タイトル: | 公開特許公報(A)_大腸菌において偽遺伝子を利用してポリペプチド又はRNAを生産する方法 |
出願番号: | 2013087756 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12P 21/02 |
中島 信孝 JP 2014209872 公開特許公報(A) 20141113 2013087756 20130418 大腸菌において偽遺伝子を利用してポリペプチド又はRNAを生産する方法 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 中島 信孝 C12N 15/09 20060101AFI20141017BHJP C12P 21/02 20060101ALI20141017BHJP JPC12N15/00 AC12P21/02 C 16 OL 28 4B024 4B064 4B024AA03 4B024BA80 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA06 4B024EA04 4B024FA02 4B024GA11 4B064AG01 4B064CA02 4B064CA19 4B064CC24 4B064DA16 本発明は、大腸菌においてポリペプチド又はRNAを生産する方法に関する。中でも特に、大腸菌のゲノムの偽遺伝子にポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインし、ポリペプチド又はRNAを生産する方法に関する。 大腸菌は世界で最も研究が進んでいる微生物の一つで、組換えタンパク質(ポリペプチド)を生産させるための宿主として頻繁に利用される。さらに、組換えタンパク質を発現させた大腸菌を用いて、有用物質生産を行うことも多くある。大腸菌を用いた有用物質生産では、糖を微生物に代謝させて生産することが一般的であるが、原材料たる糖は、安価であるなどの理由から、動植物から作られた再生可能な有機性資源、バイオマスに由来することが多い。 組換えタンパク質の発現のためには、発現させたい遺伝子の上流に適当なプロモーターを配した遺伝子カセット(プロモーター-標的遺伝子カセット)を作成し、それを何らかの方法で大腸菌に導入すれば良い。プロモーターは発現誘導剤の不要な構成型でも、何らかの刺激によって発現誘導される誘導型でもどちらでも良い。ただし、発現させたい遺伝子がコードするタンパク質が大腸菌にとって好ましくないことも多くあり、その場合、遺伝子組換え操作が著しく難しくなる。よって、誘導型プロモーターの方が操作性に優れていることが多く、一般的には好ましい。これまでに発現誘導に利用されている刺激としては、IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)添加(非特許文献1)、テトラサイクリン添加(非特許文献2)、熱ショック(非特許文献3)、低温ショック(非特許文献4)、アラビノース(非特許文献5)あるいはキシロース(非特許文献6)などの五単糖の添加が挙げられる。しかし、それぞれ以下のような欠点があることが知られていた。1.IPTG、あるいはテトラサイクリン添加:共に価格が高いため、組換えタンパク質を発現させて、有用物質生産などに応用したい場合、コスト高につながる。2.熱ショック、低温ショック:遺伝子組換えタンパク質を発現させて、有用物質生産などに応用したい場合、有用物質生産に至適温度があることが多く、熱ショック、低温ショックに必要な温度域と必ずしも一致するとは限らない。また、発現量がさほど高くない。3.アラビノースあるいはキシロースなどの五単糖の添加:これら五単糖はバイオマス中に多く含まれることから安価に利用できるが、バイオマスに共存するブドウ糖によって遺伝子発現が炭素カタボライト抑制(後述、以下CCRと略す)を受ける。よって、ブドウ糖共存下では発現量が極端に下がることから、そのままでは利用が困難である。また、理想的条件下であっても、そもそも発現がさほど高くない。 ここで、バイオマスの糖成分とCCRについて言及しておく。バイオマス由来の糖では、ブドウ糖、キシロース、アラビノースなど他種類の糖が混ざった、混合糖であることが一般的である(非特許文献7)。特に、リグノセルロース系バイオマスでは、ブドウ糖とキシロースを多く含む。しかし、大腸菌に混合糖を与えた場合、エネルギー効率の最も良いブドウ糖のみを選択的に消費し、ブドウ糖を消費し終えるまで、それ以外の糖の代謝をしないことがある。これは、CCRという分子機構が微生物に存在しているために起こる現象である(非特許文献8)。CCR機構では、ブドウ糖の存在下では、ブドウ糖以外の糖の消費に関与する遺伝子群が発現抑制される。例えば、大腸菌のlacZYAはラクトースの消費に必要な遺伝子オペロンで、それぞれβガラクトシダーゼ、βガラクトシドパーミアーゼ、ガラクトシドアセチルトランスフェラーゼをコードしている。糖として、ブドウ糖とラクトースが培養液中に共存するとき、lacZYAの発現調節領域ではlacI遺伝子産物(ラクトースリプレッサー)およびcrp遺伝子産物(cAMP受容体タンパク質)が協調して、lacZYA mRNAが転写されないよう負に制御している。しかし、糖としてラクトースのみが培養液中に存在するときには、細胞内に取り込まれたラクトースが変化したアロラクトースによって、この負の制御は解除され、lacZYAのmRNAは盛んに転写される。これによって、ラクトースは大腸菌によって消費される。また、キシロース、アラビノースの消費に必要な遺伝子群も、これと同様な遺伝子発現調節を受けている(非特許文献9)。 なお、アラビノースを発現誘導に用いる方法に関して、araBADプロモーターを用いた遺伝子発現ではすでに、強力なT7プロモーター-T7RNAP系と組み合わせたものが発表されている(非特許文献5)。該文献においては、大腸菌B株のlacZYA遺伝子座位に、araBADプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットをノックインし、さらにptsG遺伝子を破壊した株を作成している。これによって、ブドウ糖存在下であってもアラビノース誘導的に、強力に目的遺伝子を発現させることができることを示した。しかし、この文献記載の方法には以下のような欠点がある。1.リグノセルロース系バイオマスにアラビノースが含まれていないこともあり、リグノセルロース系バイオマスでは発現誘導できない可能性がある。なお、キシロースはアラビノースよりも一般的に豊富に存在する。2.糖取り込みに関与するptsG遺伝子(ブドウ糖パーミアーゼをコード)を破壊しており、糖取り込み能が減少していることが予想される。よって、有用物質生産に供するには糖資化能が低すぎて、有用物質の生産性が下がる可能性がある。3.発現させる遺伝子は依然として環状プラスミド上に存在しており、有用物質生産にはまだ不向きである。 有用物質生産を行いたい場合、どのように上記遺伝子カセットを大腸菌内に導入するかも、生産コストに直結することから重要となる。一般的に最も多く用いられるのは、環状プラスミドに上記遺伝子カセットをクローニングし、これを大腸菌に導入し、環状プラスミドのまま利用する方法である。しかし、環状プラスミドは遺伝的に不安定で、形質転換マーカーとなっている抗生物質を常時加えて、脱落しないようにする必要がある。しかし、抗生物質は価格が高いため、生産したい物質のコスト高につながる。そこで、大腸菌ゲノムに上記遺伝子カセットを導入(ノックインあるいはインテグレーションと呼ばれる)する方法も多く採られる。ノックインは、ファージ、トランスポゾン、attP-attB部位特異的組換えなどによって可能である。しかし、これらの方法では形質転換マーカーが残るなどして多重のノックインが困難、コピー数が1しかなく発現量が一般的に下がる(環状プラスミドは一般的に多コピー)、といった問題が生じる。宿主が天然に持つ相同組換え能を利用した、形質転換マーカーが残らないようなノックイン方法も知られてはいたが(非特許文献10)、DNAをノックインすることのできる大腸菌ゲノム上の遺伝子座位が多く開発されておらず、多数遺伝子をノックインすることはできなかった。Baneyx, Curr. Opin. Biotechnol. (1999) 10:411-421Lutz and Bujard, Nucleic Acids Res. (1997) 25:1203-1210Valdez-Cruz et al., Microb. Cell Fact. (2010) 9:18Nakashima and Tamura, Biochem. Biophys. Res. Commun. (2004) 319:671-676Wang et al., J. Agric. Food Chem. (2011) 59:6534-6542Kim et al., J. Korean Soc. Appl. Biol. Chem. (2010) 53:790-797van Maris et al., Antonie van Leeuwenhoek (2006) 90:391-418Deutscher, Curr. Opin. Microbiol. (2008) 11:87-93Song and Park, J. Bacteriol. (1997) 179:7025-7032Sukhija et al., Mol. Biotechnol. (2012) 51:109-118 以上のことから本発明者は、大腸菌の有用物質生産に有用な、バイオマスを用いた新しい遺伝子発現方法を開発することとした。 本発明者らは、大腸菌を用いてポリペプチド又はRNAを生産する方法において、IPTGなどの高価な発現誘導剤を用いず、さらに、ポリペプチド又はRNAをコードする標的遺伝子を環状プラスミドに乗せることなく行える方法について鋭意検討を行った。 まず、標的遺伝子をノックインする部位について検討を行った。ノックインすべき遺伝子座位については、大腸菌の生育速度や重要な代謝経路などに影響を及ぼさない遺伝子を多数選び、ここにマーカーを残さないようにしながら導入することを検討した。遺伝子座位の候補としては、ラクトース資化以外については大腸菌の増殖率や糖資化能に影響しないlacZYA遺伝子、ゲノム中に多数存在する偽遺伝子群が挙げられた。lacZYA遺伝子座位に異種遺伝子をノックインする方法は既知であるが(Sukhija et al., Mol. Biotechnol. (2012) 51:109-118)、偽遺伝子座位にノックインするアイデアは発表されていない。そこで、偽遺伝委座位にノックインする方法を検討した。候補となる偽遺伝子座位は、公知のものから選択し、形質転換マーカーを残さないノックインの方法としてラムダレッドとFLP-FRTリコンビナーゼを組合せた方法(Sukhija et al., Mol. Biotechnol. (2012) 51:109-118)や本発明者らが先に開発した方法(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)を採用した。 さらに、本発明者らは、バイオマスに含まれるキシロース又はアラビノースで誘導される発現系の開発について検討を行った。プロモーターは、xylF、araBADのプロモーターが、それぞれ、キシロース、アラビノース誘導性であることが知られている。ただし、上述のように、バイオマスに同時に含まれるブドウ糖が、xylF、araBADプロモーターからの遺伝子発現を抑制するので(CCR)、これを回避する策を講じる必要がある。本発明者はこれまでに、CCRが、mlcの優性点突然変異mlc*によって解除されることを明らかにしているので(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)、ゲノム上のmlcをmlc*に人為的に変更すれば良い。その方法は本発明者らが発表済みで(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)、任意の大腸菌株で実施可能である。これによって、ブドウ糖・キシロース共存下であっても(つまりバイオマスの存在する状況下で)、xylFプロモーターから発現誘導することができる。あるいは、ブドウ糖の取り込みから解糖の初期段階に関わる一連の遺伝子群ptsG、pgi、fbpのうちの1つの遺伝子破壊あるいは、crpの変異crp*によってもCCRは解除されることが知られているので、これらのどれかを用いても良い。 さらに、本発明者らはキシロース誘導性プロモーターやアラビノース誘導性プロモーターが強力なプロモーターではないことを鑑み、コピー数が1であっても、さらにはxylF、araBADが弱くとも、十分な遺伝子発現量を達成できるように、これらプロモーターを強力なT7プロモーター-T7 RNAポリメラーゼ(T7RNAP)系と組み合わせることについて検討を行った。T7プロモーターはtaatacgactcactataggg(配列番号43)からなる配列で、大腸菌のRNAポリメラーゼによってはほどんど認識されないがT7ファージ由来のT7RNAPによって特異的に認識され、転写が開始される。ごく少量のT7RNAPで大量のRNAを転写できるとされており、転写速度も大腸菌のRNAポリメラーゼより8倍早い(Makarova et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1995) 92:12250-12254)。 上記の検討の結果、本発明者らは、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌の偽遺伝子中にノックインすることを特徴とする方法を見出し、さらに、キシロース誘導性プロモーターをT7プロモーター-T7 RNAポリメラーゼ(T7RNAP)系と組み合わせること、並びに大腸菌のCCRを抑制することにより、効率的に、大量に、かつ低コストでポリペプチド又はRNAを生産できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。[1] 大腸菌を用いてポリペプチド又はRNAを生産する方法であって、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌のゲノム中の偽遺伝子にノックインして、ポリペプチド又はRNAを発現させることを含む方法。[2] プロモーターがT7プロモーター、T3プロモーター及びSP6プロモーターからなる群から選択される、[1]の方法。[3] 大腸菌のゲノム中の複数の偽遺伝子中に、複数のポリペプチド又はRNAをコードするDNAがノックインされる、[1]又は[2]の方法。[4] 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAの複数コピーがノックインされる、[1]〜[3]のいずれかの方法。[5] 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、yabP、yafU、yafF、lfhA、lafU、ykfJ、prfH、ykfN、ykfL、insN、afuB、insX、yagB、ykgS、yagP、ykgT、ykgP、eaeH、ykgA、ykgQ、yaiX、ykiA、ylbH、ybbD、ylbI、ylbG、ylbE、xisD、exoD、peaD、renD、nmpC、aaaD、tfaD、ybcY、tfaX、ybeM、ybfG、ybfI、ybfO、ybfQ、ybfL、efeU、ymdE、oweE、aaaE、beeE、jayE、stfE、icdC、ycgH、ycgI、insZ、ycjV、ymjC、ydaW、rzpR、ydaY、ynaA、lomR、ttcC、ydbA、gapC、insP、rhsE、yncI、yddK、ydeT、yneL、yneO、ydfJ、nohQ、intK、ydfX、ydfE、intQ、arpB、yedN、intG、yedS、yeeL、yeeH、yoeG、yoeH、yeeP、yoeD、yoeF、yegZ、gatR、yehH、yehQ、mdtQ、yejO、yfaS、yfaH、yfcU、tfaS、yfdL、oweS、yfjV、ypjI、psaA、pinH、ypjC、ygeF、pbl、ygeK、ygeN、ygeO、ygeQ、yqfE、yghE、yghF、yghO、yghX、yqiG、agaW、agaA、yhcE、yrdF、yrdE、yhdW、yzgL、yrhC、yrhA、yhiL、yhiS、bcsQ、mokA、sokA、ysaC、ysaD、yibS、yibW、yibU、yicT、glvG、glvC、ilvG、yifN、yjbI、yjdQ、ytfA、cybC、intB、yjhD、yjhE、insO、insM、yjhV、yjhY、yjhZ、yjhR、yjiP、yjiT、yjiV、fhiA、glyG、insB、insD、mbhA、molR、phnE、rph、wbbL、yaiT、ybcD、ycdN、ychG、yciX、ydeU、yedN、ygaY、yghY、yhiK、yhjQ、yjgX、yjhW、ymjB、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、ysdC、arpA、caiB、creD、cstA、dcuS、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insC、insK、mbhA、nfrB、tpr、waaT、xylG、yajB、ybeQ、ycfX、yciQ、yddE、ydhP、ydiM、ydjY、yfbL、yfdF、yfhD、yhfS、yhhl-3、yidP、yiiD、yjcC及びyjjMからなる群から選択される少なくとも1つの偽遺伝子である、[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] 用いる大腸菌株がK-12株又はその派生株である、[5]の方法。[7] 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、ybeM又はyghXである、[5]又は[6]の方法。[8] さらに、キシロース誘導性プロモーター若しくはアラビノース誘導性プロモーターとT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼを連結したDNAを大腸菌のゲノム中に導入し、キシロース又はアラビノースによりT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼの発現を誘導し、T7 RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼをポリペプチド又はRNAに連結したT7プロモーター、T3プロモーター又はSP6プロモーターに作動させることを含む、[2]〜[7]のいずれかの方法。[9] T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼを連結したDNAを大腸菌のゲノム中のlacZYA遺伝子又は偽遺伝子中に導入する、[8]の方法。[10] プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAの両側に、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入しようとする偽遺伝子の部分DNA配列に相同性を有する相同組換え用アームとなるDNA断片を連結した、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に導入するための遺伝子カセット。[11] プロモーターがT7プロモーター、T3プロモーター及びSP6プロモーターからなる群から選択される、[10]の遺伝子カセット。[12] ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを複数コピー含む、[10]又は[11]の遺伝子カセット。[13] 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、yabP、yafU、yafF、lfhA、lafU、ykfJ、prfH、ykfN、ykfL、insN、afuB、insX、yagB、ykgS、yagP、ykgT、ykgP、eaeH、ykgA、ykgQ、yaiX、ykiA、ylbH、ybbD、ylbI、ylbG、ylbE、xisD、exoD、peaD、renD、nmpC、aaaD、tfaD、ybcY、tfaX、ybeM、ybfG、ybfI、ybfO、ybfQ、ybfL、efeU、ymdE、oweE、aaaE、beeE、jayE、stfE、icdC、ycgH、ycgI、insZ、ycjV、ymjC、ydaW、rzpR、ydaY、ynaA、lomR、ttcC、ydbA、gapC、insP、rhsE、yncI、yddK、ydeT、yneL、yneO、ydfJ、nohQ、intK、ydfX、ydfE、intQ、arpB、yedN、intG、yedS、yeeL、yeeH、yoeG、yoeH、yeeP、yoeD、yoeF、yegZ、gatR、yehH、yehQ、mdtQ、yejO、yfaS、yfaH、yfcU、tfaS、yfdL、oweS、yfjV、ypjI、psaA、pinH、ypjC、ygeF、pbl、ygeK、ygeN、ygeO、ygeQ、yqfE、yghE、yghF、yghO、yghX、yqiG、agaW、agaA、yhcE、yrdF、yrdE、yhdW、yzgL、yrhC、yrhA、yhiL、yhiS、bcsQ、mokA、sokA、ysaC、ysaD、yibS、yibW、yibU、yicT、glvG、glvC、ilvG、yifN、yjbI、yjdQ、ytfA、cybC、intB、yjhD、yjhE、insO、insM、yjhV、yjhY、yjhZ、yjhR、yjiP、yjiT、yjiV、fhiA、glyG、insB、insD、mbhA、molR、phnE、rph、wbbL、yaiT、ybcD、ycdN、ychG、yciX、ydeU、yedN、ygaY、yghY、yhiK、yhjQ、yjgX、yjhW、ymjB、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、ysdC、arpA、caiB、creD、cstA、dcuS、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insC、insK、mbhA、nfrB、tpr、waaT、xylG、yajB、ybeQ、ycfX、yciQ、yddE、ydhP、ydiM、ydjY、yfbL、yfdF、yfhD、yhfS、yhhl-3、yidP、yiiD、yjcC及びyjjMからなる群から選択される少なくとも1つの偽遺伝子である、[10]〜[12]のいずれかの遺伝子カセット。[14] 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、ybeM又はyghXである、[13]の遺伝子カセット。[15] 用いる大腸菌株がK-12株又はその派生株である、[13]又は[14]の遺伝子カセット。[16] [10]〜[15]のいずれかの遺伝子カセットを含む、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入するためのターゲティングベクター。 実施例に示すように、本発明は、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌の偽遺伝子中にノックインすることを特徴とする。環状プラスミドを用いないので、環状プラスミド維持のための抗生物質等の薬剤も必要がない。また、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインし得る偽遺伝子は大腸菌ゲノム中に多数存在するので、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを多数コピー大腸菌ゲノム中に導入することができる。さらに、本発明は、リグノセルロース系バイオマスに含まれるキシロース等で発現誘導される遺伝子発現系であり、キシロース等を利用してポリペプチド又はRNAを効率的に、大量に、かつ低コストで生産することができる。本発明の概念を示す図である。xylFプロモーターとtrcプロモーターから発現されるmCherryタンパク質量の違いを示す図である。pHN1931のベクターマップを示す図である。pHN1950のベクターマップを示す図である。pHN1948のベクターマップを示す図である。T7プロモーターとtrcプロモーターから発現されるmCherryタンパク質量の違いと、mlc*、Δpgi、crp*によるCCR解除の効果を示す図である。pHN1951のベクターマップを示す図である。pHN1975のベクターマップを示す図である。ゲノム上の偽遺伝子座位にノックインされたT7-mCherry遺伝子カセットからのmCherryタンパク質発現量を示す図である。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、大腸菌を用いてポリペプチド又はRNAをコードする外来遺伝子であるDNAを導入して該ポリペプチド又はRNAを生産する方法であり、発現用の環状プラスミドを用いずに大腸菌のゲノムの偽遺伝子(シュードジーン)中にポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入することを特徴とする。 また、本発明はキシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性プロモーターを利用することにより、バイオマス中に多量に含まれるキシロース又はアラビノースで発現誘導される。この際、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAをT7プロモーター等の強力なプロモーターと連結しておき、キシロース又はアラビノースによりT7 RNAポリメラーゼが発現するようにする。こうすることにより、キシロース又はアラビノースによる誘導によってポリペプチド又はRNAを生産することができる。 さらに、キシロースやアラビノースを発現誘導に用いる場合、グルコース等の他の糖が混在していると炭素カタボライト抑制(CCR)によりキシロースやアラビノースの代謝が抑制されるため、キシロースやアラビノースを利用できなくなってしまう。本発明においては、用いる大腸菌においてCCRを抑制し、キシロースやアラビノースを効率的に利用できるようにする。(1)偽遺伝子へのポリペプチド又はRNAをコードするDNAの導入 本発明の方法により生産するポリペプチド又はRNAは限定されない。タンパク質としては、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質等が例示されるが、これらには限定されない。RNAとしては、特定の遺伝子の発現を抑制するためのアンチセンスRNA、リボザイムなどの機能性RNAが例示されるが、これらには限定されない。本発明のおいては、これらのタンパク質やRNAをコードするDNAを大腸菌の偽遺伝子中にノックインにより導入すればよい。RNAとしてウイルスや細菌の遺伝子あるいは遺伝子組換えによって導入された外来遺伝子に相補的に結合し、該遺伝子の発現を抑制し得る配列を有するRNA等が挙げられる。RNAの塩基数は、限定されず、15〜500塩基の範囲で選択される。好ましくは15〜50、さらに好ましくは15〜45、さらに好ましくは15〜40、さらに好ましくは15〜35、さらに好ましくは15〜30塩基である。 偽遺伝子とは、既知の正常遺伝子と塩基配列の上で高度の類似性があり、配列の相同性が明確に認められるのにもかかわらず、遺伝子としての機能を失っているDNAの領域をいう。偽遺伝子は元の機能を有する配列に突然変異が生じた結果生まれたと考えられている。具体的には、ストップコドンが生じてタンパク質のペプチド鎖が短くなりタンパク質の機能を失う場合、又は正常な転写に必要な調節配列が機能を失った場合等により偽遺伝子が出現する。元の正常な遺伝子が別に残っている場合が多いが、単独でそのまま偽遺伝子になったものもある。偽遺伝子として、遺伝子配列の特徴により3タイプの偽遺伝子が挙げられる。第1のタイプとして、mRNAからレトロトランスポゾンの逆転写酵素により合成されたDNAがゲノムに挿入されて偽遺伝子となるタイプが挙げられ、このタイプの偽遺伝子をプロセス型偽遺伝子と呼ぶ。第2のタイプとして、ゲノム内で元の遺伝子配列が重複し、そのコピーのうちの1部が突然変異等により機能を喪失して偽遺伝子となるタイプが挙げられ、このタイプの偽遺伝子を重複偽遺伝子又は非プロセス型偽遺伝子と呼ぶ。第3のタイプとして、ゲノム内の遺伝子が、重複遺伝子がなく単独の遺伝子のまま機能を失うことにより偽遺伝子になるタイプが挙げられる。本発明においては、上記の3タイプのいずれの偽遺伝子も含まれる。 偽遺伝子は、遺伝子としての機能を失っているため、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中にポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインして偽遺伝子が分断等により破壊されても、大腸菌の生育や代謝には影響しないので、偽遺伝子中にノックインしたポリペプチド又はRNAをコードするDNAが発現し、ポリペプチド又はRNAを効率的に生産することができる。 本発明で利用する大腸菌の株は限定されないが、研究や有用物資の生産に通常利用されているK-12株(NBRC 3301)及びB株(NBRC 13168)、あるいはこれらの株から派生した亜株を好適に用いることができる。K-12株及びB株並びにそれらの亜株として、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株、BB4株、BL21株、BM25.5株、BMH71-18mutS株、BW313株、C-Ia株、C600株、CJ236株、DH1株、DH5株、DH5α株、DH10B株、DP50supF株、ED8654株、ED8767株、ER1647株、ER2508株、HB101株、HMS174株、HST02株、HMS174株、HST02株、HST04 dam-/dcm-株、HST08 Premium株、JM83株、JM101株、JM105株、JM106株、JM107株、JM108株、JM109株、JM110株、K802株、K803株、LE392株、MC1061株、MV1184株、MN1193株、NovaBlue株、RR1株、TAP90株、TG1株、TG2株、TH2株、χ1776株、Y-1088株、Y-1099株、Y-1090株、REL606株等が挙げられる。これらのうち、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株等はK-12株由来の株としてよく利用されている株であり、REL606株及びBL21株等はB株由来の株としてよく利用されている株である。 大腸菌の偽遺伝子としては、データベースPec Profiling of E.coli Chromosome(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/index.jsp)、Kato and hashimoto, Mol. Syst. Biol. (2007)3:132、Homma et al., Gene (2002) 294:25-33やYoon et al., Genome Biology (2012), 13: R37等に記載の偽遺伝子から選択することができる。偽遺伝子として、例えば、Yoon et al., Genome Biology (2012), 13: R37において、大腸菌K-12 MG1655株及び大腸菌B REL606株のゲノムに存在すると報告されているybeM、yghX、agaW、arpA、arpB、caiB、creD、cstA、cybC、dcuS、fhiA、fimB、fucA、gapC、gatR、gatZ、gidB、gltL、glvG、hlyE、hybO、hyfC、icdC、ilvG、insB、insC、insD、insK、insM、insO、intG、intQ、lomR、mbhA、molR、nfrB、nmpC、pbl、phnE、pinH、rph、stfE、tfaD、tfaS、tpr、waaT、wbbL、xylG、yafF、yaiT、yaiX、yajB、ybcD、ybeQ、ybfL、ybfQ、ycdN、ycfX、ycgH、ychG、yciX、ycjV、ydbA、yddE、ydeU、ydhP、ydiM、ydjY、yedN、yedS、yeeL、yeeP、yegZ、yfaS、yfbL、yfdF、yfhD、ygaY、ygeN、yghE、yghY、yhcE、yhfS、yhhI-3、yhiK、yhjQ、yidP、yifN、yiiD、yjcC、yjgX、yjhD、yjhE、yjhR、yjhW、yjiP、yjiV、yjjM、ylbE、ymdE、ymjB、ymjC、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、yrhC、ysdC、yzgL等が挙げられる。また、Homma et al., Gene (2002) 294:25-33において大腸菌K-12株のゲノムに存在すると報告されているeaeH、yfaH、yjbI、ykgA、yaiT、yaiU、ybcY、b1396、gapC_1、gapC_2、b1472、b1964、b1965、b1966、b1995、b1998、b2654、b2655、b2656、b2657、b2658、b3000、b2999、agaA、yhfO、yhfP、ilvG_1、yigL、yigW_1、yigW_2、b1720、b1721、b2228、b2227、glvC、glvB、b0263、b0499、ybfD、b1016、b1017、ydaW、b1458、b1459、b1568、b1980、b1979、molR_1、molR_2、molR_3、yehQ、yfcU、b2337、b2353、b2650、b2649、b2680、b2681、b2863、b2862、ygfQ、ygfR、ygiR、b3015、yhaN、yhaM、agaW、yhdR、yhdP、gntU_I、gntU_2、yhiL、yhiK、yhiS、yibJ、yidX、kup、yifN、b3776、yifN、b3776、yifM_1、yifM_2、yigE、b3814、trkH、b3915、b3914、yjbL、yjbM、phnE、b4103、ytfI、yjiP、yjiQ等が挙げられる。 さらに、データベースPec Profiling of E.coli Chromosome(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/index.jsp)に示されるK12株由来のMG1665株が有する偽遺伝子として、yabP、yafU、yafF、lfhA、lafU、ykfJ、prfH、ykfN、ykfL、insN、afuB、insX、yagB、ykgS、yagP、ykgT、ykgP、eaeH、ykgA、ykgQ、yaiX、ykiA、ylbH、ybbD、ylbI、ylbG、ylbE、xisD、exoD、peaD、renD、nmpC、aaaD、tfaD、ybcY、tfaX、ybeM、ybfG、ybfI、ybfO、ybfQ、ybfL、efeU、ymdE、oweE、aaaE、beeE、jayE、stfE、icdC、ycgH、ycgI、insZ、ycjV、ymjC、ydaW、rzpR、ydaY、ynaA、lomR、ttcC、ydbA、gapC、insP、rhsE、yncI、yddK、ydeT、yneL、yneO、ydfJ、nohQ、intK、ydfX、ydfE、intQ、arpB、yedN、intG、yedS、yeeL、yeeH、yoeG、yoeH、yeeP、yoeD、yoeF、yegZ、gatR、yehH、yehQ、mdtQ、yejO、yfaS、yfaH、yfcU、tfaS、yfdL、oweS、yfjV、ypjI、psaA、pinH、ypjC、ygeF、pbl、ygeK、ygeN、ygeO、ygeQ、yqfE、yghE、yghF、yghO、yghX、yqiG、agaW、agaA、yhcE、yrdF、yrdE、yhdW、yzgL、yrhC、yrhA、yhiL、yhiS、bcsQ、mokA、sokA、ysaC、ysaD、yibS、yibW、yibU、yicT、glvG、glvC、ilvG、yifN、yjbI、yjdQ、ytfA、cybC、intB、yjhD、yjhE、insO、insM、yjhV、yjhY、yjhZ、yjhR、yjiP、yjiT、yjiV等が挙げられる。 上記のデータベースPec Profiling of E.coli Chromosome(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/index.jsp)に示されるK12株由来のMG1665株が有する偽遺伝子のリストを表1に示し、それぞれの偽遺伝子の配列を配列番号45〜200に示す。表1には、偽遺伝子の名称(Symbol)、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子の存在する場所(ゲノム中の塩基番号でスタート塩基番号(Start(BP))及びエンド塩基番号(END(BP))で示してある)、塩基長(Length)、プラス(+)鎖上とマイナス鎖(−)上のどちらに存在するか(Dir)、並びに各々の偽遺伝子の塩基配列の配列表中の配列番号を示す。 さらに、上記した偽遺伝子の中でも、大腸菌株としてMG1655等のK-12株又はその派生株を用いる場合、agaW、arpB、cybC、fhiA、gapC、gatR、glyG、icdC、ilvG、insB、insD、insM、insO、intG、lomR、mbhA、molR、nmpC、pbl、phnE、pinH、rph、stfE、tfaD、tfaS、wbbL、yafF、yaiT、yaiX、ybcD、ybeM、ybfL、ybfQ、ycdN、ycgH、ychG、yciX、ycjV、ydbA、ydeU、yedN、yedS、yeeL、yeeP、yegZ、yfaS、ygaY、ygeN、yghE、yghX、yghY、yhcE、yhiK、yhjQ、yifN、yjgX、yjhD、yjhE、yjhW、yjiP、yjiV、ylbE、ymdE、ymjB、ymjC、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、yrhC及びysdCが好ましく、arpB、gapC、gatR、icdC、ilvG、insB、lomR、mbhA、molR、wbbL、yafF、yaiT、yaiX、ybeM、ybfQ、ycdN、ycgH、ychG、yciX、ycjV、ydbA、yedN、yedS、yeeL、yegZ、yfaS、yhcE、yjgX、yjhW、ylbE、ymjB、ymjC、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、yrhC及びysdCがさらに好ましい。 また、大腸菌株としてREL606等のB株又はその派生株を用いる場合、arpA、caiB、creD、cstA、cybC、dcuS、fhiA、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insB、insC、insK、insO、intQ、mbhA、nfrB、nmpC、tpr、waaT、xylG、yajB、ybcD、ybeQ、ycfX、ycgH、yciQ、yciX、yddE、ydeU、ydhP、ydiM、ydjY、yeeL、yeeP、yfbL、yfdF、yfhD、yghE、yhfS、yhhl-3、yhjQ、yidP、yifN、yiiD、yjcC、yjgX、yjhD、yjhE、yjhR、yjjM、ymjC、yncK、ynfP、yoeA、yrhC及びyzgLが好ましく、arpA、caiB、creD、cstA、dcuS、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insC、insK、intQ、nfrB、nmpC、tpr、waaT、xylG、yajB、ybeQ、ycfX、yciQ、yddE、ydhP、ydiM、ydjY、yfbL、yfdF、yfhD、yhfS、yhhl-3、yidP、yiiD、yjcC、yjhR、yjjM及びyzgLがさらに好ましい。 また、これらの偽遺伝子のうち、近傍に生育に必須の遺伝子が存在せず、さらにオペロンになっていないものが望ましい。 後述の実施例においては、偽遺伝子ybeM及びyghXにポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインした例を示す。他の偽遺伝子に対しても同様の方法でポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインすることができ、また、偽遺伝子である以上、偽遺伝子が破壊されたとしても大腸菌の生育や代謝に影響を与えないので、いずれの偽遺伝子中にもポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインすることにより、ポリペプチド又はRNAを生産させることができる。すなわち、大腸菌のゲノム中に存在するあらゆる偽遺伝子を実施例で用いている偽遺伝子ybeM及びyghXと同様に、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入し、該ポリペプチド又はRNAを生産することができる。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子にポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入する場合、形質転換マーカーが大腸菌内に残らないように導入する。このような方法は限定されないが、例えば、相同組換え法を利用して、偽遺伝子中にポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインすることができる。この際、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAにプロモーターを作動可能に連結しておく。さらに、エンハンサー、ターミネーター、ポリA配列等の制御配列を含んでいてもよい。少なくともプロモーターとポリペプチド又はRNAをコードするDNAを含むDNA構築物を、プロモーター-ポリペプチド又はRNAをコードするDNAの遺伝子カセット又は発現カセットと呼び、該発現カセットを含む遺伝子導入用ターゲティングベクターを用いて導入することができる。ターゲティングベクター中のカセットの両側には、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入しようとする偽遺伝子の部分DNA配列に相同性を有する相同組換え用アームとなるDNA断片を連結しておき、該DNA断片に挟まれたDNAカセット部分をノックインする。上記の偽遺伝子の配列情報に基づいて、相同組換え用アームとして用い得るDNA断片を設計することができる。この際、導入しようとする発現カセットの配列を偽遺伝子の途中に偽遺伝子の配列が残った状態で偽遺伝子を分断するように導入してもよいし、偽遺伝子の配列を部分的に置換するように導入してもよい。本発明において、上記の相同組換え用アームとなるDNA断片を含む遺伝子カセットも発現カセットと呼ぶ。 用いるプロモーターは限定されず、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター等が用いられるが、強力なプロモーター活性を有し最も広く使われるT7プロモーターが好ましい。ただし、これらプロモーターがあまりにも強力で、細胞の増殖に悪影響を与えることがあることから(Temme et al., Nucleic acids Res. (2012) 40:8773-8781)、プロモーター配列に変異を導入したり(Ikeda et al., Nucleic acids Res. (1992) 20:2517-2524)、対応するポリメラーゼに変異を導入して(Makarova et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1995) 92:12250-12254)、やや穏やかな発現をさせてもよい。 本発明は、前記発現カセットも該発現カセットを含むターゲティング用ベクターも包含する。 本発明の発現カセットにおいては、発現させようとする有用物質をコードするDNAを挿入する部位は、マルチクローニングサイトとして存在してもよい。この場合、発現させようとする有用物質をコードするDNAをマルチクローニング部位(挿入部位)に制限酵素が認識する配列を利用して挿入すればよい。このように発現させようとする有用物質をコードするDNA自体が含まれておらず、該DNAを挿入する部分がマルチクローニング部位として含まれる発現カセットも本発明の発現カセットに含まれる。なお、発現させようとするDNAを標的DNAや目的DNAと呼び、タンパク質を標的タンパク質や目的タンパク質と呼ぶ場合もある。 例えば、T7プロモーター、マルチクローニング部位及びターミネーターを含むDNAカセットとして、配列番号28で表されるDNA配列を有するものが挙げられる。 有用物質をコードするDNAを大腸菌の偽遺伝子中にノックインする具体的な方法として、例えば、ラムダレッドとFLP-FRTリコンビナーゼを組合せた方法(Sukhija et al., Mol. Biotechnol. (2012) 51:109-118)や本発明者らが開発した方法(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)を挙げることができる。 本発明において、大腸菌1細胞に導入するポリペプチド又はRNAをコードするDNAの種類数は限定されない。複数の種類のポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入した場合、同時に複数のポリペプチド又はRNAを生産することができる。例えば、1種類、2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、15種類以上又は20種類以上のポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入することができる。また、各々のポリペプチド又はRNAをコードするDNAのコピー数も限定されず、1種類のDNAの導入コピー数が多ければ、多量のポリペプチド又はRNAを生産することができる。例えば、1コピー、2コピー以上、5コピー以上、10コピー以上、20コピー以上、30コピー以上、40コピー以上、50コピー以上又は100コピー以上のDNAを導入すればよい。 ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入する偽遺伝子の数も限定されず、大腸菌のゲノム中に存在するすべての偽遺伝子を利用することができ、例えば、異なるポリペプチド又はRNAをコードする複数のDNAを異なる偽遺伝子中に導入してもよいし、同じポリペプチド又はRNAをコードするDNAを異なる偽遺伝子中に導入して総コピー数を増やすこともできる。 1つの偽遺伝子中に複数種類のポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインする場合、あるいは1つの偽遺伝子中に複数コピーのポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインする場合、T7プロモーターは各DNAに連結してもよいし、再上流部に1つのT7プロモーターを連結してオペロンとしてもよい。(2)キシロース又はアラビノースを用いてポリペプチド又はRNAの発現を誘導する生産系の確立 さらに本発明は、食料と競合しないリグノセルロース系バイオマスに含まれているキシロース、又はアラビノースでポリペプチド又はRNAの生産が誘導されることを特徴とする。キシロース又はアラビノースでポリペプチド又はRNAの生産を誘導するためには、キシロース誘導性のプロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターを用いればよい。キシロース誘導性のプロモーターとして、xylFプロモーター、xylAプロモーター、xylBプロモーター等が挙げられ、この中でもxylFプロモーターが好ましい。アラビノース誘導性プロモーターとして、araBADプロモーター、araBプロモーター等が挙げられ、この中でもaraBADプロモーターが好ましい。 ただし、キシロース誘導性のプロモーター及びアラビノース誘導性のプロモーターはプロモーター活性がそれほど強力ではないので、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子に導入するポリペプチド又はRNAをコードするDNAのコピー数が少ない場合、ポリペプチド又はRNAを十分な量生産することができない。そこで、(1)の偽遺伝子へ導入するポリペプチド又はRNAをコードするDNAに連結した強力なプロモーターと組合せて発現させる。すなわち、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAに連結したプロモーターがT7プロモーターの場合、T7プロモーター-T7 RNAポリメラーゼ(T7RNAP)系と組み合わせればよい。また、プロモーターがT3プロモーターやSP6プロモーターの場合、T3プロモーター-T3 RNAポリメラーゼ系やSP6プロモーター-SP6 RNAポリメラーゼ系と組合せればよい。T7プロモーターはtaatacgactcactataggg(配列番号43)からなる配列で、大腸菌のRNAポリメラーゼによっては、ほどんど認識されないがT7ファージ由来のT7RNAPによって特異的に認識され、転写が開始される。ごく少量のT7RNAPで大量のRNAを転写できるとされており、転写速度も大腸菌のRNAポリメラーゼより8倍早い(Makarova et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1995) 92:12250-12254)。具体的には、キシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターの下流にT7プロモーターを認識するT7 RNAポリメラーゼをコードするDNAを機能し得るように連結する。キシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターとT7 RNAポリメラーゼを連結した構築物は、ベクターを用いて大腸菌のゲノムに導入すればよい。この際、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入する偽遺伝子と異なる偽遺伝子中に導入してもよいし、大腸菌のlacZYA遺伝子中に導入してもよい。好ましくはlacZYA遺伝子に導入する。キシロース又はアラビノースの存在下で、キシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターとT7 RNAポリメラーゼをコードするDNAを連結した構築物とT7プロモーターとポリペプチド又はRNAをコードするDNAを連結した構築物を含む大腸菌を培養した場合、キシロース又はアラビノースにより、T7 RNAポリメラーゼが産生する。産生されたT7 RNAポリメラーゼがT7プロモーターを認識し結合することにより、T7プロモーターが作動し、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAが発現し、ポリペプチド又はRNAが産生される。 それでもなおキシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターの活性が低い場合には、これらプロモーターに変異を導入し、高活性型プロモーターを作成して用いても良い。例として、プロモーター中の-35配列と-10配列を、大腸菌プロモーターの共通配列であるTTGACAとTATAATにそれぞれ近づけることによって達成できる可能性が高い(De Boer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80:21-25)。 キシロース又はアラビノースを含むバイオマス中にグルコースが含まれる場合、炭素カタボライト抑制(CCR:carbon catabolite repression)によりxylF又はaraBADプロモーターからの遺伝子発現が抑制され、キシロースを利用できなくなる。CCRは、培地中にブドウ糖などの優先的に代謝される炭素源があるとそれを消費するまで、それ以外の炭素源の分解系の遺伝子発現を抑制する機構である。そこで、本発明でポリペプチド又はRNAを生産するために用いる大腸菌のCCRを抑制しておくことが望ましい。大腸菌のCCRの抑制は、例えば特開2013-005764号公報、Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44等の記載に従って達成することができる。具体的には、CCRの解除は、例えばMlc(making large colonies)タンパク質の過剰発現により行うことができる。Mlcタンパク質は、炭化水素代謝の調節因子として、いくつかの遺伝子やオペロンの発現を調節することが知られている44kDaのDNA結合タンパク質である(Hosono, K., et al., Biosci, Biotechnol. Biochem., 59, 256-261 (1995))。一例として、ptsG遺伝子の発現はMlcタンパク質によって負に制御されていることが知られている(Plumbridge, J. Curr. Opin. Microbiol. 5:187-193(2002))。Mlcタンパク質の過剰発現は、PtsGタンパク質の不足を引き起こし、CCRが解除される。Mlcタンパク質の過剰発現は、例えば、mlc遺伝子が導入されMlcを発現し得るベクターを大腸菌に導入することにより行うことができる。また、ゲノム上のmlcプロモーターDNAの塩基配列にmlcプロモーターが高活性型になるような変異(mlc*)を入れてもよい。このような変異として、例えば、mlcプロモーターの-10配列のcaccatからtattatへの変異が挙げられる。該変異は配列番号44に示すmlcプロモーター配列の第31番目のcのtへの置換である。 さらに、anmK、slyB、slyA、ydhI又はydhJ遺伝子の1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの遺伝子の過剰発現によっても部分的な又は完全なCCRの解除を行うことができる。ここで、部分的な解除とは、不完全なCCRの解除をいう。ただし、このようなCCRの解除であっても、優先的に代謝される糖とそれ以外の糖を同時に利用することが可能になるので、有用である。本発明において、CCRの解除とは完全な解除だけでなく、部分的な解除も含む。上記5つの遺伝子のうち、特にslyA遺伝子の過剰発現が好ましい。これらの遺伝子の過剰発現は、これらの遺伝子が導入されこれらの遺伝子を発現し得るベクターを大腸菌に導入することにより行うことができる。あるいは、ブドウ糖の取り込みから解糖の初期段階に関わる一連の遺伝子群ptsG、pgi、fbpのうちの1つの遺伝子破壊あるいは、crpの変異crp*によってもCCRは解除されることが知られているので、これらのどれかを用いてもよい。これによって、ブドウ糖とキシロース若しくはアラビノースの共存下であっても(つまりバイオマスの存在する状況下で)、xylFプロモーター又はaraBADプロモーターから発現誘導することができる。 大腸菌のゲノム上の偽遺伝子中にポリペプチド又はRNAをコードするDNAをノックインし、キシロース誘導性プロモーターをT7プロモーター-T7 RNAポリメラーゼ(T7RNAP)系と組み合わせ、さらに大腸菌のCCRを抑制することを含む、本発明の概念を図1に示す。図1においては、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAとして、標的遺伝子A、標的遺伝子B及び標的遺伝子Cの3種類を用い、それぞれを大腸菌ゲノムの別々の偽遺伝子座位a、b及びcにノックインしてある。標的遺伝子A、B及びCはT7プロモーターと連結されている。また、xylFプロモーターと連結したT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が大腸菌ゲノムのlacZYA遺伝子座位に導入されている。キシロースを含むバイオマス存在下で図1に示す大腸菌を培養した場合、キシロースがxylFプロモーターに結合し、T7 RNAポリメラーゼが発現する。T7 RNAポリメラーゼは標的遺伝子に連結されたT7プロモーターに結合し、標的遺伝子が発現する。キシロースを含むバイオマス中にグルコースが存在する場合、mlc*変異等により炭素カタボライト抑制(CCR)を解除しておけばよい。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。〔実施例1〕実験手法 以下に記載の実施例において、大腸菌の培養、遺伝子組換え操作等は、本発明者らの論文および特許(Nakashima and Tamura, Biotechnol. Bioeng. (2004) 86:136-148、Nakashima and Tamura, Appl. Environ. Microbiol. (2004) 70:5557-5568、Nakashima et al., Nucleic Acids Res. (2006)34:e138、Nakashima and Tamura, Nucleic Acids Res. (2009) 37:e103、特許第3793812号、特許3944577号)に基づいて行った。DNA断片の切断は、New England Biolab社の制限酵素を用いて行い、切断後はアガロースゲル電気泳動で分離し、必要なDNA断片のみを回収した。ゲルからのDNA断片回収はpromega社のWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemで行い、ライゲーション反応はタカラバイオ株式会社のDNA Ligation Kit <Mighty Mix>を用いた。ライゲーション後の形質転換にはXL-1Blue大腸菌(recA1 endA1 gyrA96 thi-1hsdR17 supE44 relA1 lac [F'proAB lacIqZΔM15 Tn10])を用い、方法は井上ら(Inoue et al., Gene (1990) 96:23-28)の方法に従った。PCR反応は東洋紡社製のKOD FX neo polymerase又はKOD plus neo polymeraseを用いた。オリゴヌクレオチドはオペロンバイオテクノロジー株式会社に合成を委託した。特に断らない限り、タンパク質発現のための宿主とPCR反応のためのゲノムDNAには、野生型MG1655株(F- lambda- ilvG-rfb-50 rph-1)を用いた。特に断りがない限り、大腸菌の培養はLB(1(w/v)% Difco Bacto Tryptone、0.5(w/v)% Difco Yeast Extract、1(w/v)%塩化ナトリウム)を用いて37℃で行った。寒天培地による培養の場合、寒天濃度は1.6(w/v)%で、9 cm直径のプラスチックシャーレに入れたものを使った。また、環状プラスミドを含む大腸菌を培養する場合は対応する抗生物質を加えて行った。抗生物質の終濃度は、アンピシリン:50μg/mL、クロラムフェニコール:34μg/mL(原液は100%エタノールを溶媒として34 mg/mLの濃度で作成)、カナマイシン:20μg/mL、アプラマイシン:50μg/mLである。ブドウ糖、キシロース、アラビノースを培養液に加える場合は32(w/v)%の原液を作成しておき、それをザルトリウス社製ミニザルトフィルター0.22μM(商品コード16534K)で滅菌したものを用いた。 用いた主なプラスミドを表2に示す。〔実施例2〕レポーター遺伝子mCherryによる、xylFプロモーターからの発現確認 まず、キシロースを用いた発現誘導系のベクター構築を行うこととした。xylFプロモーター配列を得るために、sSN1691R(aaactgcagtgcatgcgttaacgaacgcgatcgagctggtcaaaatagg:配列番号1)とsSN1692(ttccatggtgtagggccttctgtagttaga:配列番号2)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。得られた断片の末端をPstIとNcoIで処理し、pHN540u(Nakashima et al., Nucleic Acids Res. (2006)34:e138)をPstIとNcoIで切断したベクターにライゲーションした。できたプラスミドにpHN1935と名付けた。 xylFプロモーターの強度を知るためには、一般的によく知られたプロモーターとの対照実験をする必要がある。そこで、IPTG誘導型のtrcプロモーターを比較対象とした。IPTG誘導型発現ベクターpTrc99a(Amersham Biosciences社製)をSphIとEcoRIで切断して得られた1.5 kbの断片を、pHN540u(Nakashima et al., Nucleic Acids Res. (2006)34:e138)の同一制限酵素部位にサブクローニングした。得られたプラスミドにpHN1032と名前をつけたが、これは、pHN1935と同じ形質転換マーカーのクロラムフェニコール耐性遺伝子(chlr)と同じ自律複製起点のpACYC自律複製起点を持つ。pHN1032はさらに、IPTGによる発現制御のためにlacIqも保持している。 trcプロモーターとxylFプロモーターの強度と誘導性を知るために、赤色の蛍光を示すmCherryタンパク質をコードする遺伝子を人工合成した。配列は以下のとおりである。atggttagcaaaggtgaagaggacaacatggcgattatcaaagagtttatgcgtttcaaggtgcacatggaaggctcggtaaatggtcacgaatttgagattgaaggtgagggcgagggtcgtccgtacgagggaacccagacggccaagctgaaagtgaccaaaggtggtccgctgccgttcgcgtgggacatcttgagcccgcagtttatgtacggctctaaagcgtacgtcaagcatccggcggacattccggactatctgaagctgagcttcccggaaggctttaagtgggagcgtgttatgaacttcgaagatggtggtgttgtcaccgtcacccaggatagcagcctgcaagatggcgaatttatctataaagtgaagctgcgtggcacgaattttccgtccgatggcccagttatgcagaagaaaacaatgggttgggaagcatccagcgagcgcatgtaccctgaggatggtgcactgaagggcgagatcaagcaacgcttgaaactgaaagatggcggtcactatgacgccgaggttaagacgacctataaggctaaaaagccggtgcaactgccgggtgcgtataatgtgaacatcaaactggacattacgagccataacgaggactacactattgtcgaacaatacgagcgcgcagaaggccgtcacagcaccggtggtatggacgagctgtacaaataa(配列番号3) この配列を含むDNA断片をsSN1743(acccatggttagcaaaggtgaagaggacaa:配列番号4)とsSN1744(tgctcgagaaagcttcgaattcttatttgtacag:配列番号5)を用いてPCR増幅し、末端をNcoIとHindIIIで処理し、pHN1935とpHN1032の同一制限酵素部位にクローニングした。できたプラスミドにそれぞれ、pHN1990とpHN1982と名付けた。 MG1655株をpHN1990とpHN1982でそれぞれ形質転換し、形質転換体を1 mLのLBで一晩前培養後、うち8.3μLを新しい5 mL LBにそれぞれ植菌した。pHN1990を持つMG1655株では同一のものを3つ、pHN1982を持つMG1655では2つ用意した。振とう培養を1.5時間行ったところで、pHN1990を持つMG1655には、3つのうちの1つにブドウ糖を終濃度1(w/v)%、別の1つにブドウ糖終濃度1%かつキシロース終濃度0.5(w/v)%、また別の1つにキシロース終濃度0.5(w/v)%になるように添加した。同様に、pHN1982を持つMG1655株には、2つのうち1つにブドウ糖を終濃度1(w/v)%、もう1つにIPTGを終濃度1 mMになるように入れた。そして、5つ全てにおいて、さらに4.5時間培養を継続した。培養後、培養液を遠心分離に供し、上清を捨てた。沈殿した菌体を500μLのPBS(0.14 M NaCl、2.7 mM KCl、10.1 mM Na2HPO4、1.8 mM KH2PO4)に懸濁し、そこに直径0.1 mmのガラスビーズ(安井機械社製)0.1 gを混合した。これを安井機械社製ビーズショッカーにかけ、菌体を破砕した後、20000×g、4℃、10分遠心することで上清を得た。これが粗タンパク質液となる。粗タンパク質液のうち、180μLを取り出し、Costar社製96 Well Flat Bottom Assay Plate(Black polystyrene)に入れ、mCherryの蛍光強度を測定した。測定は、SAFIRE(Tecan社製)とLS-PLATEmanager 2004 data analysis program(和光純薬工業株式会社)を用い、設定は以下のとおりであった:励起波長587 nm、蛍光波長610 nm、gain 100、Excitation bandwidth 12 nm、Emission bandwidth 12 nm、Number of flashes 10、Z-Position (Manual) 11020μm、Lag time 0μs、Integration time 40μs。蛍光強度を粗タンパク質液中の総タンパク質量当たりに換算するために、タンパク質量をバイオ・ラッドプロテインアッセイ濃縮色素試薬によって測定した。さらに、蛍光のバックグラウンドを計算上取り除くため、これと同一の操作を、MG1655株をpHN1032で形質転換したものを用いて並行して行った(培養はLBで、培養開始後1.5時間後にブドウ糖を終濃度1(w/v)%添加したもの)。タンパク質量あたりのmCherry蛍光強度を図2に示す。図2AはpHN1990形質転換体の結果を示し、図2BはpHN1982形質転換体の結果を示す。 この結果から、trcプロモーターに比べてxylFプロモーターはずっと低い発現量しか達成できないことがわかった。ただし、xylFプロモーターの発現制御機構は予想通り機能しており、ブドウ糖単独存在下あるいはブドウ糖とキシロース共存下では発現が抑制されており、キシロース単独存在下のみで発現していた。〔実施例3〕xylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットあるいは、T7プロモーターを含むベクターの構築 実施例2に記載したように、xylFプロモーターは、発現制御は容易にできても、発現量が低く実用的ではない。そこで、T7RNAPを用いた発現量増幅を行うことにした。まず、そのためのベクター作成を行った。 lacZYA座位に遺伝子をノックインするベクターを作成するために、sSN1700(gctatgcattaactatccgctggatgaccagg:配列番号6)とsSN1701(tggtctagaaggcctctgcagcctggggtgcctaatgagtgagctaactc:配列番号7)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。その際、sSN1701はその末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England BioLabs社製)を用いてリン酸化しておいた。得られた断片の末端をNsiIで処理した。一方、sSN1702(tggctcgagggatccatgcatcagccgctacagtcaacagcaactgatgg:配列番号8)とsSN1703(tttacatgtctgaacagttccagtgccagct:配列番号9)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。得られた断片の末端をPciIで処理した。これら2つの断片とプラスミドベクターpHN1234(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)をPstIとNcoIで切断したものを同時にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1931と名付けた。pHN1931を図3に示すが、このベクターのマルチプルクローニング部位に、標的遺伝子をクローニングすれば、lacZYA座位に標的遺伝子をノックインすることができる。 tetR配列を大腸菌ER2508株(New England BioLabs社より入手)のゲノムからPCRにて増幅した。その際のオリゴヌクレオチドプライマーはsSN1174(gttaacatgtctagattagataaaagtaaagtgatt:配列番号10)とsSN1175(ctctgcagttaagacccactttcacatttaagt:配列番号11)であった。増幅した断片を PstIで切断し、pHN540uをPstIとEcoRV で切断したベクターとライゲーションし、できたプラスミドにpHN1235と名前をつけた。テトラサイクリンプロモーター配列(Lutz and Bujard, Nucleic Acids Res. (1997) 25:1203-1210)を4つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、Di Donatoらの方法(Di Donato et al., Anal. Biochem. (1993) 212:291-293)に従って人工的に合成した。用いたオリゴヌクレオチドプライマーは、sSN1179(cagtgatagagattgacatccctatcagtgatagagatactgagcacatc:配列番号12)、sSN1180(cctctttaatgaattcggtcagtgcgtcctgctgatgtgctcagtatct:配列番号13)、sSN1181 (aaacgcgtccctatcagtgatagagattg:配列番号14)、sSN1182(aaccatggtatatttctcctctttaatgaattcg:配列番号15)であった。得られた断片の末端をMluIとNcoIで処理し、pHN1235をMluIとNcoIで切断したベクターとライゲーションした。これによって、pHN1240を得た。弱い構成的homプロモーター(Patek et al., J. Biotechnol. (2003) 104:325-334)を取得するため、Corynebacterium glutamicum ATCC13032株のゲノムを鋳型とし、sSN1214(aaaacgcgtacattgaaaactaaaaagctg:配列番号16)とsSN1215(gacggttctccaaaacaaaaagggtaccta:配列番号17)をオリゴヌクレオチドプライマーとしてPCR反応を行った。得られた断片をMluIで切断し、pHN1240をMluIとHincIIで切断したベクターにライゲーションした。得られたプラスミドにpHN1271と名前をつけた。pHN1270(Nakashima and Tamura, Nucleic Acids Res. (2009) 37:e103)を鋳型、sSN1212(tctcgctagctttcttcagggccgacaatc:配列番号18)とsSN1058(tttgctagcaggtcgtaaatcactgcataattc:配列番号19)をオリゴヌクレオチドプライマーとしてPCR反応を行った。得られた断片をSpeIで切断した。一方、pHN1271を鋳型、sSN1175(ctctgcagttaagacccactttcacatttaagt:配列番号20)とsSN1011(aaaggtaccgtggaggtaataattgacgatatga:配列番号21)をオリゴヌクレオチドプライマーとしてPCR反応を行った。この際、sSN1011はその末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化しておいた。得られた断片をSpeIで切断し、前述の断片とライゲーションし、得られたプラスミドにpHN1377と名前をつけた。T7RNAP配列を大腸菌BL21(DE3)株(F- ompT gal dcm lon hsdSB(rB-mB-) λ(DE3 [lacI lacUV5-T7 gene 1ind1 sam7 nin5]))のゲノムからPCRにて増幅した。その際のオリゴヌクレオチドプライマーはsSN1062(ctccatggacacgattaacatcgctaagaacgacttc:配列番号22)とsSN1063(aaactagttacgcgaacgcgaagtccgactctaag:配列番号23)であった。増幅した断片を NcoIとSpeIで切断し、pHN1377をNcoIとSpeIで切断したものとライゲーションし、できたプラスミドにpHN1850と名前をつけた。xylFプロモーター配列を大腸菌MG1655株のゲノムからPCRにて増幅した。その際のオリゴヌクレオチドプライマーはsSN1691R(aaactgcagtgcatgcgttaacgaacgcgatcgagctggtcaaaatagg:配列番号24)とsSN1692(ttccatggtgtagggccttctgtagttaga:配列番号25)であった。増幅した断片をPstIとNcoIで切断し、pHN1850をPstIとNcoIで切断したものとライゲーションし、できたプラスミドにpHN1946と名前をつけた。xylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットを含む断片をpHN1946からPstIとSpeIで切り出し、pHN1931をNsiIとXbaIで切断したベクターにライゲーションした。できたプラスミドにpHN1950と名付けた。pHN1950はxylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットをlacZYA遺伝子領域配列に挟まれるようにして持つ。ベクターのマップを図4に示す。 pHN678(Nakashima et al., Nucleic Acids Res. (2006)34:e138)を鋳型として、sSN1011(aaaggtaccgtggaggtaataattgacgatatga:配列番号26)とsSN1173(ggggtacctgagcaaactggcctca:配列番号27)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーによって、PCR反応を行い、得られた断片の末端をKpnIで処理し自己ライゲーションした。できたプラスミドにpHN1932と名付けた。オペロンバイオテクノロジー株式会社に依頼し、以下の配列のDNA断片を合成した。gctagcctgcagatataggcgccagcaaccgcacctgtggcgccggtgatgccggccacgatgcgtccggcgtagaggatcgagatctcgatcccgcgaaattaatacgactcactataggggttcccctctagaaataattttgtttaactttaagaaggagatataccatgggccaccatcaccatcaccatatgggaattctacgtagcggccgcggatccaagcttagatctctcgagaactagtccaccgctgagcaataactagcataaccccttggggcctctaaacgggtcttgaggggttttttgctgaaaggaggaaggtacc(配列番号28) この配列は、T7プロモーターとターミネーターを含み、さらにマルチクローニング部位を持つ。この配列を持つDNA断片をPstIとKpnIで切り出し、pHN1932の同サイトにクローニングした。できたプラスミドにpHN1944と名付けた。次いで、pHN678を鋳型として、sSN1726(cttctgcagaatgcatctgtcaaacatgagaattacaacttatatcg:配列番号29)とsSN1079(cgactagtgcgtcgggtgatgctgccaact:配列番号30)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーによって、PCR反応を行い、得られた断片をPstIとNheIで消化し、pHN1944の同サイトにクローニングした。できたプラスミドにpHN1948と名付けた。pHN1948はT7プロモーターとターミネーターを含み、それらのあいだにマルチクローニング部位を持つT7発現ベクターである。ベクターのマップを図5に示す。〔実施例4〕lacZYA座位へのxylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットのノックイン 以下、pHN1950を用いて野生型MG1655株にxylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットを導入する過程を述べるが、これは、Emmersonらの発表した方法(Emmerson et al., Biol. Proced. Online (2006) 8:153-162)によるものである。pHN1950はpSC101自律複製起点をもつプラスミドであるが、一箇所の点突然変異(GenBank登録番号X01654の、5439番目の塩基がシトシンからチミンに変化)により、温度感受性のプラスミドとなっており(pSC101ts 自律複製起点)、37℃を超える温度で培養されると、環状プラスミドとして細胞内で維持されない(Armstrong et al., J. Mol. Biol. (1984) 175:331-347)。よって、37℃を超える温度では、pHN1950は脱落するか、相同組換えあるいは非相同組換えによって大腸菌のゲノム内に挿入されるかのどちらかとなる。相同組換えでゲノムに挿入されるのであれば、lacZYA座位に対する相同配列を持っていることから、かなりの高確率でこの座位にノックインされることなる。さらに、pHN1950はカウンター選択マーカーであるsacBをもつことから、スクロースの10(w/v)%入ったLB中で培養すると、xylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットのみをゲノム内に残して、それ以外の部分はゲノム内相同組換えによって脱落することになる。ただし、必ずしも想定通りに脱落するとは限らないので、コロニーPCR法などによって周辺の遺伝子構成を調べなくてはならない。 まずMG1655株をpHN1950で形質転換し(ただし30℃培養)、形質転換体のコロニーを爪楊枝でLB寒天培地に塗布、42℃で培養した。純化するために、出てきたコロニーをもう一度爪楊枝でLB寒天培地に塗布し、37℃で培養した。出てきたコロニーを1 mLの液体LBで一晩30℃で培養し、爪楊枝の先をその培養液に浸し、スクロースの10%入ったLB寒天培地に塗布し、一晩30℃で培養した。出てきたコロニーをコロニーPCR法で、想定通りノックインされているかどうか確認した。できた株にMG1655XT7と名付けた。〔実施例5〕CCR解除とT7RNAPを用いた発現量増幅 まず、mCherry発現ベクターの作成を以下のように行った。pHN1982からmCherry遺伝子を含むDNA断片をNcoIとHindIIIで切り出し、pHN1948を同酵素で切断したベクター断片とライゲーションし、pHN1984を得た。 CCRを解除された株を作成するために、以下の操作を行った。ゲノム上の野生型mlcとcrpをそれぞれmlc*とcrp*に変異させる方法は、本発明者らが発表済みである(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)。その方法によってMG1655の当該遺伝子を変異させた株を作成し、名称をそれぞれ、MG1655mlc*、MG1655crp*とした。さらに大腸菌では、解糖系の連続した初期3反応に関与するptsG、pgi、fbp遺伝子のいずれかを破壊することでもCCRを解除できることが知られている(Kimata et al., EMBO J. (2001) 20:3587-3595)。ここでは、MG1655株のpgiを破壊したMG1655Δpgiを作成した。作成方法を以下に示す。MG1655株ゲノムを鋳型、sSN1593(ttcctgcaggatctcaacaaacagcaggg:配列番号31)とsSN1499(ctccatggcagcggtctgcgttggattgat:配列番号32)をオリゴヌクレオチドプライマーとして用いて、pgi遺伝子5’領域をPCR増幅した。なお、このPCRに先立って、sSN1499はT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて5’末端をリン酸化した。一方、MG1655株ゲノムを鋳型、sSN1594(ccacgatagctcgaccaatggtct:配列番号33)とsSN1595(gaggatcccacagtgaattgcccagctctt:配列番号34)をオリゴヌクレオチドプライマープライマーとして用いて、pgi遺伝子3’領域をPCR増幅した。増幅した両断片を前者はPstIで、後者はBamHIで消化し、pHN1234をPstIとBamHIで切断したベクター断片に同時にライゲーションした。得られたプラスミドにpHN1747と名前をつけた。pHN1747をMG1655に形質転換した後は、実施例4に記したものと全く同じ方法で操作しpgi破壊株を得た。 そして、MG1655mlc*、MG1655crp*、MG1655Δpgiの3株のlacZYA座位に、実施例4に記したものと全く同じ方法で、xylFプロモーター-T7RNAP遺伝子カセットのノックインを行った。できた株にそれぞれ、MG1655mlc*XT7、MG1655crp*XT7、MG1655ΔpgiXT7と名付けた。 MG1655、MG1655XT7、MG1655mlc*XT7、MG1655crp*XT7、MG1655ΔpgiXT7をpHN1984で形質転換し、MG1655株は別にpHN1982でも形質転換した。形質転換体を1 mLのLBで一晩前培養後、うち8.3μLを新しい5 mL LBにそれぞれ植菌した。pHN1984を持つ各株では同一のものを3つ、pHN1982を持つMG1655は2つ用意した。振とう培養を1.5時間行ったところで、pHN1984を持つ各株には、3つのうち1つにブドウ糖を終濃度1%、別の1つにブドウ糖終濃度1(w/v)%かつキシロース終濃度0.5(w/v)%、また別の1つにキシロース終濃度0.5(w/v)%になるように添加した。同様に、pHN1982を持つMG1655には、2つのうち1つにブドウ糖を終濃度1(w/v)%、もう1つにIPTGを終濃度 1 mMになるように入れた。そして、全てをさらに4.5時間培養を継続した。培養後、培養液を180μLを取り出し、Costar社製96 Well Flat Bottom Assay Plate(Black polystyrene)に入れ、mCherryの蛍光強度を測定した。この実験では発現量が多かったため、実施例2とは異なり、細胞を破砕しなくてもmCherryの測定が可能であった。測定は、SAFIREとLS-PLATEmanager 2004 data analysis programを用い、設定は以下のとおりであった:励起波長587 nm、蛍光波長610 nm、gain 80、Excitation bandwidth 12 nm、Emission bandwidth 12 nm、Number of flashes 10、Z-Position (Manual) 11020μm、Lag time 0μs、Integration time 40μs。蛍光強度を培養液の濁度当たり(すなわち細胞数当たり)に換算するために、培養液の濁度をSAFIREとLS-PLATEmanager 2004 data analysis programで測定した。濁度測定は、培養液を5倍にLBで希釈したもの180μLをNunc社製96 Well Flat Bottom Assay Plate(商品コード269620)を用いて測定した。さらに、蛍光のバックグラウンドを計算上取り除くため、これと同一の操作を、MG1655株をpHN1032で形質転換したものを用いて並行して行った(培養はLBで、培養開始後1.5時間後にブドウ糖を終濃度1%添加したもの)。濁度あたりのmCherry蛍光強度を図6に示す。 まず、MG1655株ではどの培養条件でもmCherryの発現がほとんど認められなかったことから、T7プロモーターからの発現がT7RNAPに依存していることがわかる。MG1655XT7ではキシロース単独存在下でもっとも高い発現が見られた。ただし、キシロース非存在下でも多くのmCherryの発現が確認されたことから、いわゆる「basal level」での発現が高いことが示唆された。MG1655mlc*XT7、MG1655crp*XT7、MG1655ΔpgiXT7では、すべての株で、ブドウ糖とキシロース共存下でも、キシロース単独存在下とほぼ同等の発現が認められた。また、trcプロモーターに比べてT7プロモーターは高い発現量を達成できることもわかった。よって、これら変異による、CCR機構解除と高発現が想定通りできたことが示され、キシロース、ひいてはリグノセルロース系バイオマスでの発現誘導が可能になった。〔実施例6〕偽遺伝子座位へ遺伝子ノックインするためのベクター作成 実施例5までは、全て、発現させたい遺伝子(ここではmCherry)を環状プラスミドで供給してきた。しかし、有用物質生産に資する発現系を構築するためには、環状プラスミドは不適である。よって、発現させたい遺伝子を大腸菌ゲノムにノックインしなければならない。 すでに述べたように、偽遺伝子は大腸菌ゲノム内に相当数存在するが、ここではMG1655株でのノックイン先の偽遺伝子として、ybeMとyghX遺伝子座位を選択した。これは、これらがモノシストロニックで、近傍に生育に必須な遺伝子が存在しないと予想されることが理由である。近傍の遺伝子に極力影響を与えずにノックインができると考えた。MG1655mlc*XT7、MG1655crp*XT7、MG1655ΔpgiXT7のybeMかyghXにT7プロモーター-発現させたい遺伝子のカセットをノックインすれば、全く環状プラスミドを用いずに遺伝子をキシロース誘導的に発現させることができる。しかも、発現は、ブドウ糖の存在下であっても起こる。 MG1655株ゲノムを鋳型、sSN1704(cggatgcattactccggaagacggcagcaa:配列番号35)とsSN1705(tggtctagaaggcctctgcagctgtgctgatttaaccgatagatctgca:配列番号36)をオリゴヌクレオチドプライマーとして用いて、ybeM遺伝子5’領域をPCR増幅した。なお、このPCRに先立って、sSN1705はT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて5’末端をリン酸化した。この断片の末端をNsiIで処理した。一方、MG1655株ゲノムを鋳型として、sSN1706(tggctcgagggatccatgcatttgccattcaggaatcacgccgtg:配列番号37)とsSN1707(tccacatgtccgctcttcttaccacgccgat:配列番号38)をプライマーとして用いて、ybeM遺伝子3’領域をPCR増幅した。この断片の末端ををPciIで処理した。上記両断片を、pHN1234をPstIとNcoIで切断したベクター断片に同時にライゲーションし、pHN1951を得た。pHN1951を図7に示すが、このベクターのマルチプルクローニング部位に、標的遺伝子をクローニングすれば、ybeM座位に標的遺伝子をノックインすることができる。 MG1655株ゲノムを鋳型、sSN1730(aagatgcatacgcttcaggctttggtcgaggc:配列番号39)とsSN1731R(tggtctagaaggcctctgcagcaaatcaaacaacgctaatgccgtcatc:配列番号40)をオリゴヌクレオチドプライマーとして用いて、yghX遺伝子5’領域をPCR増幅した。なお、このPCRに先立って、sSN1731RはT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて5’末端をリン酸化した。の断片の末端をNsiIで処理した。一方、MG1655ゲノムを鋳型として、sSN1732(tggctcgagggatccatgcatgagaatcgtggactgaatccgtatatc:配列番号41)とsSN1733(tttacatgtcctttgccaggcaagatcggcg:配列番号42)をプライマーとして用いて、yghX遺伝子3’領域をPCR増幅した。の断片の末端をPciIで処理した。増幅した両断片を、pHN1234をPstIとNcoIで切断したベクター断片に同時にライゲーションし、pHN1975を得た。pHN1975を図8に示すが、このベクターのマルチプルクローニング部位に、標的遺伝子をクローニングすれば、yghX座位に標的遺伝子をノックインすることができる。 pHN1984からT7プロモーター-mCherry遺伝子カセットをNsiIとXhoIで切り出し、pHN1951をPstIとXhoIで切断したベクター断片にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1997と名付けた。pHN1984からT7プロモーター-mCherry遺伝子カセットをNsiIとSpeIで切り出し、pHN1975をPstIとXbaIで切断したベクター断片にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1998と名付けた。次いで、pHN1997あるいはpHN1998をMG1655mlc*XT7に導入した。その後は、実施例4に記したものと全く同じ方法で操作し、T7プロモーター-mCherry遺伝子カセットノックイン株を得た。それぞれ、MG1655mlc*XT7ybeMmChとMG1655mlc*XT7yghXmChと名付けた。 MG1655mlc*XT7ybeMmChとMG1655mlc*XT7yghXmChを1 mLのLBで一晩前培養後、うち8.3μLを新しい5 mL LBにそれぞれ植菌した。どちらも同一のものを3つ用意した。振とう培養を1.5時間行ったところで、3つのうち1つにブドウ糖を終濃度1(w/v)%、別の1つにブドウ糖終濃度1(w/v)%かつキシロース終濃度0.5(w/v)%、また別の1つにキシロース終濃度0.5(w/v)%になるように添加した。そして、全てをさらに4.5時間培養を継続した。さらに、蛍光のバックグラウンドを計算上取り除くため、これと同一の操作を、MG1655mlc*XT7を用いて並行して行った(培養はLBで、培養開始後1.5時間後にブドウ糖を終濃度1%添加したもの)。濁度あたりのmCherry蛍光強度を図9に示す。 この結果から、発現させたい遺伝子のカセット(この場合はT7プロモーター-mCherry遺伝子)をゲノム上の偽遺伝子座位にノックインしても、キシロース誘導的に、かつブドウ糖の影響を受けずに遺伝子発現させることができることがわかった。ただし、mCherry遺伝子のコピー数の影響だと想像されるが、環状プラスミドからmCherryを発現させた実験(図6)に比べると発現量が低かった。 本発明の方法により、大腸菌を用いて、プラスミド維持の必要もなく、さらに、バイオマス中のキシロースを発現誘導剤として利用し、安価な誘導型の有用物質生産システムにより有用物質を効率的に生産することができる。配列番号1、2、4〜27、29〜42 プライマー配列番号3、28 合成 大腸菌を用いてポリペプチド又はRNAを生産する方法であって、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌のゲノム中の偽遺伝子にノックインして、ポリペプチド又はRNAを発現させることを含む方法。 プロモーターがT7プロモーター、T3プロモーター及びSP6プロモーターからなる群から選択される、請求項1記載の方法。 大腸菌のゲノム中の複数の偽遺伝子中に、複数のポリペプチド又はRNAをコードするDNAがノックインされる、請求項1又は2に記載の方法。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAの複数コピーがノックインされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、yabP、yafU、yafF、lfhA、lafU、ykfJ、prfH、ykfN、ykfL、insN、afuB、insX、yagB、ykgS、yagP、ykgT、ykgP、eaeH、ykgA、ykgQ、yaiX、ykiA、ylbH、ybbD、ylbI、ylbG、ylbE、xisD、exoD、peaD、renD、nmpC、aaaD、tfaD、ybcY、tfaX、ybeM、ybfG、ybfI、ybfO、ybfQ、ybfL、efeU、ymdE、oweE、aaaE、beeE、jayE、stfE、icdC、ycgH、ycgI、insZ、ycjV、ymjC、ydaW、rzpR、ydaY、ynaA、lomR、ttcC、ydbA、gapC、insP、rhsE、yncI、yddK、ydeT、yneL、yneO、ydfJ、nohQ、intK、ydfX、ydfE、intQ、arpB、yedN、intG、yedS、yeeL、yeeH、yoeG、yoeH、yeeP、yoeD、yoeF、yegZ、gatR、yehH、yehQ、mdtQ、yejO、yfaS、yfaH、yfcU、tfaS、yfdL、oweS、yfjV、ypjI、psaA、pinH、ypjC、ygeF、pbl、ygeK、ygeN、ygeO、ygeQ、yqfE、yghE、yghF、yghO、yghX、yqiG、agaW、agaA、yhcE、yrdF、yrdE、yhdW、yzgL、yrhC、yrhA、yhiL、yhiS、bcsQ、mokA、sokA、ysaC、ysaD、yibS、yibW、yibU、yicT、glvG、glvC、ilvG、yifN、yjbI、yjdQ、ytfA、cybC、intB、yjhD、yjhE、insO、insM、yjhV、yjhY、yjhZ、yjhR、yjiP、yjiT、yjiV、fhiA、glyG、insB、insD、mbhA、molR、phnE、rph、wbbL、yaiT、ybcD、ycdN、ychG、yciX、ydeU、yedN、ygaY、yghY、yhiK、yhjQ、yjgX、yjhW、ymjB、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、ysdC、arpA、caiB、creD、cstA、dcuS、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insC、insK、mbhA、nfrB、tpr、waaT、xylG、yajB、ybeQ、ycfX、yciQ、yddE、ydhP、ydiM、ydjY、yfbL、yfdF、yfhD、yhfS、yhhl-3、yidP、yiiD、yjcC及びyjjMからなる群から選択される少なくとも1つの偽遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 用いる大腸菌株がK-12株又はその派生株である、請求項5記載の方法。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、ybeM又はyghXである、請求項5又は6に記載の方法。 さらに、キシロース誘導性プロモーター若しくはアラビノース誘導性プロモーターとT7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼを連結したDNAを大腸菌のゲノム中に導入し、キシロース又はアラビノースによりT7 RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼの発現を誘導し、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼをポリペプチド又はRNAに連結したT7プロモーター、T3プロモーター又はSP6プロモーターに作動させることを含む、請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。 T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ若しくはSP6 RNAポリメラーゼを連結したDNAを大腸菌のゲノム中のlacZYA遺伝子又は偽遺伝子中に導入する、請求項8記載の方法。 プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAの両側に、ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入しようとする偽遺伝子の部分DNA配列に相同性を有する相同組換え用アームとなるDNA断片を連結した、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に導入するための遺伝子カセット。 プロモーターがT7プロモーター、T3プロモーター及びSP6プロモーターからなる群から選択される、請求項10記載の遺伝子カセット。 ポリペプチド又はRNAをコードするDNAを複数コピー含む、請求項10又は11に記載の遺伝子カセット。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、yabP、yafU、yafF、lfhA、lafU、ykfJ、prfH、ykfN、ykfL、insN、afuB、insX、yagB、ykgS、yagP、ykgT、ykgP、eaeH、ykgA、ykgQ、yaiX、ykiA、ylbH、ybbD、ylbI、ylbG、ylbE、xisD、exoD、peaD、renD、nmpC、aaaD、tfaD、ybcY、tfaX、ybeM、ybfG、ybfI、ybfO、ybfQ、ybfL、efeU、ymdE、oweE、aaaE、beeE、jayE、stfE、icdC、ycgH、ycgI、insZ、ycjV、ymjC、ydaW、rzpR、ydaY、ynaA、lomR、ttcC、ydbA、gapC、insP、rhsE、yncI、yddK、ydeT、yneL、yneO、ydfJ、nohQ、intK、ydfX、ydfE、intQ、arpB、yedN、intG、yedS、yeeL、yeeH、yoeG、yoeH、yeeP、yoeD、yoeF、yegZ、gatR、yehH、yehQ、mdtQ、yejO、yfaS、yfaH、yfcU、tfaS、yfdL、oweS、yfjV、ypjI、psaA、pinH、ypjC、ygeF、pbl、ygeK、ygeN、ygeO、ygeQ、yqfE、yghE、yghF、yghO、yghX、yqiG、agaW、agaA、yhcE、yrdF、yrdE、yhdW、yzgL、yrhC、yrhA、yhiL、yhiS、bcsQ、mokA、sokA、ysaC、ysaD、yibS、yibW、yibU、yicT、glvG、glvC、ilvG、yifN、yjbI、yjdQ、ytfA、cybC、intB、yjhD、yjhE、insO、insM、yjhV、yjhY、yjhZ、yjhR、yjiP、yjiT、yjiV、fhiA、glyG、insB、insD、mbhA、molR、phnE、rph、wbbL、yaiT、ybcD、ycdN、ychG、yciX、ydeU、yedN、ygaY、yghY、yhiK、yhjQ、yjgX、yjhW、ymjB、yncK、ynfP、yoeA、ypaA、ypdJ、ypjM、yqaC、ysdC、arpA、caiB、creD、cstA、dcuS、fimB、fucA、gatZ、gidB、gltL、hlyE、hybO、hyfC、insC、insK、mbhA、nfrB、tpr、waaT、xylG、yajB、ybeQ、ycfX、yciQ、yddE、ydhP、ydiM、ydjY、yfbL、yfdF、yfhD、yhfS、yhhl-3、yidP、yiiD、yjcC及びyjjMからなる群から選択される少なくとも1つの偽遺伝子である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の遺伝子カセット。 大腸菌のゲノム中の偽遺伝子が、ybeM又はyghXである、請求項13記載の遺伝子カセット。 用いる大腸菌株がK-12株又はその派生株である、請求項13又は14に記載の遺伝子カセット。 請求項10〜15のいずれか1項に記載の遺伝子カセットを含む、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを導入するためのターゲティングベクター。 【課題】本発明は、大腸菌の有用物質生産に有用な、バイオマスを用いた新しい遺伝子発現方法の提供を目的とする。【解決手段】本発明は、大腸菌を用いて有用物質を生産する方法であって、プロモーターと連結したポリペプチド又はRNAをコードするDNAを大腸菌のゲノム中の偽遺伝子にノックインして、ポリペプチド又はRNAを発現させることにより課題を解決する。【選択図】なし配列表