タイトル: | 公開特許公報(A)_ホスホリパーゼA2G3を指標としたスクリーニング方法 |
出願番号: | 2013073775 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A01K 67/027,C12Q 1/44,G01N 33/15,G01N 33/50,G01N 33/573,A61P 17/00,A61P 29/00,A61P 9/10,A61P 43/00,A61P 25/00,A61P 1/04,A61P 35/00,A61K 45/00,C12Q 1/68,C12N 15/09 |
村上 誠 武富 芳隆 JP 2014197988 公開特許公報(A) 20141023 2013073775 20130329 ホスホリパーゼA2G3を指標としたスクリーニング方法 公益財団法人東京都医学総合研究所 591063394 小林 浩 100092783 大森 規雄 100120134 丸山 智裕 100181168 鈴木 康仁 100104282 村上 誠 武富 芳隆 A01K 67/027 20060101AFI20140926BHJP C12Q 1/44 20060101ALI20140926BHJP G01N 33/15 20060101ALI20140926BHJP G01N 33/50 20060101ALI20140926BHJP G01N 33/573 20060101ALI20140926BHJP A61P 17/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 29/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 9/10 20060101ALI20140926BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140926BHJP A61P 1/04 20060101ALI20140926BHJP A61P 35/00 20060101ALI20140926BHJP A61K 45/00 20060101ALI20140926BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20140926BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140926BHJP JPA01K67/027C12Q1/44G01N33/15 ZG01N33/50 ZG01N33/573 AA61P17/00A61P29/00A61P9/10 101A61P43/00 111A61P25/00A61P1/04A61P35/00A61K45/00C12Q1/68 AC12N15/00 A 16 OL 34 2G045 4B024 4B063 4C084 2G045AA28 2G045DA20 2G045FB01 2G045FB02 2G045FB03 4B024AA11 4B024BA11 4B024CA04 4B024CA20 4B024HA11 4B063QA18 4B063QQ02 4B063QQ32 4B063QQ53 4B063QR32 4B063QR55 4B063QR57 4B063QR62 4B063QR66 4B063QS25 4B063QS28 4B063QS34 4B063QX02 4B063QX07 4C084AA17 4C084NA14 4C084ZA021 4C084ZA451 4C084ZA661 4C084ZA891 4C084ZB111 4C084ZC411 本発明は、ホスホリパーゼA2G3を指標とした各種疾患治療薬のスクリーニング方法に関する。 リン脂質代謝に関わる酵素であるホスホリパーゼA2 (PLA2)は、膜リン脂質を加水分解して脂肪酸とリゾリン脂質を遊離する酵素群の総称である(図1)。この反応は従来、アラキドン酸代謝物(プロスタグランジンやロイコトリエンなど)や生理活性リゾリン脂質(リゾホスファチジン酸(LPA)、血小板活性化因子(PAF)など)などの脂質メディエーターの産生の初発段階を制御するものと考えられてきた。しかしながら、哺乳動物のゲノムには30種類以上のPLA2遺伝子がコードされており、更にいくつかのサブグループに分類されることから、それぞれのアイソザイム(分子種)が異なる機能を持つことが想定される(図2)。 分泌性PLA2 (sPLA2)ファミリーには11種類のアイソザイムが同定されており、これらのアイソザイムは、構造上の特徴からClassical sPLA2、Atypical sPLA2及びVery atypical sPLA2サブファミリーに分類される(図3)。 従来、sPLA2の関わり得る疾患として動脈硬化が指摘されてきた(図4)。PLA2G2A (IIA)、PLA2G5 (V)、PLA2G10 (X)などのClassical sPLA2はヒトの動脈硬化巣に発現しており、これらのアイソザイムがin vitroでリポタンパク質LDLのリン脂質を分解すると、動脈硬化の素因となる「マクロファージ泡沫化」が著しく促進される(非特許文献1)。更に、ヒトPLA2G2Aの遺伝子多型が心血管疾患と相関すること(非特許文献2)、PLA2G2A過剰発現マウスでは動脈硬化が増悪すること(非特許文献3)、PLA2G5欠損マウス由来骨髄移植マウスでは動脈硬化が部分的に抑制されること(非特許文献4) などが報告されている。これらの結果を受けて、Classical sPLA2を標的とした創薬が進められていたが、大規模臨床試験において有効性を見出すことができなかった。 最近、本発明者は、Classical sPLA2には病態を増悪させる方向に作用するアイソザイムと改善させる方向に作用するアイソザイムがあることを示した。したがって、「Classical sPLA2の全アイソザイムを一斉に阻害する化合物」は増悪と改善の双方をキャンセルすることが予想されるため創薬展開は難しいと考えられ、「病態増悪に関わるアイソザイムを特異的に阻害する化合物」の創薬展開へと戦略を転換する必要がある。Hanasaki K. et al., Yamada K, Yamamoto S, Ishimoto Y, Saiga A, Ono T, Ikeda M, Notoya M, Kamitani S, Arita H, Potent modification of low density lipoprotein by group X secretory phospholipase A2 is linked to macrophage foam cell formation, J Biol Chem 277, 29116 (2002)Wootton PT, Drenos F, Cooper JA, Thompson SR, Stephens JW, Hurt-Camejo E, Wiklund O, Humphries SE, Talmud PJ, Tagging-SNP haplotype analysis of the secretory PLA2IIa gene PLA2G2A shows strong association with serum levels of sPLA2IIa: results from the UDACS study, Hum Mol Genet 15, 355 (2006)Ivandic B, Castellani LW, Wang XP, Qiao JH, Mehrabian M, Navab M, Fogelman AM, Grass DS, Swanson ME, de Beer MC, de Beer F, Lusis A, Arterioscler Thromb Vasc Biol 19, 1284 (1999)Bostrom MA, Boyanovsky BB, Jordan CT, Wadsworth MP, Taatjes DJ, de Beer FC, Webb NR, Group V secretory phospholipase A2 promotes atherosclerosis: evidence from genetically altered mice, Arterioscler Thromb Vasc Biol 27, 600 (2007) 本発明は、ホスホリパーゼA2G3を指標とした各種疾患治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、PLA2G3遺伝子が欠損した動物は、動脈硬化が改善すること、多発性硬化症が改善すること、接触性皮膚炎が増悪すること、そして大腸癌が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。(1)ホスホリパーゼA2G3をコードする遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト動物からなる、接触性皮膚炎モデル動物。(2)動物がマウスである上記(1)に記載の動物。(3)上記(1)又は(2)に記載の動物に被検物質を投与することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法。(4)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法。(5)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、動脈硬化治療薬のスクリーニング方法。(6)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、多発性硬化症治療薬のスクリーニング方法。(7)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、大腸癌治療薬のスクリーニング方法。(8)非ヒト哺乳動物がマウスである上記(4)〜(7)のいずれかに記載のスクリーニング方法。 (9)被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を増加させることを特徴とする、接触性皮膚炎の治療方法。(10)被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、動脈硬化の治療方法。(11)被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、多発性硬化症の治療方法。(12)被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、大腸癌の治療方法。(13)ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む、接触性皮膚炎の治療用医薬組成物。(14)ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、動脈硬化の治療用医薬組成物。(15)ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、多発性硬化症の治療用医薬組成物。(16)ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、大腸癌の治療用医薬組成物。 本発明によりホスホリパーゼA2G3を指標とした各種疾患治療薬のスクリーニング方法が提供される。PLA2のリン脂質代謝経路を示す図である。PLA2関連分子の遺伝子を示す図である。PLA2のアイソザイムを示す図である。PLA2の関わる疾患として動脈硬化を示す図である。動脈硬化モデル動物に高コレステロール食を付加したときの動脈硬化巣の形成とPLA2G3の局在を示す図である。PLA2G3遺伝子ノックアウトマウスにおいて動脈硬化巣の形成が抑制されたことを示す図である。PLA2G3遺伝子ノックアウトマウスにおいて炎症細胞が減少したこと、並びに炎症性サイトカイン、ケモカイン及び細胞接着因子などの発現が低下したことを示す図である。PLA2G3遺伝子ノックアウトマウス由来の骨髄細胞を移植したマウスにおいて大動脈への脂肪沈着が減少したことを示す図である。HUVECに対しLPCを添加すると、炎症マーカーの発現誘導と並行してsPLA2-IIIの発現が誘導されたことを示す図である。sPLA2-IIIにより変性させたLDLで血管内皮細胞を刺激するとm-CAPNの発現が顕著に誘導されたことを示す図である。ノックアウトマウス(Pla2g3-/-)において多発性硬化症の発症プロセスが遅延することを示す図である。接触性皮膚炎モデルマウスの作製方法を示す模式図である。接触性皮膚炎の発症機序を示す模式図である。PLA2G3欠損マウスにおいて、DNFB惹起後の耳介が有意に肥厚(腫脹)したことを示す図である。抗原を捕獲した皮膚樹状細胞がどの程度所属リンパ節へ遊走したかを評価した結果を示す図である。アゾキシメタン誘発性化学発癌モデルを施行した結果、PLA2G3欠損マウスでは野生型マウスと比べて大腸及び小腸に発生した腫瘍の数が少なかったことを示す図である。アゾキシメタン誘発性化学発癌モデルを施行したPLA2G3欠損マウスにおける代表的な大腸の所見を示す図である。アゾキシメタン誘発性化学発癌モデルを施行したPLA2G3欠損マウスにおける腫瘍部位の組織像を示す図である。肺癌細部株LLCをPLA2G3欠損マウス及び野生型マウスの背部皮下に移植し、宿主側(局所環境)のPLA2G3が癌の進展にどのような影響を及ぼすかについて検討した結果を示す図である。移植24日後に皮下に形成された腫瘍を示す。肺癌細部株LLCをPLA2G3欠損マウス及び野生型マウスの背部皮下に移植し、宿主側(局所環境)のPLA2G3が癌の進展にどのような影響を及ぼすかについて検討した結果を示す図である。腫瘍の大きさの経時的変化を示す。1.概要 分泌性ホスホリパーゼA2のG3分子種(以下「PLA2G3」又は「sPLA2G3」という)は、ヒトゲノム上で高い相同性を有する分子が他に存在せず、Classical sPLA2阻害剤に非感受性である。PLA2G3はin vitroにおいてLDLを修飾してマクロファージ泡沫化を促進する活性を持ち、実際にPLA2G3を全身性に過剰発現させたトランスジェニックマウスでは動脈硬化の増悪が認められる(Sato H. et al., Analyses of group III secreted phospholipase A2 transgenic mice reveal potential participation of this enzyme in plasma lipoprotein modification, macrophage foam cell formation, and atherosclerosis, J Biol Chem 283, 33483 (2008))。したがって、内因性のPLA2G3が動脈硬化の増悪に関与することを証明できれば、このPLA2G3を分子標的とした特異性の高い新規創薬が期待できる。そこで本発明者は、PLA2G3遺伝子欠損マウスを作出し、表現型を解析した。その結果、PLA2G3が動脈硬化の進展に大きく関わることを実証した。 また、本発明者は、PLA2G3遺伝子欠損マウスでは、多発性硬化症が改善されること、及び大腸癌が抑制されることを見出した。これらの結果は、PLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質が、動脈硬化、多発性硬化症、及び大腸癌の治療に使用できることを示すものである。 そこで本発明は、動脈硬化、多発性硬化症又は大腸癌の治療薬のスクリーニング方法を提供する。 また、本発明者は、PLA2G3遺伝子欠損マウスは、接触性皮膚炎が増悪することを見出した。従って、本発明は接触性皮膚炎モデル動物を提供する。また、本発明は当該モデル動物に被検物質を投与することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法を提供する。2.遺伝子機能喪失 本発明においてノックアウトの対象となるPLA2G3遺伝子は公知である。PLA2G3遺伝子は、例えば各動物のゲノムライブラリーから得ることができる。例えば、マウスゲノムライブラリーから、目的クローンを得ることができる。 なお、PLA2G3遺伝子の塩基配列情報は、遺伝子データベースにアクセスすることで容易に知ることが可能である。 例えば、マウス、ラット及びヒトのPLA2G3(sPLA2G3)のアミノ酸配列及びPLA2G3遺伝子の塩基配列は、それぞれGenBankデータベースにおいて、所定のアクセッション番号(Accession No.)により登録されている。 マウスPLA2G3(sPLA2G3)遺伝子の塩基配列:NM_172791.2(配列番号1) ラットPLA2G3(sPLA2G3)遺伝子の塩基配列:NM_001106015.1(配列番号3) ヒトPLA2G3(sPLA2G3)遺伝子の塩基配列:NM_015715.3(配列番号5) マウスPLA2G3(sPLA2G3)のアミノ酸配列:AAH79556(配列番号2) ラットPLA2G3(sPLA2G3)のアミノ酸配列:NP_001099485.1(配列番号4) ヒトPLA2G3(sPLA2G3)のアミノ酸配列:NP_056530.2(配列番号6) 本発明のPLA2G3遺伝子の機能を喪失させたマウスは、公知の遺伝子組み換え法(ジーンターゲッティング法)により作製することができる。ジーンターゲッティング法は、ターゲティングベクターを用いるもので、当分野においては良く知られた技術であり、当分野の種々の実験書の教示に従って行うことができる。PLA2G3遺伝子のターゲティングベクターは、PLA2G3遺伝子を破壊することにより当該遺伝子の全部又は一部の機能を喪失させるものである。「全部」とあるのは、遺伝子の機能が完全に失われることを意味し、「一部」とあるのは、遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味するものである。 「喪失」とは、PLA2G3タンパク質の発現自体が行なわれないようにするか、あるいは発現してもタンパク質の活性が失われていることを意味する。 ターゲティングベクターは、相同組換えを起こさせた後の組換え体のスクリーニングが容易となるように構築することが好ましい。例えば、ターゲティングベクターにより導入した薬剤耐性遺伝子を用いたスクリーニングとサザンブロット法やPCR法を用いたスクリーニングを併用して、選抜することができる。また、ポジティブ-ネガティブ選択をするために、ベクターに薬剤耐性遺伝子又は毒素遺伝子などの選択マーカーを連結することができる。 選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択用として例えばネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子などを使用することができ、ネガティブ選択用として例えばチミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリア毒素A遺伝子などを使用することができる。 上記の方法により作製したターゲティングベクターを用いて、相同組換えを行う。「相同組換え」とは、PLA2G3遺伝子と同一又は類似の塩基配列を有する改変されたPLA2G3遺伝子を、ゲノム中のPLA2G3遺伝子のDNA領域に人工的に組換えさせることをいう。ターゲティングベクターとしては、例えば、ploxNATA-DT3 (Suzuki, N., Ohneda, O., Minegishi, N., Nishikawa, M., Ohta, T., Takahashi, S., Engel, J.D., Yamamoto, M. Combinatorial gata2 and Sca1 expression defines hematopoietic stem cells in the bone marrow niche. Proc Natl Acad Sci U S A. 103, 2202-2207, 2006)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC12,pUC13など)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpIB110,pTB5,pC194など)、酵母由来のプラスミド(例えば、pSH19,pSH15など)、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはアデノウイルスベクター、バキュロウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、ヘルペスウイルス群からのウイルス、またはEBウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。 現在確立されている遺伝子ターゲティング法では、ES細胞を使用することが望ましい。ES細胞として、TT2細胞、AB-1細胞、J1細胞、R1細胞、RENKA細胞などを適宜選択して使用することができる。これらのいずれのES細胞株を用いるかは、実験の目的や方法により適宜選択して決定することができる。 ES細胞を樹立する場合、一般には受精後3.5日目の胚盤胞を使用するが、これ以外に8細胞期胚(受精後2.5日目頃の8細胞期胚が好ましい)を採卵し胚盤胞まで培養して用いることにより効率よく多数の初期胚を取得することができる。 このように、相同組換えを起こさせるために、PLA2G3遺伝子の機能を喪失させたターゲティングベクターをES細胞中に導入する。ターゲティングベクターをES細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE-デキストラン法などを使用することができる。効率、作業の容易性などを考慮して、エレクトロポレーション法を用いることが好ましい。そしてES細胞中の目的とするゲノムDNA配列を、ターゲティングベクターの相同組換えによって置換する。3.相同組換え体のスクリーニング 次に、得られた組換えES細胞につき、相同組み換えが起こっているかどうかのスクリーニングを行う。相同組換え体をスクリーニングするために、ポジティブ-ネガティブ選別法を採用する。即ち、得られた組換えES細胞を、マイトマイシンC-処理したネオマイシン耐性などの薬剤耐性因子を初代培養細胞からなるフィーダー層上に播いた後、選択マーカーを用いて選択培養を行う。ベクターの遺伝子が組み込まれなかった細胞は、薬剤を含む培養液で培養したときに、耐性遺伝子を含まないために細胞は死ぬ。組み込みがランダムに起こった細胞では、ネガティブ選別用遺伝子が発現するために、やはり細胞は死ぬ。その結果、相同組換えを起こした細胞のみが生き残り、選別される。選択培養6〜8日目に生存するコロニーを耐性クローンとして採取する。 耐性クローンを採取し、さらに増殖させる。その後、更にスクリーニングを確実にする為にPCR法、サザンブロット法等により、目的とするPLA2G3遺伝子がターゲティングされているか否かを確認する。 PCRは、ターゲティングにより目的とするゲノムDNA領域を外来性の遺伝子により置換することができたか否かを確認するために行なうことができる。従って、PCRプライマーは、例えばターゲティングベクターの外側のゲノムDNA領域上、及びターゲティングベクターの配列のうち薬剤耐性遺伝子上から設計することができる。 サザンブロット解析の場合は、ターゲティングベクターに含まれないゲノム領域を認識する1又は2種類のプローブを設計し、ESクローンから常法にしたがってDNAを抽出する。PLA2G3ゲノムクローンを制限酵素(例えばSphI, NaeI)で処理することにより得られるゲノムDNA断片と、上記プローブとのハイブリダイゼーションを行なうことにより、PLA2G3遺伝子が破壊されたか否かを確認することができる。4.ノックアウト動物の作製 ノックアウト動物の作製は標準的な方法で行うことができる。本発明においてノックアウトするために使用される実験動物の種類は、特に限定されるものではない。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ等の実験動物を使用することができる。本発明においては、取り扱いが容易で繁殖もしやすいマウスが好ましい。以下、適宜マウスを例に説明する。 相同組換えの結果得られた組換えES細胞を、8細胞期又は胚盤胞の胚内に移植する。このES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラ動物を作製することができる。 ES細胞を胚内に移植する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公知手法を用いることができる。マウスの場合、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、それぞれ卵管または子宮から初期発生胚を回収する。回収した胚に、相同組換えを行ったES細胞を注入し、キメラ胚を作製する。 一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、その後出産させることによりキメラ動物を作製することができる。 このようなキメラマウスの中から、ES細胞移植胚由来の雄マウスを選択する。選択したES細胞移植胚由来のオスのキメラマウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統のメスマウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、ES細胞に由来するマウス(ES細胞に組み込まれたゲノムを有していたマウス)の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入されたPLA2G3遺伝子欠損ヘテロ接合体マウスを繁殖し、PLA2G3遺伝子欠損ヘテロ接合体マウスどうしを交配させると、目的とする遺伝子欠損ホモ接合体マウスとなる。 なお、ノックアウトマウスが得られたことの確認は、組織から染色体DNAを抽出しサザンブロット法で行うことができる。また、外見上の異常の有無及び解剖を行った際の諸組織-臓器の異常を観察することもできる。その他に、様々な形質を指標として用いることができるが、確認の容易さを考慮して、被毛色によることが望ましい。マウスにおいては野ネズミ色(アグーチ色)、黒色、黄土色、チョコレート色および白色などの被毛色が知られているが、使用するES細胞の由来系統を考慮して、キメラマウスと交配させるマウス系統を適宜選択することができる。さらに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解析することもできる。PLA2G3タンパク質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なってもよい。さらに、必要に応じて血液を採取し、血液検査や血清生化学検査を実施することも可能である。5.疾患モデル動物 本発明のノックアウト動物は、組織又は臓器のPLA2G3遺伝子が欠損する。そして、本発明の疾患モデル動物は以下の通り利用することができる。 本発明は、接触性皮膚炎を発症するモデル動物を提供する。従って、本発明の動物は、接触性皮膚炎を発症する実験動物として、接触性皮膚炎の発症メカニズムなどを解析するツールとして利用することができる。また、本発明の動物は、接触性皮膚炎の治療薬をスクリーニングするための動物として利用することができる。すなわち、本発明は、PLA2G3をコードする遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト動物からなる接触性皮膚炎モデル動物を提供する。 接触性皮膚炎とは、外来性の刺激物質や抗原が皮膚に接触することによって発症する湿疹性の炎症反応を指す(日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン、日皮会誌:119(9),1757‐1793,2009)。接触性皮膚炎としては、刺激性接触性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、光接触性皮膚炎(光毒性接触性皮膚炎、光アレルギー性接触性皮膚炎)、全身性接触性皮膚炎、接触性皮膚炎症候群などが挙げられる。本発明において、接触性皮膚炎としては、アレルギー性接触性皮膚炎、光アレルギー性接触性皮膚炎が好ましい。これらの接触性皮膚炎はIV型アレルギーである。 アレルギー性接触性皮膚炎は、微量の接触性アレルゲン(例えばハプテン)で生じる皮膚炎である。アレルギー性接触皮膚炎の発症には感作相(sensitization phase)と惹起相(elicitation phase)があるとされている。感作相においては、接触性アレルゲンが皮膚表面から表皮内を通過してタンパク質と結合し、アレルゲン−タンパク質結合物を形成する。このアレルゲン−タンパク質結合物を抗原提示細胞が捕獲して所属リンパ節に遊走し抗原情報をT細胞に伝えることにより、感作が成立すると考えられている。惹起相はまだ明らかにされていないことが多いが、感作が成立した個体に再びアレルゲンが接触した後、最終的にエフェクターT細胞が表皮に遊走し、再び皮膚、特に表皮内に集まり種々のサイトカインを局所に放出する。そして、活性化されたT細胞が表皮細胞を障害し、又はTNF-α により直接表皮細胞が障害され、湿疹性の組織反応が形成されアレルギー性接触皮膚炎が発症すると考えられている。ハプテンは分子量1000以下の低分子化学物質であり、それ自体は免疫応答を起こす能力を持たないが、皮膚から角質を通過してタンパク質と結合することにより、免疫原性を持ち、皮膚樹状細胞がこれを異物として認識する。 光アレルギー性接触性皮膚炎は,UVA 照射によって生じる接触性皮膚炎であり、T 細胞が媒介する。通常のアレルギー性接触皮膚炎と同様、感作相と惹起相が存在するが、UVA 照射という操作が加わらなければ発症しない。感作物質は光ハプテンであり、UV 照射がなされるとその一部が光分解され、近傍の蛋白と共有結合する。皮膚に感作物質が接触しUVA が照射されると、皮膚樹状細胞が光ハプテン修飾を受け、光抗原を担った樹状細胞は、リンパ節に移動しナイーブT 細胞を感作する。 接触性皮膚炎の刺激物質又は接触アレルゲンとしては、例えば、金属(例えばコバルト、ニッケル、クロム等)、植物(例えばサクラソウ、ウルシ等)、光ハプテン、薬剤(例えば消炎鎮痛外用薬(湿布)に含まれるインドメタシン等)、衣類(例えば樹脂加工に使用されるホルムアルデヒド等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。6.スクリーニング方法 PLA2G3遺伝子がノックアウトされた動物は、動脈硬化及び多発性硬化症が改善され、大腸癌が抑制される。すなわち、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を指標として、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療、予防又は改善薬としてスクリーニングすることができる。 従って、本発明は、被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、当該非ヒト哺乳動物又は生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬のスクリーニング方法を提供する。 また、PLA2G3遺伝子がノックアウトされた動物は、接触性皮膚炎が増悪する。すなわち、接触性皮膚炎モデル動物に被検物質を投与した場合に、接触性皮膚炎が消失、緩和又は遅延されるかを確認し、浮腫が改善すれば、被検物質は接触性皮膚炎の治療、予防又は改善薬としてスクリーニングすることができる。 従って、本発明は、接触性皮膚炎モデル動物に被検物質を投与することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法を提供する。 さらに、PLA2G3遺伝子がノックアウトされた動物は接触性皮膚炎が増悪することから、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を指標として、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質を、接触性皮膚炎の治療、予防又は改善薬としてスクリーニングすることができる。すなわち、本発明は、被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、当該非ヒト哺乳動物又は生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、接触性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法を提供する。 本発明の一態様において、以下の工程を含む、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬のスクリーニング方法を提供する。(a)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させる工程、(b)被検物質を接触させた前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量と、対照試料におけるPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量とを比較する工程、及び(c)前記比較結果を指標として、被検物質を動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬として選択する工程 また別の態様において、以下の工程を含む、接触性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法を提供する。(a)被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させる工程、(b)被検物質を接触させた前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量と、対照試料におけるPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量とを比較する工程、及び(c)前記比較結果を指標として、被検物質を接触性皮膚炎の治療薬として選択する工程 本発明において、「被検物質」とは、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現に何らかの影響を与える可能性がある物質をいい、例えば、核酸(DNA、RNA、cDNA等)及びこれを含むベクター、抗体、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液などが挙げられる。核酸としては、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンス核酸、デコイ核酸、又はアプタマーなどが挙げられる。化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら被検物質は塩を形成していてもよく、被検物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば無機酸など)や塩基(例えば有機酸など)などとの塩が用いられ、生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。 被検物質の投与方法は特に限定されるものではなく、例えば経口投与、非経口投与(注射等)などが用いられ、動物の症状、被検物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、被検物質の投与量は、投与方法、被検物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。 本発明において、「非ヒト哺乳動物」とは、ヒト以外の哺乳動物を意味し、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サルなどが挙げられる。非ヒト哺乳動物のなかでも、個体発生及び生物サイクルが比較的短く、また繁殖が容易なげっ歯動物、特にマウス又はラット等が好ましい。 また、「哺乳動物由来の生体試料」とは、哺乳動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、及び体液そのもの又はこれらを含む試料を意味し、特に限定されるものではない。ここで、「哺乳動物」には、上記非ヒト哺乳動物のほか、ヒトも含まれる。哺乳動物由来の組織としては、例えば、脳、脊髄、心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎盤、筋肉、血管、骨髄、甲状腺、胸腺、乳腺、リンパ節、血液等が挙げられる。 「哺乳動物由来の生体試料」には、上記の哺乳動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、及び体液に対し、任意の処理、例えば希釈、分離、核酸の抽出等を行うことにより得られた試料も含まれる。 哺乳動物由来の細胞には、上記組織、臓器又は体液に含まれる細胞、上記組織、臓器又は体液から単離及び培養して得られる培養細胞、哺乳動物由来の細胞株(cell line)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが含まれる。細胞には、免疫細胞、血管内皮細胞などの体細胞のほか、幹細胞も含まれる。また、培養細胞には初代培養細胞及び継代培養細胞が含まれる。 「接触」とは、非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料と被検物質とを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、非ヒト哺乳動物に被検物質を投与すること、哺乳動物由来の生体試料に被検物質を添加すること、哺乳動物由来の生体試料が細胞である場合は、当該細胞を被検物質の存在下で培養すること、及び当該細胞内に被検物質を注入することなどが挙げられる。なお、接触性皮膚炎における「接触」の意味とは異なる。 「対照試料」とは、被検物質を接触させていない非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料をいう。 PLA2G3の産生量の測定は、例えば、免疫測定法などにより行うことができる。免疫測定法としては、放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme−linked Immunosorbent assay (ELISA))、またはWestern blot法などが挙げられる。また、免疫組織化学により、PLA2G3の発現量を測定するようにしても良い。免疫組織化学としては、具体的には、酵素標識抗体法、または蛍光抗体法などが挙げられる。 PLA2G3活性の測定は、例えば、Dole法(Dole V. P., Meinertz H. Microdetermination of Long-chain Fatty Acids in Plasma and Tissues. J. Biol. Chem. 235:2595-2599, 1960)などにより行うことができる。より具体的には、放射標識リン脂質を基質として遊離される放射標識脂肪酸を液体シンチレーションカウンターで測定する(Murakami M, Shimbara S, Kambe T, Kuwata H, Winstead MV, Tischfield JA, Kudo I. The functions of five distinct mammalian phospholipase A2S in regulating arachidonic acid release. Type IIa and type V secretory phospholipase A2S are functionally redundant and act in concert with cytosolic phospholipase A2. J Biol Chem. 273, 14411-23, 1998)、あるいは市販のPLA2アッセイキット(Cayman Chemical社)を用いることによりPLA2G3の活性を測定することができる。 PLA2G3遺伝子の発現量の測定は、公知の方法、例えば、PLA2G3をコードするDNAの塩基配列に基づいて設計されたプローブ及び/又はプライマーを用いるノーザンハイブリダイゼーション、PCR法、RT-PCR法を用いて行うことができる。本発明において、「PLA2G3遺伝子」には、PLA2G3をコードするDNA、mRNA、cDNA、及びこれらを含む核酸が含まれる。 本発明では、被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を測定し、当該測定結果と、動脈硬化、多発性硬化症、大腸癌又は接触性皮膚炎の治療効果とを関連付けることができる。そして、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量における臨界値(cut-off値)を定めて、そのcut-off値以下の発現量を示す被検物質を、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬として選択することができる。他方、別途定めたcut-off値以上の発現量を示す被検物質を、接触性皮膚炎の治療薬として選択することができる。 ここで、cut-off値を決定するためのPLA2G3遺伝子の発現量は、例えば、次のように求めることができる。なお、cut-off値を決定するためのPLA2G3の産生量、PLA2G3活性についても下記と同様の手法を用いて定めることができる。 まず、PLA2G3遺伝子の発現量を抑制する物質であって、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療効果が確認されている物質(あるいはPLA2G3遺伝子の発現量を増加する物質であって、接触性皮膚炎の治療効果が確認されている物質)を、被験動物(例えば非ヒト哺乳動物)に投与し、当該被験動物由来の試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量を測定する。このとき、被験動物の例数は2例以上であり、例えば、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。また、PLA2G3遺伝子の発現量を抑制/増加する物質を投与していない被験動物由来の試料(対照試料)におけるPLA2G3遺伝子の発現量も測定しておくことが好ましい。対照試料の例数は、例えば2例以上、10例以上、50例以上、100例以上又は500例以上である。そして、PLA2G3遺伝子の発現量を抑制/増加する物質を投与した被験動物由来の生体試料群と対照試料群の両方を含む全体から、PLA2G3遺伝子の発現量のcut-off値を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、ROC(receiver operating characteristic)曲線を用いた解析等が挙げられる。 また、本発明においては、被検物質を接触させた非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量と、対照試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量とを比較し、その比較結果を指標として、被験物質を動脈硬化、多発性硬化症、大腸癌又は接触性皮膚炎の治療薬として選択することができる。 具体的には、被検物質を接触させた非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量(A)と、対照試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量(B)とを比較した結果、発現量(A)が、発現量(B)と比較して低い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上低い場合に、当該被検物質を、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬として選択することができる。他方、発現量(A)が、発現量(B)と比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上高い場合に、当該被検物質を、接触性皮膚炎の治療薬として選択することができる。 また、被検物質を接触させた非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量が、対照試料におけるPLA2G3遺伝子と比較して、統計的に有意に低い場合に、当該被検物質を、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療薬として選択することができ、また、統計的に有意に高い場合に、接触性皮膚炎の治療薬として選択することができる。統計的解析は、公知の方法、例えばT検定などを用いて行うことができる。 上記の場合、被検物質を接触させた非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料及び対照試料は、それぞれ2例以上、例えば、3例以上、5例以上、10例以上用意し、被検物質を接触させた非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量の平均値と、対照試料におけるPLA2G3遺伝子の発現量の平均値とを比較することが好ましい。7.医薬組成物 上記の通り、PLA2G3遺伝子がノックアウトされた動物では、動脈硬化及び多発性硬化症が改善され、大腸癌が抑制される。すなわち、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む医薬組成物は、動脈硬化、多発性硬化症又は大腸癌の治療又は予防のために利用することができる。 従って、本発明は、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、動脈硬化、多発性硬化症又は大腸癌の治療用医薬組成物を提供する。 また、PLA2G3遺伝子がノックアウトされた動物では、接触性皮膚炎が増悪する。すなわち、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む医薬組成物は、接触性皮膚炎の治療又は予防のために利用することができる。 従って、本発明は、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む、接触性皮膚炎の治療用医薬組成物を提供する。 本発明において、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質としては、例えば、RNA干渉に利用される核酸(マイクロRNA、shRNA、siRNA)、アンチセンス核酸、デコイ核酸、又はアプタマー、抗体などが挙げられる。これらの発現抑制物質によりPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制することが可能である。抑制の対象となるPLA2G3遺伝子の塩基配列は上記の通り公知であり、それぞれ配列情報を入手することができる。本発明において、PLA2G3遺伝子の塩基配列は配列番号1、3又は5に示すものであるが、PLA2G3のコード領域のみならず、非コード領域を対象として使用することも可能である。(2)RNA干渉 本発明においては、PLA2G3遺伝子に対するRNA干渉(RNAi)を利用して発現を抑制することができる。このようなRNAiに用いられる核酸としては、例えばsiRNA、マイクロRNA(miRNA)及びshRNAが挙げられる。 siRNA(small interfering RNA)分子は、標的となるPLA2G3遺伝子に対応する種々のRNAである。そのようなRNAとしては、mRNA、PLA2G3遺伝子の転写後修飾RNA等が挙げられる。 一般に、mRNA上の標的配列は、mRNAに対応するcDNA配列から選択することができる。但し、本発明においてはこの領域に限定されるものではない。 siRNA分子は、当分野において周知の基準に基づいて設計できる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA、TA、GA又はCAで始まる連続する15〜30塩基、好ましくは19〜25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30〜70%、好ましくは35〜55%である。 siRNAは、2本鎖部分を生成するために自身の核酸上で折り畳む一本鎖ヘアピンRNA分子として生成することができる。siRNA分子は、通常の化学合成により得ることができるが、発現ベクターを用いて生物学的に生成することも可能である。 siRNAを細胞に導入するには、合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本鎖RNAをアニールする方法などを採用することができる。 また、本発明においては、siRNAとして市販のsiRNAを使用することもできる。 さらに、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。 shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。スペーサーの長さも特に限定されるものではない。配列Aは、標的となるPLA2G3遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。 このようにして設計したshRNAは、例えば、shRNAの鋳型となるポリヌクレオチドをPCR法により増幅し、当該ポリヌクレオチドを適当なshRNA発現用ベクターに導入し、当該shRNA発現ベクターを対象となる細胞に遺伝子導入することにより、産生させることができる。 さらに、本発明は、マイクロRNAを用いてPLA2G3の発現を抑制することができる。マイクロRNA(miRNA)とは、細胞内に存在する長さ20〜25塩基ほどの1本鎖RNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(non coding RNA)の一種である。miRNAは、RNAに転写された際にプロセシングを受けて生じ、標的配列の発現を抑制するヘアピン構造を形成する核酸として存在する。 miRNAも、RNAiに基づく核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。(3)アンチセンス核酸 本発明の別の態様において、PLA2G3の発現を抑制するためにアンチセンス核酸を使用することができる。アンチセンス核酸は、PLA2G3遺伝子のmRNA又はDNA配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも14ヌクレオチドであり、好ましくは14〜100ヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、上記遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、PLA2G3遺伝子の転写又は翻訳を抑制する。 アンチセンス核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。アンチセンス核酸は、例えば、各種DNAトランスフェクション又はエレクトロポレーション等の遺伝子導入方法によりPLA2G3を発現する細胞に導入される。(4)デコイ核酸 本発明の別の態様では、デコイ核酸と呼ばれるおとり核酸を使用することにより、PLA2G3の発現を抑制することができる。 デコイ核酸は、PLA2G3遺伝子に結合してプロモーター活性を抑制することにより、PLA2G3遺伝子発現を抑制する核酸であって、転写因子の結合部位を含む短いおとり核酸を意味する。この核酸が細胞内に導入されると、転写因子がこの核酸に結合する。これにより、転写因子のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、転写因子の発現が抑制される。 本発明の好ましいデコイ核酸としては、例えばPLA2G3遺伝子のプロモーターに結合する核酸、あるいはPLA2G3のmRNAやPLA2G3の上流に存在する因子のプロモーターに結合する核酸などが挙げられる。デコイ核酸は、PLA2G3遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖又は2本鎖として設計することができる。デコイ核酸の長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、好ましくは20〜30塩基である。 デコイ核酸は、DNAでもRNAでもよく、修飾された核酸が含まれていてもよい。 本発明で用いられるデコイ核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術に一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。 なお、デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ、RT-PCR等を採用することができる。これらのアッセイを行なうためのキットも市販されている(例えばpromega dual luciferase assay kit)。(5)アプタマー さらに、本発明は、アプタマーを用いてPLA2G3の発現を抑制することができる。 アプタマーとは、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子であり、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。従って、配列番号1、3又は5で表される塩基配列を基準にして、あるいは、in vitro selection法又はSELEX法として知られている進化工学的手法により得ることができる。 核酸アプタマーは、血流中ではヌクレアーゼにより速やかに分解及び除去されるため、必要に応じてポリエチレングリコール(PEG)鎖などによる分子修飾を行って半減期を伸ばしておくことが好ましい。(6)抗体 本発明は、抗体を用いてPLA2G3の活性を抑制することができる。例えば、PLA2G3に対するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いてPLA2G3を中和することにより、PLA2G3の活性を抑制することができる。 他方、PLA2G3の産生量又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質としては、例えば、PLA2G3を発現するベクターが挙げられるが、これに限定されない。 本発明において、「治療」とは、疾患の発症後に本発明の医薬組成物を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、当該疾患の症状を軽減又は改善することを意味し、疾患の症状を完全に抑制することも含まれる。疾患の発症とは、疾患の症状が身体に現れることを意味する。 本発明において、「予防」とは、疾患の発症前に本発明の医薬組成物を被験者に接触させる(例えば、投与する)ことにより、接触させない場合に比べて、疾患の発症後の症状を軽減又は改善することを意味し、発症を完全に抑制することも含まれる。 本発明の医薬組成物は、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制/増加する物質のほか、薬学的に許容できる担体を含むことができる。「薬学的に許容できる担体」とは、免疫疾患に対する医薬組成物に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、着香料、又は甘味料を指す。 本発明の医薬組成物は、注射剤、凍結乾燥品、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、坐剤、バップ剤、軟膏剤、クリーム剤、点眼剤等の剤型をとることができる。注射剤などの液体製剤は、使用前に生理食塩水等で溶解する用時調製用粉末(例えば凍結乾燥粉末)の形態であってもよい。 本発明の医薬組成物は、当業者に既知である任意の手段によって局所的又は全身に投与することができる。本発明の医薬組成物の投与経路としては、経口投与及び非経口投与のいずれも可能であり、非経口投与の場合は、組織内投与(皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、静脈内投与など)、皮内投与、局所投与(経皮投与など)又は経直腸的に投与することができる。本発明の医薬組成物は、これらの投与経路に適した投与形態で投与することができる。 本発明の医薬組成物の投与量は、被験者の年齢、体重、健康状態、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型などの要因に応じて変化し、具体的な投与手順は当業者により設定することができる。例えば、成人には、本発明の医薬組成物を錠剤として投与する場合に0.1μg〜10 g、好ましくは1μg〜1 g、より好ましくは10μg〜100 mgを一日に1〜5回投与することができる。 投与時期は、症状に応じて適宜定めることができ、複数回分を同時に又は時間を置いて別々に投与することができる。また、本発明の医薬組成物は、疾患の発症前に被験者に投与してもよいし、疾患の発症後に投与してもよい。例えば、接触性皮膚炎においては、感作相の前若しくは後、及び/又は惹起相の前若しくは後のいずれに投与してもよい。 本発明の医薬組成物は、哺乳動物を被験者として投与することができる。被験者としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどが挙げられる。8.治療方法 本発明においては、被験者においてPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制することにより、動脈硬化及び多発性硬化症の症状を改善し、大腸癌を抑制することができる。すなわち、本発明は、被験者においてPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療、予防又は改善方法を提供する。 また、本発明の治療方法には、本発明のPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む医薬組成物を使用することができる。すなわち、本発明は、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む医薬組成物を被験者に投与する工程を含む、動脈硬化、多発性硬化症、又は大腸癌の治療、予防又は改善方法を提供する。 他方、被験者においてPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加させることにより、接触性皮膚炎の症状を改善することができる。すなわち、本発明は、被験者においてPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加することを特徴とする、接触性皮膚炎の治療、予防又は改善方法を提供する。 また、本発明の治療方法には、本発明のPLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む医薬組成物を使用することができる。すなわち、本発明は、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む医薬組成物を被験者に投与する工程を含む、接触性皮膚炎の治療、予防又は改善方法を提供する。 被験者、投与量、投与時期などの説明は上記「7.医薬組成物」の記載と同様である。 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。I.ノックアウトマウスの作製及び動脈硬化の表現型の解析1.材料と方法(1)ノックアウトマウスの作製 文献(Sato, H., et al., J Clin Invest 120, 1400-1414, 2010)に記載の方法に従った。具体的には、マウスPLA2G3のゲノム断片(エクソン1を含む5.5 kb 断片と& エキソン5, 6を含む2 kb断片)をploxNATA-DT3ベクター(Suzuki, N., Ohneda, O., Minegishi, N., Nishikawa, M., Ohta, T., Takahashi, S., Engel, J.D., Yamamoto, M. Combinatorial gata2 and Sca1 expression defines hematopoietic stem cells in the bone marrow niche. Proc Natl Acad Sci U S A 103, 2202-2207, 2006)に組み込み、エキソン2-4をNeor遺伝子で置換したターゲッティングベクターを構築した。これをHindIII(タカラ社)で処理して線状DNAとした後、エレクトロポレーション法により129SvEv系マウスのES細胞(大日本住友製薬(株))にトランスフェクションした。ネオマイシン耐性の細胞株を選別し、PCR法およびサザンブロット法により、目的とするPLA2G3遺伝子がターゲティングされていることを確認した。この細胞株をC57BL/6系マウス由来の8細胞期胚にマイクロインジェクションし、胚盤胞まで体外培養した後、仮親となるICRマウスの子宮内に移植し、キメラマウスを得た。キメラマウスをC57BL/6系マウスと交配させ、誕生したアグーチ色のマウスについてPCR法によるジェノタイピングを行うことにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認した。このPLA2G3遺伝子欠損ヘテロ接合体マウスを繁殖し、PLA2G3遺伝子欠損ヘテロ接合体マウス同士を交配させ、目的とする遺伝子欠損ホモ接合体マウスを得た。PCRジェノタイピングは、4週齢個体の尾先端部から抽出した0.1 μgのDNAに野生型マウスと欠損マウスを識別できる特異的プライマー(シグマ社)、ならびにEx Taqポリメラーゼ(タカラ社)を添加し、PCR装置(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、95oC 20秒, 60oC 20秒, 72oC 30秒を35サイクルの条件で行った。プライマー5'-TGAGTCAGCTCTCAGGAAGACAAGTCC-3' (WT-F)(配列番号7)と 5'-CCATCTTGTTCAATGGCCGATCCCA-3' (MT-R)(配列番号8)のセットにより627 bpバンドのみが検出されればホモ欠損マウス、WT-F と5'-GTGAGAGATGGTGTGGAAGCGGAAA-3' (WT-R)(配列番号9)のセットにより375 bpのバンドのみが検出されれば野生型マウス、双方が検出されればヘテロ欠損マウスと判定した。(2)動脈硬化の表現型の解析(2−1)マウス胸部大動脈におけるPLA2G3の発現 動脈硬化モデルLDLR欠損マウス(C57BL/6系)に動脈硬化誘導食F2HFD1(HCD)またはコントロール食CRF-1(Chow)(オリエンタル酵母)を12週間摂餌した後、胸部大動脈を採取した。組織は凍結切片を作製後、組織学的検討またはmRNA定量に用いた。(2−2)免疫組織化学 マウスをPBSにて全身灌流後、心臓上部から上向性胸部大動脈起始部にかけて心血管組織を摘出し、4%パラホルムアルデヒド溶液(Wako社)を用いて一晩固定した。20-30%スクロース溶液で置換を行い、O. C. T.コンパウンド(Sakura Finetek Japan社)に包埋・凍結後、クライオスタット(Thermo Fisher Scientific社)を用いて5μm厚の凍結切片を作製した。オイルレッドO染色を行う場合、60%イソプロパノール溶液で組織切片を洗浄後、3 mg/mlオイルレッドO溶液(シグマ社)に30分間インキュベートすることで脂質を染色した。免疫組織化学染色を行う場合、組織切片を1%過酸化水素/メタノール溶液で30分間インキュベートすることで内因性のペルオキシダーゼを不活性化した後、5%血清/スキムミルク溶液でブロッキングを行い、PLA2G3に対する特異抗体(クローンNov2; Sato, H., Kato, R., Isogai, Y., Saka, G., Ohtsuki, M., Taketomi, Y., Yamamoto, K., Tsutsumi, K., Yamada, J., Masuda, S., Ishikawa, Y., Kobayashi, T., Ikeda, K., Taguchi, R., Hatakeyama, S., Hara, S., Kudo, I., Itabe, H., Murakami, M. Analysis of group III secreted phospholipase A2 transgenic mice reveal potential participation of this enzyme in plasma lipoprotein modification, macrophage foam cell formation, and atherosclerosis. J Biol Chem 283, 33483-33497, 2008)を4℃一晩の条件で反応させた。PBSで組織切片を洗浄後、二次抗体を室温1時間の条件で反応させ、洗浄後、ENVISION Kit/HRP(ダコ社)を用いてDAB染色を行い、Mayer’s hematoxykin溶液(シグマ社)で対比染色を行った。蛍光免疫染色を行う場合、免疫組織化学染色と同様の操作により染色後、5μM 4’,6-diamidino-2-phenylindole(ライフテクノロジーズ社)で対比染色を行った。蛍光画像は共焦点顕微鏡(ニコン社)を用いて取得した。(2−3)定量的RT-PCRによるmRNA定量 組織をTRIzol(インビトロジェン社)中でビーズ式ホモジナイザー(ビーズクラッシャーμT-01; タイテック社)を用いて破砕した。クロロホルム抽出後、イソプロパノール沈殿を行い、トータルRNAを精製した。High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(アプライドバイオシステムズ社)を用いてRNAをcDNAに逆転写した。cDNAを鋳型として、TaqMan Gene Expression Master MixおよびTaqManプローブ/プライマーセット(TaqMan Gene Expression assay; Pla2g3 Mm01191142_m1, Pla2g1b Mm00478249_m1, Pla2g2d Mm00478250_m1, Pla2g2e Mm00478870, Pla2g2f Mm00478872, Pla2g5 Mm00448162_m1, Pla2g10 Mm00449530_m1, Pla2g12a Mm00458226_m1)、7300 Real-Time PCR System(アプライドバイオシステムズ社)を用いてTaqMan法によりPLA2G3のmRNAを定量した。PCR反応条件は、95℃ 15秒→60℃ 1分を40サイクルとした。内在性コントロールとしてGAPDH(アプライドバイオシステムズ社)を設定し、発現値はGAPDHに対する相対値として算出した。(2−4)PLA2G3欠損マウスの表現型解析 LDLR欠損マウス背景の野生型(Pla2g3+/+)とPLA2G3欠損型(Pla2g3-/-)の動脈硬化病変の程度を比較精査した。(i) 動脈硬化巣の定量:オイルレッドO染色領域を定量した。(ii) マクロファージのリクルートまたは血管平滑筋細胞の遊走の評価:マクロファージまたは血管平滑筋細胞を特異抗体を用いて免疫組織染色した。マクロファージの染色には抗マクロファージ抗体(クローンMOMA-2; セロテック社)を、血管平滑筋の染色には抗α-平滑筋アクチン抗体(クローン1A4; シグマ社)を用いた。(iii)炎症マーカーの発現定量:各種サイトカインならびケモカイン、接着因子、免疫細胞(マクロファージ, T細胞, マスト細胞)などのTaqManプローブ/プライマーセット(TaqMan Gene Expression assay; アプライドバイオシステムズ社)を用いてmRNA発現を定量的RT-PCR法により定量した。TaqMan Gene Expression assay ; Il1b Mm00434228_m1, Il6 Mm00446190_m1, Tnf Mm00443260_m1, Infg Mm01168134, Ccl2 Mm00441242_m1, Icam1 Mm00516023_m1, Vcam1 Mm01320970, Cd68 Mm03047340_m1, Cd3e Mm01179194_m1, Mcpt4 Mm00487645_m1(iv)骨髄移植モデルによる責任細胞の同定:LDLR欠損背景のPla2g3+/+またはPla2g3-/-マウスをドナーマウス、LDLR欠損背景のPla2g3+/+マウスをレシピエントマウスとした。照射用X線発生装置(M-150WE; SOFTEX)によりあらかじめ10.4 GyのX線を照射しておいたレシピエントマウス尾静脈からドナーマウスの骨髄細胞を移植し、5週間かけて骨髄キメマウスを作出した。骨髄キメラマウスにF2HFD1を12週間負荷し、動脈硬化を評価した。2.結果 動脈硬化モデル動物であるLDLR欠損マウスに高コレステロール食 (HCD; high-cholesterol diet)を負荷すると、通常食負荷群(Chow)と比較して、脂肪沈着を示すOil red O陽性の動脈硬化巣の形成が促進された(図5)。この大動脈硬化サンプルにおけるsPLA2分子群の発現を定量的PCRで調べたところ、複数のアイソザイム(PLA2G2D, PLA2G2E, PLA2G5, PLA2G3, PLA2G12A)の強い発現増加が認められた。動脈硬化巣を抗PLA2G3抗体ならびに各種細胞マーカー抗体で染色した結果、PLA2G3はCD31陽性血管内皮細胞ならびに浸潤免疫細胞に発現していることがわかった。 そこで、PLA2G3欠損マウスをLDLR欠損マウスと交配した後にHCDを負荷し、動脈硬化の進展におけるPLA2G3欠損の影響を検討した。その結果、大動脈の縦切り断面ならびに輪切り断面の双方の評価により、PLA2G3欠損マウス(-/-)では対照マウス(+/+)と比較してOil red O陽性の動脈硬化巣の形成が顕著に抑制されることがわかった(図6)。 PLA2G3欠損マウスでは、動脈硬化の指標となる平滑筋(αSMA陽性細胞)やマクロファージ(αMOMA2陽性細胞)の遊走が明らかに減少していた。動脈硬化は大動脈の慢性炎症としての側面があることから、大動脈病巣における各種炎症マーカーの発現を検討した結果、PLA2G3欠損マウスでは炎症細胞や炎症性サイトカイン・ケモカイン、細胞接着因子など発現が顕著に低下していた(図7)。動脈硬化においてはm-カルパイン(m-CAPN)の発現が増加して血管内皮細胞のアドヘレンスジャンクションを分解するが、PLA2G3欠損マウスではm-CAPNの発現増加が観察されなかった。また、動脈硬化との関連が指摘されている他のsPLA2 (PLA2G5)の発現の増加についてもPLA2G3欠損マウスでは認められなかった。以上の結果から、PLA2G3欠損マウスでは動脈硬化の進展が顕著に抑制されることが明らかとなった。 PLA2G3は免疫細胞と血管内皮細胞の双方に発現している。そこで、骨髄移植の手法により免疫細胞に発現しているPLA2G3の動脈硬化への寄与を調べた。野生型ならびにPLA2G3欠損マウスより調整した骨髄細胞を、予めX線照射したLDLR欠損マウスに移植再構成し、骨髄由来細胞特異的PLA2G3欠損マウスを作出した。これにHCDを負荷して動脈硬化の進展を検討した結果、大動脈への脂肪沈着が対照群と比較して有意に減少した(図8)。したがって、骨髄由来の何らかの免疫細胞に発現しているPLA2G3が動脈硬化の進展に関わるものと考えられた。 以上の解析結果から、PLA2G3が動脈硬化の病態増悪に関わる新規因子であることが明らかとなった。本発明者が見出したPLA2G3欠損における動脈硬化抑制の表現型は、従来報告されてきたClassical sPLA2欠損マウスにおける動脈硬化抑制よりも遥かに強力であり、これまでにPLA2G3を特異的に阻害する化合物は知られていないことを考えあわせると、PLA2G3は動脈硬化の新規創薬標的としての資格を備えているといえる。II.培養血管内皮細胞における検討1.材料と方法 ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECs(LONZA社)にリゾホスファチジルコリン(LPC; Avanti Polar lipids社)を添加し、4時間後の細胞を回収した。コントロール(Ctrl)としてエタノールを添加した。PLA2G3の発現は上述と同様の定量的RT-PCRシステムにより解析した。TaqMan Gene Expression Assay; PLA2G3 Hs00210447_m1, PLA2G1B Hs00386701_m1, PLA2G2A Hs00179898_m1, PLA2G2D Hs01572940_m1, PLA2G2E Hs01573049_g1, PLA2G2F Hs00224482_m1, PLA2G5 Hs00173472_m1, PLA2G10 Hs00358567_m1, PLA2G12A Hs00913513_m1 PLA2G3添加によるカルパイン(CAPN)の発現検討は、以下の文献に準じて行った。 Miyazaki, T., Taketomi, Y., Takimoto, M., Lei, X.F., Arita, S., Kim-Kanayama, J.R., Arata, S., Ohata, H., Ota, H., Murakami, M., Miyazaaki, A. m-Calpain induction in vascular endothelial cells on human and mouse atheromas and its roles in VE-cadherin disorganization and atherosclerosis. Circulation 124, 2522-2532, 2011)。(1)LDLの調製 ヒト血清を4℃, 36,000 rpmで20時間遠心し、分離したLDL画分を回収した。臭化カリウム溶液を用いてLDL溶液の比重を1.063に調整後、再び4℃, 36,000 rpmで20時間遠心した。LDL画分を回収し、必要に応じて限外濾過により濃縮した。EDTA含有生理食塩水で3回透析し、溶液中の臭化カリウムを除いた。(2)酸化LDLの調製 LDLをPBSで3回透析し、溶液中のEDTA除いた。LDLの濃度を0.1 mg/mlに調整後、硫酸銅を5μMとなるように添加し、37℃の好気条件下で24時間インキュベートした。反応後、反応液にEDTAを1 mMとなるように加え反応を停止した。EDTA溶液で透析を行い、酸化LDL溶液中の硫酸銅を除いた。(3)PLA2G3リコンビナンタンパク質による変性LDLの調製 ヒト血清より単離したLDL(0.5 mg/ml)にPLA2G3リコンビナントタンパク質(1μg/ml)を添加し、37℃の条件下で16時間インキュベートした。ホスファチジルコリンの代謝産物であるLPCをLPC assay kit(Azwell社)を用い定量し、酵素反応の効率を確認した。なお、PLA2G3タンパク質は以下の論文に準じて精製したものを用いた(Sato H. et al., Analyses of group III secreted phospholipase A2 transgenic mice reveal potential participation of this enzyme in plasma lipoprotein modification, macrophage foam cell formation, and atherosclerosis, J Biol Chem 283, 33483 (2008))。(4)変性LDLによるHUVECsの刺激およびイムノブロットによるカルパインの検出 酸化LDL(0.1 mg/ml)または5倍希釈したPLA2G3-modified LDL反応液をHUVECsに添加し、1時間刺激した。反応後、細胞ライゼートをSDS-PAGEにかけた。ニトロセルロース膜に転写後、2%カゼイン溶液でブロッキングし、抗μ-CAPN抗体または抗m-CAPN抗体、抗β-アクチン抗体(総てシグマ社)でイムノブロットを行った。洗浄後、HRP標識2次抗体を反応させ、ECL試薬(セルシグナリングテクノロジー社)を用いてシグナルを検出した。2.結果 HUVECに対し、PLA2の代謝産物であるLPCを添加すると、炎症マーカーの発現誘導と並行してsPLA2-IIIの発現が誘導された(図9)。なお、LDLにsPLA2が作用すると、LDL中のリン脂質が加水分解されてLPCが生じる。このsPLA2の作用を受けたLDLをsPLA2-modified LDLと呼び、変性LDLのひとつである。 また、血管内皮細胞をsPLA2-III単独やLDL単独で刺激してもm-CAPNの発現は影響を殆ど受けないが、LDLをsPLA2-IIIにより変性させるとm-CAPNの発現が顕著に誘導された。またこの時、内皮細胞にsPLA2-IIIの発現も誘導された(図10)。図10において、「oxLDL」はoxidized (酸化)LDLを意味する。これはLDLのリン脂質が酸化を受けたもので、代表的な変性LDLである。 この結果は、sPLA2-IIIが、変性LDL依存的に動脈硬化促進性m-CAPNの発現を亢進させることを示す。すなわち、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現(以下「PLA2G3遺伝子の発現等」ともいう)を抑制すれば、sPLA2-III(sPLA2G3)によるLDL変性は抑制され、動脈硬化を促進するm-CAPNの発現も抑制される。 従って、in vitroにおいても、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制することにより動脈硬化を抑制できることが示された。 以上、本実施例により、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制することにより、動脈硬化を治療できることが示された。また、PLA2G3遺伝子の発現量等を測定し、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を、動脈硬化治療薬としてスクリーニングできることが示された。さらに、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を含む医薬組成物は動脈硬化の治療のために使用できることが示された。 多発性硬化症改善モデルマウス1.表現型の解析(1)MOGの調製 ミエリン蛋白MOG/PBS溶液(MOG35-55; Guo, X., Nakamura, K., Kohyama, K., Harada, C., Behanna, H.A., Watterson, D.M., Matsumoto, Y., Harada, T. Inhibition of glial cell activation ameliorates the severity of experimental autoimmune encephalomyelitis. Neurosci Res 59, 457-466, 2007)とフロインド完全アジュバンド(PIERCE社)を等量混合し、エマルジョン調製を行った。(2)実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル Pla2g3+/+またはPla2g3-/-マウスの足蹠皮下に上記MOGを1回だけ免疫し、当日と2日後に百日咳毒素(化血研)を静脈内に投与した。その後、EAEの症状を観察し、症状の程度を臨床スコア(10段階評価; 上記文献に準ずる)で表示した。2.結果 結果を図11に示す。 本発明のノックアウトマウス(Pla2g3-/-)は多発性硬化症の発症プロセスが遅延することが示された。 この結果から、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制することにより、多発性硬化症を治療できることが示された。また、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を測定し、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を、多発性硬化症治療薬としてスクリーニングできることが示された。さらに、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を含む医薬組成物は多発性硬化症の治療のために使用できることが示された。 接触性皮膚炎モデルマウス(1)抗原の感作及び接触性皮膚炎の惹起 ハプテン抗原である2,4-ジニトロフルオロベンゼン(DNFB; シグマ社)を本発明のノックアウトマウス(Pla2g3-/-)(以下「PLA2G3欠損マウス」ともいう)の腹部に塗布し(0.5%(v/v))、5日後に耳にDNFB (0.3%(v/v)) を塗布することで炎症を惹起させ、接触性皮膚炎モデルマウスを作製した(図12)。炎症の評価は、惹起後の耳の肥厚を測定することにより行った。 接触性皮膚炎の発症は、皮膚樹状細胞が抗原を捕獲し、所属リンパ節へと遊走するステップから始まる(図13)。そこで、樹状細胞の遊走がsPLA2G3の欠損によりどのように影響を受けているかについて検討を行った。具体的には、蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネートFITC(アセトン/ジブチルフタル酸(1:1)溶液として2%)(Fluka Analytical)を腹部に塗り、24時間後、鼠径および腋窩リンパ節を回収し、FITCを取り込んだ皮膚樹状細胞が所属リンパ節にどの程度遊走したかについて、フローサイトメトリー(BD社)により解析を行った。樹状細胞はCD11c陽性MHCII陽性細胞として特徴づけられる。抗マウスCD11c抗体(クローンN418)および抗マウスMHCII抗体(クローンM5/114.15.2)(ともにeBioscience社)を用いた。(2)結果 DNFB惹起後の耳の肥厚を経時的に測定したところ、PLA2G3欠損マウスでは野性型マウスと比べて大きく増悪した。図14は、12時間後の炎症誘発時の耳介厚、及びその時点における耳の組織像を示す(ヘマトシリン・エオシン染色)。この結果からPLA2G3の欠損マウスにおいて、耳介が有意に肥厚(腫脹)していることが示された(図14)。 また、抗原を捕獲した皮膚樹状細胞がどの程度所属リンパ節へ遊走したかを評価した結果、CD11c陽性細胞(樹状細胞)のうち、FITCを捉えてリンパ節に遊走した樹状細胞は、野生型マウスと比較してPLA2G3欠損マウスでは有意に亢進していた。さらに、樹状細胞活性化の指標であるMHCII陽性の樹状細胞もまた、欠損マウスでは増加していた(図15)。 これらの結果から、本実施例において、PLA2G3をコードする遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト動物からなる接触性皮膚炎モデル動物が得られたことが示された。また、当該接触性皮膚炎モデル動物に被検物質を投与し、接触性皮膚炎を抑制する物質を接触性皮膚炎の治療薬としてスクリーニングできることが示された。さらに、PLA2G3遺伝子の発現等を増加させることにより、接触性皮膚炎を治療できることが示された。また、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を測定し、PLA2G3遺伝子の発現等を増加する物質を、接触性皮膚炎治療薬としてスクリーニングできることが示された。さらに、PLA2G3遺伝子の発現等を増加する物質を含む医薬組成物は接触性皮膚炎の治療のために使用できることが示された。 大腸癌抑制モデルマウス(1)表現型の解析 アゾキシメタン誘発性化学発癌モデルによる検討:Pla2g3+/+またはPla2g3-/-マウスの腹腔にアゾキシメタン(0.25 mg; Wako社)を週に1回6週間投与し、30週間経過観察した。30週間後、開腹し、腸管を摘出し、大腸および小腸に生じた癌病変の程度を両者の間で比較精査した。摘出した癌組織は10%中性ホルマリン緩衝液(Wako社)で固定し、ヘマトキシリン・エオジン染色により組織所見を観察した。癌細胞移植モデルによる検討:Pla2g3+/+またはPla2g3-/-マウスの背部皮下にルイス肺癌LLC細胞を移植し、癌細胞の増殖を経時的に観察した。(2)結果 結果を図16〜20に示す。 アゾキシメタン誘発性化学発癌モデルを施行した結果、PLA2G3欠損マウスでは野生型マウスと比べて大腸及び小腸に発生した腫瘍の数が少なかった(図16)。この時の代表的な大腸の所見を図17に(矢印は腫瘍)、腫瘍部位の組織像を図18に示しており、PLA2G3欠損マウスでは明らかに腫瘍が小さいことがわかる。 次に、肺癌細部株LLCをPLA2G3欠損マウス及び野生型マウスの背部皮下に移植し、宿主側(局所環境)のPLA2G3が癌の進展にどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、移植24日後に皮下に形成された腫瘤は欠損マウスの方が小さく(図19)、経時的にも腫瘍の増殖が遅いことが確認された(図20)。 これらの結果から、本発明のノックアウトマウス(Pla2g3-/-)では大腸癌の発症や進行が抑制されることがわかった。 この結果から、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制することにより、大腸癌を治療できることが示された。また、PLA2G3の産生量、PLA2G3活性又はPLA2G3遺伝子の発現量を測定し、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を、大腸癌治療薬としてスクリーニングできることが示された。さらに、PLA2G3遺伝子の発現等を抑制する物質を含む医薬組成物は大腸癌の治療のために使用できることが示された。 配列番号7:合成DNA 配列番号8:合成DNA 配列番号9:合成DNA ホスホリパーゼA2G3をコードする遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト動物からなる、接触性皮膚炎モデル動物。 動物がマウスである請求項1に記載の動物。 請求項1又は2に記載の動物に被検物質を投与することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法。 被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法。 被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、動脈硬化治療薬のスクリーニング方法。 被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、多発性硬化症治療薬のスクリーニング方法。 被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させ、前記非ヒト哺乳動物又は前記生体試料におけるホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現量を測定することを特徴とする、大腸癌治療薬のスクリーニング方法。 非ヒト哺乳動物がマウスである請求項4〜7のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。 被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を増加させることを特徴とする、接触性皮膚炎の治療方法。 被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、動脈硬化の治療方法。 被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、多発性硬化症の治療方法。 被験者においてホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、大腸癌の治療方法。 ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を増加する物質を含む、接触性皮膚炎の治療用医薬組成物。 ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、動脈硬化の治療用医薬組成物。 ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、多発性硬化症の治療用医薬組成物。 ホスホリパーゼA2G3の産生量、ホスホリパーゼA2G3活性又はホスホリパーゼA2G3遺伝子の発現を抑制する物質を含む、大腸癌の治療用医薬組成物。 【課題】ホスホリパーゼA2G3を指標とした各種疾患治療薬のスクリーニング方法の提供。【解決手段】ホスホリパーゼA2G3をコードする遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト動物からなる、接触性皮膚炎モデル動物。並びに、前記モデル動物に被検物質を投与することを含む、接触性皮膚炎治療薬のスクリーニング方法。または、被検物質を非ヒト哺乳動物又は哺乳動物由来の生体試料に接触させる工程を含む、ホスホリパーゼA2G3を指標とした各種疾患治療薬のスクリーニング方法。【選択図】なし配列表