生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_凍結乾燥菌試料およびその製造方法
出願番号:2013046137
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,C12Q 1/06


特許情報キャッシュ

岩崎 将志 太尾田 康生 山田 敏広 JP 2014171423 公開特許公報(A) 20140922 2013046137 20130308 凍結乾燥菌試料およびその製造方法 日清食品ホールディングス株式会社 000226976 岩崎 将志 太尾田 康生 山田 敏広 C12N 1/20 20060101AFI20140826BHJP C12Q 1/06 20060101ALI20140826BHJP JPC12N1/20 BC12Q1/06 4 1 OL 15 4B063 4B065 4B063QA01 4B063QQ06 4B063QR75 4B065AA01X 4B065AA26X 4B065BC03 4B065BD11 4B065BD27 4B065BD33 4B065BD35 4B065BD42 4B065CA46本発明は、細菌検査の精度管理のために使用する凍結乾燥菌試料の製造方法に関するものである。 食品製造における細菌検査は、食品の品質管理を行う上で重要な検査項目である。その為、検査結果の信頼性が確保されている必要がある。検査結果の信頼性を確保するための手段の一つに精度管理がある。精度管理は検査結果と真値との誤差を認識し、その誤差を生み出す要因を解析して取り除くことを目的とする。精度管理は内部精度管理と外部精度管理に大別される。内部精度管理は各検査室で管理された検査法に基づいて、正しく検査が行われたことを確認するために、一定の頻度と一定の基準に従って実施する技能評価である。一方、技能試験のような外部精度管理は各検査室にとっての第三者機関が主催し、検査室間比較を行うことで各検査室の検査結果の妥当性を客観的に確認する技能評価である。これら精度管理を実施する中で、想定される結果と大きく外れた結果が得られた場合、検査担当者の検査手技、または検査担当者の所属する施設の細菌検査業務の運営状態のどちらか、あるいは両方に問題があると推測される。 細菌検査の精度管理を実施するためには、菌数の均質性および安定性に優れた単一ロットの菌試料が必要となる。均質性に優れているとは、試料に含まれる菌数の試料間バラツキが小さいことを意味し、安定性に優れているとは、調製直後の試料に含まれる菌数と長期間保存後の試料に含まれる菌数との差が小さいことを意味する。JIS Z 8405(ISO 13528)附属書B「試験所間による技能試験のための統計的方法」では、技能試験に用いる試料の均質性および安定性の評価方法が規定されている。 菌試料を調製する方法は種々考えられるが、その中でも凍結乾燥法は広く用いられている方法である。凍結乾燥によって菌試料を調製する場合、凍結乾燥による菌の損傷が小さいほど好ましい。なぜならば、菌の損傷が小さいほど、試料に含まれる菌数の均質性および安定性を確保するのに有利だからである。その為、これまで多くの技術者が検討を重ねてきた結果、凍結乾燥における菌の損傷を抑える保護剤として、様々な物質が見出されてきた。例えばスキムミルクは凍結乾燥保護剤として有効であることが知られており、広く用いられている。凍結乾燥保護剤の菌の損傷に対する保護作用の大小は、生残率によって評価できる。生残率とは、凍結乾燥前の菌液に含まれる菌数を100%として、凍結乾燥後の菌試料に含まれる菌数を百分率で表したものである。 均質性および安定性に優れた菌試料を提供するための方法として、例えば、多種多様な凍結乾燥保護剤を含む液に菌を懸濁し、フローサイトメトリーを用いて液中の菌数を極めて正確に計測する方法が開示されている。特許第4414220号 上記方法は均質性および安定性に優れた菌試料を調製できる大変有用な方法である。しかし、上記方法は菌数の計測にフローサイトメトリーのような高価な機器を必要とし、なおかつ、製造に関わる複雑な作業工程を実施するための機材が必要であり、安価かつ簡便に菌試料を調製することは困難である。また、種々の菌種が存在する中で、それぞれについて最も適した条件を検討するためには、多大な時間と多額の費用を要する。そこで種々の菌種に共通して使用できる、優れた均質性および安定性を有する菌試料の安価かつ簡便な製造方法の開発に着手した。特に、本願発明者らは、凍結乾燥菌試料を製造する際に用いる凍結乾燥前の細菌の懸濁溶液(凍結乾燥保護液)に着目して、前述の均質性と安定性に優れた凍結乾燥菌試料の製造方法について検討を行った。本発明者らは、様々な素材を用いて鋭意研究を行った。その結果、本発明を完成するに至ったのである。すなわち、本願第一の発明は、「細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくともタンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。 また、前記タンパク質加水分解物は酵素による加水分解物であることが好ましい。すなわち、本願第二の発明は、「前記タンパク質加水分解物が酵素による加水分解物である請求項1に記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。 さらに、前記の細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法は、大腸菌群または大腸菌に対して特に有効である。すなわち、本願第三の発明は、「前記細菌が大腸菌群または大腸菌である請求項1又は2のいずれかに記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。」である。 また、本出願人は、上記方法によって得られる凍結乾燥菌試料も意図している。すなわち、本願第四の発明は、「所定の細菌を培養して回収した後に、少なくともタンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理して得られる細菌の凍結乾燥菌試料。」である。菌数試料間標準偏差の変動(表3のデータをグラフ化したもの)を示したものである。0日目平均値と一定期間保存後の平均値との差の推移(表5のデータをグラフ化したもの)を示したものである。大腸菌凍結乾燥試料の菌数変動(表6のデータをグラフ化したもの)を示したものである。 以下に、本発明の実施態様について説明する。但し、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。─細菌の凍結乾燥試料─ 凍結乾燥菌試料とは、対象となる細菌を適当な液体に懸濁した後、凍結し、乾燥させて得られるものである。 細菌検査の精度管理では前述のように、均質性および安定性に優れた単一ロットの菌試料を調製する必要がある。通常、菌の均質かつ安定な保存方法としては、滅菌グリセロール水溶液などに目的の菌を懸濁した状態で凍結する方法などが考えられる。しかし、凍結状態の菌試料を技能試験に用いることは好ましくない。なぜならば、温度管理に不備があった場合に菌試料が融解する可能性があるからである。融解した菌試料は均質性および安定性が著しく損なわれるため、精度管理試験が成立しなくなる。 そこで本発明のように、菌試料を凍結乾燥状態で調製するのが好ましい。凍結乾燥菌試料は凍結菌試料が融解する温度(0℃前後)においても、均質性および安定性を保持することができる点で凍結菌試料よりも優れている。本願における凍結乾燥菌試料とは、適当な液体に所定の菌を懸濁したものを凍結してか 乾燥する方法により調製した菌試料である。なお、凍結乾燥時における菌の懸濁用の溶液(凍結乾燥保護液)に用いられる凍結乾燥保護剤として、これまで多くの技術者が検討を重ねてきた結果、様々な物質が見出されており、例えばスキムミルクは広く用いられている。─所定の細菌─ 本発明においては、種々の菌種を用いることができるが、好気性細菌、通性嫌気性細菌に対して好適に適用することができる。通常、細菌検査においては、一般生菌、大腸菌群、大腸菌、黄色ブドウ球菌の測定などのように、複数菌種の検査を行うのが一般的である。これらのいずれの菌種においても本発明は適用できる。また、これらの菌種に限定されず、その他の細菌にも適用可能であることはいうまでもない。但し、本願発明においては、特に大腸菌群および大腸菌に対して有効に用いることができる。 さらに、本発明においては、複数菌種の混合状態の菌試料においても適用することができる。一般的な細菌検査では、1つの検体を用いて複数の検査項目を同時に検査する。そこで、1つの菌試料に複数の菌種を含有させておくと、一般的な細菌検査の手順に即した技能試験を実施することができる。加えて、検査時において、菌試料から菌液を調製する作業が一度で完了するので便利である。本発明においては、このような複数菌種の混合状態としてもよい。─溶液の成分─1)タンパク質加水分解物 本発明における凍結乾燥保護剤には、タンパク質加水分解物を用いる。タンパク質原料、分解方法、分解度の違いなどに基づいて、種々のタンパク質加水分解物が存在するが、細胞や菌の培養においては、酵素的に加水分解したものが広く用いられる。一般に、酸によるタンパク質の加水分解では、タンパク質の分解度が高くなり、ペプチドに対する遊離アミノ酸の割合が大きくなるが、膵液などによる酵素的加水分解では、タンパク質の分解度が低く、ペプチドに対する遊離アミノ酸の割合が小さい。このため、タンパク質を酵素的に加水分解したものが、アミノ酸よりもペプチドを好む細胞や細菌を培養する際の培地成分として好適に用いられている。 従って、本発明におけるタンパク質加水分解物は、酵素により加水分解したものから選択することが好ましい。また、本発明においては、乳タンパク質であるカゼインを原料としたタンパク質加水分解物を凍結乾燥保護剤として用いるのが好ましい。カゼインは乳タンパク質の大部分を占め、一般に乳固形分と呼ばれる成分のうち、乳脂肪分を除いた無脂乳固形分の主要成分の一つである。本発明において最も好ましくはカゼインを膵液によって加水分解した“カジトン”と呼称されるものを凍結乾燥保護剤として用いる。 なお、本発明にいう“カジトン”については、商業的に入手できるものであればよく、また、品名が“カジトン”と称されるものでなくとも、カゼインを膵液によって消化したものであれば本発明にいう“カジトン”に含まれる。具体的な市場のおける商品としては、BactoTM Casitone(Becton, Dickinson and Company)やPANCREATIC DIGEST OF CASEIN(SOLABIA S.A.S)等が挙げられる。2)糖類 本発明における凍結乾燥保護剤には糖類を用いる。本発明にいう糖類とは、公知の単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類および糖アルコールの中から適宜選択できる。具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどの単糖類、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類やマンニトールやソルビトールなどの糖アルコールが挙げられる。─菌試料の製造─ 菌試料の製造方法は特に限定されない。すなわち、所定の菌の懸濁液を調製し、これを凍結乾燥すればよいが、具体的には以下のような方法が可能である。例えば、所定の菌が凍結乾燥の状態で保存されている場合は、当該凍結乾燥菌試料に対して、滅菌済みの希釈液を添加して菌液とし、平板培地に接種して培養する。所定の菌が凍結状態で保存されている場合は、流水中で速やかに融解させた後、一部を採取し、平板培地上に接種して培養する。 生育したコロニーを採取し、液体培養して菌懸濁液とする。もしくは平板培地上に多数のコロニーを生育させた後、滅菌済みの希釈液を添加してコロニーを遊離させ、菌懸濁液として回収することもできる。本発明においては、種々の方法で凍結乾燥菌試料を調製することができる。菌懸濁液、ないしは遠心分離によって菌懸濁液から得た菌体に対して、上述のタンパク質加水分解物および糖類を含む凍結乾燥保護液を添加する。これを凍結乾燥用の菌懸濁液として適当な容器に分注し、凍結乾燥して凍結乾燥菌試料を得ることができる。─凍結および乾燥工程─ 凍結乾燥工程は、減圧する前の1)予備凍結、凍結後の乾燥として2)一次乾燥、3)二次乾燥、および4)封栓、に分かれるのが一般的である。但し、これらの工程に限定されないことはもちろんである。以下に各工程の概要を説明する。1)予備凍結 後述する一次乾燥を実施する前に、菌懸濁液を凍結する工程をいう。なお、一次乾燥工程において棚温度を−30℃以下に保持する必要があるため、予備凍結温度は−30℃以下が好ましく、さらに好ましくは−40℃以下である。さらに、最も好ましくは−50℃以下である。2)一次乾燥 予備凍結された菌液を乾燥する。作業中は当該菌液の温度を−30℃以下に保持することが好ましい。菌液を凍結乾燥機の棚に配置した後、凍結乾燥機内を概ね133pa以下の真空度とする。好ましくは100pa以下の真空度の高い状態とする。133pa以下の真空度に到達したことを確認した後、棚温度を上昇させる。棚温度の昇温パターンは、一次乾燥における保持温度が−30℃以下であれば自由に設定可能である。具体的な例を以下に述べる。−30℃以下で、かつ−30℃になるべく近い温度まで、0.1℃/分以下の速度で上昇させたのち、その棚温度を長時間保持する。棚温度は一次乾燥が終了するまで保持されることが好ましい。棚温度を保持する時間は、菌液中の凍結乾燥保護剤の濃度や保持する棚温度によって異なるが、概ね20時間以上程度であり、好ましくは40時間以上、さらに好ましくは50時間以上である。例えば−40℃から0.1℃/分で100分昇温→−30℃で1800分間保持、という方法が挙げられる。3)二次乾燥 一次乾燥の終了後、続けて二次乾燥へと移行する。例えば、一次乾燥において棚温度を−30℃で長時間保持したのであれば、−30℃から0.1℃/分の速度で100分間昇温(棚温度が−20℃に到達)→0.2℃/分の速度で200分間昇温→20℃で保持、という方法が挙げられる。4)封栓 二次乾燥の終了後においては、バイアル内の真空度が高い状態を保持したまま封栓することが好ましい。なぜならば、凍結乾燥菌試料を真空度の高い状態で密封することが、菌試料に含まれる菌数の均質性および安定性を確保するのに有利だからである。また、凍結乾燥機については種々のタイプがあるが、手動ないしは自動封栓機構付の凍結乾燥機を用いることが好ましい。 以下に本発明の実施例を記載する。但し、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。以下の図表においては便宜的に、凍結乾燥保護剤の名称は略号を用いて表記する。以下に凍結乾燥保護剤の名称と対応する略号を列挙する。スキムミルク:S カジトン:Cマンニトール:M トレハロース:Tグルタミン酸ナトリウム:G L−ヒスチジン:Hなお、略号に続く数値はパーセント濃度(w/v)を表す。S10:スキムミルク10%<試験例1>(スキムミルクおよびカジトン単独、加えてスキムミルクまたはカジトンに糖およびアミノ酸を添加したときの凍結乾燥保護作用の評価) 凍結乾燥保護剤の性能を生残率に基づいて評価した。具体的には、凍結乾燥保護剤として広く用いられているスキムミルクに対して、タンパク質加水分解物であるカジトンを凍結乾燥保護剤として用いた場合の凍結乾燥保護作用の強さの違いについて検討した。 菌試料調製用の菌として、一般生菌はEnterococcus faecalis(NBRC 100480)、大腸菌群はEnterococcus aerogenes(ATCC 13048)、 大腸菌はEscherichia coli(ATCC 11775)を用いた。 まず、それぞれの凍結菌試料を流水中で融解し、その一部を個別にニュートリエントブロスに接種し、35℃で18〜24時間培養した。菌が増殖したニュートリエントブロス0.2mlを、個別に普通寒天培地に塗布し、35℃で20〜24時間培養した。表面に多数のコロニーが生育した各培地に、滅菌生理食塩水10mlずつを添加してコロニーを遊離させ、懸濁した。マクファーランド比濁法によって、懸濁液の菌濃度を各個推定した。この三種の菌懸濁液を適当な濃度に希釈し、滅菌済みの各凍結乾燥保護液一種に対して三種とも添加し、均一になるよう攪拌して、これを凍結乾燥前の菌液とした。 次に、滅菌済みバキュームバイアルに三種の菌を含んだ凍結乾燥保護液を1mlずつ分注して、バキュームバイアルの口が完全に塞がらないようにゴム栓を取り付けた。液体窒素を用いてバイアル内の菌液を急速凍結して、バイアルを−40℃に予冷した凍結乾燥機の棚に速やかに移動させた。凍結乾燥機内の真空度が100pa以下になったことを確認してから一次乾燥、二次乾燥、および封栓工程を実施した。具体的には、棚温度を−40℃から0.1℃/分で100分昇温→−30℃で1800分間保持した後、0.1℃/分の速度で100分間昇温(棚温度が−20℃に到達)→0.2℃/分の速度で200分間昇温→20℃に到達したのを確認し封栓、という手順で実施した。得られた凍結乾燥菌試料と冷凍保管しておいた凍結乾燥前の菌液を用いて、凍結乾燥保護剤の性能評価を行った。 凍結乾燥保護剤の性能評価は生残率、すなわち、凍結乾燥前の菌液に含まれる菌数を100%として、凍結乾燥後の菌試料に含まれる菌数を百分率で表したものに基づいて行った。生残率が100%に近いほど、凍結乾燥保護液の保護作用が強いと判断した。具体的には、凍結乾燥前の菌液を−70℃で凍結し、流水中にて融解させた後のコロニー出現数を計測した。この時のコロニー出現率を100%とし、凍結乾燥後の菌試料のコロニー出現率を算出した。なお、検査用希釈液にはペプトン食塩緩衝液を用いた。また菌数の計測は定法にしたがって、一般生菌については標準寒天培地(ニッスイ)を、大腸菌群についてはデゾキシコレート培地(ニッスイ)を、大腸菌についてはXM-G寒天培地(ニッスイ)を用いた。結果を表1に示す。広く用いられている凍結乾燥保護剤であるスキムミルクの代わりに、タンパク質加水分解物であるカジトンを用いるだけでは、スキムミルクに比べて一般生菌、大腸菌群、大腸菌のいずれもコロニー出現率は向上しなかった。 次に、上記のスキムミルクまたはカジトン単独に対して、糖類とアミノ酸を添加した場合について検討した。具体的には、糖類として、糖アルコールであるマンニトールを5%添加した。また、アミノ酸として、グルタミン酸ナトリウム0.85%およびL-ヒスチジン0.15%を添加したものを調製した。 当該凍結乾燥保護液を用いて、上記と同様に凍結乾燥菌試料を調製して、コロニー出現率を算出した。さらに、カジトン2%に対しては、前述の通りマンニトール5%およびグルタミン酸ナトリウム0.85%、L-ヒスチジン0.15%を添加すると共に、さらに追加して、マンニトールとは異なる糖類としてトレハロースを4%添加した場合についても検討した(表2中の実施例3)。結果を表2に示す。 広く用いられている凍結乾燥保護剤であるスキムミルクに対して、糖類およびアミノ酸を添加した場合(比較例4)では、糖類およびアミノ酸を入れない場合(比較例1)に比べてコロニー出現率の向上は僅かであった。一方、カジトンに糖類およびアミノ酸を添加した場合(実施例1〜3)では、これらを入れない場合(比較例2、比較例3)に比べて、一般生菌、大腸菌群および大腸菌のいずれにおいても、コロニー出現率が明らかに向上した。特に、大腸菌群および大腸菌では、コロニー出現率が著しく向上した。すなわち、タンパク質加水分解物であるカジトンに糖類およびアミノ酸を添加することにより、広く用いられている凍結乾燥保護剤であるスキムミルクよりも作用の強い凍結乾燥保護剤が得られた。<試験例2>(凍結乾燥菌試料の−20℃保存における均質性および安定性の変化) 細菌検査の技能試験では、均質性および安定性に優れた単一ロットの菌試料を供給する必要がある。菌試料が技能試験に使用できるかどうかを判定するために、JIS Z 8405(ISO 13528)附属書B「試験所間による技能試験のための統計的方法」で規定される、均質性と安定性に基づいて評価を行った。同規定において、均質性は試料間標準偏差で表され、安定性は均質性試験時の平均値と、一定期間保存後の試験時平均値との差で表されており、それぞれの値は記載されている計算方法を参考に算出することができる。そして、技能試験に使用できる試料は、均質性および安定性に関する、以下の2つの基準を同時に満たす必要があると規定されている。(i)均質性:(ii)安定性: そこで凍結乾燥試料に含まれる菌数を計測し、その結果から試料間標準偏差、試料の凍結乾燥終了直後の菌数平均値および一定期間保存後の菌数平均値を算出し、(i)式および(ii)式を同時に満たしているかどうか評価を行った。なお、細菌検査の技能試験においては、一般的に目標標準偏差0.25(対数値)が採用されている。従って、(i)式および(ii)式の右辺は0.075(対数値)と読み替えることができる。 <試験例1>と同様の方法で、各種凍結乾燥保護液を用いて凍結乾燥試料を調製し、均質性および安定性の評価を行った。具体的には凍結乾燥終了直後から菌試料を−20℃に保存して、経時的に菌数の試料間標準偏差および平均値を調べた。試料間標準偏差の結果を表3および図1のグラフに示す。また、平均値の結果を表4に示す。さらに表4の結果を元に、0日目の平均値と15日目、45日目および90日保存後の平均値との差を算出した結果を表5に示し、グラフを図2に示す。なお、表3、表4、表5に掲載する数値の単位はLog10cfu/mlとする 表3ないし図1において、試料間標準偏差が0.075よりも大きい場合、均質性の基準となる(i)式を満たすことができず、菌試料は不均質であると評価される。また、表5ないし図2において、0日目との平均値の差が0.075よりも大きい場合、安定性の基準となる(ii)式を満たすことができず、菌試料は不安定であると評価される。まず、均質性について、表3および図1に示すように、スキムミルクを用いた比較例5の検査項目のうち大腸菌において、45日目の試料間標準偏差が0.091となり0.075よりも大きかった。よって45日目において菌試料が不均質であることが判明した。しかし、その他の試験区では試料間標準偏差が0.075より大きくなることはなかった。従って、カジトンおよび糖類、アミノ酸を用いた実施例4,5,6において調製された菌試料は90日間、均質性が保たれていた。 また、安定性について、スキムミルクを用いた比較例5では、表5ならびに図2の結果で明らかであるように、15日目までは安定であると言える。しかし、45日目以降の結果では、特に大腸菌群および大腸菌において、0日目の平均値との差が0.075よりも大きく、菌試料は不安定であることが判明した。一方、同じく表5および図2に示すように、カジトンおよび糖類、アミノ酸を用いた実施例4,5,6において調製された菌試料は90日間、安定性が保たれていた。 以上の結果から、カジトンおよび糖類、アミノ酸を添加した凍結乾燥保護液を用いた菌試料は、スキムミルクを凍結乾燥保護剤として用いた菌試料よりも、はるかに均質性・安定性に優れていることが明らかとなった。<試験例3>(各成分の役割の解析) <試験例1>および<試験例2>で検討した5種類の凍結乾燥保護剤:カジトン2%、マンニトール5%、トレハロース4%、グルタミン酸ナトリウム0.85%、L-ヒスチジン0.15%について、これらの成分のうち、どの成分が本発明の効果を奏しているのかを調べるために以下の実験を行った。 <試験例1>と同様の方法で、各種凍結乾燥保護液を用いて凍結乾燥菌試料の調製を行った。なお、凍結乾燥後の各菌試料の保存温度は、<試験例2>と異なり、4℃とした。凍結乾燥試料調製用の菌としては、凍結乾燥による損傷を受けやすい大腸菌Escherichia coli(ATCC 11775)を用いた。その他の条件は、<試験例2>と同様にした。 結果を表6に、グラフを図3に示す。また、表において、比較例7:実施例7からカジトン2%を除いたもの比較例8:実施例7から糖類(マンニトール5%、トレハロース4%)を除いたもの実施例8:実施例7からアミノ酸(グルタミン酸ナトリウム0.85%、L-ヒスチジン0.15%)を除いたものを示している。なお、表の数値の単位はLog10cfu/mlとする。 アミノ酸であるグルタミン酸ナトリウムおよびL-ヒスチジンの有無は、凍結乾燥による菌数の減少および保存中の菌数の変動にさほど影響を及ぼしていなかった。 一方、カジトンを添加しない場合、あるいは糖類(マンニトールおよびトレハロース)を添加しない場合は、凍結乾燥による菌数の減少が大きく、また保存中の菌数の変動も大きかった。 これらの結果より、タンパク質加水分解物であるカジトンと糖類の組み合わせが、凍結乾燥における菌の損傷抑制と、菌試料の均質性および安定性の確保に必要であることが判明した。細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。前記タンパク質加水分解物が酵素による加水分解物である請求項1に記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。前記細菌が大腸菌群または大腸菌である請求項1又は2のいずれかに記載の凍結乾燥菌試料の製造方法。所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理して得られる細菌の凍結乾燥菌試料。 【課題】 種々の菌種に共通して使用できる、優れた均質性および安定性を有する菌試料の安価かつ簡便な製造方法を提供する。【解決手段】 細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法であって、所定の細菌を培養して回収した後に、少なくとも、タンパク質加水分解物および糖類を含有する溶液を添加して菌の懸濁を行い、当該菌懸濁液を凍結させてから凍結乾燥処理する細菌の凍結乾燥菌試料の製造方法。前記タンパク質加水分解物は酵素による加水分解物であることが好ましい。【選択図】図1


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