデータ点p1の座標が(xapex,yapex)となる。 続いて、ピーク抽出部334は、上記ステップS12で決定されたピーク頂点から前方(時間的に遡る方向)及び後方(時間経過に従う方向)にそれぞれ、検出窓幅Wで決まるデータ点数だけ信号強度の極小値を更新しないデータ点を探索することにより、そのピーク頂点に対応するピーク開始点(xstart,ystart)及び終了点(xend,yend)を探索する(ステップS13)。 図3(a)に示すフローチャートに従って、ピーク開始点(xstart,ystart)を求める際の処理手順をさらに詳しく説明する。説明の便宜上、直前のステップS12で決定されたピーク頂点のデータ点のインデクスをaとする。 まずピーク抽出部334は変数jの初期値をaに設定し(ステップS20)、他の変数cの初期値を0、xj、yjの初期値をそれぞれxstart、ystartに設定する(ステップS21)。したがって、ステップS20に引き続いてステップS21が実行される場合には、(xstart,ystart)=(xa,ya)である。次に、変数jをデクリメントし(ステップS22)、yjがystartよりも小さいか否かを判定する(ステップS23)。変数jのデクリメントはデータ点1個分だけ時間的に遡ったデータ点を調べることを意味するから、初めてステップS23が実行されるときには、ピーク頂点のデータ点から1個だけ前方のデータ点の信号強度がystartよりも小さいか否かが判定されることになる。 yjがystartよりも小さければ(ステップS23でYes)、このデータ点の信号強度yjが極小値である可能性があるから、ステップS21へと戻り、変数cをリセットするとともに、xstart及びystartをそれぞれ極小値を与える可能性があるデータ点のインデクスに更新する。ピーク頂点から各データ点を1個ずつ時間的に遡りながらその信号強度を調べていくとき、信号強度の最小値が連続的に更新されれば、ステップS21→S22→S23→S21→…が繰り返されることになる。最小値が更新されずステップS23でNoと判定されたときには、変数cをインクリメントする(ステップS24)。そして、その変数cが検出窓幅Wよりも小さいか否かを判定し(ステップS25)、小さければステップS22へと戻る。即ち、このときには信号強度の最小値が残ったまま(更新されずに)変数jがデクリメントされる。 或るデータ点が極小点であるとすると、信号強度の最小値が更新されることなくステップS22→S23→S24→S25→S22→…の処理が繰り返される。そうして、最小値が更新されることなく変数cの値が検出窓幅Wになると、ステップS25でNoと判定されて処理が終了する。他方、一旦最小値が更新されなかったとしても、変数cの値が検出窓幅Wになる前に新たに信号強度が最小値を下回るデータ点が存在した場合には、ステップS23からS21へと戻り、最小値が更新されて再びデータ点の探索が実施されることになる。こうして、検出窓幅Wで決まるデータ点数だけ最小値が更新されない極小値を示すデータ点が決まる。例えば検出窓幅Wが「5」であるとすると、信号強度の最小値がデータ点数で5点以上連続して更新されない場合、その最小値を与えるデータ点が極小転であると判定され、これがピーク開始点となる。 図3(b)はピーク終了点(xend,yend)を求める際の処理手順を示すフローチャートであるが、図3(a)と異なるのは、xstart、ystartがそれぞれxend、yendに変更されるていることと、変数jがデクリメントではなくインクリメントされる処理に変更されていることのみである。これによって、ピーク頂点から後方に信号強度が最小値を与えるデータ点を順次探索してゆき、信号強度の最小値が検出窓幅Wに相当するデータ点数だけ連続して更新されない場合に、その最小値を与えるデータ点がピーク終了点となる。 上述したような処理によって、図4(a)中に示されているピーク頂点p1に対し、図4(b)中に示すように時刻ts1であるピーク開始点及び時刻te1であるピーク終了点が決定される。そうして決定された一つのピークの頂点、開始点、及び終了点などのピーク情報がピーク情報格納部335に保存される。なお、図4(b)中に斜線で示した領域は、検出されたピークの面積に相当する部分である。 また、ピーク抽出部334においてピーク開始点及び終了点が決定されると、検出処理制御部332の制御の下で、処理対象波形抽出部333は元のクロマトグラム波形からピーク開始点及び終了点で決まるピーク領域部分を削除し、その削除によって得られる複数又は一つのクロマトグラムを求め、これをピーク抽出部334に渡す。 即ち、ピーク開始点のx座標がxstart、ピーク終了点のx座標がxendであるとき、ピーク検出対象であった元のクロマトグラムGk(i)に含まれ且つそのx座標がxstart以下であるデータからなる一つのクロマトグラムGbeforeと、同じくピーク検出対象であった元のクロマトグラムGk(i)に含まれ且つそのx座標がxend以上であるデータからなる一つのクロマトグラムGafterとが作成される。ピーク領域部分を挟んで得られるこの二つのクロマトグラムGbefore、Gafterが、変数kがインクリメントされたあとのクロマトグラム集合Gk+1に含まれることになる(ステップS14)。 例えば図4(b)中に示すようにピーク開始点及び終了点が決定されたときには、ステップS14の処理では、時刻ts1〜te1の範囲の波形が削除され、時刻ts〜ts1の範囲の波形を示すクロマトグラムGbeforeと、時刻te1〜teの範囲の波形を示すクロマトグラムGafterとが作成されることになる。 そのあと、検出処理制御部332は変数iをインクリメントし(ステップS15)、この変数iが|Gk|以下であるか否かを判定して(ステップS16)、もし|Gk|以下であればステップS12へと戻る。上述したようにk=1であるときには|Gk|は「1」であるので、ステップS16では必ずNoと判定され、ステップS17へと進むことになる。ステップS17において検出処理制御部332は繰り返し回数変数kをインクリメントし、その変数kが繰り返し上限回数tlimit以下であるか否かを判定する(ステップS18)。繰り返し上限回数tlimit以下であればステップS11へと戻り、インクリメントした変数kの値に対して上述したような処理を再び実施する。 ステップS17において例えば繰り返し回数変数kが1から2へとインクリメントされてステップS18からS11へと戻った場合には、次のピーク検出対象のクロマトグラムは二つである。そこで、例えばステップS12、S13において、i=1でG2(1)であるクロマトグラムGbeforeに対して一つのピークの頂点、開始点及び終了点の決定を行い、続くステップS14において、検出されたそのピーク領域部分を除いた二つ又は一つのクロマトグラム波形を作成する。そのあとのステップS15で変数iがインクリメントされるとi=2になるが、このとき|G2|は「2」であるから、ステップS16においてYesと判定されステップS12へと戻る。そして、ステップS12、S13において、今度はG2(2)であるクロマトグラムGafterに対して一つのピークの頂点、開始点及び終了点を決定し、続くステップS14において、検出されたピーク領域部分を除いた二つ又は一つのクロマトグラム波形を作成する。 図4の例では、(c)に示すように二つのクロマトグラムに対してそれぞれ一つずつピーク頂点p2、p3が決定され、(d)に示すようにそれらピークについて開始点及び終了点がそれぞれ決定される。そして、(e)に示すように、それぞれのピークの開始点から終了点までの範囲、つまり時刻ts2〜te2の範囲及び時刻ts3〜te3の範囲の波形が実質的に削除され、時刻ts〜ts2の範囲、時刻te2〜ts1の範囲、時刻te1〜ts3の範囲、時刻te3〜teの範囲の波形をそれぞれ示す四つのクロマトグラムが作成される。 上述したようなピーク検出及びその検出されたピーク領域の除去とそのピーク領域を挟む波形分割によるクロマトグラムの作成処理とが、変数kが繰り返し上限回数tlimitに達するまで繰り返される。したがって、例えば繰り返し上限回数tlimitが「5」である場合には、最大16個のピークが検出され、それらピークの情報がピーク情報格納部335に格納されることになる。 ただし、場合によっては、ピーク検出対象のクロマトグラム波形を構成するデータ点数が少なく、実質的なピークが存在しないことがある。例えば、図4(e)中の右端の時刻te3〜teの範囲には若干数のデータは存在するものの、ピークは存在しない。もちろん、このような状況は必ずしも最初に与えられるクロマトグラムの始端や終端に限るものではなく、クロマトグラム分割の過程でその波形途中に生じることもある。そこで、図2に示したフローチャートには示していないが、例えば、ステップS12においてピーク頂点を決定したあとにステップS13において該ピークに対応するピーク開始点及びピーク終了点の一方又は両方が見つからなかった場合には、一旦決定したピーク頂点を破棄するとよい。具体的にいうと、例えば図3(a)及び(b)に示したフローチャートにおいて、ステップS25、S35の判定処理でYesと判定されたにも拘わらずステップS22、S32で変数jのデクリメント又はインクリメントが行えなくなった場合には、ピーク開始点又はピーク終了点が見つからないと判断することができる。 また、ピーク検出対象であるクロマトグラムを構成するデータ点数が所定個数よりも少ない場合には、ステップS12のピーク頂点決定処理を実行するまでもなくピークが存在しないと判断できるから、データ点数の判定結果を利用して次の処理に進むようにしてもよい。 以上のようにして本実施例のLCシステムでは、LC分析により得られたクロマトグラムに現れる複数のピークが的確に検出され、検出されたピークの情報が収集される。特に、このピーク検出方法によれば、ピーク検出精度はベースラインの高さに依存しないので、ベースラインが高い場合であっても的確なピーク検出が可能である。また、ピーク情報にはピーク頂点の時刻のみならずピーク開始点及びピーク終了点の時刻も含まれるので、成分同定を容易に行えるのみならず、ピーク面積を利用した定量分析も容易に行える。さらにまた、このピーク検出方法では、与えられたクロマトグラムにおいて信号強度が高いピークを優先的に検出していくので、限られた時間内で、一般にノイズピークに比べれば信号強度が高い目的成分由来のピークを高い確率で検出することが可能である。 [第2実施例] 次に、本発明の別の実施例(第2実施例)であるピーク検出装置を含むLCシステムについて説明する。このLCシステムの基本的な構成は図1に示した第1実施例のLCシステムと同じであるので説明を省略する。 図5は、この第2実施例のLCシステムにおいてピーク検出部33を中心に実行されるピーク検出処理のフローチャートである。基本的なピーク検出処理動作は上記第1実施例と類似しており、図5中のステップS40、S41、S44〜S47の各処理は、図2中のステップS10、S11、S15〜S18の各処理と同じである。異なるのは、図2中のステップS13に相当する処理、つまりはピーク開始点及びピーク終了点を探索する処理が図5では省略されていること、及び、図2中のステップS14に相当する図5中のステップS43において、ピーク開始点及び終了点で決まるピーク領域ではなく、単にピーク頂点を挟んでクロマトグラムが分割されることである。 また、図5中のステップS42は図2中のステップS12に相当するが、次に説明するように該ステップで実行されるピーク頂点抽出処理のアルゴリズムは第1実施例のそれと大きく異なる。図7はこのピーク頂点抽出処理を概略的に説明するためのクロマトグラムである。 上記第1実施例におけるピーク検出処理では、与えられたクロマトグラム波形Gk(i)の全体について信号強度が最大であるデータ点を求めてピーク頂点としていた。これに対し、この第2実施例におけるピーク検出処理では、与えられたクロマトグラム波形の前端部及び後端部の所定幅の波形を除去し、その残りのクロマトグラムの中で信号強度が最も高いデータ点をピーク頂点として抽出する。一例として、除去する波形の幅をそのクロマトグラム波形全体の前後10%ずつであるとすると、与えられたクロマトグラムの前端部及び後端部のそれぞれについて、時間軸(x軸)方向に10%ずつ波形を除去し、その残りの80%の波形領域の中から信号強度(y座標値)が最も大きいデータ点をピーク頂点とする。図7(a)の例では、データ点Pの信号強度が最も大きく、このデータ点がピーク検出対象である上記80%のクロマトグラム波形領域に含まれているため、このデータ点Pをピーク頂点として抽出する。 また図7(b)では、データ点Aの信号強度が最も大きいが、このデータ点は除外対象である前端部10%の波形領域に入っているためピーク頂点としては却下する。そして、次に信号強度が大きくピーク検出対象である80%のクロマトグラム波形領域中に存在するデータ点Pをピーク頂点として抽出する。 ただし、信号強度が最大であるデータ点が80%のクロマトグラム波形領域中の端点であって、該データ点からさらに隣接する除去対象領域中まで信号強度が単調に増加している場合には、その除去対象領域の中の極大点をピーク頂点として抽出する。例えば図7(c)では、上記80%のクロマトグラム波形領域において信号強度が最大であるのはデータ点Aであるが、このデータ点は除外対象である前端部10%の波形領域にまで単調に増加している(言い換えれば図7(b)のデータ点Pはそうではない)。そこで、除外対象である前端部10%の波形領域において、その単調増加した先の信号強度が極大を示すデータ点Pをピーク頂点として採用する。 こうした第2実施例におけるピーク頂点抽出処理の詳しい処理手順を図6に示すフローチャートに従って説明する。ここではピーク検出対象であるクロマトグラムを構成するデータの中のx座標の最大値をxmax、最小値をxminとする。 またαは除外する領域の幅を決めるパラメータであって0<α<0.5 である。上述したように除外する領域幅がクロマトグラム波形全体の10%である場合にはα=0.1である。 まず、初期設定としてデータ点の位置を示す変数j、信号強度の最大値ymax、及び、仮のピーク頂点の位置を示すjmaxをいずれも0にリセットする(ステップS50)。次に、変数jをインクリメントするとともに、(xj−xmin)/(xmax−xmin)の計算値をインデクスaに設定する(ステップS51)。このインデクスaは、時間軸上で座標xminの位置を0、座標xmaxの位置を1としたときにxmin〜xmaxの間に位置する座標xjの位置を0〜1の間の数値で示したものである。例えば座標xjがxmin〜xmaxの間のちょうど中間であれば、インデクスaは0.5である。 次に、ステップS51で得られたインデクスaがαより大で1−αより小であるか否かを判定する(ステップS52)。例えば上述したようにα=0.1である場合には、インデクスaが0.1より大で0.9より小であるか否かを判定する。つまり、これはその時点で調べようとしているデータ点が両端の除外対象領域を除いた中央の波形領域に含まれているか否かの判定である。ステップS52でYesと判定されると、そのときのデータ点の座標yjつまり信号強度がymaxよりも大きいか否かを判定する(ステップS53)。そして、yjがymaxよりも大きければ、このときのデータ点のx座標をpに格納するとともに、ymax及びjmaxの内容をそれぞれyj及びjに更新する(ステップS54)。一方、ステップS52でNo、つまりその時点で調べようとしているデータ点が両端の除外対象領域に含まれている場合や、ステップS53でNo、つまりそのときのデータ点の信号強度yjがそれまでの信号強度の最大値ymaxを上回らない場合には、ステップS54の処理をスキップする。 そして、データ点の座標xjがxmaxに達する(ステップS55でYes)まで、変数jを順次インクリメントしながらS51〜S55の処理を繰り返す。この繰り返しによって、両端の除外対象領域を除いた中央の波形領域に含まれる多数のデータ点の中で信号強度が最大であるデータ点が抽出され、そのデータ点の時間軸上の位置つまりx座標がpに、そのデータ点の信号強度がymaxに格納される。また、このデータ点を与える変数jの値が仮のピーク頂点の位置を示すjmaxに格納される。 次に、jmaxに格納されている値を新たに変数jの初期値として設定し、またこの変数jよりも1だけ小さい値及び1だけ大きい値のx座標についてそれぞれ、(xj-1−xmin)/(xmax−xmin)及び(xj+1−xmin)/(xmax−xmin)の計算値を求め、それらをインデクスb、cに設定する(ステップS56)。これらインデクスb、cの意味付けはインデクスaと同じであり、時間軸上で座標xminの位置を0、座標xmaxの位置を1としたときにxmin〜xmaxの間に位置する座標xjの位置を0〜1の間の数値で示したものである。インデクスbは最大の信号強度を示すデータ点から1だけ前方のデータ点に対応しており、そのインデクスbがαよりも小さいということは、このデータ点が前端部側の除外領域に入っていることを意味する。そこで、インデクスbがαより小さいか否かを判定し(ステップS57)、小さければステップS58、S59の処理を繰り返す。 即ち、前端部側の除外領域に含まれるデータ点の信号強度を時間軸を遡る方向に順に調べ、その信号強度が大きくなり続ければつまりは単調増加であれば、そのymax及び仮のピーク頂点の位置を示すjmaxを入れ替える。単調増加でなくなれば又は波形の始点に到達したならばステップS58でYesと判定されるから、その時点で処理を終了する。その結果、前端部側の除外領域に含まれるデータ点の中で信号強度が極大を示すデータ点の信号強度と位置情報とが残ることになる。 ステップS57でNoと判定された場合には今度はインデクスcが1−αより大きいか否かを判定する(ステップS60)。インデクスcが1−αよりも大きいということは、このデータ点が後端部側の除外領域に入っていることを意味する。そこで、インデクスcが1−αより大きければステップS61、S61の処理を繰り返す。 即ち、上記ステップS58、S59とは逆に、後端部側の除外領域に含まれるデータ点の信号強度を時間の経過する方向に順に調べ、その信号強度が大きくなり続ければつまりは単調増加であれば、そのymax及び仮のピーク頂点の位置を示すjmaxを入れ替える。単調増加でなくなれば又は波形の終点に到達したならばステップS61でYesと判定されるから、その時点で処理を終了する。その結果、後端部側の除外領域に含まれるデータ点の中で信号強度が極大を示すデータ点の信号強度と位置情報とが残ることになる。 ステップS60でNoと判定された場合には、信号強度が最大であるデータ点は除外領域ではなく中央のピーク検出対象領域に存在するから、そのまま処理を終了する。以上のような処理によって、与えられたクロマトグラム波形から適切な一つのピーク頂点を抽出することができる。 図8はこの第2実施例におけるピーク検出処理の一例を示す概念図である。図8(a)に示すように、元のクロマトグラム波形のうちの前端部及び後端部の波形が除去され、その残りの波形領域の中で、時刻tp1において信号強度が最大になるデータ点p1がピーク頂点として決定される。つまり、このデータ点p1の座標が(xapex,yapex)となる。このデータ点で元のクロマトグラフ波形を分割すると図8(b)に示すような二つのクロマトグラムが作成され、各クロマトグラムにおいて(a)と同様に、前端部及び後端部の波形が除去され、その残りの波形領域の中で最大の信号強度を与えるデータ点が抽出される。これを時間が許す限り繰り返すことで、より信号強度の小さなピークが検出されることになる。 この第2実施例におけるピーク検出方法では、ピーク頂点が抽出された位置付近の所定幅の波形が次のピーク頂点抽出対象から除外されるので、その除外する幅を適切に定めれば、或る部分に信号強度の高いピークが集中している場合でも、それらピークのみが抽出されてしまうこと避けることができる。即ち、必ずしも信号強度が高いピークのみを検出するのではなく、クロマトグラム波形全体に亘って或る程度満遍なく適度に信号強度が大きなピークを検出することができる。 この第2実施例におけるピーク検出方法は、ピーク検出対象である波形の前端部側又は後端部側に信号強度が高いピークが集中している場合に特に有効である。質量分析装置により得られるプロファイルスペクトルでは特にこうしたピークの発生状況を生じ易い。例えば、試料によってはプロファイルスペクトルにおいて低質量電荷比側に信号強度の大きなピークが集中することがある。こうした場合に、上述したように波形の前端部の一定幅をピーク検出対象から除外すると、効率良くピークを検出できる場合がある。図9はそうした一例である。図9は、図5におけるステップS42〜S45の処理を3回繰り返す(つまり再帰回数3回)までの過程でそれぞれ検出されるピークと未検出のピークとを示プロファイルスペクトルである。 与えられたスペクトル波形の前端部の一定幅をピーク検出対象から除外しない場合、つまり、図6におけるステップS52の判定処理を行わない場合には、図9(a)に示すように、信号強度が大きなピークが集中する前端部から先にピークが検出されてしまうため、スペクトル波形が適切に分割されず、それ故に再帰回数が増えてもピークの検出個数の増加が少ない。これに対し、上述したようにスペクトル波形の前端部の一定幅をピーク検出対象から除外すると、図9(b)に示すように、必ずしも信号強度の大きいピークから順番には検出はされないものの、その代わりに、抽出されたピーク頂点の位置でスペクトル波形が適切に分割されるため、ほぼ同じ処理時間で以てより多くの数のピークを検出することができる。 なお、上記実施例では本発明をLCシステムに適用した場合について説明したが、GCシステムに適用できることは当然である。また、上述したようにクロマトグラムを対象としたものでなくプロファイルスペクトルを対象としてピーク検出を行ってもよいので、質量分析装置に適用できることも明らかである。 さらに、上記実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることも明らかである。1…LC部2…アナログデジタル変換器(ADC)3…データ処理部31…データ収集部32…クロマトグラム作成部33…ピーク検出部331…検出パラメータ設定部332…検出処理制御部333…処理対象波形抽出部334…ピーク抽出部335…ピーク情報格納部4…入力部5…表示部 分析装置で得られるデータに基づいて作成される、縦軸が強度軸、横軸が時間軸を含む別のパラメータ軸であるグラフ上のピークを検出するピーク検出装置であって、 a)与えられたグラフを構成する複数のデータの中で最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出するピーク頂点抽出部と、 b)該ピーク頂点抽出部によりピーク頂点として抽出されたデータから前記グラフの横軸方向にその前後にそれぞれ、順次各データの強度を調べ、所定データ点数に亘って更新されない極小値を示すデータを探索して該データをピーク開始点及びピーク終了点と定めるピーク開始点・終了点決定部と、 c)前記ピーク頂点抽出部による処理対象であるグラフの中で前記ピーク開始点・終了点決定部で決定されたピーク開始点とピーク終了点との間の領域を除外し、該領域で以て分離された複数又は一つのグラフを取得するグラフ再構成部と、 d)初期的に与えられたグラフについて前記ピーク頂点抽出部、前記ピーク開始点・終了点決定部及び前記グラフ再構成部による処理を実行することで得られた複数又は一つのグラフを再び前記ピーク頂点抽出部に与える、というサイクルを所定回数繰り返し、その過程で得られるピーク頂点、ピーク開始点及びピーク終了点を含むピーク情報を収集する繰り返し制御部と、 を備えることを特徴とするピーク検出装置。 請求項1に記載のピーク検出装置であって、 前記ピーク開始点・終了点決定部において極小値を示すデータを探索するために用いられる前記所定データ点数を示すパラメータ、及び、前記繰り返し制御部においてサイクルの繰り返し回数を決めるパラメータ、をそれぞれ分析者が設定するためのパラメータ設定部をさらに備えることを特徴とするピーク検出装置。 分析装置で得られるデータに基づいて作成される、縦軸が強度軸、横軸が時間軸を含む別のパラメータ軸であるグラフ上のピークを検出するピーク検出装置であって、 a)与えられたグラフの中で横軸方向に前端部及び後端部の一部領域をそれぞれ除外した残りのグラフを構成する複数のデータの中で、横軸方向に両端部に位置するデータを除いて最大の強度を与えるデータをピークの頂点として抽出するピーク頂点抽出部と、 b)該ピーク頂点抽出部に与えられたグラフを、該ピーク頂点部により抽出されたピーク頂点の位置で分離して複数又は一つのグラフを取得するグラフ再構成部と、 c)初期的に与えられたグラフについて前記ピーク頂点抽出部及び前記グラフ再構成部による処理を実行することで得られた複数又は一つのグラフを再び前記ピーク頂点抽出部に与える、というサイクルを所定回数繰り返し、その過程で得られるピーク頂点を含むピーク情報を収集する繰り返し制御部と、 を備えることを特徴とするピーク検出装置。 請求項3に記載のピーク検出装置であって、 前記ピーク頂点抽出部は、横軸方向に前端部及び後端部の一部領域をそれぞれ除外した残りのグラフの中で最大の強度を与えるデータが横軸方向に両端部に位置している場合には、該データから横軸方向に、除外された一部領域中のデータの強度の単調増加性を調べ、単調増加性がある場合にその一部領域中で強度が極大を示すデータをピークの頂点として抽出することを特徴とするピーク検出装置。 請求項3又は4に記載のピーク検出装置であって、 前記繰り返し制御部においてサイクルの繰り返し回数を決めるパラメータを分析者が設定するためのパラメータ設定部をさらに備えることを特徴とするピーク検出装置。 【課題】ベースラインの高さに拘わらず正確なピーク検出を行うとともに、限られた時間で信号強度が比較的高い目的成分由来のピークを優先的に検出することでピーク検出効率を高める。【解決手段】与えられたクロマトグラム波形に対し最大の信号強度を与えるデータ点をピーク頂点として決定し、その頂点から前後に順にデータ点を調べ、それぞれ所定幅最小値を更新しないデータ点を探索することでピーク開始点及び終了点を見つける。そして、ピーク開始点・終了点で決まるピーク領域を除外し、該領域を挟んで波形を分割して得られる二つのクロマトグラムについて、再度同様にピーク頂点、開始点、終了点の抽出を行う。これを時間が許す限り繰り返すことで、信号強度が高いピークを優先的に検出することができる。【選択図】図4