タイトル: | 公開特許公報(A)_液体製剤の滅菌方法 |
出願番号: | 2013042197 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 9/08,A61L 2/08,A61K 31/375,A61K 31/167,A61K 31/704,A61K 31/155 |
山口 透 JP 2014169250 公開特許公報(A) 20140918 2013042197 20130304 液体製剤の滅菌方法 日本電子照射サービス株式会社 509092041 長谷川 芳樹 100088155 黒木 義樹 100113435 柳 康樹 100162640 山口 透 A61K 9/08 20060101AFI20140822BHJP A61L 2/08 20060101ALI20140822BHJP A61K 31/375 20060101ALI20140822BHJP A61K 31/167 20060101ALI20140822BHJP A61K 31/704 20060101ALI20140822BHJP A61K 31/155 20060101ALI20140822BHJP JPA61K9/08A61L2/08A61K31/375A61K31/167A61K31/704A61K31/155 3 OL 16 4C058 4C076 4C086 4C206 4C058AA22 4C058BB06 4C058KK03 4C058KK21 4C058KK50 4C076AA11 4C076FF70 4C076GG43 4C086AA10 4C086BA18 4C086EA10 4C086MA07 4C086MA10 4C086MA17 4C086NA20 4C206AA10 4C206GA16 4C206HA10 4C206MA37 4C206NA20 本発明は、液体製剤の滅菌方法に関する。 医薬品の滅菌方法には、高圧蒸気滅菌、ろ過滅菌、無菌操作法、放射線滅菌等が存在する。 しかしながら、高圧蒸気滅菌は、成分の劣化による有効成分濃度の低下、変質、臭い、着色が生じる場合があり、広く利用することができない。また、ろ過滅菌及び無菌操作法の無菌性保証水準(sterility assurance level、SAL)は10−3であり、本来の滅菌に求められる10−6(100万個の製品あたり1個の製品に菌が残る可能性があるレベル)に達していない。また、液体製剤に放射線を照射すると、有効成分の分解による有効成分濃度の低下、着色等の問題が生じる場合がある。このため、滅菌目的で液体製剤に放射線を照射している事例は少ないのが現状である。 例えば、特許文献1には、ポビドンヨードと水とヨウ化物とを混合して作製したポビドンヨード溶液に、10kGy以上50kGy以下の放射線を照射して滅菌された、ポビドンヨード製剤が記載されている。特許文献1によれば、ポビドンヨードに所定のヨウ化物を混合することにより、放射線の照射による有効ヨウ素の減衰が好適に抑制される。特開2011−26248号公報 しかしながら、特許文献1の方法では、有効成分濃度の低下の抑制が不十分な場合がある。また、特許文献1の方法は、ポビドンヨード以外の液体製剤には適用できない場合がある。 そこで、本発明は、無菌性保証水準10−6を満たすことができ、有効成分濃度の低下を十分に抑制することができ、広範囲の液体製剤に適用可能な液体製剤の滅菌方法を提供することを目的とする。 本発明は、凍結状態の液体製剤(タンパク質製剤及び合成高分子製剤を除く)に、放射線を照射する工程を含む、液体製剤の滅菌方法を提供する。 上記本発明の滅菌方法によれば、無菌性保証水準10−6を満たすことができる。また、液体製剤の有効成分濃度の低下を十分に抑制することができる。さらに、広範囲の液体製剤に適用することができる。 上記の放射線は、8kGyを超える放射線であることが好ましく、12kGyを超える放射線であることが好ましい。 照射する放射線の線量が高いほど滅菌効果を高めることができる。一般的には、放射線の照射線量を高めると、有効成分濃度の低下がより大きくなる。これに対し、本発明によれば、12kGyを超える線量の放射線を照射しても、有効成分濃度の低下を十分に抑制することができる。図1は、放射線が物質に照射されたときの反応を説明する図である。図2は、グルコン酸クロルヘキシジン製剤への放射線照射において、温度とグルコン酸クロルヘキシジンの濃度との関係を示すグラフである。図3a及びbは、氷結晶に放射線が照射された場合の影響を説明する図である。図4は、氷に放射線が照射された場合の挙動を示す図である。図5は、グルコン酸クロルヘキシジンのHPLCの結果を示すクロマトグラフである。図6は、グルコン酸クロルヘキシジンの紫外吸収の測定結果を示すグラフである。(放射線の作用) 図1は、放射線が物質に照射されたときの反応を説明する図である。放射線が物質に入った場合、加速粒子又は電磁波から放出されたエネルギーによる軌道(スパー)において、ランダムで局所的な反応が起こる。 例えば、低濃度の水溶液に常温で電子線を照射すると、量的に最も多い水の分解により様々な活性種(ラジカル及び安定分子)が生成される。具体的には、下記式(I)に示す反応により、最終的に6種の活性種が生成されることが知られている。また、これらのラジカルの多くは約10−9秒でスパー内反応が終了し、10−8秒で拡散が終了する。例えば、発生する活性種のなかでも反応性が高いOHラジカルは、寿命が70ナノ秒と短い。このため、OHラジカルの運動速度が仮に109m/秒であったとしても移動距離は約20nm程度と短い。そこで、OHラジカルは、スパー内部のラジカル周辺に存在するものと反応する。このように、ラジカルは、生成後短時間のうちに近接する溶質(RH)及び溶媒と反応し、その後、下記式(II)〜(V)に示すラジカル同士又は溶質との反応により失活する。 一方、同時に生成される過酸化水素等の安定分子は、寿命が長いため拡散により系内に広がり反応する。具体的には、下記式(VI)に示す反応等により、系内に拡散した安定分子が経時的に溶質に作用すると考えられる。以上のように、水溶液中では、放射線により発生した活性種による溶質の分解が起こり、有効成分濃度の低下が起こると考えられる。 H2O→eaq−+・H+・OH+H2+H2O2+H3O+ …(I) eaq−+H3O+→・H+H2O …(II) ・OH+H2→H2O+・H …(III) eaq−+H2O2→・OH+OH− …(IV) RH+・OH→R+H2O …(V) RH+H2O2→R+H2O+OH− …(VI) 下記表1に示すように、77Kで氷にγ線を照射した場合の電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定の結果、OHラジカルやOOHラジカルが発生することが知られている。 しかしながら、発生したラジカルは、氷の結晶内に存在するため移動が制限される。後述する実験例12において示すように、精製水を凍結させた氷に放射線を照射した結果、氷はグレーに着色することが明らかとなった。これは、氷に放射線を照射すると氷結晶内にカラーセンターが生成されるとともに、結果的に電子が氷結晶内に捕集されることを示している。この結果、生成されるラジカルの量が少なくなり、溶質への加速電子やラジカルの作用が緩和されると考えられる。このことが、有効成分濃度の低下の抑制に寄与していると考えられる。(液体製剤) 液体製剤としては、水溶液、懸濁液、ゲル等の製剤が挙げられる。より具体的には、注射剤、輸液剤、点眼剤、透析溶剤、外用液剤等が挙げられる。ここで、液体製剤の有効成分は、放射線照射による有効成分濃度の低下の抑制の効果が高いことから、分子量約1万以下の低分子化合物であることが好ましい。後述する実験例13において示すように、凍結状態で放射線照射した液体製剤中の低分子化合物は、水和によりエネルギー的に安定化される。低分子化合物のこのような挙動は、より高分子であるタンパク質や合成高分子とは異なっていると考えられる。このため、低分子化合物は、タンパク質や合成高分子よりも、凍結状態での放射線照射による有効成分濃度の低下の抑制の効果が高いと考えられる。(凍結状態) 凍結状態とは、液体製剤の溶媒(水)が凍っている状態であり、大気圧下においては約0℃以下の状態である。好ましい凍結温度に下限は存在しないが、温度が低いほど凍結にコストがかかる観点から、−80℃程度を下限としてもよい。液体製剤の凍結には、一般的なフリーザーを用いてもよいし、液体窒素等の冷却媒体を用いてもよい。凍結する液体製剤は、無菌性を確保する観点から、密封容器に収容されていることが好ましい。 密封容器の材質としては、保形性、耐薬品性、無菌状態を維持できるバリア性等を備えたものであれば特に限定されず、例えば、ガラスやプラスチックが挙げられる。プラスチックとしては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。密封容器は、これらの材質からなる多層構造を有していてもよい。(放射線の照射) 放射線としては、電子線、γ線、X線等を使用できる。放射線照射装置としては、通常の医薬品の放射線照射で使用されるものを使用することができる。照射する放射線の線量は、5kGyを超えることが好ましく、8kGyを超えることがより好ましく、12kGyを超えることが更に好ましい。放射線の線量が高いほど滅菌効果が高い。しかしながら、高い線量においては有効成分濃度の低下がより大きくなるため、放射線の線量の上限は、例えば、約100kGyであることが好ましい。 凍結状態の液体製剤に放射線を照射する。例えば、放射線照射装置に冷却機能がない場合には、ドライアイス等の冷却媒体上に凍結状態の液体製剤を設置して、放射線を照射してもよい。放射線の照射後の液体製剤は、常温又は低温で保管することができる。しかしながら、後述する実験例11で示すように、ラジカルの反応を抑制する観点から、凍結された液体製剤の融解は例えば10℃以下の低温で行うことが好ましく、保管は例えば5〜10℃の低温で行うことが好ましい。これにより、有効成分濃度の低下を更に抑制することができる。〔実験例1〕(0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤への放射線照射)(グルコン酸クロルヘキシジン製剤の調製) 20.0(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン水溶液2.5mLに精製水を加え、全量を100mLとした。続いて、pH調整のために、1N水酸化ナトリウム水溶液を0.5mL添加し、0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤を調製した。(凍結処理) 調製したグルコン酸クロルヘキシジン製剤を、−80℃又は−20℃のフリーザー中で24時間以上放置し凍結させた。(放射線照射) −80℃又は−20℃で凍結させたグルコン酸クロルヘキシジン製剤に、以下の装置及び条件で30又は60kGyの電子線を均一に照射した。また、対照として、20℃のグルコン酸クロルヘキシジン製剤にも電子線を照射した。 電子加速器:ダイナミトロン電子加速器 加速電圧:5MeV 電流:20mA(成分分析) 放射線照射後の各グルコン酸クロルヘキシジン製剤を適宜希釈し、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度を以下の条件下で高速液体クロマトグラフ(HPLC)により定量した。 カラム:5μmオクタデシルシリル化シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm カラム温度:50℃ 移動相:メタノール:5%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液:リン酸=800:200:1 流量:2.0mL/分 検出器:紫外線吸光光度計(測定波長260nm、感度0.04aufs) 表2に、放射線を照射していないグルコン酸クロルヘキシジン製剤のグルコン酸クロルヘキシジンの濃度を100%とした場合の、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度(%)を示す。20℃のグルコン酸クロルヘキシジン製剤は、照射する放射線の線量が増加するにつれてグルコン酸クロルヘキシジンの濃度が低下した。これに対し、凍結状態のグルコン酸クロルヘキシジン製剤は、照射する放射線の線量を増加してもグルコン酸クロルヘキシジンの濃度の低下が少ないことが明らかとなった。〔実施例2〕(0.1(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤への放射線照射) 放射線照射時の水溶液の温度とグルコン酸クロルヘキシジンの濃度との関係を検討した。具体的には、0.1(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤に、25、5、−5、−20及び−80℃で実験例1と同様にして20kGyの電子線を均一に照射した。続いて、実験例1と同様にして、放射線照射後の各グルコン酸クロルヘキシジン製剤中のグルコン酸クロルヘキシジンの濃度を定量した。 表3に、放射線を照射していないグルコン酸クロルヘキシジン製剤のグルコン酸クロルヘキシジンの濃度を100%とした場合の、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度(%)を示す。また、図2に、この結果をグラフにしたものを示す。図2において、縦軸は放射線を照射していないグルコン酸クロルヘキシジン製剤のグルコン酸クロルヘキシジンの濃度を100%とした場合の、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度(%)を示す。また、横軸は、放射線照射したグルコン酸クロルヘキシジン製剤の温度(℃)を示す。 その結果、放射線を照射したグルコン酸クロルヘキシジン製剤が液体の場合と凍結状態の場合とで、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度の低下量に差が認められた。放射線を照射したグルコン酸クロルヘキシジン製剤が凍結状態の場合に、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度の低下の抑制が顕著に認められた。〔実験例3〕(10.0(w/v)%アスコルビン酸製剤への放射線照射)(アスコルビン酸製剤の調製) アスコルビン酸10.0gを精製水に溶解し、全量を100mLとし、10.0(w/v)%アスコルビン酸製剤を調製した。(放射線照射) 実験例1と同様にして、−80℃又は−20℃で凍結させたアスコルビン酸製剤に、0、10、20又は30kGyの電子線を均一に照射した。また、対照として、20℃のアスコルビン酸製剤にも電子線を照射した。(成分分析) 放射線照射後の各アスコルビン酸製剤を適宜希釈し、アスコルビン酸の濃度を以下の条件下で高速液体クロマトグラフ(HPLC)により定量した。 カラム:5μmオクタデシルシリル化シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm カラム温度:30℃ 移動相:精製水:リン酸=1000:2 流量:1.0mL/分 検出器:紫外線吸光光度計(測定波長275nm、感度0.04aufs) 表4に、放射線を照射していないアスコルビン酸製剤のアスコルビン酸の濃度を100%とした場合の、アスコルビン酸の濃度(%)を示す。20℃のアスコルビン酸製剤は、照射する放射線の線量が増加するにつれてアスコルビン酸の濃度が低下した。また、経時的にアスコルビン酸の濃度の低下及び着色が発生した。アスコルビン酸の着色は、一般的には、アスコルビン酸が酸化され、デヒドロアスコルビン酸を経て着色すると考えられている。 これに対し、凍結状態のアスコルビン酸製剤は、照射する放射線の線量を増加してもアスコルビン酸の濃度の低下が少ないことが明らかとなった。また、凍結状態で放射線照射したアスコルビン酸製剤は、5℃で1ヶ月保管した後においても着色が見られなかった。〔実験例4〕(1.0(w/v)%リドカイン製剤への放射線照射)(リドカイン製剤の調製) リドカイン1.0gを希塩酸2mLに溶解した。この溶液に、精製水を加えて全量を100mLとした。続いて、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを5.0〜7.0に調整し、1.0(w/v)%リドカイン製剤を調製した。(放射線照射) 実験例1と同様にして、−80℃又は−20℃で凍結させたアスコルビン酸製剤に、0、15又は30kGyの電子線を均一に照射した。また、対照として、20℃のアスコルビン酸製剤にも電子線を照射した。(成分分析) 放射線照射後の各リドカイン製剤を適宜希釈し、リドカインの濃度を以下の条件下で高速液体クロマトグラフ(HPLC)により定量した。 カラム:5μmオクタデシルシリル化シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm カラム温度:30℃ 移動相:0.02mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0):アセトニトリル=11:9の溶液1000mLにラウリル硫酸ナトリウム2.88gを溶解したもの 流量:1.0mL/分 検出器:紫外線吸光光度計(測定波長254nm、感度0.04aufs) 表5に、放射線を照射していないリドカイン製剤のリドカインの濃度を100%とした場合の、リドカインの濃度(%)を示す。20℃のリドカイン製剤は、照射する放射線の線量が増加するにつれてリドカインの濃度が低下した。これに対し、凍結状態のリドカイン製剤は、30kGyの放射線照射後においてもリドカインの濃度の低下が少ないことが明らかとなった。〔実験例5〕(1.0(w/v)%グリチルリチン酸二カリウム製剤への放射線照射)(グリチルリチン酸二カリウム製剤の調製) グリチルリチン酸二カリウム1.0gを精製水に加温溶解し、全量を100mLとし、1.0(w/v)%グリチルリチン酸二カリウム製剤を調製した。(放射線照射) 実験例1と同様にして、−80℃又は−20℃で凍結させたグリチルリチン酸二カリウム製剤に、0、15又は30kGyの電子線を均一に照射した。また、対照として、20℃のグリチルリチン酸二カリウム製剤にも電子線を照射した。(成分分析) 放射線照射後の各グリチルリチン酸二カリウム製剤を適宜希釈し、グリチルリチン酸二カリウムの濃度を以下の条件下で高速液体クロマトグラフ(HPLC)により定量した。 カラム:5μmオクタデシルシリル化シリカゲル、内径4.6mm、長さ250mm カラム温度:40℃ 移動相:0.02mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0):アセトニトリル=65:35 流量:0.5mL/分 検出器:紫外線吸光光度計(測定波長250nm、感度0.04aufs) 表6に、放射線を照射していないグリチルリチン酸二カリウム製剤のグリチルリチン酸二カリウムの濃度を100%とした場合の、グリチルリチン酸二カリウムの濃度(%)を示す。20℃のグリチルリチン酸二カリウム製剤は、照射する放射線の線量が増加するにつれてグリチルリチン酸二カリウムの濃度が低下した。これに対し、凍結状態のグリチルリチン酸二カリウム製剤は、30kGyの放射線照射後においてもグリチルリチン酸二カリウムの濃度の低下が少ないことが明らかとなった。〔実験例6〕(0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤への放射線照射による分解生成物の検討) グルコン酸クロルヘキシジン製剤に電子線を照射すると電子線の直接作用や活性種の影響によりグルコン酸クロルヘキシジンの分解が起きる。一般的に、グルコン酸クロルヘキシジン製剤は、光又は熱により分解し、経時的にp−クロルアニリンを生成することが知られている。グルコン酸クロルヘキシジンの分解生成物としては、p−クロルアニリニンの他に、1−(4−クロロフェニル)グアニジン及びp−クロロフェニルビグアニドが考えられる。そこで、−20℃で凍結した0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤及び常温の0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤に、実験例1と同様にして30kGyの電子線を照射した後、HPLCによりp−クロルアニリンを中心に分解生成物を検出した。また、電子線を照射していない0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤についても分解生成物の検出を行った。 その結果、放射線を照射していない0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤では、p−クロルアニリン及びp−クロロフェニルビグアニドが検出されなかった。一方、常温で放射線照射した0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤では、p−クロルアニリンの生成量が約2.4ppm、p−クロロフェニルビグアニドの生成量が約1.1ppmであった。また、−20℃で放射線照射した0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤では、p−クロルアニリン及びp−クロロフェニルビグアニドが検出されなかった。なお、p−クロルアニリンは、医薬品原料基準において、0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤で12.5ppmまで存在することが許容されている。〔実験例7〕(滅菌効果の確認) 医薬品等の放射線滅菌線量の設定は、ISO11137−2:2006に準拠して行う必要がある。ここでは、SAL(滅菌保証水準)=10−6(100万個の製品あたり1個の製品に菌が残る可能性があるレベル)が担保されていることを、VDmax15法により検討した。 VDmax15法によると、滅菌線量15kGyにおける平均バイオバーデン0.8個の滅菌対象に対する検定線量は2.5kGyである。ここで、バイオバーデンとは、サンプルに混入している微生物の数を意味する。したがって、滅菌対象のサンプル10個に2.5kGyの放射線を均一に照射して、放射線照射後のサンプルの無菌試験を行い(菌の有無を検査)、陽性サンプル数が1個以下であれば、SAL=10−6を満たす滅菌線量は15kGyであると判断する。 10mLの滅菌精製水にBacillus pumilusの芽胞を平均0.8個接種したサンプルを20個準備した。このうち10個を−20℃で凍結し、10個を常温(15℃)で保管した。続いて、実験例1と同様の方法により、各サンプルに2.5kGyの放射線を均一に照射した。放射線照射後に、各サンプルについて接種菌の生存を無菌試験により確認した。その結果、表7に示すように、常温のサンプル1個及び−20℃の凍結状態のサンプル1個において無菌試験の結果が陽性であったが、ISO11137−2:2006の基準はクリアし、滅菌線量15kGyでSAL=10−6が担保されることが示された。〔実験例8〕(滅菌効果の確認2) ISO11137−2:2006には規定されていないが、確認のため、芽胞接種によるチャレンジ試験を実施した。10mLの滅菌精製水に、Bacillus pumilusの芽胞を1000個接種したサンプルを10個準備した。このうち5個を−20℃で凍結し、5個を常温(15℃)で保管した。続いて、実験例1と同様の方法により、各サンプルに15kGyの放射線を均一に照射した。放射線照射後に、各サンプルについて無菌試験を実施した。その結果、表8に示すように、全てのサンプルにおいて無菌試験の結果が陰性であり、無菌であることを確認した。〔実験例9〕(放射線照射による有効成分濃度の低下に対するラジカル捕捉剤の添加の影響) 水中におけるグルコン酸クロルヘキシジンの放射線照射による分解を抑制する方法として、グルコン酸クロルヘキシジン製剤にラジカル捕捉剤を添加する方法が考えられる。そこで、グルコン酸クロルヘキシジン製剤に、ラジカル捕捉剤としてヨウ化カリウム又はパラベンを添加後、室温で放射線照射し、グルコン酸クロルヘキシジンの分解を抑制できるかについて検討した。 その結果、グルコン酸クロルヘキシジンはヨウ化カリウムと沈殿を生成してしまうため、グルコン酸クロルヘキシジン製剤にヨウ化カリウムを添加することができなかった。また、パラベンは、グルコン酸クロルヘキシジン製剤に添加しても沈殿を生成しなかったが、パラベンは水に十分に溶解しないため、パラベンの添加によっては、グルコン酸クロルヘキシジンの放射線による分解を抑制する効果が十分に得られなかった。 同様の検討を行った結果、アスコルビン酸製剤及びリドカイン製剤においても、ラジカル捕捉剤を添加する方法によっては、放射線照射による有効成分濃度の低下を抑制する効果が十分に得られなかった。〔実験例10〕(水及び氷への放射線照射による生成物並びにpHの変化) 一般的に、電子線照射により氷中において生成したラジカルは結晶内に存在し、ラジカル転移などで安定化するため拡散できず、水中より寿命が長くなる。このため、氷中に存在する溶質はラジカルと近接しなければ影響を受けない。しかしながら、氷が融解し液体になった場合には、結晶中のラジカルが解放され、溶質又は他のラジカルと反応する。この結果、多くのラジカルは氷の融解後に失活し、結果として安定な分子が残ることになる。 ここでは、常温(20℃)の精製水及び−80℃の氷に100kGyの電子線を照射し、HPLCで分析することにより、生成物を定量した。また、pHの測定を行った。なお、氷については、融解後の水を用いてHPLC分析及びpHの測定を行った。 表9に結果を示す。常温の精製水に100kGyの電子線を照射した結果、微量の過酸化水素及び硝酸イオンの生成が確認された。また、−80℃の氷に100kGyの電子線を照射した結果、常温の精製水と同様に、微量の過酸化水素及び硝酸イオンの生成が確認されたが、生成量は常温の精製水と比較して少なかった。一般的には、水の放射線照射により発生する化学種は水素と過酸化水素であるが、硝酸イオンが生成されたのは空気中の窒素に由来するものと考えられる。また、硝酸イオンは、水素イオンとともに放射線照射後のpH低下の原因と考えられる。また、氷の方がpHの低下がより大きいことから、氷の方が常温の精製水よりも水素イオン生成量が多いと考えられる。なお、放射線を照射していない精製水のpHは5.26であった。〔実験例11〕(放射線照射による活性種の生成量及び経時変化) 液体セリウム線量計は、4価の硫酸セリウム水溶液であり、放射線照射による水中のラジカル反応により3価のセリウムに変化する。そこで、液体状体(20℃)及び凍結状態(−80℃)の液体セリウム線量計に放射線照射を行い、ラジカルの生成量を測定し、吸収線量を計算した。 具体的には、まず、20℃の液体セリウム線量計及び−80℃で凍結させた液体セリウム線量計に、7、15、30kGyの電子線を照射した。続いて、放射線照射した液体セリウム線量計の320nmの紫外域の吸光度を測定し、生成した3価のセリウム量(mol/L)を計算した。凍結させた液体セリウム線量計については、融解後に320nmの紫外域の吸光度を測定した。 結果を表10に示す。凍結状態での放射線照射により生成した3価のセリウム量は、液体状体での放射線照射により生成した3価のセリウム量と比較して約1/5の量であることが明らかとなった。3価のセリウムとラジカルは等価で反応することから、同じ線量の放射線を水と氷に照射した場合、最終的なラジカル発生量は氷の方が少なくなることが示された。このことから、水溶液を凍結させることで放射線の吸収線量が低下し、溶質の分解を抑制できる可能性が示された。 ラジカルは低温で長時間保持できることが知られている。そこで、氷中でラジカルを保存すれば、溶質への影響は更に少なくなると考えられる。また、ラジカル反応は温度により影響されるので、氷の融解時の温度が低温であるほどラジカルの反応速度を抑制できると考えられる。このことから、氷中での溶質への影響を少なくするためには、放射線照射後できるだけ長く低温で保存し、氷の融解は低温で行うことが重要であると考えられる。〔実験例12〕(氷による電子及び活性種の捕捉の検討) 精製水及び0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤を−80℃で凍結させ、生成した氷に放射線を照射した。その結果、氷はグレーに着色した。氷を融解すると着色は消失した。放射線照射直後に氷表面の反射光を色差計で測定した結果、放射線未照射の氷と比較して明らかな色差が生じ発色していることが明らかとなった。表11に色差測定の結果を示す。表11に示すように、放射線を照射した氷(精製水)は、色スケールL*、a*、b*の中でa*及びb*の値が増加していることから、赤色系及び黄色系が強く発色しており、ΔE*は3.5、イエローインデックス(YI)は7.0であることが示された。また、0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤の氷に放射線を照射した場合においても同様の傾向が認められた。カラーセンター全体の色調は、結晶構造、結晶周期性、正孔に入る電子によって異なることから、氷の色調は、氷の温度、結晶構造、溶質、溶媒の種類によって変化すると考えられた。 通常、室温で水に放射線を照射すると、水は分解し、様々なラジカル及び安定分子が生成される。電子が水和した水和電子の寿命は室温で10−13から10−11秒程度であり、活性が高いため、短時間の間に他の短寿命のラジカルや溶質と反応する。したがって、常温の水への放射線の照射では、電子は水和電子になるか自由電子となって化学反応に寄与し失活するため、水中に捕捉されることは少ない。 一方、氷はIh型の六方晶系の結晶構造を取り、また、冷却の条件によりアモルファス又は他の結晶形を取ることが報告されている。図3a及びbは、氷結晶に放射線が照射された場合の影響を説明する図である。図3aに示すように、氷結晶に放射線が照射されると、加速電子により氷結晶中のマイナスに荷電した酸素原子の電子が励起され、図3bに示すように電子は酸素原子から離れ、その部分に格子欠陥(正孔)が発生する。その格子欠陥に自由電子が入り安定化する。一方、電子が抜けてできた正孔は結晶中を移動し、生じた正孔とトラップは紫外域から可視域における吸収を持つカラーセンターとなり、結果として氷は発色すると考えられる。上述した氷の着色はこの現象によるものであると考えられる。 実験例11及び12の結果から、氷中では、氷に照射された加速電子の一部が氷結晶に取り込まれて安定化し、水中よりも加速電子の作用は緩和されていると考えられる。その結果、ラジカルの発生量が低くなり、ラジカルによる溶質の分解が抑制されるものと考えられる。 また、実験例12において、氷を融解すると着色は消失した。このことから、氷の融解によりカラーセンターが崩壊し、一部の水和電子やラジカルも消失したと考えられる。図4は、氷に放射線が照射された場合の挙動を示す図である。図4に示す通り、氷の融解後、一部の水和電子やラジカルは他の活性種と反応し消失すると考えられる。 また、以下の実験例13に示すように、氷の融解後、氷に取り込まれた溶質は、エネルギー的に安定な水和物になることが示された。〔実験例13〕(凍結状態における放射線照射による水和物の生成) 0.5(w/v)%グルコン酸クロルヘキシジン製剤を−80℃で凍結させ、30kGyの放射線を照射した。続いて、放射線照射後のグルコン酸クロルヘキシジン製剤を解凍し、HPLCでグルコン酸クロルヘキシジンを定量し、また、紫外吸収を測定した。図5にHPLCの結果を示し、図6に紫外吸収の測定結果を示す。その結果、図5に示すように、HPLCによる測定において、グルコン酸クロルヘキシジンのピークの増加が観察された。また、図6に示すように、紫外吸収の測定において、200〜300nmの範囲にわたる紫外吸収の増加が認められた。放射線照射を行うと、グルコン酸クロルヘキシジンの260nmにおける紫外吸収のピークは低くなるはずであるが、−80℃で放射線照射を行った後には逆に高くなり、また、200〜300nm全体にわたり紫外吸収が高くなっていることが明らかとなった。続いて、サンプルを加熱し、水和を崩壊させた後、同サンプルを再び凍結させて放射線を照射した結果、HPLCにおけるグルコン酸クロルヘキシジンのピークの増加及び200〜300nmの範囲にわたる紫外吸収の増加が認められた。 以上の結果より、凍結状態で放射線照射後、グルコン酸クロルヘキシジンの一部は水和物になっていると考えられた。一般的に、水和物は無水物よりエネルギー的に安定である。 凍結状態の液体製剤(タンパク質製剤及び合成高分子製剤を除く)に、放射線を照射する工程を含む、液体製剤の滅菌方法。 前記放射線は、8kGyを超える放射線である、請求項1に記載の滅菌方法。 前記放射線は、12kGyを超える放射線である、請求項1又は2に記載の滅菌方法。 【課題】無菌性保証水準10−6を満たすことができ、有効成分濃度の低下を十分に抑制することができ、広範囲の液体製剤に適用可能な液体製剤の滅菌方法を提供する。【解決手段】凍結状態の液体製剤(タンパク質製剤及び合成高分子製剤を除く)に、放射線を照射する工程を含む、液体製剤の滅菌方法。【選択図】なし