タイトル: | 公表特許公報(A)_子宮内膜症の治療のためのN−アセチル−L−システイン |
出願番号: | 2012530278 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 31/198,A61K 9/20,A61K 47/02,A61P 15/00 |
パラサッシ、ティジアナ ポルポラ、マリア グラチア JP 2013505916 公表特許公報(A) 20130221 2012530278 20100924 子宮内膜症の治療のためのN−アセチル−L−システイン イアソマイ エービー 512069876 龍華国際特許業務法人 110000877 パラサッシ、ティジアナ ポルポラ、マリア グラチア EP 09171394.1 20090925 A61K 31/198 20060101AFI20130125BHJP A61K 9/20 20060101ALI20130125BHJP A61K 47/02 20060101ALI20130125BHJP A61P 15/00 20060101ALI20130125BHJP JPA61K31/198A61K9/20A61K47/02A61P15/00 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW EP2010064175 20100924 WO2011036265 20110331 29 20120423 4C076 4C206 4C076AA36 4C076AA38 4C076BB01 4C076CC17 4C076DD25 4C206AA01 4C206AA02 4C206GA37 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA05 4C206MA55 4C206MA72 4C206NA14 4C206ZA81 本発明は、子宮内膜症および子宮内膜症に関連する適応症の治療に有用なN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物に関する。 子宮内膜症は、米国では婦人科系の入院の第3の理由であり、ヨーロッパでは、推定1千4百万人の女性に影響を与えている。子宮内膜症の発症に関して広く使用されている数字では、生殖年齢の全女性の5から10%が、不妊症の問題を抱える全女性の30から40%が子宮内膜症を発症しているとされる。子宮内膜症は、子宮内膜、つまり哺乳類の子宮の内面を覆う膜と組織学的に同一の組織が子宮腔の外側に存在することにより特徴付けられる病気である。誤った場所に発生したこの組織は、腫瘍(growths)もしくは病変(移植もしくは小結節とも呼ばれる)に成長し、月経周期に対して子宮の子宮内膜組織と同様な反応を示す。つまり、毎月、組織は増大し、つぶれて、剥がれ落ちる。月経血は子宮から流れ出るが、子宮内膜腫瘍(endometrial growths)から剥がれ出る血および組織は、流れ出る手段がない。これにより、内出血が生じ、病変部の血管および組織が損壊し、結果として慢性の炎症となる。 子宮内膜症の最も一般的な二つの症状は、痛みと不妊である。症状には、月経困難症、つまり、月経期間前後の痛みと性交中もしくは後の痛みと、慢性骨盤痛もしくは腰部の腸の痛みと、重い月経期間もしくは月経期間間の出血と、月経期間中の排便時の痛みもしくは排尿時の痛みと、不妊症等が挙げられる。 子宮内膜症の原因は現在のところ不明であり、子宮内膜細胞の異所性移動および移植の理由を説明するいくつかの説が提示されている。最近の証拠によると、子宮内膜症の発生が原発組織、つまり異所性子宮内膜そのものの状態変化に関連するとされている。子宮内膜腫の制御不能の移動、移植、および増殖は、異所性子宮内膜細胞の不調から生じるとの認識がこの分野においてますます合意されるようになってきている。 現在のところ、子宮内膜症には根治療法がない。様々な治療の選択肢があり、疾患により引き起こされる症状を最小化する方法はある。痛みを治療するための鎮痛薬を利用するほか、子宮内膜症の治療法は、主に、エストロゲン分泌における卵巣機能の抑制、したがって様々な要素に対するホルモン治療に関連しており、最も深刻なケースでは、月経閉止が引き起こされる。直腸膣中隔もしくはその他の部位(つまり、膀胱、腸)における子宮内膜腫、癒着、腹膜移植、および深部病変を切除して痛みを緩和するべく外科処置が用いられる。しかし、内科治療の後にも外科治療の後にも、症状が再発する。子宮内膜症を抱える若い女性は、将来的な生殖に関して困難な決断をしばしば強いられている。卵巣機能の抑制を目的としたホルモン治療は、妊娠とは相容れない。 N−アセチル−L−システイン(以下NACと呼ぶ)は、よく知られた薬品であり、主に粘液溶解薬として、またパラセタモール中毒の治療に使用されてきた。近年、NACは、抗炎症性、抗増殖性等のその他の有益な特性を有していることが確認され、統合失調症、糖尿病、癌等の異なる様々な疾患および症状の治療に提案されるようになった。 子宮内膜症の原因となる分子機序および関連を及ぼす分子機序についてのこれまでの研究では、子宮内膜症における細胞増殖率の増大は、遊離基もしくはROSにより生じる子宮内膜細胞の酸化的ストレスによりもたらされる可能性が提議されている。したがって、子宮内膜症の新たな治療戦略は、NAC等の抗酸化物質およびROSスカベンジャーに基づいたものになると提議されている。 Charlotte Ngo(^)他は、子宮内膜症においては、酸化的ストレスによって子宮内膜細胞の増殖が引き起こされ強化されると提議した(The America Journal of Pathology(2009)、Vol.175、No.1、225−234頁)。したがって、NAC等の抗酸化物質を子宮内膜症の治療に提案した。子宮内膜症患者およびヒト由来の子宮内膜組織を移植されたマウスモデルの初代細胞株についての研究では、各モデルにおける酸化的ストレスおよび増殖増大の兆候がNACによって消滅したことが示された。したがって、子宮内膜症の安全かつ効率的な治療法としてNAC等の抗酸化物質を使用できる可能性が提示された。 Nastaran Foyouzi他も、NAC等の抗酸化物質を子宮内膜症の治療に使用できることを提起した(Fertility and Sterility(2004)、Vol.82、Suppl.3、1019−1022頁)。この記事では、健康な被験者および子宮内膜症患者から分離された細胞を異なる抗酸化物質(たとえば、NAC)により治療したインビトロでの研究が開示されている。全抗酸化物質によって、子宮内膜間質細胞の増殖が阻害された。 Yan WoおよびSun−Wei Guoによる研究では、不死化ヒト子宮内膜間質細胞の増殖および細胞周期停止に対するNACの効果を研究し、子宮内膜症の治療に提案されるその他の物質と比較した(Gynecologic and Obstetric Investigation(2006)、Vol.62、No.4、193−205頁、European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology、(2008)、Vol.137、198−203頁)、特許文書US2007/0287676 A1)。NACは、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤ほど顕著ではないが、増殖および細胞周期停止の両方に効果があることが示された。 S.Estany他による研究では、培養子宮内膜細胞に対するNACおよびその他の抗酸化物質の抗酸化活性によって、H2O2による細胞毒性が抑制され、酸化した細胞の生存能力が改善したことが示された(Journal of reproductive Immunology (2007)、Vol.75、1−10頁)。 その他の関連技術としては、US2003/0190381 A1、WO2004/096296A2、US6239137 B1、US2003/0119875 A1、US2004/0014672 A1、およびWO2005/048822 A2が挙げられる。 癌治療におけるNAC分子の効果を記載したその他の背景技術としては、T.Parasassi他(Cell Death and Differentiation (2005)、Vol.12、No.10、1285−1296頁)、E.K.Krasnowska他(Free Radicals Biology and Medicine 2008、45(11):1566−72頁)、およびA.C.Gustafsson他(BMC Cancer (2005)、5:75)が挙げられる。 本願発明者らの知る範囲では、従来技術では子宮内膜症のNAC治療の臨床転帰は確定されておらず、子宮内膜症の治療もしくは、子宮内膜症に関連する適応症の治療におけるNACの使用についての効率的な投薬計画も提案されていない。 したがって、本発明の一般的な目的は、ヒトおよび哺乳類において子宮内膜症および子宮内膜症に関連する適応症を治療するためのN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供することである。本目的の一側面は、ヒトを含む哺乳類において、子宮内膜症および子宮内膜症に関連する症状を治療するための効果的な投薬計画で使用されるN−アセチル−L−システイン(NAC)を含む医薬組成物を提供することである。 NACは、抗酸化物質およびROSスカベンジャーとして使用されることに基づいて、子宮内膜症の新しい治療戦略で使用され得ることが以前から提議されてきた。本願発明者らは、NACによって、病変組織の増殖を阻害するだけでなく、病変組織の正常組織への分化を誘導する分子変化および細胞変化が誘導されることを示す。 これらの発見によって、本願発明者らは、ヒト患者もしくは哺乳類動物の患者における子宮内膜症および子宮内膜症に関連する適応症の治療におけるNACの新たな処方を提案するに至った。さらに、子宮内膜症の治療におけるNACの有効な用量範囲を提案する。本発明の一実施形態では、たとえば、痛みの症状(月経困難症、性交疼痛、および非周期的慢性骨盤痛)の頻度および強度を制御し、子宮内膜の病変の大きさを最終的には消滅に至るまで減少させ、外科処置後の再発を減らし、および/または受精率を改善するべく、処方された治療計画を活用してよい。この治療法の副作用は実質的になく、特に、この治療法は妊娠の妨げとならない。 本発明は、子宮内膜症を患うヒトを含む哺乳類の治療に使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供する。当該組成物は、2ヶ月以上の期間にわたり、投与日には1日当たり20から90mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量でパルス状もしくは間欠的に経口投与されることを意図されている。 一実施形態では、本発明は、上記の通りに使用され、3から5日間連続投与した後に2から4日間の中断期間が設けられるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、N−アセチル−L−システインを含む医薬組成物は、1から3日間連続投与した後に1から2日間の中断期間が設けられる。 一実施形態では、本発明は、上記の通りに使用され、投与日には1日当たり30から60mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で投与されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、医薬組成物は、投与日には1日当たり30から45mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で投与される。 一実施形態では、本発明は、上記の通りに使用され、光から保護されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、医薬組成物は、水溶性の錠剤である。さらに別の実施形態では、医薬組成物は、炭酸水素ナトリウムを含有する。一実施形態では、医薬組成物は、徐放製剤および/または胃を保護するための製剤である。 一実施形態では、本発明は、子宮内膜症によりもたらされる痛みを治療するべく使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、医薬組成物は、子宮内膜症により引き起こされる不妊を治療するべく使用される。さらに別の実施形態では、医薬組成物は、腹腔鏡検査もしくは外科処置の前に、子宮内膜症に罹患した哺乳類を予備的に治療するべく使用される。一実施形態では、医薬組成物は、腹腔鏡検査もしくは外科処置の後に、子宮内膜症に罹患した哺乳類を、再発防止を目的として治療するべく使用される。 一側面では、本発明は、子宮内膜症に罹患した哺乳類を治療するための方法であって、当該哺乳類に、N−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を、パルス状もしくは間欠的な投薬計画で、2ヶ月以上にわたり、投与日には1日当たり20から90mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で経口投与する段階を備える方法を提供する。本方法の一実施形態では、医薬組成物を3から5日間連続投与した後に、2から4日間の中断期間を設ける。別の実施形態では、医薬組成物を1から3日間連続投与した後に、1から2日間の中断期間を設ける。 本方法の一実施形態では、N−アセチル−L−システインの投薬量は、投与日には1日当たり30から60mg/kgである。本方法の別の実施形態では、N−アセチル−L−システインの投薬量は、投与日には1日当たり30から45mg/kgである。 一実施形態では、本方法は、子宮内膜症によりもたらされる痛みを治療するべく使用される。別の実施形態では、本方法は、子宮内膜症により引き起こされる不妊の治療、子宮内膜症に罹患した哺乳類の腹腔鏡検査もしくは外科処置前の予備的治療、または腹腔鏡検査もしくは外科処置後の子宮内膜病変の再発防止のための治療を目的とする。 本発明を、添付の図面を参照して、以下により詳細に記載する。実施例1で実証された、マウスの子宮内膜病変の成長に対するNACの阻害効果を示す。対照群(n=10)動物及びNAC治療群(n=10)動物それぞれの、移植してから21日後の平均全体重(標準誤差含む)である。有意性はp<0.05である。ヒストグラムの上の差し込み図は、対照群(A)およびNAC治療群(B)の子宮内膜腫の代表的写真を再現したものである。バー:1cm。図2Aは、実施例1で実証された半定量的RT−PCRの代表的ゲルを示す。図2Bは、実施例1で実証されたとおり、NAC治療群マウスの嚢胞においてCOX−2とMMP−9とが減少したことを示す。5匹の対照群マウスおよび5匹のNAC治療群マウスで平均した半定量的RT−PCR値であり、標準誤差を含む。実施例1で実証されたとおり、NAC治療群マウスの嚢胞でE−過度へ吏員が再局在化したことを示す。対照群(AとB)よびNAC治療群マウス(CとD)の子宮内膜腫のE−カドヘリン免疫染色の代表的画像である。対照群の試料では、拡散した茶色の染色が上皮細胞の細胞質全体に観察され、NAC治療群の試料では、染色は細胞間接触のレベルに限定されている。原寸の40倍に拡大している。実施例1で実証されたとおり、NAC治療群動物の嚢胞におけるCox−2染色の減少を示す。対照群マウス(A−C)およびNAC治療群マウス(D−F)の嚢胞を免疫組織化学染色した代表的画像である。対照群の試料では、いくつかの領域において茶色の染色がはっきりと存在しており、NAC治療群の試料ではめったに検出されていない。原寸の40倍に拡大している。実施例1で実証されたとおり、NAC治療群動物の嚢胞においてKi−67染色が減少したことを示す。対照群マウス(A−C)およびNAC治療群マウス(D−F)の嚢胞の免疫組織化学染色の代表的画像である。矢印は、染色された増殖細胞を示す。原寸の40倍に拡大している。従来技術の概略図であり、癌細胞に代表される増殖細胞をNAC治療した場合に作用するいくつかの機序を示している。これらの機序は、細胞の最終分化に収束する。本明細書の開示内容の例は、これらの効果の少なくともいくつかは、本発明に係るNACを子宮内膜症の治療に使用したときにも現れることを示す。33名がNAC治療され、31名が治療されない対照群である合計64名の女性に実施された予備的臨床研究の結果を報告している。3ヶ月のNAC治療後の嚢胞の大きさの変化を、最大径として超音波測定した。図7Aは、治療群の患者と対照群の患者における嚢胞の大きさの絶対数の変化を示す。図7Bは、同じ比較を百分率の変化で示す。 NAC全般について N−アセチル−L−システイン(NAC)は、よく知られた低分子量調合薬であり、化学式は以下の通りである。 NACの特性は主にそのチオール基に関連しており、チオール基は、ヒトの全組織に10mMを超える比較的に高濃度で存在するトリペプチドグルタチオン(GSH)が作用する生化学的経路の大半において、NACを有効に作用させる。システインは、GSHを構成する3種のアミノ酸の一種であり、したがってNACはシステインが非アセチル化しているGSHの前駆体と考えられる。NACは、これまでも、現在においても、粘液溶解薬として広く使用されており、その作用機序は、一般的に、粘液タンパク質に含まれる不安定なシステイン二硫黄架橋(sensitive cysteine disulfur bridges)を酸化還元により破壊することに起因している。実際に、NACは、いくつかの酵素が作用するチオール基の複雑な酸化還元循環に関与している。二硫化物の形成と破壊の周期は生理学的に非常に重要であり、この周期はタンパク質活性および細胞内シグナル伝達を調節する一般的な機構である。タンパク質チロシンホスファターゼ、チロシンキナーゼ等の酵素は、たとえば、細胞周期、細胞増殖、および細胞分化の制御においてきわめて重要な役割を担っており、これらの多くがこれらの酵素に含まれるシステインの酸化還元状態により調節される。 概して、NACは、その詳細な作用機序は最終的に解明されていないが、GSHが作用する生化学的経路の全てにおいて作用すると思われる。酵素と、GSHにより活性を調節されるタンパク質とは、いくつかの過程に直接的にまたは信号変換経路網を介して作用する。この場面では、NACはGSHの作用に匹敵するか、もしくはGSHよりも有効である。 GSHは、たとえば、通常、パラセタモールにより形成される反応性代謝物と共役して反応性代謝物を解毒する。しかし、パラセタモールを過剰摂取した場合、GSHは枯渇してしまい、パラセタモール代謝物は細胞タンパク質と反応し始め、最終的に細胞を死滅させる。パラセタモール中毒後の劇症肝不全の治療では、NACはGSHに代わってパラセタモール代謝物を解毒する作用を果たす。NACには望まぬ副作用がほぼ存在しないと考えられており、これは、パラセタモール中毒の治療で適用される、70kgの個人に対して1日当たり推定40gという高いNAC投薬量によっても示される。 胃の中ではすでに分解されている場合もあるトリペプチドGSHとは対照的に、単純なNAC分子は、ほぼ全ての組織および細胞に自由に拡散する。NACの薬物動態学的研究によって、NACは約1時間で血漿におけるピーク濃度に達し、半減期は約3時間であることが測定された。総クリアランスは6から12時間で生じる。 抗増殖分化誘導薬としてのNAC 本願発明者らは、N−アセチル−L−システイン(NAC)は子宮内膜細胞と同じ上皮性起源の癌細胞に対して顕著な抗増殖作用を有することを近年発見した(Cell Death and Differentiation 2005、12(10):1285−1296頁)。癌と子宮内膜症とは全般的に無関係の病気ではあるが、最終的に本願発明者らをして、子宮内膜症の治療にもNACが有用なのではないかと考えるに至らしめたいくつかの共通の特性を有する。特に、子宮内膜症は、根底には未解明の分子機序および原因論も他に存在するが、癌と同様に増殖性の疾患である。癌の観察で得られた知見を、ここでは、NACの効果および子宮内膜症において示しうる作用機序についての背景的知識として提示する。 NACを使用して、全て上皮性起源である2つの腺癌細胞株および正常な初代ケラチン生成細胞株において増殖を阻止し分化を誘導した。これらの系において、形態学的かつ生化学的に、かつ遺伝子発現解析によって分化を特性付けた(遺伝子発現解析は、BMC Cancer 2005年5月、75頁に詳細に報告されている)。 癌研究におけるNACの抗増殖効果は、細胞死もしくは毒性とは関連付けられず、代わりに、生理的分化経路の活性化に起因するとされた。これは、原発組織への細胞機能の正常化と見ることができる。 NACで治療された癌細胞は、増殖が減少したのに加えて形態も変化した。インビトロでは、盛んな増殖過程にある上皮細胞は、非定型な形態、つまり間葉形態を示し、何層かの細胞層をしばしば形成する。反対に、細胞が最終的に目指す組織の構造および機能に向けて分化過程にある場合には、細胞は増殖を止め、形態は定型的な多角形となり、ときに分厚くなり、単層の隣接細胞層を形成する。この過程には、細胞−細胞結合および細胞−底質結合(cell−substratum junction)の増加が伴っており、これは増殖間葉から粘着質で運動性が低下した分化表現型への転換と一貫している。 NACを癌細胞に添加した後、複雑な一連の代謝性変化を全体として検出したが、全てが、図6のスキームに描かれるように、制御不能の増殖を停止させ、細胞の最終分化を誘導する方向に収束した。 特に、NAC治療によって、細胞−細胞接着複合体および細胞−底質接着複合体がかなり増加した。制御不能に増殖する状態は、細胞が接触阻止を起こさず分化シグナルに反応する能力を失った状態と見ることができる。分化経路に入った細胞は、細胞−細胞結合複合体の顕著な増加を示し、これは一般的に接触阻止と表される。いくつかの証拠によって、細胞を分化の終点に進行させるシグナルは、細胞−細胞複合体の成分そのものから発せられることが示されている。これらの結合は、細胞間のシグナル拡散の手段でもある。 子宮内膜症における子宮内膜細胞のような移動細胞は、細胞外基質を移動可能となるには、接着複合体の量が減少していなければならないだけでなく、細胞外基質の分解に専用される活性化マトリクス・メタロプロテイナーゼを十分に保有・分泌していなければならない。興味深いことに、この上皮性癌モデルでは、NACはこの酵素を下方制御することが発見され、細胞移動が阻止されたことを示唆している。また、本開示の実施例1は、本発明にしたがって子宮内膜症の治療に使用されたとき、NACはマトリクス・メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の発現を下方制御したことを示す。これは、NACによって、異所性子宮内膜から新たな移植組織への細胞移動が阻止され(再発防止)、子宮内膜組織内での細胞移動も阻止され(病変進行の防止)得ることを示す。 NACの周知の効果は、NACが非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の一つとして加えられる理由となっている、その抗炎症作用に関連付けられる。NAC治療された細胞の遺伝子発現プロファイルによると、炎症反応により誘導されるものとされる遺伝子であるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)が下方制御されたことが示された。NACのこの作用は、本開示の実施例1における子宮内膜組織でも確認され、NACによって子宮内膜症における炎症関連の症状も緩和され得ることを示している。 NACが不安定なシステインの酸化還元状態を通じて細胞のシグナル変換を調節する機能の例として、非受容体チロシンキナーゼc−Src酵素が、結腸癌(CaCo−2)細胞および卵巣癌(OVCAR−3)細胞のインビトロ・モデルで研究された(Free Radicals Biology and Medicine 2008、45(11):1566−72頁)。c−Srcは、増殖および分化の切り替わりに関与しており、結合複合体および細胞骨格構築の集合/分解において活性化する。このキナーゼは、数多くのヒト癌、特に結腸癌および卵巣癌において活性化され、過剰に発現する。特定のc−Src阻害剤を発見するべく著名な国際的薬物設計取り組みがなされている。その代わりに、NACによって腺癌細胞を単純に治療することでc−Src阻害の目的が達成され得ることがわかったが、これは、このキナーゼを停止させて、これをエンドリソソームに送達し、そこで保存もしくは分解させることが可能な、c−Srcにおける不安定なシステイン残基での酸化還元転移に関連する機序によるものである。したがって、腺癌細胞のNAC誘導による最終分化は、c−Srcの阻害に関連付けられた。特に、このキナーゼの活性は、子宮内膜細胞の周期における脱落膜化段階に関連があると考えられ、子宮内膜症におけるキナーゼの調節解除の関与が示唆される(Endocrine Journal、2008、55(5):795−810)。 NACと子宮内膜症 背景技術の項で説明したように、NACは、抗酸化物質およびROSスカベンジャーとして用いられることを基に、子宮内膜症の新たな治療戦略で使用され得る可能性が以前から提議されている。上記の上皮性癌研究から、本願発明者らは、NACは、上皮性癌細胞に対して抗酸化物質およびROSスカベンジャーとしての効果以外にいくつか有利な効果を有しており、子宮内膜細胞が同様な反応を示すのであれば、これらの効果を子宮内膜細胞の治療に用いることができるとの認識に至った。特に、癌で観察されたNACの抗増殖作用および分化作用が、子宮内膜症の治療でNACを使用するときにも生じることが望まれる。 NACが癌で観察された以下の分子効果を有するなら、子宮内膜組織に対しても、子宮内膜症の治療においてこれらの効果は有利であると考えられる。 i)増殖表現型から分化表現型への転換と一貫する、細胞−細胞結合および細胞−底質結合の増加。 ii)細胞移動の減少に対応付けられる、マトリクス・メタロプロテイナーゼの発現の減少 iii)炎症反応の減少に対応付けられるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現の減少 iv)子宮内膜の増殖/脱落膜化周期を制御して妊娠を可能にするc−Src活性の調節 したがって、NACは、子宮内膜症に対して以下の生理学的効果を有するのではないかとの仮定が立てられた。 i)子宮内膜細胞の増殖の減少 ii)局所的慢性炎症の緩和、および関連する痛みの軽減 iii)より規則的な増殖−分化周期を通じた、原発組織である異所性子宮内膜への正常化 iv)組織メタロプロテイナーゼの減少並びに細胞−細胞結合および細胞−底質結合の増加の両方に起因する細胞運動性の低下に関連付けられる異所性子宮内膜細胞数の減少 v)関連するシステイン残基における二硫化物架橋の再集合によるエストロゲン受容体構造の再組織化 仮定された結果は全て、臨床研究での患者の反応から、または患者の生検もしくは動物モデルの組織学的分析を通じて、直接的または間接的に、形態学的、組織学的、生化学的、かつ分子生物学のレベルで検証された。 特に、本願発明者らは、NACによって、子宮内膜細胞におけるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)およびマトリクス・メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の発現が実際に低下したことを見出した。また、本願発明者らは、NACによって、E−カドヘリンが、子宮内膜細胞の細胞質からNAC治療された組織の細胞−細胞結合へと再局在化を誘導されたことも示した。これは、細胞増殖が減少したことと一貫する細胞−細胞結合の増加を示す。p21の発現の増加、Ki−67の発現の減少等のその他の効果も、子宮内膜症のNAC治療によって、細胞増殖が減少したことを示す。本願発明者らは、さらに、子宮内膜症のNAC治療のこれら分子効果によって、子宮内膜病変の大きさが減少し、痛みが緩和され、望まれる妊娠につながることも示した。NACを使用して子宮内膜症もしくは子宮内膜症に関連する適応症を治療する利点は、子宮内膜症に通常用いられる卵巣機能を抑制するホルモン治療を用いる必要がなくなることである。したがって、比較すると、NACの使用によって患者が妊娠する可能性が高められる。外科処置の前にNAC治療を行ったことで、子宮内膜腫がより定型的かつ小さくなり、より簡単に切除され、腹腔鏡検査の際、出血が非常に少量となった。 投薬計画 線癌細胞株および正常な初代ケラチン生成細胞株に対するNAC治療の研究(Cell Death and Differentiation 2005、12(10):1285−1296)において、抗増殖−分化作用を誘導するNACの効果的投薬量は多様であり、細胞型に依存すると結論付けられた。したがって、増殖を完全に遮断するのに必要な効果的なNAC濃度は原発組織によって決まり、組織ごとに決定されなければならない。さらに、NACの投薬量は、細胞悪性腫瘍にも関連付けられている。詳しく述べると、正常な細胞は増殖を停止して分化を開始するのに低量の投薬量が必要であったのに対し、予後が特徴的なほど不良である癌細胞はより高濃度のNAC濃度が必要であった。 本発明の目的においては、ヒトを含む哺乳類における子宮内膜症を治療するためのNACの投薬計画を以下の基準に基づいて作成した。 1)その他の現在進行中の臨床治療と齟齬がなく、望まぬ副作用がないと考えられる1日当たりのNAC投薬量 2)異常増殖細胞を分化経路に切り替える必要性を十分に満足すると考えられる投薬量 3)治療が長期化した後、血漿におけるNACレベルが低下したとの報告(Pendyala L,Creaven PJ. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1995;4:245−51頁)を考慮して、2ヶ月以上の治療においては最適な生物学的反応を得るべく毎週の約半分の期間、治療を一時停止すること 子宮内膜症もしくは子宮内膜症に関連する適応症を治療するためのNACを含む本発明の組成物は、1日当たり約20から90mg/kgの投薬量で投与する一実施形態に係る。下限値は、それ自体生理学的効果を有すると知られている粘液溶解作用を得るための投薬量の2倍の値に基づいている。上限値は、それより高い投薬量では、多くの患者の胃に問題が生じたことが明らかになっていることを考慮した値である。本発明の別の実施形態では、組成物は、1日当たり約30から60mg/kgの投薬量で投与されるNACを含む。下限値は子宮内膜症において有効であることが示されており、上限値は副作用を実質的に生じないことが知られている。本発明のさらに別の実施形態では、組成物は、1日当たり約30から45mg/kgの投薬量で投与されるNACを含む。この低投薬量は、子宮内膜症において驚異的なほど有効であることが示されている。 一実施形態では、組成物は、2ヶ月以上または好ましくは3ヶ月以上である期間投与される。治療が長期化した後における血漿でのNACレベルの低下に対処するべく、NACを処方投薬量で間欠的に、つまり間欠的投薬計画/治療で投与してよい。間欠的投与もしくは治療の意味するところは、治療を何回かの期間の間中断する、つまり、医薬組成物をある期間、たとえば数日間投与し、その後中断して、ある期間、たとえば数日間医薬組成物を投与しないということである。間欠的治療は定期的であってよく、たとえば、決まった日数もしくは週数治療を行い、その後決まった日数もしくは週数治療を中断する。例としては、毎週4日間治療し、その後3日間中断することを繰り返す計画、および2週間治療し、その後1週間中断することを繰り返す計画が挙げられる。定期的な間欠的治療の特別なケースとしてパルス状治療があり、これは、定期的に治療および中断が持続するのであり、たとえば、1日おきの投与、または2日間投与してその後2日間中断する、等が挙げられる。定期的には繰り返されないか、またはより複雑な繰り返しの計画を有する不定期的な間欠的治療計画も、たとえば治療に対する反応によっては考慮し得る。本発明の別の例示的実施形態では、処方投薬量のNACを連続的に3から5日間投与し、その後2から4日間中断するか、または連続的に1から3日間投与し、その後1から2日間中断する。 一実施形態では、約60kgの体重に基づいて、NAC投薬量を、1日当たり1.2から5.4gの範囲に設定し、より好ましくは1日当たり1.8から3.6gの範囲に設定する。投薬量を、1日当たり2回以上、好ましくは3回もしくは4回に分割し、各回あたりの投薬量(たとえば、錠剤数)を1もしくは2としてよく、各投薬量は、たとえば0.15から2.7gのNAC、好ましくは0.6から1.2gのNACを含むものとしてよい。治療においては、上記の投薬量を、パルス状もしくは間欠的に、たとえば1日おきに投与、もしくは毎週連続3から4日間投与して4から3日間中断する。治療の最小総継続期間は2ヶ月であり、最大継続期間の設定はない。その他の体重を有する患者、たとえば太りすぎもしくは痩せすぎの個人については、毎日の投薬量を体重にしたがって調節する必要がある。 本発明の一実施形態では、子宮内膜症もしくは子宮内膜症関連の症状を治療するための医薬組成物は、少なくとも2ヶ月、たとえば少なくとも3ヶ月の期間、1日当たり150から5400mgを2回以上で投与されるNACを含む。本発明の好適な実施形態では、医薬組成物は、少なくとも2ヶ月、たとえば少なくとも3ヶ月の期間、1日当たり230から3600mgを2回以上で投与されるNACを含む。治療においては、上記の投薬量を、パルス状もしくは間欠的に、たとえば1日おきに投与、もしくは毎週連続3から4日間投与して4から3日間中断する。 製剤処方 本発明に係る医薬組成物は、製剤分野の当業者には自明である方法で調製してよい。組成物は、本発明にしたがった有効量のNACと、作用成分に対する賦形剤(vehicle)もしくは媒体(medium)となる適切な担体(carrier)もしくは賦形剤(excipient)を含んでよい。このような担体もしくは賦形剤は、当業分野で周知であり、クエン酸、クエン酸ナトリウム、香味料を加えた炭酸ナトリウム(natrium (acid) carbonate plus flavoring)等の固形物が挙げられる。医薬組成物は、好ましくは経口投与されるべく調節される。このような組成物は、様々な形態で投与することが可能であり、現在では、好ましい形態は錠剤である。たとえば、カプセル、坐薬、液剤、懸濁液剤、シロップ剤等のその他の形態も考えられる。 本発明では、有効な投薬量に至らしめるべく、NAC製剤の製剤品質を厳格に査定する必要がある。したがって、有名なブランドのジェネリック製剤もしくは認証されたジェネリック製剤を用いる必要がある。NACは安定した分子ではなく、NACの活性チオール残基は、酸素、光、もしくはその他の放射物により簡単に酸化し、有効な投薬量に満たなくなるおそれがある。したがって、製剤を溶解剤として、溶解中に水から酸素を部分的に除去する作用をする炭化水素ナトリウムを含有させ、光から保護することが好ましい。 高投薬量のNACによって腹痛が生じたことが観察されている。これを克服するための選択肢として、胃でのNACの放出/溶解を防止するのに適した胃保護のための処方でNACを提供することが挙げられる。このような処方は当業分野では周知であり、本発明において使用してよい。たとえば、胃液に対して抵抗力を持ち、薬が胃を通過した後に腸においてだけ放出されるようにする錠剤コーティングを用いてよい。広く用いられる処方は、セルロース誘導体、メタクリルアミノエステル共重合体等の重合体を含む。コーティングには胃を通過した後、pHの上昇に反応して膨張・溶解し、薬を放出するpH感受性の重合体を用いることで、錠剤のコアが胃の酸性環境で分解することが防止される。 別の選択肢として、各時点において血流に進入するNACの投薬量を低下させることが上げられる。1日当たり3回以上NACを投与することは、患者にとって難しい場合がある。しかし、繰り返しの投与は、NACの血清濃度をほぼ一定にするには望ましい。これらの問題点を克服するには、1日当たり1回もしくは2回、たとえば朝と夜に投与することが患者にとって容易であるかもしれない。1つの選択肢として、NACを徐放製剤(持続放出、制御放出とも呼ばれる)として提供することが挙げられる。NACの血流への拡散・摂取率を下げることが可能であることにより、このような製剤は、より長い間隔でより高投薬量の投与が可能になる。当該投薬量の薬は、血流によって長時間をかけて、たとえば1日当たり2回投与の計画の場合は12+12時間をかけて、少量ずつ分配される。当業分野では、徐放性を与える多様な技術および製剤が長く知られており、本発明に適用してよい。このような技術では、作用成分を、たとえば、投与された体液に対して不溶もしくは可溶性を低めたコーティングもしくはマトリクスに封入する。 徐放性および胃保護性を組み合わせた効果を有する製剤も可能であり、本発明で用いてよい。 本発明の適用/医学的適応 本発明は、子宮内膜症に関する多様な観点において有益な特性を有することが示されており、子宮内膜症の治療および子宮内膜症に関連する多様な適応症の治療の両方に適用してよい。子宮内膜症に関する多様な適応症の治療とは、たとえば、痛み、炎症等の病気の症状を緩和するための治療、妊娠の可能性を高める治療、外科処置の前に子宮内膜病変部の除去を円滑化して外科処置の結果を改善させるための予備的治療、病気の再発を防ぐための外科処置後の治療、家族性子宮内膜症のリスク要因もしくは存在が検証・評定された場合の予防的治療等である。 本発明に係るNACによって、病変部の大きさが減少し、増殖組織が分化した正常組織に復帰することが示された。したがって、本発明の一実施形態では、医薬組成物は、直腸膣中隔もしくはその他の部位における子宮内膜腫、癒着、腹膜移植、および深部病変を、最終的には消滅に至るまで減少させるべく子宮内膜症を治療するためのNACを含む。 本発明に係るNACは、子宮内膜症により生じる症状を緩和させることが示された。したがって、本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、子宮内膜症に関連する痛みを緩和させるためのNACを含む。 本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、子宮内膜症に罹患した個人が望む妊娠を促進するためのNACを含む。 本発明のさらに別の実施形態では、医薬組成物は、子宮内膜症の場合の腹腔鏡検査もしくは外科処置の予備的治療において、大量除去を促進し、出血量を低下させ、組織をより小さくかつより丈夫にするためのNACを含む。 本発明の別の実施形態では、医薬組成物は、腹腔鏡検査もしくは外科処置後の再発を防止するためのNACを含む。 本発明のさらに別の実施形態では、医薬組成物は、家族性発生による子宮内膜症を予防するべく、リスク要因が検証・評定された場合に用いられるNACを含む。 実施例 以下の実施例を参照して本発明をさらに記載・例示する。しかし、これらの実施例は、何れの点においても本発明を限定すると考えられてはならないことに注意されたい。 実施例1.子宮内膜症のマウスモデルにおけるNACの効果 材料および方法 材料 明記されない限り、全ての薬品が、イタリア、ミラノのSigma−Aldrich社から入手されている。 動物 Charles River Italia社(イタリア、カルコ)から、メスの生後6から8週間のBALB/Cマウスを36匹購入した。ペレット状の餌(栄養成分を強化した標準的食事;イタリア、ミラノ、Mucedola社)および水を不断給餌した。制御条件下で、動物を16/8時間の明/暗サイクルに維持した。いかなる侵襲的方法を適用する前にも、2.5%のAVERTINを含有する生理溶液を0.4ml腹腔内注射することによりマウスを麻酔した。 子宮内膜症の誘導 Somigliana他(Hum Reprod 1999年12月;14(12):2944−50頁)に記載される方法を用いた後に、子宮内膜症を誘導した。清浄な条件下で外科的介入を行った。手短に述べると、シンテニーなマウスの臍孔の真下にある腹膜腔に小さく正中切開して子宮角を取り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含むペトリ皿に置いた。剃刀の刃を使用して子宮角を細かく刻むことによって子宮内膜片を得た。子宮内膜片を0.6mlのPBSに懸濁し、レシピエント・マウスの腹腔に、1ドナーにつき2レシピエントの比率ですばやく植菌した。子宮内膜症を誘導したマウスをランダムに、12匹ずつの2群(対照群およびNAC治療群)に分けた。 NAC治療 子宮内膜を移植した翌日、治療群のマウスを10μlのNAC濃度10mg/ml貯蔵水で強制飼養した。対照群には水だけを与えた。NAC投与を21日間毎日続けた。平均マウス体重を22.5±0.7とすると、1匹当たり1mgのNAC投薬量は、1日当たり44mg/kgに相当する。投与した投薬量では、体重(治療終了時において変化なし)、摂餌量、身づくろい行動、もしくは活動レベルを対照群と比較すると、毒性を示す証拠は観察されなかった。治療終了時、マウスを頚椎脱臼により殺処分した。 子宮内膜腫の収集 治療終了時、動物を犠牲にし、子宮内膜病変部を周囲の組織から慎重に切除し、それらの総体重と個数を査定した。嚢胞は、即座に10%ホルマリンに固定するか、もしくは液体窒素で冷凍かつ−80℃で保存した。 組織学および免疫組織化学 ホルマリン固定した試料をパラフィン包埋し、組織切片(5μm厚)をヘマトキシリン・エオジンを用いて染色した。研究について予備知識を持たない経験豊富な病理学者によって全スライドを評価し、子宮内膜症の組織学的診断に基づいて子宮内膜の腺組織および支質の形態学的同定を行った。 免疫組織化学に関しては、切片を脱パラフィンし、等級エタノールで水分補給(rehydrated)した。抗原回復するべく、切片を0.1Mクエン酸塩緩衝剤(pH6.0)に漬けて6分間レンジ加熱し、3%H2O2/メタノールに漬けて20分間定温放置することにより内因性ペルオキシダーゼ活性を阻止した。切片をPBS/TritonX−100ですすぎ、1%PBS−ウシ血清アルブミン(BSA)に15分間浸漬して非特異結合部位(unspecific binding sites)をブロックし、選択した一次抗体を1%PBS−BSAで希釈した状態で定温放置した。シクロオキシゲナーゼ(COX)−2(多クローン性抗マウス・ラビット(Rabbit anti−mouse polyclonal)、Cayman Chemical社、イタリア、ミラノ)と、Ki−67(多クローン性抗ヒト・ラビット(Rabbit anti−human polyclonal)、Monosan Xtra社、DBA Italia社、イタリア、セグラータ)と、E−カドヘリン(BD Bioscience社、イタリア、ミラノ)とを免疫検出するべく、4℃での定温放置を、それぞれ1:100、1:600、1:200で希釈して夜通し行った。DAKO Cytomation LSAB2 System−HRP(Dako Italia社、イタリア、ミラノ)を使用して免疫組織化学的染色を継続し、多クローン性抗ヒト連鎖ラビット(strept Rabbit anti−human polyclonal)と、色原体としてジアミノベンジジンを使用したアビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体溶液とにより抗体結合部位を視認可能にした。脱水してカナダバルサムに担持したヘマトキシリンにより切片を対比染色し、ライカ製顕微鏡で観察した。2人の独立した観察者により盲検的にKi−67の発現を定量化した。各観察者は、各試料につき、10個以上の選択領域において少なくとも200個の細胞をカウントし、Ki−67標識率を百分率で表記した。 RNA抽出、半定量的RT−PCRおよびqRT−PCR TRIzol試薬(Invitrogen社、イタリア、ミラノ)を製造者の指示に従って使用し、TissueLyser(QIAGE社、イタリア、ミラノ)により、冷凍した子宮内膜嚢胞を溶解することにより全RNAを分離した。各試料から分離した1マイクログラムの全RNAを1UのDNAse I(Invitrogen社)で処理し、20μlの最終量における250ngの任意のプライマーを用いて200UのSuperScript III ReverseTranscriptase(Invitrogen社)により逆転写した。その後、各試料から取得した同一のcDNA生成物を使用して、標的遺伝子用に用意された複数のプライマー・セットをPCR増幅した。陰性標準試料を反応混合物およびプライマーによりcDNA鋳型なしで構成した。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/からオンラインで入手できるPrimer−BLASTソフトウェアを使用してプライマー配列(表1)を作成した。 まず、試料とハウスキーピング遺伝子との比を、遺伝子特異的mRNA及び18S RNAを1つの反応管で同時に増幅することにより算出した。おそらく18S RNAの選択的増幅の特異的転写が比較的少数であることが原因で、この手順は全試料については成功しなかったので、競争効果により生じる定量化の不正確性を防止するべく、同一のRT反応で生成した標的遺伝子および18S cDNAを別々の管で増幅した。累乗指数の範囲で増幅を記録するべく、18S RNAの増幅プロットを作成し、適切なサイクル数を選択した。1μlのcDNA、2mMのMgCl2、0.2mMのdNTPs、0.5μMの各プライマー、および1.25UのHotstart Taq Polymerase(QIAGEN社)を使用して、25μlの反応量で半定量的PCRを行った。PCR増幅は、iCycler(Bio−Rad社、イタリア、ミラノ)により行った。次に、PCR生成物を1.5%のアガロース・ゲル上で電気泳動法により分解し、エチジウムブロマイドで染色した。標的mRNAのレベルをデンシトメトリー走査により推定し、18S負荷制御(18S loading controls)に対して正規化した。PCR生成物のデンシメトリー分析は、画像ソフトウェアQuantityOne(VersaDOC、Bio−Rad社)を使用して行った。[表1] 半定量およびqRT−PCRに使用したプライマー配列 結果 子宮内膜病変の成長に対するNAC治療の効果 子宮内膜症を誘導して21日後、全実験用マウスを犠牲にしてそれらの子宮内膜腫を除去し収集した。12匹の対照群マウスのうち、1匹は死亡し、1匹は子宮内膜腫を発症しなかった。NAC治療した12匹のマウスのうち、2匹は子宮内膜腫を発症しなかった。形態学的には、異所性病変は、大きく、嚢胞性であり、血管が新生されていた。つまり、異所性病変は、白色、赤色、もしくは時には茶色であり、腹骨盤腔の腹膜に選択的に局在する体液が充満した嚢胞から構成されていた。図1.1の差し込み図において、対象群(A)およびNAC治療群(B)の動物から取った嚢胞の代表的写真を報告している。平均して、治療群(n=10)には、対照群(n=10)と比較して、有意な体重の減少が観察された(図1)。 NACによりCOX−2およびMMP−9の発現が減少し、増殖が停止 RT−PCR分析によると、対照群マウス(n=5)の嚢胞に比較して、NAC治療(n=5)によって、mRNAのCOX−2レベル(−32%)およびMMP−9レベル(−34%)が、18S発現に対して正規化した場合、有意性p<0.01の有意な低下を示した。通常、増殖サイクルがブロックされた場合にだけ発現するP21遺伝子は、5匹の対照群マウスでは発現せず、NAC治療した試料のうち検査した5匹のうちの3匹では発現した(代表例を図2Aに示す)。 NACによりE−カドヘリンの再局在化が促進 E−カドヘリンの免疫組織化学的検出は、検査したケースの100%で陽性だった。標識化は腺上皮細胞に限定され、試料のうちいずれも間質染色を示さなかった。細胞レベルでは、対照群マウスの嚢胞では、E−カドヘリン染色は細胞質の全体に拡散し、NAC治療群マウスの嚢胞では、E−カドヘリンは主に細胞−細胞結合に沿って検出されたことを観察した(図3)。E−カドヘリンは、多タンパク質接着複合体の一部であり、したがって、E−カドヘリンが細胞間の境界で増加したということは、細胞間接着が増加したことを示す。さらに、上に報告したP21の発現と呼応して、この再局在化は細胞の増殖挙動が損なわれて最終分化に向かって切り替わったことと一貫する(Conacci−Sorrell他、J.Clin. Invest.2002、109:987−991頁;Parasassi他、Cell Death Differ.2005、12:1285−1296頁)。 NAC治療により子宮内膜腫のCox−2量が減少 炎症に関連するCox−2タンパク質の免疫組織化学検出によると、対照群マウスの嚢胞と比較して、NAC治療群マウスから収集した試料においては、極めて少量の染色しか観察されず、いくつかの試料では、完全に染色されていなかった(図4)。 NACにより増殖細胞の数が減少 Ki−67抗原(Ki−67)は、典型的な細胞増殖のマーカーであり、静止非周期細胞はKi−67発現を全く示さない。対照群マウスの嚢胞を染色するべく用いたときは、いくつかの標識化細胞が検出できた(図5のパネルA−Cにおける矢印)。しかし、NAC治療群マウスの嚢胞では、ほぼ標識化細胞は検出されなかった(図5のパネルD−Fにおける矢印)。各群当たり8匹の動物(1マウスにつき、細胞200個当たり画像10枚)に対して実施した統計的評価では、増殖細胞が54%減少した(表2)。[表2] 標準誤差を含むKi−67の標識率。有意性:p<0.01 議論 子宮内膜症の動物モデルは、異所性子宮内膜移植を誘導するのに効果的だった。対照群における動物1匹と、NAC治療群における2匹だけが子宮内膜腫を示さなかった。 予測と一致して、寸法に比例する嚢胞の重さは、NAC治療群マウスのほうが軽量だった。これは、ここで遺伝子発現解析および免疫組織化学により詳細に示したように、NACの抗増殖効果によるものと推測できる(Parasassi他、Cell Death Differ.2005、12:1285−1296頁)。事実、分化する非増殖細胞でだけ発現する遺伝子であるP21は、NAC治療群の動物の60%で観察されたのに対し、対象群では発現しなかった。反対に、増殖細胞でだけ発現するKi−67タンパク質は、NAC治療群では対象群マウスに比べて54%減少した。 MMP−9(Collette他、Hum Reprod 2006;21:3059−3067頁)、Cox−2(Carlil他、Endocrinology2009;150:3128−3137頁)等の子宮内膜症に関連するタンパク質は、NAC治療後、減少した。MMP−9は、細胞運動および侵入行動にとって必須であり、Cox−2は炎症に対応付けられた関連酵素である。両方に関連する遺伝子は、約30%減少した。さらに、嚢胞を組織化学的染色することによりCox−2の量を調べ、対応して染色が減少する結果となった。 細胞質のE−カドヘリンを増殖性の細胞行動のマーカーと見なす一般的に受け入れられた考えに基づくと、反対にE―カドヘリンが細胞間接着複合体に存在することは、分化のマーカーおよび誘導因子と考えられ、対象群およびNAC治療群のマウスの嚢胞におけるE−カドヘリンの位置も検査した。結果は、腺癌細胞についての以前の発見と完全に一致し(Parasassi他、Cell Death Differ.2005、12:1285−1296頁)、NAC治療後にE−カドヘリンが細胞質から細胞間境界に再局在化したことが示された。このE−カドヘリンの接着複合体への関連付けも、より運動性が低くより侵入性が低い細胞行動と一致する。 まとめると、検査した全観点において、NACは子宮内膜症にとって最適な治療法である。女性の治療に置き換えると、この薬は、ホルモン治療による望まぬ作用の大きさに比べると実質的に副作用がないという利点がある。したがって、嚢胞の大きさを減らし、局所炎症および関連する慢性痛を減少させ、外科処置後の再発を低下させるべくNACを使用することができる。この最後の点は、増殖が減少し、細胞の運動性が低下したことが動機となる。 実施例2.NACによる子宮内膜症治療効果に関する予備的臨床研究 研究の目的 この試験的臨床研究は、子宮内膜症に罹患した女性をその他の治療でなくNACを使用して治療するべく計画された。唯一、追加されうる治療は、痛みを軽減する必要がある場合の鎮痛薬である。 患者の登録基準 痛みと卵巣超音波による疾患の証拠とに基づいて子宮内膜症を初回診断された女性、並びに腹腔鏡治療後に痛みおよび/または卵巣子宮内膜腫が再発した患者が、研究に登録された。治療の前、痛みの症状の強度を10ポイントの視覚的アナログ尺度(VAS)により測定し、卵巣子宮内膜腫の特徴を経膣超音波により測定した。NAC治療の間は、痛みを治療する必要がある場合の鎮痛薬を例外としてその他の治療は除外した。 患者 2008年2月から2010年7月まで卵巣子宮内膜腫で治療された平均年齢35±7歳(±SD)の64名の女性が研究に登録された。女性たちのうち、33名がNAC治療に割り振られ(平均年齢37±6歳)、31名がNACもしくはその他の治療を受けず、対照例と見なされた(平均年齢33±8歳)。女性たちの全員が、卵巣の一方もしくは両方に1以上の嚢胞を示した。 治療 処方したNAC投薬量は、動物研究で使用されたものに近く、1日当たり30mg/kgである。実際には、平均体重を60kgとして、登録した全患者の処方は、毎週連続3日間、1日当たり3回、600mgのNACを3回経口投与し、4日間中断するというものである。これは、1日当たり1.8g、1週間当たり5.4g、1月当たり21.6g、NACを投与することになる。これらの細かい治療手順は、以下の考慮に基づく。1)1日当たりNAC1.8gの投薬量は、その他の現在進行中の臨床治療と適合し、望まぬ副作用がないと考えられること、2)NACの薬物動態学に基づくと、0.6mgを1日3回投薬すると、血漿中濃度がほぼ一定になり、患者に複合治療の不快症状を与えることがないこと、3)治療が長引いた後、血漿中NACレベルが低下したことが報告されたこと(Pendyala L、Creaven PJ. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 1995;4:245−51頁)に基づくと、毎週の約半分の間、治療を中断することにより、たとえば2から6ヶ月以上の長期治療において最適な生物学的反応が保証されること。 経過観察 痛みの症状の強度(VAS痛みスケール)および卵巣子宮内膜腫の大きさ(臨床検査および超音波検査)を、治療の最初の3ヶ月が経過した後評価した。必要である場合は、3ヶ月が経過したときに、腹腔鏡下治療を行った。 結果 最初の3ヶ月の経過観察期間の経過した時点でのデータを以下に報告する。 3ヶ月のNAC治療後の嚢胞の大きさの変化(変化なし、増加、もしくは減少)を、超音波により最大径で測定し、図7A(嚢胞の絶対数)と図7B(百分率の嚢胞)とに示す。数字は、NAC治療群の患者の嚢胞と、非治療対照群の嚢胞との比較を示す。百分率表記(図7B)では、嚢胞の大きさの減少が38%のケースで観察され、対照群では10%未満のケースで自発的な減少が観察された。子宮内膜腫の大きさの減少を考慮して、何名か(33名中21名)の患者が予定されていた腹腔鏡検査をキャンセルもしくは延期することを決断した。 痛みの知覚もNAC治療後に変化した。痛みは、3ヶ月の治療の前後に、ゼロが無痛を表し、10が想像しうる最悪の痛みを表す10ポイントの視覚的アナログ尺度(VAS)により評価した。症状の強度を、なし(0)、軽い(1から4)、中程度(5−7)、もしくは深刻(8−10)に分類した。NAC治療群の患者からは、3ヶ月の治療の後、平均7.6±0.3から5.1±0.8(p<0.01)への痛みの低下が報告された。 副作用は報告されなかった。 患者が妊娠を望むか否かは評価しておらず、したがって統計的有意性を我々の研究成果に帰することはできないが、現在子宮内膜症の治療に使用されている卵巣機能の抑制を目的とした治療では明らかに不可能な妊娠も3件報告された。 事例として挙げるのは、経験豊富な外科医により報告された観察であるが、それによると、NAC治療後の腹腔鏡検査で、子宮内膜腫はより定型的かつ小さくなっており、より簡単に除去されたので、腹腔鏡検査の際の出血量の減少と関連付けられた。別のケースでは、直腸膣中隔小結節が消滅しており、卵巣子宮内膜症を超えるNACの有効性を示している。 実施例3:ラットに痛みの兆候として実験的に誘導した子宮内膜症(膣の過敏反応性)に対するパルス状、間欠的、かつ毎日のNAC治療の効果―試験的研究 材料および方法 動物 16匹の成長した処女雌のSDラットを使用した。研究の開始時点では、重さは200から230gであり、温度制御した部屋において寝具類で内側を覆ったプラスチック製のケージの中に別々に収容した。ラットは不断給水・給餌され、12時間の明/暗サイクルに維持され、7時に点灯された。毎日膣を洗浄することにより、生殖状態(発情前期、発情期、発情後期、および発情間期)を判断した。 実験モデルおよび術前訓練 子宮内膜症を誘導する前に、ラットに対して、膨張式ラテックス製風船により引き起こされる膣の膨張を終結させるための逃避反応を行わせる訓練を実施した。中部膣管(mid−vaginal canal)に挿入する前に潤滑油を塗布される細いカテーテルに、小さな膨張させていないラテックス製風船を結び付けた。風船を様々な空気量で膨張させて、膣管を膨張させた。各膨張量で生成された圧力を、少量圧力トランスデューサーにより制御測定した。試験装置は小さい円柱状のプレキシグラス・チャンバであり、ラットが回転できないようにぴったりとラットを収容するよう設計されている。チャンバの後部の開口によって、膣の刺激器具に取り付けられたカテーテルを刺激発生装置に接続できるようになっている。光検出器によってチャンバ内のラットの位置を判定した。ラットが逃避反応の一環として伸張したとき、光ビームを消灯して刺激を終了した。ラットは、5日間毎日15分間チャンバに入れることにより試験装置に慣れさせた(adopted)。次に、訓練セッションにおいて、頭を伸ばして光ビームを遮断する動きを伴う膣の膨張を収縮させるための機械的な逃避反応にラットを慣れされた。全てのラットが4セッション内で逃避反応を学習した。訓練を終了すると、試験セッションを開始した。 試験セッションは、1週間当たり3回、非連続的な日に実行した。各試験セッション(testing session)において、制御下で逃避試験(escape trial)を連続して行った。各試験(trial)では、風船を固定量まで急速(1ml/s)に膨張させ、それをラットが逃避反応を示すか又は15秒が経過するまで持続させ、風船を急速に収縮させた。制御量(0.01ml)を含む様々な膨張量を、三回、各回につきランダムな順序で送達した。最大15秒の潜伏期間は、反応なしと見なした。 Cason AM 他(Horm Behav.(2003)、Vol.44、123−31頁)に記載されるように、反応時間および逃避反応を各セッションにつき膨張の関数として測定した。反応時間が短く、反応を与える量が小さいほど、ラットの逃避反応が大きかった。各ラットにつき、当該ラットの全セッション(少なくとも12セッション)での逃避反応と圧力/量とを組み合わせて平均値を算出した。全4つの実験群(下記参照)において、子宮内膜症の外科処置前における膣の膨張に対するベースライン逃避反応は、非常に類似していた。 子宮内膜症の誘導 子宮片を自家移植することによりラットに子宮内膜症を実験的に誘導してよい。元はVernonとWilsonにより1985年に開発されたプロトコル(Fertility and Sterility、1985、Vol.44、684−694頁)にしたがって子宮内膜症の外科処置を行った。発情間期のラットを麻酔し、加熱パッドの上に置いて体温を維持し、外科処置を実施した。腹部を正中切開して子宮を露出させた。尾側の腸となる交互に垂れ下がった腸間膜動脈の周囲に4片の子宮角を縫合した。術後の回復は無事であり、全てのラットにおいて1週間以内に定期的な性周期が再開した。 NAC治療 全てのラットを、外科処置後8週間、1日当たり60mg/kgの投薬量(投与日に可能ならば)のNACで、または、プラシーボで、治療した。ラットを4つの実験群に分けた。 第1の群は、パルス状のNAC治療、つまり1日おきの治療を受けた。 第2の群は、間欠的なNAC治療、つまり、5日間の毎日の治療と、2日の中断(つまり、2日間治療せず)とを含む治療を受けた。 第3の群は、毎日NAC治療を受けた。 第4の群は、偽の治療、つまりプラシーボ治療を受けた。 上記した膣の膨張を終わらせる逃避反応を8週間後に査定した。 結果 子宮の外科処置後、膣の痛覚過敏(痛みに対する感度の上昇)がラットに誘導された結果となった。 逃避反応(つまり、対照群に比較した反応時間および所定の膨張量における15秒以内の反応数)と、様々な膨張量の膣管に対する膣圧とを測定した。4つの異なる実験群の結果を示す(偽治療を受けた群の値をベースライン値として使用する)。 偽治療群に比較した、膨張量0.5mlでの逃避反応の減少は、 1.パルス状NAC治療群では、逃避反応が32%減少し、 2.間欠的NAC治療群では、逃避反応が28%減少し、 3.毎日NAC治療を受けた群では、逃避反応が18%減少した。 したがって、興味深いことに、NAC治療により誘導された痛覚減少効果は、毎日治療を受けた群よりも、パルス状治療群および間欠的治療群において顕著であったことを結果は示す。 子宮内膜症に罹患した哺乳類を治療する方法は、N−アセチル−L−システインを含む医薬組成物を、当該哺乳類に、2ヶ月以上の期間、投与日には1日当たり20から90mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で、パルス状もしくは間欠的な投薬計画で投与する段階を含む。 当該方法では、医薬組成物は、3から5日間連続的に投与され、その後に2から4日間中断される。 当該方法では、医薬組成物は、1から3日間連続的に投与され、その後に1から2日間中断される。 当該方法では、N−アセチル−L−システインの投薬量は、投与日には、1日当たり30から60mg/kgである。 当該方法では、N−アセチル−L−システインの投薬量は、投与日には、1日当たり30から45mg/kgである。 当該方法は、子宮内膜症により引き起こされる痛みを治療する。 当該方法は、子宮内膜症により引き起こされる不妊を治療する。 当該方法は、子宮内膜症に罹患した哺乳類を、腹腔鏡検査もしくは外科処置の前に予備的に治療する。 当該方法は、子宮内膜病変の再発を防止するための、腹腔鏡検査もしくは外科処置の後における治療用である。 子宮内膜症に罹患した哺乳類の治療に使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物であって、 前記医薬組成物は、2ヶ月以上の期間、投与日には1日当たり20から90mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で、パルス状もしくは間欠的に経口投与される医薬組成物。 3から5日間連続的に投与され、その後に2から4日間中断される、請求項1にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 1から3日間連続的に投与され、その後に1から2日間中断される、請求項1にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 投与日には1日当たり30から60mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で投与される、請求項1から3のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 投与日には1日当たり30から45mg/kgのN−アセチル−L−システインの投薬量で投与される、請求項1から4のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 光から保護される、請求項1から5のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 水溶性の錠剤である、請求項1から6のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 炭化水素ナトリウムを含有する、請求項1から7のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 徐放性および/または胃保護性の処方を含む、請求項1から6のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 子宮内膜症により引き起こされる痛みを治療するべく、請求項1から9のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 子宮内膜症により引き起こされる不妊を治療するべく、請求項1から10のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 子宮内膜症に罹患した哺乳類を、腹腔鏡検査もしくは外科処置の前に予備的に治療するべく、請求項1から11のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 子宮内膜病変の再発を防止するべく、腹腔鏡検査もしくは外科処置の後の治療において、請求項1から12のいずれか1項にしたがって使用されるN−アセチル−L−システインを含む医薬組成物。 【解決手段】本発明は、ヒトもしくは哺乳動物の患者における子宮内膜症および子宮内膜症に関連する適応症の治療におけるNACの新しい処方に関する。さらに、子宮内膜症の治療におけるNACの効果的投薬計画を提案する。本発明の一実施形態では、たとえば、痛みの症状(月経困難症、性交疼痛、および非周期的慢性骨盤痛)の頻度および強度を制御し、子宮内膜病変の大きさを最終的には消滅するまで減少させ、外科処置後の再発を減らし、および/または不妊を改善するべく処方の治療計画を使用してよい。この治療法の副作用は実質的になく、特に、この治療法は妊娠を邪魔しない。【選択図】図1