タイトル: | 公開特許公報(A)_歯科用アルジネート印象材 |
出願番号: | 2013028766 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 6/10 |
永沢 友康 松重 浩司 JP 2014156437 公開特許公報(A) 20140828 2013028766 20130218 歯科用アルジネート印象材 株式会社トクヤマデンタル 391003576 永沢 友康 松重 浩司 A61K 6/10 20060101AFI20140801BHJP JPA61K6/10 5 OL 14 4C089 4C089AA14 4C089BA03 4C089BA08 4C089BA11 4C089BA13 4C089BA15 4C089BA16 4C089BA18 4C089BC01 4C089BC05 4C089BE08 4C089BE16 4C089CA03 本発明は、歯科用アルジネート印象材、詳しくはアルギン酸塩と硫酸カルシウムとを反応させてゲル化させる歯科用印象材に関するものである。 歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏製等の模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化材料を印象材と呼んでいる。この印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいは、ポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。 アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、アルジネート印象材を構成する各成分を混練したものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、アルジネート印象材が硬化した後に、アルジネート印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。 アルジネート印象材は、使用に際して、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸一価塩、硫酸カルシウム等のゲル化反応剤や、水等の主成分を混練して使用される。これら成分を混練すると、ゲル化反応剤である硫酸カルシウムから遊離したカルシウムイオンがアルギン酸塩と反応し硬化(ゲル化)が進行する。 使用前の状態では、アルジネート印象材は、保存性を確保するために、水を除いた固形分を粉末状とした粉末タイプ、あるいは、アルギン酸塩と水とを主成分とするペースト(基材ペースト)と、ゲル化反応剤を主成分とするペースト(硬化剤ペースト)とを組み合わせて用いるペーストタイプ、がある。そして、使用に際して、粉末タイプでは、粉末と水とを混練し、ペーストタイプでは、2種類のペーストを混練する。 ここで、粉末タイプのアルジネート印象材では、混練作業に際して、更に手作業による熟練の技が要求される。術者が未熟である場合、印象材ペースト中に印象精度を低下させる原因となる気泡を混入させるだけでなく、上述した印象採得のタイミングを逃し易く、精度の高い印象採得が難しくなるからである。これに対して、ペーストタイプのアルジネート印象材は、基材ペーストと硬化剤ペーストとを混練する専用の混練装置を用いることにより、容易に混練作業の自動化・省力化が図れるため、術者の熟練による差もなく精度の高い印象を採得しやすい。このため、近年では、粉末タイプのアルジネート印象材を置きかえる形でペーストタイプのアルジネート印象材が普及しつつある。 印象材に求められる最も重要な物性としては、印象精度が挙げられる。臨床において印象精度の高い印象を採得するためには、混練後の印象材をタイミング良く歯牙に圧接することが重要である。施術中に何らかの理由でこのタイミングを逃してしまい、印象材の硬化がある程度進んだ後に圧接を行うと、印象材の内部に歪みを与えたまま硬化してしまい精度の高い印象採得は困難になる。よって、印象材の初期のゲル化速度を長く、つまり、操作余裕時間をできるだけ長くすることが印象採得を失敗しないようにする為に必要である。一般に、こうした観点で良好な操作余裕時間を有する印象材として、混練開始から少なくとも2分程度は、粘度が1000dPaS(デシパスカル・秒)の低さに保たれているのが好ましい。 印象精度の高い印象を採得するためにもう一つ必要となるのが、印象硬化体の歪み物性(弾性歪、永久歪)と硬化体強度である。印象材は歯牙と密着することで精密に歯牙を転写するが、それゆえに歯牙からの撤去時は相当の力をもって撤去せねばならず、印象硬化体は少なからず変形する。ここで、印象材の弾性歪、永久歪みが大きい場合、最良のタイミングで圧接したにもかかわらず撤去時に変形してしまい、結果的に精度の高い印象を採得できない。さらに、大きなアンダーカットを有する症例では、硬化体に更に大きな力が加わるため、これに耐えうる硬化体強度も有していなくてはならない。ところが、従来のアルジネート印象材は、こうした硬化体強度の観点で、今一歩満足できるものではなかった。これは硬化中のアルジネート印象材において、前記操作余裕時間が経過した後の、混練物の粘度が増加した状態において、その硬化性が急激に低下し、硬化反応が十分に進行しないことが原因と考えられる。 ここで、アルジネート印象材の初期ゲル化時間を調節するための技術としては、ピロリン酸ナトリウムやリン酸3ナトリウム等のリン酸のアルカリ金属塩からなる硬化遅延剤を配合することで、アルギン酸塩のゲル化反応速度を大きく遅延できることが既に報告されている(特許文献1、2、3)。 また、硬化体の歪物性及び硬化体の強度を高める技術としては、珪藻土等の充填材、酸化マグネシウムや酸化亜鉛、フッ化チタンカリウムなどの硬化助剤等を配合することで歪物性及び硬化体強度を向上できるとして、古くから知られており、当業者には周知の事実となっている(特許文献1、2、3、4)。特許第2793744号公報特許第4210360号公報特許第4159839号公報特開2002−161014号公報 従来から知られているピロリン酸ナトリウムやリン酸3ナトリウム等のリン酸のアルカリ金属塩からなる硬化遅延剤は、水に高い溶解性を有するため、印象材各成分の混練時において直ぐに多量のリン酸イオンが遊離して、硫酸カルシウムから遊離したカルシウムイオンを補足し不溶化する。従って、こうした硬化遅延剤を配合したアルジネート印象材では、混練当初のゲル化反応速度を遅くすることができ、操作余裕時間の確保に効果的である。しかし、リン酸アルカリ金属塩の配合効果は、アルジネート印象材の混練当初で使い尽くされる。また、ナトリウムイオンは一価の金属イオンであるため、遊離したナトリウムイオンがアルギン酸と塩を形成したとしても、硬化体の機械的強度を向上させる作用は何も有していない。 他方、硬化体強度を向上できるとして配合されている酸化マグネシウム、酸化亜鉛、フッ化チタンカリウムなどは、硬化体の機械的強度は向上するものの、逆に硬化活性が高くなりすぎ、操作余裕時間が失われてしまう。また、珪藻土などの充填材を配合することでも、硬化体強度を向上させることが可能であるが、十分長い硬化時間を有する印象材では、強度を上げるために配合量を多くしなければならず、そうなるとアルギン酸塩の硬化性に悪影響を与え、逆に永久歪みの低下を引き起こしていた。 以上から、硬化期間終盤における反応性を高めて、高い機械的強度の硬化物が得られ、且つ操作余裕時間も十分に確保可能なアルジネート印象材を開発することが大きな課題であった。 本発明者らは上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、硫酸カルシウム及びアルギン酸塩を含む歯科用アルジネート印象材に対して、水への溶解度が特定の範囲にある金属塩を配合することで、上記課題が解決できることを見出した。 すなわち、本発明は、(A)硫酸カルシウム、(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩、及び(C)アルギン酸一価塩、を含むことを特徴とする歯科用アルジネート印象材である。 本発明のアルジネート印象材は、硬化反応が高度に進行しており、良好な歪み物性、つまりは高い印象材硬化体の強度を有している。そのため、口腔内において高い精度の印象が採得できる。さらに、水への溶解性が小さいため、混練当初において、その活発な硬化反応に与える影響は小さく、硬化遅延剤を配合した場合にも、これにより確保される良好な硬化遅延時間は良好に保持できる。 本発明の最大の特徴は、歯科用アルジネート印象材に対して、水への溶解度が特定の範囲に低く、且つイオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩を配合したことにある。すなわち、アルギン酸塩と、ゲル化反応剤である硫酸カルシウムとを水の存在下で混練すると、混練直後から、該硫酸カルシウムからカルシウムイオンが徐々に遊離し、アルギン酸塩と反応して硬化が進行する。しかし、この硬化反応がある程度に進行して混練物が高粘度になると、上記硫酸カルシウムからのカルシウムイオンの遊離性は急激に低下し、それに伴って硬化性は低下する。その結果、得られる硬化体は、硬化反応が今一歩完遂しておらず、印象物を口腔内から撤去する段階におけるゲル強度を十分に確保できなくなっていた。 これに対して、歯科用アルジネート印象材に、20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩を配合すると、印象材の操作期間が経過した後の、硬化期間終盤でのアルギン酸塩の反応性低下を抑制できる。その理由は定かではないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、前記水への溶解性が適度に小さい金属塩は、印象材の混練当初の溶解が低く抑えられ、硬化期間の終盤にまで徐々に解離して金属イオンを放出する。そして、斯様にして硬化期間終盤で解離した金属イオンが、そのイオン化傾向の小ささから、硫酸カルシウムからのカルシウムのイオン化を促進し、該硬化期間終盤において混練物中へのカルシウムイオンの供給量を増加させることが関係していると推察される。 なお、上記金属塩の、水への溶解性が適度に小さく、印象材の混練当初の溶解が低く抑えられる状態は、この混練当初においては、その活発な反応性に与える影響は僅かであり、硬化遅延剤が配合されている場合にも、これにより確保される良好な操作余裕時間は良好に保持できる。 以下、本発明のアルジネート印象材の構成成分について詳細に説明する。 本発明に用いられる(A)硫酸カルシウムは、従来の印象材に用いられる公知のものが何ら制限なく使用される。特に好適に使用されるものを具体的に例示すると、硫酸カルシウム2水塩、硫酸カルシウム半水塩、硫酸カルシウム無水塩等が使用される。これらの硫酸カルシウムは、2種類以上組み合わせてあるいは単独で使用することもできる。 各成分を混練した際の硬化時間を調整する観点から、硫酸カルシウム2水塩と硫酸カルシウム無水塩を組み合わせて使用する事が好ましい。その配合比は、所望の硬化時間となるように適宜決定すれば良いが、(A)硫酸カルシウム全体を100として、二水石膏が10%〜90%の範囲で使用することが好ましい。 硫酸カルシウムの配合量としては特に限定されないが、印象材の混練物中において、(C)アルギン酸一価塩100質量部に対して10質量部〜2000質量部の範囲内が好ましく、100質量部〜1000質量部の範囲内がより好ましい。 本発明において(B)金属塩は、アルジネート印象材の硬化期間の終盤においても溶解して金属イオンを遊離させるように、20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lのものを用いる。ここで、水への溶解度が1.5g/Lより大きい場合、印象材の混練初期に大部分が溶解してしまい、上記硬化期間終盤において金属イオンを遊離させる作用が十分でなくなる。他方、水への溶解度が0.1g/Lより小さい場合も、溶解性が低すぎて、硬化期間終盤における金属イオンを遊離作用が十分でなくなる。本発明において、(B)金属塩の特に好適な20℃の水への溶解度は0.2〜1.3g/Lである。 また、本発明において(B)金属塩は、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属からなることも必要である。これにより、硬化期間の終盤に遊離した金属イオンにより、硫酸カルシウムからのカルシウムのイオン化が促進され、印象材の硬化性が高められる。こうした低イオン化傾向の金属としては、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、マンガン等が挙げられ、マグネシウム及びアルミニウムが特に好適である。なお、ナトリウムのイオン化傾向はカルシウムより小さいが、一般に、その金属塩は水への溶解性が高く、前記した低溶解性の要件を満足しない。 上記低イオン化傾向の金属と塩を形成した際に、前記水への低溶解性の要件を満足する酸としては、通常、リン酸、ピロリン酸、炭酸、又はシュウ酸が該当する。こうした水への低溶解性と低イオン化傾向の両要件を共に満足する金属塩(以下、「低水溶解・低イオン化傾向金属塩」とも略する)を具体的に示せば、炭酸亜鉛(水への溶解度0.1g/L)、シュウ酸マンガン(水への溶解度0.2g/L)、シュウ酸金(水への溶解度1.1g/L)、リン酸マグネシウム(水への溶解度0.4g/L)、リン酸アルミニウム(水への溶解度0.1g/L)、ピロリン酸マグネシウム(水への溶解度0.2g/L)、シュウ酸マグネシウム(水への溶解度1.2g/L)、炭酸マグネシウム(1.5g/l)等が挙げられる。中でも、硬化期間終盤における硬化活性の向上効果が大きい観点から、リン酸マグネシウム、又はピロリン酸マグネシウムが好ましい。これらの低水溶解・低イオン化傾向金属塩は、2種類以上組み合わせてあるいは単独で使用することもできる。 本発明において、上記した(B)低水溶解・低イオン化傾向金属塩の配合量については、特に限定されないが、印象材の混練物中において、(A)硫酸カルシウム100質量部に対して1質量部〜50質量部が好ましく、5質量部〜30質量部がより好ましい。(B)金属塩の配合量が(A)硫酸カルシウム100質量部に対して1質量部に満たない場合には、硬化反応終盤における金属イオンの遊離量が不足気味となり、硬化体の機械的強度が低下する傾向にある。また、(B)金属塩の配合量が、(A)硫酸カルシウム100質量部に対して50質量部を超える場合には、硬化初期の段階における金属イオンの遊離量が過度に増量し、印象材の操作余裕時間が早くなる傾向がある。 本発明において(C)アルギン酸一価塩としては、従来のアルジネート印象材に利用されている公知のものから特に制限なく利用できる。例えば、i)アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸アルカリ金属塩、ii)アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸アンモニウム塩等が挙げられる。これらのアルギン酸塩の中でも、入手容易性、取扱い容易性、硬化物の物性等の観点から、アルギン酸アルカリ金属塩を用いることが好ましい。また、アルギン酸塩は、2種類以上を混合して用いることもできる。 アルギン酸塩は、通常、印象材の混練物中において2重量%〜10重量%の範囲内で含まれていることが好ましい。したがって、粉タイプ印象材では、使用直前に水をアルギン酸塩が2〜10%となる量の水と混練する。ペーストタイプの印象材では、アルギン酸塩の含有量が、混練物中において上記範囲内となるように、基材ペーストに含まれるアルギン酸塩の量を調整する。また、アルギン酸塩の分子量は特に限定されないが、一般的には、アルギン酸塩を1重量%含む水溶液の粘度が50cps〜100cpsの範囲内となる分子量が好ましい。 アルジネート印象材には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。良好な操作余裕時間を確保するために、硬化遅延剤を配合するのが好ましい。硬化遅延剤は、アルギン酸塩とゲル化剤との反応速度を調節(遅延)させることができる。このため、ペーストタイプ等ではアルジネート印象材を構成する各成分を混合・練和してから口腔内での印象採取までに要する作業時間に対応させて硬化時間を調整し、十分な操作余裕時間の確保を可能にする。なお、本発明において配合される前記低水溶解・低イオン化傾向金属塩は、その水への溶解性の低さから、印象材の混練当初において、該硬化遅延剤が作用して確保される十分な操作余裕時間に大きく影響しないことは前述のとおりである。 硬化遅延剤としては、公知の硬化遅延剤を制限無く利用できる。具体的には、i)リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、ii)蓚酸ナトリウム、蓚酸カリウム等のアルカリ金属の蓚酸塩、iii)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩を挙げることができる。硬化遅延剤は2種類以上を混合して用いることもできる。 硬化遅延剤の配合量は、他の配合成分や要求される硬化時間等に応じて適宜選択できるが、(C)アルギン酸一価塩100質量部に対して1質量部〜30質量部の範囲内が好ましく、3質量部〜15質量部の範囲内がより好ましい。硬化遅延剤の配合量を上記範囲内とすることにより、作業時間に対応させて硬化時間を調整することが容易となることに加えて、硬化物を硬化性も良好にすることができる。 さらに、添加剤としては、例えば、充填剤、無機フッ素化合物、金属酸化物、アミノ酸化合物、不飽和カルボン酸重合体、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤等が挙げられ、本発明の印象材をペーストタイプのアルジネート印象材とする場合はさらに、水、難水溶性有機溶媒等が挙げられる。 充填剤を用いる場合は、公知のものが制限無く利用できる。充填剤としては、珪藻土、タルク等の粘度鉱物を用いることが好ましく、シリカ、アルミナ等の金属または半金属の酸化物も用いることができる。充填剤の配合量は特に制限されるものではないが、(C)アルギン酸一価塩100質量部に対して50〜2000質量部の範囲内が好ましく、100〜1000質量部の範囲内がより好ましい。 また、印象材硬化体の強度調節、印象採取時や石膏模型製造時の石膏模型の表面荒れを防ぐ観点からは、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等の無機フッ素化合物や、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、アミノ酸/ホルムアルデヒド縮合体等のアミノ酸化合物といった硬化助剤を配合することが好ましい。これらの配合量は特に限定されるものではないが、(A)硫酸カルシウム100質量部に対して、1〜200質量部の範囲内が好ましく、10〜100質量部の範囲内がより好ましい。 また、アルジネート印象材を構成する各成分を混合・練和した際、粘度の変化速度の制御を容易とするために、不飽和カルボン酸重合体を配合することが好ましい。 なお、ペーストタイプ印象材として使用する場合、これら添加剤は、基材ペーストおよび硬化剤ペーストのいずれか一方、または、双方に適宜添加することができる。例えば、硬化遅延剤は、硬化材ペーストに添加されることが好ましく、充填剤は、基材ペーストおよび硬化剤ペーストの双方に添加することが好ましい。 本発明のアルジネート印象材は、前述しているように、その包装の状態から粉末タイプ及びペーストタイプのどちらでも使用することができる。粉末タイプのアルジネート印象材は、前述した各粉末成分((A)硫酸カルシウム、(B)金属塩、(C)アルギン酸一価塩、硬化遅延剤、充填材など)の混合体であり、使用直前に必要分だけ歯科医師、或いは歯科衛生士らが規定量の印象材粉末と水とを練和してペースト化して印象採得に用いるものである。ここで、水は、アルジネート印象材を構成する粉末成分とは別包装として、製品パッケージに加えてもよいが、通常は、アルジネート印象材の利用者が・適宜調達することが好ましい。また、水の代わりに前述した各種の添加剤を溶解した水溶液を用いても良い。この場合、アルジネート印象材の製品パッケージには、粉末成分の他に添加剤水溶液が加えられることになる。 なお、印象材粉末と水の混合比率Rn(粉末印象材の使用量/水の使用量〔質量部/質量部〕)は特に制限されるものではないが、通常は、0.1〜1の範囲内であることが好ましい。 一方、ペーストタイプの印象材は、上記アルギン酸塩及び充填材などを、予め水を含む溶液を用いて、均一なペースト状とした基材ペーストと、硫酸カルシウム、硬化遅延剤、充填材などを、難水溶性有機溶媒を用いてペースト化した硬化材ペーストとからなり、使用直前に混練ミキサー等を用いて両者を規定量ずつ練和混合して均一なペーストとした後に印象採得に用いるものである。 なお、印象材がペーストタイプである場合は、混練作業に際して、硬化材ペーストに対する基材ペーストの混合比率Rm(基材ペーストの使用量/硬化材ペーストの使用量〔質量部/質量部〕)は特に制限されるものではないが、通常は、1〜4の範囲内であることが好ましい。 本発明のアルジネート印象材の製造方法としては特に限定されず、アルジネート印象材が市場に提供される形態に応じて公知の製造方法が適宜選択できる。たとえば、アルジネート印象材が、粉末タイプの場合、粉末を構成する各成分を任意の順番で混合・攪拌することで、均一かつムラの無い粉末を得ることができる。また、粉末タイプのアルジネート印象材が、粉末に加えて添加剤水溶液も有する場合、水中に、添加剤水溶液を構成する水以外の各添加剤成分を任意の順番で分散・溶解させることができる。 また、本発明のアルジネート印象材が、ペーストタイプの場合、ペースト製造に利用できる公知の攪拌混合機を用いて、基材ペーストおよび硬化材ペーストを製造することができる。ここで、攪拌混合機としては、たとえば、ボールミルのような回転容器型混合混練機、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリュー二一ダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー、等の水平軸または垂直軸を有する固定容器型の混合混練機を利用することができる。さらに、基材ペーストや硬化材ペーストの製造に際しては、上述した各種の混合混練機を2種類以上組み合わせて利用することもできる。 本実施形態のアルジネート印象材の使用に際しては、一般的に、少なくとも本実施形態のアルジネート印象材から混練物を作製した後、この混練物を専用のトレーに盛りつける。そして、トレーに盛りつけられた混練物を歯牙等の目的物に圧接することで印象を採取する。その後、印象が採取された混練物が硬化して硬化物となった後、この硬化物を基に石膏模型を作製する等の後工程がさらに実施される。ここで、トレーとしては公知のトレーが制限なく利用できるが、一般的には金属製トレーまたはレジン製トレーが利用される。金属製トレーの材質としては、ステンレス、錫合金、アルミニウム、メッキ処理あるいは樹脂コーティングされた黄銅等が挙げられる。なお、本実施形態のアルジネート印象材を用いた場合、混練物は、いずれの金属製トレーにもよく保持される。また、レジン製トレーの材質としてはポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。 以下に本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。<<原料の略称>> 後述する実施例および比較例のアルジネート印象材の作製に用いた各種原料の略称、及び20℃の水への溶解度は以下の通りである。1、金属塩P3Mg:リン酸三マグネシウム(0.4g/l)P2Mg:ピロリン酸マグネシウム(0.2g/l)PAl:リン酸アルミニウム(0.1g/l)CO3Zn:炭酸亜鉛(0.1g/l)CO3Mg:炭酸マグネシウム(1.5g/l)C2O4Mg:シュウ酸マグネシウム(1.2g/l)2、アルギン酸塩Alg−Na:アルギン酸ナトリウム3、その他P3Na:リン酸三ナトリウムFTiK:フッ化チタンカリウムMgO:酸化マグネシウム流動P:流動パラフィンDec13:デカグリセリルトリオレート<<溶解度の測定>> また、(B)金属塩の溶解度については以下のように行った。 蒸留水100mlに対象物を飽和状態になるように添加し、20℃のウォーターバス中で24時間攪拌を行い溶解させた。試料を濾過し不溶分を取り除いた後、ICP発光分光分析法を用い、標準濃度試薬を使用して検量線を作成した後、溶解した金属イオン量の定量を行った。以後、対象物の溶解度を示す場合には20℃における溶解度を単に溶解度として表記する。<<評価方法>> 後述する実施例および比較例のサンプルについての「硬化時間」の評価方法、ならびに、「弾性歪み、永久歪み」の評価方法は、以下の通りである。「硬化時間」の測定: アクリル板(71mm×71mm)に平円筒(外径50mm、内径45mm、高さ8mm)を接着したものに印象材錬和物を盛付け、上面を擦切り、ストップウォッチをスタートする。この面にアクリル棒(直径6mm×100mm)を挿入し、引上げる操作を繰り返す。アクリル棒の挿入引上げによる印象材面ザラツキ感(部分硬化による面荒れ)が生じるまでの時間を測定した。なお、同試験を3回行い、その平均値を硬化時間とした。ここで、(B)低水溶解・低イオン化傾向金属塩を配合せず、硬化遅延材の適量配合により良好な硬化余裕時間を有するものになっている比較例1での上記硬化時間129秒を基準にして、その硬化時間が120秒以上の長さに保持されているものは、特に優れた硬化余裕時間を有すると評価できる。また、105秒以上の長さに保持されているものも、良好な硬化余裕時間を有すると評価できる。「弾性歪み」、「永久歪み」の測定: アクリル板の上に内径31mm、外径38mm、高さ16mmの円柱状モールドAを置き、その内部に印象材練和物を満たした後、その中へ内系13mm、外径25mm、高さ20mmの円柱状モールドBを挿入し、上面を別のアクリル板で圧接、小型万力で固定し、37℃水中に浸漬させ、ストップウォッチをスタートさせた。3分経過後に試料を水中から取り出し、モールドBから印象材硬化体サンプル(13mmφ×20mm)を取り外し、セイキ社製圧縮試験機(「PEACOCK」製品名)にセットした。圧縮試験機にセットしてから1分経過後に以下の手順で圧縮試験を開始した。まず、100gf/cm2の荷重を加え、ストップウォッチをスタートし、30秒経過時のダイヤルゲージを読み取る(A)。60秒時に、総重量が1000gf/cm2になるよう70秒時までの間に静かに荷重を加え、100秒時のダイヤルゲージを読み取る(B)。 更に、130秒時に、再び100gf/cm2の荷重を加え、160秒経過時のダイヤルゲージを読み取る(C)。A、B、C値から弾性歪(εe)及び永久歪(εp)を次式から求めた。なお、同試験を3回行い、その平均値を弾性歪み、永久歪みとした。弾性歪み (εe)=(A−B)/20×100(%)永久歪み (εp)=(A−C)/20×100(%) ここで、弾性歪の値が14%以下を示すものは、特に優れた弾性歪を有すると評価でき、15%以下を示すものも、良好な弾性歪を有すると評価できる。また、永久歪の値についても同様に、4%以下を示すものは、特に優れた永久歪を有すると評価でき、5%以下を示すものも、良好な永久歪を有すると評価できる。 実施例1 (A)硫酸カルシウムとして、72gの無水石膏及び28gの二水石膏、(B)金属塩として、5gのP3Mgを、さらに、溶剤として34gの流動パラフィンと12gのデカグリン、硬化助剤としてMgOとFTiKをそれぞれ13gずつ、硬化遅延剤としてP3Mgを3g、充填材として珪藻土を70g量りとり、小型混練器(アイコー産業社製アイコーミキサー)を用いて1時間混練し、硬化材ペーストを調整した。また、(C)アルギン酸塩として、29gのAlg−Na、水として、510gの蒸留水、充填材として珪藻土を11g量りとり、小型混練器を用いて1時間攪拌し、基材ペーストを調整した。得られた硬化材ペースト及び基材ペーストを、アルジネート印象材自動練和器(トクヤマデンタル社製「APミキサーII」)によって硬化材ペーストに対する基材ペーストの混合比率Rmが2となるように混練し、得られた混練物を用いて、硬化時間の測定、及び弾性歪み、永久歪みの測定を行った。 実施例2〜10 アルジネート印象材の組成を、表1に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして基材ペーストおよび硬化剤ペーストを調整し、得られた混練物を用いて、硬化時間の測定、及び弾性歪み、永久歪みの測定を行った。 比較例1〜10 アルジネート印象材の組成を、表2に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして基材ペーストおよび硬化剤ペーストを調整し、得られた混練物を用いて、硬化時間の測定、及び弾性歪み、永久歪みの測定を行った。(評価結果) 実施例1〜9および比較例1〜10のアルジネート印象材の組成を、表1、及び表2に示す。また、実施例1〜10および比較例1〜10のサンプルの硬化時間、弾性歪み、永久歪みの測定結果を表3に示す。 実施例1〜実施例10は、本発明の要件すべてを満足するように調整したものであるが、何れの場合も、十分に長い硬化時間と、良好な弾性歪み及び、永久歪みを有していた。 これに対して比較例1は、本発明の(B)低水溶解・低イオン化傾向金属塩を配合しなかった場合であるが、十分に長い硬化時間となるように調整した場合、弾性歪みと永久歪みの両方が大きくなり、硬化体が柔らかくなってしまう。 比較例2は(B)低水溶解・低イオン化傾向金属塩を配合していない比較例1の組成物において、更に、硬化助剤を増量して弾性歪み及び永久歪みの向上を試みたものであるが、硬化助剤を増量することで硬化時間が短縮してしまう。 比較例3は比較例2の組成物において、更に硬化遅延剤を増量し、硬化時間を遅延させることで物性の最適化を図ったものであるが、十分な硬化時間を確保しようとすると、弾性歪みと永久歪みが大きく(硬化体が軟らかく)なってしまう。 比較例4は、硬化時間を遅延するため(A)硫酸カルシウムである二水石膏を減量し、硬化遅延剤の配合量により、硬化時間を最適値に調整したものであるが、この場合においても弾性歪みと永久歪みとの両立は達成されない。 比較例5〜比較例7は本発明の(B)低水溶解・低イオン化傾向金属塩の代わりに、酢酸アルミニウム(溶解度3.0g/L)やシュウ酸アルミニウム(溶解度1.9g/L)、といった、溶解度が1.5g/Lを超えるものを使用した場合であるが、硬化材ペーストと基材ペースト混練直後に、金属塩が水に溶解してしまう為、硬化時間に影響を与えてしまい、硬化時間と硬化体強度の好ましい範囲での両立ができていない。 比較例8〜比較例9は珪酸マグネシウム(水に不溶)、珪酸アルミニウム(溶解度0.01g/L)といった、0.1g/L)に満たないものを使用した場合は、金属イオンを供給しないため硬化体の強度を向上させることができない。 同様に比較例10は珪藻土を大幅に増量した場合であるが、この場合でも弾性歪が改善しないうえ、永久歪が低下してしまうため、満足な歪み物性を得られていない。(A)硫酸カルシウム、(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩、及び(C)アルギン酸一価塩、を含むことを特徴とする歯科用アルジネート印象材。(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩が、リン酸塩、ピロリン酸塩、炭酸塩、又はシュウ酸塩である請求項1に記載の歯科用アルジネート印象材。(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩が、リン酸マグネシウム、又はピロリン酸マグネシウムである請求項1又は請求項2に記載の歯科用アルジネート印象材。(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩の配合量が、(A)硫酸カルシウム100質量部当たり1質量部〜50質量部である請求項1〜3の何れか一項に記載の歯科用アルジネート印象材。さらに、(D)硬化遅延剤を含有してなる、請求項1〜4の何れか一項に記載の歯科用アルジネート印象材。 【課題】硬化時間の長い、つまりは操作余裕時間を十分に有し、且つ、良好な歪み物性、つまりは高い印象材硬化体の強度を発現する歯科用アルジネート印象材を提供する。【解決手段】(A)硫酸カルシウム、(B)20℃の水への溶解度が0.1〜1.5g/Lである、イオン化傾向がカルシウムより小さい金属の塩、例えばリン酸マグネシウム、又はピロリン酸マグネシウム、及び(C)アルギン酸一価塩、を含むことを特徴とする歯科用アルジネート印象材。【選択図】 なし