生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_グルコース濃度の定量法及びその装置
出願番号:2013060697
年次:2014
IPC分類:A61B 5/1455,G01N 21/359


特許情報キャッシュ

丸尾 勝彦 JP 2014183971 公開特許公報(A) 20141002 2013060697 20130322 グルコース濃度の定量法及びその装置 パナソニックヘルスケア株式会社 592031097 西川 惠清 100087767 水尻 勝久 100155745 北出 英敏 100161883 木村 豊 100162248 丸尾 勝彦 A61B 5/1455 20060101AFI20140905BHJP G01N 21/359 20140101ALI20140905BHJP JPA61B5/14 322G01N21/35 107 8 1 OL 14 2G059 4C038 2G059AA01 2G059BB12 2G059CC16 2G059EE01 2G059EE02 2G059EE12 2G059HH01 2G059HH06 2G059JJ17 2G059MM01 4C038KK10 4C038KL05 4C038KL07 本発明は、生体組織に照射した近赤外光の拡散反射光あるいは透過光から生体の血糖値の代用特性としてのグルコース濃度を定量するグルコース濃度の定量法及びその装置に関するものである。 定量定性分析の分光測定の分野において、複数の成分が夫々有している吸光特性に由来する多数のピークを備えた複合スペクトルから各成分のコンポーネントスペクトルに分離することについて、カーブフィッティング法が知られている(特許文献1参照)。 このカーブフィッティング法は、赤外スペクトルのように、各成分の特異吸収波長における吸収ピークが急峻で明確な場合は多用されているが、近赤外スペクトルにおいては、ヘモグロビン濃度測定に用いる例が特許文献2に示されているぐらいで、グルコース濃度の定量に用いる前例はない。 これは近赤外スペクトルにおいては成分スペクトルがブロードで明確な吸収ピークを持たないことから、カーブフィッティング法の適用が困難なためである。特開平8−235242号公報特開2004−261364号公報 本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、測定したスペクトルからカーブフィッティング法によるグルコース濃度の定量を可能としたグルコース濃度の定量法及びその装置に関するものである。 本発明にかかるグルコース濃度の定量法は、生体に近赤外光を照射して生体組織からの拡散反射光あるいは透過光を受光して得られた信号から生体組織中のグルコース濃度を測定するにあたり、基準とするスペクトルからの変化スペクトルを、少なくとも水・グルコース・脂肪の各成分に対応する成分スペクトルを合成することにより再現してグルコース濃度を決定することに特徴を有している。 上記水・グルコース・脂肪の成分スペクトルを表す指標として、各成分の特徴的な波長範囲1450±30nm、1600±30nm、1727±30nmから選択した特徴波長における吸光信号を利用することでグルコース濃度変化を演算することが好ましい。 また、各成分スペクトルの特徴波長における吸光信号から正方行列を作成し、その逆行列からグルコース濃度変化を演算することが好ましい。 散乱に起因するベースライン変動で生ずるスペクトルと脂肪の成分スペクトルとから仮想スペクトルを合成し、前記脂肪の成分スペクトルに代えて上記仮想スペクトルを用いることも好ましい。 上記仮想スペクトルの合成は、脂肪の特徴的な波長帯1727±30nmとベースライン変動により生ずるスペクトル変動の特徴的な波長範囲1650±30nmとから選択した特徴波長をもとに行うことが好ましい。 また、脂肪の特徴波長と、ベースライン変動により生ずるスペクトル変動の特徴波長に対して長時間スムージングを行うことが好ましい。 さらに前記測定スペクトル及び前記成分スペクトルを1400±20nmから選択した波長で基準化していることが好ましい。 そして、本発明に係るグルコース濃度定量装置は、近赤外光を出力する光源と、該光源から生体表面に照射した近赤外光の生体透過光もしくは生体反射光を分光の後に受光する受光部と、演算部と、該演算部で演算されたグルコース濃度を表示する表示部とからなり、上記演算部は前記受光部で得られた信号より請求項1〜7のいずれか1項に記載の定量法を用いてグルコース濃度を演算することに特徴を有している。 本発明においては、グルコース濃度の定量をカーブフィッティング法により簡便に且つ精度良く行うことができる。本発明においてフィッティングに用いた行列式の説明図である。被覆組織スペクトルを示す説明図である。測定開始時からの差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。1400nmで基準化した成分スペクトルの説明図である。各成分スペクトルで合成した差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。実測血糖値と推定グルコース濃度の説明図である。差分スペクトルとベースラインの説明図である。1400nmで基準化した成分スペクトル及びベースラインの説明図である。フィッティングに用いた行列式の他例の説明図である。測定開始時からの差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。最終差分スペクトルと仮想スペクトルの説明図である。フィッティングに用いた行列式の別の例の説明図である。各成分スペクトルで合成した差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。実測血糖値と推定グルコース濃度の説明図である。測定開始時からの差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。測定毎に合成した仮想スペクトルの説明図である。各成分スペクトルで合成した差分スペクトルで且つ1400nmで基準化したものの説明図である。実測血糖値と推定グルコース濃度の説明図である。 (第1実施形態) 本実施形態において、皮膚組織の拡散反射スペクトルより皮膚組織中グルコース濃度変化(血糖値変化)の算出を行った。皮膚組織中グルコース濃度変化(血糖値変化)の算出は、実験開始時の測定スペクトルを基準とする差分スペクトルを計算し、この差分スペクトルを生ずる主要因である水、グルコース、脂肪の各成分単体のスペクトルを用いてカーブフィッティングを行う。 カーブフィッティングの手法としてはガウス分布やローレンツ分布を仮定した最小自乗フィッティング等がよく知られているが、ここでは水とグルコースと脂肪の特異吸収波長を利用する手法を用いた。 この手法によれば、近赤外スペクトルのように形状がブロードで急峻な吸収ピークを持たない成分スペクトルの解析が可能である上に、解析が容易で演算時間が短く、高性能のCPUや大きな容量のメモリを必要としないことから、測定装置の小型化、低コストが期待できる上、現象の直感的な理解にも役立つ利点を有する。 以下に第1実施形態で用いた実験手順および解析手法について説明する。実験は健常な被験者に対して経口での糖負荷を実施し、その血糖値変化(生体組織中グルコース濃度変化)の定量を行った。 近赤外光による生体(皮膚組織)のスペクトル測定には、近赤外光を出力する光源、生体組織に接触させた状態で上記光源からの近赤外光を生体に照射するとともに、生体からの反射光を受光する測定プローブ、測定プローブで受光した光を分光する分光手段、分光手段を経た光を電気的信号に変換する受光部、そして受光部から出力される電気信号を元に演算処理を行う演算部、該演算部で演算されたグルコース濃度を表示する表示部を備えたものを用いる。この測定装置自体は、特開2006−87913号公報にも示されていることから、ここでは詳細を省略する。ただし、上記演算部は、下記に述べる演算を行うものであり、この点で上記公報に記載のものと相異する。 上記測定装置を用いた近赤外光によるスペクトル測定にあたっては、座位の被験者に対し、直径0.2mmの発光ファイバと受光ファイバとが間隔0.65mmで並んでいる測定プローブを用いた。そして、この測定プローブを左前腕内側部分に接触圧力が10g重/cm2以下で軽く接触する程度に両面テープで貼付し、5分間隔で1350nmから1900nmの波長範囲での近赤外吸光度スペクトル測定を繰り返した。 上記受発光間隔の測定プローブを用いるとともに前記波長で皮膚組織を測定することで、皮膚表面から0.5mm程度の深さの真皮組織の信号を選択的に測定することが可能となる。また、比較データとして近赤外光による血糖値測定のタイミングに合わせ、15分間隔で簡易血糖計を用い採血による血糖値を測定した。また、皮膚組織スペクトル測定に対応する血糖値測定を行わない15分間隔の間の5分目、10分目の2点は直線補間により推定した。 皮膚組織スペクトル測定開始45分後に経口による糖負荷を行い、被験者の血糖値を変動させた。糖負荷には糖分を含む液体飲料200ml(カロリーメイト缶タイプ 大塚製薬)を用いた。スペクトル測定および採血による血糖値測定は血糖値が通常の100mg/dl以下で安定するまでの3時間程度実施した。 図2に上記の糖負荷実験中に測定された皮膚組織の近赤外拡散反射スペクトル(皮膚組織スペクトル)を示す。図2に描かれた皮膚組織スペクトルは、測定開始時から5分毎に測定された約40本のスペクトルを重ね書きしているが、細い帯状に集まったスペクトルが確認できるだけで、測定中の皮膚組織スペクトルの変化は明確に把握できない。 このために図3に示すように、測定開始時の皮膚組織スペクトルを基準として各測定スペクトルとの差を取った差分スペクトルを計算した。なお、図3の差分スペクトルは、測定時に様々な要因で生じる散乱変化による外乱の軽減を目的として、1400nmの吸光度で基準化している。つまり、各測定スペクトルの1400nmでの吸光度を他の波長の吸光度から引き算している。したがって、1400nmにおける各差分スペクトルの吸光度はゼロである。 図3に示す差分スペクトルからこの糖負荷実験における皮膚組織スペクトルは、1450nmと1727nmに特徴的な吸収ピーク変化を有しており、その波長に対応する吸収ピークを有する生体成分である水wと脂肪fがこの変化の大きな要因であることがわかる。グルコースgについては差分スペクトルには明確な形状変化としては現れていない。このことが近赤外光でグルコース検出が困難な大きな一つの理由となっている。 皮膚組織中のグルコース濃度の経時的変化の算出は、図3の差分スペクトルを図4に示した水w、グルコースg、脂肪fの各成分単体のスペクトルを用いてカーブフィッティングすることにより行う。 本実施形態においてカーブフィッティングは以下の手法で行った。図4の各成分スペクトルから水w成分の特異吸収波長である1450nm、グルコースg成分の特異吸収波長である1600nm、脂肪f成分の特異吸収波長である1727nmでの吸光度を抽出し、3行3列の正方行列を作成する。この正方行列に各成分の濃度指標(初期スペクトル測定時からの濃度指標の変化)をかけたものが各波長における差分吸光度となる。 この関係を行列式で表すと図1の上段の式となる。式中のWは水成分、Gはグルコース成分、Fは脂肪成分、Dは成分濃度指標、ΔODは差分吸光度を表し、右下の添え字は対応する波長あるいは成分を表す。たとえばW1450は1450nmにおける水成分の吸光度を表し、DWは水成分の濃度指標を表す。 正方行列は図1下段に示す逆行列を有するので、上段の式の左右の項に同方向から逆行列をかけると、各成分の濃度指標は逆行列と差分スペクトルの積で求められる。 5分毎に得られる差分スペクトル毎に各成分濃度指標DW,DG,DFを計算し、各成分スペクトルと各成分スペクトルより合成した差分スペクトルを図5に示す。 図3の実測した差分スペクトルと図5の合成した差分スペクトルとを比較すると、両者はよく一致しており、良好なカーブフィッティングができていることがわかる。ここでのグルコースgの濃度指標DGの値が、グルコース濃度変化に対応する濃度指標(単位は無次元)となる。得られた濃度指標DGをグルコース濃度変化(血糖値変化)に換算し、測定開始時の血糖値が実測値AGと一致するように定数項を定めたグラフを図6に示す。実測値AGとカーブフィッティングによる予測値EGの相関係数は0.90であった。本実施形態において濃度指標をグルコース濃度へ変換するときの換算係数として0.000051/(dl/mg)を用いた。また測定開始時の実測血糖値は100mg/dlである。 (第2実施形態) 第1実施形態では散乱の影響を軽減するために、前述のように1400nmにおける吸光度での基準化を実測スペクトル及び各成分スペクトルに対して行った後に、カーブフィッティングを行った。しかし、1400nmでの基準化だけでは散乱影響を完全に除去できない事例も存在する。 具体的には図7に示すように、皮膚組織における散乱の寄与度が異なる実験において、差分スペクトルに生じるベースラインの変化が異なるという現象が生じる。ここでベースラインとは、1400nmを基点とし且つ皮膚組織スペクトルのベース部分となる1650nm付近を通る単調変化の仮想的な直線あるいは曲線と定義する。 図7に示す差分スペクトルSA及び差分スペクトルSBは、おのおの異なる実験の測定開始から約3時間後のものであるが、差分スペクトルSAには波長に対して右肩上がりのベースラインBAの変化が生じている。差分スペクトルSBにはベースラインBBの変化がほとんど起きていないか、やや右肩下がりの変化が生じている。 こういったベースラインの変化の違いは、スペクトル測定を行った皮膚の色、部位、厚さ、水分量、表面荒さ、体温等の皮膚要因並びに室温、湿度等の環境要因で変化する散乱変化によると考えられるが、皮膚組織中グルコース定量において無視できない要因となる。 したがって、皮膚組織測定で得られる差分スペクトルに対してベースライン変化の除去を行えば、第1実施形態と同様な手法でグルコース濃度の定量を行うことができることになる。 また、カーブフィッティング法において、1次式、2次式および3次式等で最小二乗法を用いてフィッティングを行うことや、周波数領域において低周波数帯遮断フィルタリングを行うことで、この種のベースライン変化の除去を行うことが知られている。 このほか、差分スペクトルのベースライン変化を、水w、グルコースg、ベースラインB、脂肪fの各成分スペクトルを用いてカーブフィッティングすることによりグルコース濃度を決定することが考えられる。 この場合、フィッティングは第1実施形態に示したものと同様に、図8に示すように、各成分スペクトルから水w成分の特異吸収波長である1450nm、グルコースg成分の特異吸収波長である1600nm、ベースラインBの特徴が最も出る波長である1650nm、脂肪f成分の特異吸収波長である1727nmでの吸光度を抽出し、4行4列の正方行列を作成する。これに各成分の変化量をかけたものが各波長におけるスペクトル変化(差分スペクトル)となり、行列式で表すと図9の上段の式となる。 図9の行列式でWは水成分、Gはグルコース成分、Bはベースライン、Fは脂肪成分、Dは成分濃度指標、ΔODは差分吸光度を表し、右下の添え字は波長と成分を表す。正方行列は逆行列を有するので上段の式の左右の項に逆行列をかけると、下段の式に示すように各成分濃度は逆行列と差分スペクトルの積で求められる。したがって、この行列式を用いて各波長の差分吸光度を代入すればグルコース濃度を求められる。 しかしながら、このようなベースラインBを独立要因として加えた行列式では、グルコース濃度の誤差が大きく、有用な推定結果を得ることはできない。 その理由は、図8の成分スペクトルから分かるように、グルコースg成分のスペクトルとベースラインBのスペクトルの形状が波長に対して両者とも右肩上がりで急峻な吸収ピークを持たない類似したものになっているためである。 行列式による演算上では計算できても両者を明確に分離することができないために、大きな誤差が生じてしまうのである。つまり、ベースラインBを独立因子としたカーブフィッティングでは原理的に誤差の大きなグルコース濃度しか算出できないこととなる。 カーブフィッティング手法に限らず、回帰的な手法でグルコースを求める主成分回帰分析やPLS回帰分析、重回帰分析においても、得られるモデル式(検量)での推定結果が安定しない要因として、差分スペクトルのベースライン変化とグルコース成分のスペクトルが類似するため、うまく分離できないことがあると考えられる。 そこで本実施形態においては、差分スペクトルに生ずるベースライン変化を独立した要因とするのでなく、経時的な変化要因として考慮することともに、生成機序が同じ散乱変化である脂肪成分スペクトルと合成した仮想スペクトルを利用してカーブフィッティングを行った。 実験は第1実施形態と同様に健常な被験者に対して経口での糖負荷を実施し、その血糖値変化(生体組織中グルコース濃度変化)の定量を行った。糖負荷実験も第1実施形態で示したものと同じ手順で行なった。 測定開始時の皮膚組織スペクトルを基準として各測定スペクトルとの差を取った差分スペクトルを図10に示す。図10の差分スペクトルは前述のように1400nmの吸光度で基準化している。 図10に示す差分スペクトルからこの糖負荷実験における皮膚組織スペクトルの変化は、1727nmに特徴的な吸収ピーク変化と、右肩上がりの変化を有しており、これは脂肪fとベースラインBが大きな要因であることがわかる。 皮膚組織中のグルコース濃度の経時的変化の算出を、図10の差分スペクトルを、図8に示した水w、グルコースgの各成分単体のスペクトルと、脂肪fとベースラインBから合成した仮想スペクトルとを用いて次のようにカーブフィッティングすることにより行った。 ただし皮膚組織中グルコース濃度変化(血糖値変化)については測定終了時に得られた差分スペクトルを利用して行うもので、測定毎にリアルタイムにグルコース濃度変化(血糖値変化)を予測するものではなく、実験終了後にその血糖値プロファイルを予測するものである。 仮想スペクトルは、測定終了時に得られた最終差分スペクトルを用いて脂肪とベースラインスペクトルの合成により得た。なお、仮想スペクトル合成するための差分スペクトルは本実施形態のように必ずしも最終である必要はなく、差分スペクトルの変化がある程度安定するタイミングのものを用いても良い。 上記合成にあたっては、図11に示すように、最終差分スペクトルLSのベースラインの特徴を表す1650nmでの吸光度Xと、脂肪成分の特異吸収波長である1727nmの吸光度Yの比が一致するように、ベースラインと脂肪スペクトルの割合を定め両者を加算することにより仮想スペクトルKSを得た。 そして、皮膚組織中グルコース濃度変化(血糖値変化)は、水とグルコースの各成分スペクトル及び上記仮想スペクトルKSから、水成分の特異吸収波長である1450nm、グルコース成分の特異吸収波長である1600nm、仮想成分の特異吸収波長である1727nmでの吸光度を抽出し、3行3列の正方行列を作成する。この正方行列に各成分の濃度指標(初期スペクトル測定時からの濃度変化)をかけたものが各波長における差分吸光度となり、行列式で表すと図12の上段の式となる。 図12の行列式でKは上記仮想スペクトルを有する仮想成分、Wは水成分、Gはグルコース成分、Dは成分濃度指標、ΔODは差分吸光度を表し、右下の添え字は波長と成分を表す。正方行列は逆行列を有するので上段の式の左右の項に逆行列をかけると、下段の式に示すように各成分濃度は逆行列と差分スペクトルの積で求められる。したがって、この行列式を用いて各波長の差分吸光度を代入すればグルコース濃度を求められる。 5分毎に得られる差分スペクトル毎に各成分濃度指標を計算し、各成分スペクトルと各成分スペクトルより合成した差分スペクトルを図13に示す。図10の実測した差分スペクトルと図13の合成した差分スペクトルとを比較すると両者はよく一致しており、良好なカーブフィッティングができたことがわかる。 得られた濃度指標をグルコース濃度変化(血糖値変化)に換算し、測定開始時の血糖値が実測値AGと一致するように定数項を定めたグラフが図13である。実測値AGとカーブフィッティングによる予測値EGの相関係数は0.89であった。本実施形態において濃度指標をグルコース濃度へ変換するときの換算係数として0.00005 1/(dl/mg)を用いた。また測定開始時の実測血糖値は90mg/dlである。 (第3実施形態) 第2実施形態においては前述のように最終差分スペクトルLSを用いて皮膚組織中のグルコース濃度変化を推定したが、この手法ではリアルタイムでのグルコース測定はできない。この問題を解決するのが本実施形態である。 第1及び第2実施形態で用いたような逆行列からグルコース濃度を決定する手法の場合、3行3列の行列作成に用いる脂肪あるいは脂肪とベースラインとから合成された仮想スペクトルの形が決まれば、その大きさに算出されるグルコース濃度指標の値は影響を受けない。つまり、脂肪あるいは脂肪とベースラインとから合成された仮想スペクトルの吸光度に乗算を行っても、算出したグルコース濃度指標の値は変化しない。 したがって、測定開始時の小さな変化でも、差分スペクトル形状が最終スペクトル形状に似たものが得られるのであれば、第2実施形態において最終スペクトルに対して作成していた仮想スペクトルを、測定初期の差分スペクトル(たとえば、5分後に得られる差分スペクトル)に対して作成しても、皮膚組織中のグルコース濃度測定が可能となる。 一方、脂肪ピークとベースラインの関係は、スペクトル測定開始時の様々な要因によってある程度決定され、一定時間継続するという性質があることが様々な被験者に対して繰り返して行った糖負荷実験により明らかになった。 しかしながら、脂肪ピークとベースラインの関係を決定する要因として、皮膚組織の散乱状態を決定する因子、たとえば、皮膚組織の色、部位、厚さ、水分量、表面荒さ、体温等の皮膚組織要因と室温、湿度等の環境要因が考えられるが、現状では明確でない。 また、測定開始時の測定スペクトルが、皮膚表面と測定プローブの接触面が十分に安定していないことや、得られた差分の大きさが小さく暗電流等の測定装置由来の外乱を受けやすく、安定でないという欠点を有する。 このために、測定初期に脂肪ピークとベースラインの関係を決めて、初期に作成した仮想スペクトルでその実験全体のカーブフィッティングを行うと、仮想スペクトルの誤差が推定値全体に影響し、推定精度を悪化させる事例が生じる。 そこで、第3実施形態においては、測定毎に得られる差分スペクトルをもとに仮想スペクトルを作成し、皮膚組織中グルコース濃度を推定した。以下に詳細を示す。 実験は第1実施形態と同様に健常な被験者に対して経口での糖負荷を実施し、その血糖値変化(生体組織中グルコース濃度変化)の定量を行った。糖負荷実験も第1実施形態で示したものと同じ手順で行なった。 測定開始時の皮膚組織スペクトルを基準として各測定スペクトルとの差を取るとともに1400nmの吸光度で基準化した差分スペクトルを図15に示す。 皮膚組織中のグルコース濃度(血糖値)の経時的変化の算出を、図15の描かれる差分スペクトルの1本のライン毎に図8に示した脂肪fとベースラインBから仮想スペクトルを合成し、この仮想スペクトルと、水とグルコースの各成分単体のスペクトルとを用いてカーブフィッティングを行った。 仮想スペクトルは前述のように測定毎に得られた差分スペクトルを用い、脂肪成分のスペクトルとベースラインスペクトルとを合成した。この合成は図11に示した場合と同様に、各差分スペクトルのベースラインの特徴を表す1650nmでの吸光度Xと脂肪成分の特異吸収波長である1727nmの吸光度Yの比が一致するように、ベースラインと脂肪スペクトルの割合を定め両者を加算することにより行った。 ただし、本実施形態における各差分スペクトルの1650nmでの吸光度Xと1727nmの吸光度Yは、生データを用いずに、スムージングした値、つまりは変化を鈍らした値をそれぞれ用いた。これは、図8の成分スペクトルからもわかるように、グルコース成分が1650nmと1727nmにおいても大きな吸収を有するため、2つの波長の生データにはグルコース濃度の変動が重畳しているためである。鈍らせる手法としては、移動平均等が一般的であるが、本実施形態においては1650nmと1727nmの各波長の差分吸光度を積算し、その積算回数で割った値を用いた。 定量に用いた仮想スペクトルの経時的な変化を図16に示す。仮想スペクトルは測定開始時から終了まで比較的類似の形状が保持されていることがわかる。 皮膚組織中グルコース濃度変化は、水、グルコース、仮想の各成分スペクトルから水成分の特異吸収波長である1450nm、グルコース成分の特異吸収波長である1600nm、仮想成分の特異吸収波長である1727nmでの吸光度を抽出し、3行3列の正方行列を測定毎に作成する。この正方行列に各成分の濃度指標(初期スペクトル測定時からの濃度変化)をかけたものが各波長における差分吸光度となる。測定毎に作成した正方行列は逆行列を有するので上段の式の左右の項に同方向から逆行列をかけると、各成分の濃度指標は逆行列と差分スペクトルの積で求められる。 5分毎に得られる差分スペクトル毎に各成分濃度変化を計算し、各成分スペクトルと各成分スペクトルより合成した差分スペクトルを図17に示す。図15の実測した差分スペクトルと図17の合成した差分スペクトルを比較するとよく一致しており、良好なカーブフィッティングができたことがわかる。 得られた濃度指標をグルコース濃度変化(血糖値変化)に換算し、測定開始時の血糖値が実測値AGと一致するように定数項を定めたグラフが図17である。実測値AGとカーブフィッティングによる予測値EGの相関係数は0.92であった。本実施形態において濃度指標をグルコース濃度へ変換するときの換算係数として0.000051/(dl/mg)を用いた。また測定開始時の実測血糖値は95mg/dlである。 なお、本実施形態では測定開始から終了まで測定毎に仮想スペクトルを作成したが、差分スペクトルが安定するタイミングで仮想スペクトルを固定化し、それ以降は固定した仮想スペクトルで皮膚組織中のグルコース濃度を予測してもよい。 生体に近赤外光を照射して生体組織からの拡散反射光あるいは透過光を受光して得られた信号から生体組織中のグルコース濃度を測定するにあたり、基準とするスペクトルからの変化スペクトルを、少なくとも水・グルコース・脂肪の各成分に対応する成分スペクトルを合成することにより再現してグルコース濃度を決定することを特徴とするグルコース濃度の定量法。 水・グルコース・脂肪の成分スペクトルを表す指標として、各成分の特徴的な波長範囲1450±30nm、1600±30nm、1727±30nmから選択した特徴波長における吸光信号を利用することでグルコース濃度変化を演算する請求項1記載のグルコース濃度の定量法。 各成分スペクトルの特徴波長における吸光信号から正方行列を作成し、その逆行列からグルコース濃度変化を演算する請求項1または2記載のグルコース濃度の定量法。 散乱に起因するベースライン変動で生ずるスペクトルと脂肪の成分スペクトルとから仮想スペクトルを合成し、前記脂肪の成分スペクトルに代えて上記仮想スペクトルを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のグルコース濃度の定量法。 脂肪の特徴的な波長帯1727±30nmとベースライン変動により生ずるスペクトル変動の特徴的な波長範囲1650±30nmとから選択した特徴波長をもとに前記仮想スペクトルを合成することを特徴とする請求項4に記載のグルコース濃度の定量法。 脂肪の特徴波長と、ベースライン変動により生ずるスペクトル変動の特徴波長に対して長時間スムージングを行うことを特徴とする請求項4または5記載のグルコース濃度の定量法。 前記測定スペクトル及び前記成分スペクトルを1400±20nmから選択した波長で基準化していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のグルコース濃度の定量法。 近赤外光を出力する光源と、該光源から生体表面に照射した近赤外光の生体透過光もしくは生体反射光を分光の後に受光する受光部と、演算部と、該演算部で演算されたグルコース濃度を表示する表示部とからなり、上記演算部は前記受光部で得られた信号より請求項1〜7のいずれか1項に記載の定量法を用いてグルコース濃度を演算することを特徴とするグルコース濃度定量装置。 【課題】測定したスペクトルからカーブフィッティング法によるグルコース濃度の定量を可能とする。【解決手段】体に近赤外光を照射して生体組織からの拡散反射光あるいは透過光を受光して得られた信号から生体組織中のグルコース濃度を測定するにあたり、基準とするスペクトルからの変化スペクトルを、少なくとも水・グルコース・脂肪の各成分に対応する成分スペクトルを合成することにより再現してグルコース濃度を決定する。【選択図】図1


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