タイトル: | 公開特許公報(A)_オージェ電子分光法による界面近傍の元素の測定方法 |
出願番号: | 2013040609 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | G01N 23/227 |
奥村 洋史 JP 2014169881 公開特許公報(A) 20140918 2013040609 20130301 オージェ電子分光法による界面近傍の元素の測定方法 三菱マテリアル株式会社 000006264 影山 秀一 100139240 三宅 正之 100119921 倉地 保幸 100113826 富田 和夫 100076679 奥村 洋史 G01N 23/227 20060101AFI20140822BHJP JPG01N23/227 1 12 OL 19 2G001 2G001AA03 2G001BA09 2G001CA03 2G001FA01 2G001FA08 2G001GA01 2G001JA13 2G001KA01 2G001LA02 2G001MA05 2G001NA03 2G001NA11 2G001NA17二種の材料間における界面近傍の元素の定性・定量を行うための分析方法に関するものである。切削工具に用いられる超硬合金の製造過程において、硬質相成分が結合相へ固溶し、その固溶量が超硬合金の硬度に影響を与えることが知られている。オージェ電子分光分析は、空間分解能が10nm程度期待できるため、数十nm以上のサイズの結合相中の元素分析に適している。しかし、電子の入射エリア(数〜数十nm程度)から最大で数百nmの領域でオージェ電子が発生するため、結合相サイズが数百nm以下である場合において結合相に固溶した硬質相成分と硬質相そのものの信号を区別して定量する適切な手段が無かった。例えば、超硬合金の結合相中の固溶成分に関して従来の分析手法を強いて挙げるとするならば、下記(1)〜(5)のものが挙げられる。(1)原子吸光分析超硬合金を粉砕した後、塩酸中に24時間程度保持することで結合相成分を溶解・抽出する。抽出液から原子吸光分析装置により成分元素量を測定する。(例えば、特許文献1参照。)(2)誘導結合高周波プラズマ分光法超硬合金を粉砕した後、クエン酸アンモニウムと塩化ナトリウムの混合液を用いて電気分解することにより結合相を選択的に溶解・抽出する。抽出液から誘導結合高周波プラズマ分光法により成分元素量を測定する。(例えば、特許文献2参照)(3)X線回折例えばCo結合相にWC硬質相のW成分が固溶している場合、Co結合相のCoの格子定数はWの固溶量に伴い変化する。この変化をX線回折により検出することで固溶量を評価する。(4)電子線マイクロアナライザ結合相に電子線を照射することで、元素に固有な特性X線を検出し、固溶成分の量を評価する。(例えば、特許文献3参照)(5)透過電子顕微鏡結合相に電子線を照射することで、元素に固有な特性X線を検出し、固溶成分の量を評価する。特開2004−131769号公報特開平3−115571号公報特許第3504675号明細書しかしながら、前述の(1)(2)の分析手法では、いずれも全量分析であり、微視的領域における固溶量の変化の評価はできない。また、(3)の分析手法では、X線の照射領域が数mm程度であり結合相よりもはるかに大きい為、Co結合相中のW固溶量は平均値でしか得られない。また格子定数の変化は、W以外の元素が結合相に固溶しても起こるため、固溶元素がWであると分かっている場合しか利用できない。さらに、(4)(5)の分析手法では、オージェ電子分光法と同様に電子照射による局所分析を利用した評価法である。(4)は本発明と同様に試料の加工の必要がないため分析が容易であるが、X線の発生領域が数μmであるため、数百nmの結合相の分析には不向きである。(5)はオージェ電子分光法よりも同程度以上の空間分解能が得られることから微小領域の分析に優れるが、測定試料を数百nm程度の厚さに加工する必要があり、多くのサンプルを迅速に分析することができない。またオージェ電子分光法よりも観察できる視野が狭いため、ひとつのサンプル中の測定範囲が限られることも、迅速な分析の妨げとなる。そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち本発明の目的は、オージェ電子分光法を用いて接している二相間において元素拡散が生じているような界面近傍においても正確に界面近傍の組成分析が行えることを特徴とする界面近傍の組成分析方法を提供することにある。そこで、本発明者は、オージェ分光装置の測定結果を詳細に検討した。具体的には、電子の軌跡計算(例えばモンテカルロ法)により得られる背面散乱電子の空間的な広がりから導き出したイオン化断面積のなすラインプロファイルを、定性・定量評価の基準ライン(閾値)とするという新規な知見を採用することにより本発明を想到するに至った。前記の知見に加えて、X線回折の格子定数測定により結合相中の硬質相成分のバルク定量分析を行う従来法に対し、局所領域において固溶量の評価を可能とすること、および、透過電子顕微鏡による結合相中の硬質相成分の微小部分析を行う従来法に対して、試料加工を容易にすることで迅速に結果を得ることを可能とすることという従来法を格段に進歩させるという視点に立って鋭意研究を行った。(本発明の技術的な背景)オージェ分光装置は、サンプル表面に電子ビーム(ビーム径:数〜数十nmφ)を照射することで発生するオージェ電子を検出する分析装置である。このオージェ電子の運動エネルギーの値が元素に固有であるため、表面の元素分析が可能である。図1に、Al表面に電子ビームを照射した際のAl内部での電子の散乱軌跡について、モンテカルロ法で計算した結果を示す。オージェ分析装置の分析領域は、深さ方向には数nm、水平方向には(入射電子の加速電圧により異なるが)数十〜数百nmとなる。深さ方向について、入射した電子は数百nm〜数μmの深さまで到達するが、発生したオージェ電子はサンプル内で減衰するため、その脱出深さは数nm程度となる。表面から深さ数nm中で発生したオージェ電子のみが検出されることから、表面敏感な分析手法といわれている。水平方向について、入射した電子は水平方向に数十〜数百nm程度散乱して広がってオージェ電子を発生させる。その幅は入射電子の加速電圧が大きいほど広いことがわかっている。このように広がって発生したオージェ電子の、信号強度への寄与は2〜3割程度といわれている。オージェ電子の水平方向の広がりが分析に影響を及ぼす例として、点分析又はライン分析が挙げられる。点分析プロファイル又はライン分析プロファイルでは、界面近傍で裾野が生じる。隣り合う元素Aの領域と元素Bの領域を持つ界面系を図2(左)に示す。このような界面系ついて、元素Aについて界面を通るようにライン分析を行うと、ラインは界面付近で裾野を生じる。これは、照射した電子が、隣のエリアまで散乱して広がり、オージェ電子を発生させることに起因する(図2(右)参照)。特に、隣り合う元素Aの領域と元素Bの領域があり、元素B領域側の界面付近で元素Aの拡散(固溶)が生じているサンプルについて、拡散したA元素のオージェ分析を行う場合には注意が必要である。界面の近傍で得られるオージェ信号には、元素の「拡散」に由来する信号と、入射電子の「散乱」による隣のエリアからの信号が混ざっている(図3参照)。拡散した元素について分析を行いたい場合に、検出したオージェピークが拡散した元素に由来するものか、それとも隣のエリアからのオージェ信号なのかといったことは、一般的に定義されるオージェ電子分光法の空間分解能よりも界面から離れた位置で測定を行う場合でも区別できない。このため、界面近傍では定量精度はもとより定性結果すら怪しいものとなる。電子の散乱による裾野の広がりは最大でも数百nmであるため、元素Aの拡散が元素B領域で均一であるならば界面から1μm以上離れた場所を測定すれば、このような問題は生じないと考えられる。しかし、元素の拡散領域が界面付近に限られる場合や、元素Bの領域がそもそも数百nmしかない場合には影響を回避できない。本発明は、前述の新規な技術的知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、発明を完成するに至ったものである。本発明は、界面近傍における拡散元素Aの定性・定量を行うことを可能にするものである。具体的には、入射電子の散乱のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを取得し、これを基準ラインとする。元素拡散と入射電子の散乱の影響が混在する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを測定ラインとし、前記測定ラインから基準ラインを差し引くことで、元素拡散のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを得るものである(図3参照)。なお、測定ライン及び基準ラインは一つのオージェ信号強度値を点とする一個以上の点の集合である。基準ラインの取得方法は計算によるものと、実測によるものが考えられる。計算では、隣り合う元素A領域と元素B領域が存在し、元素の拡散が生じていないとした系を設定する。この系について、表面に電子を入射した際に生じるオージェ電子の信号強度を計算し、電子の入射位置依存性をプロットすることで基準ラインが得られる。実測では、元素A領域と元素B領域が隣り合い、かつ可能な限り界面近傍での元素拡散が生じていないサンプルを作成し、界面近傍で点分析又はライン分析を行うことで基準ラインが得られる。 すなわち、本発明は、「(1)オージェ分光装置を用い、二種の材料間における界面近傍の組成分析を行う方法であって、 まず、入射電子の散乱のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを基準ラインとして取得し、 次に、元素拡散と入射電子の散乱の影響が混在する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを測定ラインとして取得し、 さらに、前記測定ラインから基準ラインを差し引くことで、元素拡散のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを得ることを特徴とする、オージェ分光装置を用い界面近傍の組成分析を行う方法。」に特徴を有するものである。 本発明は、超硬合金における結合相と硬質相の界面近傍の組成分析を行う方法により好適に適用される。 本発明のオージェ分光装置を用い、界面近傍の組成分析を行う方法は、まず、計算又は実測により入射電子の散乱のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを基準ラインとして取得し、次に、元素拡散と入射電子の散乱の影響が混在する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを測定ラインとして取得し、さらに、前記測定ラインから基準ラインを差し引くことで、元素拡散のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを得ることを特徴としているので、オージェ電子分光法を用いて接している二相間において固溶が生じているような界面近傍においても正確に界面近傍の組成分析が行えることを特徴とする界面近傍の組成分析方法を提供することができ、その効果は絶大である。発明の効果を最大限に発揮するためには、事前に基準ラインの計算値と実測値を比較することが望ましい。Al内部に入射した電子軌跡のモンテカルロ法による計算結果を示す図である。界面におけるオージェ電子発生のイメージ図である。拡散した元素の信号と散乱電子による信号の混合を示す図である。基準ラインと通常のライン分析プロファイルを示す図である。Co/WC界面系に入射した電子軌跡のモンテカルロ法による計算結果を示す図である。イオン化断面積の電子入射位置依存性を示すグラフである。WC/Co界面を有するサンプルである。ライン分析エリアを示す写真である。WC/Co界面のライン分析結果を示すグラフである。基準ラインの計算値と実測値の重ね合わせのグラフである。超硬工具サンプルのライン分析エリアを示す図である。超硬工具サンプルのライン分析結果と基準ラインの重ね合わせのグラフである。 以下に、本発明の一実施態様について実施例に基づいて説明する。WC硬質相とCo結合相から成る超硬合金について、WC硬質相からCo結合相に固溶したW元素の分布及びその定量値を得る目的で本発明を実施した。本実施例では、基準ラインの取得方法として計算によるものを例に、説明しているが、実測による方法であっても構わない。(1)基準ラインの作成オージェ電子分光法や電子線マイクロアナライザなどの、固体表面に侵入した電子の挙動を理解する手段としてモンテカルロ法が一般に利用されている。基準ラインを作成するために、WC/Co界面に電子が入射した際の電子の運動エネルギーと位置をモンテカルロ法により計算し、得られた情報から内殻励起確率を計算することでオージェ電子の発生確率を見積もった。実施例では、WC/Coサンプル表面へ入射した電子の運動エネルギー及び位置情報を取得するために、モンテカルロシミュレーションソフトウェアCASINO(登録商標)を利用した。計算系として、隣り合うWC領域とCo領域によるWC/Co界面系を作成した。系の境界条件としてサンプル表面に対して水平方向の幅は無限大とし、深さ方向の長さは2000nmとした。入射電子の加速電圧は通常の分析で用いる条件である20kVとした。入射電子のサンプル表面への進入角度は90度とした。入射した電子の軌跡は弾性散乱とし、その弾性散乱断面積の算出にはMottの式を用いた。電子が固体内を通過するときに受けるエネルギー損失について、平均自由行程の距離進んだときに失う平均のエネルギーとしてBetheの阻止能を利用した。図5に電子軌跡の計算結果を示す。Gryzinskiの式を用いて、表面から深さ5nmに存在する電子の運動エネルギーから、入射電子がWおよびCoに衝突した際のそれぞれの内殻励起のイオン化断面積を算出した。同様の計算を、電子入射の位置を任意に水平方向±600nm範囲内で変えて行うことで、各地点の電子入射における内殻励起のイオン化断面積を得た。内殻励起のイオン化断面積はオージェ信号強度に比例することから、各地点における内殻励起のイオン化断面積の相対値(最大値で規格化)をオージェ信号強度の代わりとした。Wのイオン化断面積の相対値を電子入射位置についてプロットし、これをWの基準ラインとした(図6参照)。(2)基準ラインの一般式化一般に、オージェ電子分光法におけるライン分析プロファイルや深さ方向プロファイルは、Logistic関数式によるフィッティングが可能である。これを用いて(1)で算出した基準ラインを一般式化し、そのフィッティングパラメータを得た。得られた式及びフィッティングパラメータを以下に示す。フィッティング式(数式1)フィッティングパラメータ(数式2)(3)基準ラインの確度確認計算により得た基準ラインの確度の確認のため、WC/Co界面を有するサンプルを作成し、ライン分析を行った。WC/Co界面サンプルは2mm程度のWC粒子にCoを付着し作成した。この際、界面近傍の元素拡散を抑え、かつ平滑な界面を作成することを目的として、WC粒子の(0001)面に電解めっき法でCoを付着させた。得られたWC/Co粒子の界面近傍を、集束イオンビーム装置により、厚さ1μm程度、幅10μm程度に削りだした。得られた界面サンプルを図7に示す。得られたWC/Co界面近傍のオージェ分析を行った。測定にはアルバックファイ(株)製のオージェ分析装置 PHI700を用いた。加速電圧は20kV、電流量は10nAの条件でサンプル表面に電子を進入角度90°で入射し、WC/Co界面近傍2μmの範囲におけるWのMNNピーク及びCoのLMMピークのライン分析を行った。分析エリアを図8に、得られたラインプロファイルを図9に示す。Co領域においてWラインの数百nm程度の裾野の広がりが見られる。WC/Co界面付近のライン分析結果について、計算結果と実測の結果を重ねたプロットを図10に示す。Co領域のWピークについて、実測値が計算値の誤差範囲内に概ね納まっていることが分かった。これにより、計算により取得した基準ライン(電子散乱のみに由来するライン分析プロファイル)がWC/Co界面系において、信頼できることが確認できた。(4)超硬合金におけるCo結合相中に拡散(固溶)したWの分析実際の超硬工具試料の超硬合金について、WC粒子に囲まれたCo結合相(幅1μm程度)のWC/Co界面近傍でライン分析を行い(図11参照)、W MNNピークについてのライン分析プロファイルを得た。また、(1)と同様の手法を用いて、この界面系におけるW MNNピークの基準ラインを算出した。実測のライン分析プロファイルと基準ラインを重ねたものを図12に示す。ライン分析結果より、WC/Co界面近傍のCo結合相側に見られるWピークの実測値は、基準ラインよりも明らかに上に位置している。このことから、WC粒子からCo結合相へWの拡散(固溶)が起きていることが分かる。また、このときのCo結合相中のW固溶量は少なくとも5at%以上であることが見積もられた。 以上の実施例では、オージェ分光装置を用い、二種の材料間における界面近傍の組成分析を行うに際して、ライン分析プロファイルを用いた方法について詳細に説明したが、点分析プロファイルを用いる場合も、基本的には同様の方法を用いて組成分析を行うことができる。本発明の界面近傍の分析方法によれば、従前のオージェ電子分光装置を用いて界面近傍で結合相中に固溶していた硬質相成分と硬質相そのものを区別して定量する手段を提供するものであって、切削工具に用いられる超硬合金の製造過程において、超硬合金の硬度を再現性よく向上させる方法を提供するものであって、超硬合金に限らず、異種金属の結合や傾斜組成金属の開発など、その応用範囲は、きわめて広い。オージェ分光装置を用い、二種類の材料間における界面近傍の組成分析を行う方法であって、 まず、入射電子の散乱のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを基準ラインとして取得し、 次に、元素拡散と入射電子の散乱の影響が混在する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを測定ラインとして取得し、さらに、前記測定ラインから基準ラインを差し引くことで、元素拡散のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを得ることを特徴とする、オージェ分光装置を用い界面近傍の組成分析を行う方法。 【課題】オージェ電子分光法を用いて接している二相間において固溶が生じているような界面近傍においても正確に界面近傍の組成分析が行えることを特徴とする界面近傍の組成分析方法を提供する。【解決手段】オージェ分光装置を用い、界面近傍の組成分析を行う方法であって、まず、入射電子の散乱のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを基準ラインとして取得し、 次に、元素拡散と入射電子の散乱の影響が混在する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを測定ラインとして取得し、さらに、前記測定ラインから基準ラインを差し引くことで、元素拡散のみに由来する点分析プロファイル又はライン分析プロファイルを得ることにより、前記課題を解決する。【選択図】図12