タイトル: | 特許公報(B2)_椎間板ヘルニア治療剤 |
出願番号: | 2012548649 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 38/43,A61P 19/00,A61P 25/00 |
白銀 泰一 村山 隆夫 矢口 理史 JP 5465791 特許公報(B2) 20140131 2012548649 20111213 椎間板ヘルニア治療剤 生化学工業株式会社 000195524 佐伯 憲生 100102668 中村 正展 100182486 佐伯 裕子 100147289 牛山 直子 100158872 白銀 泰一 村山 隆夫 矢口 理史 JP 2010277490 20101213 20140409 A61K 38/43 20060101AFI20140319BHJP A61P 19/00 20060101ALI20140319BHJP A61P 25/00 20060101ALI20140319BHJP JPA61K37/48A61P19/00A61P25/00 A61K 38/43 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 松山幸弘,シンポジウム 腰椎椎間板ヘルニア治療の最前線“腰椎に対する椎間板内注入療法”,臨床整形外科,日本,2007年 3月,Vol.42,No.3,P.223-228 12 JP2011006938 20111213 WO2012081227 20120621 13 20130712 中尾 忍 本発明は、コンドロイチナーゼABCを有効成分とする椎間板ヘルニア治療剤に関する。 椎間板ヘルニアは、椎間板内に存在する「髄核」が、その周囲に存在する線維輪を穿破し、椎間板の組織が脊柱管内に突出して脊髄等の神経を圧迫し、これにより下肢痛・腰痛等の症状が生ずる疾患である。その治療の原則は保存療法であり、約90%の症例が保存療法で治癒すると報告されている。保存療法としては、安静、臥床、薬物治療(非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド薬、筋弛緩薬)、体幹装具(コルセット)、牽引療法、温熱療法、硬膜外ブロック、神経根ブロック、運動療法など様々な治療法が行われている。これらの保存療法で改善がみられない場合には手術療法が選択され、全腰椎椎間板ヘルニア患者の10〜30%が手術適用となっている。近年、手術療法による侵襲・負担を低減するため、化学的髄核融解術が考案されている。 化学的髄核融解術は、椎間板内に酵素を注入し、髄核を融解して椎間板の内圧を減少させて、脊髄神経根への圧迫を減じる方法である。 これまでに、椎間板内に注入する酵素としてキモパパインを用いる方法が報告されており、1964年にその有効性が報告されている(非特許文献1)。しかし、キモパパインは、髄核のみならず脊髄等を含む椎間板の周辺組織にも作用し、重篤な神経学的合併症(対麻痺、横断性脊髄炎、脳出血、くも膜下出血、四肢麻痺等)が見られたことから、現在は医薬としての販売が中止されている(非特許文献2)。 したがって、現在、化学的髄核融解術のための医薬は市販されておらず、化学的髄核融解術を安全に行うことができる医薬の開発が望まれている。 コンドロイチナーゼABCは、髄核に存在するプロテオグリカンのグリコサミノグリカン鎖(コンドロイチン硫酸鎖やヒアルロン酸鎖など)を分解し、プロテオグリカンの高い保水性を減弱させて椎間板の内圧を減少させ、その結果、脊髄神経根への圧迫を軽減すると考えられている。また、キモパパインとは異なり、椎間板周囲の神経組織等への傷害もほとんどなく、安全な医薬となることが期待され、椎間板内に注入する酵素として、コンドロイチナーゼABCを用いる試みが1985年に報告されている(特許文献1、非特許文献3、非特許文献4)。 しかし、椎間板は本来、脊椎にかかる体重を支えるクッションとしての役割も有しているため、過剰に髄核を除去してしまうと、その椎間板が本来有するはずであったクッションとしての機能が損なわれる。実際、手術療法によって椎間板高さが30%以上減少した患者では腰痛が遺残する可能性が示されている(非特許文献5)。したがって、コンドロイチナーゼABCの投与による化学的髄核融解術でも、過剰に髄核が融解されることになれば、椎間板が本来有するはずであったクッションとしての機能が損なわれ副作用を招く可能性がある。 加えて、コンドロイチナーゼABCはヒトに存在しない異種蛋白であることから、アナフィラキシーショックの阻止等の観点からも、複数回の投与ではなく、1回の投与のみで治療を成功させねばならない。1回の投与のみで治療を完了させるということは、完治するまで複数回投与を行うことが出来ないため、1回の投与で有意な治療効果を示し、且つ副作用の少ない至適用量を導き出す必要があった。 また、動物モデルにおいて椎間板変性に関する研究が多く行われているが、動物種間で椎間板が異なることから、動物モデルでの結果をヒトの椎間板変性の研究へと応用するには、よりいっそうの注意と研究努力が必要であった(非特許文献6)。 以上のような1回投与の特殊性及び動物モデルからヒトへの適用の難しさが、コンドロイチナーゼABCによる化学的髄核融解術を困難なものとし、現に、前記1985年から25年経過した現在においても、実用化に至っていない。 特許文献1には、コンドロイチナーゼABCを椎間板内に投与して髄核を融解し、椎間板ヘルニアを治療する旨、及び、コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり100ユニット投与し、椎間板ヘルニアの治療効果が得られた旨が記載されているが、その効果は十分ではなく副作用に対する検討がなされていなことから有用な投与量を決定できるまでには至っていない。また、非特許文献3には、コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり0.5ユニット投与し、椎間板ヘルニアの治療効果が得られた旨が記載されている。非特許文献4には、コンドロイチナーゼABCをイヌの椎間板内に1椎間板あたり0.5〜1、2.5〜5及び5〜10ユニット投与した旨が記載されているが、ヒトの髄核体積はイヌの約70倍であるから、この投与量をヒトに換算すれば、約35ユニット以上であるということになる。しかし、コンドロイチナーゼABC投与後の詳細な副作用の検討については行われていない。 したがって、最大の治療効果を示し、かつ副作用が最小となるコンドロイチナーゼABCの至適用量については開示も示唆もされていない。米国特許第4696816号明細書Smith L.Enzyme dissolution of the nucleus pulposus in humans.JAMA 1964(2);187:137-40.US Federal Register. Monday Jan 27、2003;68(17):3886-7.臨床整形外科、第42巻、第3号、223〜228ページ、2007年3月SPINE、1991;16(7):816-19SPINE、1996;21(13):1556-64Eur Spine J、2008;17:2-19 以上のように、コンドロイチナーゼABCは化学的髄核融解術のための医薬の有効成分としての有用性が報告されてきたが、過剰な髄核の融解による重篤な副作用も懸念されており、1回だけの投与により確実な治療効果を発現することができ、かつ副作用がない投与量が存在するのか否かも知られておらず、実用化には至っていなかった。 本発明は、副作用が極めて低く、1回の投与のみで長期間持続した疼痛改善効果が得られ、臨床において高い治療効果と安全性を発揮する椎間板ヘルニア治療剤を提供することを課題とする。 本発明者らはコンドロイチナーゼABCによる治療についてさらに鋭意検討を重ねた結果、意外にも特定量のコンドロイチナーゼABCを投与することによって、副作用を低減でき、かつ、長期間の持続した疼痛改善効果・臨床における高い治療効果が発揮されることを見出し、本発明を完成した。 即ち、ヒトの椎間板内に1椎間板あたりコンドロイチナーゼABCの1〜8ユニットの投与量においては、治療効果を期待できるだけでなく、副作用の発現を低減できることを見出し、コンドロイチナーゼABCを用いた実用的で、かつ優れた椎間板ヘルニア治療剤を提供できることを見出した。 本発明は、ヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニット投与されるコンドロイチナーゼABCを有効成分として含有してなる椎間板ヘルニア治療剤に関する。 また、本発明は、コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニットで投与するための、椎間板ヘルニア治療用の投与製剤に関する。 さらに、本発明は、椎間板ヘルニアの患者に、有効投与量としてコンドロイチナーゼABCを1〜8ユニット含有してなる製剤を投与することからなる椎間板ヘルニアの治療方法に関する。 より詳細には、本発明は、以下のとおりである。(1)コンドロイチナーゼABCを有効成分とし、当該成分がヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニット投与されるように用いられることを特徴とする、椎間板ヘルニア治療剤。(2)椎間板ヘルニアが腰椎椎間板ヘルニアである、前記(1)に記載の治療剤。(3)コンドロイチナーゼABCが、プロテウス・ブルガリス由来のものである、前記(1)又は(2)に記載の治療剤。(4)コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニットで投与するための、椎間板ヘルニア治療用のコンドロイチナーゼABCを含有してなる製剤。(5)製剤が、単回投与製剤である前記(4)に記載の製剤。(6)製剤が、注射剤である前記(4)又は(5)に記載の製剤。(7)椎間板ヘルニアが、腰椎椎間板ヘルニアである、前記(4)から(6)のいずれかに記載の製剤。(8)椎間板ヘルニアの患者に、有効投与量としてコンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニット投与することからなる、椎間板ヘルニアの治療方法。(9)コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニットで投与されるように用いられることを特徴とする椎間板ヘルニア治療剤として使用するためのコンドロイチナーゼABC。 本発明により、副作用が少なく、1回の投与で椎間板ヘルニア治療を完了することができ、安全でかつ治療効果が高く臨床的有用性が高い実用的な椎間板ヘルニア治療剤を提供することができる。 本発明は、コンドロイチナーゼABCによる化学的髄核融解術において、安全でかつ治療効果が高く臨床的有用性がある投与量が存在することを初めて明らかにするものであり、そして、その投与量が1〜8ユニット、好ましくは1〜5ユニットであるという限定的な範囲を初めて明らかにし、コンドロイチナーゼABCの投与による化学的髄核融解術の実用化に大きく貢献するものである。治療剤投与後の最悪時下肢痛(VAS)の推移を示した図である。投与ユニット群ごとの副作用の発現率を示した図である。投与ユニット群ごとの椎間板高の平均減少率を示した図である。 以下、本発明の実施の形態について説明する。(1)本発明の治療剤の有効成分 本発明の治療剤の有効成分として用いるコンドロイチナーゼABCは、コンドロイチナーゼABCの作用を有する酵素である限りにおいて特に限定されない。その由来も特に限定されないが、微生物由来のものが好ましく、プロテウス・ブルガリス(Proteus vulgaris)由来のものが好ましい。 かかるコンドロイチナーゼABCの製造方法等も特に限定されず、例えば、プロテウス・ブルガリス等の微生物を培養して生産させてもよく、コンドロイチナーゼABCをコードするDNA等を用いて遺伝子工学的手法で生産させてもよい。 かかるコンドロイチナーゼABCは、医薬として使用できる程度に精製され、医薬として混入が許されない物質を含有しないものであることが好ましい。 このようなコンドロイチナーゼABCとして、より具体的には、270ユニット/mg蛋白以上の酵素活性を有し、かつ、エンドトキシン、核酸、プロテアーゼ含量がいずれも検出限界以下であるものが好ましい。このようなコンドロイチナーゼABCは、例えば、特開平6−153947号公報に記載の方法で得ることができる。 なお、本発明において、コンドロイチナーゼABCの「1ユニット」とは、コンドロイチン硫酸Cを基質として酵素を作用させた場合に、pH8.0、37℃の条件下で、1分間に不飽和二糖を1マイクロモル(μM)遊離させる酵素量を意味する。 酵素活性が270ユニット/mg蛋白以上であるコンドロイチナーゼABCを使用することにより、注射用医薬品として生体内に投与した際に周辺組織に影響を与えること無く、目的部位のプロテオグリカンを適切に分解することができ、安全性と有効性が高い医薬とすることができる。(2)対象疾患 本発明の治療剤の対象疾患は、椎間板ヘルニアである限りにおいて限定されないが、腰椎椎間板ヘルニアが好ましく、なかでも、第4腰椎と第5腰椎間の椎間板や、第5腰椎と第1仙骨間の椎間板に生じる腰椎椎間板ヘルニアが特に好ましい。(3)投与部位・方法・回数 本発明の治療剤は、椎間板ヘルニアが生じている椎間板内に存在する髄核に注入して用いる。注入の回数は1回である。 これにより椎間板の髄核中のコンドロイチン硫酸鎖やヒアルロン酸鎖が分解されて、プロテオグリカンの有する高い保水性が減弱し、椎間板内圧が低下し、その結果、椎間板ヘルニアによる脊髄神経根の圧迫が軽減されることになり、椎間板ヘルニアが改善されることとなる。(4)投与量 本発明の治療剤は、1椎間板あたり、本発明の治療剤の有効成分たるコンドロイチナーゼABCの量として1〜8ユニット投与されるものである。なかでも、1〜6ユニット投与されるものが好ましく、1〜5ユニット投与されるものがより好ましく、1〜3ユニット投与されるものがより好ましく、1〜2.5ユニット又は1.25〜3ユニット投与されるものがさらに好ましく、1.25〜2.5ユニット投与されるものが特に好ましく、1.25ユニット又は2.5ユニット投与されるものが最も好ましい。 特に、1.25ユニットから5ユニットの投与量において、治療効果はほぼ同等であり(図1参照)、副作用の発現率(%)が2.5ユニットの投与量において極小となる(図2参照)ことから、1回の投与による有効な治療効果と安全性を確保するためには、1〜5ユニット、好ましくは1〜3ユニットである。(5)剤型等 本発明の治療剤は、注射剤として通常採用される剤型で提供することができる。例えば、溶液状、凍結状、又は凍結乾燥状のいずれであっても良い。これをアンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器に充填・密封し、注射剤とすることができる。 また、アンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器に本発明治療剤を充填あるいは密封する際、本発明の治療剤の化学反応、特に酸化を防ぐために、窒素ガスや希ガス等の不活性ガスを共に充填あるいは密封しておいてもよい。 本発明の治療剤を充填・密封することができるアンプル、バイアル、注射用シリンジ等の容器の材質は、本発明治療剤に影響を与えず、製剤学上許される材質であれば特に限定されない。 本発明の治療剤の製剤化は、公知の方法を用いることができる。また製剤化にあたり、コンドロイチナーゼABC自体の活性等に悪影響を与えず、かつコンドロイチナーゼABCの作用に悪影響を与えない限りにおいて、他の医薬活性成分や、慣用の賦形剤、安定化剤、結合剤、乳化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤等、通常医薬に用いられる成分を使用できる。 以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。 本発明の治療剤の製造(1)コンドロイチナーゼABCの製造 コンドロイチナーゼABCは、特開平6−153947号公報に記載の方法で、プロテウス・ブルガリスを培養し、その培養上清から精製することによって製造した。 製造されたコンドロイチナーゼABCの酵素活性は、いずれも、270〜480ユニット/mg蛋白の範囲内であった。また、いずれもエンドトキシン、核酸、プロテアーゼ含量は検出限界以下であった。(2)製剤化 常法により、以下の各ユニットの前記コンドロイチナーゼABCと、以下の製剤成分とを含有する、以下の(A)〜(C)の3種の凍結乾燥注射剤を製造した。 (A) 5ユニットの前記コンドロイチナーゼABC (B) 10ユニットの前記コンドロイチナーゼABC (C) 20ユニットの前記コンドロイチナーゼABC 製剤成分: リン酸水素ナトリウム水和物 1.125mg リン酸二水素ナトリウム 0.3mg 精製白糖 5mg ポリエチレングリコール3350 10mg (注:ポリエチレングリコール3350は、日局のマクロゴール 4000に適合するものである。) また、プラセボとしては、前記の製剤成分のみ(コンドロイチナーゼABC非含有)を、同様に凍結乾燥注射剤としたものを用いた。(3)投与前の溶解 前記の(A)〜(C)の各製剤(プラセボを含む)に、使用前に、以下の組成の用時溶解液4mLを添加して、溶解させて、それぞれ1.25ユニット/mL投与用製剤、2.5ユニット/mL投与用製剤、及び5ユニット/mL投与用製剤を調製した。プラセボについても同様に調製した。 用時溶解液: リン酸水素ナトリウム水和物 3.375mg リン酸二水素ナトリウム 0.9mg 精製白糖 15mg ポリエチレングリコール3350 (日局のマクロゴール4000に適合) 30mg 塩化ナトリウム 36mg 注射用水 4ml 椎間板ヘルニア患者に対する試験1.被験者 20歳以上70歳以下の日本人で、以下の腰椎椎間板ヘルニアの患者(計194例)を被験者とした; MRIで第4腰椎と第5腰椎間の椎間板又は第5腰椎と第1仙骨間の椎間板のいずれかに腰椎椎間板ヘルニアが確認され、障害されている神経根の位置と臨床症状とが一致した、膨隆型又は後縦靱帯下脱出型(後縦靱帯を穿破していない)の腰椎椎間板ヘルニア患者。 第6腰椎が認められる場合は、第5腰椎神経根又は第1仙骨神経根が障害され、臨床症状が一致する患者。 上記被験者を、プラセボ投与(47名)、1.25ユニット投与(49名)、2.5ユニット投与(49名)及び5ユニット投与(49名)の各群に分け、各々、対応する前記投与用製剤を投与した。2.本発明の治療剤の投与方法 実施例1に記載の各投与用製剤(4ml)のうち、1mlを投与に用いた。したがって、投与されることとなる酵素量は、1.25ユニット投与用製剤については1.25ユニット/mL、2.5ユニット投与用製剤については2.5ユニット/mL、5ユニット投与用製剤については5ユニット/mLとなる。これを用いて、以下のとおり椎間板髄核内に各1mLを単回注射した。3.評価(1)薬効評価ア 被験者による疼痛評価(Visual Analog Scale:VAS) 前記投与用製剤の投与後1週目、2週目、3週目、4週目、5週目、6週目、13週目、26週目、39週目及び52週目の各時点で、被験者自身が評価した「過去24時間の最悪時下肢痛(VAS評価)」についての測定(VAS値測定)を実施した。 被験者によるVAS評価は就寝前に行った。100mmの直線とともに、当該直線の左端に「痛みなし」、右端に「これまでに感じた最大の痛み」と記載された「痛み評価シート」上の直線上に、被験者自身が、その疼痛の程度をポイントで印した。 同直線の左端から、被験者が印したポイントまでの距離(mm)を測定し、疼痛の程度を評価した。この評価結果につき、プラセボ群を対照としたDunnett型多重比較を行った。 さらに、疼痛の変化率(VAS変化率)を評価した。VAS変化率は、前記投与製剤の投与前のVAS値から前記投与製剤の投与後13週目におけるVAS値を引くことでVAS変化量とし、次いで、そのVAS変化量を前記投与製剤の投与前のVAS値で除すことで求めた。このVAS変化率について、プラセボ群を対照とした共分散分析(p<0.05)を行った。イ 神経学的検査 椎間板ヘルニアによる神経刺激症状を調べるため、前記投与用製剤の投与後13週目に、下肢伸展挙上テスト(SLRテスト(Straight Leg Raising Test))を実施した。 SLRテストは、腰椎椎間板ヘルニアの神経学的検査の一つで、伸展させた下肢を挙上し、座骨神経痛により挙上角度が70°以下の場合を陽性と判定し、70°を越えた場合を陰性とする。本試験の投与前は、全員が陽性であった。 SLRテストの陽性・陰性について群別に頻度集計を行い、SLRテストの陰性の割合について、プラセボ群を対照としたSteel型の多重比較で検討した。 なお、薬効評価は被験者193例を対象に行った。(2)安全性評価 安全性評価は194例の被験者を対象に行った。 副作用の発現数及び発現率を求めた。評価は前記投与用製剤の投与後13週目まで行った。ただし、副作用のうち、以下の(ア)及び(イ)の項目については、投与後52週目まで評価した; 前記投与用製剤の投与前の値と比較して、同投与後の(ア)椎間板高の減少率が30%以上となったもの、及び、(イ)椎体の後方開大角度が5°以上となったもの。 なお、(イ)椎体の後方開大角度が5°以上とする安全性評価は、米国食品医薬品局(FDA)が定める、椎間板の不安定性に関する指標である。 前記投与用製剤の投与後13週目における各ユニット投与群の椎間板高の平均減少率を求めた。4.結果(1)薬効評価ア VAS 前記投与用製剤の投与後の最悪時下肢痛(VAS)の推移を図1に示す。図1の横軸は投与後の時間(週)を示し、縦軸はVASの値(mm)を示す。グラフ中の菱形印(◆)はプラセボ群の結果を示し、丸印(●)は1.25ユニット投与群の結果を示し、四角印(■)は2.5ユニット投与群の結果を示し、三角印(▲)は5ユニット投与群の結果を示す。 前記投与用製剤のいずれの投与群においても1週目から疼痛抑制効果が観察された。特に、前記投与用製剤の1.25ユニット投与群、及び5ユニット投与群においては、1週目からプラセボに比し有意な疼痛抑制効果(p<0.05)が示された。また、投与後39週目、52週目には、全ての投与群においてプラセボに比し有意な疼痛抑制効果(p<0.01又はp<0.001)が示された。その疼痛抑制効果は1.25ユニット投与群、2.5ユニット投与群、5ユニット投与群でほぼ同等であり、1年(52週)にわたって有効であることが示された。これにより、前記投与用製剤が、1回の投与で、有意な疼痛抑制効果を示すことが示された。 また、投与後13週目におけるVAS変化率では、1.25ユニット投与群で66%、2.5ユニット投与群で61%、5ユニット群で69%であり、いずれのユニット投与群においてもプラセボ投与群のVAS変化率(45%)と比較して有意な減少が確認できた。イ 神経学的検査(SLRテスト) プラセボ群では陰性化率は50%程度であったが、投与群ではいずれも60%以上となった。特に、1.25ユニット投与群では、80%以上に達した。 いずれの投与群においても、陰性の割合が増加した。特に1.25ユニット投与群においては、プラセボに比して有意(p<0.01)に陰性の割合が増加した。(2)安全性評価 副作用の発現率を、図2に示す。図2の横軸は各投与群を示し、縦軸は副作用の発現率(%)を示す。5ユニット投与群では発現率は、61.2%であったが、2.5ユニット投与群での発現率は、44.9%であり、1.25ユニット投与群では発現率は、46.9%であった。このことから、副作用の発現率の極小値が、1椎間板あたり2.5ユニット投与群の付近にあることが示され、副作用を極小とすることができる投与量の存在が明らかにされた。 次に、椎間板の不安定性に関する副作用である(ア)椎体の後方開大角度が5°以上となったもの、及び(イ)椎間板高の減少率が30%以上となったもの、について検討した。結果を次の表1に示す。 この結果、5ユニット投与群で、椎体の後方開大角度が5°以上となったものは1例(発現率2%)みられた。一方、1.25ユニット投与群、及び2.5ユニット投与群では、椎体の後方開大角度が5°以上となったものは皆無であった。また、比較例として挙げている10ユニット投与群では、2例(発現率33.3%)であり、椎間板の不安定性に関する副作用が高率で発生し、実用性がないことが示された。 椎間板高の減少率が30%以上となったものは、5ユニット投与群では7例(発現率14.3%)であったが、1.25ユニット投与群及び2.5ユニット投与群では、それぞれ4例(発現率8.2%)であり、副作用の発現が急激に減少することがわかった。 次に、各ユニット投与群の椎間板高の平均減少率を図3に示す。図3の横軸は各投与群を示し、縦軸は椎間板高の減少率(%)を示す。 この結果、椎間板高の平均減少率は、5ユニット投与群、2.5ユニット投与群、及び1.25ユニット投与群では、いずれも30%未満となることがわかった。これらの投与群では、いずれもプラセボ群に比べて大きな減少率となっており、治療効果が見られたことが示された。また、比較例の10ユニット投与群では、減少率は30%以上となっていた。 また、2.5ユニット投与群では1例、5ユニット投与群では1例、副作用であるコンドロイチナーゼABCに対するIgG抗体価の上昇が認められた。この抗体価の上昇は、1.25ユニット投与群では認められなかった。(比較例)10ユニット投与における安全性評価 腰椎椎間板ヘルニア患者(6名)に対し、前記と同様の方法で1椎間板あたり10ユニットのコンドロイチナーゼABCを投与した。安全性評価として、(ア)投与後12週目における椎間板高の減少率、及び(イ)椎体の後方開大角度が5°以上となったものの発現数及び発現率を求めた。 投与後12週目における椎間板高の減少率を図3に示す。その結果、椎間板高の平均減少率は45.4%であり、安全性に問題が生じる可能性のある数値(30%)を大きく超えていた。 また、椎体の後方開大角度が5°以上であった結果を、表1に併せて示した。表1に示されるように、10ユニット投与群では、後方開大角度が5°以上となったものが33.3%見られた。この結果から、10ユニット投与では脊椎の不安定性に関するリスクが高いと考えられる。 非特許文献4に記載されている、イヌに対するコンドロイチナーゼABCの投与量から、ヒトに対して有効なコンドロイチナーゼABCの投与量を推定するため、MRIを用いてヒト及びイヌの髄核体積を測定した。(参考例)MRIを用いた髄核体積の比較 9人の健常ボランティア(男性6名、女性3名)、及びイヌの摘出標本(6例)について、第4腰椎と第5腰椎間の椎間板MRIによるT2強調画像にて撮像し、髄核冠状断画像の短径、長径、面積及び矢状断画像の短径を測定した。髄核体積は、MRI画像の計測値から算出(冠状断面積×矢状断短径)した。結果を次の表2に示す。5.まとめ 椎体の後方開大角度が5°以上となるものは、10ユニット投与では33.3%であったのに対し、投与量を半分の5ユニットとすることで、発現率を2%にまで著しく軽減できることを見出した。 また、10ユニット投与では、椎間板高の平均減少率は45.4%にも達していたのに対し、5ユニット投与群では、椎間板高の減少率が17.6%であったことから、投与量を10ユニットから半分の5ユニットにすることによって、椎間板高の減少も顕著に抑制できることが示された。 非特許文献3では、コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり0.5ユニット投与した時、迅速な下肢痛改善が起こらないことから、投与量が少なかった旨が記載されているが、副作用についての詳細な検討は行われておらず、臨床上有効な投与量は不明であった。 本発明により、1椎間板あたり1〜8ユニット、好ましくは1〜5ユニットの範囲で投与することで、1回の投与のみで有意な疼痛改善効果を発揮しつつ、副作用を低減することができ、さらに1〜3ユニットの範囲での投与を選択することで、より高い用量(5U)と同等の疼痛改善効果を発揮しつつ、副作用もさらに低減することができることが見出された。 一方、非特許文献4では、イヌの椎間板内に1椎間板あたり0.5〜1ユニット投与した時であっても、迅速な髄核の縮小が起こらないことから、投与量が過少であった旨が記載されている。また、非特許文献6には、椎間板の挙動は椎間板の大きさに依存するため、動物モデルの実験結果の分析には拡大縮小尺度の設定(スケーリング:scaling)が必要である旨が記載されている。そして、上記参考例より、ヒトの髄核体積はイヌに比べて70倍の大きさであることが確認できた。これら非特許文献4及び非特許文献6の記載、並びにヒトの髄核体積がイヌの髄核体積よりも遥かに大きいことを鑑みると、ヒトでは0.5〜1ユニットの70倍である35〜70ユニットを投与した場合でも、投与量が足りないと推定された。 このように、非特許文献4に記載のイヌの実験結果から推定されたヒトに対する投与量は、本発明で見出された投与量と全く異なり、ヒトに対して有効な投与量を予測することは極めて困難であった。 以上より、コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜8ユニット投与することで、副作用を少なくし、かつ1回の投与で椎間板ヘルニアを治療することができることが見出された。 本発明は、副作用が少なく、1回の投与のみで長期間持続した疼痛改善効果が得られ、臨床において高い治療効果と安全性を発揮する椎間板ヘルニア治療剤を提供することができる。 コンドロイチナーゼABCを有効成分とし、当該成分がヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜3ユニットで単回投与されるように用いられることを特徴とする、椎間板ヘルニア治療剤。 コンドロイチナーゼABCを有効成分とし、当該成分がヒトの椎間板内に1椎間板あたり1.25ユニット投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の椎間板ヘルニア治療剤。 コンドロイチナーゼABCを有効成分とし、当該成分がヒトの椎間板内に1椎間板あたり2.5ユニット投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1に記載の椎間板ヘルニア治療剤。 治療剤が、注射剤である請求項1から3のいずれか1項に記載の治療剤。 椎間板ヘルニアが腰椎椎間板ヘルニアである、請求項1から4のいずれか1項に記載の治療剤。 コンドロイチナーゼABCが、プロテウス・ブルガリス由来のものである、請求項1から5のいずれか1項に記載の治療剤。 コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1〜3ユニットで投与するための、椎間板ヘルニア治療用のコンドロイチナーゼABCを含有してなる単回投与製剤。 コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり1.25ユニットで投与するための、椎間板ヘルニア治療用のコンドロイチナーゼABCを含有してなる請求項7に記載の製剤。 コンドロイチナーゼABCをヒトの椎間板内に1椎間板あたり2.5ユニットで投与するための、椎間板ヘルニア治療用のコンドロイチナーゼABCを含有してなる請求項7に記載の製剤。 製剤が、注射剤である請求項7から9のいずれか1項に記載の製剤。 椎間板ヘルニアが腰椎椎間板ヘルニアである、請求項7から10のいずれか1項に記載の製剤。 コンドロイチナーゼABCが、プロテウス・ブルガリス由来のものである、請求項7から11のいずれか1項に記載の製剤。