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タイトル:公開特許公報(A)_自閉症スペクトラムの検査方法及びオキシトシン投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法。
出願番号:2013043586
年次:2014
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

横山 茂 棟居 俊夫 JP 2014171392 公開特許公報(A) 20140922 2013043586 20130305 自閉症スペクトラムの検査方法及びオキシトシン投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法。 国立大学法人金沢大学 504160781 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 曽我 亜紀 100152319 横山 茂 棟居 俊夫 C12Q 1/68 20060101AFI20140826BHJP C12N 15/09 20060101ALI20140826BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 A 4 OL 15 特許法第30条第2項適用申請有り (1)The 4th Japan−Korea Joint Symposium on Recent Advance in Medical Science 第4回 日本−韓国 交流シンポジウム:医学・医療の最新進歩(予稿集による公開);平成24年11月7日 (2)The 4th Japan−Korea Joint Symposium on Recent Advance in Medical Science 第4回 日本−韓国 交流シンポジウム:医学・医療の最新進歩(発表による公開);平成24年11月7日 (出願人による申告)文部科学省平成24年度科学技術試験研究委託事業「脳科学研究戦略推進プログラム」(神経内分泌仮説に基づく知能障害を有する自閉症スペクトラム障害の診断と治療の展開研究)に係る、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、並びに、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))(精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出)に係る、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA03 4B024GA11 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ02 4B063QQ03 4B063QQ08 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR55 4B063QR62 4B063QS32 4B063QX02 本発明は、自閉症スペクトラムの検査方法及びオキシトシン投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法に関する。(自閉症スペクトラム) 自閉症スペクトラムとは、自閉性障害、アスペルガー障害、レット症候群、小児崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害等の各疾患を広汎性発達障害の連続体の1要素として捉えたものである。該スペクトラムの主な特徴は、対人相互反応の質的な障害、意思伝達の著しい異常又はその発達の障害、活動と興味の範囲の著しい限局性等が挙げられる。(オキシトシン及びオキシトシン受容体) オキシトシン(OXT)は、視床下部の室傍核及び視索上核の大細胞性ニューロンによって産出される9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである。OXTは、視床下部・脳下垂体系を介して体循環中に分泌され、そして、子宮収縮及び射乳のような末梢作用を発揮する。OXTは、脳内の樹状突起又は中枢投射軸索末端からも放出され、親和行動、社会的行動、感情状態、認知機能の調節に関与する中枢神経系の様々な領域に作用する(参照:非特許文献1〜6)。 OXTの作用は、OXT受容体(OXTR)を介して発揮される。OXTRは、ヘテロ三量体Gq/11タンパク質に共役し、ホスホリパーゼCβ(PLCβ)を活性化させ、イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)及び1,2-ジアシルグリセロール(DAG)の生成を誘導する。さらにIP3は、IP3受容体カルシウム(Ca2+)放出チャンネルを介する細胞内Ca2+貯蔵部位からのCa2+放出を刺激し、細胞内カルシウム濃度([Ca2+] i)を上昇させる。一方、DAGは、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化する。これらの脂質代謝産物、Ca2+ 、およびPKCは細胞膜に存在するイオンチャネルに作用しニューロンの膜の電気的興奮性を調節し、ホルモンあるいは神経伝達物質の放出を制御する。 本発明者らは、「OXTR下流の細胞内情報伝達分子とされるcyclic ADP-ribose(cADPR)がリアノジン受容体Ca2+放出チャンネルを介して細胞内貯蔵部位からのCa2+放出を活性化すること」を報告している(参照:非特許文献7)。 従来の研究で、OXTRを介する情報伝達が正常に機能しないと個体の行動異常が起こることが報告されている(参照:非特許文献2、6、8)。OXTR遺伝子欠失マウスは、社会的行動の低下、攻撃的行動の増加、認識の柔軟性の低下及び発作の感受性の増加を示した(参照:非特許文献9、10)。 本発明者らは、「ADP-リボシルシクラーゼ活性を有する膜貫通型タンパクCD38の遺伝子をホモ接合型に欠損させたマウスを使用して、cADPRの生成の低下が視床下部ニューロンでのOXT分泌のためのCa2+誘発性Ca2+放出の機能障害を起こすこと」を報告している。さらに、本発明者らは、「cADPRレベルの減少は、母親の養育行動の著しい欠失並びにOXT及びOXTR遺伝子欠損マウスで観察されるような社会的行動の著しい欠失」を報告している(参照:非特許文献11、12)。また、本発明者らは、「OXTR刺激後のADP-リボシルシクラーゼ活性の増加は成熟雄性マウスの視床下部及び下垂体でのOXT放出を調節すること」を示している(参照:非特許文献13)。 OXTRは、ヒトの精神神経疾患の発症に関与していることが報告されており、精神神経疾患治療の標的分子として研究されている(参照:非特許文献14)。また、染色体3p25に位置するOXTR遺伝子のヘテロ接合性欠失の自閉症患者の母親は強迫性障害を発症したことが報告されている。加えて、多くの研究では、OXTR遺伝子の一塩基多型(SNPs: single-nucleotide polymorphisms)が自閉症スペクトラム、社会不安障害及び総合失調症に関与していることが報告されている(参照:非特許文献15〜22)。 しかしながら、報告されているすべてのOXTR遺伝子のSNPsは、今までのところ、タンパク質コード領域外に存在している。このため、これらのSNPsがタンパク分子としてのOXTRの機能に及ぼす影響は不明であり、その重要性も明確にされていない。(OXT投与による自閉症治療) 本発明者らが所属する研究室では、OXTによる知的障害を伴う自閉症の治療試験研究を行っており、さらに優れた治療効果が観察されたことが報告されている(参照:http://noupro.w3.kanazawa-u.ac.jp/about/oxytocin.html)。 加えて、行動異常を有するCD38−/−マウスにOXTを皮下投与することで、母性行動と社会認識記憶の異常が回復することが報告されている(参照:特許文献1)。 しかしながら、すべてのOXT投与患者において自閉症の改善が見られたわけではない(参照:http://kodomokokoro.w3.kanazawa-u.ac.jp/menu_01/05.html)。WO2008/05991号公報Prog Brain Res 2008, 170:331-336.Science 2008, 322:900-904.J Neuroendocrinol 2008, 20:858-865.Br J Pharmacol 2008, 154:358-368.Trends Cogn Sci 2009, 13:27-35.Nat Rev Neurosci 2011, 12:524-538.J Neuroendocrinol 2010, 22:460-466.Nat Genet 2000, 25:284-288.Proc Natl Acad Sci USA 2005, 102:16096-16101.Biol Psychiatry 2011, 69:875-882.Nature 2007, 446:41-45.Neurosci Lett 2008, 448:67-70.Neuropharmacology 2010, 58:50-55.Horm Behav 2012, 61: 410-418.Biol Psychiatry 2005, 58:74-77.Neurosci Lett 2007, 417:6-9.Mol Psychiatry 2008, 13:980-988.Biol Psychiatry 2008, 63:911-916.Ann NY Acad Sci 2009, 1167:87-102.J Hum Genet 2010, 55:137-141.Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet 2010, 153B:629-639.Nat Neurosci 2012, 5:663-668. 本発明は、自閉症スペクトラムの検査方法及びOXT投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法を提供することを課題とする。 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、自閉症患者群に統計学的に有意に高頻度で存在するSNPのrs35062132の塩基置換を見出し、さらに、該rs35062132の塩基置換の存在によりOXT投与時の[Ca2+] i上昇が有意に低下することを見出し、本発明を完成した。 本発明は以下からなる。 1.被験者から取得したサンプル中のrs35062132がメジャーかマイナーであるかを判定することを特徴とする、自閉症スペクトラム患者へのオキシトシン投与の治療効果予測のための検査方法。 2.前記メジャーは、シトシン/シトシンのホモ接合型である前項1の検査方法。 3.被験者から取得したサンプル中のrs35062132がメジャーかマイナーであるかを判定することを特徴とする自閉症スペクトラムの検査方法。 4.前記メジャーは、シトシン/シトシンのホモ接合型である前項3の検査方法。 本発明の検査方法で使用するrs35062132の塩基置換は、統計学的に有意に高い頻度で自閉症患者群に存在することを確認しているので、自閉症スペクトラムの検査方法に使用することができる。さらに、該rs35062132の変異の存在によりOXT投与によっても[Ca2+] iが上昇しないことを確認しているので、自閉症スペクトラム患者の治療には有効でない又は通常のOXT投与プロトコールでは十分な治療効果を達成できないことを予測することができる。ヒトOXTR遺伝子におけるrs35062132の3つの対立遺伝子の検出。(A)ヒトOXTR遺伝子及びヒトOXTRのカルボキシ(C)末端位置のアミノ酸配列の概要図。Gqとの共役に必要な領域に下線、PKCリン酸化予想部位を実線で囲み、及び3個のセリンが連続する領域に2重下線を付した。(B)rs35062132(c.1126C > G/T; R376G/C)の代表的な電気泳動のデータ。左はメジャーな対立遺伝子(通常型対立遺伝子)のホモ接合体(376R/376R)、中央はc.1126C > G (376R/376G)、右はc.1126C > T (376R/376C) の遺伝子型をそれぞれ示しており、メジャーな対立遺伝子とマイナーな対立遺伝子とのヘテロ接合体である。矢印は、SNPの位置を示す。[Ca2+] i測定の結果。(A)様々な濃度のOXT添加による[Ca2+] iの変化を、hOXTR-376R-EGFP、hOXTR-376G-EGFP、又はhOXTR-376C-EGFPを発現するHEK-293細胞を用いて測定した。(B)OXT濃度と[Ca2+] iの初期ピーク値との関係。細胞には、本図に記載の濃度のOXTを添加した。それぞれのプロットは、OXT処理後の初期ピークでの[Ca2+] i(%)で示した。データは、平均±標準誤差(n = 8-30 ; 3あるいは 4 回の独立した細胞培養から得られ、測定に供した細胞数の総計)で示した。統計学的有意差は、スチューデントt-検定(*P <0.05, **P < 0.01; hOXTR-376Rとの比較による)によって評価した。 本発明は、被験者由来のサンプル中のrs35062132がメジャー(シトシン/シトシンのホモ接合型)であるかマイナー(シトシン/グアニンのヘテロ接合型、シトシン/チミンのヘテロ接合型等)であるかを判定することにより、自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果予測の検査並びに自閉症スペクトラムの検査方法(以後、「両検査方法」と称する場合がある)を提供する。(自閉症スペクトラムの検査方法) 本発明の自閉症スペクトラムの検査方法は、OXTR遺伝子の一塩基多型であるrs35062132(参照:図1)を判定することを特徴とする。一塩基多型(SNPs)とは、遺伝子多型(genetic polymorphisms)に含まれるものであり、個体間における一塩基の違いを意味する。遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差である。本明細書において、SNPsを表す番号であるrs番号は、NCBIのデータベース(Build 35)に掲載されているヒトの遺伝子情報を参酌したものである。 本発明の自閉症スペクトラムの検査方法において、自閉症スペクトラム患者である又は疑わしいと判定する指標は、対立遺伝子型(以下、単に「遺伝子型」とも称する場合もある)を確認することにより行われる。下記実施例1の結果より、遺伝子型の違いにより、自閉症スペクトラム患者である、自閉症スペクトラム患者であると疑わしい、又は自閉症スペクトラム患者ではないと判定できると考えられる。 本発明において、rs35062132における遺伝子型が、C/C(シトシンのホモ接合型)である場合をメジャーとし、C/G(シトシンとグアニンのヘテロ接合型)、C/T(シトシンとチミンのヘテロ接合型)、G/G(グアニンとグアニンのホモ接合型)、T/T(チミンとチミンのホモ接合型)及びG/T(グアニンとチミンのヘテロ接合型)である場合をマイナーと定義する。rs35062132の遺伝子型がマイナーである場合は、自閉症スペクトラム患者である可能性が高いと判定する。 本発明の自閉症スペクトラムの検査方法の検査工程の例は、以下の通りである。 (1)被検者から取得したサンプルにおいて、SNP(rs35062132)について遺伝子型を決定する工程 (2)該遺伝子型がマイナーである場合には、自閉症スペクトラム患者である又は疑わしいと判定する工程 なお、上記(1)の工程において、さらに他のSNPs若しくは他の遺伝子多型の遺伝子型を決定する工程を含んでいてもよい。複数のSNPsの遺伝子型を検査に組み込むことにより、自閉症スペクトラムの検査方法の精度を高くすることができる。 具体的なSNPsの例としては、OXTR遺伝子のイントロンのSNPs{rs4564970 [Neurosci Lett 2010, 474:163-167.], rs237897 [Mol Psychiatry 2008, 13:980-988.], rs53576 [Biol Psychiatry 2005, 58:74-77., Neurosci Lett 2007, 417:6-9.], rs2254298 [Biol Psychiatry 2005, 58:74-77., Neurosci Lett 2007, 417:6-9., Mol Psychiatry 2008, 13:980-988.], rs2268493 [J Neurodev Disord 2011, 3:101-112.], rs7632287 [J Neurodev Disord 2011, 3:101-112.], rs11720238 [Neurosci Lett 2010, 474:163-167.]}、3'非翻訳領域のSNPs{rs1042778 [J Neurodev Disord 2011, 3:101-112.]}、遺伝子間領域のSNPs{rs7632287, rs11720238 [Neurosci Lett 2010, 474:163-167.]}等が挙げられるが特に限定されない。(自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果予測のための検査方法) 本発明の自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果予測のための検査方法は、OXTR遺伝子の一塩基多型であるrs35062132(参照:図1)を検査することを特徴とする。 本発明の自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果予測のための検査方法において、OXT投与治療効果があるかどうかを判定する指標は、対立遺伝子型を確認することにより行われる。下記実施例2の結果より、遺伝子型の違いにより、OXT投与によっても[Ca2+] iの上昇程度が異なり、OXT投与治療効果があるかどうかを判定できると考えられる。 本発明において、rs35062132における遺伝子型が、C/C(シトシンのホモ接合型)である場合をメジャーとし、C/G(シトシンとグアニンのヘテロ接合型)、C/T(シトシンとチミンのヘテロ接合型)、G/G(グアニンとグアニンのホモ接合型)、T/T(チミンとチミンのホモ接合型)及びG/T(グアニンとチミンのヘテロ接合型)である場合をマイナーと定義する。rs35062132の遺伝子型がメジャーである場合は、OXT投与治療効果が期待できると判定する。なお、自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果とは、自閉症スペクトラム患者のいずれか1以上の症状を改善及び/又は完治することを意味する。 本発明の自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果予測のための検査方法の検査工程の例は、以下の通りである。 (1)被検者から取得したサンプルにおいて、SNP(rs35062132)について遺伝子型を決定する工程 (2)該遺伝子型がメジャーである場合には、自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療効果が期待できると判定する工程(自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療方法) 自閉症スペクトラム患者のOXT投与治療方法は、特に限定されないが、OXTを医師の指示に基づき、適切な量を朝夕2回両鼻に点薬することが好ましい。(検査対象) 本発明の両検査方法は、黄色人種、好適には東アジア人種、特に好適には日本人に有効であることが期待される。(被験者) 本発明の両検査方法の被験者とは、自閉症スペクトラムの症状を有する又は有すると疑われる個体をいい、ヒト以外にもチンパンジー等を含むものであるが、ヒトが最も好ましい。上記において、被検者から取得したサンプルとは、被検者由来であれば特に限定されないが、例えば血液、リンパ液、精液、尿、唾液(含:口内粘膜細胞)、その他の体液、及び生体組織等が挙げられ、特に血液(リンパ球)等が採取などの取り扱いが容易で、侵襲性が低いという点で最も好ましい。被検者からサンプルを取得する方法は、特に限定されず、自体公知の方法によることができる。(サンプルの処理方法) 上記被検者から取得したサンプルは、SNP(rs35062132)を検出するために、予め処理することができる。サンプルからのDNA又はmRNAの抽出方法は、特に限定されず、自体公知の方法によることができる。例えばDNAを抽出する場合は、塩析、PCI(フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール抽出)法、市販のDNA抽出キット等を用いる方法、その他公知の方法によることができる。例えばmRNAを抽出する場合は、PCI法において溶液を酸性にして水層から抽出する方法、オリゴdTカラム等を利用する方法、市販のRNA抽出キットを用いる方法、その他の公知の方法によることができる。 サンプルから得られたDNA又はmRNA等のポリヌクレオチドの量が少ない場合には、必要に応じて、公知の方法によってこれらを増幅することができる。ポリヌクレオチドの増幅方法は、特に限定されず自体公知の方法を採用することができ、増幅の対象がDNAの場合は、例えばPCR(polymerase chain reaction)法やLAMP(loop-mediated isothermal amplification)法を利用することができ、増幅の標的となる対象がmRNAの場合には、RT (reverse transcription)-PCR法やRT-LAMP法等を利用することができる。 上記サンプルから得られたDNA又はmRNAから、SNP(rs35062132)を含む領域を増幅することができる。増幅されたヌクレオチド断片は、後述する対立遺伝子型を決定する方法に応じて、測定可能なサイズのものであればよい。測定可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100 bp以上、好ましくは約200 bp以上、より好ましくは約400 bp以上の長さを有し得る。 上記SNP(rs35062132)を含む領域を増幅するためのプライマーは、rs35062132を含む領域のポリヌクレオチドの、アンチセンス鎖及びセンス鎖の3'末端と、それぞれ特異的にハイブリダイズする、フォワード(センス)プライマーとリバース(アンチセンス)プライマーが含まれる。これらのプライマーは、rs35062132を含む領域の塩基配列に合わせて、適宜デザインすることができる。 プライマーのサイズは、SNP(rs35062132)を含む領域を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100 bp、より好ましくは約18〜50 bpであり得る。また、該プライマーは、標識物質により標識されたものであっても良い。標識物質としては、蛍光分子、放射性物質、ビオチン、ジゴキシゲニン、酵素標識等が挙げられる。ポリヌクレオチドへの標識物の結合は、自体公知の方法に従って行うことができる。 本発明における具体的なプライマー及びプローブとしては、以下に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる(参照:表1)。 rs35062132を含む領域増幅用プライマー フォワードプライマー(FWD8): GCTCCGCCAGCTACCTGAAG(配列番号12) リバースプライマー(REV7): TGGTGGGTCACGCCGTGGAT(配列番号13) グリシン型(マイナー型)認識プローブ(376G-FAM): TGAGCCATGGCAGCTCC(配列番号14) システイン型(マイナー型)認識プローブ(376C-FAM): TGAGCCATTGCAGCTCC(配列番号15) アルギニン型(メジャー型)認識プローブ(376R-VIC): TGAGCCATCGCAGCTCC(配列番号16) 本発明の検査方法は、サンプルから得られたDNA又はmRNA等のポリヌクレオチド、又は上記増幅により得られたポリヌクレオチド断片により、SNPのタイプを決定する工程を含む。SNPのタイプを決定する方法は、自体公知の方法を用いることができ、例えば、シークエンサー等を用いて直接塩基配列を決定するdirect sequence法(ジデオキシ法)の他、RELP(制限酵素断片長多型性)を利用するPCR-RELP法、TaqMan法、DigiTag2法、シングルヌクレオチドプライマー伸長法、SnaPshot法(ABI)、ASP-PCR法、PCR-SSO(sequence specific oligonucleotide)法、PCR-SSP(sequence specific primer)法、PCR-SSCP(single-stranded conformational polymorphism analysis)法、電気泳動等による核酸の長さの確認、及びDNAチップ等の遺伝子多型検査用器具等を用いる方法等が挙げられる。 以下に示す実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。すべての本実施例は、金沢大学医学部の倫理委員会によって承認されており、ヘルシンキ宣言に従っており、かつ参加者に対するインフォームドコンセントの後に行われた。 本実施例では、自閉症患者と健常者(対照)のOXTR遺伝子のタンパク質コード領域の塩基置換によって3つの対立遺伝子を有するrs35062132について調査した。詳細は、以下の通りである。(参加者) 金沢大学病院の外来精神科で132名の自閉症スペクトラム障害の被験者を募集した。すべての自閉症スペクラム障害の被験者は、広汎性発達障害のDSM-IV基準を満たしていた。診断は、インタビュー及びカルテレビュー(参照文献:Neurosci Res 2010, 67:181-191.)を基にして2人の経験豊富な児童精神科医によって行った。被験者には明らかな身体的奇形は見られなかった。2人の経験豊富な児童精神科医は、独立して、被験者とその両親との半構造的行動観察及び面接によって大多数の患者を自閉症スペクトラム障害であると診断した。該両親とのインタビューは、自閉症特有行動及び症状の評価に利用した。該児童精神科医は、アスペルガー症候群診断インタビュー(Asperger Syndrome Diagnostic Interview:Autism 2001, 5:57-66.)、改定自閉症診断インタビュー(Autism Diagnostic Interview-Revised:J Autism Dev Disord 1994, 24:659-685.)、広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(Pervasive Developmental Disorders Autism Society Japan Rating Scale:Autism Society Japan; 2006.)及び社会及びコミュニュケーション障害の診断インタビュー(Diagnostic Interview for Social and Communication Disorders:J Child Psychol Psychiat 2002, 43:307-325.)のいずれか一つの方法を使用した。251名からなる対照群は、互いに親族ではない健常者のボランティアである。すべての患者と対照は、非日本人の両親や祖父母のいない日本人である。(Re-sequencing) ゲノムDNAを、Wizard Genomic DNA Purification kit (Promega、マジソン、ウィスコンシン州、米国)を用いて静脈血から、又は、ISOHAIR DNA extraction kit (ニッポンジーン、東京、日本)を用いて爪から、抽出した。hOXTR遺伝子のエキソン3及び4を含有するDNA断片は、2.5 ng ゲノムDNA、200 μM dNTPs、200 nM 各プライマー、4 μl Ampdirect G/C(島津製作所、京都市、日本)、1 unit Ex Taq DNA ポリメラーゼ(宝酒造、大津市、日本)を含む20 μl 反応液中でPCRにより増幅した。増幅法は、96℃での1分間の変性、続いて96℃での30秒間、65℃での1分間、72℃での1分間を35サイクルで行った。プライマーは、エクソン3用FWD1若しくはFWD4及びREV1、及びエクソン4用FWD5及びREV3を使用した(参照:表1)。増幅後、PCR産物は、High Pure PCR Cleanup Micro Kit(Roche、マンハイム、ドイツ)を用いて精製し、さらに製造業者のプロトコールに従ってサイクルシーケンス反応(BigDye ver.1.1;Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)に供し、そして、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で分析した。プライマーはFWD1〜FWD5(配列番号1、3、5、7、9)及びREV1〜REV6(配列番号2、4、6、8、10、11)を使用した(参照:表1)。(リアルタイムPCR) 2つのプライマー、すなわちFWD8(参照:表1の配列番号12)及びREV7(参照:表1の配列番号13)を、rs35062132(g.8734707; c.1126; mRNAポジション 1748に対応する)を含む138 bpの染色体遺伝子領域を増幅するように設計した。3種類のTaqMan minor groove binder(MGB)プローブ(376G-FAM及び376C-FAMはマイナー型対立遺伝子を標的とし、376R-VICはメジャー型対立遺伝子を標的としている)は、カスタムメード合成にてApplied Biosystemsから入手した。PCRは、10 μl TaqMan universal master mix(Applied Biosystems)、200 nM 各プライマー、100 nM 376R-FAM、100 nM 376G-VIC若しくは376C-VIC、及び10 ngサンプルDNAを含む20 μlの混合物中で行った。増幅は、ViiA 7 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して、60℃30秒間、95℃5分間、続いて95℃15秒間、60℃1分間を40サイクルの反応プロトコールで行った。データは、SDS2.3ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて分析した。(統計分析) 本実施例1及び下記実施例2の臨床遺伝学的研究から得られたデータは、分割表及びフィッシャーの直接確率検定(GraphPad Prism 5; GraphPad Software Inc. 、サンジエゴ、カリフォルニア州、米国)を用いて分析した。in vitroの実験結果から得られたデータは、平均±標準誤差で示した。統計学的有意差は、interactive fitting program(GraphPad Prism 5; GraphPad Software Inc.)を用いて、スチューデントt-検定又は二元分散分析(ANOVA)によって検定した。P値が0.05より小さい場合、統計学的有意差があるとみなした。(遺伝子分析結果) エクソン3及び4でコードされるhOXTRの細胞内領域のアミノ酸配列の概要を図1Aに示す。本実施例により、下記表2に示すように、3種類の一塩基多型(SNPs; rs4686302, rs151257822及びrs35062132)を検出した。c.1126 G > C (rs35062132; R376G)に関しては、2名の自閉症患者で検出されたが、対照群では検出されなかった。よって、rs35062132を分析対象とした。 追加の73名の自閉症患者と221名の対照群のrs35062132塩基置換を、TaqMan-based real-time PCR 方法を用いて解析し、合計132名の自閉症患者と251名の対照群のrs35062132の遺伝子型を解析した。R376Gアミノ酸置換(rs35062132; c.1126C > G)を持つヘテロ接合体は、下記表3に示すように、自閉症患者群で6名(4.5%)及び対照群で2名(0.8%)であった。R376Cアミノ酸置換(c.1126C > T)を持つヘテロ接合体は、表3に示すように、自閉症患者群で1名(0.8%)及び対照群で3名(1.2%)であった。カイ二乗(χ2)適合度検定では、rs35062132の遺伝子型頻度分布は自閉症患者群(χ2 = 0.172, P = 0.98)及び対照群(χ2 = 0.144, P = 1.00)ともにハーディ・ワインベルグ平衡から外れていなかった。C/G遺伝子型では、有意な自閉症リスクの上昇が認められた(オッズ比=5.90; 95%信頼区間= 1.17-29.7; P = 0.023, フィッシャーの直接確率検定; 参照:表3)。G対立遺伝子は、自閉症リスクの上昇に関与していると考えられた(オッズ比=5.80; 95%信頼区間 = 1.16-29.0; P = 0.023, フィッシャーの直接確率検定; 参照表3)。 以上により、rs35062132の塩基置換は、自閉症リスクに有意に関与していることが結論づけられた。 本実施例では、rs35062132の塩基置換とOXT投与による[Ca2+] i上昇との関係を確認した。より詳しくは、メジャー型及びマイナー型hOXTRを発現するHEK-293細胞の[Ca2+] iが、OXT投与によって異なる上昇度を示すかどうかを確認した。詳細は、以下の通りである。(部位特異的変異導入) アミノ酸残基376に変異を有するhOXTRをコードするcDNAは、文献(Anal Biochem 2003, 319:335-336.)を参考にして、部位特異的変異導入によって製造した。メジャー型hOXTR-376RをコードするcDNAを有するpCHOXTR(参照:J Neuroendocrinol 2010, 22:460-466.)を、PCR用テンプレートとして使用した。R376G-FWD及びR376G-REV(参照:表1の配列番号17、18)はR376G置換用プライマーとして、R376C-FWD及びR376C-REV(参照:表1の配列番号19、20)はR376C置換用プライマーとして使用した。増幅産物は、EX Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造)により72℃で10分間処理し、pCR2.1-TOPOベクター(Invitorogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)にクローニングして、マイナー型受容体(hOXTR-37G及びhOXTR-376C)をコードするcDNAを有するプラスミド(pCHOXTR-376G及びpCHOXTR-376C)を製造した。 最後に、挿入したcDNAを塩基配列決定により確認した。(発現プラスミドの構築) pCHOXTR、pCHOXTR-376G、及びpCHOXTR-376Cからの1.4kbのEcoRI断片を、それぞれ、哺乳動物発現プラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen)のEcoRI部位に挿入し、pcDNAHOXTR-376R、pcDNAHOXTR-376G、及びpcDNAHOXTR-376Cを製造した。 実施例では、文献(Anal Biochem 2003, 319:335-336.)を参考にして、EGFP-FWDプライマー(参照:表1の配列番号21)及びEGFP-REVプライマー(参照:表1の配列番号22)を使用して、pCHOXTR-376R-EGFP、pCHOXTR-376G-EGFP、及びpCHOXTR-376C-EGFPを製造した。(細胞培養及びトランスフェクション) ヒト胎児腎臓由来HEK-293細胞及びアフリカミドリザル腎臓由来COS-7細胞を、95%空気及び5%CO2の加湿雰囲気下で37℃、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM中で維持した。NG108-15神経芽細胞腫×神経膠腫ハイブリッド細胞は、文献(Biochem J 2000, 345:207-215.)を参考にして、培養した。 細胞は、培養皿に80%〜90%コンフルエントにして培養した。製造業者のプロトコールに従って、FuGENE HD Transfection Reagent(Roche)を用いて、上記で製造した発現プラスミドをトランスフェクトした。(細胞内カルシウム濃度測定) 細胞内カルシウム濃度([Ca2+] i)は、Ca2+蛍光性指示薬 fura-2-acetoxymethyl ester (fura-2/AM)を用いて測定した。pHOXTR-376R-EGFP、pHOXTR-376G-EGFP又はpHOXTR-376C-EGFPをトランスフェクトしたHEK-293細胞又はNG108-15細胞を、完全培地中で最終濃度3 μMになるようにfura-2/AMを負荷し、37℃でインキュベートした。30分間の負荷後に、細胞をHBS溶液(145 mM NaCl, 5 mM KCl, 1 mM MgCl2, 20 mM Hepes-NaOH, 2 mM CaCl2, 20 mM glucose, pH 7.4)で3回洗浄した。EGFP標識OXTRs発現細胞をOXT添加前に488nmの励起波長で可視化し、測定対象として設定した。その上で文献(Biochem J 2000, 345:207-215.)を参考にして、fura-2/AMを負荷した細胞に340nm及び380nm励起光を交互に照射し、直径10-20 μmのピンホールを通過した蛍光をCa2+蛍光顕微分光システム(OSP-3 Model; オリンパス、東京、日本)を用いて37℃で測定した。測定は、OXT添加後10秒間隔で5分間に渡って実施した。[Ca2+] iの算出は、340nm及び380nmの励起光で得られた蛍光強度の比(F340/F380)に基づいた。すべてのデータは、OXT添加10秒前に記録したベースラインの蛍光(F0)で正規化した値(F/F0)として表した。([Ca2+] i測定結果) OXT濃度が10-10 M以下では、hOXTR-376R-EGFP、hOXTR-376G-EGFP又はhOXTR-376C-EGFPを発現する細胞のいずれにおいても、 [Ca2+] iの初期ピーク値の上昇を確認することができなかった{参照:図2(A),(B)}。 hOXTR-376R-EGFPを発現する細胞では、OXTを濃度にして10-9 M以上で投与することにより、[Ca2+] iの初期ピーク値の上昇を確認することができた。最大の[Ca2+] i上昇は、OXTを10-7 Mの濃度になるように添加した時に観察された{参照:図2(A),(B)}。 hOXTR-376G-EGFPを発現する細胞の最大の[Ca2+] i上昇は、OXT濃度が10-8 Mになるように添加した時に得られた。10-7 M及び10-6 MのOXT添加時の[Ca2+] iのピークは、10-8 MのOXT添加時と比較して、明らかに低かった{参照:図2(A),(B)}。 hOXTR-376C-EGFPを発現する細胞の最大の[Ca2+] i上昇は、OXT濃度が10-7 Mになるように添加した時であった。10-6 MのOXT投与時の[Ca2+] iのピークは、10-7 MのOXT添加時と比較して、明らかに低かった{参照:図2(A),(B)}。 これらの結果から、マイナー型OXTR(hOXTR-376C又はhOXTR-376G)を持つ細胞は、メジャー型OXTR(hOXTR-376R)を持つ細胞と比較して、OXT投与による[Ca2+] i上昇度が有意に低いことが明らかになった。 OXTによるOXTR刺激→GTP結合タンパク質 (Gq) → イノシトール1, 4, 5三リン酸生成 → [Ca2+] i上昇という細胞内情報伝達経路を経て各種イオンチャネルが活性化あるいは不活性化され、さらにニューロンの電気的興奮性が調節されることが報告されている(参照:J. Neurochem. 119, 324-331.)。 従って、hOXTR-376C又はhOXTR-376Gを持つ自閉症患者では、OXT投与時の[Ca2+] i上昇度が有意に低いためにニューロンの活動興奮が適切に調節されないことが予測される。従って、マイナー型OXTR(hOXTR-376C又はhOXTR-376G)を持つ自閉症患者では、メジャー型OXTR(hOXTR-376R)を持つ自閉症患者と比較して、OXT投与による自閉症治療の効果がない、あるいは低いことが予測される。同時に、副作用が生じる可能性もある。 自閉症スペクトラムの検査方法及びOXT投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法を提供する。被験者から取得したサンプル中のrs35062132がメジャーかマイナーであるかを判定することを特徴とする、自閉症スペクトラム患者へのオキシトシン投与の治療効果予測のための検査方法。前記メジャーは、シトシン/シトシンのホモ接合型である請求項1に記載の検査方法。被験者から取得したサンプル中のrs35062132がメジャーかマイナーであるかを判定することを特徴とする自閉症スペクトラムの検査方法。前記メジャーは、シトシン/シトシンのホモ接合型である請求項3に記載の検査方法。 【課題】自閉症スペクトラムの検査方法及びオキシトシン投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法を提供することを課題とする。【解決手段】自閉症患者に統計学的に有意に高頻度で存在するSNPとしてrs35062132の塩基置換を見出し、さらに、該rs35062132の塩基置換の存在によりOXT投与によっても細胞内カルシウム濃度が上昇しないことを見出し、自閉症スペクトラムの検査方法及びオキシトシン投与による自閉症スペクトラムの治療効果を予測する方法を完成した。【選択図】なし配列表


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