タイトル: | 公開特許公報(A)_フッ素アパタイトの製造方法およびフッ素アパタイト微粒子の製造方法 |
出願番号: | 2013057748 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C01B 25/32,A61L 27/00,A61L 31/00,G01N 30/88 |
古川 彰 JP 2014181160 公開特許公報(A) 20140929 2013057748 20130321 フッ素アパタイトの製造方法およびフッ素アパタイト微粒子の製造方法 三菱製紙株式会社 000005980 古川 彰 C01B 25/32 20060101AFI20140902BHJP A61L 27/00 20060101ALN20140902BHJP A61L 31/00 20060101ALN20140902BHJP G01N 30/88 20060101ALN20140902BHJP JPC01B25/32 BA61L27/00 UA61L27/00 KA61L31/00 ZG01N30/88 201X 3 1 OL 21 4C081 4C081AB02 4C081AC16 4C081BA17 4C081CF03 4C081DC03 4C081EA06 本発明は、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが高い生産性にて得られるフッ素アパタイトの製造方法と、フッ素アパタイト微粒子の製造方法に関する。 種々のリン酸カルシウム塩の中で特にヒドロキシアパタイトは、生体骨の成分に近似しており生体に対する安全性と高い生体適合性を示すことから、各種インプラントや骨充填剤などの様々な用途に用いられている。これに対してヒドロキシアパタイトの水酸基がフッ素に置換されたフッ素アパタイトは水に対する溶解性がヒドロキシアパタイトより更に低く、特に耐酸性に優れていることが知られている。例えば歯科分野では歯のエナメル質の表面をフッ素化合物で処理し、表面をフッ素アパタイトで覆うことで虫歯から歯を守ることが古くから知られてきた。フッ素アパタイトはヒドロキシアパタイトと同様に生体親和性が高く、良好な骨伝導性を示すことも知られている。従って従来のヒドロキシアパタイトに代えてフッ素アパタイトを利用することで、例えばインプラントの表面コートに利用すれば、より表面コートの寿命が長く安定したインプラントが形成されることが期待される。こうした医療用途への使用の際には、フッ素アパタイトとして極めて純度の高い素材を使用する必要があり、フッ素アパタイト中に各種金属イオンなどの様々な不純物が含まれている場合には、使用出来ない問題があった。 或いはフッ素アパタイトは、液体クロマトグラフィーの用途において、ヒドロキシアパタイトとともに蛋白質の分離を行うためのカラム充填剤としても利用されている。ヒドロキシアパタイトに比較してフッ素アパタイトは上記のように化学的安定性が高いなどの様々な利点を有しているが、反面、現状に於いては、その製造方法が煩雑でかつ製造コストも高いことが災いして、ヒドロキシアパタイトに比べて実際に使用される頻度は極めて低いのが現状である。また、カラム充填剤として使用するためには、蛋白質に対する選択的な吸着能と長期の使用に際して耐久性が要求される。そのためには、フッ素アパタイトの結晶性が高いことが好ましく、アモルファス状態や低結晶性のフッ素アパタイトを使用した場合には問題があった。 フッ素アパタイトの製造方法として、例えば特許文献1には、原料としてリン酸水素カルシウム、炭酸カルシウムおよびフッ化カルシウムを用いて、これらを所定の割合で混合し、ボールミル等を用いてメカノケミカル的に処理を行い、その後水中で加熱することでフッ素アパタイトを得る方法が示されている。しかしながら、この方法で得られるフッ素アパタイト中には出発原料物質が混在しやすく、純度および結晶性が低いものしか得られず、また工程も煩雑で生産性が低い問題があった。 特許文献2には、炭酸カルシウムとリン酸水素カルシウム二水和物を所定の割合で混合し、ボールミルを使用してメカノケミカル反応によりスラリーを形成し乾燥後、750℃で10時間焼成してβ−リン酸三カルシウム粉末を作製し、これにフッ化カルシウムを加えて再びボールミルで分散混合して得られたスラリーを再度乾燥させ、次いで800℃で焼成してフッ素アパタイトを得る方法が開示されている。この製造方法では極めて工程が煩雑であり、従来から用いられている各種のヒドロキシアパタイトの製造方法に比べて極めて効率が悪く生産性が低いこと、および得られるフッ素アパタイトの純度および結晶性も低いという問題があった。 さらに特許文献3には、リン酸水素カルシウム二水和物と、平均粒子径が5μm以下の炭酸カルシウム粉末および平均粒径10μm以下のフッ化カルシウム粉末を水中で懸濁させた状態で70℃以上の温度で反応させることでフッ素アパタイトを得る方法が開示されている。この方法では原料の粒度分布により反応生成物の純度が大きく左右され、再現性良く高純度で高結晶性のフッ素アパタイトを得ることが極めて困難であり、生産性が低い問題があった。 特許文献4には、原料としてヒドロキシアパタイトを用い、これにフッ化水素酸を作用させることで、ヒドロキシアパタイト中の水酸基をフッ素に置換する方法が開示されている。この方法では出発物質のヒドロキシアパタイトの純度および結晶性に依存して、得られるフッ素アパタイトの性質が左右され、また、必ずしも全ての水酸基がフッ素に置き換わることがないため、純度の高いフッ素アパタイトを得ることが困難であった。加えて、取扱いが困難なフッ化水素酸を使用することは極めて危険性が高く、実験室レベルおよび工業的に大きな問題になる。 特許文献5には水酸化カルシウムにフッ化水素酸およびリン酸の混合溶液を加えることでフッ素アパタイトを得る方法が示されている。この場合に於いても取扱いの困難なフッ化水素酸を使用し、かつアルカリ水溶液と強酸水溶液を混合することで反応の際に多量の発熱を伴うことから反応の制御が難しく、さらには反応系が不均一系であるため生成物の純度や結晶性に関して再現性のある結果が得難いという問題があった。特に、水酸化カルシウムが懸濁したアルカリ性溶液中にリン酸を添加した場合、ヒドロキシアパタイトが生成することから、特許文献5の方法で得られるフッ素アパタイトにはヒドロキシアパタイトが含まれる場合があり、さらに生成するフッ素アパタイトの結晶性が低く、焼結などの熱処理を加えないと結晶性の高いフッ素アパタイトが得られない問題があった。 特許文献6には、体積平均粒子径が1〜25nmであるヒドロキシアパタイト粒子の合成方法が開示され、その中でフッ素原子がドープされたヒドロキシアパタイトの例が示されている。この方法は、塩基性条件下でカルシウム塩とリン酸塩を反応させることでヒドロキシアパタイト粒子を合成する方法を利用するものであり、具体的にはカルシウム塩を溶解した水溶液中に、リン酸塩とフッ素塩を溶解した溶液を添加する際に、反応系のpHを塩基性に調整することでフッ素原子がドープされたヒドロキシアパタイト粒子を得る方法である。この方法では、生成するフッ素をドープしたヒドロキシアパタイトの結晶性が低く、また生成するヒドロキシアパタイトの粒子径が小さいため、反応系から生成した粒子を分離することが困難であるため、純度の高いフッ素アパタイトを得ることが困難であった。 上記のような従来技術では得られるフッ素アパタイトの純度が低く、また結晶性も十分に高くない問題があり、更には製造工程が極めて煩雑でコストおよび時間が掛かるため生産性が低い問題と薬品の取扱いに関する安全面での問題があることから改良が求められているのが現状である。 また、上記のフッ素アパタイトの利用方法として、例えば生体インプラントの表面コートに利用するなどのコーティング素材としての利用が挙げられる。その際の基材としてチタンなどの金属や、ポリエステル、PEEK樹脂などのプラスチック材料が挙げられ、これらの基材の表面にフッ素アパタイトを含む層をコーティングにより形成し、基材表面がフッ素アパタイトで覆われることで生体親和性を向上させる用途が挙げられる。そうした場合、表面コート層の厚みや性状が均一であることが必要とされ、コーティング適性として、フッ素アパタイトが出来るだけ微細で均一な微粒子であることと、フッ素アパタイト微粒子の分散物を含有するコーティング液中においてフッ素アパタイト微粒子が安定に分散し、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物を発生させることのない適性が要求される。従来の様々な製造方法で得られるフッ素アパタイトは粒状もしくは塊状の粉体として得られ、これらは水などの媒体中に安定で微粒子状に分散した分散物を得ることが困難で、コーティング用途に適用することが困難であった。特開昭63−256507号公報特開平5−85709号公報特開平9−40409号公報特開2009−35464号公報特開2009−57228号公報特開2008−69048号公報 本発明は、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが高い生産性にて得られるフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なフッ素アパタイト微粒子の製造方法を与えることを課題とする。 本発明の課題は、下記の製造方法を用いることで基本的に解決される。1.カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法であって、反応系のpHを5.5以下に維持して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法。2.上記のフッ素アパタイトの製造方法により得られたフッ素アパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行うフッ素アパタイト微粒子の製造方法。3.さらにポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う上記2に記載のフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 本発明により、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが高い生産性にて得られるフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なフッ素アパタイト微粒子の製造方法を提供することが出来る。実施例1で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像。実施例1で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例1で得られたフッ素アパタイトのEDSにより得られた元素分析結果。実施例1で得られたフッ素アパタイトのFT−IRによるスペクトル。実施例1で得られたフッ素アパタイトを湿式分散処理を行った場合の分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線。ポリリン酸塩を加えて湿式分散処理を行った場合のフッ素アパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計による測定を行った粒度分布曲線。実施例2で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像。実施例2で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。比較例1で得られた生成物の広角X線回折パターン。実施例3で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像。実施例3で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターン。実施例3で得られたフッ素アパタイトのFT−IRによるスペクトル。比較例2で得られた生成物の広角X線回折パターン。比較例3で得られた生成物の広角X線回折パターン。 本発明を構成する要素として、カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を反応させることが基本である。以下に各々の構成要素について説明を行う。 カルシウム塩として用いることの出来る好ましい原料の例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびこれら各々の水和物が好ましく用いることが出来る。リン酸塩として好適である原料の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウムおよびこれら各々の水和物等が特に好ましい例として挙げられる。フッ素塩として好ましく用いることの出来る化合物として、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化アンモニウム等を挙げることが出来る。本発明で用いるカルシウム塩、リン酸塩およびフッ素塩は水に可溶性であることが好ましい。なお本発明に於いて可溶性であるとは、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上であることを意味する。 上記のカルシウム塩、リン酸塩およびフッ素塩を反応させることで、高純度で高結晶性のフッ素アパタイトが得られる製造方法が与えられるが、本発明において見出した重要な点は、カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法において、反応中における反応系のpHを5.5以下に維持して反応を行うことが挙げられる。従来技術では、例えば特許文献5や特許文献6等に見られるように、一般に反応時のpHを9以上のアルカリ性に保つことでヒドロキシアパタイトが得られることが知られているが、その際得られるヒドロキシアパタイトの結晶性は一般的に低く、高結晶性のヒドロキシアパタイトを得るためには水熱処理や焼結を行う必要があり、その場合得られるヒドロキシアパタイトは凝集体であって、本発明の目的の一つである微粒子の状態で得ることが困難であった。後述する実施例および比較例において示すように、本発明に於いては、pHが中性から弱酸性にあるカルシウム塩含有水溶液と、同じくpHが中性から弱アルカリ性にあるリン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応を行う際に、反応中における反応系のpHを5.5以下に維持して反応を行うことで、高純度で高結晶性のフッ素アパタイトが良好な収率で得られることを見出したものである。この際、反応中における反応系のpHが5.5を上回る条件で反応を行った場合、フッ素アパタイト以外のカルシウム塩が生成する場合があり、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが得られない。尚、本発明に於いて反応系のpHとは、カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液との混合液のpHであることを意味する。 上記の反応を行う際の、カルシウム塩、リン酸塩およびフッ素塩の各々のモル比については好ましい範囲が存在する。即ち、カルシウム塩のモル比を8〜12の範囲に設定した場合、リン酸塩のモル比は6〜22の範囲である場合が好ましく、フッ素塩のモル比に関しても1〜3の範囲にある場合が好ましい。最も好ましい比率は、カルシウム塩が10モルに対して、リン酸塩は6〜20モルの範囲であり、フッ素塩は1.8〜2.2モルの範囲である。このようなモル比になるよう調整した各々の水溶液を用いることで、とりわけ高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが得られるため好ましい。上記の比率に於いて、例えばカルシウム塩が8〜12モルに対してフッ素塩を3モルより多く使用して反応を行った場合、フッ化カルシウムが副成し、得られるフッ素アパタイト中に含まれる場合がある。また、フッ素塩のモル比が1モル比より低い場合は、得られるフッ素アパタイト中にヒドロキシアパタイトやリン酸水素カルシウム塩等が含まれる場合がある。 カルシウム塩に対するリン酸塩の比率に関しては広い幅で最適値が存在し、カルシウム塩8〜12モルに対してリン酸塩は6〜22モルの範囲で加えることで高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトを得ることが出来る。この際、リン酸塩のモル比が6モル以上10モル未満の範囲で反応を行った場合、得られるフッ素アパタイトの収率が低下する場合がある。よって、リン酸塩のモル比は10〜22モルの範囲とすることが好ましい。また、後述する実施例に於いて示すように、リン酸塩のモル比が6モル以上10モル未満の範囲で反応を行った場合、生成するフッ素アパタイトの結晶性微粒子の形状は六角柱状であり、リン酸塩のモル比を10〜22モル比の範囲で同様に反応を行った場合、生成するフッ素アパタイトの結晶性微粒子の形状は六角柱状を保ったまま、より微小な大きさの結晶性微粒子が得られるため好ましい。 カルシウム塩が8〜12モル比に対してリン酸塩のモル比が22モルを超えて含まれる溶液を用いて反応を行った場合、リン酸水素カルシウム(モネタイトもしくはブルシャイト)が生成物中に含まれる場合がある。 上記のモル比で反応を行う際に、本発明ではカルシウム塩を含有する水溶液とリン酸塩およびフッ素塩を共に含む水溶液の2種類を作製し、これらを混合する。仮にカルシウム塩とリン酸塩を混合するとフッ素を含有しないリン酸カルシウムが生成し、これにフッ素塩を添加してフッ素アパタイトを合成しても、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトは得られない。或いはカルシウム塩とフッ素塩を加えて反応を行った場合、難溶性のフッ化カルシウムが沈降し、これにリン酸塩を加えても反応は進行せず、目的とするフッ素アパタイトは生成しない。既に知られている知見として、例えば、カルシウム塩とリン酸塩から70℃以下の反応温度でリン酸水素カルシウム二水和物が形成されることが知られているが、このリン酸水素カルシウム二水和物を懸濁した水溶液中にフッ素塩を添加するとリン酸水素カルシウムの表面にフッ素アパタイトが生成することが袋布らにより報告(袋布等、Journal of the Ceramic Society of Japan,113(5),363−367 (2005))されている。しかしながら、こうした方法を用いた場合には、リン酸水素カルシウム結晶の内部においてはフッ素アパタイトを生成する反応が起こらないため、本発明の目的とする高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトは得られない。 上記のカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液の混合方法には三種類の方法があり、何れの方法を用いても良い。一つの方法は、カルシウム塩を含有する水溶液中に、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を加える方法である。二つ目の方法は、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液中に、カルシウム塩を含有する水溶液を加える方法である。三つ目の方法は、カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を同時に混合する方法である。何れの方法を用いる場合に於いても、フッ素アパタイト以外の副成物は生成せず、高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが得られる。 上記のカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応させる温度としては通常0℃から100℃の範囲で行うことが可能であり、或いは反応温度を0℃以下に下げて反応を行うことも可能である。但し、好ましい反応温度の範囲が存在し、10〜80℃の範囲の温度である場合が好ましく、さらに30〜75℃の範囲の温度で反応を行う場合が好ましく、このような範囲とすることで高結晶性のフッ素アパタイトを収率良く、短時間の反応時間で得ることが出来る。通常の反応時間は1〜24時間の範囲であるが、30〜75℃の範囲の温度で反応を行う場合は、1〜6時間で目的とするフッ素アパタイトを高純度かつ高収率で得ることが出来る。 カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液の各々のpHは予め5.5以下の範囲に調整して混合することが好ましいが、両者の混合によりフッ素アパタイトが生成すると同時に酸が発生するため、反応の進行に伴い反応系のpHは酸性側にシフトすることから、必ずしも混合する前の各々の水溶液のpHが5.5以下である必要はない。例えば、カルシウム塩を含有する水溶液中に、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を添加して混合を行う場合、カルシウム塩を含有する水溶液のpHは5.5以下の範囲に調節することが必要であるが、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液のpHが5.5より高い値である場合に於いても、後者の添加により混合された反応系のpHが5.5以下の範囲に保たれる場合には本発明の目的である高純度で高結晶性のフッ素アパタイトが得られる。両者の水溶液を混合することで反応系のpHが変化するが、下記の化学反応式に示すように、例えば原料として塩化カルシウム、リン酸水素二ナトリウムおよびフッ化ナトリウムをそれぞれ使用して反応を行った場合、1モルのフッ素アパタイトの生成に伴って、0.6モルの塩酸が発生することから、両者の水溶液の混合を進めて反応を進行させた場合、反応混合物のpHは次第に酸性側に傾き、最終的には強酸性付近までpHが低下する場合がある。 10CaCl2 + 6Na2HPO4+ 2NaF → Ca10(PO4)6F2 + 14NaCl + 6HCl 反応系のpHが例えば3以下まで低下した場合、リン酸塩が強酸によりリン酸にもどり、このことでフッ素アパタイト中にカルシウム塩の形で取り込まれなくなる。従って、このような場合、反応は途中で停止し、得られるフッ素アパタイトの収率が低下する場合がある。但し、このような場合に於いても生成するフッ素アパタイトの純度および結晶性は高く、本発明の目的に用いることが出来る。加えて、こうした酸性条件下で生成するフッ素アパタイトの形状は、後述する実施例において示すように、極めて特徴的な六角柱状の形態を示し、結晶性が高く、高純度であることが特徴である。 上記の反応に於いて、反応系のpHを3〜5.5の範囲に保つことで、フッ素アパタイトを生成する反応を途中で停止することなく、高収率で目的とする高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが得られるため好ましい。反応系のpHが5.5より高くなる場合にはフッ素アパタイト以外のカルシウム塩が生成する場合がある。反応系のpHを3〜5.5の範囲に保つ方法として好ましい方法は、(1)リン酸塩を過剰に加えて反応を行う方法と、(2)pH調整剤としてリン酸塩以外のアルカリ性の化合物を反応系に添加する方法が挙げられる。 上記の(1)のリン酸塩を過剰に加えて反応を行う方法とは、前述の化学反応式に於いて、フッ素アパタイトを得るために必要とされる最小のモル比のリン酸塩は、カルシウム塩10モルに対して6モルであるが、リン酸塩を6モルよりも多く加えて反応を行った場合には、前記化学式中に生成物として発生する塩酸を中和することで系のpHを強酸性からpHを3〜5.5の範囲に上昇させ、結果としてフッ素アパタイトの収率を高めることが出来るため好ましく用いることが出来る。 前記(2)の方法を用いる場合、pH調整剤として使用するアルカリ性化合物としては水溶性の無機化合物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を好ましい例として挙げることが出来るが、中でも炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムを最も好ましく用いることが出来る。これらの炭酸塩は反応の進行に従って、反応系に徐々に添加することも好ましく行われるが、予め、リン酸塩およびフッ素塩を共に溶解して含む水溶液に併せて添加して用いる方法も好ましく行うことが出来る。尚、カルシウム塩が10モルで含まれる溶液に対して、リン酸塩が6〜22モルの範囲で含まれる溶液中に、さらに炭酸塩が2モル以下で含まれる場合には、添加した炭酸塩は反応中に発生する強酸の中和に消費され、生成するフッ素アパタイト結晶中には殆ど含まれない。 カルシウム塩を含有する水溶液にこうした炭酸塩を添加した場合、炭酸カルシウムが生成する場合があることから、高純度であるフッ素アパタイトを得るためには、カルシウムイオンと炭酸イオンが先に反応することがないよう注意が必要である。よって、炭酸塩を、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液に併せて添加して用いた場合、先にフッ素アパタイトが生成し、炭酸塩は単に反応系の中和に消費されることから極めて好ましい方法である。 本発明に於いて得られるフッ素アパタイトは反応終了後、静置すると容易に沈降するため、通常の濾過操作により沈殿物を回収し、更に水洗、乾燥を行って粉体として取り出すことが出来る。乾燥後に加熱を行い、完全に水分を除去する操作や、或いは数百℃に加熱して焼結して用いることも出来る。 上記した方法により得られるフッ素アパタイトは微粒状の粉体であるが、これを走査型電子顕微鏡で観察すると、ナノメートルサイズの微小な微粒子が集合して粉体を形成していることが判明した。これらのフッ素アパタイトは粉体として利用することも出来るが、必要に応じて粉砕や微分散を行うことで微粒化を行い、個々のフッ素アパタイト微粒子が単独もしくは複数個凝集して分散した分散体として利用することも出来る。 微粒化の方法として例えば、媒体中に於いて上記の方法で得られるフッ素アパタイトを用いて、これに湿式分散処理を行うことが特に好ましい。こうした湿式分散処理を行うためには、従来から知られている様々な湿式分散処理方法を利用することが出来る。また、湿式分散方法としては、メディアミルを利用した分散方式が特に好ましく、具体的には、フッ素アパタイトを導入した媒体中に於いて、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等のメディアを加えて振盪や攪拌を行い、フッ素アパタイト粒子と該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法を利用することが出来る。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、メディアミルとしてペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。また上記したメディアミルは、複数台を直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディアミルを用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。 フッ素アパタイトを分散するための媒体としては水が最も好ましいが、水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。 上記したメディアミルを利用してフッ素アパタイトの湿式分散処理を行う場合に、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特にフッ素アパタイトを分散する場合に、ビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物がフッ素アパタイト分散物に混入することを防止することが好ましい。こうした目的で利用出来るセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズや合成ダイヤモンド、窒化珪素ビーズなどを最も好ましく用いることが出来る。また、メディアの平均直径は0.01〜10mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。こうしたメディアを使用したメディアミルを用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限はない。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れたフッ素アパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。 上記のフッ素アパタイト微粒子の分散物を製造する際に、分散剤として、各種界面活性剤や無機化合物および各種水溶性ポリマーなどを添加して湿式分散処理を行い、得られるフッ素アパタイト微粒子分散物における体積平均粒子径をより小さくすることが可能となる。 上記の分散剤として用いることの出来るアニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、オクチルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルアンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、アセチルアルコール硫酸エステルナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ラウリル燐酸ナトリウム、ステアリル燐酸ナトリウム等のアルキル燐酸エステル塩類、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸アンモニウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ラウリルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類等を挙げることが出来る。 前記の分散剤として用いることの出来るノニオン性界面活性剤としては、種々の鎖長のポリエチレンオキサイドに、アルキル基やフェニル基およびアルキル置換フェニル基が結合したポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテルが好ましく用いることが出来、これらの内でも、商品名TWEEN20、同40、同60および同80として知られるソルビタンモノアルキレート誘導体が最も好ましく用いることが出来る。 前記の分散剤として用いることの出来る水溶性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン等)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、各種変性デンプン(例えばリン酸変性デンプン等)等を挙げることが出来る。 前記の分散剤として用いることの出来る無機化合物として各種リン酸塩を挙げることが出来るが、特に好ましい例としてポリリン酸(塩)を挙げることが出来る。この場合、得られるフッ素アパタイト微粒子の分散物中に含まれる微粒子の大きさが体積平均粒子径にして30〜600nmの範囲にある微粒子に分散され、実質的に有機物を含まず、フッ素アパタイト以外のカルシウム塩を含まない、高純度で分散安定性に優れたフッ素アパタイト微粒子の分散物が得られることから、極めて好ましく用いることが出来る。本発明により得られるフッ素アパタイト微粒子の分散物をコーティング用途に使用して、例えば前記した生体インプラントへの適用を行った場合、フッ素アパタイト微粒子の分散物中に有機物が含まれている場合、生体に対する安全性が損なわれる場合がある。尚ここで実質的に有機物を含まないとは、フッ素アパタイトに対して有機物が1質量%以下であることを意味する。より好ましくは0.1質量%以下である。この範囲に於いて、安全性を確保して生体インプラント等へのコーティング用途に本発明のフッ素アパタイト微粒子の分散物を好適に利用することが出来る。 上記で用いることの出来るポリリン酸(塩)の例として、ピロリン酸(ナトリウム)、トリポリリン酸(ナトリウム)、テトラポリリン酸(ナトリウム)、直鎖状のポリリン酸(ナトリウム)のような直鎖状のポリリン酸(塩)およびこれらの水和物が挙げられ、或いは環状化合物であるヘキサメタリン酸(ナトリウム)などを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸(ナトリウム)や、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸(ナトリウム)およびこれらの水和物などを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。尚、ポリリン酸(塩)とは、ポリリン酸、或いはその塩であることを意味する。 上記のような種々の分散剤を用いてフッ素アパタイト微粒子を製造する場合には、フッ素アパタイトに対する各種分散剤の比率についても好ましい範囲が存在する。フッ素アパタイト100質量部に対して、用いられる分散剤の量は、5〜100質量部とすることが最も好ましい。 以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。(実施例1)(フッ素アパタイトの合成) 塩化カルシウム二水和物147グラム(1モル)を1リッターの三角フラスコ内に秤取り、蒸留水350グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは0.1規定塩酸水溶液を少量添加して5.0に調整した。これとは別に、500mlのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム80グラム(0.6モル)とフッ化ナトリウム8.4グラム(0.2モル)を秤取り、蒸留水300グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは0.1規定塩酸水溶液を少量添加して5.0に調整した。上記で作製した塩化カルシウム水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウムとフッ化ナトリウムを溶解した水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応系のpHは滴下開始直後は5.0であったが、滴下を続けると共に次第にpHは低下し、滴下終了後の反応混合物のpHは2であった。水浴上から三角フラスコを移し、室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返し蒸留水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体を得た。粉体の収量は63グラムであり、フッ素アパタイトとして62%の収率であった。 得られたフッ素アパタイトは走査型電子顕微鏡(SEM)、広角X線回折装置、EDS(エネルギー分散型X線分光法)およびFT−IRを用いて解析を行った。図1には、実施例1で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像を示す。特徴的な6角柱状の結晶微粒子が集合している様子が分かった。図2には、実施例1で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを示す。該パターンは、フッ素アパタイトの結晶パターンと完全に一致しており、フッ素アパタイト以外の不純物の存在は認められない結果であった。図3には実施例1で得られたフッ素アパタイトのEDSにより得られた元素分析結果を示す。ガラス基板上に置いて測定を行ったためガラスによる珪素等のピークが認められるが、フッ素アパタイト中のフッ素の存在が明確に確認された。図4には、実施例1で得られたフッ素アパタイトのFT−IRによるスペクトルを示す。ヒドロキシアパタイトの場合には波数630cm−1付近に水酸基による吸収ピークが観察されることが知られているが、本実施例では水酸基の存在は認められず、純粋なフッ素アパタイトが生成していることが明確になった。(分散剤を使用しない場合のフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記で得られたフッ素アパタイトを用いて、以下のようにしてメディアミルを利用した湿式分散処理を行うことで、フッ素アパタイト微粒子を製造した。即ち、上記で得たフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、さらにイオン交換水80グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを120グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物の固形分濃度は20質量%であった。これを用いて以下のように評価を行った。 上記で得られた分散物を用いて、分散しているフッ素アパタイト微粒子の大きさを測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を使用して測定した。図5には、実施例1で得られたフッ素アパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計により測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で2.0μmであり、粒子径分布が比較的狭いμmオーダーのフッ素アパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。(ポリリン酸(塩)を添加した場合のフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記実施例1で得たフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにトリポリリン酸ナトリウム無水物(和光純薬工業製試薬)を3グラム添加し、さらにイオン交換水77グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを60グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは10.2であり、固形分濃度は23質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているフッ素アパタイト微粒子の大きさを測定し、図6に示す結果を得た。図6はポリリン酸塩を加えて湿式分散処理を行った場合のフッ素アパタイト微粒子分散物の光散乱回折式粒度分布計による測定を行った粒度分布曲線を表す。ここで得られた体積平均粒子径は、メジアン径で520nmであった。ポリリン酸(塩)の添加により、粒子径が大幅に低下した微細なフッ素アパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。(フッ素アパタイト微粒子のコーティング評価結果) 前記の分散剤を使用しないで作製したフッ素アパタイト微粒子の分散物と、上記のトリポリリン酸ナトリウムを添加して湿式分散処理して得られたフッ素アパタイト微粒子の分散物を用いて、これらを各々スライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、両者共に表面が平滑で、白色不透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。(実施例2)(フッ素アパタイトの合成) 上記実施例1において、合成の際に用いたリン酸水素二アンモニウムを実施例1の80グラムから260グラム(1.97モル)に換えて蒸留水600グラムに溶解して用いた以外は同様にしてフッ素アパタイトの合成を行った。その結果、反応開始直後の反応系のpHは5.0であったが、反応の進行と共にpHは徐々に低下し、最終的に反応後の反応系のpHは4であり、得られたフッ素アパタイトの収率は98%であった。図7には、実施例2で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像を示す。実施例1で得られた6角柱状の結晶微粒子に対して、形状は同様であるが結晶の大きさが顕著に減少した結晶微粒子が集合している様子が分かった。図8には、実施例2で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを示した。フッ素アパタイトの公知の結晶パターンと完全に一致しており、フッ素アパタイト以外の不純物の存在は認められない結果であった。(ポリリン酸(塩)を添加した場合のフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記実施例2で得たフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにポリリン酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を6グラム添加し、さらにイオン交換水74グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを60グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは10.5であり、固形分濃度は26質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているフッ素アパタイト微粒子の大きさを測定し、得られた体積平均粒子径は、メジアン径で110nmであった。上記で得られた分散物に含まれるフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。(フッ素アパタイト微粒子のコーティング評価結果) 上記のポリリン酸ナトリウムを添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、表面が平滑で、ほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。(比較例1) 塩化カルシウム二水和物147グラム(1モル)を1リッターの三角フラスコ内に秤取り、蒸留水350グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは28質量%アンモニア水溶液を少量添加して6.0に調整した。これとは別に、500mlのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム80グラム(0.6モル)とフッ化ナトリウム8.4グラム(0.2モル)を秤取り、蒸留水300グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは28質量%アンモニア水溶液を少量添加して6.0に調整した。上記で作製した塩化カルシウム水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウムとフッ化ナトリウムを溶解したpH6.0の水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応系のpHは滴下開始直後は6.0であったが、滴下を続けると共に28質量%アンモニア水溶液を添加して反応系のpHを6.0に維持しながら反応を行い、滴下終了後の反応混合物のpHは6.0であった。水浴上から三角フラスコを移し、室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返し蒸留水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体を得た。得られた生成物を広角X線回折を用いて解析した結果、図9に示す結果を得た。生成物中には、フッ素アパタイト以外に矢印で示した位置にモネタイト(無水CaHPO4)による2θ=26.4度付近の(002)面からの回折ピークと、2θ=30.1度付近の(120)面からの回折ピークが認められ、こうした不純物が含まれていることから、本発明が目的とする高純度のフッ素アパタイトが得られていないことが明かとなった。(実施例3)(フッ素アパタイトの合成) 塩化カルシウム二水和物147グラム(1モル)を、蒸留水350グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは0.1規定塩酸水溶液を少量添加して5.0に調整した。これとは別に、リン酸水素二アンモニウム80グラム(0.6モル)とフッ化ナトリウム8.4グラム(0.2モル)および炭酸ナトリウム16グラム(0.15モル)を秤取り、蒸留水400グラムを加えて溶解した。得られた水溶液のpHは8.0であった。それぞれの水溶液を別々の滴下漏斗に移し、60℃に調節した水浴上の蒸留水100グラムを入れた1リットル三角フラスコ内に攪拌しながら1時間を掛けて互いに等量を徐々に滴下した。滴下中の反応混合物のpHは3〜5の範囲に保たれた。水浴上から三角フラスコを移し、室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返し蒸留水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体を得た。粉体の収量は82グラムであり、フッ素アパタイトとして81%の収率であった。 得られたフッ素アパタイトは実施例1と同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)、広角X線回折装置、EDSおよびFT−IRを用いて解析を行った。図10には、実施例3で得られたフッ素アパタイトのSEMによる拡大像を示す。実施例1で得られた微粒子の形状とは大きく異なり、非常に微細な柱状の結晶微粒子が集合している様子が観察された。図11には、実施例3で得られたフッ素アパタイトの広角X線回折パターンを示す。フッ素アパタイトの結晶パターンと完全に一致しており、フッ素アパタイト以外の不純物の存在は認められない結果であった。図12には、実施例3で得られたフッ素アパタイトのFT−IRによるスペクトルを示す。ヒドロキシアパタイトの場合には波数630cm−1付近に水酸基による吸収ピークが観察されることが知られているが、本実施例では水酸基の存在は認められず、純粋なフッ素アパタイトが生成していることが明確になった。(ポリリン酸(塩)を添加した場合のフッ素アパタイト微粒子の製造方法と評価結果) 上記実施例3で得たフッ素アパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにメタリン酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を2グラム添加し、さらにイオン交換水78グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを60グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは10.5であり、固形分濃度は22質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているフッ素アパタイト微粒子の大きさを測定し、得られた体積平均粒子径は、メジアン径で150nmであった。上記で得られた分散物に含まれるフッ素アパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。(フッ素アパタイト微粒子のコーティング評価結果) 上記のメタリン酸ナトリウムを添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、表面が平滑で、ほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。(比較例2) 比較例1においてフッ化ナトリウムの量を13グラム(0.31モル)に変えた以外は同様にして反応を行った。比較例1と同様にして生成物を分離し、洗浄後乾燥を行った。生成物は、実施例1と同様にして解析を行った。図13には、比較例2で得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。矢印で示した2θ=28.3度付近の位置にフッ化カルシウムによる(111)面からの回折ピークの存在が確認され、生成物にはフッ素アパタイト以外に不純物としてフッ化カルシウムが含まれていることが判明した。(比較例3) 塩化カルシウム二水和物147グラム(1モル)を、蒸留水350グラムを加えて溶解した。水溶液のpHは6.0であった。これとは別に、リン酸水素二アンモニウム80グラム(0.6モル)とフッ化ナトリウム8.4グラム(0.2モル)および炭酸ナトリウム62グラム(0.74モル)を秤取り、蒸留水400グラムを加えて溶解した。得られた水溶液のpHは8.0であった。上記で作製したリン酸水素二アンモニウムとフッ化ナトリウムを溶解した水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、塩化カルシウム水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応系のpHは滴下開始直後は8.0であったが、反応中は6.0〜8.0の範囲に保たれた。先の実施例と同様にして生成物を分離し、洗浄後乾燥を行った。生成物は、先の実施例と同様にして解析を行った。図14には、比較例3で得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。矢印で示した2θ=29.4度付近の位置に炭酸カルシウム(カルサイト)による(104)面からの回折ピークの存在が確認され、生成物にはフッ素アパタイト以外に不純物として炭酸カルシウムが含まれていることが判明した。(実施例4) 実施例1においてリン酸水素二アンモニウムの量を40グラム(0.3モル)に変えた以外は同様にして反応を行った。実施例1と同様にして生成物を分離し、洗浄後乾燥を行った。生成物は、実施例1と同様にして解析を行った。X線回折の結果より、フッ素アパタイトに特有の回折パターン以外に、比較例2と同様に2θ=28.3度付近にフッ化カルシウムの(111)面からの回折パターンが僅かに認められ、生成物にはフッ素アパタイト以外に不純物として極微量のフッ化カルシウムが含まれていることが判明した。しかしながら不純物の量は全体に対して5質量%未満であったことから、本発明の目的とする範囲においては高純度のフッ素アパタイトとして使用可能であると判断された。 本発明により得られるフッ素アパタイトは、クロマトグラフィー用カラム充填剤としての用途や、吸着剤、分離剤としての使用が可能である。また、生体に親和性を有する各種材料として生体インプラントなどに利用することが可能である。また、特に歯科用インプラントなどの歯科用途にも好適に利用することが可能である。 カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法であって、反応系のpHを5.5以下に維持して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法。 請求項1記載のフッ素アパタイトの製造方法により得られたフッ素アパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行うフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 さらにポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う請求項2に記載のフッ素アパタイト微粒子の製造方法。 【課題】高純度かつ高結晶性のフッ素アパタイトが高い生産性にて得られるフッ素アパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なフッ素アパタイト微粒子の製造方法を与えること。【解決手段】カルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩およびフッ素塩を含有する水溶液を混合して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法であって、反応系のpHを5.5以下に維持して反応を行うフッ素アパタイトの製造方法。【選択図】図1