タイトル: | 公開特許公報(A)_海馬神経の新生促進剤 |
出願番号: | 2013069678 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/685,A61P 43/00,A61P 25/00,A61P 25/28 |
山崎 いづみ 片岡 洋祐 JP 2014189549 公開特許公報(A) 20141006 2013069678 20130328 海馬神経の新生促進剤 株式会社ファンケル 593106918 長谷部 善太郎 100122954 山田 泰之 100162396 山崎 いづみ 片岡 洋祐 A61K 31/685 20060101AFI20140909BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140909BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140909BHJP A61P 25/28 20060101ALI20140909BHJP JPA61K31/685A61P43/00 111A61P25/00A61P25/28 1 3 OL 9 4C086 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA34 4C086MA01 4C086MA04 4C086ZA01 4C086ZA16 4C086ZC41 本発明は、海馬神経の新生をもたらす剤に関する。 成熟した哺乳動物では、一般に神経細胞は分裂能を持っていない特殊な細胞からなる組織である。そのため一旦傷害を受けると長期にわたって障害が続く。特に脳や脊髄といった中枢神経系では全く再生能がないと言われてきた。 外因性の傷害による脊髄損傷に代表される不随やアルツハイマー病、パーキンソン病といった神経変性疾患に対する治療方法がないことも、中枢神経における再生能が無いことが一つの原因である。一方で、末梢神経は再生能を有しており、一旦切断された後も軸索が再生し機能が回復する。しかしこの場合にも再生に要する期間は数ヶ月から1年以上と長期間を要する。このため、患者にとっての苦痛は大きい。 また神経の再生に長期間を要するために、その間に神経細胞が死滅し機能回復に至らない場合も多い。このように再生能を有する末梢神経の場合も、脳や脊髄といった中枢神経系の環境では全く伸長することはできない。そのため、中枢神経系には神経の伸長を阻止する物質が存在していることが推測されている。この中枢神経系に存在する神経再生阻害物質を抗体などで抑制すると、中枢で一部の神経再生が起こり、機能の回復も見られる。最近、この中枢神経再生阻害因子としてNogoが発見された(非特許文献1:Nature 403,434,2000、非特許文献2:Nature 403,439,2000)。しかし、Nogoを抑制することによって再生する神経線維は一部であり、他の再生阻害物質が存在するのではないかと考えられているが、インビボで神経の再生阻害に働いている因子の一つとしてセフォマリンも推定されている(非特許文献3:Cell 75,217,1993、非特許文献4:Cell 75,1389,1993)が、これまで明らかにされていない。 近年、アルツハイマー病などの認知症治療薬である塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)が、海馬内のインシュリン様成長因子(IGF)を介して海馬神経を再生させることが発見された(非特許文献5:CLINICIAN、2009、No.583、1077-1085)。このような知見が積み重なることによって再生困難とされてきた中枢神経を新生や再生する薬剤や物質の探索が進められている。特許文献1(特表2012−508254号公報)にはαアゴニストを投与することで中枢神経再生を促進する方法が提案されている。また特許文献2(特表2011−511621号公報)にはCREB経路を活性化させて神経系を活性化させるために、その遺伝子の上流域にあるマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ伝達経路及びタンパク質キナーゼを活性化させる技術が提案されている。また特許文献3(特表2006−514630号公報)には、神経細胞内のcAMPレベルを上昇させることによって中枢神経系の発生を促進する方法が提案されている。 これらの先行技術はいまだ具体化されておらず、中枢神経系特に認知症に係わる海馬神経系の再生や新生を促進する薬剤や物質が希求されている。特表2012−508254号公報特表2011−511621号公報特表2006−514630号公報Nature 403、434、2000Nature 403、439、2000Cell 75、217、1993Cell 75、1389、1993CLINICIAN、No.583、1077-1085、2009 本発明は、海馬神経の新生を促進する剤を提供することを課題とする。 本発明者らは、神経系の保護作用と神経伝達に関与することが知られているホスファチジルセリンに着目して試験した結果、ホスファチジルセリンが海馬の神経系を新生することを知見したことに基づき、本発明を提案する。 すなわち、本発明は、(1)ホスファチジルセリンを有効成分とする海馬神経新生促進剤に関する。 本発明は、新たな海馬神経新生促進剤を提供することができる。さらにまた本発明は海馬の萎縮に伴って発生する知的障害や疾患の予防、治療剤とすることができる。本発明の剤が作用する海馬部位の模式図である。図の下部が拡大図である。図中顆粒細胞層の細胞が分裂し神経新生をもたらす。本発明の剤を投与した動物の海馬切片の顕微鏡観察図である。図中の抗BrdU抗体で染色された細胞が分裂していることを示す。海馬体積あたりのBrdU陽性細胞数(分裂細胞数)を示す。グラフ中ホスファチジルセリンはPSと略記した。海馬歯状回門(湾曲部)の長さあたりのBrdU陽性細胞数(分裂細胞数)を示す。グラフ中ホスファチジルセリンはPSと略記した。 ホスファチジルセリンは細胞膜の構成成分であるグリセロリン脂質の一種で、グリセロール骨格に2つの脂肪酸基とリン酸基、セリン基を持つ両親媒性の物質である。ホスファチジルセリンには天然物由来のものと合成されているものがある。天然物由来のものは、牛脳、骨髄、大豆、乳などから抽出される。合成される場合は、ホスファチジルコリンいわゆるレシチンから塩基交換反応によって作られる。 本発明に関わるホスファチジルセリンは動植物の高含有組織、例えば脳などから抽出してもよいし、微生物産生によって得ることもできる。また塩基交換反応あるいは他の化学的方法で合成してもよい。 特に本発明に使用するホスファチジルセリンとしては、大豆レシチンから抽出したものや卵黄由来ホスファチジルセリンが好ましい。卵黄由来のホスファチジルセリンとしては、卵黄に含まれるグリセロリン脂質にセリンを加え、塩基交換により合成し得られたものであってもよい。 本発明の海馬神経新生又は再生促進剤を製造するには、上記の方法で製造したホスファチジルセリンを用いることができ、常法に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。本発明に関する海馬神経新生促進剤は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられ、非経口投与剤としては注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。 医薬用担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。本発明に関わる神経新生促進剤において、卵黄由来ホスファチジルセリンの投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択・決定されるが、例えば一日あたり0.01mg/kg〜1000mg/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。 また、本発明に関わるホスファチジルセリンは、食経験も豊富なことから安全性が高いと考えられ、海馬神経新生又は再生促進剤としてあるいは認知症やうつ病の予防あるいは治療効果を目的として、機能性食品として摂取することもできる。本発明に関わるホスファチジルセリンを含有することを特徴とする機能性食品は、特定保健用食品、栄養機能性食品、又は健康食品として位置づけることができる。機能性食品としては、例えば、ホスファチジルセリンに適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。この機能性食品は、そのまま食用に供してもよく、また種々の食品(例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、チョコレートなど)に添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲料に添加して使用してもよい。かかる食品の形態における本発明の卵黄由来ホスファチジルセリンの摂取量は、対象の年齢、体重、症状、摂取スケジュール、製剤形態などにより、適宜選択・決定されるが、例えば一日あたり0.01mg/kg〜1000mg/kg体重程度とされる。 以下に実施例、試験例を示し、本発明をさらに説明する。<海馬神経新生試験例>1.動物種、系統、及び性別 ラット,Slc:SD、雄2.週齢 投与開始時:9週齢3.馴化 入荷時に種、系統、週齢、動物数及び性別を確認し、一般状態および外観を観察するとともに体重を測定した。馴化期間は7日間とした。4.群分け 投与開始前日に体重を測定し1群6匹に群分けした。5.個体識別方法 個体識別は尾部に番号を記すことで行った。群分け後の動物は3匹ずつケージに収容し、群、動物番号および個体識別番号を明記したラベルをケージ前面に付けた。6.飼育環境 設定温度:23℃(許容範囲21〜25℃)、設定湿度:55%(許容範囲40〜70%)、照明:午前6時点灯、午後6時消灯の12時間、換気回数:17回/時に維持された動物飼育室コンベショナル区域内の飼育室で動物を飼育した。動物はTPX製エコンケージを用いて飼育し、床敷はパルソフト(オリエンタル酵母工業株式会社)を使用して週に1回以上の頻度で交換した。7.飼料 対照群はAIN93M固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社)、試験群はホスファチジルセリンをAIN93Mに混合した固形飼料(αコーンスターチと置換;オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れて自由に摂取させた。8.飲料水 5μカートリッジフィルターを通過させた塩酸水(pH:4〜6)を給水瓶で与えた。9.投与量 ホスファチジルセリンは、えさ中に0.1質量%を混入した。ラット体重300g、1日摂餌量15gとして投与量を設定した。10.体重・摂餌量測定 投与期間中、週に2〜3回、体重および摂餌量の測定を行った。11.神経新生確認方法 Bromo‐2'‐deoxyuridine (BrdU)の投与によって神経新生の確認を行った。BrdUはDNA合成のときチミジンのアナログとして取り込まれる。BrdUを取り込んだDNA(細胞核)は、DNAに取り込まれたBrdUに特異的な抗体で検出することができ、これを使うと分裂期(S期)の細胞核をラベルできる。すなわち投与時間を制限してBrdUを投与すれば、その期間にS期にあった細胞を検出できる(pulse labelling)。 次に示す灌流操作の5日前から1日1回5日間,新生細胞(分裂)マーカーであるBrdU(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を50mg/10mL/kg腹腔内投与した。投与は午前9時から12時の間に行った。12.採血、灌流および臓器摘出 PBS(-)を用いて,心臓から全身灌流を行った。その後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(4%PFA; 和光純薬工業株式会社)にて灌流固定を行い、脳を摘出した。4%PFAに一晩浸漬後(4℃)、15%スクロース溶液に置き換え、さらに一晩浸漬後(4℃)、30%スクロース溶液に置換え保存した。12.凍結切片の作製および切出 スクロース保存した脳を凍結し、クライオミクロトームを用いて凍結切片(30μm)を作製した。切出した脳切片は、0.1%アジ化ナトリウムPBSに浸漬し、4℃で保存した。13.免疫組織染色 切出した脳切片を6枚取出し、免疫組織染色に供した。染色方法は酵素抗体法(DAB染色)を用いた。14.試薬および試薬の調製PBST0.1M Phosphate buffer(37244-35; ナカライテスク) 1000mLNaCl 90g10% Triton 300mLDiluted water 10LNormal rabbit serum(S-5000, Vector)200倍の濃度になるようPBSTに希釈した(Blocking)。Rat anti BrdU(OBT0030S; AbD serotec)100倍の濃度になるようPBSTに希釈した(一次抗体)。Biotynylated anti-rat IgG(BA-4001; Vector labolatories)200倍の濃度になるようPBSTに希釈した(二次抗体)。AB Reagent VECTASTAIN(R) standard kit(PK-4000, 株式会社フナコシ)用時調製とし、反応開始の30分前に準備した。10mL PBSTにA液およびB液を1滴ずつ添加した(AB反応)。DAB Tris tablet, pH7.6(047-27011; 和光純薬工業株式会社)用時調製とした。反応開始の1時間前に10mL PBSTに対してDAB tabletを2錠入れ、反応直前にH2O2を0.01%となるよう添加した。15.DAB染色 以下の方法でDAB染色を行う。 反応時間 温度2N HCl 45min 37℃0.1M Boric acid (pH8.5) 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTSoaking 1% H2O2 in PBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTBlocking 30min RT一次抗体 Overnight 4℃ PBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RT二次抗体 3h RTPBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTAB反応 1h RTPBST 10min RTPBST 10min RTPBST 10min RTDAB反応 11min RTPBST RT: room temperature16.マウントおよび封入 MASコートされたスライドガラス(スーパーフロスト,S0944; 松浪硝子株式会社)に脳切片を6枚のせ、一晩置いて乾燥させた。次いで以下の方法で脱水・脱脂を行い、封入剤を数滴たらしカバーガラスで封入した。70% EtOH 2min80% EtOH 2min90% EtOH 2min95% EtOH 2min99. 5% EtOH 5min99. 5% EtOH 5min99. 5% EtOH 5min100% EtOH 10min100% EtOH 10minティッシュクリア 15minティッシュクリア 15minティッシュクリア 15minキシレン ∞(封入まで)17.神経新生促進作用の評価 上記方法で免疫組織染色を行った後、実体顕微鏡下で図1に示す歯状回顆粒層下帯に存在するBrdU陽性細胞の数をそれぞれカウントした。歯状回の面積(図1の 枠内の面積および湾曲部の長さ)をImage J(NIH, Ver.1.63)を用いて算出した。面積から体積を求め、歯状回体積または長さ当たりのBrdU陽性細胞の数(図2の矢印の数)を求めた。 対照群(非投与郡)に比べBrdU陽性細胞数が有意に多い場合を、神経新生促進作用を有するものと評価した。18.統計解析 結果はすべて平均値±標準誤差で示した。対照群との比較はDunnett’s testを用い、いずれも両側検定で有意水準は5%とした。<結果および評価> 図3に体積換算、図4に長さ換算したBrdU陽性細胞数の結果を示した。いずれの換算結果もホスファチジルセリン投与群は対照群よりも有意なBrdU陽性細胞数の増加が認められた。したがってホスファチジルセリンは海馬神経の新生作用を有することが判明した。 ホスファチジルセリンを有効成分とする海馬神経新生促進剤。 【課題】海馬神経新生又は再生促進剤を提供する。【解決手段】ホスファチジルセリンを有効成分とする海馬神経新生又は再生促進剤。【選択図】図3