タイトル: | 特許公報(B2)_バチルス属微生物由来の還元剤及びその用途 |
出願番号: | 2012514778 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | A23L 1/31,C12N 9/02,C12N 15/09,C12R 1/125,C12R 1/07 |
奥田 啓太 山口 庄太郎 JP 5814914 特許公報(B2) 20151002 2012514778 20110509 バチルス属微生物由来の還元剤及びその用途 天野エンザイム株式会社 000216162 萩野 幹治 100114362 奥田 啓太 山口 庄太郎 JP 2010109779 20100512 20151117 A23L 1/31 20060101AFI20151029BHJP C12N 9/02 20060101ALI20151029BHJP C12N 15/09 20060101ALN20151029BHJP C12R 1/125 20060101ALN20151029BHJP C12R 1/07 20060101ALN20151029BHJP JPA23L1/31 DC12N9/02C12N9/02C12N15/00 AC12N9/02C12R1:125C12N9/02C12R1:07 C12N 15/00 − 15/90 C12N 9/00 − 9/99 A23L 1/31 − 1/318 UniProt/GeneSeq GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN) 特表2002−536015(JP,A) 特開2005−087058(JP,A) 特開2006−166815(JP,A) 特表2005−508614(JP,A) 特開2006−061016(JP,A) BARBE, V. et al.,Definition: dihydrolipoamide dehydrogenase [Bacillus subtilis subsp. subtilis str. 168].,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accession No.NP_389344, 31-MAR-2010 uploaded,2011年 6月 2日,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/16078525?sat=14&satkey=2235977> Journal of Bacteriology,1990年,Vol.172, No.9,pp.5052-5063 今堀和友 他 監,ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ,生化学辞典,株式会社東京化学同人,2002年,第3版第5刷,p.663 食肉の科学,1994年,Vol.35, No.1,pp.159-162 Journal of Food Science,1993年,Vol.58, No.1,pp.38-42 12 JP2011060622 20110509 WO2011142300 20111117 31 20140415 藤井 美穂 本発明はバチルス属微生物由来の還元剤及びその用途に関する。本発明の還元剤は特に、食肉又は食肉加工品の色調を改善する目的において有用である。本出願は、2010年5月12日に出願された日本国特許出願第2010−109779号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。 食肉の色は、消費者が肉質を評価するときの重要な因子である。鮮赤色であれば良質な食肉と判断され、褐色であれば古いと見なされるなど、肉色は消費者の食肉に対する購買意欲や評価に大きな影響を与える。 そして食肉の色調は肉中に存在するミオグロビン誘導体の割合を反映している。このミオグロビンが酸化されるとメトミオグロビンになり、褐色に色調変化し、食肉製品の商品価値を著しく低下させる主因となる。 食肉の褐色化を防止するため、ハム・ソーセージなど畜肉加工品では、硝酸塩、亜硝酸塩の発色剤が一般的に用いられている。しかし、硝酸塩、亜硝酸塩はヒトにメトヘモグロビン血症を起こす急性毒性を有するので、残存亜硝酸根として70ppm以下になるように使用量が制限されている。また、亜硝酸が第二級アミンと反応して発ガン性物質であるニトロソアミンを形成する可能性が指摘されている。そのため、安全性の観点から、硝酸塩、亜硝酸塩の発色剤に代わる、発色効果のある物質や発色方法の探索が行われてきた。例えばラフィノースを添加することにより褐色化を防止する方法(特許文献1参照)、エノキタケ抽出物を添加することにより褐色化を防止する方法(特許文献2参照)、野菜類に含まれる成分を利用して発色させる方法(特許文献3参照)が見出されている。しかしながら、特許文献1の方法や特許文献2の方法では発色効果が十分でなく、特許文献3の方法では野菜類に含まれる硝酸塩を利用しており安全性に問題がある。 一方、ミオグロビン中の鉄を亜鉛に置換してミオグロビン亜鉛プロトポルフィンIX錯体にすることによって食肉の色調を維持する方法(特許文献4)やフェロケラターゼ又は酵母を利用してミオグロビン亜鉛プロトポルフィンIX錯体の生成を促進し、食肉の鮮赤色を保持する方法(特許文献5、6)も提案されている。これらの方法では、一旦生成してしまったメトミオグロビンに作用することはできず、発色ないし色調維持効果は限定的である。特開2003−18976号公報特開2008−228702号公報特開2009−165445号公報特開2006−56908号公報特開2005−87058号公報特開2006−61016号公報 本発明は食肉又は食肉加工品の色調改善に効果的な還元剤及びその用途(亜硝酸塩などの発色剤を用いない色調改善方法など)を提供することを課題とする。 本発明者らは食肉の色調を改善する物質を見出すべく、バチルス属の微生物を中心にスクリーニングを実施した。スクリーニングの結果、食肉発色効果の高い物質を産生する微生物株が特定された。更に検討を進めた結果、有用性が高いと期待される当該物質はメトミオグロビンに対して還元活性を示すことが明らかとなった。即ち、バチルス属の微生物がメトミオグロビン還元活性により食肉の発色を促す物質を産生することを見出した。当該物質はヘムに対して還元作用を示すものであり、食肉の発色に限らず、ヘム又はヘム蛋白質の還元が有効ないし必要な他の用途においても利用され得る。例えば、メトミオグロビンと類似した構造を有するメトヘモグロビン等を還元する目的で当該物質を利用することが可能である。 更なる検討の結果、バチルス属微生物由来の上記物質(還元作用を示す物質)がデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼとニトロレダクターゼであることが判明した。 本発明は上記成果に基づいて完成されたものであり、以下の通りである。 [1]バチルス属微生物由来のヘム還元酵素を含む還元剤。 [2]前記ヘムがメトミオグロビンのヘムであることを特徴とする、[1]に記載の還元剤。 [3]前記ヘムがメトヘモグロビンのヘムであることを特徴とする、[1]に記載の還元剤。 [4]バチルス属微生物の菌体破砕物からなることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の還元剤。 [5]前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の還元剤。 [6]前記ヘム還元酵素がデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ又はニトロレダクターゼである、[1]に記載の還元剤。 [7]前記ヘム還元酵素として、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及びニトロレダクターゼを含む、[1]に記載の還元剤。 [8]前記デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列が配列番号3のアミノ酸配列を含み、前記ニトロレダクターゼのアミノ酸配列が配列番号12のアミノ酸配列を含む、[6]又は[7]に記載の還元剤。 [9]前記デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及び前記ニトロレダクターゼがリコンビナントタンパク質である、[6]〜[8]のいずれか一項に記載の還元剤。 [10][1]〜[9]のいずれか一項に記載の還元剤からなる色調改善剤。 [11][1]〜[9]のいずれか一項に記載の還元剤と、ミオグロビンのヘム基中の鉄を亜鉛に置換する作用を示す物質を組み合わせてなる色調改善剤。 [12]前記物質がフェロケラターゼである、[11]に記載の色調改善剤。 [13]食肉又は食肉加工品の色調の改善用である、[10]〜[12]のいずれか一項に記載の色調改善剤。 [14]デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及び/又はニトロレダクターゼを含む、食肉又は食肉加工品用の色調改善剤。 [15]発色作用、発色促進作用及び/又は退色防止作用により色調を改善する、[10]〜[14]のいずれか一項に記載の色調改善剤。 [16][1]〜[9]のいずれか一項に記載の還元剤を含むことを特徴とする医薬。 [17]経口投与製剤である、[16]に記載の医薬。 [18]非経口投与製剤である、[16]に記載の医薬。 [19]以下のステップ(1)及び(2)を含む還元剤の製造法: (1)ヘム還元酵素を産生するバチルス属微生物を、該酵素が産生される条件下で培養するステップ; (2)培養産物から前記酵素を回収するステップ。 [20]前記ステップ(2)が以下のステップからなる、[19]に記載の製造法: (2−1)培養産物から菌体を収集するステップ; (2−2)菌体破砕物を調製するステップ。 [21]前記ヘムがメトミオグロビンのヘムであることを特徴とする、[19]又は[20]に記載の製造法。 [22]前記ヘムがメトヘモグロビンのヘムであることを特徴とする、[19]又は[20]に記載の製造法。 [23]前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物である、[19]〜[22]に記載の製造法。 [24][10]〜[15]のいずれか一項に記載の色調改善剤を食肉又は食肉加工品に作用させることを特徴とする色調改善方法。 [25]バチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択されるバチルス属微生物の菌体破砕物を食肉又は食肉加工品に作用させることを特徴とする色調改善方法。 [26][1]〜[9]のいずれか一項に記載の還元剤を用いた、血行障害、低酸素症若しくは血中酸素減少状態、これらの一つ以上の病態ないし症状を伴う疾患、又はこれらの一つ以上の病態ないし症状に起因する疾病の予防または治療方法。バチルス属菌体破砕抽出物又はその熱処理物を豚もも肉凍結乾燥粉末に添加した溶液の吸収スペクトルを示す図である。バチルス属菌体破砕抽出物を豚もも肉凍結乾燥粉末に添加した溶液の保存中における580nmでの吸光度(A580)の経時変化を示す図である。バチルス属菌体破砕抽出物凍結乾燥粉末中のメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。メトミオグロビン還元酵素の精製過程におけるDEAEクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。メトミオグロビン還元酵素の精製過程におけるハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。メトミオグロビン還元酵素の精製過程におけるゲルろ過クロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。比活性の高かったゲルろ過画分をサンプルとしたSDS-PAGEの結果を示す図である。各精製段階で得られたサンプルの比活性を比較した図である。精製酵素(デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ:DLD)を用いた食肉発色試験の結果を示す図である。酵素量の異なるサンプルについて比較した。精製酵素(DLD)を用いた食肉発色試験の結果を示す図である。NADHの有無で比較した。精製酵素(DLD)のレイトアッセイの結果(基質飽和曲線)を示す図である。精製酵素(DLD)のレイトアッセイの結果([s]/v〜[s]プロット)を示す図である。精製酵素(DLD)の至適pHを示す図である。精製酵素(DLD)のpH安定性を示す図である。精製酵素(DLD)の至適温度を示す図である。精製酵素(DLD)の熱安定性を示す図である。精製酵素(DLD)のNADHとNADPHへの反応性を示す図である。精製酵素(DLD)の活性に与える各種カチオンの影響を示す図である。リコンビナントDLD(Hisタグなし)のメトミオグロビン還元活性を示す図である。リコンビナントDLD(Hisタグあり)のメトミオグロビン還元活性を示す図である。リコンビナントDLDを用いた食肉発色試験の結果を示す図である。R値、G値及びB値は、ネガティブコントロール(左)で178、104及び102、精製リコンビナントDLD(右)で210、104及び114であった。リコンビナントDLDを用いた食肉発色試験の結果を示す図である。R値、G値及びB値は、サンプル1で201、117及び123、サンプル2で185、121及び105、サンプル3で217、97及び93、サンプル4で160、108及び83、サンプル5で156、84及び65であった。リコンビナントDLDを用いた食肉発色試験の結果を示す図である。R値、G値及びB値は、サンプル1で168、122及び106、サンプル2で185、152及び145、サンプル3で172、123及び119、サンプル4で187、153及び144、サンプル5で173、148及び123であった。DLD以外の食肉発色酵素についての精製過程におけるフェニルクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。DLD以外の食肉発色酵素についての精製過程におけるハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。DLD以外の食肉発色酵素についての精製過程におけるCuアフィニティークロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を示す図である。ハイドロキシアパタイトクロマトクラフィーで得られた画分及びCuアフィニティークロマトグラフィーで得られた画分をサンプルとしたSDS-PAGEの結果を示す図である。リコンビナントリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Malate dehydrogenase:MDH)とリコンビナントニトロレダクターゼ(Putative NAD(P)H nitroreductase:yodC)の活性を示す図である。左から順にyodC/pET20b/BL21(DE3pLysS)(バチルス ズブチリス)、yodC/pET20b/BL21(DE3pLysS)(納豆菌)、pET20b/BL21(DE3pLysS)(空ベクター)、MDH/pET20b/BL21(DE3pLysS)(バチルス ズブチリス)、MDH/pET20b/BL21(DE3pLysS)(納豆菌)。リコンビナントMDHとリコンビナントyodCをサンプルとしたSDS-PAGEの結果を示す図である。左から順にマーカー、MDH/pET20b/BL21(DE3pLysS)(バチルス ズブチリス)、yodC/pET20b/BL21(DE3pLysS)(バチルス ズブチリス)、pET20b/BL21(DE3pLysS)、MDH/pET20b/BL21(DE3pLysS)(納豆菌)、yodC/pET20b/BL21(DE3pLysS)(納豆菌)、マーカー。精製したリコンビナントyodC及びリコンビナントMDHを用いた食肉発色試験の結果を示す図である。リコンビナントyodCの至適pH示す図である。リコンビナントyodCのpH安定性を示す図である。リコンビナントyodCの至適温度を示す図である。リコンビナントyodCの熱安定性を示す図である。リコンビナントyodCのNADPHへの反応性を示す図である。リコンビナントyodCの活性に与える各種カチオンの影響を示す図である。DLDとyodCのフェリシアン化カリウムに対する反応性を比較して示した図である。DLDとyodCのミオグロビンに対する反応性を比較して示した図である。(用語) 本明細書において「ヘム」とは、鉄原子とポルフィリンから構成される錯体(鉄ポルフィリン錯体)をいう。「ヘム蛋白質」とはヘムを含む蛋白質の総称である。また、「ヘム還元酵素」とは、ヘム中の鉄原子に対して還元活性を示す蛋白質のことをいう。当該活性の強さ(程度)は特に限定されない。典型的には、ヘム還元酵素は、ヘム蛋白質のメト化合物を還元する活性を示す。この活性に注目した場合、ヘム還元酵素をヘム蛋白質還元酵素と呼ぶこともできる。 本明細書において「メトミオグロビン還元酵素」とは、ミオグロビン誘導体であるメトミオグロビンを還元する活性を示すタンパク質のことをいう。当該活性の強さ(程度)は特に限定されない。従って、他の酵素活性の方が優位であっても、メトミオグロビンに対する還元活性を示す限り、本明細書における「メトミオグロビン還元酵素」に該当する。 本明細書において「色調改善剤」とは、金属ポルフィリン錯体がその形成に関与する「色調」の改善に用いられる物質又は組成物をいう。金属ポルフィリン錯体としては銅ポルフィリン錯体、コバルトポリフィリン錯体、鉄ポリフィリン錯体等が存在するが、当該ポルフィリン錯体中の金属が還元されうる状態のものであれば特に制限されない。好ましい金属ポルフィリン錯体としては鉄ポリフィリン錯体が挙げられ、当該鉄ポリフィリン錯体を含む組成物としてはヘム蛋白質が挙げられる。ヘム蛋白質を多く含む組成物として食肉又は食肉加工品を挙げることができる。 本発明の色調改善剤は発色作用、発色促進作用及び/又は退色防止作用により、対象の色調を改善する。例えば、本発明の色調改善剤は、金属ポルフィリン錯体中の金属を還元することで色調を改善し得る。或いは、金属ポルフィリン錯体からなる色素の酸化を防止することで当該色素の色調を維持し、もって色調を改善し得る。本発明の色調改善剤が適用される好ましい対象は食肉又は食肉加工品である。即ち、好ましい一態様では、本発明の色調改善剤は食肉又は食肉加工品の発色、色調維持、又は退色防止に利用される。尚、「食肉の発色」とは食肉又は食肉加工品に特有の赤い色調が発現することをいう。1.バチルス(Bacillus)属由来の還元剤 本発明の第1の局面は還元剤に関する。本発明の還元剤はバチルス属が産生するヘム還元酵素を有効成分とする。後述の実施例に示す通り、本発明者らによる大規模なスクリーニングの結果、バチルス属微生物である、バチルス ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amiloliquefaciens)、納豆菌(Bacillus natto)、バチルス スリンギエンシス(Bacillus thuringiensis)及びバチルス ミコイデス(Bacillus mycoides)が、メトミオグロビン還元活性に優れたポリペプチドを産生することが明らかとなった。この知見に基づき本発明の好ましい一態様では、これらの微生物のいずれかが産生するメトミオグロビン還元酵素が用いられる。尚、これらの微生物は例えば公共の保存機関(NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門)、JCM(理化学研究所バイオリソースセンター)、ATCC(American Type Culture Collection)等)から入手することができる。納豆菌については市販されており、容易に入手可能である。また宮城野納豆菌製造所から入手することも可能である。 本発明の還元剤は、有効成分(ポリペプチド)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、香料、増粘剤、油脂、光沢剤、結着剤、結着補強剤、乳化安定剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、D-グルコース、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。pH調製剤としてはイタコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、ピロリン酸、酢酸、乳酸、α−ケトグルタル酸、フィチン酸等の有機酸又は有機酸塩;炭酸等の無機酸又は無機酸塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸;アルギニン、リジン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。香料としてはジャコウ、シベット、カストリウム、アンバーグリス等の動物性香料;アニス精油、アンゲリカ精油、イランイラン精油、イリス精油、ウイキョウ精油、オレンジ精油、カナンガ精油、カラウェー精油、カルダモン精油、グアヤクウッド精油、クミン精油、黒文字精油、ケイ皮精油、シナモン精油、ゲラニウム精油、コパイババルサム精油、コリアンデル精油、シソ精油、シダーウッド精油、シトロネラ精油、ジャスミン精油、ジンジャーグラス精油、杉精油、スペアミント精油、西洋ハッカ精油、大茴香精油、チュベローズ精油、丁字精油、橙花精油、冬緑精油、トルーバルサム精油、バチュリー精油、バラ精油、パルマローザ精油、桧精油、ヒバ精油、白檀精油、プチグレン精油、ベイ精油、ベチバ精油、ベルガモット精油、ペルーバルサム精油、ボアドローズ精油、芳樟精油、マンダリン精油、ユーカリ精油、ライム精油、ラベンダー精油、リナロエ精油、レモングラス精油、レモン精油、ローズマリー精油、和種ハッカ精油等の植物性香料;その他合成香料等を用いることができる。増粘剤としては、天然高分子またはデンプン系もしくはセルロース系天然高分子誘導体等を用いることができる。天然高分子としては、例えば、フコイダン、カラギーナン等の海藻抽出物、グァーガム等の種子粘出物、アラビアガム等の樹脂様粘着物、またはキサンタンガム等の微生物産生粘着物質等を挙げることができる。デンプン系もしくはセルロース系天然高分子誘導体としては、例えば、リン酸デンプン等のデンプン系またはメチルセルロースなどのセルロース系の天然高分子誘導体が挙げられる。油脂としては、例えば、アボガド油、アマニ油、アーモンド油、ウイキョウ油、エゴマ油、オリーブ油、オレンジ油、オレンジラファー油、カカオ脂、カミツレ油、カロット油、キューカンバー油、ココナッツ油、ゴマ油、コメ油、サフラワー油、シア脂、液状シア脂、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、ヒマシ油、ヒマワリ油、葡萄種子油、綿実油、落花生油、タートル油、ミンク油、卵黄油、パーム油、パーム核油、モクロウ、ヤシ油、牛脂、豚脂等を用いることができる。また、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の処理をして改質された油脂も利用できる。光沢剤として、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、カンデリラロウ、モンタンロウ、セラックロウ、ライスワックス、スクワレン、スクワラン、プリスタン等のロウ類(植物性、動物性を問わない。);流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、オゾケライド、セレシン、マイクロクリスタンワックス等の鉱物油を用いることができる。結着剤としては大豆蛋白質、卵蛋白質、乳蛋白質、血液蛋白質、カゼイン、デンプン、トランスグルタミナーゼ等を用いることができる。結着補強剤としては重合リン酸塩等を用いることができる。乳化安定剤としてはカゼインナトリウム等を用いることができる。その他添加物として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、1 2-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、トール油、ラノリン脂肪酸等の天然脂肪酸;イソノナン酸、カプロン酸、2 -エチルブタン酸、イソペンタン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソペンタン酸等の合成脂肪酸等の脂肪酸を含有しても良い。 一態様において本発明の還元剤は、本発明に係るポリペプチドを産生する微生物の菌体破砕物で構成される。即ち、この態様の還元剤は所定の微生物の菌体破砕物を含むことになる。菌体破砕液(通常は微生物の培養、集菌及び菌体破砕からなる一連の工程によって得られる)をそのまま菌体破砕物として用いることができる。一方、菌体破砕液を更なる処理(精製処理、凍結処理、乾燥処理、他の成分の添加など)に供した後に菌体破砕物として用いることもできる。 本発明者らの検討によって、バチルス属微生物由来の有効成分(還元作用を示し、特に食肉の色調改善に有効な物質)がデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(DLD)とニトロレダクターゼ(yodC)であることが判明した(後述の実施例を参照)。そこで本発明の一態様として、ヘム還元酵素としてバチルス属微生物由来のデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ又はニトロレダクターゼを含む還元剤が提供される。好ましい一態様では、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼとニトロレダクターゼの両方が含まれる。尚、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を配列番号3に示す。同様にニトロレダクターゼのアミノ酸配列を配列番号12に示す。 上記の通り、有効なヘム還元酵素が特定され、且つそのアミノ酸配列が同定されたことから、遺伝子工学的に調製した酵素を利用することが可能となった。そこで、本発明の一態様では遺伝子工学的に調製した酵素、即ちリコンビナントタンパク質からなるヘム還元酵素が用いられる。具体的には、リコンビナントデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及び/又はリコンビナントニトロレダクターゼを有効成分とした還元剤が提供される。尚、リコンビナントタンパク質とは、遺伝子組み換え技術によって人工的に作製されたタンパク質のことをいう。2.還元剤の用途 本発明の第2の局面は本発明の還元剤の用途に関する。本発明が提供する用途は色調の改善及びその他の用途に大別される。特に前者の用途、即ち色調改善剤としての利用が重要である。その色調の形成に金属ポルフィリン錯体が関与しているものが、本発明による色調改善の対象となる。好ましい対象として食肉及び食肉加工品が挙げられる。食肉の色調は肉中に存在するミオグロビン誘導体の割合を反映する。上記の通り、本発明の還元剤はヘム還元酵素(好ましくはメトミオグロビン還元酵素)を有効成分とする。従って、本発明の還元剤を食肉に作用させると、食肉中のメトミオグロビンが還元され、還元型ミオグロビンが生成する。還元型ミオグロビンは酸素化によって鮮赤色の色調を示すオキシミオグロビンに変換される。本発明の還元剤を作用させると、食肉又は食肉加工品中のメトミオグロビン量が低減し、併せてオキシミオグロビンが生成する結果、色調が改善する。また、還元型ミオグロビンまたはオキシミオグロビンの酸化が防止され、その結果として食肉の退色を防止できるという効果も期待できる。このように、本発明の還元剤によれば、発色のみならず色調維持、つまり退色防止の効果も発揮され得る。退色防止効果が奏される際の作用対象は金属ポルフィリン錯体であり、当該錯体中の金属が酸化されうるものであれば特に制限されない。好ましい金属ポルフィリン錯体は鉄ポルフィリン錯体である。従って、退色防止効果を期待する場合の好ましい対象は、鉄ポルフィリン錯体を含有するヘム蛋白質である。最も好ましい対象は、還元型ミオグロビンまたはオキシミオグロビン、並びにこれらミオグロビン2種(還元型ミオグロビン、オキシミオグロビン)の何れか/もしくは双方を含む食肉又は食肉加工品である。 本発明の還元剤を食肉又は食肉加工品の色調改善に利用する場合(即ち、本発明の還元剤を色調改善剤として用いた色調改善方法)には、本発明の還元剤で食肉又は食肉加工品を処理することになる。処理条件は原則、還元剤を構成するメトミオグロビン還元酵素が良好に作用する条件(好ましくは至適条件)とすればよい。好ましい処理条件は、処理対象の食肉又は食肉加工品を用いた予備実験によって容易に特定ないし設定可能である。以下、処理方法の具体例(菌体破砕液を食肉の色調改善に利用する場合)を示す。まず、所定の微生物(メトミオグロビン還元酵素を産生するバチルス属微生物)の菌体破砕液を用意し、pHを5.5付近に調整する。これは肉中のpHを再現するためである。続いて、4℃において食肉と接触させる。接触方法としては一般的に、ブロック肉では懸濁液を注射してタンブリングする、ミンチ肉では懸濁液を混合する等の方法がある。適した接触方法を行うことによって、懸濁液が食肉全体に浸透する。処理温度については、発色は40℃付近でも可能だが、食肉の品質を考慮すると4℃又は4℃付近で行うのが好ましい。 処理対象の食肉の種類は制限されない。上記の通り、食肉の色調は肉中に存在するミオグロビン誘導体の割合を反映する。本発明の還元剤は食肉中のミオグロビン誘導体の割合に影響を与え、発色を促進する。従って、ミオグロビンを含む食肉又は食肉加工品全般に本発明を適用可能である。具体的には、豚肉、牛肉、鶏肉等の畜肉又はこれらの加工品、或いはマグロ、カツオ、シャケ等の魚肉又はこれらの加工品を処理対象にすることができる。但し、赤色を呈している食肉が好ましい処理対象といえる。処理対象の一つである食肉加工食品は、食肉を原料として製造される食品であれば特に限定されない。食肉加工品として例えば生ハム、ソーセージ、ロースハムが挙げられる。処理対象である食肉または食肉加工食品の形状についても特に制限はない。ブロック肉、ミンチ肉等、用途に合わせて適宜選択することができる。 本発明の一態様では、本発明の還元剤と、ミオグロビンのヘム基中の鉄を亜鉛に置換する作用を示す物質(以下、「鉄・亜鉛置換物質」と呼ぶ)を併用する。このように本発明の還元剤と作用の異なる物質を併用すれば、複合的な効果により色調が一層改善される。特に、良好な色調の維持・退色防止にもつながる。鉄・亜鉛置換物質として例えばフェロケラターゼを用いることができる(詳しくは特開2006−61016号公報を参照)。フェロケラターゼは動物組織(特に内蔵)、植物組織(キノコ類、モヤシ、エンドウ豆等)、酵母(パン酵母、ビール酵母、清酒酵母、ワイン酵母、焼酎酵母等)、細菌等に存在している。これらの天然物から抽出したフェロケラターゼを用いることができる。また、ミトコンドリア画分にはフェロケラターゼが多く含まれていることから、特にミトコンドリア画分を用いるとよい。鉄・亜鉛置換物質としてサッカロミセス属酵母(ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、焼酎酵母など)を用いることもできる(詳しくは特開2005−87058号公報を参照)。 この態様の特徴は、本発明の還元剤と鉄・亜鉛置換物質を組み合わせて用いることである。典型的には、本発明の還元剤と鉄・亜鉛置換物質とを混合した配合剤として本発明の色調改善剤が提供されることになる。一方、例えば、本発明の還元剤(第1構成要素)と、鉄・亜鉛置換物質を含む剤(第2構成要素)とからなるキットの形態で本発明の色調改善剤を提供することもできる。この場合、処理対象(食肉又は食肉加工品)を第1構成要素及び第2構成要素で同時又は別々に処理することになる。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に使用する等、両要素の使用が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の使用後、速やかに他方を使用する等、両要素の使用が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。 本発明の還元剤を色調改善剤に利用する場合、有効成分(ポリペプチド)と上記添加物(賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、香料、増粘剤、油脂、光沢剤、結着剤、結着補強剤、乳化安定剤、生理食塩水等)の他、調味料、香辛料、マスキング剤、軟化剤等を用いることにしてもよい。調味料としては、醤油、味噌、酢、酒、味醂、塩、カツオやコンブ等のだし、肉エキス、野菜エキス等を用いることができる。香辛料としては、胡椒、ローレル、タイム、クローブ、オレガノ、八角、山椒、セージ、パセリ、ナツメグ、マスタード、ジンジャー、シナモン、バジル、パプリカ、ローズマリー、スペアミント、レモングラス、タラゴン、チャービル、カルダモン、クミン、コリアンダー、ディル、フェンネル、マジョラム、オールスパイス等を用いることができる。マスキング剤としては、スクロース、サイクロデキストリン等の糖類;クローブ、オールスパイス、ローリエ、シナモン、ナツメグ等のハーブ類等を用いることができる。軟化剤としては、プロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、フィシン等の蛋白質分解酵素等を用いることができる。 本発明の還元剤は食肉以外の分野でも利用できる。ミオグロビン以外のヘムタンパク(例えばヘモグロビン)を含む組成物の還元又は酸化防止(退色防止を含む)を目的として本発明の還元剤を用いてもよい。 本発明の還元剤にはヘモグロビン濃度の測定やヘモグロビン血症の治療への適用も期待できる。即ち、本発明の還元剤は試薬や医薬の有効成分としても有用である。現在、血中のヘモグロビン濃度の測定方法としてシアンメトヘモグロビン法が頻用されている。この方法ではメトヘモグロビンにフェリシアン化カリウムとシアン化カリウムの混合物を作用させてシアンメトヘモグロビンとした上で比色定量法により測定する。本発明の還元剤を用いれば、当該方法に代わる方法として、血中などのメトヘモグロビン量又は総ヘモグロビン量を測定可能である。 メトヘモグロビン血症は、何らかの原因でメトヘモグロビンが体内に過剰に蓄積されることで体内が酸素欠乏状態となり発症する。メトヘモグロビン血症に対する治療方法としてはメチレンブルーの静脈注射が最も効果的とされる。但し、シアン中毒を併発している場合にはシアン中毒を促進させてしまうためメチレンブルーは使用できない。その他の治療方法としてアスコルビン酸の経口投与、静脈注射(リボフラビンと併用して投与することもできる。)があるが、いずれの方法も効果は大きくない。本発明の還元剤はこれら従来の治療法に代わる新たな治療戦略を提供し得る。本発明の還元剤を用いた治療法は、メチレンブルーを使用できない患者(シアン中毒を併発する者など)に対しても適用可能である。また、メチレンブルーはグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損者には効果がない。G6PD欠損症のようなペントースリン酸経路に異常が見られる患者は、このアプローチに応答せず、緊急の交換輸血を受けなくてはならない。 G6PD欠損症は世界的に最も一般的な障害の1つである。米国黒人男性の実に約10%が罹患している。また、アフリカ人および地中海沿岸居住者にも多くの罹患者を認める。したがって、相当数の被験者に(酸化的)薬物誘発性メトヘモグロビン血症の危険性がある。かかる患者へのメチレンブルー自体の投与は無効であり(彼等のG6PD欠損症が、NADPH不足を引き起こすため)、逆効果の可能性でさえ存在する。本発明の還元剤には同患者への効果も期待できる。 本発明の還元剤は心拍数、血圧、心拍出量の異常による心臓の負担の軽減および各組織の代謝の亢進等の薬理作用並びに生理作用を発揮し得る。本発明の還元剤を含む医薬には、例えば、各組織の酸素要求量の高い生理条件下、例えば激しい労働や運動等の環境において、生体の耐久力を増進する耐久力増進剤としての用途も期待できる。さらに、心不全、心筋症、心筋炎、心筋梗塞、心膜炎、心筋周膜炎(perimyocarditis)、一過性虚血発作、冠状動脈性心臓病、左−右脈路シャントをもつ先天性異常(vitia)、ファロー四徴症/五徴症、アイゼンメンゲル症候群、ショック、抹消の虚血、動脈閉塞性疾患(AOD)、抹消AOD(pAOD)、頚動脈狭窄、腎動脈狭窄、脳における微小循環器障害(細動脈硬化)、脳内出血、脳の静脈血栓および頭蓋内静脈洞血栓症、血管異形成、くも膜下出血、血管性痴呆、ビスヴァンガー(Biswanger)症、皮質下動脈硬化性脳症、塞栓症を伴う多発皮質梗塞、血管炎、糖尿病性網膜症、種々の原因による貧血(anaemia)の予後(再生不良性貧血、骨髄異形成症候群、真性赤血球増加症、巨赤芽球性貧血、鉄欠乏性貧血、腎性貧血、球状赤血球症(spHaerocytosis)、溶血性(haemolytic)貧血など)、サラセミア(thalassaemia)、異常ヘモグロビン症、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠乏症、輸血罹患、アカゲザル(Rhesus)不適合性、マラリア、弁膜形成(valvuloplasty)、急性出血後貧血、脾機能亢進症候群、肺線維症、気腫、肺水腫(oedema): ARDS、IRDSまたは再発性肺気腫、熱傷、狭心症、冬眠等の虚血性疾患等、血行障害、低酸素症若しくは血中酸素減少状態の予防又は治療、又はこれらの病態ないし症状を伴うかこれらの病態ないし症状に起因する疾病の予防又は治療に本発明の医薬を適用してもよい。 虚血組織に酸素を供給して虚血性の細胞損傷を防止する(かつ再灌流障害から組織を保護する)ために、虚血性事象の発生前、発生中、及び/又は発生後に本発明の医薬を投与することも可能である。本発明の医薬投与と併せて、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体)を投与することにしてもよい。例えば外科的な脈管再生(例えば、経皮冠動脈脈管再生)、移植、急性心筋梗塞、血管形成術(経皮冠動脈血管形成術等)によって引き起こされる急性虚血、並びにそれに続く再灌流およびフリーラジカル放出のために、本発明の医薬と血管作動性キャリア(ヘム蛋白質に基づく酸素運搬体等)をガス状の一酸化窒素と組み合わせ、又はガス状の一酸化窒素を適用した後に本発明の医薬と血管作動性キャリアを哺乳動物に投与し所期の治療効果を発揮させるようにしてもよい。本明細書に記載の方法によって治療される哺乳動物は治療前に虚血性心疾患を有していてもよく、急性の虚血性病態(例えば、心筋梗塞、脳卒中、もしくは腎虚血)を患っていてもよく、或いは臓器(脳、心臓、腎臓、肝臓、胃腸管など)に血管痙攣を示していてもよい。 循環系の一部分または全体を通しての赤血球流量低下、貧血および脳卒中を含む、様々な原因の結果として生じる脊椎動物内の低酸素組織を治療するため本発明の医薬を用いることもできる。また、脊椎動物内の組織の酸素欠乏を防止することを目的として、予防的に本発明の医薬を用いても良い。さらには、部分的動脈閉塞または微小循環における部分的遮断から生じた低酸素症を治療または予防する目的で本発明の医薬を適用することも可能である。ヘモグロビンの投与に関しては米国特許出願第08/409,337号明細書が参考になる。 本発明の医薬の投与量、投与期間は特に制限されない。投与形態、年齢、体重、症状等に応じて適宜選択できる。 本発明の医薬の投与対象は制限されない。投与対象として、ヒトの他、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばサル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、馬、ニワトリ、羊、鯨、イルカ、イヌ、ネコ等)を挙げることができる。治療対象は、本発明の医薬の投与前、投与中、及び/又は投与後において、正常血液量であっても、血液量過多であっても、或いは血液量過少であってよい。 本発明の医薬の投与形態は特に制限されない。経口あるいは非経口のいずれの投与方法によっても投与することができる。本明細書で用いる「非経口」による投与は特に限定はしないが、例えば、静脈内、筋内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経皮気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、髄腔内、及び胸骨内注射並びに注入を挙げることができる。好ましい投与方法として静脈内注射が用いられる。 経口投与に適する製剤の例としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができる。非経口投与に適する製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、吸入剤、貼付剤等を挙げることができる。本発明の医薬は、薬理学的、製剤学的に許容しうる添加物を必要により加えて製造してもよい。薬理学的、製剤学的に許容しうる添加物の例としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。 経口投与、あるいは非経口投与に適する製剤には、ブドウ糖、乳糖、D-ソルビトール、D-マンニトール、デンプン、カオリン、キシリトール、デキストリン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤;フロン,ジエチルエーテル、又は圧縮ガス等の噴射剤;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリイソブチレン、ポリブテン等の粘着剤;木綿布又はプラスチックシート等の基布等の製剤用添加物等を添加することができる。注射用に適する製剤には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等の等張化剤;有機酸(イタコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルコン酸、ピロリン酸、乳酸、α−ケトグルタル酸、フィチン酸等)又はこれら有機酸の塩、無機酸(炭酸等)又はこれら無機酸の塩、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸等)、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン等)等のpH調整剤;リドカイン等の無痛化剤等の添加物を添加してもよい。 本発明の医薬の典型的な作用対象の一つはヘモグロビンであるが、ここでのヘモグロビンは特に限定されない。天然(非修飾)であるヘモグロビン、遺伝子操作によって修飾されたヘモグロビン、分子内もしくは分子間架橋、重合、または化学基(例えば、酸化ポリアルキレン、ポリエチレングリコール、スーパーオキシドジスムターゼもしくは他の付加物)の付加などの化学反応によって修飾されたヘモグロビンであってもよい。本発明の医薬は、上記ヘモグロビン以外のヘム蛋白質にも応用できる。また、上記ヘム蛋白質と構造が類似する金属ポルフィリン錯体にも応用できる。3.還元剤の製造法 本発明の更なる局面は本発明の還元剤の製造法を提供する。本発明の製造法ではヘム還元酵素、好ましくはメトミオグロビン還元酵素を産生するバチルス属微生物を、該酵素が産生される条件下で培養するステップ(ステップ(1))及び培養産物から前記酵素を回収するステップ(ステップ(2))が行われる。 ステップ(1)のバチルス属微生物としてバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス、バチルス ミコイデスからなる群より選択されるいずれかの微生物を用いるとよい。培養法及び培養条件は目的の酵素が産生されるものである限り特に限定されない。即ち、ヘム還元活性を示すポリペプチドが産生されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。以下、培養条件として培地、培養温度及び培養時間を例示する。 培地としては、使用する微生物が生育可能な培地が採用される。例えば、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、コーングルテンミール、大豆粉、カザミノ酸、コーヒー粕、綿実油粕、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する微生物の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約5〜7程度に調整し、培養温度は通常約10〜50℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜15日間、好ましくは3〜7日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば静置培養、振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。 以上の条件で培養した後、培養産物から目的の酵素を回収する(ステップ(2))。典型的には、培養産物から菌体を収集する操作(ステップ(2−1))の後、菌体破砕物を調製する(ステップ(2−2))。菌体の収集には遠心処理、フィルターろ過などを利用できる。固体培地を使用した場合など、菌体以外の固体成分を含む場合には予め当該固体成分を除去しておくとよい。菌体破砕物の調製にはフレンチプレスやダイノミル等を利用した機械的破砕処理、超音波処理、凍結破砕処理などを利用できる。後に行われる凍結処理、乾燥処理、凍結乾燥処理などの際に菌体の破砕が生じる場合には、菌体破砕専用の工程を設けなくても良い。調製した菌体破砕物はそのまま(即ち、特別の処理を施すことなく)又は追加の処理を経た後、本発明の還元剤として利用される。ここでの「追加の処理」の例は濃縮(限外ろ過膜による濃縮など)、精製(塩析、各種クロマトグラフィーなど)、他の成分の添加、希釈及び乾燥である。追加の処理として、二以上の処理を行うことにしてもよい。最終的な形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。 食肉の色調を改善する物質を見出すべく、バチルス属の微生物を中心にスクリーニングを実施した。以下では、スクリーニングの結果から有用性が高いと期待された微生物株に関する実験の結果を示す。1.バチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンゲンシス、バチルス ミコイデスの凍結乾燥粉末の調製 表1に示す液体培地10 mLを試験管に分注し、120℃、20分間滅菌した。前培養として前記試験管にバチルス ズブチリス(Bacillus subtilis JCM1465株(=ATCC6051株、IAM12118株、IFO13719株))、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens NBRC15535株(=ATCC23350株))、納豆菌(Bacillus natto)、バチルス スリンゲンシス(Bacillus thuringiensis NBRC13865株(=ATCC13366株))、バチルス ミコイデス(Bacillus mycoides IAM1190株(=IFO3039株))をそれぞれ1エーゼ接種し、30℃、300rpmで一晩振とう培養した。 次に、表1に示す液体培地100mLを300mL容三角フラスコに分注し、120℃、20分間滅菌し、本培養培地とした。本培養として前述の前培養液1mLを接種し、30℃、200rpmで一晩振とう培養した。本培養液を5,000rpm、5分、遠心分離し、菌体を得た。得られた菌体を30mLの20mM リン酸バッファー(pH 7.5)で1回洗浄し、30mLの20mM リン酸バッファー(pH 7.5)に懸濁した。得られた懸濁液を-40℃で24時間凍結した。続いて凍結乾燥(20℃、24時間)を行い、凍結乾燥粉末を得た(凍結乾燥処理により菌体は破砕される)。2.食肉発色試験1 前記凍結乾燥粉末0.1gを0.5 Mリン酸バッファー(pH 5.5)50μLで溶解した。続いて豚もも肉ミンチ2gに、前述の粉末溶解液、4%(w/v)ミオグロビン50μLを混ぜ合わせ、脱気密封し、4℃で17時間放置した。肉の赤色の変化(発色度)を視覚的に観察した。対照試験として粉末溶解液を加えないものと、粉末溶解液を10分間煮沸処理したものについても同様の試験を行った。その結果を表2に示す。尚、ピキア ファリノサ(Pichia farinose IAM12223株(=IFO0465株、JCM1634株))の凍結乾燥粉末溶解液で処理した場合の結果(未処理のデータのみ)も併せて示す。++:強く発色、+:発色、−:発色せず 以上のように、供試菌株(バチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンゲンシス、バチルス ミコイデス)の凍結乾燥粉末に食肉発色効果を認めた。バチルス ズブチリス及び納豆菌の効果は特に高い。尚、培養後の菌体をフレンチプレスで破砕して得たサンプルについても同様の食肉発色効果を確認した(データ示さず)。3.食肉発色試験2 前記凍結粉末(バチルス ズブチリスの菌体破砕物)10mgを0.5Mリン酸バッファー(pH 5.5)100μLで溶解した。その溶解液に豚もも肉ミンチ凍乾粉末10mg、4%(w/v)ミオグロビン 30μL、0.2M NADH 30μL、滅菌水400μLを添加して、室温で30分放置した。続いて反応液を15,000rpm、15分、遠心分離し、上清を回収した。得られた上清の波長700nmから400nmの吸収スペクトルを、分光光度計を用いて測定した。対照試験として粉末溶解液を10分間煮沸処理したものについても同様の試験を行った。その結果を図1に示す。結果から明らかなように、未処理サンプルは545nmと580nmに吸収極大を有し、赤色を呈していることが分かる。4.食肉発色試験3 3.に示した方法に従って、1.で調製した各凍結乾燥粉末用いて食肉発色試験を行った。コントロールとして粉末溶解液を加えないものについても同様の試験を行った。各サンプルの波長580nmにおける吸光度を図2に示す。試験した全てのサンプルで5日後もコントロールよりも強く発色していることが分かる。5.メトミオグロビン還元酵素活性の測定法 メトミオグロビン還元酵素活性は以下の通り測定した。まず、1.で調製した各凍結乾燥粉末を水で10mg/mLに溶解し、酵素溶液とした。続いて0.1Mリン酸バッファー(pH 5.5) 200μLに0.1%(w/v)ミオグロビン100μLと酵素溶液150μLを添加し、30℃、5分間プレインキュベートした。そして1mM NADH 50μLを添加して、波長406nmにおける吸光度の変化を5分間測定した。活性はユニット(U)で示した。本条件下で1分間に1μM相当のメトミオグロビンを還元させる酵素量を1Uとした。尚、比較のため、ピキア ファリノサ(Pichia farinose IAM12223株(=IFO0465株、JCM1634株))の凍結乾燥粉末についても酵素活性を調べた。 測定結果を図3に示す。食肉発色効果を示した凍結乾燥粉末はいずれも高いメトミオグロビン還元酵素活性を示した。この結果より、供試菌株(バチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンゲンシス、バチルス ミコイデス)がメトミオグロビン還元酵素を産生すること、及び発色効果が当該酵素の作用によるものであることが示唆された。6.メトミオグロビン還元酵素の精製 メトミオグロビン還元酵素は以下の通り精製した。1.で培養して得られたバチルス ズブチリス菌体をフレンチプレスにて破砕し遠心後、上清を硫安で塩析した。30%飽和で処理して上清をとり70%飽和で処理して遠心した後、沈殿物を回収した。これを20mM KPB(pH=6.0)溶液に溶解させ透析したものを硫安塩析サンプルとした。 得られた硫安塩析サンプル5mLを、以下の条件のDEAEクロマトグラフィー(DEAE column (HiTrapTM DEAE FF (5mL); GE Healthcare))に供した。その結果、タンパク収率は45.4%であった。(DEAEクロマトグラフィー条件) 担体:DEAE HP(5mL) チャージ:硫安塩析サンプル(5mL) Buf A:20mM KPB(pH6) Buf B:20mM KPB(pH6),1M NaCl 流速:5mL/分 分画:5mL プログラム:(1)Buf A洗浄 8cv、(2)Buf B 10% 洗浄 8cv、(3)Buf B勾配 30%/25cv、(4)Buf B 100% 8cv 上記DEAEクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図4に示す。なお、活性はメトミオグロビンの吸収極大であるA406の減少を確認した。図4の画分のうち特に活性の高かったDEAE Fr.No.61-63を、以下の条件のハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー(hydroxyapatite column (1×5 cm)(TypeI 20μm; Bio-Rad))にかけて各々を精製した。ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによるDEAE Fr.No.61-63のタンパク収率は98.5%であった。(ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー条件) 担体:ハイドロキシアパタイト(5mL) チャージ:DEAE精製Fr.No.61-63 Buf A:5mM KPB,0.3M NaCl(pH6) Buf B:400mM KPB,0.3M NaCl(pH6) 流速:1mL/分 分画:4mL プログラム:(1)Buf A洗浄 7cv、(2)Buf B勾配 100%/20cv、(3)Buf B 100% 10cv DEAE Fr.No.61-63をハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーに供して得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図5に示す。図5のうち特に比活性の高かったハイアパFr.No.19を20mM KPB(pH6)で透析後、以下の条件のゲルろ過クロマトグラフィー(gel filtration column (SuperdexTM75; GE Healthcare))に供した。(ゲルろ過クロマトグラフィー条件) 担体:Super dex 200(120mL) チャージ:ハイアパFr.19 Buf A:20mM KPB(pH6) 流速:1mL/min 分画:5mL ハイアパFr.No.19をゲルろ過クロマトグラフィーに供して得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図6に示す。さらに、図6のうち特に比活性の高かったゲルろ過Fr.No.13-15を含むゲルろ過Fr.No.12-16をSDS-PAGEに供し、バンドを確認した(図7:ゲルろ過Fr.No.12-16)。図7のゲルろ過Fr.No.13-15について、シングルバンドが得られた。 上記精製工程(DEAEクロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー)で得られた各々の画分について、比活性を図8に示した。DEAE.Fr.No.61-63はゲルろ過までして比活性が約20.7倍まで向上した。7.メトミオグロビン還元酵素のアミノ酸配列特定 図7のSDS-PAGEで得られたシングルバンドについてPDVF膜に転写しポンソー試薬で染色後、切り出しを行い、N末端アミノ酸配列解析をプロテインシークエンサーにて行った。その結果、N末端アミノ酸配列がVVGDFPIETDTLVIG(配列番号1)であることが見出された。さらに、当該アミノ酸配列をもとにBLAST内のバチルス・ズブチリスデータベースから該当遺伝子を検索した。その結果、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(Dehydrolipoyl dehydrogenase、以下DLDとする。)をコードするpdhD(配列番号2)と100%の相同性を有することが見出された。尚、DLDのアミノ酸配列を配列番号3に示す。8.DLDによる食肉発色試験 精製したDLDについて食肉発色試験を行った。精製したDLDの凍結粉末サンプルを使用し、食肉サンプルを以下の通り調製し(表3)、4℃で一晩保存した後、比較した(図9、図10)。 図9には、酵素量の異なる食肉サンプル(食肉サンプル1〜4)を並べて示した。このようにDLDが食肉の色調改善に寄与していることがわかる。図10はNADHの有無による食肉の色調を比較したものである(左から凍結粉末なし(食肉サンプル1)、NADH有り(食肉サンプル2)、NADH無し(食肉サンプル5))。NADHが無くとも十分に発色できていることが確認された。食肉中にNADHが十分に含まれているためであると考えられる。9.DLDの酵素学的性質 本酵素と高い親和性をもつフェリシアン化カリウムを基質として用い、諸性質を検討した。まずはDLDの基質反応性を確認した。酵素添加量を15μLとし基質濃度(終濃度)を0.025,0.05,0.075,0.1,0.15,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,1.0,1.25,1.5,1.75,2.0,2.5(mM)となるように、測定時間30秒間で、レイトアッセイ(Rate assay)を行った(pH=6.0)。フェリシアン化カリウムのモル吸光係数は1.02×103(M-1・cm-1)とし、速度(v)の単位はμM/分を用いた。結果を図11、図12に示す。図11の基質飽和曲線の立ち上がりから[s]/v〜[s]プロットを作成し(図12)、速度パラメーター(Kinetic parameter)を算出した(Km=0.19(mM)、Vmax=26.2(μM/分))。比較として、フェリシアン化カリウムと親和性の高い他起源のDiapholaseのKm値を表4に示す。表4より、バチルス ズブチリスから得られたDLDは、C.kluyveri由来のDLDよりもフェリシアン化カリウムに対して親和性が高いことがわかる。 DLDの至適pHを次の通り測定した。0.5Mの各pHバッファー(クエン酸バッファー(pH=3.0〜6.0)、リン酸カリウムバッファー(KPB)(pH=6.0〜8.0)、Tris-塩酸バッファー(pH=8.0〜10.0))を10倍希釈(50mM)したものを50μL、4mM フェリシアン化カリウム溶液を10倍希釈(400μM)したものを50μL、酵素サンプル50μL、MiliQ水250μLを用いて30℃で5分間インキュベートした後、1mM NADH溶液を100μL添加し、A420の吸光度の変化を確認した。結果を図13に示す。 続いてDLDのpH安定性を次の通り検討した。酵素サンプル20μL、20mMの各pHバッファー(クエン酸バッファー(pH=3.0〜6.0)、リン酸カリウムバッファー(KPB)(pH=6.0〜8.0)、Tris-塩酸バッファー(pH=8.0〜10.0))180μLを混合し、30分間放置し反応させたものをpH処理サンプル液とした。こうして得られたpH処理サンプル液150μL、0.5Mクエン酸バッファー(pH=6.0)100μL、MilliQ水100μLを混合し氷中にて一晩保存した。こうして得られた保存液350μLに4mMのフェリシアン化カリウム50μLを添加し30℃で5分間インキュベートした後、1mMのNADH溶液を100μL添加し、A420の吸光度の変化を1秒毎に30秒間測定した(なおpH処理していないサンプルを活性100%とした)。結果を図14に示す。低pH側での安定性は十分ではなかったものの、肉中のpHがpH5〜6であるので、肉中でも活性を十分有すると思われる。 DLDの至適温度を次の通り測定した。0.5M クエン酸バッファー(pH6) 50μL、2mM フェリシアン化カリウム 50μL、MilliQ水 100μL及び1mM NADH 100μLを混合し、各温度で5分間プレインキュベートしたものに酵素サンプル200μLを添加しA420の吸光度の変化を5分間測定することで反応を確認した。結果を図15に示す。このことから、至適温度は40℃であり、50℃で失活することが確認できた。 さらに熱安定性について次の通り測定した。酵素サンプルを予め各温度(30℃、40℃、60℃)で30分間処理したものを氷冷し、処理サンプルを調製した。この処理サンプル30μLに0.5M クエン酸バッファー(pH6.0) 50μL、2mM フェリシアン化カリウム 50μL及びMilliQ水 270μLを加えて30℃で5分間インキュベートした後、1mMのNADH溶液を100μL添加し、A420の吸光度の変化を1秒間隔にて30秒間計測した。図16の結果より、60℃でも高い残存活性があることを確認できた。 続いてNADHとNADPHへの反応性を比較した。0.5M KPB(pH5.5) 50μL、精製DLD 100μL及び0.1%Mb 100μLを混合した後、MilliQ水で400μLとし、30℃で5分間プレインキュベートした。その後、1mMのNaDH又はNADPHを50μL添加し、A406を5分間モニターした。NADHの相対活性を100(%)とした場合の反応性を図17に示す。DLDはNADPHに対する反応性が低いことがわかる。 また、金属塩(金属カチオン)がDLDの活性に対して与える影響を検証した。500mM KPB(pH5.5) 100μL、0.1%(=13.4μM) Mb 200μL、精製DLD 150μL、100mM カチオン(CaCl2、MgCl2、FeCl3、SnCl2、CuSO4、FeCl2、MnSO4、CdCl2、ZnCl2、NaCl、KCl、SDS、EDTA)10μL及び1mM NADH100μLを混合し、これに1mLとなるまで精製水を加えたものを試料とし、相対活性を求めた。Ca+、Mg2+及びK+で活性の向上が見られた(図18)。10.DLDの大量発現系 バチルス ズブチリスよりDLD遺伝子を取得し、大腸菌にて大量発現系を構築すべく検討を行った。10−1.バチルス ズブチリス7417株からのゲノム抽出 バチルス ズブチリス7417株からのゲノム抽出は次の通り行った。バチルス ズブチリス7417株を0.5%ペプトン、1.0%酵母エキス、1.0%グルコースを含む液体培地(pH6.5)に接種し、30℃、300rpmにて一晩振とう培養した。得られた培養物からQIAquickTM Gel Extraction Test Kit(QIAGEN社製)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。10−2.PCRによるDLD遺伝子の増幅 PCRによるDLD遺伝子増幅は次の通り行った。10×バッファー 5μL、dTNP 4μL、バチルス ズブチリスのゲノム 1μL、以下の10μMプライマー(2種)各5μL、EX. Taq(DNA polymerase, タカラバイオ社製) 0.1μLを混合し、これに精製水を加えて50μLとした。なお、プライマーの組み合わせとしては2パターン(パターン1、パターン2)用意した。PCR反応は2ステップで行った。まずステップ1として98℃で30秒間、熱変性させた。続いてステップ2として下記サイクル(熱変性:98℃,10秒間、アニーリング:46℃,30秒間、伸長反応:72℃,90秒間)を25サイクル行い、PCR産物を得た。(プライマーの配列)パターン1 DLD-Nde1-FW:GGCGTAATCATATGGTAGTAGGAG(配列番号4) DLD-BamH1-RV:GATAGGATCCTTATTTTACGATG(配列番号5)パターン2 DLD-Nde1-FW:GGCGTAATCATATGGTAGTAGGAG(配列番号6) DLD-BamH1-Histag-RV:GATAGGATCCTTAGTGGTGGTGGTGGTGGTGTTTTACGATG(配列番号7)10−3.DLD遺伝子のTAクローニング 続いてDLD遺伝子のTAクローニングを次の通り行った。PCRで得られたPCR産物3μLに、2×Liationバッファー 5μL、pGEM-T easyベクター 1μL、T4 リガーゼ 1μLを添加し4℃で一晩反応させた後、これをコンピテントセルDH5αに全量添加し、42℃で30秒間ヒートショックをかけて2分間氷冷した。これにSOC培地150μLを添加し、37℃で20分間インキュベートした。そして全量をLB/Amp培地プレートで培養し、コロニーを得た。10−4.DLDの形質転換 続いてDLDを次の通りベクターにクローニングした。TAクローニングによって得られた培養物をGenEluteTM plasmid Miniprep Kit(SIGMA社製)を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミド抽出物に10×バッファー、Nde Iを添加し37℃で2時間処理した。さらにこれにBamH I 1μLを添加し、37℃で1時間処理したものを挿入遺伝子とした。一方、pET20bベクターについてもBamH I 1μLを添加し、37℃で1時間処理したものを準備した。His-tagの有無によるDLDの酵素活性を確認するために、それぞれ下記の通り試料を調製し(単位はμL)、16℃で30分間インキュベートした。その後、全量をコンピテントセルDH5αに添加し氷上で1時間溶解したものをヒートショックにかけ(42℃、30秒間)、SOC培地を添加し37℃で20分間インキュベートし、LB/amp培地にプレートした。10−5.形質転換体の酵素活性測定 上記の通り得られた形質転換体の活性測定を次の通り行った。DLD(+)Histag/pET20b/BL21の5コロニーとDLD(-)Histag/pET20b/BL21の4コロニーをとりLB/Amp培地にて30℃で一晩振とう培養した(前培養)。この前培養液60μLを3mLのLB/Amp培地に植菌し37℃で一晩振とう培養した(本培養)。OD600=0.4〜0.5になったら、IPTGを終濃度0.1mMになるよう加え、30℃で4時間振とう培養した。こうして得られた菌体を集菌し、50mM Tris-HCl(pH=7.0)に懸濁させた。これをビーズショッカー(MULTI-BEADS SHOCKER、安井器械社製)にて破砕し遠心した後、上清をサンプルとした。 酵素反応(メトミオグロビン還元反応)を次の通り行った。上記方法で得られた酵素サンプル50μLに、0.5M KPB バッファー(pH=5.5)、0.1%メトミオグロビン溶液50μLを添加し、これに対し225μLになるまで精製水を加えた。そして、1mM NADH溶液25μLを加え反応を開始し、A406の吸光度の変化を10分間確認した。同時にタンパク量についてもBradford法で定量した。結果を図19、図20に示す。 図19はHis-tagなし、図20はHis-tagありの形質転換体のメトミオグロビン還元活性を示したものである。比較のためにpET20bの空ベクター、IPTGベクターデータについても示した。いずれも空ベクターに比べ、10倍以上のメトミオグロビン還元活性を示した。また図19と図20を比較してわかるとおり、IPTGによる制御はかかっていないものと思われる。11.リコンビナントDLDの食肉発色活性 上記により得られたリコンビナントDLDをビーズ破砕し、以下の条件でNi-Sepharoseカラムにて精製して、20mM KPB(pH6)で透析した。これを凍結乾燥したものをサンプルとして用い食肉発色試験1、食肉発色試験2を行った。(クロマトグラフィー条件) 担体:Ni Sepharose(25mL) サンプル:破砕上清 約20mL Bind Buf:20mM KPB,0.3M NaCl(pH6) Elute Buf:20mM KPB,0.3M NaCl,0.4Mイミダゾール(pH6) 流速:チャージ:5mL/分,その他:10mL/分 分画:10mL プログラム:(1)Bind Buf洗浄 6cv、(2)Elute Buf 10%洗浄 10cv、(3)Elute Buf 100%/20cv勾配、(4)Elute Buf洗浄 10cv 食肉発色試験1では、豚ミンチ肉2gに40mg/mL(4%)のミオグロビン(SIGMA社製)37.5μL、0.5MのKPB(pH=5.5) 37.5μL、20mM NADH 37.5μL、凍結粉末品酵素サンプル66mgを加え、4℃で一晩反応させた。また、比較のため、凍結粉末がないもの(ネガティブコントロール)を調製した。結果を図21に示す。左がネガティブコントロール、右が凍結粉末有りの食肉である。色調の変化を目視だけでなく画像のRGB値からも検証したが、リコンビナントDLDにより食肉の色調がより赤みがかったことがわかる。 食肉発色試験2では、豚ミンチ肉2gに0.5MのKPB(pH=5.5) 37.5μL、40mg/mL(4%)のミオグロビン(SIGMA社製)37.5μL、20mM NADH 37.5μL、サンプル((1)精製DLDのみ(60mg)、(2)食添亜硝酸Naのみ(0.4%(w/w)=8mg)、(3)精製DLD+亜硝酸Na((1)及び(2))、(4)(2)にグルコン酸Zn(15mg)を加えたもの、(5)なし)を加え、4℃で一晩反応させた(図22)。さらに、これらに65℃で85分間加熱処理したものを図23に示す。これら図22、図23のサンプルについても目視だけでなく画像のRGB値からの検証を行った。 図21の加熱処理なしの食肉の色調について以下説明する。DLDを加えたもの(サンプル(1)とサンプル(3))に良好な赤の色調が見られた。とりわけDLDと亜硝酸ナトリウムを加えたサンプル(3)の色調が良好であった。亜硝酸ナトリウムとグルコン酸亜鉛を加えたサンプル(4)では褐色となった。亜硝酸ナトリウムのみを加えたサンプル(2)は、無添加のサンプル(5)と同様の色調が見られた。 図22の加熱処理後の食肉の色調について以下説明する。亜硝酸ナトリウムを加えたもの(サンプル(2)、サンプル(3)、サンプル(4))に良好な赤の色調(白桃色)が見られた。とりわけDLDと亜硝酸ナトリウムを加えたサンプル(3)は、赤みが強調され良好な色調を示した。DLDのみを加えたサンプル(1)は無添加のサンプル(5)に比べれば赤みが残っているものの、サンプル(2)〜サンプル(4)と比べると褐色がかなり進んでいるようであった。12.食肉発色酵素の精製 バチルス ズブチリス菌体由来の食肉発色酵素のうち、DLD以外の食肉発色酵素について精製を行った。精製工程はDEAEクロマト前半ピーク(図4のDEAE.Fr.No.27-35)を出発材料にして、フェニルクロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、Cuアフィニティークロマトグラフィーを行った。 DEAE前半Fraction(図4のDEAE.Fr.No.27-35) 10mLを以下の条件のフェニルクロマトグラフィー(Phenyl column (HiTrapTM Phenyl HP (5mL); GE Healthcare))に供した。上記フェニルクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図24に示す。これらフラクションのうち、特に活性の高かったフェニル.Fr.No.26-31を5mM KPB(pH6)で透析して、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーに供した。(フェニルクロマトグラフィー条件) 担体:Phenyl HP(5mL) サンプル:DEAE前半Fr.( 100210) UF 10mL Buf A:20mM KPB,30%飽和硫安(pH6) Buf B:20mM KPB(pH6) 流速:5mL/分 分画:5mL プログラム:(1)Buf A洗浄 5cv、(2)Buf B勾配 100%/20cv、(3)Buf B 100% 洗浄 5cv 上記フェニルクロマトグラフィーで得られたフェニル.Fr.No.26-31を以下の条件のハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーに供した。上記ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図25に示す。(ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー条件) 担体:ハイドロキシアパタイト(5mL) チャージ:フェニル精製Fr.No.26-31 Buf A:5mM KPB,0.3M NaCl(pH6) Buf B:400mM KPB,0.3M NaCl(pH6) 流速:2mL/分 分画:5mL プログラム:(1)Buf A洗浄 5cv、(2)Buf B勾配 100%/25cv、(3)Buf B 100% 6cv 上記ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーで得られたフラクションのうち、特に活性の高かったハイアパFr.No.16を20mM KPB,0.3M NaCl(pH6)で透析して、以下の条件のCuアフィニティカラムに供しCuアフィニティークロマトグラフィーを行った。Cuアフィニティークロマトグラフィーで得られた溶出パターン及びメトミオグロビン還元酵素活性を図26に示す。Cuアフィニティークロマトグラフィーで得られたこれらのフラクションのうち、特に活性の高かったCu.Fr.No.10,13についてSDS-PAGEを行った。結果を図27に示す。(Cuアフィニティークロマトグラフィー条件) 担体:Cu2+ HP(1mL) チャージ:ハイアパ-Fr. 16 Buf A:20mM KPB,0.3M NaCl(pH6) Buf B:20mM KPB,0.3M NaCl,0.4M イミダゾール(pH6) 流速:1mL/分 分画:2mL プログラム:(1)Buf A洗浄 6cv、(2)Buf B勾配 10%/20cv、(3)Buf B洗浄 10cv 図27は上記ハイドロキシアパタイトクロマトクラフィーで得られたハイアパFr.No.13-17、及びCuアフィニティークロマトグラフィーで得られたCu.Fr.No.8-15についてSDS-PAGEを行ったものである。このうち、Cuアフィニティークロマトグラフィーで得られたCu.Fr.No.10に2つのメインバンドを確認できたため、上述の方法によりN末端アミノ酸配列解析を行ったところ、分子量の大きいほうのタンパク質はMGNTRKKVSVI(配列番号8)、分子量の小さいほうのタンパク質はMTNTLDVLKA(配列番号9)であった。N末端アミノ酸配列をもとに分子量の大きいほうのタンパク質のBLASTサーチを行ったところ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(Malate dehydrogenase:MDH)をコードするmdh(配列番号10)と100%の相同性を示した。また分子量の小さいほうのタンパク質については推定NAD(P)Hニトロレダクターゼ(Putative NAD(P)H nitroreductase:yodC)をコードするyodC(配列番号11)と100%の相同性を示した。尚、yodCのアミノ酸配列を配列番号12に示す。Cu.Fr.No.13については分子量よりDehydrolipoyl dehydrogenaseと同一であると推測した。16.食肉発色酵素(MDH、yodC)の大量発現系構築 バチルス ズブチリスと納豆菌から遺伝子を取得し、MDHとyodCの大量発現系を構築した。バチルス ズブチリスと納豆菌の遺伝子情報からプライマーを作成しPCRにかけて該当遺伝子の切り出しを行った。ベクターにpET20b、宿主にBL21(DE3 pLysS)を用い、各酵素のC末端に6×His-tagを付加して発現させた。発現確認培養は次の通り行った。各酵素(MDH又はyodC)(+)Histag/pET20b/BL21のコロニーをとり、30℃、300rpmで一晩振とう培養した(前培養)。この前培養液の2%当量を10mLのLB/Amp培地に植菌し、ODが約0.5〜0.7になったらIPTGを終濃度0.5mMになるよう加え、37℃,300rpmで4時間振とう培養した(本培養)。こうして得られた菌体を集菌し、50mM Tris-HCl(pH=7.0)に懸濁させた。これをビーズ破砕し遠心した後、上清をサンプルとした。 上記で得られたサンプルの活性確認を行った。酵素サンプル150μLに0.1%(w/w)メトミオグロビン50μL、0.5M KPB(pH=5.5)を加え、これに1mM NADH 25μLを加え反応を開始し、A406の吸光度の変化を10分間確認した。図28より、yodCについては活性を確認できたものの、MDHについては活性を確認できなかった。そこで発現の有無を確認するためSDS-PAGEによりバンドを確認した(図29)。MDHとyodC共に該当サイズに濃いバンドを確認できた。17.精製した食肉発色酵素(MDH、yodC)の発色試験 上述の方法で得られたリコンビナントyodC(バチルス ズブチリス)とMDH(バチルス ズブチリス)を下記条件でNi-Sepharoseカラムにて精製し、20mM KPB(pH6)で透析した。透析したサンプルを凍結乾燥し、リコンビナントyodCとMDHの酵素粉末を得た。(クロマトグラフィー条件) 担体:Ni Sepharose(25mL) サンプル:破砕上清 約20mL Bind Buf:20mM KPB,0.3M NaCl(pH6) Elute Buf:20mM KPB,0.3M NaCl,0.4M イミダゾール(pH6) 流速:チャージ:5mL/分,その他:10mL/分 分画:10mL プログラム:(1)Bind Buf洗浄 6cv、(2)Elute Buf 10% 洗浄 10cv、(3)Elute Buf 100%/20cv勾配、(4)Elute Buf洗浄 10cv 得られた酵素粉末を用いて以下の通り食肉発色試験を行った。食肉発色試験では、豚ミンチ肉2gに40mg/mL(4%)のミオグロビン(SIGMA社製)37.5μL、0.5MのKPB(pH=5.5) 37.5μL、20mM NADH 37.5μL、サンプル((1)コントロール(無添加)、(2)yodC(16mg=20U)、(3)ボイルしたyodC、(4)MDH(16mg)、(5)ボイルしたMDH)を加え、4℃で一晩反応させた。なお、熱処理(100℃,30分)で失活を確認するためサンプル(3)及びサンプル(5)を用意した。結果を図30に示す。yodCには食肉発色効果が認められたものの、MDHについては全く認められなかった。18.yodCの酵素学的性質検討 yodCの酵素学的性質を検討した。DLDと同様に至適pH(図31)、pH安定性(図32)、至適温度(図33)、熱安定性(図34)、NADPHへの反応性(図35)、金属塩(金属カチオン)が活性に与える影響(図36)を調べた。至適pHについてはDLDと同様にpH6.0付近であるため食肉アプリケーション上支障はないものと思われる。また幅広いpH条件で安定であった。至適温度を考えても、20℃付近という低温条件下でよく作用することから食肉アプリケーション上好ましいといえる。熱安定性試験においても40℃まで活性を維持することを確認できた。補酵素特異性試験においてはNADHを用いた場合よりもNADPHを用いた場合で良好な活性が得られた。金属カチオンについてはMg、Na又はKを加えた場合に酵素活性の向上が見られた。さらに、基質反応性についても検証した。DLDと同条件で、フェリシアン化カリウムへの反応性、さらにはミオグロビンへの反応性について調べた。DLDの結果を併せて各々図37、図38に示す。DLDと比べ、フェリシアン化カリウムに対しては約2.6倍、ミオグロビンに対しては約22倍の反応性を示した。 本発明の還元剤は特に、食肉又は食肉加工品の色調改善剤として有用である。本発明の還元剤によれば、亜硝酸塩等の発色剤を使用することなく食肉を発色させることができることから、商品価値の高い食肉加工食品を製造することが可能となる。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。 本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。配列番号4:人工配列の説明:プライマーDLD-Nde1-FW配列番号5:人工配列の説明:プライマーDLD-BamH1-RV配列番号6:人工配列の説明:プライマーDLD-Nde1-FW配列番号7:人工配列の説明:プライマーDLD-BamH1-Histag-RV バチルス属微生物由来のヘム還元酵素を含む還元剤からなる色調改善剤であって、 前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物であり、 前記ヘム還元酵素がデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ又はニトロレダクターゼである、色調改善剤。 バチルス属微生物由来のヘム還元酵素を含む還元剤からなる色調改善剤であって、 前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物であり、 前記ヘム還元酵素として、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及びニトロレダクターゼを含む、色調改善剤。 バチルス属微生物由来のヘム還元酵素を含む還元剤と、ミオグロビンのヘム基中の鉄を亜鉛に置換する作用を示す物質を組み合わせてなる色調改善剤であって、 前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物であり、 前記ヘム還元酵素がデヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ又はニトロレダクターゼである、色調改善剤。 バチルス属微生物由来のヘム還元酵素を含む還元剤と、ミオグロビンのヘム基中の鉄を亜鉛に置換する作用を示す物質を組み合わせてなる色調改善剤であって、 前記バチルス属微生物がバチルス ズブチリス、バチルス アミロリケファシエンス、納豆菌、バチルス スリンギエンシス及びバチルス ミコイデスからなる群より選択される微生物であり、 前記ヘム還元酵素として、デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及びニトロレダクターゼを含む、色調改善剤。 前記物質がフェロケラターゼである、請求項3又は4に記載の色調改善剤。 前記ヘムがメトミオグロビンのヘムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の色調改善剤。 前記ヘムがメトヘモグロビンのヘムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の色調改善剤。 前記還元剤が、バチルス属微生物の菌体破砕物からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の色調改善剤。 前記デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列が配列番号3のアミノ酸配列を含み、前記ニトロレダクターゼのアミノ酸配列が配列番号12のアミノ酸配列を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の色調改善剤。 前記デヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ及び前記ニトロレダクターゼがリコンビナントタンパク質である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の色調改善剤。 食肉又は食肉加工品の色調の改善用である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の色調改善剤。 発色作用、発色促進作用及び/又は退色防止作用により色調を改善する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の色調改善剤。配列表